二次創作小説(新・総合)
- 番外編 それぞれの話 ( No.524 )
- 日時: 2022/08/11 01:44
- 名前: 月詠 (ID: 86FuzJA.)
『神の使徒』
風都でのノイズ出現と、未来への襲撃があった日の翌日。
境界の館にある、麻琴の部屋。
その前に、一人の青年が立っていた。
ノックもせず、声かけもなく扉を開けて中に入る。
ふわりと、甘い香りが届く。
フルーティーで、僅かに石鹸のような清潔感もある。
何の香りかは分からないが不快感はないので、無視して部屋の中を見た。
扉周りはまるで玄関のようになっており、小さな靴箱まである。
それ以外は和室となっており、扉のところから見える部屋の奥には庭に面する縁側があり、ガラスの窓と障子の二重構造で外が見えるか見えないか出来るようになっている。
今はどちらも閉められ、部屋の真ん中で麻琴が座っていた。
片手には火がつき、紫煙をくゆらせる煙管が持たれていて近くには煙草盆と呼ばれるものがある。
彼女の前にはグラスが置かれている。
麻琴「………何の用だ、神田」
神田「聞きたいことがある」
気だるそうに麻琴が問いかけると、青年────神田ユウが言葉を発する。
麻琴「聞きたいことぉ?こちとら、昨日のあの野郎のせいでくっそ気分悪いしお手製の精神安定剤手放せねぇしお神酒飲んで回復したとはいえ体調も悪いんだよ、手短にしろ」
神田「昨日ノイズと戦う直前にイノセンス発動と呟いたと燐から聞いた」
普段より荒い口調だが普段からよく変わるので、いつものことだなと考えた神田は本題を切り出す。
それを聞いた麻琴は剣呑に目を細め、煙管の吸い口を口にする。
ゆっくりと吸うのを見ながら、彼は言葉を続ける。
神田「あいつが昨日、館に帰ってきてからこっちに連絡をしてきた。イノセンスの一つがお前に適合したのか、って」
麻琴「……確かにイノセンスではあるが諸事情あって別の「D,Gra-man」世界から持ち越したものだ、貴様らのところではない」
神田「別の世界だとしても、イノセンスには変わりない。適合者なら黒の教団に連れていくだけだ」
麻琴「私を黒の教団に?ふふ…」
煙管を口から離して煙を吐きながら、彼女は笑みを浮かべる。
何がおかしいのかと思っていたが、目が笑っていないことに気づいた。
麻琴「別に連れてかれるのは構わない、イノセンスを持ち、適合してる以上は仕方ないからね。けど、エクソシストとして本部に所属させるのはおすすめしない、世界の均衡を保つためにも」
神田「均衡を…?」
麻琴「ああ。ノアの一族達に破壊されるから残りの正確な数は分からないが、イノセンスの総数そのものは109個だ。それはこのイノセンス……黒白を渡された「D,Gra-man」世界でもそうだった」
神田「渡されたとは誰にだ?」
神田の頭に元帥達の顔が浮かぶ。
誰からだと考えていたが、嫌そうに言われた言葉がその考えを否定した。
麻琴「違う、その「D,Gra-man」世界の神だ」
神田「………は?」
麻琴「転生の旅が始まる前の人生での話だが、その神がいる「D,Gra-man」世界に呼ばれてエクソシストとして戦うことになったんだ。本来にはないイレギュラーが起き、同じようにイレギュラーを投入したが変わらなかった。だからさらなるイレギュラーをってことで選ばれたのがウチだ」
流れるように自分の近くにある側のグラスを掴んで僅かに持ち上げるが、中身が空なのを思い出したのかすぐに戻した。
麻琴「そして渡されたのがわりと稀な憑依型という、実体を持たずに魂に憑依して解放段階や技によって寄生と装備のどちらの型にも近いものに変わる黒白だった。まぁ、実体が無いから結晶型にはなれへんし出来もせんけど」
神田「憑依型なんて型は存在しない」
麻琴「それが世界によってはあるんだよ。一番びっくりしたのは憑依型だらけの「D,Gra-man」世界だったね、寄生型や装備型のがレアっていう状況だったし」
神田「………想像すら出来ないな…」
