二次創作小説(新・総合)

ふすデザ・蝶 ( No.44 )
日時: 2019/06/06 00:02
名前: 麻ふすさん (ID: PFFeSaYl)

※久々のシリアス。ふすソウルさん達とバルフレさんのお話。
いつにも増して捏造設定盛り沢山なのでその辺気を付けてください
ほぼずっと地の文です。





草木はある。
花も咲いている。
風だって吹いているし、雨も降る。雪も降る。夜が来て朝が来る。
だけど、そこには「彼ら」しかいない。
草木はあれど、花は咲いていれど、それは形だけのもの。
生きてはいない。動くものはいない。粘土のようなもの。
池には魚は存在せず、花々の周りを舞う蝶もいない。
いや、蝶は……いる。ここに。


今は昼。太陽が雲のあいだから覗き、地上を見渡している。
風はない。木々の青々した葉っぱは揺れない。
草原から続く道の先にある、小さな丘に「彼ら」はいる。
かつて別の者の中に潜み、狂気の魂を揺らし、叫び、嘆き悲しみ、
星の戦士に倒された者。
星の戦士は敵対した者に手を差し伸べ、握りしめ、その者達を救ってきたが、
「彼ら」は救われたとはいえないだろう。
少なくとも、「私」はこの結果が救われたものだとは思いたくない。
急ぐ必要も無いので、周りの景色を眺めゆったり歩きながら丘に向かう。
ここでは生命の時がない。言ってしまえば、死者の住まう世界だ。
「彼ら」はもう生きてはいない。率直に言えば、既に死んだ。
肉体は持っていなかっただろうから死んだというか、魂の消滅だろうか。
まぁ、それはいい。
私は思ったよりも早く丘に着いた。ここの景色は変わり映えしないからだ。
何も変わらない。何も変わってない。
だから私もいつもと変わらず、なにも構えずに「彼ら」の元に向かう。
なぜ、私はこんなことをしているのだろうか。

「…………」

見つけた。ひとり、ふたり……3人だ。
狂った道化師だった魂と、狂った魔術師だった魂と、狂った魔女だった魂。
いつもと変わらず、なにかを話している。
道化師は手折った花を片手に握っている。
ここの植物はいくらちぎっても死なないし枯れない。
元から生きてなんかいないからだ、当たり前だろう。

「あ、バルフレイ」

1人が気付いた。魔術師……名前はマホロアソウル。
道化師がマルクソウルで、魔女がドロシアソウルだ。
本当の名前すらもないから、潜んでいた体の名前を使っているだけ。
……潜んでいるのは、私も同じようなものか。
どうせ呼ぶならナイトまで呼んでほしいな。
マホロアソウルとドロシアソウルは私に気付いたが、
マルクソウルは何も聞こえていないかのように空を見つめている。

「今日は何しに来たの?」

たたた、とこちらに駆け寄ってくる。華奢な体だ、
こんな細い腕、私になら簡単に折れてしまいそうなくらい。
彼女の細いほそい心も、簡単に折れてしまうだろう。
彼女……本体のマホロアの方は男だが、魂のかたちは女だったのだろう。
同じ理由でドロシアソウルも本体は女だがこちらは男だ。

「別に。様子を見に来ただけさ。他の奴らはどうしたんだ?」

確か他にもあと3人いたはずだが。

「みんなどっか出かけちゃったよ。遠くに行くって」
「遠くね」

遠く……この世界に遠い場所なんてあるのだろうか。
遠くに行っても行っても行っても、景色は変わらない気がする。

「ねぇねぇ、これ見て。僕が作ったの。可愛いでしょ?」
「花冠か?」
「うん、綺麗な花を集めたんだ」

この世界には"醜いもの"が存在しないから、どんな花を使っても綺麗になる……
というのを、彼女に告げる趣味は私にはない。
醜いものといえば彼らだけだ。
私が醜くないわけではないが。

