二次創作小説(新・総合)

Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.140 )
日時: 2018/04/19 00:14
名前: テール (ID: EM5V5iBd)

第十章 記憶の泉


「レイー、プリムラはどこ行ったの?」

レイの部屋にティルが入ってきて、レイに尋ねた。
レイは薬の調合を行っていたのか、ラベンダーやセージなどのハーブの香りが部屋に充満していた。

「ネイラ先生と一緒だと思うぜ。さっき買い物に行くつってたし。」
「なーんだ」

ティルはそういうと部屋を出ようとする。

「プリムラに何か用事があったのか?」
「ん?ああ・・・一緒に依頼の斡旋に行こうと思ってたのよ。
 いないならまた後日に・・・ん?」

ティルは外から物音が聞こえたので、拠点の外に出た。
ドアを開けると、金髪の少女が倒れていたのである。

「ちょ、あなた!?ひどい怪我・・・大丈夫!?」

ティルは慌てて少女を介抱する。
ティルの大声に、レイもなんだなんだとやってきた。

「レイ、ちょっと水汲んで!怪我の手当てしなきゃ!」
「お、おう!」

ティルは少女を抱きかかえて、奥の部屋へと戻った。









「・・・・うぅ・・・」
「あ、気が付いたみたいね。よかった」

少女が気が付いたのか、声を出す。

少女は包帯のような布で目を覆っており、金色の髪が整っている。
黒いシャツの上に白いカーディガンと、この辺ではメジャーな服装である。

「ここは・・・?」
「ギルド「自由な風」の拠点。
 あなた、入り口で倒れてたのよ。」
「・・・そう。」

少女はテーブルに置いてある魔導書に手を伸ばした。
ティルはそれを見て、魔導書を手に取り、少女に渡した。

「はい。・・・・なんか力を感じる魔導書ね。」
「うん、これ・・・特別・・・・」

少女はそういうと、魔導書を抱きしめた。
ティルは、包帯を見て、不思議そうに尋ねる。

「あなた、周りはちゃんと見えてるの?」
「うん・・・見えてるよ・・・・あなたの顔もよく・・・」
「ならいいんだけどね。」

ティルは立ち上がって、外に出ようとする。




「あなた・・・」

少女はティルを呼び止めた。

「黒いものを抱えているのね。」
「・・・?」

少女の突然の言葉にティルは戸惑う。

「強くて黒くて・・・憎悪に似た何か。―――の」
「やめて!!」

ティルは急に大声を上げた。

「・・・あっ・・・っと・・・・ごめん!
 おかゆ作ってくるから待ってて・・・・」

ティルは慌てて部屋を出た。
そして、廊下を走るように歩く。
ティル額から汗を流しながら、荒い息で呼吸をしていた。
胸も痛むのか、胸をぎゅっと抑えていた。

「・・・・はぁ・・・はぁ・・・・」


「・・・・?」

そこへ少年がティルの手にそっと触れる。

「!?・・・・あ、なんだ、キミか・・・」

少年は首をかしげてティルを見た。
ティルは少年の顔を見て、安心したような表情を見せる。

「ごめん、ありがとう。だいじょうぶだから。」

ティルは少年の頭をそっとなでると、台所へと進んだ。


Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.141 )
日時: 2018/04/19 20:15
名前: テール (ID: AuRKGmQU)


その少女は「エルピス」と名乗り、大陸を放浪する旅人であるらしい。
しかし、その最中帝国軍に目を付けられ、逃亡生活を送っていたという。
様々な人々に匿われながら、必死に逃げていたが・・・

「緑の髪の女」に襲われ、大怪我を負って倒れてしまったという。


「緑の髪の女・・・・?」
「すごく、怖い人・・・。」

ティルはなんとなく「ジャローダ」や「ジュカイン」、「フシギバナ」などを思い浮かべる。
エルピスは粥を食べている。

「あ、味付けはそれでいい?」
「うん、おいしい。」

ティルはエルピスの返事に「よかった」と微笑んだ。


「ねえ、あなた・・・他人の過去が見えるの?」
「うん、その魔導書のおかげ・・・」

エルピスはテーブルの魔導書を指さす。
ティルは手に取って、エルピスに渡した。

「ねえ、じゃあさ!
 この子の記憶とかわからないかな?」

ティルはそういうと、少年の肩をたたく。
エルピスはうーんと、唸り、魔導書を開いてみた。

少年は首をかしげてエルピスを見る。

エルピスの持つ魔導書は淡く光り始めた。

「・・・・君、空っぽだね。何もない・・・・虚空だけがある。」

エルピスは口元をとがらせてティルに尋ねた。

「この子、本当にポケモンなの・・・?
 いろんな記憶を見てきたけど・・・・「何もない」なんてはじめて・・・」
「えっ・・・うーん・・・私もわかんないんだよね。」

ティルは困り果てながら頭をかく。

「どういう子なの?」
「うーん、草原で寝てたのを拾ったの。」
「そこまでの記憶は見える・・・・でも、それ以前の記憶は虚空の中・・・。」

ティルは「えぇ!?」と驚いて声を上げた。

「じゃあ喋らないのも記憶がないから?」
「それは関係ないと思う。」
「だよね・・・うーん・・・・」

ティルは再び頭を悩ませた。
ティルは少年のためにギルドに入って、大陸を回っているが・・・
何一つ少年の手がかりが見つからないのである。

「もしかしたら異大陸に秘密があるかも!」
「だとしても、それだとしたら異大陸の情報が見えるはずなの・・・」
「あー、そっか。うーん・・・」

ティルははーっとため息をついた。

「もういい!きっと何か知ってる人がどこかにいるはずだし!」

ティルはそういうと、少年の頭をぽんぽんと叩く。

「約束したんだもの、キミの記憶を探すってさ。」
「・・・・。」

少年はティルを見て頷く。

ギルドを結成する前に、ティルは少年に言った。
「私、あなたの記憶を探すよ!」と。
だからこそ、彼の記憶を探すことこそ、ティルがギルドに入った理由なのだ。

「なるほどね。」

エルピスはそういって魔導書を閉じる。

「過去に縛られることなんてないと思う・・・
 あなた達はもう未来を歩き出しているんだから。」
「そ、そう?」
「うん・・・もし記憶が見つかっても、それが必ずしもいいモノとは限らない。
 失っていた方がいい記憶だってある。
 今迄出会った人で、そういう人がたくさんいたから・・・」

エルピスがそういうと、ティルは首を振る。

「でもね・・・」
「・・・?」
「私は探し続けるよ、例えそれが破滅への道だとしてもさ・・・約束したから。」

そういいながら、ティルは少年の頭をなでる。

「約束・・・知ってる。
 約束って時に「大きな力」を生み出すのよね・・・。」

エルピスはそういうと、頷いた。

「いいわ、あなた達の運命を・・・この魔導書に刻み込んであげる。
 破滅か、それとも救済か・・・
 この目ですべて見届けることにするわ・・・・」
「望むところよ。」

ティルは強気に笑った。