二次創作小説(新・総合)
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.167 )
- 日時: 2019/01/14 19:45
- 名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
本格的に寒くなり始めた12月を迎えた。
ジェノサイドの面々と高野洋平、そして彼の大学のサークルの友達らでポケモン新作『オメガルビー』、『アルファサファイア』を楽しんでいる時期でもある。
「リーダー、どこまで進みましたー?」
真剣な顔をしたハヤテが一生懸命3DSの画面とにらめっこしている。
「んー?俺か?」
対して高野洋平ことジェノサイドはそこまで真剣にやっているようには見えない。ゆるーくゆったりとやっている感じか。
「んー……」
ふとジェノサイドはカレンダーを見た。今日は12月4日の木曜日。明日で発売から二週間経つ。
「バッジ三つ」
「えぇ!?」
リビング中にいた、ポケモンをプレイしている人が皆叫んだ。
「ちょ、リーダー遅くないっすか!?流石にもう殿堂入りくらいしましょうよ」
「んでだよ!俺はストーリーはゆっくりやる派なんだよ、殿堂入りもせめて元旦にやりたい」
「元旦……」
ハヤテはさぞ呆れたことだろう。何も早くストーリーを終わらす事が大事なのではない。
ストーリーを終えたからこそ、厳選に時間に割ける。要するに新たなジェノサイドの戦力が手に入るということだ。
それをリーダー自ら拒むとはこれいかに。と必死に殿堂入りした勢は思ったことだろう。
「早くして下さいよリーダー。今回で新しいメガシンカ増えましたからね。またこっちで新しいメガストーン探すことにもなりますし」
「えぇー……またあれやんのかよ……あれ結構しんどいから嫌なんだけど」
「メガメタグロスとか使いたくないんですか?」
と、言われメガシンカ好きのジェノサイドには返答に困る。
メガシンカは使いたい。でもメガストーンは探したくない。矛盾する思いに苦しむ……。
「なぁ、誰か無限のチケット持ってないの?」
「リーダーはまだ使わないでしょ」
「そうだけどさ……忘れない内に受け取りたいじゃん?誰か持ってないかなーって」
「すれ違い通信してりゃいいじゃないっすか」
「してるよ!してるのに貰えない!ちょうだい!!」
「あぁもう……受け取り方分からないんですか?こう、テレビナビのポストのマーク押すじゃないですか。」
「うん。あ、それ?」
「そうですよ。ここに入っているので……ってもう受け取ってるじゃないですか!!何やってんですか!」
画面には、
「むげんのチケットをてにいれた!ポケモンセンターへいってみよう!」
と表示されている。
「あっ、俺そういや色違いのダンバルもまだ受け取ってなかったわ。すっかり忘れてたわー」
「まったく……」
こんなド天然の人間が組織を束ね、深部最強でつい最近議会とも戦ったなど微塵にも感じられない。
今後が不安になるくらいに。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.168 )
- 日時: 2019/01/14 19:57
- 名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
昼になり、授業開始時間に近づいたので、ジェノサイドは基地を出て一人、大学へと向かった。
「あと少しで今年も終わりか……」
要するに試験の日が近づいているのだ。これほどにも嫌な日があるだろうか。
空の移動はただただ寒いが、電車に乗ってそれからノロノロ走るバスになんて乗っていたら確実に遅れる。
この移動が一番早いのだからこれを選ぶのは当然だ。
大学に着いたのは授業開始十五分前だった。余裕である。
「確かこれからの授業は岡田と一緒だったな。席取ってくれてると嬉しいな」
かなり遅いエレベーターに乗り、教室に着くと相変わらず前の方に岡田が座っていた。
「よう」
「おう、レン」
岡田が鞄をずらすと、一箇所人が座れるスペースが出来上がる。どうやら取っていてくれたようだ。
「サンキュー」
その後は二人で適当に雑談を交わしていると、授業開始のチャイムが鳴った。同時に教授が入ってきて今日の分のレジュメを配り始める。
また普段通りの日常が戻ったのだとふと思わせる瞬間でもあった。
「レンは今日サークル来るの?」
「来るよ。暇だし最近こっちでやる事もねーからな。先輩達とポケモンバトルしたいし」
ジェノサイドは本名を高野洋平と言い、また日常世界ではレンと呼ばれていた。
「レンと呼んでくれ」とサークル加入時の自己紹介で自分から言ったことから始まったことだが、何故レンなのか理由を探るとかなり遡ってしまうことになる。
それを友達や先輩が覚えても何の得にもならないのは明らかだ。恐らく覚えている人はこの世には居ないだろう。
ーーー
二人は授業終わりの後、部室に行くために構内を歩いていた。
「今回の授業訳分かんなかったな」
「そりゃレンが寝てたからだろー」
「……見られてた」
周りを考えず、無駄に大爆笑する隣の友達をよそに、歩くペースを早めた。
部室の扉を開けると同じ学年の香流慎司と石井真姫がいた。
「あっ、レンと岡田だ」
「やっほー二人とも」
この時間の部室に二人いるのが珍しい。どういう訳か聞くと、
「あぁ、次の授業休講になった!」
と嬉しそうに香流が言えば、
「あー、課題終わらしたかったからサボった」
とふざけた事を石井がこれまた嬉しそうに言う。
「……その課題は終わった?」
目を細めて高野は恐る恐る聞くと、
「うん!今!」
ちなみに今は次の授業開始十分前である。
バリバリ間に合う時間である。
「とっとと授業行けアホ!」
などと叫んでみるが効果はない。適当に笑って誤魔化すだけだ。
「ねぇ、ところでレンー、ミナミちゃん元気?」
授業開始から十分経った。もう間に合わない。
「あぁ、あいつ?普通に元気だよ」
ミナミと言えば、死んだと思っていたレイジが実は生きており、治療も終え、ミナミらと共に基地にて生活している。
もう今は彼も彼女も元気だった。
ゲームに集中していて気が付かなかったが、石井はこちらを見てニヤニヤしている。
なんかこのパターンは前にもあったよな?と思いながらどうかしたか聞いてみる。
「いつ会えるかな?」
「知るかよ。余程の事がなきゃ会えねーけど……」
言いながらふと思った。基地に来れば会えるのではないか、と。
「呼べば来んじゃね?ここに」
「えー……大学に?もっと閉鎖的というか少人数で集まれるようなところで会いたいなー……恋バナ聞きたいし」
「あぁ。それなら安心しろ。絶対何もねぇから。ってかそもそも呼ばねぇし」
わざとらしく「ちぇー」と言うと各々視線を戻す。
「何だかんだで行事あるね、これから」
「あー、そうだな」
香流と石井で話を始めたが、なんの事かまだ分からない。続けて聞いてみると、
「そろそろインターンシップ始まるし、2月か3月辺りにサークル旅行行く予定じゃん?あと3月には先輩の卒業式が……」
「あー、卒業式か……」
このサークルに三年はいない。居るのは一年と自分たち二年、先輩たちの四年だ。
「卒業式かー……」
お世話になった先輩達たちとお別れの季節がやってくる。
自分たちが入学し、このサークルに入ったのが去年だったのに物凄く時の流れが早く感じてしまう。
「最後にパーッとポケモンバトルしてぇな」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.169 )
- 日時: 2019/01/15 12:15
- 名前: ガオケレナ (ID: kdYqdI6v)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「じゃーねー」
「バイバイ」
サークルには行ったものの、特に何もせずダラダラと過ごすだけで終わった。
これがいつも通りなのだが。
先輩たちは途中で「卒業旅行の金稼ぐためにバイト行ってくる」とか行って途中で帰ってしまい、バトルも出来ずにただひたすらゲームを進めるだけだった。
空の移動をすること十数分。
基地が見えてきた。
「おっすー、ただ今帰ったぞー」
夜だというのにリビングに人はあまり集まっていなかった。
代わりに、険しい顔をしたハヤテとショウヤとミナミとレイジが囲んでいる。
「……相変わらず変な空気出してんなぁー」
逆に調子乗ってるジェノサイドが浮きそうなくらいだ。さすがにそれを続けるのは辛いと感じたのか、鞄を適当にそこらに置くと、一気に口調を変化させる。
「んで?あれから何か変わったことは?」
「何も……無いですよ。ただ、無視できる事ではないですよね」
朝皆でゲームしている時もこんな雰囲気は無かった。
これを見る感じ、あの一件以降仲間達のON/OFFが上手くなった気がする。
すべての原因はネットにて公表されたとある宣言だった。
「一昨日……出処は不明ですが、掲示板、Twitter、Facebook等の大手サイトに出回っています。さすがに一般人相手に理解されたらヤバいので、我々でしか理解出来ない書き方をしていますが……」
「Sランク組織のゼロットとか言う人達が、うちらに宣戦布告……かぁ」
ミナミだけでない。ここにいるすべての者が想像を超える事柄であった。
ジェノサイドはおろかこれまでの深部でSランク同士の戦いなど無かったからだ。
それは何故か。
ジェノサイドを例にたとえてみると、深部という世界にはランクが存在し、その最下がDであり、C、B、A、Sと徐々に上がっていく。
彼ら深部にとってSランクとは羨望の的であり、ロマンであり、また莫大な財産を持った敵でもある。
だが、ジェノサイドの場合。
先日に深部全体から嫌われ、非難の的となっていた杉山渡という議員がジェノサイドらとの抗争により死亡。
これによりジェノサイドを支持する者達と、相変わらず財産を狙う反ジェノサイドな者達とで分けられることとなる。
つまり、Sランクが存在するだけで深部の世界が二分されてしまう。それはジェノサイドだけでなく、ゼロットに対しても同じだろう。
もしこのSランク同士が戦えばどうなるか。
支持者と非支持者も戦うことになるため、それは当事者だけの戦いだけでなくなる。
世界を巻き込む大戦争となりかねない。
それを危惧してか、ジェノサイド含むSランクは互いに互いを干渉しない不可侵条約を結んでいた。
はずだった。
だが、ゼロットがそれを一方的に破った。
「彼らは、ジェノサイドが議会に対し反乱を成功させてしまった事例を踏まえ、これ以上の横暴を許すわけにはいかない。世界の平和のため、我々ゼロットはジェノサイドに宣戦布告を宣言する……。と、言っておりますが、どうお考えですか?リーダー」
「どうって言われてもよ……」
ジェノサイドは腕を組んで椅子に座る。
「あの時動かなきゃ俺達はもっと被害を受けていた。あれ以上に多くの深部の人間が死んだはずだったんだ。あの時俺たちが動いた訳だけど、もしも動いたのが俺等じゃなくて別の奴等だったとしても今と同じ結果になったと思うよ」
「つまり、何が言いたいのですか?」
「しょうがないってやつだ」
宣戦布告は一度宣言しては取り消すことが出来ないルールとなっている。
なので戦争を回避する方法はルールに則った限り、戦争期間中に互いに一ヶ月間接触が無いと戦争は無かった事にされる。
交渉を続けながら非接触を貫くのが理想ではあるが。
「とにかく、ゼロットと戦うのはまずい。組織の人間全員で協力して外出などを控えるようにしよう」
それに賛同する旨をそれぞれ述べた後、時間も時間なのでそれぞれ部屋へと戻った。
その後ジェノサイドは最近にしては珍しく談話室に行ってみる。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.170 )
- 日時: 2019/01/21 15:08
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「おっすー、邪魔するぜレイジ」
ジェノサイドが部屋に入ると、そこにはレイジだけがおり珍しく大人しそうに本を読んでいた。
外見だけ見るとすごく絵になる。
「大丈夫ですか、リーダー」
本を閉じて優しく声をかけてきた。大丈夫か、というのはさっきの話と絡めて、対応に追われるジェノサイドを労っての言葉だろう。
「別に。お前こそ平気なのかよ」
適当に置いてある果物を取って暖炉前の椅子にジェノサイドは座る。
レイジは先月、ディズニーシーにて銃撃を受けている。快方には向かっているものの、まだ完全には治っていない。歩いたり座ったりするワンアクションが負担に繋がってしまう。珍しく本を読んでいるのもその影響だろう。
「えぇ。まだまだ迷惑をかけるかもしれませんが、大分いい方向に進んでいますよ」
ジェノサイドはキョロキョロと部屋を見てみる。あってもおかしくない人影がないからだ。
「ミナミは?さっきお前と一緒にこっちに来てたよな?」
「ああ、リーダーでしたらあっちに」
レイジが指を突き立てた先にあるのは洗面所。
「またかよ……」
「まただよ……」
二人で頭を抱えながらコントのような雰囲気をさらけ出す。
「あ、でもお前そんな状態じゃん?ミナミが何か手助けしてくれるんじゃねぇの?」
「そうなんですよ!」
目を少女漫画ばりに輝かせると、ひとりでに語り出した。
「まず、ずっと一緒にいてくれるんですよ!朝起きてからずっとですよ?私が立ち上がったり寝に入ろうとすりときも体を支えてくられてどんなに幸せ……あ、いや助かることか!こんな事ここに来てからなんてものじゃない。『赤い龍』時代にも無かったですよ!?一日中付きっきりなんて事今までに無かったんです、なんて言うかもう……銃に撃たれてバンザイと言いたくなりますね 」
「……いやお前一歩間違えてたら死んでたからね、さすがにバンザイは行き過ぎだろー、あっそういやお前が居なかった頃のあいつはさー」
などと調子に乗ってジェノサイドもレイジが居ない間塞ぎがちになって寝込んでいた事を話した。
あまり内容も内容なので今まで話すのを躊躇っていたがこのテンションなら言えた。
「へぇー、私を想ってそんな事を!元気なあの子には考えられない行動ですよね?いやぁ愛されてるっていいなー!今もこうして付きっきりでいるのもリーダーの寂しがり屋なところを打ち消すのと私を愛する気持ちとでやっている事なんですよね!!これほどにも嬉しいことがあるのかと……」
ジェノサイドがそれに気付き戦慄に怯えた顔をしてレイジにそのことを忠告しても愛に酔って未だにベラベラと喋る彼には気づくわけがない。
ゆっくりと、風呂から上がってきたミナミが後ろから暗殺者ばりに近づいてくる。
「さっきからベラベラ語るな気持ち悪い!!」
使い慣れた枕を思い切り振るって頭あたりを殴ると、椅子の中でレイジはバランスを崩した。
「いっ、痛い!背中、背中が!!」
悶えているうちにズルズルと椅子から滑り落ちていき、ついには床の上でバタバタしている。
勿論ミナミはガン無視だ。
「……」
「アンタもだよ」
「えー、俺もー?」
手で守ろうと突き出しても、何の意味もなかった。
「アンタも余計な事言ってんじゃないわよ」
「あー、あれかー……でもほら、あれだぞ?大学生というのはノリで生きてノリで選択する生き物だぞ?まだ若いんだから少しくらい若さゆえの何とやらにすがっても……って待って!!枕振り上げるのやめて!」
必死に「待て」とサイン送っても効果はない。
痛くて固い枕が飛ぶと思うと動機づけされた恐怖に駆られる。
「なぁ待ってくれ。頼むから話を少し聞いてくれ」
「何?言い残したことがあるなら今のうちに言いなよ」
「もうちょっと柔らかい枕にしてください」
次の瞬間、フルスイングが躊躇なく深部最強にして、外見上はただの大学生の頭を襲う。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.171 )
- 日時: 2019/01/16 20:36
- 名前: ガオケレナ (ID: nj0cflBm)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
12月5日の金曜。
今日も普段通りの授業を受けて普段通りの日々が終わるんだろうと思えるのが普通なのだろうが、高野がこう思う事自体異常な事だった。つい最近にも大きな戦いがあったばかりで、基本的に平和な日常というものが築けていない。
要するに今が異常な時なのである。
たとえ学生という表の世界を生きていても、深部という裏の世界がヤバい時であればその影響は表の世界に及ぶ事だってあるし、そもそもダラダラと生活する余裕すらない。
裏ではゼロットに宣戦布告されるというかなり危険な状態ではあるのに、表ではすごく余裕のある生活を送れていた。
平和ボケしてきたか、それほど慣れてしまったのか。考えれば考えるほど気が重くなってくる。高野は途中で考えるのをやめた。
授業と授業の合間の、教室の移動のための時間中の事だった。
遠くないのもあって時間的に余裕のある中、前方を歩いていた石井が、考えに耽っていたのか渋い顔をした高野に気付き、手を振る。
すると、高野も気づいたのか、顔を上げて考えるのをやめたようだがやはり様子がおかしい。
普通だったら自分を見つけて驚きに満ちた顔なんてしないからだ。
「?」
石井が不思議に思って近づこうとした時、向こうもこちらに向かって走り出した。
「れ、レン?」
いきなりの事に戸惑うも、何故か高野は自分をスルーしてさらに走っていった。
その先には見知った顔。ミナミが居たからだ。
「おいミナミ!何でお前がここに居るんだよ!」
深部の人間にしてはあまりにも普通の人間であるミナミは高野と一緒に表の世界で行動することはこれまでに何度かあった。
それでも、深部の人間である事に変わりはない。
高野が通う大学に深部の人間が現れたということは、普通でない事を意味する。
両肩を掴んで焦るように迫る高野に、ミナミは顔を真っ赤にしてその手をどけるように怒鳴る。
「何でお前がここにいるんだよ!」
「ウチだって来たくて来たわけじゃない!」
何やら微妙な空気だが、石井からしたらやっと会いたかった人が自分から来ている。
ワクワクしながらそれを眺めていると、
「……何かあったのか?それとも、アレか?」
互いにその意味が分かっていた。ミナミは無言で頷く。
「……ゼロットが、ウチらの基地である工場の写真を貼ったネット投稿をしているのを見つけた」
「はぁ!?」
本当だとしたら恐ろしい事だ。
相手方が自分たちの基地の居場所を知っているという事だが、それ以前にその情報が漏れていたという事になる。
「このままだと一方的に攻められるよね……?いつ来てもおかしくないよね」
「俺達は……奴等の居場所を知らない……。戦いは奴等がかなりリードを取っている事になるよな……俺らもすぐに対策しなきゃならねぇ」
「具体的にどうするの?」
「そうだな……まずは……」
高野はふと周りを見てみる。時間にはまだ余裕があるが、授業に出ようか悩むところだ。
いっその事面倒且つつまらない授業を抜け出して帰りたい。
その時にやっと石井を見つけた。
気まずそうな顔をして、彼女の肩を叩く。
「とりあえずこれは俺が対処する問題だからあまり騒がず、慌てないでいてくれ。まだどうにか出来る範囲だ」
「だからどうするのよ……」
答えになっていないことに不満を見せる。知りたいのはそれではない。
「今のジェノサイドはまだ連合の名残がある。追加でジェノサイドに加わった奴や連合で知り合った奴等に片っ端から話を聞いて情報をまとめてくるよ」
ともなれば、今やることはつまらない授業を受けることではなくなる。来た道を振り返り、帰路につく事に意識を移した。
「じゃあ待ってよ!ウチも帰る」
何だか置いてけぼりになりそうだったので急いでついて行こうとした。
「別にいいけど、お前どうやってここまで来た?」
「バスと電車で」
「そっちかー……」
普段ポケモンを使う高野にとっては面倒なパターンだった。
手持ちを見てみるも、二人で乗れそうなポケモンはいない。
ポケモンボックスでも開いてリザードンとオンバーンあたりを出そうとしたときだ。
「あ、別にいいよそんな事しなくて。ウチ寒いの嫌だから」
「じゃあポケモンで移動はしないのか?」
「うん。行きと同じで行くよ」
一瞬たまにはバスも使おうか考えたが、事態が深刻なので、あまり時間は無駄にしたくない。
結局一人でポケモンで帰ることにした。
「あっ、石井じゃん」
振り返ってやっとその存在に声をかけた。
「い、今ミナミちゃんいるんだね」
今まで気づいてもらえなかったのに加えミナミがいるという事で苦笑いしている。相変わらず作り笑いのような目をしていた。
「まぁな。ちょっとこっちの方で色々あるみたいだし。あ、あとさ今日サークル来ないから岡田たちが居たら伝えといて」
走り出そうとするのを石井の目が捉えた。
彼女からしたらミナミを置いていっているように見える。
「ねぇレン、一緒じゃなくていいの?」
「別に。時間は違えど帰る場所は一緒だし。何か話したいことがあったら話してくれば?」
意味がよく分からないまま高野は去っていった。
石井にはついて行こうとしてバスの停留所へと向かおうとするミナミの姿が見える。
「み、ミナミちゃーん。久しぶり」
どこかで聴いたことあるような声がする。ミナミがそちらへ振り向くと、横浜にて一緒だった高野の友達がいた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.172 )
- 日時: 2019/01/16 20:40
- 名前: ガオケレナ (ID: nj0cflBm)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「話は聞いたよ。今戻ってきた」
ガラガラと普段は開いている基地のリビングの扉を開く。閉めているのは寒いからか。
平日の昼前と言うことで人は少ない。
それぞれの用事でここにはいないのだろうと勝手に思ってみる。
「リーダー、わざわざすみませんね。大学放ってまで来てもらって」
ジェノサイドの研究者として常に基地にいるショウヤだ。
白衣を来て此処におり、何か飲み物を飲んでいた辺り休憩時間だったのだろう。
「ゼロットが、我々の基地の居場所を知っているようです」
「それについては聞いたよ。わざわざそれだけを教えるために大学までやって来た熱心な奴がいるらしいからな」
「……では、どのようにお考えで?」
緊張感からか表情が固まっている。しかめ面が多い彼には珍しい現象だ。
ジェノサイドは一度、軽く溜め息をつく。
「そうだな、まずは深部連合の時に一緒だった奴等に話をしてくる。あまりいい情報は得られないとは思うけど……それでも一人くらいは知ってる奴もいるだろう。もしかしたら協力もしてくれるかもしれない」
「それでは、今から行く予定ですか?」
不安そうに言うも、恐らく意味合いとしては「自分は何をすればいいか」というものだろう。ジェノサイドの研究チームにはメガシンカの研究以外何も命令はしていなかった。
それに気づいたジェノサイドは頭を掻きながら告げる。
「あぁ。何事も早い方がいい。いつ攻撃受けるか分からねぇもんな。まぁあいつらが把握してるのはダミーの方の工場のみかもしれないけど。あと、お前らにも頼みたい事がある。ゼロットについて出来る限りでいいから調べてくれ。名前の意味から、組織の目的、規模。些細なことでも何でもいいからさ」
「分かりました!」
ショウヤは駆け足でリビングを出ていった。勿論、カップは置いていって。
「んだよ……それが知りたいだけかよ……」
ジェノサイドは再びため息をついて基地を出た。
目的地は杉山渡という議員を打倒するため深部連合に加わった人たちに会うための、彼らの住処である。
人によっては深部連合解散後にジェノサイドに加わった人もいるがそうでない人もいる。
加わった人でも自分たちの組織のブランドを大切にしたいのか、メンバーとしてはジェノサイドではあるものの、住処としている基地はかつての物を使用している人もいる。
ジェノサイドの基地に入り浸っている連合出身の人に話を聞いても良かったのだが、外にいる人間の方が話を聞いていそうという勝手なイメージの元、ジェノサイド本人は今こうして基地を出ることにしている。
とにかく行動しなければならない。
少ない情報を手掛かりに、元連合の人へと会うために、ジェノサイドはリザードンを呼び出した。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.173 )
- 日時: 2019/01/17 15:23
- 名前: ガオケレナ (ID: i7z/PvOJ)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「それでそれで?ミナミちゃんは好きな人とかいないの?」
帰りたい……と割と本気で思ったことだろう。
高野がいなくなってすぐの事だった。石井がミナミを一気に捕まえ、「レンから了承得たから」と半分無理矢理にミナミをサークルの部室へと連れていった。
幸い部室には誰もいなかった。
「どうなの?あの時もずっとレンにくっついてたけど、やっぱりレンとか?ふふ……」
あの時、というのは横浜で会った時の事だろう。あの時は仕方なく付いていったという意味合いが強いのでそういう訳ではないのだが……
「あ、あのさ……ウチそろそろ帰っていいかな?さすがにリーダーに怒られそう」
「えー?レンって怒るの?ってか怒られて何されるの」
嫌らしい笑みを常に浮かべている。恋愛に疎いサークルだからこそ、こういう話題が彼女らの中で盛り上がるのも事実だった。
「知らないよ!とにかく今本当にヤバいからそろそろいいでしょ?」
顔を真っ赤にして手を振りまくる辺り何か想像したのだろうか。
石井からしたら何も聞いていないのでこれで帰すのはつまらない。
だから。
「じゃあ……今どんな事が起きてるの?それだけ教えてよ?」
踏み込んではいけない領域に入ってしまう。
ーーー
「ここで合ってんのか?人が……ってか他にも住んでそうな人が居そうなんだけど」
ジェノサイドの前には蔦が絡み合った古くてボロいマンションが建っていた。
最初これを見た時は、絡まってる蔦は外観の一種、デザインかと思っていた。
だがよく目を凝らすとシミが酷く、白い煉瓦がかなり黒ずんでいる。
単純に古い建物であり、安全性が脅かされているようにも思えるがかといって人が住めない程でもない。誰かが住んでいてもおかしくない。ゆえに深部の人間が住んでいるようには見えなかった。
しばらくマンションを眺め、どうするかあぐねていると、
「ジェノサイド?」
声のする方を振り向くと、スーパーの袋のような物を持った男の姿があった。
その男は、年齢は十代後半くらいで、限りなく黒に近い青……濃い青と黒が混ざったような髪色をしたショートな髪型をしており、体型はごく普通の中肉中背、服装もダメージジーンズを穿いている以外は特徴のない、"外見上"は一般人と見分けがつかないほどだ。それが当然なのだがそれが挙がるくらい特徴のない地味な男だ。
「お前は……確かー……」
思い出せない。顔と名前が一致しない。そもそもこのような顔をした人が居たかどうかすらを思い出せない。
ジェノサイドにはよくあることだった。自分にとって飛び抜けるほどの特徴がない限り、人の顔を覚えることが出来ないくらい苦手な事だ。
その中性的な顔立ちを見てもやはり誰だか思い出せない。彼から自分をジェノサイドと言ったので深部の人間である事は分かっている。
「俺?俺っすよ。モルト。爆走組って名前で組織やってた」
「あ、お前かー」
ルーク。彼と仲が良くちょくちょく彼と共に行動していた人が居た事をたった今ジェノサイドは思い出した。
「あっ!ルークと一緒にいた奴か!」
「とりあえず、なにかあるからここまで来たんだろ?袋部屋に置きてぇからとりあえず部屋上がれよ」
目の前にそびえ立つオンボロマンションの方向を歩いたと思ったら、そこの1階部分にある扉を開けたら入っていってしまう。
「本当にここ住んでんのか……」
嫌そうな顔を浮かべつつも、彼について行く事にした。
部屋は綺麗だった。
同じようなマンションに友達が一人暮らししているが、友達と比べると全然綺麗だった。
まず、座れるスペースが確保されている。食器類も片付いており、過しやすい環境であるのは間違いない。
「一人暮らししてんの?」
「んー、一応俺大学生だからね。ここから二駅行ったら大学あるし。カモフラージュが簡単なのもあるしなぁ」
それで何となく分かった。服装といい、雰囲気といい、どこからどこまでも大学生そっくりだからだ。
「それで?今日はここまで来てどうした?」
冷蔵庫を開けてスーパーで買ってきた食材を次々に入れていく。その手つきは慣れていた。
「ゼロットに宣戦布告された」
「知ってるよ。もう深部中で大騒ぎさ」
「ゼロットに俺らの基地の場所も暴かれた」
「それは知らなかったなー……」
「なぁ、お前は何か知らないか?ゼロットについて」
ベッドに座って慎重そうに言うジェノサイドの姿がやけに目についた。
モルトは動かしていた手を止める。
「ゼロットにか?」
「あぁ」
それからしばらく考えるように上の空になってみるが、
「分かんねーな。生憎俺みたいなBランクにはあまり縁の無い話だからな。Sランクだなんて」
お前と仲のいい人は自分と戦ったんだがと、今思い出しても可笑しくなる話を突きつけたくなったが言うほど変な話でもないし爆走組と戦った事も無いことからそれについては黙る。
「じゃあ……Sランクを巡って自分たちが戦うこととかは?」
ジェノサイドは、自分が特に懸念している支持派と非支持派の戦いについて言及することにする。
が、
「それも俺らには関係ないな。そういうのって簡単な言葉で言い換えてしまえば、ファンとアンチの戦いだしさ。俺は常にどこのファンでもないから適当にやり過ごすことにするよ。それともあれか?助けが欲しいか?」
「どっちかってと情報としての助けが欲しいな」
「そうか、そう言やルークは元気?そっちにいるんだろ」
「あっ、ルークは……」
ルークはポケモンの新作発売日まではジェノサイドの基地にいたものの、それから何処か行ったっきり音沙汰はない。
ジェノサイドはその事を告げる。
「へぇ、まだ諦めきれてないのかね。今から組織の再編成は難しいと思うんだけどな」
「そういやお前は?見たところメンバーは居ないようだけど」
「そりゃそうだ。ここは俺の家だよ。基地は他にある。と言ってもメンバーもかなり少なくなっちまったけどな」
連合に参加している辺り察しがついていたが、やはり彼も杉山の犠牲者だった。
ーーー
「悪かったな、情報あげられなくて」
「別に。すべてがすべてSランクの戦いに巻き込まれる訳ではないってことが分かっただけでも収穫はあったよ」
あれから二十分ほど居たが大したものは得られなかったので出ることにする。丁寧にも見送りまで付けて。
「それじゃあな」
「あぁ。また何かあったら連絡してこいよ。気にすんな、一応俺もアンタらジェノサイドの傘下に入っていることにもなりうるからよ」
ジェノサイドは背を向け、そのマンションを後にした。
次に会わなければならない人がいる。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.174 )
- 日時: 2019/01/17 15:41
- 名前: ガオケレナ (ID: i7z/PvOJ)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
いつになったら帰れるのだろうとソワソワしだしたところだった。
「じゃあ今ミナミちゃんやレンはヤバい奴と戦っているの?」
「んー、戦っていると言うよりこれから戦う、が正しいかな。本当は戦いたくないから今みんなが必死になって止めようとしているよ」
「なんで?」
石井の無邪気で無知な笑顔がやけに輝いて見えた。
やはり、彼女は深部とは一切関係ない一般人だなと強く思い知らされる。
もしも彼も、本当だったら彼女達みたく一般人として大学生活を謳歌していたんだろうかと考えると胸が痛くなる思いだ。
「ウチらも向こうも、あっちの世界を揺るがす程の大きな組織だからだよ。下手したら深部中が戦いに巻き込まれる可能性だってあるし、もしかしたら一般の人にも影響が……」
深部は元々ポケモンが実体化し始めた時期、所謂黎明期すぐに発足したが、その理由は実体化したポケモンを悪用する者達を根絶するためだ。当時はポケモンを持っていない一般人すらも彼らはその毒牙にかけた。
その時がまたやってくるのかもしれない、その事を必死に伝えたつもりだった。
「そうか……これから忙しくなるのになぁ。とりあえず、私たちが今まで通りの生活ができればいいとは思ってるけど、ね」
「リーダーは特にその事を強く思っているよ。あいつはこの世界と向こうの世界をきっちりと区別している人だから。それこそゼロットがこっちにまでやってきたら多分あいつ超キレるよ?」
「キレるレンかー。あまり怖くなさそうだな」
普段からおとなしい奴ほどキレると怖いんだよと言いたくなる気持ちを抑える。聞いたところによると彼女らサークルのメンバーは今年で高野と会って二年、つまり二年間一緒にいるものの、あまり高野の事を知らないようだ。
まるで自分だけが優越していることに多少口元を緩める。
石井も石井でニヤニヤしている。
端から見れば二人の地味な女子が個室でフフフと不気味に笑う光景が広がっており、見る者があれば見なかったフリをするであろう雰囲気なのだが、彼女達は彼女達で楽しんでいるので別に問題はない。
「ミナミちゃんやっぱりレン好きでしょ?」
いきなり言うもんだから笑みがフッと消え、激しく慌てる様を石井はこの目で見れた。
「そ、そんな事ないよ!!あいつとウチは同じ組織の人間!ってだけで!そういうのは全然ない!ただでさえ組織の皆から勘違いされてるってのに……もう勘弁してよー」
顔が真っ赤になり、熱くなったせいか手で扇ぐモーションをするも効果はない。ただでさえ今は冬だ。
「ぜったい嘘。さっきのその顔は好きな人を想ってするときの顔だったよ」
さっきの小さい笑みの事だろうか。鋭すぎる分析をされて目の前の女の恐ろしさを垣間見たミナミだったが、終始ニヤついてる人に言われたくは無い。
俯いて顔を赤くするだけなので石井もこれ以上言うのは可哀想とさすがに思ったからか、話題の方向性を変えてみることにした。
「どう?レンは向こうでも優しいの?」
それに対し、ミナミは黙って頷くと、
「うん。あいつはウチを助けてくれた。ウチにとって大事な人も、皆も。だから今度はウチがあいつを助けたいんだ」
言っているだけで苦しくなりそうだった。
彼にとっての救いとは何か、と。
このまま深部にいる事なのか、そうではないのか。自分のおかげで現況を突破できることなのか、そもそも現況とか深部とかが無い世界のことなのか。つまり、自分と居て幸せか、自分の居ない事の方が幸せか。
複雑な思いだった。
ーーー
どうやらジェノサイドは分からないことがあると山に登る癖があるようだ。
ここに来たのは何度目だろうか。
「私としても興味ありますよ、ゼロットには」
「お前は何か知っていたりするのか?」
「知っているつもりでした」
とは言っても仕方ないだろう。まともに話せるのが彼しかいないと判断したのだから。
標高約1200mの山の山頂に存在する神社の神主……それも、深部の人間限定の神主のいる場所。
武内はわざわざやって来たジェノサイドに茶菓子を持ってきながらそんな事を言っている。
「つい最近怪しい男がこちらにいらしたのですよ。自分をゼロットと名乗っていたのですぐに分かりました。しっかりとキーストーンと引換に情報もいただきました」
「それで?何か分かったか!?」
熱いお茶に苦戦しながら、湯呑みを一度置いてジェノサイドは聞く。熱すぎて湯呑みをひっくり返しそうになった。
「いいえ。いただいた情報はすべてダミーでした。深部のデータを扱ったウェブサイトにも彼の情報はございません。完全にやられましたよ」
かと言って、と言って武内は一旦間を空ける。
彼も茶菓子を嗜みたかったようで、一口かじりながらお茶で流し込むと話を再開させた。
「議会があなたたちSランクの情報を全く持っていないと言うことでもありませんよね?あなたたちは個別に議員に渡していたり、直接議会場という名の一種の役所で届出か何かをする。そのはずですよね?」
「あぁ。俺の場合は塩谷に預けているよ。最近事情が変わったからね」
塩谷とは杉山の一件で密接になった。塩谷は彼らのお陰で出世し、ジェノサイドも彼のお陰で無事でいられている。
もっとも、今はそうはいかなくなったが。
「ですよね。何とか少ない手がかりを頼りに手に入れたものがありました。ゼロットの情報源を」
「マジ?何だったの!?」
急いで和菓子を頬張り、武内の様子を伺う。和菓子とお茶の後味が何とも言えないくらいの心地良さをジェノサイドの全身が包む。
が、
「杉山です。彼がゼロットの情報を保持しておりました」
頭の中でフリーズが発生する感覚に襲われた。それが本当ならば今まで掌で踊らされていたに過ぎないことになる。
「今議会でも杉山の持ち物を整理して混乱しているところでしょう。一部ではあなたたちが暴れた所もあるようですし。とにかく、杉山がいない今ゼロットの情報を完全に把握している者はおりません。これから現れるでしょうが、多分あなたが戦っている頃でしょう」
「ま、待てよ……それじゃあ……」
すべてを理解した今、体の震えが止まらない。言うだけでも恐ろしい程だ。
「ゼロットは……俺と戦いたい大義名分のために杉山と繋がったり、塩谷を利用したって事かよ……?んで、今がその行動の時なのか」
「言いにくいのですが、恐らくそうでしょうね。あなたが不利である事には変わらないでしょう。そして、私もキーストーンを撒きすぎてしまったようです。争いが良くない方向へと向いています」
沈黙が二人を包んだ。
それぞれがお互いの事を考え、どうすべきか悩む。
「俺としては……奴の基地を暴いて牽制しようと考えていたんだが……」
「それは刺激するだけでしょう。と言っても対話を要求しても受け容れられないでしょうが」
「くそっ!じゃあ戦いは避けられねぇってのかよ!!」
「もしかしたらもう手遅れかもしれません。すべて向こうの作戦通りに事が動いています。このままでは、議会も乗り出しますよ。あなたたちに対して」
ジェノサイドは議会が抱いている、彼らに対する思いを知らない。その長が塩谷だからだ。
だが、現実はそうはいかない。
どういうことか、とジェノサイドが尋ねる。
「議会としてはあなたたちジェノサイドは脅威そのものです。考えてみてください。あなたたちは不満を持った深部の人間をかき集め、連合を自称した反乱軍を結成して議会へと殴り込んだ変革者そのものです。それが成功してしまった今、彼らの思いは容易に想像つくと思いませんか?」
「で、でもそのトップは塩谷だろ!?あいつに限ってそんなこと……」
「えぇ。だからこそですよ。今頃彼も苦しんでいますよ。議会からやれ、と言われ、ゼロットからも圧力を受けているのですから。そのストレスも相当なものだと思います」
ジェノサイドは余計に頭を抱える。事態は思った以上に大変な事になっていることに。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.175 )
- 日時: 2019/01/19 16:26
- 名前: ガオケレナ (ID: gfxukZ12)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
もうどうすればいいのか分からない。と、言うのは組織のトップとしては無責任すぎるだろう。
様々な思いを乗せながら如何にして現状を打破できるか考えてみるものの、やはり無理なものは無理だった。
(すべてが……上手く行き過ぎている……今から足掻いても無駄って訳かよ)
もういっその事全面的に戦う姿勢を見せて返り討ちにしようかとも思った程だ。
自分たちの基地の居場所が分かる以上、迫り来る敵をすべて倒してしまえばいい。
そんな風に投げやりになっているときだ。
何故か自分が大学に来ていることに気が付いた。
今の時刻は夜の7時。大山を降りて帰ろうとしたときについ無意識にここまで来てしまったようだ。
今のこの事を誰かに相談したい。皆に会いたい。話がしたい。
そんな思いが無意識の内に取り込まれ、ここまで来てしまったのだ。
「……何やってんだかなー俺。時間も時間だし寄り道がてら行くか」
結局高野は本来は行かない予定だったサークルへと足を向ける。
相変わらず集まっているのはいつものメンバーだった。
どうせ何もしないのにいつも来るとはどんだけ暇なんだと言いたくもなるがそれは彼にも言える。
「よう」
力がこもっていない声を上げながら教室の扉を開ける。
今日は来ないはずだと知らされていた彼らは何だか少し驚いている様子だ。
「れ、レン君?今日来ないんじゃなかったっけ?」
3DSを持ちながら意外そうに彼を見ているのは、高野の先輩である佐野剛だ。
彼が居ると周りの人もそれにつられるのはムードメーカー故の宿命か。
「そうなんですけど、近くまで来てたんで来ちゃいました。暇ですし」
「嘘ばっか」
一瞬、高野の体が固まる。いきなり聞こえたその不気味な声の主が誰だかすぐには分からなかったが、まるで何かを知っていそうな雰囲気を感じ取る。
「……えっ?」
「気にしなくていいよレン君。とりあえず座りなよ」
佐野にそう言われたので、彼は大人しく近くの椅子に座ることにした。
そこで高野はいつもとは違う、おかしな雰囲気をやっと察した。
「なんか……静かですね。みんないるのに。どうかしたんすか!?」
と、半ば無理をして笑顔を見せるも効果はない。と、言うのも彼が来た途端静かになったのだから。
「あのね、レン君。非常に言いにくいんだけど……」
勝負がついたのか佐野がゲーム機を閉じて高野の方向へと椅子を向ける。
対戦相手であったであろう松本先輩が軽くガッツポーズしているのがチラッと見えた。
「レン君。また最近何かやらかしたようだね?それも、ちょっとシャレにならないくらいの」
ゾッとした。何故だか知らないが一般人である彼らに知られている。
シャレにならない、というのは恐らく杉山の一件のことだ。事情を知っているのなら何故こうもダイレクトに言うのだろうか。
「知っているんですか?俺達のこっちの動きも」
「今日石井ちゃんから聞いたんだ。何でも、大暴れしたんだって?」
「っ!?」
鬼の形相で石井に振り向き、睨む。彼女はやや怯えながら、「ごめん……ミナミちゃんから聞いたんだ……」とか言っている。
あいつの仕業かあの野郎と何度も頭の中で唱える。怒りと悲しみで感情のコントロールがきかない。
だが、このままでは彼らは勘違いしたままだ。ただでさえ無差別に狙うテロリストと勘違いされているのに、議員とかいう偉そうな人を殺しましただなんて思われたらたまったものではない。
「少し事情があるんです。深部の世界には議会があって……」
「それも全部聞いたよ。ここにいる人は皆事情を知ってるから大丈夫」
全然大丈夫ではないのだが、説明の手間が省けた。それでも気持ちの整理はつかないが。
「それでレン君。今それのせいで凄いのと戦うんだって?」
ゼロットの事についてもお見通しだ。一体あいつはどこまで話したのか気になる。
「えぇ。やりますよ。もうアイツら全員ぶち殺します」
「それならいいんだけどさ、どうも石井ちゃんが言うには、僕らにも被害が及びそうとかなんとか……」
つまりは深部の争いに一般人までもが巻き込まれることについて不安を感じているのだろう。本心としては相談したかった高野にとっては「頼むから関わりたくない」と冷たく突き放されているように感じ取られて一気に気持ちが冷めていく。
もっとも、普通の人間からしたらそう考えるのが普通であり、高野もそれを理解しているが。
「別に。俺を誰だと思ってるんすか?まー、一般人には分かりにくいでしょうが、俺はこう見えて深部で一番の実力と影響力持ってるんすよ。そんな、どこからか湧いてきた奴らに遅れを取るわけがない」
自分でも無理して言っている事はわかっていた。もしかしたら表情に表れたかもしれない。
それでも、高野は彼らのために最後まで無理をする。
傷ついてほしくない。ただ、その一心で。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.176 )
- 日時: 2019/01/19 16:34
- 名前: ガオケレナ (ID: gfxukZ12)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
気まずいままサークルでの時間は過ぎてゆき、相変わらず先輩たちは金稼ぎのために途中でサークルを抜ける。
気まずくなった彼らは我慢出来ず、解散時間よりもやや早く教室から撤退することになった。
このまま皆各自解散してお別れ。そうなるはずだった。
だが、高野としてはそれだけは避けたい。誰でもいい。せめて相談だけでもしたかった。
「な、なぁ香流。ちょっといいか」
自分の手が友達である香流慎司の腕を掴んでいた。
彼は彼でびっくりしている。
「な、なに?」
「なぁお前時間あるだろ。少し付き合ってほしいんだけどさ」
その言葉に、香流だけでなく二年全員が反応した。多分皆ろくな事を考えていない。
「別にいいけど……何すんの?」
「少し話がしたい。この近くに公園あるからちょっとそっちに行こうぜ」
と言って香流を半分無理矢理な形でポケモンに乗せ、彼のお気に入りの場所まで案内される。
その公園は、この地域にしては珍しく、赤いレンガで作られた西洋風の橋が建っていた。
その下には農業用の水が流れており、その水源は同じく農業用に作られた溜池だ。
ここはジェノサイドが初めてメガストーンを手に入れ、また初めてレイジやミナミと出会った土地、長池公園だ。
大学の最寄りの駅から一駅越えたところにある、比較的近い場所だ。
「どうしたの?急に」
12月に水場のあるところは少し冷える。香流は時折肩を震わせた。
「ごめんな、急に。どうしても誰かに話したくて」
そこには先程まで強気だったジェノサイドの面影はなかった。あるのは友達としての高野洋平である。
「俺……どうしたらいいのか分かんなくてさ……」
頭を抱えながらその場にへたりこむ。地面が石なので冷たい。
「え?えっと、どのように?」
事情が全く分かっていないようだ。当然と言えば当然だが。
高野は決心したかのようなため息を一度つくと、友人・高野として正直に事情を話すことを決めた。すべて理解されるとは思っていないが。
香流からしたら珍しい光景だった事だろう。
悪事を働き深部でトップの人間で常に恐ろしい言動を放ちつつも、どんな強敵とも渡り歩いた彼が、今ここで弱音を吐いているのだから。
「戦いの優先権は全部向こうが握っている。俺も負けじと色々情報を集めようとしているけれど必ずどこかで止まるんだ……。何故止まるのかそれを調べても、行き着くのは向こうが持つ膨大なネットワークの広さと、以前戦った奴の名前が挙がるのみ……要するにもう詰んじまった。このままじゃ仲間も居場所も全部なくなっちまうよ」
「こ、こっちは深部じゃないからよく分からないけどさ……」
香流も香流で焦っているようだ。いきなり機密情報を喋られたら誰だって驚く。
「まずレンはどうしたいの?そこから考えてみたら?」
「……どうするって、どういう事だよ」
「んー、言葉にしにくいんだけどさ」
彼が日常世界でよく言う言い訳みたいなものだ。それに反して的確である事がよくあるのがお約束だ。
「レンはどうしたいの?戦うの?逃げるの?まずはそこからじゃないかな」
「お前は俺に何を伝えたいのさ」
香流は何だが戸惑っている様子だ。あまり言いたくないことでもあるのだろうか、それに気づいた高野は構わず言えと言ってみる。
「あのね、ぶっちゃけて言うと……自分やサークルの皆からするとさ、レンのやっている事の意味が分からないんだよ。今までは普通の大学の友達とかだったのに、レンには裏があると言うか……自分たちからしたら深部の事が意味分からなすぎるんだ」
「つまりどういうことだ?深部から手を引けって言いたいのかよ」
「うん。レンには深部をやめてほしい。皆そう思っているんだ」
高野からしたら衝撃の事実を突き付けられたようなものだった。
と言うのも、高野もこの現況を考えると何度も思った。
自分がもしも深部とは関係なく、普通の人間だったらと。
もしも普通の人間だったら、どれほどまでにこの大学生活が美しかったかと。
だが。
「無理だよ」
ジェノサイドとしてトップに立っているからこそ言える。
自分が深部から抜けるのは不可能だと。
「俺はもう深部で一番の人間になっちまった。自分がいるだけで世界が二つに分かれてしまうような存在になってしまった以上、俺が今更メンバーも名誉も世界をも捨てて普通の生活をするなんざもう無理な話なんだよ……」
この世界は底なし沼だと高野はよく考える。
入るのは簡単。だが、一度足を入れると、もがけばもがくほどどんどん深くへと沈んでしまう。
二度と戻ることはできないのだ。
ジェノサイドとしての本音を彼に見せてよかったのか、高野は悩んだ。根本的な解決へは向かわなかった。
でも、それでもいい。話を聞いてくれたから、悩みを吐き出せたから。
「ありがとう、香流」
ジェノサイドは立ち上がる。自分の中で決心はついた。
「話聞いてくれてありがとう。お陰で楽になったよ」
このテンションが続けば、この気持ちに揺らぎが無ければいける。
打倒ゼロットを今、この胸に誓う。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.177 )
- 日時: 2019/01/19 16:55
- 名前: ガオケレナ (ID: gfxukZ12)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
寄り道をしなければ7時には基地に着いていただろう。
だが、実際に着いたのは9時過ぎだった。
リビングの扉を開けた時、待ってましたとばかりにショウヤが飛び上がる。
「遅いですよリーダー!何をしてたんですか、ただでさえ不安なこの時期にフラフラ出歩くのはやめて欲しいと言ったのはリーダーだったじゃないですか……」
「悪い、ちょっと寄り道してたんだ。それでさ……」
「ゼロットについてなんですけどー」
ジェノサイドとショウヤの言葉が被る。
お互い「あっ、」と言ってしばらく譲り合うが結局はショウヤから話すことになった。
「ゼロットについてなんですけど、申し訳ありせん。彼らの居場所や規模まではどんなに調べても分かりませんでした……。組織としての目的なんですが、これについては分かりました。興味深いことに、無いのです」
「は?」
言っている意味が分からなかった。唐突に「無い」と言っているので「興味深いことに無い」、つまり「興味が無い」のか、「分かったのに無い」、つまり「分からない」なのか。とにかく目の前の男の日本語がおかしいのかと思い、どんなに思考を巡らせても答えは出ない。
「あ、いえいえ、そうではなくてですね……彼らの目的が文字通り無いのです」
「だったら初めからそう言えよ……」
深く考えた時間が無駄だった。それだけでなく単純に考えられなかった自分が馬鹿みたいだ。
だが、目的が無いとはどういうことか。
本来、深部の組織には目的をそれぞれ持っている。その目的の達成のために組織は設立されるからだ。
言い換えれば、目的が無ければ深部組織として認められない。つまり設立できないのだ。
それが無いということ、それは。
「非公認の組織の線は有り得ませんね。議会の見解としては非公認の組織=排除の対象ですので。真っ先に消される的ですよ。なので考えられるとしたら……議会の命令で作られた組織かと……」
「そんな事があるのかよ!?だとしたら新しい組織って事か?それはない。俺の記憶が正しければ、ゼロットとかいう組織の名前だけなら俺達の組織設立間もない時にチラッとだが見たことあるぞ」
「だとするならば……」
ジェノサイドの記憶はアテにならない。まともに人の顔も覚えられないのに、四年も前の事を覚えてるとは考えにくいからだ。だからといって無視はできないが。
「恐らくゼロットは、議会が何の目的も持たせないで、テストとして作った組織が前身の可能性がありますね。その名残として今でも目的がないのかも」
「でもそれは何か問題なのか?大したことはないと思うんだが」
「いえ、目的が無いのなら、どんなに悪どい事でも彼等にとっては正当化できてしまうんですよ。今回の私達に対する宣戦布告も、彼等だからこそ出来たことなのではないでしょうか」
確証は無いにも関わらず、彼が言うと何だが説得力があるように思える。
自分がどんなに苦労して集めようとしても集められなかったゼロットの情報を手に入れたからか。
「次に、ゼロットという名称ですが、これはイエス・キリストが生きていた時代に古代パレスチナで実在していたユダヤ教の宗教的な集団、"熱心党"の別称のようです。いかなる時にも暴力を持って制しようとした、今で言う過激派の連中ですね。何故この名前を付けたのか定かではありませんが、これまでの行動を見ていくと、名前の通り活動しているとも読み取ることができます」
「別に名前はどうでもいいだろ……参考にはなるかもしれないけどよ」
とにかく、イメージだがどんな奴等なのかは何となくだが想像はできた。
あとは基地の居場所を特定出来ればいい話なのだが……。
「報告は以上です。今後も調査を続けていきます」
「分かった、俺も出来ることはやってみるよ」
と、いうことで振り向いた先に、ミナミがいた。
そう言えば、彼女には説教をしたかったはずだ。
「あっ、そーだ思い出した、ミナミ!!」
つかつかと足音をわざと鳴らしていそうな歩き方をして彼女達へと近づく。
「お前あいつらに俺の事話しやがっただろ、なんで話すんだよお前ー」
「ご、ごめん……思った以上に強引だったから……」
石井の事だろう。そうだろうとは思った。こういう時あの女はしつこくなるからだ。餌食にされたか……と思いつつも決して同情はしない。
「それでもお前は話しすぎだ!あいつらほぼ全員もうこの事すべてを知ってるぞ!もしこれからあいつらに変な影響が出たらどうすんだよ」
「で、でもそう簡単に何か起きるわけじゃ……」
「違うんだよそれが」
ミナミは彼らの事を知らなさすぎた。それに加えて話しすぎた。この事が間違いであったとやっと気づいたであろうか。
だが、ピンと来ない様子だ。
「あいつらは本当にアホなんだよ……いや、勉強とかはできるから馬鹿ではないんだけどアホなんだよ。何ていうか……あいつらは自分達が若いと思っているからタイミングさえあればどんな無茶でもするんだよ。若さゆえの~とかに一番あやかっているのがあいつらなんだよ!一般の人ならアホだろと思うことをあいつらは平気でやって退ける。最悪深部の戦いにも……」
言いかけたところでジェノサイドも言うのを止める。
実際にそれを想像したからか、それともあまりにもスケールが大きすぎるからか。
「とにかく、」
怒りも自然と収まったのでミナミに背を向けつつジェノサイドは続ける。
「今後俺らの事を話すのは禁止!あいつらとは、どんなに仲が良くても、仲が良いからこそ喋るなよ。これだけは絶対守れよ」
後半わざとらしく恐怖感を煽るようにトーンを下げて威嚇してみたが効果はあっただろうか。
確認をする間もなく部屋へと戻ったのでそれは分からない。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.178 )
- 日時: 2019/01/19 16:54
- 名前: ガオケレナ (ID: gfxukZ12)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
あれからよく眠れない日々が続いた。何故自分がここまで寝れないのか、何が原因なのかそれが分からない。いや、もしかしたら本当は分かっているのに分からないフリをしているのか。後者な気がしてくる。
夜に寝ようとしてもうまく寝れずに、結局明るくなってから寝てしまうので授業に遅れる日々が続く。
今日もそんな日だった。
戦うことを誓ったあの日から一週間以上経っている。にも関わらず、何ら変わったことはなかった。
日常生活にも支障はなし、深部での生活も、相変わらずゼロットに関する情報が見つからない事に一々腹を立てる事以外は何も起きなかった。
12月15日月曜日。
起きた時間が授業開始時刻だったので早速大学に行くことは諦める。
その次の授業には間に合わせる気でいた。
「ジェノサイド、お前学校は?」
今リビングに誰がいるか確認したら、チラホラ顔見知りのある構成員がいたものの、声をかけてきたのは見覚えのない男だった。
恐らく深部連合解散後にジェノサイドに流れてきた他の組織出身の者だろう。
鬱陶しそうにジェノサイドは言う。
「……あるよ、もう始まってるけどな」
「寝坊か。最近多いよな、お前」
他の組織からやってきた人は自分に対する言葉遣いが何となく違うので、それが顔の覚えるのが苦手なジェノサイドにとっての見分け方だった。
最初からジェノサイドにいる人間は自分に尊敬を込めてか敬語混じりの明るい話し方をする。
まるで、距離感がほとんど無い先輩と後輩のような関係だ。
「少し休んだら行くわ」
「オイオイ、そんなんでいいのかよお前。ゼロットに宣戦布告されてからもう二週間、俺達が逆に宣戦布告したのも先週の事だろ?お前が居ない時に攻撃でも食らったらどうすんだよ」
「別に心配ねぇよ。大学からここまで近いし。全員が逃げられるまでの時間稼ぎがちゃんと出来ればそれでいい」
「天下のジェノサイドが……逃げんのかよ」
どうやらこの男は戦略的撤退という言葉を知らないらしい。
深部で言う戦争とは、組織間の争いである。その勝敗の決め方は相手方の人間の殲滅または相手方の首長による降伏若しくはその撃破で決まる。
戦争は何も一日で決まるものではない。降伏宣言をしないで逃げている間も戦争期間としてカウントされる。
そしてその期間内に一ヶ月間、お互いに接触が無い状況が続けば深部公式に戦争が終戦とされ、今後一切の衝突を禁止とされる。
ジェノサイドは戦う意思を見せたものの、自分達が有利な立場に置かれるまでは逃げの戦いをすることを考えていた。
「勝手に言ってろ。俺もお前も死にたくない思いは一緒だろーが」
水を一杯だけ飲むとその場から離れた。やる気が起きないが大学へと行くことにする。
ーーー
「月曜か……めんどくさい」
図書館の椅子に座って時間稼ぎを目論んでみる高野だが、思ってる以上につまらない。
折角図書館にいるのだから雑誌でも何か眺めようかと席を移動する。
時間のためか、人はあまり居なかった。昼過ぎの授業中ともなると帰る人が出てくる為だ。
(どうすっかな……これから)
ポケモンの情報のためにアニメ関連の雑誌を手に取ってみる。アニメや流行が知らないため、読んでも意味が分からないので普段は絶対に読まない物だ。
(新しいメガストーンも探さなきゃだし、ゲームも進めないとだな。ったく、やる事成す事面倒事ばかりで嫌になる)
どんどんページを捲っていくも、目当ての物は見当たらない。
不満気になってその雑誌をやや乱暴に元あった場所に置くと、図書館を出た。
時間を見ると、自分が今サボっている授業がそろそろ終わる頃だった。今から次の授業の教室に行ってしまえば何の問題もなくなる。
教室内はやはり、と言うか当然にも誰もいなかった。
高野は一人ガラガラの教室にも関わらず後ろの方へ座る。
終了時間を告げるチャイムが鳴り出した頃から続々と生徒が入ってきて、各々座り始めると少しずつ教室が埋められていく。
空きはいくつかあるものの、時期とこの時間を考えると人は多いほうだった。それはつまり、楽な授業を意味する。
授業開始のチャイムが鳴るも、教授はまだ来ない。いつもこの授業は遅れて始まる事を思い出す。
10分後に教授が来るも、まだ寝足りない高野はこの時間も寝てしまった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.179 )
- 日時: 2019/01/19 17:03