麻琴「でしょうね。まぁ、話が逸れたが、ウチの持つ黒白を含めてしまうとイレギュラーとなって110個になる。んで、本来には無い数だから一度でも発動させれば均衡も崩れやすくなる……出来れば「D,Gra-man」世界でなるべく使いたくないんだ、ウチだってお前達を災厄や災害に遭わせたくないんだよ、もう。………とにかく、連れてくにしても今日は行くことは出来ない、月音から最低でも明日までは館内待機を言い渡されてる。だから後日、改めての連行を願う」
災厄や災害とはなんだと聞く前に言い切られ、直後に神田がいた場所が変わる。
思わず見回すと、館内の玄関辺りだと分かる。
と、どこかに行っていたのか窮奇が玄関から中に入ってきた。
窮奇「ん?神田?どうし……あぁ、麻琴のところに行ったのか、薄いけどあいつの精神安定剤の匂いがする」
神田「精神安定剤?………そういえば手放せないとか言ってたが」
今は人の姿だが、本来は獣の姿であるためか神田についた僅かな匂いで分かったようだ。
窮奇「蝋梅……花の匂いがするからな。特に気に入ってる匂いのやつは今朝に使い切ったと言ってたからな、神通力とか妖力などの込めた力の量や組み合わせで成分が変化する薬草も切れたとも。だから収穫してきてたが………黒白関連か?」
神田「そうだ」
窮奇「なるほど…ま、今日はやめといてくれ。体調が良くないのもあるし、煙管を手放せるまでにはまだ落ち着いていないんだ。お前が来たからには落ち着いたら自分から黒の教団に行くぞ。俺がこう言ったからには、必ずな」
にぃっ、と彼は笑った。
後日、首根っこを掴まれた月音とともに麻琴が黒の教団へ行くものの、なぜか中央庁にも寄ってからだった。
中央庁で何かあったのかは月音と麻琴しか知らないが、彼女は黒の教団に所属しながらも異世界でイノセンスを見つけた時の回収、普段は教団内ではなく異世界での待機という二つの指令を中央庁から直々に下されていた。
- 番外編 それぞれの話 2 ( No.525 )
- 日時: 2022/08/11 01:58
- 名前: 月詠 (ID: 86FuzJA.)
※シンフォギアの原作とゲームアプリのネタバレあり注意!
※原作生存キャラの死亡表現、原作死亡キャラの生存表現あり注意!
『反転したが故の歴史(G編)』(月音side)
急激な神通力不足で力のバランス崩壊から回復した麻琴が「D,Gra-man」世界でエクソシストになるも、異世界担当にされた日から数日後。
私は自室で「天羽ワールド」での「フロンティア事変」……G編の資料を読む。
月音「起動成功はしたけれどネフィリム……アルビノ・ネフィリムの暴走、セレナの歌う絶唱によって基底状態になったのは変わらないが…」
変わったのは、そのすぐ後。
「立花ワールド」と同様にアガートラームのシンフォギアの武装を解き、彼女の上に瓦礫が落ちそうになった。
その違いは、止めようとしたナスターシャが幼い“マリア”より、さらに離れた後方にいてしまっていて止めるには間に合わなかったこと。
幼い“マリア”が、セレナの元に駆けつけるのが間に合ってしまって、火事場の馬鹿力か何かか………彼女と位置を入れ替わるように引き寄せ、走ってくるナスターシャに向かって突き飛ばした。
なんとかナスターシャに受け止められ、すぐに“姉”の方に顔を向けたセレナが見たのは、こちらを見ながら安堵した笑みを浮かべたまま“マリア”が瓦礫の下敷きになった瞬間だった。
月音「そのショックと、アルビノ・ネフィリムを止めた時に負った瀕死の重傷で治療手段が整うまで七年間コールドスリープ状態にあったのは、XDと同じ…」
違うのはいくつかある。
セレナは目覚めた時から“マリア”が亡くなっているのを知っていること。
“暁切歌”と“月読調”の二人がいて、LiNKERが必要とはいえ装者になった。
ゲームアプリの方では治療をしたのはアドルフ博士という男だったが、「天羽ワールド」ではウェル博士がその立場にいること。
そして……ウィリアム・フォルトゥーレスがいること。
