二次創作小説(新・総合)

Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.96 )
日時: 2018/04/01 23:32
名前: テール (ID: LAu9zylb)


その夜、メンバー全員が集まったところで、ネイラは依頼の説明をする。
なんでも、「ミュトス劇団」という、演劇を行う劇団ギルドが
流行り病で役者がほとんど倒れてしまったらしい。
そこで、急遽3日間ステージに上がる役者を募集しているという内容の依頼であった。
シナリオは「神竜神話」の、神竜と魔神の戦いで
この街にある大きな劇場で、3日間の公演を行うとのことである。

ティルはその話を聞いて、目を輝かせた。

「面白そうじゃない、それ!」
「ふふっ、そうでしょう?」

ネイラは台本をパラパラとめくりながら微笑む。
皆も同じように台本を見る。

「報酬は金貨60枚よ。
 しかも反応次第ではもっと増えるらしいのよ。」
「大した金額だなぁ・・・」

ルドガーは報酬の話を聞いて驚く。


「で、配役はどうすんだよ?」
「そうなのよねえ。」

ネイラは全員を見る。

「アナンタの役はリーヴェシア、ディアボロスの役はレイでいいかしら。」
「確かに、適役だね!」

クーが感心する。

「まあ、やってやるさ。」


そして、配役を皆で相談しながら決めていった。

神竜アナンタ役はリーヴェシア。
魔神ディアボロス役はレイ。
破壊神ティルヴィング役はティル。
聖騎士ユフラテ・フルーレ役はリベルテ。

と、どんどん決めていった。

「破壊神役かぁ・・・悪役なんてできるかしら・・・」
「まあ頑張って練習していけばいいさ!」

ティルは腕を組んで悩み、ルドガーがフォローする。


「それじゃみんな、自分の台本は持ったわね?
 あ、あなたには団員さんのアシスタントをお願いするわね。」

ネイラは少年にそういうと、少年は頷いた。

「あ、私・・・・」
「だいじょーぶだよリベルン!お客様はみーんなカボチャだと思い込めば、
 緊張なんかすぐとれちゃうよ!」

不安がるリベルテに、明るく励ますクー。
皆がわいわいと自分の配役について話し合っていると

「みんな、思うところはあるけど、明日から練習していきましょうね。
 本番まであと2週間しかないから、毎日みっちりしていくわよ!」

とネイラが皆に伝えて、今夜はここで解散となった。









「いや、僕大丈夫かな・・・」

カグラは自身の台本を見る。
カグラの役は「白面の狐」役である。
聖騎士ユフラテに、浄化の炎の力を与える重要人物である。

「白面の狐は一応「邪悪の化身」と呼ばれているけど、
 本質は神竜アナンタに協力する青い炎の力を操る人なんだよね。
 そんな重要人物になり切れるかなあ。」
「大丈夫だろ、なんとかなるって!」

ルドガーは笑顔で励ました。

ちなみにルドガーの役は、「ティルヴィングを封じ込める魔剣を作ったドワーフ」である。

「ルドガーの役もかなり重要だよ。
 神話では、魔神に家族を殺され、自身が魔剣になってティルヴィングを封じ込める
 そんな役割だったからね。」
「なるほど・・・」

ルドガーは頷いた。














ティルは台本を読み進めていた。

「「欲に溺れる愚者よ、汝の願いを」・・・・あー難しいなあ!」

ティルは顔を赤らめながらベッドに横たわる。
少年は首をかしげていた。

「悪役なんて私には無理だわ、正義感が前に出ちゃうもん。」

はあとため息をついて、外を見る。

「「ティルヴィング」かぁ・・・きっとわっるーい奴なんだろうね!」

同意を求められた少年はうつむいて考え、頷いた。
ティルはその様子を見てあははと笑う。

「もう寝よう、明日から練習三昧だし!」

そういってティルは明かりを消した。
少年もベッドにもぐりこんで目を閉じ、ティルも同じようにもぐりこんだ。





その夜・・・・
ティルは夢を見た。

山のように積み上げられた老若男女問わず、数多くの人間の死体。
まるで血の海のように血だまりが広がり、その中に誰かが立っている。
不思議と、血だまりや死体の山を見ても、恐怖心を抱かなかった。

