二次創作小説(新・総合)
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.14 )
- 日時: 2018/11/08 18:55
- 名前: ガオケレナ (ID: qHa4Gub8)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「お疲れ様です、リーダー」
まず初めに掛けられた言葉だった。
ジェノサイドはそれから、真っ直ぐ自分の組織の基地へ帰り、それを置いてきたのだ。
「写し鏡、取ってきたそうですね」
「まぁな。難しくも何とも無かったが」
ジェノサイドは視界にふと映ったパイプ類を見て自分が今本当に基地内に居るのだと再認識した。
構成員たちからも常に薄暗い事で評判の基地だ。
東京都八王子市北野町にある、周囲を林で囲まれた自然の中にぽっかりと浮かぶ廃工場。
それを再利用し、彼らは潜伏していた。
外から見ればそこに100人近くの構成員が生活を営んでいるとは予想も着かない程、隠れるには最適の場所だった。
外見も捨てた割には工場としては綺麗に保たれている。
そこの地下、元々作業場として使っていた所の真下に広い空間をわざわざ作ることで彼らの生活を賄っていた。構成員全員の部屋を振り分け、全員で食事・休憩が出来るスペースも設ける。
基地としては完璧な仕上がりだとジェノサイドは常に思っていた。
彼らはバルバロッサが普段利用していた彼専用の研究室に赴き、写し鏡を渡した所でこれらの会話を交わしていた。
「あの写し鏡……どうするつもりでしょうか?」
ジェノサイドとよく行動を共にしている、彼とは背が一回り小さく、何処か弱々しい見た目のハヤテと、2m近い身長と何かスポーツでも行っていたのか全体的に大きくがっしりとした褐色肌のケンゾウと呼ばれた大男が二人を従えたジェノサイドと暗い廊下を歩く。
「さぁな。アレの使い方は俺も分からない。ただバルバロッサから取ってこいと言われただけだ」
「全部あいつ任せって事っすかリーダー!!」
「そうだな」
ジェノサイドとハヤテとケンゾウ。
年齢は皆近いように見えた。
外から見れば身長差というアンバランスさはあるものの、友達同然の和気あいあいとする様からは上下関係は見えなかった。
最も、ジェノサイドがその上下関係を嫌う節があったとしても。
「ですが、いいんでしょうか?」
ハヤテが単純すぎる質問をぶつける。
「得体の知れない道具を持ち出すだけでなく、すべてバルバロッサに丸投げしてしまって……」
「仕方ないだろ。あいつ曰く戦力の増強になるんだとか。深部最強とは言われた俺たちだが、それでも日々色んな奴らに狙われているんだ。少しでも強さと抑止力は高めた方が良い」
「バルバロッサって、リーダーがその組織作った時から一緒だったっていうリーダーの片腕的な存在っすよね!!」
ケンゾウも誰もが周知の事実を何故かこのタイミングで聞いてきた。
再確認でもしたかったのだろう。
「あぁ。日数だけならお前ら二人とは長く居るよ。あいつが俺と共にこの組織を作ってくれたっけか。その割には不在の日が多かったけどな」
長い廊下をひたすら歩き、鉄製の扉が見えた時ジェノサイドは二人の方へ振り向く。
「これからまた忙しくなる。その為に今日はパーッとやろうぜ」
扉の先は広間である。
常に誰かが居る空間、そして誰もが集まる空間。
三人とも腹が空いてきた時間だった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.15 )
- 日時: 2018/10/21 19:01
- 名前: ガオケレナ (ID: ICkQIVcb)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
翌日。
珍しくケンゾウに見送られてジェノサイドは講義の為大学へと飛び立った。
移動が面倒だという理由でジェノサイドは普段からポケモンに乗って移動している。
しかし、本来は推奨されるものではなく、危険も有りそもそも大学側も規則で禁止しているため、空を移動しているのは大学の全生徒から見て彼ぐらいしか居ないらしかった。
バレると面倒なので大学近くの何でもない所で降り立つ。
そこから5分ほど歩けば到着。
いつもの光景だった。
当然彼は今普段着である。
ローブを着るのは夜組織の一員として活動する時ぐらいであり、自分をジェノサイドだと主張する時以外は昼でも着なかった。
近づくにつれ段々と心配してきたジェノサイドだったが、大学内では何の騒ぎも無ければ普段通りの姿で彼を出迎えている。
(写し鏡が盗まれたっていう'こっち'からしたら結構デカい問題が起きたって言うのに……まぁこれが普通か)
またも、表と裏の世界のギャップを感じたジェノサイド。
そして、彼が何よりも望む世界だった。
表の世界の人間は裏の世界に関わらず、そして裏の世界の人間も決して表の世界の人間に危害を加えてはならない。
いつからから、ジェノサイドはそんな風に思うようになっていた。
だからこそ、許せなかった。
表の世界に、'それ'を持ち込む人間を。
「あれ何?」
「人が立ってんぞ!」
講義が始まる前の時間帯。敷地内には多くの学生がそれぞれの教室へ向かう途中、それを見た。
地上から数えて3階の建物の屋上に、1人の男が立っていた。
本来そこは立ち入り禁止のはずである。
にも関わらず、その男は地上を歩く学生たちを見下ろすように佇み、ゆっくりとモンスターボールを取り出した。
突如、突風が舞う。
意図的にしか生み出したと考えられないその風の塊は、迷うこと無く地上の学生達に振るわれた。
叫び声が上がった。
中には飛ばされている者もいた。
その風の正体は男の繰り出したダーテング。
手に持つ団扇で風を起こし、無差別に振るっている。
暗部の人間が行うような光景だった。
だからこそ、ジェノサイドは許さない。
ダーテングが再び風を集め、投げ出したと同時に。
何者かによって風が切り裂かれた。
まるで内部からズタズタに裂くように。
「来たか……」
ダーテングを従えた男がニヤリと笑う。
男の眼前にはゾロアークを隣に佇み、漆黒と赤で彩ろられたローブを来たジェノサイドが確かにいた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.16 )
- 日時: 2018/10/28 12:57
- 名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ジェノサイドは静かに男と対峙する。
つばが異様に長いハットの隙間から殺意を込めた目が光る。
男は笑いたくなる感情を抑えながら言った。
「テメェが此処に居るのは知っていた……。こうでもすりゃ出てくるとは思ったがビンゴだったな」
「無関係な人間を餌にする理由があるのか?」
「当たり前だろ?テメェも隣のポケモンみたくコソコソ隠れるのがお得意のようだからな?そんな状況なんだ、炙り出しても構いやしないだろう?」
「お前がそう思うならな」
言い終えたのを合図代わりに、ゾロアークが駆け出す。
接近し、物理的に攻撃してくると思った予想は大きく外れた。
少し近い位置で'かえんほうしゃ'を放つ。
男の命令でダーテングは風を操る。
軌道を大きく外れた炎は遥か空の隙間へと散っていく。
「それで?わざわざ自然の宝庫八王子地区に来てまで俺を探していたって事は何かしらの狙いでもあるのか?」
ジェノサイドは皮肉を込めた調子で尋ねる。
彼は敵と対峙すると不必要な挑発を行う癖があるようだった。
「……写し鏡」
「ねぇよバカ」
再びゾロアークが'かえんほうしゃ'を放つ。
対してダーテングは'おいかぜ'で払う。
「情弱の雑魚を相手にしてる程暇じゃねぇんだ。無いものは無い。帰れ」
「情弱じゃねぇよ。俺には黒須って名前があんだ。組織'LEAF'のリーダー黒須。つまり何が言いたいかSランク様には分かるよなぁ?」
黒須と名乗った駱駝の皮衣でも着たような簡素な服にフードを被るという出で立ちの男は遠回しに自分が暗部ではなく深部の人間だと告白する。
深部の人間同士の鉢合わせは意味合いが異なる。
即ち、
「なるほど……。つい最近止んだから諦めたと思ってたのにな……。単に俺に対する襲撃か」
ジェノサイドは絶望的に呆れながら相変わらずハットの隙間から黒須をじっと見た。
深部最強にしてピラミッドの頂点に位置するジェノサイド及びその組織。
常に彼は「最強」という名声と「最強を狩った者」という評価と「故に持つ莫大な」財産目当てに常に深部全体から狙われる立場にあった。
世は組織間抗争が勧められている事も拍車がかかっている。
組織の設立当初から受けた襲撃である。
今更恐れなど抱くはずもない。
更に、相手は聞いたことも無い格下のランクの組織の、しかもそのリーダーである。
不可解な点しか無いものの、それでもこれまでに出来上がった'慣れ'のせいで危機感は生まれない。
いつも通り背後に気を配りつつダーテングと黒須を睨む。
相手は組織の長。
議会が定めたルールに拠れば、抗争の勝利条件とは敵対組織の構成員の殲滅若しくは相手方の降伏、そして長の討伐。
つまり、今この際に相手のポケモンバトルに勝てばそれだけでLEAFという組織は壊滅し、更なるルールに従えば相手の財産を手に入れる事も出来る。
ジェノサイドの行動は、既に決まっていた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.17 )
- 日時: 2018/10/28 14:51
- 名前: ガオケレナ (ID: qbtrVkiA)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ジェノサイドは決して完璧超人ではなかった。
すべてのポケモンの特徴を一言一句狂いも無く述べる事が出来なければ最新の対戦環境すらもよく分かっていない節がある。
最も、数値の世界であるゲームの環境と比べて、この世界は生き物のように動くことが可能なポケモンに対し数値だけで測る事は適当ではないのだが。
だからこそ、ジェノサイドは悩む。
目の前のポケモンにどう対応して良いのかを。
「どうしたジェノサイド、何もしないならこちらから動くぞ!」
黒須の言葉を合図にダーテングが走る。
反射的にゾロアークが命令無しに'かえんほうしゃ 'を飛ばすも、乱れた風のせいで全く関係ない方向へ吹き飛んでいく。
「こうなると……特殊技は使えねぇか」
「オイオイ、お前きちんとポケモン育ててねぇな?ゾロアークが勝手に動いたぞ!」
対してダーテングは主の命令通り'あくのはどう'を放つ。
直撃する直前の至近距離で'ナイトバースト'を放つことで相殺した。
「ハッ、それがコイツの強みだ。俺はコイツを使い続ける事によって……こっちの世界でも育成する事で性格を直した……。今やコイツは俺の想像通りに動いてくれる最大の仲間と化したのさ」
「……要するにゾロアークがお前の頭ん中や行動パターンを理解したってだけだろ」
風は止まない。
攻撃の反動と向かい風の影響で浮いた体を地上に降ろしたその時、黒須とダーテングは見逃さなかった。
追い風の影響で速くなったダーテングはすぐさまゾロアークの懐へ潜る。
黒須は叫んだ。
「今だ!奴の仲間とやらに最大威力の'けたぐり'をお見舞いしてやれ!!」
ゾロアークの最も嫌う格闘技が直撃する。
痛みに苦しむ顔をしたかと思うと、その場に倒れ込んだゾロアーク。
それを見た黒須は高らかに笑った。
「ハハッ、ほら見ろよこのザマを!俺でもその気になれば見掛け倒しの強さしか持ってねぇジェノサイドに勝てるってなぁ!!」
だが、ジェノサイドは表情一つ変えない。
まるで、ここまで起きた事すべてを思い描いていたかのように。
「バ~カ……」
相手にギリギリ聴こえるか聴こえないかぐらいに呟くジェノサイド。
その瞬間ゾロアークは立ち上がる。
拳に力を込め、今度は真隣に立つダーテングの懐に潜り込むように。
その姿はまるで、これまでの攻撃の仕返しのようにも見えた。
「'カウンター'っ!!」
倍になった威力をダーテングが捉える。
身体がふわりと持ち上がり、吹き飛んだ。
黒須は綺麗な弧を描くダーテングを眺める事しか出来ない。
これまでの流れを理解するのに少し時間を要したからだ。
その一撃で倒した確証が無いジェノサイドは続けて命令する。
「'かえんほうしゃ'」
追い風は消えていた。
なんの迷いも無いようにその炎はダーテングを包んだ。
二重の攻撃を受けたダーテングは二人の男が立つフィールドを遥かに超え、地上3階の高さから落ちていく。
「クソっ!!」
黒須は悔しさを噛み締めながら自身のポケモンをボールに戻す。
敗北を認めた瞬間でもあった。
「終わりだな。命までは取らねぇからさっさと消え……」
「これで終わったと思うな」
ジェノサイドの優しさを含めた警告を無視して黒須は携帯端末を取り出す。
何やら操作したかと思うと、その背後に無数のポケモンが現れた。
「……はあっ?」
「バトルには負けた……だが俺からすればテメェの命を取れればそれで問題ねぇんだよ!!」
20体程のタネボーだった。
端末の恐らく何らかのアプリから呼び出された無数のタネボーが一気にジェノサイドに襲いかかる。
逃げ場が無いジェノサイドはリザードンを呼ぶとその身を乗せて空へと逃げていく。
タネボーも空を追って列をなして伸びていく。
それに留まらない。
ジェノサイドにギリギリ届きそうなタネボーの列は、下から順に'だいばくはつ'を起こしていく。
長い尾のようにも見えただろう。
爆発は徐々にジェノサイドに迫る。
身を捻って命からがらに最後の爆発を避けた。
安心したのも束の間、黒須は再び端末を操作して再びタネボーやコノハナを呼び出し続ける。
「また来るのかよ……!?」
リザードンは徐々に速度を上げていく。
無数の爆弾から逃げる為に。
その様を見て黒須は呟いた。
「俺は最初からお前を殺すつもりさ。逃がさねぇからな?」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.18 )
- 日時: 2018/11/07 09:50
- 名前: ガオケレナ (ID: 51us8LMs)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
密かに流行っているアプリがある。
そんな話を自らの組織の構成員同士が話す会話を盗み聞きしたことがあったことをジェノサイドは思い出す。
『ポケモンボックス』
かつて同名のゲームがあったがそれとは全く関係の無い非公式のアプリ。
しかし、非公式の割にはWi-Fiを介してゲーム本編を繋ぎ、データを遠隔操作出来るというハイレベルな物だった。
これにより、ゲーム内で設定した手持ち六体以外のポケモンも操る事が出来る。
今、ジェノサイドの目の前で数10体のポケモンが居るのはこの為だった。
舌打ちしながらジェノサイドはリザードンの背から地上と、そこから伸びてゆくタネボー爆弾を眺める。
爆発しては減り、黒須がスマホを操作して再びタネボーを呼び出すという連鎖。
終わりが見えなかった。
そんな時だった。
地上から列を成したタネボーの集団が、リザードンの羽ばたきによって崩れ、落下していく様を彼は見た。
そしてこれをチャンスと捉える。
「ここで止まってくれ」
リザードンにそう指示すると、爆発の射程距離に留まるジェノサイドとリザードン。
黒須には何をしたいのかよく理解出来ないように映ったが、彼もまた好機と睨む。
5体ほどのタネボーと1体のコノハナを送り込むと、じっと見つめる。
ジェノサイドからもこちらに向かうポケモンの姿が見えた。
突然飛び掛ってきたコノハナを身を躱して避けると、次に襲いかかって来たタネボーに対して迎え撃つ。
自爆する直前の絶妙なタイミングを狙うべくギリギリまで距離を詰めるまで標的に意識を集中させ、微動だにしない。
そして、その時が来る。
「リザードン、思い切り羽ばたけ」
簡単に言い切ると、その通りに動くリザードン。
邪魔な風も一切無い状態で目の前に躍り出てしまったタネボーはいとも簡単に吹き飛ばされてしまう。
自身のトレーナーである、黒須の前へ。
「あっ……」
回避すらも許さない。
声を漏らしかけた黒須だったがそれすらも認めないかの如く'だいばくはつ'が一歩遅れて発動してしまった。
「俺に勝ちたけりゃ周りをよく見ることだな。名誉求めてリーダー自身が来るのはちゃんちゃらおかしい」
地上にゆっくり降りながら呟くジェノサイド。
それを皮肉にも聴こえてしまうかのように、次の瞬間には彼を電撃が襲った。
何が起きているのか理解が遅れる。
意識が途切れる前に背後を見てみると、1匹のコイルが'10まんボルト'を放っているのが見えた。
ジェノサイドの軽い体が力なく倒れる。
敵に放ったはずの言葉が自分に返ってしまった。
そう後悔しただろう。
彼の背に黒い尻尾が無ければ。
倒れたジェノサイドは瞬間にしてゾロアに姿が戻る。
当の本人は建物を彩る緑の茂みからひょっこりと現れた。
「コイルか……ロックオンでも持ってくるんだな。イリュージョンこそは狙えないだろうが」
地上に降りる手前に展開したイリュージョンで周囲の学生とコイル、そしてそのコイルの持ち主を惑わすジェノサイドは周囲をぐるぐる回って新たな敵を探してみるも、その姿は掴めない。
その理由がたった今判明した。
空中に漂っていたからだ。
スカイバイクと呼ばれた、まるでセグウェイが空を飛ぶために改良された奇妙な形の機械に乗った人間が一人こちらを見ている。
髪が長く、表情が見えないために本当に眺めているのか不明だったが。
(さっきのLEAFとかいう奴らの人間か……?だがそこの長ならさっき爆発したはずだが……)
とりあえず目の前のコイルとスカイバイクを堕とそうとボールを懐から取り出した時だった。
スカイバイクの男が先に動く。
スマホを少し弄ると、出てきたポケモンに戦慄したジェノサイドは急遽考えを改めさせた。
迷い無くオンバーンを呼び出し、それに飛び乗ると大学敷地内のうちの裏手へと空から逃げていった。
彼が驚愕した理由、それは呼び出されたポケモンの量だった。
黒須は1回の操作で多くて20体のポケモンだったが、対して今の男は1回で100体は軽く超えるコイルが現れたのだ。
突如として空がコイルで埋まる。
ジェノサイドは逃げざるを得なかった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.19 )
- 日時: 2018/11/07 20:21
- 名前: ガオケレナ (ID: 51us8LMs)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
学生が勉学に励み、時には遊び、時には騒ぐそんな日常を作る大学。
本来ならば表の世界の人間しかおらず、裏の人間も居たとしても表に溶け込む。
そんな平和な世界が今日、大学敷地を覆い尽くす程のコイルによって壊された。
惑い、混乱する学生達を無視してコイルは一人の男を捜索しつづける。
スカイバイクに乗った髪の長い男もジバコイルを召喚すると自らも宙に浮きながらジェノサイドを探す。
100対1という大差をつけられ、超劣勢に追い詰められた当のジェノサイドは、
「もしもし……聴こえるか?」
体育館の陰に隠れながら電話をしていた。
『あぁ、聴こえるとも。こんな時間にどうした?』
電話の相手はバルバロッサである。
彼はジェノサイドの基地にてわざわざ造られた自身の研究室で写し鏡の解析を行っているところだ。
「今大変な事になっている。さっきから立て続けに組織の襲撃を受けているんだ。今も大量のコイルをバラ撒いて俺を探している」
『なるほど……』
一言か二言ほどジェノサイドの話を聴いたバルバロッサは結論から述べる。
『そいつはCランク組織の'エレクトロニクス'だろう。電気タイプのポケモンを得意とするチームだな』
「Cランクゥ?何でそんなレベルの低い組織が今更俺を狙ってきてんだ」
『そんなの分からんよ。ただ……憶測だけでなら分かるぞ』
言いながらバルバロッサは、目の前にある巨大な装置を少し操作する。
装置には写し鏡が置かれているが、そちらではなく備え付けられたモニターを注視する。
PCと繋がっているモニターに地図が現れる。
今ジェノサイドが居るであろう神東大学だ。
『恐らくだが、お前さんが神東大学にいるであろうという情報が深部内で共有されているらしい。その理由は写し鏡だ』
「俺が盗ったからか……」
そうだ、という静かな声が電話越しに聴こえる。
ジェノサイドは頭上をチラッと見るがコイルはいなかった。
『中には神東大学に写し鏡がまだあると思い込んでいる連中もいる。そこにお前さんが居たとすると……攻撃を受けるのも分かるんじゃないか?』
「つまり深部内にネットワークがあってそこで俺の情報が流れているという事か。此処で今奴らを一つ一つ潰しても意味無いって事か?」
『と言うよりそんな無謀な事は止してすぐに逃げた方がいい。今こちらから確認したが大学周辺に4つほどの勢力を確認した。今お前さんは包囲されているぞ』
「何だと!?」
思わずジェノサイドは声を荒らげる。
そのせいで1匹のコイルに姿がバレてしまった。
反射的にポケモンを、ゾロアークを呼び出すと'かえんほうしゃ'で倒す。
「バカな真似しやがるな……バカな理由で俺に戦おうとして徒党を組んだ訳か」
『お前さんはそんな馬鹿な連中と追いかけっこしている訳だがな。どうする?私としては組織の人間上お前さんには生きていてほしいんだが。戦うか逃げるかはお前さん次第だ』
「決まってんだろ」
ジェノサイドは隠れるのをやめ、その姿を無数のコイルの前に現す。
「コイツら全員ぶっ潰す。金も丸ごと奪って徒党を組んで襲撃する事も無意味だと言うことをそのネットワークとやらに深く刻み込んでやる」
吐き捨てるように言って一方的に通話を切る。
オンバーンを呼び出し、'かえんほうしゃ'を命令すると、次々にコイルを地に落としてゆく。
電磁波を撃ってくる個体も居たが、避けるのは簡単だった。
撃ち落とすのと避けるのを繰り返していく内に例のスカイバイクが見えてくる。
「コイルの特性は頑丈じゃなかったか?もっと頑丈なポケモン呼べよなぁ!!」
男に向かってオンバーンは炎を放とうとするも、それよりも前に男までの空路を塞ぐ形でジバコイルが前に出る。
ジバコイルの'ラスターカノン'とオンバーンの'かえんほうしゃ'がぶつかり合う。
互いが相殺され、打ち消される。
辺りに黒煙が舞った。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.20 )
- 日時: 2018/11/08 16:15
- 名前: ガオケレナ (ID: qHa4Gub8)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
双方の視界が遮られる。
煙が晴れるまで決して動かないジェノサイドと、ある程度距離を離すエレクトロニクス。
そうこうしている内に煙が消えていく。
先がぼやけてきたのを合図に互いのポケモンが動く。
ジバコイルはジェノサイドの背後へ。
そして、オンバーンは……。
その姿が何処にも見当たらない。
「……!?」
後ろを振り返っても頭上を見上げてもジェノサイドのポケモンは居なかった。
不安は残ったがチャンスでもある。
男はジバコイルに命令した。
「殺れ」と。
'ラスターカノン'が無防備なジェノサイドの体にぶち当てられる。
その細い体はあらぬ方向に吹っ飛んでゆき、男はこうも簡単に勝てるものかと勝利を実感できないままそれを眺めていた。
だからこそ、狂いも無くその後も見れてゆく。
吹っ飛んだジェノサイドの周辺の空間が歪み、そして鋭い爪、長い手足、特徴的な尾が次々と生えていく。
いや、現れるといった方が正しいか。
その異形な生き物は直撃した技の衝撃を利用して近くの建物の壁に着地する。
そこで正体が判明した。
「クソっ、またしてもイリュージョンか……」
男は悔しそうに舌打ちする。
すると今度は、ゾロアークが壁を強く蹴って宙に漂うスカイバイクへと突進してきた。
直接男を狩るために。
「なんだコイツは!?命令無しにここまで出来るとはな!……だが、」
男はスカイバイクのレバーを引く。
バイクがゾロアークをギリギリ避けるかのように左へスライドした。
ゾロアークの爪が虚空を裂く。
その真横に男が佇む。その顔には薄ら笑いが浮かんでいた。
あとは落ちていくだけのゾロアークに追い討ちを掛けるため、ジバコイルを呼ぼうとした時だった。
落下していく事に恐怖も戸惑いも見せない様子で男に向かって'ナイトバースト'を放ってきたのだ。
「指示無しにここまですると言うのか!?地面に落ちるのが怖くないというのか!」
ジバコイルでは到底追いつけない。
赤黒い光線は空気を切り裂き、スカイバイクを包み込むとそれはあっという間だった。
巻き込まれたバイクが爆発を起こす。
男は意識が朦朧とし、ゆっくりと落下していく中、ゾロアークが着地した建物の窓を見た。
偶然か否か、ジェノサイドがこちらを眺めている。
落ちていったはずのゾロアークはオニドリルに変身して空を悠々と舞っていた。
そこで悟った。
無謀な戦いだったと。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.21 )
- 日時: 2018/11/14 17:55
- 名前: ガオケレナ (ID: 4rycECWu)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「ざっとこんなモンだろ」
階段を降り、外に出たジェノサイドはゾロアークを付近に呼び出す。
ゾロアークは変身を解くとスタッと足元付近に着地した。
バルバロッサの情報では包囲網が、即ち敵がまだまだいるという話だ。
大きな騒ぎになる前に一捻りしようかと軽く考えた瞬間。
明らかに空気が変化した。
これまでとは違う圧迫感、嫌悪感。
それらがひしひしと身体に伝わってくる。
それが嗅覚を刺激した'匂い'という事に気が付くのに少し時間を要した。
つまりそれは、
「やるねぇ~。イリュージョンで敵を翻弄させつつ首を獲る。それがあんたの強さだろ?ジェノサイド」
またもスカイバイクに乗った男が現れた。
先程の男と違ったのは、中肉中背の短髪と外見が正反対だった事。
そして、連れているポケモンがフレフワンだと言うことだった。
「……これで何人目だ?新手か?」
「じゃなかったら何だ?仲間か?違うな」
男はゆっくりとバイクでジェノサイドへと、地上へと近付いていく。
「あらかじめ自己紹介しとくわ。Aランク'フェアリーテイル'のリーダーのルークだ。宜しくな、Sランクさん?」
戦闘前の自己紹介。
決められたことでは無いが、ある種の宣戦布告とも受け取る事も出来るからと、この世界では暗黙の了解と解する人間も少なくはなかった。ジェノサイドもその1人だった。
「ネットワークの情報を元に人集めてみたんだが流石に二人倒した後のオレじゃあまだまだ疲れないみたいだな?」
ルークの言葉に、ジェノサイドは引っ掛かる思いが過ぎる。
情報?人を集めた?
