二次創作小説(新・総合)
- Re: 月に叢雲 花に風【キングダム】 ( No.3 )
- 日時: 2025/05/03 14:37
- 名前: 酒杯 (ID: ir9RITF3)
>>03
邯鄲防衛戦、一日目。
まだ日の登らない時間、趙軍は動き始めていた。
廉頗は己の忠実な部下四人にそれぞれ指示を出す。
廉頗四天王と呼ばれる彼等は、4人の将軍の総称である。
本陣には軍師、玄峰と蘭華がいた。
「大丈夫かなぁ、あの三人。やりすぎると地形崩れるんだよな」
蘭華はボヤく。
玄峰はというと、己の長く伸びた髭を撫でながらクツクツと笑った。
かつては廉頗の師であったほどの軍略家で、策を巡らせて一方的に相手を殺戮する戦いを身上としている。
「まさか、かの『楚の死神』と共に戦うことになるとは」
初老の域に入ったとて、彼の頭のキレは健在だ。
確かに蘭華は負け知らずだ。
だが経験が足りない。
さらに防衛戦に置いてはその土地の地形をよく知るものが必要だ。
故に、今回の策には廉頗四天王の協力も欠かせない。
「さて、あの三人は上手くやってくれてるかな⋯⋯」
蘭華は仮面の下で不敵に笑った。
邯鄲の西門を抜けた先にある森林に廉頗等は来ていた。
廉頗四天王の介子坊、輪虎を引き連れて。
介子坊。
その武力は廉頗と並ぶほどである。
辮髪と大柄な体躯が特徴的だ。
ただし、本人の性格からしてこの様な細かい作業は向かない。
蘭華は彼を煽て無理やり廉頗と共に行動させていた。
輪虎は四天王の中で最も若く、二十歳もようやく過ぎた頃だ。
幼い頃から廉頗と共に戦場を駆け抜けた。
「私はこの様な作業は向かんのだ!」
「まあまあ、僕は楽しんでいるよ。なにせあの蘭華が提案した策でしょ?絶対面白いよ」
青筋を立てている介子坊とは対照的に満面のえみを浮かべる輪虎。
ここに何を行いに来ているのか。
「蘭華からの指示は、湿地を作ること。腕が鳴るね」
そう、湿地を作りに来ているのだ。
凍った地面を湿地にするのにはかなりの技術がいる。
まずは低地で排水が悪い場所を選ぶ。
ただし凍土の深さが浅すぎると水が滞留しにくいため、夏に部分的に融解する部分がが厚い場所が理想だそうだ。
何処からこの知識を持ってきているのか。
輪虎はますます蘭華に興味が湧いた。
次に水の確保だ。
近くに小川、湧水、雪解け水などがある場所を選ぶ。
「必要であれば簡易な水路を掘って水を引き込め。やり過ぎんなよ」
蘭華に釘を刺されたことを思い出す。
このあたりは輪虎の部隊が担当した。
その後、介子坊は凍土表面の掘削と凹地の造成に着手した。
表土、例えば苔、草本、泥炭などを手作業で一部取り除き、水がたまりやすい小さな凹地、浅い盆地状を作る。
掘りすぎると凍土を刺激して不安定化させる可能性がある、慎重に、と苦々しく言った蘭華。
だが介子坊は手先が器用な方ではない。
与えられた仕事はこなすのが介子坊ではあるが何故自分がと不満げな表情だ。
チラと横目で主をみると、黙々と作業に取り掛かっている。
一介の大将軍にこの作業をさせる蘭華も蘭華だが、案外乗り気な廉頗をみると小言を言う口も閉じた。
介子坊が主の普段見せない表情を眺めていると、輪虎が声を掛けた。
「楽しそうだね、殿」
秦国六大将や趙三大天が戦に明け暮れていた頃、晃蘭華は突如として現れた。
最初は取るに足らぬ小童と目も当てていなかったが、もはや無視できないほどその力は強大になっている。
