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二次創作小説(新・総合)
- Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.193 )
- 日時: 2018/05/10 13:04
- 名前: テール (ID: X9g0Xy3m)
暗黒の森・・・魔神が眠る闇に閉ざされた森林地帯。
この森のどこかに魔神教の神官たちが集結しているという。
神殿を見に行くが、そこはもぬけの殻であった。
神竜の巫女は齢15歳の誕生日を境に、巫女の神聖なる力を発揮することができると言われる。
魔神教の神官たちは、神竜の巫女の力こそ脅威であり、
神竜教の弱点と考え、力なき巫女を捕らえた。
そして、神竜教の神官を生きたまま焼き払い、その炎で巫女の身体を穢す。
そうすることで神竜の巫女の力を封じ、
神竜教の最後の切り札であり、光を潰すことができるのである。
リゼの説明に、ティルは剣を強く握りしめる。
「そんなことのために、小さな女の子を捕まえるの・・・?」
怒りで腹が煮えくり返りそうな焦燥と憤怒に、頭がおかしくなりそうである。
そんなティルに、セネルは肩を掴んで落ち着かせる。
「落ち着けティルちゃん。・・・・確かに非道な奴らや・・・
せやけど、ここで落ち着かな、焦りは周りを見失うで。」
クロウもセネルに同意し、一歩前に出る。
「同意だ。・・・・時間が惜しい気持ちはわかる、仲間の命がかかっているのもな。
だが冷静になれ、暗黒の森は常に闇に閉ざされた森・・・
しかも、暗黒魔法を得意とし、尚且つこの森に滞在している奴らの方が
この森では優位に立っている。慎重に進むべきだ。」
クロウの言葉に、うっと声を漏らし、うつむくティル。
リゼは、足音が複数聞こえる。と皆に伝える。
「推測ですが、神官様を複数人で連行するつもりなのでは?」
ウォーレインがそういうと、リゼは頷く。
「おそらく、祭壇へと向かっていると思われます。
分散して祭壇に向かう魔神教の神官騎士を阻止し、
神官様たちをお救いいたしましょう!」
リゼの提案に、ネイラは皆に指示を送る。
セネルも傭兵団の皆に、それを伝え、作戦を練った。
イリスは、周りを見る。
祭壇の上で大木に磔にされ、ロープに縛られ、身動きが取れない。
どうやら祭壇とはいっても、祈りを捧げる場所ではなく・・・
いけにえを捧げるような場所だと、イリスは察した。
イリスを縛る大木の足元には、以前も使われていたのか、
煤のようなものが黒くこびりついている。
黒いフードを被り、ローブを羽織る魔神教の神官たちは、
神竜教の神官が送られてくるのを待っていた。
そこには帝国の異端審問官と思しき人物もいた。
赤いメッシュが入った緑の乱れた短髪、鮮血を被ったような赤い瞳が特徴的で、
まるで爬虫類のような鋭く冷たい眼光を持つ。
蔦模様が特徴的な衣服で、まるで町娘であるが、腕に持つ剣と目つきで、
かなりの手練れだと言う事がよくわかる。
「ふわぁ~・・・ねえ、暇だからここに近づいてくるギルドの人間、
ヤっちゃってきていい~?」
「ギルドの人間だと!?」
イリスはその会話を耳にする。
ギルドの人間・・・もしかしたら、ティルやみんなかもしれない!
イリスは希望を見据えた。
「貴様、確か陛下が遣した異端審問官だな、
・・・・大丈夫なんだろうな?」
「だったらここで試してやってもいいわよ?
