二次創作小説(新・総合)
- Re: Re:創世の方舟 ( No.11 )
- 日時: 2025/04/14 22:02
- 名前: 西宮まゆ ◆DvvdZCE7CQ (ID: 2EqZqt1K)
4人が調査機関で手伝いをするようになってから数日経過した。
調査機関の暮らしにも少しずつ慣れて来た頃合いだったが、ポッパーの捜索には難儀しているようで、MZDは机の上でうんうんと地図とにらめっこしながら唸っていた。
その周りを"ハテナ"が不思議そうに飛び回っている。ちなみにだが、"ハテナ"はMZDの影であり、世界が混ざってしまった影響を受けMZDと再び分離し、こんな小さな姿になってしまっているらしい。
「えむえむ?」
「んー?あぁ、これ?ポッパーのいそうなところをリストアップしてんの。
バラバラになったとはいえ、一応はパーティに参加してくれたヤツらばっかりじゃん?だから、目星つけられそうなところはつけとこっかなーって」
「だが、数が膨大すぎる。しらみ潰しにやっていくだけでは時間だけが過ぎてしまうぞ」
「そうなんだよねー」
こと、とヴィルヘルムがカップを置いた音が響いた。
小さく礼を言い、MZDはカップに入っているお茶を少し飲んだ。疲れた頭にほどよく染みる、少し甘めの紅茶だ。
自分の為にやってくれたのかと問うと、そうではないとぶっきらぼうに返された。
「何か大きい依頼でも舞い込んでくれれば、双方いい動きが出来そうなもんだけど。そうは問屋が卸さないか」
「依頼を集めてみる、と所長や師匠が動いてくださっていますが、私達の調査機構の知名度もまだまだです。
そう簡単に大きな依頼が来てくれるわけありませんよね」
なにせ、世界調査機構は立ち上げたばかりの新しい組織である。知名度などあったものではない。
集まっている人物が凄い者ばかりだとしても、名が知れ渡らないことには大きな依頼は舞い込んでこない。
地道に小さな依頼をこなしていくしかないか、と誰かが言った、その時だった。
「おー、誰かと思えば随分懐かしい声してんじゃねーか」
通信サーバに響く軽快な声。今いる誰の声でもないそれは、少しずつ足音と共に近付いてきた。
そして、現れたのは朱雀の化身のような男性と、白髪で水色の目をした忍者のような少年だった。
MZDは男性の方に覚えがあるようで、嬉しそうに名前を呼ぶのだった。
「アクラル!」
「やっぱり。エムゼにヴィルじゃねーか、元気してたか?」
「お前も相変わらず元気なようで安心した。久方ぶりだな、アクラル」
そう言って、メグリカとサクヤに向かって改めて男性は自己紹介した。
彼の名は"アクラル"。この世界の南方を守護する『朱雀』を継いでいるものである。先に名前が出てきた『青龍』サクヤの双子の兄であり、現在は消滅した彼女の思いも背負って世界を見守っている。
アクラルが自己紹介を終えると共に、メグリカとサクヤも双方自分の名前を告げた。
「ご丁寧にどうも。それで……そっちの忍者みたいな人は誰?」
「こいつか?こいつはだな」
「僕が自分でやるから大丈夫。僕は『ボタン』。『白虎』を継いでいるんだ。今はフリーの忍者をしながら世界を見守っていたところだったんだ」
アクラルの言葉を遮って、少年――"ボタン"は自分の名を告げた。
この世界の西方を守護する『白虎』を継いだものである。現在はフリーの忍者として、様々な場所で斥候の仕事をこなしながら世界を見守っている。
その言葉を聞いて、そういえばとヴィルヘルムが口を開く。彼の知っている『白虎』とは違う人物が名前を名乗ったからだった。
「アカギはどうしたのだ?私が知っている『白虎』は彼だったと認識しているが」
「僕は、先代白虎――話に出てる『アカギ』さんから名と役目を受け継いだんだ。彼は――先代の青龍と共に、力を使い果たして消滅したんだよ」
「そうか……。アカギは役目を全うすることを選んだのか」
「そうだぜ?妹1人に任せられねーって、アイツが消える時一緒に向こうの世界に行っちまったよ。
それで、新しく白虎の役目を引き継いだのがコイツって訳だ。仲良くしてやってくれよな!」
そう言って、アクラルはボタンの肩に腕を置く。そんな彼の行動を払いのけるかのように、ボタンは静かに肩に乗った腕を下ろした。
その様子を見ていたサクヤが何かを閃いたかのように口を開いた。
「あ。斥候のお仕事をされているということであれば、世界で何か悩み事が起きているとか聞いたことはありませんか?
私達、今そういうのを求めていて……」
「色々斥候をしているとはいっても、人と積極的に接するわけじゃないからなぁ。特に困ってる話とかは聞いたことはないね」
「そうですか……」
あくまで斥候と言っても、彼の場合は世界を見守る仕事と同意義。個人の悩み事を聞いて、解決するようなことはしてこなかったと説明をするボタン。
その反応を見て、サクヤは寂しそうにぽつりとそう答えたのだった。
そのまま、会話が滞ってしまった一同の元へ、ラルゴとカグヤ、ミミとニャミが顔を出した。
カグヤは見覚えのある顔に少しだけ口角を上げた。
「あら。久しぶりねアクラル、ボタン。元気にしてたかしら」
「ボチボチだな。カグヤもしっかり役目果たしてるみたいで良かったぜ」
そう、大人の会話を繰り広げる彼らにMZDはどこか違和感を覚えた。
彼の知っているアクラルは、もっと子供っぽく他人につっかかるような性格だったはずだ。それが、大人しくカグヤと会話を繰り広げている。
不思議に思った彼は、思わずこう口にした。
「なんつーか……アクラル、ちょっと垢抜けた?」
「垢抜けたとはなんだ!オレはアイツの気持ちも背負って真面目に生きるって決めたんだよ。いや前から真面目に生きてるけどな!」
「青龍殿が引き継がれたことによって、あの鬱陶しい溺愛を見なくなるのは良いことだな。神でも成長はするものなのだな」
「オイコラヴィル!鬱陶しいとか思ってたのかよ?!さり気に失礼だぞそれ?!」
「前言撤回。大人しくなったのは人前だけだったみたいだな」
「エムゼまでそんなこと言うなよ~!オレだって妹失って傷心なんだからなー!!」
「煩いのも相変わらずね」
再会を喜び合っていると、ふと通信が来る音が聞こえてきた。
何かの依頼だろうか、とラルゴは早速通信を繋げるように指示をする。
「誰からだろう?」
「分からない。けど、繋げてみましょうか」
通信を繋げてみると、モニターに映ったのは巨大な右手と左手の姿だった。
- Re: Re:創世の方舟 ( No.12 )
- 日時: 2025/04/15 22:02
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)
モニターに映った両手を見て、一同は驚きの表情を見せた。
しばらくの沈黙が続いた後、焦ったようにアクラルは口を開いたのだった。
「マスターハンドにクレイジーハンド?!っつーことは、『この世界』も混ぜられたってことになるか」
「そうだねー。あんだけ大きい世界が混ざっちゃったってことは、他にも大層な世界が混ぜられている覚悟はした方がいいかも」
やっといつもの調子に戻った一同に、両手は身振り手振りで何かを伝えようとしていた。
ちなみに、この世界の"マスターハンド"と"クレイジーハンド"は、言葉を喋ることが出来ない。喜怒哀楽は、全て自分達の手で行っている。
自分達の両手を使って、何か意味ありげなポーズを撮り続けている彼らに、一同は首を傾げるばかりだった。
「僕達に何か伝えてそうだけど。手話かな?」
「待ってくれ。解読を試みてみよう」
「えっ。ヴィルさん手話出来るの?!」
「城から出られなかった時に身に着けたものでよければ、だが」
「呪縛って本当恐ろしい」
「それは呪縛関係ないと思うぞニャミ」
ヴィルヘルムが何かを察知したかのように、彼らを真似て自らの両手で会話を試みた。俗にいう『手話』という手法である。
推測は当たっていたようで、両手はヴィルヘルムに色々と自分達の思いを伝えるため手話を続けていた。彼らのやり取りを見守っていると、「なるほどな」と彼は静かに頷いた。
「何か分かったのかしら?」
「彼奴等、どうやら私達に助けを求めているようだぞ。
何やらスマブラスタジアムに似た闘技場が悪事を働いていて、その火の粉がスマブラスタジアムに降りかかって迷惑がかかっているらしい。その調査の手伝いの依頼だ」
「スマブラスタジアムに似た闘技場?!随分デカいことするヤツもいたもんだな」
そのままヴィルヘルムは再び手話に集中し、両手と会話を試みる。
そんな矢先、ひょこりと画面の右側に赤いMの書かれた帽子が見えた。彼はそのまま右から顔を出し、一同に声をかけた。
「やあ!会話したかったんならボクを呼べばよかったのに!」
「マリオ!」
「ヤッフー!はじめましての人も久しぶりの人も混ざってるね!」
アクラルが彼の名前――"マリオ"の名前を出すと、彼は嬉しそうに一同に挨拶をした。
彼は現在キノコ王国とスマブラスタジアムを行き来して、混ぜられた世界を冒険しながら楽しんでいるらしい。
マリオは先程のヴィルヘルムの声も聞こえていたようで、彼の言っていたことに補足するように続けた。
「依頼したいことはさっきヴィルヘルムさんが言ってくれたことで合ってるよ!
