二次創作小説(新・総合)

「名」という呪縛 ( No.289 )
日時: 2020/05/29 11:01
名前: 月詠 (ID: Uj9lR0Ik)

境界の館には二つの書庫があった。
他元世界の様々な資料や物語が、ファイルや小説とされたものが本棚に納められた書庫。
漫画や小説、雑誌系統、新聞、呪術の資料などが本棚などに納められた書庫。
最近になってその二つの書庫を一つの部屋に移動させ、図書室と名を改めた。
他元世界関連コーナー、漫画・小説コーナー、雑誌・新聞コーナー、呪術関連コーナーと大雑把に五つに分けた。
出入り口のところに紙と特殊なインクの入ったペンが置かれ、それに自分と本の名前を書いて期限さえ守れば自由に貸し出しが出来るようにした。
さらには奥に広めな洋室と和室もあり、そこでくつろぎながら読みたいものを読むことが可能だ。
さすがに飲食物の持ち込みは禁止だが。

そんな図書室にある和室にて。
壁に背を預けて小説を読むリュウガと、新たな術を作ろうと呪術の資料を参考として読みながらちゃぶ台に置いた紙に色々書き込む麻琴がいた。
ちなみにリュウガが読むのは「少年陰陽師」、麻琴は上級者向けである。
書き込む音とページを捲る音しか響かない中で。


リュウガ「……なぁ、麻琴。他の世界でも名前は一番短いしゅなのか?」


不意に彼が声をかけた。

「名」という呪縛 2 ( No.290 )
日時: 2020/05/29 11:03
名前: 月詠 (ID: Uj9lR0Ik)

きょとんとしていたが質問の内容が分かると、彼女はペンと閉じた資料をちゃぶ台に置く。
そのままリュウガの方へと体を向ける。


麻琴「いきなりどしたん?」

リュウガ「いや、これ読んでてふと気になって…」

麻琴「そうか……まぁ、名前というのは重要なものだからな。呪術を扱う者の界隈での話になるが、名はその人を縛り、魂に刻まれるものだ。「千と千尋の神隠し」で千尋が名を奪われて千になりかけてたというシーンがあるだろ?あんな感じだ」


例を出されて、なるほどと少し納得するリュウガ。
そんな彼に彼女は説明を続ける。


麻琴「世界によっては名が一番短いしゅにならない世界もあるがな。改名とか結婚で名前が変わることもあるから、必ずしもそうなるとは限らないってことだ」

リュウガ「なるほど……俺の場合は?基本的にリュウガと呼ばれているが、人間だった頃は「城戸真一」という名前だったが」

麻琴「お前の場合はその名がいみな……もとい、真名になる。基本的にリュウガと呼ばれてるならそれでいいと思うぞ?ウチもウチで真名が二つに二つ名が一つあるが意味まで知らないといけないし、「麻琴」という名しか知られてないから大丈夫だが」


城戸真一だった頃の名前を知られないようにしようと決意するリュウガ。
が、気になる言葉が出てきたからか意識がそっちに向いている。
言ってもいいのかな、それ?


リュウガ「……そういえば二つ名ってのがあるな、あの四人」

麻琴「二つ名ってのは本来は異名とかって意味だが、「少年陰陽師」世界では願いや意味を込めた主従契約の縛りみたいなものだからな。いや、契約の時に名前の無い相手に名付けをするのもそうだけど。ウチの本来の出身世界もそうだったな」


懐かしそうに目を細める麻琴。
しかし、小さな声で「……あの世界の終夜の人間どもは嫌いになってたがな」と呟いてるが。

「名」という呪縛 3 ( No.291 )
日時: 2020/05/29 11:10
名前: 月詠 (ID: Uj9lR0Ik)

あ、そうだと麻琴が呟いて。


麻琴「さっき、ウチは真名が二つと二つ名が一つあるって言ったじゃん?それらの意味を知り、呼ぶ権利をリュウガにもあげるよ」

リュウガ「……は?」

麻琴「まずは真名から。完全な人外だった頃の名は「六花りっか」、「六つの花弁を持つ雪のように、穢れを知らぬ純粋無垢へとあれ」と意味に願いを込められた。今の「麻琴」は「多くの真実の中から信じた一つを選び、琴の音(ね)のように紡げるように」と、これも意味に願いを込められたが……少し言霊が強いから「まこと」の「ま」を麻の字に変えたらしい」


