二次創作小説(新・総合)

Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.158 )
日時: 2018/04/26 08:00
名前: テール (ID: AuRKGmQU)

「いやー、お誘いありがとうございますだよルドガー。
 骨抜きにこんな素晴らしい場所でバカンスだなんて・・・」

メウィルは軽い足取りで浜辺を歩く。
一応泳ぐつもりなのか、水着を着用、上には白いシャツを着ていた。

「研究ばかりで疲れるだろ、今日は思う存分羽を伸ばしていいんだぞ。」
「羽・・・あっ」

メウィルは手をぽんと叩く。
ルドガーはなんだなんだと凝視した。

「ちなみに、ここがなぜ「セイレーン浜」と呼ばれるか、ご存じ?」
「存じないなぁ・・・」

メウィルはメガネを直し、ふっと笑う。

「ここは童話「人魚姫」に登場する人魚姫が、王子様に拾われた場所のモデルなのです。
 で、人魚姫の名前が「メロディア・セイレーン」らしいです。」
「へぇ~」

メウィルのトリビアに思わず感心するルドガー。
メウィルは続ける。

「ちなみに最終的に泡となって消えていくのも、この海なんです。
 それで、いつの間にか「セイレーン浜」と呼ばれるようになった所以ですね。」
「なんか素敵というかなんというか。」

そんなことを話していると、香ばしい香りが漂ってきていた。
二人は前を見ると、海の家の近くまで歩いてきていたのである。

「ありゃ、いつの間に。」

メウィルはそう一言こぼした。


「いらっしゃい・・・あ、「自由な風」。」

中から現れてつぶやいたのは、黒髪の真っ赤な瞳をした少年であった。

ブラッキー族の特徴である黄色のわっかが額にあり、
白いバンダナ、白いエプロンをつけている、涼しげな店員の姿である。

「・・・・あっ・・・万ギルド「ザ・ビースト」。」

メウィルは指さしてそうつぶやいた。


万ギルド「ザ・ビースト」とは、その名の通り万屋であり、
イーブイ系統の種族が集まる特殊な集団である。
現在メンバーは8人らしい。

「どうしたんだ、こんなところで。」
「休暇だよ、あんたたちは?」
「・・・リーダーが壊した拠点の修理代の出稼ぎ。」
「・・・た、大変だな・・・」


「自由な風」と「ザ・ビースト」は、先日、
スピカとリボンが仲良くなったことをきっかけに、知り合い、
度々顔を合わせて食事をしたり、共に依頼をこなす程度には仲が良くなっていた。

目の前の少年、「ムーン」は「ザ・ビースト」のメンバーであり、
性格は冷静沈着であるが、割と苦労性な部分もある。
ルドガーは彼に対し、結構シンパシーを感じていた。


「とりあえず、なんかオススメとかある?」
「それなら・・・」

ムーンはとりあえず二人を中へ案内しようと、店内を指さすと
メウィルは海の方の空を見る。

「メウィル、どうした?」
「うーん、なーんか奥歯が痛むんですよね。多分なんか悪いことでも起きそうです。」
「気のせいじゃないか?」
「ははっ、ですよねぇ!」

メウィルとルドガーは笑いながら店内へと入っていった。

















黄色のワンピースをかわいらしく着こなす黒髪の少女・・・
イリスもまた砂浜を歩いていた。
白い日傘を差し、周りを見ている。

「それにしても、綺麗な貝殻もありますし、潮のいい香りもします。
 神竜教の神殿にいた時には考えもしませんでしたわ。」

イリスはそうつぶやくと、海辺を見る。
黒い大きな布が流れ着いているのが見えた。

「あら、誰でしょうか?あんなところにごみを捨てるなんて・・・
 とんだすっとこどっこいですわ!」

イリスはそう怒りながら黒い布に近づく。
だんだん近づくと、それは人のようにも見えた。



黒い布・・・いや、黒い帽子、黒い髪、黒いマントを着ている男は、
瞳を閉じて死んでいるかのように倒れているのであった。

「・・・・」

イリスはしばし無言でその男を見る。



「だっ・・・大丈夫ですの!?」

イリスは慌てて男に駆け寄り、杖をかざした。
そして、慌てて誰かを呼びにその場を離れた。


Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.159 )
日時: 2018/04/26 09:33
名前: テール (ID: AuRKGmQU)

