二次創作小説(新・総合)
- 語られるのは昔 ( No.494 )
- 日時: 2022/05/29 21:16
- 名前: 月詠 (ID: 86FuzJA.)
あの後、二人の男がいなくなると気力で保たせていたのか麻琴が気絶した。
慌てて「S.O.N.G.」本部に戻り、救護班に彼女を預けた。
検査なども行われてる間、セレナと窮奇、燐は弦十郎達に話をすることになった。
その内容は、あの男達のこと。
今回は「天羽ワールド」の「S.O.N.G.」とも映像も使った通信が繋がっており、いつでも情報の共有を可能にしている。
扉が開かれ、中に入ろうとしたが。
月音「良かった…っ……みんなが無事で、良かった…!」
燐「おふくろ…?」
心底安堵した、というように月音がその場に座り込み、顔を両手で覆う。
弦十郎達も戸惑う中、先ほどまで殺気立ってもいた燐はぽかんとして義母を見た。
あ、やべ腰抜けたと呟きながら動けなくなった月音を窮奇が持ち上げ、どこからか出したパイプ椅子に座らせた。
弦十郎「少し空気が変わってしまったが……未来君、燐君、窮奇君。装者が到着するまで何があったのか、教えてもらいたい」
未来「はい」
燐「おう」
窮奇「分かった」
そして、三人は何があったか語る。
響を見送ってから本部に戻ろうとしたこと、気づいたら人がいなかったこと、キメラになった燐を簡単にあしらった、セレナ曰くドクター・ウィルが出したノイズと麻琴達が戦ったこと、そして吐血したこと、今度はアルカ・ノイズをばら撒かれたことなど。
未来「あとはセレナちゃん達が到着して、という感じです」
弦十郎「なるほど……ありがとう」
マリア「休みだったから、私が本部に残ればよかったわね…ごめんなさい…」
未来「いえ、大丈夫です」
響「未来達が無事なのは嬉しいけど…麻琴ちゃん……」
月音「麻琴なんですが、あとでうちが引き取ります。治療とかはしなくて大丈夫です」
弦十郎「それはさすがに…」
月音「あいつが吐血したのは肉体的な問題からじゃないんです。だから体を検査しても問題とかはめったに見つからないし、ここにいさせて目覚めるまで待ってから力のこととか聞こうにも最低でも三日は目覚ません。一応、私や窮奇が今の状態のあいつの治し方を知ってるんで早く話も聞けますしそもそも私が把握してます」
どうします?と尋ねられ、弦十郎は考える。
襲撃が起こったのは「立花ワールド」なため、そこでの「S.O.N.G.」内の立場としては彼が最終的な決定権を持っている。
だが、いくつかある聞きたいことは彼女達が関係しているだろう。
しばらく考えたあと、彼は了承することにした。
- 語られるのは昔 2 ( No.495 )
- 日時: 2023/11/04 09:45
- 名前: 月詠 (ID: 86FuzJA.)
麻琴は帰りに引き取るということになり、話が始まる。
まずはセレナからドクター・ウィルと呼ばれた銀髪の男のことからだ。
ウェル『…まず、未来さんを襲ったウィルという男は僕の遠戚らしく、名はウィリアム・フォルトゥーレスと言います。愛称がウィルです』
調「えんせき?」
切歌「って何デス?」
ウェル『遠い親戚ということですよ。と言っても、僕もF.I.S.に所属して、しばらくしてから知りましたが……本人から少し顔が似てるからもしかしたら親戚だったりしてと言われ、なんとなく親に聞く機会があったので聞いたら肯定されましたね』
ナスターシャ『二人は専門が違いますが、仕事などで聖遺物に関しては繋がりがあるので私もよく話していました。落ち着いている時の二人はどことなく雰囲気が似ていましたね』
未来「そっか、だから…」
初めて会ったはずなのにどこかで見たように感じられた理由が分かり、未来が納得する。
壁に背中を預け、腕を組んで難しい顔をする燐と彼に気づきながらも考える月音に気づかず話は続けられる。
ナスターシャ『ウェル博士が専門としていたのは生化学で、聖遺物と生体を繋げる研究をしていました』
マリア「こちらのドクターと変わらないわね。LiNKERなども作れるのか?」
ウェル『そちらの僕も作れたんですね。もちろん作れますよ、副産物であるAnti-LiNKERも。今は奏さんのことも考えて櫻井先生とともにもっと負担を少なくしつつ、効果が強いLiNKERを作れないかと研究してますがことごとく失敗してます』
了子『奏ちゃんの負荷や仕事も考えると、そうそう治験とか出来ないものね。最高でも多くて一週間に一回やるくらいだし』
今日はまとめた茶髪に眼鏡をかけた櫻井了子の状態になった彼女も口を挟む。
思わず、あぁ…、と声が漏れたのは「立花ワールド」の要LiNKER装者組とエルフナインだ。
エルフナインは今はLiNKERについて研究しており、マリア達は“天羽奏”が使用していた“櫻井了子”産の旧式のLiNKERを使っている。
強力である分、負荷も強いそれは今は緊急時の切り札として使われることになっている。
「天羽ワールド」との協力関係が正式に結ばれた際、何本か渡されており負荷が少ない改良型を使うようにしている。
一刻も早く改良型を作らなければとエルフナインは頑張っているが、どうしても上手くいかないのだ。
心配にして手伝おうとするキャロルだが、本人から出来る限り自力で解決したいと言われてしまっていて、動けないでいる。
- 語られるのは昔 3 ( No.496 )
- 日時: 2022/05/29 21:27
- 名前: 月詠 (ID: 86FuzJA.)
