二次創作小説(新・総合)

Re: Re:創世の方舟 ( No.3 )
日時: 2025/04/01 22:35
名前: 西宮まゆ ◆DvvdZCE7CQ (ID: 2EqZqt1K)

 ――少年は、夢を見た。




 大昔、1つの光を求めて戦争が起きました。


 戦争は激化し、地上、天界、魔界全体を巻き込む大規模なものとなりました。


 被害も甚大なものとなり、膨大ないのちが犠牲になりました。


 戦を憂いた光は、唐突に大爆発を起こした。その光は、人を、天を、魔を全て吞み込んでいったのです。


 全てを無に帰した光は人の姿となり、何も無くなった大地に一輪の花を咲かせました。


 人が花に息を吹きかけると、花弁は一瞬で世界全体を覆い、緑溢れる美しい世界に変えました。


 その世界は『創世の世界』と呼ばれ、人々の安寧の地として現代まで語り継がれるようになりました。




 ――少年は、夢を見た。




 人々が、また戦を起こし血を流す夢。


 人々が、再び光に覆われる夢。


 世界が1つに混ざり、異世界が邂逅する夢。


 その世界が――。




































『起きなさい。起きなさい。ぼうや』


『何をしているの。早く起きなさい。朝ごはんが冷めてしまうわよ』










「……最近、やけに夢に見るんだよなぁ」



 ――少年は、夢を見た。
 伝承に残る『創世の世界』。彼が、探し求める世界。
 まるで、彼を呼んでいるかのように繊細に夢を見せる。
 この夢は何を意味しているのだろうか。考えても、仕方がない。



 起きなくては。



「まぁ、それはそれとして。今日も1日頑張りますか。早く行かないと他の人に心配かけちゃうもんね」



 少年――"メグリカ"は、そう呟いて準備を整え始めた。
 さぁ、また1日が始まるよ。こんにちは、世界。今日も頑張ろう。

Ep.00【ものがたりのはじまり】 ( No.4 )
日時: 2025/04/02 21:01
名前: 西宮まゆ ◆DvvdZCE7CQ (ID: 2EqZqt1K)

「おっはよ~メグリカちゃん!今日も元気そうな顔を見れて嬉しいわ♪」



 メグリカが仕事場である通信ルームに顔を出すと、黒髪の女性らしい男性が出迎えた。
 彼の名前は"ラルゴ"。このコネクトシティに点在する、世界調査機関の所長を務めている。



「おはようございます、メグリカさん」
「おはようメグリカ。今日も頑張りましょ」



 そして、彼の近くには赤い髪の少女、黒と青の髪の女性が立ってメグリカを待っていた。
 3人共、メグリカが所属している世界調査機関の仲間。いわば「同胞」と言って差し支えないだろう。
 そう思い、彼は近くにある椅子へと腰掛けた。




 ――『彼』の名は"メグリカ"。
 白と紫の長い髪の毛をなびかせる彼は、幼い頃に夢に見た、『創世の世界』に辿り着くことを夢見る青年である。


 世界が謎の光に覆われた次の日、見たこともない世界が突然現れる――。
 この世界は、そんな超常現象が当たり前のように発生している。
 そんな『混ざった世界』の調査を一端に担っているのが、彼の所属している『世界調査機構』である。


 世界調査機構は、『情報の街』として発足した新しい街『コネクトシティ』の真ん中に点在している。
 町長と機関の所長であるラルゴが連携を取りながら、日々世界について不明な点を洗い出し、解析を進めているのだ。
 最近、『異世界がこの世界に混ざる』現象が増えており、彼らは調査と人助けに追われていた。



「所長。今日は何か混ざったとかの連絡は来てないかしら?」
「うーん。今日はまだ特に何も来てないわよ。最近は報告が多くて大変だったじゃない?もしかしたらまたすぐに報告が来るかもしれないけれど、今のところは自由にしてていいわよ」
「はーい」



 女子同士の他愛もない会話が繰り広げられる。
 彼がこの調査機関に入った理由は、単純に世界のことを知れるからということともう1つ。『創世の世界』についての情報を見つけるためだった。



「(僕は――『創世の世界』を見つけたいという目標がある)」



 『創世の世界』。彼が辿り着くことを目標としている世界だ。
 大昔――創世の時代に産まれたと言われる、いわば『果ての楽園』。その世界に辿り着いた者には、巨万の富と永遠の幸福が訪れるであろうと噂されている世界だ。
 大昔にその世界に何が起こったかは、御伽噺や小説の中で語られているため、一般の人間でも知ることが出来る。しかし、彼が知りたい、見たいと考えているのはその『先』だった。



「最近世界が混ざる頻度が増えていますし……。いつ如何なる連絡が来てもおかしくないですよね。我々がしっかりしなければ」



 そう呟く、赤い髪の少女。名を"サクヤ"と言った。
 師であるカグヤに教えを請い、剣の道に生きる少女だ。とある目的でこの調査機関に入ったとされているが、それを知るものは所長など、少数に限られている。



「刀剣達の情報も特には来ていないわ。みんな無事だといいのだけれど」



 そう、サクヤの言葉に返す女性。名を"カグヤ"と言った。
 先に紹介したサクヤの師匠であり、現代の『青龍』を引き継いでいる、いわば神様である。
 彼女が調査機関に出入りしている理由は、世界中に散らばった『刀剣』という武具を回収するためである。



「そういえば師匠。近々師匠のお仲間がこちらに戻ってくるんですよね?」
「えぇ。朱雀と白虎との連絡がやっと取れてね。昨今の世界が混ざる現象がやっぱり気になるみたいで、しばらくはこっちを拠点にして活動してくれるらしいわ」