ここ数十年停滞していた楚に多くの国が攻め入り、一時は滅ぶ寸前まで追い込まれたが、宰相、春申君の働きに加え蘭華の強さが楚をここまで強大にした。
何と蘭華は攻め込まれた楚の領土を数十年前まで戻したのだ。
こんな面白い将が出て、興奮しない将はいない。
「あんな表情を見たのは初めてだ」
「えっ、介子坊さんでも?じゃあ介子坊さんの十数年が蘭華の一年に負けたわけだ」
「おい!!」
介子坊はキレた。
なんか奥で部下がじゃれ合っているなという認識で二人のやり取りを見ていた廉頗は、次の手順に取り掛かった。
沼状の地帯に、苔・藁・凍結泥を敷き、敵重装兵が足を取られる地雷原を演出する。
違和感のないように作るのが大事なのだという。
つまりは底なし沼を作るのだ。
数で勝る秦軍相手に搦め手を使わなければ勝てない。
廉頗も何度か蘭華に搦め手で敗れている。
蘭華の強さの秘密を垣間見た廉頗であった。
西門上、廉頗四天王の姜燕が陣取っていた。
姜燕は中華十弓に名を連ねる程の弓の名手である。
中華十弓とは中華における弓の名手達の総称である。
姜燕は長身で細身、冷たい瞳を持つ寡黙な弓の達人。
風に揺れる長い前髪の下から鋭いまなざしを覗かせた。
蘭華が趙の将軍の中で信用のおける人物の一人だ。
「順調か?あんたが上手いことしてくれなきゃ困るんだよ」
ひょっこりと角から蘭華が顔を出す。
「まぁ⋯⋯あのお方は?」
「あっちはあっちで重労働だろうな」
カラカラと笑う蘭華。
鏃を丁寧に磨きながら姜燕は応対する。
「それより貴方の方は」
「終わったよ。細かい指示はあんたらに任せるけど。私はこのあたりの土地に明るくない」
そう言って吐く息が白い。
仮面によって表情は伺えないが、恐らく残念そうな顔をしているのだろう。
中性的な声のトーンがさらに低くなる。
「三日で終わらす」
蘭華は小さくそう呟いた。
朝日が昇る。
輝いた。
城壁上に弓弩兵二千、落石部隊五百、火油部隊五百を置いた。
指揮は姜燕だ。
それぞれ、弓弩兵は主に威嚇射撃、敵の前進を誘導し、罠へ引き寄せる。
落石部隊は城門前敵の先頭が罠地帯に入ったところで、落石で進行を妨害。
近距離で火矢を放ち、敵の装備や補給を焼き払うのは火油部隊の役目だ。
地上で重盾歩兵三千と軽装兵四千を指揮するのは廉頗だ。
副将には介子坊が付いた。
重装歩兵で前線を固め、敵の先鋒と接触して戦い、接近戦で敵の動きを封じ込める。
軽装兵は重盾歩兵の後方で移動、敵に接近して一気に突撃。側面攻撃や包囲を担う。
輪虎と蘭華は伏兵部隊をそれぞれ千ずつ指揮した。
両丘に分かれて配置、 秦軍が撤退しようなら突撃をする。
城壁に三千、地上に七千、伏兵二千。
秦軍八万五千を計一万二千で迎え撃つ。
「僕らは待機だね」
「出番がないのが一番いいんだが⋯⋯」
湿地へ隠れる前、蘭華は輪虎と言葉を交わす。
「わざわざ来てくれてありがとう。君がいれば心強いよ」
「あんたが感謝を口にするなんて、明日は槍でも降るのか」
「やめてよ、演技でもない」
軽口を言い、笑い合う。
比較的年の近い輪虎とは話しやすい。
「じゃあ僕はこっち」
輪虎は北側を指差し言った。
「ああ」
頷き、背を向ける蘭華を止める。
「待って」
「⋯⋯何」
顔をしかめている。
仮面に覆われていてもわかる。
「ご武運を」
両手を組む。
「⋯⋯⋯⋯フン」
蘭華は鼻で笑い、南へ向かった。