「と、言う事はこの包囲網とやらはお前が仕組んだ事か」
「当ったり~。時間が時間だったらあまり良いのは集められなかったけどどうだった?オレの作戦ナイスだった?」
「雑魚相手に時間取らせるなよな。余計に苛立つ」
「ゴメンゴメン、それは謝るよ。だからこうしてオレが相手して……」
「テメェも含めて言ってンだよクソが」
ほぼ不意打ち狙いでゾロアークのナイトバーストが放たれる。
バイクから降り、着地しているルークを以前と同様爆発に巻き込ませる予定だった。
しかし、直前にルークがスカイバイクを前面に思い切り蹴り出し、距離を離す。
それでも爆発は発生した。
衝撃だけなら直撃していることは明白だ。
ジェノサイドもそう思ってはいた。
しかし、
「無傷……か。そこのフレフワンだな」
「またまた大当たり。'ひかりのかべ'っていう技は凄いね。衝撃がほとんど無かったよ」
特殊技の半減によりゾロアークの突破は困難である事を実感させられる。
そもそも、フェアリータイプ相手に挑もうと言うのが無茶であるが。
状況に反しジェノサイドは笑う。
強いかもしれない敵に出会えた事に。
「いいねぇ。雑魚の相手は無駄に疲れるばかりだが、それよりも強い奴相手に疲れた方がまだ達成感があるってもんだ」
'ジェノサイド'を冠する男は足を進める。
自らの名を証明する為に。
目の前の敵を殲滅する為に。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.22 )
- 日時: 2018/11/18 13:26
- 名前: ガオケレナ (ID: G.M/JC7u)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
包囲されている。
その現実を思い直す度に逃げたくなる。
だが不思議な事に、こうして堂々とジェノサイドが敵と対峙しているまさに今、多方面から攻撃を受ける事が無い。
他に敵が見当たらない。
果たしてそれは隠れているのか、機を伺っているのか、それともほぼ有り得ないがここの学生に倒されたか。
考えれば考えるほど彼らの動き、仕組みか分からない。
だからこそ単純な動きしかしない。
それは、
「ゾロアークは戻れ。代わりに行け、マリルリ!」
同時に二つのボールを操り場のポケモンを入れ替える。
やる事はただ一つ。
「マリルリ、'じゃれつく'」
目の前の、茶髪にして短髪の、深緑のジャケットを着た男を倒すだけだ。
「'ムーンフォース'」
対してルークは迫るマリルリを足止めする為に遠距離から攻撃しつつダメージを与える。
「簡単には入り込めねぇか。クソっ、面倒だ」
「今の内に'トリックルーム'」
瞬間、フレフワンとその周辺の空間が歪み出す。
そこに空間が構成されているのかそれすらも分からなくなるんじゃないかと錯覚する程の歪み。
徐々にそれはマリルリを包み、ジェノサイドも包むと二人か立つフィールド全体に及んだ。
トリックルーム。
それは一定時間遅いポケモンから先に動けるようになる特殊な技だ。
普段は鈍足だが火力が大きいポケモンを使う時に補助としてよく使われる技だがそもそもこれとフレフワンは相性が良かった。
フレフワン自体が鈍足なのもあるが、
「固有特性のアロマベールか……」
「へぇ意外。マイナーだから知られてないのかと思ってたよ」
'ちょうはつ'、'アンコール'、'かなしばり'等の俗に言う'メンタル攻撃'という実践的な技を無効化する非常に有用な特性をこのポケモンが持っているのだ。
トリックルーム始動役ならば喉から手が出るほど欲しくなるポテンシャルだろう。
非常に優秀に思える反面、ジェノサイドは不穏な空気を感じ取る。
フレフワンはあくまでも始動役なのだ。
(真打でも用意しているのかコイツは……)
トリックルーム展開の中、物流主体のマリルリは思うように動けない。
技の都合上接近しないと攻撃出来ないのに対し、フレフワンは遠距離から特殊技を放ってくる。
仮に特殊技を備えていても光の壁の前では無力だ。
このまま歪んだ空間が消えるのを待つしかないが、その前にマリルリが倒されてしまう。
ならばどうすればいいか。
「ソイツに対応出来ねぇ技を叩き込んじまえばイイじゃねぇかよ!」
マリルリは突如全身に水を纏う。
そしてジェノサイドの言葉を合図に突進していった。
「'アクアジェット'」
文字通り噴射していくように飛んで行ったマリルリは、トリックルームを無視し、フレフワンが動く前の絶妙なタイミングに割り込んでいく。
そして、特性の力も相まった絶大火力がフレフワンに叩きつけられた。
しかし、ちからもち込みとは言え一撃ではフレフワンは倒れない。
若干フラフラするとすぐに体勢を立て直した。
対してマリルリはあらぬ方向に吹っ飛び、またも距離を開けてしまう。
「例えゲームのデータを引き継いでいるとはいえ、バトルの形式がゲームと同じとは思うなよ。此処ではゲームでは表現出来ない動きも可能だ。その分戦術も広がる……どちらかと言うとポケモンのアニメの世界だと思いな」
「アニメの世界、ねぇ。そんな事とっくの前に知っていた事だけどお前の割には面白いこと言うじゃないかジェノサイド。ところでだ、お前は一体何の為にここまで戦っているんだ?」
バトルとは関係ない事を突然持ち出すルーク。
その不自然さにジェノサイドは眉を細める。
「何のために、とは逆にどういう意味だ。俺はジェノサイドだから戦っているだけだ」
「だからその、何でわざわざジェノサイドと名乗ってまで戦う必要があるのかと聞いているんだ!ジェノサイドという名を振りかざしてでもやらなきゃいけない事があるというのか?」
ジェノサイドという名を使う。恐らく彼が言いたいのはもっと根本的なものなのだろう。
何故ジェノサイドがジェノサイドと名乗り、1つの組織として動いているか。それは、突き詰めれば彼らの掲げる目的に辿り着くのだが。
「俺や俺たちはポケモンを守るために、その命を保護するために活動してるだけだ。それが何なんだ?」
「それだよ、ジェノサイド」
ルークが不敵に笑いながら指をさす。
「お前はポケモンの為と言って今まで行動してきた。どんなことをしてきたか、なんて事は俺らは全部知っている。けどお前たちが動けば動くほど世間は脅えた。テロリストがまた暴れたってね。ジェノサイド、お前は組織としては珍しく世間に認知されている組織だよ。本来ならば存在すらを悟らせてはならないものなのに。けど、お前たちにそれは無理だった。活動内容の内容だけになぁ?」
「それが何だくだらねぇ。ってか今更か?俺は反社会的なテロリスト集団だぞ?名前からして察しろっつーの」
「いや、それが間違いだよ。ジェノサイド」
元から鋭い目付きが更に鋭く見え、反射的に鼓動が一瞬早くなるのを感じる。
コイツは何かを知っている、と肌で感じたジェノサイドはその異様な緊張感に自身が包まれている事に今気が付いた。
「お前たちはテロ組織なんかじゃない。」
その一言に、ジェノサイドは多少の驚きと多少の喜びを見出す。
やはり彼は、ルークは知っていた。
「お前たちはテロ行為なんて一切していない。そうだろジェノサイド。そもそもお前たちの掲げる目的、これはもっと別にして単純な意味がある。ポケモンの保護とそれに伴う不正利用者の殲滅。お前これ、改造やチートを意味してるだろ」
「へぇ。それに気づいたのはお前が初めてだよ。最も、それしか意味がないと思ってたけどな俺は」
「それで。」
ジェノサイドの言葉を無視しながらルークは一方的に続ける。
「お前たちがメディアから無差別な襲撃と言われ続けてきた行為の正体は組織の人間だろうが表の人間だろうが関係ない。改造に手を染めた人間だけを狙った行為。そうだろ?まぁ、誰もそんなのに知る由もないから無差別襲撃なんてブッソーな言葉で一括りにされちゃってさ」
一応これに気づいた一部の人からは支持されている事もあるのだが、それは黙っておいた。どうせ今喋っても無視される。
「んで、ここからが本題なんだけど」
ルークの薄笑いが止まる。その顔は、真正面の彼の顔を捉えていた。
「ここまで多くの人から悪者扱いされて肩身の狭い思いしながら、さらに多くの組織から狙われて、それでも活動を続ける意味ってなんなの?」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.23 )
- 日時: 2018/11/23 14:57
- 名前: ガオケレナ (ID: W5lCT/7j)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「意味……ねぇ」
静かに佇むジェノサイドが寂しそうにポツリと呟く。
「企業秘密って言葉が何で存在すると思う?」
少し考えてジェノサイドは答えとしては曖昧すぎるものを言い放つ。
マリルリに再びアクアジェットを指示しようとしたところで異変が起きた。
フレフワンが突如、勝手にボールへと戻って行ったのだ。
ルークが手にボールを持っていなかった為に文字通りポケットへと吸い込まれていく。
感覚としては'バトンタッチ'に似ていた。
そしてルークは別のポケモンが入ったボールを握りしめる。
出番だ、と小さく呟いた声に呼応して現れたのは特徴的なリボンのような装飾を身に付けたポケモン、ニンフィアだった。
ジェノサイドは舌打ちをする。
「フレフワンに脱出ボタンを持たせていやがったな……このタイミングで嫌なポケモンを出しやがる」
「まぁそう言うな。コイツはコイツで凄いんだからさ」
トリックルームの効果はまだ続いている。
すべてを考えた上でここまで準備していたのかとつくづく思わされてしまう。
「今のお前のポケモン一撃で倒せる位にな」
ルークがニヤリと笑うのを見た時には遅かった。
ジェノサイドの'アクアジェット'という命令より先に彼が動く。
「'ハイパーボイス'!!」
姿かたちの無い衝撃波が突如飛んできた。
そのあまりの五月蝿さに聴覚が奪われ、ジェノサイドは反射的に目を瞑ってしまう。
その直前だった。
飛ばされるマリルリの姿が辛うじて見えていた。
映ったのが一瞬すぎたので見間違いかと思うほどだった。
静寂はすぐにやってきた。
ジェノサイドがゆっくりと目を開けると、それはやはり間違いでは無かったことに気付かされた。
マリルリは倒れていた。
戦闘不能。もう戦える力は残っていない。
無言でボールに戻すと、ジェノサイドはしばらくそのまま固まってしまった。
やられた。ジェノサイドのポケモンが真正面から突破された。
ルークはそんな固まっているジェノサイドの姿とニンフィアを交互に見る事しか出来ない。
戦闘放棄か考え事か。
彼から見ても明らかに後者と分かった。
だが、天下のジェノサイドと言われた人間がたかが1匹のポケモンを倒されたくらいで暫く考え込んでしまうものなのか。甚だ疑問だった。
ここでどんなに時間が消費されてもバトルには入らないので光の壁やトリックルームが消える事は無いので問題ないのだが、何もしてこないと言うのはそれはそれで不気味である。
「オイ、遅延行為とかどうでもいいから早く次のポケモン出せよ。それとも万策尽きたか?格下の相手如きによぉ」
ルークが挑発するも、ジェノサイドの表情に変化はない。むしろちゃんと聴いているのかも分からなかった。
だが、その心配をよそに次のポケモンを繰り出す。
光の壁を意識してか物理主体のポケモンである。
ヒヒダルマだった。
「ヒヒダルマだと……」
ルークは内心驚く。
その声色とは裏腹に。
(何故このタイミングでヒヒダルマだ?炎物理だから相手からすると相性は良いのだろうが……コイツまだトリックルームの効果が続いているという事を忘れているんじゃねぇだろうな?)
不可解に遭遇すると人間というものは頭が普段よりも回転するものだ。
それはルークも同じだった。
(それとも気合いの襷でも持たせているのだろうか?そうすれば奴は必ず反撃に転じる事は可能だ。だが……)
ヒヒダルマのメインウエポンもとい、イメージと言えば'フレアドライブ'だ。
(普通ヒヒダルマに襷は持たせねぇ……'フレアドライブ'とは相性が悪いからな。と、なると何でこのタイミングでコイツなのか益々分からねぇ……奴は、ジェノサイドは何を考えていやがるんだ!!)
その答えは、本人以外誰にも分かるものではなかった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.24 )
- 日時: 2018/12/02 14:35
- 名前: ガオケレナ (ID: lSjkm3fN)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12355
ルークは悩む。
しかし、どれほど考えても出てくる答えは「分からない」だった。
それに、あまり考えられる時間はない。
その分だけ相手に攻撃を許してしまう隙を生んでしまうからだ。
防御面が脆いフレフワンとニンフィアにとっては正に天敵。本来は相性が良いポケモンと取り換えたい所だが手持ちの問題でそうはいかない。
ならばと、ここで摘む以外に方法はない。
「仕方ねぇ。相手が攻撃出来ない遠距離から撃つんだ。'シャドーボール'!」
マリルリ戦と同じく物理主体のポケモンがこちらに迫ってこないよう、遠くから技を放つ。
本来は'ハイパーボイス'を撃ちたかったが、ニンフィアの特性フェアリースキンの効果でヒヒダルマ相手には半減されてしまう。
なので、ニンフィアの高い特攻が活かせて尚補正の掛からない'シャドーボール'なのだ。
(避けられるなら避けてみろ……。ヒヒダルマにこの局面は突破出来るかな!?)
そう思いながら状況をじっくりと観察していたルークははっきりと見た。
ジェノサイドが黒い塊が迫る中、何か命令するのを。
てっきりルークは、ヒヒダルマが'フレアドライブ'を使いながら'シャドーボール'を避け、こちらに迫り来るのかと思っていた。
が、実際は違う。
ヒヒダルマの口から赤い炎が、'かえんほうしゃ'が放たれた。
「っ……!?なんだとっ!?」
物理一本では有り得ない技のチョイス。
その炎は黒い球とぶつかり合うと爆発、霧散する。
「'かえんほうしゃ'!?一体……奴は何を……。まさか!?」
有り得ないのは本来のヒヒダルマ。
そう、本来ならば。
だとすると、考えられるのは一つしかない。
「特殊技を使うヒヒダルマ……まさかそのヒヒダルマ、夢特性のダルマモードなのか!?」
ダルマモード。
超火力を有するヒヒダルマのもう一つの特性。
特定の条件下で攻撃が大幅に下がり、代わりに特攻が大幅に上昇する。
簡単に言えば攻撃と特攻の種族値が入れ替わるというものだ。
つまり、超火力が特攻にシフトする。
だが、その特定の条件というものは、
「お前馬鹿か!?そいつはダメージを受けていないと使い物にならない代物だ。しかもヒヒダルマの耐久はお世辞にも高いとは言えない……ダルマモードなんていう失敗があってこそギルガルドというポケモンが作られたのをお前は知らないのか?」
正確には残り体力が半分を切って初めてフォルムチェンジが成立する。
要するに使いにくいポケモンなのだ。
それでも相手はニンフィアである。
まだ本来のヒヒダルマで戦った方がマシだ。
「何とでも言えよ。俺のヒヒダルマは、作戦はここで終わるほど単純な物は持ち合わせていねぇぞ?」
ジェノサイドは嗤う。
そして、小さく呟く。
ルークは益々悩む。
最早彼がジェノサイドという男のすべてを理解するのは不可能だった。
とにかく今の状況を変えるために考えるしかない。
(下手にダメージを与えればダルマモードが発動してしまう……。だが奴の耐久だと耐え切るとは思えない……、でも襷を持っている可能性は?'フレアドライブ'の有無は?クソっ、わからねぇ……)
思い悩む末に一つの答えに辿り着く。
「ニンフィア、'めいそう'だ」
一見無防備とも取れる姿でニンフィアは佇み始める。
全神経を集中させ、火力と防御面を上げる技だ。
それを見たジェノサイドは今だと言わんばかりにヒヒダルマに指示を飛ばす。
「'フレアドライブ'」
直後、ヒヒダルマが巨大な炎を纏ってこちらに猛突進してくる。
「キタァ!!」
感激したルークは叫ばずにはいられなかった。
「'めいそう'はあくまでも陽動!ただの陽動で火力も上げられるんだから得しかねぇだろっつーの!」
すべて予想通りだった。
そしてこれからも、予定通りに指示を飛ばす。
「ニンフィア、'シャドーボール'っ!!」
ヒヒダルマと'シャドーボール'を衝突させることにより、相手にダメージを与え相手が地面に着地した瞬間を次の攻撃で仕留める。
ルークの思い描いた作戦は完璧だった。
ここまでは。
二つの技が衝突したことにより、黒煙が舞う。
何も見えない事で不安が過ぎったが、すぐに煙は飛散したので中がはっきり見えるようになってきた。
ニンフィアは立っている。だが、ヒヒダルマは倒れるどころかどこにも姿が無いのだ。
(……遠くに飛んでしまったか……?)
最初はそう考えたルークだったが、やはりどこにも見当たらない。
確認したいが為にニンフィアから目を反らした瞬間だった。
後ろから、何かがいきなり迫ってくる。
「!?」
かなり素早いそれは、一気にニンフィアの下へ駆ける。
ルークもニンフィアもそれに追い付けず、すべてを相手に許してしまう。
それもそのはず、トリックルームは前のターンで失ってしまい、光の壁はさらにその前のターンに消失してしまったからだ。
'それ'はニンフィアに対し、超至近距離で光線を放つ。
避ける術もないニンフィアはモロに光線を浴びてしまう。
だが、特徴的なその光線はルークから見て何か見覚えがあった。
赤と黒が混じったような、禍々しい色をしたそれは。
「まさか……'ナイトバースト'……?」
つまりは。
「ヒヒダルマは、奴を出したときから全部、お前が魅せた幻影だったのかよ!!」
それを聞いたジェノサイドの嗤いが合図となり、得体の知れないヒヒダルマは真の姿を現す。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.25 )
- 日時: 2018/12/02 15:44
- 名前: ガオケレナ (ID: S1CkG5af)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
鋭い爪と目付き、獣と表すにふさわしい体毛。細い腕と足。
紛れもなくゾロアークだった。
「ヒヒダルマはすべて幻影だ。ゾロアークで時間稼ぎされるなんて思ってもいなかっただろ?」
「そのやり方には驚かせられたが……問題はゾロアークじゃない……」
一つの不穏を読み取り、ルークは思慮を巡らす。
問題なのは、ゾロアークが化けたポケモンだ。
「こいつに化けた以上、本物のヒヒダルマがその手持ちにいる、ということか?」
ルークにとってヒヒダルマは天敵だ。トリックルームもなくなった今、脅威でしかない。
「さぁな。このバトルを続けていけば分かることさ」
ジェノサイドが話している途中にも関わらずゾロアークが命令無しに'ナイトバースト'を打ってくる。
「くそ!なんなんだよそいつ!!」
辛くも避けたニンフィアだが、これが何度も続くと正直厄介だ。
「面白いだろ、俺のゾロアーク」
悪意に溢れた笑顔を見せながら、ジェノサイドは上機嫌に喋る。
「こいつはな、特別なんだ」
「……特別?」
「あぁ。数あるゾロアークの中でも、ね。こいつはゲームの性格では臆病に分類されるんだが……何というかこっちの世界で矯正したというか俺と性格がまんまと言うか……シンクロとまではいかないけどなぁ……。まぁ詳しい事は向こうでくたばってるであろうお前の仲間に聞いてくれ。死んではないと思うからさ。ソイツにも同じ説明をしてやった」
このクソ野郎が、と叫んでしまいたい衝動に駆られる。
だが、ここまでポケモンの性格をある意味で見抜いたという事は日々ポケモンの保護に走ったジェノサイドの業績とも取れる。
ここで何を言っても無駄だった。
「と、言うわけでもういいよね。お疲れ、ゾロアーク」
長々と語っていた相棒をボールに戻すジェノサイド。そのまま戦うつもりではなく、本当に不意を突かせるためと時間稼ぎの要因だったようだ。
「んで、今度はお前の番だぜ」
言うと、今度はポケットからネットボールを取り出す。
そして、呟く。
「ヒヒダルマ……っ!」
「今度こそ本物か……」
ゾロアークを戻した以上、イリュージョンは発動しない……はずだがそれでも偽物だと思いたいという思いがどこか微かにあるルーク。
「トリックルームも消え、残るのはノロマで無防備なニンフィアだけ。もう怖いものはねぇ。元から怖くねぇけどなぁ?」
スカーフを巻いたヒヒダルマが猛スピードで炎を纏ってニンフィアに突進する。
「'フレア……ドライブ……'っ!」
ハイパーボイスを指示し、ニンフィアが攻撃しようと構えた瞬間を。
ヒヒダルマが狙う。
速攻に相応しい動きだった。
瞬間を逃すことなく、ヒヒダルマはニンフィアを貫く。
勝負は、一撃で決した。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.26 )
- 日時: 2018/12/02 15:52
- 名前: ガオケレナ (ID: S1CkG5af)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「くっ……ニンフィアが……」
倒れたポケモンの下へルークが走る。
状態を見てボールに戻すと、鋭い目付きでジェノサイドを睨んだ。
たしかルークは最初に出したフレフワンがまだいたはずだ。マリルリのダメージも受けているはずなので楽に倒せるだろう。
ジェノサイドは微かに勝利を見出した。
「くそっ!フレフワン!」
ニンフィアと同じく鈍足で防御が薄いポケモンはジェノサイドからしたら敵ではなかった。
さらに、今のフレフワンは道具もない。
「もう一回'フレアドライブ'だ」
再び炎を纏い、猛突進するヒヒダルマ。ルークはフレフワンに'ムーンフォース'を指示したが、今度も構えた瞬間を突かれた。
「くそっ!耐えろ、フレフワン!」
というルークの言葉が響いたが、その応援も空しく、暫くフラフラした後に力が抜けた体が地面に倒れる。
「よっし、これで二体目だ。次のポケモンいるよなぁ?」
あまり待たせるなと遠回しに言われ、またも睨み付けるルーク。
ポケットにある最後のボールを掴み、眺めるがその仕草に少し躊躇いがあるようだ。
「どうした?早く出せ」
「うるせぇジェノサイド!言われなくとも出してやるよ!行け、クチート!!」
叫ぶと、ボールからクチートが飛び出す。
相性が最悪のポケモンだ。彼が躊躇っていたのはその為だったのだろう。
逆にジェノサイドは、躊躇いなく'フレアドライブ'を指示する。
余裕がありすぎたのか、彼はあることに気づかずに。
ヒヒダルマは二度の'フレアドライブ'を撃ち、その技で二体のポケモンを倒した。
と、言うことは。
その分の反動ダメージを受けているということ。
ルークはそれを見逃さなかった。
「ヒヒダルマ、'フレアドライブ'だ」
「'ふいうち'!」
いきなり響いた大声にジェノサイドは驚き、肩を少しびくつかせる。
そして、その声を聞き、クチートは誰よりも早くヒヒダルマの懐に潜り込む。
鈍い音が響いたのはその直後だった。
予想だにしない場所から不意にクチートのアゴが迫る。
そして、アゴの餌食となったヒヒダルマが倒れた。
「マジか、完全に油断したー」
抜けた声で言うとジェノサイドはヒヒダルマを戻す。しかしそれは、最後のポケモンであるゾロアークを出すという合図でもある。
「お前は俺を騙したんだ。これくらいやられて当然だろ」
ルークの言葉の一切を無視しつつ、ボールを真上に投げる。
ダークボールからは見慣れたポケモンの姿が飛び出した。
「これでお互い最後の一匹……俺のゾロアークを倒せるモンなら倒してみろ。Aランク」
「黙れジェノサイド!調子に乗れるのも今日までだ!」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.27 )
- 日時: 2018/12/02 15:58
- 名前: ガオケレナ (ID: S1CkG5af)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
お互いのポケモンが対峙する。
最後の一体だからか、尋常じゃない緊張感が漂う。
そんな中、その緊張感に耐えれなかったのか、それとも思わず込み上げるものがあったのか、ルークが突然笑いだした。
「はっ、ははははは!!!おい、ジェノサイド。お前本当に'あの'のジェノサイドなのか?にしては随分無様な戦い方をするもんだなぁ!!」
Aランクごときに最後の一匹まで出す事がおかしいのか、Sランクにしてはこの世界でトップとも言われている者の戦い方があまりにも単純だったのか。ジェノサイドはそこまでは分からなかったがとにかく自分が期待通りの人間ではなかったことは間違いないのだろう。
それを彼は察しつつ、彼なりの持論を述べることにした。
「期待に沿えることができず悪かったなぁ。俺は元々期待されすぎて逆にガッカリされる。そんな人間でな。まぁそこは勘弁な」
「そうじゃねぇよ。お前の人格なんざどうでもいいんだよ。俺が言いたいのはポケモンだ。ポケモンの扱い方だ!!あまりにも下手すぎやしないか?特にさっきの!何だよあのヒヒダルマ。普通だったら予想できるだろ?クチートが、」
「クチートが不意打ちをするかもしれない。だろ?それくらい予想済みだっつの」
絶対強がりだとルークは疑いつつ、それでも声を荒げる。
「嘘だ!だったら何故反動ダメージのせいでクチートにやられるかもしれないとこれっぽっちも思わなかった!お前程だったらそれくらい予見できんだろ!あぁ!?」
「だから……」
ジェノサイドがほぼ呆れながら情けない声で語る。あまり興味がないのか片目を閉じている。
「これくらい察しろよ。この状況が、俺にとって絶対勝つ状況なんだよ。そのための手順に過ぎない」
息が詰まった。
ただ情けなく、「は?」と言ったくらいだ。
意味が分からなかった。自らピンチに陥る状況を作ってまでこのような事を言っているのだから。故意にこの状況を作ったなんて想像できなかった。
「分からないか?なら今から見せてやるよ。俺のゾロアークの強さをな」
言うと。
命令もなしに赤と黒の混じった光線が一直線に走り出す。
「くっ、またかよ……っ!?」
やや遅れてルークの命令に従い、クチートはそれを避ける。
「そのまま行けるとこまで接近しろ!」
クチートはそのまま走り続ける。大技を放ち、隙だらけのゾロアークの下に。
「!?」
「ははっ!だからおめぇは甘ぇんだよジェノサイド!今のこの状況を見ても同じ事言えるか!?」
射程圏内に入った。そう確信したルークは新たに指示を飛ばす。
「'じゃれつく'!!」
直後に、じゃれついたとは思えない程の暴力と共に衝撃と砂煙が辺りを覆った。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.28 )
- 日時: 2018/12/02 22:07
- 名前: ガオケレナ (ID: lSjkm3fN)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
勝敗が決した。
誰もがそう思っただろう。
ルークも、それを眺めていた学生たちも。
だが、しばらくしてある異変に気づく。
いつまで経ってもクチートが戻ってこない。
「……!?何をしている。相手にキメたんだ。早く戻ってこい!何してんだ!!」
不安と緊張から、後半声が荒々しくなる。
だが、砂煙が消えると初めてその異変の正体が分かった。
技を受けて倒れているはずのゾロアークが立っていたからだ。
しかも、クチートを押さえた状態で。
「!?」
ジェノサイドはそれを見て勝利を確信した笑みを浮かべる。今まで以上に悪意のありそうな薄笑いだった。
「これを待っていた……これで俺の勝ちだ」
「ゾロアーク。'カウンター'」
何処から溢れているのか想像し難いエネルギーが身体中から放出され、その衝撃でクチートが飛ぶ。
そのトレーナーの下まで。
ルークは驚きを隠せなかった。
ただ弱点の技を叩き込めば倒せると思ってしまってからだ。
だが、大事なところを彼は見逃した。
「お前……それは気合いの襷か」
「そのとーり。ゾロアークにとっては必須アイテムでしょ。それくらい考えとけって」
「フッ、」
だが、今度はルークが笑う。
今度はクチートが倒れた。そう思い込んだすべての人間の予想がここで崩れた事を確信したからだ。
今度はクチートが起き上がる。
そして、勢いのありそうな速さでゾロアーク目掛けて走る。
襷で立ち上がったということは今のゾロアークの体力は1。何を叩き込んでも倒せる。
「なるほど、お前も襷か」
カウンターを受けて尚も倒れないポケモンは中々いない。と、なると考えられるのは1つ。襷の存在だ。
「だから言ってんだよ!!てめぇは甘えってな!!俺が襷持ってることもちったぁ考えろっつーの!!」
クチートが再びじゃれつく攻撃をしようと迫っている時だった。
だが、ジェノサイドもゾロアークも逃げようとしない。端から見ても迎え撃とうともしないように見える。
そんな時にジェノサイドがボソッと呟く。
「だから、それくらい考えてるっての」
瞬間、ゾロアークが動き、交差するとクチートがその場で倒れた。
一瞬すぎて分からなかったが、ゾロアークがクチートに少し近づいて何かしたのは見えた。
だが、何をしたのかは分からない。
「えっ、……?」
声を失うルークだが、真っ白になった頭にひとつの答えが生まれる。
「まさか……'ふいうち'……?」
「その通りだ。大体は'カウンター'でやられるが、たまに襷でそれを耐えるポケモンがいる。お互いのポケモンの体力は1。ならば普通何をする?攻撃だろ?」
やられた。と強く思った瞬間だった。
「その攻撃を読んでの、不意打ち……?」
「その通り。だから言ったろ?俺が勝つ状況だと」
今度こそ負けた。
今度こそ負けを確信した。
力が抜けたルークは、その場で膝を付いた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.29 )
- 日時: 2018/12/02 16:11
- 名前: ガオケレナ (ID: S1CkG5af)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
勝負は今度こそ決した。
ゾロアークをボールを戻し、辺りを見回す。
「包囲網はまだ敷かれているようだが、今のところ敵は近くにはいないようだな」
目線を前に戻し、ルークを見定めると、ボールを一つ取り出そうとする。
止めを刺そうか悩んだからだ。
(こいつを倒しても、包囲網は無くなるとは限らねぇ……。個人的な動機で動いてそうな奴も居るだろうからな)
考え、手を止めている時にルークの体が震えているのが見えた。
不審に思い、近づくとどうやら笑っているようだ。
「どうした?勝負ならもう終わってるぞ」
「ふふ……、お前状況ってもん分かってんのか?囲まれてんだよ?いつでもお前の命狙われてんだよ?」
「それがどうした。俺は腐ってもジェノサイドのリーダーだ。仲間が来てもおかしくはない」
「だからそれがおかしいんだろうが。お前、今までの行動をすべて思い出してみろよ」
ルークの言葉に眉を細める。
今までの行動と言われてもピンと来ない。ついさっきまで移動しながらバトルをしていただけだ。
「お前今、『俺には仲間がいる』って言ったよなぁ?」
崩れた姿勢のまま、地面を見つめつつルークは怪しい笑いを浮かべる。顔を隠しているようにも見えるが、笑っているのが隠しきれていなかった。
「だったらお前さぁ……この状況を誰かに伝えたり何なりしなかった訳?いや、したはずだ。一度な」
その言葉ですべてを思い出した。
記憶がすべて蘇る。
「そう言えば……」
嫌な予感しかなかった。確かに味方に伝えたはずだ。だが、今ここには、
「味方が一人もいない。つまり、どういう事か分かるか?」
ルークの不快なトーンが妙に耳に響く。正直深く考えたくもない。
「俺は仲間に……バルバロッサに伝えたはずだっ!!」
考えられる事はパッと思いついて二つ。
一つはジェノサイドの基地が襲撃されている事。そうすれば仲間がここに来る余裕ではなくなる。
そして、もう一つは、何かしらの理由で組織全体に現況が広まっていない事。
普段ならば、こういう事態が起これば組織全体に知れ渡り、仲間が駆けつけて来るはずだ。
だが、それが来ないと言う理由。
バルバロッサや仲間が来ない。
そのバルバロッサは今、基地で写し鏡の解析を行っているはず。
ジェノサイドの全身から嫌な汗が流れる。
そして感じ取る、命の危機。
反射的にポケットからボールを取り出した。
それを真上に投げる。