 この世界には、四方を守る『四神』という神が存在している。
 カグヤもその『四神』の名を受け継いでおり、カグヤが受け継いだ東を守る『青龍』の他に、南を守る『朱雀』、西を守る『白虎』、北を守る『玄武』の三柱がいる。
 そして、その中の『朱雀』と『白虎』が、近々調査機関に戻ってくるらしい。
 四神は世界を守る神だ。その世界が日々変化を続けているのであれば、その原因も探らねばなるまい。皆思いは一緒のようで、暫くは調査機関を拠点にして動くという話をカグヤは受けていた。




 そのまま他愛のない話を続けていると、ふと間延びした高い女性の声が部屋に響いてきた。



「あ、みなさ~ん!おはようございま~す!」
「あら、ハスノちゃん!今日も元気そうね♪」



 彼女の名前は"ハスノ"。
 調査機関が点在している『コネクトシティ』で、カフェを経営している女性だ。
 彼女も実は人間ではなく、その正体は『夢』を司る邪神である。



「最近世界が混ざり続けているって話を聞いて、わたしにも何かできないかと差し入れを持ってきたんです~。
 わたしに出来ることと言えば、みなさんが悪夢を見ないようにお守りするだとか、みなさんのお腹を膨れさせるくらいですから~」
「いやいや。悪夢を見ないように守ってくれてるだけでかなり助かってるわよ。そんなことが出来るのは貴方くらいのものじゃない」
「えへへぇ~。悪夢は世界を歪ませる元ともいいますからね~。夢を司る邪神として当然のことをしているまでです~」



 神同士、とんでもない規模の話をしている気がするとメグリカは話を聞きながら思っていた。
 しかし、メグリカも実は神と人間のハーフである。人のことを言える状況ではない。




 今日もまた、そんなのんびりとした1日が始まるのかと思った矢先だった。
 聞き覚えのある男性の声が、部屋の中に響いてくる。
 何かあった。そう思ったラルゴは、すぐにその男性との通信を繋げるのだった。

Ep.00【ものがたりのはじまり】 ( No.5 )
日時: 2025/04/03 22:02
名前: 西宮まゆ ◆DvvdZCE7CQ (ID: 2EqZqt1K)

「久しぶりだなMr.ラルゴ。……おや、初対面の人々もいるようだが」
「あら~アシッド社長!随分久しぶりじゃないの!」



 モニターに映ったのは金髪に緑色の目をした、人間離れした美しさを持つ灰色のスーツの男性だった。
 彼はラルゴと知り合いらしく、軽口を叩き合いながら通話での再会を喜んでいる。
 ――彼が言った『初対面』のうちの1人、サクヤは会話の流れを切らないよう、恐る恐る口を挟んだ。



「あの。アシッド……って、もしかしてかの大企業『ネクスト・コーポレーション』の社長さんですか?」
「えぇ、そうよ♪ この世界調査機構を立ち上げる時に協力もしてくれた、うちの強力な後ろ盾なの」



 そう会話が切り替わると同時に、アシッドは自らの名を告げる。



「すまない。話し込んでしまったね。私の名前はアシッド。
 君も知っての通り、『ネクスト・コーポレーション』の代表取締役を務めている。これから、どうかよろしく頼むよ」



 そう言って、彼は深々と彼らに向かってお辞儀をした。
 それに倣うように慌ててお辞儀をするサクヤの横で、退屈そうにメグリカが口を挟んできた。



「それで?その大企業の社長がウチに何の用なのかな?」



 その言葉は、楽しげだった雰囲気を元に戻すのには丁度いいスパイスだった。
 アシッドはメグリカの方を見て、「もう少し雑談をしてもいいのではないかね」と冗談交じりに口を紡ぐ。しかし、彼はアシッドがその場にいること自体があまり好ましくない状況のようで、早めに本題を進めてほしいと目が訴えていた。



「わかった、わかった。本題に移るからそんな顔をしないでくれたまえメグリカ」
「このまま僕が止めなかったら、夕方まで雑談で埋まりそうだけどね?」
「あら、そんなことないわメグリカちゃん。お仕事の邪魔になることはしないのがアタシのポリシーなのよ♪」



 こほん、とアシッドが一度咳ばらいをし場を整えた後、彼は本題を口にした。



「君達に依頼がある。また世界が混ざったとの報告を受けた。救助人がいないか至急現場に向かってほしい」
「また……!」
「あぁ、まただ。最近やけに増えているが、今回は大きな世界が混ざったとの報告を受けてね。世界への影響が出ていないかどうか、早急に調べる必要がある」



 アシッドが口にしたのは、『また』世界が混ざったとの報告だった。
 世界調査機構としてはすぐに動かねばならない事態だが、アシッドは今回の世界を『大きな世界』だと言っている。そこが引っかかっているのか、彼に質問をする人物も現れ始めた。



「――3日前に別の世界が混ざったばかりよ?その時は廃坑ばかりの場所で、人なんか見つからなかったけど……」
「世界が混ざるペースが速くなってるよね。それに、『大きな世界』ってアシッドは言ってたけど……。もしかして、アシッドが知ってる世界だったりするの?」
「あぁ。今回混ざった世界は、私の知り合いがいる世界だ。――至急、頼みたいのだよ」
「そうなの……」



 アシッドが言うには、彼が知っている世界が混ぜられたという。
 普段ならばこちらに連絡を寄越さず自分で調べるような人物が、調査機関に連絡を寄越してまで調査、救助人保護の依頼をした。
 彼はそれほど切羽詰まっている。情をかけていた世界なのだと誰もが理解した。



「それで?生命反応はあるのかしら」
「少々だが反応を察知した。……もしかしたら私の知っている人物かもしれん。私は別の仕事があるため動けない。
 ――すまない、頼む。もし要救助者がいれば助けてほしい」