その闇闘技場、噂では近々締め出される予定ではあるんだけどね?それを嫌がった貴族たちがスマブラスタジアムのせいにしようとしているーだとか、ボク達も無視できない状況になっちゃってさ。
もしキミ達に時間があるのであれば、話だけでも聞いてほしいな」
「闇闘技場かー。なんか怖い響きだね」
「でも、今までとはスケールが違う大きな依頼だよ!わたしは受けてもいいと思うなぁ」
マリオ――もとい、マスターハンド達からの依頼を聞いた彼らは、一旦その場で話し合うことにした。
これまでにない大きな依頼。スマブラスタジアムは様々な世界の人物が集まるため、情報もそれだけ多く集まる。もしかしたら彼らの必要な情報も得られるかもしれない大きなチャンスだった。
しかし、そこには危険がつきものだ。戦闘慣れしている人物が多い調査機関の一同でも、闇闘技場の詳細が不明な以上何が起こるか分からないのも事実だった。
「それで、どうするの所長?闘技場が悪事を働いているってのが気になるけれど」
「そうねぇ……」
ラルゴは暫く考えた後、意を決したように「依頼を受けてみよう」と答えた。
彼が決めたのなら、とラルゴの意見に反対を述べる者はいなかった。
「大きな依頼だもんね!しかも、スマブラスタジアムに行くなら誰かしらポッパーがいるかもしれないよ?」
「だな。オレ達にとっても利点は大きい。受けてみる価値はあると思うぜ」
「それじゃ決まりね!」
皆の意見を一通り聞いた後、ラルゴはその依頼を承ることをマリオに伝えた。
すると、マリオは嬉しそうに返事をした。後ほど準備が出来たら向かうと彼らに伝え、一旦通信を切ったのだった。
「さて、と。それじゃ早速スマブラスタジアムに行ってもらいたいのだけれど……。流石に全員ではいけないから、立候補者を募りたいわ」
「はいはい!わたし行きたい!」
「あたしもあたしもーー!!」
スマブラスタジアムに向かう人を立候補で決めると言ったラルゴの言葉を遮るようにミミとニャミがはいはいと手を挙げた。
その目には興味と羨望の眼差しが詰まっている。「行きたい」と、全身を使って現していた。
そんな彼女達にMZDが待ったをかけた。
「オイオイ。もしかしなくても行きたいだけじゃん」
「いいじゃん別に!ここ最近小さい悩み事しか解決してないから退屈なんですー!」
「そうだそうだ!それにせっかくスマブラスタジアムに行けるって分かったんなら、行かない選択肢なんか無いよねー!」
「あのねぇ。オレ達は遊びに行くんじゃないんだよ?それは分かってる?」
「分かってるよ!闇闘技場をぼっこぼこにこらしめちゃうんだよね!」
「趣旨変わってるし……」
「――まぁ、良いのではないか?MZD。彼女達がこんなに張り切っているのだから」
「ほんっとヴィルってミミとニャミには甘いよなー。オレ特製のココアよりも甘い」
どんなに危険が待ち受けているかもわからないのに、彼女達は呑気にキラキラと目を輝かせているとMZDはため息をついた。そんな彼の肩を優しく叩き、ヴィルヘルムは彼女達の意志を汲んであげることも大事だと伝えた。
MZDは改めてミミとニャミの目を見る。どんなことがあっても折れないという意思が彼女達から感じられた。
「はぁ……。わーったわーった、だからそんなに真剣な眼差しで見るなっつーの。……まぁ、ポッパーもいるかもしれないからな。オレもついてくよ。ヴィルはどうする?」
「ジャックの気配は特にないが……。折角だからついていこう。新たな魔法のアイデアになるものがあるやもしれんからな」
「また変な魔法開発したりしないでよ?」
ミミとニャミ、MZDとヴィルヘルムがまずスマブラスタジアムへ行くことを決めたようだ。
彼らの様子を見て、メグリカもサクヤに行かないかと誘う。2人共、答えは決まっていた。
「それじゃ僕も行こうかなー。サクヤも行く?」
「はい。もしかしたら刀剣を預かっていらっしゃる方がいる可能性も無きにしも非ずですので」
「4人もついてるし、2人なら大丈夫よね。私はアクラル、ボタンとここに残って刀剣を顕現する為の準備を進めるわ」
メグリカとサクヤも4人と一緒にスマブラスタジアムへ向かうことを決めた。
カグヤ、アクラル、ボタンは刀剣を顕現する為の準備を進めるため、調査機関に残ることになった。皆が戻ってくる頃には顕現の準備を整えておくらしい。
「あ。カグヤ。一応オレとボタン、準備終わってもしばらくはここにいるからな」
「あら、そうなの?所長、それでいいの?」
「カグヤちゃんのお友達であれば大歓迎よ!住居区も好きに使ってちょうだい」
「友達……まぁ、友達ね」
「なんで一瞬今間が開いたんだよオイ」
アクラルのツッコミをカグヤは全てスルーし、一同に早速準備を整えるように勧めた。それに答えるように、部屋を出ていく6人。
そして、準備を整えた彼らは早速スマブラスタジアムへと出発するのだった。
- Re: Re:創世の方舟 ( No.13 )
- 日時: 2025/04/16 22:06
- 名前: 西宮まゆ ◆DvvdZCE7CQ (ID: 2EqZqt1K)
アクラルに転移の扉を準備してもらった一同は、早速扉を潜りスマブラスタジアムへと足を運んだ。
ちなみに、『転移の扉』とは神々が異空間の移動を簡易にするために使っている扉のことである。それを私的に改造し、所謂"どこでもドア"のような扱いにしているのがアクラルだった。
久しぶりに吸うスタジアムの空気に、ミミとニャミは張り切っている。
「はー!やっぱり転移の扉って便利ー!流石はアクラルさんだよね」
「いやニャミちゃん、アクラルさんを物扱いしちゃダメだってば。ああ見えても神様なんだからね?」
「フレンドリーな神様が多すぎて、あの場所にいる人たちの殆どが神様だってこと忘れちゃうよ。ね、MZD!」
「なんでそこでオレに振るワケ?」
「フレンドリーな神を自称しているのは事実だろう」
4人の明るいやり取りを見守りながら、ふとメグリカは思考を巡らせる。
ミミとニャミ。ただのウサギと猫の少女なのに、神と呼ばれている存在とこんなに気軽に話している。しかも、底の知れない魔法使いとも軽口を叩き合っている。
彼には、その光景が不思議だった。どうして易々と巡り合えない人々が、こんなにも仲良くしているのだろうと。
気になったメグリカは、思い切って聞いてみることにした。
「そういえば、さ。4人共みんな凄い仲良しだよね。昔からつるんでるの?」
「うん、そうだよ!ニャミちゃんとはポップンのオーデション会場で。MZDとヴィルさんとはパーティ会場で出会ったんだけど、そこで色々あってさ。
シェアハウスなんかもしたりして、今は家族同然の仲なんだよ!」
「そうそう。ヴィルさんの部下に『ジャック』っていう男の人がいるんだけど、その子と5人でシェアハウスしてたことがあったんだ!