- 名前: ガオケレナ (ID: gfxukZ12)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
本来であれば今日のスケジュールだと授業は三つあった。
昼前に一つと、昼食後に一つ、夕方に一つだ。
高野は最初のコマを休んだために今日受けた授業は二つ。それも、寝ずにしっかりと受けた授業は最後のコマだけだった。
空はもう暗くなりつつあった。
冬になると暗くなるのも早い。もうそんな風に思わせる時期である事を悟る。
「やっぱりこの時期になると寒いな……たまには電車とバスで帰るのもいいかもな」
他の生徒に混じってバスの停留所まで久々に歩く。相変わらず授業終了間際というのもあり、かなり混んでいたが、さほど問題になる程でもない。
今日もこれで終わり。そんな事を考えるとただ虚しくなるだけだった。
こんな生活でいいのかと。ただただ授業受けるだけの毎日。それも、それらはまともに受けていないものばかりだ。
ただそれだけで一日を過ごしていて、果たしてそれが良いと言えるのだろうか。
「んな訳ねぇだろ」
自分でもそう思っている。それほどまでにこの日常は普通でいてつまらない。
だが。
それは自分が深部にいて分かった事だ。つまらない日常ほど過ごしやすくてかけがけのないものは他にはない。
それを言い換えたのが平穏、だろうか。少なくとも高野はそう考えていた。
(かと言って……深部を辞めるほどでもねぇな。それこそこの世界、この人生は酷くつまらなくなっちまう)
香流はああは言っていたが気に留める程のものでもなかった。なのに、繰り返し自分の中であの時のやり取りが蘇るのは何故だろうか。
適当にバスに揺られ、電車での比較的空いている一番奥の車両にて立っては座り、その結果いつもの倍以上に基地に着くまでに時間がかかった。
どちらにせよ完璧に楽な移動手段がないと言うことか。基地の場所で失敗したか、車というまた別の選択肢を取るかのどちらかを考えれば済みそうな話ではあるが。
「たっだいまー」
力の抜けたほぼ棒読みに近いリーダーの声を聴いて、リビングにいたハヤテが駆けてくる。
「今日は大丈夫でしたか!?」
「見りゃ分かるだろ。何ともねーよ」
無駄に心配する彼をよそに、ジェノサイドは呆れながら自室へと向かう。
部屋に入り、適当に鞄を放り投げてベッドで横になった瞬間、ノックも無しにミナミが入って来た。
「おかえり」
「あぁ」
今から寝たい、鬱陶しいという本音を隠したまま何も言葉を交わそうとせず瞼を閉じる。
「あ、あのさ……ウチね」
ミナミが言おうとした時だった。
ジェノサイドはふとした事で目を覚ます。
ミナミも同様に振り返った事だろう。
上の階のリビングから、クラシックを彷彿とさせる音楽が聴こえてきたからだ。
「なに?これ……」
音源の下の階にいるジェノサイド達にもよく聴こえた。特にミナミは此処では初めて聴くので珍しい光景ではある。
「これは此処の電話が鳴ってる音だな……」
だが珍しいのはただ鳴るだけではない。
この基地に電話が掛かる事が珍しいのだ。
本来だったらスマホを持たない構成員の為や組織全員への連絡として使う物であるが、今このタイミングで鳴る事がよく分からない。
音源のリビングへと行くと全員が電話器の近くで固まっていて、全員がそれを眺めている。
「おい、どーした。皆でそこに集まりやがって……誰かしら出ろよ」
と言いつつ、ジェノサイドが人混みを割って受話器を取った。
念の為にスピーカーモードにして全員に聞こえるようにしてみる。
「もしもし?」
すると。
『もしもしぃ〜?ジェノサイドの基地で合っているかなぁ?』
やや高い男の声が聴こえた。
そこにいた全員の様子を伺うと、その全員が目を丸くしている。
誰もその反応ということに気づくことは一つ。誰も知らない声の主であるということ。
それを察知したジェノサイドは、近くに置いてあるメモ用紙とペンを取って、
「黙ってきいてて!!」と、大きく書いてみせる。
「誰だテメェは。知らない声だぞ?」
『へぇ?最近増えた人間一人ひとりの声も全部聞き慣れているとは、さすがだねぇ〜。天下のジェノサイドさんよ』
相変わらずテンション高めの調子のいい声がするのみだ。誰だか知らない分余計に腹が立つ。
『それが気に食わねぇんだよ』
人の恐怖を煽る声だ。それだけで一気に様変わりする。
『テメェが天下ってのが全っ然気に食わねぇんだよ!!』
受話器から、スピーカーから怒号が聴こえる。
「り、リーダー……これ誰でしょうか?」
と、か弱そうな構成員がそんな事を聞いてくるも、「知るか」とジェスチャーしてみる。
『あー、何?自己紹介?そういや電話でのマナーだったな?んー、じゃあゼロットって言えばいいかな?ヘヘッ……』
恐らく、そこに居た全員が固まった事だろう。
遠くの方で何かしらの機材を落としたようなガチャンとした音が微かに聴こえた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.180 )
- 日時: 2019/01/19 17:20
- 名前: ガオケレナ (ID: gfxukZ12)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
どのようにしてこの基地の居場所はおろか電話番号を知ったのだろうか。
その旨をジェノサイドは告げる。
『ん〜?あぁ、あの写真とこの番号か……別に?単に頑張って探しただけだぜ?根気よくな。まぁ一番参考になったのはテメェが前に組んだ深部連合だっけか?あそこで動いていた奴を適当に捕まえて適当に吐かせた』
と、言うことはその深部連合出身の人間は自分達を裏切ったということか。てっきり被害者ばかりを集めたチームだと思っていたが間違えたようだ。ジェノサイドはそんな野蛮な人間を信じすぎてしまった。
「へぇ……じゃあソイツも後でシメとかねぇとな」
受話器を強く握る。かなり小さくミシッと音がしたが恐らく問題はないだろう。
『いやぁ、それは無理かもね?テメェがコッチの居場所を特定した時はソイツもう居ないかもね』
「あっそう。それじゃ手間が省けてイイや。コッチもコッチで忙しいんだ。無駄に俺ら煽っても無駄だからな?切るぞー」
『別にいいぜ。どうぞご勝手にな』
ゼロットが折角そう言ってくれたので受話器を耳から離した。
その時、スピーカーからは続けて声が聞こえる。
『テメェの大学のおともだちがどうなってもいいならな』
想像もできないくらいのスピードで受話器を耳に戻した。一体奴は何を言っているのだろうか。
「テメェ……何を言ってんだ……?」
声が少し震える。ジェノサイドの近くにいる者は、動きが活発だった彼の心臓がさらにバクバクしていることに気づく。
声だけではわかりにくいが、その顔は怒りに満ちている。
『ん〜?ちゃんと言わなきゃ駄目か?じゃあ簡単に言うとだな……』
間隔を空けられた。不安な時に無駄に空白の時間が流れると余計に気が立ってくる。我慢できないくらいだ。
『人質?っつーの?まぁとにかく、何人かこっちで身柄押さえてますわー』
嘘だと思いたい。どうせ奴の事だ。ハッタリを言っているに違いない。そう言い聞かせてるときだ。
『えーと?メガネの似合う香流君にー、長髪のスレンダーな石井ちゃん?それからー、ストーリーが進んでないせいかポケモンの腕は弱っちいけどやけに強いピカチュウ?を使う……えーと君は……?吉川くん?ありがとー。だそうです。聞いたかー?ジェノサイド』
思考が止まった。受話器を持ったまま背を向き、走り出そうとしたが、逆に受話器に繋がる紐に引っ張られた。反動で電話器がズレる。
『早く来ないとどうなっちゃうかなー?頑張っておともだち助け出してみせなよ?あ、でもここの居場所分からないかー……まぁせいぜい日本全国彷徨いまくって見つけ出し……』
言っている途中で思い切り受話器を叩くように置く。
「リーダー……これは……」
震えたハヤテがジェノサイドを見つめる。電話が終わった途端全員が一斉に電話器から離れた。
「恐らく本当だ。電話越しだが、奴らは……俺の友達はそこにいる……」
「なぜ、このような事に……?」
「知るかよ!ゼロットの奴が何かしらの方法と情報で接触したに決まってる!!」
叫んでいると、今度は自分のスマホがポケットの中で振動する。
こんか面倒な時になんなんだ、と思った彼だったが着信元を見てその気は失せた。
「……香流?」
間髪入れずに通話ボタンを押す。
普段通りの、彼の元気そうな声が聴こえた。
『もしもし?レン?ごめんね、びっくりしたよね?』
「香流!!お前今何処で何してんだよ!無事か!?」
『こっちは無事だよ。皆も大丈夫』
何が何でも信じたい言葉だった。
電話ゆえ向こうの状態が確認出来ないのが悔しい所だが不安は少し和らいだ。
『今、皆で千葉にいるんだ。幕張……。千葉県にある海浜幕張ってところに』
「地名くらいは俺でも知っている。問題はそこの何処に居るって事だ」
『分からない……大きな建物には居るんだけど……。え?名前?なに?吉川……』
電話中に香流の声が遠のく。スマホから耳を離して向こうで会話でもしているのだろう。
『もしもし?ごめんね、レン。今はワールドビジネスガーデンって所にいるんだ。そこに皆居るから、その……なんと言うのか……』
香流の言葉が詰まっていく。
表現が難しいのだろう。
『もしも、可能ならば、助けに来て欲しい』
当たり前だ、とジェノサイドならば言った事だろう。
だが、あえて無言で通話を切る。
彼はすぐさま駆け出した。
「待ってください!我々はどうすればいいんですか!?」
走り去ろうとするジェノサイドを止めるためにハヤテが大声で叫ぶ。
舌打ちをして足を止めるとジェノサイドは、
「来たい奴だけ来い。何人かはここに残れ」
それだけ言うと姿を消してしまった。
残された者は。
しばらく考えた後、まるでパニックに陥った集団のようにあちこちに飛び散るように一斉に走り出す。
外までバタバタと走る音が聴こえた。
近くに敵が居たら住処すらもバレるんじゃないかと思うくらいに。
冬着を着込んだミナミは、カイリューを呼び出して乗ろうとしていた時だ。
「リーダーも行くのですか?」
外は寒いのに服を変えていないレイジが見送りに来ていた。と言うことは彼は行かないらしい。
しかも、その服には未だに乾いた血がついたままだ。どうやらもう取れないらしい。
「まぁね。ウチも少し責任感じちゃってるし、それに……」
ミナミは、偶然見る事のできた、受話器を離してすぐに走ろうとしたジェノサイドの顔を思い出す。
「絶対によくない状態だよあれ……何するか分からないし、周りが見えてないかもしれない状況だから些細なミスが命取りになるかも……それが怖いの」
少し乗るのに苦労しつつもミナミは完全にカイリューに乗る。
「ごめんね、レイジ。心配かけて。ウチ行くね」
「いってらっしゃい。お気をつけて」
誰よりも早く飛んだジェノサイドを追い掛けるように、彼女も空へと消えてゆく。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.181 )
- 日時: 2019/01/20 11:18
- 名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
出る時間と到着する時間を確認していなかったので、移動にどれほどの時間が経ったかは分からなかった。
だが、感覚的にもそうだが、普段電車でここまで来るのに二時間近く掛かったので多分それくらいはしただろう。
彼の体は冷えきっている。体は震え、顔も真っ青を通り越して真っ白になっている。
海浜幕張駅にジェノサイドは居た。時間は20時。人はまだ多く行き交っている時間帯だ。
本来ならば派手にはやりたくない彼だが、知り合いを人質にされている時点で行動を抑えるほどの事はしたくない。とにかく何が何でも成功させたいからだ。
通話でしか場所を教えて貰っていないので、細かい居場所を彼は知らない。ジェノサイドは特に詳細を聞かなかったのでここから先の行き先が分からない。
早く来たのにすべて無駄になってしまった。仕方ないので自販機で温かい飲み物を買ってその場で飲む。
仲間が来るのを待っている間に、ジェノサイドは飲みつつ手持ちの整理をした。
状況と相手が問題なので念入りに行わなくてはならない。だが、結局はゾロアークを使って終わりなのだが。
今回も使う予定だ。
そんな事をしている内に少しずつ仲間がやって来た。
見た感じ百人ほどか。
「遅い」
「先に勝手に行っちゃうからですよ……でもちゃんとした居場所を教えていませんでしたね」
ウォーグルから降りたハヤテが一点を見つめる。
「向こうです。行きましょう」
周辺の地理に詳しいハヤテが先頭を歩く。
百人ほどを連れて歩くだけでも異様な光景なのに、ただでさえ人が多いのでペースが遅い。
イライラしながらジェノサイドがハヤテの隣へと走る。
「おい、遅ぇよ。走れよお前」
カッカして周りが見えていないジェノサイドをものともせず、普段と変わらない静かな調子でハヤテは答える。
「少し落ち着いて下さいリーダー。今のあなたは向こうの挑発に乗せられています。焦らず、ゆっくりと冷静さを取り戻しつつ、これからについて少し考えて……」
「今のこの状況で落ち着いていられっかよ!!」
ジェノサイドは怒鳴った。一度胸倉を掴もうとして、手を伸ばしたが、結局止めてしまう。
彼に怒りをぶつけても意味が無いからだ。
舌打ちをしてハヤテと同じペースで歩く。
「俺の友達が人質にされてんだぞ」
「仮にそうだとしても、手荒な真似はしていないと思いますよ。場所が場所ですし。彼等が最も恐れているのは何だと思いますか?報復ですよ」
答えようとしたら間髪入れずにハヤテが答えたので何の為に質問口調だったんだよと心の中でツッコミを入れる。
「我々深部が展開するポケモンバトルにルールはありません。少し極端な言い方ですが、我々はポケモンの腕だけで高みを目指しています。結局は、ポケモンが強い組織の長が頂点に立つ世界です。と、言うことは言い換えれば相手の長を倒してしまえばいいのです。では、その相手をどう頑張ってもポケモンで倒せない場合はどうするか。不意打ちで殺すしかない。それを考えると、組織間のポケモンバトルと言うのはとてつもない覚悟が必要な行いなんですよ」
「それがどうしたんだよ。そんな事とっくに知ってんぞ」
「では、不意打ちを受けないためにはどうしたらいいでしょうか?」
「えっ、どうしたらって……」
今度は間を空けられた。考える時間が生まれたが、ジェノサイドが考えるのは「不意打ちを受けないくらいの、相手と同じ位弱ければいい」とか、「化かせばいい」といったひねくれたものしか出てこない。
「仲間を固める、不意打ちを受け付けないくらい相手の仲間を全滅させる、当事者のみで戦うといった様々な方法がありますが……」
少し経ってもジェノサイドは喋らなかったので結局ハヤテが言う。
ジェノサイドに期待していたのか、勢いがない。
「こいつと真剣にポケモンバトルをしたい、という"思い"です。結局は深部の人間は皆ポケモンをやり込んでいる人間です。ポケモンが好きな人です。正々堂々とした戦いを望む人間が、不意打ちという手で邪魔されたらどうでしょうか?」
甘えだ、とジェノサイドは聞きながら思った。深部の人間全員がそんなに善人な訳がないからだ。
それに、ジェノサイドが経験してきた事だが、基本的に不意打ちをする人間は大体が自分よりも弱い人間がする傾向がある。
金の為、名誉の為に無謀な戦いをする人間がほとんどだ。
なので、今日に限ってはそういった不意打ちがあるかどうか。それはよく分からない。
「着きましたよ」
幕張メッセの方向に歩いていき、最終的にはそこに向かう途中の歩道で足が止まる。
「ここです。ゼロットはここ、ワールドビジネスガーデンに居ます」
目の前には、二棟からなるツインタワーがあった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.182 )
- 日時: 2019/01/20 13:15
- 名前: ガオケレナ (ID: GTyVogOk)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
普段は見慣れない超高層ビルが眼前に佇んでいる。
その圧倒的な迫力に、思わずジェノサイドは息を呑む。
ここにゼロットが、友達がいる。
どちらの棟に居るのかは分からないが、迷わずにはいられない。手前側から行くと決めた。
迷わず、サザンドラを呼び出し、飛び乗る。
「ちょっ、何をするのですか!?リーダー!」
地上でハヤテが叫ぶも、彼の耳には届かない。
適当な高さまで飛ぶと、一旦その場で静止した。
今から容赦をしない。絶対に友達を救い出す。ゼロットも倒す。
瞑った目を開け、目の前に広がる窓ガラスに右手を向け、そして命令する。
「サザンドラ、'あくのはどう'を撃て。ここ一帯をお前のその力でなぎ払え!!」
躊躇せず、黒い光線が放たれた。
まず一点に直撃し、バリィッッ!!と強く破れる音を立てながら穴が空いていく。
そのまま、左へと横一線に窓ガラスが砕け散っていき、ぽっかりとした大穴が、人一人なら余裕で侵入出来る程度の大きさの穴が作られていく。
ドドド……という不穏な轟音を響かせながらジェノサイドはビルを破壊する。
地上に向かって大量の砂塵と細かいガラスが降り注ぎ、平和な世界は一瞬にして戦場へと様変わりしていくようにも見えていくようだ。
「うわあぁぁっ!」
どこからか叫び声が聴こえる。それが地上からかビル内からなのかは分からない。
とにかくやるべきは一つ。
ゼロットを倒す。
'あくのはどう'によって一瞬にして荒れてボロボロとなったオフィスらしき階へと、ビル内部へと降り立つ。
人はいないのか、それともさっきの衝撃で吹き飛んでしまったか。
だとしても、ジェノサイドは叫ぶ。
「ゼロットはどこだ」
反応はない。動きもない。
ここはもしかしたらゼロットと関係ない階だったかもしれない。
そもそも高層ビルに深部の人間がいること事態おかしい。
ジェノサイドと似たように、高層ビル全体を使っているのではなく、一部を使って姿を晦ましているだけなのか。
後ろで着地した音がするので振り返ると、仲間が続々と破壊された窓から入って来た。
「あの、リーダー。やりすぎです。しかも彼等が居ないなんてオチですし……もし全く関係無いところだったらどうするんですか!?」
「だったら、この責任を負いすべてをあの野郎に押し付ける」
外からまだ出していないサザンドラが建物内に入ってきた。
ハヤテは、一体リーダーは何を言っているのかと思った直後、悪寒が走った。
「シャンデラ、ポリゴンZ!」
モンスターボールとダークボールを抱えてそう叫ぶと、思い切り投げる。
出てきたのは名前通りシャンデラとポリゴンZだ。
「り、リーダー?あんたまさか……」
普段はあまり使わないポケモンを、それも超火力を持ったポケモンをここであえて出すとはどういう事か。
震えながらケンゾウが聞くも、それを無視してジェノサイドは命令する。
「サザンドラ、'あくのはどう'。シャンデラ、'だいもんじ'。ポリゴンZ、'はかいこうせん'」
ジェノサイドは不自然にも床を指差す。
「やれ、お前ら。この建物を破壊しつつゼロットを探せ」
一瞬この人は狂ったのではないかと誰もが思ったことだろう。
「ば、馬鹿野郎!!」
一瞬に遅れてケンゾウがこちらに走る。
やめろと顔で言っているかのようだ。
だがポケモンは止まらない。
閃光と共に心を震わせるかのような恐ろしい音がしたと思うと。
あらゆる物を破滅せんと三つの光が床を、建物を、すべてを壊し尽くした。
窓をぶち破った時とは比べ物にならない轟音が響く。
大きな地震が起きたのかと思うくらいの振動が鳴り、下へ下へと巨大な底無しの穴を無理矢理作る形でこれまで綺麗だった平和、日常、モノを一瞬に恐怖へと叩きつける。
下の階を突き破る毎に、ドン!ドン!と一際大きい騒音を立たせながら深部の象徴である恐怖、不幸を作り上げていく。
暫らくすると音が鳴らなくなった。もしかしたら、最下層まで届いたのかもしれない。
またもや躊躇せずに、ジェノサイドは底の見えない、暗く深い穴へと一人飛び込む。
ポリゴンZとサザンドラ、シャンデラをボールへと戻して。
残されたジェノサイドのメンバーはその場で立ち尽くす。
今自分たちのリーダーのしている事が限度を超えすぎていて理解出来ないでいるからだ。
「あいつ……何やってんだよ……」
「リーダー……いくらなんでもこれは……」
「……」
何階突き破っているのかは分からないが、この建物が傾いたり崩れたりしていないのが不思議だった。
恐らく芯となる柱を避けたのだろう。だとしてもやりすぎである。
だが、かと言って立ち止まる訳にもいかない。
各々階段や、作られた大穴を通って下へと進む。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.183 )
- 日時: 2019/01/20 13:33
- 名前: ガオケレナ (ID: GTyVogOk)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「何やら騒がしいな」
先程どこからか響く轟音に目をしかめつつ、キーシュは深く玉座に座る。
「何が起こってる」
近くにいた仲間にそう言うと、その仲間は平伏してこう告げた。
「はいっ!どうやら何者かがこの建物を外部から攻撃、破壊している模様です!」
「なるほど……来たかジェノサイド……」
頬に手を当ててニヤリと笑みを浮かべる。
「それじゃあ作戦通りに頼むぜ。ちょっと奴が来るには速すぎるが、まぁいい」
ジェノサイドがすぐ近くにいると言うのに、静かすぎるその様は玉座と周りの雰囲気もあって、冷酷な王にも見える。
キーシュ。ゼロットの王のいる部屋は奥底が見えない広い大広間だ。全体的に暗く、蝋燭の灯りしかない。
そのため、不気味な雰囲気が常に漂っている。玉座の後ろの壁に取り付けられている円柱の柱のモニュメントと、どこからか流れている悲しげな賛美歌のようなメロディから、ある種の教会のように見えなくもないが、やはり不気味なのでまるで悪魔でも称えていそうな光景だ。
「イイ……それでイイ。このまま来い。ジェノサイド」
八重歯を見せ、その嘲るような顔の先には、見知った顔があった。
ーーー
流石に生身で着地するのは危険だったのでオンバーンをクッションにして着地した。
それからすぐに、ポケモンボックスを操作して手持ちを入れ替える。
今ジェノサイドが居る階は地下一階のようだ。
と、言うよりもこの建物は地下一階までなのでここに到達するのは当然と言えば当然だった。
だが。
「おかしい。灯りという灯りが点いてねぇ。どういうことだ?」
普段ならまだ誰かしらが利用している建物だ。夜8時だとしても誰かがいてもおかしくない。なので灯りが点いているのが普通である。
どういう訳かゆっくりめに初めの一歩を踏み出そうとしたとき。
ボッ、と突然壁にかけてあった蝋燭に灯りが点いた。
ジェノサイドもそれにびっくりし、それからやや離れる。
「んだよ……蝋燭か……。蝋燭!?」
何故この時代に蝋燭が使われるのかが分からない。どういう訳か考え出した時だ。
ボボボッ!!と、途切れることなく蝋燭の火が灯った。まるで道標のように、彼を案内しているかのように。
(どうなってんだよ……)
薄暗い雰囲気も相まって不気味そうに感じると、後ろから砂利を踏むような何者かの足音がする。
彼の仲間だった。それから続々と降りてくるも、誰もがこの様相に声をあげるばかりだ。
「なんですか?これ」
「俺に聞くな」
ジェノサイドに聞かれた気がしたので突き放すように答える。
後ろで「ちぇっ」とか言っている無礼な人間だったので声の主は恐らく連合出身の奴だろうか。
黙ってジェノサイドがやや離れて進む。
後ろに仲間が集まっているのでガヤガヤと騒がしい。それに少しイライラしていた時だ。
ジェノサイドがピタリと不意に止まる。
それに釣られて仲間達も止まるも、相変わらず耳障りだ。
「黙れ、お前ら」
「えっ?」
「いいから……」
珍しく威圧的でない反応に、つい仲間達は黙った。
彼らは知っているからだ。戦いの途中でジェノサイドが怒りに身を任せたような時に表れる威圧的な態度でなく、状況を省みないような優しさを含んだ言動。
その時は、何かを察知したとき。
つまり、敵が潜んでいる証拠だ。
ジェノサイドは通路のド真ん中に無防備に立っている。
それを理解したケンゾウが走り出す。
それと同時にジェノサイドの前方一直線上から、目以外を布で覆った正体不明の人間が二人迫ってきた。
手にはクナイのような刃物を持っている。
「リーダーあぶねぇっ!!」
ケンゾウが叫ぶも、届かない。
代わりに、何も無いはずの壁から同じような格好をした人が出てくる。
ケンゾウのほぼ隣に位置する地点から。
「っ!?」
「貴様の相手は俺だ」
クナイを振り上げられる。武器なんてないケンゾウは咄嗟にモンスターボールでクナイを受け止める。
ガキィッッッ!と金属が擦れる嫌な音がしばらく続いたあと、刃に反応して中に入っていたポケモンが飛び出る。
出てきたのはゴロンダだ。
いきなり出てきたポケモンにその敵が立ちすくんでいる瞬間を狙い、思い切り殴る。
ゴロンダのとてつもない馬力を人間の体で受け止めたその男は呻きながらゴロゴロと床を転がり、そのまま力が抜けたように地面と一体化するように倒れた。
「お前、格闘タイプ本当に好きだな」
「とか言ってる場合じゃないっすよ!!」
ジェノサイドの前には、二人の敵が迫っている。
だが、ジェノサイドは何もしない。後ろを振り向き、ニヤッと少し笑うだけだ。
「あの馬鹿野郎っ!!」
ケンゾウは思わず、走り出すも、遅い。
二つのクナイがジェノサイドに突き刺さる。
ケンゾウは立ち止まり、思わず目を瞑った。
だが、何故か後ろから「あっ!」と声がするので反射的に目を開けると、何故か二人の敵が倒れている。
不審そうに近づいてみると、ジェノサイドの姿が変わり、それと同時に、虚空から本物のジェノサイドが現れる。
「敵欺くにはまず味方からってな」
「ゾロアークかよ……」
ゾロアークのイリュージョンは突然音もなく始まるくらい見分けがつかない。
味方としている分は強力だが、仮にもしも敵が使ってきたら……と考えるとひどく恐ろしい。
そして心臓にも悪い。
ケンゾウとしてはあまり使って欲しくない代物だと思いながらゾロアークを見つめた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.184 )
- 日時: 2019/01/20 13:41
- 名前: ガオケレナ (ID: GTyVogOk)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
敵を払い、すっかりと静かになった通路を再びジェノサイドたちは歩く。
五分ほど道無き道を歩いた頃だろうか。先頭を歩くジェノサイドが再び止まった。
理由は明白で、目の前に二つの分かれ道があるからだ。
「ったく、迷路かよここは。ってか何で高層ビルの地下がこんなにもダンジョンになってんだ」
「おそらく、ゼロットの支配領域なんでしょう。本来あるこの階を、ゼロットが改造したとしか……」
ハヤテが隣に立つ。
「あまり……声を大にして言いたくはありませんが……リーダーが先程破壊した上の階……あれはもしかしたら……」
「言うな。俺もやっと落ち着いてきたところなんだ。あまり考えたくない」
嫌な汗をかきながらハヤテから目を逸らす。来た時と比べて大分落ち着いてきたからか、今まで行った自分の行動を深く恥じている……つもりのようだ。
「それはいくら何でも無責任すぎませんか?もうちょっとやっちゃった事を深く考えた方が……」
「だーかーら反省してるって言ってんだろ!だからもうこの話終わり!ってかここに構えてるゼロットが悪い!以上!」
「責任転嫁してる時点で全然反省してないじゃないですか!いくらなんでも組織のトップとしては無責任すぎる発言ですよ!」
と、二人で場所も考えず二人でギャーギャー騒ぎ出す。
他の仲間は入る余地がなく、黙って眺めることしかできない。
「何でここであいつら喧嘩してんの……?」
「俺に聞くなよ……」
特にミナミとケンゾウが冷たい目をしながら二人を見つめる。
「これで敵来たらどうするつもりなのよ……」
「いやだから俺に聞くなよ……」
などと言っていると、分かれ道の先からはゼロットの軍勢が。
今度はれっきとした構成員だからか、各々がモンスターボールを持っている。
「ほら言わんこっちゃねぇっ!!」
左右両方向から軍勢が迫る。交差する地点でジェノサイドとハヤテ二人が立っているため、このままでは挟まれる。
ケンゾウとミナミがまず走り出し、二人に続く形で仲間達も走り始めた。
だが、その時点で二人はもう囲まれている。挟まれる寸前だ。
(クソッ、間に合わねぇ……!?)
走っても無駄な事を悟り、ケンゾウが足を緩めたその時だった。
左右それぞれの人混みを割るように何かが弾けた。
ジェノサイドの立つ左側はゾロアークの'ナイトバースト'が、ハヤテの立つ右側は彼が持つポケモン、バッフロンの'アフロブレイク'で無理矢理突破する形で穴が空く。
「お前はそっち行け。俺はこっから叩く」
「全く、相変わらず無茶しますね」
二人共フッ、と軽く笑うと、その空いた穴を縫う様に駆け、軍勢を抜けようと走る。
突然の光景で反応が遅れ、ゼロットの人たちはハヤテとジェノサイドを逃してしまう。
「てめっ、待ちやがれ!!」
誰かがジェノサイドに向かって怒鳴るも、時既に遅し。
ジェノサイドが走った方向から微かに「あとは任せた〜」などとふざけた声が聴こえるのみだ。
「……じゃあ何?要するに……」
ミナミは怒号と混乱で乱れたゼロットの軍勢に近寄る。
「ウチらはザコの処理しろって言いたいのかアイツはーっ!!」
呼び出したエルレイドの'サイコカッター'が軍勢をを吹き飛ばしていく。
ーーー
「よしっ、何とか巻けたな。後はこのまま突っ走ればいいだけかなー……」
ジェノサイドが分かれ道を抜けて割とすぐだった。
ケンゾウからの連絡だ。
「もしもしリーダー。ミナミさんと他の奴らの活躍で大体は潰せましたよ」
「マジかよはっえぇ。俺が逃げてからまだ二分くらいしか経ってねぇぞ」
時計を見ると本当にその通りだった。彼女も大分強くなっている。
「まぁそこはいいんですけど……リーダー申し訳ありやせん!!俺らとの衝突の隙を突いて奴らの何人かがそっちに向かってしまいました!」
「えぇー……」
だとしたら自分のすぐ後ろにはゼロットの人間が来ている事になる。ゆったりと走ることができなくなってしまった。
「あと気をつけてください。何故だか分からないんですけど……さっきピカチュウが……」
「えっ?」
明らかに言っている途中だったのに切られた。
「おいケンゾウ?もしもし?もしもーし?」
何度名前を呼んでも出ない。
ピカチュウが何とかとしか聞き取れなかったのが何か不安である。
「何だってんだよ……」
ふと後ろを振り向くと、既に追っ手が迫っていた。
ーーー
「なにすんだよ……」
ケンゾウは通話の終わった携帯を呆然と眺める。
「余計な事は言わないで。あいつ混乱するよ」
通話ボタンがあった箇所を触っているのはミナミだ。
どうやら、強制的に電話を終了させたのはミナミらしい。
「とりあえず、ウチらも行くよ。もう何がどうなってんのか分かんないんだもん」
「あ、あぁ……ホント、訳分かんねぇよ……」
二人は、ジェノサイドの進んだ方向へと足を進める。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.185 )
- 日時: 2019/01/20 13:47
- 名前: ガオケレナ (ID: GTyVogOk)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「オイオイ……何の為にあいつらにゴミ処理任せたんだよ。ここまでゴミが流れてくるなんて意味ねぇだろうがよぉ!!」
ゾロアークの入ったボールを投げ、何物にも化けていない正真正銘本物のゾロアークが出てくる。
「吹き飛ばせ。ゾロアーク」
威圧を込めた低く唸る声でボソッと呟くと、ゾロアークの両手から赤黒いオーラが出現し、その両手を地面に思い切り叩きつけ、オーラを増幅、衝撃を生み出して一瞬の速さで刺客を飲み込む。
ドドッ、と爆音が鳴り、広くはない通路に振動が伝わる。
ポケモンもろとも彼らは吹き飛ばされ、遥か後方へと姿を消す。
だが、その技を軽々と避けた一匹のポケモンの姿が。
(何だ……? あのタイミングであればまず人間が反応できずに吹き飛ぶのに、それを察知した奴がいたのか……?)
暗くてよく見えないが、壁を伝い、ゾロアークの前に対峙する小さい影がひとつ。
そして、何とか先程の技を避けたそのトレーナーの姿も。
その者は'ナイトバースト'で倒れたゼロットの刺客たちを踏みつけ、ジェノサイドの前へと姿を現す。
蝋燭の火がそのポケモンを、その者を照らした。
(ピカチュウだと……?電気玉でも持たせてるのか。ったく物好きなヤツ……!?)
ケンゾウの電話、目の前にいるピカチュウ。
ジェノサイドの体が急に震えを発した。
今自分が見ているのは幻影か、それとも真実か。
「どういう……ことだよ」
前者であってほしかった。と、言うよりそうであるに決まっている。
わざと呆れる素振りを見せて「ゼロットも幻を使ってんのかよ。惑わされねーよ」と強がってみるも、それらすべては次の一言で無駄な努力へと変わる。
「幻影なんかじゃねぇよ、レン……」
あだ名で呼ばれた瞬間、背筋が凍った。
何故なら、ゾロアークが見せる幻影が人やポケモンであった場合、それらは言葉を発する事は出来ないからだ。
「って事は本物かよ」
「こんな形で悪いけど……レン……お前を倒しに来たよ」
胸の鼓動が早くなる。どうしてこんな事になるのか。全く検討がつかない。
そもそも、何故目の前の人間は無事でいられているのか。
人質のはずではなかったのか。
その見知った顔は何故この世界へと踏み入れてしまったのか。
「何でお前が此処にいんだよ……吉川……」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.186 )
- 日時: 2019/01/20 13:52
- 名前: ガオケレナ (ID: GTyVogOk)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
吉川祐也。
ジェノサイドがレンと呼ばれている環境での友達だ。
当然深部との関わりが無いごく普通の一般人。ごく普通の大学生。
のはずだ。
そのはずなのに、今その友達はゼロットの居城にてジェノサイドの前に立ち塞がる。
それはつまりどういうことか。
「……。てめぇ、一体どういうつもりだよ。俺が今ゼロットと戦っているのは知ってただろ?俺はお前達が人質にされてるってんで飛んで来たんだよ。そのお前が、こうして俺の前に現れて……俺の邪魔をしているって……」
声が震える。いや、震えているのは声だけでない。既に全身が震えていた。
今のこの状況の理解ができない。
「何でテメェがここにいんだよ吉川ァァッ!!」
ジェノサイドがこれまで避けてきた、望まれない戦いを自ら起こしてしまった。
であるにも関わらず、今のジェノサイドは怒り狂う事しか出来ない。
戦いに巻き込まれて欲しくない人間に、牙を向けてしまう時が来てしまった。
トレーナーとポケモンの意思が完璧に一致している非常に珍しい組み合わせのため、命令せずともゾロアークが動く。
ジェノサイドが腕を振るうだけでゾロアークは動いてくれる。
ジェノサイドは心の中でこう叫んだに違いない。
'ナイトバースト'、と。
(吉川のピカチュウはストーリー未達成の割には速いと聞いている……。それはつまり、純粋に強さだけを求めたポケモンと渡り合えるって事……。だが……!!)
ゾロアークは両手に赤黒いオーラをまとらせ、地面に叩きつける。
「いくらピカチュウとはいえ、俺のゾロアークより速いわけがねぇだろ!!」
進化の輝石が無い限り、それは壁にも満たない紙だ。
「吹っ飛べ!!吉川ぁっ!!」
通路一面を包むかのような範囲が大きい衝撃波がすべてを飲み込もうと襲いかかる。
しかし。
吉川は涼しい顔でサトシばりに「避けろ」と言うと壁を利用して軽々と'ナイトバースト'を避ける。
ジェノサイドも計算してか、吉川に当たるギリギリでそれは消えた。
壁を越え、一気にピカチュウとゾロアークとの距離が縮まる。
「'エレキボール'!」
五秒前までは侮っていた紙が、神速の速さを持って眼前に迫る。
状況が一変した。
(速ければ速いほど威力が増す技か……。ピカチュウの威力なんざたかが知れてるが……今ここで食らえばタスキが消える……っ!?)
ゾロアークもジェノサイドと同じ事を考えたのか、'エレキボール'がピカチュウの尻尾から放たれた瞬間に、口から'かえんほうしゃ'を吐き、打ち消す。
互いの技がぶつかり合い、爆発、黒煙が舞った。
ドォン、と鈍い爆発音を轟かせ、視界が真っ黒い煙で遮られる。
「うわっ!大丈夫かピカチュウ!」
慣れない光景に、思わず目を覆うとする吉川。
だがそれよりも、自分のポケモンの状態が気になるところだ。
不安になり、つい何も命令せず黙る時間が続く。これは初心者故の油断か。
煙の中で強く何かを握る音が聞こえたと思ったら、今度は何かを叩きつける音が響いた。
「お、おい!どうしたんだ?……ピカチュウ!!」
吉川が叫んで暫くすると、煙がやっと晴れる。
そこには、
ゾロアークの腕に捕まり、動きを封じ込められているピカチュウがいた。
小さいねずみポケモンは苦しそうに悶えている。
「おい!やめろ!!レン!」
「これがお前との差……お前が俺と深部でやり合おうなんざ5年……10年早ぇ」
怒りと冷酷を秘めたその目で"かつての"友を見つめる。
どのように止めを刺そうか考えた矢先に、吉川が走ってきた方向からさらに足音が聞こえた。
ヒールを履いたような、甲高い音だ。
「大丈夫っすかリーダー!」
「あんたたち無事!?」
ケンゾウとミナミだ。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.187 )
- 日時: 2019/01/20 14:00
- 名前: ガオケレナ (ID: GTyVogOk)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「お前ら……」
二人が間に入ったことで戦闘を中断せざるを得なくなった。
ゾロアークはピカチュウを離し、跳ぶ事で一気に距離を広げる。
「お前らにあそこを任せたんだぞ。逃さずあの地点で抑えてほしかったんだが」
「ご、ごめん……見馴れた人がいたから思うように動けなくて……」
ゾロアークをボールに戻しつつジェノサイドはミナミの話を聞いていた。よくもまぁあの大群から見知った人間を見つけられたなと自分には出来ないことについて感心していた。
「とにかく、リーダー。あんたは先に行って。ウチはこいつと話がしたい」
突如、ジェノサイドに対し背を向けるミナミ。彼女は吉川に強い視線を送るも、彼は目を逸らした。
「はぁ?さっきそう言われてここまで走ってきたんだぞ。今更信用できるかっての」
「ウチは何も手出ししない!ただ話をしたいだけなの。それが済めばこいつも保護する。それでいいでしょ?」
「……」
ジェノサイドは突然無言になる。と思うと、ゆっくりと前に進んで行った。
「あまりそいつだけに時間かけるなよ」
自ら作り上げた沈黙を突如破る。
「奴が言う情報が正しければ、俺の友達はあと二人いる。偶然かどうかは知らねぇがこの二人もポケモンをやっている。いずれ出てくるぞ」
忠告のような言葉を放つと、ジェノサイドの姿は暗闇へと消えていった。
「さて、と」
ジェノサイドがいなくなった事を確認し、ミナミは吉川に近づく。
「教えて。何であんたがここにいて、リーダーと戦おうとしたの?ウチやリーダーは、あんたたちがゼロットの人質にされてるって聞いたんだけど……」
「……お前一緒に横浜に来てた奴だよな?やっぱ深部だったんだな……」
吉川は一瞬何か考え事をしたからか、嫌な顔をするも、その後に覚悟を決めたかのようなため息を一息。
「俺がここに来た理由……か」
ーーー
走っているうちに忘れていたが、ここは地下一階である。
元からこの建物に存在していた空間。それを改造してか、暗いダンジョンみたくなっているがこの先にこの先に何があるのか。
答えは明白だった。
「行き止まりかよ……」
蝋燭の弱い灯りは石でできた冷たい壁しか照らさなかった。
ここには何も無い。
吉川と接触してからは誰とも会っていなかった。途中で道を間違えた可能性もあったかもしれないが、あの狭い通路に隠し通路を作るのは防衛の問題柄適当とは言えない。
ジェノサイドは無言でサザンドラのボールを手に取り、無言で投げる。
もしもジェノサイドが同じ立場にあり、ここに基地を構えるとしたらどう考えるか。
問題は、今ジェノサイドがいる空間が元から存在する階であるということ。
ならばやるべき事はひとつ。
「道具を'いのちのたま'から'こだわりメガネ'に変えて、と。よし、サザンドラ。思い切りここに向かって'あくのはどう'だ」
ジェノサイドはこれと言って特徴のない床を指す。
高威力となった光線が床を、地面を吹き飛ばす。
サザンドラも躊躇はしなかった。
ーーー
まるで大砲でも飛ばしたような物騒な音が響く。
それだけならまだいいが、音そのものがかなり近い。
パラパラと天井から砂埃が少し舞う。
「来たかジェノサイド……やはりテメェも同じ事を考えるか」
一度ドン!と鳴る。真上の階にでもいる感覚を覚える。
また更にドン、と響くもこの階の天井はビクともしない。
他の階よりも頑丈に作られているらしかった。
今度轟音が響く時はさらに砂埃が舞った。
四度目で何かが軋む音がした。
五度目にはその軋む音がさらに大きくなる。
(決して諦めねぇのな……あの野郎)
砂埃を頭に被りながらイライラした調子で肘掛をトントンと叩く。
六度目には砕くような鈍い音が発される。
七度目には痺れを切らしたか、ポリゴンZを呼び出し、サザンドラと道具を取り替え、'はかいこうせん'を撃つことで床を無理矢理破壊した。
天井である石の塊を彼の居る部屋へと大量に落とし、多くの落下物と砂塵を撒き散らして深部の王はその姿をもう一人の深部の王へと見せつける。
「やる事が無茶すぎるとは思わんのかね?」
「やっと見つけた……俺の仲間と安全を利用してここまでやりやがって……俺を今日ここに呼び出した事を後悔しろ」
ジェノサイドは、遂にキーシュと相見えた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.188 )
- 日時: 2019/01/20 20:06
- 名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ジェノサイドは今いる地下三階を眺めてみる。
かなり広い空間だった。このビルにある広さとは思えない。
と、思ったが、無駄な壁がないから広く見えるだけだろう。確かに、壁は少なかった。
代わりにあったのは、目の前に王のオーラを魅せる玉座と、それに座るキーシュ。その後ろに映るのは薄く白く光る円柱形の柱のモニュメント。
耳を澄ませばこの部屋に讃美歌のような歌が流れている。
この部屋にいる人間はかなり少ない。いたとしても心配そうに二人を眺めるゼロットの人間くらいだ。
ジェノサイドが知っている人はいなかった。
「俺の知り合いはどこだ」
「さぁてね。テメェを探しにどっか言っちゃったよ」
ジェノサイドは歯噛みする。そうじゃねぇ、と。
何をしているのかではなく、何でここにいるのかを知りたいだけなのだ。
「……知りたいか?ジェノサイド。だったらそうだな……」
キーシュが椅子の中で姿勢を変える。その手に持つのは古そうな本と、モンスターボール。それを意味するのは、両者の激突。
「俺と戦え。ザコが」
椅子に座りながらキーシュはボールを投げる。
出てきたのは、ジャローダだ。
長く大きい体と威圧的な目でそのポケモンはジェノサイドを睨む。
まるで動きでも止められそうなまでの恐ろしい目を、思わずジェノサイドは逸らす。
その光景を見てキーシュも鼻で笑った。
「自己紹介がまだだったな。俺はキーシュ。テメェと同じく、深部の王にしてその王国を束ねる者だ」
一々例える言葉の意味が分かりにくい。
深部の王はSランク。王国とは彼の組織ゼロットの事か。
「俺はジェノサイド。自分の名を冠する組織の……」
「いいよそんなの。俺は知ってるから」
途中で遮られる。だがジェノサイドは諦めない。再び口を開く。
「神を殺す存在。そんな意味をも含む、そのための"ジェノサイド"だ」
言った途端。キーシュの目が変わるのを確認した。
ジェノサイドが相手の組織の名前を聞いた時。今こうして大広間に来た時。
思ったのは「宗教に関係している」ということだ。
ゼロットとは古代においてのユダヤ教の過激派。今にして言えばテロ組織か。
この部屋も、宗教施設に関係ありそうな円柱の柱や、讃美歌と表現方法に共通点がある。それが宗教、神だ。
なので彼の反応を見る限り挑発は成功したようだ。
キーシュもジェノサイドの言葉に低く笑う。
「へぇ……面白い事言うな。テメェ……。面白いよ。興味持った」
ついにキーシュは椅子から立ち上がり、ジャローダの後ろに立つ。
「だからこそ、戦う意義が存在する……。俺はずっとテメェと戦いたいと思ってたところだ」
もう後戻りはできない。
ジェノサイドは一つのボールを強く握る。
サファリボールを。
「行くぜ……バンギラス!!」
ーーー
ジェノサイドと別れ、別方向の道を走り続けたハヤテはその道中、ゼロットの人間らしき男にその道を塞がれ、動けないでいた。
「そこをどいて下さい。私は、今すぐにでもゼロットに会いに行かなければならないんです」
「この先にゼロットはいません」
ジェノサイドがそうであったように、この先の道は何も無い。結局こちら側も行き止まりしかないのだ。
だがハヤテが気になったのはその点ではない。
(僕もそうであったが……この人は彼らのリーダーをゼロットと言った……?)
ハヤテは通せんぼしている男の顔をまじまじと眺める。
決して会って見たわけではないが、その気がしてきた。
「眼鏡をかけていて、見た感じリーダーと同年代のような外見……。あなた、リーダーの友達ですね?」
彼の顔が強ばる。何かを考えているようだが、手は止まらなかった。ボールを手にしている。
「私やリーダーはあなたたちの救出に参りました。友達があなたである以上戦う理由はありません。こちらに来ていただけませんか?」
「こっちは、最初から戦う気でここにいるんです!!」
香流はボールを投げた。
ボールからは彼が常日頃「大好きなポケモンだ」と高野らに語っていたギルガルドが出てくる。
(やはり、ダメなんですかね……)
彼の戦う姿勢、ポケモンの姿にハヤテもついに折れてしまう。
(ただ対話するだけではダメ……戦いを通じて話をしていくしか……っ!)
ジェノサイドとキーシュ。香流慎司とハヤテ。
それぞれの男がそれぞれの目的、思いを抱いて交差する。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.189 )
- 日時: 2019/01/21 11:59
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ハヤテは無言でボールを放り投げる。
元気そうなウォーグルが出てきた。
「ひとついいですか」
香流は身構えつつも話に耳を傾ける。
「あなた"たち"と言うべきですかね……?何故あなたたちは此処にいるのですか?ここはあなたたちが来るべき場所でないことくらい理解しているはずです」
「そ、それは……」
香流は顔を暗くし、俯くと覚悟を決めたように叫ぶ。
「'かげうち'!」
それに呼応し、ギルガルドは全身に力を込めながら突き進むと斬り掛かる。
だが、ノーマルタイプのウォーグルにそれは効かない。それくらいお互いは理解していた。
念のためウォーグルはそれを躱し、体を折りたたむようにコンパクトな格好になると、低飛行のままギルガルドに突っ込む。
「'ブレイブバード'」
「'キングシールド'!」
迫るウォーグルに対抗し、全身を完璧に覆う厚い壁が出現する。
(あれに触れると攻撃力が……)
「避けなさいウォーグル」
命令が間に合い、壁をギリギリ避けてウォーグルはそのまま旋回し、ハヤテの元へと戻っていく。
「私は聞いているのです。答えてください」
「……ゼロットの人が……、大学に来たんです」
「えっ」
予想だにしなかった事実に、ハヤテは目を丸める。
「じゃあ本当にあなたたちを人質に……」
「いいえ、ここまで来たのは自分たちの意志があってです」
益々衝撃的だった。どこに自分の友達を相手に命懸けの戦いをする者がいるだろうか。
「ゼロットの人は、自分たちのサークルの部室に来たんです。特に何もせず、平和的にですよ?手荒な事は一切してなかったです。普通に来て……」
「何を仰っていたのですか?」
「ジェノサイドはどこかって……」
ここまで聞いてハヤテはなるほどと思った。
情報源は不明だが、キーシュはこの時点でジェノサイドの基地や電話番号はおろか、深部とは一切関係のない大学の居場所まで突き止め、さらに彼が所属しているサークルまで把握していた。
その情報収集力と判断力は恐ろしいまでに高すぎる。
「では、あなたたちはどうしたのですか?それからは」
香流はその時の話を始めた。
ーーー
夕焼けに染まる頃。香流はサークルの部室にその時いた石井と吉川と話をしていた。
話題は特にどうでもよかったが、適当に話していた時。奇抜な格好をした見慣れない男がいきなり扉を開けたのだ。
「うっす。ちょっといいか?」
その男は扉を閉め、開いていた窓も閉めると、小声で彼らにこう言った。
「なぁ。この大学のこのサークルにジェノサイドがいるってことは分かってんだ。ソイツが今どこにいるか知ってたりするか?」
その単語が出てきた辺りからだろうか。
三人とも何故か目を丸めて互いに顔を見合わせている。
恐らくキーシュもこの話が通じるとは思ってもいなかったのだろう。
「知っていたらラッキー」程度だったに違いない。
普通でない彼らの反応から、ジェノサイドを知っていることを察する。
「……どうやら知ってるみたいだな」
「失礼ですが、どちら様ですか?」
冷静を装いつつも、緊張と不安で強ばる顔をしながら石井がその男を睨む。
その恐ろしい目に臆することなく「んー、」と上の空に一瞬なりながらも結局はこう答えた。
「ゼロット」と。
またも彼らは顔を見合わせ、ガタッと吉川が席を立つ。
「ゼロットって確か……」
「今レンが戦っているっていう……ヤバい奴だよね?」
「どうして此処に……」
「ん、あぁ。単に何処に居て何をしてるのかを知りたかったんだ。やはり、知っているな」
ジェノサイドの敵を目の当たりにし、彼らはひとつ閃く。
ーーー
「なるほど、彼を利用しようとしたのですね」
ハヤテはそこですべて理解した。何故彼が今目の前にいるのか、その意味を。
「あなたたちはゼロットに協力する形でジェノサイドと戦いたかったのですね?自分たちが協力する形でゼロットを勝たせ、リーダーが負ける……。そしてあなたたちは深部としてでなく、一般人と化したリーダーを助けたかった。そうでしょう?」
事の本質をダイレクトに言われたからか、香流は唇を締め、視線を不自然なまでに逸らす。
「レンを……助けたかったんです。彼は……、自分たちと同じ大学生なんです。前にレンが自分に悩みを言ってくれた時があって、そこで気づいたんですよ。レンは無理をしているなって。このままじゃ余計に苦しんでしまう。レンを自分たちと同じただの学生に変えてやりたい。もう、これから訳の分からない変な事をしてほしくない。皆そう思っているし、レンも苦しんでいる。チャンスは今しかないと思ったんです!」
「なるほど……」
複雑な気分だった。
ジェノサイドはどんなに悩んでいてもその素振りは見せず、普通にいつも通りのリーダーの姿だけを見せていた。
だが実際は自分よりも交友期間の短い友達に本音を吐露し、弱さを見せつけ、彼らを立ち上がらせた裏の姿があったのだから。
そればかりでない。
ジェノサイドが一般学生として成り下がる。ゼロットが勝ちジェノサイドが負ける。
それは組織としてのジェノサイドの解散を意味している。リーダーが仮に幸せになるとしても、自分たちは一気に不幸に突き落とされる。明日から路頭に迷うことになってしまう。
それらの事があるからか、ハヤテの考えは一つにまとまる。
「それは無理な話ですね」
この不幸にも友達を助けたいという無茶な思いを持った学生に厳しく言い放つ。
「あなたの友達は、ただの大学生をやっている傍ら、私たちのリーダーでもあるのです。リーダーが負けて一般人になる?無理な話ですよ残念ながら。何故か。私たちの生活が保障されなくなるからです」
香流はその言葉を聞き、分かっていると思われるような仕草をしつつ、驚きを見せている。
「それに深部の、しかもその頂点に立つ者同士の戦いですよ?戦いに負けた者が無傷でいられるはずがありますか?そんな訳がない。最悪殺されますよ。そうでないと戦う意味がない。何故私たちがゼロットと戦っているか分かりますか?敵だからですよ」
歩み寄るようにハヤテはじりじりと、ゆっくりと歩く。それに合わせてウォーグルも少し前進する。
「私たちの安寧を破壊しようとする、敵だからですよ?」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.190 )
- 日時: 2019/01/21 12:09
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
バンギラスとジャローダ。
相性を考えるとジェノサイドの分が悪い。
だがジェノサイドはそれに関し特に気にすることもなく、内ポケットから白く細い杖を取り出し、掲げる。
「行くぞ!」
ポケモンをメガシンカさせるためのデバイス。メガワンド。
よく見ると杖の取っ手部分にキーストーンが埋め込まれている。今も光を放っていた。
つまりジェノサイドは杖の先端部分を握っている。傍から見れば杖の使い方を間違っている。
キーシュがほくそ笑むのも束の間、バンギラスは強い光とエネルギーの渦に包まれ、一瞬にしてメガバンギラスへと姿を変えた。
満ちるエネルギーで体中に力がみなぎり、バンギラスは吼える。
どこからかともなく砂嵐が吹き荒れる。
「ぶわっ、スゲェな……室内だってのに砂嵐が舞ってやがるよ。誰が掃除すんだコレ」
キーシュは思わず長い袖で顔を覆う。珍しく意味を殆ど成さなかった奇抜な格好がここで役に立った。
「なるほど……。相性が不利でもメガシンカでその穴を埋めると来たか。どんな相手でも上に立とうとするか……だがな」
キーシュはジャローダに命令する。'リーフストーム'と。
鋭く、肌をも裂きそうな尖った大量の葉が嵐を伴って突っ込んで来た。
「'あくのはどう'」
バンギラスは全身から黒いオーラを飛ばし、'リーフストーム'と相打ちに持ち込む。
ドン、と白煙が発生し、'リーフストーム'を打ち消した。
バンギラスは後ろに下がり、距離を取る。
「そんな事したって無駄だって」
キーシュは再び'リーフストーム'を指示する。
再び嵐が巻き起こる。
「バンギラス、もう一度'あくのはどう'だ」
こちらも再び黒いオーラを発し、相打ちを狙う。
だが。
鋭い嵐は留まることなく、黒いオーラにぶつかりあっても、それを徐々に押しのけている。
'あくのはどう'では止めることが出来なくなっていた。
「威力が……高くなっている……!?」
このままでは貫かれてダメージを負ってしまう。
「くそっ、攻撃はいい。躱せ!」
バンギラスはそれに呼応し、黒いオーラを打つのを止めると、横に跳ぶことで辛くも避けることができた。
「やっと気づいたか。遅ぇよ」
キーシュは勝負をついていないというのに、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
「こいつの特性は'あまのじゃく'。'リーフストーム'を打つ度に本来下がる特攻が上がっていくのさ」
「お、おい待てよ。まだあまのじゃくジャローダは世に出回っていないはず。お前はどうやって手に入れたって言うんだ!」
「お前本当に深部の王かよ……その実力と名前をうまく扱えていないらしいな」
キーシュはジャローダが入ったボールを見つめたあと、ジャローダ近づき、顔を撫でる。
「こいつはこれから配信されるポケモンだ。来年1月9日からお前も使えるようになるぜ?こいつを使えるようになるためのシリアルコードは今月の28日に公開……約二週間後ってところかな。んで、俺が何で使えるかって?簡単に言えば深部と議会のツテ……かな」
二人はここに違いが現れていると見てもいい。
ゼロットは人を集め利用するカリスマ性を秘め、深部の頂点という肩書きを利用して多くの富を得ている。
対してジェノサイドは、人を集めようとしても、敵が多すぎる故に中々集まりにくい。そのせいで情報もモノも集めにくく、カリスマ性を発揮しにくい。
両者の違いがはっきり見られるその例であろう。
それを察し、ジェノサイドは歯噛みした。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.191 )
- 日時: 2019/01/21 13:33
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「ハハッ!悔しそうな顔してるねぇジェノサイド」
両者の違いを思い知らされたのを察知され、そんな事を言ってはジェノサイドを挑発するキーシュ。
だが、既にジェノサイドは彼に対し怒りを抱いていたのでそれはほぼ無意味だった。
怒りによって冷静さを欠き、多少なるプレイングのミスを生み出してしまう事以外は。
「'かえんほうしゃ'」
バンギラスの口から炎が吹き出る。
「おぉっ?」
タイミングがズレたことにより、反応が遅れる。素早い身のこなしで避けてみるも、ジャローダは尻尾に直撃してしまう。
見た感じ、幸いにも火傷にはなっていないみたいだ。
「特殊型のバンギか。正統派を名乗る割には面白いモン使ってんじゃねぇか」
「'おにび'が席巻してる今日この頃だ。どいつもこいつも物理一本って訳にはいかねぇよ」
「……にしても'かえんほうしゃ'ときたか。ただでさえ威力下がってんのに'だいもんじ'ではなく'かえんほうしゃ'とはね。そんなに安定重視なのか?そんな手抜き加減じゃ俺に勝とうだなんて思わないでもらいたいね!」
地を這っている割には速すぎるその動きに若干気持ち悪さを覚えつつも、ジャローダは迫る。
例外を除き、ほとんどの場合、特殊技は銃器に例えられることもある。
特にジェノサイドの、バンギラスが特殊技を放つ時は一瞬だがスキが生まれる。
ジャローダが近距離から攻撃することによってそれらの技を牽制する意味合いがあるのだ。
「ほらほら!テメェのバンギぜんっぜん攻撃できてねぇぜぇ!?」
尻尾をビュンビュン振り回し、一切の攻撃を寄せ付けないジャローダ。
後ろへと徐々に徐々に下がりながら尻尾を避けるバンギラス。
(くそっ、埒があかねぇ……)
ジェノサイドがストレスを募らせた時だった。
それまでしつこかったジャローダの攻撃がいきなり、ピタッと嘘のように止まる。
「……?」
ジェノサイドが不思議に思い、バンギラスもそれに反応して立ち止まった瞬間。
「'へびにらみ'」
その邪眼にまるで体が固まりそうなくらいに恐ろしい眼を向けられ、直後に体が痺れだす。
「なっ、クソッ……!?」
読みを完全に外してしまった。バンギラスは体の痺れにより片膝をついて小刻みに体を震わしてしまう。
「古代の人々が一番恐れた呪いって何だと思う?まさに悪魔が対象を殺すために魅せる眼……邪眼だよ」
キーシュがOKのサインの要領でそれを自分の右目に持っていく。
まるで、力無き他部族を嘲るように。
バンギラスの目と鼻の先にはジャローダがいる。
最早守る手立てはなかった。
「そんじゃ、今度こそブチ込みますかね。ジャローダ、'リーフストーム'」
至近距離でさらに威力の上がった大技が放たれるその瞬間。
本来ならば敗北を悟るその瞬間にも、彼は諦めることはなく。
ニヤッと一瞬口元に笑みを浮かべると。
バチッ!