 アシッドは改めて頭を下げ、緊急で依頼を入れたことを詫びた。
 ラルゴはその反応を見つつ、アシッドが本気なのだということを察知する。そして、気合いを入れるかのように『安心してちょうだい』と答え、笑顔で答えた。



「分かったわ。新たな土地が出来たということはアタシ達の出番ということでもあるし。大船に乗ったつもりで任せなさい!」
「――そうか。受けてくれるか。……感謝する。私も仕事が落ち着き次第そちらに顔を出そう。――彼ら、無事であるといいがな……」



 ラルゴが承ったと返事をすると、アシッドは安心したように眉を下げる。彼にとって、よっぽど切羽詰まっていたことだったらしい。なるだけ早く肩を付けて、様子を見に来てくれることも約束してくれた。
 そのまま、まだ仕事があるのでと彼は通信を切った。




 しん、と静まり返った通信ルームに掌を叩く音が響く。ラルゴのものだった。
 彼は「さて」と一呼吸置いた後、3人に向かって口を開く。



「さて!ということで。メグリカちゃん、サクヤちゃん。今回は2人が中心となってアシッド社長の依頼に答えてほしいわ。カグヤちゃんは2人のサポートをお願いね」
「承知しました」
「はーい」



 今回は若い者に任せようということで、メグリカとサクヤが中心となって調査、そして救助活動に当たることになった。
 3人はそれぞれの役割を今一度確認した後、互いに頷き合う。そして、すぐ出発できるよう準備を整えに戻ったのだった。




 しばらく時間が経った後、3人は再び集まる。
 武装をする者、いつも通りの者……。出発の準備は整ったようだった。



「さーて。今回はどんな世界が混ざっているのかな」
「前回のように、滅びてしまった世界でなければいいのですが」
「いや、『生きている世界』でも、その世界に住んでいる人がどうなっているかは分からないわ。とにかく行ってみましょう」



 カグヤの冷静な返しに、『そうだね』と改めて返事をするメグリカだった。
 そのまま、彼らはラルゴが指示した場所へと出発するのだった。

Ep.00【ものがたりのはじまり】 ( No.6 )
日時: 2025/04/04 22:16
名前: 西宮まゆ ◆DvvdZCE7CQ (ID: 2EqZqt1K)

 アシッドから連絡を受けた場所に足を踏み入れると、3人は唖然とする。
 生命反応があるから、と街のようなものを期待していたが、彼らの目に入ってきたものは廃墟が続いた土地だった。
 また滅びた世界が混ざってしまったのか、と一同の胸に一抹の不安がよぎる。



「おー、ここもなかなかの廃墟」
「また滅びた世界が混ざってしまったんですかね……」
「そうとも限らないわよ。以前救出した人だって、混ざった元の世界とは随分離れたところに飛ばされてしまったんですもの」



 そんな会話を続けながら、3人は誰か倒れていないか歩き続けた。
 メグリカは自らの魔力を放出し、近くに生命反応が無いかを調べる。微弱だが、反応はある。彼はそう感じていた。
 つまり、近くに誰か生きている生命体がいるということになる。



「あっ。2人共!誰か倒れています!」



 ふと、サクヤが声を上げた。
 声の方向を向いてみると、そこには4人の人影が見えた。
 1人はウサギの耳を生やしており、もう1人は猫の耳を生やしている。それを庇うように、帽子を被った茶髪の少年と、マゼンタの髪が目立つ男性が倒れていた。



「うん。生命反応は彼女達で間違いなさそうだよ」
「まさかこんな寂れたところに4人も倒れているだなんて……。ですが、服は小綺麗ですね」
「予想通り、倒れている場所とは関係のない人達かもしれないわね」



 恐らく、アシッドの言っていた『要救助者』は彼らで間違いなさそうだ。
 3人はそう結論付け、救助へ入ろうとする。その時だった。
 倒れている少年の下からにゅっと、こちらに向かってくる気配があった。



「なんだろう?」



 気配の元を辿ってみると、それは影のような姿をしていた。
 手のひらサイズの影は、不安そうにメグリカをじっと見つめている。
 そして、少年の方を指さしてこちらに助けを求めてきた。



「のいのい!」



 この影は倒れている人物の関係者なのだろうか。メグリカは頭の中で考えを巡らせつつ、影の動向を負う。
 影は変わらずも、不安そうに少年の方を見ながら必死に指さしている。



「この影は何なんでしょうか?助けを求めているようですが、彼らの関係者なのでしょうかね」
「そうだと思うよ。ってことは、アシッドの言っていた『要救助者』って彼らで間違いなさそうだよね」
「そうね。人が多いから、龍に戻った方が早いかもしれないわね。2人共、手伝ってくれる?」
「はい!」



 そう言うと、カグヤは意識を集中させ、巨大な青龍の姿へと形を変える。
 この美しい東洋竜の姿が、カグヤの本当の姿。『青龍』を引き継いだ証である。彼女はメグリカ達に念で意識を飛ばしながら、4人を背に乗せるよう頼んだ。



「よいしょっと。これで僕達も乗ればすぐに戻れるね。さすが、青龍の身体って意外なところで役に立つよね~」
「師匠を者扱いしないでください!そういえば……この子は、どうしますか?」



 ふと、掌でふよふよと浮かんでいる小さな影のことを思い出す。
 メグリカは少し考えた後、自分のパーカーの帽子のスペースを開けて言った。



「この子はしばらく僕の帽子に入っててもらおう。入れる?」
「のいのい♪」



 影に向かってパーカーの帽子を指さすと、影はくるっと一回転した後メグリカのパーカーへと姿を消した。
 そして、にゅっと顔だけを出し、満足そうに「のいのい♪」と鳴いた。



「なんだかかわいいですね」
「でも、画面の向こうの世界の設定の通りなら、この影物凄い力を持ってるんだよね。とにかく、これで準備は整ったし早速戻ろう」
「師匠。調査機関まで出発進行です!」