出てきたのはオンバーンだった。
「逃げる気か。ジェノサイド」
立ち上がり、強く睨み付けるとルークは勢いよく走り出した。
獲物を逃がさんとするハンターの目付きのようだ。
「早く!オンバーン!俺を乗せて遠くに飛べ!!」
ルークの魔の手が迫る。
だが、
それよりも早くオンバーンに乗り込み、瞬間に遥か彼方へと飛び立つ。
逃げることには成功したようだ。
勢いよく振るった手が空回りし、バランスを崩して倒れたルークを眺めつつ、ジェノサイドは基地へと急いだ。
膨らむ疑惑を、この目で確かめるために。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.30 )
- 日時: 2018/12/03 15:41
- 名前: ガオケレナ (ID: rZW0Z4bG)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
空の移動はただただ安全だった。
オンバーンに飛び乗ってから空に漂うまでの間にも攻撃は一切受けなかったし、大学を離れてからも特に何もなかった。
こんなことなら、はじめから戦わずに逃げればよかったと後悔し出す。
大学から基地まで10分から15分程かかる。時間が曖昧なのは普段マイペース且つしっかりと測ったことがないからだった。
ぼんやりしていると、基地が見えてきた。オンバーンだと10分しなかった。
工場跡の入り口付近で降りると、オンバーンを戻し、ひたすら歩く。
入り口を離れた、何もないところを。
長らく放置していた為か、辺りは雑草で生い茂っている。
ジェノサイドは雑草以外何もない地点で立ち止まると、屈んで手を下ろした。
すると、草に触れるよりも前に、何か鉄のような冷たい金属の感触が伝う。
それを強く引っ張ると地面から階段が現れた。
隠し扉だ。
彼はその階段を降りつつ、扉をゆっくり閉める。
しばらく歩くと、また扉が見えた。今度は木で出来ている。
よく見ると壁も床もすべてが木製だ。まるでキャンプ場とかにあるログハウスのようだった。
実は此処がジェノサイドの基地なのだ。
工場跡の地下に作られた、文字通り身を隠すための秘密基地。
そして、ジェノサイド自身を含む全構成員の衣食住を保障する住み家でもある。
扉に近づくとざわめきが聞こえる。
扉の向こうは大広間に続く廊下であり、その先が大広間である。大体は此処で全員が食事をする。
その先は個々の部屋となっており、ジェノサイドの部屋はさらに奥にして複雑な道を伴う地点にある。
だが、今の問題はそれではない。
広間を越えた、さらに先。
この基地の最奥に、彼がいる。
勢いよくドアを開けると、その音にこの部屋にいた男が気づき、振り向いた。
バルバロッサ。
ここは、バルバロッサの部屋にして組織の研究室だ。部屋の真ん中に工場から拝借したと思われる巨大な機械が置かれている。
灯りも暗く、よく見えないが機械の光で十分すぎるくらいだった。
その機械の真ん中。ノートパソコン程度の大きさのディスプレイの上に写し鏡が嵌め込まれていた。解析の最中だったらしい。
「バルバロッサ!!」
その声に、バルバロッサは安堵の表情を見せた。
「おぉ、ジェノサイド。無事だったか。大丈夫か?」
「大丈夫な訳ないだろ!!何で連絡したのに援軍をよこさなかったんだ!!」
怒りを混ぜたその言葉にバルバロッサは若干目を丸めながら聞いていた。
だが、すぐに普段の表情に戻る。
「あぁ、その事なら済まなかった。手が離せる状況でなかったんだ。てっきり私はお前が戦わずに退却するのかとずっと思っていてな」
「それでも、あんな状態だったら例えお前が来なくとも、誰かに伝えるなりして援軍連れてくるだろ!何でだよ!」
そんな言葉にも表情を変えずに、バルバロッサは続ける。
「それなんだがな、あまりに帰ってくるのが遅かったら伝えようとは思っていた。こちらに来た情報によるとあの時お前と戦おうとした敵はほとんどが低ランク。相手にならないのでは、と思ってな」
「それでも絶体絶命な事に変わりはなかったんだ。あの時は例え相手が雑魚でも、背後から刺されたり撃たれたりしたらそれで終わりだ。とにかく援軍が欲しかったんだよ。まぁ、今回のはもう終わったからいいけど、これからは気をつけろよ」
と、ジェノサイドは言いたいことをすべて吐き出すと、部屋を去ってしまう。ルークと対峙したときに生まれた疑いや裏切りといったキーワードはいつの間にか頭から離れてしまっていた。
-ー
「もしもし。私だ。聞こえているか?今日は散々な目に遭ったそうだな。まぁ元はと言えば私のアドバイスによって今日に至った訳だからな」
暗い部屋から、話し声が聞こえる。部屋には一人しかいないことから、電話か連絡装置かの何かだろう。
「あぁ。分かってる。そのために写し鏡を持ってこさせるよう頼んだのだからな。あぁ。知り合いも既にあそこに放った。お陰で最初はそれに引っ掛かると思っていたよ。まぁ、何はともあれ結果オーライだ。ところで、君はこれからどうするんだ?」
ここで、少し間が空いた。恐らく相手が話している最中なのだろう。
「そうか。解散か。私のミスとはいえ申し訳ないことをさせたな。まぁいい。私が言うまで脱退宣言はするんじゃないぞ。この事を知っているのは君と私だけだ」
「なぁに。これからが本番よ。失敗が許されないのではなく、そもそも失敗が生まれないのだからな」
「任せろ。今度こそ成功させてみせる。この、写し鏡でな。これの力を使って……私は彼を殺す」
物騒な言葉が部屋に響いた後、通話は途切れた。
その者は、目の前のそれを見つめながら、独り言のように呟いた。
「やっと……やっと私の目的が達成される……今年で7年か。ここまで来るのに本当に長かった……」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.31 )
- 日時: 2018/12/05 10:19
- 名前: ガオケレナ (ID: .X/NOHWd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
土曜日。
まだ明るい時間のうちに、ジェノサイドは仲間と共に動いていた。
「この辺りでいいんでしょうか、リーダー」
隣にいるのは坊主頭で鍛えられた立派な体のケンゾウと、リーダーと同じくボサボサ頭で背が彼より低いハヤテ。
二人で"ジェノサイドの両腕"と賞される程の実力と信頼を持った人物である。行動を移すときも大体この三人で行う場合が多かった。
「あぁ。既に居場所は掴んでる。奴等はその内出てくるはずだ」
「出てくる?」
「あぁ。そもそも今回の目的は'シザーハンズ'への攻撃だ。名前を聞いたことは?」
「たまに、ちらっと聞くことは……」
「だろうな。俺も画面でしか見たこと無い」
「シザーハンズとはなんですか?リーダー」
しかめ面をするハヤテをよそに、ケンゾウが割り込んで来る。
「シザーハンズは、いつもネット上で俺達の邪魔や無駄なパフォーマンス、それから、リーダーの細かい情報をバラ撒いてる連中だよ。例の大学に奴がいる!とか。正直すごく鬱陶しい」
ハヤテが落ち着いた調子でケンゾウに説明を始めた。聞いてる態度からすると、本当に知らなかったらしい。
「それで、リーダー」
ハヤテが、こちらに振り向く。
「何故、リーダーは此処にシザーハンズがいると分かったのですか?」
当然、突き詰めていけば出てくる疑問だった。
姿も情報も隠している連中を探すのは正直骨が折れる。
「あぁ、それなんだが、すべてバルバロッサ頼みだ。奴曰く議会の持つデータに侵入したらしい」
「それって……バレたらマズいやつでは……?」
「あぁ、マズいよ。だからこそ彼に任せたんだ」
「それってつまり、俺達のジェノサイドもハッキングされたらヤバいという事ですよね!」
「お前……今日は珍しく冴えてるな?確かにバルバロッサがやったように俺らの情報を抜き取られたらヤバいな。ってかこれから叩きに行く奴は実際そればっかやってるからな。と言うか一昨日の包囲網にも関係している時点でアウトだろ」
「一つ引っかかるのですが……」
「ん?」
ハヤテの足取りが止まったのにつられて二人も歩みを止めてしまう。
「シザーハンズは議会のデータに侵入して我々の個人情報を手にし、それを他の深部組織に売っているんですよね?そんな事して議会から怒られたりしないんですかね?」
「怒られるって……なんか表現可愛いな。そこは分かんねぇな。議会も自分たちのデータが盗まれたなんて公言出来ないし、議会から見ても邪魔な組織なんてゴロゴロ居る。そこで、シザーハンズが盗んだ情報を頼りにその邪魔な組織が消えたら議会も喜ぶだろうし……。実際は見て見ぬ振りと言うか黙認と言うか、あそこまで専門的な特技を持った奴に手出し出来ないんだろうな、議会も。それか、実は協力してましたなんてのも十分有り得る」
「なんか……思ったより恐ろしくないですか?それ」
「だろ!?俺達が普段暮らす一見平和な世界なんて見方を変えたら案外脆いもんさ」
ジェノサイドはニヤリと笑う。
ケンゾウとハヤテに対してではなく、世界全体に対しての笑みを。
今彼らが動く理由。それは彼らの情報を外部にネットを使って撒いてる連中を叩くための行動だった。
「正直、あいつら倒した程度で何も変わらないとは思うけどな。でもその分抑止にはなる、と言うのが俺の考えだ」
ジェノサイドの本音が出た。小さい組織を一つ潰したところで何も変わらない。だが、組織さえ潰せばルールに則り金を得ることが出来る。正直な話、今回の目的は情報漏洩阻止よりも金だった。
「ですがリーダー。今日は何か用事があったんですよね?行かなくてもよかったんですか?」
「いや、別に。どうでもいい用事だったからほっといて来たよ。こっちの方が重要だしな」
「ですが、事が事ですので私とケンゾウに任せてリーダーは戻ってもいいのでは?」
「だから、いいって言ってんだろ。たかがサークルの行事なんてどうでもよすぎる。それに……」
ジェノサイドが辺りの景色を見回す。
「ここなんだよ。俺達の任務と、どうでもいいサークルの集まりは此処でやるんだ」
今、彼らがいるのが調布駅の前だった。
予定では、ここにシザーハンズの連中も現れる。
「予定の時間までに奴をぶっ倒して尚且つ気分次第ではそのままサークルに直行、間に合わなかった場合はこっちを続行ってな。本当に偶然が重なりすぎて気分が悪い」
「ですがリーダー、これから先はどうします?相手の基地の居場所は分かっているんですよね?」
「あぁ。奴等は駅の裏路地にあるごく普通のライブハウスだ。普段はそこで収入も得ているみたいだな」
「と、言うことはリーダー!奴等は基地を使って金を得ているようですが、そんなことは認められるんすか?」
ケンゾウの声だった。
ケンゾウはどちらかと言えば論を交わすより拳を交わす派の人間なのでこういう話にはあまり乗ってこない。なので今回話に乗ってくる彼の姿が何だか意外性を放っている。
「ルールには『基地を金銭目的で利用してはならない』とか、『組織的活動以外での金銭の取得は許されない』なんてものは無いからな。一応認められてるんだろ」
「だったらリーダー!俺らも基地を改造しちゃいましょうよ!」
「アホかケンゾウ。あの基地は姿を隠すのを徹底した形なんだ。それを崩すのは有り得ない。そうですよね?リーダー」
「ハヤテはよく分かってるな。その通りだ。基地を変える予定なんて今のところ無いからな。まぁ金の蓄えもかなりあるから変えようと思えば変えれるけどな」
そんな感じで三人で話していると、問題のライブハウスの前に辿り着く。
ジェノサイドは、ライブハウスへと続く地下に通ずる入り口を歩きながら一言。
「やっぱライブハウスってのもいいな。入り口が狭いから敵の侵入も防げる」
「頭が良いですね。ライブハウスの利用料も得るってのも面白いやり方です」
「いいから早く行ってくれ!狭い!!」
後ろからケンゾウの悲痛な叫び声が聞こえた。
急かされた気がした二人はそれを聞いて足を早める。
「んじゃ。行くぞ。扉開けたらすぐに攻撃しろ。油断するなよ」
二人の返事が聞こえると、すぐにジェノサイドは扉を勢いよく開ける。
「出てこいシザーハンズっ!!ジェノサイドによる宣戦布告だ!!」
ルールに則り、宣戦布告を宣言するジェノサイド。本来は戦う前日以降に宣言をするのが普通なのだが、その瞬間に宣言しても問題はないため、今回はそれに則った。
事実、ジェノサイドも大学内でフェアリーテイルと名乗る組織らとその瞬間に宣戦布告されて戦ってもいる。
だが問題はそこではない。
ライブハウスに突入した三人だったが、辺りを見回しても敵の姿が見えない。
ただ三人の足音とジェノサイドの声が無駄に響いただけだ。
「いない……?」
「人っ子一人いないっすよ、リーダー」
「おかしいな。ここで合ってるはずだが……」
と、ジェノサイドが言いかけた時だった。
ずるり、と。
後ろから、鋭い刃物で斬られたような感触が全身を伝った。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.32 )
- 日時: 2018/12/05 01:19
- 名前: ガオケレナ (ID: JJb5fFUo)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「リーダー!!」
斬撃により、ジェノサイドのバランスが崩れ、体が前方へと傾いていく。
倒れるその瞬間、ケンゾウがこちらに駆けてくるのが見えた。
辺りに人が倒れた鈍い音が響く。
二人が後ろを振り向くと、刀剣を持った男がすぐ後ろに立っていた。
「まさかジェノサイドが此処に来たとはな……。すごい奴をぶっ倒したもんだ」
その声色からは喜びというのを感じ取ることができないが、その男は刀剣を二人に向ける。
「ここに来たってことはあれか?'例の情報'を使ったって事?バレたらどうなるか分かってんのかな?」
「俺たちが分かるということはてめぇはシザーハンズの人間か。てめぇこそ武器なんて使って良いと思ってんのか!!」
刀剣を使った威嚇に怯むことなく、ケンゾウが激昂する。正直な話、こっちの方が怖いくらいだ。
「ん~、宣戦布告してこちらがそれを受け入れればポケモンしか使えないけど僕はまだ受け入れてないからね」
宣戦布告の無い限り、つまり組織の人間としてでなく、個人で組織と戦いたいときの規定が存在しない。
つまり、それはどんな手を使ってでも組織の長を始末してよいという意味になる。
「僕はルールに則り、そこのリーダーを始末したまでだよ。ほらほら、もうジェノサイドは滅んだんだからさっさと帰れ帰れ」
その言葉に苦い顔をして見合わす二人だったが、その時、ジェノサイドの体から異音が鳴るのが聴こえた。
鉄が擦れるような音だ。
刀剣を持った男も異変に気づく。剣に血が全く着いていないことに。
よく見ると、ジェノサイドの背中。丁度斬られた辺りの部分、その服の中から何やらポケモンのようなものがはみ出ていたのだ。
もぞもぞ、とそのポケモンが服から出てくる。
「ギルガルド……?」
男が驚いてると、ジェノサイドも起き上がる。
「いってー……あー、びっくりした。やっぱ後ろからの不意打ちなんて慣れるもんじゃねーな」
至って元気だった。目立った外傷すらもない。
「お、お前……服の中にギルガルド忍ばせていたなんて……そんな、有り得ないことを!!」
その有り得ない対策方法とやらに男の驚きが隠せない様子だ。
「あぁ。有り得ないだろ。だからこうした訳だ」
言うと、ギルガルドの姿が変化した。フォルムチェンジではなく、元の姿のゾロアに。
「こいつなら服の中にいられるだろ?ってか勝手に入ってる事の方が多いんだけど……」
ボールではなく、ローブの中にゾロアを戻すと、改めて男を見つめる。
「お前、シザーハンズか」
「うん。シザーハンズのヨシキ。覚えてくれると嬉しいかな」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.33 )
- 日時: 2018/12/05 10:17
- 名前: ガオケレナ (ID: .X/NOHWd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ヨシキ。その名は手にした情報にて'シザーハンズ'のリーダーとして載っていた名前。
つまり、今目の前に居る男を倒せばそこで今日の仕事は終わる、という事だ。
「ヨシキ……ねぇ。ズバリ聞きたいんだけど、お前がシザーハンズのリーダーか?」
分かっていることをわざと相手にぶつけてみる。彼がどう反応するのかを確かめるためだ。
「ったく、情報見てるならそれくらい分かるでしょ?何でわざわざ聞くのかねぇ……」
呆れた様子で刀剣を一度振るってみせる。威嚇のつもりなのだろう。
「それとも、わざと聞いて反応を伺おうとしたのかい?それくらい予想できてるよ」
両隣の二人がギクッとした表情を何やら見せているようだが、ジェノサイドは顔色一つ変えずにその言葉の意味を考える。
「まぁ、そんなことはどうでもいいよね。と言うよりジェノサイド。君はこの質問をする上で一番見たかった反応というものがあったんじゃないかな?」
「ん?」
「例えば、『何でリーダー自らここに来てんだ』とか」
今度こそジェノサイドも内心少しギクリとする。だが、顔に見せては相手にとって有利な場面を作ってしまう。あくまでも終始ポーカーフェイスで乗り切るのが今の彼の役目だ。
「仮にそう俺が考えたとして、何故そんな考えに至ったんだ?」
「そんなの、勘のいい君なら分かるはず」
ヨシキのその言葉により、ジェノサイドは確信を得ただろう。
そして、本当に恐れていた事へと物事が動いていたことも。
「僕が君の居場所をバラしたんだ。君ならこれだけで分かるはず。だろう?」
二人がジェノサイドを見ても、彼は黙りこんでいるだけだ。当然ヨシキとリーダーの考えていることが分かるわけがない。
「あの、リーダー。どうも俺たちには訳が分からないのですが……」
ケンゾウの声だった。
正直、ジェノサイドは彼らにすべて話そうか悩んだが事の解決が難しくなりそうなので'とりあえずな情報だけ'思いきって口を開くことにした。
「シザーハンズのバラした情報によって実際に来た奴等がいる。誰だと思う?」
二人にはあの騒動については少ししか話していないため分からないかもしれない。それとは裏腹にヨシキがニヤニヤしている。
「俺は大学で襲撃されたとき、決まって奴等はその組織のリーダーが俺に突っかかってきたんだ。そして、今回もな。どういう意味が分かるか?」
「と、言うことは、こいつの情報を使って大学へ襲撃してきたって事ですよね?つまり……」
「全員が繋がっていた……グルだったって事ですか!」
冷静だったハヤテとは逆に、落ち着きがないケンゾウが大声で自分のリーダーに迫った。
オチを取られ、ハヤテはばつの悪い顔をしている。
問題なのは個々の組織の人間が集まった事ではない。
情報次第でその、個々の組織の垣根を超えて一定の目的の為に本来刃を交えるはずの人間達が協力する。
それを深部の世界で実現してしまった事だったのだ。
「君の部下も中々優秀だね。情報撒いたら中々面白い人達から返事が来たのは事実だよ。……その名前、知りたいかい?ジェノサイド」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.34 )
- 日時: 2018/12/05 10:25
- 名前: ガオケレナ (ID: .X/NOHWd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
余裕を見せる笑顔につられて、ジェノサイドもつい鼻で笑ってしまう。
あまりにも憎たらしい顔だったからだ。
「お断りだ」
意外な返事により、ヨシキの顔が冷めていく。
「へぇ。いいんだ。どうして?もう知っているから?それとも、事実から目を背けたいから?」
二人の意味深の会話にまだついて行けないハヤテとケンゾウ。
だが、ついて行けない二人だからこそ疑問が生まれる。
「へ?実際に来た奴等はフェアリーテイルを名乗る組織を中心とした包囲網を作った連中ですよね?」
その言葉により、ヨシキが思わず吹き出してしまう。
「失礼、なんというか……ジェノサイド。やっぱり彼らも話に混ぜるべきだと思うんだけど……」
「結構だ。話ならあとで全部するから大丈夫だ」
ゆらり、とジェノサイドの体が左右にゆっくりとブレていく。
まるで、'幻影'でも見ているように。
「てめぇぶっ潰した後にな」
直後、どこから現れたのか、ゾロアークがナイトバーストをヨシキに向かって放つ。
狭い空間に放ったせいか、カウンターやステージ、モニター、スピーカーなど至る所に光線が命中し、爆音と大量の砂埃を撒き散らす。
「やりましたか?」
「いや、逃げられた。情報バラ撒くだけ撒いて金貰ってるような奴だからな。いっつも遠くから眺めて自分に危害が降りかかりそうになったら一瞬で逃げる。多分そういう奴だ。だから最初に武器なんか使って不意打ちしてきた」
「要するに、実戦が苦手な可能性が……?」
「あぁ。逃げるアイツ取っ捕まえさえすれば勝てる、と言うことだ。アイツが味方呼ぶ前に三人で手分けして探すぞ。見つけ次第ぶっ潰すことな」
了解、と両者が同じタイミングで呟くと、一瞬顔を見合わせ、地上へ出ると真逆の方向へと走り去っていった。
ジェノサイドは一つの疑惑を頭に抱えながらライブハウスを出る。
(情報撒いたら面白い奴が来た、ねぇ……)
(そんなの、面白すぎて笑い死んじまうよ)
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.35 )
- 日時: 2018/12/05 10:40
- 名前: ガオケレナ (ID: .X/NOHWd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
外に出て、辺りを見回す。
当然だが、ヨシキらしき人間は見当たらない。
(ま、白のジャケットに青のデニムだったからなぁ。パッとしない服装だし目立たないからそう簡単に見つかるわけないか)
現状の不満を漏らしつつ、それでも走りながら周りを見る。
ヨシキの基地、ライブハウスには置いておくべき物が無かった。
ヨシキと言う人間が外に出る以上、基地に置いておかなければならない物を、彼は置いていかずにそのまま出ていった。
「つまり、刀剣なんつー物騒な物持ち歩いていたら注目浴びるしちょっとした騒ぎにもなる可能性だってあんだろ!」
楽観的に考え、足を早めていたその同時刻。
ハヤテとケンゾウは十分ほど辺りを探すと、偶然にも駅裏にて再会する。
「ケンゾウ……ヨシキは?」
「いや、ダメだ。お前は?」
ハヤテが首を横に振ると、ケンゾウは頭を抱える。
「あー、ちくしょう!逃げ足だけは本当に早いのな!何なんだあれ。人間の癖してスカーフ巻いているんじゃないのか?」
冗談にしか聞こえない冗談だが、彼の顔は本気だった。
ハヤテはそのギャップに戸惑いつつ、状況の整理を試みる。
「と、とりあえずまずは考えよ?」
二人で歩きながら今まで探した場所を互いに会話で共有する。その足取りはとても落ち着いていた。
「リーダーがナイトバーストぶっ放して基地壊しながら出たのが十分ほど前。その後すぐにケンゾウと自分で別れて駅の周辺を探したけど見つからずに今ここにいる。そうだよね?」
「だが……言っちまえばまだ十分しか経ってないんだからよ、そう遠くにはまだ逃げられてないんじゃないか?」
「うん。それこそスカーフ巻くかポケモン使って逃げる以外に方法はほぼないよ。それにね、見たんだ」
何を見たのか分からないため、ケンゾウが疑問を投げる。
「剣だよ。さっきまでヨシキは剣を振り回してたでしょ?でも、自分達がライブハウスから出る時剣が無かった。当然、こうして追い掛けている途中にも剣は落ちてなかった」
「じゃあ……あいつは剣を持って外出てるって言うのかよ!?」
「うん。でもそんな物騒な物持ち歩いていたら注目浴びるでしょ?自分達の目印にもなり兼ねない。それを解消する方法があるとしたら……」
「方法?」
ケンゾウが必死に頭を捻るが考えが思い付かない。ただ、眼前には青空が広がるだけだ。
「んー……なんつーか俺には分からんなぁ。こうやって空を眺めることしかできん」
「それだよケンゾウ!!」
珍しくいきなり声を上げたハヤテの姿に、ケンゾウは反射的に驚く。
「な、なにが?」
「空だよ。奴はこの短時間で駅周辺から出るとは思えない。それに加え物騒な道具も持っている。それらすべてを解消する方法は鳥ポケモンに乗って空から逃げる事だよ。そうすれば、地上に集中している自分たちの捜査の目も潜れるだろ?」
ハヤテの解説により、初めてその意味にケンゾウは気がつく。
「あっ、そういうことか。てっきり俺には意味がさっぱり分からんもんでな」
「でも厄介だな。そうしたら余計見つけにくくなる。分かりやすいポケモンとかだったら別だけど……」
喋ってる途中に、いきなり言葉を止めるハヤテ。
その目は、青空に映った一つの物体を微かに捉えていたからだ。
そこらの空を飛ぶには大きすぎるくらいの、鳥の影、そのスタイル。
鎧を身に着けた鳥を意識したその姿に、ハヤテは確信する。
「見つけた」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.36 )
- 日時: 2018/12/05 11:37
- 名前: ガオケレナ (ID: .X/NOHWd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ポケットから振動が伝わる。
スマホから着信が入っていた。ハヤテからだ。
「リーダー見つけました!敵……ヨシキは駅裏、ライブハウスから見て北側の上空にいます!」
何とも嬉しい報告だ。
思わず零れた笑みを浮かべつつ、一言告げるとすぐに通話を切る。
「行くぞリザードン!」
ボールを真上に投げ、出てきたリザードンに「俺を乗せろ」とジェスチャーをする。
近づき、背を向けたリザードンに乗ったジェノサイドは直ぐに指示を出す。
「駅だ!駅の方へ向かえ!ポケモンを見つけたらそいつに近づくんだ」
主を乗せたリザードンは上へ上へと飛び上がると、普段彼を大学に連れて行く時と比べてスピードを上げて目的地へと移動していく。
ボールに入っていたのに会話を聞き取る能力でもあるのだろうか、とジェノサイドは一度気になるがそれほど大きな問題では無かったのかすぐに頭から離れてしまう。
目的地が見えたからだ。
駅に近づくが、それらしき姿が見えない。
気になったジェノサイドは再度ハヤテに電話を入れることにした。
「もしもし?今駅の真上にいるんだが、ポケモンらしき影が見えんぞ。本当にいたのか?」
すると、ハヤテの慌てた声が聞こえてくる。
「えぇ?えっと……確かにさっきエアームドとそれに乗った人影が見えたんですけど……もしかしたら高架下とか、上からじゃないと分からないところに隠れているかもしれません。こっちも今探しているので何かあったら連絡します。リーダーも、何かあったら連絡下さい。」
「おぅ。分かっ……うぉあああ!!!」
不意に電話越しにジェノサイドの叫び声が聞こえた。耳が痛くなったハヤテだが、その謎の声に不安が過る。
「大丈夫ですか!?リーダー!」
すると、暫く間が空いて、
「あ、あぁ。大丈夫だ。今ちょっと忙しいから切るぞ」
一方的に切られてしまった。
何が何だか分からない彼らは、リーダーを探すため駅の方へ走り出した。
ジェノサイドが叫んだ理由は目の前にいる敵、ヨシキにあった。
電話をしていて丸腰のジェノサイドへ、真後ろからエアームドに乗ったヨシキが迫ってきたのだ。
それに気づいたのは本能に従ったリザードンだった。
敵に気づいたリザードンは尻尾を振り回しつつ、ジェノサイドの意に反していきなりさらに真上へと飛ぶ。
彼はそれに驚いただけだったのだ。
異変に気づき、ヨシキを確認すると、お互いが対峙する格好で空中で静止する。
「あー、びっくりした」
「第一声がそれかよ……」
敵であるヨシキも、最強と謳われたジェノサイドの自由な態度と注意散漫な姿を見てそれまであったイメージが崩れる。
生まれた感情は呆れと、怒り。
「お前みたいな奴でも……未熟な人間の癖に最強なんてもんになれるのかよ……っ!」
ジェノサイドはその言葉で、空気が変わった事には本能的に感じる事ができたが、何故変化したのかまでは分からなかった。
明らかに自分の過失によるものであるのに。
「エアームド、'ドリルくちばし'!」
鋭い嘴がジェノサイドとリザードンを狙う。
当たればそれなりのダメージは入るだろう。
だが、それでもジェノサイドは至って冷静だ。バトルになるとスイッチが入るにも関わらず。
「かわせ、リザードン」
簡単にそれを避ける。
速いことには速いが避けるのに苦労はしないスピードだ。
「そう言えば話が続きだったね」
唐突にヨシキが会話を切り出す。
「人の事は言えないけど、僕や、僕の仲間も皆リーダーが直々に君の元へ来ているよね?何でだと思う?」
「知らねぇな。俺にぶっ殺されたいマゾなんじゃねぇの?」
「んー、惜しい」
わざとらしい笑みが余計に腹立つ。
そんな顔を浮かべながら、ヨシキは人差し指を立てる。
「理由は1つだけ。利益を独占したいからさ」
その言葉に、思わずジェノサイドは首を傾げる。
「利益?俺を殺したとして、どんな利益が出てくるのさ」
「君は本当に分かってないんだね。見事にヤツに踊らされてるね」
「あぁ?」
ジェノサイドの態度を見て落ち着きを取り戻す。彼が知らないと答えたときはつい興奮してしまい、すべてを語りたくなったが、今はそうならずに済みそうだ。
「そうだよね。当事者、いや中心の君には分からないのも無理はないよね。あのね、君はこの世界のトップだ。すべての組織の人間の理想像であり憧れであるんだ。腕が強さを魅せるこの環境だ。しかも目的を果たすためならどんな手を使っても良いと来ている。当然、君を殺してトップになりたいなんて思ってる人も出てくるわけだよ」
「くだらねぇな。つまり俺を殺したという事実がそのままステータスになるってか。そりゃ狙われる訳だな」
「そういうこと。彼等は自分達の組織の存続を賭けて君の命を狙っているんだ。すごい世界だよね?ま、そんな奴らを今回仕向けたのが僕なんだからもっと凄いよね!」
勝手に自分に酔いしれる姿を見て不快感を得た彼は目の前の気持ち悪い男をぶっ潰すために、相手には聞こえない声でリザードンに指示を出す。
'だいもんじ'と。
リザードンの口から炎が放たれたと同時、エアームドが動く。どうやら気付かれていたようだ。炎は虚空に消える。
「読唇術でそんなの分かるんだよ。本当に君は不意打ちが好きだね」
「そうでもしねぇと自分の身が守れねぇんだよ」
言うと直ぐに、今度はリザードンがエアームドへと急接近を始める。
初めはそのスピードに目が追い付かなかったヨシキだったが、ジェノサイドの目的がエアームドの撃破ではなく、直接に自分を狙うことを察知した彼は急降下を指示する。
人が多い地上近くなら遠慮のない攻撃は来ないだろうというヨシキなりの予測だ。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.37 )
- 日時: 2018/12/05 11:53
- 名前: ガオケレナ (ID: .X/NOHWd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「ん?あれだ!おい、あれだぞ!リーダーだ!」
ハヤテよりも足の速いケンゾウが先に自分達のリーダーを見つけたのは駅とは真反対の方角の商業ビル手前の空だった。
上空で戦闘を始めている。
「おい、流石にそれは危ねぇだろリーダー……気ぃつけて下さいよ」
祈るような気持ちで一杯だったが、その気持ちはより強くなる。
エアームドが地上ギリギリまで急降下を始めたからだ。
「おい……まさか……」
その光景を見て、一つの不安が過る。
エアームドを狙う形で、ジェノサイドのリザードンも急降下を始め、同じ軌道で彼等を追いかけ始めたのだ。
「無茶だリーダー!こんな街中でドッグファイトなんて危ないっすよ!!」
ケンゾウの叫びも虚しく、彼らは街を駆ける。
「ハァハァ……やっと追い付いた……ケンゾウ、リーダーは?」
バテながらもハヤテがやっとこちらにやって来た。その様子だとさっきのやり取りは見ていないようだ。
「まだどっか行っちまったよ。リーダーの奴熱くなりすぎて追いかけっこ始めてるよ」
それを聞くや否やハヤテは大きく溜め息をついた。
「またか……ああなるともう手がつかなくなるよ。街に被害出ても困るから他人の振りして眺めてよう」
彼等の間では定番の答えであった。
エアームドが車道ギリギリを通過する。
