二次創作小説(新・総合)

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.69 )
日時: 2019/01/01 16:49
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「ん……?」

元気の良さそうな走る足音が聞こえる。

彼はバツの悪そうな顔をしながらベッドから起き上がる。
視界に広がったのは自分の部屋だった。

彼の名前はジェノサイド。もっとも、これは彼の本名ではない。

彼は名前を隠して行動している。今がその時だった。

ジェノサイドが居るのは自分がトップを務めてる深部ディープサイドの組織、『ジェノサイド』その基地だった。
彼はとある理由のため深部という日常生活とはちょっと違う世界で生きていた。

深部ディープサイド
元はこの世界で起きた“ポケモンの実体化”、それに伴って悪化した治安の改善を目的に設立された深部ディープサイドという世界。その中のジェノサイドという組織で日々自警団のような役割をこれまで担ってきた。

しかし、いつからだろうか。
自身の組織がいつしか深部の頂点と呼ばれ、いつの間にかSランクという名誉ある勲章を貰い、莫大な財産とその名誉が狙われるようになったのは。

深部最強。それは深部ディープサイドという個々の組織が活発な世界で一番強いという意味と、その世界で一番危険な環境で生きているという二重の意味があった。

そんな常に命を狙われ、暴力と権力がモノを言う世界で。

彼は今。

「おめーらうるっせぇんだよぉぉ!!こっち寝てたの!少しは静かにしろぉ!!」

一目散に部屋から出て、近くの階段を昇り、上の階のただっ広い居間で騒いでる自分の部下にそう怒鳴る。

「いやだってそう言われましてもリーダー……」

怒鳴られた部下のケンゾウはおとなしそうな小さい声で言い返そうとしている。
坊主頭の、筋肉質で体の大きい彼が小さい声で喋るその姿は何だか可笑しい光景だ。

間を入れた後に、彼は続けた。

「だってリーダー、こんだけ広い部屋に放り込まれたら、騒いじゃうに決まってるじゃないっすか!!」

予想外の反応だった。
あまりの言葉に、ジェノサイドは眠くて細い目が余計細まる。

よく見ると確かに広かった。地上から見るとその外見はただの使われていない廃工場でしかないが、地下への扉を開けると彼らの住み家が姿を現す。まさに秘密基地だ。

この部屋だけで、目視で一般的なトレーラーハウスが二台分あるくらいには見えた。
さらにこの部屋に加えてこの基地にはこの部屋と同じくらいの大きさの食堂と、この部屋を囲うような廊下、一度に七、八人入れる暖炉付きの談話室が一つある。
さらにこの部屋の下には個人個人の部屋がある。
と、言ってもジェノサイドには全部で二百人程度の構成員がいるので流石に全員の部屋は無いが。

天然パーマに加え、寝癖で余計ボサボサになった頭を掻きながらジェノサイドはケンゾウにボソッと呟く。

「んで、何してたの?」

「リアルポケモンファイトっす!」

あぁ、用は自分たちをポケモンに見立てて暴れてたのね。
その後、彼も加わったのは言うまでもない。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.70 )
日時: 2019/01/02 00:03
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

「へぇ、メガシンカねぇ……」

「そうなんだよ!身近では居ないけど、実際にメガシンカさせた人が居るんだって!」

彼は自分の友達と大学内を歩いていた。

時間は昼時。授業が終わって昼飯を買おうと売店へ向かうとそこに彼の友達がいた。

友達の名は香流慎司。同じサークルの友達だ。互いにポケモンをやるポケモン仲間でもあった。

そして、もう一人の名はジェノサイド。ではなく、高野洋平。ジェノサイドの本名にして正体である。
彼は、外見だけ見ると一般的な大学生にしか見えない。そう、彼はただの大学二年生なのだ。

彼らは今、ポケモン仲間としてはホットな話題であるメガシンカについて語り合っている。


「今までメガシンカってゲームではアイテム持たせて戦わせれば出来たじゃん?でもこの現実の世界では出来なかったじゃん?」

「そうだな。ゲーム上で持たせてたはずのメガストーンが、ここでは反映されなかった」

彼らが言うように、個人が持つゲームのデータと、この世界がリンクしている。実体化のカラクリが、これなのだ。

「でも今はさ、条件さえ合えば此処でもメガシンカ出来るらしいんだよ!」

普段は物静かで滅多に喋らない香流だが、相手と話題によればここまで話す。
もっと普段から話せばいいのに、とやや勿体なさを感じながら高野は彼の後に話を続ける。

「でも、何で最近なんだ?実体化した世界が生まれたのは四年前。ポケモンXYが発売されたのが去年だぞ?タイミングが分からん」

買い物を既に済ました二人でサークルの部室という名の荷物置き場と化した部屋を目指して歩きながら会話をする。
人が多すぎて波に揉まれて危うく離れそうになる。
人の波が引いてお互い近づいてから、再び会話が始まる。

「んー、そうなんだよな。何でこのタイミングなのかは分からない。レンは心当たりある?」

レン、とは高野が大学内の知り合いから呼ばれてるあだ名だ。名前にも、もう一つの名にも関係ない。

だが、彼がある日やってしまったテストの珍回答で得たのがきっかけというよく分からない理由でこれまで呼ばれ続けてきたので、折角だからと大学でも自分からそう呼ぶように周りに呼び掛けていた。その結果である。

「最近、ねぇ」

レンこと高野はここ最近の出来事を脳内で思い出させる。物事と人の顔を覚えるのが苦手な彼にとってはキツい指示だった。

「あ、そう言えば」

そんな彼は一つの記憶を思い起こす。記憶力が悪い彼でも忘れることのできない大きな出来事を。

「バルバロッサと、山の頂上で戦った」

「案外それじゃね?」

バルバロッサ。山頂。

彼がつい四二日前に体験した出来事であった。
四年前、つまりジェノサイド結成時から一緒にいたバルバロッサという仲間が自分達を裏切り、不思議な力を使ってトルネロス、ボルトロス、ランドロスの三体の伝説のポケモンを従えてとある山で戦ったあの日の事だ。

一見メガシンカとは無関係に見えるが、あの時バルバロッサのポケモンは普通のポケモンではない動きをしたり、不思議な力が働いたり、不可解な現象が起こった。
そのエネルギーが行き場をなくし、暴発したとしたら……

なんて事を一瞬考えたがやはり無関係という結論に終わる。
ゲーム上ではメガシンカに必要なアイテムであるメガストーン、キーストーン、そして力を制御するデバイスが一切関わってないからだ。

「さぁ、ね。知らないな。後で基地に戻ったらちょっと調べてみるよ」

高野はそう言うと先に部室の扉を開けた。彼らはもう目の前まで来ていた。
扉を開けると、彼の友達やサークルの先輩が既に何人か居て昼食を摂っている。
続いて、香流が入った。

これが、高野洋平としての日常であった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.71 )
日時: 2019/01/01 23:48
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


授業を終え、真っ直ぐ基地へと帰った高野ことジェノサイドは、今はほとんど使われていない研究室へと足を運んだ。
中は薄暗く、部屋の真ん中によく分からない大きな機械が置いてある。
これは、かつてバルバロッサが写し鏡を解析するのに使っていた機械だ。

彼は、戦いの後密かに持ち帰った写し鏡を機械の真ん中に置いて表示されているディスプレイをいじる。

「……」

正直使い方が分からない。当然だ。この機械に触れたことすら無いのだから。

黙ったまま突っ立っていると、機械の始動音に気づいたハヤテという構成員が来た。
外見はボサボサ頭に加え、背をジェノサイドより小さくして顔をより中性的に近づけた感じか。

「どうしたんですか?珍しいですね」

ハヤテが部屋の明かりを点けながらこっちに来る。スイッチの場所が分からなかったなんて言えない。

「まぁな。今日友達とメガシンカの話をしてたんだ」

ジェノサイドは香流との会話の事を話す。

「深部の連中しか知り得ない情報を、一般人が知っていた。隠しても隠しきれない内容なんだろうな。そろそろメカニズムも知りたいし」

「それは興味深い事ですね。我々でもよく知らない話が一般人にまで広まっているということが」

「あぁ。それで少し考えてみたんだ。このアイテム使えないかなって思って」

「写し……鏡ですか?」

ハヤテが不安そうにそのアイテムを見つめる。
あの道具は伝説の三体のポケモンを真実の姿に変えるための道具。

ジェノサイドは真実の姿という言葉に注目した。

「あぁ。この道具使えば、アレだけじゃなくて、メガシンカにも使えるんじゃないかなと思ってな」

「なるほど……」

面白い発想だとハヤテはこの時思った。それならば、日頃リーダーが言っていた「行き場を無くした不可思議なエネルギーの暴発がメガシンカという真の姿となる一因になった」という考えと一致する。

と、なるとメガシンカが近い内に解明されるかもしれない。
自分もいつかメガシンカが扱えるようになる、そんなワクワクするような妄想をしている最中に、リーダーの言葉をハヤテの耳がキャッチした。

「ところでさ……この機械どうやって動かすの?」

「……」

どうやら、解明はまだまだ先のようだ。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.72 )
日時: 2019/01/01 23:58
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「ん、何か出てきた」

画面を適当に触っていると先程まで出てこなかった新しい画面が出てくる。英語だ。

「何でよりによって英語なんですかね……理解するのに時間が……」

「仕方ねーだろ。設定できれば日本語にしたいけどとりあえず単語読めばどうにかなる」

文章までは分からないが、単語レベルで読んでいけば途切れ途切れだが理解は追い付く。その程度の英語力しか持ち合わせていないのは彼なりの限界だった。

写し鏡が接続されているため、機械も反応する。"デバイスが接続されています"と。

そして、画面には"Calculate"と表示されている。

「計算……?これ押せばいいのかな」

ジェノサイドは恐る恐るそれを押す。

すると、繋がれた写し鏡が光り、画面にはパーセンテージを示す数値が表示された。

「おい、なんか計算しだしたぞ」

その言葉に、ハヤテも画面に顔を近づける。

「みたいですね。多分解析でしょう」

60%に近づいたとき、新たな画面が出る。


"Analyze"と"MEGA Evolution"。

「えっ?」

ジェノサイドは、その画面が出てきたとき、不意に声を漏らす。
何故ここで解析とメガシンカが出てくるのだろうか?

「出てきましたね、リーダー」

ハヤテの声だ。だが、重要なのはそこではない。今この画面に出ていることが重要なのだ。
ジェノサイドはただ写し鏡を機械に設置し、電源を入れて計算し出しただけである。
それはつまりバルバロッサでも出来ること。

と、言うことは。

「なぁハヤテ、ここでこの画面が出ると言うことは、バルバロッサはメガシンカを使おうと思えば使えたんだよな?」

「そう……ですよね?」

ここで疑問に思うのは、何故バルバロッサはあの時メガシンカを使わなかったのか。

単に解析だけで良かっただけなのか、それともメガシンカ出来るポケモンを持っていなかっただけなのか。
どんなに考えても、その答えは出なかった。バルバロッサはもういない。

とりあえず、"MEGA Evolution"の表示を選択し、計算は続く。
100%に達したとき、画面に地図が表示された。

どうやら、周辺の地図のようだ。
至るところに赤い点が出ている。

「何だろうな、これ」

「さぁ……よくは分からないですけれど……メガシンカの計算が終わったということは多分メガストーンでは?」

あらゆるポケモンのメガシンカを秘めた道具。そのポケモンの数だけ石があるということなので多数表示されるものと言えばメガストーンしかない。
ジェノサイドは、一先ずよく分からない地図をスマホで撮影した後、機械の電源を切る。

「とりあえず、」

ジェノサイドは研究室を後にし、二人で歩きながら先程の計算をまとめる。

「俺たちの予想は合ってた。写し鏡を使えばメガシンカに関する計算が出来る。座標を入力すればその周辺の地図が表示され、そこに近い箇所のメガストーンが反応する」

「じゃあ、いつでもメガストーンは入手できる、ということですね」

「いや、いつでもとは限ったことじゃない。ゲームのように時間制限があるかもしれないし、他の人に取られる可能性もある。いつでもって訳じゃないな。でも、まず最初にやることがある」

ジェノサイドが足を早め、先に歩きだす。ハヤテがそれに続いた。

「キーストーンですね」

ジェノサイドは、無言で頷いた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.73 )
日時: 2019/01/02 05:13
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


翌日。

何事もなくジェノサイドは高野として大学に通っていた。
今日はサークルが無い日のため、授業が終わったら真っ直ぐ帰るつもりだ。

(キーストーンが無い状態でも、メガストーンって見つけられるのかな……)

あれから高野はずっとこんな事を考えている。
あまりに深く考えていたので、友達が少し離れたところから自分の名を呼んでいたのだが、気がつかなかった。

ボーっと考えながらほぼ無意識に近い状態で階段を上り、記憶に残った程度の情報を頼りに教室へと向かう。
教室の一番前には一緒に受けている友達がいる。

軽く挨拶を交わしてから高野は椅子に座る。
程なくすると教員が教室に入り、授業が始まった。
だが、高野にとっては退屈な授業を1時間半も聴きっぱなしでいるのは苦行でしかない。
相変わらずメガシンカについて考えていると、今日が11月の第一水曜日だということに気づく。

そう言えば、ポケモンの新作ゲームである『オメガルビー』と『アルファサファイア』の発売日が近づいていた。

(どっち買おうかな……)

今この世界に出せるポケモンは高野の持つ『ポケモンY』にて育成したポケモンのみであるため、新作を手に入れても今持っているポケモンを送れば問題はない。あとは暇を見つけてゲームを進めればいい話だ。

流石に授業開始からあらぬ方向を見ていたせいであろう。
教員が高野をチラチラ見、時折睨みながら話を続けるようになった。

ーー

「お前さー、一体何してたわけ?」

授業が終わり、友達が高野に話しかけてくる。

「ん?何が」

友達の返事に対しても呑気な口調だ。

「いやだから……」

友達が目を細めた。

「先生が明らかにお前見ながら授業進めてたよな?んで、肝心のお前はずっと窓見てたよな?」

「あー、……あれか……」

さっきの授業中、そう言えば自分は外の景色を眺めていた気がする。真剣に考えていた訳ではないので頭からすっぽりとさっきまでの出来事が抜けていた。

「ちょっと山登りてーなーと思って」

「はぁ……?お前ってよく分かんねーな。前からだけど」

山、というのは高野が前日からずっと考えていた大山についてだ。

大山はジェノサイドがバルバロッサと戦った地だ。
メガシンカを追究するのならば確実にヒントがあるのだろう。
仮に伝説のポケモンの力が暴発したとして、それがメガシンカの原因だとしたら。

絶対に何かがある。

彼はほぼ確信を持ちながら山のある方角を向いた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.74 )
日時: 2019/01/02 05:19
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


寒い季節になった。

高野はそう思いながら、帰るために構内を歩く。
本来ならばこの時間はポケモンに乗って基地に直接帰るか、大学から出てるバスに乗って近くの駅まで行き、そこから基地の最寄り駅である北野駅まで電車に乗って帰る予定であった。

だが、今日は違った。

寒いのでローブを上から着て、その場にポケモン、オンバーンを放つ。ちなみに彼は人気のない裏道にいるので心配無用だ。
構内でポケモンを使うのは禁止だが、はっきり言ってその場で飛んでどっか行ってしまえば注意のされようがない。
それに、今回はただ帰るだけではなかった。

「これから山まで行く。頼んだぜ、オンバーン」

そう言いながらジェノサイドは直接オンバーンに乗った。
元気よく返事をしながら羽を広げると、瞬く間に空へと浮かぶ。
目指すは不思議な力が宿っているであろう聖峰、大山。

とてつもなく凍えるが仕方のないことだろう。
大学の上にいるためか、下で騒いでいる連中がいたが、誰がやっていることか、ましてやそれがジェノサイドであるということは流石に気づかれなかった。

一気に大学を離れ、ニュータウンの街東京西部を抜け、神奈川県へと入る。
目的地は丹沢山地が広がる神奈川北西部。


ーーー
今回も着くのに掛かった時間は30分程だった。
やはり、長い間同じスピードを保っていられないのは人間もポケモンも同じなのだろう。

「ご苦労様」

上社のある山頂に降り立ったジェノサイドはそう言ってオンバーンをボールに戻す。
空の旅はとてつもなく冷えたが恐ろしいのはここからだった。

「やっと着いたけど……これで何もなかったら泣くぞ俺」

辺りを見回しながら彼は歩く。

すると、奇妙な光景がその目を捉えた。

「ん?」

社が二つあったのだ。

本来大山には麓に下社と、山頂に本殿を示す上社がある。だが、ジェノサイドは不謹慎な事に争いの最中に本殿を、バルバロッサを吹き飛ばす反動で破壊してしまったはず。

にも関わらず、その崩れた建物と、立派な、いかにも本殿と呼ぶに相応しい建物が建っていた。

「何で……?」

崩れた建物に近づきながらそう呟くと、不意に後方から声がした。見に覚えのない声だ。

「それは、偽物の本殿ですよ。本物はあちら」

微かに感じ取った敵意を含む声に、ジェノサイドは勢い良く振り向く。

すると、そこには、真っ白な礼服に身を包んだ若い男性の姿がそこにあった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.75 )
日時: 2019/01/02 05:23
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「お、お前は……」

敵意が勘違いだったことに気づき、穏やかな口調でジェノサイドは尋ねた。

その男は和服のような礼服を着用している。

「私はここの神主をしております、武内と申します。とは言っても、本来の神主ではなく、あなたたち向けの」

優しい顔立ちとそれに見合う口調から怪しい言葉を聞き取る。

彼はジェノサイドのような人間を相手にする、と確かに言った。
と、言うことは。

「アンタ、深部の人間か」

「はい」

即答だった。

どうやら彼が言うには、ここには本来の神主が存在する。武内も本来はその本物の神主に仕える仕事をしている。
だが、状況はバルバロッサが来た頃、いや正式にはもう少し早い段階の時から変わってきたらしい。
山岳信仰の象徴として、少なからず深部の人間が訪ねていたようだ。

彼はこの事が公に知れるとマズい、ということで彼ら向けの神主を勤めることにしたのだ。

所謂、ビジネス目的で。

「そこにある破壊された建物は神と呼ばれしポケモンを祀り、一般の人間でもそれらを扱えるように設立した云わば魔方陣のようなものです」

武内の解説を聞き、ジェノサイドは即座に一人の男の姿が脳裏に甦る。

「まさか……バルバロッサ!?」

「はい。その通りでございます」

武内は彼に歩み寄り、話を続けた。

「あの男は四年前に、この地を訪れてまいりました。彼が言うに、この土地を使って神を操りたいと。そう仰っておりました。そして、つい先週のことです。彼は事前に私たちで作り上げた、この御本殿にて伝説のポケモンを呼び出したのです」

つまり、バルバロッサはランドロスらを使うために建物まで建てたらしい。それも、宗教一色の。

衝撃的だった。

ジェノサイドはてっきり、バルバロッサは自分の持つゲームデータを使ったのだの思い込んでいた。いや、実際にはそうであろうが、それでも儀式のみで常識を覆すような現象を起こせるなんて事が信じられない。
どこまでが本気でどこまでが嘘なのか分からなくなってきた。

だが。

「しかし、私はあの男にあの、本物の御本殿で拘束されてしまいました。彼は私らを利用するだけ利用し、放り捨てたのです。後になって彼の行為がこの世界を脅かす危険な事だと知り、同時に彼が敗北したと聞いたときはどれだけ安心したことでしょう。そして、それの原因があなただと言うことも」

武内は崩れた建物の木片を拾い、それをすぐに投げ捨てたあとにこちらに振り向く。

「理由なら存じております。あれから、あなたのような方々が多数いらっしゃったのです。ご案内致しますよ。キーストーンの在処まで」

長々と昔話を披露しているだけだと思ったが、一気に状況が一変した。
あの男がメガシンカについて既に知っていたことが何より意外に見えたのだ。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.76 )
日時: 2019/01/02 05:29
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


だが、状況がよく分からない。
ジェノサイドは武内と名乗る偽りの神主の後ろを歩きながら率直ながらそう考えた。
何故あの話からメガシンカ、それもそれに必要なキーストーンへと話が繋がるのかが分からない。

そして、それとは別に気になることが一つ。

「なぁ、ひとついいか」

「はい」

ジェノサイドは武内と共に本殿に入り、さらに奥にある関係者が入れなさそうな部屋に案内されながら尋ねた。

「俺はお前に会ったことがねぇ。にも関わらず、何故お前は俺のことを知ってんだ?」

空気が静まる。尤も、今は二人しかいないが、それでもシーンと静まるかえるような静けさが辺りを包む。

まず、前提にジェノサイドは自分以外の深部の事情、言い換えてしまえば外交に関しては全くの無知である。

以前までバルバロッサ一人にすべてを任せていたというのもあったが。
だからこそ自分は知らないのに自分のことを知っている人物の存在が奇妙でしかなかった。
当然、武内がジェノサイドを知る理由は「有名だから」以外の何物でもないが。

「それは……あなたが関係者だからですよ、我々の」

「関係者?」

彼らの業界用語なのかそれとも何らかの秘密のワードなのか、濁したような言い方にジェノサイドは眉をひそめる。

「変に言い逃れしようとしてんじゃねぇよ。正直にすべて言えよ」

若干イライラしているジェノサイドに対し、未だに落ち着きを保っている武内が不思議で仕方なかった。

「あなたは私たちの関係者ですよ。利用されたとは言え、あの男の野望に巻き込まれてしまいました。あなたの場合は理由が違ったでしょうが、あの男の野望を見事に阻止してみせました。これにより、私たちの世界は一旦落ち着きましたが、それも長くは続きません」

奥の部屋の扉を開ける。木製特有の軋む音が響く。あまり出入りがないのか、薄汚れているような雰囲気を放っている部屋だ。

「どう言った訳か、あの戦いの後、メガシンカに必要なキーストーンが数多く発見されたり、異常なまでのエネルギーの放出が確認されています。こればかりは私たちでも原因がよく分かっておりません」

部屋には、真ん中に細長い長方形の木のテーブル以外に何も配置されていなかった。
だが、よく見るとそのテーブルにはガラスが張られていたショーケースのようなもので、中には布が敷かれている。
その布の上には。

「ご覧ください。こちらが此処一帯で発見されたキーストーンです」

武内が右手をケースに向ける。ジェノサイドもつられてそれを眺めた。
キーストーンは思ったよりかは小さかった。その玉は2センチくらいか。それがショーケースにずらっと並べられている。合計で100個以上はあるのではないか。あくまでも保管しているだけなので、まとめて置いてあるだけなのだが。

ガラスを取り外し、中のキーストーンを1つ摘まんでそれをジェノサイドに見せる。

「あの騒動以降発見されたキーストーンです。特に公表したわけでもありませんが、何故かあの後多くの深部の人間と思われる方々が毎日いらっしゃっております。私は特に理由がないので、余程の事がない限り尋ねてきた者にはお渡ししています」

そう言って、武内はキーストーンを乗せた右手をこちらに向けてきた。受け取れ、という事だろうか。

「これから深部の戦いは熾烈を極めていくでしょう。数多の人間が、このキーストーンを手にすることによって」

ジェノサイドはまだそれを受け取らずに、話を続ける。

「じゃあお前は組織間の抗争を活発化させている元凶っていう自覚はあんのか?」

「はい。だからこそ、あなたに期待しているのです」

またもや即答だったが、その目は正直そのものだった。

「期待?」

ジェノサイドに疑問が生まれる。果たしてそれはどういう意味か、と。

「ええ。あなたが今回争いを止めたように、これから起こるであろう大きな災いも止められると信じてのことです。私は今までお金と引き換えにこの石を渡してきました。ですが、あなたには無料でお渡しします。あなたにこの石を渡す事こそが今の目的でしたので」

どこまでがめつい人間なんだと口の中で呟きながら、その石に手を伸ばす。だが、すぐには触れない。話が続いていたからだ。

「じゃあ元からこんな石をそいつらに渡さなければいいじゃねぇか。何でわざわざ抗争の激化を予想しながらこんな事してんだよ」

「それではあなたが来ないかもしれない。逆に、石を誰にも渡さなければ新たな戦いが始まることもなく時間だけが進んでいたことでしょう。言い換えてしまえば、あなたにどうしてもこれを渡したかった、という事です」

武内のその言葉を聞くと、小さく笑ったあと、その石を掴んだ。

「んじゃあこれ貰っとくけど、いいんだな?俺なんかに渡して」

「ええ。後悔するくらいなら端から誰にも渡していませんよ」


ーーー
二人は本殿の外にいた。
既に空は黒く染まっていた。

「メガシンカを使いたくば、他にキーストーンを抑えるデバイスと、個々のメガストーンが必要になります。どうか、ご無事で」

「俺を誰だと思ってんだよ。深部最強のジェノサイドだぞ」

そう言い捨てて彼は去った。
武内はその後ろ姿を見えなくなるまで眺め続ける。

「どうやら深部の長にしては幼いところがありますが……それは時が変えてくれるでしょう。あとは……」

今度は、山頂に未だ残っている偽の本殿の残骸を眺めた。

「あとは、彼らがどう動くかですね。悲劇的な結末に終わらなければよろしいのですが……頼みましたよ、ジェノサイド」

崩れた建物をどう処理しようか、考えながら薄く笑って、

「バルバロッサとの戦いは、まだ終わっていませんから」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.77 )
日時: 2019/01/02 13:56
名前: ガオケレナ (ID: aVnYacR3)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


キーストーンは手に入った。
改めて見ると綺麗である。
透き通った虹色をしており、メガシンカのシンボルの、DNAの二重螺旋のような模様が描かれている。

ジェノサイドはたった今到着した基地の扉の前に立つ。既にざわめきが聴こえていた。また騒いでいるのだろう。

ジェノサイドは何も言わず扉を開けた。
扉の開く音に、周辺にいた人々がそれに気づき一斉に振り向く。彼らは今ポケモンのゲームで対戦をしているようだ。
対戦者の二人を囲むように数人が一ヶ所に集まっている。

「あっ!!ちょ、リーダーどこ行ってたんすか!!帰りにしては遅すぎっすよ!!」

ゲーム機を放り投げ、集団を掻き分け、ケンゾウがこちらに寄ってきた。

「わざわざこっちに来なくてもいいだろ……」

「答えてくださいよ!!どこ行ってたんすか!!」

「分かった分かった、あとで言うからとりあえず後ろ見ろ。お前のゲーム機勝手にいじってんぞあいつら」

疲れたのか、静かな口調であった。ジェノサイドはそのままケンゾウの後ろを指差す。

「いや、今答えてくださいって、おいオメーーら!!何勝手にやってんだやめろーー!!」

ジェノサイドの事情を無視してケンゾウは彼らの元へ駆ける。その光景を見てそこにいた全員が笑っていた。

「それで結局どこに行ってたんですか?リーダー」

集団の中の一人の構成員がジェノサイドに声をかけてきた。ジェノサイドは彼らに近づきながらポケットに手を突っ込む。

「いいかお前ら、俺はこれを手に入れるために帰りが遅くなった。見て驚くなよ?ほら、キーストーンだ」

ポケットからそれを取り出した。何だかノリが大学のサークルに居るときのような高いテンションになる。

それを見るや否や、歓声をあげながら一斉にこちらに"全員が"駆けてくる。よく見るとゲームに参加していない奥の方にいた人たちもこちらに向かっていた。

「うわ、バカやめろお前ら!!後で!あとでちゃんと見せるから取り合うな!揉みくちゃにされてるから!!落ち着け!落ち着けお前らー!!」

十数人レベルで人が一ヶ所に集まると流石の天下のジェノサイドも相手にできない。
その手に持っているキーストーンを直に取って見たいためか、大勢の人が押し寄せる。ジェノサイドは揉まれながら叫ぶこと以外何も出来なかった。

身体の細いジェノサイドはほんの少しの隙間に活路を見出すと、翻しながら波をくぐり抜ける。

時折残念そうな叫び声がするも、それを無視して部屋から逃げた。

「あー……危なかったー……これ小さいから無くしたらヤバいじゃ済まねぇだろうな……」

一騒動のあと、部屋を抜け、自室へと向かうジェノサイドは皺だらけのローブを脱いで整えながら歩く。
皆が皆キーストーンについて興奮していたが、まさか騒ぎになるまでとは考えてもいなかった。
大量にあったのだからおまけにあと二,三個余分に貰えば良かったと若干後悔しながら階段を下る。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.78 )
日時: 2019/01/02 17:46
名前: ガオケレナ (ID: aVnYacR3)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


キーストーンを手に入れた翌日。

ジェノサイドは今日も高野として大学へ行く。
ちなみに、キーストーンは組織内に新たに設置した技術開発を担当する者たちに預けている。

「今日はサークルあるけど、天気もいいしメガストーン探すっかな」

空を見上げながら高野は呟く。今日サークルに行かないとなると今週は丸々顔を出さないことになる。別に気にすることでもない。

メガストーンの探索はキーストーンが無くとも可能なのでやるならば早い方がいい。本当だったら授業もすべて放り投げたいところだが、生憎そうにはいかなかった。


ーーー

「えっ!?キーストーンを手に入れた!?」

ジェノサイドの告白により、目を丸くしているのは同じサークルで友達の香流だ。

最近コンタクトにしたのか、普段掛けていた眼鏡を外していた。前々から思っていたことだが眼鏡なしでも十分顔は整っているように見える。

「あぁ。怪しいポイントを探したら見事にヒットしたよ。だから手に入れる行為自体は難しいことでもなかったよ」

高野は部室で香流と他の二年、それから先輩後輩を交えて会話する。

ポケモンに縁の無い後輩やその場に一緒にいる高畠にはどうでもいいことだが、香流や先輩である佐野には関係あると言えば関係のある話だった。正直深部が絡んでいる内容なので話すかどうかはかなり悩んだが、結局話したい衝動が勝ったので今こうして普通に話している。高野は、彼らを深部に関わりを持たせたくないので内容には有ること無いことをやや混ぜている。

「じゃあレン君、どうやって入手したの?」

高野に対して君付けするのは佐野先輩しかいない。

佐野剛。高野とは二学年上の、つまり大学四年生の先輩だ。11月も始まったこの時期に部室にいるということは内定は決まったのだろう。

関西出身の先輩で、他の先輩たちとはノリがよく、陽気な性格をしている。身長は高野と同じくらいだが、細身の彼と比べてかなり良いガタイをしている。正直強そうではある。
だが、彼の良いところはその性格である。
陽気でノリの良いのに加えて、彼は誰とでも仲良く接する。特に輪に入れず、一人でいると、自ら話しかける優しいタイプの人間だ。高野も彼のその優しさのお陰で常に仲が良い。

そんな慕っている先輩の前で嘘をつくのは何だか気が引けてしまう。
場所は明らかにしない代わりに少しの真実を言うことにした。

「とりあえず俺たちで解析をしながら場所を特定しました。実際にそこに行ってみたんですけど、どうやら既に他の深部……連中もその情報を掴んでいたようで、彼らにとってはメジャーなスポットになっています」

途中で深部という単語をつい口に出してしまう。日頃から使っている言葉なので口が滑ってしまった。

「えっ、それってレン大丈夫だったの?」

声の主は香流だ。彼を含むサークルのメンバーには「他の連中に常に命を狙われている」程度の解説しかしていなかったので心配するのも無理は無かった。

「いや、大丈夫だったよ。別に全員が全員その情報を把握しているとも限らないし、時間の都合もあったからな」

情報を把握している深部は恐らく少数に留まっているはずだ。でなければあの日にそっちの人間と遭遇してもおかしくない。
それが無かったということは事実を知っているのはほんの少しなのだろう。尤も、これから情報の伝達によって増えていくかもしれないが。

それに余程の事がない限り冬に近づいている季節の中、夜で尚且つ標高約1200メートルの山なんかに登ろうなんて気はしないだろう。それを考えての昨日の行動だった。

「だから今日俺はサークルパスしてメガストーンでも探しに行くわ。何かあったら宜しくな」

高野は香流にその事を伝える。
香流はあれからずっと不安そうな顔を浮かべている。

「えっ……でもそれレン危なくない?外出歩いていたら狙われるんでしょ?」

「うーん、それは確かに心配だけど大学でもなければ基地でもない場所に俺が居る訳だからな。誰も『ジェノサイドがそこにいる。だから襲撃しよう』なんて考えが出来る訳じゃないから多少は大丈夫だと思うよ?それが怖いと言ってすべてを部下に押し付けるのも可哀想だし」

楽観的なのは彼の性格だったが、いくらなんでも危機感が無さすぎるとここにいる全員は感じただろう。
とは言っても今まで負けたことが無いが故だから仕方ないことだが。

「でも……危ないよ。絶対にローブなんて着るなよ?」

「着らねぇよ。戦闘中でもなければ誰かを追っているって訳でもないし」

それを聞くと、香流の表情が少し緩んだ。どうやらあのローブはかなり目立つらしい。

「それとも、そんなに心配なら一緒に探す?共に堕ちてくれるならの話だけど」

その瞬間、佐野と香流の顔が引きつる。
我ながらブラック過ぎるジョークを言ってしまったものだと若干反省しながら昼食に手を付け始めた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.79 )
日時: 2019/01/02 17:59
名前: ガオケレナ (ID: aVnYacR3)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


退屈な授業がやっと終わった。
時計を見ると15時前。外をふらつくにはちょうどいい時間帯だ。

「じゃあね。お疲れ」

高野は一緒に授業を受けていた友達に一言告げると早足で教室を出る。
とりあえず早く大学から出たかった。

構内を歩き、スマホを少しいじる。
この近くの、メガストーンの在処をまとめたページを見たかった。

「この近くだと……あの公園か」

そこは高野も知っている場所だった。
と言うのも、高野の通う大学の周辺は住宅が多数並び、且つ土地がかなりあるので公園の数も多い。
彼も暇な時を見つけては、近くの公園にフラッと立ち寄っては時間を潰していた。

「まぁ、どうせ取るだけなら後は暇だしな。ゆっくり休んだ後に帰るか」

場所を確認すると、高野はスマホをしまう。同時に出したのはオンバーンが入ったダークボールだ。
ここが大学内だと言うことを忘れているくらい大胆にそれを投げる。
オンバーンが元気良く飛び出し、高野はそれに飛び乗った。

あっという間に大学から遠ざかっていくが、何やら怒鳴り声が聞こえた気がする。
そう言えば今大学では以前にポケモン絡みの騒ぎがあったせいか監視と罰則が厳しくなったとかいう話があった気がする。

「ったく、誰だよ……そこまで騒いだアホは……」

風を浴びながらそう呟く。
その原因が自分だということに全く気づいていない高野洋平であった。


ーーー

つくづく空の移動は便利だと気づかされる。

今、彼がいるのは"長池公園"と呼ばれる公園だ。ここまで来るのに徒歩だと一時間以上、車だと十五分程度かかるが、空だと五分程度で着いてしまう。

今彼が立つ土地は、住宅地の真ん中に立ち、農業用の用水を池として溜め、その周りを公園としたものだ。
しかもその周りと言うのが元々この地に存在していたそのままの自然を保存しているので面積もかなり広く、東京に居ながら自然を楽しめるという不思議な感覚に浸れる。
池の周りには野鳥がいたり、中には野生のリスや狸程度ならまだいる程の林が広がっている。
そして何より、一番特徴的なのが。

「……綺麗だけど、不自然だろ、あれ」

池から団地を通り、駅近くまで流れている水路。その上に建っている煉瓦で作られた橋だ。
その橋は大正時代に作られたものらしく、元々は此処ではなく四谷にあったものらしい。
それが何かの縁か、この公園に復元されていた。
当時は橋の上に電車が通っていたらしいが、今は流石に通っていない。
公園の一ヶ所に線路の一部が展示されているのみだ。
橋に目をやると、それに似合う外灯に光が灯っていた。

「まさか……」

辺りを見ると、橋が見え、水路が見える。

その近くで遊ぶ子供達、芝生、そして散歩コースから広がる林。

「……」

その広さに言葉が出なくなる。
と、言うのもこの公園の面積は198400㎡。
一人でこの広い公園を探すのは中々骨の折れる作業だ。

「はぁ……今日の内は出来たら二個程手に入れようかと思ったけど仕方ねぇか。どうせ暇だしどうにかして探すしかねぇな」

一先ず、橋付近を探すことにした。ゲームに則っているならば、石のある地点が光っているはずだ。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.80 )
日時: 2019/01/02 18:03
名前: ガオケレナ (ID: aVnYacR3)
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橋の周辺は石畳で覆われている。もしも、ここが光っているのならさらに辺りを覆っている芝生よりかは見つかりやすいのだが……

「……ねぇな」

辺りを見てもそれらしい物は見当たらない。

「芝生にも石畳にも橋の下にも見当たらねぇ。ダメなのか?やっぱり、キーストーンがここに無いと……」

もしそうだとしたらかなり面倒だ。また基地に戻らなければならなくなる。行って戻ってあるか分からないメガストーンを探すのはかなり効率が悪い。
だとしたらどうすべきか。橋を見上げながらジェノサイドは悩む。

すると。

「何を諦めているのですか?まだ探していない所がありますよ。あなたの目の前の池とか」

いきなり、後ろから声がした。

一瞬振り向こうとしたが、それよりも池の中が気になる。

濡れて冷えるのも躊躇わずに飛び込んだ。

「ここか!?ここのどっかにあるんだな?ここら辺に……」

あまり綺麗とは言えない濁った水に手を突っ込んで辺りを探る。

すると、何か石に当たる感覚が伝わった。そこらにあるような、物とは明らかに違う材質。
硬くて、あまり大きくない。

すぐにその手を水から上げた。
見たことのない石だ。

手には、透き通った青と黒の綺麗な石が握られている。

「これは……」

見たことない代物だが、それは明らかにキーストーンに似ているように見えた。

「まさかメガストーン?」

「はい。その通りです」

先程と全く同じ声がまた聞こえた。
今度こそ、振り向く。

そこには、二人の人影があった。

一人はキャップを深く被ってシンプルな柄のカーディガンを着、カーキ色のチノパンを履いた人物と、白装束に身を包み、服だけでなく髪も真っ白に長い人物。声の主は白い方だろう。

「お前は……」

「失礼ですが、あなたはジェノサイドでよろしいでしょうか。いえ、言葉を間違えました。あなたはジェノサイドですよね?」

言っている途中に遮られ、さらにローブも着ていない、普段着であるにも関わらず見破られた。

ピリピリとした敵意が支配する空気へと変貌する。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.81 )
日時: 2019/01/02 20:26
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「ったく……」

ジェノサイドは鞄からローブを掴んだ。それを上から羽織るように着ていく。

「わざわざ私服でフラフラしてたのに、それでもダメか。それに……」

白装束に身を包んだ長く白い髪の男をじっと見つめる。

「今深部では和服でも流行ってんのかねぇ?」

直後に、衝突が起こる。
ジェノサイドはポケットからゾロアークが入ったダークボールを、白装束の男がもう一人の人物にアイコンタクトを送り、もう一人がモンスターボールからエルレイドを召喚する。

エルレイドがこちらに駆ける。一足遅れてボールからゾロアークが飛び出し、エルレイドの肘の剣をその手で受け止めた。

「やはり、私の目に狂いは無かった」

白装束の男が呟くと、エルレイドとゾロアークの両者が互いに離れ、主の元へ近寄った。
「何の真似だよ。お前は何がしてぇんだ。さっきのメガストーンが欲しいのか?」

「いいえ」

あっさりと男は否定する。
始めはあったはずの敵意も、何だか薄れているように思えてきた。

互いのポケモンは睨みあっている。それに共鳴するが如くジェノサイドも、二人を睨む。

「お前は誰だ」

静かに、尚且つ敵意を込めた恐ろしげのある声色。ジェノサイドは再び彼らに言葉を投げた。

「お前は誰だ」

ジェノサイドは同じ質問をする。一向に答える雰囲気ではないが。
だが、それを察してか、白い男が口を開いた。

「私は……、私たちは、赤い龍。この名前を聞いたことは?」

赤い龍。聞き覚えのない名前だった。ジェノサイドは無言で首を横に振る。

「そうですか……。私たちはAランクの組織の『赤い龍』と申します。私はレイジ。首長の補佐役と言ったところでしょうか」

そして、と言ってもう一人の肩に手を乗せる。

「この方が、我ら赤い龍の首長のミナミと言います。以後、お見知り置きを」

リーダーではないと思っていた方がリーダーだったパターンである。
意外すぎる事実に、ジェノサイドは2秒ほど固まる。
その後に、ハッとしたかと思うと、ジェノサイドはレイジを睨みつけながら、

「じゃ、じゃあ此処で何で俺なんかに接触した?メガストーン目的じゃないとなると、やっぱ俺の命と金か」

「いいえ」

レイジは再び否定した。さっきよりも強い口調だ。

「私は、あなたを探しに、ここまでやってきました。私たちの目的はメガシンカでも、あなたの財産や名誉ではありません」

「あぁ?じゃあ何なんだよ……」

不信感が頂点に達している。それゆえ、相手が何を伝えたいのかいまいち分からずにいる。

すると、突如ミナミが自身のエルレイドをボールに戻した。戦闘中にポケモンを戻し、別のを繰り出さないという事は武装解除。言い換えてしまえば「戦う意思がないということ」だ。つまり。

「お願いがあってここまで参りました。ジェノサイド。どうかお願いです。私たちを、赤い龍を助けてください」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.82 )
日時: 2019/01/03 07:31
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「えっ……?」

あまりにも予想外な言動に、ジェノサイドは間抜けな声を漏らす。
当のレイジはこちらに頭を下げていた。

出会って攻撃してきたと思ったら助けてくださいなとど言っている。
やっていることの意味が分からない。

しばらく互いに黙りこんでしまい、沈黙が空気を包む。

だが、ジェノサイドがそれにずっと耐えることはできなかった。

「とりあえず」

彼の言葉にレイジも顔を上げた。

「助けてくださりますか!?」

「いや、そうじゃなくて……何というか意味が分からない。もっとちゃんと説明してくれないか?」

許可する旨の返答では無かったことにレイジは顔を曇らす。だが、この様子だとジェノサイドは何も知らないことをも察することができる。
仕方なさそうなぎこちない動作で、レイジは懐から一枚の紙を取り出した。

「これはあまり見せたくなかったのですが……以前こんな手紙が私たちのもとに届いたのです」

紙を向けられ、ジェノサイドはそれを受けとる。A4サイズの、簡潔なものだった。


『解散令状

当該深部組織は、議会による審議と調査の結果、解散するに相当する危険な行為が認められたことにより、組織の解散を命ずる。

該当組織:赤い龍 (該当クラス:A)

なお、命令に従わなかった場合は、強制執行の適用を認める。

中央議会下院議長 杉山渡』


「……」

ジェノサイドは無言でその紙をレイジの掌に叩きつける。

「いかかでしょう……?」

「どうもこうもねーよ。ただのイタズラじゃねぇか馬鹿馬鹿しい。議会の連中がこんな不幸な手紙染みたイタズラをする暇があるのかっつーの」

そう言うと、ジェノサイドは彼らに背を向ける。

「どこへ行かれるのですか?」

レイジが声をかけるが、ただ離れていくばかりである。

「待ってください!私たちをどうか見捨てないでください!このままでは殺されてしまいます!」

最後の物騒な言葉により、ジェノサイドの足が止まる。
そして、振り向く。

「待て、それどういう意味だ。詳しく話せよ」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.83 )
日時: 2019/01/03 08:08
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no



どうやら、外はもう夜のようだった。

ジェノサイドはふと、点けっぱなしの蛍光灯の光に目を覚まし、片目を開ける。
自分がいたのは、秘密基地の中にある自室だった。

体を起こし、ボサボサの頭を掻いたあと、ぐるっと見回す。
自分の部屋には、扉の平行線上にあまり大きくない机があった。とは言っても、机には充実していない文房具に大学で使うファイルが2つと明らかに基地での生活を始めてから勉強していないのを物語るかのような、一切開けてない筆記用具が一つ。

この机は大きくない代わりに、縦に高かった。あまり大きくない本棚が上にあった。その中には授業で使うであろう教科書や問題集、参考資料が幾つか。あまり手を加えてないからかかなり綺麗だ。

目を机から他に移す。
部屋の真ん中には安そうな椅子が一脚。机のとは違う種類のものだ。壁の一ヶ所はクローゼットと一体化しており、私服はすべてこの中に入っている。
ローブも普段着るため、基地にいる時など使わないときは小まめに洗っている。今もその最中だろう。
そして、扉に足を向ける形でベッドが置かれている。

こうして見ると空間いっぱいに家具を置いているように見える。ジェノサイドの部屋は6畳と、基地やリーダーの部屋の割には狭すぎるのだ。
尤も、ここにあるすべての個室はほとんどこの部屋と同じ広さだが。

ベッドの上で何も考えずに座っていると、誰かがノックしたところだった。
長いとこ共同生活をしているとノックの感覚で誰だか分かってしまう。ハヤテだ。

「寝てたんですか?」

ドアを開けてジェノサイドの姿を見るなりそう発する。

「あぁ。ちょっと疲れてな」

眠そうな目を擦りながらジェノサイドは適当に返事した。
だが、彼のこの反応はいつものことなのでハヤテもそれ以上追及はしない。

「とりあえず、」

ハヤテはクリップで止めた2,3枚程の紙を捲る。

「今日リーダーが会ったと言っていた赤い龍と彼らの言い分の信憑性についてです。色々と調べてはみたんですが……」

ジェノサイドがあの公園でメガストーンを発見し、赤い龍を名乗る二人組に出会って話を聞き、そこを去ってから三時間も経っていた。
ジェノサイドは助けを求めていた彼等の言葉を無視し、そしてハヤテたちに“ある調査”をさせていた。

その調査とは。

「事例がかなりあります。リーダーの言っていた脅迫文と同じ内容の文書があらゆる組織に送られていますね。その組織らに共通点はなく、ランクもバラバラ。ランダムに送っていると思われます」 

「ランダム、ね。なんか益々イタズラくせぇな。ソイツは何の目的で議員の名を騙ってこんな呪いの手紙をバラ撒いているんだか」

「いえ。イタズラではないかと」

ハヤテがジェノサイドの言葉を遮る。

「実際にスギヤマ ワタルという議員は実在しています。それも、中央議会下院議長の肩書きを持った大物の議員が」

ハヤテの言葉により、興味の無さそうなやる気のない目がギョロっと動く。彼の持つ紙を捉えていた。

「これまで分かったことですが、スギヤマ ワタルという人物は調査という名目で辺りにこの脅迫文を送り、あらゆる組織を解散させています。それから、この強制執行という文言ですが……」

ハヤテの言葉が一旦詰まる。
言いにくい内容なのだろうか。

「強制執行なんですが、これはかなりエグいものでして、どうやらこの脅迫文の命令に従わなかった場合、強制執行という名目で強制的に議会によって排除されるらしいのです。財産はすべて没収、住みかも奪われ、ほとんどの場合リーダーを含む構成員全員がその場で殺害される……とのことです。存在そのものが無かったことにされてしまうんですね」

想像以上だった。
てっきり文字通り強制的に解散させられるだけだと思っていたが冷静に考えると確かに議会ならやりかねない。
暗部の組織同士を戦わせるよう促したのは紛れもない議会だ。

では何故そんな事をさせたか。
まず、議会が一つの組織を生み出すのに援助としてかなりの金が動く。組織が増えすぎた以上議会側の出費も馬鹿にならない。
さらに、ルールとして、ある組織が別の組織を潰して財産を得た時、その財産の6割をも議会に献上しなくてはならないことになっている。
ジェノサイドが狙われる理由が正にこれだった。

だが、今回のような事をすれば財産が6割どころか10割、つまりすべて得られるし、組織設立の抑止にも繋がる可能性もある。
一見野蛮な行為だが、利益を得るには適していそうなやり方だった。

「まさかそれ程とはな……まぁこんな世界造り出した連中なんてマトモな人間じゃねぇだろ。殺すことも厭わないなんて俺達と変わりやしねぇ。それどころか、どちらが闇か分かったもんじゃねぇよ」