邯鄲の大平原は、薄霧に包まれて静寂が広がっていた。風がほんのりと吹き抜け、草を揺らす音がわずかに耳に届く。
その空気の中で、戦の気配が徐々に迫っていた。
両軍が集結する中、誰もがその日が命運を分ける戦となることを予感していた。
最初に動き始めたのは、秦軍の騎兵だった。
先鋒部隊が黒い甲冑に身を包み、揃った足音で地面を震わせながら、騎馬を駆り進める。
彼らはまるで風のように駆け抜け、槍を手にした兵士たちは、前進するごとに次々と矢を放ち、敵陣を打撃する準備をしていた。空気は一瞬にして震え、戦の気配が満ちてきた。
「この戦いに勝利すれば、趙国が滅ぶ」
と心の中で呟きながら、秦軍副将の王陵は戦場を見渡した。
大軍の動きに合わせて、厳かに号令が飛び交い、戦の幕が切って落とされた。
一方、趙軍の兵士たちは、冷静にその動きを見守りつつ、自らの役目を静かに整えていた。
趙軍は秦軍の騎兵の突撃を迎え撃つため、しっかりと防御の陣形を組んでいた。
歩兵部隊は盾を前に出し、槍を地面に立て、すぐに動けるように準備していた。
弓兵たちもすぐに発射できるよう、弓を引き、矢を一斉に構える。
戦場に薄い霧が立ち込める中、互いの軍は視界を塞がれていた。
だが、その一瞬の静寂の後、ついに秦軍の騎兵が最前線を越えて駆け抜け、全速力で趙軍に迫った。
秦軍の騎兵は、重い鎧に身を包み、馬上から槍を一斉に突き出して突撃を開始した。
馬が大地を蹴る音が、戦場全体に響き渡る。
数百頭の馬が一斉に突進し、その勢いはまさに暴風のようだ。
彼らの目標は、趙軍の最前線を突破することだった。
だが、趙軍の兵士たちはその突撃を待ち受けていた。
歩兵部隊の前列が、槍を一斉に上げ、盾を構えた。
秦軍の騎兵が突っ込んできた瞬間、彼らは一歩も動かず、盾を重ね合わせて防御の態勢を取った。
盾の壁は固く、鋼のような硬さで秦軍の槍を受け止めていた。
その瞬間、槍の先端が盾を叩きつけ、金属の音が戦場を震わせた。
甲高い音が響き渡り、歩兵たちは無言でその場を堅固に守り続ける。
次々と秦軍の騎兵が槍を突き刺そうとするが、その度に槍先が盾に弾かれ、突撃の勢いが削がれていった。
「動くな!今が耐える時だ!」
と、介子坊が叫ぶ。
歩兵たちはその指示に従い、足元を固め、体を低くして盾をさらに重ね、騎兵の攻撃を受け止めた。
秦軍の騎兵たちは必死に突撃を続けるが、その進行は次第に鈍くなり、先頭の騎兵が次々に倒れ、馬から引き摺り下ろされていく。
騎兵の数が減る中で、次第に混乱が広がり始めた。
騎兵部隊の最前線が崩れかけ、後方の兵士たちが困惑の表情を浮かべていた。
そして、趙軍の歩兵がついに動き出した。
最前線で騎兵に耐えた兵士たちは、突然槍を前に出して前進を始めた。
その姿はまるで一枚の壁のように整然としており、槍が一斉に前方に突き出された。
「前へ!敵を倒せ!」
と、歩兵の指揮官が叫ぶ。
その瞬間、趙軍の歩兵たちは踏み込み、秦軍の騎兵の弱点を突き始めた。
槍先が秦軍の騎兵に深く突き刺さり、血が飛び散る。
騎兵たちは一瞬動揺し、馬を急停止させようとするが、後ろから次々と趙軍の槍が襲いかかる。
その時、突撃の力を失った騎兵たちが次々と馬から落ちていった。
馬が暴れ、その背中に乗っていた兵士たちが地面に叩きつけられる。
その場に倒れると、まるで倒木のように無力で動けなくなった。
「撃て!」
姜燕が声を上げ、一斉に矢を放った。