黒髪の男は目を覚ます。
上体を起こして、周りを見る。
どこかの民家の一室だろうか、木造の床、壁、天井とベッドとテーブル、
クローゼットや絨毯など、小ぢんまりしているが、温かな雰囲気があった。

「気が付きましたの?」

ふと、声をかけられた男は、声の主を目で追う。
そこには、黒髪の少女が男を見ていた。

「あなた、海に打ち上げられて倒れてたんですのよ」

少女はそういうと、テーブルに置いてある水が入ったポットからグラスへ水を入れ、男に渡す。
男は無言で受け取り、その水を飲みほした。

「あ、私は「イリス・フール」。ここへは偶然旅行できていたのですわ。
 ・・・・あなたのお名前は?」

イリスは優しく微笑みながら男に名前を尋ねる。
男はしばし無言を貫いていたが、口を開いた。

「「クローディア・ジャックドー」・・・・。」
「クローディアさん・・・長いので「クロウ」さんってお呼びしますわね。」
「・・・・。」

イリスの発言に、クロウは顔を赤らめた。
時は夕刻、夕陽は窓からイリスとクロウを照らしていた。











そしてしばらくして、部屋で安静していたクロウの下に、
ネイラが食事を持ってやってきていた。
テーブルに食事をおいて、椅子に座り、ふうっと息を吐く。


「久しぶりね、クロウ。」

クロウは「ああ。」と一言だけつぶやく。

「五大ギルドの一角である「ドンカラスの勝手団」の団長であるあなたが
 なぜ海に打ち上げられていたのか、聞きたいことは山ほどあるけれど、
 今は聞かないことにするわ。
 もうちょっと休んで、落ち着いてから話を聞くから。」

ネイラはそういうと、立ち上がろうとする。

「待て。」

クロウはネイラを呼び止めた。

「聞いてほしいことがある。・・・俺が見た光景全部だ。」








ティルは腕を組んでクロウとネイラが入っている部屋の前で聞き耳を立てていた。
そこへメウィルがやってくる。

「おや、ティル。聞き耳を立てるなんてよろしくないですよ」
「あなたもでしょ・・・・あのクローディアって男・・・
 なんかにおうのよ、この世のものとは思えないモノがかかわっているような、ね。」

メウィルはそれを聞くと、「ほー」と感心する。

「な、なによ・・・」
「意外に鋭いんですね。僕もそう思ってました。
 彼のギルドは、何らかの事件に巻き込まれているのでしょうね。」

ティルは頷くと、中の様子を静かに聞いていた。








中のクロウの話によると、ギルド「ドンカラスの勝手団」は、
側近の裏切りによって壊滅したといわれる。

ある日の晩に、突然団員が苦しんだかと思えば、それは他の団員に伝染したかのように
ほぼ全員が苦しみだし、背中からイカの触手のようなものが這い出てきたのである。
それを見て驚いたクロウは、
側近である「ゼパル・ツァクマキエル」がその様子を見て大笑いしているのを見て問い詰めると、
「このギルドの人間たちを「人体実験」の被験者にするためにクロウに近づいた」
と言った。


「それって・・・!」

メウィルは突然部屋のドアを勢いよく開けて、クロウに殴りかかるような勢いで飛び込んでくる。

「メウィル!?・・・ティルもいたのね」
「ははは・・・」


「クロウさん、それ・・・いつの話?
 見たこと聞いたこと全てスリッとまるっとゴリッとエブリシング
 徹頭徹尾一点の曇りも無くオールクリアー東西南北赤道直下天地無用
 一つ残らず宇宙の果てまで全部教えてください!!」
「あ、と・・・」

メウィルの勢いにクロウは戸惑う。
ネイラはクロウからメウィルを引きはがして呆れる。

「落ち着きなさい・・・でも「人体実験」というのが引っかかるわね・・・
 そのゼパルって人物は、いつからあなたと共にいるの?」
「・・・・5年前からだ。
 信頼に値し、いつも手が回らないところを補佐してくれる奴だった。」
「5年前・・・」

