二次創作小説(新・総合)
- いーデザ・ちぐはぐ侵入作戦 ( No.49 )
- 日時: 2020/11/07 14:27
- 名前: 麻ふすさん (ID: PLnfHFFW)
※いードロッチェとダゼロのお話。
豪華な屋敷の前にある、小さな森の影で佇むひとりの男性がいた。
赤いシルクハットにマント、青みがかった灰色の髪の毛を三つ編みでまとめている。
彼こそは盗賊団の長、ドロッチェなのだが。
彼のそばにいるはずの仲間達の姿が見えない。
ドロッチェは、その仲間のひとりであるドクが作った高性能双眼鏡に目を通し、屋敷を見ながら独り言を呟いた。
「ふむ、豪華なわりに警備は薄いな。玄関にも見張り一人立っていない。しかし設備は泥棒を退けるには十分なものだが……まあ、俺にかかれば警報装置が鳴ることはない」
高性能なだけあってずっと見ていると目が疲れるのか、ドロッチェは双眼鏡を外して目を抑えた。
「しかし、俺としたことが……今日に合わせて作戦を立てていたのに、間違えて仲間達に休暇を与えてきてしまった……ドクも、ストロンもスピンも、チューリン達も今頃バカンスを楽しんでいるのだろう……」
少し遠い目をしてから、また屋敷に目を向ける。
「ひとりでも行けなくはないがな。いやしかし、チューリン達の調査がないとこんなに不安になるのか……せめてひとり手伝いがいれば」
「いるよ!」
「おぉ、いるのか。じゃあ少し様子を見……」
違和感を感じてから声がした方を見ると、ドロッチェの胸より下あたりの身長のなにかがぴょんぴょんと跳ねていた。
「はいはい!自分が様子見てくるよ!」
「ちょっと待て」
「はい?」
「お前……な、なんでここにいるんだ!?」
屋敷に向かおうとするそれの肩をドロッチェがしっかりと捕まえた。
「なんでって、ダークゼロはいつでもどこでも会えるのが売りだからね」
「なんだそれ初めて聞いたんだが……ってそんなことはどうでもいい、なんで俺の近くにいるんだ」
「え?だからいつでも」
「それはもういいからちゃんとした理由をだな?」
ダークゼロと自分で名乗った幼い少女___に、見える人の形をした者は、ぱっちりとした目を輝かせながら言った。
「ドロッチェがひとりで寂しそうにしてたから、じゃあ、自分が一緒にいてあげようと思って!」
「そんな可愛げに言っても許さないぞ。いつからいたんだ?」
「うーん、さっき!」
「曖昧だな……とりあえず邪魔だからあっち行ってくれ、本当に」
そう言うと彼はそっぽを向いた。ドロッチェに突き放されて少しむっとしたダークゼロが、食い入るようにドロッチェの前に出て、身振り手振り慌ただしくしながら言った。
「で、でも自分!誰にも見つからずに様子見に行けるよ!」
「はぁ……?」
「自分の体はほぼ霧なので。どこにでも入っていけるもんね」
「そうか。ご苦労なことだ」
「あっあっ、だからね!ドロッチェの役に……立てると〜、思うんだな……」
必死に説明をする彼女を見て少し可哀想になってきたのか、ドロッチェは虫が悪そうな顔をしてダークゼロをなだめた。
「分かったわかった……お前が役に立つのは分かったから」
「じゃあ手伝ってもいい?」
「なんでそこまで手伝いたいのかは分からないな……言っておくが、これは一応犯罪だぞ?」
「暗黒物質にこの星の法は適用されないのです」
「確かにそれは……一理あるな」
少しだけ感心したドロッチェはダークゼロに指示をする。
「よし、手伝ってくれるなら使ってやろう。まず、あそこに機械があるのが見えるだろうか」
「んー、見えるよ。ちっちゃいやつ?」
「そうだ。あれが監視カメラ。で、それよりも少し小さい機械がセンサーだ。あいつらの範囲に入ったら失敗」
「なるほど」
「だからお前には、あれの目が届かない場所を探してほしい」
ダークゼロは内容を把握した様子で頷いた。
「了解です!では行ってまいります」
たたたたっ、と走っていくダークゼロの体が次第に霧状になり、暗闇に溶け込んだ。
「行ったか……しかしあいつ、本当に口調がばらばらだな。喋るのが下手くそなんだろうか」
ダークゼロが帰ってくるまでの間、ドロッチェはまた仲間達に思いを馳せる。
「バカンス……ネクロディアス関連の事件を思い出すな。あの辺りもリゾート地といえばそうなんだろう。そういえばここ最近、また破神やらなんやらの一件で俺も繰り出されて休みがなかったんだった。俺も今度羽を伸ばしにリゾート地にでも行こうかな……」
楽しく有意義である休暇を思い描いていると、甲高い声で現実に引き戻された。
「調べてきたよ!」
「声がでかい」
「はっ、ごめんなさい……あ、それでね、あそこ!」
「うん、なんだ?」
「えぇと、二階にでっかい窓があるの。裏手」
「裏手か……そっちに回ってから詳しい説明をしてくれ」
「はいはーい!」
森を歩いて裏手に回ったふたりは、再び高性能双眼鏡を覗いた。
「あの窓か?」
「うん。あの下はねー、カメラもセンサーも届いてないみたいだよ」
「ならあそこから侵入するか。ご苦労だったな」
「えへへ〜」
ドロッチェが侵入の用意をしている間も、ダークゼロはずっとそばにいた。
「なんでまだいるんだ」
「お手伝いは最後までやらないとお金を貰えないってミラクルマターが言ってました」
「分け前を貰うつもりなのかこいつ。がめついな」
まあ、確かに手伝ってもらったし妥当か、と思いつつ準備を終えたドロッチェはダークゼロに言った。