どちらも変わりませんよ、と言いたくなったが自身のリーダーを見てその言葉を直前で飲み込む。
深部最強とか、深部最悪とか言われている割には善人すぎるからだ。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.84 )
日時: 2019/01/03 08:22
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「ところで、リーダー」

ハヤテは持っていた紙を丸めた。報告は終わったようだ。

「なんだ?まだ何か言うことがあるのか?」

「いえ、それほどの事では無いのですが……」

ハヤテは、視線を窓へと向ける。

「基地の前に、見慣れない二人組がいるんですけど……」

「……」

「あれが赤い龍で合ってますよね?」

「……」

「何か答えてくださいよ」

「しらない……」

ジェノサイドが何か言ったが、声が小さすぎて聞き取れなかった。すると、また同じ言葉を繰り返す。

「いや……俺は知らないぞ……決して連れてきたとかじゃないぞ!あいつらが勝手について来ただけで……」

分かり易すぎる反応に、ハヤテは半ば呆れつつも笑う。これが、リーダーの善人すぎる部分だ。

「俺だってさぁ……あいつらの言ってる事なんて信用してなかったよ?最初は。でもさ、助けてくれなんて言うのよ。無理に決まってんじゃん?此処になんて連れて来れるわけ無いじゃん!?なのにあいつら勝手にさ……」

「いや、もういいですよリーダー……呼びましょう。彼等をいつまでも外で待たせるわけには行きませんからね」

「い、いやだから俺助けた訳じゃねぇからな!?まぁ、これであいつらの言ってる事本当だったけどさ……」

いつまでも訴えかけてるリーダーを放っておいて、ハヤテは外へと進む。
階段を登り、扉を開け外に出ると、基地の前に広がっている森へと足を向けている二人組がいた。
ちなみに、この森を抜けると街へと出ることになる。

「お二人さーん!入ってもいいとリーダーが許可してくれましたよー!どうぞこちらへー!!」

ハヤテから見て大分遠くに居たので大声で気づかせる。
二人のうち、それにすぐ気づいたのはレイジだった。彼は、声の主へと振り向いた後、こちらに向かってきた。
一方、もう片方は何やらキノガッサを出して何かしていた。よく見ると'やどりぎのたね'を使って植物を増やそうとしていた。

「リーダー、早く!」

レイジの言葉に頭を上げ、素早くキノガッサをボールに戻すと駆け足でこちらへ向かってきた。


ーーー

「んで、お前らはどうして欲しいの?」

ただっ広いリビングと同じ階、地下一階の談話室に、ジェノサイド、ハヤテ、レイジと赤い龍のリーダーのミナミが揃う。
4人で1つのテーブルを囲んでいる状態だ。

「お望み通り話も聞いたし基地にも入れた。それで、どうしたいのさ?」

未だ心の内に残っている敵意の残骸を吐き出す態度で、ジェノサイドは臨む。
ジェノサイドの性格とまではいかないが、深部の人間と接触するときは普段からこのような態度をわざと取って相手していた。
今ではその癖が現れているのだろう。

「はい」

応じたのはレイジだ。何だかこの男しか喋っていない気がする。

「ご理解頂けたでしょうか。現在深部では我が儘な議員によって翻弄されている状態です。ただの我が儘なら良かったのですが……何より身の危機まで感じる程です。実際、私たちにもそれが向けられました。ですが、私たちはこんな所で倒れたくもないし死にたくもない。だからこそ、それらが保障できる場へ逃げたかった。それで……」

「それで、絶対に倒れることの無い俺たちの所へ逃げ込んで来た訳か」

レイジが言い終える前に、ジェノサイドが察した。

「そりゃそうだもんな。俺らはこの世界の頂点に立つSランク。これは中々壊れないもんな。けど、場所を間違えてるぞお前。ジェノサイドに避難して、それで安心って訳にはいかねーぞ。此処は深部最強の組織。常に多くの奴らから狙われている、それこそ深部で一番危険な場所だぞ」

「いえ、それはありません」

敵意を向けているジェノサイドに臆することなくレイジはきっぱりと断言し、前を、ジェノサイドの目を見つめる。
逆にジェノサイドが目を逸らしたくなるほどだった。

「仰る通り、ここは深部最強の組織のジェノサイド。それの秘密基地です。外敵から身を守るため生活上の空間をわざわざ地下に作っている。端から見れば工場しか見えませんもんね。いい考えです。ですがジェノサイドさん。それは間違いですよ。ここは世界一危険な場所なんかじゃない」

「なんだって?」

レイジの発言に、思わずジェノサイドの目が反応した。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.85 )
日時: 2019/01/03 11:02
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「あなたは、ここを深部一危険だと仰っていましたが……」

レイジは椅子から立ち上がり、辺りを見る。広くもなく、狭くもない談話室だ。暖炉の火が焚いているので部屋は暖かい。

「それはありませんよ。もしかしたら、あなたには自覚がないのかもしれませんが……」

言って、再び椅子に腰を下ろした。
そして、人差し指を立てる。

「暗部で頂点、即ちSランクを表しているということはどういう意味だと思いますか?」

「どういうって……」

反応に困り、ジェノサイドはハヤテと顔を見合わす。ハヤテも何と言っていいのかと言う具合の真顔だった。

「すごく強い、なんていう単純な意味ではありません。深部一ということは、この世界のバランスを保つ存在だと言うことなんですよ」

「バランス?ジェノサイドがか?」

はい、とレイジは返事をする。その後に説明を続ける。

「あなたは先ほど、常に敵に狙われていると仰っておりましたが……正確にはそれは組織一つを狙ったものではなく、リーダー個人、つまりあなただけを狙ったものではないのでしょうか?」

レイジの発言にジェノサイドはあ、と声をつい漏らす。そう言えば、今まで自分を狙ってきた人間がほとんどだったはずだ。
尤も、今までに何度も組織間の争いはしたが。

「あなたという存在だけでもこの世界ではかなりの財産なんです。ジェノサイドという大国を持つボスに、深部一というブランド。そこからイメージできる莫大な財産。何でもありのこの世界で、歩く財産を見つけたら誰だって奪うと思いますよ?普通なら」

歩く財産という表現とレイジの発言というギャップからつくづく損な役割だ、と自分自身に嫌気が差してくる。それを初対面の人間に言われるのも個人的に良い気分でなかった。

「ですが、あなたの正体はジェノサイドという最強の組織の一員。余程の酔狂な人間でない限り組織単位で戦おうとする人間はいないのでは無いでしょうか?」

「一理ありますね。つまり、ジェノサイドという組織があるだけで抑止に繋がる、と」

「そういうことです」

結論を先に述べたハヤテに、レイジは指を差した。

「言ってしまえば、ジェノサイドはそこらにある小さい組織よりも争いの頻度が極端に少ないはずなんですよ。リーダー個人に対するものとは別として」

小さく舌打ちをして、テーブルに置いてあるコーヒーカップにジェノサイドは手を伸ばした。あまり言われて嬉しいものではない。

「なので、極端な表現なのですが、ジェノサイドという組織はこの世界、深部に存在しているだけでこの環境を作り出しているのです。私が言った危険でない場所、という意味がお分かりになったでしょうか?」

その言葉に、やっとすべてが繋がった。
ジェノサイドは目を一瞬見開き、コーヒーを少し口にしたあと、カップをテーブルに置いた。

「そういうことか。お前らが俺たちを選んだ理由。それは深部が懸念している『環境の崩壊』を避けるために絶対に起こらないであろう、俺たちに対する解散を回避するためか!」

「おぉ!その通りです!私たちの考えを理解してくれましたか!」

思わずレイジとジェノサイドが立ち上がった。

議会が絶対にしないこと。それは、この環境を作り出したSランクの組織の破壊だ。
今、杉山という議員が解散令状をバラ撒いているが、それは言ってしまえば組織の解体。即ち環境破壊だ。
対象が小さい組織ならば何の問題もないが、その矛先がジェノサイドに向いたらそれはこの世界の崩壊を意味する。

それを理解しての赤い龍からの望みだったのだ。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.86 )
日時: 2019/01/03 11:26
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


話を進めた結果、監視を常時入れるものの、赤い龍はジェノサイドに統合される形で決定した。

「何も監視までつけなくても……」

ハヤテはそんな事を言っていたがどうもジェノサイドはレイジという男に対する疑いが消えなかった。
多くを知る情報力、それと、裏の裏まで読まれているような不安感。それが続いている感じだ。
当のレイジらは普通の事だと受け入れてはいたが。

「また賑やかになりますね」

「なーにが賑やかだよ。うるさくてまともに寝れやしねぇ」

髪をかき揚げながらジェノサイドはハヤテと廊下を歩く。レイジとミナミは一旦残りの構成員をこちらに連れていく為に自分達のかつての住処へと戻っていった。とは言っても残りのメンバーは一桁代だったが。

「……でも、大丈夫ですかね」

「ん?何が」

「さっき彼らは一旦戻っていきましたが……ああいうときに限って嫌な事って起こるじゃないですか」

ハヤテが懸念していたのは、赤い龍の人たちの命だった。

令状に逆らうと殺される。住処も、金も、命も奪われる。そして多分、ポケモンも。

「まだ彼らに適用されていなければいいですけどね。強制執行が」

そんな事を話ながら歩く二人だったが、ハヤテが違和感に気づく。
ジェノサイドの歩くペースが速い。

「あの、リーダー」

「何だ」

「歩くの、速すぎませんか?いつもより」

「あぁ、まぁな。ちょっとメガストーン探してくる」

言うと、走り去ってしまった。
外へと続く扉の方へ。

「やっぱり……だと思った。やけに強い眼差しだったからなぁ。さっきまで」

四年も一緒だと、流石に心の内まで分かってしまう。


ーーー

基地の居場所は会話の中で聞いた。
神奈川県の某所にある一軒家がそれらしい。元々人も少なかったので一つの家に収まったとか。

「そんなに……遠くはねぇな」

場所をスマホで再確認しつつオンバーンの背に乗って空を移動している。

流石にこの時期の夜の空旅は苦痛だった。

かなり寒い。

手も熱が伝わっていないんじゃないかと思うくらい冷たい。

(これ……風邪引かねぇよな……?)

寒い=風邪を引くと勘違いしながらそんな事を考えるが、結果なんて出る訳がない。

偶然にも近くの寺の敷地内にメガストーンがあるらしい。そこに寄ってから合流する予定だ。

この調子だと風邪も引きそうになかった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.87 )
日時: 2019/01/03 11:32
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「これで全部ですか?」

基地と言うより家から鞄やスーツケースを抱えて出てきた団員に声をかける。

「えぇ、元々何もありませんでしたからね。服とかとりあえず個人で使う生活用品以外は、何も」

レイジは玄関を外から覗きこむ。
文字通り何もないただの空き家だった。
基地という構造上、緊急時の対処の為に必要最低限の物以外はここには置いていなかった。これはどこの基地でも通用することだろう。
構成員は自分とリーダーを含めて七人。確かに人は少なくなったがレイジからしたらリーダーさえいれば後は下っ端感覚なのでさほど気にすることはなかった。

最後にリーダーのミナミが出てくる。

「終わりましたか?」

「……うん」

これで全員揃った。今から出発しようかと思ったとき。

突如背後から冷たい風が吹いてきた。


ーーー

「うーん……どこら辺にあるんだ?メガストーン……」

予め場所を把握していたジェノサイドはいざ寺に着いてみても、その頭を悩ませるだけだった。
見つからない。

どこを探してみてもそれらしいものが見当たらない。夜のため暗いのもあるが、それでも見つからなかった。

「そう言えば初めて手にした時もこんな感じだったな……俺は必死に探しても見つからなかったのにレイジの奴は簡単に見つけやがった……」

俺の探し方が下手なのかなとブツブツ呟きながら誰もいない境内を見回る。

「そう言えば」

ジェノサイドは長池公園で会った二人の事を思い出す。

何故あそこで会うことが出来たのか。何故、レイジは簡単にメガストーンを見つけることが出来たのか。

そして、そのメガストーンに興味を示さなかったことも。

「あの時は第一目標が俺だからって言ってたけど……それも今達成したしなぁ……」

見つからない不安さとイライラで小石を蹴る。

「やっぱり、後になってメガストーンとか狙ってきそうだな」

蹴った小石の方向を見る。それなりに遠くへと行ったが、石の止まった地点の近くに、不可解な光のようなものが浮かび上がっていた。

「……?」

不思議に思い、ジェノサイドがそれに近づくと確かに光だった。白く強い眩いに一度目を細める。

「これは……もしかして」

言いながら、光源を探しにその部分を掘る。
すると、少し掘っただけでメガストーンが出てきた。

「ここにあったか、メガストーン」

光が小さいため、すぐには見つけることができなかった。それだと公園で見つけられなかったのも理解ができた。
よく見ると、キーストーンと共通した模様がある。ゲームと同じく、すべての石にはこの模様があるようだ。

ただ違うのは、色。

公園で見つけた一個目の石が青と黒色だったのに対し、この石は全体がピンク色だ。

と、言うことは前者がギャラドスナイト、後者がサーナイトナイトだろう。

「これで二個目、か。メガストーンって全部でいくつあるんだっけか?」

石を専用のケースにしまい、それをポケットに入れてから、ジェノサイドはレイジ達の事を思い出す。

「あっ、ここでのんびりしてちゃいられねぇな!早くあいつらと合流しなきゃ……」

行きと同じくオンバーンをボールから出す。

ジェノサイドが飛び乗ると、オンバーンは大きく翼を広げ、地面を蹴った。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.88 )
日時: 2019/01/03 11:37
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


強い風が吹く。

レイジは危機感からか反射的にそちらへ振り向く。

(まさか、もう追っ手が……)

議会の者ならば、所有する情報を利用すれば個々の組織の人間の住所を手に入れることも容易だ。

基地まで来たとなると……

だが、レイジの予想に反して、その風の正体は議会の者ではなかった。

「ジェノサイド……さん?」

「よう、基地が住宅地のド真ん中って言ってたもんだからここら辺かなと思ってな」

オンバーンに乗りながら、ジェノサイドは手を振る。
住宅地とは言ったものの、ここ一帯は住宅地しかない。
暗い時間帯に空から眺めても早々分かるもんじゃない。

(まさかジェノサイドは……石を手に入れてからは、かなりの移動を繰り返しながら私たちを……?)

「ありがとうございますジェノサイドさん。丁度今荷物運びが終わったところです。これから移動しようとしていたところなんですよ」

荷物、とは言っても全員リュックサックに収まる程度だ。七人もいるのによくそれで収まったものだとジェノサイドは純粋に思う。

「とりあえず、」

声が聞き取りにくかったため、ジェノサイドは地上ギリギリまで降下する。

「早いとこ移動しちまおう。移動手段は?」

「七人のうち四人はあれで」

レイジが指差した方向には赤い軽自動車が1台。
荷物とメンバー4人を乗せるためのものだ。

「あとの三人は空から移動します」

「おいおい、大丈夫かよ?空の移動も時間的には楽っちゃ楽だがとにかく寒いぞ。どうにかして皆を車に乗せることはできないのか?」

「いえ、全員を車に乗せることはできません」

レイジはさも当然と言った感じで首を横に振る。

「車がロケットランチャー等で襲撃されたら無意味ですから」

「……。」

何というか……このレイジという男はかなりの心配性なのではないのか。それ故に様々な対策を立てられるのはいい事ではあるが……。

「あの、お前さ……仮にそういうことがあってもさぁ……何というか、もうちょっと現実的な例えを……」

「議会の人間ならば持っていてもおかしくはないという私の想像です!私からすれば十分現実的です!」

「……。」

これ以上会話しても無駄だ。それを察したジェノサイドは彼らのためにリザードンなど飛べるポケモンを貸そうとボールを取り出した時。

「ふむ、じゃあ実際に持ってきた方が君たちにとっては良かったかなぁ?実際そんなものは持ち合わせていないがね」

前方から聞き慣れない声がする。
だが、誰のものかをジェノサイドは瞬時に察する事が出来た。

「へぇ。と言うことはテメェは議会の人間か」

「ご明察。私、杉山すぎやまわたると申します。以後、宜しくお願いしますねー」

ここで会うには最悪な人間が現れてしまった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.89 )
日時: 2019/01/03 13:15
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

黒スーツに整えた形跡のある短い黒髪の男は自分を杉山と名乗った。
果たして、議会の人間がここまで来るとは正直考えにくい。杉山という名を騙った偽物の可能性もある。

「ぶっちゃけさぁ……」

彼の自己紹介を無視した形でジェノサイドがオンバーンから降り、レイジと杉山の間に入る。

「お前が本物か偽物か分からないから正直信用はできない。でも、どちらにせよ聞きたいことがある」

ジェノサイドは、“敵”に対してのみ向ける悪鬼の如き形相を杉山に向ける。

「何の用だ」

「何の用、と聞かれてもね。ここに解散が適用される組織があるはずなんだけど……逆に聞きたい。何で君がいるの?」

「それは、私たちがジェノサイドの仲間だからです!」

ジェノサイドに臆することなく、冷静且つ地味に威圧感を放つ杉山。そんな杉山に多少の恐れを抱きつつも勇気を振り絞ってレイジがジェノサイドの代わりといった感じで彼の質問に応じた。
杉山の目がレイジへと移る。

「仲間、とは?」

「そのままの意味です。私たち赤い龍は今日限りで解散し、残った我々がジェノサイドに参加する運びとなったわけです」

「そんなのが認められると思っているのかい!?」

突如、杉山が叫ぶ。ここにいる、誰もが聞こえるように。

「君たち赤い龍が解散し、ジェノサイドに吸収されるといった報告は議会には届いてなーい!!あるのは君たちに対する解散令状だけだ!」

相変わらず叫ぶのをやめない。元からやや高い声なので余計響く。

「つまり君たちに関する最新情報が解散令状だ。つまり君たちの身勝手な編入は認められず、私たちの強制執行が認められるということだ。大人しくしなさい」

杉山の後ろにいた従者が地面に一際大きい鞄を置き、その中で手を突っ込み、何やらカチャカチャと金属を擦り付けている音が聞こえる。嫌な予感しかしない。

「おい、ちょっと待てよ。身勝手なのはどっちだ?」

不意に、従者の手が一瞬止まる。だが、声の主を把握すると、再開しだす。

杉山の発言により、スイッチが切り替わる。
これまでジェノサイドはレイジたちに対し、不信感を抱きっぱなしだった。
必要以上とも取れる意思表示と行動により、人間をあまり信用しないジェノサイドにとっては怪しい人間でしかなかった。
これまでも、ジェノサイドにとっては言い返しにくい正論を展開したせいで、仕方なく仲間にしてやろう、だがまだ疑うぞという気持ちがどこかにあった。

だが、今は違う。
正論を放つレイジの言葉がこの男には通用しない。話が通じる通じない以前に、自らの勝手な行動で自分達の縄張テリトリーりを荒らす気でいる。ジェノサイドは杉山をそう捉えた。

縄張りを荒らす人間は一番許せない。敵意を向け、完膚なきまでに叩きのめす。
話が通じるのならまだいい。場合によっては許してしまうかもしれない。
だが、今回は違う。ジェノサイドが一番嫌うパターンの敵だからだ。

ただ、普段と違うのはジェノサイドが一方的に自身の敵と見定めたのではない。テリトリーが荒らされる対象が自分ではなく仲間。つまり、今回は仲間を守るために彼は立ち上がる。

「こっちの事情も考えず、紙バラ撒き次第、すぐに取りに来たってか。お前が今来なかったら今ここで解散する旨を宣言したかもしれないのに?それすらも考慮しねぇ、と。だったら俺も俺だ。俺の仲間殺すっつーならその時点で許せねぇ行為なんだよクソ野郎!!」

自然とジェノサイドも叫んでいた。叫びながらボールを投げる。出てきたのはソーナンスだ。

その瞬間、従者が鞄の中で調整していたであろう拳銃を取り出し、立ち上がり、構える。
後ろにいたミナミとレイジが震えた。

「なるほど、私としてはあなたは関係ない人間だったのですが……仕方ない。でしゃばりたい年頃のようだから優しい大人としては相手してあげないとねぇ。仕方ないから邪魔物として始末してあげるよ」

杉山が右手を合図として振る。撃て、という合図だ。

その瞬間、パン、と乾いた銃声が住宅地に響く。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.90 )
日時: 2019/01/03 15:16
名前: ガオケレナ (ID: FBVqmVan)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


銃弾が放たれる前にジェノサイドは動く。
そのポケモンは、「ゾ……ソーナンスのカウンターか!?」と直前に呟いたレイジとミナミを、その真横に位置するジェノサイドにそれぞれ腕を向ける。赤黒いエネルギーが生み出されている。'ナイトバースト'だ。

その衝撃波はソーナンスに化けたゾロアークの右腕と左腕からそれぞれ分離して放たれた。
右腕の衝撃波によりミナミとレイジが。
左腕の衝撃波によりジェノサイドがそれぞれ吹っ飛ばされ、5メートル前後まで離れる 。

「えっ、」

「えっ、ちょっ、待っ!!……」

「……」

一瞬だけ宙に浮き、そこからは地面に引き摺られる三人ではあったが、5メートル程度で済んだということはかなり威力は減らされている。
彼らを吹き飛ばした'ナイトバースト'は、余ったエネルギーで銃弾をも吹っ飛ばそうと両腕を合わせ、前方に放つ。射程圏内には杉山もいた。
直ぐ様直撃音が響く。銃声よりも大きかった。

「うっ……」

「痛っ……ジェノサイドさんん?……これは一体どういうことですか……?」

地面に転がるレイジが聴こえたかどうか分からない声を離れたジェノサイドに向ける。
黙って引っくり返っていたジェノサイドは保っていた沈黙を破る。聴こえていたようだ。

「銃弾を避けるためだ。当たって死ぬのと比べたらマシだろ」

「いや、そうですけど……」

話していた時だった。ソーナンス(に化けたゾロアーク)の前方から異様な風を切る音を捉える。

それに気づいたジェノサイドが立ち上がり、もとに立っていた地点に戻る。

本来ならば吹き飛ばされているはずの杉山が涼しい顔でその場に留まっていたのだ。
吹き飛ばされていたのは彼の従者のみ。そこらの地面に横たわっている。

「君がゾロアークを使うことくらい知っているさ。その特性もね」

杉山が'ナイトバースト'の餌食とならなかった理由。それもすぐ分かった。

「ゾロアークの特性は'イリュージョン'。簡単に言ってしまえば化ける能力。少し詳しく言うならば幻影、つまり幻を見せる能力だ」

杉山を守った正体。衝撃波を防ぎ、軌道を逸らした正体。

「だが、所詮は幻。そこに実体はない。ゾロアークが本来覚えない'ミラーコート'を、ゾロアークがソーナンスに化けることで幻の'ミラーコート'を展開することはできる。だが、幻だ。'ミラーコート'を見せることはできるけど、それで実際に特殊技を跳ね返せるかと言われたらそうはいかない。あくまで見せて化かすだけの特性だからね。だから君はさっき'ナイトバースト'で味方を吹き飛ばす形で銃弾から守ったんだろう?」

ルカリオ。

波動を操り、無理矢理軌道を修正する形で自らの主を守ったのだった。

ジェノサイドはその正体に舌打ちを発する。

「ハッ、よく分かってんじゃねぇか。今まで俺に噛みついたアホ共はこの化かしで無事に事故っていったもんさ。だが、単なる化かしで四年もの間頂点に立つことができるか?できねぇだろ。そこには俺なりの戦略があんだよ」

ジェノサイドは普段から対象を化かす。大体はこれに嵌まり倒れていくが中には騙されない人間もいる。
だが、ジェノサイドの強さはその後に発揮される。

ジェノサイドが得意とするのは、あからさまな化かしではなく、“本物か嘘か分からないイリュージョン”にある。

その為、本物か幻か見定めることができない対象者には心理的なロックがかかってしまう。
結局対象者は「ゾロアークである」と判断した場合と「ゾロアークではない」と判断した二択に迫られるので、後はジェノサイドがどちらのパターンにも対応できる手を打てばいい話。

彼が最強だと謳われた理由には、このような仕掛けがあったのだ。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.91 )
日時: 2019/01/03 15:32
名前: ガオケレナ (ID: FBVqmVan)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


杉山がそこまで把握しているかと言われたら分からないが、今一番の脅威である銃は失せた。
あとはルカリオを倒すだけか。

「'かえんほうしゃ'」

ゾロアークだと既にバレているため、惜しみ無く技を放つことができる。ルカリオの弱点技ならば尚更だ。
だが。

「避けるんだルカリオ」

遥か上空を跳び、'かえんほうしゃ'を軽々と避ける。
このままではジリジリと迫ってくる。格闘技の一つでも放たれたら勝てる見込みはなくなる。

(来るとしたら'インファイト'か……準備しとかねーと……)

ゾロアークはルカリオに合わせて後ろへと下がるが、ルカリオの近づくペースの方が早い。逃げるのは無理なようだ。

'インファイト'が来る。そう悟った時だった。

「ルカリオ!'しんそく'だ!」

えっ、と思わず声が出てしまい、反射的に目を丸くさせてしまう。

その速すぎる動きがゾロアークを狙う。
一瞬のうちに連打を食らうゾロアークは、襷を失ってしまう。だが。


(受けた技は格闘技じゃなくとも、物理技!!ならば……っ!)

ゾロアークの腕がルカリオを掴み、逃げられなくする。そして。

「'カウンター'!!」

掴んで命令を受け、技を放つまでおよそ0.7秒。

'しんそく'に負けず劣らずのスピードで打たれた'カウンター'は確実にルカリオを捉えていた。

衝撃により、ゾロアークの腕からするりとルカリオが離れ、吹き飛ぶ。

ルカリオは杉山の足元まで飛び、そこで倒れる。

「どちらにせよ物理技じゃねーかバーカ」

「議員に向かって画面越しでなく面と向かって言ってきたのは君が初めてだよ。だが僕がバカだったら議員にはなれないだろう?」

ルカリオは、立ち上がる。

「!?」

「全部が全部倒すための技だと思わないことだね、おバカさん」

見ると、ゾロアークも疲弊している様子はない。対してダメージを受けていないようだ。

「まさか、'カウンター'まで予想していたとはな……」

「予想じゃないよ、知っていたんだよっ!!」

叫びながら、杉山は右腕を頭上に挙げ、曲げる。
腕時計を見る格好を高くした感じだ。

「さて未熟なジェノサイド君……僕は議員だ。これがどういう意味か分かるかなぁ!?」

「どういう……って特にそんなもの……」

言いかけたとき、その奇妙なポーズを前にあるワードが浮かぶ。

「まさか、お前その力を!?」

「やはりそれくらいは分かるか……まぁそれくらいは当然であってほしいよね」

腕から一瞬だったが、七色の光が瞬く。

「ちなみに、答えとしてはだね……議員ゆえ君たち貧乏人とは持ってるスペックも財も名誉も違うってことさ!!」

気づくのに遅かったことを後悔した。
杉山の右腕にはリングのようなものを着けていたのだ。そして放たれる七色の光。

「見せてあげよう、これがメガシンカだ!!」

眩しすぎる光がメガリングからルカリオへ、そしてその光は余計に眩しく放ちながらルカリオを包む。

ジェノサイドたちが目を開けたとき、気づいたときには。

目の前のメガルカリオが殺気を放ち、威圧感を魅せながら、そこに立っていた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.92 )
日時: 2019/01/03 15:44
名前: ガオケレナ (ID: FBVqmVan)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


目の前の光景にただただ驚くのみだった。

'イリュージョン'込みではメガシンカを見たのは二回目だが、純粋なメガシンカは初めてだ。気のせいではあるが、'イリュージョン'の時と比べて迫力が全然違うように見える。

(このタイミングでメガシンカだと……はっきり言って今のゾロアークだけで勝てる相手じゃない……)

ジェノサイドはこの時点で敗北を悟る。

だが。
この世界は勝つか負けるかですべてが決まる世界じゃない。

ジェノサイドは右手をローブのポケットに突っ込み、もぞもぞと動かす。
その中には自分のスマホが入っていた。

「ん?」

光を点滅させながら振動したのはレイジのスマホだった。
偶然ではなく、必然的に。
届いたのはメールだ。それも、ジェノサイドからの。

意外な行動に、レイジはスマホの画面と、自分の前に立ちメガルカリオの前に固まっているジェノサイドを交互に見る。
行動の意図が読めなかった。だが、その疑問はメールを開くと消滅する。

「にげろ」

メールには文にもなっていない、たった三文字で構成されている内容だ。

(逃げろ……?ジェノサイド……あなたは一体何を……?)

頭上を見上げると、戦闘前までジェノサイドが乗っていた彼のオンバーンが相変わらず空を漂っている。

(これに乗って逃げろ、と言うのですか!?)

不安そうに顔を前に戻すと、メガルカリオと杉山を睨んでいたジェノサイドの顔が少し後ろに、レイジとミナミをチラッと見る形で向いた。
その顔は、微かに笑っていた。

それを見て、レイジはすべてを悟る。

「リーダー!」

メガシンカに呆気に取られ、無防備に地べたに座っていたミナミの手を取る。

「頼みますよ、キルリア!」

ミナミを起こしたレイジは、自らのボールからキルリアを呼び出す。
彼の命令により、キルリアの'テレポート'で二人はオンバーンの真上に放り出された。

「うわっ!」

「っ……!?」

ぼすっ、と柔らかい毛皮に降り立ったことで面白い音を立てる。
のを見て、ジェノサイドは叫ぶ。

「逃げろ、オンバーン!」

「させませんよっ!!」

杉山が叫ぶと同時、オンバーンの漂う空中に、届く位置までメガルカリオがジャンプする。
一瞬で、二人の視界の前にメガルカリオが出現した。

「そこの二人を'はどうだん'で落としてあげなさい!」

命令を受け、地上に落ちるまでにメガルカリオは構え、二人に向かって技を放とうとする。

だが。

「敵を目の前にガラッガラだっつーの!!」

ジェノサイドのゾロアークが杉山本人に向かって走ってくる。腕から赤黒いエネルギーを集中させて。

「てめぇでも深部のルールぐらいは知ってるだろ!?だったら今この場で死んでもあの世で文句言うなよ!!」

メガルカリオが空中で'はどうだん'を放った瞬間、ゾロアークも'ナイトバースト'を杉山に放つ。

これで引き分け、いや、仮に命中して空から放り出された二人を助け出すことができればこちらの一方的な勝利だ。

結果には勝った、と思った瞬間。

オンバーンとレイジとミナミに直撃すると思った'はどうだん'が突如、不自然なカーブを描いてレイジとミナミを無視し、一直線に、ジェノサイドとゾロアークを狙うかのように真っ逆さまに落ちてきた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.93 )
日時: 2019/01/03 16:10
名前: ガオケレナ (ID: FBVqmVan)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「っ!?」

「えっ、なんで!?」

直前まで自分に命中すると思っていたレイジとミナミは意表を突かれた。
本来ならばおかしい軌道をなぞり、'はどうだん'はジェノサイドとゾロアークを狙う。

「くそっ!」

ジェノサイドを守る形でゾロアークが動き、'ナイトバースト'を放った。

だが遅い。
反応が遅れたため、直撃こそは避けたものの爆発の余波が彼らを襲う。

衝撃でジェノサイドが吹っ飛ぶ。

「ぐっ、くそっ……!?」

ゴロゴロと地面を四回転したところで止まる。
仰向けになることで空が望めた。

(あいつらは……?逃げられたか……!?)

彼らとオンバーンが漂っていた地点に目を動かすと、彼らの姿が無かった。
どうやら逃げ切ったようだ。

「'はどう……だん'は……必ず命中する技……端からあいつらを狙うつもりはなく、俺だけを狙って……」

息を切らしながら頭を上け、徐々に体を起こしていく。

珍しく杉山の反応がない。何があったのか、彼らに視線を移す。見ると、杉山が地面に突っ伏していた。
メガルカリオも、片膝をついて怯んでいる。

「なっ、なにが……?」

よく耳を澄ませると杉山が何やら呻いているが、何に苦しんでいるのかよく分からない。

状況に混乱している中、今度はジェノサイドのスマホが振動した。

「レイジ?」

レイジからの返信メールだった。

「爆発に乗じて彼とルカリオに私のキルリアの'でんじは'を撒きました。今のうちに逃げてください」

そう言えば、レイジはキルリアを使っていたはずだ。二人のバトル中に乱入とはルール違反もいいところだが、これが深部のやり方だ。誰も文句は言えないだろう。むしろ彼の助けがなければジェノサイドは無事ではなかったかもしれない。

チャンスは今しかない。すかさずジェノサイドはボールを取り出し、リザードンを呼ぶ。

飛び乗ると同時、メガルカリオも動いた。
無理して体を動かし、'はどうだん'を撃つ。
陸から離れる瞬間、ゾロアークをボールに戻す。空へと飛び立つことで'はどうだん'を躱す。
だが、後ろを振り向くと弾丸が曲がり、やはりこちらへと迫ってきている。

「波動の力か何か知らねーけど……やっぱり逃げても無駄ってことかよ!!」
'だいもんじ'を放ち、'はどうだん'と相打ちさせる。
互いに打ち消され、爆発と黒煙が発生した。

煙が晴れ、メガルカリオと杉山が空を眺めたとき、赤い龍のメンバーはおろか、ジェノサイドの姿すらもなくなっていた。


ーーー

「どうしたんですか!!そんな傷だらけになって!!」

基地に着くやいなやハヤテがジェノサイドたちの姿を見て珍しく声を荒げている。

「あぁ、ちょっとな。何度も爆発に巻き込まれて転がっただけだよ」

決してその中の一回は避けるとはいえ、自分がわざと爆発を起こして勝手に転んだなんて言えない。何だかこのタイミングで言うには情けなさすぎる気がした。

「杉山が……現れたんです……」

目立った傷はないものの、手足にガーゼを付け終えたレイジがジェノサイドの代わりに事情を説明し出した。

荷物を運び終えた時に杉山が来たこと。その杉山に命を狙われたこと。他の構成員は別のルートを使って車で移動できたこと。

そして。

「一番懸念すべきはこれからの事です。杉山の強制執行から逃げた場合どうなるのか分からないのです。今回と似たような前例を聞いたことがないので尚更です。そして、ジェノサイドさん。あなたもどうなってしまうのか……」

レイジは自分達の問題に関わってしまったジェノサイドの心配をしているようだった。
それは今自分達がいる『ジェノサイド』という組織の環境がなくなってしまうことへの懸念なのか、それとも単に心配してるだけなのかは分からないが。

「さぁな。あいつはとんでもないアホだったが仮にも議員だ。ジェノサイドぶっ壊せばどうなるのかそれくらいは分かってるだろう。ここを強制的に排除なんてことはしないだろうし、俺を殺そうとまでは……まぁそこは分からないけど」

杉山は確かに話の通じない人間だった。どれほどの正論を並べても聞く耳を持たないだろう。
かと言ってこのまま彼を好き勝手暴れさせてもいいのだろうか?

「ぶっちゃけて言うと、お前ら含むジェノサイドはアホの野郎とは何も関係がない。今回こそは仲間となった奴等の手助けという名目で接触こそはしたが、これからはそんなことも無いだろう。だから気にすることはない。そもそもあんな奴に気にすること自体が勿体ねぇよ」

「では、これからリーダーはこれから如何なさるんですか?」

「そうだな……とりあえず俺はメガストーン探しを続行するよ。新しい戦力を得たいからな。それから……」

ジェノサイドはレイジとミナミへと振り向く。

「お前たちは今やるべきこととして一刻も早く解散したことを議会に報告すること。本来ならば別の組織に入った際も報告しなきゃいけないけど、それはやらなくていいだろう。ほとんどの人間がそこまでしないからな」

「報告と言うより……書面ではなくネットから報告はしたのですが、それで済みますでしょうか?」

レイジが議会のサイトを開いて解散届なるものをジェノサイドに見せる。
ジェノサイドも詳しいことは知らないのでどこまでやればいいかは分からないが、届けるための手段は問わなくて結構だろう。

「じゃあ大丈夫だろう。とりあえず今は様子を見ておくから、お前たちはゆっくりしていてくれ。今まで追われて疲れただろう?何かあったらまた連絡する」

そう言ってジェノサイドは広いリビングから出ていった。

ーーー

「あなたたちのリーダーは……一体何を考えているのでしょうか?」

レイジが唐突に近くにいたハヤテを呼んだ。

「あの方は……明らかに私たちを疑っています。疑われるのは無理もないでしょうが、彼の考えていることが分かりません。疑うなら疑うでいいのですが、私たちを助けたりすれば、何だかんだで快く仲間として迎え入れられてもらっています。一体リーダーは何を思って行動しているのでしょうか?」

「あれがリーダーの性格ですよ」

すべてを知るハヤテだからこそ遠慮なくすべてに答えられる。

「リーダーは縄張り意識が強い人間です。彼にとっての縄張りは此処ですが、その縄張りを荒らす人間をとても嫌います。だから、自分を狙ってくる敵を最も嫌うんですよ」

「なるほど、だから私たちもかなり疑われているのですね」

レイジにも、自分は疑われているという自覚があった。ジェノサイドの態度があからさますぎるというのもあるが。

「えぇ。だから今回も、リーダーは進んで発生している問題に関わろうとしたのです。仲間であるあなたたちを守るために、仲間というテリトリーの一部を守るために」

「えっ、それじゃあ……」

「リーダーは仲間思いのとても優しい人間なんです。今はまだ疑いをかけられてしまいますが……それはその内解決してくれますよ。逆に今じゃないと見れないと思いますよ?素直になれないリーダーの姿」

思ったほど困難を伴う環境ではなさそうだ。それを知られたことが、レイジたち新人にとっての一番の収穫だ。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.94 )
日時: 2019/01/03 16:26
名前: ガオケレナ (ID: FBVqmVan)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


ジェノサイドは、突然目を開けた。
既に全員寝静まっている夜中である。

彼は、今あるこの状況が恐ろしくなり反射的に目覚めてしまう。

「杉山は……議会の奴等は来てない……よな」

ゆっくりと体を起こし、部屋を出て外に繋がっている扉を開くと暫く眺める。

真っ暗で何も見えない闇を元々工場に付いていたライトの小さい光が照らしているだけだ。当然そこには何もない。

時間を確認したかったが、手元に時計もといスマホが無かった。一旦部屋に戻ると電気を付け、辺りを探すがやっぱり見つからない。

「おかしいな……皆で話した後は飯食ってそのままここに来て寝てたはずなのになぁ」

言いながら思い出す。

「あるとしたらリビングか!」

レイジたちと話をしていたリビング。そこに恐らく置き忘れたのだろう。
部屋の扉を開け、リビングのある上の階へと上がってゆく。流石に夜中だからか、かなり静かで自分の足音が他の部屋に伝わっているかが心配だった。
階段を上がり、少し廊下を歩くとそこがリビングだ。

扉を開けると、まず電気が付けっぱなしだった。
さらには、その場で寝ているのが数名。
辺りを見ると菓子の袋や空の紙コップが散乱していたので何かしら騒いだ後だったのだろう。それに疲れてその場で寝てしまったパターンなのは目に見えていた。いつもの事だからだ。

「ったく、これ誰が掃除するんだよ……俺はしねーけど」

寝ている人を避け、探すのに邪魔なゴミを捨てながらスマホを探すがやはり無い。

「おっかしいなー……ここら辺で集まってたからここにあるはずなのに……」

「リーダー、何してるんすか?」

壁に寄りかかり、寝ていたと思っていた構成員の一人のリョウからいきなり声をかけられた。不意に肩がビクつく。

「ん?あぁ、お前起きてたの……?本持ってるから読んでる途中で寝ているのかと思ってたよ」

ジェノサイドに声をかけてきたリョウは右手に本を持っていた。読んでいたであろうページを指で押さえ、閉じていることから寝ているものかと思っていた。

「いや、読んでいる途中で少し考え事をしていたもので」

「そうか。ならいいんだ」

ソファーのポケットやテーブルに顔を近づけるがやはり無い。

「おかしいな……」

「何か探し物ですか?」

「あぁ。俺のスマホが無いんだ。部屋にも此処にも無いからマジで困ってる。黒で結構画面デカいから分かるとは思うんだけどなぁ」

「スマホ……ですか」

リョウは何かを思い出すかのように天井を眺める。
そして、

「あ、そう言えば!ご飯食べて皆がここに集まったときにリーダーのスマホを見つけたとかで騒いでいましたよ」

「お前ら何やってんのさ。普通本人に伝えるだろ」

「結局、パスワード特定したいからとか言ってレイジさんたちが談話室に持っていったような……」

「ふっざけんな!!人の携帯をオモチャにしてんじゃねーよ!!」

言いながら、ジェノサイドはリビングを走り去る。
この基地に談話室は三ヶ所ある。
この階に二つと、下の階、個人の部屋がある階に一ヶ所。
どこにあるかは分からないがレイジらが持っていったのなら大体予想はつく。
彼らはこの階にある暖炉付きの談話室によく居座っているからだ。

「もしもそこにあったら明日レイジ達に説教だな、これ」

長い廊下を歩き、扉がいくつかあるうちの1つのドアノブを捻る。
ドアを開けた瞬間、暖炉特有の暖かさが伝わってきた。
部屋に入ると、そこのテーブルに確かにスマホらしき物体があるのが確認できた。

「よかった!あった!」

思わず駆け寄るが、何やら見慣れない人影がひとつ。
スマホに手が触れる前にジェノサイドの体がピタッと止まる。
その人影は暖炉の前、つまり暖炉とテーブルを挟む箇所にいたのだ。

そいつは、何故か下着姿だった。

それも女物の。

「えっ……?」

あまりにも予想外の出来事に目が点になる。
もしかしたら、いや、割りとマジでヤバいものを自分はこの目で見ているのではないだろうか?と。

あまりの出来事にスマホの事を忘れてしまい、ジェノサイドはそのまま扉の向こうへフェードアウト。

「……ごめん」

出てきた言葉がそれだけだった。
扉を静かに閉める。
すると、扉に寄りかかる形でジェノサイドは頭を抱えてしゃがみだす。

「何をやってるんだ……ってか何がどうなってるんだ……」

ジェノサイドという組織は男ばかりの集団だったが、それでも女がいないという訳ではなかった。
ほんの少人数、それも部屋の掃除や全員のご飯を作るといった裏方の作業しかしていない中に片手で数える程だったので注目すらされなかった。

それなのに、何故かこの部屋に少数である女がいた。しかもほぼ裸で、である。

「確率的にもおかしい」

そんなことを頭の中でグルグル駆け巡っている時だった。
部屋から声がした。

「別に気にしてないよー。あと服着るだけだから入っていいよ」

明るそうな声だった。さっきの人だろう。

「てか別に今入ってもいいよ。そんなの気にしない人だからさ」

いや、こっちが気にする。その旨を伝える。

「まぁ、ここって女子少なそうだもんね。そりゃ気にするか」

何だか下に見られているようで少しムッとするが事実だ。もう大丈夫と聞こえたので再度扉を開けた。
今度はちゃんとパジャマのような服を着ていた。
それを見て、ジェノサイドはあることに気づく。

「お前、まさか風呂入ってた?」

「うん。この部屋には洗面台とお風呂がついてるじゃん?だからさっき使わせてもらった。んで、出てみたのはいいけど思った以上にこの部屋暑くてね」

だから下着姿だったのか。にしてもあんまりである。男女比のこととか、皆の家でもあるわけだからあまり自分勝手な事はしないでもらいたい。そんな言葉がポンポン頭の中に浮かんでくるが、ジェノサイドはひとまず目の前のズボラな女にこう言い放った。

「お前、女子高出身だろ」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.95 )
日時: 2019/01/03 19:36
名前: ガオケレナ (ID: FBVqmVan)
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とりあえず椅子に座りながらスマホを確認する。
例の女はさっきからずっと被っていたタオルで髪を拭いている。

「色々見た感じ……何も見てなさそうだな」

「まぁ、ね。結局うちとレイジたちで色々見ようとしたけどパスワードが分からなかった」

「あぁ、そうか、パスが分からないから後はそこら辺にほっぽり投げた訳か。せめて本人に返せや!」

あまりの勝手ぶりに疲れる。一通り見たあと、スマホをテーブルに滑らせたあとに女の言葉に違和感があったことを一度素通りしてしまう。

「?レイジ?って事はまさかお前、ミナミ!?」

「えっ、気づくの今更?」

ジェノサイドは初めて目の前にいる女が赤い龍のリーダーであるミナミであることに気が付いたのだ。そもそも今まで帽子を深く被ってたり、あまり言葉を発することもなく、いつもレイジの陰に隠れていたイメージだったので詳細を知らなかったのは当然だ。

「いやだってお前顔もロクに見せないしあまり喋らないし」 

「あー、それね。それはうちとレイジで話し合ったことだったんだけど……」

ここから、彼女の過去の話に移った。

何でも、赤い龍を結成したのが去年の事らしく、当時からミナミがリーダーだったがイメージの問題やその他に生じる問題を避ける為に彼女が女であることを出来るだけ隠していたとのことだ。

「確かに……Aランク程の高いレベルの組織のリーダーが女だったら意外かもしれないけど、別にそこまですることはねぇだろ」

「まぁね、正直外で自由な行動できないからかなり辛かった。でもね、うちを女だと見抜いた人は今までそうそう居なかったけど、見抜いた奴が手抜いた隙に返り討ち……なんて事が今までに何回もあってさ。それがすごい快感だったなぁー」

「そういやAランクの割にメンバーかなり少ないよな?何があったんだ?」

ミナミの本音がガン無視された。タオルにかけていた手の動きがふと止まる。

「あ、あぁ……そっちね……うちらは知り合いとかから集めた人しかいないから設立当初から変わってなかったんだ。だからこれまでずっと人数が変わることもなかったんだ」

「でも、それでも確か七人程度だったよな?数で押されたら負けるんじゃないのか?」

「そういうときはひたすら逃げてた。宣戦布告されても一ヶ月間お互いに接触がないと公式に終戦が認められるからね」

会話中にルールを持ち出してきたあたり、ジェノサイドとは違ってルールは基本的に知り得ているのだろう。
ジェノサイドみたく絶対に使わなかったりどうでもいいルールは他が覚えているから自分は覚えないというスタンスが逆におかしいのだろうか。

それを理解したうえで。

「へぇー。じゃあ今まで頑張ってきたんだな」

他人事のような軽い気持ちである。

「その頑張りも変なのに潰されちゃったけどね」

ミナミも今だからこそ言える不満をぶちまける。

「ねぇ、これからどうするの」

その上で、同じことを聞く。

「あんたはさっき、ジェノサイドはアイツとは関係ないから関わらないって言ったよね」

ミナミは立ち上がり、洗面台にあるであろうドライヤーをわざわざこちらまで持ってきた。
近くにあったコンセントにドライヤーを繋げて。

「それってつまり、うちらもジェノサイドの人間だからこれ以上は気にする必要はないって事だよね」

それに対し、ジェノサイドは無言だった。片手を暖炉に向け、もう片方の手でスマホを操作している。
ミナミはドライヤーを起動させた。古い型のせいか五月蝿い音だが何とか声を聞き取ってみせている。

「でも、それは確かに一番いい方法なんだろうけど、うちは納得いかない。あんな変な奴の身勝手な行動で居場所やお金が奪われるなんて事が許されない。別にうちは此処が嫌とかじゃないよ?皆優しいし皆と騒いで盛り上がったりするの楽しいから。でもね……うちは自分たちが赤い龍でいた事に誇りを持ってたの。それをアイツに潰されたのが悔しくて……」

「じゃあ何だ、不満でもあるなら此処から出ていくことだな」

キッパリと、何よりも非情な言葉をジェノサイドは投げた。
向こうの事情を知ったうえで。

「いや、だから不満なんて……」

「俺らに対しては無いだろうがな、それでも不満があるのはわかる。でもそれを俺らに向けるな。俺だって本当はどうにかしたいんだ。だが相手は馬鹿でも議員なんだぞ。深部の人間が議員一人を殺してみろ。この世界の情勢が無知な俺でも何となく想像はつく。ここにいる全員が抹殺されかねないんだぞ」

殺しても抹殺。殺さなくとも抹殺。
権力が相手だと何も出来ない事を痛感させられてしまう。

「それでも、うちは悔しい」

ドライヤーはまだ止まらない。ミナミの髪型は最近被り出したニット帽ですっぽり収まる程度の、うなじが隠れる程度のショートカットだが、それでも時間はかかるようだ。

「元の居場所を捨てたり、赤い龍を解散させられた事とか……色々あるけど、あんな奴から逃げた事が何よりも悔しい」

後半は声が弱くなっていた。見ると、若干目が潤んでいる。

これだから女は面倒臭いと内心思いつつもこちらこそと言わんばかりに本音を呟く。

「だったら、この新しい場所で居場所を見つける事だな。後は自分より上の連中に任せる形で動いてな。俺からしても下っ端が勝手に動かれても困る」

言っている途中から顔を逸らした。何だか、こういった話をしている時に女の表情を見るのが怖い。

女は男よりも強く、恐ろしい。
ジェノサイドはこのようなイメージを常に抱いていたからだ。

スマホを覗くと、今は夜中の三時だった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.96 )
日時: 2019/01/03 19:42
名前: ガオケレナ (ID: FBVqmVan)
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「眠い……」

もはや拷問に近かった。
あれから高野はほとんど寝れなかった。今、彼は金曜の授業でも特に分かりにくくて退屈と評判の授業を受けている。

(くそ……退屈でつまらない授業ほど眠いものはない……けどここで寝たら確実に試験に響く……)

つまらない授業ほど強力な睡眠薬は他にはないだろう。

(やっぱり無理してでも寝るべきだったんだ……)

結局あれから一睡もできなかった。三時まで起きていたのはいいものの、一度起きてしまえば再度寝るのに時間がかかってしまう。
自分の部屋に戻りベッドに横になったものの、眠れない。仕方なくそのままスマホをいじっていたら気づいたら空が明るくなっていたというオチだ。

(いいや……もう今寝ちゃってこの後と土日でメガストーン探そう……)

結局、高野はこの時間のノートは白紙で終わる。


ーーー

授業終了のチャイムが鳴る。丁寧に教授が時間通りに授業を終えると、タイミング良く高野も目が覚める。
何故意識が飛んでいるのに授業が終わる瞬間に目が覚めてしまうのか不思議でたまらない。

(終わったか……)

金曜は自分で組んだ時間割りの都合上、二時以降は暇だ。

「特にすることねぇしメガストーン探そうかな」

そう思った時だった。自分のいる向かいから見知った人影が見える。

「よう、レン」

「あぁ、吉川か」

吉川裕也。香流や岡田と同じサークルのメンバーだ。高野と同じく二年生でもある。
体格は小太りと言ったところだが眼鏡をかけており、性格は穏やかだが時と場合によっては正義感が強い一面を見せる。
頼りがいのある人間だが裏を返せば面倒な相手にもなり得る。一度彼とはジェノサイドとしての自分と対立したこともあった。

「今日お前これで授業終わりだよな?サークル来るのか?」

「いや、今日はいいや。どうせ元から金曜は集まりが悪いし」

「とか言ってお前昨日も来なかったじゃんかよ。どうしたの?」

何故サークルは強制でもないのにここまで聞いてくるのだろうか。気の合う奴があまりいなかったのだろうかと適当に考える。

「ん、あぁ、メガストーン探してた」

「メガストーン?」

ピンときていない感じだった。彼も少なからずポケモンのゲームはやっているので少しは分かるはずだが。

「それって、今やることか?」

「あぁ。俺にはあまり時間がねぇからな」

じゃあな、と付け加えるように言って背を向ける。その時彼の表情に変化があったことを理解するのはできなかった。

「時間、ってお前……まさか深部に関係してんのか?」

いい加減一般人が暗部とか深部とかいう言葉を使うのを止めてほしいと思うこの頃だ。無駄にギョっとしてしまう。

「お前には関係ないだろ……」

声色を変化させる。低く唸るように。頼むから関わるなと言いたげに、だ。

「関係はないかもしれない。でも、俺とお前は友達だろ。何か相談とかあったら何でも言ってくれよ。協力するからさ」

言った吉川本人はかなり真面目で本気だった。それに対し、高野は。

(頼むからやめろその台詞……お前らにできることなんて何もありゃしねぇよ……)

とは思ったが口には出さない。
代わりの言葉を使うことにする。

「そうか……なら頼むわ。サークル内で俺の事で盛り上がるのは勝手だが頼むから深部って言葉は使わないでくれ」

背を向けたまま言うと、そのまま歩き出した。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.97 )
日時: 2019/01/04 10:39
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

「さて、と」

オンバーンを呼び、それに乗ったジェノサイドはスマホに入っていた地図の画像を取り出す。

メガストーンの在処だ。
ここから特に一番近いのは国道沿いの歩道という訳の分からない場所だ。
オンバーンに指示を飛ばすとその地点まで翔ぶ。


ーーー

「なるほどな……」

ジェノサイドが今立っているのは大学からすぐ近くの国道だ。
時間関係無く常に走り続けている交通量の多い広い道の歩道をひたすら歩く。
そして、地図が示す地点まで辿り着く。

「こんなとこにあったら、そりゃ気づかない……かな?」

ジェノサイドは端に植えてある苗木の土を掘り起こすと、そこからメガストーンが出てきた。

色からして恐らくジュペッタナイト。
その綺麗な石をケースに入れるも、疑問が生まれるのみだ。

(どういうことだ?こんな分かりやすい所に埋めてあるなんて……普通他の人に取られてもおかしくないぞ?それとも、ポケモンをやっている人でないと認識できないのか?)