話の内容はウェルの専門からウィルの専門へと変わる。
ナスターシャ『ドクターは聖遺物一択でした。どういう力があるのか、何の聖遺物か調べるものでした。その過程で「櫻井理論」を見て、シンフォギアにも着手しました』
セレナ「私達が持つ、神獣鏡のシンフォギアは彼が開発したものになります」
マリア「そこは違うのか…」
思わず小さく呟くマリアの声は誰にも届いていない。
互いの世界で起こった出来事は、把握してはいる。
してはいるのだが、それは大まかな流れのことで細かいところまでは把握が出来ていない。
クリス「神獣鏡、か…」
神獣鏡のシンフォギアは、「立花ワールド」では未来が一度だけ纏い、そして響の身を蝕んでいた方のガングニールの欠片とともに自らが放った光によって消え去ったもの。
一応、まだシンフォギアにはなっていない、未加工の神獣鏡の一部はあるのだが米国が所有している。
「天羽ワールド」ではシンフォギアとして加工された神獣鏡はそのまま存在しているらしい。
ウェル『まぁ、諸々はすっ飛ばして……内容は違いますが共通した名をつけられた、あの戦い………フロンティア事変の後ですね。僕はそちらと同じく深淵の竜宮で隔離されましたが、ウィルは国際裁判のために国際裁判所へ護送車で移動するはずでした』
弦十郎「何者かからの襲撃を受け、そのまま行方知れずになった…」
ナスターシャ『ええ』
真剣な表情で頷くナスターシャ。
捜索はしているものの、ウィルの痕跡は見つからなかった。
まさか、こんな時に現れるとは思わなかった。
- 語られるのは昔 4 ( No.497 )
- 日時: 2022/05/29 21:32
- 名前: 月詠 (ID: 86FuzJA.)
それはソロモンの杖にも言えることだった。
こちらはセレナの絶唱にて休眠状態になり、ウェルとは違う日に深淵の竜宮へと送り込まれるはずだった。
奏とフィーネが護衛としてつきながら、着いた時には既に無くなっていた。
警戒は誰も怠らなかったし、襲撃が無かったのも確認している。
なのにソロモンの杖だけが無かったのだ。
こちらも捜索しているが、見つかっていなかった。
了子『さっき、データを見せてもらったけどあれは確実に起動していたわ。けれどどうやって起動したのかは…』
月音「………それですが、一つ心当たりがあります。確信は持ててませんが…」
「戦姫絶唱シンフォギア」組が話している間、ずっと黙っていた月音が言葉を発する。
キャロル『本当か?』
月音「さっきも言ったように確信は持ててませんよ。その前にウィリアム・フォルトゥーレスのことで気になることがあるんですが」
ナスターシャ『何でしょうか?』
月音「そいつがF.I.S.に所属し始めたのはいつ頃です?」
月音が尋ねると、燐がぴくりと反応する。
が、それを無視して彼女はナスターシャを見る。
ナスターシャ『七年半ほど前ですね…中途半端な時に来たと思いましたし…』
月音「七年半か………時系列としては合うか」
ウェル『時系列…?』
首を傾げてウェルが聞き返すと。
燐「そうだな、忌々しいことによ」
ウィルと会った時のように、燐から殺気が放たれた。
が、抑えられているのか僅かであり、反射的に反応したのも装者達と弦十郎のみだ。
燐「まず、俺の過去について話す必要がある。俺が元人間のキメラだってのは知ってるな?」
エルフナイン「はい。その情報は知っています」
代表して答えるエルフナインと、頷くシンフォギア組を見て、ならいいと彼は呟く。
- 語られるのは昔 5 ( No.498 )
- 日時: 2022/05/29 21:39
- 名前: 月詠 (ID: 86FuzJA.)