月音「調べはついてたが、まさか死者の肉体に入れるとはなぁ…」
燐の能力を目覚めさせ、家族を殺した女。
八年前に燐を保護した際に話を聞き、経歴について調べたがおかしい点があったのだ。
彼女は理系に進んでいたわけじゃなく、そもそも美術系の道を歩んでいた。
大学も美術系だったが、二年生の時のある日に突然失踪した。
捜索願も出されてたっぽいな…。
けれど、世界の情報を調べたら彼女はその日に殺され、生き返ったという記録が肉体情報のみで残されてる。
魂関係の情報はそこで途切れていたが……。
月音「奴が関わってるなら、納得だな…」
思わずため息が出そうになったが、資料の続きを読むことにした。
とは言うが、「F.I.S.」を擁する国が月が地球の引力に引っ張られ、落下してきていることを彼ら彼女らに伝えた。
それで同じように聖遺物の研究などをしている二課に協力を要請。
それで日本に来た「F.I.S.」と二課は協力体制になり、作戦をたてることになった。
と言ってもわりと難航したらしい。
そりゃそうだ、シンフォギアとて通常のままでは宇宙には行けない。
エクスドライブモードなら行けるが、そのためには大量のフォニックゲインが必要になる。
そのため、どうしてもいい作戦が浮かばず…。
悩む彼ら彼女らへと、ウィリアム・フォルトゥーレスが提案したのは…。
月音「ネフィリムを再起動させ、その心臓と細胞を採取。採取した細胞はLiNKERとして加工し、誰か一人にそれを摂取させて一部をネフィリムと同化。そしてネフィリムの心臓を、フロンティアに取り付け、フォニックゲインを集め……同化した人物が操り、落下してくる月に向かって照射し、月遺跡を起動させて元の位置に戻す」
かなり無茶苦茶ではある。
それにフロンティアとは何か、という質問もあった。
─────フロンティア。
鳥之石楠船神、もしくは天鳥船神と呼ばれる、日本神話の神であり神が乗る船の名前。
シンフォギアでは通称・フロンティアと呼ばれている、巨大な星間航行船だ。
日本近域の海中深くに、古代の超常術式によって封印されていた。
封印の解除には神獣鏡が、再起動にはネフィリムが必要だがどちらも既に確保されている。
それもフィーネが月を破壊した後のことを考えて…。
- 番外編 それぞれの話 3 ( No.526 )
- 日時: 2022/08/11 01:56
- 名前: 月詠 (ID: 86FuzJA.)
ある程度詳細を聞いてから、その作戦は難色を示された。
当然だ、聖遺物と同化するなんて「天羽ワールド」で考えられない……「立花ワールド」は、響という前例がいたからかすんなりと受け入れられてた気がする…。
だが、「天羽ワールド」で聖遺物……というか、ノイズと同化した前例があるせいで、強くは言えなくなっていた。
「ルナ・アタック事変」でのリーダー、あの異形だ。
ある種の融合症例となっていた、あいつ。
そのデータがあるせいで二課だけでなく、ウィリアム・フォルトゥーレス以外の「F.I.S.」メンバーも難色を示したままでも頷くしかなかった。
それに封印解除に必要な神獣鏡は、適合した装者がいた。
LiNKERが必要とはいえ、まさかの「ダブルコントラクト」という“月読調”がそうだった。
まさかの人物に私が頭を抱えたのは言うまでもない。
ちなみに念のため私と「S.O.N.G.」で「立花ワールド」の調について調べたが、シュルシャガナだけに適合してたと伝えよう。
月音「そして、この作戦に決まってしまった…」
しばらくはネフィリム起動のためにフォニックゲインを貯めたり、作戦の細かい場所を決めたり…とした。
ウィリアム・フォルトゥーレスが何を考え、やっていたか……本人以外は気づかずに…。
作戦の一部決行、当日。
万が一に備えて装者達はシンフォギアを纏いながらのネフィリムの起動は何故か成功したものの、さらに何故か奴は大人しかった。
大喰らいであり、数多の聖遺物を喰らうはずの奴が何故?