「よし、なら最後まで付き合ってもらうぞ。俺が侵入する前に屋敷の中に入って警備の状況を教えてくれ」
ダークゼロは元気に頷く。
「警備がいないようならもう安心だ。二階のあの位置から侵入すれば目当ての宝がある場所に行くまでに警報装置はない」
「なんでわかるのー?」
「チューリン達の事前調査だ。休暇前にそこの仕事だけはしてくれていたのでな」
ドロッチェは地図を広げてダークゼロに渡した。彼女はそれを見ながら首を傾げる。
「どうやって見るのかよく分かりませんけど大体分かったよ!」
「大体分かったならそれでいい」
彼は地図を回収して懐に入れる。
「よし、じゃあ作戦決行だ!」
「おー!」
全く物音をたてずに難なく塀を登り、あっという間に大きい窓の下までやってきたドロッチェ。そこでふたりは一度息をつき囁き声で会話をし始めた。
「てぎわ?がいいね」
「何年こんなのをやってると思ってるんだ」
「え?ドロッチェって……意外とおじさんなの?」
「おじ……」
相変わらず振り回されているが、ここで気を抜いてはいけない。そう思って首を振る。
「ダークゼロ、窓から中に入って鍵を開けてくれ。音はたてるなよ?」
「了解!」
再び霧になってしばらくすると、微かに聞こえるカチッという音がした。その後窓が開け放たれる。
「開いたよ〜」
「なら窓から離れてくれ」
ドロッチェが鉤爪を投げて窓に引っ掛け、素早く音を立てずに登っていく。
窓から中に入ると、そこは人の気配のしない倉庫であった。懐から地図を取り出して照らし合わせる。
「ふむ、倉庫……調査通りだ。ではダークゼロ、部屋の外の様子を」
「おっけー、ふむふむ……なるほど!誰もいないよ」
「実に不用心な屋敷だな、ここは。装置を整えれば安心とでも思ったのか」
「みんな寝ちゃってるんだよ」
扉を開けて目的の部屋まで歩く。いやに静かで廊下も電気が殆どついておらず心許ないほどだったが、程なくして部屋の前に辿り着いた。
「ついにここまで誰とも遭遇しなかった……」
「はやく開けよーよ〜」
「そうだな。ゆっくりと……」
部屋の中は特にこれといった特徴はない、ただの寝室といった感じだった。
もっと豪華なものがくると思っていたのに、と言わんばかりにダークゼロは首を傾げる。
その様子を見てドロッチェが説明した。
「本当に大切なものっていうのはな、他の誰かに"これが大切なものです"とは言わない。誰にも教えずに隠しておくものなんだ」
「じゃあここにあるの?大切なもの」
「あぁ、ある……っとほら、これだ」
ドロッチェが部屋にあった水槽の中から取り出したのは、小石ほどの大きさの宝石だった。
「水槽の中の小石としてカモフラージュしてたんだ。これが、今日のお目当て」
「ちっちゃい。こんなのが本当にすごいお宝なの?」
「あぁ。見た目は小さいが実は宇宙単位で見ても希少なもので……星ひとつは買える値が付くって噂もあるくらいだ」
「えー!すごい!!」
「ただ……ふむ、これは恐らく偽物だな」
そう言うとドロッチェは宝石を元の場所に戻した。
「希少な上に非常によく似た宝石があってな。多くの金持ちが本物だと勘違いして大切に保管しているらしい」
「わあ……なんかこう、悲しいですね、それ」
「悲しい……か、確かにそうかもな」
来た時と同じルートで屋敷から脱出すると、ドロッチェは懐から地図ではなく煌びやかなブレスレットを取り出した。
「それは?」
「侵入ついでに盗ってきた。これをやるよ」
「え、ほんとにいいの?」
「あぁ、なんやかんや役に立ってくれたしな。給料だとでも思ってくれ」
「やったぁ〜!!ありがと、ドロッチェ!」
後日。
ドロッチェは休暇から帰ってきた仲間達と先日の出来事について話し合っていた。
「じゃあ結局偽物だったんじゃな」
「今回はハズレだった。次の標的はここだ。また調査をお願いする」
ドロッチェが頼むとチューリン達が一斉に動き出した。
「でも、よくひとりで……いやふたりで?行けましたね」
「団長の腕があっても難しそうなところじゃったからのう」
「ん、そうか?警備がひとりもいなくてやりやすかったが……」
「ひとりも!?」
スピンが驚いて飛び跳ねたので、ドロッチェも釣られて少し飛び跳ねた。
「な、なんだいきなり……」
「いやあそこの屋敷、事前調査では警備が厚くて少し調査が不十分だったんすよ!?」
「なんだと?」
ドロッチェはその時の様子を思い出した。
あの時は……警備どころか、住民すらもいないんじゃないかというくらいに静まり返っていた。
それにダークゼロが、「みんな寝ちゃった」と言っていたが……もしや。
「まさかな……」
「どうしたんすか?」
「いいや、なんでもない」
時間は少し戻り、ドロッチェと別れ暗黒物質の住処へと戻ってきたダークゼロ。
「あ、お前どこ行ってたんだよ」
ミラクルマターが彼女の姿を見るなり近寄ってくる。
「お手伝いしてたの」
「お手伝い?」
「うん!なんてことないんだけどね。霧になって、色んな人を眠らせただけだから!」
「人を眠らせるお手伝いをしてた?それ、なんかの比喩とかじゃないよな?」
「えっ!?そんなんじゃないよ!ゴカイしないで!みんな今頃起きてるから!」
(前回更新が5月とかいってヒェッってなりました。久々に書いたら筆が乗ってちょっと長くなりましたね。
先日参ドロ誕だったので描きました。)