公園の水辺の中といい、寺の境内といい、今回の歩道といい、どれも分かりやすすぎる。
何故こんなにも簡単に手に入るのか分からなくなるばかりだ。

「一度試してみるか……」
ジェノサイドは、空を仰ぐ。


ーーー

教室の引き戸が静かに開く。

「おっ、吉川くんだ」

サークルの二つ上の女の先輩が彼に気づいた。その顔は浮かなそうだった。

「よう吉川。なんかお前元気なさそうな顔してんな」

声をかけてくれたのは同じ二年の北川きたがわ ひろしだ。ポケモンはやっていないがノリのいい好青年といった感じの性格を持つ、サークルでも人気者だ。

「あぁ、ちょっとな……」

吉川が元気をなくすのはよくあることで、香流や高畠や石井といった初期からいるメンバーはこの時の彼を相手にするとただ面倒というのが分かっているので全く相手にしていないが、いい意味でも悪い意味でも優しい彼はそれでも何があったか聞こうとする。

だが、中々吉川は反応を示さない。

高畠がこっちに来いと北川に対してサインすることによって彼もその場を離れた。

「……あいつ、どうしたの?」

北川は小声で高畠に聞いてみる。

「知らない。でもよくあることだから気にしなくていいよ」

高畠もつられて小声で返すが北川はあまり納得できていない様子だった。

と、その時、吉川にしては珍しく佐野に声をかけた。

「どうしたの?吉川くん」

「あのー……レンについてなんですけどー……」

相変わらずテンションは低い。だが、そんな彼とは対照的に佐野は、そこにいるすべての人の目が変わる。

「あいつどうにかならないんですか?あいつ未だに深部絡みの行動しているんですよ」

彼のこの言葉により、平和なサークル活動にヒビが入ることになるとは、誰が想像しただろうか。
尤も、現段階ではほんの小さなヒビ程度だが。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.98 )
日時: 2019/01/03 19:53
名前: ガオケレナ (ID: FBVqmVan)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「レン君、ね……」

佐野はため息をつく。高野がジェノサイドとして行動し、悪どいことをしているのは既に全員知り得ていた事だ。

「あいつ今日と昨日来ていないですよね?何でだかわかりますか?」

「メガストーン探し、だっけ?」

吉川の声に反応したのは香流だった。

「今レンってメガストーン探しながら色んなところ行ってるって聞いたよ」

「なんだ、知ってたのか。それが深部絡みってことも?」

吉川の質問により、香流は高畠や北川と顔を合わせる。

「いや、それは違うと思うよ」

「違くはないだろ。何であいつが熱心にそんなことをしてるかってあいつの組織にとっての新戦力を手に入れることだろ」

「それは……」

香流は反論できなくなるがその表情は困惑そのものだ。面倒なことになってしまったと。
他の二人も呆れている。

「俺は、あいつをどうにかしたい」

彼らにとって予想もしなかった言葉が放たれた。

「俺はいつまでも深部に居座っているあいつをどうにかしたい。お前らも思わないか?レンが普段通りに生活している面の裏で、変な組織連れてダークな事やってるって思うのが嫌じゃないのか?今まで仲良くしてた奴がダークな奴だったと認めたくないだけだろと言われたら嘘じゃなくなるけど、それでもどうにかしたいんだ俺は。……なぁ、どうしたらいい?俺は一体どうしたらいいんだ?」

無言だった。その場を支配しているのは沈黙のみだ。
佐野の、「とりあえず、落ち着こう?」の一言で彼もおとなしくなった。

そんな時だった。
新たな人影が、教室の扉を開く。
その姿に特に驚いたのは吉川だった。

「ちょっ、レン……!?」

「よう、悪いないきなり。ちょっと確認したいことがあってさ」

高野は普段と変わらない普段着のまま、ここにやって来る。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.99 )
日時: 2019/01/04 00:51
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


これまでの会話の内容だけに無駄に緊張感が張りつめる。当の高野は何も気にしていないようだ。ゆえに、この緊張感に気づいていない。

「あっ、それでさー」

結局この中で一番最初に口を開いたのは高野だった。
声のトーンと醸し出す雰囲気で害はないと何人かが察する。彼らは皆安堵した。

「今週末ってか明日以降か。皆でどっか行く予定ってあったっけ?」

いつもの会話だった。これにより吉川を除くすべての人が安心した。その上で香流がこちらを向く。

「特に無かったはずだけど……どうかした?」

「あー、無いのか……残念。あっ、俺が土日暇でさー、横浜の中華街か池袋のどちらかにでも行けたらなーって思って」

「横浜か池袋?」

今度反応したのは高畠だった。

「随分と距離離れてない?」

「うーん、まぁ、そうだけど……個人的に行きたくて」

「じゃあ中華街行こうぜ!!」

北川が立ち上がりながら手を挙げた。それにより皆の注目を浴びる。

「中華街かー、いいかも」

「うちバイトだよー……?」

「まぁ、俺も暇だし」

「レン君、これって二年生だけ?僕らも行っていい?」

本当に皆明日以降予定無かったのかと聞きたくなるレベルだった。
こうも皆暇なら誰かしら企画すればいいのにと本音を心の内に留める。

「……ってか、行くとしたら明日か明後日だよ?皆本当に予定大丈夫?」

一部のバイト勢を除くとほぼ全員行けるらしい。だったら最初から言えばよかったと若干高野は後悔した。

(それだったらもうちょっとメガストーンの探索に時間回せたんだけどなー……)

だが、一番の目的にして今やりたい実験が今週中に出来る事が決まっただけでも結果オーライだ。

「それで、いつにする?」

肝心の日時が決まっていない。
一番重要な部分を忘れていたが今になって思い出す。
サークル活動終了時間まで、彼らはボードゲームをしながら日程を決めていった。


ーーー

「レン。ちょっと」

サークル活動が終わる夜の八時。
皆と解散したあとに高野は吉川に呼び止められた。

「どうした?」

「お前ここに来るまで何してたんだ?」

やけに目付きが鋭かった。彼はまた、昼の時と同じことを言う。

「言っただろ。メガストーン探してた。ちゃんと一個見つかったよ」

そう言って今日見つけ出したジュペッタナイトを取り出した。光に照らされて怪しい色合いが際立つ。

「そうだったのか。でさ、思ったんだが、何でお前メガストーンなんか探してるんだ?」

「何でって……」

ジュペッタナイトをしまいながらきょとんとした表情をする高野。答えにくい質問をされるのが何より面倒だ。

「単純にメガシンカが好きだからだよ。ゲームでも夢中になってメガシンカできるポケモン育ててたし」

「本当か?それにしては熱心に取り組んでるよな。もっと他の理由でもあるんじゃないか」

悪かったな普段は不真面目で、と言いたくなったがここで口出ししても相手に掻き消されるのが目に見えたので黙っておいた。
すると、

「組織の為とか、戦力の為とか」

その瞬間、高野の目からジェノサイドの目へと変化する。

「黙ってろって言ったはずだろ……お前は約束事のひとつも守れないのかよ……」

唸るような低い声だ。それを意味するのは威嚇。

「レン、俺はお前がジェノサイドとしているのが嫌なんだ。お前でもそう思っているんじゃないのか?なのにどうしてそこまでお前は深部の為に必死になれるんだよ!」

怒りという感情が芽生えた。
黙っていて欲しかったのにそれを無視したことに対して。傷ついてほしくないからそれに関する話題は持ち出すなと言ったのにそれを破ったから。

無言で、癖に近い感覚でボールを放り投げる。出てきたのはゾロアークだ。

「、!?」

ゾロアークの威嚇により吉川は後ずさりをする。

「俺が何しようが勝手だろ……?俺にも俺の事情があるんだ。何も出来ない癖して俺の領域に踏み出してきてんじゃねぇよ」

「ご、ごめん」

彼のそれは反射的な謝りに近かった。高野は右手をゾロアークに向け、「俺の後ろにいろ」とサインを出す。

「どうせお喋りなお前だから昼間に話した約束なんてとうに破っているだろうけど頼むから俺の言う通りにしてくれ」

口調が普段通りの穏やかな感じへと戻ってゆく。

「俺は誰も傷つけたくない。俺は今までの成り行きとか目的とかで深部に居座り続けてることになってるけど、俺にもやらなきゃいけないことがある。それをお前や皆は止めることはできない。まずはそれを自覚してくれ。悪いけど、お前や香流とか佐野先輩が来てもどうにもならないくらい闇が深いんだよこっちの世界は。だからもう二度と変な話題を持ち出さないでくれ」

「それでも俺は……お前が心配で……」

「まずは自分の心配してろよ。無駄に踏み込むと無くならなくてもいい命が無くなることになるんだからな」

高野のその言葉により、更に沈んだ顔をして吉川は無言でその場を去って行った。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.100 )
日時: 2019/01/04 10:38
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「あー……つらい……」

ジェノサイドは最近頻繁に出入りするようになった談話室で項垂れていた。

「どうかしたのですか?元気ないですね」

一方で、レイジとミナミ、それからハヤテとリョウの四人がトランプで遊んでいた。ババ抜きだろうか。

「いや、俺もどうしたらいいのか分かんなくてさー……」

「何て言うか、意外ですね。あなたのような方でも悩み事を気にしたりするのですね」

「当たり前だろ!俺だって本当はただの大学生なんだぞ?」

深部最強のトップとか、ミステリアスな雰囲気を放つジェノサイド。そんなイメージから生まれるのは畏怖と言ったマイナス的な感情だ。それらを抱かれたり、絶対的な存在と捉えられる事が多い。
そんな彼が、一般学生として悩みを抱くという姿が珍しく、ある意味新鮮味があった。

「別にこんなことよくあることですよ」

ハヤテがカードを一枚抜き取ると、一瞬感情が消えた。恐らく今のはババだ。

「それで、どうしたんですか?今日は」

ハヤテが手札をレイジに差し出す。そのままジェノサイドに聞いてみた。

「いやね、俺今日サークルにいる面倒な友達にやたらとこっちの事について聞かれたんだよ」

レイジは聞きながらカードを抜き取った。今度はレイジの顔から感情が消える。

「お前いつまでそっちにいるんだとか、なんで必死になれるんだとか、なんでも相談してくれとか、意味わかんねーし!!何も出来ないくせに深部知った気になってんじゃねぇよマジで!!」

ただの愚痴だった。それでもレイジやミナミからしたら珍しいことに変わりはないが。

「元から面倒くさい奴でさ、まぁいい奴ではあるんだけど色んな事に首突っ込む奴だから面倒な時はとことん面倒なんだよ」

「変なのに捕まってしまいましたね」

レイジが手札をミナミに向けて差し出す。彼女が一枚抜き取るとわざとらしくポーカーフェイスを演じた。

「どう対処したんですか?」

「あぁ、そいつは結構メンタル弱いから、ってかあいつに限ったことじゃないけど適当に脅したら何とかなったよ」

普通の人ならビビるわ普通と恐らくここにいる全員が思ったことだろう。
ミナミからカードを受け取ったリョウの顔に変化はない。

「ってか問題はそこじゃなくてさ……その、何て言うか……」

「どうしたの?はっきり言ってよ」

中々ジェノサイドが言い出そうとしない。気になるミナミが彼を急かす。

「俺はさ、深部の世界とあいつらの世界を分けて考えているんだ。自分の中でな」

「あいつらの世界?」

「リーダーが入っているサークル、つまりは向こうの世界の事ですよ」

「サークル?何でサークル基準?」

「俺がそのサークルを気に入っているからだ。他に理由なんか無いだろ」

珍しくきっぱりと言い放つ。理由が理由からかついミナミは軽く微笑む。

「俺は、あいつらをこっちの世界に巻き込みたくない。俺はずっとこれを心がけて行動してきた」

「でも、それも前に……」

ハヤテが言おうとしてジェノサイドも頷いた。
その間にゲームが進行していき、何周かした時だった。

「やったー!自分上がりっすー!」

リョウが一番最初に抜ける。

「あんたが一番最初かぁ……」

ミナミは持ち札を眺めながらため息をつく。

「あいつらに俺がジェノサイドとバレてからやけにこっちの話を求めるようになってきてさ、俺も可能な範囲だったら話すようにしてる。何も情報を与えてないと不安がられるからな」

三人で回してしばらくすると、今度はハヤテが抜けた。

「じゃあお先に」

「後は我が愛しのリーダーだけですか……手加減しませんよ?」

「その言い方やめてレイジ」

何だか皆ちゃんと聞いているのか不安だったがジェノサイドは続けることにした。

「それで俺は干渉してほしくないとか傷ついてほしくないとかいう理由ではあるものの、あいつらにキツい言動を見せてしまった。それが本当に行動として良かったのかなぁって思ってさ」

「仕方ないんじゃないですか?元はと言えば突っかかってきたそのアホがいけないんですよ」

ハヤテは言いながら立ち上がり、お菓子を取ってくるのかと思ったらその場で食べ始める。

「リーダーは気にする必要はありませんよ。今は悩みどころかもしれませんが、いつしかそれは認めてもらえますよ。リーダーが大事にするくらいの人たちだったら尚更、ね」

「……だと、いいけどな」

と深刻な話をしている最中だった。

「やったー!!私の勝ちです、リーダーお疲れさまでーす!」

最後の札を捨ててガッツポーズをとるレイジの姿が。
対してミナミは「えーーー」と言ってババを含む札をその場にぶちまけた。

「ハヤテさん、罰ゲーム何になさいますか?」

レイジがハヤテの方へ振り向き、お菓子を食べ終えるとこちらへ戻ってきた。

「何でもいいですよ。何か為になることならなんでも」

「えーっ!?ホントに罰ゲームやるの?うちやりたくないよ」

「最初に罰ゲーム持ち出したの誰でしたか!?これは所謂言い出しっぺの法則っすよ!」

殊更ギャーギャー騒ぎだした。
用が済んだジェノサイドとしては邪魔者にならない為と鬱陶しいのから離れるためにお菓子をひとつまみしてから談話室を出ていった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.101 )
日時: 2019/01/04 10:45
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


ジェノサイドは部屋に最近掛けたカレンダーを眺めた。
今日が金曜であるから、『オメガルビー』と『アルファサファイア』の発売まであと二週間である。

「どっちでもいいけど……赤が好きだからルビーにするか、でもあえて青のサファイアにするか……悩む……」

なんてブツブツ呟いているが、問題はそちらではない。

「日曜、か」

ジェノサイドはついさっき日曜に書き足した「横浜 中華街」の文字を見つめる。

「今度の日曜に、あいつらも来る。中にはポケモンをやってない奴もいるからこの日に疑問は消えるな……」

ジェノサイドは、「簡単に見つかってしまう」故に変わった疑問を持っていた。「ならば何故自分が見つけることができるのか」と。

確認しただけでも横浜には幾つかメガストーンがあるらしい。中華街に1つと、みなとみらいと呼ばれる街に2つほどだ。
特にみなとみらいにはポケモンセンターヨコハマもあるので尚更行きたいと思っていた場所だ。
そこに珍しくメガストーン二つもあると聞くならば行くしかない。

「まぁ無くなってても行くだけに目的があるからそこはどうでもいいな」

カレンダーから目を離し、そろそろ寝ようかとベッドにジャンプしようと体勢を構えたふとその瞬間、何かを思い出したかのように部屋を出た。

(そういや、今日もあいつら派手に騒いでなかったか?)

上の階のリビングにていつものように騒ぎだした彼らのことである。部屋も相当散らかっているのだろう。
どの程度なのか確認することにしたのだ。それほどでもなければ片付けようかとも思ったくらいに。

階段を上がり、廊下を少し歩いた先の扉、そこがリビングの入り口だったが、何故か扉は開きっぱなしだった。

「相変わらず散らかってるよ……」

散乱しているゴミを見つめた。今日も騒いた挙げ句に勝手に解散したようだ。

呆れながら部屋に入ると、
黙々と片付けの作業をしていたミナミの姿があった。

「……」

意外すぎるその光景につい黙ってしまう。

「あっ、リーダー!暇ならちょっと手伝ってよ」

ミナミが先にこちらに気がついた。
食器類を大量に抱えながらこちらの見つめるその形相は必死そのものだった。

「罰ゲームってこれかよ……」

「何で毎日毎日この部屋って散らかるのよー。明日くらいには説教してやらないと」

来なきゃ良かった。真っ先に思い浮かんだ本音だった。
だが、よく見てみるとそれなりに片付いてはいる。あとはゴミを拾って掃除機かけてしまえば終わるだろう。

「ったく……」

思わず手が動いていた。これくらいならいいだろうという気持ちの表れである。

「お前明日以降もこの部屋掃除すんのか?」

「するわけないでしょ。罰ゲームは今日だけだし!」

その強い言い方から相当イラついているのだろう。正直、彼らのこのマナーの悪さにはジェノサイドも悩みの種であった。

「……」

「…………」

食器がテーブルに置かれたときのガラスの音が響いてからは沈黙が続く。

何というか、暇だ。

退屈しのぎに何か無いかと考えた時、日曜の事を思い出した。

「なぁ、お前さ、日曜暇か?」

「日曜?何で?」

元々日曜はジェノサイド一人に加えて大学の友達と行く予定だったが、こちら側の専門家枠として彼女を連れていくのも悪くない。

「横浜行こうかなーと思っててさ」

「横浜?」

まず、いい歳した女子が横浜と聞いて思い浮かぶものといえば。

「ねぇ……それってもしかして……」

「あっ、デートじゃねぇぞ。メガストーンの探索な」

「……」

即行で拒否した。それに加え理由が理由である。
彼女の顔は呆れしか現れない。

「いやなんでうちが……」

「今まで俺一人で幾つか見つけてきた訳だけどさ、やっぱり一人じゃ分からない事だらけなんだよ。だから一人くらい深部の人間がほしい」

「深部、ねぇ。でもうちはメガシンカについては何も知らないよ?」

「いや、それでいいんだ。とにかくポケモンに使い慣れている奴が欲しいんだ」

「?」

ジェノサイドの考えている事がいまいち分からない。ついて行っていいのか不安が少し生じた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.102 )
日時: 2019/01/04 11:13
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


土曜日の朝を迎える。
ジェノサイドにとっては最悪な目覚めだった。

何故なのか自分でも理解できない。どうしてこんなことになるのかも分からない。

何をどうしたら、ボールから急に飛び出たゾロアに吠えられ、布団の上で暴れることによってすっきりしない朝を迎えることになるのか。

と言うかなぜゾロアが急にボールから出てくるのか。

「ったくなんだよお前……頼むから起こさないでくれ……」

今にも再び瞼が閉じそうなくらい目が細いジェノサイドは、構ってオーラ全開のゾロアにこれでもかと頭や手足、とにかく全体をわしゃわしゃする。
遊んでくれて嬉しいのか、ぎゃーぎゃーと鳴いたところでジェノサイドはおもむろにボールを取り出す。

「はい、満足したろ。おとなしくしてろー」

ゾロアに向けると、彼の意思に反して無理矢理にボールに閉じ込めた。何か不満そうに吠えようとしていたが、その前に戻っていってしまう。

「さて、と」

目覚めの悪いジェノサイドだったが、このまま眠れる気もしないので起きることにする。

「とりあえず今日一日使ってメガストーン探しまくるか」

部屋を出た。いつもより増して閉まる音が響いた気がする。


ーーー

「それでリーダー、今日はどちらへ?」

百人は入るんじゃないかと思うくらいの広いダイニングルームで朝食を食べていると、ハヤテがこのように聞いてきた。
そうだな、と言ったあとでサンドイッチを飲み込む。

「今日はとりあえずいつもより広い範囲でメガストーンを探すよ。目標五個」

「そんなに!?今日だけでそれは難しいのでは……」

「目標だよ。とにかく一日使うとどこまで手に入れることが出来るのか知りたい」

食べ終え、最後にコーヒーを一気にぐいっと飲むと椅子から立ち上がった。

「と、とにかくそこまでするのなら協力者を増やした方がよいかと……」

「協力ねぇ……本当ならそうしたいけどまず協力できるかどうかなんだよなぁ……」

「?」

ハヤテからしたら意味の分からない返事だった。どういう事かと尋ねる。

「いやね、これまでに三つメガストーンを手に入れたわけだけど、どういう訳か貴重な道具の割りには簡単に手に入りやすいんだよ。それこそ、他の誰かが先に取っていてもおかしくないくらい。ということでさ、俺なりに考えたんだ。このメガストーンは、もしかしたら俺以外に目で見ることができないんじゃないかと、ね」

「なるほど……」

ハヤテは自身の手で顎に触れる。

「あの機械だけで場所を特定するにしても、それがリーダー限定というのはあまりにもおかしすぎますよね。それだとしたら、メガストーンを探す全国のプレイヤーはそれぞれ同様の機械を持たなければならないことになります」

「あぁ。だからこそ分からないんだ。他の人間が仮にメガストーンを探すとき、何を手がかりにするのかなって」

「もしかしたら」

ハヤテは合間にジュースを一口飲むと、話を続けた。

「特定の人間にしか確認できないものなのでは?リーダーのみというのはあまりにも出来すぎていますから、例えば……キーストーンを持つ者限定、とか」

「あぁ!それは有り得るな!」

あまりにも意外な発言に、ジェノサイドは思わず指を鳴らした。一種の癖みたいなものか。

「だが、それだとやはり探すのは俺だけに限定されてしまうな。やっぱ今日は俺だけで行くよ」

「いいのですか?もし誰かを連れていくのなら、この仮説を実証できるかもしれないのに……」

「いや、」

ジェノサイドは服の上にローブを被るように着ていく。彼を象徴する格好だ。さすがにそろそろ冷えてくる季節になってきた。

「その実験なら明日することに決まってるんだ。だからとりあえず今日は確実に探せる俺だけで行くことにするよ」

そう言うと、ジェノサイドは足早に去って行った。

一人ダイニングルームに残されたハヤテは、

「リーダー……せめて片付けくらいしましょうよ……」

つい夢中になりすぎて片付けを忘れてしまったジェノサイドの分の皿も、回収専用の棚へと運びに行く。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.103 )
日時: 2019/01/04 11:21
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「よーし、そろそろコツも掴めたな」

基地を飛び出て二時間。河川敷と林の中で、ジェノサイドはこれまでにメガストーンを二つ見つけた。
色を見る限りフシギバナイトとヘラクロスナイトか。

マイナーなポケモンの石よりかは個人的に欲しかったものなのである程度満足はしている。

「何となくだけど何だか察するものがあるんだよな。こう、ここにあるっていうのがはっきり分かる感じ?なんだろう、自分で言ってて意味分からねーや……」

石をしまうと、次の目的地を目指す。今度は高速道路建設予定地、つまり空き地だ。

「ちゃっちゃと終わらせてその分多く見つけるか、頼んだぞ、オンバーン!」

それに呼応して一際大きくオンバーンが吠える。


ーーー

「ねぇー、レイジ」

「はい何でしょリーダー」

暖炉の火を浴びながら現在一緒の部屋にいるミナミはふと、レイジに声をかける。

「明日さ、うちリーダーと一緒に横浜に行くことになったんだけどさー……」

すると、その瞬間、「はい!?」と普段からは予想もしない彼にとっての大声を発しながら素早く振り返った。
ミナミも部屋に対して熱すぎる火から遠ざかる。

「そ、それはつまりデート……!?」

「うちも最初それかと思った。でも違うみたい。一緒にメガストーン探してくれーだってさ」

「あぁ、何だ違うのですね……」

本人の否定のリアクションを見て安堵しつつ何だかつまらなそうな結果に物足りなさを感じた。
だがここで諦める男ではない。

「でも二人なんですよね?」

ニヤニヤと若いカップルを笑いのネタにしているかのような小馬鹿にする嫌な笑いを浮かべ、ミナミの反応を伺う。

「うーん……多分そうだとは思うけど何というか……わかんない」

「分からないとはどういうことですか?二人以外に思い浮かばないでしょう」

「そうなんだけど、話持ち出されたのも急だったし内容が内容だしそこは分からないよ」

「いやいや、それは違いますよ」

人差し指を振りながらわざとらしく且つ遠回しにひたすらいじる。

「いい歳した若い男女のカップルがどんな理由であれ横浜というデートスポットに行くのならばそれしか無いでしょうに!彼も彼です。表向きの理由はメガストーンかもしれませんが本来は……」

「いや、有り得ないって」

そろそろウンザリしてきた。ミナミの表情が固くなってきたがそれでもレイジは気にしていない。

「いやいや、考えてもみてくださいよ!この組織に女性はいますか?いることにはいますがリーダーと接触してしますか?否、全く関係ない仕事しか彼女らはしていません。そこに女性であるあなたが現れたということはリーダーは、いや男ならば取る行動なんて一つしかありませんよ!それは……」

言っている途中に枕を投げつけられた。

「ごふっ」と間抜けな声を発していると完璧に呆れたのか、ミナミは部屋から出ていった。

静かに、顔から枕をどけると、誰もいない談話室でボソッと一言、

「若いって、いいですね……」

誰も聞いていないものの独り言にしては誰かに語りかけるような言い方だった。
それに反応するのは薪がパチパチと燃える音のみ。


ーーー

「っ!?」

一方、ジェノサイドは一人離れた林の中という場所で突如自身の両肩を押さえた。
よく見ると小刻みに震えているのがわかる。

「なんか今、急に寒気が……!?」

まさか自分がネタにされているなんて想像もしないだろう。
それも、身内から。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.104 )
日時: 2019/01/04 11:26
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
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「なぁおいリーダーいるか!」

元気が声が響いたのはジェノサイドの基地のリビング。
相変わらずメンバー同士で集い、各々ポケモンで対戦をしたり、カードゲームをしたりなど、広い空間を有効活用していた。
その中で、その元気な声をキャッチしたのは一番扉に近い箇所で対戦をしていたケンゾウだった。

「あぁ?リーダーなら今いねぇけど」

「んだよぉ……今いないのか……」

白衣に眼鏡姿の男は髪を掻く。

「今すぐ呼べない?」

ケンゾウと対戦者のリョウは二人の対戦を拝みに集まった連中らと顔を見合わせる。
その上でケンゾウは白衣の男を見る。

「いや、無理だな。リーダーが今どこにいるのか分からん」

と、言うので白衣の男は残念そうにして、

「あー、分かった。また後で来たら教えて。研究室にいるから」

と言って扉を閉めた。

途中、「はあぁぁぁぁ!?」という悲痛な叫び声が聴こえたはずなのでそちらを振り向くと、既にミナミがこっちに寄ってきていた。

「え、えっ、何!?」

「何?じゃないよ!どういうこと!?」

いつ怒鳴り散らしても分からないような表情をしながら、何故彼女がそんな顔をするのか分からないといった表情をしたケンゾウに寄り付く。
端から見たら脅迫現場に見える。ケンゾウが逆の立場だったらそうにしか見えなかっただろう。

「あんたらメンバーの人間がリーダーの居場所が分からないってどういう事!?むしろリーダーが一人で外ふらつくってのが一番理解できないんだけど!!」

「い、いやそんな事言われても俺にはさっぱり……」

冷や汗をかきながら両手を顔の前に合わせてストップのサインを送るが効果は無い。

「ふんっ、ガタイは良くても中身がそんな弱気だとはね」

今のその言葉で、ケンゾウはすべてを奪われた。

口を大きく開き、まさに「ガーン」と言いたげになりながら、そのまま固まってしまう。

「まぁまぁ、ここだとそれが普通だから……」

リョウが場を落ち着かせようと彼女をなだめさせる。

「いや、その普通ってのが分からないんだけど。だって考えてみ?リーダーが死んだらあんたたちもその瞬間居場所を失うんだよ?」

「いやだから、まずそうならないんだって」

リョウの言葉にミナミは何かを悟るようにハッとした。

「リーダーは死なずに戻ってくるってのが分かってるのが俺たちにとっての普通なんだよ」

ミナミは今この時にやっと気づいた。
自分が居た環境とこの環境。
ジェノサイドと赤い龍。
今までの自分達が普通で、彼らが普通ではないということ。そして自分も今その普通じゃない人たちと一緒に生きているということに。

「あ、あぁそうか、わかったー……」と、慌てたようにまるで捨て台詞でも吐いたかのように去る。

しかし、

「ケンゾウさーん、早く早く。ってかいつまで固まってるんすか」

結局対戦がそのまま中止となってしまったのは言うまでもない。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.105 )
日時: 2019/01/04 11:32
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
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空はもう夕焼け色に染まっていた。

結局今日だけでメガストーンは五つ手に入れることができた。
先程のヘラクロスとフシギバナのに加え、リザードナイトY、ヘルガナイト、フーディナイトが今回の成果だ。

「まぁ頑張った方だな。これで計八つか。今のところメガストーンって幾つあったっけ?」

ロクな情報を持ち合わせていないため、どこまでやればいいのかが分からないが、まだ終わりでないのは流石に分かる。

「とりあえず明日だな。明日二つ増えるしやりたいことも出来る。今日はもう帰って休むか」

ジェノサイドとしては暗くなって寒くなるうちに帰りたい。移動手段と化しているオンバーンを呼び出そうとボールを取り出した。

「しっかし……」

ジェノサイドはふと後ろを振り返る。そこにはメガストーンが埋まっていた空間が広がっていた。
地元ではちょっとしたスポットになっている古民家だ。
見たら一瞬で岐阜白川郷を思わせる合掌造りの家である。ここにあるのが不思議だが、かなり昔からここに一軒あるらしく、今では公園の区域内ということで無料解放している。
その家の庭。そこにあったのが今日最後に見つけたフーディナイトだ。

「何故今回もこんなところにあったんだろう。もうここまで来るとアトランダムにしか思えないな」

考えても仕方ないので帰ることにした。


ーーー

「リーダー帰ってきたってよ、白衣のにいちゃん」

構成員の男が退屈そうにじっとしている眼鏡をかけた白衣姿の男性は飛び上がるように椅子から立ち上がるとわざわざこちらにやってきたリーダーの方へと足を向ける。

「リーダー!お待ちしてました!」

「あぁ、お前だったのか。俺を待っている人がいるってのは」

ジェノサイドはその男を上から下まで目を凝らして隅々まで眺める。

「……お前、研究チームの人間か」

研究チームとは、彼らが所属する組織『ジェノサイド』の構成員の中から選んだ組織内の少人数のチームである。
ジェノサイドがキーストーンを手に入れた日からメガシンカの研究という目的のもと組織された。

「はい。例の物が完成したのでそれを」

「おぉ!やっと完成したのか!」

研究者の男の報告によりジェノサイドの疲れきった顔が吹っ飛び、何やら喜んでいるが互いに「例の物」とか「アレ」としか言っていないのでよく分からない。
構成員の男が「どうしたんですか?」と聞くと、ジェノサイドは「あとで教えるー!」と叫びながら薄暗い廊下の先へと消えていく。

基地には一ヶ所、研究室と呼ばれる部屋がある。今は居ないバルバロッサというリーダーの片腕が利用していた部屋だ。
彼が居なくなってすぐは使われていない空き部屋だったが、今ではリーダーの命により組織された研究チームが利用している。
ジェノサイドは今その部屋の扉の前にいた。

「それなりに時間かかったな。調べられる事とかあったのか?」

「まぁ、それにしては後で説明しますが……やはり最初は何も分からなかったので調べようがなかったですね」

白衣の男のショウヤが扉を開ける。
バルバロッサが使っていた機械は相変わらずだったが、部屋は明るくなり、コンピュータが増えていた。人が増えた分全員が利用できるようにするための配慮か。
部屋には五人ほどの男女がおり、各々書類を纏めていたり、画面とにらめっこしていたりと、全員がバラバラの行動を取っていたが、ジェノサイドが入ると全員が一斉に作業を止め、部屋の中心に置かれている巨大装置の前に集合した。
その内の一人が何やら奇妙な道具を持っている。


「リーダー、お待たせしました。こちらがポケモンのメガストーンを可能にする道具にしてキーストーンを嵌め込んだ杖、メガワンドになります」

杖の取っ手部分にキーストーンが埋め込まれている、所謂デバイスを研究員から手渡された。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.106 )
日時: 2019/01/04 11:38
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
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ジェノサイドは手渡された杖を軽く振り回してみた。

杖と言っても、歩行用の杖ではなく、アクセサリーや魔術として使いそうな代物である。30cm程度の長さなので歩行に適しないのは一目で分かった。

「なるほど、これは使いやすいな。丁度良く手にフィットする」

「満足頂けて光栄です。ではリーダー、そろそろよろしいですか?」

杖を弄ぶ手が止まる。
今のショウヤの言葉に"何か"を捉えたからだ。

「あぁ、いいよ」

と、静かに返すと、
「分かりました。では」

と一人の研究員が巨大装置の今は電源が入っていないモニタの上に書類をドサドサとぶちまけた。

「おいおい、何散らかしてんだよ、まとめた意味が……」

言っている途中で言葉が詰まる。書類の中身がジェノサイドからも確認できたからだ。
ちなみに、彼が見た単語は『メガシンカの正体』だ。

「おい、これって……」

「はい。これから私たちの研究成果を発表したいと思います」

予想外の言葉だった。まだ研究チームを発足してから数日しか経っていないにも関わらず、彼らは彼らで結論を導きだしたと言うのだ。てっきりジェノサイドは費用を求められるかと思ったばかりにその衝撃は相当だった。

「成果ってお前……まだチーム立ち上げてから日が浅いのに、もう何か分かったって言うのかよ!?」

「いえ、分かったというより私たちの仮説です。ある程度は実証できたのでそれを含めての研究成果であります」

書類をばら蒔いたのとは違う研究員が後方から歩き、書類の一枚を取り出す。

「まず、メガシンカについてですが、これはゲーム上では進化を超えた進化、限界を突破した形態とも言われていますが、そんなことはどうでもいいことです。リーダーもゲーム内では手持ちのポケモンにメガシンカさせておりますよね?」

ショウヤの質問により、ジェノサイドは軽く頷く。

「メガシンカは元々ゲームの設定の一つとして組み込まれたものです。第六世代のポケモンではその謎に迫るのがストーリーの1つとなっています。これから発売されるオメガルビー・アルファサファイアもメガシンカがキーワードのようですし」

「つまり、何が言いたいんだ?ゲームの話をされても俺にはピンと来ないぞ」

ジェノサイドは立ちっ放しに疲れてきたのか、一人だけ椅子に座りだした。つくづく運動不足だなと深刻に悩みつつ。

「そうです。今仰有られた通り、メガシンカはゲームやアニメだけでの話になるのです。この世界にポケモンが実体化しているだけでもおかしいのに、メガシンカまでされたらそれはつまりゲームやアニメの世界がこの世界に持ち込まれている事を意味します」

「おいおいそれは行き過ぎじゃないか!?二次元と三次元が混ざり合うなんていくらなんでもそれは無茶だろ!」

彼らのあまりにもぶっ飛んだ発言によりジェノサイドも思わず目を丸くする。

「はい、なのでカラクリが存在します」

それに対し、当のショウヤは常に冷静だ。リーダーの慌てる姿が彼らにとって珍しいのだが。

「まず、今リーダーがここでゾロアークを出したとします。そのゾロアークは正真正銘本物の"ポケモン"という"生き物"ですよね?」

「おいおい、研究に哲学持ち出すのは違うだろ……まぁでも実際に生き物だろ。五感備わってるし人語が理解出来るし」

「違います」

「えっ?」

ジェノサイドはショウヤの考えが理解できなくなった。ポケモンを生き物でないと断言したからだ。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.107 )
日時: 2019/01/04 11:51
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「違う……?確かにポケモンは元から感情があって人語を理解できるが……ポケモンが生き物じゃなかったら何だって言うんだ?」

「ゲームデータです」

ボールを取り出し、今にも投げて実物を見せようと構えたところで冷徹な言葉を浴びせられた。真実を知り夢を砕かれた子供のような顔をしている。

「あなたのゾロアークも、私が持っているポケモンも、今この世に放たれているポケモンは技、ステータス、個体値、努力値、道具、レベル……大体のステータスを個々人が持っているゲームのデータと同質です。すべてコピー、と言うよりリンクされています」

「それはそうだけど……」

それについてはジェノサイドも知っている事だった。だが、どこか否定したくなってしまう感情がほんの少し湧き出てくる。

「ではそのゲームデータが何故、どのようにして現実に姿を現しているかご存じでしょうか?」

「え、えっと……それは確か……誰かが流したんだっけか?」

うまく口が回らない。彼が深部の頂点の人間という雰囲気は一切見られないほど情けなかった。

「えぇ、まぁ正式に言うならば、と言うより情報が無いに等しいのであくまで憶測や世間で囁かれている程度ですが、何者かが特殊なデータをばら蒔いたというのが定説のようです。五世代の時代はWi-Fiを介し、六世代になれば追加データに実体化のカラクリを隠していた……という仕組みだそうです」

通りで最近になってポケモンを使う人が増えたと思った。Wi-Fiなら限られた人しか使えなかったが、追加データになればデータを持った人が皆実体化したポケモンを使えるようになる。

そこでジェノサイドは一つ閃いた。

「ん?じゃあゲーム内の道具ということはメガストーンやメガシンカもゲームデータということだよな?それもポケモンと同じ要領でこの世界に流したということか?」

「その通りです。ゲームの世界の道具、仕組みを逆輸入した感じですね。関係者がデータを新たに撒いた、それがメガシンカということですね」

ポケモンはデータ。メガシンカもデータとなれば何となく納得はした。
だが、それは新たな疑問が生まれるだけだ。

「ちょっと待ってくれ」

ジェノサイドは手のひらを前に向ける。ストップの合図だ。

「それだと分からないことがあるんだ。俺はこのキーストーンを大山に行ってまで取ってきたんだ」

ショウヤは目を細めて無言で彼の言葉を聞いていた。

「まずあの山には俺たち向けの神主……言い換えれば深部の人間がいた」

ジェノサイドは大山で起きた事をすべて話した。あの時の話をすべて話したのは今回が初めてかもしれない。その為か、時折下手な説明も混じってしまったが何とかすべて話せたようだ。

「なるほど……よりにもよってあの場所、でですか」

研究員たちはただ顔を曇らせるだけだった。

ジェノサイドが大山に行った一週間前。
彼と彼の仲間全員が大山に出向き、彼らの裏切り者を倒している。
その時、その裏切り者は特殊な力を使って自ら操るポケモンを強化していた。

そのせいか、大山ではキーストーンが大量に発見されるに至っている。

しかし、それでは「メガシンカは追加されたゲームデータ」という研究員たちの仮説と矛盾してしまう。
それを理解しての彼らの反応だった。

「俺やその神主はメガシンカは特殊な力が行き場を無くしたエネルギーだと思っていた。ランドロスたち伝説のポケモンの姿を変える道具は写し鏡。そして俺は今メガストーンを探す為に写し鏡を使っている。ゲームでも『真実を写す道具』と説明がなされている。この共通点は無視できないんじゃないか?」

「話が逸れるようで申し訳ないのですが……とりあえず仕組みについて話してもいいですか」

ショウヤはなお冷静さを維持しているが無茶をしているのが見えた。
反論できないだけでこれかとジェノサイドはちょっとガッカリする。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.108 )
日時: 2019/01/04 11:58
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


そんな状態が続く中で話を聞くのが何だか無駄に思える。
頃合いを見て離れようか思ったその時、

「あ、あの、決して論点ずらしをしたつもりではありません。このままでは別の話が出来ないので一先ず保留としました。とにかく、これから先も聞いていただけますか?」

「まぁ別にいいけど」

わざとらしく時間を確認すると研究員たちを少し睨む。
時間だけが無駄に過ぎているようだ。

「それで?仕組みって何なんだ?」

「はい、簡単に言うならばメガシンカやそれに関する道具についてです」

しかし、今回は期待できそうだった。メガシンカやメガストーン、デバイスについてはまだ分からない事だらけだ。

「リーダーは今、メガストーンを探索されていますよね?何か疑問に思うことはおありですか?」

このタイミングで言うにはあまりにもあからさますぎた。まるで狙っているかのような言い方だ。

「あぁ、そう言えばメガストーンの場所だ。発見場所がアトランダムだったり、人目に付きやすい場所だったり……とにかく何で今まで他の誰かに取られなかったのか疑問に思ったことが何度か」

「だと思いました!」

先程とは対照的に元気な声と共に彼の懐から1つのメガストーンが出てきた。
色合いから自分が持っていないメガストーンのようだ。

「こればかりは実証済みなのではっきり言えるのですが、どうやらメガストーンを探索、発見できる人間は限られているようでして、こう言った人々を私たちは洗礼者と呼んでいます」

「洗礼?どういうことだ」

研究員はメガストーンを持った手をやや上に挙げて若干全員の興味を集中させる。

「例えば、今ここでやるのはもう意味がないのですが、誰か知り合いがいたらこうしてみて下さい。この石が見えるか、と」

益々意味が分からなかった。何が言いたいのか問いかけようとしたら向こうから続けざまに言ってくる。

「まず、このメガストーンは全世界の人間には見えこそするものの、それが埋まっている間は確認ができないのです。分かりにくいとは思いますが、例えるならばポケモンXYのゲームの主人公は殿堂入り後にメガリングをパワーアップさせると色々な場所でメガストーンが埋まっていることを確認できますよね。ですがバッジはおろかメガリングを持っていない主人公が同じ場所に立ってもそこにメガストーンがあることなんて分からないですよね」

「それはつまり、メガシンカさせるデバイスを持っていないとメガストーンを目で見ることはできないってか」

「いえ、違います」

また否定された。自分の面子はあまり意識していないが、否定的に考え始めると嫌でも面子を気にし出してしまう。もっとも、ここでそれを気にする人間は一人もいないが。

「それではリーダーがメガストーンを探せなくなってしまいます。デバイスを渡したのは今ですし」

「それもそうか。じゃあ何だ?メガストーンを探すための発信器の代わりになっている写し鏡か?」

「キーストーンです。それも、用意するのは一つだけで十分なんです」

ジェノサイドはその数字に引っ掛かった。

一つ?