と、ジャローダが何かの力により吹っ飛ばされた。
「なにっ!?何だ今の力は……麻痺状態の……そもそもバンギラスなんかが持てるポテンシャルじゃねぇぞ!」
キーシュが慌てふためき、ジャローダの態勢が崩れる。
それにより一気に二匹の距離が開いた。
たとえ麻痺であっても技の一つは打てる余裕が生まれる。
「今しかねぇっ!!バンギラス!'かえんほうしゃ'ァ!!」
隙が生まれ、瞬時に立て直そうとしたその一瞬を突く。
今度こそ、ジャローダに炎が直撃した。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.192 )
- 日時: 2019/01/21 13:38
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
圧倒的不利。
誰もがそう思った事だろう。
バンギラスとジャローダの相性でさえ悪かったのにそれに加えて麻痺状態である。
まともに戦える状態じゃない。
本来ならば敗北を察して死に出しへと扱いを変えるために作戦もすべて一から考え直す事もあったかもしれない。
それが"本当に"バンギラスであれば。
ジャローダは倒れた。
キーシュはまるで感情を失ったかのような顔をすると無言でボールをジャローダに向け、戻す。
仮にもジェノサイドは深部最強を名乗り、そう評価されている。たとえ怒りが制御できなくとも、それを留めた上で戦うための頭の使い分けくらいは出来る器用さは持ち合わせている。安い挑発や煽りに一々反応してはその命が危うくなってしまうからだ。
「面白ぇ。やっぱ面白ぇよジェノサイド。テメェは。そうでなければ深部最強にふさわしき者達の戦いとは言えねぇからよ。何となくテメェが深部最強と言われる意味が分かってきたよ。だが」
キーシュは言いながらしばらくポケットを漁ってから一個のモンスターボールを取り出す。他のボールとは見分けがつかないからこそ探すのに時間がかかったのだろうか。
「あくまでも意味が分かっただけだ。俺は断じてテメェが最強だとか深部一だとかは認めねぇぞォ!!」
ボールは投げずに天に向かって掲げた。
すると、ボーマンダがゆっくりと、凛々しい姿を魅せながら降りるように現れる。
「神の最高傑作がベヒモスならば、俺の最高傑作はコイツだ。テメェ如きが立ち向かえる存在なんかじゃねぇ」
キーシュは座っていた玉座に置きっぱなしだった分厚く、古い西洋風のような外観をした本を手に取ると、適当にページを捲る。
「いいか、メガシンカを使えるのはテメェやテメェが導いた深部連合のザコだけとは限らねぇんだぜ?」
手で押さえたページには、一見読めなさそうな文字の下部に、キーストーンが嵌っている。よく見ると、数ページ分を重ねて分厚いページを作っていた。
「開け、メガタナハ……」
本から怪しい光が察せられ、それに呼応するかのようにボーマンダも光と自然のエネルギーに包まれる。
まさに、先程のバンギラスと同じ光景だ。
ドン!!とエネルギーの衝撃音を響かせ、まるで三日月のような巨大で鋭い翼へと変化させたメガボーマンダの姿がそこにはあった。
「見せてみろよジェノサイド。テメェの足掻きと限界をよ」
ーーー
突如電話が鳴った。音を完全に消していたため、マナーモードとなったそのスマホが強く振動することによって初めて電話が来ている事に気づく。
「もしもし?ミナミさんですか?はい。ハヤテです」
ハヤテの前には闘争心剥き出しの香流がいる。バトルは始まっているものの、ギルガルドとウォーグルの戦いは拮抗していた。
「はい……はい。了解しました。リーダーが無理矢理突破した穴?分かりました。ではこちらは……」
ハヤテは香流をチラッと見る。
それからすぐに通話を続けた。
「私も向かいます。ただ、そちらへ行くのは面倒なのでどうにかして行きますよ。はい、ではまた」
電話を切るとため息を軽くついてから自分のポケモンをボールへと戻した。
「えっ、ちょっ……まだ戦いは終わってないです」
「戦う理由がなくなりました」
いきなりの行動に焦る香流をよそに、ハヤテはきっぱりと言い放つ。
「私の所のリーダーとあなたが協力しているリーダーとの戦いが始まっているみたいです。つまり、私たちがここで争っていても無駄なだけですよ」
ハヤテは自分なりにしっかりと説明したはずだが、意味が分からないのかいつまで経ってもギルガルドを戻さない。
「私たちが戦っていても、リーダー同士で戦い、勝敗が決着してしまえばどんなにあなたが私を打ちのめしても意味はないということです。多くの人間があなたの友達を狙うのはそういう事なんですよ」
「……それでは、どうしろと言うのですか?」
「案内してください」
不安そうな顔をして何をすべきか分からないとでも言いたげな香流を、感情の籠らない声で導かせる。それから、彼が意思の弱い男だとハヤテは察することができた。
うまく扱えるかもしれないと読んだうえで。
「案内してください。ここから先は行き止まりなんでしょう?ゼロットのリーダーがいる部屋まで案内してくださいよ。裏口か何かがあるんでしょう?」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.193 )
- 日時: 2019/01/21 13:46
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ミナミとケンゾウは吉川と共にあれからジェノサイドの走っていった方向へと歩いていた。
途中で待ち伏せしてたのか、石井とも合流する。
「あと一人は……ハヤテのとこだったっけか」
ついさっきミナミがハヤテに連絡したはずなのにケンゾウがこんなとぼけた事を言ってくる。
知っているはずなのでミナミは無視をした。
「はぁ。結局あんたたちもリーダーと戦うために来てた訳かぁ。ただでさえゼロットの相手で忙しいのにこんな形で手間を増やされるなんて……」
「俺たちはあいつを止めにきたんだ。元はと言えばあいつがこんな事をしなければここまで大きくなる事はなかったのに……」
吉川の発言である。
やり取りを続けているうちに、どうやら彼等は自分たちは間違った事をしているのかもしれない。だが悪い事をしているつもりはない、というスタンスのようだという事が分かってきた。
悪い事と言うのは恐らくだがジェノサイドと比較しての言葉だろう。確かに悪い事は一切していない彼等だが、ジェノサイドからしたらいい迷惑である。
(少なからずリーダーに影響されてるクチね……これ)
つくづく彼が、高野洋平という男は人を動かす原動力だと思わされる。
「でも、よくもまぁ深部同士の、しかもSランク同士の戦いに参加しようと思ったよね?ウチが最初に色々喋ったせいもあるけど。それでもよく来ようと思ったよね?」
「だってわざわざ部室にあの人来たんだし、前々からレンの考えや行動がおかしいって皆思ってたことだし」
「あんたたちってアホだよね」
「あ、やっぱりー?」
緊張感漂う空気だと言うのに、ミナミと会話していた石井は馬鹿笑いしてみせた。
あまりにもこれらのギャップによりイラッとするも、やはり可笑しくて笑ってしまうミナミの姿もあった。
人と人のコミュニティとは不思議なものである。
今の彼等のように少人数で作られたコミュニティの場合、何かワンアクションあると、それが全員に何故か伝染してしまう。
今の彼等は笑っていた。
まるで今がゼロットと戦っているだなんて微塵も思えないくらい。
まるで自分たちが深部とは関係ない、百パーセント一般人の、そこらに居そうな学生達のように。
「何で俺達戦ってんだろうな」
終いには深部の人間であるケンゾウがこんな事を言う始末である。
普段ならば鬼の顔をして叱責するであろう発言だが。
「それはあんたが深部の人間だから」
特に気にすることもなく平然とミナミも調子に乗ってみせる。
そんな異様な空気を発しながら彼等は、ジェノサイドが空けた大穴の付近へと到着する。
「ここに……この階の下に、奴がいる」
「この下?この穴を見た感じ物理的に突破したみたいだけど」
言いながらミナミは周りをぐるっと見てみる。冷たそうな石の壁が広がるだけだ。
「そしたらあんたたちはどっから来たのか分からなくなるんだけど」
「俺達は……」
吉川が左右の壁を特に集中して眺める。時には触れて何かを確認しているようだ。
「ここには無いな」
「あー、隠し扉ね」
その初心者のような行動を見て一発で分かった。
扉のある所とない所の違いを理解していないようにも見える。違いがあってはその時点でダメであるが。
「多分もう二人は戦ってるよ。早く行こう」
四人はぽっかりと空いた大穴へと吸い込まれるように落ちていく。
ーーー
ギギ……と、錆びた金属が擦れる音がした。
重い扉を開けると、目の前には讃美歌が流れているお洒落なスピーカーと、ステージが。
ハヤテはその広すぎる部屋に足を入れる。
「すごいですね。僕達の基地も人数のせいでかなり広くしていますが、こっちの方が広いかも」
それに、と続け様に振り向く。
「隠し扉と来ましたか。全く見分けがつかなかったのでかなり上手く作られていますね。敵ながらさすがとしか」
「ここから……どうするんです?」
香流は心配そうに遠くの状況とハヤテを交互に見る。
気になってハヤテもそちらを見てみると、
キーシュとジェノサイドが既に戦いを始めていた。
ジェノサイドはメガバンギラスを使用しているようで、その相手は……。
「ボーマンダ……?あれって、メガボーマンダじゃないですか!!」
時間的にオメガルビー、アルファサファイアのシナリオをプレイしていてもおかしくない時期である。
それとは逆に、ジェノサイドのリーダーはまだ殿堂入りをしていないのだから。
だが、今ここでメガボーマンダを使っていると言うことは。
「シナリオを終わらせ、ボーマンダを育成し、こっちの世界でボーマンダのメガストーンを発見したという事じゃないですか!!」
その早い行動力には感心する部分があり、
同時に、未知数なポケモンを相手にするという点では不安が過ぎる。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.194 )
- 日時: 2019/01/21 13:55
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「うわあぁぁ!」
「うわっ、なんじゃこりゃっ!!」
間抜けな四人は真っ逆さまに落ちていく。
足場をよく見ると破壊した跡なのかコンクリートの残骸が無数に転がっている。
あまり深くない穴だと思ってたのが間違いだった。
体感だが穴の深さは二階部分に相当する。落ちながらミナミはそう考えた。
ふと隣を見ると、カチャカチャと物音を立てながらモンスターボールを取り出していた石井の姿が。
モンスターボール同士擦れる音だったかと思っていると、この状況にも関わらず冷静を装って二つほどボールを投げた。
出てきて床に着地したのはカビゴンとチルタリスだ。要は「クッションにしろ」とでも言うのだろうか。
ミナミと石井はカビゴンに、吉川はチルタリスに向かって落ちていくのが確認できた。
「お、俺はぁぁ!?」
何も用意されていないためにこのままでは大怪我必至のケンゾウは叫ぶように助けを求める。
「あんたはどうにかしなさい!」
微かにミナミのそんな声が聴こえ、不満を怒鳴り散らすも、このままではただ墜落するだけだ。
「くっそ……もうどうにでもなれ!!」
適当に指に触れたポケットの中のボールをすぐに取り出し、床に向かって思い切り投げる。
「……!?ハリテヤマかっ!!」
ひとまず安心できそうなポケモンだった。
あとはハリテヤマがキャッチするのを祈るだけ。
あとの三人は先にポケモンに着地することで無傷でいられた。
三人ともポケモンに着地する瞬間に、ぼすっと柔らかい何かに突っ込むようなおかしな音がする。
それでも痛いことには変わりないが。
「いっ……たぁー!もう、何でこんなにも深いのよ」
カビゴンの腹の上に全身を打ったミナミが起き上がる。
隣には突っ伏している石井の姿もあった。
「ちょ、ちょっと大丈夫!?まさか死んでなんかいないよね?」
びっくりして体を揺さぶるが反応はない。
その変わりに、フフフ……と不気味な笑い声が聴こえた。
「生きてるんかい」
呆れて放っていたら自分から起き上がった。やはり怪我はないようだ。
「あんたはいいよねぇ。チルタリスを独り占めだなんて」
横を見ると吉川がチルタリスの羽の上でゴロゴロ転がりながら「やべぇぇ!やわらけぇ!」なんて言ってる始末だ。
あまりにも状況を考えていない二人にミナミはため息を零す。気楽だなと思いながら。
一方ケンゾウについては、ハリテヤマが二mを越す巨体を受け止める事ができるはずがなく、一緒になって崩れて地面へと叩きつけられてしまう。一応クッション自体にはなったようだが。
ハリテヤマからしては当然苦しい。お返しと言わんばかりにパンチを思い切り受けて吹っ飛んでいく彼の姿が。
「なにやってんのあいつら……」
それらをジェノサイド達の真っ隣で行われたのだから一旦バトルを中断せざるを得ない。
「面白いお友だちだな?ジェノサイド」
軽く馬鹿にされるも、一般人を連れてきたのはキーシュの方である。
もうどっちもどっちとしか言えない。
三人はポケモンから降りると、ジェノサイドら二人を見つめる。
「レン……」
「もう戦っていたんだな、レン……」
吉川と石井は目的を思い出したのか、その瞬間には目の座り方が変わる。
もしかしたら邪魔をされるかもしれない。そう思いながらも、冷静に、友達として高野は一声かけた。
「とりあえずそこどいてくんね?邪魔だからさ」
そこは素人三人。普通に「お、おう……」と言うと香流やハヤテのいる後方へと走っていった。
「いやそこは不意打ちしろよ」
思わずジェノサイドも本音が出る。
「慣れていない一般人にそんな事期待しても無駄だって。そういや、不意打ちで思い出したが……」
それまで後ろを見ていたジェノサイドはキーシュとメガボーマンダへと視線を戻した。合図はないが再開される。肌でそんな空気を感じ取った。
「さっきバンギラスがやってた、変な動き……アレ'ふいうち'だろ」
ジェノサイドはその言葉にドキッとする。早いその動きをキーシュが捉えていたことについてだ。
「ほ、ほら……バンギラスだって'ふいうち'覚えるぞ……?」
「覚えねーよアホが。まぁいい。それだとしたらまた見せてもらおうかなぁ〜……」
緊張感漂う光景だが、ジェノサイドの中では勝利を確信した瞬間でもあった。
(メガボーマンダ……性能が恐ろしいことは知っている……奴のスカイスキンはノーマル技が飛行技へとなり、なおかつ威力も上がる。あれの一番怖いのは飛行技と化した'すてみタックル'……。そしてその技は物理。威力が倍になった技を受け切るわけがない……'カウンター'で跳ね返せる!!)
目の前の相棒を見つめ、深く念を送る。ボーマンダの物理技を受けるだけでいい。それだけで勝つのだからと。
(最後に一仕事頼むぜ……ゾロアーク!!)
対しキーシュはニヤリと八重歯を見せるとボーマンダに指示する。相手がどう来るか分かっていても指示せざるを得ないのだから。
「'ハイパーボイス'」
「えっ……?」
低く嗤うかのようなその声に、聞き取りにくかったのもあったが、ジェノサイドは一瞬きょとんとして見せる。
その直後。
飛行機のエンジン音のようなけたたましい爆音がバンギラスを、ジェノサイドを文字通り吹っ飛ばした。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.195 )
- 日時: 2019/01/21 14:02
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
被っていた帽子が吹き飛ばされた。
この部屋の奥は暗闇しかない。この部屋がどのくらい遠いのかも暗黒に染まっているせいで分からない。帽子はそこまで行ってしまった。
ダメージを受け、後方、ジェノサイドのいる方向へとバンギラスが飛んでくる。
(や、やべえ……!?)
だがそう思ったのは一瞬だった。たとえバンギラスが自分にのしかかられても何ともない。
何故ならバンギラスに化けたゾロアークなのだから。
しかも吹っ飛ばされている途中に、水に濡れて消えるインクのようにその身体も徐々に本物の姿へと戻ってゆく。
「ぐわっ!」
ドシャ、と体力が残り一のゾロアークが吹っ飛んだ先のジェノサイドと衝突、彼はゾロアークに押し潰される。
「いっ……いってぇ……くそ、大丈夫かよゾロアーク」
息が絶え絶えであった。それもそのはず、ゾロアークの体力はあと一しかないのだから。
(きあいのタスキで体力が残ったはいいけど……このまま逆転するのは無理だな。クソッ、あいつ俺が'カウンター'使うのを予想してやがったな!)
「バンギラス見りゃ分かる」
何とかして体の上のゾロアークをどかし、自分は立ち上がった。
「分かるだぁ?見分けなんてつかねーじゃんかよ」
「本気で言っているのなら笑うぞ?本来幻影に実体はない。あくまで"化かしているだけ"だ。魅せる能力は素晴らしいがそれに威力はない。これと見つめた時、お前は一度はこう思ったはずだ」
キーシュは一息置く。ジェノサイドの様子を伺うが何ともない様子だ。
「どうやったら化かしつつ攻撃できるか、とな」
ジェノサイドは思わず聞こえない程度に小さく舌打ちする。見破れていた、と。
「この問題を解決することは出来ない。何故なら、どう頑張っても幻影に実体を持たせることは不可能だからだ。でも似たような事は出来る。化けるポケモンが使える技を使ってしまえば、傍から見れば化けたポケモンが実体を伴った技を打っているように見えるだろ?お前のバンギラスが'だいもんじ'ではなく'かえんほうしゃ'を打った理由は安定を求めるためじゃねぇ。ゾロアークが覚えている技だったから。そうだろ?」
「よく分かってんジャン。そんなお前だからこそゾロアークの'カウンター'を分かっているうえで物理技叩くと思ったのに」
「俺はそれが予想の範疇ならば絶対に負けることはない。何故だか分かるか?いくらでも対策できるからだ」
ジェノサイドは苦し紛れに笑ってみせる。それに意味はあるのか。自分でも分からなかった。
改めて状況を見てみる。
キーシュのジャローダは何とか倒した。今出ているのはメガシンカしたボーマンダ。
対してジェノサイドは体力が1のゾロアーク。ゾロアークで倒すのは不可能だ。'ふいうち'でも叩けばダメージは与えられるだろうが無いよりはマシだ。
問題はその後。
キーシュは考えられる事すべてを対策した上での行動を取ってくる。真正面から、正攻法で当たっていくのは無謀だろう。
思考を巡らす中、ふと"それ"が過るが。
(いいのか……?あれを使って……。まだあれは確信が持てていない……)
ゾロアークが命令無しに動いた。
主人と思いがシンクロしたのだろう。'ふいうち'を打たんとボーマンダ目掛けて飛び掛った。
「ほう、命令無しに動けるか。珍しいな」
その光景に驚きはするも、やる事など見えていた。
ゾロアークの肘を使った'ふいうち'が分厚い翼に当たる。やはりというか、ダメージになっているかどうかも怪しかった。
「'ハイパーボイス'」
翼に攻撃を与えたゾロアークは足場のない宙に漂っている。
躱せるはずもなく、爆音を伴った衝撃波がゾロアークを包み、吹き飛ばす。
勇猛果敢に挑みに行ったゾロアークは、転がった形で主人の元へ戻ってきた。
「これでテメェのも倒れた……五分五分ってところか」
聞く耳を持たず、ジェノサイドは苦悩する。どうするべきかと。
「オイ聞いてんのかよ!テメェのゾロアークはとっくに倒れてんだよ。早くボール戻せ」
そう言われてやっとゾロアークをまだ戻していないことに気づいた。
「あ、あぁ。すまない」
戸惑いながらジェノサイドはゾロアークのダークボールを取り出して今度こそ戻す。
急いで戻そうとする手が他のボールにあたり、その拍子にポケットにあった他のボールが辺りに散乱してしまった。
「あっ、くそ……」
慌ててそれらを拾い上げてすべてしまう。手も顔も汗みれだ。
その慌てようを見てキーシュはつい鼻で笑う。
「焦っているねぇジェノサイド……実に滑稽だ」
今のところ手が無いわけではない。だが、本当にそれが通用するのか分からない。
だからこそ、ジェノサイドはまだ悩む。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.196 )
- 日時: 2020/02/27 12:33
- 名前: ガオケレナ (ID: 3T3.DwMQ)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
いくら時間が経ってもジェノサイドはポケモンを出さない。
その変な様子に素人たちや、ジェノサイドの仲間たちもそのおかしさに気づく。
「リーダー……いつになったらポケモン出すんですかね」
「レン?どうかしたの?何か様子がおかしいけど」
「香流さん、でしたっけ?あの様子をどう思います?」
「え?えっと……レンの読みが'ハイパーボイス'によって外れた事を考えると、手が無いのかも……しれない。こっちも詳しい事は知らないけどメガボーマンダはかなり、その……ヤバいから」
「僕も同じ考えです。このままじゃリーダーは……」
何を仲良くゼロットに味方した、リーダーの友達と話をしているんだと心の中で突っ込みつつ、ハヤテは胸ポケットに隠していた物に触れる。無いとは思っていたが、もしもバトルでジェノサイドが勝てなかった時、使おうと思っていたヤツだ。
「オイオイどうしたジェノサイドォ!!まさかもう使えるポケモンが居ないってのかぁ!?だったらこの勝負は俺の勝ちのようだな?あぁ!?」
威圧的に見せる事で更なる焦りを誘ったキーシュだが、まともにこっちを見ていないせいで通用したか分からない。表情に変化はないが手は震えていた。
(やったか)
思わずニヤッと八重歯を見せ笑う。だが、ジェノサイドの様子はまだおかしかった。
キーストーンが埋め込まれている白い杖、メガワンドを天井に、正確に言えば破壊し、上の階まで続き、さらに破壊した窓の外。
夜空に向けて掲げていたからだ。
「この後に及んでまだやるか……」
「やるさ。これにより勝敗が決まるとしたら尚更な」
淡く、薄くだがキーストーンが反応している。
つい、杖の先をキーシュは見た。
崩れていない天井を示しているが、もっと深く見るならば、上階、さらにジェノサイドたちが無理矢理突破した窓の先。
無数に広がる闇の空を示しているのだ。
まともにやりあっては勝ち目がない。いや、ジェノサイド程のポテンシャルならば本来はあるだろうがそれよりも「使えば勝てる」という意味でこちらを使うことに決めた。
使えば、勝てるかどうかは分からないが手頃なポケモン。
使えば、勝てるがその力が確実に使えるか分からないポケモン。
本来だったらどちらを選ぶか。本来のジェノサイドならば前者を選ぶだろう。
だが、今はそうには行かなかった。
焦りと緊張と興奮。理性よりも勝るそれらがあった。
まともな思考回路など持ち合わせていない。さらに、"それ"を使いたいという好奇心もあった。
もう後戻りはしない。
「来い……。頼む、来てくれ……」
叫ぶように、ジェノサイドは到来を望む。
「さぁ来い!俺の最終兵器!!」
変化はない。誰もがそう思った。
キーシュですらも思っただろう。
小さく笑うと、彼はまともに勝負する気が失せたのか、玉座へと戻りゆったりと座ろうかと考えた時だった。
「ーッ!?」
微かだが風を切る音がする。気がした。
気のせいにも思えたがタイミングを考えると嫌な予感がする。
キーシュは玉座に座ると、自らの仲間のもとを向くと命令するかのように叫ぶ。
「おめぇら静かにしろ!」
その叫びに驚いたゼロットの構成員と、それまで他愛もない会話をしていた吉川や香流、ミナミとケンゾウの言葉も止み、この部屋から音がなくなった。
その瞬間無音となった部屋に一層、風を切るような音が響く。
(来た……のか!?)
(奴の言った最終兵器とは何だ。空に向って吠えたと言うことは手元のボールには居なかったポケモンと言うのか。そもそもこの風……。普通じゃねぇ。来たのか、奴のポケモンが)
ジェノサイドが空けた穴から入ってきたのか、この広い部屋全体に風がなだれ込んでくる。
「うわっ!!」
合図も前振りもなく急に発生した突風に、近くにいた石井らが驚きひっくり返った。
問題はその風の発生源に実体がないということだからだ。
「まさか……またイリュージョンか!?」
キーシュは今起きた異変がゾロアークの仕業だとまず最初に思った。
ゾロアークが実は倒れておらず、ボールに戻した光景すらも幻影だとすると有り得ない話ではない。
だが。
(さすがにもうゾロアークは来ねぇ。俺のボーマンダはジェノサイド対策の為に裏の裏を掻いた特別仕様だ。奴が裏の裏の裏を掻ける技術をこんな状況で生み出せるはずがねぇ。そもそも人間の精神的な構造上無理だ。と、すればやはり新手)
今でも突風はあちこちに起きているのか、そこらに突っ立っている人の服がなびいたり、終いには吹っ飛んでる輩もいる。
そのよく分からない光景を目にしたキーシュは。
「何がどうなってやがる……この風は何だ。何故奴等は吹っ飛んでいる……どういう事だ答えろジェノサイ……ッ!」
言っている途中にふと気づく。
(待て、奴はコイツを呼び出す時に何と言った……?)
キーシュは座りながら辺りを見る。
至るどころに風が発生している。
自分の髪もなびいて仕方が無い。
(飛んでいるのか!?この空間を、縦横無尽に!!)
ともするならば、その姿が無ければおかしい。イリュージョンでもないとすればその姿は。
(何らかの方法で姿を見せなくしているのか?どうやって?透明とかか?)
透明、というワードが思い付いた瞬間、キーシュは目を丸くした。
当てはまるポケモンに限りがあるからだ。
「ジェノサイド……てめぇ、ラティ兄妹でも呼び出してんのか」
ジェノサイドは反応しない。掲げた杖を下げて顔も俯いている。
「答えろ!!てめぇは……このバトルにおいて何を呼び出した!!」
キーシュは椅子から立ち上がりながら怒鳴る。それでも変化はない。
代わりに帰ってきたのは、大人しすぎる彼の態度以外何も無かった。
「見せてやろうか?俺の切り札にしてお前への唯一の対抗馬を」
言うと、白く光る粒子のようなものを纏ってその真なる姿を見せる。
流線型なボディ。赤く光る翼。
正真正銘にして本物のラティアスだった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.197 )
- 日時: 2019/01/21 14:17
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
準伝説。その入手難易度と理想の形を求めるまでの難しさからこの世界においてほとんど姿を見なかったポケモンたちだ。
ジェノサイドもキーシュも、これまでの深部の生活において初めて見たことだろう。
そもそもな話、ミュウツーのように本来であればこの世界で実体化させることは不可能な存在だ。
「ラティアス……。テメェ、扱えるのかよ」
「でなければ頑張って理想個体出そうだなんて思わねーよ」
「ラティアス……?アイツ、いつの間にそんな物を持ってたってのよ」
「リーダーってそこまではストーリー進んでたんすね」
XYしか持っていない石井と吉川にはケンゾウとミナミの会話が分からないが、ORASになるとストーリーを進めるだけで無条件でラティアスかラティオスが手に入る。ジェノサイドが今ラティアスを持つと言うことはアルファサファイアか。
しかし、ジェノサイドはそこで止まらなかった。
再び杖を振る。
今度は完全に反応していた。
「ありがとよ。塩谷のおっちゃん。あの時貰った石はこいつのだったんだな」
「てめぇ……!?まさかもうラティアスナイトを手に入れているってのか!?」
間髪を入れずにメガシンカが始まる。
赤いボディが濃い紫へと変貌したメガラティアスの姿がそこにあった。
「ちょっと待って!リーダーはいつラティアスナイトを手に入れたのよ!!」
状況が追い付かず、ミナミはケンゾウのもとへ走り、彼の肩をがくんがくん揺らす。
「わ、わけわかんねーよ……てかやめやめ……やめろ!!俺だって分かんねーよ!」
手を払ってミナミの暴走を止めた。
「ラティアスナイト……。ハヤテさん、だっけ?この世界でメガシンカを使うにはこの世界でまた別にメガストーンを探さなきゃいけないんですよね?」
香流は隣にいるハヤテに質問した。最早敵同士という感覚がないように思えてしまう。
「あ?あぁ。そのポケモンに合ったメガストーンを探さなきゃいけませんよ。それがどうかしたのですか?」
「いや……レンはメガストーン見つけた時はいつも報告してくれたけど……ラティアスナイトの時は報告が無かったから……」
香流は思いつく限りの、高野に関する出来事を思い出してみる。
いつしか、皆で横浜に行ったあの時の風景が蘇った。
「まさか、あの時の!?」
ジェノサイドが初めて塩谷と会った時。彼から頼み事を引き受けた時に貰った物がある。
その時は何か分からなかったが……。
「あれがラティアスナイトだったのか!!」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.198 )
- 日時: 2019/01/21 14:22
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
メガラティアスVSメガボーマンダ。
勝ち目のない戦いが一気に互角の戦いへと変化した。
(メガボーマンダの素早さの種族値は120。対してメガラティアスは110。たとえメガシンカしても怖くもなんともねェよ!)
「ボーマンダ!'ハイパーボイス'だ」
呼応するかのようにボーマンダは再び爆音と衝撃を呼び起こす。
避ける範囲が見当たらないため、いくらラティアスと言えどもダメージ必至。キーシュはそう思っての技のチョイスだっただろう。
だからこそ、放たれる前にラティアスは動く。
ボーマンダに迫り、後ろに回り込む形で、'ハイパーボイス'を完全に躱す。
その軽やかな身のこなしは見る者を虜にする。あまりにも理想的な動きだからだ。
「!?」
「すげぇ……」
後ろに佇むことにより、キーシュのすぐ目の前がラティアスだ。
ラティアスはキーシュを睨んだかと思うと、ボーマンダに向って翼から白い玉を発射した。
直撃と同時にボーマンダの周りに、文字通り霧が出現する。
「今のは!?」
「'ミストボール'だ」
翼を広げ、ボーマンダを包み込もうとした時だ。舞った白い羽毛が一箇所に集まり、白い玉となると、それを思い切りボーマンダに当てたのだ。
当たった瞬間、まるで中身が破裂するかのようにボーマンダの周りだけだが薄い霧が表れる。
「ゲームでは弱い技だが、実際にはこんな使い方があるんだぜ?」
「っざけんじゃねぇよ……ナニ準伝呼び出してテンション上がっちゃってんだよ。勝負はまだまだここからだろうが!!」
ボーマンダが急上昇し、霧から抜ける。
だが、既にラティアスの姿はない。
キーシュは軽く舌打ちした。
「また屈折で姿消したか」
「いや、いるよ?そこに」
気づいた時にはボーマンダの目の前にいた。
すぐさま'ミストボール'を放ち、ボーマンダの死角を狙おうとする。
だが、今度は避けられる。
さらに上へと飛んだことで霧の玉から逃れることができた。
しかし。
ボーマンダがどんなに避けても、どれほど逃げて隙を突こうとしても、ラティアスが先回りして逆に狙われる。
「くそっ、はえぇ……」
本来ならば遅いはずのラティアスに押されているのが何より腹立たしい。何故ラティアス如きに負けるのかと。
(いや、違う。ラティアスが速いんじゃねぇ。動きを変えているだけだ!)
メガラティアスとは、体が小さい分小回りが利くことに何よりの利点がある。
例え自分より速いポケモンが相手でも、回り込み、死角を取ることで速さには負けててもリザルトでは勝ってしまう。
('じしん'は効かねぇ。'ハイパーボイス'も避けられる。ともなれば……直接ブチ当てるしかねぇっ!!)
キーシュは叫ぶように「'げきりん'」と命令する。
ボーマンダは血が上るような顔をしたかと思うと、爪を光らせ、手当り次第に暴れだした。
とにかくその爪にあたるモノすべてに斬撃を与える。ラティアスも例外ではなかった。
周りが見えないながらもボーマンダはラティアスを捉えると一直線に進み、その竜爪がラティアスを掴み、思い切り斬付ける。
のが理想だった。
ラティアスはすべてそれらを避けてしまう。ボーマンダが爪を、翼を、尻尾をぶち当てようとしてもそれらすべてを軽々と避けてしまう。
まるでインファイトを繰り広げているような、拳一つ一つの攻撃を避けていくように。軽やかな、まるで何かのリズムでも取っていそうな動き方でもしているかのように。
「くそっ、全然当たらねぇじゃねぇか!!」
イライラが募り、その怒りをジェノサイドに向ける。
「一体何なんだあの動き、あの力は!本当にラティアスかよ!!」
「どこからどう見てもラティアスに決まってんだろ。そこらのドラゴンポケモンにやられるようじゃ準伝なんて言えねぇからな」
「てめっ……」
勝負投げ出してジェノサイド直接攻撃しようか思った時だ。
ボーマンダの猛攻がいきなり止まる。
よく見ると、疲れ果てて床へと降りようとしていた。
「お前、こんな時に……早く立て直せ!来るぞラティアスが!!」
ボーマンダが床の上で息を切らしている所をまるで狙っていたかのように、ラティアスが空中にてピタリと止まる。
ジェノサイドもこの瞬間を待っていた。
だからこそ、今度こそ勝利を確信して命令する。
「'りゅうせいぐん'」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.199 )
- 日時: 2019/01/21 14:30
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
この世界で'りゅうせいぐん'を打てばどうなるだろうか。大体の人間は考える。
ゲームでは広い空から文字通り隕石が降ってくる。それを直接相手に叩く感じだ。
ではこの世界も同様なのか?その場合、屋内で放てばどうなるのだろうか?
答えは単純かつ分かりやすいものだった。
アニメの描写と同様に、そのポケモンの体内から莫大なエネルギーが空へと放たれていくように飛んでいき、それが無数に分裂して相手を叩き込む。
この技だけではない。大体の技がアニメを参考にしている節がある。
ラティアスから放たれた金色の流星は広がるだけ広がって空間に撒き散らされ、無差別に地上へと落下する。
コンクリートがそんなものに耐えられるか分かったものじゃない。
それ以前にボーマンダが逃げることができない。
二つの不安がキーシュを過る。
疲れて床にのびて休んでいるボーマンダに何が命令しようかと叫ぼうとした時。
無数の隕石が着弾した。
ドン、ドドン!!と途切れることなく爆発を起こす。
床が破壊されているせいか、細かい砂利と砂煙が大量に舞う。
目の前の状況も分からなくなった。
「うわあぁ!!」
「叫んでないで早く逃げろ!危ねぇぞここは!」
聞いたことのある声が段々と遠ざかって行った。ここを危険と判断するのが遅すぎると言いたくもなる。
勝敗は煙が晴れずとも分かっていた。
とにかく今はヤツらの安全の確保が先か。
運命を変えるであろう煙がついに消えた。
キーシュのボーマンダは先程から同様にのびていたが、起き上がることはなかった。
逆にラティアスはピンピンしながら宙を舞っている。
「勝負有りだな。この結果、深くテメェの胸に刻みつけておけ」
言いながらジェノサイドは機を伺いながらラティアスを一旦ボールに戻す。お互いに残り一体控えているからだ。
当のキーシュは'りゅうせいぐん'の爆風に巻き込まれたのか、地べたに座りこんでいる。
返事はない。生きているだろうが、ラティアスを出されたのがそんなにショックだったのか、一切喋ろうともしなかった。
呆然と二人を見つめるゼロットの構成員をよそに、ジェノサイドは彼の仲間と友達を探し、背を向けたときだ。
何やら笑い声がする。
「フ、フフ……」
ジェノサイドの後ろからしたという事は声の主はキーシュか。
「フフフ……ジェノサイド……テメェは何も分かっちゃいねぇな」
声のトーンと笑い方が気に食わない。
冷めた目をしながらジェノサイドはキーシュを見る。
「何がだ?準伝使ったとはいえ、勝負はまだ続いている。最後のポケモンはどうした?」
「やっぱり分かってねぇな……お前、少しはおかしいと思わなかったのかよ?」
ありがちな言い訳かと呆れ、聞く耳を持つもんかと無視しようとする。
「何で一切関わりのねぇ俺が……テメェの基地の居場所を見つけ、それを写真として貼り付けることが出来たのかってな」
一瞬動きが止まった。が、結局は一瞬だった。理由はひとつ。
「安っぽい脅しだな。だから何だってんだよ。俺の情報なんざ既にダダ漏れしてんだよ」
「良かったのかぁ?大人数でこんなトコまで来ちゃってさぁ……」
キーシュの声色が急に変化した。そのせいかジェノサイドも段々と心拍数が上がっていく。
さらにそれを煽るかのように、タイミングが良すぎるんじゃないかと思えるくらいに、ジェノサイドの携帯が鳴った。
(なんだ……?レイジ!?)
表示された名前を見て驚愕する。彼は基地で居留守しているからだ。
画面とキーシュを交互に見た後、通話ボタンを押した。
「もしもし……」
「大変ですリーダー!!何者かが我々の基地に攻撃をしかけています!聴こえますか!?今工場跡の方で爆発が……」
同時に爆音のような、炎が暴れている音も微かに聴こえる。
「どういう……事だよ……」
その最中、ハッとしてキーシュの方へ向く。
彼は待ってましたとばかりに口が裂けるかのように笑うと、こう言った。
「少しは思ったりしなかったのか?もしも、オレ達が……ゼロットがブラフだったら……ってなぁ?」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.200 )
- 日時: 2019/01/21 14:36
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「まさ……か」
ジェノサイドは遅すぎるタイミングですべてを理解した。
ゼロットが、此処自体が罠だったと。
友達らが拘束された時点でこの罠に飛び込むしか道は無かったと言うことに。
「やっと気づいたな……何も俺はゼロット単体でテメェに挑んでる訳じゃねぇ。テメェと違ってグルってモンがあんだよぉ!」
最後まで聞くことなくジェノサイドは走り出した。
とにかく急いで基地へと戻らなければならないと。
来た道を走り、所々をポケモンに乗って飛んだ先に、何人か仲間がいた。
「リーダー!さっき基地から連絡が……」
「リーダー!戦いはどうするんですか!?まだ終わっていませんよ!?」
「どうでもいいんだよ奴との戦いなんか!いいから急いで基地に戻れ!!物理的に基地が攻撃されてるぞ!このままじゃ残ってる奴らがヤバい!!」
ラティアスを呼び出してジェノサイドはそれに乗る。たとえどんなに速すぎるスピードで飛んだとしても知ったこっちゃない。
後になって気持ち悪くなるだろうがそんな事はどうでも良かった。
とにかく、少しでも早く基地に戻らなければならない。
途中、ミナミとケンゾウに会わなかった事に気づきはしたものの、すぐに忘れてしまった。
ーーー
工場が赤く燃えていた。
時折小さい爆発を伴ったのは、機材に可燃物が残っていたからか。
「ちょろいもんね。本当に此処がジェノサイドの基地なのか疑問になるレベル」
腰にまで届きそうなくらいの長い黒髪をした少女はその珍しい光景を基地の周りに広がる林から眺めていた。
段々と火が弱まっていく。恐らくあの中にいたジェノサイドの人間が水でも撒いているのだろう。
「よくもまぁ火中から水撒けるわね……その勇気は称えるわぁ」
「成程、あなたの仕業でしたか」
いきなり声がしたのでその方向へと振り向くと、長い白髪に白装束に身を包んだいかにも妖しそうでいかにも優しそうな男がいた。
その立派そうな白装束は乾いた血の痕で幾何学模様を創り出している。益々妖しい。
「我々のリーダーはゼロットと戦いに行きました。タイミングを見るにあなたもゼロットの人間か、それに関係する者ですね?」
「アタシが誰であろうと関係ない。そうじゃない?」
その少女はボールを取り出す。つられてレイジも懐からゲンガーの入ったボールを強く握ってそれを見せつけた。
(どことなく……似てますね。この小娘。私のリーダーに。そこが戦いづらいでしょうが……外見が違うから別人だと思える。だからこそ何とか戦える……やるしかないですかね)
レイジは、一人の愛する人を脳内に思い浮かべる。
雰囲気、外見……詳しくは当の自分でも分からない。だが、どこかがあの人に似ていた。
だが、基地を攻撃している以上、敵でしかない。無駄な思いはすべて省き、目の前を戦場にする覚悟を改めて決める。
ーーー
視界がまともに映らない。足が自由に動かない。全身が冷えきっている。
フラフラした足取りでジェノサイドは林を歩いていく。
ラティアスが人間の限界まで抑えてくれたものの、それまで乗ったリザードンやサザンドラ、オンバーンとは比べ物にならないくらいのスピードだった。
一時間せずに基地周辺へと到着した。
とにかく気分が悪い。ふらついた拍子にゆっくり地面へと倒れると、そのままジェノサイドはしばらく気絶してしまう。
生身で本気で翔ぶラティアスには二度と乗るもんかと強く思った事だろう。
偶然か否か、彼が倒れた四m先ではレイジが激突を繰り広げていた。
幸運だったのは、お互いがお互いの存在に気づかなかった事だろう。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.201 )
- 日時: 2019/01/21 14:41
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
戦闘が始まってまだ五分も経っていなかったはずだ。
レイジの前にはメガシンカをしたゲンガーが、少女の前には倒れたナットレイがいた。
「'ほろびのうた'を使う型だったかぁ……」
わざとらしく悔しそうな素振りを見せながらナットレイを戻す。
「じゃあこの子はどう?」
誇らしげにその少女はバクオングを繰り出した。
あまりにもあからさますぎるそのチョイスに、事前に何か情報を入手したのだろうか。レイジがメガゲンガーを使う、という事を。
(バクオング……かなり厄介ですね。と言うより明らかな私の対策とでも読み取れます。このタイミングならば'ほろびのうた'対策でしょうか。ゴースト技も打てないですし、サブウェポンでチマチマと攻撃するしか……)
「ゲンガー、'ヘドロばくだん'」
ゲンガーの口から大量の毒の塊が放たれる。
いくつかをバクオングは避けるも、地面に着弾したそれは軽い爆発を生み出す。
「意外とすばしっこいんですね」
「嘗めないで。アタシのバクオングはそこらのノロマなバクオングと違うから。それと……」
距離を離していくバクオングを眺めるために一旦話を切ってから再び続ける。
「アナタが杉山のいる日本武道館を襲撃した際に、メガゲンガーを使ってスゴい活躍をしてくれたってのも全部知ってるから」
やはり、と言うかすべて対策されていた。
「アナタが'ほろびのうた'を使っていた事もね」
だとすれば先手のナットレイは何だったのか。そもそも先手でナットレイというのもおかしい。
一体何を考えているのか分からない人間だ。
「なるほど、ではそのポケモンに'ほろびのうた'が通用しないということですね。ならば……」
このタイミングでバクオングとするならば、その特性は'ぼうおん'か。
ただ'ヘドロばくだん'を打ち続けていても結局は相手の技を受けてしまえば終わりだ。
ともなればやる事は一つ。
「ゲンガー、'みがわり'」
瞬時にゲンガーがゲームでお馴染みの身代わりと入れ替わった。この間、本体がどこにいるか等は分からない。
「あなたへのダメージを最小限に抑えてから……」
「もらったーーー!!」
その少女は目を光らせ、いきなり叫ぶ。
と同時に「'ばくおんぱ'」などというドキッとする命令も一緒に。
(ばく……音波?どういうことですか……。ゲンガーに通用しないノーマル技をぶつけてくるなんて……いや、まさか!?)
'ばくおんぱ'は'みがわり'を貫通する。つまり本体に当たるのだ。
'みがわり'で体力を消費し、しかもバクオングの特性がゴーストタイプにノーマル技を当てられる'きもったま'だったとしたら。
「まさか!?そのバクオングは……っ」
「そのまさかよ!まんまと騙されたわね!」
レイジが間違いに気づいた時は、ゲンガーにその技が当たった時だった。
メガシンカを解きながら宙を舞い、元の姿となって地に伏せる。
「くっ、読み違えたか……ッ!?」
「次はアナタの番かなぁ?」
無防備となったレイジの前に大きく口を開いたバクオングが構える。
「バクオング!アイツに向かって'ばくおんぱ'!」
吹き飛ばされる……。そう思い咄嗟に顔を覆った時。
何やらスマートなビジュアルをしたポケモンが割って入り、それはバクオングを一瞬でしとめた。
ドン、と鈍い音と共に砂煙が少し散った。怖くてしばらく目を開けられなかったレイジだったが、いつまで経っても攻撃が来ないので勇気を振り絞って目を開け、腕を下ろす。
「なっ……えっ?エルレイド……?」
見ると、エルレイドがバクオングを殴り、太い木の幹に叩きつけている光景があった。
エルレイドを使ってレイジの助太刀に入る人間などあまり広くないコミュニティから見て一人に絞られる。
微かに草木を踏む音がするのでそちらを見てみた。
「来てくれたのですね……?リーダー!」
嘗て赤い龍としてレイジと共に組織をまとめていた一人の女性が、そこにいた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.202 )
- 日時: 2019/01/21 14:45
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
赤い龍のリーダーミナミ。
彼女は、自身の仲間を守る為に無理矢理戦闘を中断させる。ついさっきまで戦っていた二人をそれぞれ見てみるが、レイジが意外にもぽかんとしているのが何だか気に食わない。
「あんたが此処にいるってことは……基地は大丈夫なの?」
その言葉をかけられた時には火はもう消えかかっていた頃だった。
「え、えぇ……えっと……」
今の状況が分からないレイジはここから基地を眺めようとする。分からないくせに犯人を探して戦おうとしたのだろうか。
「だ、大丈夫ですっ!」
「ホントーに?」
完全に信用しきってない目で見つめる。レイジはレイジで喜んでいるのがさらに気に食わない。
「あのさー、そろそろいいかなぁ?」
飽きてきた少女が二人の視線を集める。ミナミが振り向いた直前にバシャーモを繰り出し、彼女に直接攻撃をくらわせようと、蹴りを放つ。
「危ないっっ!リーダーッ!!」
辛くも仰け反る形か、そもそも軌道を逸らしていたからか、蹴りを躱す。仰け反りすぎて尻餅をついてしまった。
「いたっ、……」
「バカじゃないのぉ?」
場違いすぎる声とその反応に、少女も呆れを隠せない。
同時に、バシャーモとエルレイドが互いを睨む。
「……バカなのはどっちよ……」
砂埃を叩きながらミナミは立ち上がった。
闘争心剥き出しのポケモンがポケモンだからか、ミナミには絶対の自身があった。
エルレイドがバシャーモに相性的に見て負ける訳ないと踏んでいたからだ。
「赤い龍にしてジェノサイドの人間であるウチは負ける戦いはしないの。あんたはレイジに勝ったみたいだけど……ウチはそうはいかないからね」
「今ので終わってたの?アナタたちの勝ち負けの基準がよく分からないわねぇ……」
小さくため息をついて少女は一言付け加える。
「じゃあお望み通りいいんだね?勝っちゃっても」
首からさげたロケットが光に照らされて白く光る。
中身はキーストーンだ。
「あんたもメガシンカを……」
「当然でしょ。じゃなければここまで来て基地に攻撃しようだなんて思わないし」
ロケットから発せられた光はまるでバシャーモと共鳴しているようだった。
光とエネルギーに包まれてバシャーモはメガシンカを果たす。
よりスマートになった体つきをしており、腕からは炎が吹き出ている。
そして何より厄介なのが、
「特性の'かそく'……か」
ミナミは自分のエルレイドをチラっと見る。ORASになってからエルレイドのメガシンカが出たことは知っていたが、自分はエルレイドナイトはおろかキーストーンもデバイスも持っていない。メガシンカを扱うなど夢のまた夢だ。
「で、でも、一度戦うって決めたんだし……逃げる訳には、いかない……」
「その勇気は称えるわぁ。でも残念。アタシ勝っちゃうからさぁ!こんな戦いに!」
何を根拠に言っているのか無駄にテンションだけが高いのでミナミのストレスが溜まる一方だ。
だが、それと同時に絶対的かつ有利な状況ではない事も分かってきた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.203 )
- 日時: 2019/01/21 14:55
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ピリピリとした空気が三人を包む。
何もしていないのに追い込まれた感覚にミナミは陥る。助けに入ったはずなのに助けを求める形となってしまうことが何より悔しかった。
基地では火は消されたものの、まだ何やら騒いでいるらしく、不特定多数の混乱した声がここまで聴こえている。
その少女は腕をスッと振り下ろす。それを合図にバシャーモは身構えた。
来る……。
ミナミとレイジも察し、逃げようにも逃げられない状況へと誘われる。
「ブレイブ……」
バード、と言う予定だった。
だが、それは謎の呻き声によって邪魔される。
「……ール……。ゾロアーク……」
少女はそれに気づかなかった。だが、ミナミだけがそれをアイツだと瞬時に理解した。
声に反応し、ミナミが思い切り顔を上げた時。
バシャーモとエルレイドの前には漆黒のボディを見せつけるゾロアークの姿が。
「ゾロアーク……?」
命令の邪魔をされたことによって技を放つことなく呆然と突っ立っているだけとなる。
すると、
「やめておくことだな……。そのエルレイドに物理技をぶつけてみろ。その瞬間このゾロアークに負けるぞ?」
叢の中からジェノサイドが頭を抑えながらバッ、といきなり現れる。
「ジェノサイド……!?いつの間にそこに……」
「テメェか。俺の家に火放ちやがったのは。やったのはお前だけか?他にもいんのかよ、テメェの仲間ってヤツ」
少しぎこちない足取りでゾロアークの隣に立つ。その少女の目の前だ。
ミナミとレイジはホッとしたのか、少し離れて様子を眺めている。エルレイドはボールに戻された。
「何でアナタまでここに居るのよ……ゼロットは……キーシュは一体……」
「質問に答えろ。お前はどれくらいの仲間を従えてここに来た?それも、誰の命令でだ?何の為にここに……」
「質問は一個一個でお願いね?アタシ別に聖徳太子とかでもないからさ、一度で多くの質問に答えるのとかムリだから」
「そうか、じゃあこれだけは答えろ」
ゾロアークは一歩前に踏み出す。その手は幻影によって面白おかしく尖らせていた。
「テメェは何しに来た。理由によっては今この場で殺すぞ」
ゾロアークの爪のカラクリを知っていたからか、その言葉のせいからか、少女は口元を抑えて軽く笑う。
「殺す、ねぇ……。出来もしないくせに」
「なに?」
ジェノサイドは眉を潜める。馬鹿にされているだけでなく、別の意味も含んでいることに気づいたからだ。
「それじゃあ質問に答えようかなぁ〜。デモ、じきに分かることだと思うよ?変なところから宣戦布告とか来たら特に怪しんだ方がいいよ?そうねぇ……具体的な組織名を挙げるとするとー……」
少女はわざとらしく空を眺めると、悪女のような微笑みをして一言。
「『アルマゲドン』、とかね」
直後、ゾロアークの'ナイトバースト'がぶち撒けられ、木々が薙ぎ倒される。そのせいで土も大量に浴びてしまう。
土が落ちるようなパラパラとする音を聞きながら前を見るも、その少女はそこにはいなかった。
技が放たれたまさにその時、瞬間移動したように見えたのが最後だったはずだ。
後ろでミナミが「あっ!」と言って空を指している。不思議に思い、そちらを見るとポケモンに乗った少女の姿が。
「このご時世にフライゴンかよ」
「あらー?この子可愛いわよ?意外とバトルでも活躍してくれるし、アタシを何処へでも連れて行ってくれるし」
そう言いながら少女はフライゴンの背中を撫でる。愛情がある撫で方であった。
「とにかく、アタシは組織のリーダーじゃないから何も言えないけど、じきにアタシらも宣戦布告をするかもね。Sランクをまた相手にすることになるかもだけどぉー……せいぜい頑張ってね?」
言い捨てるように少女は飛び去っていった。ジェノサイドは強く拳を握ると、
「クソッ…!!」と怒りを抑えるように叫ぶ。
「さっきの女の子……アルマゲドンとか仰っていましたよね?ジェノサイドさんは……何かご存知なんですか?」
不安そうな足取りでレイジが寄ってきた。ミナミも一緒に。
ジェノサイドは悔しそうに、また、追い詰められたような顔をして空を眺める。
「一度……見た気がする……。さっきの奴は、自分はリーダーじゃないと言っていたが……もしそうならばおかしい事になる。そのリーダーは多分俺の知ってる奴だ」
何かを隠すように、勿体ぶったような言い方で濁そうとしているのが見え見えだった。
レイジがその事について問い詰める。
ジェノサイドは少し嫌そうな顔をすると、仕方ない、という一言と共にため息を吐く。
「お前達、組織の長は"紋章"と呼ばれる、その組織の名前が書かれた銀か何かの金属で作られたアクセサリーみたいなのを持っているだろ?」
と、言ってジェノサイドは胸ポケットから"cide"と書かれたアクセサリーのようなものを取り出した。長いので恐らく省略されたものだろう。
ミナミも、そう言えばと言いながら首に掛けていた"red Dragon"とある似たような首飾りを見せる。
これも一種の決まりのようなものであり、議会は、その組織の長は自身を証明するものとして自分が纏めている組織の印を常に持つことを奨励している。一種の身分証明みたいなものか。
「なぜ……そのような物を?」
「これ持ってるとトラブルが起きて議会頼みになったときに色々と使えるんだよ。勝敗がどっちについたかでジャッジを仰ぐ時とか、死んだ時の身分証明とか?俺まだ死んじゃいねぇけどな」
と言いながら乱雑に仕舞う。とにかく、とジェノサイドは話を続ける。
「俺は一度、大山で見た。アルマゲドンとある紋章を一瞬だがチラつかせた奴がいた。さっきのガキの言う事が正しいのならば……奴が……バルバロッサがまだ生きている事になる」
その人名を出すと、ミナミは口元を手で押さえて驚く様子を見せた。
彼女も、バルバロッサの話は少しだけなら聞いていたからだ。
「で、でも……バルバロッサは、その……前に戦った時に死んだはずじゃあ……」
「そのはずだ。あいつは戦いに巻き込まれて死んだ……。はずなんだけどなぁ。もしかしたら後任か何かがいるのかも。それか……」
ジェノサイドは先程、自分に対して言われた言葉を思い出す。
『殺す、ねぇ……?出来もしないくせに』
(出来もしねぇ、か……。案外そうかもしれねぇや)
続きを言うことなく、さらなる不安を抱えて彼らは基地へと戻った。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.204 )
- 日時: 2019/01/21 16:31
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「なるほど、この程度ねぇ……火はすぐに消したのか?」
あれからジェノサイドは焼け野原と化した基地の中へと進む。
火を消したであろう構成員が「ヤバいっすよ!」と言って行く手を阻もうとしたがそれを無視して進む。
可燃物がいつ燃えるかなんてそんな事は知っているからだ。
むしろその構成員も彼の言葉に答える始末である。
「は、はい。ここは元々廃工場でしたからね……。いつ使われていないタンクや機材に含まれている可燃物が燃えるかについての対策はしてましたからね。さほど火を消すこと自体は問題では無かったです」
「燃えたのはこの廃工場だけか?」
「は、はい!我々の部屋までは燃えなかったです。犯人がそもそも部屋の存在を気づかなかったのか、それか燃えなかったのかのどちらかかと……」
ジェノサイドは少し考えてみる。
燃えた範囲は廃工場のみ。つまり、ジェノサイド達が普段生活している地下の部屋までは燃えなかったのだ。
(コイツの言う通り……廃工場を基地としてあのガキが勘違いしたか……、燃えなかったかのどちらかだな)
廃工場と面している部屋の方角を見る。
そこは、鉄筋コンクリートで徹底的に守ってあり、その"基地"の建物の素材も断熱材で主に作られている。
深部にいる以上、基地が燃やされることも考えられることであった。今回それが上手く作用したといえる。
「とにかく、基地自体に被害はない。これまで通り生活していてくれ。廃工場を確認するのはたまにでいい」
特に見る物はもう無い。時折崩れる危険性のある機材を嫌な顔をして眺める程度であったが、現状での問題は何も無い。
基地へと戻ることにした。
ーーー
「アルマゲドンとは」
暖炉の火で暖かくなった談話室にいつもの三人が集まる。
レイジとミナミと、ジェノサイドだ。
あの騒動の後、詳細をまともに言えなかったせいもあり、きちんと言える時に言って対策を練って欲しいのが本音である。
面倒なのであまり言いたくないが。
「多分バルバロッサが抱えている、あいつのメインとなる組織の事だろうな。要するに俺達が大山でぶつかった組織の相手が、アルマゲドンの可能性がある」
「でも、うちらはよく分からないかも。うちらが来る前の事だったんでしょ?」
ジェノサイドは無言で頷く。
レイジも無言で隣のミナミを眺めるのみだった。
「正直、前の出来事については関係ないからどうでもいいんだけどな。とは言っても、俺もよくは分からないんだけどな。ただ言えることは一つ。奴等がSランクだって事」
「またぁ!?」
「と、言うことは現時点でSランクは三つあるという事ですか……?」
二人の驚きぶりを前にしても、ジェノサイドは特に気にする素振りを見せずに、指を三本立てる。
「そういう事。元々この世界は此処とゼロットの二強ではなく、アルマゲドンも加えた三つ巴の世界だったんだ。この三つの組織が互いに不可侵を守ってきたから今まで通りやれた。だが、今日でそれが崩れたことになる。まず俺達がゼロットと戦った事、それによるバランスの崩壊を恐れたアルマゲドンが俺達に宣戦布告した事だ」
「で、でもまだ、ある……マゲドン?は、宣戦布告していないよね?」
「現段階ではな。だが基地燃やそうとする奴の人間が所属する組織が宣戦布告しないはずがない。明日になれば発表される」
「ちょっといいですか?」
レイジが手を小さく挙げてそれらを遮る。二人はレイジに注目した。
「何故アルマゲドンがそんな動機で我々を攻撃すると分かりきっているのですか?」
「バランス崩壊云々のくだりか?そうとしか思えないからだよ。特にバルバロッサは……今は生きているか分かんねぇけど、アイツはとにかく俺を殺したがっている奴だ。何か大義名分があれば飛び掛ってくる奴等だからな。それに今回、俺らはそんな大義名分を受けるに足る悪役になっちまったんだよ」
何の事か……?と二人は考えるも、すぐに思いついてしまう。
「もしかして……ゼロット!?」
「……そうだ」
ミナミとレイジが互いに顔を見合わせる。事の本質を理解した瞬間でもあった。
「ゼロットは元々、危険人物となった俺らを排除するために立ち上がった。だから仮にゼロットが俺らに勝ったとしても正当化されちまう。でも、俺らはそのゼロットとかち合った。中断されて明確な勝敗がつかなかったバトルだったと言えるが……ゼロットのポジションからして後日なんて発表するかなんて目に見えている……。その結果俺らは何て言われるか?深部中を恐怖に貶める大罪人とされててもおかしくないだろ?アルマゲドンからしてもこのように向かせるのが作戦だったんだろうな」
つくづく現状が敵に囲まれている状況だと再認識してしまう。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.205 )
- 日時: 2019/01/21 16:39
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「……」
はっと目が覚めてしまった。
また敵が来たのではないかと勝手に想像し、それは眠りを妨げる。
あれからはジェノサイドは自室で寝ていた。
と、言うのも、火災が発生したのは基地ではなく廃工場のみだったので、生活できる空間は無傷だった。
だからこそ、あの後皆でご飯を食べることも出来たし、今もこうして部屋で寝ていられる。
起き上がるのが面倒臭いが、外が若干明るくなるであろう時間帯だと感じたので時間確認のついでに起きてみることにした。
やけに重い体を起こしてベッドから立ち上がる。
スマホはベッドからはやや離れた机の上に置きっぱなしだった。
「6時半……か」
12月の中旬とはいえ、6時でも明るい。
日の出と共に起きた感覚だった。
「此処自体は……何ともねぇな」
部屋を出て色々と見て回るが変わったことはない。
ついに外に出てみた。
いつもと変わらない林と冷たい風と暖かい陽の光があるのみだ。
昨夜に基地襲撃という本来ならば恐ろしい出来事が起こっているにも関わらず何故かジェノサイドは穏やかでいられた。
今こうして自然を身に浴びているこの状況に変わりがないから……と、思ってみる。
反対側を向き、基地の方角へとくるりと体を回転させる。
パッと見、古びた工場しか無いように見える。初めてこれを見たらまさか此処に住処があるとは思わないだろう。
だからこそ、昨日は工場のみを燃やされたわけだが。
真っ黒焦げとなることで、益々古い空間に見えてくる。
中途半端に燃えたせいでいつ中にある機材が落下するか分からない。その為、確認作業以外は立ち入り禁止としたものの、それでも度胸試しなのかどうかはよく分からないが、無断で侵入している者がいると聞く。
現に今も何人かがその工場に入るのを偶然見た。
「こんな朝早くから……馬鹿だろアイツら」
好奇心と危機を感じたジェノサイドは彼らを追うために工場へと近づく。
そもそも彼らが敵ではないと思ったのは見知った顔をした人が入っていったからである。
「うっわー……ヤベェ。こことか黒コゲじゃん」
何を当たり前の事をと思いながら工場内から聴こえた声を拾う。
「ってかさ、今入って大丈夫なのか?いつ崩れてもおかしくないから入るなってリーダー言ってたじゃんかよ」
「そんなすぐになる訳ないだろ。あの警戒心の強いリーダーだ。大袈裟に言ってるだけだろ」
と、調子の良さそうに話していると、錆びた金属が擦れる嫌な音がした。
まるでそれこそいつ倒れてもおかしくない機材が今落ちてくるような、恐ろしい音が。
「ひぃ!!!」
「……っ!?」
中にある二人はビビったのか間抜けな声を発してから動いていない様子だ。
だが、工場は崩れない。何も落ちてくる気配はなかった。
「なん……」
やけに自信満々だった男は口の割には挫けてしまったらしく、ビビリっぱなしだ。
何か喋ろうにも身の回りを念入りに確認してから話している。
「だよー……驚かすなよ。ったく。そのせいで少しビビっちまっただろうが……」
「だから早く戻ろうぜー?いい加減こえぇって」
「アァ?何お前怖いの?何ともねぇのに?多少音しただけなのにか?ったくヤになんねー。大袈裟に恐れる辺りがリーダーに似ててしょうがないぞお前」
人の事を言える立場かと立ち聞きしてたジェノサイドは笑いたくなるが、かなり我慢をして込み上げてくるものを抑える。
次第に、足音が近づいてきた。
二人はどうやら戻ってきたようだ。
「ほらー、何とも無かったろ?大体ビビリすぎなんだよお前。少しは強くなれってーの」
「お、お前だってビビってじゃんかよ……そんな強がんなって」
「いやいや、強がってねぇし?俺なんとも無かったし?逆に何も無かったのがつまんねぇなーと思ったくらいで……」
「どっちにしろ禁止にしたのに入ったお前らは悪い事には変わりないんだが」
「「うわあぁぁっっ!!」」
会話に急にジェノサイドが入ったこと、気づいたらジェノサイドが目の前にいたことに二人は工場内の散策以上に恐怖に駆られた。
片方なんかあまりのビビりっぷりにそこから走り去ろうとして鉄の柱に頭をぶつけている。
「見覚えのある顔かと思ったら……リョウじゃねぇか。何してんのお前ら。こんな朝早くから」
連合出身の奴とそこまで仲良くなったのかと本来であれば微笑ましく感じていたいところだが、改めて説教タイムの始まりだ。ジェノサイドは特に見知った顔の男と、以前戦略的撤退の意味を知らないでいた馬鹿な男の二人を眺める。
当の本人らは萎縮してか、目を逸らしっぱなしだ。
「いや、お、俺らは……ちょっと気になるなーって思ったり、とか?」
「コイツに無理矢理誘われました」
弱気だった男は嫌そうな目をしてリョウを指差す。
その目から察するに、余程しつこかったのだろうと勝手に考えてみる。
終始不機嫌な彼らを呆れた調子で眺めつつ、この言葉が効果になるかどうかはわからないがとりあえず伝えてみることにする。
「お前らさぁ。度胸試しすんならこんな所じゃなくて戦場でやってくんね?どうせ今日辺りから始まるんだからさぁ……その為にこんな所で無駄に体壊されたらたまったもんじゃねーよ。とにかく戦いに備えとけ。今度もSランクだぞ」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.206 )
- 日時: 2019/01/21 16:47
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「って言う事があった」
「似たもの同士だな」
「どういう意味だ」
ジェノサイド……ではなく、高野洋平は、大学内の部室にいる。
今話しているのは吉川だ。
「無謀なところとか、アホなところとか」
「それ今のお前が言えることか?」
たった昨日に深部の、それもSランク同士の戦いに彼らが混ざったという普通ではない事が起きたというのにまるで他人事のように彼は呑気に言う。
「だから俺らは、俺らなりの理由でお前を助けようと……」
「余計なお世話だ。こっちの問題はこっちでどうにかすんだから勝手な事はするんじゃねぇ」
「じゃあレンだったら、この部室にいきなりゼロットのボスが来ても平然と、大人しくできるか!?その時点で普通じゃないから俺らも動いたんだよ!」
「……言われてみれば」
ロクに考えなかったが、話を合わせるための相槌のようなものだ。こうでもしないと会話は終わらない。
「でも俺は勝っちゃったけどね」
「あ、あぁ……。そうなるかもとは薄々思ったけどよ」
などと言っているが、あの時彼が目の前に立ち塞がった時にどう対処しようか悩んだ事は果たしていい事だったのかと自問自答する。
こうも呑気ならば無言ではっ倒すべきだったかと若干後悔した。
結局、戦績は彼の予想通りだった。
ゼロットは改めて戦いに「敗けた」と世界に向けて主張、益々ジェノサイドは平穏を脅かす大いなる敵というレッテルを貼られてしまった。
これがゼロットの本来の目的だったのかまでは分からない。
どちらにせよ、ジェノサイドは勝っても負けてもメリットは得られなかったのだ。
なので開き直って高野は「相手がそう言うんだし、いいんじゃない?俺達はゼロットに勝ったってことで」
などと仲間やサークルの友達に言い出す始末だった。
「お前……この後どうすんの?」
吉川は湯気が曇った眼鏡に気にも留めずにカップ麺を啜る。
美味しそうな香りがするも、高野が今食べているのはパンだ。合わない。
「知るかよ。あの後すぐにまた変な所から攻撃食らったしさ。やられたらやり返す以外何もねぇよ。ホント、余計な事しやがって……」
「でも、俺らはお前の事を思って……!」
「そういうのいいから」
授業開始にはまだ早すぎるが、思ったほど小さかった百円のパンを一気に頬張ると部室から出て教室へと向かった。
追うためか吉川も立ち上がり、手を伸ばしたがそれよりも先に扉を思い切り締めてそそくさと走り出す。
結局捕まえることが出来ず、吉川は再び席に座った。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.207 )
- 日時: 2019/05/07 12:45
- 名前: ガオケレナ (ID: u0Qz.mqu)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
どうせ今日もいつもの繰り返しだ。
昼休みで人が行き交う大学内を高野はひたすら歩く。周りを見れば、話が弾んでかやたらとテンションの高い人ばかりだ。
大学生活では特に刺激になるものは今のところない。これが果たしていい事かどうか最近になって悩んでいる。
と、言うのも、もうすぐで大学二年目が終わる。来年に何が起きるかは分からないが、時間は限られている。一度きりの大学生活をこんな風に過ごしていていいのだろうかと悩みながら歩いていると、人にぶつかりそうになった。
当たってもいないのに「すいません」とか言っていると今度は段差につまずきそうになる。
バランスを崩し、転びそうになるも、なんとか立て直してみせる。怪我はせずに済んだ。
(踏んだり蹴ったりだ……人も多くてうっさいし早く教室行こう……)
目の前に目当ての教室がある建物がある。そこに入ってエレベーターに乗ればつまらない授業が始まる。
「刺激か……深部で十分に感じてるからいいや」
今までの考えを断ち切り、無理矢理に思考を変えようとする。
自分の事に夢中になっていた高野は、その異変に気がつかなかった。
普段は立ち入り禁止のはずなのに、今高野が入ろうとする建物の屋上に、人影があったことを。
「ねぇ、もしかして今真下にいる人がそうじゃない?」
「知るかよ。俺はほんの少ししか見てないから覚えてねぇし」
「……」
二人の若い男女と、彼等と比べるとかなり歳を取ったように見える老人の三人。
その内の少女と老人は一回り大きいメガピジョットに乗っており、日本人にしては色黒な男は屋上に寝そべっている。
「じゃあ行っちゃおか」
「……ったく、」
褐色肌の男はポケモンを呼び出す。
その男は呼び出したフワライドに掴む形で二人に続いて降下してゆく。
二人は既に屋上から離れ、ジェノサイドに徐々に近づいていった。
何やら周りが騒がしい。
皆一点を見つめ、その方向を指差している。
どんな事が起きているのか、高野も真上に顔を上げる。
すると、
メガピジョットに乗っている見慣れた少女と、誰かが呼び出したのか、ヨノワールが自分目掛けて黒い塊かオーラのようなモノを纏わせた拳を振るい、叩きつけようとしていたその瞬間だった。
「っっ!?」
頭を少し逸らしてそれに合わせて体のバランスも崩れる。
ヨノワールが放った一撃が地面に直撃し、アスファルトにヒビが入る。そのついでに小さく砂塵も舞った。
高野はまさにその真横で尻もちをついている。
今まさに何が起きているのか分からない。頭の整理が追いつかない。
(どういう事だよ……ここは大学だろ?一般人しかいない環境下だぞ!?)