リザードンはそれを追い、軽自動車と歩道橋の間の隙間を通り抜ける。
強い風を浴びながら目の前の敵を強く捉える。近くまで迫っている車や人はお構い無しといった感じだ。それでもそれらには当たることなく、避けていく。
歩道橋を抜け、ビルの間を通り抜け、広い空へと飛び去ってゆく。
夕焼けの眩しい開けた空の、死角がない地点へと着いた瞬間だった。
エアームドが突如、旋回してこちらへと向かってくる。追い風と今までのスピードに乗ってかなりの速さだった。
避けるには間に合わない。技を打とうにも若干の、1秒にも満たないタイムラグが生まれ結果的に間に合わなくなる状況が生まれる。
(そうか、この状況を作り上げるために逃げていた訳か……)
敗北を悟り、両目を瞑る。
ように見えたその直後、不意にジェノサイドが嗤う。
勝利を確信したヨシキは一瞬にして不審な思いに駆られ出した。
「なぁーんてなぁー……」
ジェノサイドの不気味な声が響いたと思ったその時。彼はいきなり空から落ち始めた。
ヨシキですら何かの見間違いかと思った。だが、本当に彼は落ちている。
よく見るとそれまで彼が乗っていたリザードンが消えている。ボールに戻したようには見えなかったが、彼にはそう思えた。
しかし、そう思った時点で遅かった。自身の上に影が迫ることに気が付かなかった。
それに気づいたのは熱の存在だ。夕日にしては熱すぎる。まるでBBQをしている時の間近に火を浴びている感覚。それに似ていた。
ヨシキがゆっくりと上を見上げるとそこには、目を疑う光景が。
「なっ……!?ゾロアーク……!?」
ゾロアークがこちらへ'かえんほうしゃ'を向けている瞬間だった。
「まさかお前……ゾロアークをリザードンに変身させて今まで……!?有り得ない、ゾロアークの幻影は重さまでは変えられないはず!?……何故、」
言いかけて、そこで気付く。
「途中までは本物のリザードンだったのか?本当に違和感の無いレベルまで忠実にゾロアークが幻影を途中から見せていたのか!?……それとも今までのやり取りすべてが幻?……一体お前の強さは……、」
言っている最中だった。
頭の中が混乱しているヨシキを爆炎が包む。
またもや、勝敗は一瞬で決した。
「うぉおああああーーーっ!!」
空中に投げ出され、下へと落ちる恐怖感から叫び声が辺りに響く。
咄嗟にポケットからボールを取り出すと、今度こそ本物のリザードンを呼び出す。
ジェノサイドはリザードンの背中へと無事着地する。
だが衝撃が強く、体全体に痛みが伝わった。
「ぐっ、……痛てぇ。ゾロアークは無事か?」
空をを見上げると、体を丸めてくるっと回る形で体勢を整えると、ピジョットに変身して地上に向かっていくゾロアークの姿が。
ジェノサイドを乗せたリザードンもそれに続く。
よく見ると、ピジョットの降り立とうとしているところに見知った二人の影があった。
「終わったぞ。ケンゾウ、ハヤテ」
「「お疲れ様です」」
半ば呆れながら二人が同じタイミングで呟く。
「リーダー……、熱くなりすぎです」
「あー、悪ぃ」
「気をつけて下さいよ!リーダーだけでなく周りも危なかったんすよ!?幸い被害は0でしたけど!」
「それなら良くない?」
「「良くない!!」」
ジェノサイドが部下から説教を受けるという珍しいやり取りを見せるものの、目的は何だかんだ達成された。
一通り説教が終わり、二匹のポケモンをボールに戻した時だ。
「えっ、レン……?」
「高野……?」
聞き慣れた声を、ジェノサイドの耳が捉えた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.38 )
- 日時: 2018/12/05 12:08
- 名前: ガオケレナ (ID: .X/NOHWd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
後ろから声がした。
と、言うことは振り向けば、彼らがいる。
ジェノサイドは振り向くことなく、目の前にいる自分の仲間と会話を交わす。
「バレちゃったよ。場所が場所だから大丈夫かなーとは思ってたけどね。知り合いにバレちゃった」
ケンゾウとハヤテは何かピンと来ない顔をしている。
「意味、分からない?」
「……つまり、あの方たちはリーダーの知り合いという事ですか?」
「あぁ」
「大学の、ですよね?」
「あぁ」
「と、言うことはリーダーがジェノサイドだと言うことは今まで知らなかったと言うことですよね?」
「あぁ」
「大丈夫なんですか?それ」
冷や汗をかきながら恐る恐るハヤテが聞く。嫌な予感しかしない。
「ちょっとマズい。どうすりゃいいかな?」
この阿呆が、とこの場で叫びたくなったがその気持ちを我慢しつつさらに近づいて誰にも聞こえない程の小さい声で呟く。
「逃げましょう。これ以上いると面倒なことになります」
「オッケー。じゃあちょっと待ってて」
意味が分からなかった。折角今から逃げるための準備をしようとした所で本人に止められた。
しかも、今彼は振り向いている。
ジェノサイド……ではなく、高野洋平として自らの友達の元へ歩く。
「よぉ。集合って確か19時だったよな?まだ一時間か二時間前だろ?マメだなーお前ら」
いつものノリで話しても返事が中々来ない。彼らの表情も何だか怖い。
「……そう言えば今日はここで遊ぶ予定だったよな?どんな予定だったっけ?」
それでも、返事は来ない。流石にちょっとイライラしたので思いきって聞くことにした。
「そんなに俺がこの服着てるのが珍しいか」
言うまでもないが、今彼はジェノサイドとしての服、黒と赤の色で構成されたローブを着ている。
「何で……?」
弱々しい声がうっすら聞こえた。声の主は自分がサークルに入って以来仲良くしていた同学年の女子、高畠美咲だ。
「どうして、レンがそんな格好して変な行動してるの?」
目の前の事実が信じられない光景なのか、声が震えている。目の焦点も合っていかった。こっちから見ても胸が痛くなりそうだった。
「何で、レンがジェノサイドなの?」
勇気を振り絞って出した言葉だろう。最後まで震えていた。
当然と言えば当然だろうか。昨日まで仲の良かった友達が実は世間ではテロリストだとかで騒がれている連中の人間だったのだから。
「色々と成り行きでな。びっくりした?」
彼女たちの気持ちが分かるからこそ下手な言葉は使わずに、あえて最後までふざける事にした。
我ながらいい加減な人間だろうと自覚して。
後ろの仲間が焦りを見せ始めているようだった。
「リーダー、そろそろ行きましょう。もうこれ以上面倒事は起こさないで下さい」
もう少し友達と話したかったジェノサイドだったが、彼の言う通りこれ以上面倒事が起きるのも嫌ではある。
未練がましそうに、子供みたいな顔をしながらジェノサイドはボールを二つ取り出してケンゾウとハヤテにそれぞれ差し出す。
「空飛べるポケモンだ。さっさと帰るか」
三人がそれぞれポケモンを出し、乗ろうとしている時だった。
リザードンに乗ろうとしているジェノサイドの元に誰かが駆け寄ろうとしている。
よく見ると同じサークルの同年代の友達の吉川祐也だ。
小太りな体格をしているが正義感は人一倍強い男だ。こういう事にはどんな理由であれ関わろうとする人である。
「待てよ、レン」
「ごめん急いでんだ」
「待てよ!!ちゃんと説明しろよ!どういう事だよ、これは!」
無視して飛ぼうとて怒鳴られる。相変わらずの性格だ。
それでも、動じることはなく溜め息をついてから一言呟くと大空へと消えていった。
「何が何だが……訳わかんねーよ……レン」
吉川の脳裏に、彼の言葉が焼き付いて離れない。
『いつか機会があったらね。バイバイ』
「いつかって……どうせそんな機会ありゃしないんだろ」
ーー
「こうなることは予想できたのではないのですか?リーダー」
空を飛んで帰る中での、ハヤテの質問だ。
「だって今日だったんでしょう?あそこでリーダーの友達が来るのって」
「あぁ、そうだよ」
「知っているのなら何故!?」
それでもふざけた口調のジェノサイドに対し疑問が離れない。彼にとってはさほど問題では無いのだろうか。
「そもそも、あんな風になることを想定して今日ここに来たんだ。だってさ、はっきり言えばシザーハンズなんていつでもぶっ叩けるだろ?」
「だったら尚更ですよ。どうしてですか?」
「あいつらと別れたかった」
「……え?」
唐突な発言に一瞬意味が分からなかった。
「俺は、あいつらと会う前からジェノサイドのリーダーやってたけど、何て言うかさ……今回の騒動で大学まで戦場にされた訳だし、今後は今までの大学生活過ごせねぇなと思ってよ。その日常の一部と別れたかった」
「……その日常の象徴が彼らですか?」
「あぁ。深部とは打って変わって本当に平和な世界のな」
言いながらジェノサイドは頷く。
「全く……」
今日起きた事をすべて思い出しつつ、彼の言葉を聞いてすべてを理解すると肩の力が抜けた。気がした。
「本当に面倒な事をするんですね、リーダー」
自分の都合のために仲間、敵まで巻き込み、その敵の金まで取ることに成功した。
つくづくリーダーの考える事は分からない。
だが、それが楽しいと感じるためハヤテとケンゾウはどんなに面倒でも彼について行く事ができるのだ。
三十分程すると、自分たちの見慣れた基地が見えてきた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.39 )
- 日時: 2018/12/05 13:04
- 名前: ガオケレナ (ID: .X/NOHWd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「只今戻りました、バルバロッサさん」
基地に戻ってしばらくしてから、ケンゾウとハヤテは基地に留まっていたバルバロッサに状況報告の為、彼のいる研究室に赴く。
相変わらず巨大な機械に写し鏡が埋め込まれている。
「そうか、今日も任務だったか」
興味が向いていないのか、調子のいい声色でなかった。目の前の解析に夢中になっているのだろう。
「はい。本日は前々から目標にしていたシザーハンズを」
そんな反応を無視して淡々と話を続ける。
「シザーハンズか。そうか、それならお前たちもこれから気が楽になるな。あいつらはコソコソと動いていた連中だっただろう」
ついにこちらに向かなくなった。だが、返事だけはしてくれているところに若干の優しさを感じる。
「でも、あれっすよ。リーダーったら結構面倒な事してくれてたみたいで、友達と縁切るために今日あいつら叩いたみたいなんですよ」
ケンゾウが唐突に切り出した。それを見てハヤテが何やら慌てている様子だ。
「ちょっ、ケンゾウ!それは色々と面倒になるから言わなくても良かっただろ!」
耳元で囁くものの、静かな部屋でやるにしても丸聞こえである。バルバロッサはすべてを聞くと、低く呟く。
「利用したのか」
「えっ?」
「利用したのか。自らの都合のためにシザーハンズを」
「え、えぇ。そういうことになります」
「そうか……」溜め息を一度つくと、低く唸るような声を発した。
「なるほど、あいつらしいやり方だ」
ーー
「なぁ、マズかったか?バルバロッサにあれ言ったの。」
研究室から出て、二人で大広間に向かう途中の廊下。そこでの二人の会話だ。
「いや、別に。ただ説明するのが面倒だっただけだよ」
「そっか……ならいいや」
「ならいいやって……まぁ、反応見れたからいいけどさ」
「反応?」
一つの言葉に引っ掛かる。
「うん。報告に興味は無さそうだったけど、あえて真実を言えばどうな反応するかなって思ってさ」
「試したってことか?」
「まぁ、そうなる。結局よく分かんなかったけどね」
ハヤテがリーダーに若干似てきている……と一種の不安に似た感情に駆られるケンゾウであった。
姿も中身も似てるとどっちがリーダーか分からなくなりそうだ。
「ん、あれ?あれさ、リーダーじゃね?」
そんな事を考えていたケンゾウの視界に、リーダーてあるジェノサイドの姿が見えた。外へ出ようとしているのか、逆の方向へ向かおうとしている。
「本当だ。どこか出掛けるんじゃないかな。一人で行くなんて危険なのに」
だが、よくある事なので止めることなく、二人はただ彼を眺めるだけだった。
ーー
どうも引っ掛かることがある。
「シザーハンズのヨシキはこう言った……。面白い奴がかかったと」
ジェノサイドは今回得た情報を頭の中で纏める。
「そしてバルバロッサは、議会のデータからシザーハンズの場所を俺に教えてくれた……」
二つの点と点がジェノサイドの中で揺れる。
「そして、二つに共通するのは情報源が同じと言う事」
点と点が線で繋がりそうだが繋がらない。
それは、確信が持てない理由があったからだ。
(俺の中ではほぼクロだと思ってはいるが……一連の流れ全体で見れば確信は持てねぇ。だが怪しい事だけは言える。一度思い切って言うべきだろうな……)
元々ジェノサイドは彼を信用してはいたがそれは完全では無かった。
行動の一つ一つにどこか疑いの目を向けてしまう。
それは彼だけに留まらず周囲の人すべてに対してそうだったが、彼に対してはそれが少し強かった。
「仕方ねぇ。今すぐには気が向かねぇから明日あたりにでも聞いてみるか」
一仕事あった後にはどんなに重要でも行動には中々移さない、気分屋のジェノサイドであった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.40 )
- 日時: 2018/12/05 14:38
- 名前: ガオケレナ (ID: .X/NOHWd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
あれから三日が経った。
日曜と月曜は特に何も起きず、平穏に過ごすことが出来た。
と、言うよりジェノサイドという一組織にとってもこれが普通であり、何もない日を幾つか過ごした後に大きな戦いが起きる。
何故なら、そう言った日は単純に準備期間となるからだ。
言い換えてしまえば平穏な日、というのは新たな戦いの予告みたいなものである。
なのでジェノサイドはあまりこの日が好きではなかった。暇になるというのもあるが。
月曜に大学に行っても何も起きなかった。
友達に会わない日というのもあるが、それらしい人間が潜入しているという訳でもなかった。
そりゃそうだ。端から見ても大学構内でのジェノサイドはそこらの大学生にしか見えない。
何百、何千ものの中から一人の人間を探すなど気が遠くなる作業だ。余程暇のある人でなければ出来ない作業だろう。
「最も……そんな暇な奴も居るっちゃ居るのが何より恐ろしい事だけどな……」
昨日と、フェアリーテイルとかいう組織の人間と戦った日の事を相互に思い出しながら、友達に会える日である火曜の構内を歩く。
友達や自分が入っている何もしない自称旅行サークルは火曜と木曜と金曜に活動がある。
ジェノサイド……本名、高野洋平は時間割の都合上金曜には顔を出すことはないため、火曜と木曜を中心に考えている。
なので、今日来ることを第一に考えていたと言うことだ。
「好きっすね、リーダー」
不意に横から声がしたのでそちらに振り向くと、ケンゾウがいた。普段通り私服である。
「なんだ、お前か」
「何だとは何っすか、最近色々と物騒じゃないっすか。俺も気になったんで来ちまっただけですよ」
「ったく、余計だよ。まぁやる事が無いならいいけどよ」
「ところで、リーダー。あの時の話まだ全部聞いてないんですけど……」
唐突に話題を切り出された。あの時とはいつの事なのか分からないため、それについて尋ねるとどうもシザーハンズと戦った時の事のようだ。
「俺らはリーダーと向こうの話に着いていけてなかったじゃないっすか。あの時の話の意味が全く分からなかったんで、あの後ハヤテと色々話したんですけど、」
「それで?何か掴めたか?」
「いえ、俺はもう全然サッパリでしたけど、何かハヤテが言うに『リーダーには疑っている人がいるんじゃないか』って。あくまで想像ですけど。これってどうなんすか?黒幕とか居るんすか?」
「黒幕……ねぇ」
歩きながらジェノサイドはケンゾウの横顔を見る。ケンゾウの顔は真剣そのものだった。
この時ジェノサイドは彼に話そうかかなり悩んだ。信頼はしているものの、話だけ聞いてしっかりと理解せずに色んな人に話しそうで怖い。
それにジェノサイドの考えている事は予想の範囲である。事実とは言えないため安易に喋る事も出来ない。
つまり、彼もシザーハンズのリーダーであったヨシキの言葉のすべてを理解したとは言えないのである。
「知らねっ」
自身の頭をフル回転させて答えた結果だった。
ふと、視界に映った時計に目がいく。
「四時半。あと一時間半か……」
「ん?何がっすか?」
訳の分からない呟きにケンゾウが反応した。独り言のようなものだったが聴こえていたようだ。
「あぁ、サークルの開始時間までの事だよ。ついでに次授業だしちょっと行ってくるわ」
「俺はどうすればいいっすか!?」
「知るか。お前が勝手に来たんだろが。帰ってもいいし俺のすべての用事が終わるまで待っててもいい。とにかくそれは任せる」
そう言って、ケンゾウをその場に置いて目当ての教室へと向かっていった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.41 )
- 日時: 2018/12/05 14:47
- 名前: ガオケレナ (ID: .X/NOHWd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
一時間半の講義を終え、高野は教室から出ていく。
火曜最後の講義の時間だったため、帰る人でごった返しているのはいつもの光景だった。
「あー……やっぱ授業って退屈だな」
話相手がいないため、そんな独り言を呟いて辺りを見回す。
ケンゾウの姿は無かった。一時間半何もしていないと流石に退屈だったのか、恐らく帰ったのだろう。
人が少なくなってから移動したいため、それまで適当に時間を潰すことにした。
向かった先は構内にあるコンビニだ。
帰る人が集中しているため、それでもかなり混雑している。レジの列に入っても会計が済むのは五分くらい掛かりそうなレベルだ。
最も、急いでいる用事が無いため気にすることではないが。
適当に商品を眺めながら財布を確認し、ついでに残高も見たくなったのでATMへと向かう。
金額を見ると適当な額を引き出そうと何も考えずにパネルを操作し、出てきたお金を財布へと補充した。
そうしていると、混み具合が少々緩和されたので新商品のジュースと菓子を適当に選んでレジ待ちの列へと並ぶ。自分の前に六人ほど並んでいたが。
ここまでの行動を自分で考えてみると、そこらにいる大学生と変わらない事に気づく。
高野は高野という名前では普通の大学生だが、彼はジェノサイドと言う名へと変わると悪名高いテロリストへと変貌する。
この温度差が普通の大学生、いや、普通の人間と違うところだった。
預金残高を見てそれを痛感させられた。
何故なら、彼は大学生としてはあまりにも金持ちすぎたからだ。
彼の脳裏に、さっき見た3桁の残高が妙に焼き付いている。
3桁の数字というと、普通の貧乏学生では絶対に持てない数字だ。
あるとすれば金持ちの子か、親の援助がある人が持てるのに限る。
だが、彼は親の援助も無ければそこまで稼げるバイトもやっていない。あまりにも不自然な数字なのだ。
何故そこまで持っているかと言うと、彼がジェノサイドのリーダーだからだ。
これまで数多の組織を潰してきたが、その組織を潰すごとに財産、言い換えればお金が手に入る。
彼は組織運営費として自分の口座とは別のを用意しており、人件費や食料費、議会への税ともいえる献上費と言った諸々の理由で消費するお金など組織を維持するのに必要なお金がある。
それと別にしてジェノサイド個人が貰うお金が3桁もあるのだから驚きである。
彼はそれでも考える。これほどの金が無かったら、自分はどのような生活をしていただろうか。
常に命の危機に晒される事も無かっただろう。これほどまでに人を疑う性格になんてならなかっただろう。
世間からもテロリストなんて言われなかっただろう。
ジェノサイドなんて組織も作らなかっただろう。
そして何より、幸せで美しい平和な日々を過ごすことが出来たに違いないだろう。
はっきり言って今自分が歩んでいる道が正しいのかなど分からない。いや、間違っているからこそ認めたくないだけだ。
だが、気がつけばジェノサイドは最強の組織となり、言うなれば彼が裏の世界で最強の人間となってしまった。
世界最強。それはつまり、存在するだけで世界が動く。1つの行動で大きな争いが生まれてしまう。
いつか、誰かが「この世界はジェノサイドの独裁となる」なんて言っていたがそれはとんでもない間違いだ。
むしろ、彼がこの世界に縛られるだけなのだから。
だから彼が、ジェノサイドがたとえ高野洋平という存在でもし仮に「この世界から抜け出したい」だなんて言い出しても、ジェノサイドという存在で同じことを思っても、ただの冗談か子供の我が儘だとしか認識されない。
それを言うことすら許されない。彼はそんな環境に生きているのだ。
そんな事を思っていると、いつの間にかレジの列が消え、自分の番になっていた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.42 )
- 日時: 2018/12/05 15:26
- 名前: ガオケレナ (ID: .X/NOHWd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
会計を済ませ、コンビニを出て時計を確認すると、十五分も経っていた。
そこまで居た自覚はないが実際の時の流れとは早いものだ。
人の数もかなり減っていた。
今日彼がサークルに顔を出すのには理由があった。
土曜日。
彼は遂に一般人相手に自分がジェノサイドだとバレてしまった。
そこである程度会話も交わしたが、それでも憧れである平和に対する別れにしては納得のいくものではない。
今度こそ、高野は平和に対するお別れにやってきたのだ。
目の前に例の教室の扉がある。そこから先は彼の友達が居て、先輩が居て、今日も適当に遊んだり楽しそうに会話でもしているのだろう。実際中は明るく、時折楽しそうな声が聴こえた。
自分はあれと決別する。少し寂しさにも似た感情が心の中で芽生えたが今更後には引けない。
思いきって扉を開けた。
視界に映った限りを見ると、今日はそこそこ人は来ているようだ。
このサークルは大人数のものではないが、それでも年々人数は増えてはきている。
自分と同じ2年と、1つ飛ばして4年の先輩も含めると20人程確認できた。
当然、皆知っている顔だ。
「こんちはーー。三河屋でーす。なんつって」
ジェノサイドらしくない間抜けな声を発する。それまで騒がしかった室内が静まり返った。
そこにいる全ての人間がジェノサイドを見つめている。
無言で。
その反応を見て、高野は不思議に思った。
誰も、何も反応もせずただ見つめているだけだからだ。
「(もしかして……)」
彼の本来の姿を初めて見た土曜日の人はすべて居たが、その日に居なかった人もいる。
そもそも、ジェノサイドというものを知らない人たちなのでは?とも一瞬楽観的に想像してみた。
彼もまた、何も言葉を発しようとしなかった。
だが、それは彼らの反応からして、間違いだということに気づく。
「ん?レン……君?どうしたの?入らないの?」
声の主は高野の二年先輩の佐野剛。高野にとって一番仲のいい先輩だった人だ。
彼のその言葉により苦笑いする人がチラホラ現れる。
まさか笑われるとは思ってもいなかっただろう。
だが、これがいつもの空気なのだ。
「えっ……」
予想外の反応に、彼は言葉を失う。
てっきり驚きはされど、笑われるとは思ってもいなかったからだ。
一瞬思考停止に陥るものの、本来の目的を思いだし、我に返る。
「ちっ、違う……っ!?知らないとは言わせない。土曜日……、調布で何を見たか知っている人はいるはずだ。……なのに、何で?」
「それはこっちの台詞だよ。レン君こそ何で'今日'来たの?」
「そ、それは……」
別れの為だ、と言いたかった。
だが、すぐには言えない。
彼にはその光景が、日常が眩しすぎたからだ。
「少し、お話をしに」
高野はゆっくり歩き、教室の真ん前まで来ると、本来講師が講義に使う教卓の前で立ち止まる。
今現在集まっている人達の顔が、全員がこちらを見ている。
高野は一人一人の顔を見て全員と目が合ったあと、説明を始めた。
自分が何故深部の世界に身を置いているのかを。
皆とこの大学で出会う前から自分は組織を構えていたこと。その組織を作るきっかけが、四年前に突如ポケモンが自己のゲームデータと連動する形で姿を現し実体化したこと。
それにより治安悪化を招き、それの平定を目的とした深部集団と呼ばれる団体が設立されたこと。
その組織が増えすぎてしまい、逆に組織単位での犯罪が増し、余計に治安が悪化したこと。それを防ぐ目的で組織間抗争の環境へと変化したこと。
そして、その環境の頂点に立っているのが自分だと言うこと。
自分は、常に命を狙われているアウトレイジな世界に今生きていると言うことを、
すべて話した。
果たして、こんな事を一切知らない一般人にここまで話して良かったのか恐ろしさをも生まれたが、どうせ今日で最後なのだからと腹をくくったつもりだ。
「レン君……。君が言いたいことは分かった。理由はどうであれ、レン君は必死で生きているんだね」
始めに口を開いたのは佐野だった。
相変わらずの優しい声で高野に接近する。
彼がこの先輩を慕っていた理由の一つは、この優しい声だった。
「でもね、そんな理由が理由だからかな。僕たちは、そんなレン君を認めることはできない」
「認めなくてもいいっすよ。俺は適当にやってくんで」
「そうじゃない。許せないんだ」
優しくも強い声が静寂な教室に響き渡る。
言葉も言葉であるのか、高野にはやけに強く響いた気がした。
「どういう……事ですか」
「君は……テロリストだろ?」
一瞬言うのを躊躇ったのか、その言い方には迷いがあった。その口調もこの時だけゆっくりだったのも相まって。
反射的に高野は少しだけ目を大きくする。端から見れば驚いているように見えただろう。
だが同時に高野は、彼らが幸福者だと改めて感じた。
だからこそ、彼らをこちらの世界へと誘ってはいけない。
にも関わらず彼は今深部の世界の話をしている。
彼のポリシーが矛盾した瞬間でもあった。
高野は先輩の言葉を聞き、笑う。
「よく分かってるじゃないですか。ええ、そうです。俺はテロリストっすよ。俺は俺らに対する敵を見つけ次第、攻撃する。当たり前の事じゃないっすか。じゃないと俺が殺されちゃうんで」
「だとしても、やり方の問題だろ!」
後方からの荒げた声を彼の耳がキャッチした。
見ると、同学年の吉川だ。
彼は、世間一般で伝わっているテロリスト・ジェノサイドの話をしてみせた。
無差別に市民を攻撃している事、理由も目的の一切も不明だと。
唯一分かっているのは使用する武器はポケモンだということ……。
やはり、ここでも高野は彼を平和な人と賞することができた。
何も知らないと言うのは平和である証だ。
相変わらず正義感だけは強いな、とほぼ呆れに近い感情を抱きながら高野は彼の話に少し付き合うことにした。
「何がしたい、ねぇ。俺らの世界では相手方の組織を潰せば金を貰える事はさっき言ったな?それに関わることだよ」
「金に関わるって……じゃあ何だよ。アピールのつもりかよ?」
「あぁ、そうだ」
高野は強くはっきりと言った。言い方からして、嘘偽りが無いようだ。
「金を産み出す為に、俺は自分達の敵を倒しているだけだ。一石二鳥ってこのことだろ?」
「何それ!それってただの自己の正当化じゃん!そうやって言えば何も関係の無い一般人も巻き込んで、それを最終的にお金に結びつける?最低にも程があるよ!」
吉川とは違う、高い声がした。
声の主はこれまた同学年の石井真姫。女子ではあるが、誰とでも仲良くなれる性格であるため、高野とも仲が良かった。
それでも、今では先輩や吉川同様、敵対者にしか見えなくなってしまう。
だが、彼はこれを望んでいた。皆と別れるには自分が最低な人間になるしかなかった。
だから、彼は強く反論も出来れば自己正当も気兼ねなくできる。
「何とでも言うがいいさ。俺は生きるためなら何だってするさ?それが例え無差別なテロリズムであってもな」
皮肉たっぷりに薄く笑い、挑発する。乗るかどうかはさておきではあるが。
「だったらさ、どうしても分からないんだけど1ついい?」
声色だけで怒りが爆発しそうなのが感じ取れた。
石井も石井で正義感のある人間だったはずだ。
「何だ?もう全部話したから分からないことなんて無いと思うけど」
「いや、あるよ。レンに1つ聞くけど、何でレンは今日ここに来たわけ?」
絶対に聞かれると思った。
傍から見れば日常を突如ぶっ壊した空気の読めない人だからだ。
何をしに来たのか分からない。そんな風に捉えられるのが当たり前だろう。
この世界から出たかった。それが無理でも、自分はこんな生活をしている。もっと自分を知ってほしい。
なんていう自らの心の深部に宿る本音以上の本音を言おうか迷った。
そうでなければ、自分が好きだったこのサークルに、皆に会おうなんて思うはずがない。
助けて、なんて言いたかったけどそんな勇気が出るはずもない。高野は自分と自分の大切な人を守るため、最後まで偽り続ける。
「警告さ。俺はこの先も今までと変わらない活動を続ける。だけど、今となってはこの大学も俺の命を狙う輩のせいで戦場になりつつある。いや、既になってしまった。そこで余計な行動を起こさせないための警告だよ。邪魔でもされたら殺しかねないからさ」
これでよかった。本当は望んではいなかったが、想像の一通りの結末通りに事は進んだので、それだけで彼は満足だった。
窓の外に映る群青色に染まった夜空とその景色がふと目に焼き付く。その綺麗な色合いについ惹かれたからか。
だが、その二秒後だっただろうか。
確かに高野はおろか、ここにいるすべての人間の目には群青色の夜空が見えたはずだ。
それが瞬間のうちに、鋭い光と音によって夜空が奪われていく。
気づいたときには、目を疑う光景となっていた。
時間は18時を過ぎた中秋。真っ暗になりつつあるはずだ。
それが、早朝を思わせる明るい光に変化していた。
いや、どんな季節の早朝でも絶対に見ることはない。
空が、金色に染まっていたからだ。
つまり、それは。
現実では有り得ない光景が眼前に広がっていた、と言うことだった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.43 )
- 日時: 2018/12/09 12:43
- 名前: ガオケレナ (ID: Bz8EXaRz)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「何だよ……あれ……」
時間的に有り得ない空を窓から見つめる高野は、自身の頭の中で思い付く限りの成立するであろう現象を何度も思い浮かべる。
特性の'ひでり'、高エネルギーを放出する大技、視覚と聴覚を失わせるほどのものではないものの明らかに発生した強烈な音と光。
いくつか浮かんだものの、当てはまるものが1つも無い。
今目の前で起こっている事態の原因は、ジェノサイドの知恵を持ってしても分からなかったのだ。
当然、一般人である彼の友達や先輩と言った今この教室にいる人々も今何が起きているかなんて知っているわけがない。
その光景に対し率直な感想を述べているだけだった。
見ると、四年の女性先輩方が「すごーい」だの、「きれーい」と言っている位だ。
それとも逆に、ポケモンには全く関係のないただの自然現象なのかとも考えはじめた矢先に、自分の名を叫んでいる声が微かに聞こえた。
「レン!!レンってば!!」
考え事に集中しすぎてしまい、自分の呼ぶ声にすぐ気づかなかった。高畠がやや怖い顔をしながらこちらを見つめている。
「え、えっと……何?」
「あれが何なのかレンは知らないの?」
強く指を差した先は黄金色の空だった。彼女は早くも高野に関連している出来事なのではないかと考えていたのだろう。
だが、あれが何なのかは結局彼にも分からない。
「いや、全く分からねぇ。色々と考えてはみたけど原因がさっぱり分からない」
「とか言って、また組織絡みのやつじゃないの?あそこまでする理由って何?」
「だから俺も分からねぇって言ってんだろ!こっちが聞きたいぐらいだ!」
と、二人で熱くなっている途中だった。
ポケットに違和感を感じる。不安に思い、高野が自身の服のポケットに手を突っ込んだ。最初はポケモンがボール越しに変な動きをしていると思っていたがそれは間違いに終わる。
単に、彼のスマホが振動で揺れていただけだった。
(ハヤテから着信?)