いやー、あの時は本当楽しかったなー」
どうやら、4人と『ジャック』と呼ばれる青年は過去に一緒にシェアハウスをしていたことがあったらしい。
MZDが出発する前に口にした料理関連の話も、もしかしたらこれが関係しているのかもしれないとメグリカは納得する。
サクヤは家族というものに憧れを抱いているのか、羨ましそうな反応を見せていた。
「家族……。よい響きですね。私には家族という存在は師匠しかいなかったので、少し羨ましいです」
「はいはい。雑談もいいけどそろそろ目的地着くぞー」
そう言って、MZDは目の前のスマブラスタジアムの受付を指さした。
そこには、マリオと一緒に闘牛士のような格好の青年と、フランスの淑女のような少女が立っていた。
2人の姿を見た瞬間、ミミとニャミは嬉しそうに彼らに駆け寄った。
「ウーノさん!アンちゃん!無事だったんだ!」
「ミミにニャミ!まさかこんなところで会えるだなんて」
首を傾げているメグリカとサクヤに、ミミとニャミは改めて彼らを紹介した。
闘牛士の男性の名前は"ウーノ"、フランスの淑女のような少女の名前は"アン"。どちらもワールドワイドに活躍しているアイドルグループのリーダーだった。
ウーノもアンも、まさか見知った存在が現れるとは思っていなかったらしく、2人共喜びの表情を見せている。
「いやー、本当びっくりだよ。まさかスマブラスタジアムで会えるだなんて」
「私達もさ。ワールドツアー中に急に強い光に覆われて、気付いたらアンと一緒にこのスタジアムの近くに倒れていたんだ。
運よくシモンさんに救助されたんだけど……。他のメンバーやポッパーとはまだ出会えていないんだ」
「そうだったんだ……。でも、ウーノさんとアンちゃんが無事だっただけでもあたし、嬉しいな!」
「わたくしもですわ。――皆さん、無事でいてくださればよいのですが……」
「大丈夫だよ!きっとみんなどこかで元気に暮らしてる!そう思わなきゃ!」
「……そう、ですわね。マジカル★4のリーダーであるわたくしがしょげていてはいけませんものね!」
メンバーが心配なのだろう。不安そうな表情を浮かべるアンに、ニャミは元気づけるように言葉を紡いだ。
そんな彼女の元気が映ったのだろうか。アンは少しだけ安堵の表情を浮かべるのだった。
「さて。再会もいいけど、オレ達には別に本題があることは忘れてないよな?」
「心配ないよ!ちゃんとマリオさんに話は聞いてるもん」
「本題?」
「あぁ。実は――」
メグリカがここまで足を運んだ事情を話すと、ウーノもアンも納得したように首を縦に振った。
どうやら、闇闘技場の問題はスマブラスタジアム全体へと広がっており、誰もが問題視しているものとなっているらしい。
困ったようにマリオは続けた。
「実はね?『闇闘技場』なるものがこのスマブラスタジアムの近くで開催されているって聞いてさ。そこは貴族たちのたまり場で、命のやり取りが起きているって噂なんだよ」
「いのちの、やり取り……」
「そうなんだ。貧困街から奴隷を集めて、戦わせて金を賭ける……。本当に駄目なことなんだけど、それが裏社会で横行してるらしくて。その弊害がこっちにも来ててマスターハンドとクレイジーハンドが困り果てててさ。
ボク達としても許せないんだよね。スマブラはあくまでも『スポーツ』であって、いのちのやり取りなんかじゃないのにさ!」
憤慨するようにマリオは言い放つ。これだけ詳細が分かっているとなると、闇闘技場がスマブラスタジアムへもたらす悪評も物凄いことになっていることは想像に難くなかった。
このままでは、スマブラスタジアム自体が悪者にされてしまう。闇闘技場を何とかせねばならないのは明白だった。
「なるほどね。それで、僕達に手伝ってほしいっていうのは……」
「ボク達と一緒に、『闇闘技場をぶっ潰してほしい』んだ!」
「うわ、物騒ー」
どうやら、マスターハンドとクレイジーハンドは闇闘技場を潰そうと考えているらしい。しかし、彼らだけではどうしようもなかったため、調査機関に助力を申し立てたというわけだった。
物騒だと口に出すミミに、ニャミはこう返す。
「でも、残しとけばスマブラスタジアムにも影響が出ちゃうよ!なら潰さなきゃだめだよね」
「潰す、とはいっても……。物理的に潰す訳ではなかろう?そうであれば、私の魔法で何とかしてやるのだが」
「ヴィル、闘技場だけに影響留まらないからやめてね?」
『潰す』ということは、物理的に闘技場をなんとかするのだろうかという意見が出たが、マリオはそうではないと首を横に振る。
スマブラスタジアムの面目も保たなければならない以上、闇闘技場を物理的に潰す選択肢は最初からないに等しかった。
「物理的に潰すわけじゃないよ!あくまでも再起不能にしてもらって、奴隷になっている人たちを助けて二度と『闇闘技場』を名乗れないようにしたいんだ」
「つまり、外からではなく『中からぶっ潰す』。そういうことなのですね」
「そうそう!でもボク達が動くと色々と勘付かれるからさ。協力してくれる人が欲しかったんだ」
確かに、スマブラスタジアムのファイターは有名人が多い。そんな彼らが束になって闇闘技場に押し寄せたら、目的が暴かれてしまう可能性も無きにしも非ずだった。
有名人ではない、さらに戦うことのできる彼らに協力を仰ぐことで、今回の目的を達成しようという魂胆だった。
『有名人では向かえない』。そんな言葉に、ミミとニャミもがっくりと肩を落とす。
「わたし達でも難しいよね。タレント活動で顔が売れちゃってるし……」
「そうだなー。ミミとニャミは行かせられないな。ということで、ここはメグリカとサクヤ、オレとヴィルで行ってくるよ。異論はないよね?」
「ちょっと!異論あるに決まってるでしょ!あたし達足引っ張るためにここに来たんじゃないんだから!」
ミミニャミはウーノとアンと留守番だ、と言い切ったMZDにニャミが突っかかる。ここまで来ておいて何もしないのはあり得ない、と。
しかし、彼はそれでも首を縦には振らなかった。それは、彼女達にとっての彼なりの親心でもあった。
「わーってる!でも、命のやり取りって聞いちゃうとさ。もし弊害がお前さん達に降り注いで、取り返しのつかないことになったらって思ったら怖くてたまんねーのよ。
だから、調査とか中からぶっ壊す、とか物騒なのはオレとヴィルに任せて。な?」
「んもう!いっつもそうやって危険な場所には自分から向かうんだから!いつもはわたし達こき使うくせにー!」
「はいはい。お小言は帰ってからたんまり聞いてやるよ。ヴィルもそれでいいよね?」
「構わない。私の力が必要なのであれば、助力は惜しまないつもりだ」
「僕達もそれで構わないよ」
「私もです」
話し合いの結果、案内役にマリオ、調査にメグリカ、サクヤ、MZD、ヴィルヘルムが乗り出すこととなった。
未だぶーぶーわめいているミミとニャミをウーノとアンが宥め、なんとかその場は収まった。
「闘技場の場所にはボクが案内するよ。一応バレないように変装はしていくつもりだけど……。もし見つかってつまみ出されたらごめんね?」
