二次創作小説(新・総合)

妖が魅せる一夜の夢 ( No.339 )
日時: 2020/10/05 15:34
名前: 月詠 (ID: 0K0i.3Zc)

※アレリナ、性転換要素あり
※第三者視点
※なるべく説明文は入れるがドレスの用語などあり


――――――


窮奇。

中国の神話に登場する怪物、あるいは霊獣の一つにして四凶の一つとされる存在。
長い歴史のある中国の中でも最古の地理書である山海経の説明では、ハリネズミの毛が生えた牛でとある山に住み、犬のような鳴き声をあげて人間を食べるとある
「海内北経」の説明では人食いの翼がある虎で、人間を頭から食べるとある。
現在は後者である、有翼の虎の姿が広く認知されている。

人が喧嘩をすれば善人を害して悪人へと捕まえた野獣を贈るという伝承がある反面、悪を喰い亡ぼす存在として語られてもいる。
また、風神の一種とも見なされている。

そんな彼は魂としては故郷である、全体的な「少年陰陽師」世界では妖という存在であった。
その魂は一度、死した時に麻琴がその時の人間側の血筋が持つ力にて生み出した器に宿り、性質的には神に近い妖となった。
が、二度目の死を迎え、自分よりも先に彼女と共に在った“彼”とともに世界を越えてまで主を追いかけていたためか?
魂は世界を越え、違う“窮奇”として生まれ変わった。
妖でありながら神とも呼べる、けれど前世のものとも言える力や姿も持つ存在。
中途半端で歪なそれは、彼にとっては主や“彼”との繋がりだった。

だからだろう、常に狂気と正気の境が危うくなってしまった主と再会した時に総てを捨てたのは。
元々、関心を向けていなかった自分の無駄にあった力や、心を壊されて傀儡とされた四神の力による支えがなければ崩壊していたような世界だった。
愛着も未練も、興味を引くようなものは何も無い世界だった。
そこに産まれてきた主のみを守り、再び契約してこうやって世界を越える旅を再開したほどに。

今は主の精神も少しは安定し、彼の心にも余裕が出てきている。
何かを楽しもうとしたり。
“手伝う”などしたりするくらいには。

妖が魅せる一夜の夢 2 ( No.340 )
日時: 2020/10/05 15:40
名前: 月詠 (ID: 0K0i.3Zc)

紙の束に書かれた文字を見た人型の窮奇は、なんとも言えない表情をする。
アレンとリナリーは思わず苦笑した。
自分達も内容を理解した時は、同じ表情をしたのを思い出したからだ。


窮奇「贄を求める、か……どの時代、どの世界の人間もあまり変わらんな」


なんとも言えない表情から、次に呆れ、最後にはどうでもいいと言いたげなものに変わると紙の束………資料をテーブルに置いた。


窮奇「で?相談内容がこれの絶対条件なんだろう?」

リナリー「そうなのよね……アレン君や兄さんには反対されたけど、最低でも私は確定だし…」

アレン「本っっっ当に嫌ですが…ミランダさんは支援側ですし…」


視線を向けて尋ねれば、二人は嫌そうに頷いた。

とある国の王族の王子が持つペンダントがイノセンスだと判明した。
黒の教団としては穏便に済ませたいため、交渉したのだが王子はただで渡すことを拒否。
彼の国の王族が主催する、王子の妻を決めるためのダンスパーティに最低でも二人の女性を参加させるという条件をつけてきた。

恋人と兄の反対があったが、女性エクソシストは現在はリナリーとミランダの二人しかいない。
AKUMAが現れた時のことを考え、なるべく迎撃可能な人選をするならリナリーとなる。
アレンは恋人なので、彼女を守るためにもパートナーとして参加することにしたが………。


アレン「残りの一人をどうしようかと考えまして…」


そう、もう一人の女性についてだった。
そちらに関しては支援側としてミランダを…とも考えていたが、ネガティブな性格のことを考えるとどうしても推すことが出来ない。
それに、アレンとコムイがリナリーの参加を反対し、ミランダを推せない最大の理由が。