矢は空中を切り裂き、秦軍の騎兵たちに向かって雨のように降り注ぐ。
矢の先端が一気に敵の防御を突破し、騎兵の鎧や盾を貫いていった。
鋼鉄の甲冑に弓矢が刺さる音が、戦場の混乱をさらに増す。
また姜燕は火を放った。
戦場の一点が炎に包まれる。
彼の美麗な顔を赤々と照らされた。
ある戦場の一角、趙軍総大将廉頗と秦軍総大将王齕が鉢合わせた。
戦場は冷徹な風が吹き荒れ、両軍の兵士たちがその気迫に圧倒されていた。
空は鉛色に曇り、遠くでは雷鳴が轟く。
戦の神々が怒りを示すかのような、重い空気が支配している。
今、この瞬間、趙と秦の運命を決めるべく、二人の武将が立ち向かう。
一方、廉頗は、長い戦歴を物語る大矛を手に立っていた。その矛の先端が地面を軽く抉るように振るわれ、周囲の空気が張り詰めていく。
彼の目は冷徹で、戦場を見渡しながらも、ただ一人の相手、秦軍総大将の王齕に意識を集中させていた。
対する王齕もまた、その強さで知られる秦の猛将。
大斧を両手で構え、その体躯に見合った重厚な武器を振るう準備をしている。その瞳には不屈の意志が宿り、どんな状況でも戦い抜く覚悟が漲っていた。
「お前の矛、見せてもらおう」
王齕が低い声で呟くと、その声が風に乗って戦場を震わせる。
「無論、そのつもりじゃァ」
廉頗は静かに応じ、両足をしっかりと地面に踏みしめ、矛を握り直す。
その言葉が合図となり、二人は一気に間合いを詰める。廉頗の大矛が一閃、王齕の胸を狙って突き出される。
その矛先はまるで雷のように素早く、王齕の反応を試すかのようだ。
しかし王齕は一歩踏み込むと、大斧を振り上げ、その刃で矛を弾き飛ばす。
その威力は凄まじく、廉頗の体が後ろに数歩退く。
「速い⋯⋯!」
廉頗は一瞬の隙を突かれたことを悟り、即座に矛を構え直し、再び王齕に向かって突進する。
矛先が王齕の側面をかすめ、そのまま素早く反転して二度目の攻撃を繰り出すが、王齕はそれを完璧に避ける。
「お前の攻撃もそう簡単に当たらんぞ」
王齕は叫び、今度は自分から一気に飛び込んで、豪快に大斧を振り下ろす。
その斧の刃は、圧倒的な破壊力で廉頗を捉えようとする。
廉頗はその斧を矛で受け止めるが、弾かれた衝撃で体がぐらつき、足元が不安定になる。
だが、すぐに体勢を立て直し、再び反撃に転じる。
矛を巧みに操り、王齕の右腕を狙う。
しかし、王齕はその反応速度もまた速く、矛を受け流すと同時に、再度大斧を振り下ろしてきた。
「くっ⋯⋯!」
廉頗はその一撃をかわすために、わずかな間合いを詰め、王齕の動きを見定める。
次の瞬間、彼は矛を鋭く前方へ突き出す。
その矛先が王齕の腹部をかすめるが、王齕は体をひねってその攻撃を避け、背後に回り込もうとする。
だが、廉頗もまた動きを見逃さず、素早くその場を転がって、王齕の動きを予測して反転する。
二人の戦いは次第に激しさを増し、両者の汗と血が混じり合う。
その時、王齕が一気に体をひねり、力を込めて大斧を振り下ろす。
廉頗はその一撃を矛で受けるが、その反動で膝が地面に付きそうになる。
しかし、廉頗は瞬時に矛を再度振り上げ、王齕の右肩を狙って鋭く突き刺す。
その矛先は王齕の鎧をかすめ、かろうじて肩に傷を負わせた。
「よくやる⋯⋯!」
王齕は苦しそうに息を吐き、肩の痛みをこらえながら大斧を再び構える。
その目には深い疲労の色が見えるが、それでも彼の戦意は衰えない。