「それくらい有名人は入れない場所なんだね」
「そうなんだよ。だから調査も中々はかどらなくてさ。キミ達が来てくれて本当助かったよ」
「お役に立てるのであれば幸いですね」
「それじゃ、準備が出来たら早速行こうか」
一同は早速準備を整え、マリオの案内に従いスマブラスタジアムを後にする。
果たして、彼らのいう『闇闘技場』とは一体どういうところなのだろうか。不安になる気持ちを抑えながら、一行はマリオについていったのだった。
- Re: Re:創世の方舟 ( No.14 )
- 日時: 2025/04/17 22:52
- 名前: 西宮まゆ ◆DvvdZCE7CQ (ID: 2EqZqt1K)
「ここさ」
スマブラスタジアムから少し歩いた先に、寂れた街があった。
すれ違う人々もみすぼらしい恰好をしており、治安が行き届いていないのだということがひしひしと感じられる。
マリオはその街の中央にある、コロシアムのような建物を指さして『ここが闇闘技場だよ』と言った。
「随分と寂れたところなのですね……」
「賭博をやってるって聞いたし、大っぴらに出来ないんでしょ。だから、必然的にこういう寂れた街の建物を使うようになるんだよ」
そのまま闘技場の中に入ろうとした一同に声をかける人物がいた。
声の方向を向いてみると、そこに立っていたのはその場にはそぐわない高級そうな服を来た2人の子供が立っていた。
見たところ、2人共10歳前後だろうか。右側にいる茶色い服を来た少年が、5人に口を開いた。
「お兄さん。そっちは危ないよ。闘技場だよ」
「見た感じ、観光に来た感じじゃなさそうだけど……。もしかして、お兄さんも観客だったりするの?」
「まぁ、そんなところかな。キミ達もこの闘技場に用があって来たの?」
子供達は闘技場が危ない場所だと理解しているようで、見慣れない服装をした連中に近付かないように警告をした。
しかし、一同はこの闘技場に用があって来たのである。観客か、と問われ咄嗟にそうだと返すマリオに、子供たちは不思議そうな目で見つめている。
マリオが続けて子供達もこの闘技場に用があるのかと問いかけると、左側にいる黒い服の少年が「違うよ!」と声を荒げた。
「逆さ!僕はこの闘技場を終わらせに来たんだ!」
「終わらせに?どういうこと?」
「アルシオーネ、そんなこと言ってるとまた……」
「だっておかしいじゃないかホープ先生!ショウさんだって連れて行かれちゃったんだぞ!何もしてないのに!そんなのおかしいだろ!」
どうやら、この子供達――"アルシオーネ"と"ホープ"はこの闘技場を潰しに来たらしい。
志は自分達と一緒だが、見た感じ無力なただの子供。話を聞くに、大切な人がこの闘技場の中に連れていかれてしまったから取り返したいらしいというのが分かった。
そのままアルシオーネが憤慨するところをホープが止めている。一同もどうこの場を宥めればいいのか分からなくなった。
――矢先、彼らの元に怒号が飛び交う。
「おいお前達!またここに来たのか!」
「うわ、見つかった!」
闘技場の中からコンシェルジュらしき服装の男性がやってきて、アルシオーネの首根っこを掴んでしまう。
ホープに一礼をした彼は、そのまま街の外まで彼を連れていってしまった。
「やめろー!」
「ここは子供の来るところじゃないと言っているだろう!早く家に帰りなさい!」
「いやだー!僕はショウさんを取り戻すまで帰らないんだー!!」
「相変わらず喧しい子供だ!」
「ま、待ってよアルシオーネ!」
そのまま男性はアルシオーネを連れてその場から立ち去る。それをホープは追った。
しばらく待っていると、申し訳なさそうに男性がこちらに向かって戻ってくる。
つまみ出している途中にアルシオーネに引っかかれたのか、その頬には傷がついていた。
「すみませんね旅人の方」
「あの子達はなんなの?」
「『闘技場を終わらせる』とかなんとか言って、いつもここに来るんです。最近ギフテッド能力を持った奴隷を1人連れてきた頃から『ショウさんを返せ』と入口で叫んでいるのですよ」
「ふーん……」
「それで、旅人の方。この闘技場に何の御用ですかな?」
本当に手のかかる子供達だ、と肩をぐるぐる回しながら男は質問に答えた。
そして、一同に向かって一礼をした。どうやら自分達のことを客だと思って貰えているらしい。
マリオの変装もいまのところはバレていなかった。
「ちょっと、この闘技場に興味を持ってね。入れてくれるかい?」
「ふむ」
マリオがそう答えると、男はぐるっと一同を見回した。
しばらく無言の問答が続いたのち、男は静かにうんうんと頷いてチケットを5枚、彼らに渡してきたのだった。
「大丈夫なの?お金とかは……」
「見学だけであれば大丈夫ですよ。お金を賭ける場合は中でどうぞ」
「(本当に、人の戦いにお金を賭けているのですね……)」
「ありがとうございます」
チケットを受け取り、早速中に入る5人。
そんな彼らを、コンシェルジュの男性は悲しそうな目で見つめていたのだった。
- Re: Re:創世の方舟 ( No.15 )
- 日時: 2025/04/18 22:05
- 名前: 西宮まゆ ◆DvvdZCE7CQ (ID: 2EqZqt1K)
闘技場の中へと入った5人は、その殺風景さに表情を失った。
スマブラスタジアムのような華やかな装飾もなく、がらくたや置物が乱雑に積まれていた。
「左が選手の控室、右が観客席。随分とシンプルな作りなんだな」
「金と命のやり取りをしている以上、表立った活動は出来んからな。こういう古びた建物になるのも致し方あるまい」
ふと、きょろきょろと辺りを見回していたMZDがぽつりとそう呟いた。
入る前から感じていたが、随分と古い建物を利用しているようだ。建物の所々に錆のようなものが見られ、床や壁もギシギシと音を立てていた。
「それにしても、すんなりと入れましたね。誰でも入れるのでしょうか?」
「見た感じ、観客は貴族だけでもなさそうだからね。庶民も賭けに参加しているのか……」
観客らしき人の中には、貴族のような出で立ちではなく普通の服を着ている人物も存在していた。
どうやら、観客は貴族平民関係なく集まっているらしい。そんな彼らが人を使って金のやり取りをしているのかと改めて感じ、マリオはため息をついた。
そのまま建物の中を進んでいると、一同は金髪の筋肉質な青年とすれ違う。
顔立ちはすっきりとしており、清楚な印象だ。首元には無理やり入れられたのだろうか、刺青のような模様がある。
しかし、彼らがもっと驚いたのは彼の服装だった。ボロボロの白い布一枚を羽織っている状態で、その他には靴もまともに与えられていなかった。
「あの方が、奴隷と呼ばれていた方なのでしょうか」
「見た感じ服もまともに与えられてなさそうだし、碌な扱い受けてなさそうだなこりゃ」
「正に、『奴隷を物として扱っている』という証拠かもしれんな。――闘技場で何が起きているか、少し想像がついたぞ」