窮奇「まぁ、この男のことを考えれば下手に選べんからな」


資料を見下ろし、彼は頷いた。

妖が魅せる一夜の夢 3 ( No.341 )
日時: 2020/10/05 15:47
名前: 月詠 (ID: 0K0i.3Zc)

王子はとてつもない女好きである。
まだ妻はいないが、美女の愛人を何人か囲っている上に城にいるメイドなどにも手を出しているらしい。
正直、この情報を手に入れた探索部隊ファインダーには差し入れの一つでもしてやりたい気分だ。


リナリー「そうなのよね……だから月音さんに相談に来たのだけど、いないみたいだし…」


密かにため息を吐き出し、リナリーが残念そうにする。
現在、境界の館には窮奇以外の住人がいない。
というのも、彼以外は全員が買い物に行っているからだ。
買うものが多いから遅くなると言っていた月音を思い出しつつ、窮奇が尋ねる。


窮奇「ちなみに、いつにダンスパーティが行われるんだ?」

リナリー「それが今夜なの。始まるのは六時半からだから、着替える時間を考えると遅くても五時までにはホテルに着いてないと…」


ふむ、と窮奇は時計を見た。
現在は午後の一時半。


窮奇「……間に合いそうだな」

アレン・リナリー「え?」

窮奇「残りの一人に関しては俺に考えがあるから任せろ。それと、リナリーともう一人のドレスは俺が作ってやる。暇だったしな」

アレン「え……いいんですか?てか、リナリーのも?」


ああ、と頷けば二人は互いに顔を見合わせてから……お願いしますと頭を下げた。
その後、出発時刻が近くなったら連絡をすると話し合ってからアレンとリナリーは帰っていく。
主への連絡とドレス作りなど、窮奇はやるべきことを考えながら自室へと向かった。

妖が魅せる一夜の夢 4 ( No.342 )
日時: 2020/10/05 15:54
名前: 月詠 (ID: 0K0i.3Zc)

「D,Gray-man」世界、午後の四時になる少し前。
駅ではアレンとリナリーの他に、アレンの監視役であるハワード・リンクが窮奇と彼が連れてくるだろう女性が来るのを待っていた。


アレン「なかなか来ませんね…」

リンク「もう少しで出発なんですが…」


アレンとリナリーは不安そうにし、時間を確認した懐中時計を閉じたリンクはそれを仕舞う。
何かあったのだろうかと思っていると、二つのトランクケースを持った一人の女性が現れた。

金髪に黒のメッシュか、黒髪に金のメッシュのどちらかは分からないが、金と黒の縦縞模様のようになった髪は腰を越すほど長く、銀の瞳をしていて綺麗な顔立ち。
身長は少し小柄で155くらいだが、胸は大きくFくらいはありスタイルも良い。
丈の長い、白いワンピースがよく似合っている。

見慣れない女性がトランクケースを二つも持って登場したことに三人が固まる。
だが、その独特な髪の色合いと模様に見覚えがあった。
いや、まさかと思っていると。


「すまん、遅くなった。……む、どうした?」


艶やかで低めな、澄んだ声で女性が首を傾げた。


リナリー「………あなた、もしかして窮奇?」

窮奇「そうだが?」


リナリーが尋ねると女性……性転換した窮奇が、あっさりと肯定した。
再び固まるが、汽車が動きそうな気配を感じて乗り込むしかなかった。
車掌に切符を見せ、個室席に座って落ち着いてからリンクがなんとも言えない表情で窮奇を見た。


リンク「窮奇、何故あなたが女性に…」

窮奇「下手に誰か女を選ぶよりは、俺が女になって参加した。この方が手っ取り早いし、女になった方法は麻琴が作った性転換薬を飲んだから……本人からは許可はもらってるぞ」


麻琴が作った薬。
その言葉に思わず納得してしまった。

妖が魅せる一夜の夢 5 ( No.343 )
日時: 2020/10/05 16:02
名前: 月詠 (ID: 0K0i.3Zc)

ホテルに着くとチェックインし、それぞれ性別で分かれて部屋に入る。
差し出されたトランクケースを受け取り、ベッドに乗せてから開ける。
中に入っていたドレスを広げてみて、固まった。
固まったリナリーのことは気にせず、窮奇はさっさと自分のトランクケースを開く。