月音「……その答えが奴とは、な」
大人しかった理由は、一つ。
ウィリアム・フォルトゥーレスに協力してるあの神が、起動した瞬間から遠く離れた場所からネフィリムに自分の力の一部を注ぎ込んで喰わせていたから。
思わずゾッとする。
…………力の一部だけとはいえ、あのネフィリムが喰らっているのに…。
回復期間があったとしても、大人しくなるほどの量を注いでいたのだ。
奴は、どれだけの力を持っているんだ?
もし、また奴と戦うことになったら……。
月音「…ダメだ、思考が飛びやすいな、今回は」
ため息を吐き出しつつ、続きを読む。
大人しいネフィリムに彼以外の「F.I.S.」メンバーだけでなく、話は聞いていた二課も不思議に思いつつ心臓と細胞を採取した。
ネフィリム本体に関しては、神獣鏡をシンフォギアとして纏った“月読調”がその光で消滅させた。
というのも、心臓を抜き取った瞬間。
奴が自分の力を喰らわせるのをやめたからだ。
最起動した瞬間から大人しくなるほどの量を注がれ、なのに短い時間でそれは消えた。
もし、人間でも腹が満たされている状態なのに、突然空腹になったらどうなるか?
もちろん、少しでもいいから何か食べようとするだろう。
それはネフィリムも同じだった。
大喰らいでもあるネフィリムは、聖遺物の欠片でもあるシンフォギアを纏った装者達を狙った。
けれど“月読調”のおかげで全員が無傷で済んだので助かったが…。
月音「そして、次はフロンティアの封印解除に…」
これに関してはフィーネやF.I.S.が場所を知っていたので、休憩を挟んでから向かったらしい。
休憩中に装者達は交流をしていたとか。
あぁ、確かに必要だな…と私は納得した。
シンフォギアでのバトルスタイルは一人一人で異なる。
同じアガートラームを使うマリアとセレナも、動画で見てる限りでのゲームの戦闘モーションの動きとか違う感じだし…。
セレナは短剣を順手で持ってて、マリアは短剣を逆手で持ってる感じだし…。
それに絶唱などでの特性も違う。
アガートラームは同じ「エネルギーベクトルの操作」ではあるが。
響のガングニールもそれに似たようなものであるのだが、奏のガングニールはアームドギアを介し、渦状エネルギーを放つ貫通特性の高いタイプだ。
そうでなくとも、アームドギアなどで得意不得意が出てくる。
そうなると装者が複数でいた場合、連携が鍵になってくる。
だから交流するのはむしろ推奨というか……あ、思考が逸れた。
月音「あ、封印解除は「立花ワールド」と同じなのか」
神獣鏡の装者の歌と、機械的増幅を組み合わせることで封印の解除が成功してから。
フロンティアに降り立ち、F.I.S.組や奏が中枢区に入り、ジェネレータールームでネフィリムの心臓を設置し。
ナスターシャと護衛の“暁切歌”と“月読調”は制御室に、ウェル博士とウィリアム・フォルトゥーレスと護衛のセレナと奏はブリッジに移動した。
移動するまでの間にネフィリムと同化するための、細胞入りのLiNKERをウェル博士が自分の左腕に打って瞬く間に異形の物へと変質し、ネフィリムと人間の間の腕へと変わり果て。
彼がブリッジで、左腕を使ってネフィリムの心臓を通してフロンティアの操作をしようとした瞬間。
ウィリアム・フォルトゥーレスは本性を表した。
月音「セレナを人質に取った…」
これがナイフとか、そういうのだったら良かったかもしれない。
いくら装者とはいえ幼いセレナには恐怖だろうが、奏が一緒にいるのだ。
だが、ウィリアム・フォルトゥーレスが使ったのは弓のような見た目のもの………ソロモンの杖だった。
どうやら常に隠し持ち、使う機会を探していたらしい。
原作でもウェル博士が隠し持ってたことがあるが……一回だけだし、あっちは常にじゃなかったぞ?