 サクヤの言葉を合図に、青龍は雄たけびを上げて空を舞った。
 そうして、素早く調査機関のある方向まで飛んでいったのだった。

Ep.00【ものがたりのはじまり】 ( No.7 )
日時: 2025/04/07 22:16
名前: 西宮まゆ ◆DvvdZCE7CQ (ID: 2EqZqt1K)

 本部に戻った3人は、出迎えてくれたラルゴに早速医務室を開けるよう頼んだ。
 近くには先程、通信にて話していたアシッドも立っている。あの後、本当に残っている仕事を片付けて様子を見に来たらしい。
 ラルゴはその人数の多さに驚愕しながらも、すぐに医務室を開けるよう彼らに鍵を渡した。



「おかえりなさい。あら、4人も倒れていたの?!」
「そうなんだ。結構大人数だったから連れてくるの大変だったよ」
「大変だったのはメグリカさんではなく、師匠なのでは……。とにかく。鍵はいただいたのですし、早く医務室へ運ばなければ」
「外傷がないかチェックする必要もあるわ。早く行きましょう」



 そう話しつつ、彼らは医務室へと急ぎ足で4人を運んで行った。
 そんな彼らをラルゴは心配そうに見やる。アシッドは懐かしいものを見る目で彼らを見守っていた。



「それで社長、彼らは結局知り合いだったの?」
「そうだな。――正真正銘『私の知っている』彼らだよ。世界崩壊後、どうなっていたか心配していたが……とりあえず、生きていてはくれたようで良かったよ」
「そう。不思議な縁もあるものね……」



 アシッドが『知っている彼ら』。まさかこんな形で再開するとは思うまい。
 ラルゴはそう思いながら、医務室への道を優しい眼差しで見つめたのだった。




 一方。医務室へ到着した3人は、素早く救出した4人をベッドに寝かせた。
 医務室はかなり広い造りとなっており、8人程であれば平気で寝かせることが出来るほどのスペースを誇っている。
 その後、カグヤは彼らに外傷がないかどうかチェックを始めた。



「女の子の方は大丈夫そうだけど、残りの2人に傷があるわね。倒れていた位置からしても、何かから彼女達を庇って傷がついた可能性が高そうね」
「師匠、どうするんですか?」
「でも、この程度の傷なら大典太の霊力で何とか治癒できそうね。サクヤ、大典太に魔力を込めて貰えるかしら?」
「はい、わかりました」



 傷の経過具合を見て、この程度であれば大典太の霊力で何とかなりそうだと判断したカグヤは、早速サクヤに大典太に魔力を込めるように指示をした。
 彼女に言われるまま、サクヤは刀をその手に召喚し、目の前にかざす。そして、刀に向かって精神を込め始めた。


 大典太が4人の身体を優しい光で包む。すると、彼女達についていた傷が少しずつ塞がっていった。



「いやー、凄いね。顕現出来なくてもこの霊力とは。流石『天下五剣』ってところかな?」
「それだけじゃないわ。この天下五剣は特別に打たれたものだもの。この大典太なら、ある程度の傷は一瞬で癒せるでしょうね」



 メグリカとカグヤが話しているうちに、4人を覆っていた光は徐々に薄まり、消えていった。
 どうやら傷の治癒が終わったらしい。サクヤは刀を再び一瞬で部屋に戻し、2人の元へと戻ってくる。



「師匠。これで大丈夫のはずです」
「ありがとう。後は目覚めるのを待つだけね」



 サクヤははい、と返事をしつつ、眠っている4人の顔を見やる。
 彼女にとっては、この4人は『実際に会うことの叶わない』人物だと認識していた。なぜなら、彼らを見たことがあるのは『画面の中』だけなのだから。



「まさか本当に、実際に見ることになるとは思いませんでした。彼らのことは――画面の中でしか見たことがありませんでしたから」
「僕も僕も。『現』と『夢』が混ざってきているって噂は本当だったんだね」



 『現』と『夢』。現実の世界で例えるなら、『三次元』と『二次元』で説明した方が早いだろうか。
 現実の世界を生きる『現の世界』。アニメや漫画など、創作物などが生きる『夢の世界』。この世界は、その2つの世界を隔てることなく混ぜ続けていた。
 それ故、このような現実と二次元の邂逅も実際に発生してしまっているのだ。



「私もこうして実際に会うのは初めてだけれど……。私の前の代の青龍が、彼らのような『夢』の存在と関わりを共にしたというのは聞いたことがあるわね」
「過去にそんなことが……。師匠、もしかしてアシッド社長が気にしていらしたのも、先代の青龍様絡みなのでしょうか?」
「恐らくは、ね」



 そんな話をしていた矢先だった。



「……ぅ……う……」
「あ。男の子の方が目を覚ましそうだね」



 眠っていた4人のうちの1人――。もみあげが特徴的な茶髪の少年が、静かに目を開いた。
 見たこともない天井。聞いたこともない声。彼の脳内に『焦り』という感情が支配する。思わず周りをきょろきょろと見回すと、すやすやと眠りについている知り合いの姿が見えた。



「っミミ、ニャミ!ヴィルも……ここ、は……」



 そうか。寝ているだけか。
 すー、すーと眠っている吐息が耳に入り、焦りから安堵へと表情を変えた少年。
 庇っていた傷の数からしても、彼らはこの少年にとってとても大事な存在だったのだろう。反応から見ても、一同全員が理解するのに時間はかからなかった。



「どうやらお目覚めのようね」
「お前さんは……。――いんや、違う人か」
「そうね。貴方の想像している人は――きっと違う人よ」



 改めて安否確認をするために、カグヤは少年に声をかけた。
 少年はカグヤに何か懐かしい気を感じたのだろう。一瞬だけ眼が大きくなるも、すぐに別人だと理解し表情を緩めた。――その眼に、少しの寂しさを残して。