「とにかく観客席に行ってみよう。人の中に紛れ込めば、少しは人の目を避けられるはずだよ」
マリオの提案に、4人は静かにうなずき観客席の方へ歩いて行った。
そんな彼らを見張るかのように、陰から何人かの男が顔をだす。男達はマリオの正体に勘づいているようだった。
「やっぱりあいつ……『Mr.ニンテンドー』だろ。試合始まる前に早くつまみ出すぞ」
「はい。――周りの奴らはどうしますか?」
「たまたまタイミングが一緒だったかもしれんが、警戒は怠るな。危険分子かもしれんからな」
男達はそんな会話を続けたのち、マリオ達が進んでいった道を歩いていく。
――しばらくして、男達が隠れていたところに2つの影が現れた。アルシオーネとホープだった。
彼らはコンシェルジュの男につまみ出された後、こっそりとマリオ達の後を追って闘技場の中へと入っていたのだった。
「あの人たち……ただのお客さんじゃなさそうだね」
「僕達も行ってみよう!もしかしたらこの闘技場を終わらせてくれる人かもしれない!」
自分達と目的が一緒ならば、協力し合わない手はない。
そう思った2人は、他の観客に紛れながら観客席の方へ向かっていくのだった。
観客席についた5人は、早速手頃な席を選び腰を落ち着けた。
やはり椅子も古いもののようで、ねじが外れそうなのかガタガタと少し揺れている。
「分かってはいたけど、椅子も古いなー。これは観客の中で怪我をするヤツも過去にいたりして」
「思っている以上に古い建物なのですかね、ここは」
「そうなのかもねー。金網もさび付いているし、整備もされてなさそうだからね」
「まだ試合は始まってなさそうだね」
辺りを見回しながら、マリオは確認するようにそういう。
観客同士で会話をしていたり、誰もいないコロシアムにヤジを飛ばしたり――。行動は様々だった。
これからどうしようか話し合おうとした矢先、マリオの近くに先程追ってきた男達がやってくる。
そして、マリオの被っていたフードを取ってしまった。
「ワオっ!」
「えっ……あれ……マリオじゃね……?」
「マリオもこんなところくるんだ……」
フードの男の正体が世界のMr.ニンテンドーだということが分かり、会場が少しざわざわとしてきた。
そんなのもお構いなしに、男たちはマリオの両脇を掴み彼を持ちあげてしまった。
「やはりお前、スマブラスタジアムからの刺客だったな!お前はこの闘技場にいる資格などない、帰れ帰れ!」
「迷惑を被られているのはこっちなんだけどね?スマブラスタジアムにまで悪評が届いて困ってるんだよ!」
「そんなもの知るか!出て行け!!」
マリオは持ち前の運動神経で抵抗するも、観客が沢山いるところでパンチやキックを出すのは良くないと判断したのか思うように動けず、『マンマミーヤ』という声と共に男達に連れていかれてしまった。
となると、次の問題は残されたメグリカ達4人である。マリオと話をしていた以上、関係者だとバレるのも時間の問題だった。
「……これ、オレ達も不味くない?」
あたふたしている間に男達が複数人やってきて、4人を取り囲んでしまう。
疑わしきものは排除せよ。恐らく教育が行き届いているのだろうが、いささか乱暴すぎる。
「お前達もあのマリオの同行者だな。であればこの場にいる資格はない!帰れ!」
「ど、どうしましょう……!」
男の手がサクヤの腕を掴んだ、その時だった。
「待ってください!やめてください!」
観客席に、子供の声が響いた。
「この声は……。まさか、坊っちゃん?!」
「彼らは僕のパパから闘技場に入る許可を貰っています。正真正銘の正当なお客様です。連れていかないでください!」
メグリカ達も声の方を向く。
そこには、先程入口で会ったアルシオーネとホープの姿があった。男達を説得しているのはホープの方のようだった。
男達はホープの身なりを見て、とんでもないことをしてしまったと確信した。すぐにサクヤの腕から手を引き、メグリカ達に頭を下げた。
「すまない。まさか坊っちゃんのお知り合いだとは思わず……。失礼いたしました。闘技場を、ごゆっくりお楽しみください」
「あ、あぁ……」
戸惑っている4人をよそに、男達はそそくさとその場を去っていく。
入れ替わりに、アルシオーネとホープが4人の元に近付いてきたのだった。
- Re: Re:創世の方舟 ( No.16 )
- 日時: 2025/04/21 22:03
- 名前: 西宮まゆ ◆DvvdZCE7CQ (ID: 2EqZqt1K)
騒ぎが一旦落ち着き、元の賑わいを取り戻しつつある闇闘技場。
4人の近くに来たアルシオーネとホープは、改めて一同に挨拶をした。
「な、何とか助かったね」
「連れていかれなくて良かったです。お兄さん達」
「先程は助けてくださってありがとうございます。えーと……」
「あ、そっか。僕達まだお互いに自己紹介してないもんね。じゃあしなきゃ!」
そうアルシオーネは思い出したように掌をポンと叩き、お互いに自己紹介を始めた。
「僕はアルシオーネ。元々は貧困街出身だったんだけど……色々あって、今はホープ先生の家でお世話になってるんだ」
「僕はホープといいます。皆さん、よろしくお願いいたします」
子供達が丁寧に自己紹介をしてきた為、一同も自分のことが分かるようにお互いに名前を言い合った。
互いのことが少しわかったところで、アルシオーネがメグリカにこう言い寄る。
「もしかしなくても、メグリカさん達はこの闘技場を終わらせに来たんでしょ?」
「さっきから気になってたんだけど……その『終わらせる』って何?」
アルシオーネは一貫して、闇闘技場を潰すことを『終わらせる』と言っている。メグリカはそれが先程から気になっていた。
思わず彼に問いかけてみると、アルシオーネは憤慨したようにこう返した。
「うん。こんな闘技場が出来てから、街の治安は悪くなるばかりさ。しかも、最近になって見かけないお客さんまで増えてるみたいで……。
だから、僕はこの闘技場を終わらせて街の平和を取り戻したいんだ!」
「僕はその付き添い……って感じかな」
「付き添いにしては随分とした肩書だな。アルシオーネを迎え入れるほどの財力があるのだろう?」
「そう……だね。僕、この地域にある上流貴族の出身なんだ。でも、アルシオーネの言っていることは分かる。こんな闘技場、本当はあっちゃいけないんだ。
パパに聞いたんだけど、この闘技場、最近『スマブラスタジアム』ってところに悪評も流しているみたいで……。このままじゃどんな影響が出るか分からないよ」
どうやら、上流貴族の間でも闇闘技場が出来て困っているという話は出ていたようだ。
2人とやはり思いは一緒だったのだとメグリカは納得する。しかし、口先だけでは何とでも言える。
何か闘技場を潰すために何かしたのかと2人に再び問うと、子供達はしょんぼりした表情になってこう返した。
「でも、この闘技場を終わらせるために何をすればいいのか分からなくて。それに僕達、まだ子供だろ?この闘技場に入りたくても入れなくてさ。
僕も実際に入ったのはこれが初めてなんだよ」