拳を戻したヨノワールが浮遊し、その周辺にメガピジョットは着地しようと地面スレスレまで下がって来ている。
そろそろ思考が追い付いたのか、先程の一撃が'シャドーパンチ'であったことをやっと理解した。
だが、それ以上に問題なのはメガピジョットに乗っていた人間だ。
一人の少女は昨夜火事騒動を起こした例の女だ。
「あっ、テメェ……」
「やっほい、やっと見つけたよただの学生さん。いや……ジェノサイド」
その顔は悪巧みでもしていそうな不気味な笑顔をしている。ジェノサイドの驚いた顔を見ての反応らしかった。
そしてもう一人の、老人の方を見る。
彼を見て、その衝撃は計り知れない。何故なら、今はもう死んだと思っていた男だったからだ。
「なんでお前が……。生きてんだよ……」
「久方ぶりだな。勝手に殺されては困る。私も、こうして機を伺い続けたのだからな」
俯いていて見えにくかった顔を上げる。
やはり、嫌でも見慣れてしまった顔だ。
「バルバロッサ!!」
「昨日はこいつが世話になったな。だが、今日に関しては昨日できなかった事をしにきたまでだ。単刀直入に言おう。殺しに来たぞ。ジェノサイド」
辺りが呆然としている中、高野は何とか体を起こす。
チャイムはもう鳴ってしまった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.208 )
- 日時: 2019/01/21 16:59
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「分かってんのかよ……テメェ。此処が」
「重々承知しているとも。お前さんが通っている大学だろう?」
人も多いのに、深部など知らない人間が沢山いるのにこれだ。悪意でしかない。
「お前さんがそっちの世界での信用を落とすその光景を見てみたくなったのでな」
「つくづく悪趣味だな。なぁ、知ってんだぞ?テメェらがゼロットと繋がっていたこと。だが生憎だが俺はゼロットに勝っちまった。これについてどう思う?」
苦し紛れに高野は笑ってみせる。だが、顔でしか笑えていない。内心追い詰められた感が半端なかった。
「さぁてね。だがお前さんがゼロットに勝とうが負けようが私たちの作戦に失敗はない。こうして、此処に来れたのだから」
高野は目を大きく見開いて鋭く睨む。バルバロッサのその言葉が酷く憎たらしかったからだ。
「だからこそ言うぞ?ジェノサイド……」
バルバロッサはハイパーボールの先端を押して拡大させる。ポケモンを呼び出す合図のようなものだ。
「我らアルマゲドンは……ジェノサイドに宣戦布告するっ!!」
宣言と同時にボールからフシギバナが出てくる。そして、'ソーラービーム'らしき技を溜め無しで撃ってきた。
慌てて高野はそれから逃げる。
今の天気が晴れであることを恨んでいるのか、空に向かって舌打ちした。
避けた'ソーラービーム'は鉄の柱に直撃するも、柱に関してはビクともしていなかった。
あえて威力を弱めたか、比較的新しい柱なのでそれに耐えたかのどちらかだろう。
「ふっざけんじゃねぇぞ……やってられるか!!」
隙を見せずに高野はリザードンを出したかと思うとそれに飛び乗り、その場からすぐに離れた。
もっと言うのならば大学構内を離れたところだ。
「……逃げた……のか?らしくないな、ジェノサイド」
「取り敢えず追っちゃおうよ!今の内にやっといた方がいいでしょ?」
「いや、やめておこう」
バルバロッサは少女の頭を撫でる。二人の身長差はかなりあった。バルバロッサが2mあるのに対し、少女は150cm程しかない。
「今日はあくまでも宣戦布告のためだ。当事者の目の前でしか宣言できんからな。そして、この宣言は一方的かつ言うだけでいい。あいつが逃げようがもう遅い。既に戦争状態さ」
帰るぞ、と言ってバルバロッサはフシギバナを戻すと再び空へと上がった。褐色肌の男は折角着地したのに面倒臭そうにまたフワライドを掴むと空へと浮かんでいった。
ーーー
「冗談じゃねぇ……」
息を切らして高野はサークルの部室へと駆け込む。幸いにも、まだ吉川がいてくれた。
「何でバルバロッサが生きてんだよ……あいつは……奴は、俺が前に殺したはずなのに……っ」
物騒な言葉が聞こえたせいで吉川は顔をしかめる。
結局死んでいないのだから聞かれても問題はない。
「それともあれか……?俺はバルバロッサ如きを殺すのにも躊躇したってのかよ、クソッ!!」
悔しそうに拳を握る。
自分の悪い癖がまた現れてしまった。どうやら高野はその過激な言動の割には人が殺せないようだ。
どんなに心を決めても、"あの時の"光景が蘇ってしまう。
吉川には自分がどう映ったのか。恐る恐る顔を上げて彼の顔を眺めた。
「……な、なんだ?」
相変わらず吉川はとぼけている。一瞬だが彼が羨ましく思えてしまった。
「また都合が悪くなっちまった」
状況のせいで、今目の前にいる男が「ピカチュウを操って自分と対峙した男」だという認識はとうの昔に消え去ってしまっていた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.209 )
- 日時: 2019/01/21 17:06
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「状況?」
「あぁ」
高野は走り回ってここまで来たのもあって疲れた。
安全を見込んでここに身を置くために、畳んであった椅子を広げてそちらに座る。
果たしてこの男に話しても良かったのかここに来るまでに悩んだがとにかく今はストレスが半端無い。
ひょんな事で助けてくれるかもという、意味が分からない楽観論を持ってあえてここに来たのだから、する事は決まっている。
「ゼロットが……別の組織と組んでた」
「別の?俺らとかじゃなくてか?」
「ちげぇよ」
そもそも組織でも何でもないし一般人だろという言葉が脳裏に浮かぶ。たとえ深部の戦いに介入したとしても、たまたま居合わせただけだ。彼らは巻き込まれただけの一般人だ、と高野は無理矢理自分に言い聞かせる。
「そいつは、俺やゼロットと同じSランクで、そこのボスは以前俺の組織に居ながら裏切った奴だったんだ。前に戦った時に殺せたと思ったのに生きていやがった」
「ん?どういう事?お前の組織にいたのに組織のボスやってんの?」
「そういう事かな。四年も俺の組織にいながら本命があったとか正直よくもまぁそんな事できたなと怒り通り越して呆れるよ。まるでそいつだけに利用されて無力化された気分だよ」
「おいちょっと待ってくれ。もしかして、そのお前の仲間だった奴ってさ……」
不思議なところで反応したもんだと高野は何かを思い出そうとしている吉川を眺める。彼がバルバロッサの事など知っているはずがないのだからどんな事を言うのか若干期待している。
「もしかしてそれって……前に変な事やってたよな?なんか……空が急に……」
あぁ、あの騒動かと高野も若干忘れつつあった戦いを思い出す。
そう言えばあの時は彼らも空の異変だけなら確認できていたはずだ。
「そうだな、それもあいつ絡みの出来事だったな。まさかポケモンの力であそこまで出来るとは想像していなかったなー」
「あれポケモンの力だったの!?」
でなかったら何の力が働いてたんだと突っ込みたくなるくらい吉川が慌てているようだ。冷静に考えて天候や自然現象に干渉できるポケモンは技を除くと少なかった気がする。普通の人間がそんなポケモンを使いこなせる事に驚くのはおかしい事ではなかった。
「まぁな。そいつが呼び出した伝説のポケモンの力を最大限いじくり回した結果あんな風になったんだと。正直あれに関しては分かんねぇよ。科学に疎い俺だけど、あれに関してはどんな現象で起こされたことなのかが分からない。ポケモンが呼び出されたことではなく、それらのポケモンが変な魔術だとか呪いによって出現したとか言ってやがるから何が何だか分かんねぇ。バルバロッサは神様を信じていたらしいけど本当にこの世に神様がいるんじゃないかと錯覚してしまう」
「バルバロッサって言うのか?そいつ」
「あっ、言ってなかったっけ」
そもそも何も聞いていないと返され、高野は自分が思ったよりも説明をしていなかったことを思い出した。あの騒動の後にいつか言おうと思ったにも関わらず何も言わずにここまで来てしまった。別に大したことではないのでいいのだが。
「とにかくだ、今後また変なことになるからサークルどころじゃなくて学校にも来なくなるかも」
「はぁー?そんなにヤバくなんの?お前気をつけろよ?」
「程々にな」
この部屋から離れようと高野は席を立つ。雰囲気的にもそんな感じだったのだが……。
「……」
「……」
「お前……出ないの?」
「出れねーんだよ」
高野はバルバロッサらがここから居なくなった事を知らない。もしかしたら自分を探し歩いているかもしれないので迂闊に出ることができずにいる。
「え、ちょっと待てお前。まさかソイツ此処にいんの!?」
「うん」
「いや、うん、じゃねーよ何元気そうに答えてんだお前」
まさか深部の人間が大学内にいるとは思ってもいなかったのだろう。幕張で自分たちが体験した戦いがここで行われると思うと急に恐ろしくなった。
「だからさー、吉川。ちょっと外行って見てきてくれないか?変な民族衣装みたいなのを着たオッサンがいたらソイツだから」
「嫌だよこえーよ俺」
本当にこいつゼロットと組んで自分と戦った男なのか?と呆れを通り越して怒りが生まれる。何の為に自分は守る為に戦ったのだと。
本来は授業のある時間だったが、結局出席できずに授業終了のチャイムが鳴るまでこの部屋にいることになってしまった。
チャイムが鳴った頃に先輩が来たことで外の事情を知ることができ、安全であることを聞くと部室から出て基地へと帰っていった。
早く帰って今日の事を早く伝えなければならないのに一時間半も遅くなってしまった。高野は大急ぎで基地へと戻る。
オンバーンに乗って空をしばらく漂うと広い公園が見えてくる。そのすぐには林が見え、基地である廃工場が出てくる。まるで林が合図であるかのようだ。
空から見たのでよく分からないが、また誰かが立ち入り禁止の箇所に入ろうとしていたのが見えた。
「またか……しつけぇなアイツらも」
注意する気も失せたので基地へと繋がる扉……ではなく、裏口から入るために工場をぐるりと回った。
隠し扉から入るところを敵に見られたら危険であるためだ。
裏口は直接一階に繋がっている。そこから階段を上がれば皆が集まるリビングだ。今のこの時間に人がいるかどうかは期待出来ないが。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.210 )
- 日時: 2019/01/21 17:12
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
普段から、平日の昼間という時間帯には人は集まってこない。
各々事情があり、そちらに出向いているからだ。高野が大学生であるように。
扉を開けると、普段は一桁代の人数しか集まっていないが、今日はざっと確認しただけで十人以上はいる。
たまたま用事がないだけなのか、それとも深部全体がピリピリしているから此処に集まってしまうのかのどちらかか。
「あれっ、どうしたんですか?リーダー。こんな時間に」
構成員の一人であるリョウがこちらに気がつく。彼も自分と同じか、やや年下な感じがするので学生なのだろうか普段はこの時間にはいない。前に来た時も彼はいなかった。
「まぁちょっとな。都合悪くなったから一旦帰ってきた」
「都合って、まさか……」
そのまさか、と言おうとしたところでジェノサイドの後ろからバタバタと階段を急いで駆け上がる音がした。
今彼は扉の真ん前に立っているので邪魔になると言うことで扉は開けたままにしてリビングへと入る。
案の定基地中を走ったせいかバテそうになっている白衣を着た少年が「みんな、大変だ」と叫ぶ。
白衣ということは研究員の一人であろう。
ぜーぜー言いながら特にジェノサイドに注目して何やら報告を始め出す。手元には資料があった。
「また深部間で抗争が起きた……AランクとDランクでの組織の争いだ……負けたDランクのメンバーは全滅。またやられた……」
深部ではよくあるはずの出来事を何故大変な事柄として話すのか、この少年のやろうとしていることが分からない。
「リーダー……問題は弱いものイジメがあったとか、結果とかじゃないんです……負けたDランクは……、僕達を支持していた組織だったんです」
要するに、今まで懸念していた代理戦争が起きてしまったということだろうか。
それでもあまり驚かないのはここ最近の異常なまでの状況に慣れてしまったからか。
「今回だけで五件目です……。僕達の支持者非支持者による争いが日に日に増えてきています」
「五件もあったのかよ……。でも、直接な被害は俺らに対して皆無だろ?目くじら立てて言うほどの事じゃねぇよ」
「今は、です。その内に起きますよ。議会がそろそろ動き出そうとしています」
そう言って手に持っている書類の何枚かを探すと、ジェノサイドに見せる。
それには【重要】とは書いてあったがそこから先は目に入らなかった。読むのも面倒だ。
「ゼロットが議会に圧力をかけて僕達に対する追討令の願いを申し出ていました」
「知っているよ。大山にいるエセ神主から聞いた。奴は俺らと戦いたいが為に杉山とも塩谷とも他のアンチジェノサイドとも組んでいやがった」
「そうだったのですか?では話が早いです。先程、議会でその追討令が承認されました」
「えっ?」
自分の周りの時間だけがゆっくり進んでいるかのような、一瞬研究員の声が遅れて聞こえたのと、理解するのにその分タイムラグが発生した。
だが、それを別の言葉に変えるのに時間はいらなかった。
「つまり、俺らは正式に議会の敵になっちまった訳か」
「えぇ……じきに議会がこちらを調査しに来るでしょう。もしかしたら、杉山のような惨劇がまた起きるかも……」
ジェノサイドらは杉山によって失った仲間は一度を除くと一人もいないが、その悲劇は知っている。
だからこそ、その最悪の事態だけは避けたい。
「どうするかな……表向きは解散にしといて、実際は別の基地で行動するとか……とにかくカモフラージュが必要になってくるな」
「ですが、そうですと非公認の組織となってしまいます。バレたら即刻排除されてしまいますよ?」
ジェノサイドは強く歯噛みして手で口元を隠す。彼が本気で考える際の癖だ。
「ところで、リーダーは先程何かを言おうとしてましたよね?」
そういえば、とリョウがそんなジェノサイドを見ていて思い出す。
逆にジェノサイドは苦い顔をする。
「今こんなタイミングで言いたくねぇよ」
「何でですか?大学すっぽかしてここまで来るなんて普通じゃないですよ!何があったんですか?教えてくださいよ!」
「うえーーー……」
気分が悪くなってジェノサイドは壁に寄りかかるとそのまま真下にズルズルと下がる形でしゃがんだ。
顔は手で、特に目元部分を隠している。
「大学でアルマゲドンの奴等に宣戦布告された」
「えぇ!?」
「あいつらマジで容赦ねぇよー。一般人沢山いるんだよ?俺だってその中の一人よ?なのにいきなり'ソーラービーム'ぶっ放すとか頭おかしい」
「と、とにかくそれが本当なら厳しい状況にありますよ!ただでさえ敵が増えてしまっているのに余計面倒になってしまって……」
「それだけじゃねぇ。アルマゲドンのボスが最悪だった」
リョウも研究員も顔が引きつっていた。たまたま聞いていたのか、やや離れたところからは「まだあんのかよ……」という声まで聞こえる。
「だ、……誰だったのですか?」
研究員が唾を飲み込んで恐る恐る聞いてくる。時折手元の資料を何度もチラッと見ていた。
「バルバロッサだ。あいつ生きていやがった」
ジェノサイドの告白により、しばらく口を開く者がいなかった。
ただただ皆が呆然と突っ立っているのみだった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.211 )
- 日時: 2019/01/21 17:42
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
16日の夜はいつもよりも増して騒がしく、そして静かだった。
議会とアルマゲドン。二つの存在から敵視された事は深部最強とはいえ、重いものがある。
特に議会が相手ではどうしようもなかった。
ストレスが溜まっていたからなのか、夕飯を誰よりも早く平らげると談話室へと一人歩く。
ちなみに、夕飯時はいつも騒ぎに騒いでいるのでうるさいのだが、今日は葬式モードだったとか。
誰一人として喋ろうとしないのでそれに耐えきれず、ジェノサイドは急いでその場を離れたのだ。
談話室の木製の扉を開ける。
中には当然誰もいなかったが、暖炉の火が明るく燃えていた。
温もりを求めていたジェノサイドは、ロッキングチェアに座りながら手をかざす。
その暖かさは冷えきった手と心を暖めているかのように感じた。まるで、尊くも儚い友情のように。
「俺に暖かいのはコイツだけかぁ……」
ため息混じりにつまらない事を吐いていると、扉の開く音がする。ご飯を食べ終えたミナミとレイジだ。
「今なんか言ってた?」
「いや、何も言ってねぇよ」
反射的にかざしていた手を遠ざける。そのせいで寒さが余計に身に染みた。
「今日は冷えますね~。やはり夜になると寒いの何の……」
ソファの上に置いてある毛布を掴むと、レイジはソファに座ってそれにくるまった。
(寒いならここ来いよ……)
今度はミナミを見てみる。
どこからか用意した急須にお茶っ葉を入れて紅茶を用意している。
(お前さっき飲んでたじゃん……)
何故かさっきから心の中で突っ込みを入れるジェノサイドだがそれ以降は気にしなくなる。
彼らは元から自由人だったからだ。
「……お前らに話があんだけどさ」
ミナミがカップに紅茶を注いで口にお菓子を咥えながらそれを持ってくると、レイジの隣に座る。
二人の前には、彼らから背を向けているジェノサイドの姿があった。
「お前らは杉山から逃れる為に此処に来たわけだろ?でもさ、今となってはそれは終わった。お前達はここが一番平和だとか言ってたけど、そうじゃなくなる刻になりつつある」
「んむ?結局あんたは何が言いたいのさ」
「せめて食うのか喋るのかどっちかにしろ……」
後ろをチラ見すると、紅茶を含んで食べ終えたようなのでジェノサイドはそのまま続けた。
「お前らは、身の安全の確保の為に此処に来た……。だけどその元凶はいなくなった。ここが戦場となる前にお前達は元の仲間連れて逃げろ」
「はぁっ!?」
「リーダー、ちょっと落ち着いて」
いきなりの失礼な言葉にミナミは憤激するも、レイジがそれを身を呈してなだめる。
彼女はかなり不満げにジェノサイドを見つめ、心の底から何も分かっていないと強く念じた。
「これまでは、お前らに関わる戦いだった。俺はお前らを含む組織のリーダーとして戦ってきたんだ。だから守る意味はあった。だが、これからの戦いにお前らは関係ない。したがって俺が守る意味もない。だから逃げろと、出てけと言っているんだ。お前らにはやろうと思えばここよりも平和な場所があるだろ?」
ミナミはそれを聞いて握り拳を震わせている。怒りも相当のようだ。
レイジが黙ってその手を握るも、払われてしまう。
「無いよ……」
「ん?今なんて」
「ここよりも平和な場所?そんなもんあるわけないでしょバッカじゃないの!?」
怒鳴るように荒らげると、ミナミはダン、とテーブルを思い切り叩いた。振動で紅茶が揺れている。
「さっきから黙って聞いてたら訳の分からないことをベラベラとさぁ!!何?戦いに関係ない?守る意味がない?カッコつけてんじゃないわよ!!たかだか面倒な敵に囲まれたぐらいで弱気になっちゃってさぁ……」
「弱気になんてなってねぇ。戦う覚悟なんて杉山と戦う時からあったさ」
「じゃあ何でうちらを戦いから遠ざけようとするの!?邪魔なの?」
「ちげぇよ。傷つかなくてもいい戦いで傷ついてほしくねぇから言ってんだよ」
「だーかーらー!」
ミナミはソファから立つとつかつかと歩く。まるで足音さえも怒っているようだった。
「そもそもそんな戦いないから。ウチはジェノサイドのミナミ!決して私はもう赤い龍のミナミなんかじゃない」
ミナミはジェノサイドの隣に立った。普段の姿とは想像し難い威圧感を放っている。
ジェノサイドは横目でミナミを見る。
「じゃあ今からリーダー命令。二人共出てけ」
「なんでよ!!」
ミナミは、ジェノサイド肩をガシッと掴んで何度も揺らす。まるで行き場の無い怒りをそこにぶつけるように。
だが、ジェノサイドは反応がない。すべて諦めたかのような無表情を貫いている。
「そんなの全然納得出来ない。ウチやレイジはジェノサイドの仲間として今ここにいるの!そんな理不尽な命令聞くことなんてできないから」
「……」
「ねぇ……、何か言ってよぉ……。どうしてそんな冷たい事が言えるの……?」
揺らす手がどんどんゆっくりに、穏やかになってくる。遂には止まってしまうも、ジェノサイドは最後まで顔色を変えなかった。
逆にミナミは目に涙を溜めている。今にも泣き出しそうだ。
「どうして分かってくれないのよ……」
「お前こそ何で分かってくれないんだ。今度の敵は俺の敵なんだ。何も関係ないお前を巻き込んで死なれたくない」
「そんな事分かってるよ!!分かってるうえで戦うって言ってんじゃん!!」
とうとうミナミは力が抜け、肩に手を置いたまま暖かい床の上でしゃがみ出した。肩が震えているので恐らく泣いているのだろう。
「ウチは……いたいの……。ずっと、ずっと一緒にあんたと居たい……」
涙声を伴う弱々しい声だ。聞いているだけでも胸が痛くなる。
「ウチはあんたに死なれたくない……。だから一緒にいられる時は一緒にいたい。だからあんたが戦うならウチも戦ったっていいじゃん……」
肩から手を離したと思ったら涙を拭いている。彼女の整った泣き顔を見たのは初めてだ。
「好きだから……、ずっと、一緒に……。そばにいてもいいじゃない……?」
ジェノサイドは黙って暖炉の火を見つめる。告白をされても顔色を変えることはなかった。
ただ黙ることしかできない。意味が分かるから、言葉の重みが分かるからこそ笑うことができない。
とうとうミナミは泣きじゃくる。ジェノサイドの反応がないからでなく、自分そのものを否定された気がしたからだ。
「……ん?」
レイジは遠目から二人を眺めていたが、彼から見るとジェノサイドが小さく笑ったように見えた。
そして、軽くミナミの頭をポンと叩く。
ミナミは泣きながら頭上を見つめると、何故か優しい顔をしたジェノサイドがいる。いきなりどうしたのかと問いたくなった。
だが、
「自分の身は自分で守るから」
そう言い放つとミナミの手を払って椅子から立ち上がり、そそくさと出て行ってしまう。
弱い奴はいらない。
遠回しに言われたようなものだ。彼が出ていくまでに涙が止まってしまう。
が、扉が強く締められると再び溢れてしまった。
(こんな所で強がらなくても……)
レイジは少しニヤけるとミナミの方へ行き、頭を優しく撫でた。
が、かける言葉が見つからない。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.212 )
- 日時: 2019/01/21 17:45
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
17日の朝もいつもと変わらなかった。
体が慣れているのか、いつもの時間に起きるとひどい寝癖のまま部屋を出て食堂へと向かう。
途中談話室の前を通ってみたがその扉を開けようか悩んだ。
その末に結局開けずにそのまま前を通り過ぎる。
昨日のやり取りが未だにすごく胸を締め付ける。
「はぁ……いてぇな……」
深くため息をついて薄暗い廊下を歩く。
「どうしたんすか、リーダー。元気ないっすよ」
隣でシリアルを食べているケンゾウがため息ばかりついて全く食が進まないジェノサイドを不思議に思っていた。
「朝が弱いだけだ。いつもの事だろ」
「えーっと……そう言えばそうだっかもしれないっすね」
ひどく食欲がない。半分程度パンを食べると「ごちそうさま」と、言って席を立った。
「えぇ!?リーダー全然食べてないっすよ!?何言ってんすか?」
「ガッコー行ってくる。何かあったら連絡して」
あらかじめ用意していた鞄を肩に掛けるとパパッと無駄な動きが一切ないまま行こうとする。
「えぇー!?リーダーなんか様子おかしいっすよ!?」
ケンゾウの吠えも虚しく、何も反応がないままジェノサイドはとうとう基地から出てしまった。
「様子おっかしいなぁー。何があったんだ一体……」
ブツブツ呟きながらケンゾウは廊下を歩く。どこに行こうとしているのか自分でも分からない。
すると、目の前の部屋の扉が開いた。
「おっ、」
「あっ」
元気の無さそうなミナミの姿だ。
ケンゾウは若干苦手な彼女に少し後ずさりする。
「何よそれ。おはようの挨拶も無しかい」
「お、お前だってアイサツしてねーじゃんかよ……」
無言でケンゾウの前を通り過ぎようとする。その意外な反応に「ホントに挨拶ねぇのかよ!」と吠えた。
「……朝からうるさい」
「んだよーったくよぉ……。リーダーの次はお前も元気ねぇのな。ったく二人して何なんだよ……」
二人、という言葉にミナミはピンと来るものがあった。
そして、ケンゾウを前にしてある事柄を思い付いた。
「二人って、リーダーも何かあったの?」
「あぁ。今のお前みたく暗ーくてやーなかんじだったよ。なんか、いつものリーダーじゃねぇ的な感じか?」
「ねぇケンゾウ今日ヒマ?」
「唐突に話題変えんなお前!!」
何やら廊下が騒がしい。聞きなれた声がおかしな状況を生み出しているようだ。目を覚ましたレイジが顔を覗かせている。
「ねぇ今日マーヒー?」
「ま、マーヒーってなんぞ?でもあれだ。今日は暇だが?」
「じゃあさじゃあさ!!」
ついさっきとは打って変わって元気を取り戻したかのように飛び跳ねる。さっきの暗い感じはどこいったと突っ込みたくなる。
「連れて行ってほしいところがあるんだけど」
ーーー
大学に変わった様子はない。
普段通り生徒として過ごしているうちはその生活に変化はなかった。
(今日はアイツらも来ねぇみたいだな。まぁ、毎回来られても困るが)
大学構内を歩いていると、偶然にも一人で歩いている岡田が。
「確か次の授業は……」
スマホの時間割アプリを開き、次の授業を確認すると、岡田とは一緒のものではなかった。
「……まぁ、いいか」
同級生として、彼は自らの友達に近づく。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.213 )
- 日時: 2019/01/21 17:50
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「なんでまたこんな時期に……」
12月の中旬ともなると大分冷えてくる。
ただでさえ外を動き回ろうとは思えない。
それに加え、ケンゾウは薄着である。
単なるキャラ作りという訳ではなく、本当に寒いと思わないからだ。
だが場所が変われば別。それも、標高1200mの山だと尚更だ。
そもそも、そんな服装での登山自体が許されないのだが。
「さっっみぃぃんだよ!ふざけんなぁぁ!!」
「あんたがそんな服でいるのが悪いんでしょうが」
一気に山頂まで飛び、寒さに耐えながら本殿へと歩く。
「お前が外まで連れ出してすぐに飛行タイプのポケモン取り出したと思ったらお前がここまで連れてきたからだろうが!」
「はいはい、言い訳はあとでねー」
「言い訳じゃねぇよぉぉ!!」
叫ぶ事で寒さを打ち消そうと無意味な努力をしようとしているのか、やけに声が大きい。
「でも本当寒い……雪積もってるし……」
今降っている訳ではないが、山の山頂まで来ると雪が積もり、真っ白になっている。踏むとザクザク音がする辺り新雪だろう。
「呆れたー。まさか12月になってもやってくるなんて……」
本殿の方から声がしたのでミナミは振り返る。
白い和服に身を包んだ長身の男性が立ち、こちらを不思議そうに見つめ、笏で口元を隠していた。
「もうこの時期になれば誰も来ないものと思っておりました。此処へ来る頻度をなくそうか考えていたところです」
「おい、誰だよあいつ……」
震えながら、それまで離れていたケンゾウが距離を寄せてこちらに来た。だが掛けてきた言葉は反応に困るものだった。
「分かるわけないでしょ……ウチに聞くなっての」
「あぁ、申し訳ありません。私、こちらの神主を執り行っております武内と申します」
二人の言葉に気づいたのか、笏を袖の中へと仕舞い二人とは微妙な距離を保ちつつ話を始める。
「こちらにいらした、と言う事は此処がどんな所か、私がどんな人間かをご存知でいらっしゃいますね?」
「ここは前に、戦いがあった場所だ」
唯一事情を知り、実際に当事者となったケンゾウだからこそ分かる事だ。目を少しずらすと、崩れた社の跡がある。
「よくぞご存知で」
「俺は此処で実際に戦った人間だからな」
そう言うと、ポケットから"genocide"と綴られたネックレス状のアクセサリーをジャラジャラと言わせながら取り出した。
「どうしてあんたがそれを……?」
「これはコピーだ。議会相手には使えないがこれを使うことで騙せた敵をおびき出す事ができる」
「なるほど……」
武内は二人に近づき、ケンゾウが見せるネックレスに触れてみる。リーダーが持つ"cide"とある紋章と区別するためかこちらは省略されずに"genocide"と書かれている点が目に入った。
「と、言う事はあなたは深部の……それも、ジェノサイドの方ですね?」
「あぁ。設立当初からのな。と言っても、今日はこいつに連れてこられたんだが」
と、言ってケンゾウはミナミの肩を叩く。力が少し強かったか、ミナミが一瞬睨んだ。
「なるほど、と言うことは今日のお客様はあなた様でいらっしゃいますか」
武内はミナミの方へ意識を変えた。何かの決心をしているのか、強い目とショートな髪型以外は特徴の無さそうな娘だ。
だが、よく見ると後方から以前知り合った人がこちらに来るのが見えた。
状況から見るに、彼らの知り合いか。
「よろしい。ではあなた方、どうぞご本殿にいらしてください。きっとあなたの求めている物がございますよ。それから……」
目線をミナミから後ろに移す。
それにつられて二人も後ろへと見ると、何故か普段見慣れた人がそこにいた。
「なっ、いつの間に……!?」
「あなた方の知り合いでしょう?と、言うのも以前彼がこちらに来る際にこう仰っておりました。近い内に自分の仲間が来る、と。その仲間とはあなたの事でございましょう?」
「レイジ、あんた此処に来たことあったの!?」
「外は寒いでしょう、またいつ雪が降ってもおかしくはありませんからね。こちらへどうぞお越しください」
レイジはミナミと武内二人の言葉に対し、一度だけではあるが同じ意味としてその場でお辞儀する。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.214 )
- 日時: 2019/01/21 17:53
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「そもそも、おかしいとは思わなかったのですか?」
本殿内を歩きながらレイジが喋り出した。和服の男二人に挟まれると何かの行事かと錯覚してしまいそうだ。
「私は、リーダー、あなたと離れた時。あんな絶望的な状況からどうやって脱出したのか、リーダーと再び会えた武道館で私が見せたゲンガー。普通に生活しているとするならば違和感を感じますよね?」
「そりゃあ、まぁ、ね。でも、時期が時期だし気まずくて言えなかったよ」
杉山の一件はミナミからしてもいい物ではなかった。当時もそうだったし、今の状況も元を辿ればこれに結びついてしまう。
「私も、ジェノサイドさんがメガシンカの力を手に入れたことに興味を持ちましてね……、色々と話を聞いている内にこの山に秘密がある事を突き止めました。そして、タイミングを見計らって一人この山を登ってみた訳です。」
「知らなかった……。いつの間に行ったの?」
「リーダーが横浜に行っていた日に」
「うそっ!あれから秘密にしてた訳!?どうしてウチにも言わなかったのよ!」
後ろでギャーギャー騒ぎ出した。うるせぇなと思いながらケンゾウは前を歩く武内に黙って続いていく。
が、ふと武内が大きな扉の前で急に止まった。
それにより、ケンゾウもいきなり止まったので、後ろにいるミナミに激突される。
「いてっ」
「急に止まるな!」
「はぁー……?」
そんな彼らをよそに、武内は無言で扉を開く。
同時に、やっと口を開いた。
「ご覧下さい。こちらには、わが敷地内で発見された多数のキーストーンを保管しております」
その部屋には真ん中に縦長のショーケースが幾つか並べられていた。その中には綺麗に輝くキーストーンが。
「えっ、すごい。こんなに?」
武内の立っている隙間を潜り、何の許可もなしに部屋へと入るミナミ。その莫大な量のキーストーンを見て目を輝かせていた。
同様に、ケンゾウも武内の後ろから、ただでさえ大きいその体にも関わらず背伸びをして伺おうとしている。
「以前、ここで不思議な戦いが行われ、それが終わってから何故か大量にキーストーンが発見されるに至りました。今はもう冬で雪も積もっておりますので発見は難しいでしょうが、今でもこの敷地内からは見つかるそうですよ」
「不思議な戦いってのは、バルバロッサとのやつか?」
やっと入れた部屋の中で、キーストーンを見つめながら言ったのはケンゾウだ。
「はい。原因は今でもよく分かりかねるのですが、戦いの最中発せられた不思議な力が暴発して、それの具現化されたものが……」
「キーストーンって訳か」
ジェノサイドがメガストーンを探す際、写し鏡を使っていた事を思い出す。三体の伝説のポケモンと、メガストーンという共通点が確かにあったからだ。
「ところで今日あなた方は……」
キーストーンと部屋を眺めているミナミとケンゾウ二人に対して武内が言う。
「こちらにいらした、と言う事はキーストーンをお求めで宜しいんですね?」
「は、はい!ここに来ればキーストーンが手に入ると聞きました!一つ分けてください」
やけに必死そうな形相でミナミに見つめられ、今までやって来た人間とは違う雰囲気を感じ取る。次に、ケンゾウに対しても聞いてみる。
「い、いや俺は……コイツに無理矢理連れてこられたと言うか……で、でも貰えるんすよね?」
二人の正反対ともいえる温度差にくすっ、と小さく笑った。
「では、」
武内はどこからかキーストーンを取り出したのか手元にあるそれを二人に見せながら続ける。
「そこのお嬢様。何故そこまでしてこれを欲しがるのでしょうか?話を聞く限りだと、あなたもジェノサイドの一員のように思われますが」
ジェノサイドという組織においてメガシンカを扱える人間が何人かいる状態でおりながらそれを求める姿に武内は興味があるようだ。
答え次第によっては金と情報を貰おうか考えていたところでもある。
「それは……」
ミナミは言い渋る素振りを見せて中々言おうとしない。時折レイジとケンゾウ、そして武内を交互に見ると決心したかのように、
「ウチには、守りたい人がいるからです」
それまでとは違う、大きく高らかに宣言するように言い放った。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.215 )
- 日時: 2019/01/21 17:59
- 名前: ガオケレナ (ID: xrRohsX3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
その言葉の反応は、それぞれ違っていた。
武内は興味ありそうではあるものの無表情で、レイジはその意味を知っているので優しく微笑んで小さく頷いている。
最も意外だったのはケンゾウであり、彼はピンと来ていなかったからか、何度も首をかしげて「誰だ?」なんて言っている。時折レイジを見てみるも、それでも分かっていない様子だ。
組織の中でも一部の間では噂になっているミナミの事情だが、面白おかしく話を広げている連中のグループに身を置いている時もあるケンゾウだったが、それでもよく分かっていないようだ。
「その人は……誰よりも平和を望んでいる人で、でも、周りの人間がそれを許さなくて……。嫌であるはずなのに無理して戦って、嫌なのにその環境にずっと残り続けて、誰かを傷つける……。どんなに頑張ってもその人にとって傷ついて欲しくない人が傷ついていって……、そんな光景を何度も見ていって、新たに傷が出来る箇所がもう無いくらいボロボロになっても誰かを守ろうとしているの。ウチもその人には助けられた。だからウチも、今度はウチがその人を助けたい!」
今度は自分が守る番。その為の新たな力としてメガシンカを求める。
この時武内は新たな力とは別にメガシンカでなくともいいのではないかと思ってはいたが、恐らく彼女はこれまでの戦いで何度もメガシンカを目撃してきたのだろう。
そんな人間達と比較するとひどく自分が弱く見えてきた。こう考えれば彼女がメガシンカを求める理由が何となくだが分かる。
本来ならばつまらない理由としてお金と深部としてのその者の情報を手に入れてはじめて渡すつもりだった。
だが。
「分かりました。では、これを持って行って下さい」
握っていたいたキーストーンを相変わらずの軽い調子で何の抵抗もなく手渡した。
「えっ?」
その様子に、ミナミは疑問を持った。事前に対価を支払うことを聞いていたのでそれを求められるのかと思っていたからだ。
「それについては必要ありません。このままお帰り下さって結構ですよ」
「えっ、いいんですか?」
「マジかよ!そんな簡単に貰えんのかよ!俺も欲しいなぁ」
ケンゾウの正直な叫びが武内を、ミナミたちを呆れさせる。武内は深くため息をつくと、無言でキーストーンを彼に向かって投げつけた。
「もう、なんでもいいからとりあえず持ってけ」と言わんばかりに。
ーーー
「よろしかったのですか?あんな簡単に渡してしまって」
ミナミとケンゾウはひと足先に下山していった。今本殿に残っているのはレイジと武内のみだ。
「えぇ。私としてもただ与えただけではありません。これから先のシナリオを見越しての私なりの行動なのです」
「先の……シナリオ……」
武内はこの深部の世界全体を見てこれまで行動してきた。だからこそ幾度ともジェノサイドの相談に乗ってきた。
あえてゼロットに対する相談に確実とした答えを言わなかったのもそれだ。
(さて、今回の出来事でこの世界がどれくらい動くか……興味がありますね)
その男は、金と情報を多く得るためにこの世界を動かす。
「あのー……思い出し笑いかなんかですかねぇ……?」
レイジには目の前のエセ神主が一人で勝手に不気味に小さく笑いながら目を輝かせるただの変人にしか見えないのが気がかりだ。
「あっ、そう言えば」
不気味な笑いを唐突に止め、二人が座っているテーブルに小さいアクセサリーような物をコトン、と音を鳴らせて置いた。
「これは?」
「かんざしです」
かんざしと言われ、確かにそれに見える物に思える。
だが、何故正真正銘、本物の男である武内がこれを持っているのかと嫌な考えを巡らせてしまう。
「こちらをよくご覧下さい」
武内の指す箇所を見ると、意図的に空けられた空間がある。
「……?」
「これは、キーストーンをここに付けてトレーナー自身が常に身に付けるデバイスです。先ほど渡すのを忘れておりました。あなたの手でお渡しできれば嬉しい限りなのですが」
「彼女に、デバイスまで与えるのですか!?」
自らデバイスを無償で与える。金と情報を強く求める人間がする行動には思えない。一体何をしているのかと思ったが、
「あの方は、メガシンカを強く望んでおりました。理由としてはそれだけですが、彼らを取り巻く事情が事情ですからね。あの方は一日でも早くメガシンカを扱えるようになりたいのではないか。そう思いましたので」
「今の事情、ですか……」
レイジはジェノサイドとある組織が今、アルマゲドンというSランクと、議会から追われる身となってしまった事を思い出す。
自分達の中で秘密にしていたはずなのに、外部に漏れているようだ。現にジェノサイドとは他人関係である武内が知っているのだから。
「ジェノサイドという組織は今がかなり重要な時期だと私は思っております。まず第一に議会から正式に政敵と見なされたこと。そしてもう一つはバルバロッサの復活です」
暗くなる時間になると雪雲が真っ黒な不気味な空を彩る。
レイジが去り、一人残った武内は崩れた神殿を見つめた。
「バルバロッサはあそこで建物と共に崩れたはず……ですが、あれ以降体が見つからなかった事を考えるとまさか、とは思っておりましたが……」
武内は一人の男の顔を思い出した。深部最強と言っておきながら実は誰よりも弱い、あの男を。
そしてふふっ、と嗤う。
「あの男も甘いのですね。あそこで止めを刺さなければこうはならなかったでしょうに……」
三人が降りていった山道を眺める。
当然、誰も居なかった。
「ですが、こうなる世界も悪くはありませんね」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.216 )
- 日時: 2019/01/25 09:01
- 名前: ガオケレナ (ID: I4LRt51s)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ミナミとケンゾウがどこからか帰ってきた。
と思ったのも束の間、ジェノサイドは突然、「談話室から出るな」とミナミから告げられる。
「何でだよ……」
言われたっきりミナミはこちらに一向に姿を見せない。腹も減ってきたので飯も食いたいと思ってきた頃だ。
「話があるのなら今しろよなー」
埒があかないのですっぽかして部屋を出ようとドアノブに手をかけたときだ。
「ん?」
ほとんど力を加えていないはずなのに独りでに扉が開いていく。その理由はすぐにわかった。
「なんだ、ミナミか」
「リーダー?」
ミナミが今まさに部屋に来た時だった。
「なんであんたが部屋から出ようとしてるのよ」
「あっ、いや俺は別に……遅いから何してんのかなーって思ってただけだよ」
咄嗟にドアノブから手を離す。思いついた嘘を言ってみたが恐らくバレただろう。
でなければその後に「来るんだから大人しく待っててよ」なんて言われない。
「それで?何だよ話って」
改めて椅子に座り、手を組んだ。一気に緊張感が部屋を支配する。
「前の続きなんて勘弁だからな」
「やめて、そんなんじゃない!」
失礼ともとれる発言をするジェノサイドだがミナミはさほど相手にしていない様子だ。答えるだけ無駄だからか、そんな心情でないからか。
「じゃーん!ねぇ、見て。ウチに変わったとこがあるでしょ?どこだと思う?」
「……えぇー……」
物凄く調子の良さそうに、言い換えればすごく女子になっている感じだ。
全身を魅せるように一回転させて「気づいてくれ」とアピールを送るミナミ。
だがジェノサイドからすれば思うことはひとつ。何でこのタイミングなんだと。
しかもこれと言っていいほど変わった様子が見当たらない。いつものミナミそのまんまだ。
(変わったところって……どこだよ)
全くもって分からない。二回転ぐらいした頃だろうか。
いつまでも無言にしているジェノサイドに対し、「まだ?」と機嫌の悪そうな声を発する。
「……。足、そんな細かったっけ?」
ピタッ、とミナミの動きが止まった。勿論答えは間違っている。そもそもミナミからしたらこの回答には二つの意味として捉えた。
まず、普段から見ていなかったのか。と言うことは自分の事をちゃんと見ていなかったのか。
もう一つは、ジェノサイドの目には今までスラッとした足として見られていなかったということか。
どちらにせよ湧き上がる感情はひとつ。
近くに置いていた枕を思い切り掴む。
「お、おい何お前枕掴んでん……」
すべて言い終える前に無言で冷たい目で彼を捉えると思い切り投げる。手加減せず、顔面に。
ボン、と本気の枕を投げて初めて聞ける音がした。どことなく懐かしさが蘇るがこんなに殺伐としていたかと首をひねる思いだ。
「ちげぇよ」
「ご、ごめん」
ミナミは髪に差してあったそれを抜き取るとテーブルの上に置く。既にレイジから渡され、空いていた空間には既に透明な石がはめ込んであった。
「これは……、キーストーンだよな……?お前のか?」
「うん。色々あって手に入れてきたんだ。ウチのキーストーンとそのデバイス。メガクラウンだよ!」
本人は気に入っているのか、すぐにまた髪に戻す。ミナミのショートヘアーな髪型にシンプルだがシンプルなりにお洒落なかんざしが輝いていた。
「……分かるわけねぇだろ」
「うっさいそれくらい気づけ」
これがオンナノコ特有の無茶な要求というやつか、とジェノサイドは珍しくそれに苦しむ。
この調子ならばいつ荷物持ちにされてもおかしくない。次なる恐怖がそこに迫っている……。
「何震えてんの?また一人組織の人間がメガシンカを会得できた事がそんなに嬉しい?」
違う。
また、いつ今みたいな無茶な要求がされるものなのかと戦慄していたところだなんて言えない。
わざとらしく首を縦に振ることにした。
「そう、良かった」
眩しい笑顔を珍しく見せるとミナミは椅子から立ち上がった。
その笑顔に一瞬ときめいた気がしたジェノサイドだったが「ど、どこに行くんだ?」ととりあえず言ってみる。
これ以上本音がバレたらマズイ。色々と。
「ウチね、これからもっと強くなる。決して足でまといになったりしないから。だから……あの時のあんな訳分からない命令は聞けないな。その命令を聞くほどウチ弱くないから」
再びにこっ、と笑顔を見せると部屋から出ていってしまった。ジェノサイドからの反論を受け付けずに。
「もう、勝手にしてていいよもう……」
結局言いたい事、見せたいことだけ言って終わりかといつもながらの自由気ままな所には疲れるも、若干憧れたりする。
自分には決して出来ない姿だということが分かっていたからだ。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.217 )
- 日時: 2019/01/22 15:47
- 名前: ガオケレナ (ID: mKkzEdnm)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
今日は何日だろうか。
瞼を完全に開けることをせずに首だけを横に動かした。
十分に明るいとはいえない部屋から向こう側の壁に掛けてあるカレンダーを見ようと努力しても視力がいいとは言えないジェノサイドからしたら見えるものではなかった。
目を細めて結局体を起こして近づいてみる。
12月18日。木曜日だった。
ボーッとしながら頭を掻く。
アルマゲドンから宣戦布告を受けて2日。つまり今は戦争状態……。大袈裟な表現だが、簡単に言えば組織間の戦いであり、それの真っ只中であるにも関わらず何も変わったことがない。
(放棄したか……いや、違うか。不意打ちでもかまそうとしてんだろ。今はそんな油断させる期間……)
勝手に想像してみたものの、心の奥深くでは「放棄してほしい」なんて思っていた事だろう。
普通の状況に翻弄されるのはもう疲れてしまった。
「早く終わんねぇかな」
アルマゲドンはともかく議会が面倒だ。説得でどうにか出来るかどうか分からない。そもそもそんな力があるのかすらも分からない。
何より不安要素がかなりデカいので学校にも行くことが出来ない。
悩んでは二度寝、起きてはまた寝て……を繰り返し三度寝から起きた頃だろうか。
「完全に寝坊だ……」
認めたくはないが手元の時計は13時を指している。もう昼休み後の授業が始まってる頃だ。
「やっべぇよどうしよう……もうテスト近いから休めないのに……何度目だよこれー……」
「お前バカだろ」
リビングに移動してもずっと頭を抱えてこんな事を何度も呟いている。
この部屋にいる者達の心は恐らく一つになったことだろう。
悩む暇あったら行けよ、と。
「いやでも俺まだ飯食ってねぇし……」
「向こうで食えよ」
「いや、でも此処が襲撃されたらヤバいし……」
「そん時は連絡する」
「いや、でもさ……」
「いいからとっとと行けよアホジェノサイドォォ!!」
名前すら覚えていない(恐らく深部連合出身の)部下からかつてない叱責を受け、ジェノサイドはそそくさとリビングから出る。
パンをかじりながら着替え、何とか準備を終える。ちなみに髪はボサボサのまんまだ。
「じゃあ何かあったら連絡しろよ!必ず!」
「わかーってるっつーの。いいから早く行け。うるさいのはとっとと居なくなれってーの」
直後、バタバタと階段を降りる音が聴こえたと思ったらドダダダダ!!!と、明らかにバランスを崩した音に続く。
「やっぱアイツ馬鹿だな……」
ソファーにもたれかかってその部下は率直な感想が思わず口から発せられる。本当にあいつが深部最強なのかと疑いたくもなる。
「深部最強、ねぇ」
果たしてそれもこれから長く続くのか不思議に思う。
「ねぇー。写し鏡ってどこにある?」
うるさいのが消えたと思った矢先にやけに甲高い声がする。
若干イラッとしながらその方向を見ると、ミナミ……と呼ばれている女性が顔を覗かせている。
「何の用だよ小娘」
「そういうアンタこそ何なの!?誰も居ないからってリビング占領するのはどうかと思うんだけど!」
別にしてねーよ、とその男は呟く。お互いがお互いを「失礼な人だ」と思っているところだろう。
「ねぇ、写し鏡知らない?」
「写し鏡だぁ?んなモン下っ端の俺が知ってる訳ねぇだろ。他あたれ」
「あのさぁ!!一々言動が失礼じゃないの?アンタ!」
とうとうミナミは我慢を迎えたか、二人以外は誰もいないリビングで叫ぶ。
「うっせぇなぁ。縛るモンが何もねぇ世界の人間に高度な物求めるな」
「それでも限度ってもんがあるでしょ!?リーダーに対してもそんなんでしょう?」
「アイツはそういうの特に気にしねぇ人だろうが。大した奴でもねぇのにデカイ面すんな」
「大した……?」
その言葉にピクッと口元が痙攣した。明らかな下っ端の癖に赤い龍の事を知らないときている。別に知らなくてもいいのだが。
「ウチは元赤い龍のリーダーミナミ!」
「あっそ」
「んで?アンタは何て言うのよ」
「俺?んー……雨宮」
「えっ、名字?」
「かつてのな。今は深部内での名前として雨宮と名乗ってる」
「ふ、ふーん……アンタも苦労したんだね」
「うっせ。とにかく写し鏡だっけか?そんなん知らねぇから他あたれ」
言われなくとも、と言う代わりに足音がそれを伝えた。彼女はリビングを出て研究室へと向かう。
「ヒマだな。ドライブでも行くか」
何かあったら連絡しろとジェノサイドに言われた気がしたがそんなん知るかと言うのが雨宮の思いだ。
車のキーを引っ張り出して装甲車が置かれている基地のガレージへと向かう。そこに彼の車がある。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.218 )
- 日時: 2019/01/25 09:04
- 名前: ガオケレナ (ID: I4LRt51s)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
結局13時からの授業は受けなかった。
着いた時間に教室に入っても成績には入らないからだ。
「ったくやっちまった……こんなんなら一回目に起きた時に部屋から出ればよかった……」
構内にある屋外のベンチに一人高野は座る。
「寒い……」
一瞬忘れていたが今は12月の中旬である。動かずに外にいれば寒くなるに決まっている。
いい加減建物に入ろうと腰を上げた時だ。
「おーっ、レン君だー」
聞き慣れた声がしたのでそちらに振り向くと、やはり見覚えのある顔が。
「松本先輩……」
サークルの二年上の松本幸宏。つまり大学四年生だ。
四年生で12月と行ったら就活も大体終わり、暇しているかバイトしているかのどちらかだろう。
何故この時期に此処に居るのか尋ねると、
「あっ、今日と明日バイトも無くて暇だからねぇ。単位もまだ取り終わってないしサークルも今日あるからこうしてフラフラしてるんだ」
「単位って……大丈夫なんすか?」
「大丈夫ダイジョブ!あと二つだけだから!そういや、レン君こそ何で今ここに?」
一瞬言おうか悩んだが笑いのネタになるかと思って正直に話してみる。三度寝して遅れたと。
「はははっ!何だそりゃ。まだレン君若いんだからしっかりしなよー。今日サークルには?」
「行きません。事情が事情ですしあまり基地から離れたくないんで」
「ふーん……無理はするなよ?レン君はあくまでも学生さんなんだから。変なことはするなよ?」
当然嘘になるが、一応「分かってます」と言ってみる。アルマゲドンと議会から追われているのに、じっとしていられる訳がない。
「じゃあ俺次も授業ありますんで」
言いながら手を振りながら先輩のもとを離れる。
と、
「待って、レン君。今ちょっと思ったんだけど、レン君今基地って言ったよね?それってどこにあるの?」
「……えっ?」
唐突なタイミングのせいで、高野は先輩を見つめる。
男同士で見つめ合うとはこれ如何に、な光景だが、単に顔を見ているだけではなかった。何故このタイミングで、とか、どう対応すべきかと頭の中は次に言うべき言葉を考えている。
「……いや、言いませんよ?何が起こるか分かったもんじゃない」
「冗談だよ。ちょっと反応見たかっただけ」
敵に所在地バレて挙句の果てに燃やされたりもしたのだから笑える冗談な訳がない。
流石にそれを、しかもこの状況下で言うのは勘弁してくれと思った高野だったが、そんな事情を知らない先輩達表の世界の人間には無茶な要求だった。
その後は何事もなく別れた二人だったが、松本はどこか浮かない顔をし続けている。
高野が言わなかった以上、他に基地の場所を知っている人間はかなり限られるかゼロのどちらかだ。
「後で香流君や常磐に聞いてみるか……常磐は何故かそっちの事情に詳しいし」
サークル特有のアホなノリは未だ健在である。
たとえ、深部が相手でもその勢いは衰えなさそうだった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.219 )
- 日時: 2019/01/24 21:11
- 名前: ガオケレナ (ID: I4LRt51s)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「はい、じゃあ試験範囲はここまでです。レジュメ持っていない人はいますか?声掛けてくれたら差し上げますよ」
そんな優しい教授の講義が終わった。同時に、今日の高野の講義も終わることを意味する。
(俺はこの授業のレジュメ全部持ってるからいらねぇな……)
ファイルを開き、中にしまってあるレジュメ一枚一枚を確認する。
高野にとってはサボりにくい時間と言うのもあり、今までの講義は聞いていたようだ。レジュメは全部揃っていた。
「んじゃあ帰るか」
今の所基地から連絡はない。と、言うことは今日も何事も無いようだ。
本来だったらサークルに行く日だがそうはしていられない。
やはり心配なものは心配だし、サークルに顔出してその結果変に問い詰められるのも嫌だ。
「基地の場所……絶対問い詰められるだろうな……あいつらの事だから絶対変なノリ発動して来るだろうし……。変に反応したのがダメだったかなー。無視すればよかった……。あー、もうやだ。帰ろ」
無意識でボールに手を伸ばしていたからか、構内のド真ん中でオンバーンを呼び出してしまう。
高野本人もそれに乗ってから気づく。
あまり人が周りにいなかったのが幸いだったからか、何か騒ぎが起きる前に行ってしまおうと思い、すぐにその場から飛び去った。
ーーー
「あー、やっぱりレン君いないね」
松本はサークルの教室に入って荷物を置くと初めにそう言った。
「やっぱってどういう事?」
松本と同年代、つまり高野たちからすると二年先輩の船越がポケモンを開きながら興味無さそうに言う。
「さっきレン君と会ったんだよ。そしたら今日も来ないって言ってたから」
「そりゃ来ねぇだろ」
当然の事を言われ黙る松本。話すこともなくじっとしていると、香流や高畠と言った二年の生徒がやってくる。
「あっ、先輩こんにちは」
「やぁ香流君!なぁなぁ。香流君さ、ちょっと話があるんだけどさ」
松本はやっと話し相手に恵まれた。
ーーー
おかしい。空がもう暗い。
高野はオンバーンで空を漂い、基地に近づいた頃に思った事だ。他人が聞けば「お前アホか」と言われること必至であるが。
(俺は毎日この空を見ながら飛んでいたんだ。12月とは言え18時にもなれば暗くなる。だが、普段からこんな暗かったっけか?)