あんたらがどうなろうが、こっちは知ったこっちゃない。ここで斬られてみる?」
「よせ、こいつらより骨のある奴らが、今近づいているのだ。
そいつらの相手をし、足止めをしていろ。」
「・・・・りょうかーい。」
女性の声が遠ざかっていく。
おそらく、皆の下へと向かったのであろう。
「・・・・アナンタよ・・・どうかみんなをお守りください・・・!」
イリスはただ祈ることしかできなかった。
無力な自分に嫌気すら差す。
「しかし、こんな小娘が神竜の巫女だとはな・・・。」
イリスに一人の神官が近づく。
やせ細っており、顔に肉があまりついておらず、骸骨のような顔の男だ。
ローブを羽織るその男は、他の神官とは比べ物にならない威圧感を放っている。
「・・・・今に、私の仲間が・・・
ティルやレイ、ネイラ先生、ルドガー、それにあの子が・・・
ギルド「自由な風」が私を助けにきてくれます・・・!
あなたなんて、やっつけてしまいます!!」
イリスはカタカタと震え、涙をためた目で男に言い放つ。
男はそれを聞き、声を上げて大笑いをした。
「何が「自由な風」だ、片腹痛い!たかがならず者の集団に何ができる!?
もうすぐここへ到着するのは汚らわしい神竜教の神官どもだ!
まずはそやつらを炎に入れ、その炎で貴様を焼いてくれよう!
希望などない、貴様は今宵死ぬ。そして神竜教は潰えるのだ!」
「なっ・・・なんという外道な!」
たった一人の小娘のために何人の神官を犠牲にする、悍ましい行為に、
イリスは恐怖すら覚える。
異教徒だから、そんな理由でこんなことが平気でできるのであろうか・・・
「く、狂っています!あなたたちはっ!!」
- Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.194 )
- 日時: 2018/05/10 17:43
- 名前: テール (ID: X9g0Xy3m)
いくつかのグループに分かれて行動する一行。
ルドガー、レイ、ミュリエルは、
数人の神官騎士によって連行されているリベルテを発見した。
「僕は首元を狙い、一気に仕留めます。
・・・・皆さんはその間にリベルテさんを・・・・!」
ミュリエルの言葉を聞き、ルドガーとレイは頷く。
ミュリエルは暗闇と森の地形を生かして、闇に潜む。
気付かれていないことを確認し、弓を引いた。
矢はリベルテを捕らえる神官騎士の首に命中する。
矢が刺さった神官はその場に崩れ落ちた。
「・・・!?なんだ!?」
ミュリエルは淡々と矢を放つ。
次々に神官たちが倒れていき、ルドガーとレイが飛び出した。
「な、なんだ貴様らっ!!」
「通りすがりだ!」
ルドガーがそう叫ぶと、手に持つ銀色の斧で神官の胸を切り裂いた。
「ごあ・・・っ!!」
神官は倒れて、大量の血液を流して動かなくなった。
「リベルテ!」
ルドガーはリベルテを抱き寄せて介抱する。
「る、ルドガーさま・・・」
リベルテは弱弱しくルドガーの名を呼ぶ。
ルドガーは安心しきった顔でリベルテを見つめた。
「ルドガー様・・・お願いです、私を・・・私を殺してください!」
「・・・・えっ?」
リベルテの突然の願い出に、ルドガーは驚く。
「わたしっ・・・には・・・・呪いがかけられているんです!
