二次創作小説(新・総合)

かかデザ・自分勝手 ( No.50 )
日時: 2021/03/10 02:41
名前: 麻ふすさん (ID: PLnfHFFW)

かかマホロアとソウルのお話。久々にシリアスを書きたくなった心の産物。時系列的にはWiiからちょっとあとくらい。
普通に前回更新が昨年でビビり散らかしました。





黒く、染まる手を見た。
指とも爪とも分からぬ尖った指先に、まるで血の気も感じられない肌、血管なども見えるはずもなく___その禍々しい手と自らの体は繋がっておらず。王冠に狂わされながら、どこかへ消えてしまった腕がまだあるかのように感じる。それでも、ソレは自分の思うままに動き。
ああ、いや……自分の、意思ではない。とっくに自分の意思などというものは瓦解していて、今ここにあるのはただ消滅を待つだけの哀れなる魂で。
そう、自分は狂っていて、意思などあってないようなもので、そのはずなのに。
口の中の異物感を顕著に感じる。決して離さまいと増していく王冠の締めつけの痛みを感じる。穢れに染まり死んでいく自らの体の軋む音が聞こえる。声が聞こえる。叫び声。はっきりと。
ボクの声が。彼の声が。誰かの_____


はっ、と目を覚まして飛び起きた。
"あの日"以来、不定期にこんな夢を見る。
あぁ、なんてリアルでおぞましい夢なのだろうか。けれど、強く否定は出来そうになかった。あれはどうしようもないほどに……自分が望んでいた自らのカタチだったような気がして。

この夢を見た朝は決まって寝覚めが悪い。少しふらつく足取りで鏡の前へと座る。鏡に映る顔は不機嫌に縁取られていた。じっと顔を見つめていると、酷く……酷く醜く見えてくる。気のせいではなくて、本当にそうなのかもしれないが。
いつまでも気が滅入るような鏡を見つめていても仕方がない、と顔を洗って髪を整えた。
幾分かは見ていられるようになっただろうか?
そうまたぼんやりしていると、今自分のいる場所……天駆ける船ローアに訪問者が来たようだった。
外と繋がる扉の前に立ち、それを開けると、そこにはカービィがいた。顔を出すと落ち着かない様子で、それでもへにゃりと笑ってみせてきた。

「ご、ごめんこんな朝早くに。ちょっといいかな?」
「い、いいケド……どうシタノ?」
「うん、少しね」

カービィをローアの中に迎え入れる。無口なこの船のAIはカービィが来たのを察知して、もうすでに茶菓子の用意を終えていた。
ホログラムでつくられた召使いはこちらに向けて一礼すると、泡のように消えた。

「ソレデ……なに?キミがこんなコトするくらいダカラ、何か深刻なコトでも起キタ?」
「深刻……って程でもないけど。今日変な夢を見て」

夢。
自分も今日嫌な夢を見たが、それ以上にカービィという存在に夢はつきものだという。話に聞く限り、夢の泉の事件を解決したりしているし……。
などと考えていると、困った様子でカービィがこちらを見ていた。

「大丈夫?」
「エ?ウン、全然。で、どんなユメだったノ?」
「キミの夢なんだけど」
「……ボクの?」

少し嫌な予感がして顔をしかめる。
もしも自分と同じ夢を見ていたのなら。

「キミが___暗くて顔も姿もよく見えなかったし、細かい事は覚えてないけど___必死に、必死にもがいて、ぐちゃぐちゃになっていって」
「……」
「それで、何かをしようとしてたんだ。えぇと……あまりにも悲しい夢だった、でもどこかで見た事のある光景だった。きっとあれは___」

カービィは言いかけて、眉をひそめてそこで言葉を切った。しかめっ面の自分に気を遣ったのだろうか。

「……マァ、あながち……間違いではないカナ」
「っていうと?」
「ボクも似たようなユメを見タ。アァ、ウン、殆ど覚えてないケド」

本当は全部覚えてるけど。

「キミが言いたいコトはこれダロ?『アレはアノ時のマホロア』……ダッテ」
「あの……」
「バカなボクがクラウンに喰われてバケモノになってた時。キミとボクが見た夢の中のボクも"ソイツ"だろうネ」
「じゃあ、夢の中のキミはなにをしようとしてたのかな」