窮奇「この世界や今回のダンスパーティのドレスコードを調べたら、どうやら他の世界とも混じったりしてたみたいでな。色も自由になってたし、今回のドレスコードもイブニングドレスでもいいのか許可があったからそうしてみた」


そう言いつつ白いワンピースを脱ぎ、トランクケースから取り出したドレスを着る。
慣れたような動きを見るに、何回かこういう状況になったことがあるのだろう。
着替え終わるとリナリーに向き合う。


窮奇「ほら、早く着替えろ。着方が分からないなら手伝うが…」

リナリー「だ、大丈夫よ?」

窮奇「ならいい。着替えたら言え、その間に他の準備してるから」


くるりと背を向け、トランクケースの中から別のものを取り出す窮奇。
そんな彼……彼女を見てから、リナリーも着替え始めた。

妖が魅せる一夜の夢 6 ( No.344 )
日時: 2020/10/11 15:49
名前: 月詠 (ID: 1.h02N44)

フロントにて、黒のタキシード姿でアレンとリンクは二人が来るのを待っていた。
女性の準備は長いと聞くが、本当なんだなぁと考えていたら。


リナリー「ごめん、遅くなっちゃった」

窮奇「時間には間に合ってると思うが」


リナリーと窮奇の声が聞こえてきて、そちらを向き……見惚れた。

リナリーはまさに“蝶”のようだ。
ノースリーブでハートの形のようにカットされ、フリルの華が咲いた胸元は胸上から首までの間がレースとなっている。
上半身部分はAラインのもののように体の線にぴったりと沿っていて背中側が大きく開いて肌が露出し、腰から下、アンクル丈でスカート部分は左側に太もも半ばからスリットが入っているが裾へと続く縁部分はフリルとなっていて、サテン生地なのか光沢があって軽やかな印象を与える黒のドレス。
スカート部分には同色のビーズが縫いつけられており、光が当たると上品に輝く。
腕と足には同色で同じような布で作られたと思われる、ロンググローブとパンプスを着けている。
ミディアムヘアの髪はハーフアップにされ、ライン部分に小さなダイヤモンドがいくつも埋め込まれていて、羽の隙間部分には白い宝石が嵌め込まれている銀で出来た蝶を模したバレッタで留められている。
耳は小さなパールのピアスで飾られ、細く小さな鎖が短めでトップ部分がバレッタと同じように羽の隙間部分が大きめのパールで埋められた、銀の蝶のペンダントが首に下がっている。

窮奇はまるで“夜”を連想させる。
デコルテと肩が露出し、僅かに胸の谷間が見えていて上半身はぴったりとし、アンクル丈のスカート部分が膨らんでアルファベットのAのように見える、サテン生地なのか光沢があるAラインドレスは黒に近いダークブルー。
こちらはスカート部分に等間隔でフリルが三段につけられていて、銀色のビーズが縫いつけられて上品に輝く。
腕にはドレスと同色で同じ布のロンググローブを着けているが、パンプスは金色に染められていた。
何故か金色になっているロングヘアの髪を三つ編みハーフアップにし、三つ編みの合流地点の髪は緩やかなお団子のようになっている。
首には金色の細く小さな鎖が長めでトップ部分が大きめな三日月型のサファイアが台座に嵌め込まれて、それを小さめなダイヤモンドで挟んでいるネックレスが下げられている。
耳は小さなサファイアのピアスが着けられていた。

薄めに施された化粧もあってか、いつも以上に美しい。

妖が魅せる一夜の夢 7 ( No.345 )
日時: 2020/10/05 16:17
名前: 月詠 (ID: 0K0i.3Zc)