マナーモードにしていた為、着信でもバイブレーションで振動している状態だ。
だが、発信者の名前に違和感を感じ、直後に不安に駆られる。あまりにもタイミングが悪すぎるからだ。
恐る恐る高野はスマホを近づける。
「もしもし……」
言った直後だった。正式には通話ボタンを押した直後。
「ちょ!!ヤバいっすヤバいっす!!マジヤバいっすよリーダーァァ!!」
物凄く元気だがほぼパニックに陥ってる声が耳を攻撃する。
つい反射的にスマホを遠ざけてしまう。
「お前……何でハヤテの携帯から電話してんだよ、ケンゾウ」
「今それどころじゃないっすよ!今基地が大変なんですよリーダー!」
「大丈夫だ、今こっちもヤバい」
全然大丈夫ではないのだが、基地という単語が聞き取れた以上、ケンゾウは大学から基地へと何事もなく帰れたようだ。それでまず安心した。
だが、「基地がヤバい」という言葉が聞き捨てならない。
「ん?待て。でもどういう事だ。その、ヤバいってのは」
不安になりながらも、冷静な口調でケンゾウに聞いてみるが、パニック状態のケンゾウに上手く通じたか分からない。
すると、言った後に少し雑音がした後、別の人の声へと切り替わった。
「もしもし、ハヤテです。今ケンゾウの奴パニクってるだけなんで別に問題はないですよ。ただ、今の状況を知らせるために僕の電話を奪い取られたのは迷惑でしたけど」
とりあえずケンゾウからハヤテに変わったことで安心を得た高野だったが、何事なのかさっぱり分からないままなので同じことをハヤテに聞く。
「えぇ。それなんですけど、聴こえますか?今うちの基地からサイレンが鳴り響いているんですよ」
サイレン?
そんな物基地内に取り付けただろうか?
心当たりがないので、電話越しから音を拾おうと耳を集中させる。
確かに、サイレンのような音が聴こえた。
「確かに、鳴ってるな……甲子園球場で流れるような、不気味なサイレンが」
「えぇ。急に鳴ったもんなので基地中がパニックなんですよ。一応構成員を含むメンバー全員に基地からまだ出ないよう指示をしてあります」
「そうか。ところで、そのサイレンはどこから鳴っているんだ?基地全体に鳴り響いている感じか?」
「いえ」
ハヤテが歩きながら話しているのか、所々に間が空く。
「一ヶ所から鳴っているみたいです」
その場所に近いためか、サイレンの音が徐々に大きくなっていく。電話越しでもそう感じるレベルだ。
「場所は?」
「それが……バルバロッサの研究室からなんですよ」
「研究室?何でだ」
「分かりません。あと、何かよく分からないものも写っているんです。テレビ通話にするのでそちらで確認していただけますか?」
ザザッと雑音が入った。どうやら、指で操作をしているらしい。
画面が変わった。そして映像が写し出された。
そこには、普段の暗い研究室に、大きな装置が置かれている普段の景色が写っている。
だが、おかしな点が幾つかすぐに見つかった。
研究室の真ん中に位置する場所に大きく構えられた形で置かれている装置。
普段バルバロッサが写し鏡の解析に使っていた装置だが、天辺部分に装着された回転灯が赤く光っている。それを見るに、どうやらサイレンはこの装置から鳴っているようだ。
次に、ディスプレイに何やら普段は載っていない画像が表示されていること。
何か、山のような写真だ。
そして最後。
肝心の写し鏡が無い事だった。
それに気づいてからか、変な鼓動が鳴り響く。嫌な予感がしてたまらない。
恐る恐る高野は再度ハヤテに質問をする。
「な、なぁ。バルバロッサの姿が見当たらないんだが、奴はどこに?」
「バルバロッサなんですが……先程写し鏡を持って外に行かれました。サイレンが鳴ったのもその後です」
嫌な予感が的中した。バルバロッサが関与しているに違いない事を確信する。
「リーダー!どうやったらこのサイレン止めれますか!?何かもうこれ怖いっす!うるさいっす!誰か助けてー!」
またもやうるさい声が耳に直撃する。
電話の向こうでガヤガヤ言い合ってるあたり、ハヤテの電話をケンゾウが奪い取ったのだろう。
彼らが基地の構造上地下にいると言うことに気づいた高野は空の異変について話すことにした。
「とりあえず落ち着けケンゾウ。そうだな、落ち着く為にもまず空を眺めてみてはどうだ?嫌なことがあったら空を見る。すると記憶に残りにくいって言うだろ」
当然意地悪である。こんな最悪な状況の中余裕を見つけたのかそれとも逃避したいが為なのかは分からないが何だか急にちょっかいを出したくなる。
それを聞くや否や、ダッシュで階段を昇っているのか、そんな音がうっすらと聴こえた。
「なるほど!空っすね!確かにそれはいい考えっす!待ってください今階段昇ってドア開けるところですから!ここからの眺めって最高なんすよね、……ってなんじゃこりゃー!!」
予想通りの反応が聞こえてしまい、状況を忘れて笑いそうになるが必死に堪える。
その姿を見てか、先輩や友達の自分を見る顔がなんだか変だった。よほど変な顔をしているらしい。
「えぇ!?ちょっ、何なんすかこれー!空がなんか変っすよ!!」
ケンゾウの叫び声が聞こえたためか、ハヤテもかけ上がってきたようだ。電話の声が変わった。
「リーダー……これは一体……」
「分からねぇ。さっき急に空の様子がおかしくなったんだ。教室の窓からこの目で確認した。そっちでも同様な異常が見られるようだな」
そして。
高野は一度長い深呼吸をすると、覚悟を決めたかの如くリーダーとして心を変える。
スイッチが強く押された瞬間だ。
「いいか。今すぐ俺の言う通りにしろ」
声色と場の空気が変わったことをハヤテは確信した。
両者の全神経が電話に集中していた。相変わらず頭を抱えて叫んでいるケンゾウが気にならなくなるくらいに。
「いいか。今すぐバルバロッサの研究室に戻ってディスプレイに写っている山が何なのかを調べてくれ。恐らくそこに何かが、バルバロッサがそこに居るはずだ。それが分かり次第ジェノサイドの人間全員を基地から外に出してそこへ向かうんだ」
その言葉にハヤテは耳を疑う。
「全員!?あまりにも危険すぎます!基地が無防備になってしまいますよ!」
「基地の安全よりも考えなきゃいけないことがあるんだ!そこら辺のリスクは考えてある!ひとまず俺の言った通りに動いてくれ。詳しいことは現地で直接言う。俺も今すぐ向かう」
「場所分かるんですか?何だったらまた画面を写しますけど……」
「いや、いい。思い当たるフシがある」
高野の目線は、遠い外の景色に向かっている。
その先には山が見え、山々の間に光の玉のような、光が集中している箇所が微かに見えていた。
「ただ、俺の思う節が100%当たってるとは言いきれない。その為の山の特定を頼む」
「それなら……リーダーもそちらで待っていた方がいいのでは?」
「それでも本当だったら良いんだが……」
高野はチラリと周囲を望む。
サークルメンバーによる様々な思いが篭った目が突き刺さるだけだった。
「その……気まずい」
「?」
「とにかく……今言えることは以上だ。……頼んだぞ」
それだけ言うと、高野は通話を切った。
改めて周りを見ると、教室にいる人全員が自分を見ている。電話の相手が自分の仲間であることは理解しているようだ。
「くそっ…本当に嫌な事が起きちまった……本当は認めたくねぇよ……あんなの」
聞き取りにくい小さい声でそう呟いた。隣にいた佐野先輩が辛うじて聞き取ったようだが。
「でも行くしかねぇ。何かヤバい事が起きてるのなら何が起きているのか確認しなきゃいけねぇだろ。……特に身内の人間が関わっていたら余計にな」
彼は窓へと向かって歩き出した。
ゆっくり窓を開けると、外に向かってボールを向ける。オンバーンが入っているダークボールだ。
「それに、その身内の人間が裏切ったってんなら尚更だろ」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.44 )
- 日時: 2018/12/09 12:56
- 名前: ガオケレナ (ID: Bz8EXaRz)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ボールから勢いよくオンバーンが飛び出す。
普段通り元気に翼を羽ばたかせていた。
「いいか、お前ら」
低い声でクラス内の人全員に呼び掛け始める。
「俺は今から何が起こっているのか見てくる。あとで連絡も入れる。だからいいか、俺が戻ってくるまで絶対にこの建物から出るなよ」
と、言うと当然ばつの悪そうな顔をする人が出てきた。それもそうだ。彼らはサークルが終わったら後は帰るだけだからだ。
「何でだよレン!俺らは関係ないだろ!」
声の主は岡田だ。少年のような顔と心を持った彼も、今は怒りを滲ませている。
「いや、俺のせいで被害が及ぶかもしれない」
高野は窓に足をかけた。今にも飛び立とうとしている。
「俺が、ジェノサイドがこの大学にいるという情報を奴等はもう持っている。この異変の元凶が俺を殺したがっている裏切り者の仕業だとしたらそいつの刺客が直接ここに来てもおかしくないだろ?」
それを聞くと、岡田は血の気が引くように真っ青な顔を見せつつ静かになる。
「だからいいか。絶対にここから出るなよ」
体重を乗せ、少し前のめりになった瞬間。
高野は思い出したかのように突然振り返り、佐野の顔を見た。
「先輩……。実は俺、今日限りでこのサークルを、この世界に生きる事を辞めようと思っていました。その為に今日ここに……。でも、やっぱり諦めきれません。もう少し此処に居たい……。わがままなのは分かってます。だからもう少しだけ、この騒動が終わったら連絡という体裁でまた……」
言葉が詰まった。
これから起こりうる事とのギャップが途轍もなく大きい事を痛感させられる。
「また、その時は此処に来てもいいですよね……?
」
そう言うと窓からオンバーンへと飛び移る。
そして瞬間、姿が消えた。
その姿を見ようと窓へ駆け寄る人が何人かいたが、彼らの目には黄金に染まった空と小さい太陽のような光の塊だけが映るのみだった。
「あれ?レン君ボール忘れてない?」
佐野が床に落ちていたモンスターボールを見つけ、それを拾う。
このサークルでポケモンをやっている人間は5、6人。
だが、彼らは実体化したポケモンをこの大学内で出したことはない。
なのでここにボールが落ちているということは高野の物以外有り得なかった。
「レンの奴……手持ち五体なんかで大丈夫かなぁ」
当然彼らはポケモンボックスの存在など知る由もない。
佐野は彼の最後の言葉を思い出しながら強く握っる。
「さっきは許せないなんて言ったけど……レン君。僕は待つよ」
「えっ?」
隣に来た吉川の声だった。彼には最後の二人のやり取りが上手く聞き取れていなかったのでその真意は分かっていない。
「僕はいつでも待つから、帰ってくるんだよ。……こっちの世界へ、ね」
ーーーーー
いつもよりも増してスピードが速い。
ジェノサイドは冷たい風を浴びながら突発的にそれに気づく。
ポケモンもポケモンなりに異変に気づいているのかと思いながら目の前に少しずつ迫っている小さい太陽を睨み付けた。
今までバルバロッサは仲間だと思っていた。組織の中では最も信頼できる人間だった。
だが、包囲網の件で何もしてこなかった時点でそれまで少しに留まっていた不信感が一気に募った。
不信感は募ってしまうともう二度と元の関係には戻せない。戻れない。
一度そういった感情が芽生えてしまうと敵として認識し、それを潰すまでその感情は変わらない。
敵と言う存在を絶対に許さない。
彼はそういった感情を持ってしまった時点で、この組織に長く居すぎてしまった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.45 )
- 日時: 2018/12/09 13:08
- 名前: ガオケレナ (ID: Bz8EXaRz)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
基地内に、もう人影はなかった。
それを確認すると、ハヤテは今まで歩いていた道を引き返す。
地上から入れる工場跡から、地下に作られた純粋な基地。
それらすべての箇所を見てきたので絶対の自信を持っていた。
地上へ出ると、ジェノサイドの構成員たちが各々ポケモンを出して今まさに目的の場所へと移動するそんなタイミングだった。
空を眺めると既に飛んでいる者までいる。
「よぉー、やっと来たかハヤテ」
基地の前に広がる森からたくましい体をした男が出てきた。ケンゾウだった。
「お前来るまで待ってたぜー。そろそろ行こうぜ」
「僕が来るまで待ってたの?先に行っても良かったのに」
「いやー、それじゃちよっと……な。行き先知らねぇし」
「何でよ。僕ちゃんと基地内の全体放送で伝えたはずだよ?」
目を細くしてハヤテは尋ねる。なんかもう嫌な予感しかしない。
「いやー、俺地元の地名以外分からなくて」
「だったらそれこそちゃんと聞いててよ!リーダーの命令でもあるんだよ!?」
額に手を当てながら予想通りの流れに半分呆れてしまう。
「いい?場所は神奈川県に広がる丹沢山地の一つ、大山。そこの山頂には神社があるんだけど、恐らくそこにいるって話だ」
「大山か。おし、了解した!そこにリーダーがいるんだな?」
「いや、今リーダーも向かっているところだよ。着いたら連絡が来るはず。あっ!それと……」
話している途中にハヤテは自らのポケットを漁る。
出てきたのは二つのモンスターボールだ。
「君は確か飛行タイプのポケモンを持っていなかったはずだ。僕の使っていいからとりあえずこれで移動して」
言うと、目を輝かせながら勢い良く一つのボールを取り上げる。
「おっ、サンキュー!助かったぜ!」
辺りの人間も皆陸や空から移動しており、人影が少なくなった。二人は一斉にポケモンを出す。
ハヤテは自らのポケモンのウォーグル。
ケンゾウの持つボールからはルチャブルが出てきた。
「・・・・・・」
「どうした?早く乗りなよ。遅れるよ」
ルチャブルの姿を見て固まるケンゾウ。しばらくすると、今にもウォーグルに乗ろうとしているハヤテの方へと顔を向ける。
「あのー……ハヤテきゅん……」
「その言い方気持ち悪いからやめて」
「これさー……。どうやって乗るん?」
準備は出来たのか、ウォーグルが翼を広げた。今にも飛んで行きそうだ。
「君はいつも筋トレをしているよね?」
「それで?」
「だったら、今こそその成果を発揮するべきだよ。レッツ45kmまでの限界チャレンジ!」
言うと、ハヤテは大空へと去っていった。ケンゾウを残して。
「え?っておい!!いくらなんでも長時間ポケモンに掴まって飛ぶのは無理があるっておーーい!!!」
どんなに叫んでも彼には届かなかった。
なお、彼がルチャブルと飛ぶのはそれから10分程経った後だった。
ーーーーー
大山の麓に到着した。
山の近くの為か、一気に凍えたせいでオンバーンもかなり疲弊している。
「ご苦労様」
ジェノサイドはオンバーンをボールに戻すと、スマホをいじり出す。ポケモンボックスを操作してオンバーンを転送し、代わりのポケモンを手元に呼び出す。
辺りを見ても何も無かった。
ある物と言えば、大山阿夫利神社と呼ばれる下社があるくらいだ。
だが、人影がない。
「やはり山頂か」
地上からの攻撃を避けるため、あえて麓に降り立ったものの、距離を見てみると気が遠くなる。
一時間ほど山登りをしなくてはいけないからだ。
「仕方ねぇ。真実をこの目で見るためだ」
ジェノサイドは、山頂を目指すため、足を踏み出した。
空は明るくとも、暗い道を目指して。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.46 )
- 日時: 2018/12/09 13:20
- 名前: ガオケレナ (ID: Bz8EXaRz)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
登山道へと足を向けようとした瞬間。
ポケットの中でスマホが振動した。
「?」
見ると、佐野先輩からだった。彼等から電話から来ること自体珍しい。
「もしもし?先輩?」
ジェノサイドは身なりと状況を忘れて、かつて偽っていた平凡な大学生に戻った雰囲気を反射的に出してしまう。
「おぉ、やっと繋がったよレン君」
繋がった?と言うことは何度も電話を掛けていたのだろうか。空中を速い速度で移動していたためか、繋がりにくくなっていたのだろう。
そんな事を考えながら、電話越しの先輩の声に集中する。
「珍しいっすね。先輩からかけてくるなんて」
「まぁ、ね。今どうしているのか聞きたくなった」
正直此処に着いても連絡しないと決めていた。あまりこちら側の情報を与えたくないのと、今回の事件が全部終わってから彼らの元へと帰る予定だったからだ。
「今どこにいるの?」
先輩からの質問だ。正直に言うか悩んだ。
だが、下手な嘘をついてもバレるのが目に見えている。
「大山です」
「え?」
「大山にある神社です。光の発信源がここだったんです」
神奈川県民でない先輩が大山なんて場所を知っている訳がない。なので細かい説明を省くためあえて光の発信源と表現した。
「山かぁ。そこで今から何をするの?すぐに戻ってこれる?」
嫌な質問がきた。このまま黙って電話を切ろうとしたが、ふと後ろを見るとその後方の空から人影が見えた。
仲間だった。ジェノサイドの構成員だ。
「はやっ……もう来たのか……」
思わずボソッと呟くと、先輩が何やら「え?何?聞こえない!!」なんて言ってたが耳に入らなかった。
構成員たちはジェノサイドを見つけると、近くへと着地し、彼の下へ駆け寄る。
「遅れてすみませんリーダー!只今到着しました!」
流石に名前までは覚えていないが、周りの他の構成員よりかは元気な人だ。
彼らが貴重な戦力であることをジェノサイドはよく知っていた。
続々と人影が集まってきている。
ジェノサイドという巨大組織が一箇所に集結したのだ。
その光景に少し感動したジェノサイドは、先輩の「もしもーし!!」という一際大きい声により、まだ通話中だということに気づく。
ハッとして意識を電話に戻し、どこか吹っ切れたのか正直に話すことを決めた。
「もしもし、先輩。俺は今からこの騒動を鎮める為に今からその発端を叩きに行きます。そいつが今大山にいて、元々俺達の味方だった奴です。だから俺が出向くのにおかしいことなんて無いでしょう?だからまた終わったら電話します。騒動が終わると空の様子も元に戻るかもしれないので分かりやすいとは思いますが」
「違う!そうじゃない!」
激しい声に少し驚いた。優しい先輩が普段は発しない大声だったからだ。
「これは君たちの戦いなんだよね?それはつまり……」
大声の割りに後半は言い渋っている。拍子抜けだ。
「つまり……殺すの?」
物騒な言葉に、ジェノサイドは一瞬固まった。
だが、視界にやっと名前を知っている者が写ったため、意識が再び戻る。
「先輩。俺達の住む世界とそちらの世界は違うんです。俺が誰かを殺すかもしれないし殺されるかもしれない。でもそんな事が日常茶飯事なのでそもそも疑問として上がる事なんて無いんです。だから俺はその質問に答えるつもりはありません。ただ……」
そこで一旦間を空ける。ハヤテがこちらに近づいてきた。
「ただ俺は世間からテロリストだの何だの言われても気にもしませんしそう思われても仕方ないと思っています。俺だって極力殺しはしたくないし、こちら側の犠牲者も出したくない。その気持ちはあります……。今はまだ何とも言えないけど、必ずそっちに戻ります。なので今回は、絶対に無事に戻ってきます」
話がまだまだ長くなりそうなので一方的に切った。
恐らくであるがジェノサイドの構成員全員が集結した。人影がそれ以上増えることがなかったからだ。
「リーダー。ひとまず全員ここに集めました」
ハヤテが隣から声をかけてきた。
「ありがとう。じゃあ集まって早々悪いけど、上に行こう。そこにバルバロッサがいる」
「待ってください」
ジェノサイドが歩こうとしたときに不意に腕を掴まれた。
「まだ話を聞いていません。今何が起こっているのか話してください」
そう言えばそうだった。
ジェノサイドは結局何も話していなかった。
まだ予想の範囲だが、彼は彼の考えをここで述べることを決める。
「そうだな。これはまだすべて分かった訳じゃないけれど……。恐らく山頂にいるのはバルバロッサだ。奴は基地にいなかっただろ?」
その言葉にハヤテは頷く。
「まず、写し鏡なんだが、あれを取ってくるよう俺に頼んだのがあいつだったんだ」
「バルバロッサ自らがですか?」
事情を知らない、構成員の一人の声だった。何処からか聴こえた。
「そうだ。いきなりすぎて訳が分からないが、実際取ってきた。在処が俺の通っている大学というあまりにも都合が良すぎることに疑問だったが、問題はまだあった。俺を狙う奴等が大学内で襲撃を始めたのがその後すぐだったんだ」
襲撃という言葉に一同が不安を見せるが大して気にはしなかった。今もこうして自分はピンピンしているからだ。
「その時、俺はバルバロッサに確かに自分は襲撃されていると伝えた。だがあいつはその事をお前たちには伝えず、しかも俺が知らない情報をあいつ自らが俺に伝えたんだ」
辺りが少しざわつき始めた。ほとんどの人が知らない出来事だったからだ。
高野は話を続ける。
「おかしくないか?敵の事情をバルバロッサが知っていて尚且つ本来であれば一大事であることをお前たちに教えなかったなんて」
「つまり……それを理由に、バルバロッサは裏切ったと?」
構成員の一人が口を出した。その口調からあまり信じきっていない様子だ。
「まぁ、俺はそう捉えている。あいつは俺を殺す気満々だろうと。この件もバルバロッサ主導だとしたらそれもそれでおかしい。俺はこんなこと命令していないからな」
ジェノサイドは構成員の顔を一人一人眺める。
ほとんどが何をしていいのか分からない、といった困惑の表情だ。
「とにかく、真実を知りたければ共に今から山頂に行け。そこに行けば絶対にすべてが分かる」
「……だからいいか。死ぬな」
ジェノサイドのその言葉を合図に、彼を先頭に一斉に走り出した。
真実。
ただ、その為だけに。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.47 )
- 日時: 2018/12/09 13:35
- 名前: ガオケレナ (ID: Bz8EXaRz)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「トゲキッス!」
先程の一番乗りを達成した元気のいい構成員が登山道へ向かって走りつつ、叫びながらボールを投げる。
トレーナーに負けず劣らずの元気のいいトゲキッスが現れた。
「エアスラッシュ!」
狭い登山道に向かって技を放つ。命中し、黒煙と爆音が鳴り響くと、異変が起こった。
怒号と、何か羽ばたくような鳥特有の音が聴こえたのだ。
「?」
「敵です。奴等はもう既に待ち伏せをしています」
山の麓にまで彼らは範囲を広げていた。これから一時間も山道を歩くとなると気が遠くなりそうだ。
エアスラッシュが合図となったのか、味方の数名が我先にと敵陣へと突っ込んでいく。
「うわぁ、こりゃ派手な戦いになりそうだなぁ」
「何間抜けな事言ってんですかリーダー!ここは一先ず俺達に任せて、リーダーは早く登っていってください!」
「いや、でもお前……奴等の狙いは俺なんだから全員で固まった方がスムーズに登っていけるだろ」
「リーダー。今回のバトルはまともなバトルじゃありません。彼等の目的はポケモンバトルではなく、リーダーの命です。ここに居ては頂上に着くのも遅くなる。少人数で上がっていった方がやりやすいですよ」
「まともなバトル……」
その言葉に、ジェノサイドは言葉が詰まった。今まで散々バトルの勝敗よりも命を優先して戦ってきた事は何度かあった。バトルの勝利条件に「対戦相手の戦意喪失」も暗黙のルール上含まれていることから、そんな戦いをやってきたし、やられてきた。
だが、敵の大将が大将だからか、自覚がなかった。
敵は確かに憎い。裏切り者も殺したいくらい嫌いだ。
常にそんな事を言っていても、実際そのような場面に出くわさないとその通りの行動に出れるとは限らない。
そんな意味で、ジェノサイドは苦悩していた。
つい最近までゆるい相手ばかりだったのも苦悩の原因の一つであっただろう。
そんな時だった。丸腰の自分目掛けて敵のゴルバットが'かぜおこし'を放ってくる。
(ッ!?)
反応に遅れた。自分に命中するかと思うばかりだった。しかし。
背中を強く押される。その衝撃で、バランスが崩れる。
技は、自分の横を通り過ぎ、何とか直撃は免れた。
だが。
ドン!