つまり、個人個人がキーストーンを用意しなくて良いと言うことか。身の回りにキーストーンの影響が及ぶと言うのだろうか。
そう言えば、さっきショウヤも、「ここでやる意味がない」と言っていた。それはつまり、此処にいる全員が既にメガストーンを探せる能力があるということか。

「方法も簡単です。一度でもいいのでキーストーンに触れる事です。逆を言えばキーストーンに触れる事が無ければメガシンカは扱えないと言うことです」

「キーストーン!?それも触るだけでか。そんな簡単な事でいいのか!?」

細かく言うならばキーストーンを手に入れるのに特別な場所へ踏み入れる事が第一条件となるので必ずしも簡単では無いと思うのだがそれを簡単にやってのけたジェノサイドにとっては無問題だった。

「はい。話を戻しますと、リーダーは他人に先に取られてもおかしくないところにメガストーンがあると仰いましたよね?それは単に周りの人間がキーストーンに触れる機会が無かったがためにそこにメガストーンがあるということに気がつかなかっただけだったのです。なのでこれからも安心してメガストーンの探索を続けていても問題は生じませんよ」

と言われ、長い間悩んでいたものからは解き放たれた。全員がメガストーンを確認できること、そしてそのメガストーンを持っていることからちゃんと実験したのだろう。先程と比べて説得力が大いにあった。
ジェノサイドとしてはそれなりに満足はしたが、そんな時にまた一つ不安が過る。

「あれ?それじゃあ明日皆で集まる意味がなくね?」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.109 )
日時: 2019/01/04 12:05
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


今までの会話と関係ない言葉が飛んできたので幾らかの研究員がこちらを向いた。

「何かする予定だったのですか?」

発表していた研究員が特に彼の言葉に反応した。

「いやね、実を言うと俺も似たようなこと考えてたんだ。見れる人と見れない人がいるんじゃないかって。だってそうじゃなきゃ今の段階でこんなにもメガストーンが集まるわけがないからさ」

「なるほど……」

その研究員は顎に手を当てて考える仕草をしている。ジェノサイドが時折見せる、「そのメガストーン見して!てかちょうだい!」というサインには全く気づかない。

「そうですね。リーダーは明日一般の人も集めてメガストーンを探索しようとしてたのですか。確かにそれは意味のない行動と断言できますね。実際私たちも先に触れた者とそうでない者に別れてメガストーンを探索する実験をしました。結果は言うまでもありませんけどね」

こうして考えると明日は中々に厄介な事になる。
ジェノサイドはまだメガストーンの入手という目的があるが、その行為にこっちの世界とは関係のない表側の人間が関与することになる。ジェノサイドとしての行動が見られたくないというのもあるが、何より彼らをこちらの世界に触れてほしくないという思いが一番強かった。

だが、

「まぁいいか。あいつらが中華街にいる間にちゃちゃっと終わらせるか」

彼らにも一応の目的があることを思い出した。


ーーー

発表が終わったことにより、各研究員は散り散りになった。
今巨大装置の前にいるのは椅子に腰かけているジェノサイドと発表者だったショウヤの二人だけだ。
彼らの話は終わっていない。

「んじゃあ続きでもするか。結論見えそうにないけどな」

「えぇ」

彼らは一旦は保留となった「この世界のポケモンとは」という論争を再度始めることとなる。
研究者が哲学的な論争をするのは不思議な光景だが。

「私は、この世界で実体化しているポケモンは一種の人工知能に似た者だと思っています」

「つまり、それはポケモンはゲームデータ以外の何物でもないと」

「まぁ、そうですね」

彼の考えは変わっていなかった。矛盾を突いたのにこの調子では間違いを指摘しても理解するのに時間が掛かるかそもそも理解しようとしないかの二択だろう。
ジェノサイドは時間の無駄を悟った。

「ですが、リーダーの実体験をもとに新たな仮説が生まれました」

「仮説?」

ジェノサイドは眉をひそめる。

「はい。リーダーの仰った仮説と写し鏡の力……それらすべてを合わせて考えてみた結果、仮説が生まれたのです」

「それで?一体どんなのだ」

やけに引っ張るショウヤにややイライラする。メガストーンはいつの間にかポケットの中に埋もれていた。

「この世界が、ポケモンの世界に飲み込まれかけているという仮説です」

またもや意味が分からなかった。

ジェノサイドは目を点にして、「はい?」と間抜けな声を出す。

「ポケモンを、不思議な力を得たランドロスらを一種のゲームデータとすると、この世界にゲームでしか確認されないデータ……言い換えればメガストーンが発現したとすると、データの影響つまりポケモンの世界が姿を現しつつある……という考え方です」

またもやぶっ飛んだ考えだとジェノサイドは第一に考えた。
だが、今度ばかりはそれで終わらなかった。

なぜなら、

「この世界をポケモンの世界にする……それを一番強く願っていたのはバルバロッサ本人じゃねぇか!」

心当たりがありすぎたからだ。

「はい」

研究者の一際強い声が耳に響く。これでは一体ジェノサイドは何のために戦ったのか分からない。

「もう意味が分からない。そもそもバルバロッサが行った変な儀式とか、メガストーンの発現システムとか、ポケモンの存在についてとか……でも言ってもそれはお前の仮説だろ?」

「はい、勿論です。仮説ですのでまだこの段階では説得力はありません」

ですが、と彼は前置きする。

「その仮説を実証するのが私たち研究職の人間です。この段階で終わる訳にはいきませんよ」

結局論争は決着しなかった。互いに言いたいことをただ言っただけの、互いが不満な結果で終わってしまった。

ーーー

「考えるだけ無駄ってことかよ……」

ジェノサイドは苛立ちを顔に表しながら長い廊下を歩く。
ちなみに、研究員は最後に自分達が見つけたメガストーンを渡してくれた。「自分達には扱えない」だの「使う暇がない」とのことだ。

「嘘つけ……俺よりも仕組み知っている癖に」

足を止め、渡されたメガストーンを眺める。灰色だ。恐らくボスゴドラナイトか。

(もしも……)

ジェノサイドは再び歩き始めながらこんなことを考える。

(こうなることが予め予想できてから、あの山で俺と対峙したとすると……自分が勝っても負けてもリザルトでは勝ったことになるってことか……?クソ、嫌な結末だ)


ーーー

同じ時間、同じ建物の中で、一人の研究員も同じことを考えていた。

(仮にもあれが仮説だとして、あの中のいくつかの事象がたまたま合っていたとするならば……)

その研究員は間違いだと確定した実験結果をまとめた紙を細かく破く。どんなに複雑な考え事をしてもその手は止まらなかった。

(バルバロッサとの戦いは……まだ終わっていないということになる……)

今宵の月はやけに明るかった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.110 )
日時: 2019/01/04 12:14
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


いつの間にか朝を迎えていた。
この時間に起きる、と予め暗示していたせいか、その時間ピッタリにジェノサイドは起きることができた。

「九時か……」

思い瞼を擦って起き上がる。
そしてそこで初めて気づいた。

自分が寝ていた部屋が自室ではなく、レイジとミナミが普段使っていた部屋(元談話室)だったことに。

「あれ?」

辺りを必死に見回す。だが、どんなに見ても暖炉に目がいく。ここは彼らの部屋以外の何物でもなかった。
確かに昨夜は自分の部屋で寝たはずだが……。

「おかしい……一体どういうことだ?まさか、まだこれも夢の中の世界とかか?」

「おっ、目が覚めましたか、ジェノサイドさん」

ファンタジーなおとぎ話を必死になって考えていたが、そこに間違いなく本物のレイジが姿を現せ、ジェノサイドを現実へと叩きつける。

「いやー、水臭いじゃないですかー。まさか我らが愛しのリーダーを横から掠め取るなんて」

は?と思わず反射的に声が出てしまう。今自分がしている会話の内容が意味分からなすぎてやはりファンタジーな世界なのかと錯覚してしまう。

「聞きましたよー、今日リーダーと一緒にデートなさるんでしょう?それも、場所がデートスポットと名高いカップルの聖地で二人きりで」

「ちょ、ちょっと待て!お前は何を勘違いしてんだ、てか色々と間違えてるぞお前!!」

必死に反論しようとするがその姿がかえって必死に恋愛関係を否定しているようにしか見えなかった。少なくとも、レイジからしたら。

「リーダーも同じように言ってましたよ、やはりデキてたんですね……まぁこの組織には女性は少ないですし歳も近いですもんね。気持ちは何となく分かります」

「人の話を聞けよ!俺はただ今日メガストーン取りに横浜に行くだけだよ!」

「二人きりでですよね?」

「二人じゃない!!」

レイジがふと動きを止める。目を丸くしつつ。

「……二人じゃないんですか?」

「二人じゃねーよ、てかどこからそんな話が出てたんだ。今日は俺の友達も一緒だよ。やりたいことあったから呼んだだけなんだけどな」

「えっ!?あなたの友達も来るのですか!?」

あまりにも「それは違うだろ」と言いたげな反応をしつつレイジは再度聞く。

「あぁ、だから言ったろ、俺はメガストーンを探しに……」

「何でそんな事するんですか!?折角のチャンスだったのにー!!そこは二人で行くべきでしょう!」

「人の言葉遮って訳の分からない事を言い続けるのいい加減にやめろや!てかお前は一体何を望んでんだ、何を求めてんだー!」

野郎が二人で騒いでいるとミナミが洗面所から顔を出して二人に聞こえるくらいの大きな且つわざとらしい舌打ちをすると、すぐに引っ込んでゆく。

「……」

「…………」

「風呂、好きなんだな」

「女の子ですから」

沈黙を破った会話がこれだ。つくづく自分はただの男子だと自覚する。

「ところでさ、何で俺この部屋で寝てたの?」

「あぁ、それですね?私が運んだんですよー。いやぁ大変でしたよ。寝床からここまで連れていくのは。もっとも、運んだのは私ではなくキルリアのエスパーですが」

「人の眠りを変な力使ってまで邪魔しようとしてんじゃねぇよ!何がしたいんだお前は!」

「いやだからこれからデートに行くわけでしょう?わざわざ部屋まで行って起こすの面倒じゃないですか。ですから同じ部屋に集めてここですべての準備を済ませた方が効率的だとーー」

言っている途中、洗面所の扉の内側から扉を思い切り叩く音が響く。

レイジは反射的に喋るのを止め、ジェノサイドは思わず察知した殺気を理由に部屋から飛び出て行った。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.111 )
日時: 2019/01/04 18:55
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


準備を終え、ジェノサイドは基地を出た。
当然一緒に行くことになっているのでミナミも外だ。

「……。」

「……。」

正直、かなり気まずい。
変な茶番を繰り広げてしまったせいでお互いに会話がない。知り合いが隣にいるのに無言という空気が無駄に重かった。

基地は駅から若干離れた工場密集地に本来はあるのだが、ここは不思議なことに林に囲まれている。
これはジェノサイドが組織結成時にポケモンの力を借りて植えたものだ。端から見ればあからさますぎてしまうかもしれないが、そもそもジェノサイドらが居座る街はニュータウンの一角である。それなりに栄えてる街ではあるが所々自然が残っているのでわざとらしい光景ではなかった。

近くには観光地として有名な山々があり、少し歩くと坂が連続する。ここが元々は山だと感じさせる地域にジェノサイドは基地を構えた。此処しか空いていた土地が当時なかったというのもあるが、言うほど不便でもないので一種の妥協として結果的に四年も住んでいる。不満はなかった。

林を抜けなければ街には出れないため、ジェノサイドとミナミは林の中を歩く。

ここでも二人は無言だった。

「……」

「……」

しばらく歩くと、やっと街らしい景色が視界に段々と広がってきた。

林を抜けたのだ。

一見道らしい道には見えない付近から直接ガードレールを跨ぎ、車線を横切って反対側の道路へと進む。そちらが駅の方向だからだ。

「ねぇ、」

気まずい空気が流れてから十五分。

自分達の周りがうるさくなりだしたこともあってか、ミナミが遂に沈黙を破る。

「これどこに向かってんの?」

「駅以外にどこがあんだよ。ここら辺の地理が分からなかったらついて来いよ。まだ少し掛かるけど」

「駅?」

ミナミは少し間隔を空けるものの、彼についていく。
歩調は大体一緒だった。

「ポケモンで行かないの?」

いつもの感覚か、ミナミは今回もポケモンで移動するものと思っていたらしい。

「アホか、この時期に横浜まで飛び続けてみろ。寒くて死ねるぞ」

とても夜間に標高約1200メートルの山に言った男のセリフにしては説得力が無さすぎるが、いや彼だからこそ言えることなのかとにかく、あんなことは二度と体験したくないという本音を言いたいぐらいの様を顔に表すも簡単な表現で会話をさっさと終わらす。

ジェノサイドも彼なりに気まずかった。喋りたい気持ちはあるのに、いざ喋り出すとすぐに止めたくなってしまう。

(一体何考えてんだ俺は……)

勝手に悩んで勝手にへこむのを自分の中で繰り返していると、またミナミがその世界の邪魔をしてくる。

「じゃあさ、駅までポケモンで行けばよくない?」

当然に思い浮かぶ疑問だった。
何故時間かけてまで駅まで歩くのか。

対してジェノサイドは真面目な顔をすると、

「最初はそう考えたんだけど、この辺りを飛ぶのはちょっと危険かなと思ってさ。ただでさえ実体化したポケモンを操っている所を一般人に見られたら羨望とかよりも恐怖といったマイナスイメージで捉えられる事が多いんだ。俺が普段通学にはポケモンを使っているけど、一人且つ時間帯を考慮しての事なんだ。休日で人も多くしかも特にそれが顕著な駅なんかでやられたら色々と都合が悪いんだよ。それに、一部の人間からは『ジェノサイドの基地がこの近くにあるらしい』なんて思い込んでる奴もいるって話だ。そういうのに限って人の多い駅に出没するからな。だからそれを控えてんだよ」

と、長々と説明を途切れることなくしてみせた。よく噛むジェノサイドとしては我ながらと思ったほどだ。

「ふーん、色々考えてんだねー、あんたも」

……なんで女'子'ってのはどいつもこいつもこうなんだと顔には出さないが、勝手に少し不機嫌になるジェノサイドであった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.112 )
日時: 2019/01/04 19:13
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


彼らは駅に入ると、行く方面が同じ電車が丁度出発する頃だったので待つことなくスムーズに乗り込むことが出来た。

それから一時間弱。

二人は横浜中華街の最寄り駅へと到着する。

電車内では特に目立つ会話は無かった。しいて言えばジェノサイドの私服を小馬鹿にされたくらいか。

彼は普通の大学生である。なので格好良くもなく、かと言ってダサくもない服装なのだが、ミナミからすればダサかったらしい。
若干それを気にしつつ二人は集合場所へとやや駆け足で急いだ。

ちなみに、二人は集合時間には少し遅れている。駅に到着すると呆れた目をした彼の友達がこちらを眺めていた。

「やー、ごめん皆。遅れちゃって」

「いつも通りだね、レン」

想定内といった感じで比較的穏やかなのは彼の友達の一人、岡田翔。

地元がここから近いお陰か、今回は彼や、他の横浜が地元の人間が案内を担ってくれるらしい。
横浜という街が好きなジェノサイド改め高野にとっては若干いらないお世話に感じたが気にする程でも無いのが事実だ。

「これで全員だよな、……あれ?」

高野は、今日集まった人たちを確認していると、普段こういう場では見慣れない人影があった。

「先輩……?」

そこには、彼と仲の良い佐野と、彼と同じ四年生で、さらにポケモン所持者の松本、常磐、船越という名字だったはずの男の先輩がそこにはいた。

「やぁ、レン君。暇だから来ちゃったよー」

穏やかなハスキーボイスで声をかけてくれたのは松本まつもと 幸宏ゆきひろ先輩だ。身長も180㎝を越えている中々の長身でガタイもいいが、その優しい顔つきから怖さを感じさせないタイプの人だ。
ガリガリの癖によく「怖い」と言われる高野からしたら若干羨ましかった。

「珍しいっすねー、どうしたんですか?今日は」

「レン君達二年生って今日横浜行こうとしてたんでしょー?後になって香流君や高畠ちゃんにも聞いたけど来てもいいって事だから来たんだ。ポケモンセンターあるんでしょ?」

飯よりもポケモンかよと突っ込みたくなったが、そこは同じポケモン仲間として黙っておいた。
食事はそもそも前提だったからだ。

「ところでレン、あの子誰なの?」

外見だけなら佐野先輩とそっくりだが、眼鏡をかけていて先輩陣の中でも一番と言っていいほどのお調子者の船越ふなこし 淳二じゅんじが眼鏡を光らせ、面白そうな笑みを浮かべながら訪ねてきた。
あの子、とは恐らくミナミの事だろう。

「あっ、あの子は……」

言い掛けたところで声が止まった。

そう言えば、名字は何だ?

それは高野すらも知らなかった。当然と言えば当然だが。
深部では基本、本名を隠し、偽名やニックネームを自ら付けて行動する。私生活に支障をきたさない為だ。

「えっと……」

必死になって頭をフル回転させながら悩んでいると、段々と皆の目付きがおかしくなってくる。

「ははーん。なるほど、レン。あんた彼女連れてきたのね?」

一瞬体が固まった。だが、予想していたことだ。
今にもイジリ感MAXでわざとらしく聞いてきたのは、

「うるせぇ次期会長!彼女じゃねぇよ友達だよ友達!」

必死に考えているせいか、反射的に必死そうに返してしまう。益々疑われるだけだった。

高畠はニヤニヤしつつ、「じゃあ誰?」なんて聞いてくる。

「えっと、だから……」

チラチラとミナミを見つつ、苦し紛れに名前を思い浮かばせる。

「ミナミ!」

しかし、浮かんだのは結局、

「ミナミだよ!中島 南!でしょ?」

とか言って本人に振り向く。はっきり言ってギャグにしか見えない。

「ぷふっ、」

思わずミナミは口元を押さえて吹き出した。高野とジェノサイドとにギャップがありすぎるからか、それとも必死な行動がそもそも可笑しかったのか。

「はい、私は高野くんの友達の中島南って言います!横浜は前から行きたかったんですが、偶々高野くんが行くって言うので着いてきちゃいました!今日はよろしくお願いしまーす」

などと普段の彼女からは想像できない女子力全開のアピールの甲斐もあったからか、全員は快く迎え入れてくれた。

ただ一人を除いて。

皆がぞろぞろと移動し始めた。高野は列の後ろ側に回り、ミナミと歩く。

「お前……なんだよさっきの。普段のお前じゃねぇみたいだぞ」

「それを言うならあんただって。何でうちの本名知ってる訳?」

あまりの事実に、高野は足を止めてしまう。気づいたら、置いていかれそうになっていた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.113 )
日時: 2019/01/06 17:06
名前: ガオケレナ (ID: ru6kJfJs)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

『中華街』と書かれた門をくぐる。
その瞬間、世界が変わったかのように感じられた。
人が至るところでごった返し、人気の店の前には長い行列が作られている。
ふと見渡せば、甘栗を売っている人もいた。

「よーし、飯食おうぜ飯!」

と、相変わらず元気良さそうに北川が自分達で構成した集団から一歩踏み出して辺りを見る。

「どこで食おっか?」

そのままどこかへ飛び出すのかと思ったら振り向き、そんな事を聞いてくる。
無理もないだろう、彼は初めてここに来たのだから、何があるかのか分からない。

「何が食いたいかによるだろ」

岡田と北川が話し合いを始めた時、集団から飛び出す影が幾つか。

「あれ食おうぜ、あれ」

船越の声に反応し、先輩勢が勝手に出店へと足を向けた。その先には特大肉まんと宣伝している店があった。

「レン君レン君、うちらもあそこらへんで適当に食べ歩きしようよー」

「お前まで俺をレン呼ばわりか……ってか勝手にしてろよ。基本こいつらは協調性が皆無と言っていいほどバラバラに動くからな。食べたい物があったら適当に食べてな」

落ち着きを取り戻した高野は、ミナミのふざけたノリを適当にあしらって興味を逸らそうとする。
他のメンバーからイジられるのが相当嫌であるようだ。

(やっぱこいつらと来たのが間違いだったか……?)

今更ながらそんな事を考える高野だったが、考えたところでもう遅い。

「なぁー、レンはどうするー?何食べる?」

岡田がこちらを見た。どうやら話し合いがうまく纏まらなかったらしい。

「何食べるって言われてもな……」

高野は、岡田たちと距離があったので彼らに近づく。
歩く途中、他の歩行者とぶつかりそうになった。

「まず食べ歩くか店にするか決めようぜ。間違っても両方はしちゃいけねーからな」

「なんで?」

とぼけた顔をしているのが地味にムカつく。こいつ本当に横浜付近が地元なのかと不思議になる程に。

「店行っても、大体が優しいところだから値段は安く済むんだが、それでもとにかくボリュームが半端ない。食べ歩いた後に店なんか行ってみろ。死ぬぞ」

岡田は、「へぇー、マジかー」なんて、本当に聞いていたのか分からない反応だったが、少なくとも一番この事に興味のある北川は聞いていたようだ。
彼は彼で「どっちにするかなー、店かなー」なんて呟いている。

先輩達が二、三種類程の中華まんを持ってきながらこちらに戻ってきた。
石井は先輩達にこれから店に行くことを告げている。
彼女もここが地元の人間だ。少なくとも、岡田よりかは熟知している様子である。
彼女の言うオススメの店へと行くことが決定し、集団を再び生成して彼らは歩き始めた。

途中、高野がその列から抜けた。彼は中華街を抜ける方向へ歩こうとしている。

「おい、レン、どうした?」

北川がいきなりの行動に若干の不安を抱きつつ聞いてくる。

「あぁ、俺食べ歩きにするわ。皆店行ってて。俺金あんま無いからさー、少なく済ましつつ色々見ていたいんだ」

全員が意外そうな顔をする。横浜に行こうなんて言い出したのは彼だったからだ。

「え、別にいいじゃん。皆で食べようよ。安いとこだし」

「石井、この人数で入れる広い店なんて食べ放題のところしかないよ。俺はその店に行けるほどの金ないからさ、皆で食べてってよ。このあとはみなとみらい方面に行くでしょ?俺その途中の山下公園で待ってるからさ」

と言ってやっと彼らから離れる事ができた。
岡田が「なんか付き合い悪いな」なんて小言を言っていたがそんなことはどうでもよい。

これでやっとメガストーンを探せる、なんて思った時だった。

「え、じゃあうちも」

と言って、ミナミも彼らから離れた。

香流が「あっ、察し」なんてふざけた事を言い出したのを合図に何人かがニヤニヤしながら彼らを置いて行くように去ってゆく。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.114 )
日時: 2019/01/06 17:09
名前: ガオケレナ (ID: ru6kJfJs)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「はぁー、……」

隣を歩くミナミがため息をついた。

「聞いてないんだけど、あんたの友達が来るなんて」

「そういや言ってなかったな。こっちを知らない一般人にメガシンカが通用するのか試したかっただけなんだ」

正直、ジェノサイドもここまで人が集まるとは想像しなかっただろう。流石に集めすぎた。
まぁ悪いことではないが。

「あんたももう少しまともな嘘つきなよー。あんなの理由にしては苦しすぎるでしょ」

「それくらいしか思い付かなかったんだよ!メガストーン探したいから先に行くなんて言ったところで、はぁ?ってなるだけだろが」

やかましくしながら二人は混雑している中華街を人の間を縫うように歩く。

「んで、メガストーンはどこにあるの?」

「一つはここ。この中華街の中にあるはず」

ジェノサイドが足元を見ながら歩いているが何だか危なっかしい。前を見ろと彼女は言いたくなる。

「ん、そう言えば」

ミナミの突然の呟きに、ジェノサイドは顔を上げた。

「なんかここにお寺みたいなのがあったよね?そこにありそうじゃない?」

ミナミが言っているのは恐らく関帝廟の事だろう。文字通り、関羽を祀る廟のことだ。

確かに、ジェノサイドとしても人が多すぎて確認のしにくいこんな道よりかは、建造物の近くにあった方が嬉しい。
二人はそちらへ向かうことにした。

「当たり前だけど、平和だね、あの子たち」

ミナミがふと、こんなことを言ってきた。サークルの人たちを指しているんだろう。

「あんたが、あの子たちを大事にしたい気持ちが分かった気がする」

「何だよ、何が言いたいんだ?お前」

何でもない、とミナミが顔も合わせず先へと行こうとする。

それ以上、二人での会話は目的地に着くまでなかった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.115 )
日時: 2019/01/06 17:14
名前: ガオケレナ (ID: ru6kJfJs)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


関帝廟と書かれた門をくぐり、辺りをくまなく探す。
光が小さいため、集中しないと中々見つからない。
通路よりかは拓けた空間ではあるが、それでも人は多く、簡単には見つかりそうにない。

「無いな……」

隅っこばかりを見るジェノサイドに対し、ミナミは退屈からか段々と飽きてくる。

「ねぇ、うちはどうすればいいの?あんたの話だとうちはまだ探すことすらできないんだよね?」

「あー、そう言えば」

ジェノサイドはふと探す手を止める。

「でもなー、まだどこにあるのかが分からないし」

「はぁ?それじゃああんた任せってこと?それじゃ意味ないでしょ。今うちも探せるようになれば手っ取り早いじゃん」

「いや、それだとしっかりと証明ができない。分からない人が分かるようになるってことを証明させたいんだ」

二人は階段を登り、廟により近づく。内部を覗くことができた。

「言ってる意味が分からないんですけど」

なんて言いながらミナミはジェノサイドの後ろをついて歩く。自分でもうまく説明できていないのは分かっていた。

「分かってるよ。ただ、もう少ししたらちゃんと分かるからー……」

「その、もう少しっていつ?さっきからそれの繰返しばっかじゃん」

ミナミは、ジェノサイドがいきなり黙った事に気づいていなかったが、立ち止まってずっと中を見ているジェノサイドに違和感を覚える。

「ねぇ……何してんの?」

恐る恐るミナミは聞いたが、ジェノサイドは目を見開き、じっと見つめるだけで反応は今一つだ。
もう一度聞こうかとねぇ、と言ったその瞬間だった。

「あった……」

「え?」

「ほら見ろよ!あそこに、白い光を放ってるのが分かるだろ!」

どうやらジェノサイドはメガストーンを見つけたらしい。

だが、興奮して「向こうを見ろ」なんてジェノサイドから言われても何も見えるわけがない。彼女はまだキーストーンに触れたことがなかったからだ。

やけに肩に手を置かれて姿勢を変えられたのが何だか気になる。彼としては無意識に行ったことであり特に深い意味は無いのだろうが、状況を見られないミナミにとっては少し意識してしまうだけだった。

「いや、だから分からないって」

と言ってようやく自分の肩からジェノサイドの手を払い除ける。

「どうなってるの?うちには何も見えないんだけど、向こうに何かあるの?」

ミナミはジェノサイドの指を差す方向に顔を向ける。徐々に冷静さを取り戻しつつあるジェノサイドも、段々と彼女に対する状況を把握していく。

「扉の向こうに……メガストーンがある。それを示す白い光があるんだ」

ミナミが確認できないことを知ると、今度は如何にして内部に入ろうか頭を悩ませている。
人が多すぎて中々入れない。入れない以上メガストーンが入手できないということになる。

「どうすればいいんだ……?人混みが無くなるまで待つか……?」

悩みは、何時まで経ってもなくならない。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.116 )
日時: 2019/01/06 17:28
名前: ガオケレナ (ID: ru6kJfJs)
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「あっ、そうだ!ポケモンに持ってこさせればいいんだ!」

ジェノサイドはゾロアークの入ったダークボールを手に掴む。
彼はタイプやポケモンによりボールを使い分けている、所謂オシャボだ。

「持ってこさせる?どういうこと?」

「あの人混みの中だ。その中に突然ポケモンが出てきたら驚きとかで道を空けたりしないか?それに……」

ジェノサイドは後ろを振り向いた。つられてミナミも振り返る。
そこには、休日も合わさって大勢の参拝客の波があった。

「でも、この人たちからしたらポケモン放り投げて暴れてるようにしか見えなくなるけど?」

「そうだな。安心かつ安全にいける方法としてなら、コイツでいいだろ」

と言ってボールを投げる。

「でも、どうやって?」

「こうやって」

……とは言うが、何も変化はない。ボールが落ちてゾロアークが飛び出てくると思いきや、そのボールは閉じたまま地に落ち、硬い音を響かせるだけだった。

「ありゃ?出てこねぇな?作戦なら昨日の夜に伝えたはずなのに」

「いや、そりゃそうでしょ。今何も命令してないし、ポケモン相手にそんな高度な事出来る訳ないでしょ」

ミナミはミナミで当然の事を言ったつもりだったが、彼女は知らない。
ジェノサイドのゾロアークは「わざわざ命令を口に出さなくとも主の気持ちと状況を察知して結果的にジェノサイドが思う理想の結果を表す」というずば抜けた技術と、恐ろしいまでにピッタリと一致したゾロアークとジェノサイドの性格がある。
ジェノサイドはその事を告げる。

「え??よくわかんない。つまりどういうこと?あんたとあんたのゾロアークの性格が似ていて、場面事の考えることが一致するからわざわざ命令するまでもないってこと?」

「あぁ。そういうことだな」

「じゃあ最初からそう言ってよ分かりにくい」

なんてミナミが言った時だった。

その場面に思わずミナミは驚く。

「え?」

呟いた瞬間だったか。

目の前に光る石を持ったまま扉をゆっくりと開けてゾロアークがトコトコと歩いてきた。

「やー、上手くいったみたいで良かった。これで十個目だな」

「えっ!?うそっ、いつの間に!?」

その石は黄色く光輝いていた。デンリュウナイトだ。

「何事も自然に化かす事だ。ボールが出てないと思った時点で既に幻は始まってたって訳。んで、内部の人混みにゾロアークが混じる事で難なくゲットォォ!……ってね」

「いや、ウチからしたら不自然極まりないわ!!あと中の人たちに謝れ!絶対ちょっとした騒ぎになってるから!」

扉を薄く開けて耳を済ますとザワザワとしているのが確認出来た。
人の世界に突然ポケモンが出てきたら好奇心よりも驚愕の感情が生まれるのは分かり切っていた。その事で恐らく軽い騒ぎになったのだろう。

「さ、後は港方面にもう一つあるから、そろそろ行こうぜ。それとも、今から何か食べに行く?」

ジェノサイドはそんな光景を無視し、ゾロアークをボールに戻すとそそくさと門を抜けて再び中華街に足を踏み入れる。

二人は折角なので、食べ歩きを楽しみつつ次の目的地へと向かうことにした。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.117 )
日時: 2019/01/06 17:35
名前: ガオケレナ (ID: ru6kJfJs)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


のんびりと歩きつつ海を見ながら公園でゆっくりしていると、スマホが鳴った。

友達の香流からだ。

「どうしたの?」

甘栗の袋を抱えながら隣に座って同じく海を眺めていたミナミがチラッとこちらに目だけを向ける。

「いや、香流から……さっき別れた友達から連絡が来た。今どこにいるかって」

「それで?何て返したの?」

ジェノサイドはスマホを動かし続ける。

「山下公園。そこで散歩なり休むなりしているから皆のペースでこっちに来てくれって言っといた」

元々、今日は中華街でご飯を食べたら山下公園経由で散歩を楽しみつつ、赤レンガ倉庫で土産を見たり途中の遊園地で少し遊んだりして最後に、横浜みなとみらいを象徴するランドマークタワーで展望台に昇ってからポケモンセンターで少し遊ぶという予定だった。

なので少しすればここに必ず彼らがここに来るという事だ。

だが。

「いつ来るの?」

「知らね。あいつら協調性が皆無なレベルでマイペースだからな。かなり遅いかも」

「えーーー?なにそれ~……だったら今から少し戻って合流しようよ。ずっとここにいるのは退屈」

と、言ってミナミは立ち上がる。

「二度手間だろうが。それにお前今から中華街戻って何するんだよ。中華まんと水餃子に月餅食って今も甘栗あんのにまだ食い足らないのかよ。観光地らしき観光地も関帝廟くらいしかねーぞ。俺の知る限りでは」

すると、何だか静かになった。立ち上がったものの、歩き出す足音が聴こえない。
不思議に思い、後ろを振り向くと何か諦めたような顔をしてミナミは再びその場に座り込んだ。

「ねぇジェノサイド。どうしてあんたは深部なんかにいるの?」

「話題変わりすぎだろ」

とは言うものの、声色が急に低く、シリアスな雰囲気を感じ取れたので予想はできたが。

空を見上げ、ボーッとした後にやっと返事をすることにした。

「深部……ねぇ。そんなん調べようと思えば出てくるだろ。ジェノサイドの行動目的は言ってしまえばポケモンの保護だよ」

「いや、それは違う!……いや、違うってことはないけど……。何だかさ、あんたがこっちの世界で動けるには何か別の理由があるんじゃないかなと思ってさ。あんたがサークルの人達と行動してるのを見ていて思ったんだ」

このときジェノサイドは、つくづく女は察しが良すぎると思った事だろう。

彼女たちは決してそういう部分を見逃さない。

「ポケモンの為に頑張るっていうのも立派な理由だと思う。世間的に色んな人に認知はされてきているのに未だにポケモンたちは動物扱いすらもされていない、価値がとっても低く見られているんだもの」

でもね、とミナミは前置きをしたうえで続ける。

「あんたが深部で動くには、何だか理由が足らない気がする。ポケモンを守るって理由だけじゃないと思うの。じゃなかったら平和な時間を過ごしつつ深部最強なんてやってられないでしょ?」

ジェノサイドは静かに聞いていた。こちらの反応を伺うために口を止めるまで、ジェノサイドは顔色一つ変えずにずっと聞いていた。

「そうかもしれないな……」

かなり小さい声だった。
ミナミは、彼が喋った事は分かったがほとんど聴き取れなかった。

「何?」と、聞き返す。
すると、

「お前や、他のすべての人間には関係ない事だけど。ったく、いい加減そろそろ忘れた頃だってのに思い出させやがって……嫌でも思い出しちまうじゃんかよ……」

聞き捨てならない言葉だった。明らかにジェノサイドは何かを隠している。

「ちょっと待って!どういう事!?」

と、ミナミは周りを気にせず声を荒げる。端から見れば痴話喧嘩のようだ。
しかし、ジェノサイドは立ち上がってどこかへ行こうとするのみ。ミナミが慌ててついて行こうとするが、

「ほら、あいつらもやっと来た。お話はここまでにして観光を楽しもうぜ」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.118 )
日時: 2019/01/06 17:42
名前: ガオケレナ (ID: ru6kJfJs)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「あっ、レンだ」

先頭を歩いていた岡田が二人の存在に気づく。
高野は既に気づいていたのか、そちらに手を振っている。

「何してたんだよレン、皆で飯食えばよかったのに」

「悪いな岡田、俺ちょっとやりたいことがあってさ」

「やりたいことって何?二人じゃ出来ない話?」

二人の会話にニヤニヤしながら石井が割り込んでくる。引っ込んでろと言いながら高野は彼女の頭を押し出す。

「何してたかは後で説明するよ。とりあえずそうだな……香流と先輩たち、それからミナミ。それくらいでいいかな。後でまた呼ぶからそん時に頼むわ」

名前を呼ばれた香流と先輩たちは何の事だかわからず、首を互いに傾げるがミナミだけは快く返事をしていた。

「香流くん、レン君あとで何するのかねぇ?」

「いやー……分からないですね……」

結局何の事だか分からないまま彼らは集団を形成して海を眺めながら目的地の赤レンガ倉庫へと向かう。

ーーー

「ところでレン、もう一つの在処は分かったの?」

「だから何でお前までそう呼ぶんだよ……まだ分かんねぇや。地図ではここを指しているんだが如何せん範囲が広すぎる。さっきみたく「中華街のどこか」じゃなく、「中華街」としか載ってない代物だから探すのに苦労するんだよ」

じゃあ何て呼べばいいのさ、と言われても気にせずスマホに映った地図の写真を眺める。

「ん?レンもしかして例のメガストーンか?」

後ろからひょっこりと吉川がこちらを覗きこんだ。
彼には以前教えたことなので彼もこの事を知っていた。

「あぁ。まぁな。だけどこの近くにはあるらしい石の在処が分かんないんだ。どうしたら分かるかな?これって」

「ちょっといいか?」

吉川が、彼のスマホを取って地図を眺める。地図を見ただけでは何の事だがさっぱり分からないはずだが。

「この数字って座標だよな?要は今ここの座標を目印にすりゃいいんだろ?」

と言って吉川はスマホを高野に返し、今度は自分の携帯をいじり出す。どうやらGPSを起動した上で地図アプリを開くようだ。

「どれどれ……おっ、出てきた。座標と照らし合わせると……ここ真っ直ぐ行って……あっ、丁度あの船ともう少し奥にあるあの店の間くらいか」

吉川が指した方向を見ると、氷川丸という名の博物館と化している客船と、その近くにあるお洒落な外装のコンビニがあった。
コンビニ自体は彼の近所にもある見慣れたものだ。

「あそこか……サンキュー、吉川」

手を振り、より明確な地点。言い換えれば石が埋めてある光を灯している箇所を見つけるため、駆けようと一歩足を踏み込んだ瞬間。

「危ない!!レン!」

いきなり近くにいた岡田が叫ぶ。
彼の見つめている方向に目を向けると、

確認できないスピードで、謎の影が彼に接近していた。
野性的な、動物の如く鋭い拳が高野を捉え、自分も殴られると確信したとき。

勝手に彼のポケットにあるボールからゾロアークが飛び出し、主を守る形でその拳を、腕を使って受け止める。

「ゾロアーク……?」

いきなりな事態に放心状態となるが、すぐに我に帰り、謎の影と距離を取る。

「ルカリオ……ってことはまさか!?」

高野が叫ぶとほぼ同じタイミングで見慣れた人間が空から地上へとゆっくり降りてくる。

杉山渡。
ジェノサイドと赤い龍を、自身の目的の為ターゲットとし、以前接触した議会の人間。
そんな男が、空を自由に移動できる深部の世界の乗り物、スカイバイクに乗って横浜で接触するなど深部最強の人間の想像力をもってしても思い付くことではなかった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.119 )
日時: 2019/01/06 17:47
名前: ガオケレナ (ID: ru6kJfJs)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


その男はこちらを空中から見下ろし、ニヤッと笑いながら降下してきた。
ゆっくりとスカイバイクから降りる。

「久しぶりだね、ジェノサイド。何も情報を流さなければ僕から逃れられると思っていたのかなー?だが甘い。君は甘すぎる!!」

その自信に満ちた叫びにジェノサイドは苛立ちを募らせる。
やはりこの男は好きになれない。何と言うか、愚かだ。

「たとえ君が隠し通したつもりでもぉ、君が使っている探知機があるだろ?恐らくメガストーンを探すために使っている探知機だ。それを君だけが持っていると思っていないかい?抜けてるねジェノサイド。僕からすれば君の行動パターンなんか簡単に読めるんだよ。君と同じように検索してしまえばね」

ジェノサイドの中で何かが破裂した。"表の世界"に居たはずが、"裏の世界"に引き摺られた感覚。そんなイメージだ。
周りの空間なんて関係ない。自分は今深部の世界にいる。ならば、手加減はしてはならない。

ジェノサイドの服装が一瞬にして変化した。高野ではなく、ジェノサイドの格好。

黒を基調とした赤も混ざった不気味なローブだ。

「イリュージョン……?」

後ろに控えるように立っていたミナミの声だ。

(と、言うことは本気でやるつもり?)

ミナミはさらに後ろを見る。彼の友達が呆然と眺めているだけだ。

「俺も薄々思った事だが」

ボールを顔の前に掲げる。ゾロアークのではない、モンスターボールだ。

「どうやらあのメガストーンを探す発信器、あれは自分を中心として近くの石を探す仕組みのようだな。でなかったらあんな簡単に自分の周りに幾つも埋まっている訳がない」

「そうだ。それを利用しておおよその範囲を設定し、君が現れるであろう場所を徹底的にマークした。そしたら見事に君は来てくれたよ!!」

力強くジェノサイドをその長い人差し指で指す。
それを合図にゾロアークが動いた。

ゾロアークは駆け、それに合わせてルカリオは下がる。そのタイミングを見計らったかのように'ナイトバースト'を放つ。
対するルカリオは'はどうだん'をぶち当て、相殺させる。その証拠に、アニメでもよく見るような黒煙が舞った。

「ゾロアーク!飛び上がって'かえんほうしゃ'だ」

珍しくゾロアークに指示を飛ばした。当然に煙よりも高い位置にジャンプするものの、地上の状況が見えなかった。
'かえんほうしゃ'が出せず、動きが固まってしまったその時。

ルカリオも同様にジャンプし、眼前にまで迫っているところだった。両手で'はどうだん'を構えながら。

「!?」

避けれない、と頭の中でこだまする。
恐らく同じようにゾロアークも思ったことだろう。

「'ふいうち'」

ニヤリと口が裂けるかのような笑いを浮かべる。
すべてがフェイクだったのだから。

'はどうだん'が打たれるその瞬間、ゾロアークは肘を入れる形で思わぬ妨害を'ふいうち'という形で表してくれた。
予期せぬ先制技の前にルカリオはバランスを崩し、そのまま地上に落下する。

「俺はお前みたいなのと何千何百と戦ってきたんだ。ナメんな」

杉山はわざとらしく舌打ちする。
それでも、自分の力を誇示するのをやめないのか、右腕をこちらに魅せるように掲げる。メガリングだ。
間髪を入れずにルカリオがメガシンカする。

以前負ける一歩手前まで追い詰めたメガルカリオ。

その姿は凛々しく、恐ろしい。

ジェノサイドは左手でモンスターボールを握りっぱなしのまま、右手をローブの中に忍ばせたメガワンドに少し触れた。

今度は自分もメガシンカを扱えると確信しながら。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.120 )
日時: 2019/01/06 17:59
名前: ガオケレナ (ID: ru6kJfJs)
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(どう動くか)

ジェノサイドは涼しい顔をしつつも、内心は冷や汗モノだった。

ポケモンの相性の良し悪しだけでない。本来の目的を見失わないか、辺りに被害が及ばないか、そして杉山の後ろから迫る黒のスーツとサングラスで身を包んだ謎の集団が迫っていることに、焦りを感じていた。

(あれは恐らく杉山の部下……となるとやっぱり奴の狙いは俺の命……?)

怒りと憎しみとで笑えてきてしまう。今彼は狂気を伴う恐ろしい顔をしていることだろう。

(どうせ相性は悪いんだ。相手はメガシンカ。だったら……)

「メガシンカにはメガシンカだ!!」

ゾロアークをボールに戻し、常に持っていたモンスターボールから新たに呼び出す。

「リザードンっっ!」

それは一見龍のような、力強い外見をしており、巨大な翼、そしてそのポケモンを象徴とさせる煌めく炎。

リザードン。

「リザードンか……」

杉山の嫌そうな顔が確認できた。それを見てジェノサイドは確信する。
勝てる、と。

杖一本入るように改良した胸ポケットから白い杖を取り出す。30㎝程度の、ファッション用の杖だ。

手で握る部分に白く輝く石が埋めてある。メガストーンを持ったリザードンが近くにいるせいか、普段は光を発していないキーストーンが輝くのは何だか珍しい。

「行くぞリザードン!メガシンカだ!!」

杖を頭上に掲げた。
すると、光がより一層激しくなり、リザードンも謎のエネルギーと光に包まれた。
封印された力が解放されたかのように光が掻き消され、その中からメガリザードンYへと姿を変えて。

「これがメガシンカしたリザードン……?」

ジェノサイドは初めて見るその勇姿に、感動に近い感情を覚える。こんなに心強く、安心させてくれるのかと。
真っ直ぐと敵を見据える。
そして。

「リザードン!'だいもんじ'」

余計に強くなった日差しの下、想像もしなかった熱と爆発のエネルギーとその反動に体が焼けるかと錯覚した。

恐らく普通の'だいもんじ'とは比べ物にならない。それくらいの本当の意味での大技が放たれる。

視界が炎に埋め尽くされた杉山は、

「くっ、'はどうだん'だ!」

ゾロアークにとっては脅威の技。だがリザードンの前ではあまりにも情けない技。当然打ち消せるはずもなく、押し込まれてしまう。

「くっ、避けろ!」

ルカリオは上空へ、杉山は逃げるように左の海岸側へ避けた。

莫大な火炎は杉山のスカイバイクを、後ろに控えていた幾人かの彼の部下を巻き込み、炸裂した。

「人間に当てるつもりは無かったんだけどなぁ。よくもまぁあんなこと出来たな。アンタの味方だろ?」

真っ赤な嘘だ。と言うかそうにしか見えない。

「連れの人間でもいくらでも用意できる。むしろ議員である私に使えないようではそこらのゴミに同じさ」

今度は着地したルカリオが地面から鋭く尖った岩の塊を纏わせ、投げつけてくる。

「'ストーンエッジ'だ。弱点に対策を講じるのは当たり前だろーがっ!!」

対するリザードンは'だいもんじ'をぶつけることですべて焼き付かせようとする。

だがすべては落とせない。飛ぶように指示し、リザードンは空に避ける事で事なきを得た。
だが後ろにいるのはジェノサイドの仲間だ。このままでは怪我をするのは目に見えている。

驚きを隠せない彼らをよそに、予め用意していた別のモンスターボールを彼らのいる方向に投げる。
出てきたのはボスゴドラだ。その巨体が壁となり、すべての石の刃から彼らを守る。

「どうよ?俺はお前と違って仲間も守れるくらい器用だが?」

無事を確認出来たジェノサイドは勝ち誇るように笑ってみせる。

(これが……?)

香流は自身の目で、目の前で繰り広げられている惨劇を黙って見守っていた。
だが、ただ見守っているだけではない。何もできないのだ。手を出すのを躊躇うくらいに、彼らは手加減というのをしない。宣言通り殺しに来ている。そんな狂気に、香流や彼らは黙って突っ立っている事しかできなかった。

(これが……深部の戦い……?)

それは、絶望しか生み出さなかった。そして、彼の友達がつい先週にも同じような戦いを、もっと前からこんな生活をしていたのかと思うと目が眩んだ。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.121 )
日時: 2019/01/06 18:04
名前: ガオケレナ (ID: ru6kJfJs)
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勝てる。少なくとも勝てない相手ではない。

ジェノサイドの中で疑念が確信に変わる。
そうとなれば、今頭の中で思い描いている事をやるだけ。
腕を振り上げ、リザードンに後ろに下がるよう無言の指示をする。
リザードンがそれに従い、確認したところで。

ルカリオと杉山のいるやや手前の位置を狙うよう、「'だいもんじ'」と叫んだ。

その直後、恋人や子連れで賑わう公園の一辺が炎と高温に包まれる。

爆発を伴い、周囲の酸素を奪い、目の前の悪を滅するかの如く燃え盛る業火は煌々と燃え続けた。

派手にやりすぎたせいか叫び声や、走り回る音が聴こえる。

(やりすぎたかな……?)

ジェノサイドは少々反省するが相手は恐らくこれで倒せただろう。
目の前が火炎で埋め尽くされて確認できないが。
とにかく次にやるべき行動に移る。

ーーー

文字通り杉山は炎に囲まれた。
ルカリオの手前で爆発したため、今がどういう状況が確認できない。
周囲が熱く、燃えるようだ。

(くそっ、あのガキ……今まで自分が目立とうとする行動は夜中とか比較的周りの目が気にならないような時間や場所を狙っていたのに……っ!!)

募る苛立ちを抑え、火が収まるのを待つ。が、正直火が衰えるのか自分が焼け死ぬかのどちらが先か正直分からなかった。

そんなとき、不意に海水が降り注ぐように流れ込み、それらで火が消されていく。
今いる位置が海に面していたため、海水が飛んでくるのは分かる。
だが、何故いきなり火が消えたのかは理解できなかった。

お世辞にも綺麗とは言えない水を浴びながら無心で杉山は一点を見つめる。
そこには、まだ戦えそうなルカリオがいて、さらにその前にはジェノサイドの姿が無く……。

(いない?)

