二次創作小説(新・総合)

Re: PocketMonster REALIZE ( No.1 )
日時: 2018/08/26 18:50
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


あの頃の衝撃は、未だに忘れられなかった。
2010年9月。

彼は、自分の家の隅の空間に設けられた部屋で一人、ベッドに寝転びながら新作のゲームを楽しんでいた。

そのゲームとは彼が世界で最も好んだゲーム。

ポケットモンスターブラック・ホワイトの事だ。

新しさが残る制服を窺うに、どうやら今年高校に入ったばかりのようだった。
下校途中に寄ったゲーム屋、そこに置かれていたWiFiを利用してついさっきまで海の向こうのトレーナーとポケモン交換をしたばかりだった。

埋まっていく英字の図鑑。
増える地球儀の点。
新たに現れたユナイテッド・タワーの部屋。

それだけでも新しい発見と興奮を覚えたものだった。

ふと、横にした体を動かした時だった。
目の前に、もぞもぞと動く'何か'がいる。
視界の邪魔になっていたゲーム機を端に置く。

その瞬間、狭い家に叫び声が響いた。

Re: PocketMonster REALIZE ( No.2 )
日時: 2018/08/26 19:09
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「どうしますか?リーダー」

「どうもしない。このまま作戦を続行する」

時刻は22時を過ぎていた。
辺りは真っ暗闇とはいえ、所々灯る街灯のお陰である程度の視界は保たれていた。

「標的は駅を離れ、住宅街の方向へ歩いている。やはりと言うか、帰宅途中だったか……」

「僕が行きましょうか?」

「いや、俺一人で行く」

闇夜に紛れる形で、全身を黒く包んだ二人の男がそんな会話を続ける。
彼等は、目の前の駅をバスロータリーから眺めていた。
正式には、電車を降り、駅から離れて帰路に着いている一人の男を。

「飽きる程聞いただろうが言わせてくれ。俺達'ジェノサイド'の目的って何だっけか?」

「ええと……」

リーダー格と思わしき男から振られた質問に、小柄な男性が一瞬悩みながら答える。
顔はお互いよく見えないが歳は近そうだった。

「ええっと……ポケモンの保護とそれに伴う不正利用を行う者達の殲滅……でしたよね?」

「まぁまぁ合ってる」

リーダー格の男は一歩足を出すと振り返り、仲間である小柄な男に付け加えるかのように言う。

「今からその、不正利用とやらを行った人間を狩って来る。お前はそこで待機していてくれ。何かあったら仲間に連絡しろ。いいな?」

返事を許さずにリーダー格の男は走り去る。

駅の利用者がもっと多ければ逆にあの格好は目立っていただろう。
小柄な男はそう思いながら走り去るリーダーの背中を見つめる。

そう思うくらい彼の服装は奇妙で不気味で目立っていた。

異様につばの長いハット、黒を基調とした所々赤色が混じるローブ。そして黒のローファー。

そんな怪しい男は瞬く間に標的へと近付き、何やら一言二言会話を交わすと何かの力でそれを地に伏せると、すぐに仲間の元へと戻ってくる。

遠い所からだとそんな風にしか確認出来なかった。
故にその仲間は曖昧な記憶だけを持って帰る事しか出来なかった。

Re: PocketMonster REALIZE ( No.3 )
日時: 2018/08/29 09:46
名前: ガオケレナ (ID: I3friE4Z)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

西暦2014年。

'歓喜の誕生'と呼ばれた異変から四年。
この世界は架空の生き物ポケモンで溢れていた。

……ように、見えていた。

ポケモンと呼ばれる生き物は確かにこの地に生まれ、確かに生きていた。
だが、それは自然発生したものではないと早々に解明された。

ゲームを手にしていた者の元へ、そのゲームに存在するデータ。つまり、ゲームデータの再現がそれの正体だった。

この世界にポケモンが誕生した!
という何処かでは必ず聞く宣伝も、本来はゲームを持つ者にしか宿らない。
世界は必ずしもポケモンに包まれる夢の世界とはならなかった。

それでも。
それの出現によって世界は変わった。
データの再現とは言っても命を持っているという矛盾を抱えた生き物は人々に力を分け与え、一瞬にして力がすべての世界へ、強者が支配する世界へと生まれ変わる。