「それで、聞きたいんだけど――。オレ達は一体どうしてここにいるのか教えてもらってもいい?」
「それは、ですね……」
「そうか、目覚めたか。久しぶりだなヒスイ」
「その声は!……アシッド」


 少年が自分の状態を確認するため、3人に問いかけたその時だった。
 少年には『懐かしい』の1つである、聞き覚えのある声と共に靴音が近付いてきていた。
 現れたその人物――アシッドの名を呼ぶと、彼は会えて嬉しいとでもいうように表情を綻ばせた。



「混乱するのも無理はない。この世界は君達の知っている『混ざった世界』とはまた別の世界なのだからね。ヒスイ」
「そういう呼び方をするのも変わっちゃいないな、アシッド」
「ふふ。その減らず口も相変わらずだな。だが――無事にまた、巡り合えて私は嬉しいよ」
「――っ……! ここは、どこだ……?」
「! 良かった、無事で……」



 アシッドと少年が話し込んでいる矢先、マゼンタの髪の男性も目を覚ます。
 そして、先程少年がやったようにきょろきょろと周りを見やった後、少年少女を見つけてはほっとしたように胸を撫でおろしたのだった。

Re: Re:創世の方舟 ( No.8 )
日時: 2025/04/09 22:07
名前: 西宮まゆ ◆DvvdZCE7CQ (ID: 2EqZqt1K)

「あぁ、そうか。私達は彼らに助けられたということなのか……」
「そういうことらしい。とりあえずは無事で本当良かったよ」
「不甲斐ないところを見せてしまったな、すまない。礼を言わせてくれ」



 そう言い、深々と頭を下げるマゼンタの男。それに倣うように少年も頭を下げた。
 そんな大したことをしたわけではないのだから、と頭を上げるようにサクヤは言った。すると、2人共申し訳なさそうに顔を上げたのだった。



「あ。自己紹介がまだだったよね?オレはMZD。ポップン界の神!神の世界では『音神』とも言われてるぜ。ポップンワールドの管理集団『pop'n Masters』の総長もやってまーす。よろしく頼むよ」
「私はヴィルヘルムだ。……今はただの幽玄紳士とでも言っておこう。一応、『pop'n Masters』にも席は置いている。どうぞよろしく頼む」
「これはご丁寧にどうも」



 茶髪の少年――"MZD"と、マゼンタの髪の男性"ヴィルヘルム"が自己紹介を終えた後、彼は未だに寝ているウサギと猫の少女を指さしてこういった。



「で、そっちですやすや寝てるウサギとネコが『ミミとニャミ』ね。今はまだ寝てるけど、そのうち起きると思うから。どうか仲良くしてやって」



 調査機関の一同も一通り自己紹介を終えたところで、MZDはふぅと息を整える。
 今まで起きたことを今一度噛みしめているのだろうか。再びかけ直したサングラスの奥の瞳は見えないが、何かを頭の中で整理しているような表情をしていた。
 ――しばらくした後、整理が終わったのか彼は再びため息を放つ。



「『また』世界が混ざることになるとはね……。流石の神でもびっくりだよ」
「気になっていたのだ。コネクトワールドが崩壊した際、君達の世界は元に戻ったと聞いたのだが」
「そ。オレ達の世界含めて、混ぜられた世界は唐突に元に戻ったよ。なんでかは知らないけどさ。その後しばらくは平和に元の世界で過ごしていたんだけど……。
 また、起きたんでしょ?『この世界』での何かが。そうでなきゃアシッドとこうして話出来ないもん」
「あぁ。そうだな。『また』起きたのだよ。世界が混ざる現象が」



 そう言って、アシッドは世界が混ざる現象――『創世の光』と呼ばれている現象について彼らに説明をした。
 『創世の光』とは、この世界で度々発生する謎の現象のことである。いつ発生するかも、どこで発生するかも改名されていない。唐突に光が世界を覆ったと思えば、次の日の朝に見知らぬ世界がこの世界に姿を現している……。そんな不可思議な現象が度々起きているのだ。
 ミミ達を助ける前、メグリカ達が『世界が混ざっている』といっていたのはこの現象のことである。



「そういえば、我々が気を失って倒れる前もそんな強い光に覆われたな。もしかしなくとも、それが原因なのだろうか?」
「恐らくは。世界が混ざる現象は、過去から度々起きてはいたのですが……。最近、頻度が増えているんです。しかも、今回はポップンワールドのような大きな世界まで巻き込んでしまって……」
「困ったもんよね。昨日まで平和に元の世界で暮らしていたと思ったら、光に覆われて変な世界に飛ばされてしまうんですもの」
「そういえば――先程『また』と仰っていたと思うのですが、MZDさんはこの現象に立ち会ったことがあるのですか?」
「あー。名前にさん付けしなくていいよ。むず痒いし」
「では――『えむぜさん』?」
「それでいいよもう。お前さん、名前だけじゃなくて呼び方もあいつと一緒なんだね」
「話を戻そう。そうだな。私達はこの現象に過去に一度立ち会ったことがある。それは事実だ」



 話のレールがずれ込んだところをヴィルヘルムが元に戻し、過去に自分達が経験したことを話した。
 一同は過去にも一度、世界が混ざる現象に巻き込まれたことがあった。しかし、その時は『世界の一部』はほとんど無傷の状態で飛ばされたため、大して問題にもしていなかったのだという。
 しかし、今回は話が違うとMZDは続ける。



「前に混ざった時はポップンワールドの一部は無事だったんだけどさー。今回はそうじゃなさそうで。みんなもどこいったか分かんないし」
「せめて我々の他に誰か無事であることを確認できればいいのだがな」
「そうか。今回は世界ごと混ざってしまった可能性があるのか……」