杉山は辺りを見渡すがそれらしき人影がない。
ついでにリザードンも消えている。

(リザードンが海に向かって火炎を吐き、爆発させて水を飛ばしたのなら分かる。だが、何故だ……何故奴は……)

自身のルカリオに近づこうと一歩踏み出した時だった。

火の手から逃れていた草むらから彼を狙うために鋭い爪を立て、襲いかかろうと飛び上がった禍々しい姿をした獣の姿がそこに。

「なん……だ、これは……」

と、言いたかったのだろうか。声が途中で止まる。見たこともない化け物がすぐ目の前にあったからだ。

死ぬ、そんな情けないことを考えていたその時だ。

「やめるんだ!」

しわがれた老人のような声が辺りに響く。
その声により、化け物の動きが止まった。爪は杉山の首筋に触れようとしていたところだった。

その場にいた化け物と友人たちはその者を眺めたはずだ。

彼は杉山と同じようなスーツを着ていた。
そんな老年の男がゆっくりと近づいてくる。

「杉山さん、ご無事ですか」

はっきりとした声色だった。

「ふん、呼ぶにしては来るのが遅すぎる。時間の余裕のあるジジイが何やってたんだ」

「申し訳ありません、私としても仕事がおありで」

その男の言葉を聞こうとせずに杉山はルカリオをボールに戻す。

「それで?何をしにここへ来た」

「あなたを迎えに」

そう言い、指を差した方向には白いセダンが停まっている。

「そろそろ会議のお時間です。私はここで少し仕事をしてから帰りますゆえ」

「口封じか。好きにしろ」

杉山は背を向くと少しもつれながらセダンへと向かう。
暫くするとセダンは走り始め、完全に姿を消した。

「さて、と」

その老人は化け物、イリュージョンを解いたゾロアークと、ジェノサイドの友人たちへと視線を変えた。
彼らは先ほど口封じと言っていた。杉山を助けた辺り仲間なのだろう。
ジェノサイドが居ない今、今度は誰が前に立つべきか。

不安を抱かせながらミナミがボールを強く握りしめたが。

発せられた声は意外なものだった。

「いるんだろう、ジェノサイド。出てきて姿を見せておくれ」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.122 )
日時: 2019/01/06 20:41
名前: ガオケレナ (ID: ru6kJfJs)
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辺りが静かになった。
ここに居たほぼ全員は、恐らくポケモンか何かポケットに収まる程度の武器で殺しにかかるのではないかと怯えていたが、何やら違うようだ。

ゾロアークが出てきた草むらからジェノサイドが出てくる。そのまま距離を置きながら直線上の位置に立つ。

「何だ、お前も杉山の味方……と言うことは議会の人間か」

「えぇ。よくお分かりで」

「それで?杉山の代わりに俺を殺しに来たか」

鋭い目でジェノサイドはその男を睨む。

「いえいえ、そんなまさか。あなたに少しお話があるだけさ」

その男からこちらに近づいてきた。
怪しい雰囲気が満載なのでジェノサイドは彼が歩く度に後ろへと下がる。

「話って何だよ。どうせマトモなものではないんだろ?」

「私は塩谷しおたに 利章としあき。議員の一人なんだが、少し相談があって君を探していたが中々掴めなくてね。そこで杉山君について行く形でここに来たらビンゴだった」

「……?どういう事だ」

「杉山君は議会の中でも中々上の立場の人間でね。上院と下院を繋ぐパイプ役という下院では一番トップの人間なんだ」

「……?」

ジェノサイドはただでさえ深部の事情を知らないのに議会の事情なんてもっと知るわけがない。上院と下院なんて概念も聞いたことがあるかないかくらいだ。

「私も下院なんだがね、いやこの歳で下院というのも恥ずかしいものだが、とにかく単刀直入に言うとね、私たちも杉山君の横暴にはほとほと困っていたところだったんだ。彼が居なければ私が下院でトップの存在になれたと言うのに」

「俺にどうしろってんだよ。深部最強とは言え仮にも俺たちからしたら政府みたいなもんだぞ?俺が介入できるわけないだろ」

「そこをどうにかしてほしい。彼が君たちに集中している今、彼を始末できるのは君しかいない」

物騒な言葉を聞いた気がした。

「まさか……お前……」

「君たちの立場は私が保障する。ただでとは言わない。杉山くんを君たちの手で殺してはくれないだろうか」

そう言いながら、塩谷はポケットから1つの玉を取り出した。
反射的に受け取ると、それがメガストーンだという事が分かる。
だが、それにしては見たことのない色をしている。赤と青の混ざりあった、不思議な色だ。

「彼は深部の組織がどれほど重要なのかを分かっていない。なのに彼はそれらをひたすらに破壊しようとしている。それが自分の首を絞めていることに気づいてないままね」

「議会も散々な目に合ってんのね。とにかく、あんたは俺らの味方でいいってことか?」

塩谷は笑顔で首を縦に振った。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.123 )
日時: 2019/01/06 18:14
名前: ガオケレナ (ID: ru6kJfJs)
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ジェノサイドは手に持ったメガストーンを眺め、強く握ってポケットにしまった。

「協力しても良いけど、俺はまず議会の事情を知らない。少しでいいから議会の説明をしてくれると嬉しいんだがな」

「おぉ、そうだったね。じゃあまず中央議会のあり方から話そうか」

塩谷は静かに海を眺めた。その目は力があるのに動けない、自らの弱さを正直なまでに表しているようだった。

「まず、君たちが普段使っている議会という言葉だが、これには二種類存在する。一つは私たちがいる下院。もう一つが上院なんだ。下院というのは簡単な話上院の下っ端でね。彼らの命令があって私たちは動くことができるんだ。だから決して二院制とかって勘違いしてはいけないよ。話を戻すとだね、下院の仕事は深部組織の周辺地域の調査と新たなルール整備のための会議を行う。次に上院だが……」

所々話が脱線したせいでまともに聞かなかったが、塩谷の話をまとめると、上院とは議会のトップに君臨する存在で、下院の調査と会議の報告の結果、法の公布と施行をするのが上院なのだという。
ちなみに、塩谷は下院の議員だが、杉山は下院のトップ且つ上院の議員でもあるのだという。

「どういう力を使ったのかは知らないが、杉山が無理矢理深部組織の解散に動いている、と。それって許される事なのかよ。上院の連中は何をしている?」

「杉山がパイプ役とは言ったろう。正式な肩書きは確か……下院議長総合書記官とかだったね。恐らく『これが下院でまとまった報告書だ』とか出鱈目言って通しているのだろうと私は思っているよ」

と、なると自分の見えないところで相当厄介になっているとみた。

「このままでは下院と上院で争いが起きる可能性もある。議会の乱れは君たちの世界にも亀裂を起こしてしまう。それをどうしても避けたいのさ」

それを聞いたジェノサイドはつい笑みが出てしまった。真っ黒な議会の人間の癖してコイツはあまりにも優しすぎる、と。人の上に立つ人間は褒め言葉な意味で性格が悪くなければならないということを知らないのかと。

そして、そんな風に自分達に思わせるのだと。

「……ちげぇだろ」

塩谷がこちらの表情を伺った。相変わらずジェノサイドはニヤニヤが止まらない様子だが、

「杉山が消えたら、今度はお前がそのポストに就くんだろ」

その言葉に、塩谷は優しく微笑む。その一瞬の間はとても深部の人間には見えなかった。

「やはり、察しがつくのかね」

「じゃなかったら今この場にお前じゃなく別の議員が来てもおかしくないだろ。杉山の下っ端なんて、お前じゃなくてもいいからな。なのに今お前はこの場に来て"殺せ"と言っている。それに加え綺麗事なんて並べられたら嫌でもそうなるわ」

あらゆる出来事はそう簡単に動かないんだ、と言うことを別の言葉で言ったつもりだ。恐らくそれは相手に伝わったことだろう。

その後は特に珍しいような会話をするまでもなく、適当に相槌を打つことで会話は終わり、塩谷は去っていった。

「さて、と。ふぅ。やっと終わったか」

ジェノサイドの服がみるみるうちに今までの私服へと変化していく。ジェノサイドから高野洋平に変わる瞬間でもある。

「あっ、やべぇ。本来のやるべき事を忘れるところだった」

高野は少し歩いて、例の地点に立つ。彼の目には、小さく光る点のようなものが地面から生えているように見えていた。

「んー、本当は誰でもいいんだけどなぁ。まぁとりあえずミナミと香流と吉川、ちょっとこっち来てー」

高野の言葉に反応し、三人が顔を合わせながら彼のもとへ駆け出す。さっきまでの彼の行動のせいか、三人の動きが少々ぎこちなかった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.124 )
日時: 2019/01/06 18:19
名前: ガオケレナ (ID: ru6kJfJs)
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周りにはもう都合の悪い人間がいないことを確認し、視線を真下の光る地面に戻す。

「なぁ、何だよ。俺らを呼んで何すんの?」

「んー、特に何もだけど……なぁ、今俺が指差してる位置に何がある?」

「は?」

と、吉川は香流と顔を合わせる。彼らには何も見えないので、当然な反応だった。

「いや、何がって……何もないけど……」

「だよな。じゃあこれだとどうだ?」

今、高野が何をしているのかが分からなくなってきた。ジェノサイドと高野を交互に演じすぎて本格的にバカになったのかと思っていたが。

「いやいや、何!?」

「ちょ、お前それ何だよ」

「……」

白い杖を取り出し、キーストーンが埋め込んである部分を彼らに見せ、それを押し付けるような形で無理矢理手に触れさせる。

だが。

「えっ?」

「あれ?」

以前と反応が180度変化した。今この時点で三人はメガストーンの在処を知ることが出来るようになったからだ。

「ねぇ、こんなの、さっきまであった……?」

ミナミが恐る恐るという感じで尋ねてくる。不安を纏わりつかせているようにも見えた。

「いや。キーストーンに触れたことで、お前らはメガストーンが見えるようになったんだ」

そう言って高野は屈み、地面を掘り起こしてメガストーンを掴む。

「色合いからして……アブソルナイトかな?なーんかゲームでもよく使われるような当たりに中々出会えないものだなー……」

塩谷から貰ったメガストーンと共に今まで集めたメガストーンが入ったケースにそれをしまう。

「でもそれっておかしくないか?目で見えない物質なんてあるわけがないだろ」

「普通はそう思うだろ?でもな吉川、なんで俺がお前たちを選んだか分かるか?」

「どういうことだ?何か意味でもあるってのかよ」

質問に質問で言い合い、意思疏通が全く出来ていない二人を呆れた目で見る他の友達が数名。
そこに向けて高野は合図を送る。

「おーい、お前らならこれが何なのか分かるだろー?」

当然分かるわけがないので高野は彼らの方へと歩いていく。

(どういう事だ……?このサークルにはポケモンをやっていない人もいるのに、そんな人たちも含めるような事をするってのが分からない……)

特にポケモンに詳しい香流だからこそ分からないことだった。サークルのメンバーにはメガシンカですら知らない人もいる。

「なぁ、お前らはこれが何だか分かるか?」

そう言って高野は手のひらに適当にメガストーンを乗せ、彼らに見せる。

(まさか)

吉川はこの時点で自分が持っていた疑問が解決した。高野がやりたかったことを理解したからだ。
だからこそ、石を見せられた彼らの反応も予想していたものと同じだった。

「なんだ、これ。綺麗なガラス玉か……石?かな?それで合ってるか?」

手に取った北川の感想だ。彼はポケモンをやっていなかったはずだったのでメガストーンやメガシンカそのものを知らない。にも関わらず、キーストーンにも触れていないのに見事特徴を言ってのけた。

「ね。なんか綺麗な丸い玉だよね。アクセサリーかなんか?」

同じくポケモンに縁がない高畠も似た特徴を言い当てる。

「ちょ、ちょっと待ってよ!どうして、どうしてこんなのに縁がない一般人がメガストーンの事が分かるの!?それとも、その人達もどこかでキーストーンに触れる機会でもあったって言うの!?」

深部の人間だからこそ分かる不自然な空気だ。ポケモンを知らない人間がキーストーンなんぞに触れる機会なんてあるわけがない。そのはずなのに、何故か彼らはメガストーンを見ている。

「さっきそこの丸いデブが言ったようになー……」

「おい誰がデブだ。何でこのタイミングでだ。否定はしねーけど」

珍しくボケた高野に対し、何だか自分が呼ばれた気がしたので吉川がそれ相当に突っ込む。蹴りを適当に入れながら。

「と、とりあえずだ……さっきの吉川の指摘の通り、特殊な物質とか相当の現象でもない限り目で見れない物質なんてないだろ?まぁこれが当てはまるのかは知らないけど、どうやら発見されたメガストーンはあらゆる人間が確認できる物らしい」

すべてジェノサイドの研究チームの実験結果だが、高野はこの目で実際に見たかった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.125 )
日時: 2019/01/06 18:28
名前: ガオケレナ (ID: ru6kJfJs)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「分かった事をまとめるとだな」

ジェノサイドはポケモンに縁のない二人に見せたメガストーンをケースにしまった。

「どうやらメガストーンは発見されたら、すべての人間が認識できるが、発見されていないような、地面に埋まってる物はキーストーンを持っている者でないと発見できない。ゆえにメガストーンの探索にはキーストーンに触れる必要があるってことだ」

これで問題は解決した。万人が見つけられそうな場所で高野がメガストーンを発見できたのも、これが原因だった。
相変わらずどんな仕組みでこんな現象が起きるのかは分からないが、これもゲームデータの一種と考えれば分からなくもない……かもしれない。

「じゃあうちも、もうメガストーンを見つける事ができるってこと?」

キーストーンに触れられた手を摩りながらミナミが心配そうに聞いてきた。
高野は、これが目的だと言わんばかりにはっきりと、「そうだ」と答える。

「俺の本当の目的は俺以外にもメガストーンを発見できるのかどうかを確認するため。言い換えれば、仮に出来るのだとしたらメガストーンを探す作業が大分楽になると思うんだよ」

「つまり、レン以外の、それこそレンの仲間に探させるため、とか?」

「んー、まぁそんな感じだな」

だったら自分にキーストーンを触らせなくともよかっただろと不安がる吉川。だが、もう過ぎたことなのでどうしようもないだろう。

「じゃあレンはこれからどうするの?」

「もう俺のやりたい事はやったからな。香流、お前は何かやりたいこととかある?」

レンは先頭を歩くも、香流の言葉により、振り向いて後ろ歩きをする。

「一応これからの予定としては買い物したりランドマークタワーの途中にある遊園地に行くとかだったよね?」

「あー、そっか」

あまりにも危ないと判断したか、後ろ歩きをやめ、香流と同じペースで歩くことにした。

そして、不自然にも辺りをキョロキョロと見回す。敵がいないのを確認しているのか。

「じゃあそうするか。折角横浜来たんだしな」

この公園を真っ直ぐ遊歩道に沿って歩くと赤レンガ倉庫という商業施設がある。ここで適当に買い物したりする予定だ。

高野が表の世界で平和な時間を過ごすのは、かなり久しぶりに思えた。

ーーー

「あー、疲れたぁー」

時刻は夜の七時を過ぎていた。あれから予定通りに買い物の後は遊園地ではしゃぎ、街を象徴するランドマークタワーを目指し歩いた。桜木町とある駅が真下にあるので、時間的に辛い二人ほどが帰った。
ポケモンセンターヨコハマまではそんなに時間がかからず、時間も時間だったのであまり混雑に揉まれることなく、スムーズに到着。飽きるまでグッズ探しなどをしていたら気づいたらそんなだったというオチだ。

「もう見終わったっしょ。そろそろ帰らね?」

北川のこの言葉が合図となり、全員が店を後にした。
再び桜木町駅の前まで来ると高野ら東京方面と、逆方面の人がいたのでここで解散することにした。
適当に別れの挨拶を告げると適当にホームへと向かう。

偶然にもこの駅始発の電車だったので、東京勢の人間はこれに乗る。

電車に揺れて一時間ほどした頃だろうか。途中の聖蹟桜ヶ丘駅に着いたが、流石にメンバーは減っていた。

「それじゃ、レン君。僕はここで乗り換えだからここで。じゃあね、お疲れ」

そう言って手を振りながら乗り換えるための駅方面へと歩いていったのは佐野先輩だ。

「お疲れっす」と言って高野も手を振る。

彼とミナミは暫くこれに乗って北野駅まで行けば、あとは歩いて基地へと向かうのであとはひたすら待つのみだ。

「結構楽しかったね、横浜。物には困らない場所かも」

「そりゃそうだ。あそこを普通都会って言うんだから物や移動には困らねーよ。モノの値段がいちいち高ぇけどな」

高野はポケモンセンターヨコハマで買った色違いのメガメタグロスのストラップの入った袋を持ち上げて「高かった」とアピールする。金には困っていない人間の発言にしては無駄に気になるが。


ーーー

「とにかくさ、あんたどーすんの、これから」

「これから?」

最寄りの駅に着き、二人は歩く。
今歩いているのはミナミと高野のみ。つまり深部の人間のみだ。そこから発せられたということは一つ。高野は容易に察せた。

「議会のいざこざに、自分から首突っ込む気?」

やはり、というかその通りだった。議会の人間から「自分の出世の為にライバルを始末してくれ」なんて言われて気にしない深部の人間なんていないだろう。
だが、ジェノサイドはあまりにも冷静すぎる態度のまま、

「そんな面倒な事する訳ないだろ。議会の問題は議会の人間にやらせとけ。俺は俺の問題で精一杯だしさ」

当然すぎる事を言うだけだった。

「じゃああの時の協力する態度は嘘ってこと?」

「んー、半分嘘って感じかな。メガストーンだけ欲しかったってのもあるけど、杉山も杉山で邪魔だしなぁ。殺す、まではいかなくとも対立は今後も続くだろうな」

「あんな変な奴でも殺さないんだ」

「当然だろ」

ジェノサイドはこれまでの行動を思い出す。

自分は人に攻撃だけはしても、命を奪うまで本気で殺りにきたことは滅多になかった。大学で自分を狙いに来た敵対組織に対しても、バルバロッサの味方や、杉山の部下……数えればキリがないがジェノサイドはたとえどんなに強大で悪な敵が現れても絶対に殺そうとしなかった。

それは、自らに強く誓った強い思いにある。

「もう決めたんだ。どんな理由であれ、殺すのはやめようって」

寂しい目をしたジェノサイドの横顔を、ミナミはじっと見つめる。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.126 )
日時: 2019/01/06 18:32
名前: ガオケレナ (ID: ru6kJfJs)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「ただいまー」

ジェノサイドはミナミと共に仲間が大体集まってる基地のリビングへと向かう。
案の定、普段通り騒いでいた。

「おっ、リーダー!どこ行ってたんすか!」

ど真ん中を陣取っていたケンゾウが声に気づいてこちらへと振り向く。

「メガストーンを探しに横浜へな。お土産あるぞー。適当に食ってけ」

と言うと近くのテーブルにポケモンのクッキーの入った袋を適当に置く。
すると、部屋にいた人間が一斉に群がった。

ジェノサイドの「そんなにねぇよ」の言葉が聞こえず、と言うより聞こうともせず彼らはまた騒ぐ。

呆れたのか疲れただけなのか、ジェノサイドはリビングを後にした。

「それで、どうでした?デートは」

言った直後に枕でぶっ叩かれたが、レイジは特に気にしていないようだ。

「別に。メガストーン適当に探してきた。途中杉山も来てドンパチやった。以上」

「……それ楽しいんですか?」

「そうじゃない。とにかくだ。近いうちに俺らでまたメガストーンのあるスポットへと向かうぞ。今回によりキーストーンを持っていなくとも、一度でも触れてしまえばメガストーンを探せることが分かったからな」

「それが目的でしたか」

レイジは枕を元にあった場所に戻し、ミナミは洗面所へと向かい、ジェノサイドはロッキングチェアに深く座る。疲れているのが丸分かりな顔だ。

「リーダー、ここで寝るのですか?」

「さぁ。ただこの部屋が快適だな。つい来ちゃうだけだ。寝たらすまん」

「別に気にしてませんよ」

元は少人数で集まって会話を楽しむ部屋だったのだ。本来一人ひとりに与えられた部屋よりかは広く作られており、部屋のレイアウトも他の部屋とは違っていた。暖炉などがいい例だろう。

「では、私はお先に。おやすみなさい、リーダー」

「あぁ」

談話室に個人の部屋はない。レイジは一応人一人が自由にできる小部屋という名のレイジとミナミの荷物が置いてある部屋へと向かった。
ミナミは恐らくここで布団か何か敷いて寝るのだろう。他に部屋など無いのだし。

自分は適当にこの椅子で寝るか、ベッド代わりとなるカウチソファで寝るかのどちらかを考えていたが、いつの間にか意識が途切れてしまった。

「まったく……またここで寝てるよ……」

ミナミが洗面所から出てジェノサイドの姿を見たのは、それから一時間後だった。

(絶対に、殺さない。ね)

ミナミは彼の寝顔を見ながら帰り際の会話を思い出す。

「何があったのか知らないけど、ジェノサイドなんて自称してる割には似合わない言葉ね。まぁどうでもいいんどけど」

ミナミは、誰も使っていないカウチソファを使うことにした。

「てかアイツ、またあの部屋独占した訳?まったく、早い者勝ちって事?納得できないんですけどー……」

誰にも聞かれない愚痴を零して、今日という一日は幕を閉じた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.127 )
日時: 2019/01/07 18:25
名前: ガオケレナ (ID: V9P9JhRA)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

横浜でメガストーンを探しに行ってから四日。

明日で『オメガルビー』、『アルファサファイア』発売からあと一週間を迎える。

あれからジェノサイドは、仲間たちに対してキーストーンを触れさせ、「メガストーンがあったら取ってきてくれ」と探索に協力を求めていた。
その成果もあり、十一個(塩谷から受け取った謎の石は除く)あったメガストーンは一気に増えて二十二個となった。残りを数えた方が早いくらいだ。

「残り六個か。早いもんだな」

個人的には新作が発売されるまでにはコンプリートしたかったので、この調子ならば難なく集められそうだ。

ちなみに、今持っていないのは二種類のミュウツナイトとカイロスナイト、ライボルトナイト、ルカリオナイト、バシャーモナイトのみなのでそれ以外は揃ったことになる。

「六つのうち、四つはいいとして……」

ジェノサイドは、どこかのポケモン攻略サイトのメガシンカ一覧を眺めた。
今目に止まっているのはミュウツーについてだ。

「ミュウツーなんて使えないじゃん」

実はこの世界には、ゲーム内にはデータは存在していても、実体化できないポケモンが存在する。
ゲーム上では伝説・幻のポケモンとされているものであり、世間的には禁止級と呼ばれるものがそれに当たる。
恐らくはこの世界を作り出した、云わば個々のポケモンをデータ化して世に反映されるようバラ撒いた人間が世界のバランスを保つためにロックをかけているのだろう……研究チームの人間がこんな事を言っていたが実際は分からない。

実体化したポケモンはデータ。こう仮定すれば確かに納得はするが、実際のところは分からなかった。

「でも、もしもミュウツナイトが見つかることがあったら……ミュウツーは存在どころか使えるってことになるよな?」

考えれば考えるほど分からなくなってくる。とりあえず、今のジェノサイドがすることと言えば残りのメガストーンを探す事くらいか。

「仕方ねぇ。今日の授業終わったら探してみるか」

例え使えなくとも、マップで探せばミュウツナイトも出るかもしれない。そんな風に変な期待を持ちながらジェノサイドは基地を飛び出した。


ーーー

「レン、お前今日サークル来んの?どうすんの?」

昼食を一緒に食べていた岡田がこんなことを聞いてくる。彼とは次の授業が一緒だった。

「いや、メガストーン探しに行くから今日も行かない」

「とか言ってお前火曜も来てなかったじゃん。たまには顔出しに来いよな〜」

「顔出しにって……いっつもだらーっとボードゲームしてるだけじゃねぇかよ。そんなんだったら俺はメガストーン探しに行きたい。それに今行った所で変な事聞かれそうで俺は嫌だ」

「嫌な事?」

岡田にはピンと来ていなかったらしく再度聞かれる始末だ。
高野は半ば呆れながらため息をついて残りを平らげて席を離れた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.128 )
日時: 2019/01/07 18:14
名前: ガオケレナ (ID: V9P9JhRA)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「試験は持ち込み禁止です」

今回の授業で教授から放たれた恐るべき発言だった。あまり真面目に受けていなかった高野からして今日ほど恐怖を覚えたことはないだろう。当然、表の世界に限る事だ。

妙な絶望感を抱きつつ、高野は構内を歩く。

「……とにかくだ、今日はバシャーモナイトを探してみるか。あれ、ゲームでは配信限定だったから手に入るかどうかは分からないけどなー……」

メガストーンは手に入れるその時までどんな石なのかは分からないため、種類を求めることは本来はできない。
だが、今回は違った。

(ルカリオナイトに関してはあいつから奪えばいいし、ミュウツナイトはそもそもあるかどうかは分からない。あとの二つは一箇所に二つ埋まっている事が分かったけど、これに仮に共通点があった場合埋まっているのは限られてくる……今ならもしかしたら狙って探すことが出来るかもしれない)

論理的でない考えを展開するが、今日の彼の気分としては恐らく「狙って取れるか」を知りたいのだろう。

「もうこの近くの石は取り尽くしちゃったからなぁ。あとあるとしたら高尾山かな」

標高約600メートルの、最近かなり評判のある山だ。いつだったか覚えていないが、まだ高野が小さかった頃にミシュランガイドに載ってから登山客が一気に増えた記憶がある。
今では平日に登っても全然混雑を感じないほど収まっては来ているが。

「仕方ねぇ。ちょっと遠いけど行くしかねぇか」

早く終わらせたい欲に駆られ、オンバーンを呼び出す。

「んじゃあ行くぞオンバーン。目的地は高尾山だ」

人目も気にせず、高野は空へと飛び立った。


ーーー

面倒だったので直接山頂へと降り立ったものの、簡単には見つからない。

「おかしいなー、ここにないってことは途中の山道か……」

下を向いてキョロキョロしつこいくらいに何度も見てみるが、中々出現してはくれない。
仕方なく少し下ることにした。石がある可能性のある場所が少し下ったところにあるからだ。

高尾山薬王院。
登山道の途中に位置し、ここを通過しなければ山頂には行けない寺院だ。
流石に大山と比べると楽な山だった。少し歩く感覚で着いてしまうのだから。

「相変わらず人は多くはないけど……別に少しくらいおかしな行動してても怪しまれはしないだろ」

無理矢理ポジティブに考え、光る地点を探しながらゆっくり歩く。

山頂での予想は当たっていた。本堂のやや手前の位置に、メガストーンは埋まっていた。


ーーー

「おー、岡田君。元気?」

サークル活動用の教室に入ると、まず佐野先輩が声をかけてくれた。後輩一人ひとりに声をかける辺り優しい人だとつくづく思う。

「岡田君と一緒じゃないってことは……レン君は今日も来ないのかぁ」

「メガストーン探すって言ってました」

岡田は特に意味はないが、あえてきっぱり言った。

「レン君なぁ。物騒なことしてなきゃいいけどね」

声の主は松本先輩。その言葉は佐野に対してだった。

「うーん……なんか偉そうな人から色々言われててしかも何か貰ってたからね。何もしない事を祈るよ」

佐野は先週の土曜の出来事を持ち出す。彼らにはやはりあの時の衝突は強烈だった。


ーーー

「うっそだろ!マジかよ!バシャーモナイトじゃあなかったなんて!」

思惑が外れたどころか予想外の事実を叩きつけられた感覚だった。

「この二色の紫色……間違いねぇ。ミュウツナイトYじゃねぇか!」

てっきり見つかるはずがないと思っていた代物。
それを普通に、特に特別な場所ともいえない地で見つけてしまうことへの衝撃が半端ない。
しかし、見つけた物は見つけたのだ。悩んでいても仕方ないのでミュウツナイトYをケースにしまって早急に基地に帰ることにした。

「寒いしやること無くなったしゆっくりしたいし、とりあえず帰ろう。もう今日のやるべき事はやった」

行きと同じくオンバーンを呼び、颯爽と乗って基地へと向かう。顔に当たる風が冷たいを通り越して痛かった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.129 )
日時: 2019/01/07 18:27
名前: ガオケレナ (ID: V9P9JhRA)
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基地に着くと、リビングに珍しく研究チームの人間がいた。

「おい、ショウヤ。ちょっといいか」

白衣を来た、以前ジェノサイドとポケモンの存在について論争をした研究員のショウヤと名乗っている男の肩を叩く。

「リーダー、木曜なのに早いですね」

「まぁな。サークル行かない代わりにメガストーン探してたからな。それももう見つかった。んで、それについてなんだが」

ジェノサイドはケースから、紫色のメガストーンを取り出す。

「これが何だか分かるか?俺も正直信じられないが、これミュウツナイトYだ」

「ミュウツナイトを発見したのですか!?」

リビングにいた数人がこちらに振り向く。「ミュウツー」という禍々しい言葉が聴こえたからか、単にショウヤが叫んだだけなのか。

「で、でもミュウツーはこの世界では使えないですよね?何故そんな物が存在するのでしょうか?」

「そこなんだ。使えない以上ミュウツーのメガストーンが存在する意味がないんだ。だけど、これがあるって事はどういう事を意味していると思う?」

「え、えっと……」

必死に頭を回転させるが、すぐに答えなんかは出てこない。ショウヤらか細い声で「バグ……か、データとしてメガストーンがある以上ミュウツナイトを出さざるを得なかったか……」

どれも期待外れだった。ジェノサイドの求めている言葉はそれじゃない。遮ろうとしたが、

「いつか出現する、という事でしょうか?」

かなり近かった。ジェノサイドが考えている事をこの研究員も同様に理解していることを確信した。

「俺は以前お前と論争したとき、俺はお前の考えを真っ向から否定してた癖に今回はそれに同意見となってしまって申し訳ないが」

とりあえず前置きをする。指摘されても困るだけなのだが。

「ポケモンの正体がデータであると断定できた場合が前提だが、要はデータを入力、発現する機械があり、それすらも禁止級が出せないと制限が掛けられていてもだ、いずれミュウツーもこの世界に解き放たれる可能性があるってことになる。このメガストーンはそれを意味しているように思えるんだ」

「つまり、ミュウツナイトがある限りミュウツーをこの世界に出せてしまう。もしくは、いつこの世界に出現してもおかしくない、と……」

ジェノサイドは黙って頷いた。


ーーー

「わかんねーなー。益々この世界がどんな作りで出来ているのか」

ジェノサイドは談話室で暖炉の暖かさを浴びながらミュウツナイトYを手に取って眺めている。
色だけ見ると綺麗だ。

「また何かあったみたいですね」

ハヤテがお茶を持ってこちらにやって来る。どこから持ってきたのかと聞きたくなるほど珍しい光景だった。普段ハヤテはここまでしない。

「まぁな。何か俺はただメガストーンを探しているのに、ポケモンという存在とかこの世の在り方とかかなりスケールのデカい話に向かっていってる気がする。頭痛くなるんだよなー、この手の話は。頭よく使わなきゃいけないからさ」

湯呑みを手渡され、熱さと格闘しつつちびちび飲む。

「メガストーン探してるすべての連中がこの事を考えているのか、それとも俺がこんな性格してるからなのか知らないけど、どうなんかね。前者だったら何かに誘導されてそうでそれもそれで嫌だしさ」

「深く気にしなくていいんじゃないんですか。考えれば考えるほど無駄だと割り切った方が寧ろ清々しますよ」

「だといいけど。確かにいきなり基地の前にミュウツーなんか現れたら困るからな」

それは困るってレベルではないだろと思わず突っ込みを入れそうになったが、同じタイミングにミナミがこの部屋に入ってきたことにより、遮られた。

「あんたまた此処にいるんだ」

「元々は公共スペースなんだがな。それよりもだ、三日後の日曜に出掛けるぞ。今度はディズニーランドな」

「「え!?」」

ハヤテとミナミの二人がまたもや同じタイミングで声を揃えた。

「何だよ、そんなにおかしいことか?」

「何で今度はディズニー?ちょっといきなりすぎない?」

「リーダー……少しばかり噂にはなっていましたが、やっぱりミナミさんと……」

何だか様子がおかしい。二人の態度が何だか暗めだ。「おい、どうした」と聞こうとしたところでやっと意味を理解する。

「ん?ちょっと待て。お前らなんか勘違いしてんぞ。まさかデートとか思ってねぇだろうな?違う違う!メガストーン!メガストーン探しだよ!二つあるんだよ今度も!って待てハヤテ。何だ噂って。誰がそんな噂流してんだよ!!デマ流して混乱させてんじゃねーよ!!」

と必死に弁明してみせるが効果があるかどうかは分からない。二人どころか噂に惑わされてる人間全員でどうにかしてくれとすべてを投げ出したくなる。

「はぁ。もういい。勝手にしてくれ。とにかく明明後日は俺とミナミとレイジの三人で行くから宜しくな」

「えっ、レイジ連れてくの!?」

「当たり前だろ。二人だけじゃいくら何でも俺でも怖い。ここはお前の同伴者というより保護者をだな……」

馬鹿にされた気がしたミナミはつい反射的に枕を投げる。見事に顔にジャストミート。バランスを崩して椅子ごと仰け反ってしまう。
バターン、とより騒がしい音を響かせて綺麗に後ろに倒れた。

この時ほどロッキングチェアに座っておけば良かったと後悔した日はないだろう。
幸いお茶は目の前のテーブルに置いていたので二次災害は発生しなかった。

ちなみに、ジェノサイドはふざけたつもりなど一切なく、真面目に言っただけであったが、それを彼女達が捉え間違えて今の結果に至っている。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.130 )
日時: 2019/01/07 18:33
名前: ガオケレナ (ID: V9P9JhRA)
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11月14日。ポケモン新作の発売まであと一週間となった。

平日の金曜であるため、朝から高野は授業のため、大学にいた。
黒板の前で教授が分かりにくい説明と共に分かりにくい授業が行われているが彼の意識はそちらに向かない。

(日曜にディズニーに行くことはレイジの許可も貰ったから確実として……、残りの三つ、いや二つをどうにかして日曜までに手に入れてぇな)

どうやらルカリオナイトに関しては杉山から奪うこと以外考えていないようだ。被った場合どうするかは考えてはいないようだが。

(ディズニーを除く他の場所は確か……)

高野は授業中にも関わらずスマホを取り出す。意外とここの授業は自由のようだ。

(あった。この近くだとあとはもうディズニーと新宿、東京タワー……都心方面になるのか)

田舎でしか暮らしたことのない高野にとって都心はあまり好きではなかった。騒がしく、物騒だからだ。

(仕方ねぇ。今日行くか。今日ばかりはサークルに行きたかったけどあまり余裕ねぇ)

チャイムと同時に教授が「はい、今日はここまで」と静かな言葉を合図に、生徒が一斉に教室から抜ける。
降りる為に皆が皆エレベーターに乗ろうとするも、人数の割にエレベーターや階段が不十分のため、すぐに混雑し、動けなくなってしまう。

(このクソ整備のクソ学校が)

ここにいる多くの生徒が思っていることだろう。金があるくせにこういった所で還元しない大学に対する一種の抗議でもあった。


ーーー

「おひーるやすみは浮き浮きぼっちー」

「何だその替え歌」

部室にて、先ほどコンビニで買った弁当を置くと高野は突発的に思いついた替え歌を披露する。

「俺授業終わったら新宿行くわ」

「新宿?そういやレンは次で授業終わりだったっけか。またメガストーン探し?」

「まぁね。残りもあと少なくなったけど都心部に二つある事が分かった。新宿と東京タワーの二箇所」

と、ここまで行って岡田は彼の替え歌の内容をやっと理解した。

「あぁ、だからいいともの歌を。残りはいくつなの?」

「あと五つ。その内の二つはディズニーにある事が分かったから日曜に行くとして、その日までにコンプリートしたくてさ」

「ふぅん。結構頑張ってんのなー。じゃあさ、今日俺手伝おうか?」

「あ?」

予想外の言葉が聞こえた気がした。

「俺今日暇だからさー、東京に遊びに行くなら全然構わないよ」

「いや、遊びじゃなくてメガストーンの探索だよ」

高野から言わせると、これは深部組織の発展のための活動である。自分の組織ジェノサイドにとって手に入れられる戦力があるのならば出来るだけ多く取っていたい。
即ち、メガストーンの探索も高野からしたら深部の活動以外に他ならない。

「ダメだ、危険すぎる」

「どこがだよ。ただメガストーン探すだけでしょ?その……キーストーン?に触りさえすれば俺でも探すことが出来るんでしょ」

「そりゃそうだが問題はそこじゃない。俺だってただメガストーン探してただけで何度も深部の人間に接触したんだ。まぁ、大体は杉山とか言うストーカーなんだけど」

岡田は土曜に起きた杉山との戦いを思い出した。あれが自分の身に降りかかるとしたら……やっとその事に気づいたようだ。

「で、でもそれはレンだからこそ起きた訳で……」

「それを言われると否定できないな。でも仮にお前がメガストーンを探して見つけたとする。それを他の深部の人間に取られることがあったら二度手間だろ。考えるだけでもお前を連れてくほうにリスクを感じる」

会話が止まり、時計をチラッと見るも、まだ全然次の授業には時間があった。

「……暇だな」

「次の授業の準備でもする?」

あまり人が集まらなかったのもあり、静かな部室での時間が過ぎていく。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.131 )
日時: 2019/01/07 18:38
名前: ガオケレナ (ID: V9P9JhRA)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「……ハッ!?」

高野はチャイムの音で目が覚めた。

時計を見たら既に授業が終わっており、ノートを見ると半分ほどしか埋まっていなかった。

「ノート見る限り三十分しか授業聞いてない……残りの一時間の間ずっと寝てたのか……」

ボサボサの髪を掻いて席から立つ。
終わったものは仕方ない。メガストーンの為に都心部に行くことを決める。


ーーー

「あっ、レンだー、やっほー」

「石井か……」

同年代にして同じサークルの女子部員、石井真姫。ジェノサイドのやり方について一度は対立したものの、今となってはかつての仲同然だった。

「今日はサークル来るの?」

「いや、本当は行きたかったけど今日は無理だな。日曜までにメガストーンコンプリートしたいしさ」

そう言って、集めたメガストーンが入ったケースを取り出して振ってみた。ガシャガシャと石と石が擦れる音が響く。

「結構集まったんだね。そう言えば、あの子は元気?」

あの子、とは恐らくミナミの事だろう。サークルの友達が深部の人間について聞いてくるのは珍しい。

「あぁ、ミナミね。あいつは普通に元気してるよ。良すぎるぐらいにね」

そう言って額あたりを摩る。
何故だかよく分からないがほぼ毎日枕を投げられてる気がする。

「ん?どうかした?」

「何でもない」

見ると、石井はニヤニヤしている。彼女が変な笑みを浮かべる時といったら一つしかない。

「付き合ってるの?」

「ねぇよアホ」

蔑むような目をして彼女を睨む。どうして自分の周りはこんな話ばかり持ち出すのだろうか。
じゃあな、と言って背を向いて手を振ろうとした瞬間に、石井は

「ねぇ、そういやさ、ミナミちゃんとはどんな関係なの?」

と、聞いてきたが本来はこちらに疑問を持つべきだろう。何故男女関係の事について聞くのが不思議でたまらない。
この変態が、と言いたくもなる。

高野は一瞬迷った。本当の事を言うべきかスルーすべきか。

少しの間を空けて、

「何となく察しはついてると思うけど……、あいつも深部の人間で最近俺の組織に入った奴なんだ」

「あ、やっぱり?何となくだけどそうなんじゃないかと思ってた」

やはり、と高野の予想が見事に当たっていた。と、なれば他に知っている人もいることだろう。

「俺が誘ったもんだからな。メガストーンについてちょっとばかし専門的な人が欲しかった」

「なるほどねぇ。通りでずっとレンと一緒にいたわけか。もうちょっと話がしたかったのになぁ」

ニヤニヤしっ放しだ。どうせ話したいことなんて下らないことなんだろ、と半ば呆れてみる。

「もういいや。とにかく急いでるからな。じゃーな」

「ばいばーい」

今日のサークルは絶対にこいつが変な噂を流すだろう。嫌な予感を抱きつつ、大学を離れた。


ーーー

新宿に着くのに四十分はかかっただろう。
流石にずっとポケモンで移動するのは辛いので電車で移動することにした。

「やっぱ人多いなー。ごった返してるよ」

どんな時間でも新宿駅は人が多い。さらに高野にとっては複雑な構造になっているので迷いに迷いまくる。
今、彼は駅内をぐるぐる回るだけで外に出れずにいた。

「よく分かんねぇよこの辺の土地……さすがに駅の中には無いよな。仕方ねぇ。適当に外出るしかねぇや」

案内板を見ていなかったが、高野が向かった先は「都庁方面」とあった。


ーーー

(今日は……特に冷えますね……)

暗くなりつつある夕刻の風を浴びる男が一人。

「彼は元気にしているでしょうか。まぁ、彼ならうまくやれていると思いますが」

白い礼服に身を包んだ、外見だけなら二十代半ばを思わせるほどの若い男。
武内。
大山の神社にて、深部の人間を待つメガシンカのアドバイザー、といったところか。

「それにしても、杉山渡。かなり面倒で邪魔な人間ですね。争いの種にしては丁度いい人間ではありますが」

武内は手に持ったファッション用の、普段は特に意味の無い笏を持っている。
そこには、ある者の名前と詳細な情報とが書いてある。
ファッション用だからこそ、普段においては使い物にならないからこそ、誰かに見破られることなく重要な事柄が書けるのだ。

「ですが、だからと言って野放しにしてはいい理由にはなりません。ここは少しばかりお手伝いをさせてもらいますかね」

手に持っていた笏には、ある者の所在地が書かれている。
いつかこの情報が使える時が来ると信じて、彼は待つ。いつまでも。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.132 )
日時: 2019/01/07 18:42
名前: ガオケレナ (ID: V9P9JhRA)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「ない。おかしい」

高野は駅から出て一時間ほど経った頃か。
駅を過ぎて都庁まで来てしまった。だが、肝心のメガストーンは見つからない。

「なんか都庁まで来ちゃったのに目印は何も無いしここじゃなかったのかなー。これからまた駅に戻るなんて面倒だぞ」

思いため息をついて今まで歩いた道を振り返る。
数多のビルに紛れて駅が配置されている。

「仕方ねぇ、戻るか」

歩いて帰るのはただ疲れるだけなのでポケモンで移動する。

「……別に学校じゃねぇし少しくらいポケモン出してても騒がれはしないだろ。人は多いけど」

群青色に染まる空の下を、漆黒のポケモンの背に乗って自由気ままに舞う。


ーーー

さすがに冷えてきたので武内はそろそろ本殿に戻ろうかと足を向けたその時だった。

「おや、」

見慣れない男の姿があった。見た感じ、今登ってきたのだろうか。
普段ならば一般の登山客として無視をするところだったが、そうは行かなかった。
問題は、その男の服装である。まだ11月とはいえ、標高1252mある山を簡単な格好で行くのはオススメできない。

だが、その男は左肩を露出させるような薄く且つ一枚布のような服装に身を包んでいる。普通の人間ならばこんな事はしない。
少なくとも、常人の神経では。

「あなたのような特徴的な人間を何度も見てきましたよ」

武内の感想みたいな一言だが、これには深い意味がある。
一般人に「お前は深部の人間か」と聞いても首を傾げられるどころか、普通に怪しまれてしまう。それだけでなく、その言葉だけで深部の世界がひっくり返ってしまう可能性もあるのだ。その為、彼が深部の人間を迎え入れる時に使う言葉が〝それ〟だった。

「自己紹介をお願いできますか?」

武内は寒さを我慢しながら優しく微笑んでその男に問いかける。その男も、微かに口元を緩めると、

「えっ?」

武内は信じられないと言った顔をして、ついさっき聞いた言葉を脳内で繰り返す。
今、この男は自分の事を『とある四文字の言葉』で表現してみせた。

だが、その言葉は武内にとっては意外すぎて心から歓迎できるものではない。

(まさか、このタイミングで……)

これ以上の、本音を表現できる言葉が見つからない。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.133 )
日時: 2019/01/08 20:57
名前: ガオケレナ (ID: /JJVWoad)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「くそっ……最初からこうするべきだった」

高野は今、大勢の人で行き交う新宿駅の東口にいる。都庁方面へと行った後、空から東口へと戻っていった。
彼は今、アルタ方面へと歩き続けている。

「ったく、田舎者にはダンジョンなんだよ……新宿駅なんて。もっと親切にしてほしいくらいだよ」

思えば、高野はいつもここに来る時はこの調子だった。サークルや友達とこの駅で会うときは毎回迷っていた記憶がある。
今回も、見事に同様の結果となってしまった事に苛立ちが募っていく。

「ってか、新宿だったんだから最初からここに注目すべきだったんだ」

高野の目には、某元有名番組の収録スタジオがあった新宿アルタが映る。
そして、その周辺の地面には、メガストーンを示す白い光が。

「さて、と。二十四個目のメガストーンゲットだな」

コンクリートの地面を破壊する訳にはいかないため、高野は光の上に手をかざす。
すると、手の中に何かが入り込む感触が伝わる。高野はそれを強く握り、光から手を離す。

光は消えていたが、その代わり、手の中にはメガストーンがあった。相変わらず、どんな現象で起きているのか説明が出来ないほど不思議な現象だ、と高野は意味のない感想を述べる。
手を広げ、それが一体どんなメガストーンなのかを確認する。

高野は、それを見て驚きに満ちた。ここで手に入るものだとは思っていなかったからだ。

(てっきり俺は……またミュウツナイトかと思っていた。Yが手に入ったんだから今度はXかな、と。でも違った。この赤みがかかったメガストーン……これはバシャーモナイトだ!!)