「でも、あの方々の反応的にホープさんは何回か来たことがありげですね?」
「そうだね。パパに連れられて何回か来たことがあるよ。それで顔を覚えられてるんだと思う」
何か突破口はないのか。試合はまだ始まる様子はなさそうなので、全員で考えてみることにした。
しばらくの沈黙の後、思い出したようにMZDが口を開いた。
「あ。お前さん、入口で『奴隷として連れていかれた人がいる』って言ってなかったっけ?」
「ショウさんのこと?」
「『ショウ』というのか?その連れられた奴隷というのは」
「うん、そうだよ!ショウさんはすっごくかっこいいんだぞ!」
そう言って、アルシオーネは興奮気味にショウのことを話した。
ショウもアルシオーネと同じく、貧困街出身で、物心ついたころには独り身だったらしい。しかし、まっすぐな性格に育った彼は貧困街のヒーローとして人助けをし、街の平和を守っていたという。そんな最中で2人と出会い、2人も彼にとても良くしてもらっていたのだそうだ。
アルシオーネの視点からのショウの話がぽんぽんと口からこぼれる。どうやら、彼はショウに憧れているようだった。
「でも、最近になってここに『奴隷』として連れて行かれちゃったんだ。ギフテッドとかなんとか知らないけどさ!ショウさんは何も悪いことしてないのに」
「ショウ……もしかして、さっきすれ違った刺青の人かな?」
そう言い、メグリカは外見的特徴をアルシオーネに伝える。金髪で灰色の目をした筋肉質の青年。首元に刺青があった、と。
すると、彼はそうだそうだとぴょんぴょん跳ねながら答えた。
「首元の刺青は僕分からないけど、間違いなくショウさんだよ!僕達も守ってくれたヒーローなんだ!」
「だったら、何とかしてその『ショウ』って人と繋がりが持てればいいけどな」
MZDがそう呟いた瞬間、会場内にゴングが鳴り響いた。
どうやら、これから試合が始まるらしい。6人は椅子に改めて座り、試合が終わるまで成り行きを見届けることにした。
司会なのだろうか。円形のコロシアムの中心に、眼鏡をかけた太った男性が立っている。
彼は高らかに声を上げながら、これから試合を開始することを告げた。
『レディースアンドジェントルメン!皆さん!今日はかけ闘技場にお集まりいただきありがとうございます!
本日の試合は『オーガvsショウ』!因縁のライバル同士の対決が幕を開きます!』
司会の声につられるように、観客席から歓声が飛び交う。
どうやら、ショウとオーガはこの闘技場の中でも人気の奴隷らしい。
「ショウさんが戦うみたいだ」
「大丈夫かな。ショウさん、強いのは知ってるけど……」
『では奴隷闘士の入場に参りましょう!
青龍の方角!彗星の如く現れた、奴隷闘士トップの勝率を誇る男!『無血の帝王』ショウーーー!!!』
司会の紹介で、東の入口から先程すれ違った筋肉質な青年が出てきた。
アルシオーネ達は、久しぶりにショウの姿を見れて安堵の表情を浮かべている。
『続いて白虎の方角!リベンジに燃える熱き男!『炎のインファイター』オーガーーーーー!!!』
続いて、西の方角からは褐色で赤髪のこれまた筋肉質な青年が出てきた。
"オーガ"と呼ばれた彼は、ショウのことを一方的にライバル視しているようで、何かと喧嘩を吹っ掛けている。
しかし、ショウはそれを気にも留めず、ただ一言『よろしく』と返したのだった。
「どちらの首元にも刺青が入っています。あれが、『奴隷』として連れて来られた方々ということなのでしょうか」
「恐らくな。全く、人を物扱いする人間がいるなど……。その魂はさぞ醜いのだろうな」
2人についての感想を述べている間に、再びゴングが鳴り響いた。どうやら試合が始まったらしい。
ショウは戦闘の構えをするが、自分から動こうとはしない。代わりに、素早く彼に打撃を入れようと近づいたのはオーガだった。
「ショウさんっ……!」
「でも待って。ショウ、相手の動きを読んでるみたいだ」
オーガの攻撃が当たるかと思った寸前、ショウは彼の拳をひらりと避ける。
その後も素早い打撃が彼を襲うが、それも寸のところでかわし続けている。まるで、オーガの動きを全て読んでいるかのように。
「凄いな。あれだけの速度の拳を正確に避けている。まるで相手の動きが見えているかのようだ」
「でも、ショウってヤツ自分から攻撃したりしないんだな」
「当たり前だよ!ショウさんが自分から喧嘩を吹っ掛けるわけないじゃないか!」
ぽつりとつぶやいたMZDの言葉に、アルシオーネは興奮気味に返す。
「ショウさんの凄さは攻撃することじゃないんだ!相手を疲れさせて……一撃で相手をノックダウンさせることにあるんだ。昔、僕達を守ってくれた時と何も変わらないよ!」
「そうなのか。守るために拳を振るう、それがちゃんと出来てる人なんだな……」
一同が話し込んでいる間にも、試合はどんどんと進んでいく。
目を話している隙にオーガが先に疲弊していた。一方、ショウは汗1つかいていない。
それでも負けじとパンチを繰り出すオーガだったが、ショウはそれもひらりと避け、そのまま首元に手刀を食らわせ一撃でノックダウンさせたのだった。
決着がついたのか、けたたましくゴングが鳴る。
『決着ーーー!!!今回も『無血の帝王』ショウが勝利だーーー!!!』
「凄いやショウさん!」
「でも……観客席から罵声が聞こえてきますよ?」
「満足いかなかったんだろ。あくまでもここは『闇闘技場』なんだから」
決着はついた。
しかし、もっと血なまぐさい戦いを求めていたのだろう。観客席からはブーイングの嵐が飛んでいたのだった。
- Re: Re:創世の方舟 ( No.17 )
- 日時: 2025/04/22 22:15
- 名前: 西宮まゆ ◆DvvdZCE7CQ (ID: 2EqZqt1K)
今日の試合が終了し、観客席から人がどんどんはけていく。
そうして残ったのは、彼らと物好きな一部の観客だけになっていた。
ショウとどうにかコンタクトを取れないかということいついてホープは色々と考えていたようで、考える素振りを店ながら一同にこう口を開いたのだった。
「ショウさんと話をするなら、選手のみんなが帰る前に動かないと」
「でも、試合直後だよ?色々ピリピリしてないかな。今回の試合、観客的には不満の方が大きかったみたいだし」
「それでも行かないと!闘技場、終わらせるんでしょ?!」
アルシオーネのその言葉に、ホープは慌てて口を塞いだ。そして、あたりをきょろきょろと見回して誰もこちらを見ていないことを確認し、彼の口から手を離す。
だが、彼の言葉にも一理はある。早く動かねば目的は達成できない。
「とにかく、控室の方に行ってみよう。もしかしたらまだショウがいるかもしれない」
「僕、案内するよ」
「……中を知っているとはいえ、まだ子供だ。気を付けるのだぞ」
内情をよく知っているというホープに連れられ、彼らは観客席を後にし控室へと向かって歩いて行った。
控室は、いくつかの部屋に分かれておりそのどれもが建付けの悪そうな扉で隔てられている。