お願いします・・・私を殺してください、でないと・・・・ガッ!!」
リベルテは苦しみ始め、胸に手を押さえつける。
「リベルテ!しっかりしろ!!」
「あっ・・・ぐっ・・・・!!はぁ・・・っ・・・・早く・・・・!!」
リベルテはそう叫ぶと、ルドガーを突き飛ばして、距離をとる。
「も、もう・・・せめて・・・・逃げアアアアアアァァァッ!!」
リベルテは頭を抱えて今迄彼女が発したことがない声量の叫び声を上げる。
「リベルテ!!」
ルドガーはリベルテに近づく。
しかし、それをレイがルドガーの手を引いて阻止する。
「おい、やべーぞ!」
「離してくれレイ!リベルテが・・・!」
「落ち着けって!」
ルドガーがリベルテに近づこうとするが、
リベルテは突如懐から蛇の絵が描かれた魔導書を取り出し、開く
「神竜ノ飼イ犬共メ・・・我ガ暗黒魔法ヲ受ケヨ・・・」
リベルテは感情のない声でそうつぶやくと、手をルドガーたちに向ける。
「ジャヌーラ」
その声は恐ろしく不気味に響く。
突如、ルドガー、レイ、ミュリエルの身体の自由が奪われた。
「なっ・・・!?」
「こ、が・・・ぁ・・・・!!」
身体が締め付けられ、声が絞り出されるような感覚を覚える。
もがくことすら許されないほどの力によって意識がもうろうとしてくる
そして3人は驚くべきものを見てしまう。
それは赤い皮を持ち、金色の鋭い目でこちらを見下ろす蛇であった。
蛇は口を開け、ヌラヌラとした唾液を滴らせ、毒々しい口蓋を外気に晒している。
「り・・・べ・・・・」
ルドガーはリベルテに向かって手を伸ばす。
そのままルドガーは気を失った。
リゼとフェンリル、ウォーレインも、森を走っており、神官の救出を行っていた。
囚われた神官を介抱し、トブの魔石を渡して森から出るように促す。
「ありがとうございます、リゼさん・・・
神竜の加護がありますように・・・!」
神官はそう言い残すと、魔石を握りしめて光に包まれて消えた。
リゼはふうっとため息をつくと、狼の耳をピクッと揺らす。
リゼは突然、そっぽを向いてにこりと笑った。
「そこにいるのはわかっております、出てきてはいかがです、草蛇さん」
フェンリルとウォーレインは驚いて武器を構えた。
ざっと足音を立てながら、リゼ達の前に現れたのは、
緑の髪の女であった。
「て、手配書の「マグノリア」!・・・なぜこんな場所に!?」
「マグノリア・・・!!」
フェンリルとウォーレインはかんしゃく玉をかみ砕いたような顔でマグノリアを見る。
リゼはというと、にこりと笑ったままである。
「うーん、自分も覚えてない・・・なんでここにいるんだろ?
というかアレ、貴方たちだれ?」
マグノリアは頭をかきながら気の抜けた声で首をかしげていた。
「帝国に飼われている蛇風情が、こんなところで油でもお売りになってるんですか?」
リゼは笑顔でマグノリアを煽るような発言をする。
フェンリルとウォーレインは驚いてリゼを見た。
「り、リゼさん!そんな相手を刺激するような・・・」
「まあ、この程度でいちいち怒っているようでは、器が知れましてよ。」
リゼはわざと困っているように大袈裟に身振りする。
「神竜の飼い犬風情が、何か吠えているようだけど・・・
それで挑発のつもり?」
突然、マグノリアの声色が変わる。まるで獣の嘶きのようである。
「ウォーレイン様・・・ここは我々にお任せくださいな。
あなたはティル様の下へ。」
「えっ・・・!?」
リゼは右腕を押さえつけて、がたがたと震わせている。
が、表情はいつもの笑顔である。
「あなた様が此処にいると、巻き込んでしまいますわ。
・・・・ふふ、今宵は満月・・・私、暴れてしまいますわ。」
リゼの顔をよく見ると、血管が浮き出ていることがよくわかる。
すました顔をしているが、力を抑え込んでいるのが、腕や足元を見てよくわかる。
「フェンリルさんは?」
「俺は平気・・・むしろ、俺も同じ感じです。」
フェンリルはそういうと、胸を押さえつけていた。
ウォーレインは二人の様子を見て、頷いてくるりと回って駆けだした。
「いいの、一人逃がしちゃったみたいだけど?」
「それはこちらの台詞ですわ・・・
ルガルガン族は満月の日にこそ真価を発揮する・・・
そして満月とは、狂気の象徴とも言われます。
ふふふ・・・・満月に血を捧げるのは、あなた様か・・・私達か・・・」
リゼはそういうと、光に包まれる。
フェンリルも同じく、光に包まれ、二人はみるみる巨体に変化する。
光が晴れると、巨大な紅い毛並みの狼と、白い毛並みの狼が現れ、
マグノリアを見下ろしていた。
マグノリアは高笑いを上げて、二人を見る。
「アハハハハッ!そうね、今宵は満月!