データとして存在する以上、特別配信とか期間限定とかは関係ないようだ。とにかく、データ上のものはすべて手に入る。ミュウツナイトを入手したときから薄々感じた疑問はここで確信へと変わった。

「さて、と。あと一つは東京タワーだけど……」

高野は空を眺めた。群青から黒に変わりつつあるその空は、夜の到来を告げていた。

「もう寒いし暗くなるし……どうしよう、帰りたいんだよなぁ。帰ろうかな」

明確な場所がわからないので、スマホで地図検索し、それから乗換案内のアプリに切り替える。

「ん、意外と近いじゃん!これは今行くしかねぇな」

と、寒いのが嫌なためか、珍しく駅へと向かう。
新宿ならばそんなに待つこともなく電車がやってくる。下手にポケモンで行くよりかはメリットがいくつか浮かぶ事もあるのだ。

「さてと、行きますか。近くてここからも行きやすいのは赤羽橋駅ね」

スマホを閉じて、地下鉄の駅へと足を運ぶことにした。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.134 )
日時: 2020/01/27 14:14
名前: ガオケレナ (ID: cL1TK97H)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


ミナミは室内のリビングの扉を開ける。

いつものように多くの人で溢れかえり、相変わらず騒いでいた。
彼女は、目当ての男を見つけると、近づいて腕を強く引っ張る。

「いってぇ!なんだよ〜……」

「ねぇ、ケンゾウ、ちょっといい?」

痛かったこともあってケンゾウはばつが悪い顔をしている。
やっていたポケモンの対戦を中断されたのに加えて、ケンゾウ自身が彼女に苦手意識を持っていることもあっての当然の反応だった。

「な、なんだよ。俺今手ぇ離せないんだが」

「いいから来て。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、ここじゃ話しにくくて」

あまりにも強く、何度も腕を引っ張ってくるので対戦を一先ず中断させ、ケンゾウはその場を離れる。
彼と対戦してた人やその取り巻きは不思議そうに彼らを見ていた。

「ここじゃ言えない話って何だ?」

「あの女ってリーダーとくっついてなかったか?」

など、特定の人間が思わず暴れだしそうな話で周りは盛り上がるのを尻目に二人は部屋を出ていった。

「ったく、何だ。話って」

何も談話室まで来ることはないだろと思いながらケンゾウは適当にそこらにある椅子に座る。
ミナミは茶菓子を持ってきてくれた。

「いやね、前にリーダーと一緒にいたときに思ったんだけど」

ミナミも向かいに座る。

「ねぇ、この組織が出来てすぐのリーダーってどんな感じだったの?」


ーーー

高野は赤羽橋駅に辿りついた。
新宿から大江戸線に乗って約十分といったところか。

「さて、と」

出口からだと東京タワーが見えるので恐らく大丈夫ではあるが、一応ホームページで場所と道の確認をする。

「んじゃ、行きますか。今日で残り三つにするぞー」

今日見つけてしまえば残るメガストーンは三つ。
その内の二つは日曜のディズニーで見つける予定となっているので実質残り一つか。
状況的に見てもいい進み具合だった。


ーーー

「出来てすぐ……って事は四年前か。今は大学二年だからリーダーは高校一年生の時か。うわー時の流れって早ぇな!」

「懐かしさに浸らなくていいから」

お前が聞いてきたんだろうが、と言い返してみたが反応無しにお菓子を食べている。若干イラッとしながら、

「どんな感じ……ってどんな意味で?」

「どんな意味……かぁ。んー、組織の雰囲気とか……リーダーの性格と言うか内面的な意味、かな?」

適当な返しだったが、ケンゾウには何となく意味が分かった。

「一旦話が逸れるが、プライベートなリーダーをお前は見たことがあるか?」

「あるよ。ここじゃ想像出来ないくらいはしゃいでるし、明るくなってる」

「あるのか!?」

ケンゾウからしたら新人のミナミがここまで知っていることに驚きだった。やはり二人はくっついているのかと疑ってしまう。

「あれがリーダーの普段の性格なのか……」

「だよね。周りにいたのもリーダーの友達ばっかりだったし」

「最近はあのノリを俺達に向けてはきているんだよな。時こそは長いけど、いや長かったからこそノリや雰囲気を変えることは難しかったかもしれないが……リーダーが明るくなってきた事はいいことだ!」

「……あれ?益々話逸れてってない?」

話の都度、自分の指摘が必須であることに今彼女は気づいてしまった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.135 )
日時: 2019/01/08 21:12
名前: ガオケレナ (ID: /JJVWoad)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「あの時のリーダーは今とは想像出来ないくらい大人しくて無口だったんだ」

ケンゾウは昔話を披露するかのようにリラックスした調子で滑らかに、ゆっくりと語り出した。

「言葉で言われてもなぁ。どのくらい静かだったの?」

「まず、一日の間で会話することはほとんどなかった。リーダーは誰とも話すことなく、常に自室にいて飯の時くらいだけ皆と集まるって感じだったな。ほんのたまーに話すことがあっても事務的な事だ。会話が進展することもなく、どちらかが一度反応したらそれで会話は終わってたな」

「えぇー……」

ミナミは信じられないといった反応だった。
自分から色々な話をして、誰とでも仲良く出来て、またある時は演技もできる。そんな人が全く会話の出来ない人間だったなどと考えられないからだ。

「じゃあリーダーに何があったの?そこまで変えれるほどの事が何かがあったって事だよね?」

「うーん……」

ケンゾウの雰囲気が一気に変わった。それまでは明るくキラキラしていた彼だったのに、一気に顔を曇らせ、暗くなったからだ。それはつまり、答えられないと言うことか。

「……」

ミナミは無言で待ち続ける。いつか喋ってくれるだろうと信じて。
プレッシャーに負けたケンゾウは口を開いた。

「正直、俺には分からん」

「えぇ!?んな事無いでしょ!?アンタずっとリーダーと居たのに何で知らないのよ」

「仕方ないだろ!確かに前から居たとは言え、当時は本当に殆ど会話はなかったんだ。俺だけじゃない。ハヤテやリョウとかショウヤも皆そうだ。ただ、やっぱり少なかったけどそれでもバルバロッサとは会話はしていたよ。その光景はあんまし見たことなかったけどな」

「バルバ……ロッサ」

話だけなら聞いたことあった。
四年前、ジェノサイドと名乗る男が自身の名を冠した組織を作る際、バルバロッサと名乗るネイティブアメリカンのような民族衣装を着た老人と協力していた、と。

その老人は常にジェノサイドの傍におり、様々な形でまだ幼いリーダーを補佐していたという。

それからは日々戦いに明け暮れたものの、比較的平和な時を過ごして、いつしかジェノサイドは深部最強と呼ばれるまでに成長したという。つまり、今のジェノサイドがあるのはバルバロッサが居たからと言うことになる。

だが、つい最近の事だった。

自分がこの組織に入るつい一ヶ月と十三日前。
バルバロッサが唯一知り得ていた組織の戦力を悪用し、裏切る形でジェノサイドに宣戦布告した。
その戦力とは、写し鏡の事であり独自の思想と力を加えることで不可思議な現象と共に強力なポケモンを携えてジェノサイドと対峙した……。

今、ジェノサイドがあると言うことは勝負の結果は察することが容易だった。ジェノサイド達が勝ったことになる。

「でも、どうしてそのバルバロッサはうちらを裏切ってまでそんな事をしたの?」

またもや鋭い質問が飛んできた、とケンゾウは冷や汗をかいた。自分はこういう問答が苦手である。

「うん……それに関してもよく分からないが……戦いが終わったあとにリーダーが説明してくれたんだが」

正直説明が下手で理解するのに時間がかかったが、一応自分なりにまとめることができた。

「じゃあ何?要するにバルバロッサは裏切る前提でジェノサイドに加わってたって事?元は彼が作った組織があって、そっちが本命だったってことだよね?」

「うむ。そうなるな」

それ以外はうまく言えなかった。ケンゾウは宗教には詳しくないし、興味もないため、バルバロッサの思想を理解して言葉にすることなどほとんど不可能だったからだ。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.136 )
日時: 2019/01/08 21:20
名前: ガオケレナ (ID: /JJVWoad)
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「ここまで暗くなると逆に分かりやすいな」

高野は、東京タワーの真下にいた。若干方向音痴な彼でも、問題なく辿り着くことができたからだ。
彼の眼前にはキラキラと白く光る目印があった。

「さぁーってと、ミュウツナイトXだったらいいな。まぁぶっちゃけ何でもいいか」

その地点までゆっくりと歩き、目的の地に着いてはその場でしゃがみ、光の上に手をかざす。

グッ、と右の掌に力が伝わった。
それを顔に向けるとメガストーンが握られている。

「!?……やった、ミュウツナイトだ」

小さくガッツポーズするとゆっくりとケースにしまった。色合いを見て一発で分かった。
ミュウツナイトXだったからだ。

「いやー、いい調子だな!このまま東京タワーにも登りたいけどもう疲れたし帰りてぇな。着いたらゆっくりと休むか。明日も何も無いし」

満足そうな笑みを浮かべて背を向けて帰ろうとしたときだった。
見覚えのあるセダンが、東京のド真ん中を走っていたのが目に写ったのだ。

「あの車……」

杉山か、と一瞬思った。彼が乗った所を一度だけ見たことがある。
普通、冷静に考えて都心を走る白いセダンなんてごまんといる。それだけで疑うのは間違いなど明白だった。

だが。

「意識しちまうよなぁ」

その車が走っていった方向を睨み続けて。

「嫌いで且つ俺の命を狙っている奴が使っていた物を見てしまうと、どう頑張っても嫌なイメージしか生まれない。結局意識しちまってんだな」


ーーー

「でも、いつだったかなあ。リーダーがあそこまで明るくなったのは」

やっと話が戻った気がする。脱線するときもいきなりだが、元に戻るのもいきなりのようだ。

「確か……リーダーが高校二年の終わり頃だったと思うな」

「高二?」

ミナミにとっては不思議な数字だった。
確かに高校に慣れ、一番楽しく感じる時期なので変わると言えば変わるものだが、果たして人の性格が急に変わるものなのだろうか。

「どうして?」

「だから知らんて」

「なんでよ!!」

なんかさっきからずっとこの繰り返しな気がする。ケンゾウは、やっぱりコイツは苦手だと口が裂けても言えないことを念仏のように心の中で繰り返す。

「とにかく、リーダーはその時から明るくなったし、敵味方関係なく優しくなったんだ!今まで敵は半殺しみたいな感じにしてキツく扱っていたけど、それからは一切丸腰の敵を攻撃しなくなった。まぁ、世間一般に言われてるテロ行為とかは別だけどな。それでも攻撃しても気絶程度に留めるとか。でもその時もリーダーは誰も殺ってはいないし別に大きな問題ではないだろ」

「半殺し?」

ミナミは、いつかの会話を思い出した。高野本人が、ミナミに向けて言った言葉があったはずだ。

どんな理由であれ、誰も殺さない。と。
その旨をケンゾウに伝えたうえで加えて質問した。

「それってつまり、リーダーは一度誰かを殺したってこと?誰なの?」

「あぁ……、それについてなんだがな……」

益々ケンゾウの顔が暗くなった気がした。まるで強い力がかかったせいで自由に動けない。相当な影響力が込められているかのように。

「すまん、これに関しても知らねぇんだ」

「嘘つかないでよ!今の反応で丸わかりだよ!」

ミナミは思わず立ち上がって勢い良く人差し指をケンゾウに向けた。
当の彼は強く動揺しているようだった。

「本当に何も知らないんだ!ジェノサイドって組織内でそんな情報が伝わっていないんだから当然だろ!」

「じゃあどうしてあの時リーダーはうちに言ったの?わざとらしくすべてを語らなかったって事は興味を持って欲しいとか構って欲しいっていう意味でしょ!?うちに言うくらいならアンタらにも言うはずでしょ?」

「こ、これは噂で聞いた話だけどな……」

袖のあたりで汗を吹いてケンゾウは続ける。だが、その汗は止まらなかった。全身がびっしょりだ。

「リーダーが殺した人間は、深部や暗部とも全く関係の無い一般人らしいんだ」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.137 )
日時: 2019/01/08 21:24
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「どういう事……?」

ミナミは一瞬呼吸が止まった感覚に陥る。それくらい衝撃的な言葉だった。

「それって……深部が出来る前の無法地帯にいた人間たちと同じことをしてるじゃない!」

四年前。ポケモンのブラックとホワイトが発売された直後に、ポケモンが実体化する現象に見舞われた。
自分の持つデータがそのままこの世に出現したのだ。当時の人間は嬉しさと興奮で包まれたことだろう。

しかし、もたらされたのは治安の悪化だった。
どんな命令も聞くポケモンを利用して犯罪の道具とする輩が大量に溢れ返ってしまったのだ。
そんな絶対に許されない存在を抹殺するために生まれたのが今の深部である。

現在となればそのような大罪人はほとんど居なくなったが、深部間で似たようなことが事が行われているので笑える話ではない。
ましてや、甘さとも読み取れる優しさを持った高野ことジェノサイドがポケモンや深部とは一切関係の無い人間を狙うなど考えられない。
本当に何があったのだと聞きたくなるレベルだった。

「確かに見方となってはそうなるが……俺も詳しいことは知らんのよ。この噂が組織内で出回ったのもその時……リーダーが高校二年の時だったし」

「嘘でしょ……理解出来ない。そもそもそんな事をする人間ではないはずでしょ!?」

「それはお前だけじゃなく皆が思ってる事だ。だから噂で止まったんだろ」

「当時はその噂の発信源がどこからだったとか、皆は考えなかったの?どこから出たと思ったの?」

「そんなの今更考えてもなぁ……」

ケンゾウは腕組みをして宙を眺める。浮かんだ人間は一人しかいなかった。

「今だから言えるんだが……やっぱバルバロッサかなぁ」

「そいつは何を知ってるの?設立当初からずっとリーダーと居たんだよね!?」

「そうだが……それがどうしたんだ?もうバルバロッサは居ないから奴を話に絡めるのは無駄だぞ」

「居ない……?」

ミナミは、バルバロッサが戦いに巻き込まれて死んだことをまだ知らなかった。


ーーー

あれからは何事もなく、無事に帰ることができた。
やはり都会のド真ん中で狙われるなどということはそうそう無いらしい。
途中、大学の最寄り駅に電車が止まったため一度降りようか少し考えた。

「皆何してんかなー。ポケモン関係で盛り上がってたら俺も混ざりたいけど……」

なんて考えている内に扉が閉まり、電車が動き出してしまった。

「……、まぁいいか」

寄り道して帰りが遅くなって仲間達に心配され説教くらうのも嫌なので真っ直ぐ帰ることにした。それに何だか面倒にも思えてきたのもあった。

「ったく……心配してくれるのは有難いんだけど……親かよ」

基地までは、まだ少し距離があった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.138 )
日時: 2019/01/08 21:36
名前: ガオケレナ (ID: /JJVWoad)
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「ただいまー」

扉を開けて多くの仲間が集まっているリビングにて自分の姿を見せる。

「ちょっと遅くないですか?どこ行ってたんですか?」

相変わらず心配症のハヤテが彼を見るなり駆け足で寄ってきた。

「悪ぃ。今日新宿だけの予定だったけど結局二ヶ所行って取ってきたわ」

そう言ってケースからバシャーモナイトとミュウツナイトXを取り出してハヤテに見せる。

「これは?」

「バシャーモナイトとミュウツナイトXかな。これで残りはあとライボルトとカイロスとルカリオの三つだな」

「もうそんなに集めたのですか?」

「まぁな。皆が協力してくれたお陰でかなり早いペースで揃えることができたよ」

二つの石をケースにしまうと早々とその場から去ろうとした。
何か言われる前に居なくなる作戦だ。

その途中、ミナミと目が合った。が、彼女の方から暗い顔をして目を逸らしてきた。

「ん?」

ジェノサイドからしたらその光景が奇妙に思えた。ミナミのあんな顔などあまり見たことなかったからだ。

(どうしたんだろう。元気ねぇな。レイジと喧嘩したとかか?)

恐らくレイジがいるであろう談話室に行こうと思ったが、妙な気まずさからその足を止めてしまう。
仕方なく、夕飯の時間まで自室に篭ることにした。


何事もなく、夕飯の時間になり、その時も何事もなかったので再び部屋に篭ることにした。
疲れもあったが、何もして無いはずなのに皆の前に現れるのが気まずく思えてしまう。

「俺……何もしてねぇよなぁ……?」

ふと、机の上に無造作に置いてあるノートに目が止まった。

「テスト自体は十二月の終わりごろだけど……今の内に少しやっとくかなぁ」

ベッドから立ち上がり、適当にノートをニ、三冊手に取って再びベッドの上に座ってそれを眺めることにした。
何もしないのとノートを見るのとでは大分変わってくるものがある。
気乗りしない思いを抑えつけ、パラパラとページを開いていく。

が、

「だーめだ。やっぱ分かんねぇやこれ」

などと何度も言いつつもページをめくるペースは変わらず、書いてある知識をおさらいして頭に入れていく。
そんな時だった。

弱々しいノックの音が狭い部屋に響いた。

「ん?」

反射的に扉へと振り向いてすぐだった。
何も言わずにその人は扉を開けた。

「リーダー、ちょっといい?」

「なんだミナミか。珍しいな。別にいいけど?」

と、言われたのでミナミは扉を閉めて部屋へと入っていった。
一瞬束になったノートに目をやるが大丈夫だと実際言ってきたので気にしないことにした。

「今日さ、ケンゾウと話をしたんだ」

「あいつとか。それで?」

相変わらずジェノサイドはノートと睨めっこしているが、話せば意識がこちらに向くだろうと考え、話を続ける。

「あんたってさ、何?何でもない人を殺したって本当?」

手が、止まった。

ゆっくりと顔を上げる。その顔は驚愕に満ちている。

「今あんたって大学二年でしょ?高二の時にそんな事があったって」

何故そんな事を語れるのかと、ジェノサイドは内心ゾッとした。
隠し事がバレる。そんな感覚に近いギリギリの状態。それが今の彼の精神状態だった。

「っていう噂話があったらしいじゃん?」

「なんだよ……ウワサかよ……」

顔が緩んだ。妙に響いた気がした心臓の鼓動が収まっていく。精神的に余裕が生まれたので、再びノートに目をやった。

「確かにそんな噂があったこともあったな。誰が言いふらしたのか知らねーけど」

「うちはバルバロッサだと思ってる」

ミナミの発言により、手が止まった。だが、一瞬止まっただけだ。意識はノートに向いている。

「バルバロッサって、あんた達を裏切る前提でジェノサイドに居たんでしょ?だったらそういう事を少し言いふらす事をしててもおかしくはないでしょ?」

「確かになぁー。それは考えたことなかったなー」

遂に反応も適当になった。ミナミは顔を膨らませて、彼を睨んで言う。

「何で……そんなことしたの?」

ジェノサイドは軽く息を吐いてから、ノートをわざとらしくパタン、と閉じると対抗するかのようにミナミを一瞬、軽く睨む。

「それを知ったとしてどうするんだ?」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.139 )
日時: 2019/01/08 21:46
名前: ガオケレナ (ID: /JJVWoad)
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もしかしたら、たった今自分は少し怖いことをそんな雰囲気で言ってしまったかもしれない。ジェノサイドは俯き出したミナミを見てそう思った。

「ご、ごめん。普通に考えて人には言えない隠し事とか悩みとかあるよね」

「何お前は勝手に聞いて勝手に自己完結してんだよ」

一気にやる気が削がれた。
これから読んでいく予定だったノートをすべてそのまま机の上に適当に置く。ドサドサと保存状況が宜しくもないのにそれを考えると不安な音が響く。

「俺の過去がどうだったかなんて、今のお前には必要なことか?今やこれからの方がよっぽど重要じゃないか?」

正論だった。今のジェノサイドやミナミに必要なのはこれからをどう生きるか、それを考えることだ。
余程のドロドロした人間関係や歴史問題でない限り、今の彼らに過去を思うのは無駄なことだった。

「そうだけど……ちょっと気になっただけなんだよ。あの時にあんな事言われたら嫌でも疑っちゃうよ」

「あの時?あぁ、横浜でのあれか。あれは気にすることじゃないよ。単なるモットーに過ぎないんだ。俺が勝手に自分を縛るために生み出した目標。そうまでしないと、深部最強を言い訳にして何でも出来そうに思えてしまって怖くなる時が時々あるんだ」

例えば嫌な人間に遭遇した時。満員電車に揺られている時。金が無い時。
この時ジェノサイドが悪そのものだったら人を傷つけてでもそれらの問題を無理矢理解決することが出来るだろう。
実際彼なら出来る。それくらいの実力と余裕があるからだ。

だが、ジェノサイドにそれはできなかった。自分勝手すぎる理由で人を傷つけていい訳がない。
彼をそこまで止めるのは良心以外の何物でもない……のだろう。

「とは言っても、このまま何も言わずにしているのもお前がモヤモヤするだけだろ」

「ううん、大丈夫。もう気にしてないよ!へーきへーき」

わざとらしく手を振るが嘘以外の何物でもない。高野には丸分かりだった。

「嘘つけ。気にするくせに。と、言うことでいつかまたの機会に話すよ。今みたく目の前に差し迫っている問題とかがすべて無くなった程の、文字通り平和な時が来たらね」

「……それって絶対に話さないってオチ以外の意味あるの……?」

「あるさ。その為に今俺がこの組織のトップで、お前が此処に入ってきた。んで今はメガストーンを探している。時間はかかるけど、その時は絶対に来るよ。俺はそう思ってる」

戦いを好む深部の、最強の人間が言うには似合わない言葉だった。若干のギャップを感じてしまい、小さく笑ってしまう。

「あんたって本当に平和主義者なのね」

「臆病者ではないからその言葉のチョイスは少し違うだろ〜」

とか言っているうちにお互いが笑えていた。自然の笑みである事が一発で分かった。

(気まずさはもう、ないな。あいつが抱えていたのはこの事だったか……)

ジェノサイドも内心少しホッとして、

「とりあえずお前も寝ろよ。明日こそは何も無いけど明後日三人でディズニーだろ。休める時に休んどけよ」

「はいはーい。わざわざありがと、じゃあうちも寝ようかな。お休み、リーダー」

そう言って、扉は静かに閉まる。

(何の事かと思ったけど……あれについてか……)

高野は過去の自分を見つめるかのように、曖昧な記憶を便りにあの光景を浮かばせる。

そこには、砂埃を辺りに撒き散らし、倒れる一人の人間と真っ直ぐに突っ立って全く動かずに、それを眺める自分がいて、その自分の隣には……

(あの時は、まだまだガキだった……)

ベッドに身を預けようとして仰向けに横になる。額に手を当てていた。
今でも、当時のあの事を後悔している。何故、あの時自分はあの場所にまで行ってあんな事をしたのだろうか。

「ったく、三、四年も前の話じゃねぇかよ。何でそんなクッソどうでもいい事を未だに引きずってんだ俺は」

そして、一番に思い浮かぶのは、

「……何しているんだろうな。あいつ」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.140 )
日時: 2019/01/09 13:20
名前: ガオケレナ (ID: /JJVWoad)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


昨日は本当につまらなかった。特に前日に何かがあった日と比べると尚更その思いは強くなる。

今日は日曜日。高野がミナミとレイジと共にディズニーに行く日だ。
何もせずだらーっと過ごしてた昨日のようにはしたくないので、行けるならさっさと行きたい気持ちが彼にはあった。

ちなみに、今は朝の七時。ディズニー開園時間の一時間前である。

だが。

「起きねぇなこいつ」

「レーイージー。おーきーてー」

ジェノサイドとミナミは談話室にいた。二人でレイジを囲んでいるのだが理由があった。
未だに彼が起きないのだ。

「どうすんだよ。何しても起きねぇぞ」

「仕方ないよ。いつもこんな感じだもん」

無理だと判断したのか、ジェノサイドはあらかじめ用意しておいた軽めの朝食をテーブルまで運んで、食べることにした。
ミナミは「つんつん」などと言いながら彼の顔をつつくが、それでも無意味な事には変わらない。

「ねぇ、これ間に合うかな?」

「開園時間にか?無理だな。今からここ出たとしてもディズニーランドに着くのはせいぜい十時前ってところだろうな」

日曜日の十時なんかに着いても恐らく一番混む時間だろう。とは言っても休日にディズニーに行ったとしてもどんな時間でも混んではいるだろうが。それを聞き、ため息をつくミナミ。

「仕方ないか」

「ん?どした」

ミナミが急に立ち上がった。自身が寝ていた部屋へ行き、戻ってきたと思ったらとその手には枕が握られている。
そのまま、枕を片手で強く握ったまま、自分の頭上に上げてレイジの目の前まで歩き、そこで止まった。

「おい、お前……まさか」

「ふんっ!!」

普通に枕投げをやっている状態でも聞けないような鈍い音が響く。


ーーー

「朝食ありますか?」

ミナミから必殺の一撃を受けて起きたレイジは朝食を取り終え、着替えているジェノサイドにそう聞いてきた。

「テーブルに置いてある。人数分あるはずだから残ってるよ」

どうもーと言って暖炉の近くに設置してあるテーブルの前まで行き、椅子に座って彼は食べ始めた。

「お前……痛くないのかよ」

あまりの状況にドン引きして黙って見守ることしかできなかったジェノサイドはミナミがシャワーを浴びてこの部屋に居ない今だからこそ改めて聞くことが出来る。

「いやー大丈夫ですよ。よくああやって私のこと起こすんですよ」

だからと言って慣れるのもどうかと思ったが、これが彼らの絆の一部でもあるのだろう。下手に口出しするのはやめた。

「てかお前のことだったらわざと寝たふりしてギリギリのところで驚かす、なんて事もしてそうだな」

「あぁ!それ私も同じこと思ったことありますよ。タイミングが掴めなかったので一度も成功しませんでしたが」

やっぱり……とジェノサイドは半ば呆れるものの、自分も同じことを考えていたこともあって否定しにくかった。

「じゃあこうしてみよう。あいつが振りかぶって今にもぶっ叩くその瞬間、俺が手を叩くか何かで合図するからその後すぐに目覚ましてドッキリさせるとかってのはどうだ」

「あぁ!それいいですね!そうか、今なら二人いるからどうにかなりますね」

じゃあ今やってみますか、と朝食を一気に食べ終え、一気に布団へと戻り、一気にうつ伏せに伸びだした。
「いや、今はもう無理だろ……」と言っても反応なしだ。
ここまでされたら仕方ない。付き合うことにする。


「あれ?レイジ何してんの?」

風呂から出てタオルで頭を乾かしながら洗面所からミナミが出てきた。

「あー、聞いてくれよ。こいつ俺が着替えてる最中にまた寝だしたんだよ。頼むからさっきので起こしてくれ。なんか俺はやりづらい」

「二度寝かぁ。全く……世話が焼ける」などとブツブツ呟きながら先程と同じく枕を握ってレイジに近付く。

(よっし上手くいった!)

とか考えていただろう。あとは自分が手を叩いて合図をするだけ。

ゆっくりと枕を頭上に上げた。チャンスは今しかない。
ジェノサイドは手をパン、と叩く。

その瞬間にレイジは目をパチっと急に開け、うつ伏せの状態から一気に体を起こし、飛び上がってみせた。
それと同じタイミングで枕の一撃が放たれた。


ジェノサイドに向かって。

「は?」

なんて間抜けな声が飛んだ気がするが、すべて遅かった。後頭部に思い切り振り下ろされた。

ドン、と鈍い音が脳内に響く。

「がっ……痛ぁ!!痛ぁぁっ!!お前何すんだよーっ!」

「バーカ。全部聞こえてたからね」

甘かった。男二人で作戦会議していた時、既にミナミは風呂から上がって着替えていたのだ。つまり丸聞こえ。

「くっそー……やられた……お前いつもと比べて早すぎるだろ……何でこんな早く上がれるんだよ」

「あのね、そんな時間無いのに長風呂なんてする訳ないでしょ?」

すべてが予想外だった。これによって出発時間が二十分ほど遅れたことも含めて。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.141 )
日時: 2019/01/09 13:29
名前: ガオケレナ (ID: /JJVWoad)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


八王子から舞浜は遠い。
途中物凄い満員電車に揺られたが、なんとか到着することが出来た。

「時間かかっちゃったなぁ……やっぱ、都心の方に支部とか何とか言って小さい基地作ってそこにいようかな……」

「なんの意味があるんですか、それ」

現時刻は十時を回ったところだ。ジェノサイドは遅れた元凶に突っ込まれ、目だけを動かしてそいつを見てから歩く。

「まずどっちから行こうかな……ランドとシー」

「ねぇ、待って。メガストーンってその二ヶ所にそれぞれあるんだよね?」

唐突に珍しくミナミがメガストーン関連で訊いてきた。当然、その通りではあるが。

「そうだけど……それがどうかしたのか?」

「二ヶ所でしょ?それってつまり入場料取られるよね?」

あっ、と言ってジェノサイドは急に黙り込んでしまう。

「サイト見た限りだと、年間パスポートでもない限り一日に両方のパークを行き来することができないってことはつまりそういう事だよね?」

やばい、と小さく零す。知っている者ならば、余る程金を持ってるお前が何を言うんだと怒られるかもしれないが、問題はそこではない。
手持ちが片方の1デーパスポート、つまり一箇所の入場料分しか持っていなかった。

「し、仕方ねぇ。ここはゾロアークの幻影を使ってあたかも入場したかのように見せるしか……」

「ポケモンを犯罪に使うな」

ミナミの声のトーンがガチになりだした。

「わ、分かった分かった……今から引き出してくるからちょっと待ってて」

と、駅の近くにあるコンビニへと一人で走っていった。
彼が戻ってきたのはそれから五分後だっただろうか。再び合流したことでランドへと行くことにした。

「うわー……やっぱり混んでんなぁ」

「入場すら簡単にできないって……相当ですね」

入場ゲートから既に大行列ができていた。別にアトラクションに乗ることが一番の目的でない事を考えると何だか複雑だ。
ジェノサイドは恐る恐る二人に質問してみる。

「あのさ……一応だけど、折角来たってのもある訳だしさ、お前ら何か乗りたいアトラクションとかあるか?」

「アトラクション……ですか?」

「んー、どっちでもいいよ」

うわ、出たよ女のどっちでもいい……とジェノサイドは頭を抱えた。この答えが一番困る。

「いやー、どっちでもいいって言われてもな……ぶっちゃけ俺もどっちでもいい」

「へ?それが一番困るんだけど」

再びジェノサイドは困り果てた。このままでは答えが出ない気がする。

「いや俺だって困るわその反応!てか俺が決めていいのか?俺はメガストーン探すのが一番だからランドは素通りするぞ?そのままシーに行ってメガストーン取ってそれでも余裕があったら比較的空いてるシーのアトラクション乗るかもだぞ?それでいいのか?」

と、言うと

「別に、どっちでもいい」

やや不満げにそっぽを向いてミナミが答えた。

「だーかーらー……どっちでもいいってのは……」

「まぁまぁ!リーダーがどっちでもいいって言ってるんですからそれで良いじゃないですか!ジェノサイドさん、それで行きましょう」

「なんていうかさ……そうじゃなくて……」

ジェノサイドからして見ると、混んでいるのもあって、長時間並んで待つのは嫌である。そもそも目的がメガストーンのみなのだから。
だが、今日此処に来た二人の事を考えると、楽しむのも悪くないと考えている。この相反する二つの事柄を考えると益々頭が痛くなった。

そんなジェノサイドの様子を見かねて、

「わかりました。ではジェノサイドさん。あなたはランドでメガストーン探しに集中していてください。その間私とリーダーで此処を楽しんでまいります」

「何であんたと一緒にアトラクション乗んのよ」

「じゃあ誰と乗りたいんですか?」

「別に……皆とがいいなと思ってただけ」

などと二人のやり取りが聞こえたがジェノサイドはレイジの案を飲みたい。
少しずつチケット売り場までの距離が狭まっていくことに意識が移ってゆく。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.142 )
日時: 2019/01/09 13:31
名前: ガオケレナ (ID: /JJVWoad)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「さて、と。何から乗りますか?リーダー」

「結局乗るの!?待って、待ち時間とかどのくらい?」

やっぱり乗りたかったんじゃねぇか、とジェノサイドは再び呆れる。やはり、どんなに時間を費やしても女の扱いに慣れることは出来ない彼であった。

「特に乗りたいやつがあったらファストパス発行しとけよ。それでも並ぶことになるけど、まぁ普通に並ぶよりかマシだろ」

シンデレラ城を通ってから、三人は別れる。

新宿などの都心よりも人が集中しているかのようだ。余計探すのが億劫になってくる。

(さすがにここまでやられると……気が滅入ってくるぞ)

メガストーンを探すには足元を集中して見なければいけない。
人が多く見にくい上に、誰かに当たる可能性もある。特に子供も多いので余計に危険だ。

「時間かかってもいいから、チラ見する間隔で見ていくかな」

目標は二時間。大体の一つのアトラクションの待ち時間と同じくらいだ。
あの二人が楽しんでいる間に探すのが理想的だ。ファストパス発行してすぐにそのアトラクションには乗れない。なので三人の間に時間のズレは生じない。計画としては完璧だった。

だが。

「ダメだ、全然見つかんねぇ。やっぱこの状況じゃ無理があるってー……」

ジェノサイドは適当にそこらにあるベンチに座って項垂れていた。
ちなみに、二時間はとっくに過ぎている。と、言うかは途中で精神的にキツくなって諦めてしまった。
今はその休憩中である。

「くそ、そもそもな話日曜にディズニーランドに行くってのが間違いだったんだ……平日にしとけばよかった。大学サボらなきゃならないけどなぁー。あーもう!!」

叫んで勢いよくベンチから立ち上がる。
ここまで来て諦める訳にはいかない。バチカン市国並の広さを持つディズニーランドだが、組織の事を考えると、今の状況を考えると今のこの悩みがちっぽけに思えてしまう。

(たとえ今が苦しくても、今日の夜には一つの思い出話として終わるんだ。この苦しみも続くのは今だけ……)

「仕方ねぇ。やるか!」

ブーツを履いたその足から、普段のスニーカーとは違う足音が周りにこだました。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.143 )
日時: 2019/01/09 13:38
名前: ガオケレナ (ID: /JJVWoad)
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休憩を挟んで一時間、計三時間は過ぎた頃だろうか。
ジェノサイドはランド内を一周して戻ってきた。

「どうして……こういう時に限っていつもこうなんかな」

一周、つまりシンデレラ城の手前である。
ミナミとレイジと別れた時はシンデレラ城が自分の後ろにあったために気づかなかったが、メガストーンの在処のような白く光る一点がそこにあった。

つまり、今までの苦労がすべて無駄だったということだ。

「くっそー!あの時きちんと全方位確認しているべきだった!!じゃなきゃこんな疲れることしねーもん!」

叫びながらそこへと寄り、メガストーンを手にした。

ライボルトナイトだった。

「でも、何はともあれこれで残るメガストーンはあと二つ……その内の一つはディズニーシーにある……」

疲れを忘れるほどの達成感を浴びているようだった。
今のこの状態でここまで喜べるということは、すべて揃った時は一体どんな感情を覚えるのだろうか。
少し楽しみに思っていた時だった。

「おーい、リーダー」

やや離れた位置から自分を呼ぶ声が聴こえた。アトラクションを楽しんできたミナミとレイジだ。

「見つかりましたか?メガストーンは」

「あぁ。この手に」

とてもランドのほぼ全域を探した挙句に合流地点にありましたなんて言えない。
そこは絶対に黙って、ただ見つけたことだけを伝える。

「じゃあ行きましょうか。リーダーも二つほど楽しまれたようなのでこれでひとまず」

「そうね……もうあんなに長く待つのは嫌だからね……次行こう次」

どうやら二人も参ってしまったようだ。やはり日曜に行くのが間違いだった。その事実を飲み込んだ。

一度ランドを出て、今度は反対側のディズニーシーへと向かう。
彼らが持っているパスポートは年間ではないため、ランドとシーを交互に行くことはできない。
また入場ゲートでワンデーパスを買わなければならないのだ。

「ったく面倒だし高いし……明らかに儲けてんだからもう少し便利になってくれてもいいのに」

「これが精一杯なんですよ。これ以上緩めるとさらに混んでしまいますよ」

レイジの言葉に、ジェノサイドは今までの悪夢を思い出し、あれがさらに酷くなることを考えると身震いしてしまいそうな気分に苛まれる。
黙って三人分のパスを購入した。

「さて、と。どうする?ランドよりかは空いているとはいえ、待つことには待つぞ。さっきみたく俺が探している間にお前らで何かに乗るか、それとも一緒に探すか」

「今度は一緒に探すよ。時間も縮められそうだし」

「そうですね。三人で探した後にみんなで最後に何かに乗りましょうか」

悪くない案だった。なにより、人手が増えることに助かる。
少し歩くと、絶叫マシーンで人気のタワーオブテラーが見える。

「一々ディズニーってお洒落だよな」

「一昔前のアメリカをモデルにしてますからね。今とは少し違う雰囲気が確かに楽しめますね」

思えば、このディズニーリゾートはただ歩くだけでも何となく楽しめる気がする。
レイジの言う通り、一昔前のクラシックな雰囲気が楽しめて普段の日常では味わえない時間を過ごしているかのようだ。

「通りで世界中から愛されるわけね」

三人でひたすら歩いているときだった。

「日曜の割には……ランドと比べると人が少ないですね」

「まぁそういう傾向だからな」

またある時も。

「先ほどよりか人が少なくなっている気がしませんか?」

「まさか、そんな訳ないだろ」

などと言ってしばらく経ってからだろうか。
その異常すぎる状況にその三人はやっと気づくことができた。

「人が……一切いない……!?」

「ウチら以外に他の人がいないなんて……どういうこと?」

「やはり……間違っていませんでしたね」

文字通り、三人以外に人がさっぱりといなくなってしまっているのだ。
たまにスタッフを見るくらいか。

そして、彼らは何故その異常事態が起きたのかをその目で理解することができた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.144 )
日時: 2019/01/09 13:43
名前: ガオケレナ (ID: /JJVWoad)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


しばらくすると、足音が増えていった。
人が戻り出したのだ。

「なんだ、パレードか何かで一時的に一箇所に戻ってただけ……かぁ……」

ミナミの後半の声がやけに弱々しい。
その理由は一発で分かる。

その足音が、近くを歩いている人間がすべて同じ格好だからだ。

「こいつら、どこかで……?」

少なくともジェノサイドとミナミは見たことがあった。
そして、

彼らの一番奥に。かなり遠いが、それがいた。

「杉山の……部下!?」

「ってことはまさか!!」

状況は一変した。

黒いスーツ、黒いサングラス、黒の革靴で真っ黒に染まっている杉山の部下が一箇所に集まる。

10、30、70……数えなくとも、彼らの数が三桁いっていることが分かるくらいだ。

気づくと、目の前に漆黒の壁が出来上がり、それが徐々に、ゆっくりとこちらに迫ってきている。

「どういうこと!?なんで杉山が?なんでこんなにいるのよ!!」

「俺に聞くなよ!場所なら特定されかねないと思ったけどこれほどとは……」

声を荒らげて言い争っているときだった。

漆黒の壁が真っ二つに割れる。
理由は単純に、杉山が姿を見せるためこちらに歩いてきたからだ。

「素晴らしいだろ。これが僕の仲間さ。君たちを探すことなど片手を振るだけで簡単にできるのさ」

「だからって家族恋人友達で溢れてるこの平和なテーマパークに来るこたぁねぇだろ」

「ふん、相変わらず甘い男だなジェノサイド!!」

フフッと笑って勢いよく人差し指をジェノサイドに向けた。

「君はここのアトラクションを貸し切ることができるということを知っているかなぁ?」

「はぁ?待つのが嫌だからってアトラクション一つに何万、何十万と積めば出来るアレか?それがどうしたってん……」

ジェノサイドは言葉を詰まらせた。
その顔は青白く、目を見開いている。

(待てよ……)

これまでの異変と、ジェノサイドの考えていた事がリンクしていく。

「まさか、お前……」

辺りを見渡した。自分たちと杉山、そして彼の数百人の部下以外誰もいない。

思いつく答えなど、一つしかなかった。

「まさかお前、ディズニーシーごと貸し切ったってのか!?」

ジェノサイドのその言葉に対し、杉山は笑ってみせる。

「ご名答。しかもすごいのが僕らしくてね、普段貸し切りの時ってのは閉園後が一般的なんだが、今僕は日曜の昼に貸し切ってみせた。すごいだろ?国際的エンターテインメントさえも取り込むのが深部!その議員!その議員にして下院のトップを兼ねて上院の書記もやってみせているのがこの僕、杉山渡だ!!!」

頭おかしい、とジェノサイドだけでなくミナミもレイジも思ったことだろう。

誰かを狙い、息の根を止めるのに数千万円単位の金を出す人間がいるだろうか。タチの悪いストーカーよりもずっと恐ろしく、イカレてる。

こんな奴が議員で、深部組織を破壊しようとし、議会の対立を画策し、そんな彼を殺してくれと頼み込む議員が自分の近くにいて……
自分がいる世界が改めて狂気じみていると感じるのみだった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.145 )
日時: 2019/01/09 13:58
名前: ガオケレナ (ID: /JJVWoad)
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杉山が腕を振るうのを合図に、漆黒の壁が猛然と突っ込んできた。

しかも、よく見ると部下一人ひとりに武器らしき道具を携えているのが分かる。

刀剣、銃、ナックル、斧など、一人につき全員が違う物を。

「くそっ、このまんまじゃ死ぬぞ。今回は割とマジで!!」

叫ぶのに集中してボールを投げるタイミングが普段よりやや遅れたがジェノサイドは対抗すべくポケモンを呼び出すことにした。

「オンバーン、早く出て暴れろ!」

漆黒の壁に向かって一つのダークボールを投げる。
壁に同化しそうな黒いドラゴンが現れ、同時に'りゅうのはどう'を放つ。

人間の視覚ではそれは認知出来ない。だが、その技の残留エネルギーが目で見える。
白とも青とも見れるオーラのようなものが地を這いずっているようだった。
それが迫り来る部下に炸裂すると、まず先頭を走っていた全員が吹っ飛んだ。

「……と言うか、何で杉山はウチらをあんなにしつこく追いかけてくるのよ!!普通ここまでする!?」

「相手を普通の人間と考えるのがそもそもの間違いだ!頭がおかしい!……だが、冷静に考えると、奴が俺達を狙うのはお前達を解散させたら手に入ったであろう財産を狙っているのと、単に気に食わない俺を殺す為だろうな」

だが、損失を埋めるかのように、第二波がすぐにやってくる。
ジェノサイドは技を連発するよう指示するが、いつか間に合わなくなるのが目に見えていた。

(くそっ、このままじゃ……いつか追いつかれる……)

悩み、悶えたその時、ジェノサイドの前にレイジが身を庇うかのごとくまるで包み込むかのように立った。

「レイジ!あまり前に立つな!危ねぇぞ!」

「行きなさい、サーナイト」

以前ジェノサイドのアシストをしてくれたキルリアの進化であろうサーナイトが宙を舞いながら地に立った。

「'サイコキネシス'」

距離の問題もあり、先頭の者だけが範囲だったが、彼らを宙に浮かせ、一瞬だが波の動きを止める。

「おい!何してんだ早く動け!」

「ダメだ!'サイコキネシス'だ、動けねぇ」

怒号がチラホラ聞こえるようになってきた。どう足掻いても動けないのだから吠えたところで無意味だが。

「飛ばしなさい、後方に」

命令の後、浮かされた人間がサイコパワーにより運動エネルギーを書き換えられ、膨大なエネルギーを持った砲弾と化していった。
将棋倒しのように次々と杉山の部下が倒れていく。
ジェノサイドらの空きの空間がさらに五m程余裕が生まれたくらいか。

「普段のバトルで使うやり方を少し応用してみました」

「その手があったか……」

涼しい顔でトンデモ理論を見せびらかすその姿に、ジェノサイドは少し感心しつつ引き気味になる。
ミナミ絡みで問題起こしたら笑顔で殺してきそうな、そんな感じの人間だとここで初めて理解したからだ。

「さぁ、この調子で全滅でも試みてみますかねぇ!」

「待て、距離が出来つつある。少しずつ逃げながらさらに距離を離そう」

「メガストーンはどうするんですか?」

「そんなもん今はどうでもいいだろうが!!生命の危機が最優先事項だっつーの!!」

オンバーンの'りゅうのはどう'で幾人かを飛ばしつつ、サーナイトの'サイコキネシス'でさらに被害を増やす。

「調子はいいみたいだけど……」

このまま安心安全に逃げれるのかが不安だった。今回は規模が違いすぎるからだ。
そんなミナミを見かねてレイジが振り返る。

「大丈夫ですよ、私が最優先に守るのはリーダー、あなたですし」

「じゃあうちの前に立ってよ!何だかうちよりジェノサイドの方が大事みたいじゃん!」

「当たり前でしょうが!ジェノサイドさんが亡くなった場合、組織は組織として成り立たなくなる。つまり解散ですよ!この時に追い出されたらどうなるか……想像に難くないでしょう?」

とか言いつつ、二人を少し包むように少し左に寄った。
これだけではミナミは満足しないだろうが、言ってる事とやってる事を少しでも合わせる為の行為だった。

それが間違いだった。

業を煮やした一人の部下が標準を確認せず怒りに身を任せて銃を構え、撃った時と同じタイミングだったからだ。

当然、レイジに命中する形で。

パン、と久々に聴いた音が耳をつんざく。

こんな状況で何騒いでんだ、と軽く微笑んでいたジェノサイドは状況が分からず、そのままの表情で固まってしまう。


一気に全身に痛みが走った。

自分ですら状況が掴めず、レイジは無言でその場に倒れてしまう。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.146 )
日時: 2019/01/09 14:11
名前: ガオケレナ (ID: /JJVWoad)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

膝から崩れ、ゆっくりと倒れていく光景がスローモーションに見え、嫌でも脳裏にでも残ってしまいそうだった。

「レイ……ジ……?」

命令も途絶えてしまったのでサーナイトも技を打てずにいる。その隙を狙ったかのように杉山の部下が一斉に走り出した。

「おい!レイジ!起きろって!こんなとこで伸びてんじゃねぇ!!早く!」

「行きなさ……い」

力の入ってない声で震えながらジェノサイドを見た。彼に抱えられようとしたが、それをレイジが拒んだ。

「私の、サーナイトの'テレポート'を使って……今すぐここから逃げなさい」

会話をしている間にも、部下が近づいてくる。
ジェノサイドは'りゅうのはどう'から'かえんほうしゃ'に技を変更させるが、その炎を恐れずに彼らは突っ込んでくる。

時間はもう無かった。

「だったら、お前を抱えてでも走る」

「ダメです……私はこの時点で荷物と化してしまいました……。あなたたち二人で私を抱えても、却って時間のロスになります。本来ならば逃げ切れる時間が……相手の銃の射程圏内になって……しまう、時間へと豹変するの……ですよ?」

レイジは力の抜けつつある腕でジェノサイドの手を払おうとした。本当にここに残るつもりらしい。

「深部にいるうちはこうなることも予想はしていた。俺は構わねぇ」

「そうだよ!!リーダーの言う通りだよ!ウチも大丈夫だから、皆で逃げよう……?」

ミナミも声が弱まってきた。どういうことか見てみると涙声だった。

だが、

「それは……私が許せません……ジェノサイドさんには生きていてもらわないと困ります……リーダーも……、あなたにも生きていてもらわないと、ね?……私にとって、誰よりも……一番大切な人なのだから……」

ミナミが泣き出した。
その言葉によるものか、自分がレイジを救えないと悟ったからか。恐らくは両方なのだろう。

「行きなさい、ジェノサイド……もしも、リーダーの身に何があったら……化けて出てきますからね……」

最後までニッコリと笑っていた。
レイジはジェノサイドの手を握り、何かをその手に移すように渡した。
何の事か確認してみると、

「メガストーン……?どうして……?」

「これで揃ったと思います。さぁ後は帰るだけですよ……ほら……」

レイジのサーナイトが二人に近づく。
そして指示を出す。

「サーナイト……二人に対して……'テレポート'です……」

その瞬間、ジェノサイドはレイジの腕を掴んだ。ギリギリで'テレポート'の範囲内に入れ、全員で帰ろうと思っての行動だった。

だが遅かった。

部下に追いつかれてしまった。
そして力負けもしてしまう。

レイジの腕を掴んだまでは良かった。
だが、二人の部下が片方の腕と体を掴んだことにより、ジェノサイドから引き剥がされてしまった。

「、!?」

テレポートが発動する直前であったにも関わらず、一瞬にしてレイジは黒い集団に紛れて見えなくなってしまった。

「レイッ……!?」

彼の名を叫ぶこともできずに、ジェノサイド、ミナミ、サーナイトの姿がその場から消えた。


気づいた時には、彼らは舞浜駅に居た。

ここまで遠くまで飛ばせることに意外性を感じたが、問題はそこでは無かった。

ジェノサイドの腕には、レイジから受け取ったメガストーンと、オンバーンが入ったダークボール。

レイジを救い出すことは出来なかった。

ミナミが手で目を辺りを押さえながら再びディズニーシーへ行こうと走ろうとしていた。

「おい待てミナミ!」

ジェノサイドは咄嗟に彼女の腕を掴む。

「やめて離して!レイジを……レイジを助けないと……」

とは言ったものの、無理を悟ったのか、その場でへたりこんでしまった。

「どうして……どうしてレイジが……」

グズッと鼻声を出しつつ悲痛な叫びを上げる。その後、自身の無力を責めるかの如く声を上げて泣いた。

「ああぁっ……あぁ、ああああああああぁぁぁ!!!!!」

ジェノサイドは、ミナミの肩に手を置く。

「この世界では……こんなこともよくある事だ。だからと言って仕方の無いことだと言って締めることもできない。助け出せなかった俺の責任だ。じゃあ今の俺達に出来ることはなんだと思う?」

弱々しく「どうしたら、いいのよ……」と言ってジェノサイドに振り向く。その顔は涙でしわくちゃになっていた。

「ここから逃げることだ」

腕に触れ、彼女を立たせる。
肩を持つ形でミナミの歩きを支えた。

「ここにいつまで居ても危険だ。奴らは絶対に俺達がここにいる事を知っている。だから今すぐ逃げよう」

楽しく終わるはずの最後のメガストーン探しがこんな形で終わるだなんて、誰も予想出来なかっただろう。

全員が全員「甘かった」と痛感することで、終えるなどと。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.147 )
日時: 2019/01/09 14:49
名前: ガオケレナ (ID: /JJVWoad)
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基地には安全に帰ることができた。
何事もなく、そして何も会話を発することもなく。