自分ではよく分からない。自分はあの時何を考え、何をしようとして、何になろうとしていたか。助けを求めていたような気がする。感覚などない手を誰かに取って欲しくて、広げていた気がする。あぁ、どうしようもないと、嘆いては壊していた気がする。
……と、そんな事はカービィに言えるはずもなく。

「……分からないケド。マアとにかく、ソレはただのユメ。ボクはもう"アイツ"じゃナイ」
「そう……だね、ちょっと嫌な夢だったから、心配で来たんだけど」
「ボクが?まさか。モウ大丈夫」

そう言うと、カービィは安堵したような表情でこちらを見、また質問をしてきた。

「……せっかくだし、ちゃんと聞きたいことがある。あの時のキミ……マホロアソウルについて、詳しく教えてほしいんだ。アレは一体なんなの?」
「何か、ネェ。……そうダネェ、"アイツ"……いや、アレは、ボクの……本当のカタチ、だと思うヨォ」

あれを自分だと思いたくなくて、ずっと他人のように"アイツ"と呼んでいた。けれどもあれはどうしようもないほどに自分だった、ずっとひた隠しにしていて、誰にも見せたくなかった自分で。

「思うってことは、マホロアもよく分かってないってこと?」
「実際、ソウルという事象が何故起キテ、何もカモ狂わせテ壊していくノカ、ボクにも分かってナイ。けれど、あれはボク」

あれは全てを嗤い。全てを憎み。全てに恐怖し。全てを壊さんとする。ボクの本質。

「…………マア、ボクの自論でも話しておこうカナ。思うニ、ソウルっていうノハココロの本質が誇張されタリ、肥大化したモノだと思うヨォ」
「大袈裟にしてるってこと?」
「ソウ。ボクだってアノ狂気がボクの本質そのものだとハ思いたくないヨォ。でもアレの元はボク。だからキミの言う通リ。大袈裟にシテ狂ったってワケ。モチロン、原因なんざ分カラナイ」
「なる……ほど」

分かっているような分かっていないような表情を浮かべながらカービィが頷く。
理解力はないけど、感覚的には分かっているのだろう。カービィはそういう奴だ。

「ボク以外にもソウルになった人、いるんデショ?ボクがキミに話せるのはコノ位。知りたいナラ、後は他の人に聞いてヨネ」
「分かった。ありがとうね、ごめん、時間取らせて」
「いいヨォ。帰りニ気を付けてネ」

手を付けていなかった茶菓子を持ち帰り、カービィはローアを去って行った。
皿は返せと今度言わないと……。

自室に戻り、椅子に座ってからふと思った。
ああ。
きっとこれからも、ボクは同じ夢を見るのだろう。
ボクの本質、ココロのなかのボクは、いつまでも誰にも手を差し伸べられないまま、深く深く沈んで、静かに待ち続けるのだろう。
ボクという自我が、再び壊れる時を。
悔しいことにそんなことは二度とない、とは言いきれない。

しばらくぼーっとしていた。もしそうなったら、彼はまた自分を助けてくれるだろうか?
……自分勝手だろうな、これ。
自壊することを理解していながら、それをどうにかしようとするのではなく誰かに助けを求めるなんて。彼は別にボクだけの戦士ではない。彼は、宇宙の為に戦っている。
あの時のボクも、彼にとっては通過点に過ぎない。
そう思うと寂しくなって、そんなことを感じる自分が少し可笑しかった。
ホントに自分勝手な奴だ、ボクは。




(かかデザのソウルの解釈を少しお見せしました。思ったより長くなりました。
マホロアに限らずドロシアやマルク、セクトニアも同じようなものです。自分の本質を大袈裟にして狂わせたものがソウル……という具合。ただまあニルと星の夢はイレギュラーでしょうかね……)