さらっと言われたことにリュウガが固まっている間にも、彼女は自身の真名と意味を告げる。
突然の情報に戸惑いながらも、小説を床に置いた。


リュウガ「待て待て待て、何でいきなり?」

麻琴「んー、何かあった時の保険?月音はウチのこと、バグチートって言うけどウチだって生き物だから間違えたりするし、出来ないことだってあるし、負けることだってあるし、不意を突かれることもあるし」

リュウガ「保険って…」


少し困惑したような表情になった彼に、麻琴は首を傾げる。
なんでそんな表情をするのか分からないという顔だ。
いや、分かれよ…その人を縛り、魂に刻まれるものって自分が説明したんだから。


麻琴「霊的な力はウチのが強いから、真名や二つ名を使ってリュウガが自殺を命じてきても弾けるぞ?てか、霊的な力の格差があるというかなんというか」

リュウガ「そういう問題……って、俺は自殺とか命じないから!」

麻琴「それにこれらのこと知ってるの、窮奇と月音だけなんだ。わりと真面目な話、この世界に来て少ししてから二人がいない時にウチが暴走した時にストッパーになれる人は欲しいって思ってたんよ。それも、物理よりは言霊とかの霊的な方がいいと思って。けど真名や二つ名は信頼や信用してる相手に教えたいしどうしようかなーと考えてて」

リュウガ「………何でそれで俺?」

麻琴「「名」の話が出たからというのもあるが、ライダー達の中でウチと接することが多いのがリュウガだからだな。別に他の奴らを信用や信頼してないわけじゃないが、やっぱりこういうのはなんとなく…ね?」


苦笑を浮かべる麻琴を見て、リュウガは納得したらしい。


麻琴「さて、最後に二つ名だね。二つ名は「桜雪おうせつ」、「一度全てが散っても再び咲く桜のように、溶けても再び降る雪のようにまた出会えるように」という願いと思いを込め、つけられた」

リュウガ「そうか……しかし、どれもいい名前だな。えーと…六花?」

麻琴「呼びやすいのでいいぞ?」


リュウガが「六花」の名を呼ぶ。
すると目には見えないもの……真名や二つ名を口にしたことによる言霊が枷となり、麻琴に結ばれた。

「名」という呪縛 4&後書き ( No.292 )
日時: 2020/05/29 11:12
名前: 月詠 (ID: Uj9lR0Ik)

覗き見は良くないと思うぞ?

リュウガに「六花」の名を呼ばれてから数時間後に、彼女に言われた。
性別なんて欠片も存在していない中性的な声で。


月音「覗き見は良くないと言われてもなぁ…呪術の資料には、あれらを持って図書室にある和室か洋室に入ったら自動的にウチの脳内に映像として状況が送られてくる魔法をかけてるんだよ。監視カメラみたいなものだ」

麻琴「監視カメラなら仕方ないか」


それでいいのか?
ツッコミを入れようか考えたけど、やめた。
めんどくさいし。


月音「しっかし、まぁ……いいのか?「桜雪」の名前まで教えちゃって?」


あの二つ名は転生により世界を巡る旅が始まり、数千年が経過した頃に彼がつけたものだ。
「絶対に再会する」という決意を互いに込めて。
そんな大事なものなのに、いいのだろうか?
そう思って尋ねたら、麻琴は無表情になった。
えっ、と声を漏らしたら。


麻琴「…………………あぁ、そうか……ウチは呼んでもらいたいのかもな…ウチの「名」を……」


じっと虚空を見つめて小さく、けれど確信を持ったように呟く。
「名」に関して聞かなきゃ良かった。
少し後悔し、未だに虚空を見つめる姿を見ながら携帯へと手を伸ばす。
窮奇を呼ぶために。


――――――


後書き





「「少年陰陽師」では名前は一番短いしゅと言われてるのと、それを絡めたリュウガと麻琴ネタが浮かんだから書いたらこうなった。最後の麻琴が不安定なのは、久々に言霊の枷が増えたからというのもあります」

麻琴「ちなみに名前に関しては少し自己解釈も加わってるので、そこは理解してほしい。……ん?「のも」?」

「もっと言うなら桜雪の名前と意味まで教えた理由を考えたら、SAN値チェックに失敗+アイデアロールがクリティカル=不定の狂気が発症してしまった感じだな…久々にSAN値チェック失敗して大人しかったのは予想外だが…」

麻琴「……不定の狂気が発症した自覚は無いんだがなぁ」