メウィルは考え込む。

「まさか・・・・だとしても・・・」
「メウィル?」

ティルはいつになく真面目な表情のメウィルに首をかしげる。

「・・・・ゼパルという者は何かをしていたという様子は?」
「・・・思い当たる節が・・・いや」

クロウは何かに気が付いたかのように顔を上げる。

「奴は神竜教の神官を名乗っていた。
 団員たちがおかしくなる前日、団員を一人ひとり呼び出して
 健康診断をやっていた。」
「ゼパルって人、本当に神竜教の神官なのかしら?」

ティルはそうつぶやくと

「違いますわ。」
「うおぉ!?」
「リゼさん!?」

部屋に入ってきたのは、リゼとフェンリルであった。

「ご無沙汰しておりますわ。」

リゼは軽く挨拶する。

「な、なんでここに!?」
「イリス様とリベルテ様の護衛兼手配書にある人物を探しに。」

リゼはそういうと、メウィルを見てニコッと笑う。
メウィルは慌てて目をそらした。

「手配書にある人物って?」
「はい、そのゼパル・ツァクマキエルという方ですわ。
 6年前、一つの村にいた一人の女性を人体実験の被験者として実験を行い、
 魔物と化し暴走させた結果、村を壊滅させ・・・
 足取りを追っていたのですが、突然途絶えました。
 しかし、最近この周辺の海で、彼の姿の目撃情報を確認し、
 この辺りまで来ていたのですわ。」
「それってさ・・・」

ティルは自分の推測を語る。

「ゼパルは始めから6年前の実験をクロウのギルドでやるつもりで、
 あなたに近づいたってことよね」

クロウは黙り込む。


「人体実験って具体的に何なのですか?」

ネイラはリゼに尋ねる。
するとフェンリルは紙束を取り出して説明する。

「帝国による「魔導兵器を制御する実験」ですよ。
 「魔導兵器」とは、人体を異形の姿に変えた生体兵器です。
 ある特殊な物質を身体に埋め込むと、人は理性を失い、異形の姿に変わります。
 だが、まだそれの制御は不完全であり、帝国は小さな村や
 小さなギルドを標的として、その実験を今日まで繰り返してきました。
 我々神竜教は、調査及び関係者の捕縛を行ってきましたが、
 明確な情報などは得られておりません。」

メウィルは、ふうっとため息をつく。
リゼの視線が、妙に突き刺さっているからである。

「命をなんだと思っているのかしら・・・」

ティルは半ば怒ったような口調でつぶやく。

「ああ、それと・・・」

リゼは思い出したかのように人差し指を立てる。


「夜は海に出ない方がよろしいかと。・・・ふふっ。」
「・・・?」

リゼは含み笑いをして、部屋を出る。


「それでは、また明日もお会いしましょう、皆さま。」
「何かあったら俺たちに声をかけてください。」

Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.160 )
日時: 2018/04/26 18:46
名前: テール (ID: AuRKGmQU)


次の日、クーが慌てた様子で皆に言う。

「ねえ、すごいの見ちゃった!大スクープだよ!!」
「どうしたんだクー、幽霊船でも見たのか?」
「うん」
「え、嘘だろ!?」

レイの問いにすんなり肯定するクー。
クーは説明を始めた。

なんでも昨日の夜、なんとなく眠れないので外を出歩いてみると、
青い光に包まれた船が陸地近くまで来ていたのである。
船自体はボロボロで、帆もたたんでいるはずなのに、それは動いていた。


「なあ、それにカラスの彫像が先端についていなかったか?」

クロウはクーに尋ねる。
クーは指を口元に当てて思い出そうとする。

「うーん、あったような・・・青い光でぼやけてたし、そのあとすぐに寝ちゃったから・・・」
「・・・そうか、すまなかった。」

クロウはそういうと、席に座る。

「クロウ?」
「・・・・。」












昨日と同じく、皆は泳ぎに行くことにした。

「ティル」

そこへメウィルがティルに声をかける。

「どったの、泳がないの?」
「・・・・昨日の話の続きを・・・。」
「・・・・場所を変えましょう。」

ティルはそういうと、人気のいない岩場まで来ていた。
海の様子が一望できるここは、隠れた名所である。


「で、何?話って。」
「うん、昨日、「ゼパル・ツァクマキエル」の情報を僕なりに洗ってみたんです。
 彼は帝国と魔神教を繋ぐ橋渡しのような存在でして、
 陛下にもかなりの信頼を得ている人物のようなんです。」
「ふーん。」