と音と共に、さっきまで元気に会話をしていた構成員が吹っ飛んだ。
彼は、そのまま真後ろに飛び、石と大木があらわになっている地面へと勢いよく激突する。
「……ッッ!!」
血を吐き、伸びてしまった彼の元へジェノサイドは駆ける。
「おい……しっかりしろ!」
幸いにも、呼吸が荒くなっているだけで、彼に息はあった。
その事に安堵した。
「だから……言ったでしょう……?」
弱々しい声で彼の口が開いた。
「奴等にルールなんて通用しないんですよ……。目的さえ、うまくいけば……」
「待て!もう喋るな!すまない、俺が悪かったから……」
「いや、」
彼は今にも悲しそうな顔を浮かべている自らのリーダーに対し、軽く笑顔を見せる。
何だか、状況を忘れて可笑しく見えてしまう。
「リーダーは何も悪くないですよ……他に集中していた……俺の責任です。いいですか、リーダー……ここに居ても問題は解決しま、せん……。俺たちはいいから、リーダーは、早く上へ……」
彼の姿をまじまじと見たジェノサイドは再認識する。そして、スイッチが再び押される。
「わかった……ごめんな、迷惑かけちまって。……なぁ、お前、名前なんて言ったっけ」
唐突に、ジェノサイドはこんな事を聞いてきた。
状況と噛み合わなさすぎて、質問の意図が一瞬分からなくなってくる。
「リョウっすよ……でも、どうしてこんなタイミングで?もしかして弔いとか……」
「ちげぇよ」
途中で遮られた。声色に変化あるのを近くに居たハヤテは聞き逃さなかった。
「この戦いが終わったあといつも通り基地ではしゃぐ。その際にお前をまつり上げてやる。いいか、金が欲しかったら死ぬんじゃないぞ」
そう言ってジェノサイドは背を向けた。1つのダークボールを手にし、思いきり天へ向かって投げる。
「始めるぞ……ゾロアーク……」
ボールからは何者にも化けていないゾロアークが出てくる。
直後に、敵が集中している前面へ'ナイトバースト'を放つ。
「これ以上、コイツらに指一本触れさせねぇぞ……っ!!」
叫ぶと、ゾロアークと共に走り去っていった。
ポケモンもろとも、トレーナーまで吹き飛ばしながら走っていくのが仲間からは確認できた。
「ったく、今ごろお目覚めか……普段は優しいから足元を巣食われるんだよなぁ……」
リョウはそんな彼の姿を眺めながら、ゆっくりと体を起こす。
「それじゃあ、俺もいつまで経っても……、ぶっ倒れる訳にはいかねーなぁ……?」
そして、少し離れたところで技を放っているトゲキッスを身元に呼ぶと、彼は告げる。
「俺だって、……リーダーには指一本触れさせねぇっ……!!」
彼等の戦いの火蓋が、今切られた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.48 )
- 日時: 2018/12/09 13:40
- 名前: ガオケレナ (ID: Bz8EXaRz)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ジェノサイドは、自らの足で山道を駆けていく。
物陰から敵がポケモンを携えて飛び出してくる。
「くっ、邪魔なんだよ、どけぇ!!」
叫ぶと、命令なしにゾロアークが'ナイトバースト'を放つ。ゾロアーク自身も自分の主と同じ考えだった事が伺える。
後ろを振り向くと、少数だが味方が共について来ている。勢いとはいえ、さすがに一人で行くのは心細かったがそんなことはなく、ひと安心だった。
「リーダー、何かおかしくありません?」
「ん?」
ついて来ているうちの一人、ハヤテが声をかけてきた。
登りを走りながらの会話はかなりしんどい。
「おかしいって何が?」
「急に風が強くなったと思いません?」
「風?」
ここは山だぞ、と言いたくなった。通常の時間であれば今はもう20時近くだし、今いる地点もあってか、普段なら風が強く吹いていてもおかしくない。
「何だか……急に吹いてきましたよね。それに、何か痛くありませんか?」
「痛い?」
走る速度を緩めて確認する。
確かに空を飛んでいるときと変わらないスピードの風が吹いている。例えではあるが痛みを伴いそうな、これまた普通では中々ない風だ。
「確かに……言われてみれば……だな。近くにポケモンがいるのか、それとも……」
言いながら、ジェノサイドは空を見上げる。
「この空みたく、天候を操ってるのかもな」
気がつけば、足を止めているジェノサイド達のもとへ、新たな影が忍び寄っていた。
動物的な本能で誰よりもそれを察知したゾロアークが大きく吠える。
それに肩を震わせて全員が一斉に前を向いた直後、赤と黒の閃光を放つ。
その衝撃は、敵を巻き込む形で山道をも変形させる。
木が折れ、石が吹き飛び、地面を抉る。
一瞬にして、その地は狭い山道から広い荒れ地へと変貌する。
「相変わらず凄いですね、リーダーのゾロアーク」
ジェノサイドの隣に立ち、ボソッとハヤテが呟くと、彼よりも先に駆け出して行った。
辺りに爆音が鳴り響く。
その音が耳をつんざく度に眉間に皺が寄ってくる。
ケンゾウは麓近くの山道でリョウと共に戦っていた。
「あーもうチマチマチマチマ面倒くせぇな!あいつら一体何人いるんだ!」
自身のポケモンのカイリキーを駆使しながら、迫る敵を蹴散らしつつ前に少しずつ進む。
だが、敵も中々減らない以上、迂闊に前には進めなかった。
「仕方ないっすよ!方々に人員割いてるもんですから中々思う通りにはいかないですって!」
リョウのトゲキッスが'だいもんじ'を吹き、その様を眺めて辺りを見渡しながら自分の上司の愚痴に答える。
「それよりどーしたんすか!ケンゾウさん!あなた来るのちょっと遅かったじゃないですか!」
「あぁ!?」
爆音に紛れ、中々声が聞き取れずに威圧的に反応する。だが、彼の声は聞こえていた。
「俺はよぉ、飛行タイプ持ってねーからハヤテの奴から貸してもらったんだよ!そしたら何が来たと思う?ルチャブルだぞルチャブル!そんなのでまともに飛んでここまで来れる訳ねーだろ!!」
「ルチャブル!?」
予想外の言葉に、リョウは吹き出す。
「いや、ルチャブルって……あ、でもケンゾウさん筋トレしてたから余裕だったんじゃ……」
「だーーもう!!あいつと同じ事言うなや!!」
まさか見せかけの筋肉?という嫌な言葉と共に、彼の自慢の大声は爆発音に掻き消されていった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.49 )
- 日時: 2018/12/09 13:56
- 名前: ガオケレナ (ID: Bz8EXaRz)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
相変わらず空に変化は無かった。
「レン君何してんかなー」
窓を開けて空を見つめながら佐野が呟く。
「レンから何か連絡はありましたか?」
振り向くと、自分の後輩、つまり高野と同年代で彼とも仲が良かった香流が珍しく声をかけてきていた。
彼はサークルのメンバーの中では大人しく、自分からは話題をあまり振らない人だ。ただ、共通の話題があれば話を進めてくれる人だが。
佐野は自身の後輩に質問され、さっきのやり取りを言おうとしたが、何と説明すればいいのか分からなかったので、「いや、何も」と言うと窓を閉める。
佐野が高野と仲が良いのと同じく、彼は香流とも仲が良かった。
彼ら三人に共通するのは当然ポケモンだった。
特に香流の実力は突出するものがあり、恐らくこのサークルメンバーで一番強いのではないかと言われているのが彼だ。
ゲームではレートに積極的に参加するなど、ガチなパーティとも渡り合え、先輩にも引けを取らない。
ただ、実体化した状態でのバトルはしたことが無いので、高野と彼のどちらが強いのかは分からないが。
佐野は空を眺めながら高野と初めて出会った日の事を思い出す。
ーーーーー
彼が高野と出会ったのは去年の春だった。
その時佐野は自身のサークルの宣伝のため、他サークルと同様に宣伝期間中に新入生を対象として必死になって新たな部員となる人を探し求めていた。
彼は、おそらく新入生であろう二人組が大学敷地内にてサークルの紹介誌を眺めながら何やら話をしている光景を捉えた。
すぐに彼らに近づき、話を始めたが、その二人が後にサークルに入ることになる高野と岡田だったのだ。
高野はかなり早い段階から岡田と一緒だった。話を聞くと、どうやら同じ授業を受けているらしかった。
思ったほか彼らの反応が良かったので恐らく来るだろう。それを確信してサークルの日時を教えるとその場を去った。
その時佐野が思った彼らの第一印象は共に対照的だった。
岡田は真剣に話を聞いており、サークルにも興味を示していた。特に会話をしてくれたのも彼だった。
高野は常に寂しそうな目とオーラを発しており、「関わらないでくれ」とまるで無言で言っているかのような雰囲気であった。
サークルに興味があったかどうかは不明だったがとりあえず話は聞いている感じようには見える。
岡田はともかく高野も来るかは佐野はやや微妙に思っていたが、実際彼らは来てくれた。
同時期にその教室にいた高畠や香流とも打ち解け、仲良さそうにしていたのでとりあえず不安は消えた。
またある日、佐野は誰とも遊ばず、一人でゲームをしている高野に気が付いた。他の人は先輩を交えてボードゲームをしているが彼は参加しようとはせずただ一人で遊んでいたのだ。
少し気になって彼に近づくと、遊んでいるゲームがポケモンであることに気づく。時期的にポケモンXYが発売される前だ。
「ん?レン君ポケモンやってるんだ」
かなり早い段階で高野はレンと呼ばれていたがそれは彼が自己紹介の時にそう呼ぶよう皆に公言したことに由来する。
その時、つまり最初の日からだろうか。
「こいつ普通じゃねぇ」と皆から思われるようになってしまったのだ。そのせいで少し孤立気味になってしまった彼。
普段は近寄りがたいオーラを発しているけれど、実は皆と仲良くなりたいのではないか。そう察した佐野は香流と同じく共通の話題を使うことにした。
「はい。エメラルドの頃から始めたんです」
「エメラルドか~、懐かしいな。ねぇ、僕と対戦しようよ」
ーーーーー
それからだった。
二人は仲良くなった気がしたのは。あの時の嬉しさで満ち溢れている顔を未だに覚えていた。
だからこそ、彼がジェノサイドだという事実を受け止めることができない。彼が、普通じゃない環境で生きている事も同様に。
「別に、レン君を責めているわけじゃない。どうしてそんなことになってしまったのか、教えてほしいんだ。だから……」
窓に手を当てる。高野が飛んでいった方向へ強い視線を向けた。
「だから、それまで……無事でいてくれよ……絶対に」
彼らは、ただ異様な景色を黙って眺めることしかできない。
それが堪らなく悔しかった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.50 )
- 日時: 2018/12/09 14:22
- 名前: ガオケレナ (ID: Bz8EXaRz)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ーーーーー
「初めまして。高野洋平と言います。名前は至って普通ですが……」
高野は初めてサークルに顔を出した日、教室の教卓の前に立って自己紹介を始めた。
その時既に香流と岡田は自己紹介を済ませていたので自然と自分の番になっていたのだ。
「僕は皆から『レン』って呼ばれています。……何故名前と関係ないこのあだ名で呼ばれているかというと……」
言いながら黒板に白いチョークで四角を四つ書く。
「中学の時のテストの問題で、『EUの正式名称を漢字四文字で答えなさい』という問題があり、それを『EUを設立した人物の名前を書きなさい』と勘違いした僕はこう書いてしまいました」
そして、白い四角の中が「レーーン」という四文字で埋まる。
「これをテスト返却の際に先生から暴露されて僕はこれ以降『レン』と呼ばれるようになりました」
ーーーーー
突然、過去の出来事が蘇った。
うっすらと、だがはっきりと記憶に残った内容だった。
ーーーーー
「ねぇ、ごめん。隣いいかな?」
一人で講義を受けていた高野は突然鞄などの荷物を置いた座席に座りたがっていた男に声を掛けられた。
この日は大学生活が始まって以来最初の一週間。
つまり、高野が初めて受ける講義での出来事だった。
この日は多くの受講生で教室が埋まっている。
理由は単純で、楽に単位が取れる講義を求める生徒達が確認の為に受けていたからだ。
最初の一回目の講義は出席に含まれない。
この決まりも相まって。
「……」
無言で高野は自身の荷物を下げ、床に落とす。
彼は一言「ありがとう」と言うと、隣に座った。
「君、もしかして一年生?学部は?」
「……経済」
よく喋る人だ、と高野は面倒臭そうに聞かれた言葉だけに適当に返事する。
つもりだった。
「えっ、マジ!?奇遇だね!俺も経済なんだ!」
その人は嬉しそうにすると手を握ってきた。握手のつもりだったようだ。
「俺、岡田翔って言うんだ。君は?」
ーーーーー
再び過去の記憶が蘇った。
それは確か高野が岡田と初めて会った日の事だった。
(何で……今更こんな事思い出すんだろうな……)
不思議に思った高野だったが、直後にその理由を知る。
狭い山道の真ん中でジェノサイドは倒れていたからだ。
山道を自分と仲間六人で歩いてかなりの時間が経った。
これまでにどれほどの黒い衝撃波を飛ばし、樹木を、大地を、人を吹き飛ばしたことだろう。
だが、限界だった。
息も絶え絶えで、走っている者など一人もいなかった。ジェノサイドもその内の一人だった。
唯一やや離れた場所で未だに元気に走り回っているゾロアークがいた。
後ろに跳ねた衝撃波で吹き飛ばされたせいで彼は倒れていた。
ここを敵に攻撃されなかった理由は周囲に敵など存在しなかったからだ。
「大丈夫……ですか?リーダー……」
喘ぎながら、時折咳を交えてハヤテが心配そうに声をかけてきた。彼の長はすぐ隣にいる。
「大丈夫だ」
瞳すら動かすことなく彼は返答する。それほどゴールというものを望んでいるんだろう。
ジェノサイドはゆっくりと起き上がる。
「少し疲れたけど、問題はねぇ。早く頂上に行くぞ」
「その心配はありません」
不意に、彼とハヤテの後ろを歩いていた構成員が割り込む。
そして、こちらに振り向いた。
「登山道はここまでです。頂上はすくそこです。着きましたよ……!」
よく見ると、前方の道が光で強まっていたせいでよく見えないでいる。
それはつまり、光の中心点に近い地点にいるということ。即ち、ゴールだ。
「着いた……!?」
その事実に、顔から疲れが消えた。
それは全員が共通だった。
全員が一斉に走り出した直後、突然目の前に一つの影が現れる。
それが人影だと瞬時に判断したジェノサイドは。
「ゾロアーク!!」
自らのポケモンの名を呼び、命令を飛ばす。
いや、実際には命令を下すまでも無かった。
自分と同じ性格、思考をしている獣は名前を呼ばれた事が命令代わりだった。
すぐに、腕を中心に赤黒い衝撃が出現する。
それを前にいる影を目掛けて空間もろとも吹き飛ばす。
しかし。
「おいおい、やめてくれよなぁ」
軽いノリと共に、その特殊技は影に当たると思ったら、こちらに飛び跳ねるかのように戻ってきた。
「!?」
そこにいた全員が命の危機を感じ、各々散らばる形で衝撃から逃げる。
幸い、ジェノサイドを含め全員はその場に留まれた。
後ろへ飛んだ衝撃がガラガラとまるで土砂崩れのような恐ろしい音を立てながら下っていく。
ジェノサイドが避ける瞬間、その服に衝撃が掠めたが、感触がいつもと違う事に意識が気付いた。
(何だ……?普段の、こちらから打ち込んだ'ナイトバースト'とは何かが違う……?まさか威力が!?)
若干の違和感から、その異変に気づく。
そして、技が跳ね返るその効果と言えば。
「てめぇ……'ミラーコート'か」
ど真ん中に立ち、彼らの障害となる影に向かって言い放つ。
対してその影は一度鼻で笑うと、辺りを見回したあと、ジェノサイドを睨んだ。
「困るなぁ。此処は此処で神聖な場所なんだ。何も知らない人間が無闇やたらに壊すなよ」
「そこをどけ。俺はバルバロッサに用がある」
影の声を無視してジリジリと近づく。よく見ると外見が見えてきた。
前髪が尖っており、首元には十字架のアクセサリーが付いている。日本人には珍しい、褐色肌だ。
勝手すぎるイメージだが、そいつがかなりチャラそうな男に見える。
「通さないよ。俺が何故このタイミングでここに来たのか、お前に分かるか?」
その男も後ろに下がり、両腕を真横に広げる。
「父さんはこれから大事な儀式を始めるんだ。例え騙されたお前とて通すわけにはいかない」
「だから、これからその裏切り者をブン殴る為にそこへ行くんだよ!」
走って無理矢理突破しようとしたら、木陰から一匹のポケモンが飛び出す。
'ミラーコート'の犯人であったグレイシアだった。
突飛すぎるタイミングでついジェノサイドはポケモンの前で足を止める。
グレイシアがこちらに向かって口を開き、冷気を発しようとする。
それを察知したゾロアークがジェノサイドの真横から'かえんほうしゃ'を放つ。
お互いの技が炸裂した。
白煙が舞い、その隙にジェノサイドは元の立ち位置へと戻る。
「チッ、最後の最後で足止めかよ」
舌打ちをしながら睨むと、彼の後ろから声と、背を押す感触がした。
「えっ」
振り向こうとした瞬間、ジェノサイドは瞬間移動をする。
グレイシアを携えた男の後ろ。つまり、頂上一歩手前まで。
「リーダー、先に行ってください。こいつは僕達が相手します」
「待て、ハヤテ!お前たち全員でここに留まる気か!」
ハヤテ達のいる方向に向くと、ハヤテがフーディンを出していた。'テレポート'の仕掛けが分かった。
「えぇ。リーダーをこんなところでこんな奴の為に時間を割くなんて勿体無さすぎます。ここは僕達に任せて先に……!」
褐色の男がこちらに振り向いた。グレイシアもこちらに振り向き、今にも攻撃しようとしている。
ハヤテから見て敵が背を向けている。まさに隙だらけだ。
構成員の一人が手持ちのボールからグラエナが飛び出す。
ハヤテのフーディンと共にグレイシアと、そのトレーナーに飛び付く。
「なっ、てめぇら……!?」
「そういうことだよ」
ハヤテが男を睨み返した。
「リーダーを逃がして僕達だけでここに居座る。それはこの大人数で確実に君を突破するためだよ」
5対1なんて卑怯の極みだが、彼らに常識は通用しない。ましてや、組織間の争いなんてこんなものだ。
褐色の男の味方はこれまでジェノサイドが物理的に撃破したため、一人で迎えるのも仕方ないと言えば仕方なかったがあまりにもそれは無謀だったのだ。
「くそっ、てめぇ、ジェノサイド!!」
褐色の男が振り向くと、止めるべき男の影が無かった。
そこにいるのは、その男に忠誠を誓い、彼に従う仲間のみだった。
彼らに突破されるのも、最早時間の問題だった。
ーーーーー
「見つけた……」
広い荒野と化した頂上で、一人の男をその目が捉える。
金の空が余計眩しく見えた。
遠く離れた所に社があった。あれが本殿なのだろうか。その真上と、バルバロッサの真上に広がる形で光が集合していた。
大学の窓から見えた「光の中心点」がそれだった。
「今まで散々やってくれたよなぁ。その借りを返しに来たぜ」
言うと。
どこかの民族衣装らしき派手な服装に身を包み、長く白い髭を生やした老人は笑った目を見せながらこちらへと振り向く。
彼のちょうど後ろに、写し鏡が置かれていた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.51 )
- 日時: 2018/12/09 18:52
- 名前: ガオケレナ (ID: Bz8EXaRz)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「予想よりも早かったな。お前さんがここまで来る事が」
その眼差しは優しかった。
敵意が一切見られないその姿勢が逆に怪しく感じる程だ。
ジェノサイドはそれらすべてを無視して本題へ入る。
「これは何だ」
バルバロッサが軽く笑った。
「全く……少しくらい立ち話をしてもいいじゃないか」
「答えろ。これは何だ」
最早何を言っても通用しないことを悟ると、バルバロッサは写し鏡を拾い上げてそれを見せつける。
「見ての通り、儀式さ。神の降臨のね」
言っている事の意味が分からなかった。会話に乗らなかったせいか、ふざけた言動なのかもしれない。
「はぁ?お前長い間高い所に居すぎたせいで感覚どころか思考も麻痺してんのか?そういうふざけたノリいいから真剣に答えろ。これは……」
「だから真剣に答えているじゃないか。神の降臨と」
ジェノサイドの思考が止まった。
どれだけ挑発しても降臨とか神とか訳の分からない言葉を並べるだけだ。
もしかしたら服装も相まってそっち系の人なのかもしれない。
だが。
「この空を見て、何かおかしいと思っただろう?これは私がポケモンの力を使って無理矢理いじくったものだ。何を意味するかお前には分かるか?……分からないだろう。これは私が私の心の中で勝手に描いている“天国のイメージ”だからな」
やっぱり言っている事の意味が分からない。新興宗教の教祖サマに憧れているクチだと思ったがその言葉に違和感を覚える。
ポケモンの力で無理矢理?
何故?
そして、この世の常識を破るほどの力を持つポケモンなどいるのだろうか?
「風が痛いと思わないか?これは、私が外敵を排除するために発動したものだよ。この空と同じく無理矢理いじくっている」
その言葉にハッとした。そう言えば、歩いている途中にハヤテがその事に気づいていたはずだ。
「そして」
バルバロッサが口を開いた直後だった。
砂利だらけの荒れた大地が、一瞬にして色とりどりの花で覆い尽くされた。
「!?」
「これも、私が思い浮かんでいる天国のイメージだ。空と風と同じくポケモンの力を借りているよ」
本物の花だった。
足で軽く踏むと太い茎の感触が伝わる。
物によっては香りも発していた。
「何なんだよ……これ」
目の前の物が信じられなかった。
まるで日頃誰かに見せていた幻影に自らが惑わされているような感覚に逆に陥ってしまう。
「何度言わせるんだね。これが神の力だよ」
「違う!そんなんじゃねぇ!!こんなふざけた力を使えるポケモンが居る訳ねぇだろ!」
ジェノサイドは叫んだ。焦りと混乱でまともな思考ができない今、叫べばどうにかなるんじゃないかと甘すぎる考えに至っている。
だが。
バルバロッサの言葉がそんな幻想を破壊していく。
「いや、いるさ。ちゃんとね」
持っている写し鏡を掲げた。光の影と重なって神秘的なオーラを発しているかのように見えた。
「何ならゲームを起動して全国図鑑を見ればいい。そこまでせずとも、ゲームでこの道具はどのように使うのか思い出してみるといい」
そんな事を言われ、ある事に気づく。
そう言えば。
今バルバロッサが持っている写し鏡と、ゲーム上の同名のアイテムの外見が全く同じだということに。
と、言うことはその効果はただ1つ。
「まさか……伝説のポケモンの……!?」
「やっと話に追い付いてきたな。そう。その通りさ。こいつは伝説のポケモンのトルネロス、ボルトロス、ランドロスの三体のポケモンの姿を変えるための道具だ。そして、そのポケモンを利用してこの空間を作り上げた」
益々言っていることが信じられない。
これが本当ならばポケモンに持たせるアイテム以外の道具が、この世界でも使えることになってしまう。
果たしてこの世界は今どうなっているのか。それすらも分からなくなってきてしまう。
それでも。
「お前は……」
痛い風を全身に浴びていながらも、臆することなく老人を睨む。
「ここまでして何をしたい」
「私か?何度も言うように神の降臨の……」
「違う。それじゃない。そこから先だ」
バルバロッサは低く笑った。
この状況を理解してきている事につい笑みが溢れてしまったのだ。
「お前は、神と言う存在を信じるか?」
「お前なんかと一緒にするな」
質問に答えずに舌打ちする彼に対し、またもや笑みが出る。彼といると常に笑えて面白い。
「そうだよな。お前さんは昔からそうだったもんなぁ。それが悪い事ではないがね」
ジェノサイドは無視した。これ以上話してもどんどん話題が逸れて質問そのものが無かったことにされてしまう。
黙っていると、向こうから切り出して来た。
「私はね、この世界が嫌いなんだ。どんなに心優しい人間として生きていても、愚かな人間に利用されるだけだ。むしろそんな人間が多すぎるせいでまともな行動をしていても間違っている事にされてしまう。遂には立場すら危うくなる。こんな世界が私は嫌いなんだ」
自身の昔話でもしているのだろうか。
中々ピンと来ないジェノサイドは真剣に聴くことはせずにただ聞こえてくる音だけを聞いている感覚に近かった。
「生きるために必要な立場を無くし、助けてくれると思っていた人に裏切られ、金も失った。生きる術も無くしいつ死んでもおかしくない地獄のような日々を過ごしていた時。その時、私はすべて救われたんだ」
持っていた写し鏡を元々置いてあった石の台座に置く。
また、彼の説明に戻る。
「あの素晴らしい世界、神秘的で神の元ならすべてが許される自由。私がこれまで生きた世界とは全く違う、光に溢れていた素晴らしい世界。私はそんな所で生きていたかった。もっと、素晴らしい世界で生きていたかった。だが、それは叶わない。何故か分かるか?神の存在を今の人々が、科学が証明出来ていないからだ。神は存在する。神が織り成す世界も存在する。それを私が証明する。今回、神の世界、私はこれを"神世界"と呼んでいるが、この神世界を作るため、この世界から上書きして作り変える事を決めた。そのために私は三体の伝説のポケモンを操り、その為の写し鏡を用意させ、その為に私はジェノサイド。お前の下に居座っていた」
要するに、彼がジェノサイドと過ごした四年間とは。
「長かった……本当に長かった。ここまで来るのに何年の月日が流れた事だろうか。ポケモンが実体化し、データと連動する世界になっただけでもう四年も過ぎた。つまり、お前たちジェノサイドの結成からもう四年も経っていたと言うことだ。時間というものは本当に短く早い。いや、人類が短くしているのだろうが……」
バルバロッサは一呼吸置いた。
時折見せる笑顔に一体何の意味があるのだろうか。
真実を聞いても尚ジェノサイドはすべてを汲み取れずにいる。
「そして今日。私はこの世界を終わらせ、ポケモンと神だけが存在する理想郷を作り上げるのだ!この夢のために絶対に邪魔などさせんぞ!」
その言葉を合図に、写し鏡が勝手に、何の力を加えていないにも関わらず、動き出した。
浮遊したその鏡は光の集合点の上に留まる。
そして、光を浴びた鏡の中から伝説のポケモン、ランドロスがその姿を現した。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.52 )
- 日時: 2018/12/10 16:21
- 名前: ガオケレナ (ID: 40Xm5sOX)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ジェノサイドには許せない事が一つあった。
それは、バルバロッサが味方のフリして四年もの間共に行動していた事でも、自身の野望の為本気で神を信じ、世界を破壊しようとする事でもない。
ただ、裏切られた。その事実だけが何より許せなかった。
「俺はテメェの事情も夢も世界観にも何も興味はねぇけどよぉ……」
少しずつ、彼に近づく。
「テメェは、俺を裏切ったのか?お前のその下らなくブッ飛んだ野望の為、俺を利用したのか」
「逆におかしいと思わなかったのか」
ジェノサイドの怒りをよそに、バルバロッサは不敵な笑みを浮かべる。
「あ?何がだ」
「都合さ。何もかも都合が良すぎると思わなかったのか。例えばだな」
バルバロッサが空を眺める。真上に霊獣の姿となったランドロスがいる。
「例えば、何故写し鏡を持つ人間がお前の通う大学にいたんだ、とか」
まさか、とジェノサイドは思った。
確かに今まで都合が良すぎた事柄が多くあったと思う。写し鏡が何故か大学の職員が持っており、すんなり渡されたり、そこからその大学が自分を狙った戦場になったりなど。
そして、ジェノサイドが此処に来れた一番の理由が写し鏡の所有者だった者の発言がきっかけだったり。
「すべて私が考えた事だ。大学に相応の身分を持つ知り合いを置かせ、その男に写し鏡を持たせた。その人から別の教員にその鏡を持たせ、お前が来たらすぐに渡せと言わせ、私の頼み通りお前はジェノサイドとしてあの大学に侵入し、見事に奪ってきてくれた。すべてが思い通りで気持ち悪いくらいだよ」
すべて、そしてやっと確信に至った。
今までの出来事すべてが繋がっていた。その事に今更気づけた事が恥ずかしいくらいだ。
恐らく、ジェノサイドに鏡を奪わせたのには理由があるのだろう。
それは、テロリストとして悪名高いジェノサイドに鏡を奪わせることでわざわざ自分から出向く手間が省けたこと。
そして、もう一つは。
「標的のすり替え……と言ったところかな。本来であれば写し鏡を私が持っている訳だから一番狙われるのは私のはずなんだ。……だが、そうはいかなかった。何故だか分かるか?情報を意図的に錯綜させてお前さんが狙われるよう仕組んだのさ。'写し鏡は未だ神東大学にある'、'写し鏡はジェノサイドが持っている'……などとな。それが議会の情報を元に作り出した包囲網の正体さ」
怒りに満ちてくる。行き過ぎな感情のせいで自分で自分を抑えられない。
裏切られた、利用されたということが一番、何より許せなかった。
「バァルバロッサァァァーー!!!!」
叫び、ボールを一つ握りながら彼の元へ駆けてゆく。
本気の殺意を覚えたのは、ジェノサイドとしては久々だった。
「ぶっ潰せ、ファイアロー!!」
走りながら、ジェノサイドはボールを投げる。
中からは、ファイアローが出てきた。
「ブッ殺す……俺を裏切ったことを……利用したことも……その目的がそんな下らない理由で……その為だけに世界を、すべてを奪おうとするテメェを、俺は絶対許すことなんてできねぇ」
戦いが、始まろうとしていた。
世界と、写し鏡を巡った、最後の戦いが。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.53 )
- 日時: 2018/12/10 16:27
- 名前: ガオケレナ (ID: 40Xm5sOX)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ジェノサイドは、自分が誰かに利用されるのを嫌う。それは、高野洋平の名前で活動していても変わらなかった。
たとえその時に気づいていなくとも、「とにかく利用される」のが嫌なので、常に周りを疑いながら行動をする。
ジェノサイドは、他人を信用することができない人間だ。
だからこそ、いざ自分を利用する人間が現れたら徹底的に嫌い、叩き潰す。彼が敵という存在を極端に嫌うのはこれが原因だった。
だから、今。
目の前にいる老人が嫌いで嫌いでしょうがない。
「伝説のポケモンなんざ知ったこっちゃねぇぇんだよぉぉぉ!!!!」
ファイアローが'ブレイブバード'を放ちながらランドロスに接近する。特性'はやてのつばさ'により、相手の攻撃を許すことなく安全にこの技を決めることができる。
だが。
「神に戦いを挑むと言うのか……。無駄だ、ジェノサイド」
ランドロスが光の塊……輪とでも言うのだろうか。とにかく、その輪の中に入ると一瞬で姿を変えて再び姿を現した。
いや、正確にはポケモンを変えて、だ。
「!?」
光の輪の正体は空中にいきなり漂いだした写し鏡だった。
ランドロスが鏡に吸い込まれたと思ったら、次の瞬間にはボルトロスに変化している。
'ブレイブバード'はボルトロスに直撃した。だが、大したダメージは与えられていないようだ。煙が少し舞うだけで、表情の変化すらない。
技を決めようとしたその瞬間、ポケモンが入れ替わる。
その意味がジェノサイドには分からなかった。
(なんだ、今のは。交換でいいのか……?それにしては、タイミングがおかしすぎる。まるで、こちらの技が分かった瞬間に入れ替わるなんて……)
そんな風に思慮を巡らす最中に、
「入れ替えの類いとでも思っただろう?実はちょっと違う」
向こう側で、バルバロッサが冷笑していた。
「仮にも、お前さんは今神と戦おうとしているんだ。完全なる存在を前に、死角があるはずがないだろう?……本当に愚かな事だ」
「じゃあなんだよ。こちらの動き次第でお前とそのポケモンは都合良く動けるってか?」
「まぁ、そんな感じだ」
はっきりと答えなかったため、ジェノサイドはあえてそれからは何も言わず、ただ睨むだけだった。
だが、それが本当なら非常に厄介だ。常に相手が有利な局面を作っていることになるのだから。
あれは、交代とは少し違う性質のものだった。
仮にこちらが神なるポケモンより速かったとしても、恐らく解析され、あらゆるデータを揃えた写し鏡が事前に自分のポケモンの行動パターンを予測、回避してしまう。のだろう。
なので、通常の交代よりも速いスピードでポケモンを入れ替えることができ、非常に安全だ。
以上の事を踏まえると、今ジェノサイドの前に立ちはだかる神と呼ばれしポケモンは、非常に極端な表現の仕方だが、絶対に勝てる動きができる、ということなのだ。
果たして、ジェノサイドが今これを理解できても、勝つことはできるのだろうか。
それは誰にも分からないことだった。
神を除いて。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.54 )
- 日時: 2018/12/10 16:35
- 名前: ガオケレナ (ID: 40Xm5sOX)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「'10まんボルト'」
静かな声で、冷静に狙いを定めたボルトロスにバルバロッサは指示を出す。
ファイアローは'ブレイブバード'を撃った反動で隙を見せていた。狙うとしたら今だろう。
ランドロスと同じく霊獣と化したボルトロスの、'10まんボルト'が反応に遅れたファイアローに直撃する。
辺りに閃光と電撃が走った。
「くそっ、逃げ遅れたか……ファイアロー!」
ジェノサイドは叫ぶが、意味も無く喉を潰すだけだった。
ファイアローは、真っ逆さまに地上へと堕ちる。
一撃だった。
一撃で、ジェノサイドは貴重な手持ち1体を失った。
苛立ちが募る。戦闘不能となったファイアローをボールへと戻したが、その顔は憤りに満ちていた。
「そんな顔で自分のポケモンを見るのか。お前さんには労いというものを知らないのかね」
バルバロッサの声が、怒りに変換されてしまう声が余計に頭に響く。それが嫌でたまらない。
「俺がムカついてんのはファイアローに対してじゃねぇよ……」
次のポケモンのボールをゆっくりポケットから取り出し、強く握り締める。
「俺は、俺とお前にムカついてんだよ!!」
真上に、投げた。
ストレスをぶち撒けたかったのか、いつもよりもボールが遠くへ飛ぶ。
ボールからポケモンが出る前に、ジェノサイドは叫んだ。
「次はお前だ、ゲッコウガ!!」
金の空に照らされ、細身のシルエットが浮かぶ。
「なるほど、ゲッコウガか」
バルバロッサは目を大きく開いてその姿を目に焼き付ける。
そして、一度フッと笑う。
「面白い」
ゲッコウガは着地する前に、主の命令を聞き、その通りに動く。
「'ハイドロポンプ'!」
口から大量の、砲弾と化した水が一直線に放射される。
ボルトロスに直撃するその時だった。
「'10まんボルト'」
電撃と水が交差する。
水は電撃により散った。
ゲッコウガとジェノサイドは予め読んでいたのか、水が散った瞬間に避ける。
「'れいとうビーム'!」
今度は氷の光線が放たれる。
だが、これもまた'10まんボルト'により相殺されてしまう。
爆発が起き、視界が奪われる。
それは、神とて例外でなかった。
(奴は……ジェノサイドは何を考えている?真正面から打っても無駄打ちに終わるだけだ……)
白い煙に覆われた空間を眺めながら、バルバロッサは考える。
だが、すぐに嫌な予感が全身を駆け巡った。
そう言えば。
今まで四年間。彼はどんな戦法で敵を葬ってきたか?