ティルはその人物に歩み寄る。
赤い髪、黒いマント・・・・後姿だけではそれ以外はわからない。


「お前、自分が何者か・・・知っているか?」

その人物は後姿のまま、ティルに問いかける。

「あんた誰?」
「質問で質問を返すか・・・まあいい。」

目の前の人物は低い女性の声だった。
なんだか自分の声に似ているようにも聞こえるが、よくわからない。

そして振り返ってこちらを見る。
なぜか顔が黒塗りされているように真っ暗で何も見えない。

「私は――――だ。」
「・・・?よく聞こえないんだけど。」

目の前の人物は確実に名乗ったはずなのに、聴こえなかった。

「次は私が質問させてもらう。・・・・お前はお前の存在を何とする?」
「え?うーん・・・」

ティルは腕を組んで頭を悩ませる。



「今は答えなくていい。・・・今はまだ。」








目を覚ますと、ベッドの上であった。

「いや、当然か。」

ティルは起き上がって外を見る。

「自分が何者かなんて・・・自分は自分でしょ。」

朝霧に包まれる街を見て、ティルはボソッとつぶやいた。

Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.97 )
日時: 2018/04/02 20:15
名前: テール (ID: LAu9zylb)


そして、劇団「自由な風」の演劇の練習が始まった。

ネイラの予想通り、全員役の台詞が棒読みであった。
それもそのはず、生まれてこの方演劇などやったことがない者揃いだからだ。

「まあ、なんとかみっちり練習していけばなんとかなるかしら・・・」

ネイラは先が思いやられるわねとぼやき、皆の練習を見る。



ネイラは、レイとリベルテが練習している部屋をのぞいてみる。


「まじんディアボロスよ!わがけんをうけよー!」
「ふん、こむすめが。そのていどでわれをきれるとおもうなよ」

リベルテとレイが台本を片手に台詞を読み上げるが、
感情がこもっておらず、棒読みであった。

「あなたたち、感情がこもってないわよ・・・」
「でも感情をこめて台詞を読むのって難しいです・・・」
「リベルテに同意、下手すりゃ間に合わねえかもな」

二人はやつれた顔でため息を吐く。
そこでネイラは二人にある助言をした。

「二人は「魔神ディアボロス」と「聖騎士ユフラテ」をどう思う?」
「えっ?」

レイとリベルテは考え込んだ。



「まさに「魔王」ってやつじゃないかな。力強くて、破壊と殺戮を楽しむような残虐なヤツ。」
「聖騎士様ですから、きっとかっこよくてお美しいと思います。」
「それになりきるのよ、演劇って言うのは。」

二人はネイラを見る。

「自分の役が自分だって思い込みながら演じれば、
 きっとうまく演技ができると思うわ。
 レイだと「自分はディアボロスだ!」って考えて、
 リベルテだと「自分はユフラテだ!」って考えれば大丈夫よ。」

ネイラの言葉に、レイとリベルテは台本を読み直す。
そして、もう一度先ほどのシーンを練習してみることにした。


「魔神ディアボロスよ!貴様を神竜の名において、浄化する!
 我が剣、「神剣アストライア」を受けよ!」
「くくく・・・ハハハハッ!
 脆弱な人間が・・・・神竜の犬如きが我が闇を浄化できるものか!」

先ほどの棒読みとは打って変わって、まるでそこに魔神と聖騎士がいるかのような演技に、
ネイラは思わず拍手を送った。

「すごいわ二人とも、一瞬で飲み込んでしまうなんて。」
「そ、そうでしょうか?」

リベルテは顔を真っ赤にしてネイラを見る。
レイは台本を見ながらリベルテに声をかけた。

「リベルテ、次はここなんだが・・・」
「えーっと・・・」

ネイラはその様子を見て、邪魔してはいけないと思い、部屋を出た。








ティルはリーヴェシアと共に練習をしていた。

「うーん、難しいな言い回し。」
「そうですね・・・あ、そうだ。」

リーヴェシアはティルの台本の台詞を指さした。

「自分なりに台詞をアレンジしてみたらどうでしょう?」
「自分なりに?」

リーヴェシアは頷く。

「自分の言いやすいように改変してみたら、案外すぐ飲みこめるかもしれませんよ。」
「そっかぁ・・・うーん」

ティルは台本を見ながら考えてみる。

(今朝見た夢に出てきたあいつの真似をしてみるか・・・)

ティルはそう考えて、台詞を口にする。

「欲に溺れる愚かな人、お前の願いを叶えてあげよう。
 ただし、私を使うのであればそれなりの対価を支払ってもらうことになるよ。」
「・・・・・すごい。」

ティルの演技に感心して拍手するリーヴェシア。
ティルは笑いながら顔を真っ赤にする。

「うーん、これは私も負けられませんね!」

リーヴェシアは台本を読み直し、ティルと共に演技の練習を再開した。


Re: ポケタリアクロニクル-英雄の軌跡- ( No.98 )
日時: 2018/04/03 12:46
名前: テール (ID: LAu9zylb)