壁から背を離し、組んでいた腕を解く。
片手を掲げると、そこだけキメラ化する。
人と似た形をしながらも紅い鱗に覆われ、指の先には黒く鋭い爪が生えている。
燐「俺がキメラになったのは八年前で十歳の時、小学生の頃だ。学校から帰ってる最中に拉致されたんだ。なんか、キメラを現実世界にも生み出そうとか考えた研究者が集まった機関だった……らしい」
手が人のものに戻った。
十歳の時と聞き、シンフォギア組は絶句する。
エルフナインとキャロルも幼い姿であるが、二人には事情がある。
だが、燐は拉致されたと言った。
つまり、それは無理矢理にということで…。
窮奇「燐、少しいいか?現実世界にも、ってことはお前の世界は魔法などの異能が無い、あるいは表には隠されてる世界ってことか?」
燐「隠されてる世界だな、俺も自分の能力とかおふくろに聞くまで知らなかったし。まぁ、あのことが無ければ今の俺は確かにいないのは自覚してる」
月音「能力は目覚めないで平凡な男の子としての人生を歩むはずでしたからねぇ」
窮奇が口を挟んで質問すると答えられ、月音はなんとも言えない表情をする。
元々、月音が言ったように燐は能力を目覚めさせず、どこにでもいるような者として生きる運命だった。
キメラを生み出そうとする研究者に拉致された瞬間から、狂ってしまい、世界の理から外れてしまったのだ。
燐「発現した能力は二つ。様々なものを融合させる能力「融合」と、考えた力などを付加させる能力「付加」……ま、分かるだろ?」
了子『それって、燐くんは…』
燐「そう、俺は自分の能力で奴らが用意したもの……どこから連れてきたのか、ドラゴンと悪魔と融合した。あとは面白かったのか、それとも研究の一環かは知らねぇが剣に槍、ナイフまで融合するようにさせられたな」
思い出すように斜め上を見ながら語る燐。
燐「………拉致されてから二ヶ月。人間がベースだから人間と変わらない知能を持つ成功被験体として監禁されて様々な実験をされていたが、機関を壊滅させた」
何でだか分かるか?と、感情が抜け落ちたような表情になる。
- 語られるのは昔 6 ( No.499 )
- 日時: 2022/05/29 21:46
- 名前: 月詠 (ID: 86FuzJA.)
けれど、すぐに自嘲するような笑みを浮かべ、告げた。
燐「お前の家族は処分した、我々に従えって言われたんだよ」
響「え……」
思わず響の声が漏れた。
処分とはどういうことか?
燐「最初は処分ってのは何なのか分からなかった、だから聞いたんだよ。そしたらあいつら、殺したということだってあっさり言ってきて……気づいたら、言ってきた奴の首が取れてた」
え、と誰かの声が漏れる。
燐「一緒にいた奴が慌てて逃げていったけど、どうでもよかった。父さんと母さんと、生まれてくるはずだった妹なのか弟なのか、まだ分からない子を奪ったんだ、だから、だから俺は……!」
月音「燐」
当時の感情を思い出したのか、虚空を見ていた瞳は虚に、瞳孔が縦に細長くなっていく。
頭からは角が少しずつ生えていき、ミシミシ、メキメキと音がして服の背中部分が膨らんでいく。
鱗も少しずつ出現してきて、ゆっくりとキメラ化しようとしていくが月音が名を呼ぶとそれらがピタリと止まる。
目を閉じて両手で顔を覆うと、深くため息を吐き出しながら人の姿へと戻っていった。
燐「…………すまん、荒ぶった」
弦十郎「いや…」
燐「続きだ。結論から言えば、研究機関を壊滅させた。研究者も、俺と同じように拉致された被害者も全員殺した。中途半端にキメラになってしまった者、死なないようにされながらも体をぐちゃぐちゃに弄られた者、精神が壊れた者……被害者はそんな人達しかいなかった。もう戻れないって、帰れないって泣いてもいた。だから……殺してやるしかなかった。理性も保てなくなったキメラにされた人を、虫の息で死にたいと泣く人を、ずっと笑い続けたり頭を打ち付けてたりする人を。……あの人達が助かる方法を、俺は知らなかった。単純に、殺す以外の方法を知らなかった。「融合」も、「付加」も役立たないって直感で分かった」
顔を覆う両手の下で自嘲する笑みを浮かべ、燐は言葉を続ける。
目の前にある手は、赤黒く染まったように見える。
幼かったとか、関係ない。
自分は人殺しの化け物だと、自覚している。
だって、助けられなかった。
被害者達を家族の下にかえすなんて、しなかった。
- 語られるのは昔 7 ( No.500 )
- 日時: 2022/05/29 21:52
- 名前: 月詠 (ID: 86FuzJA.)