要するに普段はもう少し明るいと言いたいのだろう。だが、季節が少し進むだけでこんなに変わるものか恐らく一人では解決出来ない疑問を抱えて基地の前に降り立つ。
そこで疑問は解消されてしまった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.220 )
- 日時: 2019/01/25 13:08
- 名前: ガオケレナ (ID: I4LRt51s)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「八王子?」
行き慣れない地名を出され、戸惑う香流。
ちなみに、松本が香流に聞いた質問とは、「八王子周辺に詳しい?」だった。
都心に住んでいる香流にとって、東京の西側は大学周辺を除くとほとんど知らない未知の領域なのだ。
「そうかぁ、香流くんも知らないときたか……。参ったなぁー」
「どうかしたのですか?八王子に何かあるとか?」
松本がふと一瞬目をやると船越と佐野が対戦を始めていた。おかしい、最初は自分とやる約束だったはずなのに。
目線を香流に戻す。
「いやね、勝手な想像なんだけどレン君のチームの基地が八王子周辺にあるんじゃないかなー……って。ほら、前に横浜行った時レン君そっちの方から来たじゃん?」
人が少なかったせいでやけに響いたその声に教室にいた全員が反応した。
高畠は今さっき来た石井と一緒にお菓子を食べながら彼らを眺め、船越と佐野はゲームの音量を0にして話を聞こうとしている。
「レンの……基地が?」
「あぁ。香流君なら何か分かるかなぁと思ったんだけれど、やっぱり何も知らないのか。皆で行くのもいいかなーって思ったんだけどさ」
「松本馬鹿じゃないの?」
席を立って佐野が松本に近寄ってきた。
「変な事に二年生巻き込んでんじゃねぇよ」
違うそうじゃない、と比較的マトモな人達は思った事だろう。だが、幸いにもここにマトモな人はいなかった。
「え、じゃあ佐野来る?」
だからそうじゃない、と今度は一連の話を聞いていた一年生たち下級生らがやっとそんな風に思ってきた。
だが誰もそんな事を言わない。単に言うのが気まずいからだ。
「行って何するのさ」
「見るんだよ!レンくんがあっちではどんな事してるのか」
「さらっと見学感覚で言ってんじゃねぇよ!!」
相手は自分たちの後輩であり、普段は真面目な好青年だが、深部の世界で見たら凶悪な反逆者。
あまりにも差が激しすぎて彼らも想像ができないのだろう。そこから生まれるミステリアスなイメージが好奇心へと変わる。
「どうする?行く?多分僕らだったら知ってる人なんだし変なことはしないと思うけど」
「来てる時点で変だろそれは」
船越と変な茶番のようなやり取りを見ている内に吉川と先輩である常磐が教室に入る。
「なんか騒がしいね」
「いつもの事だよ。先輩たちがレンの基地に行こうかどうかで盛り上がってる。まだ場所すらも分かってないのに」
「レンの基地!?」
その手の内容に敏感な吉川が先輩たちのやり取りに介入するとは当の先輩たちが思ってもいなかった。
吉川の「八王子なら詳しいっすよ」の一言で本当に二年も来る事になるとは予想だにしなかったに違いない。
「もしも行くなら来る?自己責任だよ」
「行きますよ。それには慣れてます。なっ、香流」
しまった……と顔を覆いながら弱々しく「うん……」と答える。
ーーー
基地に降り立った時、本当に此処が普段踏み慣れている土地なのかと錯覚した。
基地が燃えていた。
工場と、一部の林を含めて広範囲に火の手が上がっていた。
暗い正体は単なる黒煙。
連絡無し、燃えている状況から工場だけでなく基地も燃えているのではないかと嫌な思いが駆け巡る。
目の前の突き付けられた事実を理解するのに時間がかかり、突っ立っていたその時。
後方からだったのか、背中に何かの感触がした。
ゾッとして振り返る。
「よかった……リーダーは無事だ!!」
常日頃から監視を任せていた構成員が背中に抱きついていただけだった。
一緒嫌な顔をするジェノサイドだったが、話を聞けるいい機会だ。
何が起こったのかと問いかけてみる。
「アルマゲドンです。彼等がアンチジェノサイドの他の組織を連れて此処に襲撃に……っ」
「他は。仲間達は無事か?」
「はい。事前にガレージの真下に地下シェルターを作っておいたのでそこに居ます。あまり広いとは言えませんし、本当に居座るだけの空間ですから生活環境は良いとは言えませんけど……」
「よくやった!!じゃあ皆そこにいるんだな?今すぐ奴等に知らせてくれ。俺がいると」
「これから皆迎撃しようと準備していたところです。今すぐ伝えておきます!」
と、言うと構成員はまるで喜びでも表しているかのように走り去っていった。
(だから連絡がつかなかった……)
すぐに地下に移動したため、そして電話が繋がらない環境だったから連絡が来なかった。
(シェルターを作るというのは俺の命令じゃなかった……)
地下シェルターなんて大層なものは短時間で作れるわけがない。恐らく何年も何年も本当に危険な時を想定してリーダーではない彼等が本気で取り組んでいたのだろう。それだけでジェノサイドは嬉しかった。
自分をよりも遥かな危機管理能力を持った彼等が仲間を救ってくれたことに。
だから、ジェノサイドは足を向けることができる。ボールを強く握ることができる。
彼の眼前には、戦うべき者がいる。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.221 )
- 日時: 2019/01/25 13:38
- 名前: ガオケレナ (ID: I4LRt51s)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
大学近くのバス停には八王子駅行きのバスがあった。
やや離れた場所ではあるが比較的大きな駅へはここからでも通じるようだ。
「まーたアホやらかす時が来たのか……」
先輩である船越がその集まった面々を見て思わず呟いた。ポケモンをやっている香流はいいとして、持っているだけの吉川や石井、終いには持っていないはずの高畠までついて来ている。
彼等が今日行く事になった理由。
それは、八王子に詳しい吉川をはじめ、「ある程度なら聞いたことがある」と喋り始めた常磐に、挙句の果てに何処からか持ち出したであろうジェノサイドの基地の写真を渋々ながら香流が皆に見せた事でお祭りモードに発展。急遽今日行くことになったのだ。
香流は途中、
「何処でそんな写真見つけてきたんだ?」
と、佐野辺りに言われたが、「ま、まぁ……たまたま……」
という風に濁すだけである。
香流は決して言えない。自分らがつい先日ゼロットと協力し、深部の戦いに首を突っ込んだことを。
キーシュから写真を譲り受けたことを。
今まで彼等は闇鍋から始まる闇シリーズや「見てみたい」という理由で樹海に潜り込んだり、「流れ星見たい」だけで山へ行って野宿と一般人が聞くと「お前アホだろ」と言われるようなことは散々やってきた。
それもノリの一種であることに変わりはないが今度はテロ組織の基地へ突撃ときている。
最早留まることを知らないのか。
良識を持つ者が居たとしたら必ず止めた者がいただろう。
それが居なかったという事を意味するのはただ一つ。
時間を見るとバスが来るのはまだまだ先のようだ。
寒空の下彼等は呑気にもバスを待つ。
ーーー
「来いよ」
仲間は全員シェルター内にいる。と言うことは今外にいるのは自分と敵のみという事か。
現に今ジェノサイドは三十人ほどの人間に囲まれている。
今だからこそ周りを考えずに戦える。
両手にボールを六つ抱えるとそのまま真下に落とす。
衝撃でポケモンが飛び出て、ボールは跳ね返る反動で掌へと吸い込まれた。
「コイツらが俺の手持ちだ。テメェらもかかってこいよ」
敵のひとりがボールのスイッチを押して拡大させたその時に、主と性格が"全く同じ"なゾロアークが唯一命令無しに動く。
その人のボールを弾き飛ばしてそもそもポケモンを使わせない戦法だ。
「ただし、どんな手を使われても俺に勝ってみせることだな」
ジェノサイドの前にゲッコウガ、ゾロアーク、ボスゴドラ、ロトム、ゴウカザル、ガブリアスの闘争心に燃えるポケモンの姿が見えてくる。
「来いよ」
絶対に負けない自信を持って再び殲滅者は告げる。
ーーー
「リーダーが来ました」
「ほんとに!?」
一切連絡ができない状況下でどうなる事かと軽く絶望した彼等だが、その心配はなくなった。
ミナミは特に喜んだ事だろう。彼女は特にジェノサイドに会いたい理由があったからだ。
「ですが、今も危険です。リーダーが一人で外で戦っています」
もしも組織のリーダーが戦いで死ぬことがあれば、それは敗北を意味する。
だから組織全体でその長を守らなければならないが、今では組織のメンバーが守られて長が戦うという逆の現象が起きている。
「早く行かないと」
拳を握って立った女は今すぐにとシェルター出口へと向かい、入口を守っていた男を無理矢理に押し退けて外へと出ていく。
「マズい!我が愛しのリーダーが!!」
こんな時にもおフザケなのかマジなのか分からないレイジが彼女に続き、それを見た面々が……と延々と続いてゆく。
遂にシェルター内はもぬけの殻となる。
ジェノサイドの人間全員が外へと抜け、自ら戦場を歩く運命を選択した。
たった今始まった。
組織の命運を賭けた最後の戦争が。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.222 )
- 日時: 2019/01/25 14:58
- 名前: ガオケレナ (ID: 1T0V/L.3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
八王子駅に着いたのは19時だった。
サークルが始まった事を考えるとすぐに大学を出た事になる。
「この近くに林なんてあるの?」
「あぁ。ちょっと遠いけどな。駅からは少し離れてるけど、土地所有者が不明な結果放置されて林になった広い土地がある。写真みた限りだとそこに奴がいるな」
と、言うことはジェノサイドは人の土地を乗っ取り、そこに住んでいるということになる。今の彼らにそんな事は知る由もないが。
「とにかく行ってみよう。レンが何してるか皆も気になるでしょ」
完全という訳ではないが、この中では一番詳しいであろう吉川が先頭に立って歩く。
「八王子、かぁ」
佐野は一人駅の外観を眺めながら呟いた。
大きな駅ではあるがそこらのものとは変わらない、ごく普通の駅だ。
「嫌な予感がするんだよな……。ただ不安なだけか」
先を歩く香流の「なにしてるんすかー」の声によって初めて自分が置いてかれそうになる事に気づいた。
ーーー
「こんなもんかよ」
目の前には一瞬にして倒れた敵の姿が。
ここまで来るとランク付けの意味がないようにも思える。それほどまでの一方的な戦いだった。
「これがSランクかよ……?ちょっと工夫して戦っただけだぞ?」
ゴウカザルは火を吹くと見せかけて殴りに行き、ロトムは電撃を放ちながら縦横無尽に走り回り、ゾロアークは何かに化けたはずなのにそのままの姿で斬りつけ、ボスゴドラはただ主を守り、ガブリアスは木々ごと敵を吹き飛ばす。
それだけだったはずなのに。
「使い捨てのザコなのに求めすぎなんだよ。ちったぁ考えろっての」
自分以外の声がした。
外には敵しかいない。基地の周りを考えるとさらにいるはずなのに、ジェノサイドの前に現れたのは一人の男だけだった。
「よぉ。テメェと会ったのは三度目だな。前に会ったのはテメェの大学で、その前は大山だったかな」
大山、と言われてあの時の戦いの記憶が嫌でも蘇る。
そう言えば、とジェノサイドはその人を見て、褐色肌で尚且つやけに尖った髪型をした、グレイシアを使っていた男がいたと微かな人影が脳内に再現される。
「あぁ、俺の仲間たちに袋叩きにされてたザコか。お前に用はないよ。バルバロッサ出せ」
「トモダチはどうした?見た感じテメェしか居ないようだが。それと、父さんは此処にはいないよ。悔しかったら探してみることだな……」
言っている途中だった。
逆鱗状態となったガブリアスが腕を振るって叩き潰そうと二人の間に割って入る。
「じゃあ尚更お前に用はねぇ。消えろ」
'げきりん'が人に当たるとどうなるか。
答えは"思い切り吹き飛ばされる"だ。
目の前の男が飛ぶそのイメージが強く思い浮かんだその時。
「安心しろ。私ならいるぞ。此処にな」
空であるはずの頭上からゾッとするような声が無駄に響いた。
何処からか大量の炎が蒔かれ、それは暴れるガブリアス一直線へと突き進み、結果として動きが止められる。
「だが私の可愛い子供たちを傷つけようとするのは許せないなぁ」
邪悪な笑みを浮かべて、老人はその色黒の男を抱きかかえて空に浮かぶ。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.223 )
- 日時: 2019/01/25 15:26
- 名前: ガオケレナ (ID: 1T0V/L.3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
バルバロッサはその少年を抱えてカイリューの上に座ると、何か命令を発したのか林の奥へと消えていく。
「ぐっ、なんだ……!?」
衝撃で強風が巻き起こり、ジェノサイドはその場で両手をついて倒れ込む。
「何で奴は基地から離れるんだ……?俺から離れるためか……?」
疑問に思い、逃げた方向である林をつい見てしまう。
その隙にと、武装した敵とサワムラーがジェノサイドの後方から飛び掛ってきた。
「やべ、しかも武器持ちかよ……っっ!!」
相手の持つ小銃に注目し、逃げるタイミングが更に遅れる。
方々に散ったジェノサイドのポケモンが集まるも間に合わず。
サワムラーの'とびひざげり'と銃口が彼を捉えーー
突然現れたカイリキーによりサワムラーとその男は叩き落とされた。
呻き声を上げ、立つことの出来ない主をよそに、サワムラーが起き上がるも、カイリキーの'ばくれつパンチ'を受けて主同様その場に伸びてしまう。
「大丈夫っすか?ったく、何やってるんすかリーダーは」
「ケンゾウ、お前か……助かった」
「しっかし、やりすぎっすね」
ケンゾウは念の為足でその男の腕を踏みつけて小銃を奪う。
「まさか相手が武器をも使うとはな……容赦しないみたいっすね、こいつら」
「基地燃やしてる時点で容赦もクソもねーよ」
敵への威嚇のためか、小銃を構えてそこから動かないケンゾウ。彼の前に敵がいるかどうかは確認出来ないが、
「やめとけ。真っ先に狙われるぞ」
その小銃が相手の物だとしたら他にも武装している人はいるだろう。
それ以上の武器があってもおかしくない。
「皆はどうしてる」
「シェルターから出てきてるっす。これから戦場になるっすよ、ここが」
「戦場……ねぇ」
ジェノサイドは、まるで鋭い牙を見せる動物のように歯をキラリと見せてニヤッとする。
「俺がいるトコすべてが戦場だっての!!」
ケンタロスに乗った敵が全面から突撃してくる。
が、ゴウカザルが炎を撒き散らしながらジェノサイドの前へと颯爽と舞い降りる。
そして、
「'インファイト'」
無数の弾丸とも言える拳の乱打は一つ一つ正確にケンタロスにぶち当てていく。
ケンタロスの突進がゴウカザルの身に接触するよりも先、インパクトの直前までにひたすら乱打し、遂には三つ目の打撃で騎乗している人間もろともケンタロスを弾き飛ばした。
ケンタロスと共に地面に叩きつけられて倒れた雑兵を二人は眺める。
「うわ〜ケンタロスごととかすげぇ……」
「お、オイ!ボヤボヤしてんじゃねぇ。今奴らはバラバラに動いてる。規則性も何も無い動きだろうが惑わされんじゃねぇぞ。戦いながらバルバロッサを見つけ出せ。いいな」
ーーー
まだ火の手が上がっていない林の奥でバルバロッサは着地した。
「ここならまだ安心だ。戦況を見つつジェノサイドを葬ることが出来る」
「アイツは……まだアイツの姿が見えない」
アイツ、と聞いてバルバロッサはすぐに誰の事を言っているのか理解した。
笑うと優しく頭を撫でる。
「テル……お前は本当にあの娘が好きんだなぁ」
「別に。こんな所で一人だけいないと不安になる。それに妹みたいなモンだしな」
テルという名の褐色の男は撫でていた手を叩くと目を細くしてバルバロッサと距離を空ける。
「八王子にあんのに……工場の跡だってのに綺麗な林なんだな。自然がそのまま残ってる感じだ」
「元々ここは山だったからなぁ。それを崩して造られたニュータウンだから坂も多い。手つかずの土地は未だに自然が残っていてまだ綺麗ではあるんだ」
バルバロッサは足元に落ちていた葉っぱを拾ってそれを眺めてみる。淡い緑色をつけていたその葉は何とも言えない落ち着きを与えてくれそうだ。
「作戦通りでいいんだよな」
テルは背を見せ歩きだそうとした。
「しばらくしたら、父さんは此処を離れる。戦うのは俺達だけになる。その合図は?」
「いらんよ。頃合を見たら此処を出るつもりさ」
「その間にジェノサイドを殺してもいいのか」
「構わんよ。最終目標がそれだもの」
了承を受け取ったと解釈して、テルはバルバロッサのもとを離れた。
テルはジェノサイドに勝てるとは思ってもいない。だからこそ先程は彼から逃げた。
今テルに出来ることはやれるだけジェノサイドの仲間を倒すこと。間接的にジェノサイドの守りを薄くするうえで他の仲間に討たせる。
「今度こそ終わりだぜ……ジェノサイド……」
その瞳は勝利と殺意で塗り潰される。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.224 )
- 日時: 2019/01/25 15:17
- 名前: ガオケレナ (ID: 1T0V/L.3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「ここ……でいいのか?」
高野のサークル仲間の集団は大通りから外れた閑静な狭い道を歩き、遂に草木に覆われた不気味な土地へと足を踏み入れる。
「多分、な。ここくらいしか近くでは見当たらねぇ」
「多分って……吉川くん結局分からないのかよ~」
スマホの地図アプリを開いて本物の景色と画面を交互に何度もにらめっこする。途中佐野が何か言ってきたが返す余裕は無い。
「よし、ここだ。行こうぜ皆」
確信を持てないまま吉川がまず最初に突き進んでいく。後ろからは「本当に行くのかよ……」なんて弱気全開の言葉がしたが、じゃあ何故ここまで来たと言いたくなる。
結局一人が歩くとそれに皆がしぶしぶついて行く。行動の発端となる人が欲しかっただけのようだ。
だがその異変にはすぐに気づいた。
「ねぇ、何か焦げ臭くない?」
声のトーンから女子だったが、その声色からして恐らく石井だろう。と言っても女子は高畠と石井しかいないが。
「えっ、そうかな?」
鼻がつまっている香流にはよく分からなかったが、彼女の一言により鼻を行使しだした皆は揃って「本当だ」と言っている。
「焚き火ではないよな、これ……」
「うん。葉っぱを燃やしている臭いじゃないね」
先頭を歩く吉川は松本と話して一気に不安が襲ってくる。そして不安は、嫌な予感へと変換される。
「待てよ……?」
ふと吉川は「都合が悪くなった」と唐突に言い出したと思ったらアルマゲドンなる組織の説明を始め出したあの時の会話が過ぎった。
話によれば、ゼロットとアルマゲドンが組んでおり、そのアルマゲドンがジェノサイドと対立し……
「マズい!!このままじゃあレンが危ねぇ!!」
吉川が一言発すると皆を置いて駆け出した。鼻に敏感な吉川は今ここで何らかの建物が燃えているとしか思えなかったのだ。
「待って吉川君どうしたの!?」
佐野が吉川の腕を掴もうとしたが空かしてしまうも、その言葉で吉川の動きが止まった。
「多分今これヤバいっすよ……。もしかしたらレンは今ここで戦っているのかもしれない……」
一人高野の奪還を考えていた香流はその言葉を聞いて反射的に瞳を大きくさせる。
「戦っている!?それ今がすごく危険って事じゃん!ヤバイよ今行くの止めた方がいいって絶対」
「違います先輩。今レンは別の組織に狙われているんです。そしてここはあいつの基地……って事を考えると追い詰められているっていう事ですよ?このままじゃ、レンが危ない……」
「だからこそ危険だ!僕達はレン君に会うためにここに来たんだ。戦うためじゃない。今すぐ戻るぞ」
「できません」
先輩の言葉を否定したのは吉川でなく、普段は大人しめで自分からは一人でないと動かないはずだった香流だ。
「か、香流くん!?」
「こっちはレンに会うためだけじゃなくて、出来たらいいなレベルですけど、レンを奪還できたらなって思って……」
「そんな半端なレベルで行ったらダメだ!下手したら死ぬぞ!?」
死ぬ。普段から会話で聞き慣れていたり、ネット上の画面から見慣れているその言葉がこの状況のせいでひどく現実的に捉えられてしまう。
何かが爆発するような音も聴こえた。
「いいんじゃねぇの?面白そうじゃん」
背後から若干風邪気味のような声がした。
その声だけで誰だか分かる。普段聞く分には何とも思わないが、人によっては不快感を与えるかもしれないその声が。
「常磐先輩……」
常磐将大。佐野や松本、船越と同じ大学四年生の先輩にして彼らと同じくポケモンユーザーである。
あまり目立とうとしない性格から、高野ら二年とは絡まなかったり、行事にも顔を出すことは少なかったが偶然サークルに顔を出したら佐野たち多くの人が八王子に行くと言うのでついて行った次第だ。
香流が常磐を恐れたのは自分たちの言い分を否定したことではない。
彼らはまだサークル内では、実体化したポケモンと戦うということは校則により実現できていなかったので、この世界での実力はまだ未知数だ。
それでも彼が、この先輩が恐ろしいことに変わりはない。常磐は普段のゲームでのポケモンの強さから"影の実力者"と言われ、香流にも負けず劣らずの強さを持っているためだ。
そんな彼が佐野らと意見を合わすことなく「戦ってみれば」と言っている。即ち自分も戦う気なのだろう。
「普段からチョーシ乗ってるレンが、まさかジェノサイドで……、しかもそのジェノサイドが死ぬ寸前とかいうピンチに陥ってるとか面白すぎだろ。そこに俺達が割って入ってきたらアイツどんな顔するかな?」
既に常磐はボールを握っている。普段はポケモン対戦以外で絡まない若干怖い先輩が、今ここでは凄く頼もしい味方となっていた事に香流は何よりも心が踊った。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.225 )
- 日時: 2019/01/25 17:54
- 名前: ガオケレナ (ID: 1T0V/L.3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
仲間が続々と集まってきた。
敵に囲まれていたはずだったが、今となってはその敵は散り散りになり、変わりに仲間が近くに集まってそれぞれ戦っている。
それでも、敵がバラバラに動いているので徐々にこちらも離ればなれにはなっていくが。
「いやぁ、ジェノサイドさんと連絡が取れないと分かった時はもうどうしようかと半分パニックでしたよ」
燃える基地をバックに、ジェノサイドとレイジが互いに身の回りを見つつ嘘としか聞こえないような、調子の良さそうな口調でレイジが言う。
「シェルターは電波が入らない設計にしちゃってたらしいからな。まぁ俺が来ていなくてもお前達はずっと隠れてたんだから別にいいだろ」
「そういうことですね」
喋っている最中、バン!と激しくも鈍い音が隣から響いたので何事かとレイジの方向を見ると人が頭から倒れていた。
見知らぬ顔なので敵だろう。気絶しているのか死んでいるのかよく分からないがその顔で判別するのは難しい。
「気づいたら真横にいたので」
「さらっと怖いこと言ってんじゃねぇよ。それにしてもよ……」
ジェノサイドは音の正体であったレイジの隣に展開されたダゲキを見る。
「格闘タイプのポケモンをよく使うイメージだな。エルレイドだったり、お前はダゲキを使ってたり。あとお前の部下だかミナミだか忘れたけどキノガッサとかニョロボン使ってるのもいたな」
「キノガッサはリーダーですね。この前もあそこの林で'やどりぎのタネ'使って緑増やしていましたし。ニョロボンは私たちの部下ですね。恐らくは。元々リーダーの好みが格闘タイプでして、姿がカッコいいのと使いやすいとかで昔から愛用していたのですよ」
知らなかった。組織単位でタイプを絞る動きというのはさほど珍しくなく、あえてそれを行う組織も少なくはない。ルークが組織していたフェアリーテイルはフェアリータイプが多く、モルトの爆走組も毒タイプが多いと聞いている。それに当てはめると赤い龍は格闘タイプ専門か。
「ミナミと戦うことがあったらファイアローぶつけよう……」
「フェアプレーでお願いします」
火の粉が視界に映った頃に「ところで」とレイジが話を切り出してきた。
「これからどうするのですか?戦場はこの基地周辺、陣地は形を失っているため此処一帯を走り続けねばなりません。その間あなたや私たちはどうすればいいのでしょうか?」
少し難しい問題だった。
元々ジェノサイドという組織は他組織への侵攻メインでこれまでやってきた。
理由は簡単で、ジェノサイドの組織の居場所がバレなかったからだ。
だが今回、ジェノサイドとしては珍しい防戦を行っている。しかも身の安全となる基地も失ってしまった。
この時どうすればいいのかなんてジェノサイドにはすぐに答えが出せない状況だったのだ。
「とにかく、今は出来るだけ敵を見つけて倒していけ。兵がいなくなれば残るのは大将だけだ。組織としての力も弱まるし大将本人の行動にも繋がる。戦いながらバルバロッサを探していく感じになるな」
「ですが、それではあなたの身が危険になるだけでは?この戦いでたとえこちらが有利でも、あなたが死ねば我々はその瞬間負けとなりますよ?」
「それは大丈夫だ」
ジェノサイドは遠くの林を見つめながらレイジの肩を叩く。見ないでやろうとしたので最初は外してしまった。
「そこはちゃんと考えている。その時になったら合図を送る。合図は……そうだな」
言って比較的安全そうに見える草むらに入ると、そこからジェノサイドは一体のリグレーを呼び出した。
「これは?」
「こいつが合図だ。まだ使っちゃダメだが、俺が花火か何かを空に向かって撃つからそれを合図だと思ってこのリグレーの近くにまで寄れ。するとリグレーはお前に対してテレパシーを送る」
周りを確認し、誰にも聴かれていないことを確認すると、小声でボソッと呟くように、
「テレパシーの内容はちょっと変わった質問だ。お前らなら答えられるものを用意してある」
「えっ?」
何故そこまでするのかと不思議に思う。何をさせたいのか彼の動きが読めないがそれを今尋ねても無駄だろう。
そこは黙っておくことにした。
「しかしこれを私だけに伝えてもよろしいのですか?もっと他の連中にも……」
「ハヤテやケンゾウ、あとは……ショウヤとリョウだっけか?何人かにはあらかじめ来たるべき有事の際の解決手段としてもう伝えてある。何度も言ったことがあるから覚えてはいると思うけど」
「リーダーには!?ミナミには伝えましたか!?」
やけにその話題になると気を荒立たせるレイジだが、それほど大事な存在ということか。
両肩を強く握られ迫られるジェノサイドだが、肩に食い込んでいる指が痛い。
「いててっ、おいやめろレイジ。アイツに関してはまだ言ってねぇ。バルバロッサ探す過程で俺は此処を走り回ってるからその時にミナミも見つけて言っておくよ」
「いえ、私にやらせていただきます!」
じゃあ何故聞いたと思い、未だに離さない両手を払ってみる。どちらにせよ、二人のうちどちらかが行えば問題は無い。
「じゃあそういうことで」とだけ言うとジェノサイドはレイジのいる方向とは逆、つまり基地の裏側を目指して走り去って行った。
ーーー
「やっぱり……」
怖いものを見ているようなか細い声で呟いたのは高畠だった。
意識を失って倒れている人が彼らの歩く道の脇に放置されている。その人の手元にはモンスターボールも転がっていた。
「やっぱり今戦ってんじゃん……本当に大丈夫なの……?」
何今更怖がってんだとか、ポケモン持ってないくせに何故来たんだと思い浮かぶ突っ込みが次々に生まれてくる。
その内燃えている建物の姿が見えてきた。
「うわっ!!」
「あれは……もしかしてあれが、レンの基地なのかなぁ……?」
各々その衝撃的な光景を目の当たりにし、絶句する。
「レンは!?レンは無事だよな!!」
それまで落ち着いていた吉川が動転したかのように焦り出した。一行は彼がそこまでメンタルが強くないことを思い出す。
「落ち着いて吉川君!まだ分からないけど、流石にレン君があの建物内にいるのは考えにくいからきっと外にいるよ。だから先にレン君を探さないと!」
ついさっきまでこの動きには反対だった佐野も、燃える建物を見てしまうと自分の後輩の安否が気になり始めてしまう。
ここまで来たら探すしかないと思い始めているところだ。
突然、近くからガサッと音がしたのでそこを振り返る。
(レン君か!?)
人影が見えたことから、皆その正体が高野だと思ったことだろう。
だが、その異様な外見からそのような気持ちは消え失せてしまう。
(あれはー……何だ?手に金属のようなものを……まさか、銃!?)
型までは分からないが、一瞬見えた形状から恐らくショットガンだろう。
日頃の生活では絶対に見ることのない物を見て彼らは一体どう反応するのか。
(アルマゲドンには居ない人間……?もしや奴等、ジェノサイドか!!)
叢から飛び出したその男はそう思いながら徐々に近づき、ガシャッと音を立ててリロードし始める。
その時になって、彼ら全員はその男が銃を持っていることに気がついた事だろう。
「ひっ!?」
「キャッ!!」
反射的に女子二人が叫び声を上げる。しかしその反応は脅威、即ち敵を見てしまった時に上げる声だ。
疑念から確信へと変わり、その男はショットガンを彼らに向ける。
カチッと引き金を徐々に引いていったその時。
バチィッ!!と火花が散りそうな激しい音が立ったと思うとその男は倒れてしまった。
よく見ると痙攣を起こしている。
「あ、あれ……?」
「撃たれてない……よな?俺ら」
命の危機を脱した彼らは安堵の表情を見せるも、さらに驚く光景が。
「ポケモン!?」
へたりこんでしまった船越の隣にはライボルトがバチバチと電気を時折発しながら何食わぬ顔で立っている。
誰の、どのようにして出したポケモンなのか。特にポケモンユーザーの人たちは戸惑いを見せる。
「ボケっとしてんじゃねぇよ」
その中に、一人ボールを持つ者が。
「常磐……お前のライボルトか?これ……」
「此処はポケモンを使った戦場なんだ。おめぇらもポケモン持ってるんならそれ使えよな」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.226 )
- 日時: 2019/01/25 18:01
- 名前: ガオケレナ (ID: 1T0V/L.3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「そもそもの話」
常磐は地面に転がったショットガンを拾い上げまじまじと見つめる。
本物かどうかを見ているようだ。
「本物のポケモンバトルをしたことのないお前らがよく来ようと思ったよな」
「そういう常磐はなんで手馴れてんだよ……まさかお前も深部の人間とかか?」
「実体化したポケモンを使う奴全員が深部の人間とか思うなよ?俺は日頃こいつら使って友達とバトルしたり遊んだりしてただけだ」
常磐の話によると、実体化したポケモンを使う人々も深部の話は少しは知っているようだ。自分たちが使っているポケモンを利用した自警団的組織がいると。
「まー、でもあんまりいい話は聞かないよな。深部が綺麗だったのは昔の話。今じゃ組織間で抗争しているやべーやつみてーなもんだ」
それでも優しい組織はあるがな、と常磐は最後に付け加えた。
ショットガンは無駄に重く、オモチャには見えない代物に思えてしまう。
「何でこんなもんを日本人が持ってんだよ……」
それでも護身用としてその銃を離さない。素人が持っていても不安なだけだが。
「とにかくレンを見つけよう。適当にほっつき歩いても狙われるだけだ。ポケモン持ってる奴はいつでも準備しとけよ」
状況の割にスラスラと言えるこの男に、佐野と船越は不安を覚えるも、常磐は元から切り替えががうまい人間だったのでそういう事だろうと結論づける。
ーーー
「'ナイトバースト'」
と言い終わる前に既にゾロアークはポケモンもろともトレーナーをも吹き飛ばしていた。
適当に吹っ飛んだその人は、大木に激突して呻き声をあげる。戦えるようには見えなかった。
「さてと、ミナミとバルバロッサ探さなきゃいけねぇのか……」
面倒臭そうに頭を掻いていると、はっきりと誰なのか分からない程の距離から、ユラ……と不規則に動く影があったかと思った矢先、予想だにしないスピードでジェノサイドに向かって来ていた。気が付いた時には目の鼻の先にまで到達している。
「!?」
人間の足では絶対に出せない、しかし'テレポート'という訳でもなく本当に走ったその人間に不思議に思うも、意識は別に向かう。
(ナイフ!?)
一気に込み上げる危機感を抱いて必死に体を傾ける。
「ぐっ……、っ!」
しかし、腕から何らかの痛みを発した。
見てみると、二の腕を軽く斬られたようだ。斬られたローブの隙間から血がチラリと見えた。
「テメェ……」
互いに距離を離したことにより、顔が確認できる事が出来た。少なくともその程度の距離だ。
その何度も見た顔により、怒りよりも笑いが込み上がる。
二の腕を押さえた手が震えていた。
「ったく、またお前かよ……お前と会ったのは三度目かぁ?」
「そうだったかしらね。同じ人に燃やされる基地って果たしてどうなの?」
その少女は真っ赤に染まるナイフを手にしている。明らかに自分の血だけではない。
「二十人くらいかな。そのくらいは刺してきたよ。全く脆いもんね。天下のジェノサイドってのも」
「言ってろ。俺としてもつまんないザコばっか倒してきてていい加減飽きてたところだ。テメェぐらいだったら少しは楽しめんだろ」
お互いにニヤリと笑うとそれぞれポケモンを自分より手前に展開する。
ジェノサイドは横で待機していたゴウカザルを、その少女はサンダースを。
「どっちが速いと思う?」
「ほざけ。一瞬で終わらせてやる。こんなバトルなんかな」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.227 )
- 日時: 2019/01/25 18:09
- 名前: ガオケレナ (ID: 1T0V/L.3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ゴウカザルは炎を纏うと狙いを一点に定めて駆け出した。
'フレアドライブ'だ。
「へぇ」
興味深くそれを眺めて小さく笑うと、少女はサンダースに'ボルトチェンジ'でもさせようかと思った矢先。
ゴウカザルの狙いがサンダースでないことに気づく。
それも、ゴウカザルは狙い打つために炎を纏ったまま翔んだ。
その真下にいる、少女を目掛けて。
「えっ、」
「言ったろ、終わらせてやるって」
ジェノサイドのそんな声が聞こえた気がした。
しかし、驚いたのは最初だけだ。
翔んだその瞬間、猛烈な風が吹くと思うと、後ろへと飛ばされてしまい、結局不発となる。
ゴウカザルはジェノサイドよりも後方で着地した。
「なるほど……」
ジェノサイドはこの時になってやっと分かった。
猛烈な風も、少女の速すぎる脚力の正体が。
スワンナが、'おいかぜ'を起こすのを止めて地上に舞い降りたのだ。
「やっぱスワンナもかわいーなぁー」
降り立ったスワンナの頭を撫でて調子の良さそうにする彼女の姿を見て、何かよく分からないイライラするものを込み上げたジェノサイドは、ゴウカザルに命令したのか、その少女の真横に、拳を思い切り叩きつけて地面を揺らす。
「何してんだよ……勝負はまだ終わってねぇよ?」
「始まってすらもいなかったね」
ニコニコした様子でスワンナをボールに戻すとサンダースを見つめて、
「じゃあ、やっちゃおっか」
ダルいからかため息混じりに、やけに力のこもってない感じに'ボルトチェンジ'などと言ってみると、先程のスワンナの'おいかぜ'とは比べ物にならないような、最早災害クラスの大風が吹いた。
「えっ、えっ?何?」
何とか飛ばされずにに済んだ少女は咄嗟にサンダースをボールに戻す。
上を見上げるとカイリューがその巨体を浮かせるための翼を使っての物だと言うことが判明した。
「どうして?カイリューなんかが……?」
何かを思い出したかのようにジェノサイドが元いた位置に顔を戻す。
が、
「やられた……」
ジェノサイドは居なくなっていた。被っていたつばの広い帽子が転がっているのみである。
しかしそれ以上に意外だったことが一つ。
「まさかリーダー見つける前にあんたを見つけるなんてね……」
聞き覚えのある声がした。
もしやと思いカイリューに乗った人を眺めてみる。
「あらぁ、あの時の……」
着陸するために突風を生み出しつつ翼の力を弱めるカイリューは、自分の主を降ろすために自身の体を低くして、より降りやすくしてあげる。
「えーと、何て名前だったっけー……えーっと……」
「ミナミ」
「そうだ!アナタがミナミとかいう何したかったのかよく分からない子だった……」
「うるさい」
と跳ね除け、少女が醸し出しているふざけた空気を一変させる。
(何よ……前と比べて随分と落ち着いているじゃない……目の色も違うし……)
ミナミは地上に降り立つ。
カイリューをボールに戻すと、目の前の少女を睨んだ。
「アナタのリーダーなら死んだわよ」
「嘘つけ。アイツがどこぞのガキにやられるわけないでしょ」
「ガキじゃなくてレミ。アタシはレミって言うの」
どうでもいい、とそれを無視してミナミはキノガッサを出してみる。
レミと名乗る少女はうっすらと笑って、
「いいの?前は諦めちゃったくせに?」
ボールを掌でくるくる回しながら彼女なりの挑発をしてみる。
「アナタたちの目的はアタシじゃないのに?それでもやるの?」
「もうウチは……諦めたりしない」
ミナミは強い眼差しを向ける。
今度は自分がアイツを助けると強く誓って。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.228 )
- 日時: 2019/01/25 18:17
- 名前: ガオケレナ (ID: 1T0V/L.3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
バルバロッサと別れたテルはひたすら林の中を彷徨っていた。
整備されていないので道という道はなく、とても歩きにくい。
冷静に考えると組織のリーダーを一人置いていくのは危険すぎる行動のように思える。
が、
「心配するな。じきに仲間が更にやってくる。お前も名前くらいは聞いたことある人間さ」
との事なので心配はいらないようだ。その名前も聞いたことのある人の名だった。
「んじゃあ俺は相変わらず奴の仲間をブッ倒してけばいい訳だな……」
自分がどの辺りにいるのかも、敵も仲間も見当たらないが基地が燃えているのがうっすらと確認できる。そちらの方向に進めばなんとかなりそうだ。
そんなあまりにも適当に考えていた時だ。
やけに騒がしい声が聴こえた。
「レン君とは連絡取れないの?」
「いやぁ無理ですね。何度も電話してみたけど繋がらないです」
「ってか今何時だ?腹減ったー」
「テメェこんな緊張感漂う時に何言ってんだよド素人の癖にどこに足突っ込んでんのかマジで分かってんだろうな!?」
どこの学生団体だと聴こえてきたアホそうな雰囲気に思わず目を細める。
しかし声からして聞き慣れないものだ。つまりはアルマゲドンの、仲間ではない可能性が高い。
("ド素人"とか聴こえたぞ……?つまり俺らの人間じゃねぇな。敵か?)
少し焦りを伴わせながら、声のする方へ駆け出し、彼らの前へと立ちふさがる。
「はーいちょっと止まろうかお前ら。その見慣れないグループにその姿。俺らの仲間では……」
言いかけた時だ。先頭に立つ男が物騒なショットガンを手に持っているのが確認できた。テルからしたらその銃は見覚えのある代物だ。
(あれは……確かコッチのヤツが持ってた型だ……それを持っているって事は……!!)
その男を睨むと無言でボールを真上に放り投げる。
「ハッサム……?」
ゲームでどんなに見慣れていても現実に見てしまえばその衝撃と興奮は何度も生まれて来る。
たとえ敵が使ってきてもその思いは変わらない。
「どけ、佐野。ここは俺がやる」
常磐がライボルトの入ったボールを握り締めて前を歩こうとしたが、そこを逆に佐野に止められた。
「待った。そのポケモンでもハッサムの'テクニシャン'を前にしても戦えるか?」
「どうにかなるだろ」
二人が話し合っている時に、後ろの方では何やら陣形を作り出しているようだ。ロクなポケモンを持っていない高畠と石井と吉川を座らせ、その周りを香流と船越と松本で囲んでいるのだ。三人はどの方向から敵が来ても対処できるようそれぞれ別方向を見ている。
「今度は僕にやらせてほしい」
「はぁ?まだこっちの世界で戦ったことすらないド素人が本物の深部と戦うってか?お前何を言ってんだよ!」
二人のやり取りを聞いてテルは内心ラッキーと思った事だろう。
(まさかここにおいてジェノサイドの非戦闘員とかち合うとはな……しかし非戦闘員はきちんと避難させなきゃダメだろうが。何考えてんだか。ジェノサイドは……)
「僕のポケモンならハッサムに対抗できる」
「分かった分かった。好きにしろ。その代わりピンチだと思ったら勝手に割り込むぞ」
ありがとう、と言って佐野が一歩前に出てボールを構えた。
その同じタイミングに、三人を守る松本の足に、何かでつつかれる感触がした。
「ん?」
松本が後ろを振り返ると、しゃがんでいた吉川が一個のボールを持って何やら草むらの方を指差している。
「あぁ……」
彼の言いたいことが分かった。
敵にバレないように足を広げると、股下から吉川は草むらに向かってボールを転がした。
佐野がポケモンを出すのと全く同じタイミングだったので飛び出す音でバレるなんてこともなかった。
(よし!頼んだぞピカチュウ!)
そう思う吉川。あとは祈るだけだった。
「なるほど、お前……」
テルはこれでもかと嫌そうな顔をして一言。
「ブースター使ってんのかぁ……」
佐野を見ると自信はありそうだった。それに呼応してブースターの毛並みもまるで炎を現しているかのようにメラメラと燃えているようだ。
だが、隣にいる常磐が
「ゲームとは動きが全く違うからな」
という初心者に対して言うアドバイスがある辺りテルも相性で決まるバトルでない事は察した。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.229 )
- 日時: 2019/01/25 18:23
- 名前: ガオケレナ (ID: 1T0V/L.3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
カイリューの突風により茂みへと吹き飛ばされて転がったジェノサイドは、あちこち痛む体をなんとか起こして顔を上げた。
「くっそ、いてて……。さっきのカイリュー、多分ミナミのだろうな。アイツの姿も一瞬見えたし……リグレーの件もあるしアイツの所へ行くかなー……」
言った途中だった。
ジェノサイドは不思議な光景を目にする。
「あいつ……ら?」
ミナミによって7m程は吹き飛ばされた。近い位置に彼女はいる。
だが、別角度。
基地側のミナミを北側だとするとその東側。
そこに見慣れた人々がいる。
紛れも無く、先輩と友達だった。
(あいつら……っっ!!まさか本当に此処に来やがったのかよ……。今がどんな状況なのかも分からないのに……?もしかしたら戦いに巻き込まれる可能性も……)
彼らの状況を見ようと少し歩いただけで、テルとハッサム、それと対峙する先輩と、明らかに先輩のポケモンであるブースターがもう既に戦っている事に気づく。
対戦で佐野がよく使っていたブースターだ。すぐに確信を持てた。
(遅かった……!)
大学で自分を襲撃しに来ていた人の姿を確認できたあたり、かなり無謀な戦いであろうと想像してしまう。
ジェノサイドの歩む方向が定まった。
(やめろ……)
叫びたかったが声が出なかった。その代わりその足が早く動く。
(やめろ!!俺の知り合いに手ぇ出すんじゃねぇ!)
今のこの戦いにおいて自分が最も狙われているということをすっかりと忘れ、一目散に駆ける。
段々と近づいてゆき、遂に隔てるものが深い草むらのみとなったときだ。
パキッと足元から音がした。
その音のせいか、テルが振り返り、遂に自分が見つかってしまう。
ジェノサイドも反射的に足を止めてしまい、何の音なのか視線を落としてみた。
細い枝だった。どうやらこれを足で踏みつけたようだ。足にも木の枝らしき感触がする。
(チッ!バレたか……まぁいい。このまま奴を直接……)
ジェノサイドらしかぬ不意打ちの事を考えようと思ったときだ。
不自然な影が間に割って入った。
同時期。
テルは低く唸った。
初心者とはいえ、ブースターとハッサムの戦いはかなりキツい。たとえ初心者でもシナリオをクリアしていれば相性の善し悪しなどしっかりと頭に刻んでいるはずだからだ。
だからどのようにしてこの男をぶっ倒そうか考えていた最中。
足元近くの草むらからガサガサと変な音がした。
不思議に思い、その方向を見ると、必死の形相でこちらに向かって走るジェノサイドの姿が。
(こんな時にジェノサイド……!?なんてタイミングだ……だがコイツからショットガンでも奪えば俺でも殺せる……)
見つかったせいか、ジェノサイドはその場で歩みを止め、その場に留まっている。
チャンスだ、とばかりに一瞬ショットガンを手に持つ、手馴れた感じの男をチラッと見たがその瞬間。
不自然な影が草むらから飛び出し、自身の視界に映り込む。
その影にして不自然な音の正体は。
「'10まんボルト'だーー!!」
いきなり三人の男により塞がっていた狭い空間から男の怒鳴り声が聴こえた。
その声の主は吉川。
そしてテルの眼前には電撃を纏った……
「ピカチュウだと!?」
叫んだ直後。
激しい閃光と爆音が鳴り響く。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.230 )
- 日時: 2019/01/25 18:33
- 名前: ガオケレナ (ID: 1T0V/L.3)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「えっ?えっ、うわあああ!!」
一番驚いたのは正面に立って戦っていた佐野だった。
彼は戦うことしか考えておらず、どのように攻略しようか知略を巡らせていたところだ。
そこにいきなりピカチュウが割り込み、電撃を放ったと思ったら相手の男は膝から崩れ落ちたのだから、佐野からしたら予想外にして意味の分からない出来事だった。
「えっ、なに今の?バトルは?」
「しなくていい」
倒れた男の様子を見て完全に気絶しているのを確認した常磐は辺りを警戒しつつ男から離れた。
「えっ?でもハッサムは出てるまんまじゃん」
「お前冷静に考えろ。トレーナーが居なきゃそもそもバトルは成り立たないだろーが」
「それは知ってる。でも今のが有りになるのかがよく……」
「分からないってか。そしたらあそこに突っ立ってる当事者サマに聞きな」
常磐が顎を使って場所を示す。佐野がそちらを向いた方向にはジェノサイド……ではなく高野がいた。
ーーー
「俺達のバトルに、基本的なポケモンバトル以外のルールはありません」
高野は、自身の友達と歩きながら説明を始めている。
「不意打ちなんてしょっちゅうっすよ。だからこそ俺はゾロアークを使って化かしたりとかしているんすよ」
「ほらな?言ったとおりだ」
最初は信じられなかった佐野も、高野の話を聞いて黙り込んでしまう。本当にヤバい所に足を踏み入れてしまったと思いながら。
「にしてもナイスだったなさっきの。誰のポケモン?ってか、この中だったら一人しかいねぇか」
「まーゾロアークとも渡り合えるピカチュウだからな」
「盛るねぇ。結局負けそうになったくせに」
話の内容とメンバーのせいか、普段のテンションとなる高野。だが、うっすらと基地が視界に入った事でジェノサイドへとならざるを得なくなる。
「とにかく、皆帰れ。ここはお前らがいる場所じゃない」
「でも、レン君が危ない目にあってるじゃないか」
「これは俺がしくじった結果です。先輩達には何ら関係はない」
「だったらさ、」
松本がひょっこりと顔を出してきた。
「何でこれまでレン君はわざとらしく僕達に深部の存在を教えたり、横浜へ連れて行ったりしたんだい?今考えると深部へのアピールが露骨なようにも見えたんだけど?」
「それは……」
ただのノリ、話の流れとか色々言い訳が思い浮かぶ。実際本当っちゃ本当なので言い訳として片付けられたくはないが。
「それは、ノリ……」
「助けが欲しかった。そんな思いも少しはあったからじゃないのか?」
高野は、予想だにしなかった言葉を受けて固まった。
少なくとも間違ってはいないからだ。
深部の頂点とは言っても、それは孤独との戦い以外の何物でもなかった。
誰も助けてくれる人はいない。仲間になることを求めても、皆結局欲しいのは深部のトップという肩書きだけだった。
勿論組織内での仲間同士では助け合うことはあるしそれは最早常識だ。
だがジェノサイドに協力しようとする外部機関が存在しなかった。
同じSランクのゼロットは外部と協力し、出回っていない新戦力を手にしていた。
同じくアルマゲドンも、目的を同一としていたゼロットと協力関係にあった。
ジェノサイドだけが、自分たちの力だけで道を切り開いてきたのだ。
自分のやり方が違っていたのかもしれない。そもそも同じ目的を持つ組織自体を知らなかったかもしれない。
それも、深部連合の時までは。
だがそれも今となってはほとんど役に立っていない。これを機にジェノサイドに入った人以外での音沙汰はあれから何も無いからだ。
連合を設立し、議会を相手に戦った。
そんな巨大すぎる功績を打ち立てたものの、現状に満足できない我がままなジェノサイドは舌打ちするしかなかった。
「好きにしろよ。ストレスを発散できるいい場だしな」
本音を言えないジェノサイドは強がるしかなかった。
そう言って、ジェノサイドは基地とは真逆の林の奥へと進もうとする。
「待てよレン。お前どこ行こうとしてんだよ」
常磐が手にする銃器を動かして金属音を響かせる。しかしこんな事がよくあるジェノサイドにはなんの意味もなかった。
「まさか自分だけ逃げようってか?」
素人の割には深部事情を心得ていることに少し感心し同時に疑いへと変わるも、本当に"ただ知っているだけ"なのでそれ以上の詮索はしない。
「似たようなものっす。もうこの基地は使えない。防戦一方としては狭いこの敷地ではどんどん不利になっていく。だから仲間引き連れて逃げるんすよ。一定の組織間の接触がなければ戦闘はなくなったものとみなされる。そんな決まりがありますしね。だからその為の準備を」
仮に逃げ続けていても、議会からも追われる。その時になってももし逃げ続けることが出来たら少しは状況も変わるかもしれない。
ジェノサイドにはミナミとバルバロッサを見つけることと、リグレーを設置するという仕事がまだあるのだ。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.231 )
- 日時: 2019/01/26 17:06
- 名前: ガオケレナ (ID: UMqw536o)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
目の前の少女めがけてキノガッサが駆けた。
始まりはそんな単純なものだ。一方の意思などどうでもいい。
片方の「戦う」という意思表示がされれば戦いは始まる。
「'マッハパンチ'」
言い終わる頃に目の前の少女、レミはポケモンを出す。
「この子には効かないよ。お疲れー」
余裕なのが明らかなレミが出したのはオーロット。
眠りも格闘技も効かない、キノガッサにとってみれば最悪の敵だ。
'マッハパンチ'は透かされ、不発に終わる。
「じわじわと死んでいきな……'おにび'っ!」
オーロットの周囲に怪しいという感情でも思い浮かびそうな小さな火の玉が数個出現すると、一直線にキノガッサに迫る。
現れた三つの火の玉のうち二つは避けることができた。だが最後の一つ。
二つ目の火の玉を避けた位置にそれは進んでいったので避ける程のスペースとスピードが無かった。
ドン!!と鈍い音が響くと、直撃により吹っ飛んだキノガッサが大きな木の根元まで転がる。
「あっ……キノガッサ、大丈夫!?どうしよう……」
一つ間違えたのはミナミが油断していたことだった。
'おにび'の命中率からして、"避けることのできるもの"という認識に過ぎなかった。これまでもそのように戦ってきた。
しかし、経験したことのないSランクの実力者の前ではそれまでの未熟な技は通用しない。
今ここでミナミは、何故自分がAランク止まりなのかを悟った。
「アナタには必ずとりあえずデカい門番がいた」
レミがぼそっと言ったのと同じタイミングでオーロットの姿が消える。
レミは犠牲を払ってまでキノガッサ相手に'ウッドハンマー'など撃とうとはしない。
この状況で'ゴーストダイブ'など、「交換してください」と言っているようなものだ。彼女もそれを思ってあえて少なくとも格闘タイプ相手にはダメージが入るであろうこの技を選択した。
しかしいつまで経ってもミナミはキノガッサを交代しない。
(何故!?そろそろオーロットは虚空から姿を現す時……なのに何故あの子は交代しようともしないの!?ただ突っ立ってるだけの戦法なんて有り!?)
心の中ではこんな事を思いつつも、レミは話を続ける。
「赤い龍では何でもやってくれるレイジとかいう男がいて、今度はジェノサイドという立派な門番がいる……。楽よね、箱入り娘なんて。それで?今度はその門番を守る?守る事が仕事な人を守るだなんてよくもまぁそんな軽々しく言えたもんよね」
オーロットがキノガッサの背後に現れる。
闇討ちのような、斬撃にも似た鋭い攻撃がキノガッサの背中を打った。
どうにかキノガッサはその場に踏み止まり、耐えたようにも見える。
「確かに、すごく簡単に言ったんだと思う。軽々しく言ったと思う」
ミナミのその言葉に呼応するかの如く、キノガッサは火傷に苦しみつつもオーロットを睨むと走り出した。
「言った当初はすごく軽い気持ちで、どうにかなると思った。でも今こうして"本物"を見るとその言葉の意味がどれだけ重いかが分かったの。でもね」
遅いオーロットが躱す事のできるものではなかった。
ついにキノガッサはオーロットの頭上へと跳ぶ。
「今までアイツらがそんな本物を前にしてもウチらを守ってくれた事も同時に分かったしどれだけ難しいことかが分かったから想いは変わらない……むしろやってやるんだっていう強い想いに変わったのよ!!」
周囲に小さな石が五、六個ある事に気づいた時はもう遅かった。
キノガッサは、オーロットに向かってその石を投げつける。一個一個では大したことはなくとも、すべてが合わさればその身を封じるのにはうまく作用できる。
(この期に及んで'がんせきふうじ'?一体何故……)
レミは益々不思議に思うも、技を放った後に着地したキノガッサがそのまま倒れたのでそれがせめてもの悪あがきだという事に気づく。
「これで一体目。しかし可哀想ね。今のキノガッサに一番ダメージを与えることの出来る技がそれだったとはね。でもあんまし意味無いみたい」
「じゃあこの子はどう?ゴロンダ!」
その名前に対し体の反射神経が反応した。
すぐ様「今度はこっちの相性が悪い」と思わされる。
真っ赤なモンスターボールからは想像出来ない程の巨体を持った"獣"が出てくる。
「また格闘タイプ……本当に好きなのね」
やや呆れてこのポケモンに対しどう出るか考える。
交代することも考えたが、このままオーロットでじわじわと時間稼ぎするのもいい。
このままで行くことにした。
「'かみくだく'」
ゴロンダがその鋭い歯を見せ飛び掛ってきたその瞬間にオーロットが、レミも動く。
「'やどりぎのタネ'」
今までキノガッサ相手に使えなかったからか、まるで封印が解かれたかのように、地面から無数の蔓が生え、それらがゴロンダを縛り付けようと伸びてゆく。
だが一歩遅い。ゴロンダがオーロットに噛み付いたときにはその蔓がゴロンダに巻き付くことはなかった。
オーロットは苦しそうに、腕を思い切り振り上げてゴロンダを放り投げる。
「そうか、さっきの……」
何故オーロットの動きが一歩遅れたか、その意味をレミは理解した。
「死に際のキノガッサの'がんせきふうじ'の追加効果ね?アナタはこんな展開になると見込んであの技を放ったのかしら」
「さぁね!都合のいい様に考えているのが一番よ」
強気を取り戻したミナミを見て、レミはうっすらと笑みを浮かべた。
これだ、こんな対等でいつギリギリになってもおかしくない戦い。
それこそが、レミの求めていたバトルだった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.232 )
- 日時: 2019/01/26 17:10
- 名前: ガオケレナ (ID: UMqw536o)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
人気が全くない、基地が燃える炎の輝きすらもあまり見られることの出来ない奥底で、ジェノサイドは特定のリグレーを呼び出す。
もしものための緊急脱出用に教育を施させた特別なリグレーだ。
「頼んだぞ。もしもの時にはお前のお陰で救われる命だってあるんだからな」
頭をポン、と叩くとジェノサイドは暗闇にリグレーを置いて次の箇所へと進む。
今自分の友達先輩が何をしているのかがすごく気になる。
たとえ部外者に見えても、戦場に立っている時点で、相手が知らない存在とかち合ってしまったら敵と判断されてしまう可能性もある。
今度こそジェノサイドは人の命の危機を感じ取った。
今度こそ、自分のせいで失われる命があるのかもしれない、と。
ーーー
オーロットは二発目の'かみくだく'で倒れた。
こちらは無傷の状態で、一先ずレミの一体目のポケモンを倒すことができた。
「まー、端からAランクとSランクなんて差がありすぎるから一方的な戦いになるかと思ったけど、ねぇ。これくらいは当然だよね?」
休む暇も与えることなく、次のポケモンを呼び出す。
「それじゃーお願いね。ギャラドス」
ルアーボールからはこの世では珍しいであろう真っ赤なギャラドスが地に尾をつけて、まるで待ち構える大蛇のような姿でゴロンダを、ミナミを睨みつける。
「……っ!」
ほんの少し圧倒されそうになったミナミだがそうはしていられない。
ゴロンダに'かみくだく'を命じて、走りゆくゴロンダを見つめていた。
「遅いねぇ」
迫るゴロンダをまるで蝿でも叩くような感覚で、ギャラドスは自身の尾を振り払って叩き飛ばす。
一直線にゴロンダは巨木の幹に直撃した。
「ひっ!?」
反動で起きた風圧を受けてミナミは変な声を出した。
よく見ると水の雫が滴り落ちているのが見える。
「'アクアテール'よ。本当は'たきのぼり'でもよかったけど、あの追加効果には期待できないし」
何とか立ち上がるゴロンダを見て、ミナミは内心ホッとした。
不遇だ何だと言われ続けているポケモンだが、数値だけ見れば大したものだ。
再びギャラドスの前に立つ。
すると、命令も無しにまた同じように走り出してしまった。
「だめ!それじゃあまたさっきの技を……」
主の命令が聴こえなかったのか、そもそも聞かなかったのかは分からない。
だが、ゴロンダに芽生えた闘争心がその身体をフルに動かしているのはミナミなりに感じ取れた。
しかし、同じような攻撃パターンは相手からしたら隙でしかない。
同じ方法で、レミはその方向に腕を伸ばすと、荒波のように大きく迫力のある尾がゴロンダを捉え、そして再び叩き飛ばした。
……ように見えた。
ゴロンダは、吹き飛ぶこと無く大きな尻尾にしがみつく形でダメージを受け流していたのだ。
「あれは……」
「……どうして!?」
双方から見てもミラクルな光景だっただろう。誰の命令もなしに、ただ表れた闘争本能だけが、自己のポテンシャルを上回る程の動きを魅せてくれている。
どんなに振り回してもゴロンダは落ちない。
いい加減イラついたレミは、
「地面か木に叩きつけろ!」
それに応じ、ギャラドスは真下に向かって自身の尾を思い切り大地に叩きつける。
ゴロンダが、インパクトの直前で離れる形で。
痛みにもがくギャラドスを見てチャンスだと感じたミナミは今度こそ聴こえるように命令する。
「今よ!'ストーンエッジ'!」
無数の鋭い岩の刃が、ギャラドス目掛けて突き進んでゆく。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.233 )
- 日時: 2019/01/26 17:18
- 名前: ガオケレナ (ID: UMqw536o)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ドン!ドドドン!!と、鋭利な刃物が勢いよく射出されて突き刺さっているかのような嫌な音がしばらく耳に続く。
ギャラドスはまず倒れそうになりつつも、重い胴体を踏ん張って支えることで態勢を立て直して再びミナミとゴロンダを睨んだ。
「'いかく'込みだもの。一発でやられるようじゃあアタシが辛くなるわぁ」
「アンタの事情なんてどうでもいい」
ミナミは、一つの可能性を感じながら再び'ストーンエッジ'を命令する。
しかし。
「'じしん'」
レミのギャラドスが地を揺らしてゴロンダを攻撃すると共に、'ストーンエッジ'も外してみせた。
二度の技を受けてとうとうゴロンダは地に伏せてしまう。重いものが倒れるような轟音が響いた。
(やっぱり……)
だがミナミからは絶望が感じ取れない。彼女が感じた可能性が見事に的中していたからだ。
(さっきの'じしん'……あれはダメージを与えるためじゃない。ウチの技を外すために、間接的に避けることであの技を使ったんだ!)
思えば'かみくだく'の時も'アクアテール'で吹っ飛ばしていたし、技を当てられた時と言うのは、自分でも予想できなかった幸運によりできたものだ。これらの出来事からギャラドスの突破口が開かれてゆく。
(あのギャラドスは……ウチの技を避ける程のスピードを持っていない!!)
それに呼応するかのようにゴロンダが最後の力を振り絞って立ち上がった。
もう体力がないのは見るだけでなく感じ取るものだけで理解した。
「お願い……最後だけ力を貸して!」
「はぁ、結構しぶといねぇ。でもいいわ。次で倒してあげる」
ゴロンダが走り出した時、レミの目が敵を叩き潰す目へと変わった。そして、迫り来る小熊を、冷酷かつ無慈悲に振り払うかのようにギャラドスに冷たく指示をする。
「'アクアテール'で吹き飛ばす」
呼応し、ギャラドスは尾に水をまとわりつかせてゴロンダに叩きつけようと振るう。
「ジャンプ!」
しかし予想してたとばかりにミナミが直前に命令。
ゴロンダに届き、その通りに動くまでの時間の余裕があった。
'アクアテール'をジャンプで越え、途中の木を足場にすることでさらに高くへと飛んだゴロンダはギャラドスの頭上遥か上に到達する。
「まさか……あの子……っ!?」
「よし!そのまま真下に向かって……」
「させない!'こおりのキバ'で迎え撃って!!」
レミにとっても予想外の動きに出られてしまった。'アクアテール'をあらかじめ予想して真上から攻撃するつもりだったようだ。
しかし絶え絶えのゴロンダに技の一つでも与えられれば倒すことはできる。そして恐らくだが空中戦になれば自由に動けるギャラドスが有利だから負ける要素もないように思っていたところだ。
上空からのゴロンダの'かみくだく'とギャラドスの'こおりのキバ'。
顎の対決になるかと思った時だ。
「'すてゼリフ'!!」
再び予想外の言葉が聴こえた。
「……、えっ?」
ゴロンダが空中で何やら叫ぶとその地点からボールに吸い込まれていく。
レミは、彼女が何を考えて何をしたいのかが全く分からなかった。頭が真っ白になり、視線が固まる。
そしてガラ空きとなった胴体、即ち地上部分に、ミナミの最後のポケモンエルレイドが参上する。
思考停止となったレミが追いつける訳がなく、
エルレイドの肘から飛ばされた'サイコカッター'が横一閃に放たれた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.234 )
- 日時: 2019/01/26 17:22
- 名前: ガオケレナ (ID: UMqw536o)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
無防備な身体に刃が当てられる。
接触した反動でギャラドスは吹っ飛び、その長い身体をなびかせるようにスローモーションでレミの頭上を越えていく。
重い音が大地を揺らす。
レミはその方向へと目をやると微笑み、無言でギャラドスを戻した。
そして、浅く息を吐くとこれまでとは違い、ボールを持つ手に力を込める。
本気になった瞬間だった。
「ふふっ。ゾクゾクするわぁ。こんなにもギリギリな戦いをするの久しぶり。泣いても笑ってもこれで最後よ?バシャーモ」
虚空に舞ったボールが開く。
足を大地につけ、凛々しい姿をしたバシャーモが登場する。
「アナタはついて来れる?アタシたちのこの、スピードに」
直後。
ドッ!と音がしたと思うとバシャーモがすぐ眼前に迫ってきていた。
バシャーモが放つ蹴りをエルレイドは肘でガードする。
先ほどの音の正体が風を切る音だということを理解するのに時間は要さなかった。
(やっぱり最後の最後にバシャーモか……でも大丈夫。相性ならこっちが上。ここからチャンスを見つけてみせる!!)
「あらぁ。忘れてた。これやんないとダメじゃない」
決心したミナミに邪魔を入れる形でレミが口を出し、首にかけていたロケットに触れる。
すると、バシャーモとロケットから眩い光が生まれ、それらを徐々に飲み込んでいった。
「メガシンカ……」
「二度見るアナタならこの子の特性は分かるわよねぇ?……と言っても初めて見た時からバレていたっけ」
光から開放されたバシャーモは、かつて同じ場所で見たことのあるスマートなバシャーモとなっていた。
その姿を見せただけで恐れ戦いたミナミだったが。
心を決めた目は揺るがない。
真っ直ぐ力強くバシャーモを見つめ、ゆっくりと自分の手を身につけたアクセサリーに手を伸ばす。
キーストーンが埋め込まれてあるかんざしへと。
「もう逃げないし諦めない……」
今度はエルレイドとかんざしから怪しげな光が生まれ、それらを包み込んでいく。
「この光……」
先程自分が見せたものを逆に見せられて若干気持ちの悪い感覚に陥るが、ここまで来てようやく彼女が自分に戦いを挑んだ理由を理解した。
「そうか……。アナタ、手に入れたのね。キーストーンを。それだけじゃない。エルレイドのメガストーンまで。でなければ此処で、アタシの前でこんな事はしない。アナタ……アタシに勝つためだけにメガシンカを手に入れたのね!?」
ミナミはそれに返事しようとはしなかった。
お互いそれ以降は言葉を交わさずとも察することが出来たからだ。
エルレイドの真の力が解き放たれる。
腕そのものが長く鋭い剣へと変化し、風でなびくマントに似た装飾がその姿をより際立たせている。
遂にここまで来た。
彼女に負けまいと、協力できる仲間と共にキーストーンを手に入れ、休む間もなくメガストーンをくまなく探し求めた。
そこまで彼女を動かした感情は一つ。
「負けたくない……」
ここまで共に戦ってきた相棒の背中がより強く、頼もしく見えた。
「ここまで生きてきて……部外者なんかにすべて奪われるわけにはいかない。こんな所で絶対に負けたくない。助ける事も大事だけど、その思いよりどうしてもっ!」
言いかけたところで、エルレイドが腕を差し出してきた。まるで彼女を止めるかのように。
少し冷静になり、戦っているのは自分だけでないことに改めて気づく。
「そっか……そうだよね。アンタも戦ってるんだもんね。……よし、頑張ろう。ここで勝って最後にウチらで笑って泣こう。ね?」
その言葉に、エルレイドが少し振り向き、口元を緩めてみせた。
絶対に負けられない戦いが、今度こそ始まった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.235 )
- 日時: 2019/01/26 17:34
- 名前: ガオケレナ (ID: UMqw536o)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「来たか……」
一際大きい爆音が鳴った頃、レミのギャラドスに'ストーンエッジ'が刺さった時と丁度同時刻の事だ。
薄暗さと整備されていない林ゆえに何人も寄り付かせない林の最奥に。
二人の男がその地に足をつけた。
たとえどんなに勇敢な者でも絶対に勝てないもの。
それは自然の力だ。
どんなに文明が発達しようとも、何千年という時間が人間を強くさせても自然の前では小さな生物に過ぎない。
たとえ小さな林だとしても、それは当てはまる。
単に暗闇だからだ。
人は光がなければ不安を覚える。どんなに歩き慣れている道でも、夜ともなれば全く違う世界のように見えてしまう時もある。
特に歩き慣れてすらもいない敵地など以ての外だ。ヒトの無意識に及ぶ恐怖に打ち勝つ強すぎる精神力、強い目的がなければ佇むことすら出来ないだろう。
そんなヒトのタブーを打ち破った老人と、それを眺める二人の男。
その老人、バルバロッサは仲間と共にこの地から離れるため、二人の男は目の前の男を、自分たちの長を助ける為に禁足地に侵入していたのだ。
「テルと別れてもう随分と時間が経ってしまった。ここまでよく来れたな。ご苦労さん」
バルバロッサが二人の仲間に優しく手を差し伸ばす。
その内の一人がそれに反応し、こちらも手を伸ばした。
「はい。ありがとうございます。我が父上……」
ふと伸ばした手が止まった。意識的でなく、本能的に。
何かがおかしかった。
バルバロッサにそれが分からない。目の前にいるのは見知った仲間だし、時間的にこの仲間が来る時でもあった。
だが。
「いや、そんな大層なモンじゃないな。なァ?バルバロッサ」
聞き慣れない声がその違和感の正体であった。
男が伸ばした手から手のひらサイズの玉のような丸いものが転がされ、地面へと落ちる。
それが爆弾のようなモノと気づくのには時間は要さなかった。
が、地に当たると同時に爆発を伴う。
後ろに下がり、顔に手を当てることで致命傷は避けた。しかし、地を抉り、大量の砂利を飛ばすことによってところどころ血が滲んでくる。
「ぐっ……お前さん……、まさか……」
「安心しろ。コレ自体に殺傷力はねぇ。ただ石っコロを破片に変えるだけの手頃な炸裂弾だ」
「従者はどうした……。私を導く仲間はどこへやった!!」
見慣れたはずの格好をした二人の仲間へとバルバロッサは叫ぶ。自分を助けるはずの人がいきなり榴弾を転がすなど普通でない。
何度も同じようなことを叫ぶも、反応はない。
そもそも、目の前の二人が本当に仲間なのかも怪しいからだ。
(待て……この声、どこかで聴いたことが……?だが私が本来知っている従者の声ではない!!)