 どうやら、今回は場所の検討すらつかない。世界が完全に混ざってしまった可能性を示唆し、MZDは自分を落ち着かせるために胸に手を置いた。
 アシッドも残念そうに目を伏せる。しかし、そこで横やりを入れる人物がいた。
 メグリカだった。



「でも、可能性の話なんでしょ?混ざった世界がどこか無事にあるかもしれないし、まだ希望は捨てちゃ駄目だよ」
「まぁ、そうだよねー。まずはオレ達が五体満足で無事ってことを喜ばなくちゃだもんね」
「そうね。案外貴方達が探している人物も、この世界のどこかでよろしくやっているかもしれないわよ?」
「そう、であればいいのだがな……」
「ま。話すことは山ほどあるし。続きはミミニャミ起きてからにするよ。今はちょっと頭の整理に時間がかかりそうだから。ちょっとだけ休ませて」



 顔は落ち着いているが、まだ頭の整理が出来ていないらしい。
 少しだけ休ませてほしいと頼むMZDに、サクヤは気のすむまで休んでいけばいいと優しく答えた。



「今は混乱していることばかりだろうからさ。落ち着いたらこっち来てよ。また話進めよう」
「それじゃ、ここであったこと所長に報告しましょ。それじゃ私達は一旦ここ出るわね。どうぞごゆっくり」
「気遣い、痛み入る。私も少ししたらそちらに向かおう」



 少し休むと宣言したMZDと、それを見守る選択肢を取ったヴィルヘルム。
 彼らを見送りながら、一同はラルゴへ一部始終を報告するために通信サーバへと戻っていったのだった。

Ep.00【ものがたりのはじまり】 ( No.9 )
日時: 2025/04/10 22:07
名前: 西宮まゆ ◆DvvdZCE7CQ (ID: 2EqZqt1K)

 通信サーバに戻ってきた一同は、早速ラルゴにことの一部始終を説明した。
 ラルゴも彼らの説明を聞いて理解したのか、うんうんと頷いた後少し休ませましょうという判断を下した。
 そのまま他愛ない話を続けていると、ふとサクヤが口を開く。なんてことのない思いだった。



「まさか、過去にもそんなことがあっただなんて」
「あったのだよ。こうして被害に遭った人物とまた相まみえることになるとは思わなかったがね」
「少しでも、混ぜられた『元』の部分が見つかってくれるといいのだけれど」



 サクヤは今でも二次元の存在が目の前に現れたことへの心の整理がついていないらしく、目をぱちくりさせながら彼らと話を続けていた。
 画面の中の存在、しかも神様ときた。サクヤの心の中は驚きでいっぱいだった。



「それにしても、本当に神様にお会いすることになるとは。まだびっくりしています」
「そうか?神は意外と近くで見守っているものだぞ」
「そうそう。僕だって神と人間のハーフだし、アシッドだって神だし」



 メグリカの言葉に、更にサクヤは目をぱちくりと瞬かせる。
 彼のことは謎の少年だと思っていたが、まさかここで自分の素性を少し明かしてくるとは。さらに、その後にさらっと『アシッドも神だ』と言ってのけるのだから、彼女は驚きが隠せなかった。



「え?!」
「私だって純粋じゃないけど、神様の一種よ?そんなに驚くことないじゃない」
「そういえばそうでした……。って、アシッド社長も神様だったのですね」
「そうだ。公には明かしていないがね」



 そう言って、自分が『運命を司る神』だと改めてアシッドは話した。
 自ら、そして他人の運命を簡単に捻じ曲げることのできる強い神、『アリアンロッド』。それが、アシッドの本当の名前であり、正体だった。
 周りに神と呼ばれる存在が多い、とサクヤは改めて恐縮してしまう。そんな彼女を見据えてなのか、ラルゴは優しく彼女の背中をさすって『気にしなくてもいいわ』と励ました。




 そうして話し込んでいると、部屋に向かってくる足音が2つ聞こえてきた。
 足音の人物は、部屋に顔を出すなり軽快に『よっす』と挨拶をしてきた。



「お身体の方はもう大丈夫なのですか?」
「ま、神だから~。それに、オレ達が倒れてる間に誰か癒しの力使ったでしょ?そのお陰もあって、意外と早く動く元気取り戻すことが出来たってところだな」



 そういって、MZDはくるくると軽く肩を回した。気持ちの整理も充分ついたようで、2人共元気そうに一同には見えた。
 ミミとニャミはどうしたのか聞いてみると、未だにぐっすりと眠っているらしい。しばらく彼女達は休ませたい、とのことで2人だけで通信サーバにまでやってきたという。



「それで、彼と話し合った結果……。これからどうするかを貴殿らに相談しに来たのだ」
「そうなの。でも、故郷が見つかっていない以上どうしようもないわよねぇ」
「そこなんだよねー。この世界、簡単に神パワーが使えないくらい広いみたいだからさ」
「察知したの?」
「ここに来る前にさらっと、ね。前に混ぜられてた世界よりも随分と広くて最初は驚いたよ。それで、なんだけどさ」



 そう言うと、改めてMZDはラルゴに向かって向き直る。
 そして、世界調査の手伝いも行うから、調査機関で仲間探しをさせてほしいと頭を下げた。
 地図上では丁度、世界の真ん中にコネクトシティは点在している。交通の便や交渉のやりとりなんかも踏まえ、どこか1箇所を拠点にする際に一番動きやすいのがコネクトシティだった、という結論らしい。
 その言葉にはカグヤもうんうんと頷き、持論を述べる。



「確かに、帰る場所が見つかっていないなら必然的に代わりを探すことになるわよね。それで、ここか……」
「一応、過去に別世界で似たようなことをした経験はある。そのノウハウでいいのであれば、我々も調査に協力しよう。――すまないが、しばらく我々をここに匿っていただけないだろうか」