ソロモンの杖を使い、ノイズを大量に出してから奴はフロンティアを操り月の落下を早めるように言った。
いくら左腕がネフィリムと混ざったようなものとはいえ、そこ以外は人間。
装者達だってシンフォギアを纏わなければ、ノイズに触れられたら炭素化して死んでしまう。
セレナは口の中に、用意してあったらしい布の塊を入れられて手で押さえられてるため聖詠も歌えなくなっていた。
月音「そして悩んで…悩んだウェル博士は、月の落下を早めた」
「立花ワールド」の彼と同じようなやり方で……。
- 番外編 それぞれの話 4 ( No.527 )
- 日時: 2022/08/11 02:33
- 名前: 月詠 (ID: 86FuzJA.)
制御室で異変に気づいた三人が通信を繋げ、ウィリアム・フォルトゥーレスへと疑問を投げかけた。
当然だろう、今の今まで本性や野望を隠していたのだから。
月音「その野望とは、英雄になること…」
「自分の管理できる数の人類のみを助け、その中で英雄となる」。
原作や「立花ワールド」のウェル博士と同じ野望。
月音「「そのために昔、キメラも造ったが失敗した。今度こそは成功させる」……」
おそらく、このキメラは燐のことだろう。
あぁ、忌々しい…。
確かに奴が燐の人生を壊し、能力を開花させ、キメラにさせなければあの子は私の子にはならなかった。
けれども、感謝なんて感情は湧かない。
燐は大人を信じなくなった時があった、その手を血に染めてしまった、背負うはずがなかったものを背負った。
だから、絶対に赦すことなど出来ない。
月音「対して、「天羽ワールド」のウェル博士は…」
彼も「英雄になる」という野望があるが、小さなことからコツコツと積み上げていきたいと考え、行動していた。
大衆に担がれるような大きなものじゃなくても、誰か一人にとっての英雄でもいいと。
なれなかったとしても、それなら不幸な者がいないのだとも考えていた。
F.I.S.に所属したのもそういう考えがあったし、専門がそうだったのもレセプターチルドレン達や装者達の負担を減らせないかと考えていたからだ。
二人はLiNKERが必要とはいえ、装者が出たからレセプターチルドレン達の待遇もウェル博士が掛け合い、ある程度良くなった。
もしまた、この子達から装者が現れることがあったらという理由などもつけて。
月音「……君はもう英雄だよ、ウェル博士」
じゃなかったら、あの子達は…。
あぁ、また思考が逸れた…。
ウィリアム・フォルトゥーレスの野望が分かった制御室の三人は、エネルギー等の制御を試みることにした。
その間にも奏が聖詠を歌う素振りを少しでも見せると、ノイズをウェル博士に近づけるウィリアム・フォルトゥーレス。
膠着状態に陥り、睨み合いの状況を動かしたのはセレナだった。
何かあった時用に先の面積が狭く、少し高めになったヒールの靴を履いていたため上手く全体重を乗せて勢いよくウィリアム・フォルトゥーレスの足の指先を踏み、拘束から逃れた。
口の中にある布の塊を吐き出すと同時、チャンスと見た奏とともに聖詠を歌ってシンフォギアを纏った。
瞬く間に殲滅されるノイズに恐れをなしたのか、逃亡するウィリアム・フォルトゥーレス。
拘束するために奴を奏が追いかけた後に、安堵からかウェル博士がその場に座り込んだのをセレナが慌てて介抱したが…。
ネフィリムが、暴走を始めてしまった。
それはウェル博士がちらとでも考えてしまったこと。
膠着状態に陥った時の、状況の離脱。
その「離脱」を、ネフィリムは切り離すことだと受け取り────ウェル博士との接続を切り、フロンティアのエネルギーを喰らい始めた。
どんどんと消えていくエネルギーに、制御室にいた三人は慌て出す。
当然だ、このままでは月を、月遺跡を起動させて戻すことが出来ない。
どうするべきか悩んだ末、彼女達が選んだのは電波ジャックだった。
電波ジャックにより画面に映ったセレナは通信で小さく話し合いながらも代表としてまずは詫びをし、次いで告げたのは月の落下。
それを防ぐため、みんなに歌を歌ってほしいと。
月音「まさか、一発で成功するとはな」
まぁ、一発でとはいえ実際には葛藤があったらしいが。
当たり前だ、作戦にはなくて突発的な行動、重大な立場になってしまったこと、失敗して月の落下を防げないかもというプレッシャー。
それらが重なり、セレナは声が上手く出なかった。
その間にも月は落下していて……。
- 番外編 それぞれの話 5 ( No.528 )
- 日時: 2022/08/11 02:33
- 名前: 月詠 (ID: 86FuzJA.)