燐の過去にシンフォギア組は何も言えなかった。
何を言えと言うのだろうか?
短い付き合いでしかない自分達の言葉が、彼に届くとすら思えないのに。
燐「それから機関の持つ研究所……あ、俺達がいた場所な?とりあえずドラゴンの力で燃やして逃げてたら、おふくろに会って拾われて今に至るんだが」
窮奇「あっさり切り替えたな」
燐「こうでもしないと俺の精神が保たん、帰ってから寝る。そんな俺を担当していたのが奴……ウィリアム・フォルトゥーレスだ」
ウェル『ちょ、ちょっと待ってください!』
顔から両手を離し、少し荒んだ目をした燐がウィリアムの名が出るとウェルが慌てて声を掛ける。
だって、彼の過去を聞くに。
ウェル『ウィルは燐くんが、その』
燐「言いたいことは分かる。確かに俺は奴の首を取った、感触とかの覚えはないがこの目でしっかりと別々になったのを見ている」
ウェル『だったら……!』
燐「魂は同じだが、肉体は違う存在だ。俺が殺したあいつは女だったし、髪は黒かった」
へっ?、とウェルがきょとんとする。
だが言葉の意味に気づいたのか、すぐに真剣な表情になる。
ウェル『もしや、リインカーネイション!?』
了子『可能性はある。けれど、私は誰にもこのシステムの技術を教えたことはない』
了子の姿のままだが、フィーネの思考になった彼女も同じことを考えて否定する。
輪廻転生システム、リインカーネイション。
それは先史文明期の人類であるルル・アメルの巫女であり、創造主たるカストディアンへの強い愛慕から、未来永劫にフィーネを再誕させ続けるために構築されたシステム。
後の代のフィーネはリインカーネイションにより、彼女としての自我や知識を上書きされた人物達であり、櫻井了子もその一人だ。
リインカーネイションの特性として、フィーネに目覚めた者の内面も次代の者に引き継がれるという特性がある。
そもそもの話だが、このシステムにはフィーネの遺伝子構造を持つ者が聖遺物の放つアウフヴァッヘン波形に触れる必要がある。
ウィリアムにはそんな様子すら見られなかった。
- 語られるのは昔 8 ( No.501 )
- 日時: 2022/05/29 21:58
- 名前: 月詠 (ID: 86FuzJA.)
どういうことだと混乱しそうになったが、月音が言葉を放つ。
月音「ソロモンの杖と同じく、心当たりがあります。こっちは断言可能ですね」
窮奇「レジークがいたからな」
月音の言葉に窮奇が頷く。
クリス「まずそのレジークって誰なんだよ」
窮奇「あの場でも言ったが、麻琴の相棒と俺を殺した者だ。今の俺はこの肉体に生まれ変わってて、力や記憶、姿は人間で言うところの成人した頃に覚醒したものだ」
月音「簡単に言っちゃいますと奴は神……それも、複数の世界を生み出し、破壊した神です」
神、という単語に全員が驚く。
同時に疑問が湧いた。
複数の世界を生み出し、破壊したとはどういうことなのか?
月音「これはまだ、この次元だけでの話ですが奴は元々創造するとかそういうのに向いてない神なんですよ。自分以外の全てはおもちゃ、自分基準で面白かったり楽しかったら全てOKという性格でもありまして……ほんと、何で奴が創造神の力に覚醒したんだか…」
窮奇「お前でも分からないことあるんだな」
月音「あるに決まってんだろ。んで、奴が創った世界もまた酷くて……良くて子供には聞かせられないようなドピンクワールド、悪くて常に血の臭いや味がするバトルワールドなんですよ」
セレナ・調・切歌・エルフナイン「ドピンク?」
月音「あなた達はそのままでいてください、本気で」
首を傾げる四人に真顔で告げる。
何人かは察したのか、あー…という表情だ。
後にその何人かは誰もいないところで確認したところ、死んだ魚のような目で無表情に頷く姿を見て苦虫を噛み潰したような表情になるのだった。
- 語られるのは昔 9 ( No.502 )
- 日時: 2022/05/29 22:10
- 名前: 月詠 (ID: 86FuzJA.)