「無実の一般人が兵器と化したポケモンの犠牲にされている」
「ポケモンと呼ばれる化け物を従えて我が物顔で彷徨い、治安を大いに脅かしている」

ポケモンのゲームを持たない一般市民の意見、想像、そして訴え。

ポケモンを悪用する無頼な者達を排除するため、人々が、国が動き出した。

結果。

この世から暗部集団ダークサイドと呼ばれた者達は深部集団ディープサイドと呼ばれる、殺人鬼を殺す殺人鬼たちにより消滅の道を辿ることとなった。

「……と、言えば聞こえは良いんだがな」

と呟くのは自らの昔話で盛り上がる者達。
深部集団の一人にして深部最強と謳われている組織〈ジェノサイド〉のリーダーにして組織の名を自身の名とした青年だ。

任務から帰り、休息ついでに組織の構成員たちと話をするに至ったのだ。

「ですよね?それが本当ならば今の時点で組織間の争いなんて起きているはずがありませんからね?」

小柄にして天然パーマの髪が目立つ男ハヤテが自身のキャプテンに鋭い返しを入れる。

「そうだ。だがそれまでの話は本当だ。深部集団が'議会'によって作られてから暗部の奴等は減った。深部集団全体としての目的が達成されたのはその瞬間だけだ。だがその後は……」

「残った深部の人々が他の深部の人間を……組織間で争うようになった。ですよね?」

「あぁ」

ジェノサイドは椅子に深く腰掛けながらテーブルに置かれた紅茶に手を伸ばす。
一口飲んで思った以上に熱かったが為にすぐにそれから口を離すと再び話を続けた。

「簡単に言っちまえば暗部の奴等の代わりになっちまった訳だな。自警団だ何だと当時正当を主張していた奴等が目的を失った途端これだ。しかもこの現実に議会が目を付けた。そして、どういう訳かその組織間抗争を奨励したんだ。この組織を倒せば賞金を与えますよってな」

「つまり、昔から僕達は議会の言いなりになっている……という事ですよね?何故そんな行動に移ったのでしょうか?」

「理由は二つ」
と、ジェノサイドは人差し指と中指を立てる。

「俺達深部集団が議会から生まれた存在だからだ。その議会とは……詳しくは俺も知らんが、国が作った独立行政法人とか何とか……とにかくそういう奴等らしい。そんな奴らの管理下に置かれ、暗部集団を滅ぼす為だけに作ったのが俺らだ。そしてもう一つが金だ」

「お金……ですか?」

ハヤテの問いにまずジェノサイドは軽く頷く。

「俺達深部集団は極端な話生活の為にこの世界に身を置いている。……まぁ俺みたいな学生も中にはいるがな。とにかく、そんな深部の組織が多すぎたらそれだけ減る金が出るってもんだ。だから議会は少しでも無駄な出費を減らす為に組織間抗争を勧めている……俺達ジェノサイドは負けたことねぇけどな」

「嫌な……世の中ですね」

四年前、ポケモンを目の当たりにした人々はこう叫んだ。
自分たちが小さい頃夢見たポケモンの世界だと。
人とポケモンが共存する世界になったのだと。

実際は人の主導する世界にポケモンが加わっただけの争いと恐怖が広がるだけの世界へと成り果てた。

ハヤテのため息混じりのその一言が、より強調されていた。

Re: PocketMonster REALIZE ( No.4 )
日時: 2018/09/05 16:07
名前: ガオケレナ (ID: GXllTEMy)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「なぁ、'ジェノサイド'って知ってる?」

突然他愛もない会話に物騒な単語がぶち込まれる。
少し驚いて再度聞いてみた。

「だから、'ジェノサイド'って知ってるか?って!」
「あー……」

話を振られた大学生・高野たかの洋平ようへいは空を見上げながら少し考える。

そして、

「知ってるよ。ポケモン使って無差別に攻撃してくるテロ組織だろ。まさか日本にテロ組織なんて、しかもこの時代にいたなんてな」

「今だから、でしょ」

高野とその友達、岡田おかだしょうは自分たちが在籍している大学構内を歩いていた。

時刻はもうすぐ17時になろうとしていた。
講義の空きコマであるこの時間はいつも二人して何処かで合流し、キャンパス内にあるコンビニで何かを買っては18時から開始となるサークルが活動している教室へ向かうのだ。

開始前の時間とはいえサークルの教室には誰かがいる。先輩か、同学年の友達か。

「ポケモンを使って夜中に出没するとかって噂だよな?」
「あぁ」
「俺もレンもポケモンのゲームは持ってるしたまにポケモン実体化させて遊んではいるけど……どうなんだろうな?奴の強さ的には」

岡田が何を伝えたかったのかイマイチ分からないでいるレンこと高野。ちなみにレンというのは高野のあだ名の一つだ。サークル加入の際での自己紹介でこの話をして以来高野はレンと呼ばれるようになった。