満月に血を捧げるのは、果たしてあんたらイヌコロか、
草蛇である「私」か・・・試してあげようじゃない!!」
マグノリアは剣を構える。赤い刀身が、鈍く光った。
- Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.195 )
- 日時: 2018/05/10 22:38
- 名前: テール (ID: X9g0Xy3m)
「これあげるの、これで外に出てほしいの。」
スピカは助けた神官に、トブの魔石を渡す。
神官は、スピカに頭を下げた。
「ありがとうございました、ギルドの方・・・
神竜の加護がありますように。」
神官は魔石を強く握りしめ、閃光が走り、消え去った。
「スピカー!」
ラピスがスピカに近づく。
スピカはラピスに笑顔を向けた。
「ラピス!そっちはどうだったの?」
「こっちもOKだ。・・・あとは・・・・」
ラピスは何者かの気配を察し、スピカの前に立ちはだかる。
「何者だ!」
ラピスは剣を構え、警戒する。
ラピスの声に呼応するかのように、その人物はゆっくりと歩み寄ってきた。
ランプの光に照らされたその人物は、
黒い髪、黒い瞳を持つ、まさに「影が実体化」したような人物であった。
その姿にラピスは驚く。
「ウキョキョキョ・・・
私は怪しいものではありません・・・
それに」
「あ、ヨノワール族の人なの!
この人、前にお菓子くれたの、いい人なの!」
スピカは影のような人物に近づき、頭を下げる。
「この前はありがとうなの。」
「いえ、いいんですよォ・・・
子供は元気がイチバン!ですからねェ。」
「お、おい・・・スピカ?」
ラピスはスピカの態度におろおろと戸惑っている。
スピカはラピスに近づいた。
「ラピス、この人はいい人なの、とっても悲しんでる人なのよ!」
「少し語弊がありますけど・・・」
「いい人じゃないの?」
「・・・・ふう。」
目の前の人物はスピカの無邪気な発言などの対応に困っている様子であった。
「・・・何か訳ありのようですね・・・失礼しました。」
ラピスは剣を収めて、頭を下げる。
「・・・・申し遅れました、俺は「ラピス・ロル・グリモアール」。
こちらは「スピカ・フィリア」です。」
「私の名は「アフガロ・ウォルト」・・・・お二人にお願いがあってきました・・・・
あなた方のギルドの責任者は・・・・」
アフガロは、二人を見る。
「・・・・これは一旦外へ戻った方がいいな。」
「そうなの!おじさん、スピカたちと一緒に森の外に行くの!」
「お、おじさん・・・」
「まだ26なんだけどな・・・」と一言呟いて、アフガロは二人に案内されるままに森の外へ出ることにした。
- Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.196 )
- 日時: 2018/05/10 23:29
- 名前: テール (ID: X9g0Xy3m)
ティルは走る。
大切な仲間「イリス」のために。
森を虎のように駆け抜け、邪魔をしてくる神官や神官騎士は皆なぎ倒していった。
「失いたくない!・・・・誰もッ!!」
ティルはそう叫び、走る。
後ろから、少年もついてきていた。
目の前に装甲兵が立ち塞がり、斧を振り上げてティルに切り込む。
ティルはそれを見切り、わずかな動きで斧を避ける。
そしてノートゥングを握りしめ、装甲の隙間に剣を突き刺した。
「ご・・・ッ!!」
装甲兵はうめき声を上げて、バランスを崩す。
ティルはそのチャンスを逃さず、鎧と兜の隙間を狙い、剣を刺突した。
兜の隙間から血が流れ、装甲兵はそのまま後ろに倒れ込んだ。
ティルは装甲兵を倒した後、すぐに走り出す。
ティルの今の姿は、無我夢中という言葉がよく似合う。
それほどまでに、イリスを助け出したかった。
「巫女」というのが何かもわからないし、神竜教での立場も知らない。
だけど知ってることはたった一つだけある。
イリスはとても大切な「仲間」だってことを。
「イリスゥゥゥゥーーーーーッッ!!!」
その叫びは、咆哮に近かった。
イリスは何の抵抗もできない自分がとても憎らしかった。
巫女という筋書きなんて、所詮戦いでは何の役にも立たない。
リゼから聞いたことがある。
「巫女であるあなたには、人々を導くための力があるのです」
その言葉を信じて疑わなかったが、いざとなればこの体たらくだ。
本当に自分の中には、そのような神秘的な力が眠っているのだろうか?