やはり相当古い建物なのだと一同は改めて思う。そんな最中、控室の1つから、何かを殴るような大きな音が聞こえてきた。
「あっちに選手の人がいるのかな。随分大きな音だったけど……」
「やっぱりピリピリしてるんだよ。選手同士で喧嘩が起きていたりして」
「そんな呑気に言っている場合ですか!まずは中で何が起きているか確認しましょう」
サクヤの助言通り、メグリカはホープに下がっているように言いドアノブに手をかける。
そして、ドアの音が出ないように静かに、静かに少しずつ扉を開いた。
その中では――。
『今日の試合はなんだ、ショウ!!!観客が何を求めているのか分かってないのか?!』
「…………」
『おい、そこまでにしておけって。こいつは何度言っても戦い方を変える気はねーんだよ』
部屋の中では、想像通り何やら喧嘩のようなものが繰り広げられていた。
ショウ、と呼ばれた金髪の青年の頬には殴られた跡がある。先程の大きな音は、彼を殴打した時に出たものなのだろう。向かいには選手らしき人物が彼の胸倉を掴んでおり、赤髪の青年――"オーガ"と司会者に呼ばれていた人物が間に立って仲裁を行っていた。
ヴィルヘルムは子供達2人に被害が及ぶのを防ぐため、自分の後ろに2人を下げた。
しかし、このままではいつまでたっても自分達の目的は達成できない。メグリカは意を決して彼らに話しかけたのだった。
「すみません。ショウ選手に用事があるのですが」
「あぁ?!」
ショウの胸倉をつかんでいた男がギロリとこちらを見やる。それでも、メグリカは礼儀を貫いた。真っすぐな目で彼を見やると、男は舌打ちをした後ショウから手を離したのだった。
「おい、ショウ。客人だってよ」
「…………」
ショウ、と呼ばれた人物はこちらを見定めるようにまっすぐ見つめる。急に現れた、しかも子供達2人以外は初対面。
警戒するのも無理はないだろう。ぐるっと見回すように確認した後、ショウの眼が大きくなるのが分かった。
恐らく、ヴィルヘルムが後ろに隠している子供たちの姿が目に映ったからだろう。
ショウは無言でこちらに来た後、「すぐ戻る」と伝え一同と共に部屋を後にしたのだった。
彼に誰もいない控室に案内してもらい、全員が中に入ったところでショウはアルシオーネとホープに抱き着かれた。
どうやら、殴られたところをみていてもたってもいられなかったらしい。
「ショウさん!!頬凄い怪我だよ、大丈夫?」
「いや。それよりもお前達……。どうしてここに」
「ショウさんを助けに来たんだよ!それに、この闘技場も終わらせに来たんだ!!」
「終わらせ……?」
「それについては、僕から話してもいいかな」
あのね、あのねとアルシオーネが話し続けるのを遮り、メグリカは彼ら2人とあった経緯、そしてここまでのいきさつを全てショウに話した。
彼は驚いた表情を見せつつも、話を聞いた後静かに頷いた。とりあえずは話を理解してもらえたらしい。
そして、彼は改めて自己紹介をしたのだった。
「あぁ。名乗りが遅れたな。俺はショウ。元々は貧困街出身だったんだが……。今はここで奴隷闘士として働いている」
「ショウさんは凄い人なんだぞ!僕達のヒーローなんだ!」
「ヒーローと言われることは何もしているつもりはないけどな……。だが、まさかスマブラスタジアムの方にまで闇闘技場の噂が広がっていたとはな」
「そうなんです。スタジアムの管理者の依頼を受けて、私達はこの闘技場にやってきました」
ショウは一通り一同と話を終えた後、ふーむと考えるように腕を組む。その表情は険しかった。
「だが、無理だ。この闘技場は多数の貴族の資金によって動いている。その貴族を何とかしないことにはな……」
「暗殺の依頼か?ならば承るが」
「そんな物騒な方法で解決しちゃいけません。ホープの家族は何とかしてくれないのかよ?」
「パパも今水面下で動いてくれてる筈なんだけど、凄い邪魔が入っててやりにくそうにしてたよ」
「それに、暗殺も無理だ。経営している貴族はここに滅多にこないんだからな……。だが、そうか。スマブラスタジアムの人達が動いてくれているのか……」
「そう思ってくれているってことは、ショウさんもこの闘技場を何とかしたいと考えてくれているの?」
ふと、ホープがぽつりとつぶやく。その問いに、ショウは静かに頷いた。
しかし、顔は険しいまま元に戻らない。自分の言っていることが難しいことなのだということを頭で理解していたからだった。
「俺もこの闘技場はあっちゃいけないと思っているよ。だが……諦めている奴隷闘士は多い。『この闘技場を潰そう』と言っても、賛同してくれる奴は極わずかだと思った方がいい」
「そうなのですか……」
そう言いつつ、ショウは壁にかけられた時計を見やる。
彼らが別室に移動してから、結構な時間が経っていた。そろそろ、あの胸倉を掴んでいた男のイライラが募る時間なのだろう。
ショウが「そろそろ戻るよ」というと、アルシオーネが彼の足にしがみついた。意地でも戻ってほしくないらしい。
「アルシオーネ。気持ちは分かるが、俺も戻らなきゃならないから……」
「嫌だ!戻ったらショウさん、また殴られるんだろ?!そんなのあんまりじゃないか!!」
「困ったな……」
ホープも説得するが、アルシオーネはぶんぶんと首を振ってショウから離れない。
どうしようかと困り果てていると、コツコツとした足音が先程いた控室まで向かっていくのが聞こえた。
「誰か来るみたいだな」
「お客様でしょうか?」
様子を見ていると、足音は聞こえなくなり、その代わりにドンっ、と扉を蹴り破る音が聞こえてきた。
扉に耳を傾け、何があったのかを一同は確認することにしたのだった。
『『暁の星々』だァ!よくも今まで好き勝手に闇闘技場とやらで暴れ散らしてくれたじゃねェか。
上の方からこの施設の破壊命令が出ている。よってこの闘技場は今日で終わりだァ!!』
「――破壊、だと?」
「そんな話は聞いていない。何があったんだ?」
「ショウでも分からないことなのか……」
どうやら、彼らは『暁の星々』という組織に所属している人物らしい。
荒々しい口調でこの施設を破壊する、と伝えた彼は、どことなく声色が楽しそうに聞こえた。
組織の名前を聞いた途端、ホープが考え込むように口元に指を当てる。
「『暁の星々』……」
「ホープさん、知っているのですか?」
サクヤが思わず聞いてみると、ホープは静かに頷き暁の星々について説明をした。
『暁の星々』。『マス・コディミニケーション』という世界中のギルドを管理している組織直属のギルドで、悪を絶対に許さないと評判の凄腕ハンターが所属している。
ホープの言葉だけを聞けば、正義を掲げる規則正しいギルドのように聞こえる。しかし、今聞こえている声色は明らかにそれとはかけ離れたものだった。
「ホープが言ったのとイメージが全然違うな。そんなヤツらにここ、目ェ付けられてたってワケ?」
思わず呆れた声でMZDがそう答える。そして、先程のものとは違う声が響いてきたのだった。
『奴隷闘士のみんなもれーんたーいせーきにーん!
