二次創作小説(新・総合)

Re: 月に叢雲 花に風【キングダム】 ( No.2 )
日時: 2025/04/29 20:39
名前: 酒杯 (ID: ir9RITF3)

>>02
「なんだ、その不満そうな顔は」
「別にぃ⋯⋯」
春申君の問に目を逸らす蘭華。
「王命により一万五千の兵を出す」
「私からは百人しか出しませんよ」
「勝手にしろ」
蘭華はため息をついた。
「全く⋯⋯お人好しなんだから、貴方は。関わらなければ良いものを」
しばしの沈黙。
「戦は描けているか」
春申君が呟く。
「描けてるどころか、圧勝ですよ。相手が白起でなければ、ですが」
信陵君は兵糧がどうだのと心配していたが、それは杞憂である。
「こんな戦、三日で終わります。白起の方はご心配なく。部下に上手くさせてます」
後は趙が何処まで持つか。
三日持たなければ水の泡だ。
他国など知ったことではないが、勝たなければ楚の面子に関わる。
「では、寝ますね。良い夢を黄歇様」
そう言い、蘭華は天幕へ去っていった。

紀元前258年。
趙国王都、邯鄲に秦軍八万五千が侵攻してきた。
総大将として秦国六大将軍、王齕。
副将には王陵という者がついた。
迎え撃つのは趙三大天の廉頗である。
「あんたかよ」
春申君より先に趙に辿り着いていた蘭華は思わず顔を顰めた。
「儂では不足か」
どうせなら藺相如が良かった。
同じ三大天でも人当たり良い優男の顔を思い浮かべる。
「いや⋯⋯この策には信陵君、我が宰相、そしてあんたが必須。勝手な行動は慎めよ」
無礼にも捉えられる蘭華の発言に廉頗は笑う。
「儂相手にそれを言えるか。いやはや、若さじゃのォ」
全く喰えない爺さんだ。
廉蘭華は廉頗の大人らしさが気に入らなかった。
勝手に行動する自由人なところもだが。
姜燕に見張らせることにしよう、そうしよう。
廉頗の忠実な部下に策は託すことにした。

部下に偵察に行かせたところ、前衛重装歩兵が五万、中軍弩兵と雲梯という城にかける梯子を扱う兵が二万、後衛騎兵一万五千であった。
司令は副将王陵が前線、王齕が後衛である。
趙軍はというと総数が一万二千。
内訳は防衛歩兵八千、弓弩兵二千、伏兵二千である
司令は廉頗 で自ら西門楼上に待機してもらうことにした。
秦軍に対して趙軍の少なさが目立つのは、圧倒的な国力差のためである。
そこをどう埋めるか。
策を立てる蘭華と指揮する廉頗の腕の見せ所である。
趙、魏、韓、楚と四カ国と国境を接するはずの秦が何故ここまでの軍量を持つのか。
「秦が強いのは地理的な部分と、政治形態にある」
蘭華はそう分析した。
認めるのは癪だが、秦は他の六カ国と比べ文明の進んでいる西からの情報を得やすい。
それに加え、血脈に拘る節のある、楚などの国と違い、完全実力主義の国である。
(そりゃ、白起みたいな化け物が生えてくる筈だ)
向上心も磨かれ、結果的に国としての文明レベルが上がる。
また、国王にも原因がある。
昭襄王、またの名を昭王。
彼は戦神と恐れられた生粋の軍人である。
そのため他国より軍事に力を入れていた。
そんな国王と、戦したがりの化け物どもが合わさってみるとどうなるか。
それが今回の結果である。
恐らく秦国は中華統一に着手しだしたのだ。
趙が喰われれば楚にも弊害が来る。
そう危惧した春申君が援軍を出したのだ。
「戦は明日だ。立っていようが座っていようが変わらない。それと、王陵とやらも調べさせたのだが⋯⋯」
情報が得れない。
そう二日三日で得れるものではないが。
「一日目は敢えて殺さない路線で行こう。頼むぞ、廉頗」
「敵に加減なぞ、する意味がない」
「あるからするんだよ」
この脳筋め。
蘭華は廉頗に毒づいたのだった。