「奴は、'イリュージョン'を駆使し……今見ているこの世界のどれが本物か幻影か分からなくする……すべてを化かすのが奴の戦い方だったはず……と、言うことは!」
煙が晴れかかる時にうっすらと見えたのは、ボルトロスの眼前に迫っているゲッコウガだった。
「やはりお前は……!?」
ジェノサイドの作戦。それは、とりあえずどんな方法でもいい。
ボルトロスに近付くことさえ出来れば良かったのだ。
「ゲッコウガ、'くさむすび'!」
勝ち誇りの笑みを見せつつ、ゲッコウガに命令する。
すると瞬時に、ボルトロスの真下の大地から、太いツルが出現した。
そのツルはボルトロスを包み、飛行中のバランスを崩す。
ボルトロスは、勢いよく体を大地に叩きつけられた。
一瞬でも動けなくなった今がチャンス。
「行け!ゲッコウガ!」
「とにかく奴より先に放つんだボルトロス!'めざめるパワー'だ!」
動けないものの、遠距離を狙う特殊攻撃を放つなら大した事ではない。
それに対し、再び距離を離してゲッコウガは'れいとうビーム'を撃つ。
お互いの技が放たれた。
交差はするが互いの技が直撃、相殺することは無かった。
それぞれ'れいとうビーム'は直線を、'めざめるパワー'は放物線を描いてそれぞれ迫る。
爆音を響かせ、両者の技が、お互いに命中する。
勝敗の結果は、砂煙により掻き消されてしまった。
'めざめるパワー'が先か、'れいとうビーム'が先か。
ジェノサイドもバルバロッサも、固唾を飲んで見守る。
神を操りし者とそれに叛する者。
それぞれの置かれた状況を忘れて。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.55 )
- 日時: 2018/12/13 14:57
- 名前: ガオケレナ (ID: idqv/Y0h)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
煙がうっすらと晴れてきた。
それと同時に、金色の空にも異変が起きた。
眩しいくらいはっきりとした純粋な色彩が濁りだした。まるで黒の混ざった汚れた色をしている。
そうなった理由がはっきりと、目の前で起きていた。
ボルトロスが、倒れていた。
バルバロッサの天国を作り上げた三体の神の内の一体が倒れたことによるバランスの崩壊だった。
「馬鹿な……」
バルバロッサには、本来であれば有り得ない光景が広がっている。
「馬鹿なあぁぁぁぁ!!!!」
そして、思いっきり叫ぶ。
「くっ、!何故だ、何故お前のような……、只の人間が神を倒せるのだ!何故だ!」
氷タイプの'めざめるパワー'を受けても、自身が氷タイプとなったゲッコウガはピンピンしている。
ジェノサイドはそんな自分のポケモンを眺めながら声のこもっていない声を放つ。
「単に操る人間の問題だろ。一局一局を見るんじゃなくて、その先を、裏の手を、裏の裏も判断する。そうすることで見えなかった突破口も見えるってもんだ。少なくとも俺は今までそうやって生きてきた」
つまりそれは。
'くさむすび'によってボルトロスの'めざめるパワー'を誘い出し、それを読んだ上で'れいとうビーム'を放ち、相手に致命傷を与えつつ自分に対するダメージを最小限に抑える。そんな風に罠を張りつつその罠を破られる事を予測した上で決定力を放つ。
それを見抜けなかったお前の負けだ、とジェノサイドは言いたかったに違いない。
尤も、冷静さを失った今の老人にそんな言葉が通じるとは思っていなかったが。
「許さん……私の領域を侵し、神をも傷つけたお前を……私は許すことができん!!」
叫ぶと、光の輪を浴びている写し鏡からボルトロスが吸い込まれ、代わりにランドロスが出てきた。
ボルトロスと同じく、霊獣の姿だ。
相性だけ見ると、怖くない相手だ。
だが、今バルバロッサのポケモンは一瞬で別のポケモンに入れ換わることができる所謂'神の加護'を受けている。
ランドロスの'いかく'を無限ループのように使い回す事もできるし、ランドロスの弱点技を与えても瞬時に入れ換えられてダメージを抑えられてしまう。
(どう出るか……)
ジェノサイドが考えている内にバルバロッサが動く。
「'いわなだれ'」
言うと、ランドロスの頭上に無数の巨大な岩石が出現する。
それらが、物理法則を無視した速すぎる速度でゲッコウガに向かう。まさに、岩の雪崩であった。
氷タイプとなったゲッコウガにこの技は致命的である。
「避けろ、ゲッコウガ!」
迫り来る岩の群れから身を翻し、それでも避けきれない岩には'ハイドロポンプ'を放つ。
辛くも、ゲッコウガは'いわなだれ'から無事に逃げ切れた。
だが、そのランドロスは徐々に近づいている。
ランドロスの放つオーラに、ゲッコウガとジェノサイドは更に危機を感じることとなる。
(こいつ、さっきのようなやり方じゃ倒せなさそうな、そんな気がする……一体どうすれば……?)
ボルトロスは倒せた。
だが、言い換えてしまえば、相手のポケモン一匹を倒すのに何度も何度も読み合いを行い、下積みを重ねていき、最後に実体を見せた瞬間という一番隙の出来るチャンスを狙う。
気が遠くなるような作業を何度も行わないと倒せないということなのだ。
それを感じ、徐々にだが精神的に疲弊していくのが感じられる。
(疲れる……アイツを倒すのにこんなに疲れるとはな……)
ランドロスが出現しているせいか、大地からは花がより一層咲き乱れた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.56 )
- 日時: 2018/12/10 16:56
- 名前: ガオケレナ (ID: 40Xm5sOX)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ゲッコウガとランドロスが対峙している。
倒すのが面倒だからと、そのままでいる訳にはいかない。
ジェノサイドは、一旦は考えるのをやめた。
「'ハイドロポンプ'!」
口から大量の水が吹き出る。
ランドロスは耐久も危惧する程でもないため、とりあえず弱点の技を当てるだけでよかった。
だが、バルバロッサもランドロスもそう簡単にいける相手ではない。
「'いわなだれ'」
攻撃技に使った雪崩が、今度はランドロスの前に、盾として出現する。
一個の岩ならば簡単に砕ける。だが、その岩が一個から二個、二個から三個……徐々に岩の盾の出現するスピードが増していく。
そして、気づけばランドロスを守る盾……と言うよりかは、あらゆる攻撃を跳ね返す強固な壁がそこにあった。
ゲッコウガは岩の壁の前で立ち止まる。軽く背丈の三倍はあった。
ジェノサイドもその光景を見て失敗を悟る。
たかが岩一つならば破壊するのは容易であった。
だが、徐々に岩の出現スピードが上がっていった。'ハイドロポンプ'の速度に追い付かんとランドロスの発するエネルギーが徐々に放出された結果だったのだ。
ゲッコウガやジェノサイド、バルバロッサよりも高く位置する壁が目の前にあるため、その向こうで何が起きているのかは知らない。ランドロスがどうなっているかなどの情報が入ってこないのはかなり不安である。
だが。
「ゲッコウガ、ジャンプだ。壁を飛び越えろ!」
身軽なゲッコウガならば飛び越えるのも容易い。宙に浮かぶ写し鏡と光の輪に届く程飛び上がると、壁の先が見えた。
ランドロスが居ない。
ゲッコウガはその状況を「おかしい」と判断できたが、当のトレーナーはそのことを知らない。
どうすべきか悩みながら少しずつ地面へと近づいていったとき。
突然、地面の一部が不自然に盛り上がった。丁度、ゲッコウガの真下で。
「!?」
ジェノサイドが訳の分からないといった表情をしていたとき、バルバロッサは笑っていた。今度はこちらの計画通りだった、とでも言いたげな冷笑を浮かべて。
大地が轟音を上げて裂けた。
その中からは炎のようなオーラを纏い、鋭い爪を携えたランドロスが出てくる。
狙いは真上且つ無防備なゲッコウガ。
「なっ、嘘だろ!?」
「神の怒りを受けろ、ジェノサイド。'げきりん'!」
怒りと炎に巻かれた竜の爪がゲッコウガを捕らえる。
爆音と共にゲッコウガが地面へと落下した。
反射的にジェノサイドはゲッコウガのもとへ駆け寄った。よく見ると、倒れていた。
認めたくはないが、戦闘不能だった。
「くっそ……」
悔しさと怒りが彼のすべてを包む。
技で嵌めて勝ったジェノサイドが今度は似た手でやられた。
ゲッコウガをボールに戻すと、巨大な岩の壁を睨み付ける。
壁の向こうからバルバロッサの声が聴こえた。
「その壁はただのフェイクだ。お前さんの事だ。空中へと飛んだゲッコウガに対抗してランドロスも飛んで空中で戦うとでも思っただろう?その考え自体が間違いだ。ランドロスの外見のせいで、地面タイプだということを忘れたか」
憎らしい声が響く。
とにかくジェノサイドにとっては壁による見えない状況が嫌で仕方ないのに、勝利に浸っている奴の声も同様に嫌いだ。
今にでもあの壁をブチ壊したい。
(だが、そんなポケモンがいるような、そんな都合のいい事が……)
と、思いながらポケットを探る手が不意に止まった。
(いや、いるかもしれない。あの壁だけでなく、この状況を引っくり返す事の出来るほどのポケモンが……)
ジェノサイドは一つの希望を見つけるものの、それには限りなく不安であった。
何故なら。
そのポケモンがゲーム上で持っている道具が、他のポケモンとは違って反映されないからだ。
ゲッコウガが持っていた命の珠やファイアローの拘り鉢巻き、それから常にゾロアークに持たせていた気合いの襷とは違い、普通の持ち物とは少し違う道具。
それが使えないと、本領を発揮できないポケモン。
この状況で、このバトルで、そのポケモンを使うことは大きな賭けであるのと同じであった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.57 )
- 日時: 2018/12/10 17:29
- 名前: ガオケレナ (ID: 40Xm5sOX)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ジェノサイドは、例のポケモンのボールをポケット内で握ったまま、状況をおさらいする。
バルバロッサの使用ポケモンは特殊な力を得た伝説のポケモン三匹。
トルネロスとボルトロス、そしてランドロス。
その内のボルトロスを撃破。
対してジェノサイドは六匹で構成された手持ちポケモン。
今判明している手持ちはファイアローとゲッコウガ。この二体が倒された。
これから使う予定でいるのは例のポケモンと……
そこで一つ、ジェノサイドは今ある異変に気づく。
(バルバロッサは今、ランドロスを出している……だけど、さっきランドロスはどんな技でゲッコウガを倒した?)
岩の壁を囮にして、ランドロスはゲッコウガを倒した。
その時の技は、'げきりん'だったはずだ。
と、言うことは。
(次のターンも'げきりん'で固定されるはず!交代も許されないから絶対にこの状況は変わらない!ならば、確実にこいつで'カウンター'を狙える!!)
ジェノサイドが'カウンター'を狙うとするならば、あのポケモンしかいない。彼の相棒とも言えるあのポケモンだ。
'モンスターボール'を掲げながらジェノサイドは呟く。
「いっけぇ……コジョンド!」
真上にボールを投げると、中からはスマートすぎる体つきをしているコジョンドが出てきた。
カウンターが確実に決められるという確信を持っての選出である。
(さぁ来いバルバロッサ!そいつへの'カウンター'ならば、確実にランドロスを葬れる!)
勝利を確信したジェノサイドだった。
突如、岩の壁が向こう側から独りでに崩れだした。
見ると、'げきりん'を繰り出しながらランドロスが壁を破壊しながらこちらに向かってきている。
壁が破壊されたことにより、バルバロッサやランドロスの姿、反対側のフィールドまではっきり見えるようになる。
尤も、ランドロスはこちらに向かっているが。
「予想通りだぜ、バルバロッサァァ!」
思わずジェノサイドが叫んだ。
それを合図に、コジョンドにしては不自然な体勢で迎え撃とうとしている。
しかし。
こちらに来ると思っていたランドロスが突然光の輪へと吸い込まれていく。
強引に、ほぼ無理矢理に何らかの力がランドロスを引っ張っているように。
怒りの咆哮を上げながらランドロスが光の中へと消えていく。
と、同時にもう一体の神であるトルネロスが現れた。
「!?」
このトルネロスも霊獣の姿だった。
羽を大きく広げながら威圧する。
ジェノサイドはその威圧に負けじと声を荒げた。
「ちょっと待てよ!'げきりん'を使った場合交代も技の選択も封じられるだろ!何でトルネロス出せてるんだよ!」
納得がいかなかった。勝てるチャンスを失ったのもあるが、技の効果を無視している事に一番納得がいかなかったのだ。
「神を操る存在はこの世に存在しない。だがな、今こうして神の加護を受けたポケモンをお前さんの前で使っているのは誰だ?」
しかし、バルバロッサは動じることなく相変わらず意味不明な言葉を並べるだけだった。
「神と呼ばれしポケモンを、今こうして操っているのはどこの誰だ?紛れもなく私だ。神を操れし者は神の怒りすらをも鎮める。言っただろう?神に死角など無いと。これはただの交代とは違うと」
結局意味がわからず、歯噛みするだけだ。
たとえ'げきりん'を放ったとしても交代が出来るんだろう。
ポケモンのゲームにある「入れ換え」と「勝ち抜き」が混同したものだと捉えればいい。
ここで種明かしをするならば、このコジョンドの正体はゾロアークである。
コジョンドに化けたゾロアークが'カウンター'を決める事でランドロスを倒す予定だった。
だが、その作戦は失敗に終わる。むしろ追い詰められたといってもいい。
ランドロスがトルネロスに入れ換えられた事で'カウンター'は使えない。
むしろ、特殊技主体のトルネロスに'カウンター'がそもそも通用することなく、ダメージを与えられてしまう。
ゾロアークのような耐久が絶望的なポケモンに特殊技が一度でも当てられてしまうと襷も消費してしまう。
つまり、一度でも特殊技に触れてしまうと二度と'カウンター'が使えなくなるのだ。
本来ならばここで交代するのが普通である。
端から見ても相性の悪いコジョンドを交代するだけなので不自然な点も見当たらない。
ジェノサイドがモンスターボールを取り出してコジョンドに向けようとした時だった。
それを逃さんとトルネロスの周囲から暴風が吹き荒れた。
「逃がさんぞ、お前さんのコジョンドを!!トルネロス!'ぼうふう'だ!」
交代のタイミングを奪われた。
絶大な風が周囲に吹き散らされる。
トルネロスが羽を羽ばたかせると、暴風が襲ってきた。
「ぐっ……あっ、……!!」
その暴風はジェノサイドにも降りかかる。
立っていられるのが難しい。こちらも風の籠に巻き込まれそうだった。
体勢を出来るだけ低くして抵抗を押さえる。辺りの砂利がまとめて吹き飛ばされる。彼がいつも被っているハットも飛ばされてしまった。
「くっそ……どんだけ強いんだよこの風!俺まで飛ばす気か!」
本来だったら店の看板や木の枝が折れて飛ばされる程の強さだろう。年に一度は訪れる台風を彷彿とさせた。
いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。うかうかしていたら自分まで飛ばされてしまう。
下手したら樹木一本根本から飛ばされているかもしれない。
あまりの衝撃に目を瞑っていたジェノサイドだったが、思いきって目を開く。
眼前には、竜巻と化した暴風に飛ばされているコジョンドの姿があった。よく見るとまるでインクが溶けているかのようにみるみる内にコジョンドからゾロアークへと姿が戻っていく。
(くそ……作戦が失敗したとか言うレベルじゃねぇ……勝てるかどうかも怪しくなってきやがった……)
不意に風が一斉に止む。
遥か上空からゾロアークが落ちてきた。
襷で体力は残っているからか、立ち上がることはできた。
だが、もう'カウンター'は使えない。
悔しさを抑え、ゾロアークをボールへと戻した。
「残念だったな、ジェノサイド。お前さんのその手はもう見飽きたさ。お前と行動してもう4年だぞ?何度'それ'を見たと思っているんだ。私くらいになれば'どのポケモンが化けているか'など察することなんて容易いことなのだよ」
バルバロッサの強気な声が彼を追い詰める。
今度こそ、ジェノサイドは可能性を失った。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.58 )
- 日時: 2018/12/10 17:42
- 名前: ガオケレナ (ID: 40Xm5sOX)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「まだかなぁ……」
佐野は相変わらず窓の景色を眺めていた。
高野がここから飛び出してから二時間が経過した。
相変わらず、変化はない。
「先輩、そろそろ帰る時間ですけど、どうします?」
香流の声だった。
見ると、全員が遊んでいたボードゲームを片付けていて、いつでも帰れる準備をしている。
18時から始まるサークル活動は本来であれば20時に終わる。本来であれば。
「うん……本当だったらもう帰らなきゃだけど、ね。レン君ここから出るなって言ってたじゃん?」
「レンの言葉を信じるって言うんですか?」
強い口調で、迷っていた佐野に言い放ったのは吉川だった。
彼は高野や香流、高畠と石井たちとは違い、今年になって入った大学二年生だったので前者とは違い先輩とはあまりまだいい関係を築けてはいなかったが、それでも佐野とは仲が良かった。
だからこそ、強く言える。
「レンが全部本当の事を言ってるとは限らないっすよね?何か都合の悪い事があるから出るなって言ってるかもしれない」
「それでも……わざわざここまで来て話してくれたじゃん?しかも、ポケモンまで置いてきてさ」
佐野は机の上に置いてあるモンスターボールを眺める。
岡田が勝手に手に取って自身の掌で弄んでいたが。
「全部演技かもしれない。それに、連絡なんて無いんでしょう?それはつまり、逃げたか敵にやられたとか、そういうことも考えられるでしょう?」
「やめなよ、吉川。縁起でもない」
不吉な事を言ったからか、香流も乗じた。たとえジェノサイドであっても、今まで友達であったことには変わりない。彼の不幸は望んでいないというのは全員一致だった。
「うわぁっ!!」
シリアスな空気に包まれた教室から、いきなり間抜けな声が響く。
一斉に全員がそれを見ると、岡田が弄んでいたモンスターボールからポケモンが飛び出していた。
誤って開けてしまったのだろう。
笑い声に近いくらいの高い鳴き声をしながらロトムが勢い良く飛び出す。洗濯機の姿をしていた。
「これは……」
香流はそのポケモンを見て佐野と目を合わせる。普段からポケモン仲間としての共通点から分かることがあるのだ。
「これ、やっぱりレンのロトムですよ。いつもレンはゲームで洗濯機のロトム使ってた……」
「あぁ。皆ゲーム以外でポケモンを使う事はないからのと、これがロトムであることから100%レン君のだって分かったよ」
当のロトムは外に出たのが久しぶりなのか、教室中を飛び回っている。
一通り飛んだ後は窓際の机の上に乗っかり、金色の空を眺めると、唸り声をあげた。ロトムが唸るのは何か不自然に見える。
「ねぇ、香流くん」
佐野がロトムから香流に視線を移す。それに対して香流は「はい」と律儀に返していた。
「レン君の言ったことは本当かもしれない。もしかしたら、このポケモンは忘れたものじゃないんじゃないかな?」
やや遠目から聞いていた吉川が二人に近づきながら「どういう意味ですか」と聞いてきた。
佐野は二人を見ながら続ける。
「レン君はわざとロトムをここに置いてきたんじゃないかな。ガードマン的な役割として。と、言うことは本当に此処が危ないという意味かもしれない」
香流と吉川が互いに顔を見合わせた。二人とも驚いている様子だ。
「じゃあ、これから帰るのは……やっぱりマズいと?」
恐る恐る香流が聞く。佐野は無言で頷いた。その後にそれに、と前置きをした上で話を続けた。
「レン君は普通大事にしてるポケモンは置いてはいかないよ。レン君にとってロトムは大事なポケモンだし、重要な戦力であることは間違いない。だから……。きっと戻ってくるよ。ロトムを迎えに、レン君は。いつか絶対にね」
解散の時刻はとっくに過ぎていた。
にも関わらず、教室から出て勝手に帰る人は一人としていなかった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.59 )
- 日時: 2018/12/18 15:25
- 名前: ガオケレナ (ID: eK41k92p)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ジェノサイドはトルネロスを前に歯噛みした。
'ぼうふう'こそは止んだものの、敗北の予感は止まない。
ゾロアークをほぼ倒されたことで手持ちにコジョンドが居ることもバレた。
ジェノサイドは基本、戦闘中であるときは手持ちのポケモンに化けることは遵守している。一応のルールでもあるからだ。
(どうする……)
ジェノサイドは苦悩した。
ここで大きな賭けに出るか、バレているコジョンドを使うか、再度体力が1になったゾロアークを使うか。
3つの選択肢が浮かんだが、どれも手ではなかった。どう考えても勝利に直結しない。
そんな時、バルバロッサが低い声で彼の名を呼んだ。
「ジェノサイド、お前さんはこんな状況でも、勝利を考えるか?」
うっせぇ、こっちは今考えてるんだとでも言いたそうな表情をしてジェノサイドはバルバロッサを見つめる。
「私に勝利したら、その後はどうするかとか、色々考えていたのではないか?」
勝った後。
確かにジェノサイドは考えていた。
あいつに勝ったら、全員で基地に戻ろう。お疲れ様なんて言い合いながら飯でも食いながらゆっくり休もう。
それから、友達の元へ行こう。皆にすべてを謝りつつ、憧れていた素晴らしい世界で生きよう。なんて。
「こんな世界から抜け出して、普通の学生として生きたいとか思っているのではないか?」
バルバロッサの言葉に、ハッとした。一気に目が覚めた感覚に陥る。
すると、バルバロッサはそんな彼の思いを汲み取った事に成功したからか、声を上げて笑い出す。
「ははっ!!そんな事など起こるわけがない!そんなものすべて幻想だ!甘い幻想。お前さんは絶対に、一生この世界から逃れることなどできん。死ぬまでな」
「うっせぇな、そんなこととっくの昔に自覚している」
「いや、していないだろうな。だったら、わざわざお前さんは友人に会いに行ったりしないだろう?その為にスケジュールを調整なんてしないだろう?」
見抜かれていた。建前では「俺はジェノサイドとして生きる」と散々言ってきたが、すべて無駄だったようだ。
本音を見抜かれていた。
「ははっ!すべて無駄だ。この世界、そしてお前は深部の人間だ。さらにお前はその深部の頂点に君臨する。私はそんな事認めたくはないが世間ではそう認知されている。と、言っても深部のな」
深部の人間。一番言われたくない言葉だった。
組織が渦巻くこの世界の一員。それになってしまったからには安易に抜け出すことなどできない。今更そんな我が儘は通用しないのだ。
「だが安心しろ。私がお前さんを救ってやる」
急に口調が変わった。子供をあやすような、優しい声だ。
「私が今日殺すことでお前さんを救ってやる。そして私がこの世界の頂点となり、神世界を作り上げるのだ」
腕を広げながら高笑いするその光景にジェノサイドは再び怒りを覚える。
意味不明なオッサンのせいで'あいつら'に被害が向くのに納得できない。
「ふ、」
あまりの怒りに唇が震える。ポケットの中の手までも震えていた。
「ふっざけんじゃねえぇよバァルバロッサァァァァ!!!!!」
思いきり叫ぶと同時にボールを力一杯投げた。
「絶対に勝つ。アイツらを守る。その為にお前を殺す!!」
迷う暇などなかった。
コジョンドでもゾロアークでも、大きな賭けでもないまた別のポケモンを、ボールを選ぶ。
空に舞ったのは、暖かい色をしたネストボール。
「頼むぞ……エレザード!」
ジェノサイド4体目のポケモンは、エレザード。
軽いその体はトン、と地面へと着地する。
「エレザード……お前さんがよく好むポケモンだったな」
バルバロッサは静かにそのポケモンを見つめる。
バルバロッサは長い間ジェノサイドと行動を共にしていた。そのため、行動パターンも幾つか予想する事が出来る。
対して、ジェノサイドは。
「うるっせぇ!もうこいつしか居ねぇんだよぉぉ!」
半ばヤケクソ気味であった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.60 )
- 日時: 2018/12/18 15:24
- 名前: ガオケレナ (ID: eK41k92p)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
トルネロスに対し、更に素早いエレザード。
攻撃を放つ前にランドロスに強制交代させられるか、風で吹き飛ばされるかの二択が容易に想像出来てしまう。
相性こそは問題ないのだが。
それでもジェノサイドは諦めない。
「エレザード!とりあえず進め!速いペースで奴に近づくんだ!」
真正面からエレザードはトルネロスへと向かう。
だが。
「無駄だ」
トルネロスが羽ばたくと、暴風が吹き荒れる。
それは、真ん前を走るエレザードを飲み込むにはオーバーすぎる風の壁だった。
「うわっ、やべぇ、また暴風か……エレザード!姿勢を低くして風をすり抜けるんだ!」
やや無茶な命令だと自分でも思った。
それでも、エレザードは四足で走ると風の壁を回避しようと試みる。
速い足取りで七歩ほど走った頃だろうか。
トルネロスが大地に向かって'きあいだま'を撃つと、瞬間にひび割れ、裂けていき、抉る。
衝撃を伴った爆発はエレザードの足元にまで及ぶ。
ふわり、とその小さな足が離れたのをバルバロッサとトルネロスは見逃さなかった。
直後に'ぼうふう'を放つ。
エレザードは抵抗出来ぬまま遥か上空へと吹き飛ばされてしまった。
「くそっ……やはり駄目だったか……」
「何がしたかったのかね?ジェノサイド。相性さえ良ければ勝てるとでも思っていたのかな?」
地面に着地した瞬間を'きあいだま'で倒そう。
バルバロッサはそんな事を思っていたが、違和感に気付く。
ジェノサイドが真上を、飛ばされたエレザードを見つめながら黙っていたのだ。
まるで、タイミングを見計らうように。
「まさか……貴様っ!!」
「今だ、エレザード」
抵抗が0になり、落下を始めるエレザード。
その真下は、落下地点はトルネロスの背後だった。
技の影響により混乱しているかもしれない。
それを考えると一か八かの賭けだった。
それでも、この機会を逃す訳にはいかない。
「まさか……初めからこれを狙っていたと言うのか!?」
「言ったろ。使用者の問題だってなぁ!!」
ジェノサイドは「10まん……」と、技の指示をするために叫ぼうとする。
それをバルバロッサは聞き逃さない。
「馬鹿め!特殊な交代だったと言うことを忘れたか!!」
バルバロッサは口に出さずとも思考するだけで共鳴した写し鏡が反応する。
考えただけで交代が完了する。
そして、ランドロスに電気技は通用しない。
ただでさえの無償降臨に加え、ジェノサイドは1ターンを無駄にする。
彼の若さ故の甘さを見抜いた気でいたバルバロッサだったが、
「……!?」
エレザードの体に纏っているものが明らかに電気ではなかった。
そして、その特殊技には見覚えがあった。
以前、ゲッコウガに対して放ったボルトロスの技と全く同じ'それ'に。
「まさか……奴は……お前さんは……?」
'めざめるパワー'。
相性良好のトルネロスに対し電気技でなく'めざめるパワー'を放つ意味とは。
(ランドロスの交代を読んであの技を放とうとしているのか!?……と、するならばエレザードの'めざめるパワー'のタイプは氷タイプだと言うのか!?)