「知らねーな。ポケモンを犯罪に使う奴なんて絶対に許せないし故に興味も無いからな。想像つかねーや」

などと話しているうちに例の教室へと辿り着く。
明かりが点いていた。
見ると、先輩と同学年で二人いる内の女子、高畠たかはた美咲みさきが居た。

「こんにちは、先輩」
「こんちはっす」

岡田と高野は挨拶をしながら教室へ入る。

「うん、こんにちは二人とも」
愛想良く優しい声で応えたのは二人よりも学年が二つ上の先輩、佐野さのつよしだった。

相変わらず先輩はゲームを片手に持っていた。
そのゲームは勿論ポケモンだった。

「好きっすね。先輩」
「うん?そりゃあ楽しいからね」

岡田が佐野の前の席に座る。高野はそんなやり取りを見ながら佐野の隣に座った。
そして、彼も鞄から取り出した3DSを開く。

「おっ、今日も持ってきたね?レン君」
「えぇ。今日もやりますか?対戦」

「此処……ポケモンのサークルじゃなかったよね?」

この中で唯一ポケモンを持っていない高畠はやや呆れながら呟く。

「今週の土曜の日程決めどうすんのさー……」
「そんなの皆集まってからでいいだろ。俺達だけで決めてもしょうがないだろ」

いつもの光景だった。
各々が集まり、好きな事をして好きな時間を過ごす。
サークルと言えどあまりにも自由すぎて纏まりがない。
だが、これが普段の姿だった。

ちなみに彼等の所属するサークルはポケモンサークルではない。

「traveler」という名の旅行サークルである。

Re: PocketMonster REALIZE ( No.5 )
日時: 2018/09/08 18:07
名前: ガオケレナ (ID: 2jjt.8Ji)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


それから二時間後。
人もそこそこ集まり、いつも通り自由に過ごした彼らだったが、何だかんだで日程も決める事ができ、解散となった。

「今週の土曜に調布で飲み会か……」

「どうかしたの?レン。まさか行けないとか?」

「いや、」

レンはスマホに表示された電車の乗り換え案内を閉じながら言う。
彼に声をかけたのはレンと同年代にしてポケモンユーザー、そして間違いなくこのサークルでその腕が立つ香流かなれ慎司しんじだ。

ついさっき、レンも彼に通信対戦で負けたばかりだ。

「家から少し遠くてな。まだ大学の最寄りとかだったら行きやすかった」

「んー、最初は色んな場所での案があったんだけどなぁ。仕方ないよ。そっちの方が皆行きやすいんだし土曜だし」

「それもそうだな」

「なーなー、それよりもさー。お前らもこれから飯食いに行くよな?」

そんな二人の会話に岡田が入り込む。
サークル終わりは近くで外食を済ますのがいつもの流れだった。

「こっちは行くよ」

「香流が行くなら俺も行くかな。リベンジしたいし!」

「飯食いに行くのかポケモンするのかどっちかにしてくれ……」

高野の間抜けな言動に岡田は頭を抱えつつ笑う。
香流からは戦う意思が見えない。今日は満足だとでも言いたげだった。

彼らの平和な日常が、確かにそこにあったのだ。

Re: PocketMonster REALIZE ( No.6 )
日時: 2018/09/17 12:39
名前: ガオケレナ (ID: U2d6Cmja)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

翌朝。
高野は講義のため大学に来ていた。
構内にあるバスロータリーから歩いていたところ、聞き覚えのある声に呼び止められる。

「おっはよーレン。相変わらず眠そうな顔してんな」

「生まれつきこんな顔なんだよ。別に眠かねぇ」

岡田と香流だった。
二人は途中の駅が一緒らしく、時間割が合えばどこかで会えるらしい。大学に着くまで一人の高野からすれば少し羨ましい話ではあった。

「レン、今日は講義のコマいくつある?」

「俺か?俺はなー……」

香流にそう聞かれた高野はスマートフォンに入れてある時間割のアプリを立ち上げてそれを眺めた。

昼休み前に一つと昼休み直後に一つ、その次のコマの三つだった。
計4時間半の一日である。

「なんだレン今日は二つじゃねぇのか。俺、バイト前に少しの間遊びに行きたかったのに」

「仕方ないだろ。お前と違って俺は去年遊びすぎて単位少し足りないんだ。ここで取っておかないといけないんだよ」

三人が居るのは神東大学。
神奈川県と東京都の境目に位置するから神東大学……。というネーミングらしいが、所在地はガッツリ東京都内にあった。
尤も、都内として括るには自然が多すぎるのだが。

「今日はサークル無いからなー。次会えるとしたら昼休みかな?」

「そうだな」

香流の発言はつまり「昼ご飯一緒に食べない?」である。
大学に入学して二年。このサークルに入って二年も経てば自然と皆の性格は分かってくるものだった。

「じゃあレン、今度は寝るなよ?」

「寝ねーよ!いつまでそのネタ引っ張る気だ」

そう言うと三人は別れた。
岡田と香流は敷地内の、ある校舎棟まで一緒だったのに対し、高野は早々と逆方向に建っている九階建ての校舎棟へと足を進めた。

Re: PocketMonster REALIZE ( No.7 )
日時: 2018/09/17 12:57
名前: ガオケレナ (ID: U2d6Cmja)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