それらに押し潰されかけた時、幻影か、はたまた……。
亡くなったはずの“姉”が現れた…。
何をやりたいのかと問いかけられ、彼女は答えた。
別世界の姉と、同じ言葉を。
月音「……「生まれたままの感情を隠さないで」…か」
奇しくも、その言葉も別世界の“妹”と同じもので。
優しく微笑む“マリア”が手を取る姿に、セレナは一つの歌を歌い始めて声が重なっていった。
歌の名は「Apple」……マリアとセレナの故郷に伝わるわらべ歌。
静かで穏やかな旋律に、世界中の人々が共鳴し、同じ歌を奏でる。
そう、言語が違ったりする、世界中の人々が…。
月に照射し、月遺跡を起動させるに充分な量のフォニックゲインが集まるが、ネフィリムが喰らいつき始めていく。
そうなれば、残る手段は一つだった。
────制御室のある部分をフォニックゲインとともに切り離し、月へと直接ぶつけて起動させる…。
それをナスターシャが判断し、“暁切歌”と“月読調”に制御室を出て離れるように伝えようとして……三つの待機形態のギアペンダントを渡され、出されてしまった。
ナスターシャと同じことを“二人”も思い、だからこそギアペンダントを渡して出したのだ。
動揺し困惑する彼女へと、閉ざした扉越しに“二人”は告げた。
ダブルコントラクトだからこそ二つのシンフォギアが使えても、適合係数が低いから負荷は強かったこと。
例え体への負荷を和らげるように造っても、体内を洗浄してもLiNKERの薬害は体を蝕んでいたこと。
既に寿命が近いのを察していたこと。
血すらも吐いていたのを見て、理解したこと。
対のシンフォギアに適合する者として、親友として最期まで支えると決めたこと。
残り少ない時間で一緒に様々なことを学び、今日のような日に備えていたこと。
それら全てを。
絶句するナスターシャをよそに“二人”はなんとか僅かな制御権を奪い返したウェル博士へとナスターシャの避難と、制御室の区域を月へと発射させるように告げた。
止めようとするセレナや、躊躇うウェル博士に時間がないと言い切り。
月音「「自分達の思いを無駄にさせないで」…」
死の恐怖という思いはある。
生きたいと望む思いはある。
だが、それらを大切な、大好きな人達がいる世界を守りたいという思いが上回った。
真剣な声で言われ、覚悟や決意が伝わったウェル博士はナスターシャを避難させた後に、感謝と謝罪、英雄として讃えると告げてから──────切り離し、月へと放った。
祈るように目を閉ざしながら。
- 番外編 それぞれの話 6 ( No.529 )
- 日時: 2022/08/11 02:33
- 名前: 月詠 (ID: 86FuzJA.)