各々が演劇の練習を着実に進めている内に劇場の準備も着々と進んでいた。

少年とスピカが劇場にて舞台の準備を行っていた。
劇場に残っていた劇団の団員と、急遽来てくれた「フォアシュピール・アルトパルランテ」、
「シャンタス・ホオ」、「ルース」、「フロス」、「グリス」と共に、
照明の調整、音響のテスト、幕のチェックなど、
公演に間に合うように進めていく。


「合奏団の指揮は私に任せてくれたまえ!
 素晴らしい演奏で舞台を盛り上げて差し上げましょう」
「フォアお兄ちゃんすごいね!」
「でしょう!」

フォアが指揮の素振りを見せていると、スピカはきゃっきゃと笑う。
フォアは青い、綿の装飾がついた帽子をくいっと整えながら、腰に手を当てる。
二人はすぐに意気投合し、仲良くなった。

「自由の風」から役者の決定の通達がきたので、
シャンタスとフロスが衣装を縫っていた。
シャンタスは頭に薄い赤色のシニヨンキャップを付け、橙色のチャイナ服を上に、
下には膝下までの分厚いズボンを穿く、異国情緒のようないしょうであった。
フロスは、水色のふわっとしたボブカットが特徴の髪で、実に女の子らしく可憐であった。
白色のローブを羽織っているので、神竜教の神官だということが見て取れる。
シャンタスはその姿を見て、「神竜さまのお使いダネ!」と感心していた。



「フロス、なんでウチとそんなに離れてるネ?」
「えっ!?いやぁ・・・」

フロスはシャンタスから少し離れて衣装を作り進めていた。

「衣装作る間だけでも仲良くするますヨ!」

とシャンタスはフロスに近づこうとするが、そのたびに一歩、また一歩と離れるフロス。
シャンタスはしょんぼりとした顔で肩を落とす。

「ウチ、なんか悪いことしたアルネ・・・?」
「そ、そんなことない!・・・んだけど・・・!」

シャンタスの様子に、フロスは慌てて否定する。

「フロス、おばけが苦手で・・・!」
「おばけ?」

シャンタスは頭を悩ませる。
そして自身をよーっく見てみるが、分からない様子である。

「ウチ、おばけじゃないネ、足もあるヨ」
「で、でも、霊族じゃない」
「生きてるアル、だから仲良くするます!」

シャンタスはフロスに近づくが、やはり離れられる。

「どうしたら仲良くしてくれるますか!?」

とうとう泣き出してしまったシャンタス。
フロスはその様子に困惑してしまう。

「え、えっと、ご、ごめんなさい・・・」

思わず謝り、シャンタスはフロスを見る。

「じゃあ仲良くするです!」
「う、うん!」

フロスは顔が引きつりながらも、とりあえず同意する。










「おーい、ルース、そっちはどうだ?」

舞台上で幕の調整をしているルースとグリス。
そのあとは照明などの調整も団員と共に行う予定である。

「こっちは大丈夫だ、問題なく幕は下りるぞ。」

グリスの声掛けに、幕の上部近くにいるルースは大きな声で返事をする。
かなり大きな幕と舞台であり、何千という人が収容可能の客席も、
舞台から見れば壮観である。

「よし、危ないからゆっくり降りてくるんだぞ」

下にいるグリスは、ルースに声をかける。

グリスは銀色の髪の短髪で、ボサボサしていて、ところどころ跳ねている。
戦闘ではない今は、鎧を脱いでいるようであり、
黒のインナー、青のラインが入った大きめのズボンを穿く、青年であった。


「わかってるよ、いやしかし・・・大きいなここは。」

ルースは茶色の髪を後頭部からまとめて髪を垂らしている、
ダークブラウンのマントを羽織り、銀色の鎧を着こむ傭兵である。
腰から下げる斧の傷つき具合で、歴戦を潜り抜けた手練れだと言う事がわかる。

そんなルースが降りてくるのを見て、グリスは腕を組んで舞台を見る。

「確かになぁ。その分役者は周りを気にせず芝居ができると思うぜ」
「うん、確かにな。」

二人はもう一度幕や照明、舞台の小道具や大道具を見てまわる。
万が一破損していた場合、早急の修理が必要だからだ。

「大丈夫そうだ。」
「よし、団長に報告してくるか!」


二人はそういうと、紙に今日の舞台調整を記して、舞台を後にした。