なので、明日貴族のみんなと一緒に処刑することになったよー!首を洗って待っててねー!』
「処刑……?!」
『処刑』。その言葉を聞いた瞬間、一同の背中を悪寒が走る。
そんな中、ホープが我を取り戻したように一同にこう言った。
「とりあえず、ここから出よう!僕達も目を付けられたら終わりだ」
「だけど、奴隷の方々は貴族に攫われた被害者ではないですか!なのに処刑って……!」
「今止めても意味ないよ。今は退散して、作戦を練ろう。ラルゴやマスターハンド達にも知らせないと」
「俺は……」
「ショウさんも一緒に!」
彼らに気付かれないように、静かにその場を後にし始める一同。
しかし、彼らの姿は水色のツインテールの少女――先程、『処刑』という言葉を口にした人物に見られていた。
「あれー?ネズミが逃げたみたいだよハダルー?」
「あ?話聞いて腰抜かして逃げたんだろ。あんなもんほっとけ。それより、明日の処刑用の魔物、ちゃんと調達出来てんだろうなぁ?」
「もっちろーん!カペラの魔物はさいきょーなのだー!!」
そう言って、Vサインとともににっと笑顔を見せる少女。
それは、言葉には全く似つかわしくない表情なのであった。
- Re: Re:創世の方舟 ( No.18 )
- 日時: 2025/04/23 22:17
- 名前: 西宮まゆ ◆DvvdZCE7CQ (ID: 2EqZqt1K)
3人を連れてスマブラスタジアムへ戻った一同は、一旦闇闘技場で得た情報をマリオ達に共有することにした。
綺麗に整備された闘技場を見て、アルシオーネとショウは驚いたように顔を見合わせている。ホープは何度かここに来たことがあるのだろうか、静かにうんうんと頷いていた。
「ふわぁ……ここがスマブラスタジアムなのかぁ。僕、こういった綺麗に整備されたスタジアムなんて見たことが無かったよ」
「俺もだ。管理がしっかり行き届いてるってのはこういうのを言うんだな」
「そうだよ!そもそもここは闘技場じゃなくてスマブラスタジアム!スポーツの祭典に使う場所なんだから綺麗にしているのは当り前さ!」
「――ラルゴへの連絡も終わったよ。気を付けながらそっちの事件の対応に当たってほしいって」
マリオが自信満々に胸を叩きながらスマブラスタジアムについて力説をしていた。
ふんふんと興味深そうに話を聞くアルシオーネを何とか宥め、話を本題に戻す。
まずは、『暁の星々』が闇闘技場に現れたことを纏めなければならない。メグリカの言葉でそれを思い出したマリオは、ごめんごめんと謝りながら話の続きを始めたのだった。
「そっちに『暁の星々』のメンバーが来たんだって?」
「あぁ。闇闘技場についての話が来ていて、明日物理的に施設を破壊するそうだ。――責任者である貴族や連れられた奴隷込みで、な」
「なんだって!貴族達は確かに罰を受けなきゃならないけど、それは命を断つことじゃないよ!ちゃんと然るべきところで裁いてもらわなきゃ!」
「貴族の暗殺だけであれば私に任せてくれればいいが、今回は奴隷の救出も視野に入れねばならんからな。目立つ動きやよした方がいいだろう」
「だから、暗殺は駄目なんだってばヴィルさん!」
暁の星々の口ぶりから、恐らく当日は貴族も無理やり連れて来られるのだろう。
闘技場を潰さねばならないのは事実だが、それは物理的にではない。今回に限っては悪さをする貴族、巻き込まれた奴隷双方を助けなければならなかった。
奴隷の解放には積極的だが、住む地域の貴族の腐敗を知っているアルシオーネは眉を潜める。やはり、『貴族も助けなければならない』というところが引っかかっていたようだった。
「闘技場が終わってくれるのは良いことだけど、どうしたら奴隷のみんな……と、貴族を助けられるんだろう?」
「処刑の仕方にもよりますわよね。当日は当然監視もつくでしょうし……」
どうにかして処刑が始まる前に奴隷を救わなければならない。
しかし、先程聞いた言葉を解読するに客を入れて大々的に処刑をするとは考えにくい。施設も一緒に破壊すると言っていた以上、裏でひっそりと行われるであろうことは想像に難くなかった。
とにもかくにも、すぐに動かなければ相手に先手を打たれてしまう。奴隷達を救うため、一同は必死に考えを巡らせる。
「とりあえず、もう一度明日闇闘技場に行ってみよう。ホープ先生が一緒なら中に入れるはずだし。先生のお父様、『暁の星々』とも繋がりがあるはずだから」
「監視がついてても何とか説得して中に入れてもらうようにしてみるよ」
「話し合いで解決できるならそれに越したことはないけど、無理だったら?」
「武力に頼るほかあるまい。気絶させる方法などいくらでもある」
「物騒な発言を混ぜ込まないでくれます?」
どうやら、ホープの父は『暁の星々』ともつながりがあるらしい。だから、あの時4人を助けることが出来たのだと納得したのだった。
しかし、ホープはともかくアルシオーネは『世話になっている状態』だと言っていた。父親が貧困街にいたアルシオーネも拾って育てている可能性が高いが、メグリカはふとそのことが気になった。
思わず聞いてみると、ホープは噛みしめるように答えた。
「そういえば、ホープはどうして上流貴族なのにアルシオーネと一緒に行動してるの?」
「おかしいことかな?」
「いや、おかしくはないけれど。気になっちゃって」
「――アルシオーネは、想像もしたくないほど劣悪な貧困街で生まれて、育ったんだ。それで……他の人に人身売買されそうになったところを僕のパパが助けて、それから一緒に行動してるんだ。
貧困街のことも、貴族のことも。両方知ってるからこそ――『世界を変えたい』って思ってるのかもしれない。そんな大事な友達だから、一緒にいるんだ」
答えを聞いたメグリカは、そうかとだけ言ってホープの方を見直した。
こんな小さな子供でも、世界の為に動いている。ならば、自分達に出来ることはしてやろうとメグリカは改めて思い直したのだった。
「そっか。じゃあ、闇闘技場の悪事晴らして、貴族も然るべきところで裁いてもらって。まずはそこの平和を取り戻さないとね」
「――うん!」
メグリカのその言葉に、勇気づけられたようにホープは頷いたのだった。
一方。MZDに詰め寄るミミとニャミにも話に進展があったようだった。
むすっとした表情をする2人の少女と、危険な真似事はさせられないと連れていきたくないMZD。その攻防は平行線を辿っていたが、ヴィルヘルムの助言によりMZDが折れる結果となったのである。
「MZD!明日はわたし達連れていってよね!どんな危険があったって自分の身は自分で守れるんだから!」
「何が起こるか分からないし、明日はもっと危険になるだろうし。なおさらお前さん達をつれてはいけないね」
「んもー!だったら何のためにあたし達はここまで来たのよー!ウーノさんとアンちゃんと楽しくおしゃべりしに来たんじゃないんだからね!」
「……ミミとニャミの安全は最大限私が守ると約束しよう。無論、お前も彼女達を連れていくならそのつもりなのだろうMZD」
「それはそうだけど。オレだって万能の神じゃないからねー。無理なモンは無理だし、危険に飛び込むのであれば引き留めるのは当然でしょ」
「その心配性も最もだが、周りを頼るということをしてみてはどうだ。彼女達も様々なパーティを得て、冒険も沢山してきたのだろう?ならば、その勇気に免じて信じるということも必要なのではないだろうか」
「ヴィルさん、それブーメラン発言!」
「でもヴィルさんに賛成ー!あたし達、色んなことしてきて耐性はバッチリついてるんだから!」
ヴィルヘルムの言葉にそうだ、つれていけとミミとニャミが乗っかる形で口撃を続ける。
そのあまりの勢いにMZDもついにため息をついて、危険な状態になったらすぐに逃げると約束をさせてOKをするのだった。
「やったー!持つべきものは神の友達ってね!」
「だけど!お前さん達戦えないこと忘れないでおいてくれよ?守れる範囲はオレ達で守るけど、それも完璧じゃない。本当に危険になったらすぐ逃げること!分かった?」
「はーい!!」
これから危険な場所へ向かうというのに、なんという間の抜けた返事なのだろう。
MZDは改めてため息をついて、元気よく返事をする彼女達を真顔で見たのだった。