少し疲れたようにため息を吐き出してから、説明の続きをする。
月音「まぁ、秩序や道徳なんてものはまったく無い上、管理する気も無い奴を対である破壊神が何度も忠告したらしいのですが……最後に警告をしに行った破壊神の、その後の姿を見た者はいないんですよね。少しあとに、対の破壊神の力を操って、奴が自分が生み出した世界を全て破壊したという情報は入りましたが」
キャロル『それは…』
月音「察しますよね。対を殺して、その力を奪ったんですよ。おかげでこの次元内の神々や境界の住人の中でも管理者に当たる者は要警戒対象として扱っています」
若干疲れた表情になりつつ、バトンタッチとでも言うように窮奇の腕を軽くポンと叩く。
窮奇「俺達は月音が言ったようなことは知らなかったがな。異世界を巡っていたとしても、一つの世界を拠点にしてるとかじゃないから情報が入らなかったというのもある」
引き継ぐように、窮奇が言葉を紡ぐ。
未来「……あの、殺したってのは、どういう…」
窮奇「………レジークは最初、麻琴に近づいた。麻琴は警戒していたが、人懐っこい性格を演じていた奴は時間をかけて信用を得ていって、友人という関係を築いた。俺とあいつも疑っていたが、麻琴が警戒を解いたことと友人になってしばらくしても何かしてくる気配が無かったから、警戒し続けても無駄だと話し合ってやめたんだ」
今になって思えば、解かないのが正解だったんだよなぁ。
少し遠い目をしながら呟いて。
窮奇「……今から言うのは、俺の主観で、覚えてなかったり知らない部分もある。俺達が警戒を解いてからしばらくして、麻琴が出かけてる時にレジークが来たんだ。もうそろそろ家に着くって連絡が来てたから、あいつが中でゆっくりしていけって上げたんだよ。んで、何か飲み物とか用意しようとしたら突然あいつの腕が根本から弾け飛んで、すぐに俺が武器を構えたが……その、人によってはわりとあれだから柔らかく表現すると物理的なハートキャッチを俺がされた」
月音「ウチが言うのもあれだが、お前よくそれ自分で言えるね」
窮奇「自分しか説明出来るやついないからな。それからすぐに麻琴が帰ってきて、血の臭いがしたのか走る音がして……部屋に飛び込んできた麻琴の姿が最後に見えて、何か言ってるのが聞こえたのが最後だな。そこからは死んだから覚えてないが、再会した麻琴の隣にいないから、あいつも死んだのは察したが」
思い出したのは、再会した時の主の姿。
常に狂気と正気の境が危うくなってしまった、壊れたような姿。
たった一度、“窮奇”として転生してから記憶も力も、姿も取り戻してからほとんどを眠り続けていた。
その間に何度転生したのか?
自分には分からない。
だからその世界での総てを捨てて、再び彼女の下に戻ったのだ。
- 語られるのは昔 10&後書き ( No.503 )
- 日時: 2022/05/29 22:09
- 名前: 月詠 (ID: 86FuzJA.)
俺の過去はいいとして、と窮奇が告げる。
窮奇「なんとなく分かる奴は分かると思う。レジークという神が、燐が殺したはずの女と同じ魂を持つウィリアム・フォルトゥーレスとともに姿を消した。おそらくだが、燐が殺した奴の魂をレジークがウィリアム・フォルトゥーレスの肉体に入れたんだろう」
月音「創造神の力を持ってるなら、可能ですからね。違う人物の魂を、違う肉体に入れるなんて荒技は人外……特に死後に関わる者じゃないと失敗しますしね」
弦十郎「なるほど……ん?キャロルくんやエルフナインくんは…」
月音・窮奇「二人はある意味で例外」
弦十郎の言葉に真顔で答える二人。
そ、そうかと戸惑ってから、真剣になる。
弦十郎「そうなるとソロモンの杖の起動は…」
月音「奴が関わっている可能性がありますが、確信はないんですよね。だって、フォニックゲインとか必要ですし…」
腕を組んで難しいと言いたげな表情をする。
それからもいくらか話し合いがされ、ソロモンの杖の起動に関する謎は解けなかったが、それでもウィリアムとレジークの情報は共有されることが決定した。
既に「S.O.N.G.」本部内に月音が何でいたのか、誰もが理由を聞くのを忘れながら。
─────
後書き
長かった!
今回はちらっと「天羽ワールド」でのG編のいくつかと、燐の過去、窮奇視点での麻琴側の過去を出しました。
燐はね、本当は実の家族の話は出る予定なかったの……何で出たんだろう?
ではまた次回!