男性二人が固まったのを見て、にやにやと笑みを浮かべ。


窮奇「リナリーと俺に見惚れたのか?」


からかうような声音で言った。
ハッと二人は我に返る。
けれどアレンは顔を赤くしたまま、近づいてきたリナリーに微笑み。


アレン「その、リナリー、よく似合ってます。綺麗です」

リナリー「あ、ありがとう。アレン君も、かっこいいよ」


互いに顔を赤くし、少し俯いてしまう。
反応が初々しいなと思っていると、リンクに声をかけられた。


リンク「遅くなったのはこんなに手の込んだドレスを作ってたからなんですね」


リナリーともう一人のドレスは窮奇が作ってくると聞いていたリンクが、汽車に乗る直前のことを思い出して納得した。


窮奇「いや、ドレスそのものは麻琴の転生先によってはデザインしたり作るのは慣れてるから、妖力とかも使って一時間で終わった。追加でアクセサリーを作ったら遅くなったんだよ」


その言葉に呆れたものの、女性二人の準備も終わったのだ。
ダンスパーティの開始時間はもうすぐである。
アレンとリナリーもそれを察したのか、恥ずかしそうにしながらも腕を組んでいる。
リンクも窮奇に腕を組まれた。
窮奇以外は少し緊張しながら、舞台である城へと向かった。

余談だが……。
髪が金一色なことを尋ねたら、妖力で黒の部分の色を変えているらしい。
黒髪二人は目立ちそうだからという言葉には、三人は納得しかなかった。

妖が魅せる一夜の夢 8 ( No.346 )
日時: 2020/10/05 16:25
名前: 月詠 (ID: 0K0i.3Zc)

ダンスパーティの舞台となる、城内のダンスホールはきらびやかに飾られている。
参加している客人………特にドレスやアクセサリーで着飾った女性達で色鮮やかに、カラフルに視界に映る。
アレンとリナリー、リンクはそれに少し気圧されるが主が今まで転生した世界にあったものや、生まれ変わってから何回か似たようなものに参加して慣れてる窮奇はというと。


窮奇「(AKUMAはいないが……少し化粧や香水のにおいがキツいな……いや、俺が獣だからか)」


漂ってくる化粧と香水の臭いに内心で嫌がりながらも、AKUMAがいないか確認した。
なお、化粧や香水が濃いとかではなく元々、本来の姿が匂いに敏感な獣であるために敏感に感じ取ってしまうからだ。
考える間にもアレンとリナリー、リンクと窮奇で別行動をする。
が、まぁ、そこは寄生型イノセンスの適合者。


アレン「リナリー、これすごく美味しいですよ…!」

リナリー「もう、アレン君ってば……あ、本当に美味しい」


別行動を始めた途端、食事に釣られてしまった。
恋人に呆れながらも自分も思わず食事をし、微笑む。
それを人外故の聴力で聞きつつ、さりげなく窮奇はリンクから離れた。
周りを見れば女性も意外と自由に動いている。
好都合だなと何気なくリンクを見ると、何人か集まった女性達にしどろもどろに対応するのが見えた。
あまり慣れてないんだなぁと苦笑してしまう。

と、ざわめきが起こった。
そちらを見れば金の髪に青い瞳の、整った顔立ちの青年がいた。
燕尾服やタキシードではなく軍服のような衣装にマントをつけている。
その首にはトップが雫型の水色の宝石のペンダントがある。


「見て、レイル王子よ」

「かっこいいわ…」


なるほど、彼が件の王子か。
納得していると青年……レイルが近づいてきた。


レイル「失礼」


にこり、と笑みを浮かべて声をかけてきた。
密かに何人かの女性が頬を染めたり、窮奇へと敵意を向けてくる。
正直な話、本来は男で人外な彼女からしたらレイルの笑みも女性からの敵意も、どうでもいいものだ。
たかが人間、簡単に命を奪える。

妖が魅せる一夜の夢 9 ( No.347 )
日時: 2020/10/05 16:31
名前: 月詠 (ID: 0K0i.3Zc)