無言でいきなりリビングにジェノサイドが姿を見せたのでそこに居た全員が驚いたことだろう。

「うわっ!リーダーちょっと待ってくださいよぉ……びっくりしたじゃないですか」

「悪い、何も言わずに」

ジェノサイドの声色がいつもと違った。低く、ただ言葉を吐き出しているだけのような感じは、いつもの彼じゃない。

「何かあったのですか……?もしかして、メガストーンが見つからなかったとか」

「いや、ちゃんと見つかった」

と、言ってライボルトナイトとカイロスナイトを放り出す。
誰も受け取れなかった、というより手を差し出しても間に合わなかったので、そこらに転がってしまった。

「……」

おかしい、とここにいる誰もが思ったことだろう。雰囲気もおかしいし、物の扱いにしても、まるで八つ当たりしているかのような行動だった。普段ジェノサイドはこんなことをしない。

「あの、何かあったのですか……その、いつものリーダーらしくありませんよ?」

名前も覚えていない構成員がそんな事を言い出した。自分は覚えていないのに、向こうはほぼ自分の事を知っていた。そんなギャップを感じつつ、

「あぁ、それについては悪かった。実は今日、レイジが死んだんだ」

ざわ、とリビングが騒ぎ出したものの、すぐにそれは沈黙へと変貌した。

「レイジって……あの、赤い龍のレイジさん、ですよね?」

「あぁ。ディズニーにいたら来やがったんだよ。杉山が」

説明を初めた途端、ジェノサイドの目が怒りに染まりだす。
あの時の事を思い出すと、杉山という最も忌み嫌う存在と自らの無力さが蘇ってしまう。
今回の事件については、仲間にとっても衝撃的だったようだ。

杉山という一人の議員が数千万も払ってディズニーシーを貸し切り状態にし、数百人の部下を従えて侵攻してくるなどと予想もしないだろう。
その上で、彼らの反応を伺った上で、ジェノサイドは訴える。

「なぁ、みんな。俺達で本格的に杉山を潰しにかからないか」

いきなりの発言にすべての者が顔を上げた。

「このままじゃ深部の世界のバランスが壊れかねない。議員の人間によって組織が破壊されて金も人も一気に居なくなる事が何度も行われると今ある平衡状態が崩れてしまう。それだけじゃない」

一息置いて、ジェノサイドは辺りを見る。この部屋に居た全員が自分を見ていた。

「レイジのような犠牲者が、これからも増えてしまう」

その言葉に、仲間たちの目が変わった。ような気がした。雰囲気が一変する空気を肌で感じる。

「一人の下らない議員の下らない考えの下に、悲劇を繰り返したくないんだ」

誰ひとりとして、反対する者は居なかった。


ーーー

「ようミナミ。あいつら全員も理解してくれたよ」

ミナミは床に敷いた布団にくるまっていた。
荷物置き場として使っている部屋を使わなかった理由はおそらくだが、ここよりも寒いからだろう。

「俺達は、全員で杉山を潰しに行く」

彼女のすぐ隣に寄り、その場に座った。顔こそは見えなかったものの、声だけは聞き取れた。

「でも……そんな事しても……レイジは戻ってこない」

「確かにな。俺達がどう頑張ってもレイジはもう……。でもな、」

布団を少し捲り、彼女の手を少し冷えた手で握る。

「あいつは、杉山はこれまでに似たようなことを繰り返していたんだ。そして、これからも止まらないだろうな。だから俺達でこの悲劇を終わらせる。あいつのような犠牲者をもう生み出さない。その為に動くんだ。それがあいつにしてやれる俺なりの慰めでもあるんだ」

ミナミは顔を上げた。泣いてはいなかったが、その瞳はいつ泣き出してもおかしくない、脆さを表していた。

「強制はしない。戦い奴だけ戦えばいい。お前は、しばらく休め。休んだ後にどうするかその考えを俺に教えてくれないか」

「うん……」

その後、すぐにミナミは寝てしまったが、ジェノサイドは彼女が眠るまでその手を離せなかった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.148 )
日時: 2019/01/09 14:58
名前: ガオケレナ (ID: /JJVWoad)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


月曜日。本来ならば大学のある日だが、高野は珍しく講義をすべて休んだ。
その代わりは彼は今、三度目となる大山に向かっている。

昨夜、仲間とこれからどうするかについて作戦会議をした際、

「まずは同じ考えを持った仲間を集めましょう。ジェノサイドという組織だけでも200人弱のメンバーがいますが、議会が相手となると数が足りません。それこそ……」

「深部中のすべての人間を集めるくらいは必要ってか。ったく、革命でも起こす気かっつーの」

「それくらいはしないと、って事ですよ」

と、規模が大きすぎる会話をハヤテと行った果てに、話の通じる人にこの事を伝えるのが必須条件と言われたので、高野としては唯一そう言った話が出来そうな(逆に味方の人間以外で話が通じる人間がいないことも意味する)人がいる大山へと足を運んだのだ。

向こうの反応は珍しいものだった。

「また近いうちに会えるものと思っておりました」

「どういう事だよ。俺としてはもう二度と来ないつもりだったんだが」

前回と同様に本社の中へと案内されたる。
だが、通された部屋が違った。
関係者専用のような扉を抜け、入った先は、客間だった。

「……?」

高野はキーストーンの無い部屋であった事に気付き、辺りを見るが特に変化は見られない。
奥から、普段通りの白い礼服を来た武内がお茶を持ってやってくる。

「最近どうですか」

「どうもこうもねーよ。ストーカーに追われたり殺されそうになったり仲間が死んだりとウンザリしてたとこだ」

全部特定の人間による事だという事を暗に示す。彼に伝わったかどうかは不明に思えたが、

「色々とご苦労なさっておりますのね。私としても少々問題が浮上したところです。杉山渡。彼の蛮行が目立ちすぎています」

どうやら伝わったようだ。

「なるほどなぁ……」

高野は湯呑みを木製のテーブルに置く。

「じゃあお互い知ってるようだから結論から言うな」

深呼吸をする。その間に昨日の出来事が何度もフラッシュバックされた。

「俺は、俺達ジェノサイドは杉山を攻撃することで意見が一致した」

「その為に、相談を仰いできた、と。そういう事でしょう?」

見抜かれていた。と、言うよりか武内としても予想の範囲内だったのだろうか。その意味あっての「近いうちに会える」だったのだろう。
その洞察力にジェノサイドはギョッとしてみせた。

「確かに、あなたの周りだと味方以外で話せる人なんて居ないに等しいものです。だからといってジェノサイドだけで杉山を攻撃しても返り討ちに合うのが目に見えています。そんなジレンマに駆られた結果が、こちらにいらした、という事でございましょうか」

「大正解」

再び湯呑みを取る。

「ま、かと言ってあんたに話せても上手くいく事柄じゃねぇもんな。無茶な事持ち出して悪かったな」

「いえ、確かに無茶かもしれませんが……」

待ってましたとばかりに、どこからか笏を取り出した。何やら人の名前や住所が書かれている。

それも、一枚だけではなかった。
テーブルに、平安時代の貴族が持ってそうな笏を並べられるシュールな光景を見て、つい言葉が詰まる。

「お前……しゃくをメモ帳代わりにしてんのかよ……」

「当時の人々はこの様に使われていたようですよ?」

その中の一枚を高野の眼前に持ってきた。

「さて、先ほどの答えですが……無茶ではありますが解決策はあります。その策も無茶と言えば無茶ですが」

反射的にその笏を手にしてみる。
肌触りはあまり良くない木の板の上に文字を書いているような代物だった。

「要は、あなたと同じ、悲劇を迎えてしまった者と結託すればよいのですよ。幸い彼らの居場所はキーストーンを与える際に入手しております」

「お前……いつか個人情報売りそうだよな……」

絶対にコイツにだけは教えないようにしようと心に誓った時だった。
今手に持っている物に、人物名や組織の名前が書かれてない事に気づく。

「おい、これただ住所しか書いてねぇじゃんかよ。どういうことだ?」

「それは私なりの配慮にございます」

個人情報の保護だろうか、と思ったが違うようだ。そもそも、住所がある時点で守る気は0だ。

「あなたに一つ注意事項をと思いまして」

「注意事項?」

今更そんな物が必要なのかと気になったが、勘が鋭い彼の事なので黙っておくことにする。

「えぇ。ジェノサイド。あなたの使命は、あなたに共感する仲間を集めて、杉山を排除することにあります」

遂に大山の神主による公式の排除の願いが出された。
どの組織にも思いを寄せない、そういう意味で中立を保っていた武内からそんな言葉が出るのは意外だ。

「その間に、あなたはかつての敵であった者とお話をする事も十分に考えられます。なので、一つ注意すること。それは、冷静になることです」

それさえ守って相手を説得出来れば、きっと成功すると強く言われたまま、高野は大山を後にした。

「冷静を保ち、相手を説得する……その相手がかつての敵かもしれない?難易度高すぎじゃねぇかバカヤロー」

愚痴を零す感覚で笏に書かれた住所へと向かう。
そこは地域の公会堂のような場所であった。鍵もなく、木製の引き戸の扉を開ける。

中には、五人程の人間しかいなかった。
が、

「なるほど、かつての敵ねぇ。こうなる事を初めから狙ってたんじゃねぇのか?あの野郎」

その者の顔を見て、ジェノサイドは薄く笑った。

「お前に会うだなんて俺は全く予想してなかったがなぁ。まさかこんなところで再開するとはな」

嫌でも覚えている。そいつは、いつか自分にとっては身近な場所で、身勝手にもジェノサイドを殺そうとした人間だったのだから。
その者はきょとんとした顔で、ただジェノサイドを見つめるだけだった。

「フェアリーテイル、ルーク……。ちょいと俺の話に付き合ってくんねぇか」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.149 )
日時: 2019/01/09 16:07
名前: ガオケレナ (ID: WHyGh.XN)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


そこにいたのは、かつてバルバロッサの依頼の下、包囲網を形成してジェノサイドを捕まえようとした深部の人間、要するに敵だった。

「ジェノサイド……?」

ルークと名のある男はその姿と言葉に、小さく笑った。

「何の用だよ。テメェを殺そうとして失敗した敗者に用も何もねぇだろ」

「まぁまぁ。同じ者同士話を、と思ってね」

「同じ者……?」

一瞬にして、ルークの顔が変わった。

怒りと憎しみに満ちたその顔は、ジェノサイドを見据える。

「成功者にして勝者のテメェが……俺らと同じ……?侮辱すんのも大概にしろクソがあああアアア!!!」

拳を握り、敵のもとへと駆ける。
仲間の制止する声が聞こえた気がしたが、そんなものに一々反応してはいられない。

目の前まで迫った。今ここで振るえば相手は絶対に避けれないし、受け止めることもできない。
何もしてこないことが逆に意外だったが、この勝者気取りの綺麗な顔に一度でも殴ることが出来ればそれだけで満足だ。
ルークは、拳を振るい、顔面へと放つ。

絶対に当たる。そう思ったはずなのに。

ジェノサイドは、平然とこの拳を自身の手で掴む。
それは、人間が動かせる腕の力ではなかった。

「!?」

その顔は、まるで獣が、エサとなる獲物を見つけた時のような、薄く裂けた笑みが広がっている。

「お前は俺をイメージで捉えすぎている」

扉の奥から、本物の声がした。
今までジェノサイドだと思って殴ろうとしたジェノサイドは、化けたゾロアークだった。

現にその正体を表している。

「"神主"から話は聞いた。お前は意味、わかるか?」

神主、とは大山にいる武内の事だ。彼も深部の人間にして、同じ人間にキーストーンやアドバイスを与える役目を持っているため、こう呼ばれている。

「俺は、ここ最近アホの杉山に狙われてな」

杉山、という言葉にルークの仲間が反応した。
当のルークは、背を見せて元々座っていた椅子へと戻っている。

「俺はこの二週間の間、メガストーンをずっと探していた。お前達の間でこの二週間のうちにあったことは?」

「俺が言えと?」

ルークは舌打ちする。ここに来る時点で知っているんだろとでも言いたげに。

「この間、深部の世界では杉山という無能が動き始めた。まぁ、実際動いていたのはもっと前だと思うがそっちはどうでもいい。なぁルーク。お前はこの二週間、杉山による組織の解散令を出されてそれをずっと無視していた。その結果、基地の場所を暴かれ、仲間のほとんどが殺され、財産も丸ごと奪われた。そうだろ?」

「ジェノサイド……ッ!!てめぇ黙ってろ!!」

生き残りと思われるルークの仲間がそんな事を言った。だが、今度はルーク本人が手を差し出してそれを制止させる。

「ルーク……さん?」

「その通りだジェノサイド。お前もよく情報を集めることができたな。お爺ちゃんが居ないと言うのに」

ジェノサイドはその挑発を真顔で受けとめる。自分もそれなりの挑発をしたと思っているからだ。

「ま、財産を丸ごとって言い方は語弊があるな。俺やこいつらも、しっかりと自分のポケモンは死守している。何なら今ここでテメェを殺すことだってできるぜ?深部の頂点が、名も無き一般人に倒されたら、その時はどうなんだろうな?財産は?仲間は?考えただけでもちょっと楽しくなってきたぜ?」

一触即発の空気に思えたのだろう。ルークの仲間が二人の間に割って入る。まるで、戦いを止めさせるように。

「ルークさん!やめてください!俺達はもう戦わないって決めたじゃないっすか!」

「ジェノサイドも何でこんなとこに来たんだよ!何しに来たんだ!」

厄介だ、とジェノサイドは思ったことだろう。かつての敵にしてすべてを失った人間と話をするのは、気まずいし面倒くさい。

もう結論から言うことにした。

「何しに……。なぁ、ルーク。俺と一緒に戦わねぇか」

一瞬意味が分からなかっただろう。その証拠にその顔はキョトンとしている。

「一時的に、ジェノサイドに組み込む形で、杉山をブッ潰すために共に戦わないか?」

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.150 )
日時: 2019/01/09 16:18
名前: ガオケレナ (ID: WHyGh.XN)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


その言葉を聞き、
ルークは再び笑った。

「おいおい、俺を馬鹿にしに来たのかよ。まぁ、あの戦いの後何もして来なかったから今更そのお返しに来ても別に違和感はない」

「俺も、仲間を殺された」

その言葉で、空気が、彼らの目が一変した。

「杉山に狙われているとさっき言ったろ?それの影響もあって昨日、俺の仲間が死んだ。俺を守る形でな」

「その言い方からすると、一人か」

ルークは薄く笑って見せた。先ほどされた笑みのお返しと言いたげに。

「死んだのは一人かと聞いている」

「あぁそうだ」

「そうかよ……」

言いながら、ルークは自分の仲間を一人ひとり見た。四人なのですぐに終わった作業だ。

「俺は二十人だ」

「……」

「二十人。俺の仲間"たち"は一日のうちに奴の意味の分からない、下らない理由の下に理不尽に殺された……。俺達は奴らに守られながら必死に逃げた。その結果がこれだ」

ルークは椅子から立ち上がり、ジェノサイドに近寄る。その目は、怒りと哀しみが混ざり合った、何とも言えない目をしている。見ているこっちまで悲しくなりそうな目を。

「なぁお前に分かるか?一人と二十人。失った命の数が違いすぎんだよ。それに加え、俺は金も、組織も失ったよ」

「ちげぇだろ」

「あ?」

「失った数じゃない。命の重みは、俺もお前も一緒だ。辛く、苦しく、そして悲しかった……。俺はこの悲劇を止めたいんだ」

本気で言っているのか、とルークは一歩後ろに下がってしまう。それが示すのは、組織の強さだけでなく、己の強さも如実に表している。

「杉山を殺すため、議会を相手に戦うと心に誓った」

「本気で言ってんのかよ……最強のテメェが出たとしても相手は法そのものの議会だぞ?」

「本気だ。だからこそ、俺はこうして同じ道を辿っているお前達に会いに来たんだ」

「馬鹿馬鹿しい。目的のためなら敵も味方も選ばない程必死になって頭を下げる、と。ジェノサイドのブランドが聞いて呆れる」

「そうでもしないと倒せない敵だからだ」

「じゃあその敵と何故戦おうとしている!!」

ルークが怒鳴り出す。だが、その原動力が怒りでないことは自分でも気づいていた。

「戦う理由があるだろ!?その理由は何だ、赤の他人に悲劇を見せたくない。お前はそう言うのか?そうだろ!?そして、それが理由だろ!赤の他人って誰だよ。深部の人間のことか。目的のためなら、金の為なら手段を選ばない野蛮な人間のために、お前は動くと言うのかよ!!」

最早自分でも何故怒鳴り散らしているのか分からなくなってきた。
ただ、思い付く限りの事を言い並べているようにしか思えない。

「もしも本気でそう言ってんのなら、テメェは深部失格だ」

言いながら歩いて、ルークは仲間の前に立ちふさがる。まるで、彼らを守るかのように。
まるで、レイジが自分たちを守ったのと同じように。

ジェノサイドの頭の中であの光景がまた蘇った。

「深部の人間は、他人を思いやる人間が来る世界じゃねぇ。逆に、そういう奴は決まってこの世界に入った瞬間、その生命を絶つんだ。俺も何人もそう言った奴を殺してきた」

「俺も別に、そんな人間を目指そうとしてる訳じゃねぇ」

今度は、ジェノサイドがルークやその仲間に近づこうとした。
反射的に、彼らは退く。

「今回、死んだ奴は俺を頼って自分たちの組織を解散させてまで俺の下に来た奴だったんだ。言い換えれば、死にたくないから、俺の所にな。……でも、そいつは死んだ。俺の為に、俺を殺そうとしている奴に……殺された」

先程ルークが叫んでいた言葉を思い出す。戦いの理由を。

「なぁ、ルーク。失った数はお前のが多い。それは否定しないし出来ないからな。でもな、重みは同じじゃないか?何で俺じゃなくてこいつが死んだんだって思わないか?」

答えになっていないのは自分でも分かっていた。だが、ジェノサイドに真の答えを言う気はなかった。
自分が否定されかねないからだ。

「俺は悔やんだよ。人一人も守れないのに深部最強を騙ってるんだからな。だから決めたんだよ」

ジェノサイドはルークの目を見たが、彼が一方的に逸らした。代わりに、彼の仲間が見てくれてはいたが。

「杉山を打ち倒すことで、そいつを慰めようって」

「権力に抗うつもりなんだな、テメェは」

顔を見ずに、あさっての方向を見つめながら、口だけを動かしている。

「だったら好きにしろよ。そんな"死ぬ事前提"の、要は難易度の高すぎる戦いはゴメンだね。テメェには訳の分からない戦う理由があるだろうが、俺にはねぇし」

「タダで戦うなんて言ってねぇだろ」

思いもよらなかった返しに、ついルークは反射的に顔を動かした。

「一人に三十万出す。俺達の戦いに参加してくれた人間に、金を出すよ」

ルークは一瞬聞き間違いをしたと思ったことだろう。
一つの組織に、ではなく、"一人に"三十万出すと言ったのだから。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.151 )
日時: 2019/01/09 16:26
名前: ガオケレナ (ID: WHyGh.XN)
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「本気かよ……」

ルークはその一言で一気に信用を失いかけた。
いくら金持ちとはいえ、一人に大金を出せる訳がない。

「本気さ。今ここに五人いるからそれだけで百五十万か。余裕だよ。少なくとも、あと二百人まではいける」

ジェノサイドの組織だけで二百人。つまり四百人を従えて杉山と戦うと、かつての敵に言っているようなものだった。

「天下のジェノサイドと言ってもピンとは来ねぇよな。嘘だと思うかもしれないし。仕方ねぇから何か紙でも書こうか?ってか書いてきたんだけどな」

胸ポケットから一枚の紙切れを取り出し、彼らに渡す。
そこには人一人に金三十万を贈与すると明確に書かれている。ご丁寧に、署名と判子付きで。

「おいおい……これ本物だよな?イリュージョンで作った偽物じゃねぇよなぁ!?お前、本気で言ってんのかよ!?」

「何度も言わせんなよ。本気だっつってんだろ。あぁ、それと答えなんだが、今言わなくてもいい。水曜日に、その紙に書いてある場所で待ってるから、来るか来ないかだけでいい。俺は待ってるがな」

渡すものは渡した。言いたいことは言った。
無防備にも、かつての敵に背を向けたときだった。

「待てよ、テメェは誰に対してものを言ってんのかちゃんと分かってんだろうな?」

分かってるに決まっている。あえて無言を貫くことにしてみる。

「敵だぞ?テメェを殺そうとした人間だぞ?そんな奴に、金渡す約束なんてしてみろ。暗殺されないとか思わないのかよ!?」

いつか言われると思った。
と、言うより実際される事も想像した。だからこそ、常にゾロアークを携帯している訳だが。

「思わないね。これから共に戦う仲間に、そんな不信感抱けるかっつーの」

待ってる、と付け足した形でジェノサイドは戸を閉めた。

必ず来ると強く淡い思いを抱いた上で。


ーーー

ジェノサイドが基地に帰った時は、もう夕暮れ時だった。
この勧誘に一日を使った気がする。そして、メガストーンの探索以上に疲れている。

「あれー?リーダー、大学の帰りの割には遅すぎません?」

仲間の一人がこんな事を言って、リビングに姿を見せたジェノサイドにこんな事を言った。
そう言えば、自分は今日大学に行くと皆に言った事を思い出す。

「ん?あ、あぁ、悪ぃな。友達と帰り際に軽くお茶しながら愚痴聞いてたから遅れたわー」

わざとらしく頭を掻いて、リビング専用の小さい冷蔵庫を取り出してペットボトルのジュースを取り出すと、部屋から出ていった。
きちんと、リーダー専用とペットボトルに紙を貼り付けていたので、その紙を取って通りがかりのゴミ箱へと捨てる。

「今日で五箇所……かぁ。まぁ後はあいつらが他の奴らに話を持ち出してくれるだろうから、今日ほど動かなくとも人は集まってくるだろうな」

なんて独り言を呟いて廊下を歩いている時だった。

ふと、通りがかった部屋の扉が開いた。

「ミナミ?」

「あっ……リーダーか……」

相変わらず病人のようにやつれ、元気をなくしたミナミの姿があった。
髪も乱れて、掻き分けていないせいで余計に不健康に見える。

「今日、何人かと話をしたよ。戦うための仲間を募っているところだ。思ったよか相手方の反応は良かったよ」

「そう、……。あんたは、本気で戦うつもりなんだね」

笑っているつもりなのか、口元を緩ませるが、目が全然笑えていなかった。虚ろな目も相まって非常に怖い。

「あ、あぁ……決めた事だからな……。水曜に集まるよう言っといたし、後で皆にも言わなきゃだな。大学サボった事もバレちゃうから、ハヤテ辺りから怒られるかもだけどー」

言いかけた途中で、ジェノサイドは言葉を止めた。
ミナミがいきなり、後ろから抱きついてきたからだ。

「戦うんだね、みんなも、あんたも」

「……あぁ」

「もうこれ以上何も失いたくない」

「あぁ。分かってる」

「……死なないでね?」

「死なせねぇよ、もう誰も」

頭を撫でて離したあと、ジェノサイドは一人、部屋へと戻っていった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.152 )
日時: 2019/01/09 16:34
名前: ガオケレナ (ID: WHyGh.XN)
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「今日もいない!?」

寡黙でおとなしい性格の香流が珍しく焦りを見せていた。

「レンって月曜も休んでたよね?」

「あぁ。幾つか同じ講義があるんだけど、一緒になったのは昨日だけだった」

時刻は12時になる手前。今日で二回目の講義が終わる時間だった。
岡田は珍しく時間よりも早く終わったこの時に、部室へ行こうか悩んだ時、偶然香流と出会った。
本来、この時間の講義は岡田と高野が共に受けている。にも関わらず、高野は今日も来ていない。
講義を受ける上では真面目な彼が大学ごと休むことが普通考えられない。今日が水曜である事を考えると、益々不自然なのだ。

「高野昨日は大学来てたんだよなー……珍しくサークルにも顔出してきたし」

「えっ、マジ?俺昨日バイトでサークル来れなかったから分からないけど、どんな感じだった?」

「それがさー……」

余計に不自然である事の顛末を思い出す。
確かあれは、高野がサークル開始時刻にピッタリと来ていて珍しかったことから始まる。

「レンは昨日……メガストーンがほとんど、あと一個で全部揃うとかって言ってたんだよ」

「あと一個?かなり早いな」

「うん。それにあと一個に関してはいつでも手に入れられるからサークル休んでまですることじゃなくなったって結構機嫌が良かったんだよ」

「ん?それじゃあさ……」

岡田もおかしな点に気づいたようだ。その証拠にポン、と手を叩く彼特有の癖が表れている。

「今日何で休んでるの?」

「そこなんだよ……」

今まではサークルを放り投げてメガストーンを探すことはあっても、講義までは投げなかった。
にも関わらず今となってはその講義すらも投げて何かをしているとのことだ。メガストーンも集まりきった今、彼が何をしているのか気になって仕方がない。

「今のレンにメガストーンを集めること以上に必死になれることなんてあったのか?」

「ぶっちゃけそう思うよなー」

平和な世界で生きる彼等には到底想像出来ないのも無理はない。

同時刻。
ジェノサイドは軽く寝ていたその眼をあけた。
早朝に一度起きてから、意識が残っていたので浅い眠りを続けることが出来、気分的にも凄く楽だった。

(時間か……そろそろ集まってるかな)

なんて思っていたその時だった。

「リーダーリーダー!!大変です!!」

廊下の床を強く蹴るように走る音が聞こえてきた。
その足音の主はノックもせず、部屋のドアを開ける。

「ハヤテ?おはよう。どうしたんだ?」

「外です外!!外になんかめっちゃ人いますよ!!」

「んー、どんくらい?」

真面目に聞かないまま適当に頭を掻いて壁を見つめるが、当然変化などない。

「完全には確認出来ていませんが……二百名ほどの人の波が……」

来た。

一瞬にして目が倍以上に開いた気がした。そのまま一直線に階段を駆け上がり、リビングよりももっと上の、廃工場に直結する廊下を通り、鉄製の重いドアを開ける。

外の景色が広がる。自分が今いるのは地上三階に位置する。

廃工場の地下に基地を有しているが、入口は防衛を考慮して地上の地面に埋もれてる(ように見せかけてる)ドアから入り、地下を通って地上一階の秘密基地、ジェノサイドの部屋や他の仲間の部屋などが集合している空間へと繋がり、その上にリビングや食堂があるという構造だ。
出口は二階にあり、廃工場の裏から、そして駅方面へと繋がっている。
ちなみにこの基地、廃工場側から見るとただの壁にしか見えないため、一見ここに数百人の人が住んでいるなど想像できないくらいだ。
その為、この組織を結成して四年、この場所が敵に暴かれることは今までに一度もなかった。

その記録を今日、ジェノサイド本人が破る。

外の景色に混じって、一階部分、言い換えれば工場の入口付近に、地上に大量の人だかりができている。
ジェノサイドがこの二日間に呼んだ新たな仲間だ。

「おー、すげぇ。本当に集まってんのな」

「言ってる場合ですか!?何があったんですか!どうすんですかこれ!」

「何もしなくていいよ。俺が集めたんだし」

「はぁ!?」

思わず変な声が出て口元を押さえるハヤテだが、ジェノサイドの言っている意味が分からない。

「まー、今は分からないだろうけどどこかの窓から見てて。いいか。絶対に窓から顔出すなよ。じゃなきゃ秘密基地の存在がバレる。あいつらはこの廃工場そのものが基地だとか俺の住処だとか思っているだろうからさ」

その場でオンバーンを呼び出し、彼はそれに乗り、人だかりのやや上の位置に止まる。
オンバーンを出してから歓声にも似た声が上がっている。

「今日は来てくれてありがとうな、お前ら」

ここにいるほとんどは自分が誘った人間ではなく、噂か何かで嗅ぎつけた者たちがほとんどだろう。やや危険に思えてもそれを抑えてゆっくりと降下していく。

「信用もクソもなかっただろう。俺が怪しげな書面手渡して、これで金やるって言っても恐らく普通ならば信じないだろう。でも、お前達は来てくれた。共通の目的の為に」

見にくかったが、人だかりの中にはルークとその仲間の姿もあった。
やはり彼も来てくれたようだ。
その他にも、何処かで見たことのあるような顔が幾つか。


「それじゃあやってくれるか。今から議会に突入して杉山をぶっ倒しに行くぞ」

ここに集まったのは野蛮な人間や、この機に乗じてジェノサイドを殺そうと画策している人間でもなかった。

同じ目的、同じ考えを持った人間、即ち仲間であった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.153 )
日時: 2019/01/10 20:02
名前: ガオケレナ (ID: CWUfn4LZ)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「何の説明もナシにこれから行こうって時に悪ぃけどよぉ」

人ごみを割ってルークが出てきた。前に会った時よりかはテンションが全く違う。

「これからどうやって行くってんだ。てか何人集まってんのよ?何の確認もナシに行くってのか?」

「質問どーも。それについては……そうだな、頭上を見てくれ」

ジェノサイドが天に向かって指を差す。
ルーク含め話を聴いていたすべての人間が上を向いた。

「シンボラーが飛んでいるだろ?」

カラフルな彩りのとりもどきポケモン、シンボラー。
トーテムポールのような、原始的宗教で見られそうな姿をしたポケモンがのんびりと彼等の頭上を飛んでいた。

「今からコイツが、お前ら一人一人の体温を計る。その計測結果が俺の脳内に直接送られるから後は俺が把握すればいいだけの話だ。……という事で少し待っててくれ」

と、言うとシンボラーは上空で静止する。
傍から見ると何も起きていないように見えるが、シンボラーのサイコパワーで計測は既に始まっている。
対象者に特別作用する事は何もない為、異変を感じないのは当然といえば当然だった。

計測は二分経過するかしないかで終わり、その結果がジェノサイドに送られる。
脳に伝わり、その影響でまるで視界にシンボラーが見たサーモグラフィーのような映像が流れるような錯覚に陥られ、それは次第に人間の脳でも理解できるように簡略化されていく。

一人の赤く染った体温を示す映像が流れ、それをカウントするとまた一人、また一人へと体温が示される。
後は間違いなく数えるだけだ。

その間、集まった彼らは動ずること無くただじっと待つのみだった。
思えば、何故こんなにも律儀に従うのかジェノサイド本人にも完全に分かったわけではない。
外面だけでは皆を信じ、受け入れているようには見せてはいたが、実際は半信半疑だ。
いつ裏切られるのか分からない、そんな思いに駆られて共に行動するのは精神的に負担がかかる。

(こいつらにどう伝わったのか知らんが……まるで俺以外にも誰か似たようなやり方で集めたようにしか思えねぇ……)

今のジェノサイドと同じことをする人間など限りがある。特に思い浮かぶ者と言えば……

(武内か……いや、あいつはここまで動く奴じゃない……と、すれば……塩谷か)

思えば、ジェノサイドも横浜で塩谷に依頼を受けたのが始まりだった。
それが直接的なものでないにしても、少なからず遠因にはなった。
彼等にとっても自分と同じ道を辿ったのだろう。それで満足することにした。

「解析が……終わった」

目元を抑えながらジェノサイドはシンボラーを見る。
シンボラーもこちらを見ていたようで、互いを繋いでいたサイコパワーが切れた事を確認するとまた悠々と空を飛び始めた。

「なるほど……集まったのは百五十七人、か。まぁそんくらいだな」

組織ジェノサイドの人間と集めて三百五十七人。悪くは無い集まりだった。

「いいか。これから俺達は杉山がいる議会場へと向かう。場所は立川。ここからはそう遠くないがこれだけの人数だと移動するのも一苦労だ。そこで」

と、言いながらジェノサイドは廃工場の方向を指す。その方向に全員の目がいった。

「一台に十人乗れる装甲車が十五台ある。元は俺らジェノサイドが敵対組織と戦うために用意したものだ。結局使うことは無かったけどな。これに乗れるだけまず乗ってくれ」

「何でそんなモンがこの国にあんだよ……」

まず一般人が持てない代物を、社会的に見たらただの一般人のジェノサイドが何故持てるのか疑問だが恐らくジェノサイドも答える気はないし、そもそも分からない。

これは元々バルバロッサが用意したものだからだ。

「乗りきれない奴はどーすんだよ」

またもや見慣れた姿があった。
以前包囲網を使ってジェノサイドにタネボー爆弾を大量に放り投げた黒須とか言う奴だったか。

「そいつらはポケモンで移動するしかねぇな。確かこの中にメタモンを使う奴が居たはずだ。そいつのメタモンを何体か使ってレックウザ辺りに'へんしん'させて移動するのが手っ取り早い」

「レックウザって……騒ぎになるどころじゃねぇぞ……」

ミュウツーと同じく使えないポケモンのレックウザであるが、変身させてしまえば使えるようだ。
それはゾロアークの力で実証済みである。

「さて、と。人通り準備終えたらもう勝手に出発していいぞ。立川の議会場と言えば場所は分かるだろ」

ジェノサイドは振り向く。そこには自身の基地がある廃工場が見えるだけだ。

「話は聞いたなお前ら!今すぐ準備して外に出てこい。杉山ンとこに行くぞ!」

ジェノサイドは自らの仲間にそう伝える。

これから始まろうとしていた。彼等の、反抗レジスタンスが。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.154 )
日時: 2019/01/11 16:23
名前: ガオケレナ (ID: 1Lh17cxz)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


ゾロゾロとジェノサイドの構成員が廃工場が出てきた。
窓から様子を見、リーダーの命令によって今何が起きているのか、全員がそれを理解している。

「本当にやるんですね……リーダー……」

自信無さそうな足取りでジェノサイドの隣まで歩いてくるのはハヤテだ。

「やるよ。もうここまで来たら後戻りできねぇからな」

「いえ……それ以外にも気になることが」

「?」

外を歩くとすぐにそれを発見した。誰が落としたのか分からない誓約書だ。

「集まった人間は何人だったのですか?」

「百五十七人」

「一人に三十万円払うんですよね……四千七百一万円も払えるんですか?と、言うより払うんですか?」

普通でない数字である、とハヤテは思ったことだろう。ハタチにもなってこんな金額に触れる機会なんて普通はある訳ないのだから。
ハヤテどころか、ジェノサイドの全員が今自分が所属している組織に、どれほどの貯蓄があるなどと言う事を知らない。
そもそも、誰も知らず、リーダーだけの極秘事項だからだ。

装甲車が大量にある時点でおかしいとは思ったが、今回の法外な数字を目の当たりにして自分たちが今、深部の頂点の人間だということを自覚する。
いや、そもそもな話、深部の頂点に居てもそれほどの大金持ちになれるのか不思議でたまらない。

事実を発掘してもまた新たに疑問が生まれるだけだ。結局何も解決しなかった。

「払うよ。それくらいなら失っても問題ない。それとも、自分の生活が心配か?だったら安心していいよ。お前達の生活費を省いた上で出した値だから」

今目の前にいる男は石油王か何かか、と一瞬思いもしたが今なら自称されても納得がいく気がする。

などと二人で会話しているうちに味方が集まりつつあるときに。
ザワザワと不穏な騒ぎが起きた。

何事かと思い、入口へと目をやると、ミナミが外に出てきたところだった。

「ミナミ……?」

無言でジェノサイドのもとへと寄ると、一言。

「あんた馬鹿じゃないの?基地の居場所教える組織の長がいていいわけ?」

口調が元に戻ってる。
顔色もどことなく元気の良さそうに見える。

そんな直ぐに変わるものなのかとキョトンとしていると、

「んで?深部の人間集めて今からやっつけにいきましょー、お礼に四千万バラまいちゃいまーすとか言っちゃってさぁ……あんたどんだけ頭のネジ吹っ飛ばしてんのよ!今どんな事しようとしてるか分かってるの!?」

「分かんねぇよ。生まれた反動で頭のネジが飛んじまったからな。そもそもそんな考えが思いつかねぇよ」

状況も忘れて冗談を言ってみる。真顔での発言だったので本気と捉えたショウヤ辺りが頭を抱えだした。

すると、

「ぷふっ」

と変に吹き出してミナミが笑った。

あの時以来で彼女が笑ったのは今日が初めてだったかもしれない。その顔を見て、ジェノサイドも笑う。

「はぁ。さて、と。笑い疲れたところでそろそろ出発するぞ。お前は来るのか?」

廃工場の裏に、やや大きめの倉庫がある。これも元は工場の物だったが、今となってはそこに装甲車などを置いている車庫のようなものだ。
その倉庫へと自分の仲間、深部の人間を連れてそこへと向かう。その途中、隣を歩くミナミに一つ最後の確認をしてみた。

「行くよ。あんたにここまでされたら行かないのも気まずいからね」

何ともつまらないが真面目な理由だった、とため息混じりに「あっそ」と返す。

装甲車に乗らない人たちはそれぞれポケモンを出し、その内のメタモン使いの人間が自分のメタモンを'へんしん'させてレックウザやルギア、カイリュー等に姿を変えて一人でも多くの人間を乗せようと努力している。

「それじゃあ乗れる奴から車に乗ってくれ。最低でも一人は運転出来る奴乗せてけよ。まぁ事故っても頑丈だから死んだりはしねーと思うけど」

「そういう問題じゃないでしょ……」

「あ、公平ではないと思うけど早いもの順な。乗れなかった奴は悪いけど、ポケモンか別の手段で移動してくれ。特に集合時間はないから交通機関でもいいし」

万が一装甲車に乗れない人間がいても、今日ここに来た深部の人間に、メタモン使いがいる。そいつの使い方次第によるが、ここに集まった全員が移動できるようにしてはいる。最悪到着次第襲撃としているので、いつ来ても問題は無い。

「んじゃ、乗ってくれ。予めナビに目的地に入れといたからそれに従うだけでいい。交通マナーだけは守れよ。最悪事故起こした場合金払わないってこともあるからな」

これだけ釘を刺せば大丈夫だろう。「なんで装甲車にナビなんか……」とか、「用意周到だなぁ……」などチラホラ聞こえたが別に問題は無い。

自らの仲間を乗せ、ジェノサイドはエンジンを始動させる。

「あんた、車運転できたんだ」

「去年免許取ったから本免以降運転してねーけどな」

「は?」

ミナミの中で一気に不安が広がる。教習所の最終試験以降運転していないと言われると流石にビビる。
深部の活動で忙しいのは仕方ないにしても率先して運転席に向かうのはちょっと違うんじゃないかと思える。

それでも。

「……ありがとね」

「えっ、何が?」

「なんでもない」

ほぼ病む寸前だった自分を、行動できるまでに手助けしてくれた事に、感謝の気持ちでいっぱいだった。
自分のため、レイジの為にここまで頑張ってくれた彼に、ミナミは言葉に表さずとも感動していた。
当の本人はその事に気づかなかったが。


2014年11月19日。

オメガルビー、アルファサファイアの発売日の二日前。

この日、「流れ星にしては遅い緑の流星が見えた」とか、「米軍でも自衛隊でもない謎の装甲車の群れを見た」だの、多くのな物騒な目撃情報がされたが、特に注目すべきは深部の世界全体としての反応だ。

ジェノサイドと、彼と同じ思いを持った有志で集まったこの集団は「深部連合」と名付けられ、議会に対し反乱を起こそうと立ち上がった事例として人々に記憶されることとなる。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.155 )
日時: 2019/01/11 16:31
名前: ガオケレナ (ID: 1Lh17cxz)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


運転は乗る側も運転する側もずっと不安であった。
遅れたブレーキングにより急に停まったり、衝撃で前のめりになったり、逆に早すぎて停まるのが途切れ途切れになったりと。
この中に乗り物酔いする人が居なくて本当に良かったとジェノサイドは本気で思ったことだろう。汗が大量に流れている。ハンドルもびしょびしょだ。

「何とか……何事もなく……着いた……」

呼吸も荒く、手も若干震えていた。そこに、深部最強の人間の姿などどこにも無い。

さすがに議会場の真ん前に停めると怪しまれるので、少し離れた位置でその建物を眺めている状態だ。

とても現代風の建物だった。出来た時代が四年前なので建物自体とても新しい。
とびっきり豪華という訳でもないが、少し特別感のあるその建物は議会場と言われても納得はする。

だが、その割には建物が小さすぎる。
会議室が一箇所しかないのではないのかと思うぐらいに。
恐らくこのような議会場は他に何箇所もあるのだろう。それを考えると、そこに杉山がいる可能性は……

「よし」

ジェノサイドは強くハンドルを握りしめ直した。
今度はルールに縛られることなく走らせる、と。

「このままあの建物に突っ込むぞ」

「え?」

信じられない言葉が聴こえた気がした。
ミナミやハヤテ、ケンゾウの他に、見知らぬ深部の人間が乗っていたが、その誰もが目を丸くしている。

こいつ本気で言ってるのかと。

「え?え?ちょっと待って、それどういう……」

「皆ベルトしてるし大丈夫だな。この車で多少スピード出してぶつけてもこっち側に被害は一切ない。憎き議会を潰すチャンスだ。いくぞ」

言って、思い切りアクセルを踏む。今まで我慢していた不満をすべてぶつけるかのように。
そのクルマは獰猛な野獣のように走り始める。もう獲物はすぐそこだ。
ぐん、と急発進したもんだから体が引っ張られる。

「え、え、ちょっと待って……」

などと言ってもただ一直線に議会場に向かうのみだ。
「待って待って待って!!!」

とうとう車専用の出入口にかけてある門をぶち破った。
ゴン、と車にしては嫌すぎる音が車内に響く。

門を破り、敷地内を停まる事なく走る。
もう入口が目の前に見えてきた。

「いや、ちょっと待ってってばいやあぁぁぁぁーー!!!」

反射的に叫ぶも、効果は無し。

窓ガラスや壁を思い切り破壊して車体の半分程を建物内に埋める形で車はやっと静止した。

普通の車とは違って反動で頭を強く当てるような物、例えるならダッシュボードなどがなく、ガラ空きだったので怪我をすることはなかった。

ただ、後部座席の人が心配だった。
自分が座っている椅子のせいで怪我をしていないか。

ミナミは隣で運転していたジェノサイドを強い怒りを持って睨みつける。

「ちょっとふざけんのもいい加減にしてよ!お前周りを考えて行動できないの!?」

珍しく強すぎる程に当たってみるが、それに耳を貸すことなくジェノサイドは車から颯爽と降りてしまった。

「ちょ、聞いてんのあんた!」

釣られて彼女も車から降りる。

中はえらい騒ぎになっていた。

その場に倒れる者が多数。
受付辺りをやっていたのか、議員にしては若い女性が黄色い声を上げている。そのせいで余計混乱に塗れる。
腰が抜けて動けない者、逃げ惑う人々など文字通りの惨事が広がっている。

「情けねぇ……それでも議会の人間かよ」

ジェノサイドはボールを二つ取り出す。一つはメガシンカ要因のボスゴドラ、もう一つはゾロアークのものだ。

「俺らを束ねる人間気取るつもりならこれくらいの対策しろやあぁぁぁ!!!」

ボールから巨体にして文字通りのモンスターともいえるボスゴドラが出る。状況も相まってかなり恐ろしく見えてしまうようだ。

次々と到着した深部連合の人間がポケモンを出し始める。遂に、突撃が始まった。

「杉山どこだぁぁ!!」

「探せ!あの野郎を探して見つけ出してぶっ殺しちまえ!」

今にも彼等はポケモンを使って建物ごと破壊でもするのではないかと議員が、非戦闘員が、ミナミが、ジェノサイドが思った。

しかしその瞬間、ジェノサイドは指を鳴らす。

すると、破壊されたはずの壁が、飛び散ったガラスが一気に吹き飛び、一箇所に集まり出す。
突っ込んだはずの装甲車の姿が消える。

次の瞬間には、つい三分前までの、今まで通りの綺麗な議会場がそこにあった。

「えっ……?」

不思議に思い、外に出てみると、明らかに先程とは離れた位置に車が止めてある。
そういえば、自分の座席に人がぶつかるような衝撃があったかどうか思い出すと……

「ま、まさか……!?」

議会の人間も全員が呆気に取られている。一分後に殺されると思いつい腰が砕けた初老の議員は、綺麗な壁を見つめて結局動けずにいる。

「あんた、まさか!?」

言おうとしたところでジェノサイドが手を向けてきた。静止の合図だ。

「しっかりと正直に答えろ。杉山はどこだ」

目の前のよく分からない状況に空いた口が塞がらない人たちはその質問に応じることなかった。

今の空気を感じて、もう一度。

「もう一度答える。杉山渡はどこにいる。答えろ。またやるぞ?車で突っ込むの。今度は本当に」

再び叫び声が聞こえる。
逃げ惑う姿が目に映る。

その光景にジェノサイドはつい嗤ってしまう。

(こいつら……議会の癖してポケモンの特性……'イリュージョン'すらも知らねぇってのかよ)

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.156 )
日時: 2019/01/11 16:43
名前: ガオケレナ (ID: 1Lh17cxz)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


入口含むロビーに杉山の姿は無かった。
普段来ないような場所なので建物の内部を知っている訳が無い。
ここにある部屋をすべてくまなく探すしかなかった。

相変わらず今がどんな状況か分からない議員たちは逃げるばかりで何も言おうとしない。

「はぁ……仕方ねぇ。あんま乱暴な事まではしなくていいからとりあえず探すしかねぇな。杉山見つけたらちゃんと連絡しろよ。勝手に殺すのはNGな」

果たしてこれを聞いていた者は居たのだろうか。
言っている途中から他の仲間たちが逃げ惑う議員を面白がりながら追って、しまいには攻撃している。

「集めた仲間は三百五十七人……全員にルールを課して守らせ、命令するのは流石に無理があるか。こりゃ死人でるかもな」

ニヤッと不気味な笑みを浮かべ、近くでのびていた中年の議員に近づき、胸ぐらを掴む。

「恨むなら俺らじゃなく杉山を恨むことだな……?奴がいなけりゃそもそも俺達は結託してここに来る事が無かったんだからな。奴が動いた結果だと思え」

「や、やめてくれ……命だけは……」

「安心しろ」

掴む手の力を弱める。が、殺意を込めた目を維持したまま、まだその手を離さない。相手の不安を煽るためだ。

「俺はアイツらと違って無闇に殺したりはしねぇ。ただ杉山の居場所を教えるだけでいいからよ」

「教えて……どうする気だ」

「決まってんだろ。殺すんだよ」

「……!?」

その中年の議員は文字通り青ざめた。目の前の人間がジェノサイドであり、この状況を見ると本気で言っているとしか思えない。

「お前は……ここまでやっておきながら……議員を殺害する気なのか……そんな事したら、どうなるか……分かってるのか?」

「どうなるかって?おいおい、今まで俺は戦いに明け暮れてたんだ。それが多少増えるだけだろ?別に痛くも痒くもねぇよ」

話がズレていき、無駄な会話を続けている時だった。

奥から皮衣を来た、相変わらず寒そうな格好をした黒須が出てきた。

「おいジェノサイド。何そこでオッサン虐めてんだよ。こっちは適当にジジイボコってたら吐いてくれるみたいだぞ。杉山の居所をよ」

ジェノサイドはため息をつくと掴んでいた手を離した。反動でその議員は床に倒れる。

相変わらずこいつらは野蛮だとつくづく感じた。自分は自分たちの仲間や、今まで戦った敵の評価から、まだまともだと思っていた。
そんな自分が人をまとめても野蛮な人間は野蛮なままだと思い知らされる。

「まぁどうせ今日限りだしな」

「あん?何がだよ」

何でもねぇ、と吐き捨てるように言いつつ黒須のもとへ歩き、彼がさっきまで居たであろう部屋へと向かう。

そこは何かの資料室のようで、本棚で壁を埋め尽くしている部屋だった。
あまり広くないその部屋の奥で、辺りに本やプリント類で散らかした中に、一人の議員が本棚に寄り掛かる形で座りこんでいる。
ジェノサイドはしゃがみ、その男に声をかけた。