なぜ今この瞬間、何もできないのだろうか?
何もできないような小娘を捕まえ、他の神官たちを巻き込んでまで
「私」を火あぶりにしようとしている。
原因を作った巫女である「私」は、何もできない・・・。
「これは、「罰」なのでしょうか、神竜アナンタ・・・
一瞬でも「巫女の責務から逃れたい」などと考えた私への・・・」
イリスは瞳から光が消え、涙をこぼす。
その時、森の奥がにわかに騒がしくなった。
「おお、やっと神竜教の神官どもがやってきたか!」
骸骨のような男が子供のように無邪気な声で森を見る。
しかし、歓喜の表情は落胆へと変わった。
イリスはそれを見据えて、表情に光が戻る。
「・・・神竜教の神官はいないけど、代わりにあんたらをぶん殴りに来たわ。
よくも私の大切な仲間を火あぶりにしようだなんて考えたわね。
全員この場で泣かしてやる・・・・無事で済むなんて思わないことね!」
森からやってきたのは、ティルと少年であった。
ティルは剣を抜いて、神官たちを睨みつけた。
「ティル!・・・あなたも!」
「安心して、イリス。あなたを助けに来たわ。」
「・・・・♪」
イリスの表情は、絶望から希望へと変わった。
- Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.197 )
- 日時: 2018/05/11 20:33
- 名前: テール (ID: X9g0Xy3m)
「ふふふ、姫を救いに来た王子かと思えば、小娘と小僧ではないか!
そんな細い腕で我らに盾突こうなどとは・・・愚かな。」
男はティルと少年を見るや、手に魔導書をとる。
そして周りにも神官が現れ、魔導書を手に取っていた。
「だったら試してみる?
私はあんたたちみたいな小悪党を見るとね・・・ぶん殴りたくなる性分なのよ」
ティルは剣をくるりと回して構える。
そして、神官たちに今にも飛びかかろうと姿勢を低くしていた。
「待ってよ、ここは僕が相手をするよ。」
彼らの背後から現れたのは、黒いメッシュが目立つ金髪の少年・・・ライであった。
「・・・・ライ、あんたが出てくるとは思わなかったわ。」
「うん、今回はこの人たちに雇われてる護衛だよ。
・・・・いってなかった?僕は誰の下にもついていない傭兵だって。」
ライのすました顔に、ティルはふっと笑う。
「言ってないし聞いてない。
まあ関係ないわ、あんたを倒してからイリスを助ける。」
「君の剣技を一目見てから、一度手合わせしてみたかったんだよね。
・・・本気でいくから。」
ライは腰に下げていた2本の剣を構え、ティルの動きを見る。
その剣は柄は黒く、刀身は黄色に輝き、稲妻が走るような紋章が描かれている。
ティルはふうっとため息をついて、突然顔つきが変わった。
「いっとくけど、遊んでる暇なんかないのよこっちは・・・
仲間の命がかかってるからね、すぐに終わらせるわ。」
ライは驚く、顔つきが先ほどのものから一変、
獣が獲物を狙うような鋭い瞳をこちらに向けていたのである。
両者はにらみ合い、一瞬の隙も見せないでいる。
近くにある水たまりに、雫がしたたり落ち、波紋を広げる。
その瞬間、二人の姿が一瞬にして消える。
否、目が二人の動きを捉えきれていないのだ。
剣と剣がぶつかり合う、金属音の掏れた音と、弾く音が響き、