時間は少し遡る。
早朝7時。

宮殿の中にでもありそうな広大な食堂の中、仄かな朝日を浴びながら'彼'はいた。

「写し鏡?」

「そうだ。そのアイテムについてなんだが」

此処は深部組織ジェノサイドの基地。数ある組織でも最強だとかNO.1と評されている組織に相応しい広々とした空間で、そのリーダーである'ジェノサイド'は不穏な会話を交わす。

「それってゲームにも似たような道具あったような……」

「似たような、ではない。性質も見た目も全く同じな道具だ」

会話の相手は組織ジェノサイドのNo.2にしてリーダーの右腕的存在の老人'バルバロッサ'。

白く長い髭を蓄え、ネイティブアメリカンを思わせるような民族衣装を着たその姿は色々な意味で只者ではない事を思わせる。

尤も、ジェノサイドはとっくの昔に知り合っているのでそんな感情は全く沸かないのだが。

「性質が同じ?じゃあゲーム内と同じようにフォルムチェンジが……」
「そうだ。そう言われている」

「言われてるだけかよ……確かじゃないんだな?」

確定でない情報に気が付いたジェノサイドは一瞬だが軽く睨む。

バルバロッサは小さく笑うと変わらずに続けた。

「私が知っているのは所在地のみさ。そのアイテムのすべてではない」

「要するに、持ってきて欲しいんだろ?」

察しがいいな、とバルバロッサは呟く。

「写し鏡が本物かどうか調べて持ってきて欲しい。もしも本当に性質が同じなら、この組織は更なる戦力の増強を狙えるぞ?」

「でも待てよ。いくらポケモンのデータがゲームのセーブデータとリンクしているとは言っても、まるで変な制限が掛かっているかのように伝説のポケモンを使う事は出来ないじゃないか」

ジェノサイドの中でどうしても分からない疑問が生まれる。
何故なのか理由が分からない。
だが、どういう訳か彼等が住む世界では準伝説を含む伝説・幻のポケモンが一切実体化出来ないのだ。

「たった今顕現できるポケモンはゲーム内で登録している手持ちの六体、若しくはバトルボックス内の六体だけだ。そこに伝説のポケモンを紛らせてもソイツだけ無視されてるかのように姿を現さない。なのに……」
「それなのに、トルネロス・ボルトロス・ランドロスのフォルムチェンジが可能な道具が存在している事こそがおかしいと?」

「そういう事」

そう言われてバルバロッサは少し考える。
納得させるためではなく、単に噛み合う会話を思いつくためだけに。

「逆に考えてみるんだ。写し鏡があると言うことは伝説のポケモンを使える証拠だと」

「証拠?そもそもゲームと全く同じアイテムがある事こそがおかしいのにか」

「まぁ、とにかくだ。ただ持ってくるだけでいい。そうすればお前や私の持つ疑問が晴れるかもしれないだろう?」

「結局濁しやがった……。まぁいい。居場所は知ってるんだろ?何処なんだ?」

「場所は神東大学」

その瞬間、ジェノサイドはギクッとした。
そこは、あまりにも知りすぎててあまりにも身近な場所だからだ。

「何だって?」

「東京都八王子市にある神東大学だ。そこの考古学の教授が所持している。……との事だ」

「ダミー情報じゃないよな!?本当にそれは確かなんだろうな!」

「そんなに身近な場所にある事が気になるのか?隠し場所は案外'表'にあるものだよ。それに、情報は正しい。'こっち側'の親しい者と共有した話だからな。……どうだ、行けるか?」

「……俺を誰だと思ってる?」

微かに悩んだかのようだった。
それでもジェノサイドは決して歩を止めない。

最強であり続けるには、深部という世界で抑止力となり続けるには常に戦力が必要な事くらい彼でも十分理解していたからだ。

(やってやる……。俺達が強くなる為にも、この世界の謎を解明する為にも)

一部から囁かれている深部のテロリスト。
その実像は些細な事で思い悩む只の学生であった。

Re: PocketMonster REALIZE ( No.8 )
日時: 2018/09/17 13:18
名前: ガオケレナ (ID: U2d6Cmja)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


時間は再び進む。
昼も過ぎてゆき、そろそろ夕焼けに染まる頃ではないかと思えてしまう時間帯。

いくら数千人を超える学生を抱える大学だとしても、講義中の時間の間は滅多に大学敷地内を歩く者は居ない。
居るとしたらそれは、講義に遅刻してきた者か、空き時間があまりにも暇なのでフラフラしてる者か、もしくはこれから帰ろうとする者か。

彼はどれにも属さなかった。
'ジェノサイド'という身分を隠し、服装も白のシャツに青のジーンズというシンプルすぎる格好で大学構内に潜入すると、行動を開始する。

「案外セキュリティ緩いな。こうして見ると。部外者も平気で中に入れるじゃん」

これまでの経緯を思い出しつつ防犯意識の低さにウンザリしたジェノサイド。
同時に、もう引き下がれない事をも強く意識し、目当ての道具を探しにアスファルトを強く踏んだ。