 そう言って、ヴィルヘルムもMZDに続き頭を下げた。
 彼らの様子を見たラルゴはあらあら、と困ったように2人に頭を上げるように言う。彼の答えは既に決まっていた。



「調査を手伝ってくれるっていうのなら、アタシは大歓迎よ!それにウチは万年人手不足なの。経験者であれば猶更受け入れない理由がないわ!」
「本当?!恩に着るよ、サンキュー!」
「場所を提供してくれるのであれば、我々に出来ることはしよう。……感謝する」



 ラルゴの答えを聞いて、MZDとヴィルヘルムは嬉しそうに顔を見合わせる。そして、改めて礼を言ったのだった。



「早く見つかると良いけどね。ポップンワールドとそれに連なるお仲間がさ」
「まぁ……気長にやってくよ。伊達に4桁生きてないし~?」



 そう、談笑を続けていた最中だった。
 バタバタと足音がこちらに近付いて来る。思わず一同がその音に耳を傾けると、現れたのは先程まで眠っていたウサギと猫の少女達だった。
 どうやら自分達を置いて行かれたのが不満だったようで、ぷくっと顔を膨らませている。



「こらっ!そういう大事なことはわたし達抜きで相談しないでよね!」
「なーにが『あいつらはぐっすり寝かせておいてやりたい』よ、バ神!あたし達のフィジカル舐めないでよね!」
「起きて来たのか。想定よりも早い起床だな」
「んもーっ!ヴィルさんまでそういうこと言う!」



 MZDとヴィルヘルムに突っかかったのち、彼女達ははっとなってメグリカ達の方を向き直る。
 そして、『自己紹介がまだだったよね』と改めて彼女達は名乗りを上げた。



「わたしミミ!隣にいるニャミちゃんと一緒にマルチタレントやってまーす!どうぞよろしくね!」
「はーい、あたしはニャミだよ!ミミちゃんと一緒にマルチタレントとして活躍してるんだ!どうかよろしく!」
「元気な子が増えてアタシ、嬉しいわ!こちらこそどうぞよろしくね♪」



 改めて"ミミ"と"ニャミ"に自己紹介を行った一同は、早速彼女達にもしばらくはこの施設を使ってもいいことを話した。
 すると、彼女達も嬉しそうに向き合う。どうやら、前に混ぜられた世界でも彼女達はMZD達と一緒に同じような仕事をしていたらしい。



「ここに匿ってくれるんだよね?だったらあたし達にも色々お手伝いさせてよ!こう見えて色々経験豊富だからさ!」
「役立つこともあるかもしれないもんね、ニャミちゃん!」



 きゃっきゃっとはしゃぐ少女2人に、MZDは『遊びじゃないんだから』と横やりを入れる。
 そんなやりとりを微笑ましく見守りながら、カグヤははっとした顔をして言った。



「そうだわ。近々アクラル達も帰ってくるし、本格的に世界の調査や依頼の解決に乗り出してもいい頃合いじゃないかしら?」
「依頼……ですか?」
「それはナイスアイデアね、カグヤちゃん!実はね?世界の調査を立ち上げたのも、ミミちゃん達みたいに困っている人を助けてあげたいって思いから始めたものなの。
 その延長線上で、色々と困りごとにも応えていこうかなって思っていたのよ。そうね……人数も増えたことだし、他の街と連携してそういう事業を展開していくのも悪くないかも!」
「依頼と調査をこなしていくことで、僕の目的にも少し近付けるかもしれないしね。うんうん、いいと思うよ」



 どうやら、これから調査機関は『世界の調査』だけではなく『困りごとの依頼』にも対応していくということを明かした。ラルゴはもともとこういう事業展開を望んでいたらしく、嬉しそうにこれからのプランをぺらぺらと一同に話している。
 そして、ある程度展望を言い終えた後、改めて気合いを入れるのだった。



「それじゃみんな、これからも頑張っていきましょう!」
「おーっ!」



 ラルゴの明るい声に、ミミとニャミの威勢のいい声が木霊したのだった。

Ep.00【ものがたりのはじまり】 ( No.10 )
日時: 2025/04/11 22:28
名前: 西宮まゆ ◆DvvdZCE7CQ (ID: 2EqZqt1K)

「そういやさ。サクヤの持ってるその刀剣、顕現出来たりはしないの?」
「え?」
「ほら、そのキーホルダーみたいな奴。見たことある気がすんだよねー、オレ」



 ふと、MZDはサクヤが腰にぶら下げている小さな刀剣を見やり、ぽつりと呟いた。
 なお、この世界では刀剣を邪魔にならないように魔力で小さくして身に着けている者が多い。サクヤも、カグヤのそのうちの1人だ。
 MZDはそのまま刀剣に目を向けながら続ける。前に混ぜられた世界では、刀剣が男性の姿に変わって色々と助けてくれたのだと。
 その話を聞いて、カグヤは納得したように頷いた。サクヤもやっと話が理解できたようで、うんうんと頷いている。



「あぁ、刀剣男士のことね。申し訳ないけれど、まだ会えないわよ」
「そうなの?」
「えぇ。うちにはまだ顕現出来るだけの設備が整ってないのよ。刀剣も世界中にバラバラに散ってしまったし」
「この世界でも刀剣はバラバラになってしまっているのか……」



 まだ顕現は出来ない、と申し訳なさそうにカグヤは首を振った。
 カグヤとサクヤが調査機関に在籍しているもう1つの目的。それが、世界中に散ってしまった刀剣を回収し、顕現することだった。
 先代の青龍が昔その刀剣を管理していたことを知っていた2人は、話を深堀してみることにした。それとなく聞いてみると、サクヤがおずおずと口を開く。