見慣れたのはあくまで格好だけ。背景の薄暗さが判断力を鈍らせたか。
「おい老いぼれ。一つ忠告だ。お前を助けるっつー重大な任務を背負わせた人間を敵地に放つのはいい。だが作戦をペラペラと喋らせるな。俺みたいな悪い子がついて行っちゃうだろ?」
やられた。
今の言葉から察するに、ここに来る途中に倒されたのだろう。服など剥ぎ取ればどうとでもなる。
尤も今彼らが身につけているのはボロボロの見慣れたフードだが。
「貴様……」
バルバロッサは男を睨むも、フードで隠れて顔が確認できない。
もう片方の男は一切喋らないが、一人は何処かで聴いたことがあるような声だ。その何処かが思い出せない。
「なんだ?まるで俺が誰だか思い出せない、みたいな言いぶりだなァ。じゃあヒントにして俺の聞きたい事を一つ。テメェ、杉山渡とはどんな関係だ?」
袖から次々と同じ型の榴弾を取り出し、それを投げていく。まるで惑うバルバロッサを嘲笑うかのように。
爆発音が二、三度続いたあとだ。息を切らしたバルバロッサはそこで思い出したようだ。
かつて包囲網を自ら主導し、自分の所属する組織の長を殺せなどと言って協力者を募らせた。その中の一人がフェアリーテイル、その長のルーク。
「今更何のようだ。壊滅寸前の野郎が、私に……」
「返しに来たのさ。借りをな」
今度は直接その手で終わらせるとでも言いたげに、鋭利な刃物を掌から飛び出させる。
暗殺者の兵器の如く。
老人の手を払い除けて彼の胸に、一見厚そうな胸にその刃物を突き刺した。
金の刺繍が施された民族衣装から血が滲み出る。
身体中に、全身に痛みが伝わる。
バルバロッサは驚いたかのような表情を見せると、ルークに思い切り蹴飛ばされ、その大きな身体が倒れてゆく。
視界には黒煙で真っ黒で何も見えなくなった空が見えるのみだった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.236 )
- 日時: 2019/01/26 17:42
- 名前: ガオケレナ (ID: UMqw536o)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
今思えば、ルークはバルバロッサという男に利用されっぱなしの存在だった。
まずバルバロッサは深部設立当初からその手腕と財産を使って自らが長となった組織、アルマゲドンを開いた。
だが何を思ったか、ある日あらゆる道に迷っていた一人の少年と出会う。
彼こそが高野洋平だった。
最初から利用する気だったのか、それともはじめは協力する気だったのかは今となっては分からない。
だが分かることはバルバロッサが身分を偽ってジェノサイドというほぼ傀儡に近い組織に身を置いたことだ。
そのバルバロッサが、"失敗させること前提"で、ある日、他の深部組織を煽ってジェノサイド包囲網なんてものを敷いてみる。それに接触したのがフェアリーテイル、ルークだ。
当然ルークは敗れ、解散させるかどうかを迫られていた時、まさかのバルバロッサがジェノサイドに敗北した。
彼の目論見が崩れ去った瞬間だった。
戦後処理が有耶無耶になったルークは今後どうするか悩んでいた時、今度は深部の環境を破壊する刺客杉山渡が現れ、ルークの仲間のほとんどが葬られてしまった。
最終的に杉山をルークたち深部連合が撃破するものの、後に現れるゼロットの後ろに杉山が、そのゼロットと組んでいたのがアルマゲドン、即ちバルバロッサだったのでここまでの出来事すべてに間接的ではあるもののこの男が関わっていたことになる。
掌ですべてを転がされていたという事実。
それにすべて気づいた直後、ルークは何を思ったか。
破片を飛ばす榴弾を当てられ、全身が血塗れ、息が絶え絶えな煤だらけのバルバロッサを見て何を思ったか。
「あっさりと終わるもんなんだな」
「お前が連絡したせいだろ」
ルークはそれまで黙っていたもう一人の男の方向を向く。その男はフードを脱いで顔をあらわにした。
「雨宮……」
「ド素人じゃない限り近いうちに何が起こるかなんて分かりきってる。俺はただお前の住処までドライブしに来ただけさ」
深部連合の馴れ合いからジェノサイドに加わった男だ。
ドサクサに紛れて入隊したのでかつてどこの組織に加わっていたのか分からない。が、ルーク辺りと接点がある以上それに近しい者なのだろう。そもそも深部連合に加わった時点で"救われなかった"人であるのは間違いない。
「いいのか?コイツにトドメ刺さなくてさ」
雨宮は薄汚れた民族衣装のような服装を指差してみる。ルークはわざわざ振り向かずに答えた。
「老体にここまで与えておけば徐々に弱っていくさ。ここで殺しても"誰が殺ったか"で新たな争いに巻き込まれる可能性だってあるんだからな。それに俺はコイツが痛みに苦しむ所を見れただけで十分さ」
ルークはフードを脱ぎ捨てながら闇しかない道を進む。そこがどこに繋がっているのかも分からないまま。
「とりあえず俺達のこれからすることはただ一つだ。本当に倒すべき敵ってヤツを今からブッ潰しに行く」
雨宮もつられて笑ってみせた。光があるならばその歯は光っていただろう。
ーーー
十体中六体のリグレーを設置した時だった。
ジェノサイドの耳に、小規模な爆発音が微かに聴こえた。
(対戦の余波か……?どちらにせよ急がないとな。今戦っている仲間全員を何としても救うんだ)
誰も死なせたくなかった。誰も、誰かが死ぬことで悲しむ姿を見せたくもないし見たくもなかった。
その思いが彼の行動力へと結びついていく。
が、
どうしても思い出してしまう。
(やめろ……"あの時の事"はもう……思い出したくない!)
かつて深部の頂点という何物にも勝る名誉を手に入れた子供がいた。
その子供は嘗てない王座に気分が舞い上がり、たった一つの過ちを犯してしまった。
それが最悪の失敗であり、そして出発点だった。
「大体さ……人が死んで喜ぶ奴がいるかって話だよな。それにもっと早く気づくべきだった……」
過去をどんなに悔やんでもその過去が変わるわけなどなく、今も変わらない。
その子供は、今歩いている道を歩くしかなかった。
仲間を守るために動くしかないのだ。
辛く、苦しい過去に目を背けながら同時に、当時の自分を反面教師として今の自分を形作るという最大の皮肉を交えながら。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.237 )
- 日時: 2019/01/26 17:48
- 名前: ガオケレナ (ID: UMqw536o)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
合図はバシャーモが何の前触れもなく走り始めた事だった。
特性の'かそく'がまだ適応されていないにも関わらず徐々に速くなっていく錯覚に見る者は駆られただろう。
「'フレアドライブ'」
そのままレミの命令が乗っかり、炎に身を包んだバシャーモが突撃してくる。
「よけて!!」
間に合うかどうかは分からなかった。咄嗟の判断だったからだ。
エルレイドは倒れるかのように身を屈めてやり過ごす。
掠るか掠らないかギリギリのタイミングだ。エルレイド本人も痛みはないようなので無事に避けることは出来たことだろう。
しかし、問題はここからだった。
バシャーモはエルレイドを越え、ある地点で大地を滑り込むようにしてスピードを落とす。
体の向きを戻し、エルレイド目掛けて再び、
「'フレアドライブ'」
炎の突進をかますべく大地を蹴った。最早走りを通り越してほんの少し飛んでいるかのようにも見えた。
(エルレイドにあの攻撃を直接対処するための有効打がない……っ!)
ミナミは仕方なくまたも避けるよう指示を出した。
異変に気付いたのは指示を出した直後だ。
タイミングが突如にして掴めなくなった。
(なに……?これ……)
予想していた地点を遥か越えた場所にもうバシャーモが迫ってきている。
エルレイドも若干困惑したかのような表情をしたあと仕方なく横へと逸れる。
しかし今度こそエルレイドの右腕に僅かだがバシャーモの打撃が加えられ、予想もしないエネルギーを受けたエルレイドはよろけた。
(速くなってる……?これが……)
「'かそく'だよ。時が経てば経つほど、バトルが長引けば長引くほどアナタの戦略の幅は狭まる……。アタシから言わせると、もう勝負あったかもねぇ」
余裕のありそうな笑みに、ミナミは歯噛みした。
バトルが続けば続く程バシャーモは速くなってしまう。
そうなれば避けることはおろか対処そのものができなくなるだろう。一方的な展開へとシフトしてしまう。
そこでミナミは単純な行動に出た。
牽制のため、'サイコカッター'を飛ばすよう命じたのだ。
念が実体化し、さらにそれが刃物となって直接バシャーモへと当てられる。
格闘タイプの弱点にして高い威力を期待できるまさに必殺技。
それをレミは、バシャーモは。
軽々と躱してしまう。
それどころか、滑り込んだ地面に伝わる力で、さらに込み上げるものがバシャーモにあると理解した。
'かそく'である。
バシャーモはさらに速くなる。
大地を蹴った瞬間、ドン!!という列車が通過する時に感じる圧迫感のようなものを発しながらバシャーモは既に手前まで迫ってきていた。
「速い!?」
「初めに言ったよねぇ?追いつけるかって」
ポケモンは命令無しには動けない。
しかしポケモンも生き物ではあるので危機が迫ればトレーナーの意思に反して勝手に行動する事もあるといえばある。
だが今回においてはトレーナーであるミナミはおろかエルレイドですらも反応に遅れる。
それほど手のつけられない怪物を目の前にしてしまったのだ。
「'かみなりパンチ'」
バチッ!!と弾ける音を発しながらその拳をエルレイドにブン回す。
痺れを伴いながら殴られたエルレイドは、速度の乗っかったパンチにより少し吹っ飛ぶ。
ドチャッとした音を立てて地べたに尻餅をついた。
見た感じそれほどダメージは受けていないようだった。
「当然よ。これはほんのジャブ程度。でもー、そのジャブでそこまで困惑されたらぁ、これを受けた時どうなるのでしょうね?」
フフッ、と笑い声を零すとバシャーモはレミの下へとひとっ飛びで着地する。
そして、
「'ブレイブバード'」
ゾッとする恐怖感に、心より先に体が反応した。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.238 )
- 日時: 2019/01/26 17:56
- 名前: ガオケレナ (ID: UMqw536o)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
全身の震えが止まらない。
まともな思考回路も構築できない。
ミナミは恐怖感に支配されてしまった。
あの技を受けた瞬間が負ける時。
どうにも出来ない速さという武器を備えたポケモンが相手だからこそ、このバトルの無謀さを知った。
この状況になって初めて'かそく'の恐ろしさを思い知った。
バシャーモの白い羽が少し大きくなると、ついに足が大地から離れ、そのまま一直線へと突っ込んでくる。
もうダメだ、本能的に察したミナミは反射的に目を瞑り、そして叫んだ。
「'サイコカッター'ぁぁっ!!」
呼応するかのようにエルレイドの肘が巨大化し、以前のように飛ばすことなくその腕で、迎え撃つ姿勢をとった。
今ミナミが目を開けていれば、レミの驚きに満ちた表情を見ることができただろう。
ドン!という強い衝撃で激突した凄まじい音が響く。
ミナミはその音が聴こえると余計に強く目を瞑り、顔を腕でガードする。
しかし、何も起こらない。
目を瞑ったままその違和感に気づく。
ポケモンの倒れる音がしない。
地面に伏せる鈍い音がしない。
目を背けて三秒くらい経った頃だろうか。
ミナミはとうとう勇気を振り絞って光を求めるためにその目を開けた。
そこには、
腕で展開した'サイコカッター'で、全身を使ってバシャーモを受け止めているエルレイドの姿があった。
「な、なにあれ!?」
「アナタが命令したんでしょうが……」
目の前の光景が信じられなかった。
エルレイドは、技を受けることなく迫り来る脅威に対して時折押し返されつつも受け止めてダメージそのものを0にしようとしていたその瞬間だったからだ。
「うそ、ウチのエルレイドに……そんなポテンシャルが……」
「アナタもしかしてメガシンカ使ったの初めて?そんなのにアタシはさっきまで負けるかもしれないなんて思いながら戦ってたわけ!?」
直接は言わなかったが、レミは恐らく「変化した力を使いこなせてから戦え」と言いたかったに違いない。
ミナミ本人もそう捉えた。
このまま跳ね返せば逆に相手にダメージを与えられるかもしれない。
そう思ったミナミはそのまま腕を振り上げるように言おうとした。
バシャーモの走る方向を無理矢理変えさせることでコントロールできなくさせてやろうと思った事だろう。
だが、それよりもそれよりも前にとうとうバシャーモがエルレイドを貫く。
弾き飛ばされたエルレイドは再びバランスを崩して転倒した。
「エルレイド!」
まさか負け……?と再び恐怖に駆られるが、その心配をよそにエルレイドが立ち上がる。
どうやら'サイコカッター'で防御したことにより、その威力を軽減させたようだ。
「……運、いいのね」
上空で旋したバシャーモはそのまま飛んだ状態でレミの所へと戻る。
エルレイドとその主との思いがけないコンビネーションで'ブレイブバード'を乗り切った事実が面白くなかった。
いつの間にか余裕が消えていた。
(まさかここに来て"真のチカラ"を魅せるとはね……アタシも最初は余裕だと思ってあの娘に対して追いつけるかなんて言ったけど……甘かった。あの娘の"偶然"とか"ミラクル"とかいう不可思議なチカラが発揮されてしまうなんて……!!)
奥歯を噛み締めたレミはここで初めて彼女が何故Aランクでいられたのかその根本的な原因を知ることとなる。
彼女を取り巻く"強運"がそのすべてだったからだ。
「いいわ……来なさい……」
ここに来て初めてレミは宣戦布告する。ミナミに対して。
「正直今まではただのか弱い女の子を叩いてるイメージでしかなかったけど、それは間違いだったわぁ……。強いのね。アナタも」
不穏な風が吹いた。
漂う緊張感がさらに空気を重苦しくする。
「いい?今からアタシは勝負に出るわ。この戦いを終わらすためにね。だからアナタも死ぬ気でかかってきなさい!!それが深部の!戦士のマナーよ!!」
レミは一方向に指を差した。
バシャーモはそれだけで主の意図を理解した。
羽がより一層白く、大きくなったかと思うと既に足を離す。
前回とは比べ物にならない速さを身に付けたバシャーモは今度こそ敵を捉える。
倒すためでなく、殺すために。
「さぁ、来なさい!!ミナミ!!」
追い詰められた状況下での整理の追いつかない人の思考はごく単純な事しか思い浮かべないものだ。
ミナミはまた'サイコカッター'を使わせ、少しでもダメージを軽減させるつもりだ。
レミはそう考えた。
しかし、'かそく'により最大限に引き上げられたその速さから繰り出される技の一つ一つは衝撃をも伴う。
要するに、
(受け止めた瞬間、それがエルレイドに勝った瞬間よ!)
かつてない迫力と熱と速さを備えたバシャーモが迫る。
ギリギリまで誘い込んで受け止めるつもりなのか。
何も指示しない。
そして、
遂に行動を起こすであろう射程圏内にバシャーモが入る。
レミはこの瞬間、エルレイドはあの行動に移ると考えた。
しかし。
エルレイドは文字通り何もしない。
だらりと腕を下げて迎え撃つ気が全く感じ取ることができない。
ミナミが命令していないせいもあるが、だとしてもポケモンの本能的に動かないのはおかしい。
(どうして……?このままじゃあアナタのエルレイドは……っ!?)
反応が理解出来ないレミをよそにそれでもバシャーモは突き進む。
もう間に合わない。そんなタイミングだった。
「今よ」
恐ろしく落ち着いた声が一瞬聴こえたと錯覚した気になった。
その直後、エルレイドが力無く真横へと倒れていった。
「ええっ!?ちょっと待っ……どういう……?」
まさか耐えきれずにたった今力尽きたのか。レミはそう思った。バシャーモにとっても驚きだったのか、エルレイドの立っていた地点を通過していくとそのまま徐々に失速していく。
今まで何をしたかったのか。今まで自分は何の為に、何を思ってきていたのかと後悔の念に駆られる。
しかし、彼女達の目はそこで光を失うことは無かった。
(エルレイドが……膝を立てている……?)
エルレイドが完全に倒れていない事に気がついた。
何故、何の為に。
それに気付き、考え、理解したそれらすべての時間は一秒にも満たない。
一瞬で頭の中を駆け巡ったからだ。
そこで気付く。
「バシャーモは今どこに……?」
見ると、遥か遠く。ミナミよりもずっと後ろの空中を漂っていた。
どうやらあまりの出来事によりバシャーモ自身も自分の力を制御できずにいるようだ。
「まさか!!まさかアナタ……これが狙いで……!?」
嫌な胸騒ぎがした。これも偶然の産物だと思いたいぐらいだ。
しかし、それは時間が許さない。
「エルレイド!!早く!今のアンタなら追いつけるはずよ!早くバシャーモのもとへ!!」
最後の力を振り絞り、エルレイドは思い切り大地を蹴った。
バシャーモが見せた隙は一瞬。それもコンマ何秒の世界なのであろうが、ミナミとエルレイドは最後まで見逃さなかった。
徐々に墜落していきそうなバシャーモ。その真後ろには獲物を追うハンターが。
ミナミは思い切り息を吸い込み、叫ぶ。
「'インファイト'!!」
二人の少女の耳には、ただ連続した打撃音が聴こえるのみだ。
耳を塞ぎたくなるような生々しい音の後に、それらの目が一つだけの立ち続ける影を捉えた。
そのシルエットでどちらが勝ち残り、どちらが地に伏せたかを明確に理解して。
最後の最後まで敵を知った気でいたこと。
今ある情報がすべてだと錯覚したこと。
それがこの戦いの敗因だった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.239 )
- 日時: 2019/01/26 18:02
- 名前: ガオケレナ (ID: UMqw536o)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「何が一番大事か……分かったようね」
レミは地に伏せた、メガシンカが解かれたバシャーモを遠く離れた位置からボールに戻そうとしたが、離れすぎたせいでボールが反応しなかった。
なのでわざわざその場まで歩いていく。
その間話が止まることは無かった。
「アナタはー、大切な人を守りたいとか、アタシに勝ちたいとか言ったけどぉ……それよりも大事なことがあるの。それに気づいたのよね?」
「……まぁね」
ミナミは最初、ずっと黙っていようと考えていたがそれだとどうしてもモヤモヤするのでそれはやめることにした。
「やっぱり一番大事なのはウチ自身だもの」
「やるじゃない」
敵ながらレミは彼女に少し感心した。
自分に勝った格下の人間がそれに気づいていなければ憤りが止むことはなかっただろう。
「アタシたち深部の人間は常に隙を見せながら戦っているの。もしかしたら予想外の攻撃を受けるかもしれない。もしかしたら戦いの最中に自分の組織のリーダーがやられているかもしれない。それらのリスクと対策を考えて戦いに臨むのに必要なのは何者よりも自分を守る力よ。……アナタはそれに気づいたようね」
「ウチのリーダーはいつもそうやって守っているから……」
ミナミの言うリーダーとはジェノサイドのことだ。
レミも一発で理解出来た。
あぁそう、とか細く呟いたレミは煙で何も見えない真っ黒な夜空を眺めるために顔を上げる。
「運も実力のうち……なんて言うけれど、それってそれほどの強運を引っ張り出す程の実力があるって事よね。……アタシの負けねぇ」
ーーー
最後のリグレーを設置したその瞬間、ジェノサイドは何か異様な雰囲気を感じ取った。
ピンとくるものが何かあったようだ。
「何かが……終わったのか……?」
当然何が終わり、本当に何か起きたのかは彼には分からない。ただそう思っただけの話だ。
「あっ、やべやべ。こうしちゃいられねぇ……。合図飛ばさねーと」
あたふたしながらジェノサイドはダークボールを取り出す。
それを投げると中からはサザンドラが出てくる。'りゅうせいぐん'を花火代わりに使おうという事のようだ。
「んじゃあ頼んだぞ。サザンドラ、'りゅうせいぐん'だ」
サザンドラが淀んだ夜空に向かって一個の星の塊を発射した。
その塊は空中で一旦静止し、下に向かって落ちて行くと爆発、飛散し塊が多数に分かれて落下する。
その'りゅうせいぐん'だけを見たらもしかしたら花火に見えたかもしれない。
少々変わった花火だが。
あとは定期的に飛ばせばいいだけだ。
それに事情を知った仲間が動けばすべての問題が一気に片付く。
「リーダーリーダー!」
どこかで聞いたことあるような元気が有り余っているいるような声がした。
後ろを振り返る。
「ハヤテ……?どうかしたのかお前。ってか、よくこんな深い所まで来たな」
「近くで例のサインが上がったので。敵を追っていたらこんな所まで来てしまいました」
「どこまで追ってるんだか……まぁ丁度いい。ここにリグレーいるから立ってみろ」
と言うのでハヤテは誘われるがままにリグレーの前に立つ。
「これ、確かテレパシー送ってその答え次第で仲間か敵か判断して仲間だったらどこかに移動させるってやつですよね?」
「あぁ。お前なら100%大丈夫だろうがちょっと試しにやってみろよ」
「ちょ、ちょっと待ってください!リーダーに伝えたいことっ……、ッ!?」
ハヤテの言葉が途中で止まり、詰まらせたのはテレパシーが始まったからだ。
ジェノサイドの方向を向き、何が何でも報告したかったハヤテはリグレーの言葉と力に徐々にそちらに集中していったのか、体もそちらへと方向を変えていく。どちらかと言うと無理矢理動かされているようにしか見えないのだが。
「………」
「……?」
リグレーは脳内に話しかけている。あらかじめジェノサイドがこの為だけにセットしたので中身も人語であるし、組織としてのジェノサイドの人間ならば何かしらの答えが言えるはずの質問だ。
何分か経った頃だろうか。
「ちょっ、リーダー何ですかこの質問!分かるわけがっ!?」
言っていた途中にハヤテは文字通り飛ばされた。
テレパシーとテレポートを併用していたのでハヤテはそのまま設定された場所へと消える。
つまり、リグレーも仲間だと判断したのだ。
「その通り……分からなくて当たり前だよ。その反応で判断するためなのだから」
困惑に満ちたハヤテの顔が脳裏に焼きついている。
リグレーが佇む林の奥深くでジェノサイドは一人、くっくと声を小さく上げながら笑っていた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.240 )
- 日時: 2019/01/26 18:08
- 名前: ガオケレナ (ID: UMqw536o)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ミナミはレミとまだ会話をしている最中の事だった。
夜空が突如爆音に包まれる。
花火大会が終わったあとのような真っ白な淀んでいる空に、一際明るい星でも花火でもない一種の"芸術"が輝いていたのだ。
「'りゅうせいぐん'、ね。どこかで戦っているのかしら」
一目見ればそれが'りゅうせいぐん'だと分かる。特に対戦に通じている者ならば尚更だ。
本来ならばそう思うだろう。敵地に進む彼女からすれば、このタイミングこの場所で見られる'りゅうせいぐん'というのはバトルの時でしかない。
しかし、そこにまた一つ影が。
「やっと……やっと見つけましたよリーダー!」
息切れしながら聞き慣れた声が基地のある方角からやってくる。
「レイジか……もうバトルなら終わっ、」
呑気に敵と目の前で会話という隙しか見せていない彼女だったが、それを無理矢理レイジが封じる。
走ってきたレイジはそのまま止まることなく走り続け、ミナミの細い腕を掴むとそのまま林の奥へと連れ去ろうとする。
「リーダー早く!時間がありません!」
「ちょっ、痛い!やめて離して!!いきなり何なのよもう……」
負けじと思い切り叩き、掴んでいたレイジの手をはらった。
「すいません、しかし……この状況ですので」
「だから何よ。とにかく落ち着いて」
チラッとレイジはミナミの後ろに佇むレミを睨む。
彼女はもうバトルに負けた身なのでミナミを攻撃する手段といえばナイフ程度しか無いがそれをレイジは知らない。
彼からすればいつ攻撃してくるのか分からないからだ。
「リーダーから退却命令が出ました」
反射的にミナミの瞳が大きくなった。どんな意味なのだろうか。妙な不安に駆られる。
「先ほどその合図が出されました。とにかく急ぎましょう。リーダーはまだ無事です」
レイジのその情報にレミは軽く舌打ちし、それに気づいた二人が振り向く。
「な、何よぉ……。アタシはジェノサイドの命を狙いに来たのよ?そんないらない情報貰えばウンザリもするわよ……もういいからほら!!早くアナタ達は行きなさい!アタシはもうアナタを追ったりしないわよ。負けた人間は諦めるのが常なのだから」
最後まで怪しみながらレイジはミナミの手を引いてその場を後にする。
二人の走る姿が暗闇によりすぐ消えた。
「はぁ……またふりだしかぁ。ジェノサイドもやられていない、アタシは負けた、しかも逃げようとしている……。間に合わないわね。これじゃあ」
ーーー
暗い林を駆けながらミナミは叫ぶ。
「ねぇ!!どうして退却命令とか言いながら基地とは別の方向に走ってるのよ!」
ミナミはレイジについて行く形をとっているが、その彼の行動がおかしい。
明らかに何も無い林の奥へと進んでいる。
「ここでいいのです。この先に、リーダーが用意したものがあります!」
言ってすぐのことだった。
少し景色が広くなったと思うそこには、何の変哲もないリグレーがポツーンと突っ立っているだけだ。
「え?なにこれ?」
「リーダーが用意したリグレーです。ほらどうぞ」
レイジにエスコートされてミナミはリグレーの前に立つ。
するとすぐの事だった。
「……えっ?なに?これ……」
ミナミはいきなり周りを何度も見回してみるが背景には何も変化がない。ただ老いた木々が茂っているだけだ。
「テレパシーですよ。耳ではなく脳内に響いていますよね?声が」
なんとか聞き取れたレイジの言葉ですべて理解した。
今ミナミの脳内にはリグレーが発したテレパシーが流れ込んでいる。人の言葉で彼女にも聞き取れるものだった。
(なに……?このテレパシーに答えればテレポートで移動できる……?そんな事まで用意していたの!?)
(では、あなたがジェノサイドの味方かどうかを判断する質問を致します……)
来る。変に緊張したせいで肩に力が入る。
これから始まる、と思ったその矢先、パキッと音がしたかと思うと、草むらから葉を掻き分けた男達の姿が現れ、彼らは一斉にレイジやミナミに掴みかかった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.241 )
- 日時: 2019/01/26 18:14
- 名前: ガオケレナ (ID: UMqw536o)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
テレパシーを受けているミナミは、はっとして振り返る。
その腕に強い力がかかっているからだ。
一人ではない。パッと見ただけで四人。
四人の男が両腕に力を込めてミナミを押さえ出した。
「やっと……やっと見つけたぞ……」
一人は血走った目をしている。ここに来るまでに相当走ったのだろうか。
「そのポケモンを見て、レンがテレポートを使って移動することは読めたんだ……悪いけどレンを追うためだ」
それぞれの男は"レン"という単語を使っている。
と、言うことは今日ここに紛れ込んだサークルの仲間と言うことになる。
「な、なにをするの……?離して!」
意識を佐野たちに向けてもテレパシーが途切れることは無い。
脳内に響くので聞き逃すということもなかった。
ついに質問が始まった。が、その内容と彼らの行動に困惑する。
「ミナミさんごめん!こうでもしなきゃ自分たちは一緒に移動ができないんだ!」
声のする方向へ振り向く。
すると、レイジに掴みかかっていた香流が自分に対して必死にメッセージを送る姿が映る。
さらによく見るとレイジに必死になってしがみついているのが香流、吉川、高畠、石井の四人である。そのほとんどを横浜で見たことのある人達であることに衝撃だ。
一瞬何でアイツらがこっち来ないんだとも思ったが。
そんなくだらない事を考えていると質問が終わった。
内容的には絶対に分からないものだった。
(えっ……?ちょっと待って、一体何を思って"リーダー"はこんな質問をウチらに……?)
もしかしたらどこかで真剣に聴かなかったから質問の意図が分からなくなったのかもしれない。なのでミナミは再度同じ質問をするよう強く声には出さず求めたが、
ひゅん。
と一瞬でミナミ(とそのオマケ)の景色が変化する。
今まで木々の生い茂る林の中にいたはずだ。
だが今。
彼女と高野の先輩四人は車の中にいた。
正確には装甲車の中。
ミナミは一度これに乗ったことがあるので気づいた時にはすぐに分かった。
「え?え?まさかテレポートしたの?うそ、今ので!?」
気持ちが落ち着かないミナミは限られたスペースを見回し、触ってみるが紛れもなく装甲車の中だ。
「どうにか成功したようだな」
「みたい、だね。でもこれ車の中?って事はこれからどこか行くのかな?」
常磐は相変わらず一言も発さずにその場にあぐらをかいて座っているが、船越と佐野が今の状況について語り合っている。松本は不自然に広い空間に疑問を隠せずにいるようだ。
「ねぇ、こういう車ってこんな広かったっけ?動画とかで見たことあるけどもっとゴチャゴチャしてるよね?」
彼の言葉にミナミも思い出すものがあった。
やけに広い。
いや、まだ乗れるのだろうか。
「ねぇねぇそこの子。僕達の他にまださっきの林の中にいたの覚えてる?」
少し時が経って船越が自分に対して話しかけていることに気づいた。
だが、面識が無いのでどう返せばいいのか分からない。
「えっと……ウチらの他に……?」
まとまらない脳内で必死になって頭を働かせてみるが状況のせいで普段の思考回路が築けない。
まるで脳が狭まっているようだ。
だが単純に考えれば分かる。レイジだ。
見ていて分かりにくかったがあの状況にならばレイジもテレパシーを受けていたはずだ。同じ時間、同じタイミングで。
「いたけど……という言うことは……?」
どすん、とレイジと彼にしがみついていた四人の大学生が今まさにミナミ達のいる装甲車の車内に突如何の前触れもなく現れる。
「うわあああ!!」
「やっぱりリーダーだ!よかった~同じ場所で」
「そういう問題じゃないでしょびっくりする!!あと……」
仲間が来たことによりやっと平静を取り戻す。状況の整理が追いついてきた。
「こいつら何?」
特にミナミの視線は自分を強い力で締め付けていた佐野と船越に向けられる。
やっと座れるとついさっき思っていた石井は何かを感じ取り、彼女の方へと歩む。
「待ってミナミちゃん。この人たちはうちらの先輩なの」
「……先輩?」
見知った石井ではあるがその意図が読めない。何故ここに彼女や先輩たちがいるのか。
そんな事を思っていた矢先だった。
突如運転席の近くに備え付けられていたカーナビが光る。
『どうやら皆揃ったようだな』
「これ……!?」
真っ先にジェノサイドの声だと分かった。
「レン君……?」
「ね、レンの声だね」
などと先輩たちが話を続けていても尚、ジェノサイドの命令は続く。
『いいか、これらの事はすべて俺が把握している。それぞれのリグレーの地点から誰が移動したのかもな。それらを見た結果、ジェノサイドの人間全員が今それぞれの装甲車に避難した事が確認できた。と、いう訳でだ。今からお前達にはそのままその車で移動してもらう』
「移動……?」
若干不安を感じたミナミはレイジを見る。が、彼は自分が見られていることに気づくことなく光る画面に集中している。
「移動ってどこにだよ」と無意味に画面に向かって話す人もいたが少しするとジェノサイドの声がまた続いた。
『今から行くところは……まぁ別荘みたいなものだ。別荘と言っても綺麗なモンじゃない。この組織設立してすぐに念の為にととりあえず作り上げて以来全く立ち寄っていないし寂れている。しかも此処と同じく工場と来ている』
何故また工場なのかよく分からない。
松本も、「レン君工場好きだね~」などとこれまた無意味に画面に向かって喋っている。
『工場のある場所は"南平"。聞き覚えのない地名だが京王線使っている奴なら分かるかもな。八王子からはそう遠くないし駅からも離れていない。パッと見駅の近くにあるいかにもいつも使っていそうな工場だ。そこでお前達は待機していろ。随時連絡する』
と言い終わると画面はブツッと切れ、さらにカーナビ自体も消えてしまった。
まるで物体が砂になったと思ったらその砂が風によって吹き散らされるように。
「イリュージョン……?って事……?」
いち早くミナミが気づくと、佐野も「凝ってるなぁレン君」なんて言っている。
彼のその言葉に彼女はハッと思い出したかのように彼らに言いたい言葉が蘇ってきた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.242 )
- 日時: 2019/01/26 18:20
- 名前: ガオケレナ (ID: UMqw536o)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ただっ広い車庫からぞろぞろと装甲車が出ていく。
すべての装甲車にはジェノサイドの構成員が乗り、すべての者がイリュージョンで作られたリーダーからのメッセージに応じる形で南平にある"別荘"へと向かう。
「それじゃあ俺らも行くとするか」
唯一装甲車には乗らず自分の車に乗り込んだのは雨宮だ。隣にはルークもいる。
「丁寧に俺の車にまでリーダーサマはカーナビを付けてくれた。つまり俺達もそこへ行けと言うことだろう。それにお前にとっても行くべきだと思うぜ?やりたい事あんだろ」
シートベルトを付けてエンジンをかける。
特にいじったりはしていないものの、スポーツカー特有の雄々しい排気音が響く。
だが一方でルークは車に乗らずにドアの前で佇むだけだ。
「どうした?乗れよ。俺の運転が怖いのか?」
「違うそうじゃねぇ」
ルークはチラッと後ろを振り向く。
その方向は燃え尽きた基地と未だアルマゲドンの者達が彷徨っている林が広がっている。
「ヤツらはあのままでいいのか」
「んー、さぁ知らね?リーダーサマは撹乱か何かをしたいんじゃないかなー。だからいきなり何の前触れもなく避難しろと来た。俺なんてそんな事知らなかったからあの後すぐに此処に戻ってみたわけだけど」
雨宮はルークが乗るまでギアを触らない。パーキングになったままであり、時折彼も何度もそれを見る。
「いいから乗れよ。今頃ヤツらも自分たちのリーダーがボッコボコにされてパニックになってる頃だろうさ。行った先に"何かが"あるんだろ」
ルークはその時見せた雨宮の鋭い目と、にやりとした口元で何か察するものがあった。
結局彼も無言で隣へと座る。
彼の車が爆進したのは最後の装甲車が発進してからそれほど時は過ぎてはいなかった。
ーーー
「なるほど、最初はなんとなーくなノリだったけど段々と可能性に懸けてみて遂にはここまで来た、って事ね」
ミナミは険しい顔をしながら彼らの話を聞いていた。
ジェノサイド本人からは絶対に聞けない、本音を垣間見えた気がしている。
「始めはレン君が香流君に言ったことだったんだ。レン君も自分のやり方に疑問を持っていてそれを相談したんだってさ」
佐野が香流たち本人に聞いた事をさぞ自分も当事者であった風に、しかしどこか頼りげのない雰囲気を醸し出しながら言う。
香流もそれに小さく頷く。
「知ってるよ。それはもう既にゼロットと戦った時に仲間やアンタたちから直接聞いた」
ミナミは平然と幕張で起こった出来事について、特に変わった感情を抱かないまま言ってみたがその瞬間香流や吉川の顔が緊張に満ちだした。
彼の先輩達、即ち佐野や船越らはゼロットについても、香流たちが自ら深部の戦いに乗り込んだ事を知らない。
「ゼロット……?それは何?そっちの業界用語?」
と、とぼける佐野の横で、
「深部最強と言われている"もう一つ"のSランクだ。そういや近々ゼロットとジェノサイドが戦うかもなんてどこかで聞いた気がしたがあれどうなったんだろうな」
鬱陶しそうに常磐が呟くが、そこには聞き取って欲しいという配慮がないため早口かつ滑舌が悪く聞き取りにくい。
だが、自分で言って気づく。
「ん?おい、ちょっと待てよ。ゼロットと戦った時だぁ?どういう事だよ説明しろよ」
ひどく威圧的で鋭い言葉をミナミに突き刺す。彼女も似た感覚を覚えた。
「待ってください先輩。こっちで説明します」
自分の事を「こっち」と表現するのは香流しかいない。
常磐は目だけを動かした。
無駄に広い車内は、ちょっとした暴露大会の会場へと変化していく。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.243 )
- 日時: 2019/01/26 18:25
- 名前: ガオケレナ (ID: UMqw536o)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「なるほど、僕達が関与する前から香流君たちは深部の戦いに加わっていたんだ」
重く息を吐いて佐野はフロントガラス越しに外を眺める。
が、真っ暗で何も見えない。
八王子から南平まで駅で換算すると4駅ある。
今は2駅目を過ぎたところなので到着するのはそんなに掛からないだろう。
「すいません……今まで黙っていて。ただ話したらどうなるかとか……」
「いや、それは別にいいんだ。ただ俺が聞きてぇのは一つ。ジェノサイドとゼロット。勝ったのはどっちだ?」
ニヤニヤしながら常磐が話に割り込んできた。
ここまで来るとどうなったかは察しがつくのにあえて言うあたり悪意満載である。
「勝ったのはウチのリーダーよ。ご丁寧にメガラティアスまで用意してね」
そんな状況を見抜いてか、ミナミが緊張と不安に塗られた顔をした彼らに変わって話をする。
常磐はつまんなそうにそっぽを向くだけだった。
「ラティアス……?レン君、ストーリー進むのはサークルの人達の中でも一番遅かったのに……もうそんなとこまで進んでたのか」
「リーダーのそれはハッタリみたいよ?なんでウチらに対して言うのか意味が分からなすぎるけど、ウチらが思っている以上に遅くは無いってことよ」
本当は、あえてストーリーを遅くゆっくりと進めるのが彼の願望なのだが流石にそこまで理解することはできなかったようだ。
すべての情報を共有した彼らの空間が沈黙に包まれる。
ただでさえ深部の連中と共にし、殴り込みに行っているようなものなので自然と口数は減ってしまう。
しかし、
「こんなことを……敵にして一般人のアンタたちに言うのもあれだけどさ」
ボソッとミナミが呟き始める。
「アンタたちはさっき、リーダーを止めるために……倒すために今ここにいるいるって言ったよね?」
「あぁ言った。ここまで来たら引き下がれない。後輩共はそう言ってるぜ」
「そう……」
常磐の苛つかせる言葉が刺さっているのか、彼女に元気はない。
しばらく無言状態が続くが、何かを決心したのか、顔を上げた。
「ウチは深部の人間として、一人の他人として言うね」
周りを見る。
今ミナミを見てくれているのは香流、高畠、石井、吉川、佐野、松本だ。
相変わらず常磐はそっぽを向き、船越は考え事をしているのか俯いている。
「ウチは今日、アンタたちが来たと知った時にこう思ったの。"リーダーを救えるかもしれない"って」
「ちょっとリーダーァァ!?何を仰ってるのですか!!」
案の定レイジが咆哮に似た声を上げながらミナミを捉える。
「あなた一体何をいっ……言ってるのですか!?今こうして我々が深部にいられるのも、ジェノサイドの一員となれたのも全部ジェノサイドさんのお陰でしょう!?それなのに……今の発言はまるで……」
「ウチだって分かってるよそんなこと!!」
レイジの言葉を無理矢理遮ってミナミは叫ぶ。
「ウチだって分かってる……あの時アンタが居てくれたから……アイツが言葉とは裏腹に助けてくれる人だったからこうして何不自由なく過ごしてるウチがいるってこと……でもね、レイジ。アンタ見ていて悲しくならない?」
ミナミの肩が震え出す。感情の起伏が激しく、まるで自分の意に反して涙が出てくる。そんな事を思わせる顔をしている。
「アイツは……強がっている度にウチらを守ってくれている。でも、守る毎にどんどん大事な物を失っているように見えて仕方がないの……」
「その失っているものが、本来ならば送れたはずの大学生としての日常とでも?」
レイジは一般人である彼等を見て何となく思ったことを口にする。ミナミはそれに頷いた。
「リーダーには、普通の大学生として日常を送ってほしい。それによってウチの日常もなくなってしまうけど、でもあんな人が深部にいる事が間違ってる!」
涙声によって震えたその声には誰も口出ししなかった。
ただあるのは静寂のみ。
そんな暗く静かな雰囲気を持った装甲車はとうとう止まる。
「……着いたようですね」
外を一瞬確認したレイジが呟いた瞬間、一般人であるはずの彼らが立ち上がる。
「行くぞ、あそこにレンがいんだろ?とっ捕まえてバトルして勝てばそれでいいんだろ」
その言葉は、彼らは走り去って車から出て行ってしまったため微かに聞こえた程度だった。
すぐに彼らの姿は闇に消える。
車に取り残されたミナミの肩をレイジがポン、と叩く。
「あなたならそう言うと……普段からそう思ってるだろうと何度思ったことか……」
「……?」
「行きましょう。本当の意味で、リーダーを守りに」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.244 )
- 日時: 2019/01/27 16:12
- 名前: ガオケレナ (ID: idqv/Y0h)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
車が停められていたのは工場の門を車道で挟んだ反対側だった。
ゾロゾロと停まっている装甲車から次々と出てくるジェノサイドの構成員の間を縫いながら常磐を先頭にして彼らは走る。
「先輩!」
「あぁ!?なんだ吉川。お前もうくたばってんのかよ!!」
「いいえ!何人かついてこれていない人がいます!」
常磐が振り返ると、後ろを走るのは佐野、船越、松本、香流、吉川だけだ。
即ち女子二人の高畠と石井が来ていない。
「ほっとけ!あいつらどうせロクなポケモン持ってねぇし足でまといだからこの間に俺達だけで行く。不安ならテメー残れ!」
吐き捨てる様に叫ぶとさらに走る速度を上げていく。
吉川はここでギブアップした。
体格の問題と日頃から吸っているタバコがここにきて走る事へのストップを強制させられてしまう。
「あっ……くそっ……」
両手を膝についてぜーはーぜーはー言って先に行く先輩たちを眺める事しかできない。
しかし、そこで彼は気づけた。
気分的に楽になりふと後ろを眺めた時だ。
先程までは呑気に駐車場辺りをふらついていたジェノサイドの構成員が一斉に、ポケモンを構えてこちらに向かって走り出しているのが確認できたのだ。
「え……。は?……なにあれ」
その危機的状況に頭が追いつかない。
その数およそ二百から三百。
大群となって押し寄せる人の波は徐々に恐怖の魔の手を吉川に、先を行く先輩たちに伸ばしている。
「な、んでここに来て奴らが俺を狙いに来るんだよ!!!」
咄嗟にボールを取り出し、どこを狙っているのか分からない空中にそれを放つ。
「頼む、来いドードリオ!」
頼まなくても出てくるドードリオは状況を確認するとすぐ、主の命令通りに吉川を自身の体に乗せ、広い敷地を駆け抜け、工場の建物を目標に疾走していった。
彼が走るよりも断然速い。初めからこうするべきだったと吉川は一人地面の振動に耐えながら後悔する。
状況は少し遡る。
常磐らサークルの人間が真っ先に車から飛び出し、走り去った直後。
これからどうするのか全く分からない構成員たちは互いにそれに関する議論を始めていたところだった。
その途中、異変は起きる。
『無事着いたようだな、お前ら。早速だが仕事だ』
どこからともなくジェノサイドの声が響く。
そこにいた人間が不思議に思い、周辺の草木や車の中を見てみても、どこにもジェノサイドの姿はない。
外が変に騒いでいる事に気づいたミナミとレイジはとりあえず車から出てみた。
そこで初めて異変に遭遇した。
「レイジ!!これ!」
ミナミが指を差す方向、車のメーターの付近の何もないスペース。
そこに、
「カーナビ……!?まさかリーダー……イリュージョンを!?」
基地から出る瞬間に出現したカーナビと全く同じ型のカーナビがそこに置いてあったのだ。
声はそこから発信されていた。
『いいか、今お前達は南平の別荘の真ん前……即ち入口付近ににいることだろう。こっちからでも確認できる。だがタイミングが悪いことにお前達の乗っていた車に一組、部外者がいたようだ。そいつは今別荘に向かって必死に走っている頃だろう』
「それって……!?」
ミナミはひどく恐ろしげに震えてレイジと顔を合わせる。
「えぇ……リーダーも気づいていたのでしょうね……彼の友人たちが居たことに……」
冷や汗をかいたレイジは次の言葉を待った。
普段以上に胸が高鳴っている。
『そいつらを追ってブッ倒せ。奴等の目的は別荘内にいる俺だ。恐らくな』
その冷徹な言葉に二人は戦慄した。
これからどうなってしまうのか、自分達に責任があるのか。
それらを考えるだけでも逃げ出したくなってしまう思いだった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.245 )
- 日時: 2019/01/27 16:15
- 名前: ガオケレナ (ID: idqv/Y0h)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ほぼすべての構成員が門の前に広がっている広い駐車場に車を停め、丁寧に侵入者を追っている。そんな光景を小馬鹿にしつつ眺める二人が。
「どう思う?」
「必死すぎるだろ。もうちっと冷静に周りを見ろっての。まぁ見知らぬ土地にいきなり放り投げられたらそうもいかないだろうな」
その車は工場の裏手に回ろうとしていた。
雨宮とルーク。
実はこの二人は南平の工場に着いたのはいいものの、それから先何をすればいいのか分からない状況だった。
『侵入者を追え』
というリーダーの命令は装甲車のみに取り付けられたイリュージョンであったため、最初の指令通り南平に来たはいいものの、そこから先が分からない、といった感じだ。
「だがアイツらの動きを見る限り何があったのかは何となく分かるな。工場内に侵入者でも紛れたか、既に工場内にリーダーがいるから助けてくれ、なんて情けない指令でも送ったんだろ」
「にしてはマヌケだな。俺の車にカーナビを付け忘れるなんてな」
付け忘れた、と言うよりかは付けられなかったが正しいのだろう。イリュージョンの範囲と言いただでさえ複雑なイリュージョンの遠隔操作となるとかなり困難である。
「んで、今はこれどこに向かってんだ」
開けられていた窓を閉める。寒い風をまともに浴びたせいでルークは顔をしかめている。
「工場の裏?とにかく先回りしてリーダーとかち合う。入口に車を停めさせたって事はそこから一番遠い地点にボスが設置されているのはよくある話だろ」
あまりにも単純な考えに呆れてため息をつく。
一体この雨宮という男は何を考えているのか、分からない。
静寂に染まる闇の中で、群青色のスポーツカーが駆ける。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.246 )
- 日時: 2019/01/27 16:33
- 名前: ガオケレナ (ID: idqv/Y0h)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ミナミはまだ走れずにいた。
レイジと共に駐車場にて佇んでいる。
今、自分が何をするべきか突然に分からなくなってしまったからだ。
「ねぇ、レイジ」
「はい?」
「ウチはこれからどうするべきだと思う?」
ジェノサイドの構成員は頭に血を上らせて必死に走る。
熱中しすぎて前の道しか見えていない。
「ポケモンを使って速く移動する」とか、「先回りする」という考えが余裕のないほどに。
そんな人達にもしも彼等が捕まってしまったら。
「恐らく皆さんは部外者の事をアルマゲドンの人間だと勘違いしているのでしょう。あの状況の直後でしたからね。どれ程の弁明をしても届くことはないでしょうね」
「じゃあどうすればいいのよ!このままじゃあ……別の意味でジェノサイドは救われなくなるじゃない!」
胸が痛くなる思いを抱きミナミは必死になるも、返ってくるのはレイジの冷たい視線と声色だけだった。
風に吹かれてレイジの長く白い髪が揺れる。そのビジュアルが余計に不安を与える。
「ジェノサイドさんを助けたいのでしょう?」
結局はこれに突き当たる。
彼の仲間はこれから起きる危険を冒してまでここまで来た。目的はただ一つ。
"高野洋平という男を深部から救い出し、ただの人にする"こと。
ミナミは深部の人間という肩書きがなければ、進む道は一つだっただろう。
だが深部の人間にしてジェノサイドの構成員である以上、"ジェノサイド"という人間が"高野洋平"になってしまったらどうなるか。
組織の破滅は逃れられない。
もしもそうなればミナミは居場所を失うどころか敗北者の烙印を押されること必至だ。
「ねぇ……もしこのまま……ウチらがあの人たちを撃退したとして、このまま此処に居座ったらどうなる?」
だが。
「そうですね……もしもこのまま時だけが過ぎていくとしたら……アルマゲドンとの戦いは終戦扱いされるため敵はいなくなりますが……、ですが今は議会にも追われている立場にあります。アルマゲドンはどうにかなっても議会が相手だとどうなるか……全国を探し回られていずれここも暴かれるでしょう。どの道希望はありません」
その瞳が揺れ動くことはなかった。決心が着きかかっているように。
「レイジは……どうするの?このあと」
最後の迷いである、仲間への心配がどうしても拭いきれない。レイジをチラッと見てみるもどこも変わった様子が見られない。
「決まってるじゃないですか。あなたについて行きますよ」
その言葉の直後、カイリューがボールから飛び出た。
目的が定まり、心に決めた瞬間だった。
「行くよ、あの人たちとジェノサイドを助けに」
ミナミが自身のカイリューに飛び乗る。
レイジは笑いながら「私もですか?」なんて言っているが「ついてくるんでしょお?」なんて意地悪に言うと黙って彼も 跨った。
「よし、行くよ!!」
主のこの言葉を合図にカイリューは何物よりも速く翔ける。
地面スレスレを走ったため、小石が、砂利が、草と木の枝が乱れ飛ぶ。
門を抜ける際はそれを形作るするコンクリートの壁も破壊する。
風圧で吹き飛んだ、最早粉となっているコンクリートを顔に浴びたミナミだが、一々気にしてはいられない。
守るべき仲間がすぐそこで助けを求めているからだ。
ーーー
「先輩!」
ドードリオに乗った吉川は先を走る常磐らにやっと追いついた。
「あっ、てめぇ自分だけラクしてんじゃねーよ!!」
「これからどうするんすか!?もうずっと外を走ってますけど、何か建物の中とかには入らないんですか?」
必死で走って息も辛くなっているのにずっと話しかけられていて鬱陶しい。
常磐はガチゴラスを取り出し、それに飛び乗る。
それを合図に船越と松本、佐野、そして香流もそれぞれポケモンを呼び出しては乗り始めた。
一気に楽になるのと同時に休めることへの安堵感が彼等には生まれた。
「って言われてもなぁ。建物らしい建物が奥にあるアレしか見えねぇんだよ。ったく無駄に広すぎんだろここ。どうなってんのマジで」
「何も無いから断定ではないですけど、ここは鉄くず置き場のようなものでしょうね。かなり細かい破片とかが転がってますよ」
ポケモンに乗ってさらに眼鏡をかけている香流がそんな事を言っては常磐たちを驚かせる。
果たして目がいいのか悪いのか。
「とにかく、ここまで敷地が広いとあの工場の内部はそんなに広くはないだろ。恐らく入ってすぐは作業場のような広間か何かで、その奥に小部屋か何かがあるくらいだろ」
「さっきから何か何かうっさいよー?常磐ぁー?」
「そんなん当たり前だろーが知らない土地だぞココォ!!んじゃあテメーは分かんのかよ佐野ォ!」
乱暴な口調で返された佐野はペンドラーに乗りながら「うーん……」などと考え込んでいる。
「ポケモン乗った瞬間に余裕になりやがって……都合いいなぁ」
なんて、松本がその光景を見て呟いたのだろうがその言葉は突如目の前の視界を覆われたクロバットとサイドンの群れにより無理矢理遮られてしまう。
「うわっ、なんだこれ!!」
吉川が反射的に陸に待機しているサイドンを見て止まる。
「馬鹿野郎!急に止まってんじゃ……ぐわっ!」
後ろを走っていた常磐は吉川の急停止により止めざるを得ない。しかしそれも間に合うはずもなくドードリオと激突。
バランスを崩した二人はそのまま真っ逆さまに地面へと落下していく。
「大丈夫!?二人とも!!」
香流がポケモンから降り、二人を起こそうと駆け寄るがそこで状況を把握した。
「やられた……」
サイドンとクロバットの後ろ……。
自分たちが今まで走ってきた1km近い道のりをなぞるかのように、その広すぎる大地に、ジェノサイドの軍団が追いついていた。
彼らとの距離はおよそ300m。人数は二百名越え。誰か一人でも動けば激突必至な空気を漂わせ、数の暴力をまじまじと見せつけられる。
前はポケモンの壁、後ろは軍勢。
ポケモンに乗って安心したのも束の間、突然にして囲まれた彼らは初めて「死ぬかもしれない」と本気で思った事だろう。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.247 )
- 日時: 2019/01/27 16:41
- 名前: ガオケレナ (ID: idqv/Y0h)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「全く、レン君も容赦ないなぁ」
佐野はジェノサイドの群れを睨みながら一つのモンスターボールを取り出すと、それを香流に手渡した。
「……これは?」
「一度しか言わないからよく聴いてね皆。今から僕達は、僕達の学年ごとにこれからの行動を分ける。僕達四年はここで時間稼ぎ。君達二年はこの先を進んでレン君に会い、場合によっては戦って勝つこと。いいね?」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!!」
突然の無茶ぶりに激しく狼狽する香流。だが常磐が「一度しか言わねぇって言っただろ」と強く言われると言おうとしていた言葉を飲み込んだ。
「無茶だってのは分かってるけどさ……、逆にこれがチャンスだと思うんだ。目的はあくまでレン君に勝つこと。そうすれば、あの人達も止まるよ」
「でも……あんな大人数をどうにか出来るわけが……」
「それは分かってる。僕達四年は僕も含めて四人。ここで手持ちすべて使えば二十四体……それでも厳しいけどバカ正直に一体のみを使うよりかはマシでしょ。それとも全員を標的にされた状態で追い付かれるのを待つのみかい?それだけは違うよね」
ならば何故佐野は自分に今そのポケモンを手渡したのか。
ボールからそのポケモンを出してすぐに理解した。
「これは……サーナイト!?いつも先輩がゲームで愛用しているサーナイトじゃないですか!!」
「レン君……容赦ないんだけど甘いよねぇ。まぁ彼らしいけど」
と、過去の思い出にでも浸っているのか香流たちにはよく伝わらない事をひたすら呟いている。
改めてどういうことか尋ねると、
「ほら、よく見なよ。サイドンとクロバットの群れ。多いことは多い。もしかしたらあの建物の入口付近にまでいるかもしれない。ここからざっと見て……」
と言いながら佐野はスマホの地図アプリを取り出す。
建物のある地点までどのくらいの距離か見ているようだ。
「あと1kmかぁ……。とにかくこのサーナイトで出来るだけ遠くまで飛ぶんだ。その飛んだ地点……恐らくあの群れのど真ん中だろうけど香流君なら大丈夫。大技の一つや二つでもぶっ放して"穴"を空けたらそのまま建物の扉に一直線に進みなさい。いくら工場の頑丈な扉でもサイドン辺りをぶつけたらぶっ壊れるでしょ」
「そんな……先ぱ」
香流がまだ何か言ってくるようなのでそれを受け付ける前に'テレポート'で飛ばしてみせる。
パッ、と本当にそんな音が聴こえるくらいの一瞬の出来事だった。
「さて……いくぞ」
四人の男は一気に二百人を睨みつける。
誰も仲間の確認はしなかったが、それぞれ自分の手持ち六体のポケモンを呼び出していつでも飛び掛ろうとしている。
「死ぬ気で突っ込め!!」
常磐の言葉が合図となった。
四人の男は駿馬の如く駆ける。
そんな四人の男が無謀な争いを繰り広げようとしている時、同じ時間の同じ場所で、不穏な情報が組織ジェノサイドの間で流れ始めていた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.248 )
- 日時: 2019/01/27 16:48
- 名前: ガオケレナ (ID: idqv/Y0h)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「何を……?一体彼らは何をしようとしていると思う?ケンゾウ」
「お前俺より賢い癖に何言ってんだよ。俺達と戦おうとしているんだろ?」
二百人の軍勢を連れた人達の先頭を歩く者の中に混じるのはケンゾウとハヤテ。
二人はこの奇妙な光景を目の当たりにしながらジリジリと進む。
「ねぇケンゾウ。リーダーは紛れた部外者の人数がどの程度か把握はしていなかったよね?」
「あ?あぁ……」
「じゃあさ、」
ハヤテは残った四人の男がそれぞれポケモンを呼び出し、まるで立ち向かおうとしているその状況を指差しながら話す。
「その部外者はたった四人だけでいいってこと?正確には今さっき'テレポート'か何かで飛ばした二人を含めた六人」
「いや、まだ居たはず……」
「ハヤテさあぁぁん!!!」
突然後方で自分を呼ぶ叫び声がしたので思わず振り返る。遮られたケンゾウはばつの悪そうな顔をして舌打ちをした。
「どうしたんだい、急に」
「そ、それが今後方部隊から連絡が……」
「後方?さっき部外者と思われる女性二人を捕らえたとは聞いたけど……また何かが?……あっ、その女の人も含めたら八人か!」
数が増えるごとにどのようにしてここまで来れたのか疑問が益々膨れるがそこは捕まえた人から直接聞けばいいだけの話。
にも関わらず何故この報告してきた男が冷や汗でびっしょりになっているのか未だによく分からない。
相手はたかが八人。恐れの感情すらも抱けない数値。にも関わらず。
「後方が……何らかの攻撃を受けたとのことで……じきにこちらに来るとの連絡が……」
「ちょっと待って意味が分からない。落ち着いて。どうして僕達がこれから攻撃を受けるんだ?この状況からしてどうやって僕達が……」
言っている最中。
ハヤテはその目で暗い闇の空間にうっすらと動く"それ"を辛うじて確認した。
「ん?」
それが何かは分からない。
段々向かってくるそれに目を細めていたところまでは記憶があったはずだ。
その直後。
ケンゾウよりもやや少しを翔ぶ巨大な化物が生み出した衝撃波と突風により彼らすべてが、軍勢を構成していた全員が文字通り吹き飛ぶ。
同時にハヤテの意識も途切れてしまった。
「うわああ!!避けっ……!?」
構成員と思しき男も必死に叫んでいたが間に合わなかった。
二百余人もの人間が一瞬にして吹き飛ばされ、倒れる。
「あ……あれは……カイリュー?」
地面に全身を強打したケンゾウではあったが辛くも意識があった。
指に力が入らず立ち上がることもできない。だが、考えるという余裕がまだ微かにあった。
ここに来てやっとケンゾウはすべてを理解した。
自分たちより後ろを歩く後方の人間らがやられたこと。それはすべてカイリューを扱う何者かの仕業であったこと。
自分たちもたった今無力化されたこと。
そのカイリューはサイドンとクロバットを蹴散らしながら建物へと進んでいること。
そして、最強と謳われたジェノサイドという組織も、たとえ人間であるうちはポケモンには勝てない、という事だった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.249 )
- 日時: 2019/01/27 17:01
- 名前: ガオケレナ (ID: idqv/Y0h)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「ははっ、すっごーい!!凄い速さで工場が見えてきた!!」
カイリューに乗ったミナミは前しか見ていないため、地上の惨事を知らない。
「あ、あの〜リーダー?地上がどうなっているか分かります!?大変なことになってますよ!?」
進むカイリューが速いのでレイジが地上を覗いてもどうなっているかはその目で確認することはできない。
だが想像なら誰でも出来る。ただでさえ恐ろしいポケモン図鑑の説明から彼は容易に想像できるのだ。その言葉がすべて事実となる訳ではないが。
「分かってるよ!その為にこのポケモン使ってるんだもん!」
「分かっているなら何故こんな無茶を!?リーダーが知ったらどうなると思っているのですか!?」
「仕方ないじゃない……。これしか無いんだもん。アイツらを守るためには……ウチ一人がどうにかするにはこれしか……」
ミナミは寂しげな目をしている。長年連れ添っているレイジなら彼女がどのような心理的な状況か把握できた。
(罪悪感はあるようですね……むしろこれだけやってケロッとしていたらそれはそれで問題だとは思いますが……)
考え事をしてぼーっとしていたようだ。レイジは改めて前を見てみる。と、
「あっ、リーダー!前前!!ぶつかりますよ!!」
レイジの叫び声にハッとしたミナミは前へと目線を戻す。
相変わらず視界を遮ろうとするクロバットの群れを'げきりん'ではね飛ばした先に工場の壁が眼前に迫ってきている。
どうやらもう敷地内の最奥まで来ていたようだ。
このままではレイジの言葉通り激突してしまう。
ミナミはスピードを下げるよう命令し、ついでにある一定の方向を指してこんな事を言ってみる。
「カイリュー、'はかいこうせん'!」
ミナミの示した先は鋼鉄の堅い扉だ。見るからに開けるだけでも時間の掛かりそうな頑丈な扉が、
一瞬にして赤黒い光線により木っ端微塵となった。
ミナミはまだ空中に漂っているにも関わらず、その後すぐにカイリューをボールに戻して地上へと落下していく。
それなりに高さがあったはずだ。
きちんと足から着地できたものの、ドン!と鈍く高い音が響く。彼女の足が傍から見ていて心配になる。
レイジに至ってはバランスを崩し、膝をぶち当てた挙句「ぐぎゃああ!!」なんて叫びながら転がっている。
しかし、ミナミは特に助けもせず一人で勝手に進む。
だが一番の問題はこの一連の流れを見られていた事だろう。
既にその場に'テレポート'で移動していた香流と吉川に。
「……なにあれ」
「こっちが聞きたい」
この二人はついさっき'テレポート'で移動したばかりだった。
佐野の予想を上回り、クロバットとサイドンの群れの最後尾のやや後ろに着地することで群れを回避でき、あとは如何にしてこの工場に入ろうかなどと考えていた時だった。
流石に突然その場に現れたものだからサイドンとクロバットにはその存在がバレたが。
「い、今さ……オレ達このサイドンとクロバットをどうにかしようぜーとか言ってて今まさに迎え撃とうとしてたよね?」
「う、うん……」
「でも今カイリュー来てたよね?」
「来てたね……」
「何してた?」
吉川に尋ねられ、今さっき起きたことを思い返す香流。
と言っても、猛スピードのカイリューにサイドン、クロバット諸共飛ばされ、何事かと思い体を起こすよりも先に、それを見続ける事に集中していた。香流はそれを告げる。
「だ、だよなぁ……。今そうなったよなぁ……」
体のあちこちが痛い吉川はその痛みを必死に堪えて扉の前までゆっくりと歩く。
サイドンらポケモンの群れはすべて倒れているようなので怖いものはもう何も無い。
「ムチャクチャじゃねーーーかぁぁぁぁ!!!!」
予想外すぎる出来事に見舞われ、驚きと恐怖が混ざりあってむしろ笑っている。
自分でも笑いが抑えられず、何故笑っているのか分からない。
「何で!?何だコレぇぇ!!何の為に必死になってココまで来たんだよ!先輩は?レンは?もう分かんねぇーよフヒヒヒヒ!!!」
狂ったように笑う吉川をよそに、腕を抑えて香流は立ち上がり、工場へと歩く。
「とりあえず行こう。なんだかんだでチャラにはなった」
誰かまでは流石に分からなかったが、カイリューの持ち主であろう一人の人間が入った後にもう一人も工場内部に入ってから少し時間が経っている。
彼らが何者かも知りたいのもあったので二人は不安を抱いたまま破壊された扉を潜って入っていく。
そしてその一連の光景を眺めていた者がさらに二人。
「おいおい……何だぁー?今の」
工場の裏から歩いていた彼らは少し離れた位置からそれを眺めていた。
「カイリューが……あの建物ブッ壊そうとしてたぞ?今」
まず彼らが見たのは突如何も無い空間から二人の男が現れた事だった。
その出現方法からすぐにそれがテレポートだと理解する。
ポケモンの群れを避ける為と目的地に早く着くためには合理的な方法でもあると内心やや感心した。
だが問題はその後。
彼らが着いてからほとんど時間は掛からなかったはずだ。
彼方からカイリューが飛んできたと思ったらすべてを吹き飛ばしながら迫り、工場の扉を一撃で破壊したのだ。
「ちょっとよーく見えなかったから確証はねぇが……あいつもしかしたらあの小娘じゃねぇのか!?だとしたら何でジェノサイドの人間があんな破壊行為してんのか全然分かんねぇぞ?」
「さっきっから一人でペラペラ語ってなんなんだよ。その小娘って誰だ」
ジェノサイドの事情に通じないルークは雨宮の言葉の意味が分からずにいる。
一々説明する雨宮も面倒なので軽く彼を睨むと首だけを振る。
「んな事はいいからとにかく行けよ。あそこに行きたがってたのは俺じゃなくお前だっただろうが。後のことはいい。お前がやれる事をすべてやって来い。その後に戻ってこい」
ルークは雨宮にこう言われると無言でゆっくりと歩みながら工場へと姿を消していく。感謝の一言も、それらしい態度も無いことが特に雨宮の目に付いたがそれはもうどうでもよかった。
「ったく、相変わらずのつまんねぇ奴だったがまさにその通りだ。まぁいい」
雨宮は工場とは反対の方向、ミナミのカイリューにより滅茶苦茶になったであろう戦場を眺める。
特に目立つものはなく、ただ闇が広がるのみだ。
「そうだな、もう俺のやる事は終わったんだし、ちょっくら見てみるか。アイツらの無様な姿とやらを」
雨宮はそう一人呟くと、車が置いてある工場の裏へと歩いていった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.250 )
- 日時: 2019/02/06 08:38
- 名前: ガオケレナ (ID: zKu0533M)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
工場とは言うものの、屋内には何も置かれていなかった。
自分たちが居住していた工場跡とは違い、機材も何もない。ここまで来る広大な土地にも何も配置されていなかったことから、本当にここが使われている工場なのかと疑ってしまう。
そんな事を思いながらミナミは辺りを見回してそこに人影が無いか探す。
しかし、そこにあるのはポッカリと空いた空間だけだ。
「ねぇー。誰かいないのー?」
「私ならいますよー」
ハッとして振り返る。が、その声が後ろからしたこと、さらに聞き慣れている声により即座に気分が冷める。
「いやレイジ、アンタに言ったわけじゃないから」
「あ、左様でございましたかー」
いかにもふざけた顔をしてこちらを眺めるレイジ。だが膝と左腕が痛いせいかきちんと笑えていない。
歩き方も着地を間違えたせいでよたついている。
「……オッサン」
「ええぇぇぇええーーー!?」
ミナミは少し彼をからかってみたのだが、やけにリアクションがでかい。
ミナミは体のあちこちを痛がっているレイジをふざけてネタにしてみたのだがそれ以降急におとなしくなる。
終いには「リーダーから見たら私もオッサンですか……まだ20代なのに……」なんて小さく呟いている。
冗談が通じなかったかな?なんて首をかしげていた時だ。
屋内同様ぽっかりと空いた入口から新しい声がしてきた。
「誰か入ったと思ったら……あなただったんですね」
どこか聞き慣れた声にミナミとレイジの目の色が変わる。
「アンタは……もうここまで来たのね」
「さっきカイリューで突っ込んでいたところを見ていました。でも、僕達もここに来たかったので都合は良かったです」
香流の言葉にミナミはまた辺りを見る。自分の背に小さい扉がある以外何の特徴もなければ他に人なんているはずもなかった。
「ここにリーダーは居ないわよ」
「まだ分からないじゃないっすか。その後ろの扉……レンをどこに隠しているんすか?」
香流の隣に立ち、眼鏡を光らせたのは吉川だ。
ミナミは彼とはあまり面識はないがピカチュウを使う人として覚えている。
勘のいい吉川の発言だったがミナミたちも今来たばかりである。そのような事は知るはずもない。
「だから知らないって言っているでしょ?さっきまで一緒に居たところ悪いけど、リーダーからの命令なの。これ以上首突っ込むなら……」
言いながらミナミはボールを取り出す。
今自分は何をやっているんだと内心悩むも、まるで戦うことを強制されているような気がして自分でもそれを抑えることができない。
言葉を詰まらせ、エルレイドの入ったボールを見つめるミナミだったが、
「オイオイ、テメェら、俺を抜きにしてなぁに面白そうなこと始めようとしてんだよ」
彼女の背後。
後ろは扉を除くと壁しかないのにも関わらず突如声が響く。
それも自分が立つ位置よりもやや上から。
そんな不気味な現象に肩が震える。
だがそれよりも身を震わせたこと。
それはこの空間に漂う"匂い"だった。
(何!?……、この甘い匂い……。でもウチら深部の人間が嗅ぐことの出来て、この匂いがするのはたった一つしかない!)