だが。

「思ったんだけど、此処にある事以外何も知らねぇじゃん。ここからどうしろっての?」

いくら自身が在籍している大学とはいえ、彼は普段は影の薄い学生だ。
特別仲の良い講師や教授がいる訳でもない。
それどころか、未だに敷地内すべての情報を把握しているのかも怪しかった。

どのように探せばいいのか分からなくなったジェノサイドはバルバロッサに連絡を取ろうと携帯を取り出した。

「もしもし?なぁ、今着いたんだけどさ……」

「遅いぞ。連絡が来るまでが。今まで何をしていたんだ」

「いや俺朝から居たしなぁ……」

辺りに人が居なくなり、今が探せるチャンスだとばかり思っていたのが失敗だった。
連絡ならいつでも取れる。探す直前ならば間に合わないかもしれない、と少しの説教じみたバルバロッサの声を聴いたジェノサイドは適当なタイミングで遮ると本題に入った。

「例の道具は1010D-3教室にある。正式にはそこは教室ではなく、ある教授の研究室らしいのだが……そこまで伝えればあとはいけるな?」

「最初からそれを教えてくれよ!……って待てよ?研究室って事はまさかソレはその人の私物って事か!?」

「何を今更。ダンジョン内のお宝よろしく地面に埋まっているとでも思っていたのか?いいか、写し鏡は教授の持ち物だ。何とか説得してこちら側に引き込め。それが無理なら……」

「無理なら?」

「力ずくででも奪い取……」

電話は途中で聴こえなくなった。
何故ならジェノサイドの手から携帯が滑り落ちてしまったからだ。

ガシャン!という地面に落ちた音と共に通話が切れる。

理由は明白だった。

「ポケモン……!?」

ジェノサイドに対し、ポケモンを振るって攻撃してきた者が目の前に立っていたからだ。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.9 )
日時: 2018/09/20 14:29
名前: ガオケレナ (ID: jwkKFSfg)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


ジェノサイドは落とした携帯を拾ってゆっくりと前を見る。

とにかく、状況の整理が必要だった。
まず、ジェノサイドの前に立つのは彼と同年代ほどの男性とコマタナ。
当然顔は知らない。

対してジェノサイドはシンプルな服装という出で立ちで恐らく顔もバレていない。
バレる要素が今のところ存在しないからだ。

と、なると。

(コイツはとにかく無差別に人を攻撃する'暗部'の人間か?それとも写し鏡があるって事を知って邪魔になりそうな人間……即ち俺を排除しようとしてるのか?)

しばらく両者見つめ合っていたが、いつまでも無防備でいることを許さない。
ジェノサイドはとにかく建物の陰に隠れる事が出来るよう、まずは逃走し、コマタナのトレーナーはそれを追いかける。

校舎棟の外周を沿うようにして走り回るジェノサイドはチラリと後方を確認する。
トレーナーよりも先にコマタナが躍り出てきた。

チャンスとばかりにジェノサイドは突如足を止め、体を回転させながらトレーナーが来るよりも前に自分のポケモンを繰り出す。

シンプルなモンスターボールから出るはリザードン。
今現在ポケットモンスターYをプレイしているジェノサイドはシナリオ中にヒトカゲを選び、それをクリアした今現実世界でも使えるようにと厳選、再育成したポケモンがそれである。

ゲーム対戦においてはメガシンカを使う個体だがどういう訳か実体化においてメガシンカは使えない。
何故なのか考えた事は何度かあるが今はそんな余裕は無かった。

コマタナ相手ならば十分すぎるからだった。

遂にトレーナーの姿が目に映る。
その瞬間。

リザードンの吐く大文字でコマタナを吹っ飛ばしたジェノサイドは、驚いているトレーナーを無視してとにかくその場から離れた。

リザードンをボールに戻してひとまず開けた敷地に戻ったジェノサイドは一息ついてから自分の周囲を見回した。

(やけに……学生が多いな……講義中の時間のはずなのに……)

普段ならば出歩いている学生が少ない時間帯のはず。
にも関わらず、まるで文化祭の準備をしているのではないかと思わんばかりにそれなりに人が出歩いていた。

リュックを背負っている見た目完全な学生たちを少し気にしつつ、突然攻撃された事をバルバロッサに報告する為にジェノサイドは食堂が繋がっているラウンジに向かおうかと思い始めた時だった。

明らかにリュックを背負った小太りな男と目が合った。
異様なまでに目を丸くし、じっとこちらを見つめている。

気味悪く思ったジェノサイドだったが、それを無視しようとした直後。

その男がモンスターボールをジェノサイド向けて投げ出した。

(……!?)

それだけで終わらなかった。
周りにいた学生'全員'がジェノサイドを見つめ、ボールを投げたのだ。

(まさか……こいつら全員深部の人間!?)