ティルは海を見ながらそうつぶやく。

「メウィル、あんたって元帝国の研究者だったのね。」
「・・・・。」
「皇帝には会ったことあんの?」
「それはないです、僕は研究をやらせてもらえるって聞いて
 チームに参加してただけですし。」

メウィルはうつむく。
ティルは顔を見せずに続けた。

「僕は一応「魔導兵器」の研究にも携わっていました。
 だが、僕も怖気ついてしまいましてね。去年あたりに逃げてきました。
 ですが、直接関与をしたわけではありません。」
「あんた・・・レイの故郷の事を知ってる?」
「?・・・いえ」

突然、ティルは尋ね、メウィルはきょとんとした顔で首を振る。
ティルは顔に影を落とす。

「6年前ね・・・母親が変な魔道士に何かされて、
 化け物に変わって村を壊滅させた・・・レイはそれ以降、心を閉ざしたのよ。
 今はそんな素振りはないんだけどね。」

ティルはメウィルの方を向き直り、見つめる。

「まあ、帝国の研究者で、魔導兵器の研究にも携わった上で聞きたいんだけどさ・・・・
 あんた、魔導兵器の被験者が起こした悲しい事件の責任ってのはとれるつもりでいる?」
「・・・・。」
「レイは多分まだこのことを知らないわ。
 だけどね、知ったら魔道士を探すだろうし、あんたも少なからず責められるわよ。
 関わっていたんだからね。」

メウィルは拳を握りしめる。

「責任はとれる自信はありません・・・
 多分レイにも責め立てられることだと思います。
 「知らなかった」じゃ済まされないことをやってしまったのですから。」

ティルは黙ってメウィルを見る。
メウィルは顔をこわばらせて、握っている手を胸に当てる。

「だけど、魔導兵器の研究に携わったものとしての責任は果たしますよ。
 ゼパルを止め、魔導兵器の研究を終わりにさせます、僕の手で・・・
 これ以上の好きにはさせない、そう誓います。」
「私に誓われても困るけどね。」

ティルはふっと笑う。

「それにしても、今は目の前の事を解決しないとね。」
「目の前のこととは?」

ティルは再び海を見つめる。


「幽霊船。・・・・おそらくドンカラスの勝手団は化け物に変わって、
 この辺の海を彷徨ってることでしょうね。」


「今夜、俺はその船に乗って決着をつけるつもりだ。」

突然、後ろから黒い帽子の男・・・クロウが二人に歩み寄る。

「クロウ!」
「世話になったな、もう動ける。」

クロウはそういうと、腰に手をあてて海を見つめる。

「ドンカラスの勝手団の団長としてのけじめはつけねえといかねえ。
 奴らが神聖なる海を荒らす前に、俺は奴らを・・・」

クロウはそういうと、帽子を直す。

「ね、私も手伝っていいかしら?」

ティルはそういうと、クロウに近づく。

「・・・あなた一人じゃ心配だし。」
「好きにしろ。」

クロウは不愛想に答える。
ティルは笑って頭の後ろで手を組んだ。

「じゃ、好きにするわ」
「僕も、協力します。・・・・魔導兵器の研究に携わったものとして
 僕の責任を果たします。」

メウィルはそういうと、海へ向き直り、見つめる。


クロウはそれを見ると、振り返って無言で立ち去った。


「無言ってことは肯定でいいわね。」

ティルは笑って手を振った。



Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.161 )
日時: 2018/04/27 23:47
名前: テール (ID: AuRKGmQU)

そして夜が更け、海岸で海の様子を見つめる
ティル、クロウ、メウィル、ネイラ、そしてレイ。
5人は幽霊船が出現するのを待っていた。

「ネイラ先生はわかるけど、なんでレイがここにいるのよ」
「わりーかよ・・・でも俺も見ておきたいんだよ、幽霊船。」

レイはぐっと拳を握りしめる。
ティルはメウィルに小声で話しかける。

(いざとなれば、あんたから事情を説明しなさいよ。)
(はい・・・)

「みんな、あれ!」

ネイラは海の方を指さす。
クーの言った通り、青い光に包まれたボロボロの船が近づいているのが見える。
クロウは目を見開いて、その船を凝視する。
帆はビリビリに破れ、まるで海に沈んだ沈没船が浮かんでいるように、
海藻が張り付いている。