そんなこともせずにこうやって女になり、黒の教団の任務に協力する理由はただ一つ。
主が一部のエクソシストを気に入っている。
故に協力するのだ。


レイル「いきなりすみません、とてもお美しいので思わず…。私はこの国の王子のレイルと申します」

窮奇「…ヂウ、と申します」


中国語で九を意味する言葉を、静かに笑みとともに偽名として返す。
同時に、口調や雰囲気が女性らしいものになる。
音楽が響き始めると彼はにこやかに。


レイル「ヂウさんですか。どうでしょうか?私と一曲…」


そう言いながらレイルが手を差し出してくる。
周りの女性達からは、敵意が込められた視線を向けられるが。


窮奇「ええ、よろしくお願いします」


気にせずにその手を取った。
…………気づかれないようにしながら胸の谷間を見てくるレイルに気づきながら。
女というのは意外とそういう視線が向けられると気づきやすい。
よく気づかないと思ってるな、こいつと内心で爆笑しつつ窮奇はレイルのエスコートを受ける。

ダンスホールの中心の辺りまで移動し、二人は躍り始めた。
ゆっくりと、優雅に。
誰もが見惚れるような美しいダンス。
上品で、しっとりとした音楽が響いているのを確認してから、密かに窮奇は話しかける。


窮奇「王子、少し二人きりでお話がしたいのですが……大丈夫、でしょうか?」


瞳を少し潤ませ、胸を僅かに押しつける。
柔らかな感触に一瞬だけ、でれっと相好を崩したがすぐに戻したレイルはもちろんと頷いた。

妖が魅せる一夜の夢 10 ( No.348 )
日時: 2020/10/05 16:37
名前: 月詠 (ID: 9uo1fVuE)

ダンスを終え、バルコニーへと出た二人。
窮奇の腰にはレイルの片手が添えられている。
どうやら気に入られたようだ。


レイル「それで、話とは何でしょう?」

窮奇「実は……私は黒の教団の協力者として、このダンスパーティに参加したんです…。王子のペンダントがイノセンスというもので、それを渡す代わりに二人の女性がこのパーティに参加するのが条件と聞いて…」


黒の教団の協力者というのは嘘だが、それ以外は本当だ。
嘘にリアリティーを持たせるコツ。
嘘に真実を混ぜるか、真実に嘘を混ぜるか。
その二択だ。
今回は後者を選び、あとは適当に演技でどうにかする。


窮奇「そのペンダントは、黒の教団の方に渡すのですよね……?」


条件そのものは満たしてるんだから、さっさとあいつらに渡せ。
口では疑問符を浮かべるが、心の中では面倒事を早く終わらせたくて仕方なくなっている。
まだ食事もしていないので、何か食べたいというのもあるが。


レイル「もちろんです。気に入っているものなので、首もとが寂しくなりますが…」


少し悲しそうにしながら、窮奇の腰に添えていない方の片手でペンダントに触れる。
じっ、と彼の目を見つめた窮奇は気づいていた。
こいつは絶対に渡す気はないな、と。
何故なら表情は悲しそうなものだが、目の中にある感情は雄弁に物語っていた。
このペンダントは自分のものなのだから渡さない、と。
何故そんな組織に渡さないといけないんだ、と。
このままうやむやにしてしまえばいい、と。

そうですか、と微笑むと彼女は背伸びをする。
両手で頬を優しく挟まれ、近づいてくる彼女の顔にキスされるのかとレイルは内心で期待した。
今まで自分の立場と顔を利用して様々な美女と夜を共にしてきた。
王である父親が勝手に自分の妻を決めるパーティを開いたのは許せないが、それに女を参加させることで違う愛人を作ろうとした。
今日は当たりだし、たまにはこういうのもいいかもしれない。
そう思っていたが。


窮奇「調子に乗るなよ、貴様程度の人間が」


一瞬で無表情になり、彼女の銀の瞳が妖しい光が宿る。
妖しい光を見た瞬間、レイルの意識は消え……。

妖が魅せる一夜の夢 11 ( No.349 )
日時: 2020/10/05 16:43
名前: 月詠 (ID: 9uo1fVuE)

密かに鼻歌を歌いながら、バルコニーから戻ってきた窮奇は女性達から解放されたリンクに近づき、声をかけた。


窮奇「任務が終わったぞー」

リンク「は!?」


思わず大声が出てしまい、慌てて口元を押さえた。
周囲に結界を張り、彼女があるものを見せる。
トップ部分が雫型をした水色の宝石のペンダント……レイルが着けていたペンダントだ。
ぽかんとしてしまった。