声のする方へ振り向く。
天井近くの窓が一枠取り外され、さらにその窓の近くの狭い足場にそれは立っていた。
(間違いない……。この匂いは、ミストフィールド……)
「今まで好き勝手やってたんだ。そろそろ俺にも暴れさせろよ」
ニンフィアを従えた男、ルーク。
彼はこれでもかと薄く笑うとミナミの立つ地点の隣に着地し、己の敵と対峙する。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.251 )
- 日時: 2019/01/27 17:18
- 名前: ガオケレナ (ID: idqv/Y0h)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ルークは香流と吉川の身なりを見ると鼻で笑うように蔑むと、無言でニンフィアを放つ。
「ちょ、ちょっと待って!いきなり出てきて何なのアンタは!!一体何が……」
ミナミが叫んででも止めようと躍起になるも、ルークのその鋭い視線を向けられると言葉が詰まってしまう。
「あの、その人は一体……」
突然の出来事に一般人の理解が追いつかない。
香流は半歩踏み出してミナミに近づこうとした。
「あ、あのね、この人は……」
言おうとしたところでルークが右腕をミナミの前に突き出し、静止させる。ついでに香流の足も止まった。
「自己紹介なら自分でしてやるよ」
ルークはニヤニヤ笑いながら香流を睨む。
その狂気じみた姿に、香流と吉川は身が縮まる思いだった。香流は吉川に自分の後ろにいるように無言で合図を送る。
「俺の名はルーク。今ここに、この位置に立っているって事はテメェの敵っつーわけだ。まぁ俺からしてもテメェらが敵に見えるんだがな」
「……と、言うことはウチらの仲間だって言いたいわけ?一度も基地に来なかった癖に……」
「仲間だけど仲間じゃねぇ感じだな。俺はフェアリーテイルのリーダーにしてジェノサイドのお助け要員って感じだ」
とは言ってみるものの、一般人である香流と吉川には理解は出来ない。
彼らはフェアリーテイルのことも自称お助けマンの意味も知らないからだ。
「ピンと来ねぇって感じの顔してんな」
二人の反応が思った程面白くなかったルークはそんな彼らの思考停止している顔を見てニヤニヤを止めずにいる。
「じゃあ簡単に言い直してやる。よく聞くんだな」
ルークは合図を送って月を眺めていたニンフィアを自身の前まで歩かせる。
これから何が起きるのか、この世界に疎い二人でも、何となくだが想像が膨らんできた。
「暇で暇で暴れてぇだけだ。ちったァ楽しませろ部外者ァァ!!」
ガラス戸が外された窓にぽっかりと浮かぶ月が一瞬瞬いたかと思った直後。
ニンフィアの周りで大爆発が起きた。
「ぐああっ……!」
爆発の余波でコンクリートの床が吹き飛び、砂塵が舞い、その身体にも少なからず"痛み"を与える。
まるで容赦も遠慮もしないルークのやり方に怒りと不安が入り交じる中、余裕が生まれる余地がなかったからか、今の攻撃が'ムーンフォース'だったと気づくのに時間を要してしまう。
香流は気を取り直してボールを握ると、必死そうに、まるで余裕のないのが顔で判断できるほどの形相をするとまるで小さな抵抗のようにそれを投げる。
「……へぇ」
ルークは香流のそのポケモンを見て少し微笑む。
「ドリュウズとはな……素人にしては面白いチョイスだ」
香流の前には、月明かりに反射して角を光らせるドリュウズがニンフィアを睨んでいた。
「吉川……ねぇ、吉川!!」
呆然と二体のポケモンを眺めていた吉川は、香流のその声にやっと意識が戻ったかのようにハッとした。
「な、なんだよ……」
「こっちは大丈夫だから、先に出て先輩や高畠と石井と合流して!」
「なっ、香流……お前何言ってんだ?」
唐突で且つ成功率の低そうな頼み事をされて狼狽える吉川。状況を見ている訳ではないので、戦場のド真ん中に放り出されるイメージに駆られ、それを正直に告白する。
初めに吉川は、この場に女子がいるという事でカッコつけてみようと下心を露わにするところではあったものの、予想外の出来事に遭遇し、今ではその思いは微塵にも無かった。
「分かってる。でも、その今の状況を改めてこっちに教えて欲しいんだ。外のポケモン達は大丈夫だと思うけど、先輩達と戦ってる敵が怖い。あと、連絡がない高畠と石井についても……。でも何かあったらすぐにこっちに戻ってきていいから。無理だけはしないで」
「え、……えぇ……?えっと、」
などとキョロキョロして助けを求めている目をミナミ、レイジ、ルークに向けるが意味は無い。
ゆっくりと歩いていきながらその姿は遂に屋内から消える。
その様子を見たミナミは軽く息を吐いて、
「レイジ、アンタも行って」
と言って適当に放置されたであろう機材に座ってソワソワしながら眺めているレイジに言い放つ。
「えっ、私ですか?」
「えぇ。今出ていった彼について行って。彼には危害を加えずにただついて行くだけでいいから」
その言葉には優しさを含んでいるのか、疑いの念が込められているのか。
それは香流とレイジそれぞれが違う思いを抱く。
分かりましたよっと、と面倒臭そうに言うと、彼も出ていった。
「邪魔者は退場願うってか?」
「……そうかもしれないし、それだけじゃないかもしれない」
結局邪魔なのかよと蔑む調子でルークはミナミの顔を覗いてみる。ミナミは目があった瞬間、すぐに逸らした。
自分から仲間を逃した以上、絶対にこの場面だけは外せない。
香流は、時が経つ毎に早くなる心臓の鼓動から、本心として抱く気持ちとは裏腹に、強すぎる覚悟を持ってしまったと目の前の敵を見て思う。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.252 )
- 日時: 2019/01/27 17:25
- 名前: ガオケレナ (ID: idqv/Y0h)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「なんだ、これ……」
吉川は工場から出たら愕然としたに違いなかっただろう。
あれほど自分や先輩達の脅威となっていたサイドンとクロバットの群れが忽然と姿を消していて、今は地平線でも見えるんじゃないかと思わせる程の広大な土地が広がっている。
しかし、足を止めて呆然と眺めているわけにもいかないので、吉川は再び歩き出した。
すると、
「おーい……ちょっとお待ちくださいよー」
後ろからくる声にゾッとして勢いよく振り返る。
やはり、と言うか聞いた事のある声だったのでその声の主がレイジであることはすぐ分かった。
だが、何故彼がやってくるのかが分からない。
「私のリーダーから、共に外に出て状況を教えろと仰られたもので……」
「リーダー?レンの事か?」
「いえ、私のリーダー。即ちミナミでございます」
ミナミ、と言われて横浜で一緒だった時や、ついさっきまで車の中で一緒にいた女の子の顔を思い出す。
可愛い顔して深部の人間、それもリーダーでもあるのかと思うと複雑な気持ちになってくる。
高野のついでにこいつも助けてやりたい、なんて変な想像をしてみる。
「と、とにかく……俺についてきて無防備なところを攻撃するとかか?」
「ジェノサイドにそんな野蛮な人間はいませんよ」
警戒心MAXの吉川の言葉に、レイジは苦笑いしつつ答える。何故同じ屋根の下で語り合えたのかと不思議に思えてきてしまう程に。
「リーダーは先程、組織のメンツの為にあんな事言っておりましたが、本当の所はあなたたちと変わりません。リーダーもジェノサイドさんを助けたいと思っています。なので本当だったらあなたたちの味方なのですよ?」
ただ、組織の人間なのでそれを宣言するのも危ないからこうしている……。レイジは付け加えるように言うと吉川は足取りと共に表情も緩くなってきた。
「なぁ、レンって何で深部なんかに入ったんだろうな」
本音が許せるようになってきたからか、吉川はそんな事を言ってみる。
しかしレイジは学生としての高野洋平という人間を知らない。学生としての高野と、深部としてのジェノサイドを比べる前提であるこの質問には答えにくいものがあった。
「それは、彼だけが知っているでしょうね。私はおろか、リーダーも他の構成員や仲間……私たちよりも親しそうな人ですらご存じないのですから」
期待通りの言葉が帰ってこなかったので吉川は「ふーん」と重く言ってみた。
そんなやり取りをしていると暗がりでよく分からなかった先の道から、やっと人の姿が確認できた。
「先輩か!?あれ……」
吉川は思わず駆け出した。が、その足はすぐに止まってしまう。
走り出して先輩の姿が完全に分かってきた辺り。
そこで先輩全員が無事であることは確認できた。
だが、唯一吉川に背を向けている佐野の様子が普段と違う。
佐野はアマルルガを使って戦っているようだった。
メガカメックスを従えた、ケンゾウと。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.253 )
- 日時: 2019/01/27 17:34
- 名前: ガオケレナ (ID: idqv/Y0h)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
状況には苦しいものがあった。
特に精神的に。
香流は目の前の不気味な男と、とてつもない爆発力を持ったニンフィアに対し恐怖にも似た感情を抱いている。
タイプの相性だけで見たら香流はドリュウズを使っているため、何ら心配することは無い。むしろこちらに有利なのだ。
だがそれを上回るものに実戦に対する未熟さと、敗北を考えた時の不安がある。
完全に自分との戦いと化していた。
「ア…、'アイアンヘッド'!!」
自信が篭っていない命令であるにも関わらず、ドリュウズは頭を鋼の如く硬くして頭突きの体勢をしてそのままニンフィアに突っ込んでゆく。
「避けろ」
さも余裕ありげなルークの一言でニンフィアは軽々と躱す。
躱されたドリュウズはニンフィアの遥か後ろでザーッと音を立てながら足を引きずって全身のスピードを止めつつ方向転換する。
主人とは打って変わってドリュウズは敵意剥き出しの鋭い目をしていた。
「戦いに慣れてねぇな?」
初っ端から弱みを指摘されて香流はドキッとした。何故そんな事が分かるのかと胸が苦しくなる。
「ただ突っ込んで終わりなんて単純すぎるな。まるでこの世界に入って間もない初心者がやっていそうな戦い方だ。避けると分かった上でのアクションが一切ねぇ。俺もアマな奴は数え切れない程狩ってきたがお前もその内の一人に入れても何の違和感もねぇな?」
「止めなよ。変に煽って何がしたいの?」
珍しく戦いを眺めていたミナミが横槍を入れてきたのは意外だった。香流もその言葉のあとすぐに彼女の方向を向く。
「あぁ?戦ってもいねぇ外野が口出しして来てんじゃねぇ。これは俺の戦いだ。俺の好きにやらせろ。……ったく、一体テメェはどっちの味方なんだか。本当に"俺ら"の味方なら二対一でコイツブッ叩けってーの」
その言葉にミナミは黙り、物騒な言葉を聞いて香流は冷や汗をかく。
このままの戦いではいけない。そんな事は分かっている。だが、本格的な人間を相手に本格的な戦いをしたことがない香流にとっては無謀な注文だ。
「ほら、お前が来ねぇならこっちから行くぞ」
その言葉の次に、今度はニンフィアを中心にして目に見えない衝撃波と爆音が広がった。
「うっ……これは……」
'ハイパーボイス'と分かっていても言葉に出せない。彼が耳を押さえていることから見て分かるように、耳が痛いことに意識が集中しているのだ。
同様に苦しみ、衝撃波のせいでどんどん後ろへと押されていくドリュウズには目も行かずに。
「テメェさ。よくそんな身なりでココに乗り込もうとしたよな?分かってんのか?ココのリーダーのせいで平和ボケしてるのか知らんが、俺のような人間は、特に俺は、敵であれば躊躇なく命を奪う事だってする人間だ。テメェはそんな人間が闊歩する世界に足を踏み入れた……。それを十分に自覚しろ」
またも冷たい言葉が胸に刺さる。
'ハイパーボイス'の攻撃が止んで辺りが静かになると、香流は全身の力が抜けるかの如くその場に膝をついて倒れてしまった。
「おいおい……とうとう砕けちゃったかぁー?」
無様な香流の姿を嘲笑するルーク。その横で遂にこの時が来てしまったと思わんばかりのミナミが、コートの袖で隠れた手でボールを強く握る。
その気になればミナミは不意打ちの一つでもかまして香流を助けようなんて少しは考えていたので本当にその時が来てしまった事に内心驚きつつも。
「こっちだって……」
膝をつき、俯いている香流から微かに声がした。
どうした事かとルークとミナミは集中して聞き入ろうとする。
「こっちだって!!レンを助けるのに必死になってるんだよ!!」
その性格と格好からは想像し難い、彼の心の叫びが静かな工場に響いた。
だが更に驚くべきはその目。
今まで不安に駆られ、迷いに迷っていたその目が一点に集中していた。
正に覚悟を決めた目だった。
「へぇ……?」
ルークはその姿を見て嗤い、ミナミはボールを握っていた手の力が弱める。
(イイね……イイ目をしている……。窮鼠猫を噛むとは言ったものだ。このアマチュア野郎、この状況を目の当たりにして見境がつかなくなったか……?獲物を何としてでも狩るような、この世界に棲む誰もがするような目をしていやがる……)
それに気づいたルークは、今まで見向きもしていなかったドリュウズの立っていた方向を見る。
そこにドリュウズの姿はなく、大きな穴がぽっかりと空いているのみだ。
「おいおい、'あなをほる'かよ?ドリュウズになんてチンケな技覚えさせてんだよ!!」
「'あなをほる'じゃない……」
低く、唸るような声にルークは眉を細める。同時にそれは胸騒ぎを覚えさせた。
ドリュウズが、ニンフィアの真下ではなくやや離れた位置、しかし直線的な位置から姿を現したからだ。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.254 )
- 日時: 2019/01/27 17:50
- 名前: ガオケレナ (ID: idqv/Y0h)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
まるで旧約聖書に記されたダヴィデとゴリアテのような、互いに巨大な軍勢を従えつつも一騎打ちを展開している。そのようにも見える景色の中、
「うおおおお!!!」
ケンゾウが吠えるのを合図に、メガカメックスは砲身から強すぎると表現せざるを得ない大量の水を飛ばす。
これでも'みずのはどう'のつもりなのだが。
「くっ!」
アマルルガでは避けるのが難しいと判断したのか、何も言えないまま水の砲撃を受けてアマルルガは吹っ飛んでしまう。
「先輩!大丈夫っすかぁ!?」
吉川はそんな佐野の戦いを見て思わず駆け出す。
佐野は少しだけ後ろを見て確認すると、
「吉川君……!?近づくな!ここは危険だ!離れて!!」
と、その動きを制止させようと叫ぶ。
吉川はその言葉にビビり、一瞬止まるも、やはり不安は解消されないので一先ず地べたに座り込んでいる常磐の近くに駆け込んだ。
ケンゾウもこちらを確認できたのか、叫ぶ。
「レイジ!!おめぇ何でそっちにいるんだ!こっち来い!!」
いつもの口調とは変わって粗野になっている。その外見も、たくましくガッシリしているので敵味方問わず威圧感を放っているようだった。
レイジは申し訳なさそうに吉川を見ると、早足でカメックスの横を通り、ケンゾウとその他多くの集団に紛れてしまった。
「情けをかけているつもりだ……」
隣の常磐がボソッと呟く。
吉川は彼を覗きこむ。
「さっきカイリューが辺りを吹き飛ばしながら俺達の上を通り過ぎてった……。奴らも倒れたが、俺達もな……唯一無事で戦えそうなのが佐野だったんだ……。俺は体のあちこちが痛てぇ……。戦ってもいいが集中できねぇよこれじゃあ」
その為の情け。
ケンゾウは味方も何人か倒れているために一騎打ちを申し込んだ。なので今ケンゾウと佐野が戦っている。
とのことだった。
しかしケンゾウの周りにはレイジをはじめ何十人と戦いを眺めている者がいる。吉川が邪魔を入れたら一発で返り討ちに遭うのは目に見えていた。だからこそ誰も手出しできない。
なのに佐野が押されている。
助けたくても助けられない状況が目の前で繰り広げられていた。
佐野は倒れたアマルルガをボールに戻すと考え出したのか、何もしなくなった。
吉川はそれを見て余計に不安になる。
しかし、
「俺たちはお前たちを殺そうとは思っちゃいねぇ。サレンダーすりゃその身は保障する!!」
と、ケンゾウが投降を呼びかけた。
本当に深部の人間かよと疑いが強くなった吉川と常磐だが、倒れて絶望しきっている先輩達の顔を見るとそれもいいかもしれないと、完全に諦めモードに入る。
ケンゾウたちに足を向け、半歩踏み出したその時。
遥か後方から、強い光が吉川の目に映る。
と、一瞬思ったその時には、その光はジェノサイドの面々を飲み込んでいった。
吉川と常磐、そして佐野とギリギリ飲み込まれなかったケンゾウが呆然と見つめ、断末魔の叫びが耳を刺激し、吹き飛び、倒れる。
光の軌跡によりぽっかりと空いた隙間に。
高畠と石井と、彼女のポケモンであろうマフォクシーがそこに突っ立っていた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.255 )
- 日時: 2019/01/27 18:06
- 名前: ガオケレナ (ID: idqv/Y0h)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
彼女ら二人は無事だった。
吉川含む男六人で先を進み、結果的に石井と高畠を置いていってしまったのだが、背後から攻撃できる辺り普段と変わらなそうな様子だ。
遠く離れているが、「やっほー」という石井の声が微かに聴こえる。
だが一番違うだろと思ったのは、
「はっ……'はかいこうせん'んんん!?」
殿堂入りが目的の、ストーリー用のポケモンだったことを思い出す。そう言えば石井という女は未だにポケモンYのゲーム内で殿堂入りしているかどうかも怪しかった。
「ちょっ……おめっ、、は、'はかいこうせん'ってなんだよ!!しかもそれ人に撃つのかよ!!どこのワタルだ!」
素人の吉川が何故'はかいこうせん'だと見破れたのかはついさっき一度見たからであろう。
彼の記憶には、恐怖と驚愕を理由にカイリューが工場の扉を破壊したその瞬間が保管されている。
呆然と突っ立っているケンゾウの横を何の躊躇もなく二人はスタスタと歩く。むしろケンゾウが何されるのかと怯えきった顔をしているのがまたおかしい。
「おまたせっ、吉川。香流とレンは?」
石井は周りを見て二人が居ないことにすぐ気づいたのと同時にまだ高野の元に辿り着けていないことも察した。
それを分かった上であえて言っているようだ。
「香流はこの先にある工場で戦っているよ。レンはまだ見つかっていない」
吉川は何か異変がないか石井の至るところを眺めるも、どこも変なところはなかった。
高畠に至っては「ヘッ、くたばってんじゃん」などと言って足を押さえて座り込んでいる船越に駆け寄っている。
そんな自由な状況に呆れた吉川は、
「お前らホントワケわかんねーなぁ……。てか今までどうしてたん?」
「お前らが早く行っちゃうから、うちらあの人たちに捕まっちゃったよ!とは言ってもどうやってここに来たのかとか、何しに来たとか質問された時に……」
あの人、というのはジェノサイドの構成員たちのことだろう。その程度だったかと一先ず安心するが彼女が喋っている途中で言い淀むので嫌な予感が渦巻く。
「いきなり現れたカイリューに皆吹っ飛ばされちゃった!」
結局吉川はその場で呆れのため息をつく。
と同時に思い知ることになった。
コイツらの強さは自由奔放なところなんだと。
ハッとしてそこへ振り向くと、電撃をまとったカメックスが足をふらつかせていた。
ケンゾウは最初新しい技かと思ったが違うようだ。
なぜなら、佐野と彼のポケモン、トリミアンの隣にしゃがみながらこちらを睨む常磐と彼のライボルトが立っていたからだ。
「お、お前ら……俺は一騎打ちだと……」
「悪ぃな。俺らは弱ぇからこうでもしねぇと勝てないんだわ」
二度目に受けた'10まんボルト'でとうとうカメックスは倒れる。
傍から見ると七人の男女が何百もの人々を倒したかのように見えるのが余計におかしく思わせる。
「オレは不満だ」とでも言いたげな大男はそれの意味を含めたため息をするとカメックスを戻した。
それが合図となり、七人の戦士は吉川が向かってきた方向、つまり工場の方向へと走って行く。
「終わったな……。一般人とか言っておきながらゲリラで対抗するなんてな……負けだ」
倒れた仲間達と一緒になってその場にケンゾウは寝転んだ。一種の諦めである。
ジェノサイドという組織の弱点。
これまで敵に対する侵攻か、リーダーのみが狙われる戦いばかりを繰り広げていた組織の弱みは慣れない防戦とゲリラである。
加えて戦闘員の大半は互いの顔もほとんど知らない、嘗ての深部連合の人間も加えた者達だ。
協力性皆無な彼らはイレギュラーとゲリラの前に散った。
そして、只の一般人であるはずの人達は、そんな度重なる幸運に恵まれたこの世で最も幸せな者達となった事を知らない。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.256 )
- 日時: 2019/01/27 18:16
- 名前: ガオケレナ (ID: idqv/Y0h)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ドリュウズが地面から姿を現す。
ニンフィアとの距離はおよそ7mといったところか。
(そんな遠くからナニするつもりだ……?またこっちに突っ込むだけで終わりとかかぁ?)
ルークは何となく予想を固めていると、とうとうドリュウズが動き出す。
香流の'アイアンヘッド'という叫びと共にとにかく速く走ろうと徐々に速度を上げていく。
遂にドリュウズは体を折りたたむようにしてまるで大きなドリルのような姿と化す。
「さっきの走りは助走かよ……っ!?」
ドリュウズは地面を滑らせて滑らかに、しかし速いスピードを保ったまま先端を硬く尖らせてニンフィアのもとへと突き進む。
「避けろ」
しかし、どんなに速かろうがギミックを変えようがシンプルすぎる事には変わらない。
結局ニンフィアはまたも軽々と躱してしまう。
「ったく、一体どんな手使って来るのかとすこーしヒヤヒヤしたが……こんなもんかよ!やっぱド素人ってのもつまんねーなぁ!」
相変わらず蔑むルークだが、ただ一人この状況がおかしいと思える人がいた。
ミナミだ。
彼女は最初から最後まで"香流のバトル"を見ていたからだ。
(待って……。このままじゃ、ドリュウズは壁に突き当たるわ!!早く何かしないと壁に激突するか破壊するかのどちらかよ!!結局大きな隙をルークに与えちゃう!)
彼女の思った通り、ニンフィアに避けられたドリュウズはそのまま直線を進んでいる。
その先は工場の壁である。
香流が何も指示しないままだとドリュウズは壁に跳ね返されるか突き刺さるか貫くかのどれかである。
「ち、ちょっと!!」
ミナミが叫ぶも、ルークがこちらを振り向いて睨むのみ。彼女の思いは香流には伝わらなかったようだ。
もう間に合わない。ドリュウズの角の先端が壁に当たるか当たらないかのギリギリに差し掛かったとき。
香流はボソッと、しかしドリュウズに聴こえる程の声の大きさで呟いた。
「ジャンプ」
と。
その瞬間目を丸くして即座にドリュウズの方向を眺めるルークと、何かを念じているかのように見つめるミナミは見た。
小さなドリルから、ちょこんと足を突き出して地面を蹴ることにより進路を無理矢理変えたその瞬間を。
この工場はまるで、一般的な学校の体育館の如く丸みを帯びた外見をしている。
そのため室内の壁もそれに沿って天井に近づくにつれ丸くなっていっている。
ドリュウズは進路を変えたことによりその変わった壁に沿っていき、終いにはぐるりと方向転換をして再びニンフィアにその顔を向ける。
まるでドリュウズの進路は放物線を描いたかのように。
綺麗に決められたレールの上を通るかのような理想的な動きを魅せると衰えない速度を保ったままニンフィアへ突き進んでゆく。
今度は反応できなかった。
鋭い一撃が鈍い音を伴わせて、四足歩行である一匹のポケモンを貫き、そして倒れる。
終始香流は無表情であった。
対してルークはにやりと笑うとニンフィアを戻して吠えた。
「素晴らしいなド素人ォ!!どうやら俺はお前を軽く見過ぎていたようだ。100%俺の油断が敗因だろう。ドリュウズをきちんと見ていればこんな結果にはならなかったはずだ。……だが、次もこう行くと思うなよ?」
一瞬、フッとルークの顔から笑みが消える。
同時に豪華そうなボールを持ち、それを投げると中から現れたのはサーナイトだった。
「サーナイト……?ニンフィア以上の決定力を持ったポケモンがそれってことなの?」
「相変わらずうるせェ外野だな。黙って見てろ小娘」
言いながらルークはポケットから小さい黒地の布を取り出すとそれを首に巻き付け始めた。
「?」
不思議そうに眺める香流とミナミだがそれがチョーカーだという事に時間は要さない。しかし何故このタイミングなのか。
「決まってんだろ。ただのチョーカーじゃねぇからな」
その言葉のあとにミナミは、チョーカーにキラキラした何かを散りばめている事を見破った。
それはよく見えなかったが見覚えのありそうな物であったのは確からしい。
「キーストーンだ。即ちこれが俺のデバイスだ」
言った直後。
サーナイトが突如眩い光と凄まじいエネルギーに包まれる。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.257 )
- 日時: 2019/01/27 18:29
- 名前: ガオケレナ (ID: idqv/Y0h)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
光が消えたとき、正体不明のエネルギーがどっと周囲に撒き散らされる。
それは強いビル風にも似ていた。
大量の砂塵が舞い、不安定な建物からしてそのまま放置している機材が吹っ飛んでもおかしくないような状況。
そのためか、香流は腕で顔をガードしている。
空気が穏やかになると、香流の前には姿を変えたサーナイトがあった。
「メガサーナイトだ。相性は依然としてこっちに不利だが俺の専門がフェアリーなモンでなぁ……。だがそれも承知の上」
サーナイトは自身の両手を合わせると黒い塊を生成させ、
そしてそれを射出する。
が、香流が対応しようとした時には既にドリュウズに直撃し、黒煙のようなものが表れている。
「そして明らかに不利なポケモン、それを振りかざす野郎を貪るのが非情に快感で仕方ねぇ!!」
黒い塊、'シャドーボール'をわざわざ一つ一つ生み出すのが面倒となったのか、サーナイトは自身の周囲に大量の塊を展開させる。
「これだからタイプ統一パーティを……組織ぐるみでタイプを統一させるのが楽しみでしょうがねぇ!!」
ドドドン……と止まない爆撃音が鳴り響く。ドリュウズという天敵を一切動かさないために、そもそも動く機会を与えない為に足止めとなる'シャドーボール'を連発させる。
この技が直撃した時に発生する黒煙が大量に生み出され、視界が曇り出した時にサーナイトはその手を止めた。
煙がうっすらと晴れてきたとき。
中からドリュウズが吠えながら突撃をする。
その爪を光らせ、サーナイトに対してそれを振るう。
サーナイトは軽やかに避け、隙が生まれたところで軽く蹴りを入れてドリュウズと距離を離した。
ここまでの動きはトレーナーの命令無しに個々のポケモンが勝手に動いたものだ。
ルークからすればごく普通の、よくある光景だがそれに見慣れていない香流からすると新鮮なものがあった。
まるで生き物のように自分で考えて動きを見せているからだ。
つい香流は動物のように動くポケモンを、好奇心を含めた目で見つめていた。
「そんなに珍しいか?ポケモンが命令無しに動く姿が」
ルークのその言葉に目が覚めされたかのように、ふと我に返る。
「いや、別に……。見慣れてないから」
「俺たちの世界に来ればいつでも眺める事ができるぜ?」
口元を歪ませて誘うような手振りをしてみるが、相変わらず香流は無反応だ。
つまらない反応にルークは舌打ちをして、サーナイトを見つめる。
「テメェらただの一般人は、まるでポケモンが命令無しには動けないただの道具だと勘違いしているところがある。現にテメェのようにゲームだけでしか見ていない奴もこの有様だからな」
だがな、と言ってルークはサーナイトを指差す。
「コイツを見ろよ。まず呼吸している。動物と同じく脳もある。自分で判断して動く事もできる。ポケモンによれば、育て方次第では人の言葉も理解できる。ここまで来て何に見える?コイツはゲームデータの具現化じゃねぇ。そこに存在する一匹の動物……即ち生き物だ」
最もらしい、と香流は思ったことだろう。今香流が使うドリュウズも、ステータスも性格もすべてゲームデータを参照しているため、ゲームデータの具現化と言っても間違いではない。しかし、それだけで一括りにするのも何だか違う気がする。
「そもそも俺たち深部が何の為に作られたか知っているか?」
一瞬香流の瞳が大きくなった。
自分には一切関わりのない話。だが、何故かその手の話題になると興味をそそられる。
自身の友達が何故そっちの世界へ入ってしまったのかという謎があるからか。
「一般的には、ポケモンを悪用して罪の無い人間……まぁテメェらみてぇな一般人だよな。テメェみたいなのを一方的に虐殺する輩が増えたもんだからソイツらをシメて治安の安定を図る……なーんて綺麗事呟いているがまァそれは間違っていねぇ。実際俺もそんなクソみてぇな人間を何度も葬ってきた。だがそれ以前に、もっと根本的にして更なる理想があんだよ。何だと思う?」
"議会"は表向きには非営利団体だと見なされ、一種のボランティア活動をしていると表の世界では見られている。実際には違うが。
しかしそれに従えば、深部そのものも本来であればボランティア団体の下っ端となってしまう。
「ポケモンに対する社会的な名誉と社会進出。俺や深部が求めてるのはそれだ。俺たちはポケモンに法的付与を与えられるのを最終目標としている」
なんて綺麗な目標だ、と香流は思ったことだろう。世間的には黒く、恐ろしいと呼ばれている彼らを誤解していた部分があったようだ。
しかし、忘れてはいけない点もある。
「でも……そんなポケモンを一番道具のように使っているのもそっちだよね?」
珍しく敵と会話した。それだけで嬉しさにも似た快感が彼の中に生まれる。
「そうだ。俺たちはこんな綺麗な夢を掲げてはいるものの、実態は俺たちが都合のいい様に使っているに過ぎない。敵が出てくれば秘密裏に殺すことだってある。俺たちは闇に生きる以上、都合良く手段を問わないやり方を好む」
「それは……」
「俺がおかしいと思うか?ならばまずはココで俺に勝ってからほざけ!!」
ルークの命令に従い、サーナイトは赤黒い光線を発射する。
ドリュウズに向け、壁ごと破壊する形で。
「お喋りはもう終わりだ。俺たちは今何をしている?戦いだろ?半端な理由つけて戦いを中断、なんて絶対許されねぇ。男ならば最後まで戦え」
'フェアリースキン'によりフェアリータイプとして更に威力も上がった'はかいこうせん'を受け、ドリュウズは静かに力尽きる。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.258 )
- 日時: 2019/01/29 14:48
- 名前: ガオケレナ (ID: g3crbgkk)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
今、目の前に立つメガサーナイトは確かに怖い。
香流はドリュウズを戻しつつ、あのポケモンに立ち向かえる存在があるか必死にポケットを探る。
(今の'はかいこうせん'に耐えられて反撃できる奴……くそっ、居ないかもしれない……)
反動が痛いものの、スキン適用の'ハイパーボイス'を軽々と超える'はかいこうせん'の前にはほとんどのポケモンが倒れるだろう。先ほどのように、相性が悪いドリュウズですら倒してしまう。
(待てよ?もしかしたら、コイツなら……。もしもの為にとレンと戦うのを予想して隠してきたやつだけど……この状況なら仕方ない、のか……?)
香流は顔を曇らせながら静かにモンスターボールを取り出すと、優しく投げる。
出てきたのはファイアローだ。
「ファイアローだぁ?まーた俺からすると相性の悪いポケモン呼び出しやがって……。それがどうしたって話だがな」
'はかいこうせん'の反動で疲れて動けなくなっている隙に、香流はファイアローに'つるぎのまい'を指示する。
勇ましそうに周囲を翔び回ると、再び香流の真上に舞い戻ってきた。
「踊り終わった訳か。ただでさえそのポケモンは冷や汗モンだがさらに恐ろしく化かしやがって……だが」
ルークが言いかけた時だ。
突如、ファイアローが体を真っ直ぐに伸ばしたかと思うと、羽ばたいてもいないのに空中に、その場に留まってしまった。
まるで、フリーズした電子機器のディスプレイのように。
「ファイアロー!?」
エスパータイプのポケモンが使う技で相手を操ることの出来る技といったら一つしか思い浮かばない。サーナイトならば尚更だ。
「'サイコキネシス'だと思った?残念ながらちげぇよ」
空中で悶えるファイアローだったが、突如解放されたかのように身が緩んだのが確認できた。
ホッとする香流だが、さっきのは何だったのかと思ったその矢先。
「'サイコショック'だよ」
キラキラと光る粒子。
のような物体がサーナイトのサイコパワーに乗せられたせいか物凄いスピードでファイアローに迫り、瞬きをする暇すらも与えられない程の速度でそれは激突する。
受けたた衝撃からか、体から白煙が舞うもファイアローはまだ元気そうに羽ばたいていた。
どうやら戦えそうだ。
ルークは不満そうに舌打ちすると、
「まぁそんなモンだろ。念波実体化させてそれを操りながら飛ばしてるだけの技だもんな。ましてやそんなファイアローじゃあ耐えられて当然、か」
その言葉に香流は焦りを感じた。まさかこんなにも早くファイアローの型が見破られていたとは思ってもみなかったからだ。
「……このファイアローの型が……分かるのか?」
「当然だろ!テメェのそのポケモンは耐久型……それも特殊に強いファイアローだろ」
香流は大声上げて笑うルークに益々震えた。
型を見破られたことにではなく、そんな短時間ですべて把握できる"バトル慣れしているキャリア"にだ。
だが、それは同時に覚悟も生む。
(こんな奴が相手だと……長期戦はマズい……。早々と、今すぐにでも決着をつけないとな……)
果たしてこのファイアローに短期決着ができるのかと胸騒ぎがするが、行動してみないと分からない事だ。
(ファイアローって言ったら鉢巻持たせてブレバだろ……?なのに何故アイツは耐久が高くとも何ともないファイアローというチョイスにしたんだ……?どちらにせよアイツの考える事は分かんねぇが……)
スッ、とルークは掌を香流に見せながら合図を送った。
「耐久がショボいファイアローなんざコイツで吹っ飛んじまいな!!」
「!?」
遂にサーナイトが'はかいこうせん'を打つ構えを始める。勝負を決めに来たと頭で予想するよりもまずこちらも迎え撃つという考えが頭の中で優先される。
咄嗟に「'ブレイブバード'」と叫ぶ香流がいた。
翼から発した白い光が徐々に体を包み、ファイアローは羽ばたく。
香流の周囲にファイアローの羽が舞い、彼がその中の一枚を掴んだとき。
既にファイアローはサーナイトの眼前に迫る。
対してサーナイトは迫り来るファイアローに向かって、最後の切り札を放つその直前のように見える。
ファイアローの与えるインパクトがギリギリ発生するかしないかのタイミングで。
赤と黒の禍々しい光が解き放たれた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.259 )
- 日時: 2019/01/29 14:56
- 名前: ガオケレナ (ID: g3crbgkk)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
その異変にまず気づいたのはルークであった。
ファイアローは直線上から迫り来る何ともシンプルな攻撃方法であったため、その方向に技を放てばいいだけの話だった。
'はやてのつばさ'により速さが一歩勝っているファイアローの攻撃に間に合うか間に合わない時の'はかいこうせん'の発射だった。
だが、ルークが見たのは一直線ではなく、サーナイトから見て斜め上に通った軌跡だったのだ。
(どういうことだ!?あの光の跡を見る限り'はかいこうせん'は打つことが出来た。だがその道筋はファイアローが通った空間じゃねぇ……まさか、外したのか!?)
何が起きたのか分からないせいで頭がうまく働かない中導き出したルークの考えだったが、現実はその予想を打ち砕く。
サーナイトが、彼の目の前で力なく倒れたからだ。
「……は?」
まるで信じられないような物を見ている目をしている。それもそのはず、今視界に映るサーナイトは戦えなくなったポケモンそのものと同じ様子でいるからだ。
戦いを眺めていたミナミからしても、それは戦闘不能となったとしか判断できずにいた。
勝った。
サーナイトを、自分のファイアローが貫いた。
香流は、自身が思い描いていたシナリオ通りになったと思えたことが何よりも嬉しく、また、彼を呆然とさせた。
香流は喜びに溢れたものの、それを顔に出すことはしなかった。やたらと感情を出すこと自体あまり得意ではなかったからだ。
「クソッ!やっぱ間に合わなかったかよ……。そうだ、ファイアローだ。ファイアローはどこだ!!」
ルークの言葉に意識が戦いに戻った香流はそう言えばと辺りを、サーナイトの倒れた付近に目を向ける。
しかし、どこにも自分のポケモンの姿は無かった。
一体何が起こったんだと不安に駆られるが、よく耳をすますとルークの立つ位置よりも遥か後方からパタパタと羽ばたく音が聴こえる。
全員がそこへ振り向くと、ボロボロになり、電撃のようなエネルギーがバチバチと体をかけ巡らせて、翔ぶことにも苦しそうにいるファイアローが佇んでいた。
「ファイアロー!!大丈夫か!?」
香流が叫ぶと、ゆっくりではあるものの、ファイアローは必死にばたつかせるように徐々に香流へと近寄っていく。
ルークの横を通り過ぎたとき、彼は確信した。
「なるほどな……コイツ、ゼロ距離から'はかいこうせん'を受けたものの、その時纏っていたブレバの衝撃によって威力を半減したか。結局命中した'ブレイブバード'によってサーナイトは倒れ、その反動で弾道が斜め上に逸れた、と」
面白くなさそうに分析しながら、ルークはサーナイトを戻す。
「だが、勝負はまだ着いてねぇ」
入れ替えるかのようにルークは、今度はエルフーンを香流に見せつけた。
そのポケモンにかつてない戦慄と恐怖を覚えた香流は、弱りきったファイアローをボールに戻し、ギルガルドを戦闘に出す。
「最後の最後まで相性が悪ぃな」
「これは自分が何よりも気に入っているポケモンなんだ。今度こそ、何が何でも決着をつける」
香流の言葉に笑みが零れたルークだったが、その時彼はギルガルドと同時に、工場の入口付近に人影が増えている事にも気付き、その目には彼らも映っていた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.260 )
- 日時: 2019/01/29 15:07
- 名前: ガオケレナ (ID: g3crbgkk)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
増えた人影たちは工場まで走り続け、その中に自分達の見知った人、即ちミナミがいると気づいた時は足を早めて無防備な入口へと入っていく。
そのせいで彼等のほぼ全員が息を切らしていた。
その中の一人が自分の名を叫んだ気がした。声でそれが佐野だと分かると、香流はホッとした表情を見せる。
「お仲間登場って訳か。ったく、見ていてウザってぇ……」
忌々しそうにルークは睨む。それに刺激されたのか、常磐がボールを一つ取り出した。
「おっと待ちな!!部外者どもよく聞け。俺は今コイツと命のやり取りをしている。もしもこれを邪魔しようってんなら一瞬にして目の前のオトモダチの首をはね飛ばす。こちとらテロリズムやってるジェノサイドなもんでな。そんじょそこらの奴等とは訳がちげぇーぞ?」
試しに安っぽい脅しをかけてみるが、
「今そんなバトルに何の意味があんだよ。俺達は今どうしても会わなきゃならねぇ奴がいるんだ」
流石に深部をこの目で見て死地をくぐり抜けた一般人は違った。
ただポケモンを振り回す人間とは明らかに違う反応だった。
ある程度予想していた事だったのでルークはゾクゾクと沸き起こる喜びを我慢しつつ、ならばと再び違うタイプの脅しをかけてみることにする。
「そのお前らが探してるオトモダチがどこにいるのかぐらい検討はつくだろ。そもそも何で俺が今ここで戦っている?敵対者であるコイツからリーダーを守る為だろうがぁ!!」
ビシィッ!!と力強く且つわざとらしく香流を人差し指で差す。
常磐たちはその言葉と共に、彼の後ろにひっそりと構えてある一つの扉に意識が集中した。
この工場にはまだ小部屋が一つある。
これまでのただ広いだけの土地を走り回り、その最終地点にこの建物が、さらにその奥の一つの扉。
恐らくここにいる全員の考えが一つになっただろう。
「'アイアンヘッド'」
冷たい香流の声がタイミングを破る形で放たれる。
ギルガルド姿が若干身軽そうな外見になると、頭を尖らせて突進してきた。
「おいおい……」
興味深そうな目で眺め、退屈そうに吐くとエルフーンは突如見たこともないような、まるでぬいぐるみのような姿に変身するとただポツーンと、ギルガルドが迫るのを待っているように佇む。
分かる人なら分かったはずだ。
エルフーンはその時'みがわり'を使用した。
ゲームでもおなじみの、同時期にポケモンセンターで販売していた「エルフーンの身代わりぬいぐるみ」と全く同じ姿に変化したのだ。
エルフーン本体がいきなり異空間へと飛ばされたのでどうなっているのかは全く分からないが、身代りが解ければ元に戻るだろう。
結局ギルガルドの攻撃は無防備なぬいぐるみへと当たるとすぐに消滅してしまう。
と、同時に本物のエルフーンが姿を現した。
「香流君のギルガルドは物理型なんだね?」
「あのさぁ松本……」
バトルの状況そっちのけで松本は佐野にふと生まれた疑問をぶつけてみた。
だが、それを指摘しても仕方ないので佐野もため息をつくと話に乗ることにした。
彼が慕われる所以である。
「そうだよ。香流君は幾つかの型を持っているけれど、その中でもあのギルガルドは物理型。それに'キングシールド'も覚えていない、完全な物理一本型だよ。レン君のは'キングシールド'も覚えている特殊型だね。二人ともギルガルド使うからたまに分かんなくなるか?」
「いや……香流君とは何度もバトルしたからそこは平気。ただの確認だよ」
「んだよ……。レンくんは稀にサザンドラとギルガルドを手持ちに加えたコンビ、所謂"サザンガルド"を使っているけれど、元々香流君のをパクったものだからね。香流君もよく言っているよ。ギルガルドのデザインが好きだって。それに加えてサザンドラとのコンビがカッコイイとか、ギルガルドの絵師がロックマンの人とか色々語ってたのをレン君も聞いていたみたいだ」
「ヘェ。このギルガルド、'キングシールド'覚えてないのか。じゃあもうバトルが終わるまでずっとブレードフォルムだな」
常磐の声だ。それが聴こえるとギクッッ!!と松本と佐野の肩が同じタイミングで震えた。
敵であるルークにバレてしまった。何だか物凄く重要そうなバトルなのに、自分達はとてつもない失敗をしてしまったんじゃないかと二人は大量に汗を流してしまう。
だが、「……別にいいっすよ……」と、何だか頼りなさそうではあるが香流もこう言っていたので恐らくは平気だろう。
それに、今の敵のポケモンはエルフーンである。
(相性が良い以上こっちに分がある……。最初に演出か何かで'ミストフィールド'を出した時にもしやとは思ったけど……とにかく好きな鋼タイプのポケモンを多めに持ってきてよかった……。こっちが'アイアンヘッド'を連打するのならば、相手は絶対に'アンコール'はしない……。'やどりぎのタネ'を打つ可能性もあるけど……その後に二発三発とこっちが攻撃すれば勝てる。かなり長めの試合になりそうだけど……この勝負、勝てる!!)
香流は互いが最後の一匹にしてこの状況を見た結果、強い思いを抱く。
ルークもその時に香流の目が変わったことから、何かしら察するものがあった。
(なるほどねぇ……勝負を決めにきたところか……。まァ俺としてもここまでやれたのなら上出来だしむしろここまで上手くやれるとは思わなかった。リーダーだったら泣いて喜んでんだろ)
フッ、とルークは軽く笑うと一言。
「'おきみやげ'」
その瞬間、エルフーンだけに留まらずその場にいた者すべての呼吸が一瞬、止まった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.261 )
- 日時: 2019/01/29 15:14
- 名前: ガオケレナ (ID: g3crbgkk)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ルークを除くすべての人間の目が文字通り点になった瞬間であった。
ここにいた人間は、今叫ばれた言葉の意味と理解ができずにいる。
今、この男は何と言った?
今、自分のポケモンに何と命令した?