外では、フロンティアのエネルギーを喰らって一部を端末としたネフィリムと奏が戦っていた。
「Apple」が歌われていた頃にウィリアム・フォルトゥーレスがソロモンの杖を使い、ノイズと戦わせていたがシンフォギアの匂いかエネルギーを嗅ぎつけたネフィリムがやってきたのだ。
単独でネフィリムと戦う奏をよそに、ウィリアム・フォルトゥーレスは逃げようとしていたがわざわざ出てきた“風鳴弦十郎”と“緒方慎次”により捕獲された。
………NINJAが影縫いにより拘束、手首に手刀を落としたことでソロモンの杖は確保。
完全な拘束をしていたら、戦闘の余波として飛んできた……うん、自らの何十倍もある巨岩を、OTONAが素手の拳一発で怪我せず粉砕したとかあるね……うん…。
巨岩砕きのところ見るに、原作や「立花ワールド」の彼と変わらない戦闘力なんだなって実感したよ…。
とにかく、気を使うような存在がその場からいなくなったことで、彼女は戦闘に集中出来るようになった。
だが、要LiNKERの装者であるためか、シンフォギアを稼働させることが出来る時間が短くなっていき。
月音「そこに、ギアを纏ったセレナが現れた」
頬に涙の跡を残しながらも、ネフィリムへと彼女は一撃を入れた。
並び立ちながら言葉少なく会話を交わし、情報も交わす。
その時にはウェル博士とナスターシャは避難した。
だが、ネフィリムはフロンティアのエネルギーを喰らいながらなので、有限とはいえ自己再生が出来る。
対して装者は稼働時間の限界が近い奏と、適合係数は高いものの戦闘力は低いセレナの二人。
どうする悩み、浮かんだのは────絶唱。
アガートラームの絶唱特性は「エネルギーベクトルの操作」……七年前のように、再び休眠状態に出来ないか、ということだ。
リスクは大きいが、賭けに出ることにした。
月音「思いつきを数字で語れるものかってことだよなぁ」
思わず苦笑してしまった。
リスクの高い賭けは、成功に終わった。
戦闘面は奏が担い、セレナは絶唱に集中した。
喰われていたエネルギーは端から崩壊を始めていたフロンティアへと戻され、自己再生が出来なくなっていったネフィリム。
最後にと奏を喰らおうとするものの、その口内に『LAST∞METEOR』を放たれてフロンティアの一部で構成された肉体は崩壊、心臓は休眠状態へと陥った。
………実はあと一歩遅かったらフロンティアのエネルギーは全て喰い尽くされ、崩壊していた。
ネフィリムはフロンティアの全てを取り込み、ネフィリム・ノヴァという灼熱を纏い、爆発すれば一兆度のエネルギーを放つ時限爆弾という暴走状態になっていた。
間に合って良かったよ、本当に。
エネルギーが戻ったからかどういうわけかフロンティアは再生を開始、後にどのような手段かフィーネにより再封印された。
- 番外編 それぞれの話 7 ( No.530 )
- 日時: 2022/08/11 02:34
- 名前: 月詠 (ID: 86FuzJA.)
……その時には“二人”が宇宙空間で七十億のフォニックゲインを照射し続け、月遺跡を起動させた。
それを見た“月読調”が微笑みながら眠気があると告げ、支えていた“暁切歌”は察した。
あぁ、限界が来たのだと。
だから隠し持っていた、とある毒を隠れて飲んだ。
月音「まさか毒を飲むとは思わなかったよ…」
いや、違うな。
血を吐き、寿命も短いと察してしまった親友の姿を見た日から覚悟して……用意していたらしい。
何かあった時のお守りとして用意をし、使わないことがあればそれでいいと思いながら。
月音「いやでも正直公式動画でAXZのあのシーン見るとちょっと納得しちゃうというか…」
けれど、自力で戻れない場所に来た、親友は限界が来てしまった。
ならば一緒に「眠る」ことにした。
横になりながら寒くないように“二人”で抱きしめ合って、額を合わせて笑いあって……思い出を語って…。
眠るように目を閉ざした。
月音「ソロモンの杖を使用して基底状態となったネフィリムの心臓をバビロニアの宝物庫に封印、隔離したか」
その後のことはこの間の未来への襲撃があった日で聞いたこととあまり変わらないな。
二課が国連所属になり、セレナやナスターシャなどを迎えて「S.O.N.G.」という組織になったくらいか。
資料を片付け始めてると、扉がノックされる。
中に入るように返事するとノックした人物、ツキトが入ってきた。
ツキト「母さん、「立花ワールド」の米国政府から連絡あったよ。神獣鏡の欠片、こっちに渡すって」
月音「分かった。あとで連絡し返すよ」
思ったより早かったなと思ったけど、まぁ当たり前か。
あの未来を見せたんだから、こうもなるよね。
納得しながら息子へとそう返した。
- 番外編 それぞれの話 8&後書き ( No.531 )
- 日時: 2022/08/11 02:35
- 名前: 月詠 (ID: 86FuzJA.)