すぐさま自らが失敗していた事に危機感を覚えたバルバロッサは交代を中止するよう強く念じる。
だが、そこにタイムラグが生まれる。
そして、ジェノサイドは言いかけていた技の名前を叫ぶ。
その命令通りエレザードの体からは眩いばかりの電撃が生まれては放たれた。
羽ばたきを終え、交代するか否かで静止している、無防備なトルネロスへと。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.61 )
- 日時: 2018/12/18 15:19
- 名前: ガオケレナ (ID: eK41k92p)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ジェノサイドの目には、白煙だけが映るのみだった。
それは、周りの情報量が多すぎるから処理仕切れてないからなのか、本当に電気技が当たったことで煙が舞っているのか。
自分でもよく分かっていなかった。
何故なら、もしも後者ならば神と祭り上げてるポケモンをもう一体倒した事を意味してしまうからだ。
今、ジェノサイドは。
標高1252mの、嘗ては山岳信仰として山の神が祀られた聖なる山の山頂にて、まるで天国を思わせるような金色の空の光を浴びながら、まるで楽園を思わせる色とりどりの花で埋め尽くされた土を踏みしめ、これらを創り上げた原理主義者の前に立ち、そして。
トルネロスが、霊獣の姿となった風神の如きポケモンが翼を大きく広げて彷徨するのを見た。
つまり。
(……今の一撃では……倒しきれなかったか!?)
自分でも相当無茶だと感じてはいた。
わざとらしく好相性のポケモンを出せばバルバロッサが必ず勝つ方向に修正するのは分かっていたからだ。
「やっぱり……火力が足りなかったか」
ブツブツと呟いていると、今度はジリジリと肌が焼けてくるような熱を感じ取った。
初めはバルバロッサが、空や大気や土を改変したものかと思ったがどうやら違ったようだ。
'ねっぷう'だった。
「まずっ……、対応が遅れてっ……!?」
「意表を突くのは良かったが……」
煙の奥から細い声が微かに聴こえる。
白い煙が晴れてくる。同時にそれは熱を伴った避け難い見えない壁が襲いかかる。
「お前さんはまだ甘い」
熱の風も止む。
そこには、どこぞの民族衣装のような珍しい服を煤だらけにして小汚くなったバルバロッサの姿があった。
ジェノサイドのエレザードの特性は'かんそうはだ'。
水技の一切を受け付けず、雨状態で回復する便利な特性だが、炎技・天気の晴れに弱い部分を突かれた。
ジェノサイドの足元には熱風に飛ばされ、引き摺られ、倒れたエレザードがいた。
「お前さんの強さはゾロアークを使う事で相手を騙す事、油断させる事であり、それを応用する事で別ポケモンでも時にはひと工夫加える事も出来ることなのだが……勝った気でいる所がまだ甘いな」
あらゆる技をタイプ一致技として撃てるゲッコウガも、飛行技を先制して撃てるファイアローも、手持ちで唯一相性の良いエレザードも倒れた。
希望が打ち砕かれた。
にも、関わらず。
ジェノサイドは不敵に笑う。
そして、ボールをこれでもかと見せ付けて投げる。
「何が可笑しい?ジェノサイド」
「勝った気でいる?勝手に俺を知った気になるなよ」
ボールから出たはコジョンド。
衰えが見えない所からどうやら本物だった。
バルバロッサはそれを呆然と見つめると、
「……何がしたい?」
「こうするのさ」
コジョンドの姿が消える。
と、思えばすぐ眼前に迫ったかと思うと、トルネロスの前で手を打つ。
対人対戦でもよく見られるありふれた技だ。
「'ねこだまし'……?」
神だ何だと言われているポケモンも怯む事はあるようだった。
後ろにバランスを崩したかのような転倒をして明らかな隙を見せる。
「ありがとう、コジョンド。お前のお陰で困難を乗り越えられたぜ!」
心に残る正直すぎる思いを叫びながら'はたきおとす'を命じる。
倍になったダメージは、'10まんボルト'と、'ねこだまし'で疲弊したトルネロスに響く。
まるで追い討ちをかけるかのように、立ち上がる事を拒否させるようだった。
技が命中したその時ジェノサイドは、バルバロッサも、その瞬間に立ち会うこととなる。
二体目の、神を倒した瞬間だった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.62 )
- 日時: 2018/12/19 19:22
- 名前: ガオケレナ (ID: reIqIKG4)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
それまで明らかな余裕を見せていたバルバロッサにも異変が起きた。
倒れたトルネロスが写し鏡に吸い込まれていくまで、終始俯いていた。
「お前さんのような子供が深部最強などと言われてきた所以は私にあるとずっと思っていたが……」
四年前。
ジェノサイドがまだジェノサイドと名乗らず、高野洋平という本来の名で生きていた時代。
二人が出会った時のことを思い出したのか、バルバロッサはそんな事を言い始めた。
「私がずっとお前さんを補佐し、助けてきたからだ。深部の世界や他の組織に関する事柄もすべて私が対応していたからだ。だが……」
写し鏡が再び輝く。
最後の一体が今まさに出ようとしていた。
「お前さんが二体もの神を倒したこと、恐れ入ったぞ。ここまでお前さんは自分の実力でやってきたのだからな。……だからこそ、お前さんが最強と呼ばれる理由が少し分かった気がするな」
ランドロスが、霊獣フォルムのポケモンがゆっくりとジェノサイドとコジョンドを鋭く睨みながら空中で静止する。
最後の神のお出ましであった。
「だが、ここまでだ。お前さんは所詮ただの人。人である限り神に勝つ事など出来んのだよ」
ジェノサイドはそれでも思うところがある。
例えどんなに強いポケモンでも、使用者の腕次第で結果は変わると。
現に彼は強化されたボルトロスとトルネロスを倒す事に成功した。
ゾロアークの体力が1しか無くとも、相性の悪いコジョンドであっても、戦い方次第では結果は変わる。
いや、変えなければいけない。
ジェノサイドにはまだまだ分からない事があるが、それよりもまず戦いに勝たなければならない。
勝ってから解決すべきだ。
ゆっくりと、長く息を吐いて前を見つめる。
「四年間……俺はずっとお前と一緒に居たが、まさかこんな結果になるとはな……。正直怒りが収まらねぇよ」
だから、とジェノサイドは続ける。
「仲間だと思ってたお前に対する怒りもそうだが、他の大事な奴らを守る為にも俺は絶対こんな戦いに負ける訳にはいかねぇ」
「どんな結末になろうともこれから起こることは私が昔から望んでいた事だ。お前さんと出会うずっと前からな。だからこそ何度も言ってやるぞ」
バルバロッサは腕を振り上げた。ランドロスに対する合図のようだ。
「ここまでだ。ジェノサイド」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.63 )
- 日時: 2018/12/23 15:41
- 名前: ガオケレナ (ID: S1CkG5af)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
高野が外へ飛び出してから二時間半。
相変わらず普段は何もしない旅行サークル『traveler』の会員たちは教室で待機という名の暇潰しを行っていた。
空は黄金色に染まって変化は無い。
当然、連絡も無いので高野が今大山の山頂で戦っている事も、今のところ無事だという事も何も知らずにいた。
「佐野先輩、喉乾いたんでコンビニ行ってきても大丈夫ですかねー?」
会話も種も尽きかけてきた頃、吉川が佐野にそう言った。
佐野は不安そうな顔をして少し考えると、
「うーん……。あっ、飲み物なら廊下のエレベーター前に自販機があるじゃん!そこなら安全だからそっちで買いなよ」
「でも俺タバコが吸いたくて……」
「我慢しようか」
非喫煙者の佐野はにっこり微笑みながら喫煙者にとってキツい一撃を放つ。
結局吉川は香流を呼び出して共に教室から出た。
静かな廊下にガコン!という飲み物が落ちてきた音が余計に響く。
吉川が自身が好きな炭酸飲料の缶を手に取ると「少し、付き合ってくれ」と、香流と共に非常階段のある方向へ、つまり外へと少しばかり出た。
風は異様に心地良かった。
金色に光る空が余計に安心感を与えてくれるようだった。
教室の避難モードとは大違いに。
吉川は待ってましたとばかりに胸ポケットから煙草を取り出し、火をつける。
隣の香流は見慣れた光景だったからか、嫌な顔は一切見せずにいる。
「レンの奴……何なんだろうな?」
ボソッと吉川が呟く。
「何、って何に対して?」
香流も自信なさげに言った。
「アイツ、俺たちと会う前からジェノサイドだったんだよな?一体なんで?アイツそんな事するような奴なのかよ?」
「うーん……こっちも正直分からない。レンの高校時代の話とか聞いたこと無かったしさ」
「……ぶっちゃけ俺は、お前達とは出遅れてるとは思ってる」
吉川の唐突な発言。
香流はすべてを汲み取れずにいたが、彼が何か言いたいのかは分かった。
自身が抱えるコンプレックスのようなものだからだ。
「お前や石井、高畠、それから岡田にレン……皆出会ったのは皆が一年だった去年だ。対して俺は学年も歳も一緒だけど今年入った。だからまだ輪に入れずにいる……まだ完璧仲良くなったとは思えなくてさ……」
「そんな事ないって!少なくとも誰もそんな事は思っていないよ!!」
吉川には分からない、至極真っ当な事を香流は言い切った。
このサークルメンバーにとって年数は関係無い。それだけで友好関係を築こうとする人間は居ないからだ。
「なら……いいけどさ」
それでも頭の中のモヤモヤが取れない吉川。
それに関連して、去年の高野がどんな人間だったのか香流に聞いてみたが結果は「今と変わらない」だった。
「こっちだけじゃない……。きっと皆思っている事は吉川と同じだと思う。'なんでレンが深部なんかに'って」
パッと見大人しくクールで、それでも友達といる時は大いにはしゃぐ子供っぽくも大人みたいな男、高野洋平が深部の、それも頂点に立つジェノサイドである事が誰も信じられずにいる。
もしも今回の騒動でサークルを辞めるとなると。そんな不安が二人の間に過ぎる。
「あいつと話をしよう。それで、ヤツに何があったか聞くんだ」
「うーん……。全部話してくれるとは思わないけど、でも皆が知りたがっているのはそれだと思う。こっちも賛成だよ」
二人は空を見上げる。
この、天国を倣った空の向こうに高野は、ジェノサイドは、嘗ての自身の仲間だった人間と戦っている。
無事を祈る事しか出来ない二人だったが、この時点でジェノサイドは不幸な人間となってしまったことだけは確かだった。
その戦いの内容が、世界の崩壊を防ぐ為の戦いだと言うことを誰も知らずにいるのだから。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.64 )
- 日時: 2018/12/23 15:49
- 名前: ガオケレナ (ID: S1CkG5af)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
バタバタバタ……という足音がかなり後方の方角から聞こえてきた。
見ると、ハヤテら数名の構成員が駆けつけていた。恐らく山頂一歩手前で待ち構えていた浅黒い肌をしたグレイシア使いのトレーナーに勝ったのだろう。
「ここまで、ねぇ……」
ジェノサイドはコジョンドを見つめた。
そして、笑う。
「いや、ここまでよく頑張ってくれた。ありがとう」
バルバロッサは、ジェノサイドのその言葉により降参の意思表示をしたとまずは直感する。
仲間たちも彼の言葉こそは聞こえなかったが、バルバロッサのランドロスを見て普通でない空気を感じ取った。
「だからこそ、最後にもう一つ。仕事頼めるよな、コジョンド」
コジョンドは後ろを向き、自らの主に対して頷いた。
「よし、頼んだぞ!コジョンド!」
その言葉を合図に、疾走する。
「ん?」
バルバロッサには理解できなかった。
ついさっきジェノサイドは降伏を望んだはずだ。
だが、それなのに何故か「最後に頼む」とコジョンドに願った挙げ句にそのポケモンがこちらに迫ってきている。
どういう事だろうか?
'ねこだまし'は使えない。'はたきおとす'はタイミングを掴んで回避できる。'とびひざげり'なんてもっての他だ。
あのコジョンドに勝てる要素など一つもない。だからこそその行動が分からなかった。
「コジョンド!'とんぼがえり'!」
ジェノサイドのその指示に、バルバロッサはギョッとした。
その技は自分の他のポケモンと入れ換わる技であるからだ。
あまりの予想の斜め上を行く行動に、バルバロッサもランドロスも反応を一歩遅らせてしまう。
命中こそするもののダメージはほとんど入っていない。ほぼ無傷だ。
「だけど、これでいい」
コジョンドが一瞬でボールへと還る。
そして握り締めるは、最後のモンスターボール。
「俺は、ここで最後に賭けに出る!頼んだぜ、リザードン!!」
言って、ボールを真上に投げた。
バルバロッサはまたもや、眉間に皺が寄った。
今ジェノサイドは“リザードン”と叫んだ。
(リザードンだと?今度こそ血迷ったかジェノサイド……)
バルバロッサはリザードンがどんな動きをゲームの中でするのかを知っている。
それを、その'動き'を思い出す。
そして。
バルバロッサは今度こそ、今までで一番の大きな声で笑い声を上げた。
「ははははっ!よしてくれジェノサイド!お前さん私を笑い殺す気か!!はははっ!」
大爆笑しているバルバロッサを気にすることなく、ジェノサイドはボールから出てきたリザードンを眺め、目を合わせる。
「そのリザードンは普段お前さんがメガシンカさせて戦っているポケモンだろうに!お前さんは知らないのか?この世界ではまだ一度も、未だにメガシンカは確認されていないって事を!!」
そう。たとえゲーム上でメガシンカができても、その同じ個体が現実世界で現れても、メガストーンだけでなく、キーストーンも、それらのエネルギーを束ねるデバイスも無ければメガシンカそのものがまだ無い。
ポケモンの世界とは違うこの現実世界でメガシンカは有り得ないのだ。
これこそが、ジェノサイドが挑んだ大きな賭けだった。
だが、当然何も反応しない。メガシンカは結果として失敗に終わる。
「ははははは!!!最後に笑わせてありがとうジェノサイド!!お礼に天国へと飛ばしてやる!!」
ランドロスが雄叫びを上げ、今にも'げきりん'を繰り出そうとしたときだった。
異変は、突如起きる。
「いや、成功だよ。バルバロッサ」
見ると、リザードンの体が、全身が光輝いている。まるで自然のエネルギーがリザードンに集中しているかのように。
その光景は、まさしく“あれ”に酷似していた。
「まさか……貴様……」
信じられないモノを見ているような目でバルバロッサはそれを凝視する。
光が瞬く。
すると、
メガリザードンXが、目の前に、確かに、そこに立っている。
漆黒のドラゴンが、そこにいた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.65 )
- 日時: 2019/01/01 16:38
- 名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
確認がされていないはずの秘術が目の前で起こってしまった。
バルバロッサの目の前には、メガリザードンXを従えたジェノサイドがいるのだ。
「馬鹿な……何故、メガシンカが……」
今まさに有り得ない事が起こっていた。気持ちの整理が追い付かない。
ジェノサイドの後ろの方で何やら叫び声が上がっている。と、言うより歓声に近かった。
ハヤテ達がメガシンカを見て盛り上がっている声だ。
ジェノサイドは視線を後ろからバルバロッサに移す。
「どうだ、バルバロッサ。俺は……やってみせたよ?」
自信たっぷりに告げる。
震えているバルバロッサに対して。
「お前に対して、有り得ない事をしてみせたよ」
震えすぎてよたついてるバルバロッサに。
「不可能を可能にする存在を前に、俺も同様の事をしてみせたぞ」
有り得ない、と誰にも聞こえない声で呟く。
その直ぐに。バルバロッサが人差し指をメガリザードンXに向ける。
「有り得んぞそんな事おおぉぉぉぉ!!!!!」
叫ぶと同時に。
ランドロスが爪を燃やし始めた。
そして、怒りを纏ったランドロスが迫ってくる。
「貴様が……ただの人間の貴様が……神と……私と同様の事をするなぁぁぁぁ!!!!」
竜の爪が迫る。ランドロスの技である'げきりん'だった。
まるでスカーフでも巻いているかのような神速に、リザードンは反応を遅らせる。
空中から地上に降り、足を付けた時にはランドロスはもう眼前にいた。
勝敗が決した。
誰もが、バルバロッサもハヤテも、その仲間もそう思った瞬間だった。
メガシンカに対する喜びも束の間、一瞬での敗色濃厚。
仲間達もただ呆然と突っ立ってるままだった。
だからこそ、目の前の光景が理解できなかった。
“リザードンの手が、ランドロスの腕を掴んでいる”ことに。
「……はっ?」
まず異変に気が付いたのは神を操る老人だった。
「なっ……何故だ……?何故お前さんのポケモンは、ランドロスの'げきりん'を素手で受け止めて、突っ立っていられているのだ!!!」
バルバロッサが思わず吠えた。
だが、「彼」には届かない。
「ごっめーん、言い忘れてたぁー」
歌うようにジェノサイドは口を開いた。
同時に、第二の異変が起こる。
リザードンの周囲の空間が歪みだしたのだ。
「!?」
バルバロッサはあの光景を見たことがある。だが、普通ならば絶対に起こらないことだ。
それがたとえ“メガリザードンXに化けたゾロアーク”だとしても。
「これで終わりだ。バルバロッサ。お前は俺たちに見事に化かされた」
「どういう……ことだ……?」
次の瞬間。
'げきりん'のダメージを受けて耐えたゾロアークの'カウンター'がランドロスに直撃する。
倍ダメージとなった大きな反動により、ランドロスの身体がゾロアークの手元から離れ、バルバロッサを越え、さらに奥にある神社の本社へと突っ込み、建物を倒壊させる。
長かった戦いが、今幕を閉じた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.66 )
- 日時: 2018/12/23 18:30
- 名前: ガオケレナ (ID: meVqUFl1)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「待……て……」
バルバロッサは空を見つめる。
花は消え去り、風が止み、黄金色の空がじわり、と消えていく。
元の夜を造る漆黒の空へと戻っていった。
光の輪も消え、写し鏡が垂直に落下する。
「待てぇぇぇぇ!!!どういうことだ!ジェノサイド!!!!!」
頭を掻き毟り、こちらへと変な足取りで迫ってくる。まるで発狂しているように。
だが、ジェノサイドはただ言われた通り説明するだけだ。
「簡単だよ。あの時、トルネロスの'ぼうふう'をゾロアークが食らうとき。あれを少しいじってやった」
バルバロッサが不意にピタッと止まる。
目を丸くして小さく「な。に……?」と言うだけだ。
カラクリが存在した。
あの時、ゾロアークは“トルネロスの'ぼうふう'など受けていない”。
まるで受けていたかのように周囲を幻影で惑わせて。
そして、最後にあたかもメガシンカを扱えたかのような文字通りの幻を見せる。
ゾロアークは、二回バルバロッサの前で化けてみせたのだ。
「そんな……嘘だ……お前は……私を、私のポケモンをも騙していた、と言うことなのか?」
弱々しい声だった。すべて破壊され、野望も打ち砕かれたバルバロッサに、最早何も残っていなかった。
「俺は普段ゾロアークを別ポケモンに変身させて戦う。だが忘れてんじゃねぇよ……ゾロアークは"周囲の光景をも惑わせる事が出来る"んだぜぇ?俺をたった四年で知った気になった……それがお前の敗因……」
「殺せぇぇぇぇぇ!!!すべて失った……私の神世界を……私を……殺せぇえええええぇぇぇぇぇぇ!!」
膝を折ってバルバロッサは倒れる。すべてを喪失した男からは何のオーラも無かった。
バルバロッサの前に、殺気を伴ったゾロアークが立つ。
「お前、俺達を裏切ったよなぁ?」
対して、腕を空へと広げ、呆然とゾロアークを見つめるバルバロッサ。
「お前、この世界を破壊しようとしたよなぁ?」
対して、目を丸くして、口を開けた間抜けな顔をする。
「お前は、無関係な人々も殺そうとした」
対して、バルバロッサは声にならない声を上げる。
「お前は……戦いに負けた」
対して、深部の世界において、戦いに負けることは死を意味する。
だがジェノサイドは今までの戦いで、自らの信念の元、人を殺すことを躊躇ってきた。
しかし、今回も殺さずしていいのだろうか?
ジェノサイドは悩む。すべての事柄を思い出しながら、これまでの過去をすべて引き出しながら。
「お前に……私が殺せるのか……?」
バルバロッサの細い声が途切れ途切れに聴こえる。
ジェノサイドは聴力を総動員してそれを捉えようと表情では読み取れないが必死になってみる。
「今まで……誰も殺せなかったお前が…………。あの時、『人を殺してしまった』と涙ながらに私に助けを求めたお前が……」
それを聞いてしまった直後、ジェノサイドの中で何かが弾ける。
そして、躊躇わなかった。
ジェノサイドは、無言で右腕を前に振るう。
その直後。
ゾロアークの腕から、全身から'ナイトバースト'が放たれる。
バルバロッサは生身の体で暗黒の衝撃波を至近距離で受け、ランドロスが直撃した衝撃で半壊した本社へと突っ込んだ。
ドン、と鈍い音がした直後。
遂に本社が完全に崩れる。
ジェノサイドが殺した人間は、これで二人目となってしまった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.67 )
- 日時: 2018/12/23 16:15
- 名前: ガオケレナ (ID: S1CkG5af)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
空が晴れた。
風が止み、花が消える。
その光景は大学からでも確認できた。
「おっ、おぉ!!」
佐野が叫び声を上げる声だ。
「やった……やったよ。レン君、ちゃんと終わらせてくれた!!!」
周囲でもおぉ……という声が広がる。
異変が消え、すべて元通りの世界が戻ってきてくれた。
それが、堪らなく嬉しかった。
香流が窓から顔を出す。
「本当に戻ったんですかね?」
光の輪も消えている。
文字通り、すべて元通りとなった。
ーー
「やりましたね、リーダー」
ハヤテの声だ。
すべて終え、疲れも限界だったのか、ジェノサイドはその場にへたりこむ。
よく見ると痛い風のせいか、全身が傷だらけだった。
「あぁ。全部終わらせたよ。お疲れ、みんな」
ハヤテの後ろで何やら連絡を取っている構成員が慌てふためいている。一体どうしたのか尋ねる。
「やりましたリーダー!バルバロッサを撃破したことにより、下の方で戦っている奴等からも連絡が入りました!敵は全員撃破若しくは撤退により完全勝利だと言うことです!」
その隣で「本当か!」と叫んで互いに抱き合っている構成員が見え、ジェノサイドは少し和む。平和の印のように見えてしまったのだろう。
結果は目に見えていた。
「それで、被害の方は?」
ジェノサイドが再び尋ねる。
すると、その構成員は嬉しそうな表情をして、
「ご心配なく!怪我人こそはいるものの全員無事です!!」
その声を聞き、ジェノサイドはやっとほっと一息付けた。
そして、最後に呟く。
「お疲れ。ありがとう……。みんな」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.68 )
- 日時: 2018/12/23 16:21
- 名前: ガオケレナ (ID: S1CkG5af)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
基地はもぬけの殻となったものの、変わったことは無かった。
盗撮、盗聴そして盗難されているかすべて確認したがどれも異変は無かった。
全員が無事に帰ってこれた。それだけでジェノサイドは嬉しかった。
メンバー全員が基地の前で勝利を祝って騒ぎ始める。
「りぃぃーだぁぁーー!!」
走りながら、こちらに両腕を広げて向かってきたのはケンゾウだった。
久しぶりの再開により凄く嬉しそうな顔をして、突進しながら。
「ぐはぁっ……」
「リーダーぁぁぁ!心配しましたよぉ!!上で何やっているのかもう何も分からなくてもう心配で心配で……無事で本当に良かったっすー!!」
ギリギリ……と骨の軋む嫌な音を響かせている事に気付かずにケンゾウはジェノサイドを強く抱きしめる。
「分かったから離れろケンゾウ!お前のデカイ体に押し潰されれれれれれ……」
危惧したハヤテとリョウがどうにかしてケンゾウをジェノサイドから引き剥がす。
「ケンゾウ落ち着いて。お前のせいでリーダー死んじゃうから」
「リーダー、大丈夫ですか?」
リョウが声をかけると、ジェノサイドは何度か咳き込んだあと、親指を立てる。
ーー
基地に着いてすぐ、ジェノサイドは彼らから一旦離れた。
彼にはもう一つ用事があったのだ。
現在時刻は22時。本来なら全員でご飯を食べた後、解散する時間であった。
ジェノサイドは大学へと乗り込む。
面倒なので、行きと同じく窓から入ることにしたのだが、
「うわっ!」
「キャッ!」
いきなり、ダン!と音がしたと思ったら高野が窓から入ってきた。それは誰でもビビる光景である。
教室を見回すと、明かりも着いていて、律儀に全員待っていてくれていた。
勝手に帰っている人が居ないことを確認すると、安堵からか机の上に腰かける。
「はぁ~。やっと終わったぁ~」
佐野や香流らがこちらに駆けてくる。
「お疲れ、レン君」
「大丈夫!?傷だらけだよ?」
相変わらずの反応に高野は笑った。今度こそ、心から笑った。
事情は後で話そう。言いたいことも、後でいつか告げよう。話ならいつでもできる。
岡田がロトムをボールへと戻し、高野はそれを受け取る。
ポケットへ閉まって皆の顔を見ながら一言、高野は呟いた。
「ただいま」