自分以外にこの時間に大学内に深部の人間が居た事と明らかに連携しているその様を見てジェノサイドはただ驚愕するばかりだった。

こんなにも表の世界に裏の人間が居たことに。

目で見ただけで二十数体のポケモンがいる。
埒が明かないと見たジェノサイドは再びリザードンを呼び出すと飛び乗り、飛ぶように命令した。

九階建ての校舎棟と同じ位まで上昇した辺りだろうか。

地上で見上げている無力な人々を見ながらジェノサイドは命令した。

「リザードン、大文字だ」

口から灼熱の炎が吐き出されると地上のそれらすべてを包むかと思わんばかりに拡散、爆発する。

煙に紛れて敷地内の裏手へと飛ぶジェノサイドは追っ手が居ないことを確認すると空中廊下へと着地し、身を屈めて隠れてみることにした。
ついでにリザードンを戻して。

「撒いたか……」
安堵したジェノサイドは携帯を開き改めて連絡しようとした正にその時。

「あれあれぇ~?今君ポケモン使ってたでしょう?」

何処か聞き慣れた声に、ジェノサイドは背筋が震えた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.10 )
日時: 2018/11/14 17:29
名前: ガオケレナ (ID: 4rycECWu)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

瞬時に振り返る。
最早そこに居るのは誰であろうとどうでもよかった。
たった今抱いた感情をすぐに払いたかったからだ。

「先……生?」

だが、予想に反してそこに立っていたのは見知った顔ではあったが少なくとも友人と呼べる人ではなかった。

「やっぱりな~。普段席の真ん前で授業受けてる子でしょう?こんな時間にこんな所で何やってたの?黙ってて上げるから説明はして頂戴?」

伊藤いとう莉佳子りかこ

ジェノサイドが普段学生として生活している世界で受けている講義の講師。
老年に達する教授が多い世界の中で、彼女はとりわけ若く、外見に相応しいようにどこか可愛げが名残として残っているような女性だった。

比較的生徒と年齢が近しい事もあってどちらかと言うと人気の講師だが、その中にはジェノサイドも含まれていた。
特に彼は友達数名を連れて彼女の講義を受けている。
それも、百人は軽く収まる広い講堂の真ん前でだ。

「先生の前だとプレッシャーかかって寝る事なんて出来ねぇだろ!」と言っていた友達がいた気がするが、具体的には最前列に座る理由をジェノサイドはよく分からなかったがここでは過ぎた問題だろう。

「伊藤先生……。俺今ちょっとそれ所じゃなくて……」

「言い訳はいいの。規則でこの敷地内ではポケモン使うのは禁止って決められているよね?」

「ですが……っ!確かに俺は狙われていました!俺はそれに反撃しただけで……」

「正当防衛の主張かな?でも流石に相手が悪いと思うよ?分かっていると思うけど、先生の担当は刑法なのであって……」
「とにかく、今はそれどころじゃないんだ!今すぐにやらなきゃいけない事がある!罰則はまた別の機会に受けるから今だけは見逃してほしい!」

ジェノサイドは伊藤とのやり取りを無理矢理終わらせようと彼女の脇を走り去ろうとする。

構え、右足を一歩踏み出した時だった。

「……ねぇ、どうしてこんな時間なのに大学敷地内を歩く生徒さんがこんなに多いのかなぁ?」

ボソッと。

「どうして皆が皆ポケモンを携えているのかしら?」

伊藤は呟く。

それは確実にジェノサイドの耳には届いていた。

「それってもしかして、'あの人'が絡んでいるのかなぁ?」

とうとう嫌な汗を吹き出しはじめた。
'こっちの'世界の人間にしか知り得ない情報を持っている、そんな風に受け取れる伊藤の言い振り。

「全部知っているのか?」
本当はそう言いたかったジェノサイドだったが、あと一歩が踏み出せない。

なので、カマ掛けも兼ねてこう言った。

「先生、1010D-3教室って何処でしたっけ?」

チラリ、とジェノサイドは伊藤の顔を覗き込む。
伊藤は一瞬、ほんの一瞬だけ口元を緩めたように錯覚させると少しだけ間を空け、彼の思いに答える。

「あそこよ。10号館の10階。そこのDフロア三つ目の教室。……と、言うことは天野先生に用があるんだ?」

「そういう所です。あ、場所教えていただき有難うございました」

駆け足でこの場から抜ける。
とにかくジェノサイドはここから早く出たかった。

写し鏡が他の勢力に取られる可能性を考えたのもあったが、今あの人とこれ以上会話をするのが苦しかったのだ。

(今まで散々……苦しんで来たけどな……それとは違う苦しみだな)

ジェノサイドはこれまでの、深部最強という地位に辿り着くまでに受けた他組織との争いや傷付けあった血なまぐさい過去を思い出しながら空中廊下から校舎棟に繋がる扉を開け、走り続けた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.11 )
日時: 2018/10/15 18:36
名前: ガオケレナ (ID: aAxL6dTk)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


ジェノサイドは駆ける。

(10号館の……10階っ!)