「ねえ、あの船が?」
「間違いない、あれが俺達の船だ。」

ネイラは船を凝視する。


「あれ、船の甲板にいるの・・・!」
「あいつ・・・・!」

レイは怒りを露わにして吠える。

「おれの母さんを化け物に変えた魔道士だ!」

レイはそう叫ぶと、風の魔術を使って船まで大ジャンプした。

「ちょ、レイ!・・・たく、世話の焼ける弟ね!」

ティルは追いかけようと立ち上がる。
それをメウィルは止めた。

「風の魔術を使います。皆さん、じっとしてくださいね。」

メウィルはそういうと、皆の足元に風が舞い、
皆は船まで吹っ飛んだ。







タンッという音と共に着地する一行。
レイは目の前にいる魔道士を睨みつける。

「ようやく見つけたぞ、おれの母さんを・・・よくも!!」
「ん~?ああ、6年前の被験者のお子様ですか。」

魔道士はレイを思い出したかのように見ている。

「母さんの仇だ、くたばりやがれっ!!」

レイは魔導書を開こうとするが、その腕を突然、
イカの触手のようなものが捕まえる。

「レイ!」

ティルはすかさず触手を斬りおとすが、
周りはすでにイカのようなものや屍人などの魔物が二人を囲んでいた。


「レイ、ティル!」

ネイラは近づこうと、槍で魔物たちを薙ぎ払うが、あとからあとから湧いて出る。

「無駄ですよ、この船自体が魔導兵器のようなもの。
 あなた方は自分から餌場に入り込んだようなものです。」
「ゼパル!・・・てめえっ!!」

クロウは剣を抜いて、魔物たちを切り倒す。


「おや、団長・・・よいのですか?
 その魔物たちは元あなたの部下たちです。
 団長であるあなたが攻撃をしてしまったら、部下たちは泣いてしまいますよ」
「・・・っ!!?」

クロウは武器を持った手を止める。

「なんと外道な!」
「これもあなた達のような反逆者を制御するための力です。」

魔道士・・・いや、ゼパルが右手を上げると、
それに呼応するように、触手がティル達を襲う。

「きゃあっ!」
「ティル・・・うわっ!?」
「クソッ、放しやがれッ!!」

5人はあっという間に手足を触手で縛られ、宙づりにされる。
ゼパルはその様子を見てげらげら笑った。


そしてゼパルは、メウィルを見る。

「・・・おや、「クリスタ」博士ではありませんか」
「・・・!」

メウィルは驚いて目を見開く。
ゼパルはメウィルに近づいてニヤッと笑う。

「こんなところでどうされたんですか?
 まさか、魔導兵器の発案者がこのような場所に・・・」
「魔導兵器の発案者・・・・?」

レイは驚いて、つぶやく。

「そうです、この方が人体に埋め込むことで人を兵器へと変える物質・・・
 「魔導石」を発見し、魔導兵器を考案されたのです。」
「「魔導石」・・・?な、なにを言っているんだ?」

ゼパルの淡々とした答えにレイは戸惑う。
メウィルは黙ったまま、うつむく。

「クリスタ博士の研究を元に、我々は10年前・・・ついに魔導兵器を完成させました。
 ところが、全く制御がきかないんですねこれが。
 だから、小さな村、小さなギルドを標的として、
 実験を繰り返してきたんですがね・・・
 ようやく、このように制御することができました。」
「・・・・なあ、メウィル、こいつの言う事は本当なのか?
 お前が・・・お前が・・・」

レイは瞳から涙をこぼしながらメウィルに問い詰めた。

「黙ってないで何とか言えよ!・・・なあ」

メウィルは苦悶の表情で黙り込む。



「帝国は魔導兵器を制御して、どうするつもりなの!?
 そんなことが許されていいはずがなくてよ!」
「簡単なことです、人々の恐怖心を支配することですよ。」

ネイラの問いにゼパルはニヤッと笑って答えた。

「まあ、中にはあなた方のように愚かにも恐れをなさず反抗してくるものがいますが・・・
 そいつらは魔導兵器の餌にして処分すれば、歯向かう者はいなくなり、
 陛下に逆らう者はいなくなります。
 よって、帝国の安寧は約束されることでしょう。」
「そんなことのために、俺達のギルドは・・・!」