リンク「よくイノセンスの回収が出来ましたね…」

窮奇「一曲踊ってから話をして、もらっただけだ」


さらっと、なんでもないかのように言う。
もらっただけって何をしたんだと喉元まで出そうになったが飲み込む。
相手は人間ではなく妖。
人間の常識の範疇で考えると痛い目に遭う可能性が高い。


アレン「あ、窮奇」

リナリー「ここにいたのね」


窮奇を探してダンスホール内を歩き回っていた二人がやってくる。
腕を組んでる姿を見るに、ちゃんとエスコートもしていたのだろう。


窮奇「さっき戻ってきた。それとイノセンスは回収した」

リンク「……もう、ここには用が無くなりました」

リナリー「…思ったより早く終わったわね」

アレン「…ですね」


回収を自分達ではなく窮奇が行った。
そのことに驚くものの、レイルと接触したのはこの中では彼女だけだったので、あり得なくはないかと納得した。
さらに言うなら彼女は月音が自ら呼んだ一人だ。
これくらいはやってのけそうだ。

そう判断し、彼らは城を後にした。

妖が魅せる一夜の夢 12 ( No.350 )
日時: 2020/10/05 16:49
名前: 月詠 (ID: 9uo1fVuE)

数日後。
子猫サイズの小虎姿で、アレン達からイノセンス回収協力の礼の一つとしてもらった、ジェリーが作ったケーキをむしゃむしゃ食べる窮奇。
ホールで食べているのでクリームがついている。
あとでシャンプーだなと思いつつ、月音は二人を見た。


月音「すみません、わざわざケーキを届けてもらって」

アレン「気にしないでください」

リナリー「窮奇がいてくれたから、私達も任務を終わらせることが出来ましたし……ほとんど窮奇がやってくれましたが」


あはは…と苦笑するしかない。
話には聞いていたが、確かに動いていたのは窮奇だ。
が、月音は知っている。
窮奇の動いた理由や、何をやらかしたかを。

まず、窮奇は麻琴と契約している。
恋愛感情ではないが大好きな麻琴が“アレン”と“リナリー”を気に入っていて、地味に気にかけてることも知っている。
そんな二人からの相談は、ちょうど一人で留守番をしていて暇な時にされたもの。
彼からしたら乗らない理由がない。
自分が動けばアレンとリナリーは楽しい思いも出来そうで、暇潰しにもなるのだから。
それに彼は条件内容……ある意味で、契約とも言える部分を見た。
妖ではあるが、彼の今の肉体的には神であるとも言える。
そんな彼がその条件を“約束”や“契約”と見なせばどうなるか…………考えたくもない。

調べたところ、レイルはその女好きな性格や何人かの愛人を囲っていたことや、メイドに手を出していたことが発覚。
どうやら品行方正で通らせていたらしくて次代の王として目されていた彼の支持率はがた落ち。
さらには他の女にも手を出していたと知り、怒った愛人の一人からは刺されもしたらしい。
今は彼の、まだ幼い弟が次代の王の後継者として考えられている。
これらについては窮奇に聞いたら、「遊びだと知って捨てられた女達の憎悪や生き霊とかをイノセンスで防いでたから多分、これから酷くなるぞ」とのこと。
分かっていてやっていたのだ。

なんとも言えないなぁと、月音の口からは乾いた笑いしか出なかった。

妖が魅せる一夜の夢 後書き ( No.351 )
日時: 2020/10/05 16:55
名前: 月詠 (ID: 9uo1fVuE)

後書き



「窮奇を中心とした短編を書いたら長くなったし趣味の一部が出たな」

窮奇「性転換と、最近出来たドレスを着せることだな」

「あと、ところどころ不穏に…」

窮奇「なったなぁ」

「ちなみにタイトル解説すると」


妖=窮奇

魅せる=性転換&二人のドレス姿

一夜の夢=アレンとリナリーは楽しませる、レイルはその後を考えて今のうちに幸せを堪能させる


「こんな感じ。ではまた次回!」