「先代の青龍様がその昔、別の世界で刀剣を管理していたのはご存じなのですよね?」
「うん。あなたと同じ名前の『サクヤ』さんが管理していたんだよね!」
「そうです。実は――先代が守っていた『世界』が壊れた際……混ぜられた世界を守るためにその力を全て使い果たし、彼女の力で顕現を果たしていた刀剣は全て本霊に還る予定だったそうなのです」
「! そっか。オレ達の世界が無事だったのも、あいつが頑張ってくれたからだったんだな」



 その昔――『コネクトワールド』という世界があった。その世界もまた、異世界同士が混ざる現象が起きており、それでも異世界の住人同士が手を取り合って毎日を生きていた。
 しかし、その世界にも崩壊が訪れた。先代の青龍であった人物は、全ての世界の崩壊を防ぐため、自らの全ての力を『護る』為に注いだ。結果、異世界の崩壊の一部を食い止めることに成功し、異世界同士は再び隔たりを得ることになった。
 先代の青龍である『サクヤ』が力を使ったお陰で自分達は助かったのだと理解し、気持ちを噛みしめるMZDだった。しかし、刀剣に関しての話はそれで終わりではなかった。



「しかし、刀剣が本霊に還る直前の話でした。時の政府に一時的に預けられていた刀剣が、何者かによって強奪されてしまったのです。
 そして、今度はこの世界が次々と異世界を混ぜ始め……刀剣も、その融合に巻き込まれて世界中に散ってしまいました」
「そうなんだ……」
「私と師匠は、世界調査の傍らその刀剣を全て回収し、顕現することも目的としているのです」
「皆、それぞれに目的や目標があるのだな」



 やっと話に一区切りがつき、ふぅとサクヤは息を整えた。
 前の世界の顛末、そしてこの世界も似たような現象が起きているとやっと理解した一同は、刀剣の回収も出来るだけ手伝ってあげようと思ったのだった。
 しかし、そう悲観することでもないとカグヤは続ける。先程も言った通り、調査機関では顕現の準備が整ってないだけだ。整えればそう遠くないうちに刀剣男士とも話が出来るはずだと口にした。



「あいつらとも積もる話があるからなー。顕現が今から楽しみだよ」



 そんな話を続けていると、再び間延びした声が通信サーバへと木霊する。ハスノのものだった。
 聞き覚えのある声に嬉しそうにミミとニャミは声の方向を向いた。



「あっ!ハスノさん!ハスノさんもいたんだね!久しぶり~!」
「みなさ~ん!お久しぶりです~!いや~、皆さんお変わりなくて嬉しいですよ~!わたしも、変わらずこの街でカフェ経営を頑張っているんですよ~」
「そうなのか。……であれば、今度店に伺って料理の話も出来ればいいな」
「え?ヴィルヘルムって料理が出来るの?」
「ヴィルさんは料理の天才なんだよ!アッシュにも負けないくらい上手なんだから!」



 ハスノが現れ、料理の話に花を咲かせる一同。
 なお、この世界でのヴィルヘルムは、魔界にある自分の城に何百年と閉じ込められていた際、暇つぶしにと色々試していたら、ガーデニングと料理が一級品の腕前になってしまったという逸話がある。
 料理をしているというのはミミとニャミも同じようで、自信満々にハスノにこう続けた。



「料理ならあたし達も負けてないよ!今のパーティのテーマが『カフェダイナー』だからさ、料理勉強中なんだ!」
「もしかしたらハスノさんのお店のメニュー勉強させてもらうかもだから、今後ともよろしくお願いします!」
「確かに昔よりは人に食える物出せるようになったよなー。昔は本当ダイニングに立たせちゃいけないくらい2人共料理ダメダメだったもん」
「こらっ!恥ずかしい過去を当たり前のようにペラペラと話すなーっ!」
「ヴィルさんばっかりに迷惑かけちゃ駄目だと思ってわたし達だってちゃんと成長してるんだからね!」
「ほんっと、食事に関しては昔ヴィル匿って大正解だとあの時は思ったからな……。オレ1人じゃ止められなかったからさ」
「昔に比べたら食べられるものを出せるようになった分、彼女達も成長しているということなのだろう」



 このままいろんな方と再会出来ればいいですね~、とふとぽろっと零してしまうハスノ。
 しかし、それはマイナスの意味ではなく、世界が混ざっても前を向いて生きている人達と会いたいという彼女の気持ちの表れだった。



「ち、違いますよ~!この世界に混ざってほしいというわけではなくて、ですね~」
「分かっている。言葉の綾というものだろう。だが……こうなってしまった以上、顔見知りとの再会も考えねばなるまい。それだけは覚悟しておきたまえ」
「我々にとってはどれもこれもが初めての経験で、驚きの連続です」
「ま、気長に行こうよ。世界調査機構は始まったばかりなんだからさ」



 と、いうことで、とミミとニャミは早速出かける準備をした。どうやらハスノの話を聞いて、買い物をしたくなったらしい。
 メグリカとサクヤを無理やりぐいぐいと連れていく光景を見て、MZDとヴィルヘルムは相変わらず元気を取り戻すのが早いなと思ったのだった。



「元気が有り余ってますこと」
「……この世界も、悪くない世界だといいな。MZD」
「そうだな。混ざっちまったモンは仕方ないし、今の状況を受け入れてオレ達が出来ることをするだけだから。――壊したりすんなよな?」
「善処はしよう。……『世界が間違った選択肢を取らない限り』はな」
「怖いこと言わないで~?そうなったらオレ、お前を敵に回してでも止めるからね」



 そんな他愛もない話を続けながら、時は過ぎていく。
 新たな出会いと、新たな物語の1ページが、これから少しずつ刻まれていく予感がするのだった。




~Ep.00 ものがたりのはじまり~ END.