ギリッと歯ぎしりをするクロウ。
ティルは先ほどから黙っていた。

「おしゃべりの時間はここまでとしましょう。
 ・・・こいつらを始末しなさい「ジャッカ」。」

ジャッカと呼ばれた、イカの魔物・・・クラーケンはうねり始める。
クロウは、はっと気が付き、大声で叫ぶ。

「ジャッカ!やめろ、お前は人を殺せるような人間じゃねえだろ!」
「無駄ですよ、彼はもう身も心も化け物です。」

ゼパルはニヤッと笑った。



「はあ。ホント・・・兵器でしか人を支配できないってホント愚かよね」

不意に、ティルはそうつぶやく。
ゼパルは顔をしかめてティルを見た。
ティルはにやーっと笑みを浮かべていた。

「なんですと?」
「聴こえなかった?自分の手も汚せない臆病者って言ったのよ」

ゼパルはそれを聞いて、激昂する。

「なんだと小娘!私を馬鹿にしているのか!?」
「そうよ。皇帝なんて所詮恐怖心を縛ることでしか人を支配できない・・・
 その下についてるあんたはちっぽけで自分じゃ何もできない小物だって言ってるのよ。」

「ティル・・・?」

ティルはくくくっと笑う。

「わ、私のみならず、陛下まで愚弄するとは・・・覚悟はできているんでしょうね!?」
「あんたこそ、周りが見えてないんじゃないの?」
「何っ!?」

ゼパルが振り向くと、空から突然斧がくるくる回りながらクラーケンの腕を斬り落として降ってくるのが見える。
クラーケンは悶え苦しみ、拘束していた皆を思わず放していた。

「こ、これは一体!?」

ゼパルが上空を見上げると、白い翼を広げ飛んでいる巨鳥ロックバードの背中に何者かが乗っていた。

「遅かったわね、「ハウル」」

ハウルと呼ばれた、巨鳥に乗る少年は手を振っていた。


「ティルー、レイー、先生ー、遅くなってごめーん!」
「お前、もうちょっと早く来いよ!」
「あはは・・・」

レイの言葉にハウルは頭をかきながら笑う。

ハウルの容姿は、灰色の髪、グライオンの耳が特徴的な、金色の瞳をした、
まだ幼い顔立ちの少年である。
黒いマント、灰色の鎧、赤い服と・・・身分が高い者らしく、汚れが少ない。


「ねえ、そこの魔道士さん。
 僕の友達を傷つけたんだから、それなりの覚悟をしてもらってもいいかな?」

ハウルは上空からゼパルを見て、投げ斧・・・フランシスカを構える。
ゼパルはくっ・・・と唸り、クラーケンを見る。
だが、戦意を喪失しているのか、動かずじっとしていた。


「ちっ・・・今回は退いて差し上げましょう!
 だが次はないと思え・・・!」

ゼパルは魔術を唱え、ふっと消えてしまった。


ティルははあっと一息、
クラーケン・・・いや、ジャッカを見るクロウに声をかける。


「クロウ、知り合いなんでしょ。」
「・・・・。」



<団長・・・すみません、こんな姿で>

不意に、魔物の姿のまま、ジャッカはクロウに声をかける。
クロウは頷いてジャッカを見た。

「いや、いい。・・・すまんな」
<いいえ・・・団長、お願いがあります。>



<俺を殺してください・・・
 俺の理性がまたなくなれば、団長を殺してしまいます。
 ・・・・俺は化け物になったまま、生きたくないです・・・>

「・・・・生きたくないなんていうな・・・」
<すみません、団長・・・>
「謝るな・・・」

クロウは顔を隠しているが、一筋の涙を流す。
そして、手に持っていた諸刃の大剣を鞘から抜いて、ジャッカに向ける。


<俺、団長といれて楽しかった。
 生まれ変わったら、また団長と一緒に航海がしたいです・・・
 だから・・・ありがとうございましたっ!!>



ジャッカがそう言い終えると同時に、クロウの剣がジャッカを真っ二つにする。

そして、船から青い光が消え、船は沈み始めた。






「生きたいって言えよ・・・馬鹿が」

Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.162 )
日時: 2018/04/27 23:00
名前: テール (ID: AuRKGmQU)