新たな追っ手や他組織の人間にいつ出くわすか分からない不安は、ごく自然に足を急がせる。

(そこの……三つ目の教室……っっ!)

バタバタバタと自ら足音を響かせる。
最早隠れる気も無い。

10号館と大きく掲げられた建物へ滑り込み、気が遠くなる程の階段を駆け上がる。

思えば1階から10階である。
普段から特別な運動をしていないジェノサイドにとっては過酷な移動そのものだった。

息が絶え絶えになり、足も少し震える。
視界も軽くボーッと霞んだと思った頃に、目当ての部屋が見えた。

「1010D-3教室……」

暫く扉の前で固まると思ったら息を大きく吐く。
呼吸を整える合図のつもりだった。

「失礼しま……」
言いかけたところで自分が今突然引き戸の扉を開けるところだった。

「おっと、危ねぇ危ねぇ」
数ミリの隙間を見せた扉から一旦手を離し、今度は三度手でノックした。

奥から

「はい?」

という弱々しい声が聴こえる。
間違いない。この教室を、研究室を構えている教授の声だ。

「失礼します」

ジェノサイドはあくまでも自分は一人の生徒として研究室を踏み入れる。

予想通りの空間だった。

にこやかなお爺ちゃんと現代的な机に資料を並べ、隅には大きな本棚を置いている。

「おや?」

その教授……天野あまの敏生としきは不思議そうな顔をしてジェノサイドの顔を眺める。
もしかしたら見覚えのない顔だと見破られたのかもしれない。

それを薄々察知したジェノサイドは流石だなと思うと、まずは頭を下げた。

「すみません。本当だったら事前に連絡すべきだったのに、突然アポ無しで訪問してしまって……」

「いや、いいんだよ。まぁ本当は連絡あった方が嬉しかったんだけどね」

資料から目を離し、椅子を回転させて天野はジェノサイドを真っ直ぐ見つめる。

「それで、私の講義を受けたことの無い君がどうして私の研究室に?」

「それは……」

ジェノサイドは研究室を目で追うように隅々まで探る。

写し鏡は無い。
唯一分かったのは、目の前の教授が考古学専門だということだった。

「あの……天野先生……申し上げにくいんですけれど……」

「なんだい?」

ジェノサイドは困り果てた顔を装ってわざとゆっくりと喋る。

「先生が……カッパドキアの遺跡で発見したとされる……写し鏡をほんの少しだけ見せていただけないでしょうか?」

写し鏡。

その言葉が放たれた直後、それまでにこやかだった天野の顔が変わった。

まるで、余所者や異端者を見るように。

「本来だったら、この学校でその名前を知る人は一部を除いて存在しないはずだ。それに関するレポートも求めていないからね?なのに君は、しかも私の考古学の講義は一度も受けていないね?なのにそれを知っているとはどういう事かね?」

非常に答えにくい質問だった。
と、言うより自分の正体が恐らくバレているだろうと悟った瞬間でもあった。

震える声で、

「と……友達から……」

と苦し紛れの言い訳を言おうとしたところで天野が遮り、椅子から立ち上がってカーテンを開ける。

そこには、ゲームのドット絵でしか見たことの無いアイテムが確かにそこにあった。

そのドット絵と全く同じで、まるで現実の素材で見事に再現させたかのような、綺麗な写し鏡が。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.12 )
日時: 2018/10/17 11:30
名前: ガオケレナ (ID: z3CYtkTJ)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「まさしくこれは、写し鏡だ」

天野はそれを両手で大事そうに運びながらジェノサイドの目に留めさせる。

「だが、君は間違っているよ。」

天野の鋭い声がジェノサイドの耳を刺激させ、顔を上げさせるには十分だった。

「間違い?」

「そうだ。これは決してカッパドキアで発掘したものではない。確かに私は考古学の研究者故に発掘調査について行く事はある。それが外国のものでもね。」

でも、と天野は一度区切ると流石に手が疲れたのか写し鏡を机の上に置いた。

「これはカッパドキアではなく、此処日本で、それも大山という山で見つけた場所なんだ」

在り来りな地名がために何処を指しているのか分からないジェノサイド。一旦調べようとポケットからスマホを取り出そうとしたが、

「大山とは、神奈川県にある山なんだ。あの地域は丹沢山地といって山々が連なる所でね、その中のとりわけ大きな山……確か場所は伊勢原市だったかな?とにかく、そこにあったんだ」