「お主もなァ」
廉頗は息を切らしながらも、冷徹な目で王齕を見据える。
どちらも互いに傷を負い、体力も限界に近づいていた。しかし、決して相手を屈服させることなく、次の一撃に賭けていた。
二人は再び間合いを取る。
矛と斧、いずれも互いに鋭さと力を誇る武器。
それらが交差するたび、戦場に響く音が一層激しさを増していった。
だが、戦いの終息は突然訪れた。
二人の間に、どちらも譲らぬ最後の一撃を繰り出した瞬間、互いに武器が激しくぶつかり合い、その力で一歩も引かないまま、同時に両者が膝をつく。
全身から血を流し、呼吸も荒くなった二人が、互いに目を合わせる。
その目には、疲労と共に深い尊敬の色が浮かんでいた。王齕の顔に、ほんの少しの微笑みが浮かび、廉頗もそれに応じるように少し頷いた。
「お主こそ、強い」
廉頗がゆっくりと言った。
「お前もだ」
王齕も静かに応える。
戦いは終わりを告げ、両者はその場で動けなくなった。戦場に立つ武将たちは、無言でその光景を見守りながら、二人の偉大さを理解した。
引き分けとなったこの戦いの中で、両者が互いに命を賭けて戦ったこと、その誇りと強さが何よりも重要だったのだ。
廉頗と王齕が一騎打ちを繰り広げる一方で、趙軍の騎兵部隊が再び反撃を開始した。
彼らは騎兵の後方から一気に回り込み、秦軍の歩兵陣を切り裂くように進んでいく。
秦軍の歩兵はその突撃に完全に気を取られ、横からの攻撃を受けることになる。
「突撃しろ!」
介子坊が指示を出し、さらに加速する。
その速さに、秦軍の兵士たちは一瞬の隙間を見せ、無防備になったところを一気に切り裂かれる。
盾を持った兵士も、槍を持った兵士も、一度に何人もの騎兵に倒され、戦線が次第に崩れていった。
「これ以上は無理だ!」
秦軍の兵士が叫び、後退を開始する。
しかし、その時にはすでに遅かった。
趙軍の歩兵たちは後ろから追い詰め、騎兵部隊は完全に側面を切り裂いていた。
秦軍は遂に戦線を完全に崩し、敗走を開始する。
混乱の中で、兵士たちは一部が投降し、また一部は必死に命を救おうと走り出す。
逃げるために、必死に後ろを振り返る者、足を引きずりながらも前進する者がいる。
趙軍の騎兵が逃げる兵士を追い詰め、ひとりまたひとりと捕らえていく。
誰もがその目を見開き、恐怖に満ちた表情を浮かべていた。
彼らは戦場の真ん中で倒れ、命を失うか、投降するかの選択を強いられた。
王陵も同様だった。
だが、明日へつなぐために今日を生きなければならない。
馬をかける。
刹那、彼の頬を剣先が掠めた。
「⋯⋯っ!」
身体を捻って交わす。
「これを躱すか。伊達に秦軍の副将してない訳だ」
橙色の甲冑を身に纏った青年、輪虎である。
「流石の僕も深追いは禁じられてるからね。君を殺すのは面倒臭そうだ」
「生かすのか⋯⋯?」
「明日殺すと言ってるんだよ。生き証人は必要だ。謎に包まれた副将さん?」
そう輪虎は言い去っていった。
昼過ぎから夕方にかけて、戦場は沈黙に包まれ、空が赤く染まる。
倒れた兵士たちの血が大地にしみ込み、戦場には静かな死の匂いが漂っていた。
趙軍の兵士たちは、勝利の喜びに浸る暇もなく、疲れた体を引きずりながら戦場を歩いていった。
死者の数は膨大で、戦場は無数の遺体で埋め尽くされていた。
戦いが終わり、最初の曙光が戦場に差し込む頃、勝利した趙軍は勝利の余韻を感じながらも、その代償の重さを噛みしめていた。