「あげる」
「ありがとう」
「すぐ帰っちゃうの?」
「あぁ……今日はちょっと、はやいかな」

要件が済めば遅いも早いもない。
幾度となくここに来るがその要件が済まされたことは無い。

「そうなんだ」
「あ、そうだ、これはお土産」
「これなに?ぬいぐるみさん?」
「このぬいぐるみは何か分かるか?」
「え?うーん……」
「熊さんだよ。こっちは犬」

近づいてきたドロシアソウルがそう優しく教える。
彼はこの狂った世界の中でなら、比較的まともだと言えるだろう。
知識もあるし、常識もある。
ただ、その心が折れてしまわない限りで。

「くまもいぬも……見たことないよ?」
「この辺りにはいないだけだろう」

思わずそう言う。
違う、本当はこんな世界のどこを探してもいない。

「見てみたいなぁ」
「いつかな」

そのいつかは絶対に来ない。

「これもらってもいいの?」
「壊すなよ」
「大丈夫」

マホロアソウルはそう言ってぬいぐるみを手に取る。
最初の頃は5分で布を破いていたが、最近はそんなことはしない。
成長したのか……成長か。

「ありがとう」

さっきから彼女の発する言葉から感情を読み取れない。
怖いほどに静かで、平坦だ。なんの深みもない。

「……さて、じゃあそろそろ行くか」
「もう行っちゃうの?」
「また来るから」

来ないといけない。

「じゃあね」

別れの言葉を聞いて元来た道を戻っていく。
私はバルフレイナイト。極蝶、なんて呼ばれているが……
そんな大したものでは無い。
今は、普段ただの蝶でしかない私が戦士の体に乗り移って動いている。
戦士側に私が操っている時の記憶はない。
蝶である私は、所謂黄泉と現世の橋渡しをしている。
半分生きていて、半分死んでいるようなものだ。
橋渡しなのだから、本来彼らしかいないこの世界にもやって来れる。

死んだことにも気付かず、ただし本能のうちに醜いものを恐れ、
自分達以外が存在しない美しい狂った世界を自分達で作った。
そしてそれに囚われ続けている。
彼らは救われなかった。星の戦士には救えなかった。
それほど細い心だった。触れただけで粉々に砕けてしまうのだ。
ここは彼らの為の監獄。
魂を閉じ込めておく為の監獄。
私の要件とは、彼らにその真実を伝えてこの世界を壊すこと、だ。
真実。
ここには生きているものはいないし、
草花も空も海も風も土も太陽も月も星も何もかもが偽物で、
彼らはもう死んでいて、動物達には絶対に会えなくて。
これを伝えること。彼らに。
趣味はなくともそれは仕事である。
触れただけで壊れる心をさらに上から足で踏みつけるんだ。
無くなるまで。
実際、今の状況は完結ではない。彼らはまだ救われていない。
こんな醜い世界から彼らを解放してあげることこそが……救い。
でも。
でも、彼らを私は救おうとはしていない。
彼らの儚い心を踏み潰すことが、本当に救いか?
私が何を怖がっているのか分からない。
死者は死者だ。なぜ、なぜ今更心が壊れることを怖がる?
伝えるだけだ。文字にして、言葉にして、声にして。
そうすれば、もうこんな世界に来なくていいのに。
そんなだから。
そんなだから、私はいつまでも、この世界に来てしまうのだ。
見ているだけで心が壊れてしまいそうな狂ったこの世界に。
本当に狂っているのは私かもしれない。




(なんか……ね、シリアス書いてなかった反動からか……地の文の勢いが凄いね……
しかもここまで一度も !←を使ってないんですよね。
ということで、本当は真実を伝えなければいけないのに、
自分が心を壊してしまうのが怖いバルフレさんのお話でした。
ほんとにただ単に彼の葛藤でしかないです。一人語り。それでもこんな長くなるのね
いや、もう壊れてるからいくら壊しても何も変わらないのですが。)