疑問が解決したジェノサイドはスマホを取り出すのを止めたが、それでも新たな謎を生む。

何故、ポケモンを強化する道具が山の中に眠っていたのか?
何故発掘する必要があったのか?
と、いう単純なものだった。

言おうか悩んだ彼だったが、本来の目的は写し鏡の解明ではない。

目当ての道具はそこにある。

一切の雑念を捨てる覚悟にと強く息を吐く。

瞬間。

ワンルーム程度の研究室は突如として暗闇に覆われた。
それまであった家具、研究資料、絨毯といった空間を構成していた物は一切失われ、天野とジェノサイドは闇に放り出される。

そうとしか感覚が感じなかったのだ。

「な、何だね!?これは一体……」

予想通りと言わんばかりに天野が周囲をぐるぐる回って混乱する中、ジェノサイドは小さく命令した。

爆発させろ、と。

闇に紛れたゾロアークが、するりと姿を現す。
両手に禍々しいオーラを携えて。

ゾロアークの細く小さい手が本来床があったであろうところに触れる。

命令通りに爆発が起きた。

天野は自分の体が吹き飛ばされるような感覚に襲われ、思わず目を瞑る。

隙はその時生まれる。

ジェノサイドは素早く天野の背後に回り込んで机の上に静かに置かれていた写し鏡に触れる。
と、同時に窓の鍵を開け、開放する。

上階のせいか強い風が全身を打つがお構い無しと何の躊躇もなく窓の縁に右足を乗せた。

「お、お前は……」

イリュージョンが解かれ、一切の変化がない研究室の床にうつ伏せになる天野がまるで苦しそうに息を吐く。

「お前は……何者なんだ……」

今まで見せた幻影のせいで自分が苦しんでいると錯覚している天野を鼻で笑いながらジェノサイドはこれまた何の躊躇もなく告げた。

「ジェノサイド。って言えば分かるだろ?」

その言葉に「あぁ……」と呻くと暫く待った後にこう言った。

「そうか……あいつに、頼まれたんだな……。まさか
、子供を…………使うなんて。……あいつらしく無い」

絶え絶えにして声が小さすぎて聴こえなかったジェノサイドは面倒臭そうな顔をすると、それを聞き終える前に窓から飛び降りた。

片手に写し鏡、片手にリザードンのボールを持ちながら。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.13 )
日時: 2018/10/17 12:06
名前: ガオケレナ (ID: z3CYtkTJ)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

落下のエネルギーでリザードンが苦しまないように飛び降りた瞬間にボールを投げ、すぐさま着地する。

後は優雅に心地よい風を浴びながら降下するだけだった。

強引だったが目的は果たした。
その代物が偽物の可能性も否定出来ないが、奴の言われた通りの場所へ行き、そこにある物を持ってきたのだから問題があるとすれば教えられた情報そのものだろう。

「ご苦労さん」
そう言ってリザードンをボールに戻す。

敵対組織の刺客はまだまだ居るはずだ。
どのようにして安心安全に帰ろうか考え始めた時だった。

やけに強く響く靴音を捉えた。

「何をしていたの……?今」

見慣れた顔だった。
だが、先程と違っていたのは顔と足音さえもが怒りを表しているようだったことか。

「見たよ?聴こえたよ?あなた、天野先生の研究室に行って何か危害を加えたでしょ……」

伊藤は彼の片手に注目する。
場違いな加工品が腕に抱えられていたのを見たのだ。

「ねぇ、君は……」
「俺の名はジェノサイド。深部ディープサイド最強にしてこの世界の頂点に君臨する組織のリーダーにしてその人って訳さ。事情があるから詳しくは言えないがこれも組織の命令ってワケ。こっちの世界の人間にはあまり知られたくなかったが……」

「嘘よ!!あの真面目な君が手配中のテロリストの訳が無い!今の言葉……取り消しなさいよ」

「ごめん先生。今の全部事実なんだ。……ポケモンが姿を表した4年前から俺はずっと深部の人間。たまたまジェノサイドのリーダーだったってだけさ。それに……」

「いいの?私がこの事を学校側に伝えたらあなたはもう此処には居られないわよ?……それでもいいの?」

「証拠が残っていたらの話だなそれは。それに……俺はもう覚悟はしている」

二人の背後からバタバタと大勢の走る音が聴こえる。
恐らく、先程のイリュージョンで起こした爆発だけのナイトバーストに気付いた者達がこちらに向かっているのだろう。

最早空しか退路がないと見たジェノサイドは高速移動用のポケモン、オンバーンのボールを取り出した。

「この世界で、平穏に生きることなど不可能ってね。それを覚悟の上で俺はこっちの世界で生きると決めた。……もう邪魔しないでくれ」


伊藤の予想もつかない程の'瞬間'でジェノサイドは地上から姿を消した。

空にいると気付いた頃にはもう敷地内から遠く離れた後だった。

改めてジェノサイドは覚悟に身を刻んだ。

決して表の世界では生きないと。
生涯を不穏な中で過ごし、常に不安定の中を生き、そして平和を望みながら死ぬと。

抱えた写し鏡が、今更重く感じた。