『逃亡する者達と残る者』
時間は遡る。
未来への襲撃があった時間、とある場所にて。
薄い緑と青緑のツートンカラーをし、一本に束ねた少女が藍色の緩やかなクセがある長髪で端正な顔立ちの男性を悲しそうで、不安そうに見上げていた。
男性は白いスーツのようなものを着てハットを被っているが、少女は何も着ていない。
いや、布は巻いているがその体は人間とはかけ離れたもの───人形だった。
人形の少女の顔立ちや髪型は、どこか誰かに似ている…。
「いいかい、早く逃げるんだ、ここから。後から追いつくさ、僕も必ず」
「けどぉ……!」
「なら預かってほしい、そんなに不安なら。そしたら安心するよ、僕も」
男性が屈み、少女を片手で抱き寄せると壊れ物を扱うかのように、もう片方の手で優しく彼女の頬に触れる。
そして、そっと上向かせると目を閉ざし、唇を重ねた。
少女の目が驚くように見開かれるがすぐに同じように閉ざす。
二人の体が一瞬だけ淡く発光し、消える。
名残惜しむ素振りを見せながら唇を離し、少女を解放すると男性は体勢を治す。
と、そこに三つの人影が現れた。
一人は褐色肌に長い黒髪の女性。
一人は赤いメッシュがある緑みを帯びた髪に、尖った耳の少女。
一人は毛先が白くなったピンクの髪に、動物の耳が生えた幼めの少女。
二人の少女の手には、洋服が持たれている。
「奴らは今はいなかったであります!服も持ってきたであります」
「けど、代わりに彼女達がここに向かって来てるぜ」
「やはりあなたも一緒に…」
報告しながら人形の少女に二人の少女は服を渡し、慣れない動きで着替えを始める彼女を手伝う。
心配げな表情の女性の言葉を、男性は首を横に振って止めた。
「行けないよ、一緒には。する必要があるからね、彼女達の足止めを」
その言葉に四人は何も言えなくなる。
そうしているうちに、着替えが終わった。
袖や裾が長いものを選んだためか人形らしさはある程度隠れ、人間に近い見た目になった。
その姿を見てから、早く逃げるようにと四人を促す。
女性が先導するように走り、その後ろを人形の少女が、挟むように更なる後ろを赤いメッシュの少女と動物耳の少女の二人がついていく。
見送ってから男性は振り向き、身構える。
数分後、二人の女性と一人の少女がゆっくりと歩いてくる。
ウェーブがかったプラチナブロンドのロングヘアに男装した女性と、少し独特な水色の髪の露出が多い女性、黒髪を三つ編みにしてカエルのぬいぐるみを抱いた少女だ。
三人の瞳はどこか昏い光を宿しており、虚ろにも見える。
「どうやら逃げられてしまったワケダ」
「どうするの?」
「そうね……後でいくらでも捕まえられるけれど、今は」
男装の女性が、ひたりと男性を見つめ。
「局長、あなたも「こちら」へと来てもらいましょう」
にぃ…、と不気味を笑みを浮かべた。
舌打ちし、咄嗟に攻撃を放ちながら男性は祈る。
どうか、彼女達があそこに……「S.O.N.G.」へと無事に辿り着くようにと。
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後書き
書 き 終 え る ま で が 長 か っ た 。
短編集みたいにすると考えてこうなりました。
最初の話は浮かんでたんですが、シンフォギア要素がなかったのでこういう形に。
反転歴史は抜き取って一つの話として投稿しようか迷いましたが、最終的にこのままに。
最後のは次回からの布石も兼ねてます、分かる方にはわかるシンフォギアキャラ達です。
最後の話が浮かんだ時には一ページで完結してしまう…と気づいてこんな形になりましたが、書き切って満足してます。
ではまた次回にて!
追記
数字割り振り間違えたので修正