暗闇の中で火花が散っている。
ライのスピードとティルのスピードは、同等のものであった。
「はじめてだよ、僕のスピードについてこられる人なんて!」
「よそ見してんな!」
ティルはそう叫ぶと、ライの足を払う。
ライはバランスを崩し、ティルはライの首元を剣で斬ろうと振り上げた。
しかしライはそれを見切り、地面に手をついて身体を支えて、
ティルの剣を蹴り上げた。
ティルは剣を弾かれ、後ろに倒れかけるが、宙返りでなんとかバランスをとる。
そして、着地と同時に地面を蹴り上げ、再びライの懐へ切り込んだ。
「ええい、小娘一人に何を手こずっておる!我らも加勢するぞ!」
男がそう叫ぶと、神官たちは一斉に魔導書を開いた。
「・・・!そうか、あんたもやっぱり・・・!」
ティルはそれに気づいて、ライに向かって怒りを露わにする。
ライは神官たちの行動を見て、ふっと笑う。
「まあ、これも策の内かな」
「・・・・よーくわかったわ。」
ティルはそういうと、勢いよくライの胸ぐらをつかんだ。
そして右腕を振り上げて、ライの左頬を思いっきり殴った。
「ぐぇっ!」
ライは鈍い悲鳴を上げて、吹き飛ばされる。
「武器だけが武術じゃないのよ・・・だからっ!!」
ティルはキッと神官たちを睨む。
そして、走りながら剣を構えて、神官たちに突進する。
神官たちは慌てて魔術を放つが、ティルは走っている途中に消えてしまう。
神官たちはティルを探して辺りを見回すと
神官たちは突然胸から血を噴出して倒れた。
ティルはそれを見て、男に向き直る。
「こんな貧弱な神官で私たちを倒せるとでも!?」
「思ってはおらんよ・・・くくく・・・」
男はほくそ笑む。
ティルは足元が光っていることに気づく。
だが遅かった。ティルは突然身体から力が抜け、糸の切れた操り人形のように、
その場に倒れ込んだ。
「か、からだが・・・っ」
ティルは指一本すら動かすことができないでいた。
よく見ると、少年も同じように魔法陣の上で倒れている。
「かかかっ、愚かな奴らよ!
自分の足元にこのような罠があるとも気づかずに、まんまと引っかかりおって!」
男は声を上げて笑った。
「ティル!!」
イリスがティルの名を呼んだ。
だが、ティルは無言で男を見上げる。
男は魔導書を開き、魔術を唱えた。
「バフォメット」
突如森全体が震え、突き刺すような悪寒が、イリスやティル、少年を襲う。
男の背後に現れた黒い影が、ティルを睨んでいた。
その姿はヤギの頭の大男にも見える。
背中からは翼を生やし、強大な威圧感を放つ。
その姿は、悪魔だとか魔王だともとれる。
同時に「この世のものではない何か」だと察することができる。
「さて小娘よ・・・言い残したことはあるか?
くくく・・・命乞いなら聞いてやらん事もない。」
ティルは今まで黙っていたが、男の足に向かって唾を吐く。
「命乞いなんかするもんか・・・!
私の身体がどれだけ傷つけられようと、
灰になろうが、穢されようが・・・・あんたたちなんかに屈しない!」
「・・・・ならば死ね、塵一つ残さぬわ!」
男がそう叫ぶと、ヤギの悪魔が手に持つ大槌をティルに振り上げた。
「ティルゥゥゥゥーーーーーーーッッ!!!」
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