バタッと顔を伏せて倒れるエルフーン。それを眺めて呆然とする香流と、一気に疲れを見せ始めたギルガルドの姿があるが、何故今自分達の視界にこんな世界が広がっているのかが分からない。
「はぁ!?!?」
と、耳が痛くなるほどに叫ぶ声もあった。その主はミナミ。
見かけ上味方であるはずのミナミは、ルークの行動が全く分からない。何の意図をもち、そしてここまでやって来たと思ったら突如乱入し出したのか。その理由が理解できない。
本当にただ暴れたかったなんてアホな理由などないはずだ。確実にこの男は何か思うものが、目的を持ってここに来たはずなのだから。
「あ、アンタねぇ!!!」
お淑やかそうなミナミの外見からは想像できない鬼のような顔をしながらこれでもかと怒鳴る。
特に、香流たちのこれまでのイメージを破壊した瞬間でもあった。
「あ……アンタっっ!!何の為にここまで来てしかも乱入して来たってのよ!!散々人を馬鹿にした癖に自分から負けるとかホントに馬鹿じゃないの!?」
'おきみやげ'と言う技は自身を犠牲にして相手のポケモンの攻撃と特攻を大幅に下げる技だ。
相手がギルガルドならばかなり有効な手段であっただろう。
しかし、互いに最後の一匹であったため、このタイミングで使うという事は自ら負けに行くのと同じ。
即ち降伏。
何故ルークほどの深部に精通した人間が一般人相手に負けに行ったのか。
そんな色々な思いが交差して余計にミナミは分からなくなる。
「決まってんだろ。勝ち目が無かったからだ」
「は……はぁ?」
「いや見ろよ。エルフーンとギルガルドで勝てるかっての。'みがわり'や'やどりぎのタネ'打っても追いつかねぇよ。いつか負ける」
「それだったらその時まで戦えばよかったじゃないの!」
「負けと分かっていて長く戦うのは嫌いだ」
いつまでもとぼけているようなルークに対し、ミナミはイラつきしか沸かない。他に何か言いたそうだったが拳を握って震えている辺り今度は言葉よりも先に鉄拳が飛んできそうだった。
それを自覚した上で黙りだしたのだろう。
「おい一般人」
勝敗の付き方にざわつく彼らだったが、勝ったらしいことは勝った。しかし、素直に喜べるはずもなくまるでひそひそ話をしているかのように香流は先輩らの集団にくっついて不平不満、疑問を投げている最中だった。
負けたにも関わらず完璧に下に見ている発言に、常磐が文句を垂れていたが、それが自分を指していると気づいた香流はルークに顔を向けた。
「アレ見ろよ。お前らが求めていたモンがそこにあるからよ」
ルークの親指の先には少し小さい扉があった。
ハッと何かを思い出したかのような顔をして、香流はゆっくりと歩き出す。
「そこに……レン君いんの?」
松本の言葉を合図に、彼らが一斉に振り向く。
「レンいるの?そこに」
「コソコソと最後まで隠れるとはアイツらしいじゃんかよ」
遂に高野に会える。彼らサークルのメンバーの期待に胸が膨らむ中、ルークは歩く香流に対し付け加えるように言う。
「その扉を開けた時、同時にお前は俺のこれまでの行動すべてを理解することになる」
どういう事かと扉の前で立ち止まり、彼の顔を伺った香流だったが、結局何も汲み取れなかったので手に力を込めて思い切り扉を開く。
ギ……と重く古い鉄のような音を響かせたその先に。
少し開けた小部屋があった。
そこの真ん中にはたった一つの古ぼけた椅子があり、
高野洋平が、黒と赤のローブを着たジェノサイドの格好をして深く座りながら静かにこちらを笑っていた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.262 )
- 日時: 2019/01/29 15:24
- 名前: ガオケレナ (ID: g3crbgkk)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「レ……レン?」
顔には出なかったが、香流はとにかく高野に会えたことが嬉しかった。
その証拠に、足取りが少しずつ早くなっていっていく。
空間に限りがあったためはっきりとは見えなかったが、とにかくこの建物にいた全員にその姿が確認できたようだ。
「レン、無事だったんだね?大丈夫?」
早足となり、どんどん近づいていく香流に対し、高野は椅子から立ち上がってにっこりと笑いながら右手を差し出してきた。
その手はまるでやって来る香流を迎え入れているように見え、その純粋な笑顔はかつて彼が深部ともジェノサイドとも関係なかった、"ただの学生として"のかつての高野の笑顔のようだった。
彼らが期待と喜びを背負って高野に駆け寄ろうとすると、
高野洋平は跡形もなく消滅してしまう。
「……えっ、」
急ブレーキでもかけたようにいきなり止まった香流は高野が立っていた地点、今いる小部屋、その小部屋を含んでいるこの工場すべてに目を向けるも、彼の姿はどこにもなかった。
「はぁ?れ、レンは?レンはどこいった!?」
「え、まさかレン君……消えちゃった……?」
激しく狼狽しているのは吉川と佐野だ。何となく声で分かったのと高野関連でいつも動揺しているのがあの二人だったからだ。
「あっ、ちょっと……」
香流の突然の声に、ピタッとすべてが静まり返る。
どういう事か、何があったのか隙間から何人かが香流の背を覗き込むがよく分からない。
その代わり、香流の目には暗闇で蠢く小さな影があった。
「これは……」
それを見つけ、何やら掴んでいるようだが皆からは相変わらず彼の後ろ姿しか見えない。
痺れを切らした常磐がこっちに来いと言う。
その直後。振り返った香流の姿に文字通り全員が絶句した。
香流が両手で、まるで大事そうにゾロアを抱えに戻ってきたからだ。
「香流お前それ……」
「えぇ……。さっきのレンはレンじゃありませんでした……ダミーです」
一人壁に背中を預け、状況を見ていなかったルークがその話を聞くやいなや鼻で笑う。
「だから言ったろう?俺がここに来た意味が分かると」
「意味……?」
「あぁそうだ」
壁から身を離し、再び勝者を見つめる。その目は嗤っていたが。
「俺たち組織に一番大事なものはその組織のリーダーだ。俺たち深部のルールに『組織の長を死なせてはならない』なんて訳の分からないルールがあるからな」
「どういう事だよ。それにお前が関係あんのか?」
こっちの事情に一番詳しいと思えた常磐の声だ。単にすべてを知り尽くしていなかったのか、それとも発想力がないのか。どちらにせよルークは彼に失望した。
「大ありさ。今俺らジェノサイドは大変危険な状態にある。変な組織に喧嘩売られ、同時期に議会……まァ俺たちにとっての政府みたいなモンか?俺はそうは思いたくないがな。とにかく、今はこの二大勢力に追われている身だ。どっちかに捕まった時点で死ぬ。そんな状況で俺達が無傷でいられるにはただ一つ。この組織が存在していること。それに必要なのはリーダーの命って訳だ」
「いまいちピンとこねぇぞ。それにお前とレンのダミーに何の関係が……」
言っている途中で。
常磐は何かに気づいたのか、口を開けたままぼーっと突っ立っている。よく見ると身体が震えているのが分かった。
「……理解したようだな?」
「お、……俺の予想が正しければだが……」
口元が震え、うまく声に出すことができない。最初の方は声が裏返り、やけに甲高い声になってしまう。
「レ、レンは此処にはいない。となると、どこか遠くで一人隠れているんだ……お前は、いや……お前達はレンが逃げるための時間稼ぎをやった訳だな!?」
ルークは笑顔が止まらなかった。
人を騙し、予想通りにハメることが出来てしまう事に興奮を覚えるからだ。
特に相手が純粋な人間だと喜びも大きくなる。
「スゲェな。お前の思った通りだ。俺たちは紛れ込んだお前らを捕らえる為にここまで誘い込んだ……。そして奴が十分に逃げられるまでお前らを離さなかった。それも今果たしたと言える。もう奴は遠いどこかだろうな」
「レンは何処だよ」
「知らねぇよ。俺やここに居るジェノサイドの人間全員はアイツからここに来るようにとしか言われてないんだ。それ以降連絡もねぇよ。知りたきゃ自分で探しな」
「いいから答えろ!!レンはどこにいんだよ!!!」
遂に常磐は怒りを爆発させた。
彼はルークを強く鋭く睨み、拳を固めて怒りが滲み出ている足音を鳴らしながら歩いてゆく。
暴力沙汰に発展されては色々と面倒だ。あらかじめ予想していたのか、吉川と香流と佐野が常磐を押さえ、宥める。
「おめぇはコイツのこの態度に何とも思わねぇのかよ!!」
「思うよ。僕だってムカつく。でも、これはすべてレン君の考えだったんだ。敵は彼だけでなくレン君と考えるべきだよ」
クラスメートの落ち着いている言葉にリラックスしたのか、常磐は拳を緩め、ただ彼を睨むだけで終わる。
「ったくよぉ……」
つまらない映画を見た後の観客のようなため息をして後悔の念に駆られたような寂しい目つきで常磐を睨み返した後にルークは雰囲気を破って第一声を発する。
「大体俺はヤツの事なんか何も知らねぇよ。そこの女の方が詳しいってのに……何で俺ばっかに求めんだよ。おめぇがずーっと喋んねぇからか?あぁ?」
ルークはミナミの方に振り向いてその顔を伺うが、いつ来たのか定かでないレイジが彼女を庇う。
その光景を見て鼻で笑ったルークは仕方ねぇなと小さく呟く。
「俺はヤツの過去なんて知らねぇしヤツがどんな人間かってのも知らねぇ。ただアイツがどんな目的で深部に入り、今こうして何を思って活動しているのかと考えると場所までは分からねぇが何処へ行くかなんてのは想像できる」
「何が……言いてぇんだ」
常磐は佐野の肩を押しのけると彼らよりも一歩前へ出る。聞き取りにくかったのだろう。
「何が……ってアイツの行き先だよ」
ルークは窓に写る真っ白な月と真っ黒な夜空を眺める。アイツも同じ景色を見ているとかと思うとなんだが気持ち悪くなってきた。
「生命の危機に晒され、絶体絶命のどうしようもない状況におかれたとき人間は……、アイツならどうするか?過去を想うんじゃないかな?つまり、今ヤツがいるのはソイツの過去に関係する所……。アイツにとっての大事な所にポッツーンと突っ立ってるだろうな」
ミナミとレイジを含む彼らに笑いを向けた時、大急ぎで工場から出たと思ったら何やらガヤガヤ騒ぎ出した後各々空を飛ぶポケモンを取り出して夜空の闇へと消えていってしまう。
残されたミナミとレイジに一言も交わすことなくルークは下らなそうに舌打ちするとわざとらしく天井を見上げ、棒読みに近い声色でこう言い放った。
「あーあ。負けちまった」
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.263 )
- 日時: 2019/01/29 20:36
- 名前: ガオケレナ (ID: g3crbgkk)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
ジェノサイド改め、高野洋平は一人誰も居ない夜の公園の芝生の上で夜空を眺めていた。
燃える基地から命からがら脱出したものの、これから先が不安でしかなかった。
アルマゲドンはいいとして、議会から逃げ切れるとは思っていないからだ。
「はぁ……面倒だ」
出来ればずっとこうして空を眺めて星でも見ていたい。心からそう思っていた高野はふと夜空から目を離して周りに目を凝らす。
ここは森に囲まれ、農業用のため池を作り、その上を大正時代の線路を復元した西洋風のレンガの橋が架かっている。
長池公園だ。
大学からも比較的近い場所に位置し、平日には子連れや犬の散歩をしにくる人などで賑わっている。当然今は誰もいないが。
森がすぐ隣にあるので時折野生動物の歩く足音や鳴き声も耳に入る。それくらい、静寂に包まれていた。
この公園は高野にとって大切な場所だった。
初めてメガストーンを手に入れたのも、レイジとミナミに会ったのも、学生としての自分が初めて友達に弱音を吐いたのも此処だったからだ。
だが、それだけの記憶であれば恐らく此処には来なかっただろう。もっと前に、偶然だが彼にとってもっと大切な出逢いがここにはあったのだから。
空が汚れていて星はあまり見えなかったが此処は綺麗だ、と高野は思う。
東京にあるのに自然にあふれ、世にも珍しい煉瓦橋が静かに自分を見つめているからだろうか。
この時期の水場は寒いが、彼はローブを着ているため特に寒さは感じられない。
そんな過ごしやすい環境に包まれていた。その様は一種の逃げだっただろう。
草を踏む動物の歩く音がまた聴こえた。
その音のなる方へ顔を向けるも、何も見えない。と、言うよりも不自然に感じた。
足音が森からではなく明らかに自分の方へ近づいているものだったからだ。
遂にその足音は彼に姿を見せた。
それは動物でも鳥でもない。
「ゾロア……?」
一目で自分が常に可愛がっているゾロアだと分かった。
何故なら、すぐさま胸に飛び込んだと思ったら彼が被っているつばが異様に大きい帽子の中へ入り込んだからだ。
頭に乗っかろうとする癖をこのゾロアは持っているからだ。
何事かと思う前に、既に何が今自分の目の前で起きているのか察するものがあった。
「レンならここにいると思ったよ」
聞き慣れた声だった。普段だったら何故か安心する友の声だが、今は不思議と緊張感しか感じられない。
平穏なテリトリーに踏み込まれたからだろうか。
「メンバーがいつもよりも少ないな。先輩は?」
座る高野の目には香流と石井、高畠がいる。確かに他の人達の姿が見当たらなかった。
「レンの居そうな所を片っ端から探しているよ。その為に分かれたんだ」
なるほど、と口に出さなかった高野は彼らから敵意を感じ取らなかったので寝そべろうとする。
頭の中でもぞもぞ動くゾロアを帽子の中から取り出す。
「そのゾロアはレンのだよ」
「知ってる。じゃなきゃ頭に乗っかろうとしねぇよ」
彼らの間に静寂が包む。
しばらくしたあと高野は沈黙を自ら破った。
「……あそこから逃げ切ったんだな」
「逃げたんじゃない。ちゃんと戦った」
香流がやけにはっきりと喋る。口下手な彼がここまで話したがるとなると本当は自慢したかったのだろう。
そんな彼の様子と、再奥の小部屋に用意させたゾロアをここまで連れてきたということは南平の基地で何が起こったのか想像がかなり難しかったが、そうせざるを得なかった。
「それで?ここまで来て何しようってんだよ。よく来れたね、おめでとうとか言われたいのか?」
「違う、レンと約束をしに来たんだ」
声のする方からカチャッと小さな金属音が響く。それくらい静かなのだ。
どういう訳か体を起こして香流を見る。
香流は自らのモンスターボールをポケットから取り出してそれを高野に向けていたのだ。
ただ事ではないと感じ取った高野は草まみれの服を叩いて立ち上がる。ポケットに入っているボールに指先が少し触れた。
「レン、みんなと約束してくれ。今からレンはこっちと戦って。レンが勝ったらもう好きにしてもいい」
いきなり何を言い出すんだコイツと面倒臭そうに香流を見つめる。しかし、彼の目は、声は本気だ。
「勝負は三対三のバトル。先に三体のポケモンを倒した方が勝ち」
「おいおい、俺が負けたらどうするってんだ?」
何故か告げていない、高野が負けたらどうするのか鋭く指摘する。暗くてよく見えなかったが多分この時香流の顔は一瞬曇った事だろう。
「レンが負けたら……もう二度と深部と関わらない……。そう約束するんだ」
その声に高野は目が覚めたかのような衝撃に襲われた。まさか自分の友達からこんな事を言われるなどと想像したことがあっただろうか。
「お前にしては珍しくジョークを言うんだな……。俺がどんな人間か分かるのか?俺はただの大学生にして深部最強の組織、ジェノサイドのリーダーだぜ?」
まるで小さな子供が気の利いた台詞を言った時のような親の顔をして高野は香流を、石井を、高畠を見つめる。
どこまで本気かは分からないが、とにかく香流本人からは覇気を感じる。戦いの予感がした。
草むらに放り投げられたゾロアは寒かったのか、急いでジェノサイドの体を駆け巡り、再び帽子の中へと吸い込まれる。
ふぅ、と高野は肩の力を抜きながら息を吐く。
相手が戦う意志を示している以上拒否することも逃げることも許されない。
何故なら、高野はジェノサイドでもあるからだ。
戦わない理由などない。
冬の闇と静寂に包まれた平和な空間で、二人は遂に拳を交える。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.264 )
- 日時: 2019/01/30 09:59
- 名前: ガオケレナ (ID: QXFjKdBF)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
香流はゲッコウガを、高野はロトムを、それも、水タイプが付いているウォッシュロトムをそれぞれ召喚する。
「ゲッコウガ」
「ゆけっ、ロトム」
放った直後にはロトムは電撃を飛ばし、それが一直線にゲッコウガへと突き進んでいく。
「ゲッコウガ、'れいとうビーム'!」
命令に呼応する形でゲッコウガの口から冷気が発射され、光線となったそれは電撃とぶつかりあい、打ち消された。
同時にゲッコウガのタイプが氷タイプとなり、以前よりもロトムに対して耐性を持つ、見えにくい"逃げ"を見せてゆく。
(これならまだ戦えるけど……。こちらから出せる対抗策が……)
香流は悩みに悩みまくり、このポケモンの真の姿を見せつけることを決めた。
「'ダストシュート'」
直後、高野の顔が強張り、さらにゲッコウガの足下から大きな毒々しい塊が生み出されるとそれを蹴るようにしてロトムに思い切りぶつけてきた。
(ゲッコウガが'ダストシュート'!?こいつ、一体……)
高野は自身が持っているアルファサファイアの殿堂入りが済んでおらず、そのため、ゲーム内でチャンピオンになったその先に教え技があるという事を知ってはいなかった。
情報不足とも言うべきだが、一度作ったポケモンは再び育成しないという高野の変わった考えに沿っている行動パターンの表れでもある。
もし、これがなければポケモンの育成サイトのゲッコウガの欄にきちんと「教え技:ダストシュート」があったはずだからだ。
動きの鈍いロトムは上手く躱す事が難しそうであった。
巨大なエネルギー弾をその小さい身で思い切り受けてしまう。
ドンッ、という鈍い音がした。
吹き飛んだロトムは二度三度と地面をバウンドすると、芝生の上で引き摺られて倒れてしまう。
「教え技だよ。このゲッコウガは……」
「両刀型ってか。つくづく面白い型作るよな、お前」
序盤から攻める香流であり、ロトムに負けない自信はまずあった。言葉一つ一つの重みから何となく察する事ができる。
それに合わせると高野は序盤から攻められている身である。
にも関わらず笑っていた。
「ブツリ、ガタ……」
そのボソッと、不気味とも狂気とも思える不協和音のような高野の低い声が変に意識が向いてしまい、香流の耳に妙に残る。
「後悔する事だな。ソイツがもし、普通のゲッコウガだったら、となぁ?」
一瞬高野が何を言いたいのか分からなかった。
しかし、
何故か、
ゲッコウガから離れて芝生で横たわっていたはずのロトムだったのに。
そのゲッコウガの足下で倒れているのだ。
「ん?」
最初、ロトムは何らかの形で瞬間移動したのかと思った。
だがロトムにそんな力は本来は無い。だからこそ不自然だった。
しかし、そんな考えている途中に嫌な予感が駆け巡る。
普通のゲッコウガ。つまり特殊型のゲッコウガだったら、と。
もしや、と。
一つの答えが導き出される。
「まさかそのロトム………ッッ!!」
「……'カウンター'……」
命令の途中にゲッコウガは大きく吹き飛ばされ、池の上を飛び、風圧で水すらも飛び散らせ、池を挟んだ向こうに構えている橋を構成しているレンガ、即ち壁となった橋にぶち当たると、起き上がることはなくなった。
香流はゲッコウガと、高野と彼の前に立つロトム。に化けていたゾロアークを交互に見る。
その後は何かに気づいたかのようにゲッコウガの元へと走ろうとした。
「いいよ。あたしが行く」
香流を止めた高畠が手を差し出す。ゲッコウガのボールを渡せと言っているのだろう。
「ごめん。わざわざありがとう」
純粋な深部のポケモントレーナーとすれば命の次に大事なモンスターボールを絶対に人には渡さないだろうが、香流は何の抵抗もなく高畠に渡した。
高畠もボールを渡されてすぐに飛び出すように駆けてゆく。
「よくもまぁ、あんな事できるよなお前」
高野は二人のやり取りを見て呆れとも寂しさともとれる目をして言う。
「たとえ信頼できる人でも、大事なポケモンを他人に渡すなんて事俺にはできねぇや」
「でも、こっちと高畠は友達だから……」
「そうじゃねぇよ。もっと根本的にだな」
結局それ以降は何も言わずにバトルを続けろとでも無言の圧力をかけていく。
ゲッコウガをボールに入れ、戻ってきた高畠から香流は自分の相棒を受け取ると、すぐさま次のポケモンを戦場へと送る。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.265 )
- 日時: 2019/01/30 10:16
- 名前: ガオケレナ (ID: QXFjKdBF)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「頼む……っ!ヌメルゴン!」
香流が次に選んだのは彼が特に愛着の持っているギルガルドやサザンドラではなく、ヌメルゴンであった。
高野が特殊一本のゾロアークを使っているせいだろうか。
「メンドくせぇ……」
「勝つためだからね」
香流は正直に、且つ、たとえどれほど追い詰められようと挫けない強い思いを表した本音のように言ったのだろうが、高野からするとため息の出る思いだった。
彼らしい言葉じゃないからだ。
「お前さ、なんでそんなに頑張れるの?この戦いに仮に勝ったとして、お前に何が残る?讃えられるほどの物はねぇぞ?」
香流という人間は強く勝ち負けに拘らない人間だったはずだ。なのに今回はやけに結果に拘ろうとしている。
普段から遊び感覚でバトルを行っていたはずなのに、今はその遊びの部分が全く見られない。
そんな事を高野は指摘してみる。
「別に、褒められることが目的じゃないし、このバトルによって得られる物のために頑張ってなんていないよ」
「じゃあ何でだ?お前をそこまで頑張らせる原動力は一体何なんだよ!」
心の叫びと共にゾロアークが'ナイトバースト'を放つ。
命令無しに動くゾロアークに最初は戸惑いはしたものの、隙を見せてはいけないと本能が悟ったのか、香流は間髪を容れずにヌメルゴンに'りゅうのはどう'を打つように伝えた。
互いの光線がぶち当たると爆発を発生させ、そこから出た黒煙で二人の視界を奪う。
真っ暗な景色の向こうから微かに声が聞こえてきた。
「原動力?そんなもの、レン以外に何があるんだよ」
高野はまず眉間に皺を寄せた。
最初は聞き間違いかと思ったからだ。
「去年、こっちや高畠、石井に岡田……。その時はまだ会ってはいなかったけど北川や吉川も皆同じ大学に入学した。その中にもレンはいたはずだ」
「それがどうした。話題逸らしてんじゃねーよ」
風が少し強くなった。それは、黒煙を早く飛ばすことに貢献している。段々と見えてきた。香流とヌメルゴンの姿が。
「あの時、いや、今年の夏までかな。皆で色々な事をしたのを覚えている?動物園行ったり、海行ったり、合宿とは名ばかりのただの旅行をしたり、冬の山を登ったり。今思えばアホな事ばっかだったと思うけど、その時レンは笑えた?」
「……」
高野はただ無言を貫いて香流の言葉を聴く。彼が何を言いたいのかいまいち分からないが、それまでの記憶が蘇ってくるのも事実だった。
「こっちが覚える限りでは、レンは常に笑っていたと思う。裏表のない、正直な笑顔を。そこには深部とかジェノサイドとかは関係ない。ただ馬鹿な事やって楽しんでいるただの学生としてのレンがそこにはいたんだ」
「ダラダラと長ぇな。イライラしてくんだが」
トゲのある高野の言葉を無視して、それでも香流は続ける。高野は合間に舌打ちを何度もした。
「そんな学生としてのレンを、こっちや皆、先輩たちが望んでいるんだ。またあの時みたいにバカやって楽しみたいんだ!レンだって、前に此処でそれを望んでいた事を話してくれたじゃないか!!」
「口で簡単に言ってるけどよぉ……、こっちの闇はそう簡単に抜け出せるほど浅くはねぇんだ。俺みたいな人間は一生出れねぇ。お前らが本来ならば手出しできねぇような深い闇なんだよ」
「それでもやれる事は何でもやるんだ!本当だってレンも"こっち"に来たいんでしょ?無理してまで深部なんかに居座りたくないんでしょ?たとえ皆と会う前からレンが深部に居たとしても……深部の過去に何かがあったにしても!!あの時確かに存在していたレンが幻ではなく本物だとしたら、それだけで頑張れる!困ってる友達がいたら助けるのが本当の友達ってもんじゃないのかよ!?」
もしも高野にジェノサイドというメンツがなければその場で感動していたことだろう。
だが、深部の頂点という重すぎる枷がそれを許さない。
「たかが一般人が……。こっちの世界に踏み出してまで何だ?俺を連れ戻す?気持ち悪い事言ってんじゃねぇぇよぉォォ!!」
眉と目がくっつくのではないかと思うくらいに目を見開き、奥歯を噛み締めた後に思い切り叫んだ。
まるで思春期真っ盛りの子供が誰にも言えない不満を誰も居ない場所で思い切り叫んでストレスを解消しているかのように。
その時の景色に似ていた。
高野は、誰にも頼らない生活を続けてきたのだから似ているのも無理はなかった。
「ただでさえ見たくもねぇテメェらをよりにもよって戦場で二回……。二回だ!いや、今回も含めたら三回か。何でよりにもよってテメェらから進んでこっちの世界に入ってくんだよ!」
「たとえどんなに危険でも、それでもレンを助けたい」
その時遂に高野は話では解決しないことを悟った。
彼等に何を言っても最早意味は為さないだろう。どんな罵倒を浴びせてもだ。
だからこそ、強い眼差しでゾロアークを見る。
「分かったよ。だったら本気でかかって来いよ。テメェのくだらねぇ思いを叶えたかったら、このゾロアークを倒してみろよォッ!!」
今度も命令無しにゾロアークは'ナイトバースト'を放つ。煙の晴れた、公園の外灯だけが放つ決して明るくない視界を、今度は赤黒い爆発で埋め尽くされる。
今回は反応が遅れた。
元々身軽でないヌメルゴンは一歩遅れたせいで飲み込まれてしまう。
爆発が消え去ると、倒れたヌメルゴンは目をパチパチさせながらも難なく立ち上がった。
数多の敵を葬り去った'ナイトバースト'でも、流石にヌメルゴンは倒れない。その特殊耐久の前にはビクともしないようだ。
だがもたらした恩恵は小さいものではなかった。
「命中率が……」
「言ったそばから綻び見えてんぞ?どうせもう'りゅうのはどう'しか出せねぇデカいだけのポケモンなんてもう怖かねぇよ。くたばれ」
香流が命令を言おうとしたとき、ヌメルゴンが攻撃しようと動いた瞬間、ゾロアークは走る。
ヌメルゴンにひたすら近づき、相手の動きを封じるように。
使う技は一つ。'ふいうち'だ。
特防がどんなに高くとも、'ナイトバースト'を打ち消せる程の高火力をもつヌメルゴンだとしても、必ず弱点はある。
ただでさえ低い物理防御だ。
物理技を打てばそれなりのダメージにはなる。高野はそう考えた。
技を打つ直前の全てにおいてガラ空きのヌメルゴンに肘を使った'ふいうち'が炸裂する。
ドン、とみぞおちを思い切り殴られたような痛々しい音が聴こえたと思ったら、
ゾロアークが一人でに倒れた。
「な、に……?」
高野はまずこれが幻影かどうかを見極めようとしたが無理だった。流石に使い慣れたゾロアークであってもイリュージョンか否かは分からない時がある。
その力なく倒れた様は戦闘に負けた時と全く同じであった。だからこそ分からない。
ヌメルゴンの攻撃が間に合ったのかとも思ったが何もできなかった間の出来事だったのでその可能性はない。
さらに、ゾロアークの動きが幻影でない事を証明する事実がまた一つ。
それは香流の言葉だった。
「'りゅうのはどう'しか打てない?レン、それは間違ってるよ。もしかして持ち物が"こだわりメガネ"かと思った?」
その通りに、高野は終始ヌメルゴンの持ち物が"こだわりメガネ"かと思っていた。しかし違うとなると、さらにそれがダメージを与えるものとなると導き出される答えがひとつあった。
「"ゴツゴツメット"だよ」
自信満々の香流の言葉に、高野はまた舌打ちをする。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.266 )
- 日時: 2019/01/30 10:29
- 名前: ガオケレナ (ID: 5ySyUGFj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
いくら過去を悔やんでも仕方がないので高野は無言でゾロアークを戻す。
次に選んだボールはゾロアークと同じくダークボールであった。
「ドラゴン対ドラゴンって中々面白そうじゃねぇか?いけ、オンバーン……」
「なんだか遊びの要素があるね?本気で戦ってる?レン」
「本気に決まってんだろ。これで俺が負けたら深部辞めなくちゃいけないんだろ?」
不自然だと思われるそのチョイスに対して問いかけてみても、高野はただ悪戯をしているような笑みしか帰ってこない。
「……'りゅうのはどう'」
「'エアスラッシュ'」
互いの技が打たれるかと思うと押しに押され、ついには打ち消されてしまう。
起こされた爆発に対し、ヌメルゴンはモロに煙を被るが、オンバーンは空に逃げることによって被害から逃れる。
ヌメルゴンや香流からは遥か遠くに位置するオンバーンだったが。
「'エアスラッシュ'」
命中させる難易度、視界の悪さを全く考えない高野の声が無駄に響く。
幾度も爆発音が鳴ってはいても結局はどんな変化も起き得ない。それくらい静かだった。
煙が晴れ、いなくなったオンバーンを探そうと香流も必死にって首を回しているが、そのうちにヒュン、と風を切る鋭くも微かな音を捉えた。
その方向を向くと闇に紛れたオンバーンが再び'エアスラッシュ'を撃ったその瞬間であった。
「そこだ、ヌメルゴン!」
相手の攻撃を受けると言うよりも見つけた事の方に意識が働く。
ヌメルゴンはそんな自身の主の反応を見て'りゅうのはどう'を打った。
口元から発射された光線はあらぬ方向へと飛んでいる幾つかの白い衝撃波にぶち当たり、威力の弱まった光線をオンバーンが受けてしまう。
空中でボン、と物騒な音がすると、真下に向かって垂直にオンバーンが落ちてゆく。
「おい、オンバーン!」
高野の叫びに反応し、意識を取り戻したのか、地面スレスレのところをオンバーンは体を捻って直撃を回避する。
その後はゆっくりと翼を羽ばたかせ、徐々にスピードを緩めて優しく着地した。
「面白くねぇ戦いだな」
高野は誰に対して言っているのか自分でも分からないただの心の不満をぶちまける。
すると、真面目な香流がそれに一々反応するのはよくある光景だ。
「本気のバトルってのはもっと殺伐としているものだよ。それを一番知っているのはレンじゃないの?」
「いや、どうだろうね」
やっぱり香流は一般人だと改めて認識する。これまでに幾度もしたの戦いに突っ込んでは来たが、それでも本質は変わっていないことに高野は態度には表さないが安心する。
「俺は今まで命を狙われる戦いをしてきた。常に追って追われてね。別にマゾを気取る訳じゃないけど、命の危機に陥ると不思議とワクワクしてくんだよ。次はどんな手を使おうかってね。でもこのバトルは殺意というものを感じねぇ。文字通りただの戦い。そんな意味では俺は敵意も殺意もないバトルをやるのはかなり久しぶりかもな」
香流はその時、高野の顔が段々と緩んでくるのが確認できた。緊張感に包まれた雰囲気だったが、それがいつの間にかなくなってきている。
仕舞いには"あの頃の"ような小さい笑顔も見せている。
「じゃあ、このバトル面白くさせてもいいよね?」
フッ、と。
地面に立ったオンバーンの姿が突如消える。
どこに消えたのか、頭の理解が追い付いた時にはヌメルゴンの眼前にそれは迫っていた。
そして、
「'いかりのまえば'」
おどろおどろしい高野の声と共に、オンバーンがヌメルゴンに思い切り噛み付いた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.267 )
- 日時: 2019/01/30 11:39
- 名前: ガオケレナ (ID: 5ySyUGFj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
オンバーンの鋭い牙が、ヌメルゴンの柔らかい体を傷付け、それは今のヌメルゴンの体力を大量に奪う。
ゲームの画面だったら一気に体力ゲージが半分削られていたことだろう。
特殊技で攻めるのが難しいヌメルゴンに対し有効打を打ったことで優位になったと思った高野はオンバーンに距離を取るよう命令する。
恐らく次あたりで'りゅうせいぐん'を決めて勝負に出るつもりだった。
だがその動きに異変があった。
その動きというのはオンバーンがただ羽を羽ばたかせて後ろへ、高野の近くまで飛んで移動するだけの簡単なものだったが。
(動きが……遅い!?)
明らかに呼び出した最初の頃とは違いが丸わかりなくらい遅く見える。よく見ると翼がべとべとしている液体に塗れ、たいへんに重そうだった。
この異変が起きるとするならば'いかりのまえば'を放った時にしか考えられない。この技は接触技であり、オンバーンにあのような効果をもたらすにはヌメルゴンの特性以外考えられない。
「まさか、お前……っ!?」
「この時を待っていたよ!レン!!」
珍しく勝ち誇るような香流の笑みを見た気がした。と、なるとこの後に来るのは反撃か。
「「'りゅうせいぐん'」」
二人が同時に叫ぶ。
香流は、ヌメルゴンから逃げようとするも逃げ切れなかったその瞬間のオンバーンを狙い。
高野は負けじと咄嗟に相手の技を打ち消そうと思い付いたものだ。
両者共に美しくも恐ろしい隕石の群れを地上に落とす。
しかし、ヌメルゴンの特性'ぬめぬめ'によって素早さを下げられたオンバーンが一歩遅れる。
空中で交差した星たちは互いに衝突し、打ち消され、爆発する。
しかし残った隕石がオンバーンめがけて地上へと降り掛かってきた。
「避けろっ!!オンバー……」
高野はそんな風に吠えるも、言っている途中に自分でも気付いてしまう。間に合うわけがないと。
鈍くなり、無理して技を放つオンバーンには、もうそこまでのポテンシャルが残されていない。
天空からの暴力に、オンバーンは避けることができず埋もれてしまった。
確認せずとも自分のポケモンが倒れた事は分かっていた。
高野はボールを取り出すとオンバーンを吸い込ませる。
ボール越しに確認してみるが、やはりオンバーンは戦闘不能だった。
高野は心の中でため息をつく。まさか香流がここまで追い込んで来るとは思わなかったからだ。
高野はまずヌメルゴンと香流を睨むように見つめる。
これまでの猛攻があったからか、ヌメルゴンはかなり疲れているようだった。倒すのには苦労しなさそうだ。
次に香流の顔を伺うも、彼は次はどんなポケモンが来るのだろうかと期待しつつも緊張しているような表情をしているようにも見えた。
「次はロトム?」
香流はこんな事を言ってきた。ゾロアークの変身先がこれだったからか。
「いや、ロトムはどうだろうな。ゲームだったら最後の一体として出さなきゃならないがこの世界では必ずしもそうでなければならないなんてことはない。お前とのこのバトルは手持ち六体のうち三体のルールだからな。手持ち以外のポケモンに化けるのは流石におかしいがロトムは六体のうちに含まれている。だがその中の三体に含まれるとは限らねぇぞ」
「じゃあラティアス?」
その言葉に高野は肩が一瞬震える。
明らかに寒さのせいではなかった。
「あの時の……ゼロットに勝ったラティアスを使ってみてよ。あの人が駄目だったんだ。こっちに対しても……。絶対に負けられない戦いならば、ラティアスを使うべきだ」
どこまで余裕を見せているんだと高野は忌々しい思いに駆られる。
確かに、彼の言う通りゼロットをも翻弄させたラティアスを使えば恐らく香流には勝てるだろう。
だが。
(そう簡単に……決心が着くかよ)
高野はラティアスのモンスターボールを取り出さない。
いや、取り出す事が出来ない。
それを使うに必要な覚悟が大きすぎる。
そこにあるのは、数多の理由と精神的な強がり。
そして、いつしかそんな覚悟はこのように変化していく。
ラティアスを使わずして勝つ。
そう思いながら高野はモンスターボールを取り出す。
オシャボを好む彼がモンスターボールを使うことが逆に珍しいことであった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.268 )
- 日時: 2019/01/30 11:48
- 名前: ガオケレナ (ID: 5ySyUGFj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
高野が最後の一体のモンスターボールを構えたとき、一層風が強くなった。
冬の冷たい風はその場にいる者を凍えさせる。
二人の戦いを眺めていた高畠と石井は特にそうだった。
高畠は「さむっ」と言いながら鞄から毛布を取り出して自身を包み、石井は近くのベンチに座って体を丸くしつつどこかに電話を始めた。
高畠が誰に対してなのか聞くと、石井は通話の合間に「先輩たち」と言った。恐らく高野の居場所を伝えようとしているのだろう。
そんな二人を視界に映すこともせず、高野は一点を見つめる。
香流とヌメルゴンだ。
「……コイツは俺にとって……。俺の中での最高傑作だ。ド派手な技を打ち出すのとは訳が違うからつまんない戦いになるだろうが俺はそうなっても構わねぇ。俺はコイツで勝負を決める」
そう言ってボールを頭上に掲げると、そのまま上に、遥か上空を目掛けて思い切り投げた。
そして叫ぶ。
「さぁ姿を現せ!ボスゴドラ!!」
その言葉に呼応し、銀の巨体を持つ怪物は腹の底にまで響く振動音と辺りに砂埃を撒き散らして遂に顕現する。
「……ボスゴドラ!?」
香流はそのチョイスの意外性を感じ、ただ驚く。
このタイミングで来るとは思わなかったし、高野がそのポケモンを使うとは思ってもみなかったからだ。
それは二体目の物理主体のポケモンであるという理由も含めて。
ゆっくりと、高野は黒いローブの内ポケットから細く白い杖を取り出す。
その杖は杖と呼ぶには小さく、歩行用としての機能が全く無い代物のように見えた。
だが、その取っ手部分が何かに反応するかのように白く光っている。
また、香流がこの光景を見たのは二度目であった。幕張でのゼロットと戦い、メガラティアスを呼び出した時だ。
ここまでの戦いとは空気が一変し、言葉には表しにくい恐怖感と緊張感が辺りを包む。
香流は恐怖に駆られ、口元を手で隠す。どうやら顔を守りたかったようだがうまく出来ていないようだった。
ボスゴドラの持つメガストーンも杖に反応してか光り始めている。まるでボスゴドラ自身が輝いているようだった。
「行くぜ……メガシンカ……」
杖の先端を天空に向ける。
するとその杖の先からは、からまるで魔法が放たれるかのように、それまで覆っていた光が放出されると、大きな弧を描いてボスゴドラへと集まってゆく。
なお一層強い光に包まれたボスゴドラは強いエネルギーを浴びて少しずつその姿を変えてゆく。
光が消え、その身が自由になった時には。
ゲームにて"メガボスゴドラ"と呼ばれているポケモンがそこにはいた。
ーーー
「もしもし?真姫ちゃん?どうしたの?えっ?」
闇一色の湖に佇み、携帯から聴こえる声に佐野は叫ぶ。
彼は恐らく混雑時での電話を取る機会が多かったのだろう、電話時に叫ぶ癖がついてしまっている。
「うるせーよ……誰も居ねぇだろが」
鬱陶しそうに目を細めたのは同じ場にいる常磐だった。
彼らは、佐野、松本、船越、常磐、吉川の五人は今とある湖にいた。
そこは高野の地元から近く、また彼が過去に頻繁に訪れていた場所だったからだ。
だが、夜中の湖に人がいる訳がない。すぐ近くに高校があるが、そこの高校生もここを出歩くのは昼間だけである。
「レン君いないねー」
湖と公園が繋がっているため、面積もそれなりにある。加えて真っ暗で外灯もないため、自分たち以外の人間を探すのが難しい。
それを理解していながらも、松本は吉川と一緒に公園を見て回るも、結果が見えてこない。
吉川に至っては松本が探す低木のすぐ隣にあるテニスコートを眺めている始末だ。
「……ま!?………………るの?今、……ン君……探……」
遠く離れているはずなのに佐野の声が微かに聴こえる。松本は苦笑いしながら吉川とそんな事で話題を持ち出すも、彼は「そうですね」しか言わない。
「どうかしたの?吉川君」
「いえ、レン見つからないし寒いし暗いしでちょっとやる気になれなくて」
「なんだ、そんな事か。無理しないでいいからな?早くレン君見つけて戻ろうや」
「それなんですけどね、松本先輩」
と言って吉川は寄りかかっていた冊に対して体の力を戻して離れる。よろけること無くピタッと姿勢を正した。
「仮に今日までにレン見つけたらどうするんですか?」
「えっ、」
それは当然レン……高野を深部から救い出すことだろうと言いそうになる。
これまでに彼らはその為だけに高野を追って八王子まで来たのだから。
でも、それからはどうやって?
その場のノリで動いてきた彼らは上手く言葉に言い表すことができない。
それでも、適当な感じで「レンくんたすける」と言うと案の定「どうやってですか?」と言われる。
悩みに悩んだ末に折れた松本は「そもそも発端と言うか一番初めにレン君の深部事情を持ち出したのは吉川君なんだから吉川君言ってみてよ」とすべてを後輩に委ねてしまう。
しかしそこは後輩。
腕組んで「う〜〜〜〜ん」としばらく言ってみるものの、「無理ですね、わっかんねぇ!」としか言わない。
「なんだよそれ!」と松本が吉川の肩を笑いながら叩く。吉川も苦笑いしている。
二人が適当且つ自由にほっつき歩いているその時の事だった。
佐野が、
「レン君を香流君たちが見つけたってーー!!!」
と思い切り叫んだ。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.269 )
- 日時: 2019/01/30 11:57
- 名前: ガオケレナ (ID: 5ySyUGFj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
試しにまず'だいもんじ'を放つ。
逃げられるスピードを進化の過程で失ったメガボスゴドラはその炎をモロに浴びるも、顔色一つ変えずにそこにどっしりと構えるだけだった。
高野が言うに、このボスゴドラの性格は慎重で特防を主に伸ばしているらしい。加えてヌメルゴンの特攻は先程の'りゅうせいぐん'で大幅に弱まっている。まともなダメージにはならなかった。
その後高野は'ステルスロック'と言い、ボスゴドラはヌメルゴンの周囲に小石をばら撒く。ただそれだけの事だったが。
それのすぐ後にボスゴドラが突進してきた。
頭を突き出し光らせて走ってくるにあれは恐らく'アイアンヘッド'だろう。
香流は迎え撃つようにヌメルゴンに再び「'だいもんじ'」と言い、ヌメルゴンはそれを命中させるも、それでボスゴドラの動きは止まらない。何事も無かったかのように突き進んでくる。
「ダメか……っ!?」
尖ったツノを含めてボスゴドラはその頭で頭突きをかます。
'ぬめぬめ'の対象として素早さが下がるも、元々遅いボスゴドラには何の意味もないように見えた。
反動で後ろに倒れたヌメルゴンは立ち上がれない。香流がよく確認すると戦闘不能のようだった。
だが悩む素振りも見せずヌメルゴンをボールを戻すとすぐに次のポケモンを繰り出した。
「ロトムが来ないのなら安全にコイツで戦える!」
香流のその声と、そのポケモンを見た時高野は「失敗した」と思ったことだろう。
それも、ロトムを出さずにボスゴドラで戦ったことではなく、ロトムを見せてしまったことにだ。
香流が最後に出したのはメガシンカの要素が見られない、至って普通のバシャーモだった。
「……勘弁してくれや。ボスゴドラでどうやって立ち向かえってんだよ」
「だからこそ、こっちは安心かつ安全にこれで戦えるんだ」
読み間違えた、と高野は素直に心の中で間違いを認める。しかし今はもう後戻りできない状況だ。
どうにかしてボスゴドラのままバシャーモに勝たなければならない。
だが、必ずしもその読みは間違いではなかったようだ。
ばら蒔かれた小石が突如巨大化し、浮遊し始めるとその石はバシャーモを挟みだす。
突然の攻撃に驚くバシャーモであったが、ヌメルゴンでない別のポケモンが飛び出したことによって'ステルスロック'が反応しただけである。
香流は改めてまず、「'フレアドライブ'」と言うとバシャーモが炎を全身に纏わせて突っ込んできた。
今度は向こうが突進してくる番か、と高野は勝負の最中というにも関わらずどうでもいい事でニヤニヤした。
負けじと高野も'アイアンヘッド'を命令し、互いの体をぶつかり合わせる。
しかしどちらも吹っ飛ばされることもなく、その場で静止しているくらいに見えるほどの拮抗を見せた後に突如として爆発を起こした。
ボスゴドラは少し後ろに引き下げられ、バシャーモは軽々とひとっ飛びのジャンプで香流の元へと戻る。
(普通のバシャーモかよ……メンドくせぇポケモンばっか使いやがって……。まぁあいつらにメガシンカの技術が無いのは当然か)
と、さも余裕のように思える高野だったがバシャーモの動きに不思議なものがあることに気づくのも同じタイミングだった。
まず、自分からダメージを受けている。
そして、段々と速くなっていっていることだった。
(コイツ……まさか'かそく'のバシャーモに"いのちのたま"を持たせているのかよ!?)
そんな恐ろしい事実を見てしまった高野は、再度'フレアドライブ'を受けるもピンピンするボスゴドラに'でんじは'を撃つように指示した。
すぐさま小さくてパチっとした電撃がボスゴドラの手の上で遊んでいるかと思うと、その瞬間にバシャーモの体が痺れ出す。
瞬間の苦しさにバシャーモは、つい片足をついて無防備になった。
そのタイミングを狙い、ボスゴドラが'アイアンヘッド'で華奢なバシャーモを吹っ飛ばす。
高野は、ここから麻痺と怯みの戦法に切り替えたのであった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.270 )
- 日時: 2019/01/30 12:04
- 名前: ガオケレナ (ID: 5ySyUGFj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
「まさかレン……、麻痺と怯みを狙ってこんな戦い方を……!?」
効果が今ひとつの技であったこともあり、吹っ飛ばされたバシャーモは痛がりはしながらも平然と立ち上がる。
「普通にぶち当たっては勝ち目なんてないのは明らかだろ。だから俺はやれる事は何でもするぜ?勝てない相手と当たった時はそれでも勝てる方法を模索し、それでも勝てなかった時は逃げる。この世界で大事なのは勝負の勝ち負けよりも命の有無だからな」
「それはつまり、こっちがレンより強いってことでいいのかな?」
「勝手に言ってろ」
'フレアドライブ'を撃とうと身構えたバシャーモだが、麻痺で体が震え、まともに動くことができない。
バシャーモは再びボスゴドラに吹っ飛ばされた。
「くそっ!このままじゃ本当にダメだ!」
「どうやら運も俺の味方のようだな。このまま何度かブチこめば勝つのは俺かな?」
思うように動いてくれないバシャーモを見て握り拳を震わせる香流だったが、目の前のボスゴドラを見て一つ、思い出す。
(待てよ……?今こっちのバシャーモは麻痺で素早さが下がっているけれど……。あのボスゴドラはヌメルゴンの'ぬめぬめ'でただでさえ遅い素早さがさらに下がっている!!つまり!)
本来は遅いボスゴドラだが、ターンを重ねる毎に速くなるバシャーモならボスゴドラに追い付き、さらには追い越せる事もできるかもしれない。
その為には、ひたすら時間を稼ぐしかない。
それが今なのか、もうちょっと後なのか。目で見るだけでは分からない。
「遅いボスゴドラなら避けることはできないよね?だったらこれはどう?」
香流はバシャーモを見つめると、目で何かを感じ取ったのか、バシャーモは深く頷く。
すると、バシャーモは痺れに耐えながら徐々に加速する足で駆け、ボスゴドラの2m手前で突如ジャンプした。
「攻撃する手前で跳ぶのか?一体これは……まさか!?」
「そのまさかだよ!'とびひざげり'!!」
空中で狙いを定めたバシャーモはその場で膝を折り曲げ、真下にいるボスゴドラ目掛けて体を落下させる。
のが理想だった。
バシャーモの落ちる速度がおかしい。
普段見せる、対象のポケモンに合った速度の調整を一切していないように見えたのだ。
まるですべて身を委ねて飛び降りる感じ。それにそっくりだったのだ。
そして、ボスゴドラに近づくにつれ、それがおかしいことに香流も徐々に気づいていく。
(待って……?いつまで経っても膝蹴りをしようとしない……?まるでただ落ちるかのような……、違う!!あれは空中で痺れているんだ!このままだとボスゴドラの立つ所の少しズレた位置に落下するだけだ!!)
膝を折り曲げ、狙いを定めた時だった。
遂にバシャーモは痺れに耐えられなくなった。
ピクッと痙攣し、力の抜けたバシャーモはそのまま真下へ、ボスゴドラの手前へと落下していき、ついに地面に思い切り激突した。
バキッと耳を塞ぎたくなる嫌な音が響く。
バシャーモがその場で足を押さえて叫び、無防備なところを三度'アイアンヘッド'でその体を回転させながら宙を舞った。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.271 )
- 日時: 2019/01/30 12:11
- 名前: ガオケレナ (ID: 5ySyUGFj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
不穏な音とバシャーモの叫び声で試合を眺めていた石井と高畠は耳を塞ぎ、目を瞑る。
その後すぐにドン、と突進をかます音も聞こえた。
バランスを崩し、一回転した後にバシャーモは転倒、ゆっくりと立ち上がるが力が残っていないせいか起き上がるだけでも時間を要した。
それを見た香流は自身の最後のポケモンの体力がもう残されていない事を察知し、また高野も自身の勝利を確信する。
このままだと勝てる、と。
「お前のバシャーモ、もうキツいんじゃねーの?相性は依然俺が不利だがそもそも相性なんてのは本領を確実に且つ完全に発揮できて初めて決まるものだ。この調子だと最早そんな壁は無いように思えるがな」
自身に満ちたジェノサイドに対し、負けを悟りつつもただ一つ引っかかる点を香流は追及した。
「確かにそれも一理あるけど、それはレンにも言えることじゃないか?そのボスゴドラ……」
香流はメガシンカによって更にゴツくなり、たった今頭を振ったボスゴドラを指差す。
「随分とノロマになったけど、大丈夫かな?忘れてない?ヌメルゴンによって遅くされたことも」
「何が言いてぇ」
「こういう事だよ!!」
立ち上がったバシャーモが突如燃えだした。
と、言うのも全身を炎に包み、今にも走り出さんと構えたところだ。
'フレアドライブ'である。
その火炎は'もうか'でも無いにも関わらず以前とは強く輝くように燃えていたのは高野の錯覚だっただろうか。
「分かってんのかよ。仮にその技、撃てたとしてもボスゴドラが耐えたら反動のダメージで恐らく倒れるぞ」
風が少し強く吹いた。
冷たい風から顔を守るため、深い帽子で顔を隠す。
ちらっと見える高野の鋭い目がバシャーモを、そして香流を睨んだ。
「分かってるよ。でも'とびひざ'よりかはマシかなと思ってね」
その睨みはもう効かない。
「走れぇぇっ!バシャーモっっ!!」
それが合図代わりとなった。
バシャーモの姿が一瞬にして消える。
いや、ただ前に移動しただけであったが、高野もボスゴドラもその姿を確認する事はできなかった。
麻痺であるにも関わらず、バシャーモは最大限の素早さを身につけて一直線に進む。
そのバシャーモの動きのせいで香流の言葉も重なって聴こえたのかもしれない。やけに彼の言葉がはっきりとハキハキと聴こえた気がしたのだ。
体が震えを発する。
ボスゴドラは頭を尖らせ、迎撃に備える。
あと数歩でボスゴドラだが、体から発せられる痛みがバシャーモの気を削がせてしまう。
「負けんな!ここで決めてくれ!頼む!!」
普段の香流からは聞き慣れない言葉遣いだった。本気になりすぎて理性をも吹き飛んでいるかのようだ。
そんな主の気持ちを受け取ったのか、その眼差しに強く燃える闘争心を秘め。
ただでさえ鈍足だったが更に力を落としたボスゴドラに徐々に近づいてゆき、
そして遂に貫く。
ただ両者の耳にはドシャァッッ!!とまるで炎の塊が堅い壁に強くぶつかり合った聞き慣れない音が残った。
そこに、立ち上がり続けた影は-ー
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.272 )
- 日時: 2019/01/30 12:17
- 名前: ガオケレナ (ID: 5ySyUGFj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
12月18日木曜、P.M.21:47
19時頃から始まったアルマゲドンとジェノサイドの戦いはジェノサイド側の"逃げ"によって直接的な激突はなくなった。
その目には燃え尽き、灰塵と化した真っ黒な建物の残骸がそこにあるのみだ。
途中から薄々気づいてはいたがある時を境に誰も居なくなっている。
にも関わらずそこに残っていた人々、つまりアルマゲドンのメンバーは探索を続けていた。
そこで見たレミの目には。
見慣れた民族衣装を着た顔見知りの老人が力無く、音もなく倒れていた。
その場所に立っていたのだ。
特に思う感情も無いように見えるのは、この日この場所だけで多くの出来事が起きすぎてしまったせいだろうか。
ただその少女は呆然と立つのみであった。
「やられた。ここに来た時既に父さんは倒れていたんだ」
横から優しく話しかけてきたのはレミとは若干歳が上の、褐色肌の男テルだ。
「ったく、たかが一般人のピカチュウなんかに……あんなとこで気絶してなけりゃ父さんを助けられたかもしれないのに……っ!」
この声と顔にはただ後悔しか見られなかった。テルは吉川のピカチュウの電撃で気絶して以来、この戦いからは離脱していた。
バルバロッサは既に運ばれており、知り合いの病院へと送られたようだ。なのでジェノサイドの基地にいるのはアルマゲドンの構成員のみとなる。
「……無事なの?」
「えっ?」
「お父さんは無事なの、って言ってるの!」
レミの声ははっきりしていた。涙で目が濡れているということも無く、ただ強い声で。
「無事な訳がないだろう。見つけた時には既に血塗れで、至るところを軽く火傷していて胸にナイフが……。見つけてすぐ病院に運ばれたけど、その時も生きていたどうかは……」
言いながらも、テルは自分で途中で喋るのを止める。想像してしまったのか、それともそれ以上考えるのが嫌になってしまったのか、とりあえず彼はそれ以上言う事をやめたのだ。
レミは来た道を振り返り、暗闇に向かって歩き始める。
「おいレミ、どこ行くんだよ。何か掴んだのかよ?」
「いえ何も。ただ、やるべき事を再確認しただけよ」
テルから見て背を向けているせいで表情は読み取れなかったが、その声は早口で冷たく、また、どことなく怨みを含んでいそうな言い方だった事にテルは特に気にかける。
「お父さんが望んでいた事。それは"神の到来"でしょう?お父さんが出来ないのなら誰がやるの?アタシたちでしょう?」
レミがこの時思った事。それは、恨みでも怒りでも悲しみでも後悔でも復讐でも殺意でもなければ"神の到来"という目的である。
彼女の脳内には、それと並行して今後の予定が埋められたカレンダーが捲られていく。
奇しくもこの時間は、また別の場所で繰り広げられていた戦いが終わった瞬間でもあった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.273 )
- 日時: 2019/01/30 12:30
- 名前: ガオケレナ (ID: 5ySyUGFj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
レミがバルバロッサの家という名の孤児院へ、今で言うアルマゲドンに入ったのは七年前の2007年の冬だった。
誰も寄ってこないという表現が似合いそうなくらい人の踏み込みが少ない日本のとある村の奥地のひっそりとした木造の家。
そこに小さな少女は凍えていた。
本来ならば母親と呼ぶ人間なのだろうがそんな立ち位置に置きたくない人が、二日前に9歳の女の子にこう言った。
『出掛けてくるね。ママが帰ってくるまで待っててね』と。
その少女はそれを守っていたに過ぎない。どんなに寂しい思いが強くなっても、どんなに退屈でも、どんなにお腹が空いても、母親が来るのをひたすら待った。
まずそれだけで夜が来た。
その時その少女がいた地域は真冬であり、更に豪雪地帯というのもあって外は強く吹雪いていた。
古い家の窓から冷気が漏れ入り、暖房器具も何も無い小さく古い家を冬の寒さを襲う。
その日の夜は毛布を取り出しては包み、その中で何とか温まりながら寒さを凌いだ。
気づいたら朝になり、陽が差してはいたものの、寒いことに変わりはない。
それに、ママも帰ってきていなかった。
思えば昔からこんな不便そうな、そして崩れそうな家に住んでいた訳ではない。
突如母親から告げられた"お引越し"という言葉について行った結果だった。
結局その日も帰って来なかった。
一日中待っていたにも関わらず、ただひたすらに、24時間畳の上で体育座りするだけで夜が来てしまった。
時間というものがとてつもなく残酷な物に思われた。飢えと寒さでまともな判断力がつかない状況下で何とか考えられた事は「時間というものが怖い」と言う事だった。
遂に少女は畳の上に倒れる。
ぱたり、と人が倒れるには軽すぎる音がし、それは自分の耳にも微かに入ってくる。
辺りを見ても食べ物となるものは何も見当たらない。
自分が倒れたとき、とにかく誰かが助けてくれたのだが、今は誰も手を差し伸べようとしない。
いや、そもそも自分以外ここには誰も居なかった。
意識がだんだんと白くなってゆき、これから自分がどうなるのか想像が追いつかない。
『だれか……助けて……』
誰に対して言っているのか。自分でも最早判断がつかなかった。
小さい女の子の力が全身から抜けていこうとしたその時。
絶対に開くことのなかった扉が開いた。
外は吹雪。空は黒一色。
人が立ち入る時間ですらなにのにも関わらず、扉は開く。
そこに居たのは、ママではなかった。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.274 )
- 日時: 2019/01/30 12:29
- 名前: ガオケレナ (ID: 5ySyUGFj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
村八分という名の迫害を受け続けて命からがら逃げた親子が居る。
どこかでそんな情報を手にしたその怪しげな老人はひたすら思いつく限りの深い深い道を歩み続け、遂に猟師の小屋を見つけるに至った。
『おぉ、可哀想に……こんな所で小さい子供が……』
家に入ってきたのは見たこともない老人だった。五十代後半の、そろそろ引退を考えるであろうお爺ちゃんが。
ただ普通のお爺ちゃんと違ったのはその服装だった。
日本では見慣れないような、未開のアジアかラテンアメリカの民族衣装に通ずるような怪しいが、金色に輝く眩しそうな格好に身を包んでいた。
『大丈夫かい。ここに、一人の小さい子供がいると聞いてやって来たんだ』
呼吸自体も苦しくなってきたが、とにかくその子は見つめることだけは続けた。
その老人は何の罪も無い無垢で綺麗な瞳で見つめられる。
『さぁ行こう。私が君を助けてあげよう。そして、いつか君がそうであったように、救われるべき人に救いを差し出すような人間になるんだよ。私がその為の手助けをしてあげよう』
震える手でなんとかその老人の手に触れるとその瞬間、女の子は完全に意識を失った。
老人に抱えられながら凍える地獄から抜け出したのはそれからすぐの事であったらしかった。
何故迫害を受けていたのか、それはその老人も、情報提供者もそして、その女の子もよく分かっていなかった。
だが、その母親の男が大きな罪を犯したらしいと言う事以外は。
ーーー
目が覚めると、そこは見慣れない照明と見慣れない黄色い壁が視界に広がった。
あの時の衰えが嘘であるかのように起き上がると、自分がふかふかのベッドに寝かされていた事に気づく。
『目が覚めたかね?』
その部屋は広い居間だった。
大家族が前提であるかのような広い居間の隅に置かれていたベッドで目を覚ました少女は同じ部屋で一人用の椅子に座りながら紅茶を飲んでいる老人を見つける。
『あの後すぐに病院に行って点滴を打ったんだ。今でも本当は危ないのだが、二日も寝ていたという事は体が欲していたのは休みなのだろうな。さぁご飯が出来ている。おいで。一緒に食べよう』
その老人は椅子から立ち上がると手を差し出す。女の子はベッドから立って手を握ると一言。
『あなたは誰?』
当然の疑問だった。見ず知らずの男が自分に対して病院に運んでくれ、さらに寝床まで用意してくれた。
本人はよく分からなかったが他人からするとかなり危ない匂いがする。この老人が危険人物以外の何者でもない。
だが老人は優しくその手を包むと微笑んだ。
『私かい?私はバルバロッサと言うんだ。救われるべきなのに救われない憐れな人々……つまり君たちを助け、いつまでも君たちの味方でいる、ただのしがない老人だよ』
あれから七年。いつの間にかそんな年月が経っていた。
時を過ごすにつれ、そこがアルマゲドンの基地にしてバルバロッサの家であり、自分と同じような仲間がこの家には居て、彼が危ない人間でもなければしがない老人でもない事を理解した。
自分を育ててくれた"父親"以外の何者でもなかったのだ。
「救われるべきだが救われない哀れな人々に救いの手を……か。たとえそれが、アタシから見てアナタであっても別にいいよね?お父さん」
少女もまた、救われるべき者の為に大地を踏んでゆく。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.275 )
- 日時: 2019/01/30 12:35
- 名前: ガオケレナ (ID: 5ySyUGFj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
最後の最後で運は傾いた。と言えるのだろうか。
バシャーモはその攻撃をやり遂げた。だからボスゴドラは貫かれた。
まずボスゴドラが倒れた。幾度も炎に焼かれたが今度こそ耐える事は出来なかったようだ。
倒れた振動で大地も震えた。
高野はボスゴドラに駆け寄ったが、倒れた直後にメガシンカが解かれてしまったので戦闘に倒れたことが確実に理解できた。
即ちそれは、
「俺が……負けた……?」
反射的に香流の方へ振り向く。
バシャーモが技の反動と"いのちのたま"の反動で倒れたその瞬間だった。
「お前のバシャーモも……耐えられなかったようだな」
高野は苦し紛れにニヤついてみせる。少しでも引き分けに見せたかったのだろうか。
「そうだね……。でもその前にしっかりと攻撃が果たせて良かったよ」
香流も高野と負けず劣らずの笑顔である。この時のルールをしっかりと知っているからだろう。
両者互いにポケモンをボールに戻すとじーっと暫く見つめ合う。
その踏み込んではいけない空気に押され、石井は先輩に電話するはずだったのに、それすらも忘れさせてしまう。
三分ほど無言になった頃か。
高野は煉瓦橋の橋脚付近に背中をピタリと合わせるとズルズルと体を下ろしてついにはその場で座り込んでしまう。
まるで力が抜けきったように。
「分かったよ。俺の負けだ。約束守るよ」
ため息をつきながら言い、いかにも面倒そうな言い方だったが、その表情は安堵に包まれていた。
遂に彼は普通の人間になる事が出来たのだ。
「月、ここからでも綺麗に見えるんだな」
ふと見上げた夜空には、白く光る三日月が闇の中にぽっかりと浮かんでいた。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.276 )
- 日時: 2019/01/30 12:41
- 名前: ガオケレナ (ID: 5ySyUGFj)
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「先輩。捜索ありがとうございます。レンに勝てました。本当にこれまでありがとうございました」
結局香流が自分で連絡をした。
後ろで見ていた石井と高畠はただ立ち上がって互いに抱きしめるだけで連絡そのものを忘れているようだったからだ。
香流はへたり込む高野のもとを歩き、彼に手を差し伸べた。
「おかえり、レン。どう?自由になれた気分は」
目を瞑って思いに耽っていた高野は鼻で笑いながらその手を握って立ち上がった。
「気分?これからの処理考えると最悪とだけ」
にも関わらず彼は笑っていた。かつての学生としての高野洋平の、綺麗な笑顔だった。
傍らに、月明かりを浴びて妖しく輝く写し鏡を添えながら。
ーーー
「どうやら終わったようですね、リーダー」
スマホ片手に馴れ馴れしく声を掛けてきたのは工場内で先程までウロウロしていたレイジだった。
「これからこの世界は大きく変わってゆくでしょう。今日の事は衝撃的な事件以外の何物でもありません」
「でも、ウチらは何も知らないんだよ?」
正直かつとぼけた事を言ってみせたのはミナミだ。その顔に不安が残るものの、レイジの"終わった"という報告によりホッとしているようだ。
「それでいいのです。それがすべてジェノサイド……いえ、高野さんの作戦通りなのですから」
「作戦?」
本当に何も知らないミナミは物騒な言葉を聞いたので繰り返すことにしてみた。
「えぇ。深部組織の視点からすると、今日の一連の流れはこう捉えられます。『ジェノサイドという組織は突如宣戦布告されたアルマゲドンから基地を襲撃され、避難したものの紛れたスパイを捕まえる為に移動し、それからも逃れたリーダーがスパイの一人によって引き起こされたゲリラによって倒れた』と」
要するに彼はジェノサイドという組織が深部と関係の無い人間により解散させられた、つまり高野洋平という深部最強なんて言われた人間が一般人に敗北したと言いたかったのだ。
「じゃあウチらは……?ウチらも負けたって事!?」
「……そうなります」
「じゃあどうなるの!?住処も組織も失ったウチらは……これからどうやって生きていけばいいの!?」
早くも涙目になるミナミに胸を締め付けられる思いを覚えつつも、レイジは冷静を装って話を続ける。
「……実はリーダー。これは誰にも言うことも無く、これまで秘密裏に行動していた事だったのですが、今もこんな状況ですしジェノサ……高野さんの命令もあったので今言いますね。実はリーダー、すべては無理だったのですが、今日までに少しずつ家具が少なくなっていたことに気づきましたか?」
「えっ?なにそれ?つまりどういう……」
言っている途中でミナミも彼が言いたかった事に少しだけ察した。
「場所があるの……?」
「えぇ、少なくとも"元"ジェノサイドの構成員全員を集めることの出来る屋根付きの環境があったのですよ。残念ながら団地になってしまうのでこれまでと同じような暖炉付きの部屋はなくなってしまうのですが、高野さんと共に探しましたし。頃合を見て必要最低限の物は既に置いておきました」
知らなかった。ただダルそうに大学に通っていたあの男が、誰にも手伝わせようとせずにいつか起きる危険を予想して移転していたことなど。最後の最後まで皆のことを考えていたことなど。
「リーダーがそんな事を……残されたウチらの為に……」
「リーダーではありませんよ。彼は高野さん。リーダーはあなたです」
笑顔で手を差出された。目の前の男が何故こんなにも明るく振舞っているのか、ミナミにはまだ理解できなかったが、
「ウチが、リーダー……?それってつまり」
「はい。"赤い龍"の復活です。人数を大幅に増やしてね」
自分達の環境はまだあった。高野という一人の男がすべて整えてくれた。そして、最後に自分を指名してくれた。
ただそれだけが嬉しかった。
喜びのあまり涙を流す。だが、悲しみの要素は一つもない。
ミナミは泣きながら歯を見せずに笑ってレイジの手を握る。
不安はあるが、やっていける気がした。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.277 )
- 日時: 2019/01/30 12:45
- 名前: ガオケレナ (ID: 5ySyUGFj)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
報せを聞いて、塩谷という名の初老の議員は椅子の中で深く安堵した。
「良かった……。私たちが手を下すことせずに終わって本当に良かった……」
慈悲深く、礼を忘れないこの老人は議会の中では珍しいジェノサイドに対して協力的な人物だった。
杉山という敵を葬ってくれたというのもあったが、今彼は議会の中では下院の議長の立場にいる。
そのポストに座れるのはジェノサイドたちのお陰だった。
だからこそ、議会がジェノサイドを政敵と見なした時はひどく苦しんだ。
自分に協力してくれ、これまで互いに助け合った人々を、議会では敵と見なさなければならない。
その背景に他の深部組織の存在があったのも事実だが、"本来の"塩谷の思いと議長という面子に挟まれ、判断に苦しんだ。
許可の判子も中々押せなかったが、議会の圧力によってしぶしぶ押したに過ぎない。
どこかで助かってくれと願うばかりに。
だからこそ、本人宛に電話が来た時は嬉しかった。
その電話とは、「赤い龍という名を再び使わせて欲しい」という内容だったが、その一言ですべてを理解した。
負けた。しかし彼らは救われた。
ただそれだけが、塩谷にとって一番のニュースだった。
そして、彼の計画の第一段階が終わったことも同時に意味を成して。
- Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.278 )
- 日時: 2019/01/30 12:50
- 名前: ガオケレナ (ID: 5ySyUGFj)
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「ジェノサイドが解散、ですか」
手に笏を持って綺麗な星空を眺めながら、雪山の神主は一人呟く。
「果たしてこれが彼の策略通りだったのか、ただの争いの果ての結果なのか、それは分かりかねますが……とにかく分かる事は、また一つこの世界が面白い方向に進むことが確定……いや、もう既に進んでいるという事でしょう」
武内。
メガシンカに必要なキーストーンが大量に見つかる大山という霊峰にて、怪しげに笑う神主はその手にある笏に目を移す。
「やはり"あのお方に"あの電話をしたのは正解でしたね。まぁ私がしたのは願望ではなく彼との共同案なので、内容には関係ありませんが」
その笏にはこれからの大きなイベントについて大きく書かれているだけだ。それにどこまで彼が関係しているのか、そもそも関与できる内容なのか、想像が難しい。
「今後とも目が離せませんね。とにかくこのイベントが成功することを祈りましょう」
武内はひとり、彼以外誰も居ない居間でぺこりと頭を下げると、その笏をテーブルに置いてそこから出て行った。
その笏には、「全国大会。2015年6月」とだけ記してあるのみだった。
第一章『深部世界編』
完結。