その後、皆は宿に戻り、ティルはレイとメウィルを部屋に呼んだ。

「メウィル・・・ゼパルがいったことは本当なのか?」

レイはメウィルの肩を掴んで、問い詰めた。
メウィルはレイの目を見て、頷く。

「本当です、レイ。
 ・・・僕は魔導兵器の発案をして、研究に携わっていました。
 黙っていて申し訳ありませんでした。」
「・・・・」

レイは無言でメウィルから離れる。
そこへ、ネイラが部屋へと入ってきた。

「メウィル・・・・あなたの本名は?」
「・・・「クリスタ・エヴァシルク」。この本名はルドガーですら知りません。」
「クリスタさん、このギルドのモットーを答えてほしいのだけれど。」

ネイラの問いにメウィルは静かに答える。

「「義を持って事を為せ、不義には罰を」。」
「そうよクリスタさん。それはギルドの掟でもあるの。」

ティルはそういうと、鞘から剣を抜く。

「ティル!?」
「レイ、止めないで。・・・ギルドの掟は絶対なのよ。」

ティルの目から光が消える。
そして、メウィルの後ろに回って首筋に剣を当てた。

「「クリスタ・エヴァシルク」・・・あなたの命をもって、罰を受けてもらうわね。」
「・・・・はい。」

メウィルは瞼を閉じた。
そして、ティルは剣を握る手に力を込めた。









ザクッという音が部屋に鳴り響き、メウィルは静かに瞼を開く。
首筋に痛みどころか傷一つないことに驚いて、振り向いた。


ティルの手にあるものは、メウィルの髪だった。

「これで「クリスタ・エヴァシルク」は死んだわ。
 罰を受けて、ね。」

ティルはそういうと、窓を開けて、メウィルの髪を風に流した。

「あんたはこれから、「自由な風」の「メウィル」として生きてもらうわ。
 ・・・・今まで通りにね。」


ティルはそういうとにっと笑う。

「・・・・そうだな、魔導兵器の発案者なんて悪い奴は死んだ。」
「ふふっ、そうね・・・」

レイもネイラも納得したような顔で笑う。


「てことでメウィル、これからもよろしくね。
 勝手にの垂れ死んじゃやだよ。」









そして、2日後・・・
ギルド「自由な風」の休暇は無事に終わった。


「楽しかったねルドガー!」
「そうだな。・・・いやあ、まさかプリムラが泳げなかったとは・・・」

プリムラはそれを聞いて否定する。

「語弊がありますルドガー。
 私たちは泳げるように設定されていないだけです。
 ですから泳げないわけではなく、機能がないだけです。」
「ご、ごめん。」

ルドガーは思わず謝った。


「しかし、ミュリエル・・・君の泳ぎは素晴らしかったよ。
 流石ラプラス族って感じだったよ。」
「よ、よしてください」

フォアの褒め言葉にミュリエルは顔を真っ赤にしてそっぽを向く。




クロウはわいわいと賑やかに話しながら帰路についてる自由な風を見て、
ふっと笑っていた。

「ねえ、クロウ・・・これからどうするの?」
「・・・・お前たちのギルドに、しばらく置いてくれないか?
 ミットヴィルクングに戻ってから、五大ギルドに報告せねばならん。
 お前たちのことも。」
「・・・それはネイラ先生にいった方がいいわ。」

ティルがそういうと、ネイラが近づいてくる。

「大丈夫よ、話はちゃんと聞いてるから。」
「おお、耳が早いね。」


ティルはネイラに尋ねた。

「ところで、ネイラ先生とクロウはどういう関係なの?
 知り合いみたいだけど。」

クロウはそれを聞くと、帽子を掴んで顔を隠す。

「昔、セイレーン浜で浜辺に打ち上げられていたところを助けられた。」
「・・・・人魚姫の王子様に拾われるシーンみたいじゃない!」

ティルは目を輝かせてクロウを見る。

「人魚じゃなくてカラスだし、助けたのは私だしね。」

ネイラは笑った。
クロウもそれを聞くと笑う。

「そこから俺たちは度々会うようになってな・・・」
「え、どういう関係なの?」
「酒友達かな・・・」

ネイラは顔を赤らめて呟く。

「なんだ、友達どまりか・・・」


「ま、なんにせよ、しばらくよろしく頼むぞ」
「うん、こちらこそね。」

クロウとティルは、握手を交わした。