「なぁ。杉山の居場所知ってんだってな。どこにいるんだ?」

「……。」

薄く目を開けて伺おうとする男だったが、口をぱくぱくと動かすだけで声は聴こえない。
しばらくしてその男は再び目を瞑ってしまう。

「気絶……か。おめぇやりすぎなんだよ。聞き出せるモン聞けなくなっちまったじゃねぇか」

「わりーわりー。日頃から議会にゃ不満ばかりあったもんでよー」

頭の後ろで手を組んで上機嫌そうにその部屋を出ていったので、ジェノサイドも彼について行く。

「あとまともに話せて居場所知ってる奴はどれほど居るかだな」

「しらね。適当に探して無差別に殴っときゃいいだろ」

「だから殴るにしても加減しろっつの。一番の目的は議員の殲滅じゃなく杉山の打倒だからな」

「へいへーい。リーダー様は俺らと違って言葉も違けりゃ心も違うのな」

今では一応味方でいるはずだが、黒須の言動がかつて戦った時から変わっていない気がする。
やはり本音ではジェノサイドの事が嫌いなのであろうか。あまり喋ると今度は自分の背中が刺されかねないので黙ることにした。

ジェノサイドは次に、廊下を歩き、さらに奥にある会議室に入ってみる。
深部の仲間が結構おり、それぞれ議員を攻撃している。
彼らも加減せずにやっているように見えるため、ここでも収穫は無しと判断し、他へ移る。

他の会議室も、ついでにトイレも眺めたが何処も同じだった。

不満気にロビーへと戻ると、先程会話していた中年の議員が相変わらず倒れていた。
恐らく、あれから倒れていたせいで誰にも相手にされなかったのだろう。

まずは受付嬢に聞いてはみるものの、

「わ、私達は……一人ひとりの議員のスケジュールまでは把握しておらず……その、申し訳ないのですが……分かりかねます……」

睨みつつ舌打ちをして中年議員へと寄った。
そろそろストレスが溜まってきたところだ。ここまで上手く行かないとなるとイラついてしょうがない。

「お前からはまだ聞いてなかったな。言え。杉山はどこだ」

その議員は目を開けた。

「またお前か……私は知らない……他をあたってくれ」

その言葉を聞いた途端、ジェノサイドは首を掴み、力を加える。

「……ひぃっ……!?……がぁっ……」

「いいから答えろよ。こっちは思う様に事が運ばなくてイライラしてんだ。同じ議員の人間が知らない訳ないだろ?死にたくなければ言えよ」

周りに影響されつつあるせいか、ジェノサイドにも殺意が芽生えてきている。
このままでは本当に殺めてしまいそうだ。

「分かった分かった……言う、言うよ……」

苦しいのか、ジェノサイドの手を叩き、もがきながら話す。
それで少し冷静になったのか、ジェノサイドも力を抜く。

「げほっ……杉山さんは……今……武道館にいる……明日……イベントがあるらしくてな……準備に取り掛かってるはずだ……」

その男は咳をしながら苦しみつつ、絶え絶えに言う。そのせいで若干聞き取りにくかった。

「本当だろうな?それ」

立ち上がって入口へと目をやる。外にもチラホラと仲間が待機している。

「あぁ……本当……だよ。私も……死にたくないから、な」

「おいジェノサイド。おめぇまたそのオッサン虐めてんかよ。好きだなーお前も」

廊下から黒須が現れた。相変わらず機嫌は良さそうだ。

「仕方ねぇだろ。まともに話せたのこいつだけだったんだぞ?」

「へぇー。それで話は聞けたの?俺もちょっと混ぜてよ」

と、言って顔目掛けて足を上げた。踏みつぶす気か。

「やめてやれ。もう話は聞いた。そいつに価値はねぇよ」

「とか言って俺が今踏もうとしてんのを止めてんじゃん。無用な攻撃はしないってか。やっさしーなぁ。ジェノサイドも」

足を振り上げるのをやめ、代わりに背中を軽く蹴った。

「んで?あの野郎は何処にいんのよ」

「武道館」

「はぁっ?」

面倒からか、振り向きもせずにジェノサイドは外へと出ていってしまう。

「んだよ、あいつも少しくらい暴れればいいのに。こんな奴ら野放しにするからそもそもこうなるんだろうが……」

さぞつまらないと言いたげに吐くと、黒須も出ていった。


ーーー

「もしもし、私だ。塩谷だよ」

「塩谷ィ?なんでお前が俺の番号を知ってんだよ」

いきなり電話が掛かってきたのは議会場から外に出て装甲車に乗ってすぐの事だった。
教えてもいない番号を塩谷が知っているのが何とも不気味だ。

「ちょっとしたツテでね。何とかして手に入れた。ま、使うのは今日限りだろう。ずっと持っていてもリスクになるだけさ」

即座に武内が頭を過ったが実際は分からなかった。そもそも武内に番号を渡してなどいないからだ。

「それで何の用だ。今ちょっと忙しいんだが」

「知っているよ。君、今立川の議会場にいるみたいだね。すぐにこちらに伝わったよ」

そりゃ前例のない騒動を起こせば情報の伝わりが速くなるのは当然の事だ。
黙って彼の言葉を聴く事に徹する。

「彼はそこにはいないよ」

「知ってる。さっきそれを無理矢理聞いた」

「では何処にいるのかも知っているのかな?」

「あぁ。武道館だってな」

地名を挙げた途端、電話の向こうで沈黙が広がった。何かあったのだろうか、やや不安になるも、すぐに彼の声がした。

「そうか……。じゃあ大丈夫だな。私もそこにいるよ。いい結果を期待しているからね」

と、だけ言うと一方的に切られた。

「やっぱ議員の人間は皆こんな感じじゃねぇか……どんだけ自分が正しいと思ってるんだか」

そっくりそのまま自分たちに当てはまる言葉だった。
深部連合の全員にはメールやスマホのアプリを使って武道館に行くよう支持を飛ばす。
すぐさま、自分の視界にはレックウザに乗って空を飛ぶ者や、他の装甲車を走らせて先に走る者などが多数だ。

「んじゃ、俺らも行きますかね。最後にパーッと革命成功させちゃおうぜ」

正確には革命ではなく反乱なのだが、彼等からして見れば正にそれは革命のようだった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.157 )
日時: 2019/01/11 16:53
名前: ガオケレナ (ID: 1Lh17cxz)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


日本武道館。
東京都千代田区に建つその厳かな建物は見る者を圧倒させる。

スーツ姿で九段下側の入口にて佇む影が一つ。

塩谷利章。

下院議員の一人であり、ジェノサイドら深部の人間を煽った張本人である。
彼は今、明日行われる杉山渡の表彰式の準備に備え、ここに来ていた。

「明日は杉山君の、下院議長になったことへの表彰式があるもんだが皮肉かな、まさか今日あの子たちが立ち上がるとはね……」

皺の多い初老の男性は空を見上げてみる。

何物にも染まっていない、綺麗な青空だった。
議会もこれくらい綺麗であればいいのにと思ってしまうくらいに。

「ん?」

だからこそ、それは目立った。たとえ一点であっても、周りとは異質な存在であれば嫌でも目立ってしまう。

それは、緑色の流星だった。

隕石の如く、地上へと迫り、落ちてゆく。
辺りに強風と大量の砂埃を起こしてそれは着陸し、何事も無かったかのように乗っていた人間が降り立つ。

「君……たちは?」

あれほどの負担を負いながら平然と立つ人たちに疑問が拭えない。
彼らがジェノサイドが呼んだ深部連合の者達であり、流星の正体がレックウザだというのは流石に詳しくない塩谷でも分かったことだが、だからこそおかしな点が生まれてくる。

深部の者達は塩谷の存在になど目もくれることもなく、次々と降りてゆく。

「ご苦労、ランクルス」

そんな中、一人の人間が同乗していたランクルスをボールに戻した姿を偶然見かける。
そこで疑問は解消された。

(なるほど……エスパータイプのポケモンの力を使って直接体に浴びるエネルギーを変換したか……)

「ジェノサイドはまだ来てねぇようだな」

乗っていた一人の人間が仲間らしき人に言っている。

「まぁ……あいつら車だろ?時間かかるだろ」

「そうだな。それまでどうする?先に中に入って杉山殺るかここで待つか」

持ち主であろう男が、レックウザをメタモンに姿を戻してからさらにボールへと入れる。その時に、塩谷と目があった。

「よう。どこかで見覚えがあると思ったら」

メタモン使いの男は握手を求め手を差し出した。

「わざわざ俺の元へ出向いてくれたオッサンじゃんかよ」

「覚えていてくれたのか。嬉しいね」

二人で握手を交わした。意外と塩谷の手がガッシリとしている。

「そりゃ、金払ってくれるんだろ?ジェノサイドからもアンタからも貰えたら万々歳さ」

一部を除き、塩谷と接触した深部の人間の中には、見返りを貰うことを約束されている人もいる。
偶然にも、ジェノサイドも同じ行動を取ったのでそれに従うつもりで彼らは此処に来ていたのだ。

「ふむ、見た限りだとジェノサイド君などもまだ此処には来ていないようだね?」

塩谷は今ここにいる深部の人間の数を数え、その結果が十五人であった。三百人には程遠い。

「他の奴らは車でここまで来ている。じきに来るだろ。あと俺らと同じくポケモンで来てる奴とかも」

「なるほど」

などと会話をしていた時だった。
遠くから、光線のようなものがこちらに迫ってきた。

「!?」

その男は塩谷を見捨て、自分だけその場から離れ様子を見守る。

塩谷を狙っていたわけではわけでは無かったので彼には当たらなかった。その場に動かずじっとしていても、直撃はしなかったのだから。

「だ、誰だ!?」

「おい大丈夫か!!」

仲間の声が聞こえる。男は大丈夫だと答え、光線が出た先を見つめると、やはり原因はあの男だった。

「現れたか……」

憎むべき対象が現れ、気分が高ぶる。

「杉山……っ!!」

「ご苦労だったな塩谷ィ!君のお陰で深部のガキ共を誘い出すことが出来たよ」

自信あり気な力強い声だった。

「杉山……くん……!?」

塩谷はその姿に対し内心ヒヤヒヤしていた。
彼は自分が深部と手を組んでいることを一切極秘としている。ましてや、仕事上仲間である人間を殺そうとするなど大問題だ。
この時点でそれがバレるのではと思ったが……。

「君は無事か?彼らは手段を選ぼうとしない非道な人間たちだからな。先程情報が入ったよ。何でも立川議会場が彼らによって襲撃を受けたそうじゃないか。全く、酷いことをするもんだな」

てめぇが言えることかと、そこに居合わせた深部の者達は思った事だろう。

光線の正体がルカリオだと言う事を知ると、各々ボールを取り出す。

「いいタイミングじゃねぇか。まさかお目当ての人間がわざわざここまで来てくれるなんてよぉ!」

ボールを投げ、それぞれメタモンやハッサム、メタグロス等を展開する。

「いいか、俺達のポケモンバトルにルールなんざねぇ!直接あの野郎をぶん殴って殺すぞ!!」

メタモン使いの男が入口前へと佇む杉山に向かってメタモン共々駆ける。

その瞬間、メタモンもルカリオへと変身した。

「俺のメタモンの特性は'かわりもの'だ!テメェだけが有利な状況なんて存在しねぇからな!!」

それまでは遅かったメタモンが、変身した瞬間、走る速度が速くなる。
階段を一気に翔け、狙いを定めた時だ。

「ほう、メタモンが変身したルカリオねぇ。面白い戦いをするようだが……甘いな」

杉山の右腕が光る。当然、光源はメガリングだ。
眩い光を纏い、何かしらのエネルギーが辺りに飛んだと思った時には、姿が変わっていた。

「メガシンカだと!?」

メガシンカの道具を持っていない彼らにとっては衝撃的であり、驚異的な存在である。

ルカリオよりも速く、より正確にメガルカリオが動く。
ルカリオは階段を翔けたところだった。だが、メガルカリオはその場でひとっ飛びし、空中に留まるルカリオの懐へと一撃を放つ。

「'インファイト'」

思いが込められていない、ただ敵を排除するためだけの動作としか考えていない冷たい声が突き刺さる。

「まずっ……」

その一瞬で危機を感じた。
メガシンカしたポケモンがここまで恐ろしいとは思わなかったからだ。

(速さ、技の正確さ……そして回避能力すべてにおいて逃げれねぇ……やべぇっ!!)

思った時は遅かった。

避けることの出来ない状況において、立ち上がっていた二つの影はすぐさま一つへと減ってゆく。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.158 )
日時: 2019/01/11 19:05
名前: ガオケレナ (ID: cFBA8MLZ)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「ねぇ、まだ着かないの?」

「仕方ねぇだろ。都内は常にグニャグニャしてんだ。そう簡単に行けるかっての」

「とか言ってさっきからノロノロじゃない!」

ジェノサイドたち装甲車組は都会の交通事情の犠牲者と化していた。

ただでさえ運転に慣れていないのに、流れとはいえ都内に放り出されたらたまったものではない。
汗が止まらなかった。

「ほら、今だよ!早く行って!」

「お、おう……」

さっきからこの調子な気がする。
自分よりも助手席に座っているミナミの方がこの運転に向いている気がするのは気のせいだろうか。
恐る恐るハンドルを切り、アクセルを強く踏んだ。

「……」

内心、ヤバいと思った。本来進むべき道を間違え、直進してしまったからだ。
だが、誰も何も言わないため、バレていないことを祈る。しかし、

「リルートします」

と言うナビの音声が静寂に包まれた車内にこだました。

「……あんた、なに道間違えてんの」

「ごめん、どう頑張っても曲がれなかった」

「あんなの無理矢理入るべきなのよ!何でそこで狼狽えてんのよ!」

今ここにあるのは果たして深部最強のジェノサイドなのだろうか。
慣れないことをしてオロオロしながら、それを仲間に強い口調で叱責されるなど誰が予想しただろうか。

遠回りしつつ、本来のルートへと戻る。

「……」

「イメージガタ落ちね」

「頼むから今それを言うな……」

今あるのはただの気弱な大学生高野洋平だった。

「これじゃ、すぐには着きそうには無いッスね」

「んー、事故ってもこの車じゃ俺らは平気だと思うがそれだけでも問題だよな……」

後ろは後ろで盛り上がっているが、確かに彼らの言う通りすぐには着かないだろう。


ーーー

形勢が変わってしまった。
最初に日本武道館に到着したポケモン移動組は全員散り散りとなってしまう。

理由は簡単。

杉山の呼び出したメガルカリオとプテラによって苦戦を強いられ、背後から彼の部下が群れを成して反撃してきたからだ。

そのせいで最初に彼に挑んだ四人は倒れ、後の者は逃げるなどしてバラバラになった。
その結果、日本武道館は杉山と彼の部下に占拠、包囲され、迂闊に近寄ることすら難しい状況へと変貌してしまったのだ。

「ったく……簡単に行けると思ったばっかりによぉ……何でこうなるかな?」

車組の中では真っ先に到着したルークは状況確認した後、最寄りの駅である九段下駅で待機する運びとなってしまった。

「仕方ないっすよ。レックウザ組が失敗したせいで、ってかそこまで視野を入れていた杉山の糞野郎の作戦だったんですよ」

彼の仲間が気楽そうに言う隣でルークは舌打ちする。

「大体皆バラバラなせいで集まりが悪ぃんだよ。ちゃんとまとめた上で一箇所に集めろってーの」

そんな彼等を纏めなければならないリーダーが、都内の道路に悪戦苦闘していることなど知る由もなかった。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.159 )
日時: 2020/01/27 14:30
名前: ガオケレナ (ID: cL1TK97H)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


ルークが九段下駅でイライラしていた頃に、車組が次々と到着しだした。
情報が既に出回っていたため、当駅に集合する運びとなっている。

「遅ぇぞ、モルト」

Bランク組織、"爆走組"のリーダー、モルトと呼ばれた男が駅に到着した。
彼とルークは交流があったため、互いに仲は良好である。

「すまん、道が混んでたんだ。でもジェノサイドよか速いからまだいいだろ」

「逆にアイツが遅すぎるんだよ」

思いを共有させ、増えた人数で貧乏揺すりをしていたときだった。

「ごめん!!かなり遅くなっちまった!」

入口の方から聞き慣れた声が聞こえる。

「テメェ!遅すぎんだよ!!一体どんな移動してたらこんな遅くなんだゴルァ!」

不満をすべてぶちまけるように怒鳴る。地上には息を切らしたジェノサイドが立っていた。

「状況は?」

「ったく、情報回したっきり変わってねぇよ。武道館はヤツらが占拠、俺ら連合軍は全員この駅にて待機。逆に俺達がこの駅を占拠した感じだぞ」

「武道館の状態は……」

限りがあるが、地上から眺めてみる。

「常にポケモン?が飛んでいるな」

「敷地内はヤツらで溢れ、上空からゴルバットが監視している。入口も封鎖されてるよ」

モルトも話に加わり、持っている情報をジェノサイドに与える。それを見たルークは呆れからかため息をついた。

「なんであいつらってゴルバットをよく使うんだろ」

ジェノサイドが眺めながらふと、呟く。

「あぁ?」

状況を忘れた発言により威圧的に発するルークだったが、こちらに意識が向いていない辺り効果は望めなかった。

「そりゃ、あれだろ。俺もよく分かんねーけど、隠密性と強襲性に優れているのがヤツらにとってはゴルバットなんだろ。アニメとかでもよく悪役が使ってるイメージあるし、多分そのイメージもあんじゃね?」

「ふーん、そっかぁ……」

何も考えずにふらっと歩くように見えたジェノサイドを見て、

「お、おいテメェ何やってんだ、迂闊に出歩いてんじゃねぇ!」

ルークが走り、後を追おうとしたとき。
いきなり立ち止まったせいで、彼はジェノサイドと衝突した。

「いてっ、」

「ぐあっ……、テメェ……立ち止まってんじゃねぇよ……」

ぶつけた肘を押さえながら、ジェノサイドを睨みつけるも、大してダメージが無かったのか何食わぬ顔で彼は振り向いた。

「別に何も考えてるって訳じゃねぇよ」

「じゃあ何なんだよ……」

「とりあえず皆出よう。それから……」

ジェノサイドは再び武道館の方向を見つめ、また全員に顔を向けた。

「入口まで行ったら、強行突破で行く。この状態でこの人数で作戦とか何か組んだとしてもバラバラになっちまう。ならば、バラバラになる前提として強行突破という名の作戦で行く」

「おいおいマジで言ってんのかよ……」

全員を外に集めて歩きつつ、不安そうに尋ねるも、この人数を見て納得しかける。

入口には三人の杉山の部下が銃器を構えて突っ立っている。
敷地内に多く配備しているせいか、手薄だった。

「やっぱアイツ本格的な馬鹿だな」

「あぁ。入口の守りを強化しないと意味がねぇってのに。よっぽど自分の命を守るのに精一杯らしいな」

ルークのその言葉が合図替わりとなったのか、彼らは一斉に走り出す。
三百人超えの人間がいきなり突入しては、たとえ銃を持っていたとしても捌けるわけがない。
突然のことに黒のスーツを着た部下たちは戸惑いながら銃を構える。

が、誰かが出したロトムにより、全員'でんじは'を浴びたことで無力化してしまう。
呻いてその場に倒れると全員が無傷のまま、突入に成功する。

入口を越え、橋の辺りに差し掛かると、警備にあたっていた黒スーツ軍団が彼らを見て叫び、人を集める。
が、総数は四十人弱。

何ら怖くないただの低い壁だ。

「ゴルバットだ!上空にいるゴルバットを降ろせ!」

一人の部下が叫び、一斉に各々のゴルバットを手元に寄せると、彼らを迎え撃つ構えを見せた。

だが。

「うおらぁっっ!!」

ルークのクチートが、モルトのドラピオンが、黒須のダーテングが、ミナミのエルレイドが、ジェノサイドのゾロアークが舞う。

「邪魔なんだよ雑魚共ォ!!」

四十人の黒スーツ軍団がそれぞれのポケモンを呼び出し、八十の壁となったとしても、三百の人がそれぞれポケモンを出して応戦すればそれは六百の槍となる。
壁にしては、乗り越えるのに容易な壁だった。

黒スーツと深部連合が入り乱れ、それを抜ける者が多数。そして、倒れる者は少数。

そこを突破するのに時間は必要としなかった。

橋を抜け、門をくぐり、遂に建物が見えてくる。
レックウザ組が撃破された九段下側入口に到着はするものの、彼らはそこでふと足を止めてしまう。

「おい、何止まってんだ走れ!」

後方から怒号が飛んでくるも、その足を進めることができない。

「ンだよ……これ……」

彼らの先には。

「今までの警備が手薄な意味が分かった……」

ジェノサイドはここに来て状況を理解した。

深部連合約三百人。それを余裕で超える程の黒い壁が、そこで待ち構えていたからだ。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.160 )
日時: 2019/01/11 19:34
名前: ガオケレナ (ID: cFBA8MLZ)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


ここを抜ければ武道館に入ることができる。
即ち、そこに杉山がいる。

しかし、

「おいルーク……これ一体何人いるんだ」

「知るかよ。数えるのも億劫になるっての。少なくとも俺らの倍はいるな」

丁寧にも、その黒スーツ軍団たちはポケモンをそれぞれ繰り出していた。強襲性に優れたクロバットやグラエナ、レパルダスなどが多く、他には格闘タイプのポケモンも見える。

「これ、どうするんですか。リーダー……」

怯えきった様子でひょっこりとハヤテは顔だけをこちらに向ける。

「どうするってもな……」

後ろを振り返れば今日集めた仲間がいる。多いことには多いが、前を見ればその差は歴然だった。

(ヤベェな……マジで倍くらいいるぞこれ……。このままじゃ全滅って可能性も……)

最悪な状況が頭に浮かんだ瞬間、ジェノサイドの頭の中で何かが吹っ切れた。

「このまま行くぞ」

「えっ」

「はぁっ!?おま、何言ってんだよ」

反応は予想通りだった。彼らは目を丸めている。が、考えは変わらない。

「ここまで来て、もうすぐゴールだってのに引き下がる訳にはいかねぇ。この中の誰か一人でもいい。中に入って杉山を一発下すだけでいい。後はここで時間稼ぎだ。行くぞ!!」

誰もうんともすんとも言わない中、一人で先頭を駆けた。

それに刺激されたすべての者も走る。

「うおおぉぉああぁぁ!!!」

迫る黒スーツとポケモンの猛攻を避け、ポケモンの相手は自分のに任せ、ジェノサイドは杉山の部下を狙って拳を放つ。

力づくで突破する気のようだ。

「ジェノサイドォォ!!!」

ルークが吠えた。

「んだよ、ルーク!」

「テメェはホント馬鹿だよなぁ!無茶な行動ばっかりやりやがって、散々オレら巻き込ませてよぉ!!」

「悪ぃな!こんな事予想してなかったもんでよ」

「ホントだよ糞野郎が!!でもな、」

ゾロアークの'ナイトバースト'と、フレフワンの'ムーンフォース'で自分を中心とすると、その周りすべてが吹き飛ぶ。
空いた空間で、ジェノサイドとルークは互いに背中を合わせた。

「今日限定だ。今この時間、オレらは仲間だ。互いにソイツに命掛ける気でいろよジェノサイド」

「最初からその気だ」

ルークは軽く笑った。

休む暇はない。どんなに撃退しても、彼らは迫ってくる。

「どんだけドMなんだテメーら……どんだけ来ても俺らに倒されるだけだっての!!」

腕に力を込め、自分のフレフワンに命令しようとしたその時だった。

建物の天辺に立つ一つの影が蠢く。

その影は何やらポケモンを出しているようだった。

「行きなさい、ゲンガー」

その不穏な動きに、一度だけ黒スーツ軍団の動きが止まり、全員が一点を見つめていることにジェノサイドは異変を感じた。

(なんだ……?急に……)

ジェノサイドもその方向を見ると、長身の人間が腕を光らせながら武道館の屋根の上にバランス良く立ち上がってゲンガーと佇んでいるみたいだった。

特に目に映るのは、長髪の白い髪で……。

「まっ、まさか……!?」

白装束のその服装の割には、血が固まったような赤黒い斑点によって不気味に彩られている。その服も所々破けており、余計に不気味さを放っていた。

ジェノサイドがそれに呆気に取られていた時。迫る部下がその隙を狙うべく技を放った。

(やべっ、避けれ……)

「てめっ、ジェノサイドぉ!!」

ルークが叫ぶが時遅し。ズルズキンの膝蹴りが当たろうとするまさにその時。

不意に、ズルズキンの動きがピタッと止まった。

「……え?」

手で顔を守ろうと無駄な努力をしたジェノサイドにとっては予想外だった。

それだけではない。周りの黒スーツたちのポケモンはおろか、その黒スーツ本人も動きを止められている。
止まっているよりかは、無理矢理見えない力で抑えられている感じか。

「なんだ、これ……」

「何が、起きてるんですか?」

もしやと思い、不気味な影にまた目をやると、ゲンガーだったポケモンはメガゲンガーへと姿を変えていた。

止められた動きの正体はメガゲンガーの特性'かげふみ'のようだった。
それだけで終わるものかと思っていたジェノサイドの頭上からゾッとするような一言が響く。

「'ほろびのうた'」

直後、頭が割れるかのような、想像を絶する不協和音がすべての者に降り注ぐ。

「うわあっ!!」

「ぐああっ!」

「うわああ!!やめろ……やめろ……っっ!!」

敵味方関係なくすべてが対象の技であるため仕方のないことだが、果たしてその影は誰を狙い、何が目的なのか全くもって不明に見える。

だが、その悩みはすぐに消え去った。

その影はひとっ飛びで地上に降り立つと、ジェノサイド達に顔を合わせることなく、呟く。

「範囲が限られています。すぐさまポケモンをボールに戻し、あちらへ」

その影が、男が指差した方向には無防備な武道館への入口がある。

この苦しみから逃れようと大勢の群れが一斉に走り出すも、杉山の部下らは動けずにいた。
自分らの仲間が全員建物内部へ走り去ったあと、その場に残ったジェノサイドはその男に向けてこれだけ言うと会場内へと入っていった。

「生きていたんだな、レイジ」

「仲間なのか?ジェノサイド」

「あぁ。俺にとって大事な、ね。それよりも行くぞ、ルーク」

話したいことは沢山あったが、今はやるべき事がある。今のこの状況を少し呪いつつも、喜びに包まれていた自分がいた。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.161 )
日時: 2019/01/12 20:18
名前: ガオケレナ (ID: Tm1lqrhS)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「さて、と」

一人外に残ったレイジは冷たい目を黒スーツの部下たちに向ける。

「あなたたちは私に銃を向けましたね。未熟な私はつい撃たれてしまいました」

痛みが残る中無理して体を動かしたため、顔に出していない以上に苦しい。
その箇所を撫でることで少しでも和らげようとする。

「今度はあなたたちが苦しむ番です。死にはしないでしょうが、しばらくそこで寝ていなさい」

一人の男が無理矢理銃を動かし、彼に向けた時だった。

カウントが0になる。

逃げることができない者達とそのポケモンすべてがその場に倒れる。
六百もの人間とそのポケモンがたった一撃の技の前に敗れた。それも、ジェノサイドの前で死んだはずだった人間によって、だ。

死んだと思われた人間に救われた事が、ジェノサイドにとっての最大の皮肉であったのは言うまでもない。


ーーー

日本武道館の内部、アリーナには座席付近にやはり杉山の仲間が彷徨いていたが、なす術なく深部連合の前に倒れる。
杉山はアリーナの中心に一人でいた。

「な、何をっ!!やめろ!!!」

子供のように叫ぶも、逃げられる場所などない。
まず、モルトが思い切り殴った。

へたり込む杉山を取り囲むように、深部連合三百数名が一人の人間に敵意を放つその光景は滑稽であった。

「どんな気分だ?今まで高い地位を保ってのーんびりと椅子に座りながら自分よりも下の、俺達深部を殺すのを楽しんできた人間が、こうして今その下の人間に殺されようとしているこのザマは」

「あ、あぁ……」

「どんな気分だ?絶対不可能だと言われていた議会を、俺らが蹂躙してしまったこの状況を、この現実を捉えてどんな気分だ!?」

ルークは嫌でも思い出してしまう記憶を吐き出すかのように思い出してしまいながら続ける。

「どんな気分だァ!?今から死にゆくこの時間を、嫌でも死ぬことが決まった今この瞬間を過ごすのはよぉ!?」

ルークは、これまで誰かを殺すことに躊躇しない人間だったものの、今回の件で大事な仲間を杉山に殺されて以来その考えが変わりつつあった。

でなければかつての敵であるジェノサイドに対して友好的な立場を築くことなど出来るはずがない。
ルークは今日初めて善人となれたのだ。

だからこそ、目の前の人間が嫌で、殺したくて、怒りが沸いて仕方がない。

「この……クソ野郎がああぁぁぁっっ!!!」

モルトに殴られて頬を押さえていた杉山に向かって走りだし、自分の拳にも力を込める。

「くっ、来るなああっっ!!」

杉山は反射的にボールを投げる。
ルカリオとプテラだ。
意識せずともルークの足が止まった。

「チッ、」

ルークはクチートのボールを放り投げる。

「まさか俺もこれを使う時が来るとはな……」

クチートに向け、ポケットに入っていた布を向けた。それを首に巻く姿を見て初めてキーストーンが装着されている事を知ることが出来た。

メガチョーカーとも言える代物か。
突如、クチートが光に包まれる。
メガシンカの模様の幻影を写し、メガクチートが降臨する。

「待て、ルーク」

杉山と対峙する形で佇む彼の肩を叩きながらジェノサイドが隣に立つ。

「お前がメガシンカを扱えたとしても二体相手にするのは分が悪いだろ。片方は俺が相手する」

「そうかい。じゃあどっちが先に杉山を殺せるか勝負ってわけだな」

ジェノサイドは無言で頷き、杉山は余計に顔色を悪くし出す。

「さぁ、行け!オンバーン!」

ダークボールから出てきたそれは、ボールの外見にはピッタリな具合の真っ黒な姿を見せる。

この状況を目にしたルークは小さく笑う。
数を持ってすれば周囲から迫るであろう脅威は怖くない。
つまり、今は目の前の杉山という男にだけ集中できる。

メガクチートとオンバーン。
互いが同時に動き出した。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.162 )
日時: 2019/01/13 16:37
名前: ガオケレナ (ID: ovjUY/sA)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no



「二人一組なんて……卑怯だぞ!!」

杉山が子供のように叫ぶも、誰も反応しない。むしろ、殺意が芽生えるだけだ。
オンバーンは一直線にプテラを、メガクチートも一直線上にいるメガルカリオを狙い、駆ける。

「'エアスラッシュ'!」

「'じゃれつく'だ!」

それぞれ自分のポケモンに指示を出すも、すべてが思い通りに運ぶわけがない。

プテラはふわっ、と翼を軽くはたくように羽ばたくだけで、さぞ余裕そうに技を避ける。

メガルカリオは技が来る前に動き、逆にまず'しんそく'を放つ。

「チッ」

メガクチートに高速技が当たるも、大したダメージは無いようだ。あくまで、回避の為に使った動きに、オマケ程度に威力がついたくらいか。
バトルの優先権はまだ杉山に少しあるように見えたが。

プテラが避けたと思った'エアスラッシュ'が、メガルカリオに命中した。

「!?」

予想外の技に、ついメガルカリオと、それを眺めていた杉山はよろけてしまう。

「なーに俺の相手がプテラだけだと思ってんだよ。隙見せんなよ?今日は二人が相手だからな?」

「くそぅ……」

杉山は悔しそうに歯ぎしりをした。


ーーー

「大した事ないのですね、議会なんて」

一撃にして無力化された大量の屍を眺めて一言。
かつて自分を痛みつけた存在がこれほどまで弱くて愚かだったものと考えると、自分に対しても彼らに対しても怒りが沸いてくる。
'ほろびのうた'で倒すだけでは甘いのではないか。そんな念に駆られるところだった。

「レイジ!!」

建物の方向から聞き慣れた声がする。
振り向くと、自分が誰よりも大事にしていた仲間が、ほぼ家族のような存在の女の子が一人。

「ミナミ……。リーダー……?」

ミナミが走り出し、抱きつく。
互いが互いに思ったことだろう。

"ここで会えてよかった"、と。

「本当にレイジなの……?」

レイジの服に顔を埋めて涙声で聞いてくる。

「えぇ。何も連絡を寄越さずに申し訳ありませんでした。化けて出てきていない、本物のレイジでございます」

そのいつもの調子の声で納得できた。

ミナミは場所を考えずに声を上げて泣いた。
今度は、嬉しい意味で。

「ところで、リーダー」

そろそろもういいだろと、レイジはミナミを離そうとするが彼女はピッタリとくっついて一切動かない。

「あの、ちょっ、リーダー……そろそろいいですか。今の状況をですね……」

どれほど揺すっても動かなかった。ミナミはただ胸の中で泣くのみ。
これ以上何かするのも無駄だと悟ったか、レイジも何かするのをやめ、彼女を強く抱きしめる。

「ただいま、リーダー」


ーーー

「邪魔なんだよジェノサイドォ!どけぇ!!」

'アイアンヘッド'の射程距離にたまたまオンバーンがいたことから、オンバーンごと吹っ飛ばしてプテラの元へ迫る。

「てめっ、何すんだよ!!」

「黙れ、テメェが邪魔なのが悪ぃんだよ」

その光景に見とれていた杉山は指示を出すのにワンテンポ遅れ、何も出来ずにプテラは'アイアンヘッド'を真正面から受けてしまう。

吹っ飛ばされたオンバーンといえば。

その反動を利用してメガルカリオへと一気に近づいた。

「なにっ!?そんなやり方アリかよぉ!?」

ふざけた本音を零す杉山だがそんなモン知るかと言った具合にオンバーンは突き進んでゆく。

「チマチマ戦うのも面倒だしなぁ、一発決めろ、'いかりのまえば'!」

当たれば相手の体力を半分に減らせる技だ。これが決まれば戦局が有利に傾く。
今度はさっきのようにはいかない。

目と鼻の先に迫った時。

「は、'はどうだん'!!」

オンバーンの目の前でそれは出現、そして撃たれる。

「避けろ!」

避けても当たる必中の技だと言うことは知っている。だが、それよりも前にこちらの技を先に当てねばならない。

「オンバーンの速さを……なめんな」

オンバーンが避けると、波動の塊の弾道は後ろへ行った後、旋回して再びこちらにやって来る。
迫るオンバーンをメガルカリオは時間稼ぎ感覚で後ろに徐々に徐々に逃げていくも、距離を詰めるのに時間はいらない。

そして、とうとう噛み付くことができた。

旋回した塊を受けたのも同時だった。
痛みでよろけ、オンバーンが一時的に倒れる。

その奥に見えるは……

「よくやった、ジェノサイド」

構えたメガクチート。

「ルカリオは俺に任せろ」

準備を終えたメガクチートは走り出す。

「'じゃれつく'!」

ここぞと言わんばかりに叫んだ。それに呼応してクチートも速度を上げた。
オンバーンを飛び越え、そのすぐ先にルカリオがいる。

「くそっ、何だかんだでコンビネーションイイじゃねぇか……おかしいだろ!」

メガルカリオは避けようとして、足を動かそうとするが、何故か動けない。

その理由は単純だった。

オンバーンの腕が、メガルカリオの足を掴んでいる。そのせいで動けずにいるからだ。

「な、なにをするんだ!!やめろ!その手を離すんだ!」

ほぼパニックに陥る杉山を嗤う調子で、

「おいおい、俺らを何だと思ってんだよ。ルールなんて持ち合わせていないただの深部の組織の人間だよ」

ルカリオを守ろうとプテラも動くが遅い。

果たしてじゃれついていると言えるのか疑問である程の恐ろしい威力を含めた暴力がルカリオを巻き込んだ。
砂煙が晴れると、キズだらけのルカリオが力無く倒れる。

「う、嘘だ……」

今だと言わんばかりに倒れたオンバーンが立ち上がり、プテラを睨む。

そして、

「'りゅうせいぐん'」

とっておきを今、放つ。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.163 )
日時: 2019/01/13 16:48
名前: ガオケレナ (ID: ovjUY/sA)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


世間では広いと言われているこのアリーナを、竜星群が一色に染める。
赤い尾を引きながら、一直線に対象に落ちていくその様は、暴力的でありながらとても美しく見えた。
耐久に絶対の自信があるとはいえないのに加え、アイアンヘッドを受けて万全の状態でないプテラに撃てばどうなるか。

予想は現実となる。

明日の表彰の為に整えた床を荒らし、数の暴力の前にプテラは成す術無く巻き込まれ、煙で姿が見えなくなった。

「くそっ!」

杉山は駆け寄るも、プテラは戦えるほどの気力が残っていない。
手当り次第に体に触れるも、期待していたほどの反応はなかった。

「おい……動け、動けって……お前が動かなきゃ負けちまうんだよ俺は!!」

半狂乱になって叫ぶも、効果はない。むしろ、生むのは深部連合たちの怒りだった。

ルークが一発思い切り杉山を殴る。
反動で彼は床にへたりこむ。

「う、ぐっ……」

「言え」

冷たい視線を浴びせ、低い声で唸った。ついでに、手の指を鳴らしている。

「何の目的でテメェは下院議長なんぞと名乗り、これほどまでに好き勝手暴れたか、言えよ」

「えっ……?」

殴られた頬を押さえ、ヨロヨロとした足取りで立つも、キョトンとしている。
杉山の精神状態の影響により質問の意図が理解出来ていないのだろうか、キョロキョロとしつつ沈黙を続けていると、

「そうだ杉山くん。君には説明責任というものがある。ここですべて話してもらわないとね」

陽の光が射す入口から、二名ほどの深部連合の者に保護されながら塩谷が出てきた。

「君が好き勝手やったせいで彼らも、そして議会も問題の対処に追われているんだ」


「あっ、そっそれは……」

フラフラとした足取りでふらつくと、再びその場にへたりこんでしまった。

「わ、私は……この国を変えたかった……」

何ともまあスケールの大きい話である。
そこにいたすべての人間が呆れた事だろう。

「世界地図を見てみろ。日本って国は……ふざけた国に囲まれているじゃないかぁ……」

その場に座り込んで涙ぐむその光景はいつかの山頂の決戦と酷似していた。

嫌でも思い出してしまうので、ジェノサイドは目を背けた。

「バカみたいな奴がトップに立ち、意味不明な言動はおろか意味を成さない核実験ばかりをする国……常にミサイルをこの国に向け、国土がバカみたいに広い癖に侵略を好む政府も国民性も国自体も野蛮な国家……そして挙げ句の果てには……。これまで幾度と無く経済的な援助をしてきたというのに何だ、向こうは反日を貫いて日々その活動によって国内外問わず味方を送り込んで我が国を貶めようとしている!反日活動を一番している国がどこだか知っているか?……この国日本なんだぞ!?あんなのが居なけりゃ……あんな野蛮な国家たちに囲まれてなければ、この国がいかに素晴らしかったか……考えたことはあるか!?もう嫌なんだ、終わらせたいんだよ私としても!その為にまだ世界的に武力と認識されていないポケモンを、それを扱える奴等を集めることができれば……」

「なるほど、」

早口かつ下らない演説会とも言えない演説に聴くフリをしていたルークはそこですべて理解した。

「要は周辺国をぶっ潰したいが為に今までの武力によらない、言わば新しい武力"ポケモン"を使って日本を動かしたかった訳か」

必死になって頭が揺れるほど頷いては呻く。見ているこっちが頭の痛くなりそうな光景だ。

「じゃあ何で将来、軍として使えそうな深部の組織を解散させたんだ。言え」

「そ、それは、確かに人は多い方がいい。だが、自分に扱いやすくなくてはダメだ。だから……不要なヤツは解散として……」

と言った時、ルークが一歩歩んで拳を握ったので反射的に自ら遮ってしまう。

「なるほどなぁ……」

と、下らない物でも見ている調子で塩谷も小さく呟いた。

無能な人間が議会に立ってしまったせいで彼らは犠牲となってしまったのだ。

「今の発言から察するに」

塩谷の声が響く。
塩谷と杉山の距離は遠くとも、人が少なくざわめきもないので、よく声が聴こえる。

「君は議会を独占したかったのかな?下院と上院をぶつけた上で徐々に下院に対する信頼感をなくさせ、終いには下院は廃止、いつしか自分が上院のトップにでもなるつもりだったか」

「なるほど、」

ジェノサイドも何となく理解出来た。

完璧な答えは見つからないものの、杉山の思惑がこれで分かった気がした。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.164 )
日時: 2019/01/13 17:01
名前: ガオケレナ (ID: ovjUY/sA)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「結局俺らは……」

ルークは自分のチームが襲撃されたあの惨劇を、今はいない仲間たちのことをふと思い出す。

「あいつらは……」

今度もルークは拳を握る。今度は、殴る拳ではなく、殺す拳だ。

「テメェのくだらねぇモノのために……ネトウヨじみたクソみてぇな計画のために死んでいったのかよ!!」

今までよりも強く、速く、走る。

鋭い眼光は杉山だけを捉え、もう溢れる怒りを抑えることができなくなっているようだった。

「ひっ!?」

怯え、狂った杉山はそれから逃げようとする。
が、杉山らが立っているのはアリーナの中心の壇上である。当然逃げ場などない。

「あ、あぁ……っ」

逃げられない事を悟り、恐怖を浮かべた顔で振り向くと、悪鬼がただ迫るのみ。

このままでは自分は死ぬ。それだけは嫌だ。

最後の最後に、命の危機があれば使おうと思っていた物をスーツの胸ポケットから取り出す。

「くっ、来るなぁ!!」

それを見たルークは目を見開き、つい足を止めてしまう。

その手には、手榴弾が握られていたからだ。

「それ以上来るな!!さもなくばこれを投げるぞ!」

野球のピッチャーのような素振りをし始めた。どうやら本当にそれを投げる気のようである。

「おい、マジかよ……ってか何でテメェがそんなん持ってんだよ!」

誰かがそんな事を叫んだ。当然杉山にもその声は届く。

「ふ、ふふっ……私を何だと思ってんだよクソガキ共……私は不可能を可能にする議員だぞ……?その気になれば、この国を救い、立ち上がらせ、世界すらをも導くことだってできるんだ……私は……最強の議員にして最高の男なんだぁぁ!!!」

ルークらは後ろに下がったにも関わらず、杉山は手榴弾のピンを外し、こちらに向かって振りかぶり、そして遂に。

思い切り転けるように倒れた。

恐らくここに居た誰もが恐怖を感じ、背を向け、逃げようとしたことだろう。
眼前に爆発物が投げられたら誰だってそうするはずである。

しかし彼は最大にして最悪の間違いを犯してしまった。

目の前の惨状に強く意識しすぎてしまったせいで振りかぶり、上げていた片足を強く踏み締める。
そのせいでバランスを崩し、転倒してしまった。


「あっ!!!??」

勝利の笑みと恐怖が混ざりあったおかしな顔をした杉山の顔の前で、手榴弾が真っ直ぐに落ちてゆく。

ドン、と強すぎるくらいの衝撃が床に伝わり、そしてそのまま世界は静止してしまったかのような静寂をしばしの間齎すと。

ボンと漫画みたいな爆音を轟かせ、黒煙を撒き散らして、彼を中心として爆発した。

最期に浮かべた顔を思うと、どれほど哀れであっただろうか。

特に、自滅という形で脅威が消え去ったとなるならば。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.165 )
日時: 2019/01/15 01:03
名前: ガオケレナ (ID: mKkzEdnm)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


深部連合はその日のうちに解散された。

後日、これに参加したすべての者に、本当に金が支払われた。
最後まで疑っていた者達はさぞ驚いたことだろう。自分の手元に、いきなり莫大な金が届いたのだから。

ある者達はこの一件でジェノサイドに忠誠を誓い、この組織に入隊希望する者が続出したとかいう事例も発生して、今やジェノサイドの基地は大量の構成員で溢れてしまった。

それに含まれるのかどうかは分からないが、あれから居座る男が一人。

「よう、まだ居たのか。お前」

「別に。用も済んだしその内帰る予定だよ」

彼の名はルーク。

大半の仲間を失って、かつての敵に仲間意識が芽生えた今、彼は悩んでいた。
あの後金を受け取り、自分の組織を再編成しようと思ったが、今更立て直すのも面倒だし何より過去の記憶が拭えない。
これからどうすべきか悩んだ結果、騒動の後二日も、ジェノサイドの基地に居続けていた。

「ま、とりあえず今日は新作の発売日なんだ。帰るならある程度遊んでから帰れよ」

「言われなくとも分かってるっての」

二人は今、外の景色を見渡せる所にいた。
ジェノサイドがオンバーンに乗って、集まった皆の前に姿を現した場所である。

「何もねぇな。この町は」

「そりゃ、ね。田舎だからな」

「まるで俺みたいだな。あの野郎を殺せても、死んだ仲間は戻ってこねぇ。得たものは何も無い。文字通り何もねぇよ。俺には」

ルークは真っ直ぐと、夕焼けに染まる空を眺めた。かつての記憶でも思い出しているのだろうか。

「んな事ねぇだろ。おめぇにも有るものはある」

それを察してか、ジェノサイドはかつての敵に優しく語りかける。
ルークがふと振り返った。

「お前には俺等がいるだろ。大事な、仲間が」

馬鹿馬鹿しくてつい笑ってしまった。この男は一体誰に対してこんな優しい言葉を投げているのだろう?

「ジェノサイド。俺とお前は敵だ。その気になれば俺はお前の命と、名誉と、財産を手に入れる」

彼に背を向けて、飛行フェアリーのポケモン、トゲキッスを出すと、それに乗った。
ルークに対する勧誘作戦は失敗のようだ……。

「けどな、」

それでも、ルークはまだ行こうとしない。まるで言い残した事をすべて言うまでは帰らないかのように。

「言っちまえば、お前を倒すのは俺だ。それ以外の人間にテメェが倒されちゃこっちとしてもたまんねーんだよ。だから"その時"はいつでも呼べ」

横暴なルークが、自分を対象としているのに「殺す」ではなく「倒す」と表現した。一体どんな気持ちの表れだろうか。

「テメェが死にそうな時は、いつでも駆けつけてやる」

それだけ言うと、一瞬にして去っていった。

「ったく、」

しばらくジェノサイドは夕日を見つめる。

「正直に言えよな、仲間にしてくれ。くらいよ」

ジェノサイドも笑う。最後の最後、ルークが別れ際に見せた笑顔を思い出して。

「しゃーねぇ。あのツンデレ野郎の為にも最後まで深部最強でいてやるしかねぇな」

誓うように叫ぶと、重い鉄のドアを開ける。
今日の夜も騒がしくなりそうだ。

Re: ポケットモンスター REALIZE ( No.166 )
日時: 2019/01/14 19:45
名前: ガオケレナ (ID: 9hHg7HA5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


11月21日。

ルークがジェノサイドの基地に別れを告げた同日。

その者たちは暗い地下室のような空間を歩いていた。

「面白い方向へ事が運んでいるようだな」

低くとも高くとも言えない男の声が無駄に響く。その男の後ろを老人が続くように歩く。

「杉山は死に、奴が今まで行った愚行が下院、上院共にバレ、奴は議会の名簿からも消された。んで、その立場に就いたのがアンタだろ?」

男は立ち止まり、後ろを振り向く。

「塩谷下院議長さんよ」

暗く険しい顔をした塩谷をよそに、その男はえらく楽しそうだった。
塩谷はその事を告げる。

「そりゃそうだ。前例のない出来事だもんな。楽しまずにはいられねぇよ」

その男の格好がまず奇抜だった。

武内やレイジを思わせる白い服を着ているものの、肩を露出させたり、布の質が違っていたりと、その二人とは明らかに違う雰囲気を醸し出している。
歴史に詳しい者ならば彼をこんなイメージで捉えただろう。

古代ギリシャの男装、一枚布の格好即ちトガと。

「二日前。ジェノサイドは深部中の人間を集め、不可能とされてきた議会に対し反乱を宣言。結果として議員一人を殺したんだから成功と言えるよなぁ?」

「う、うむ……む……」

「ジェノサイド。こいつが存在する限り、何が証明されたかお前でも分かるよな?」

「ま、まぁな……」

その白い男は八重歯を見せるほど、薄くニヤリと笑う。

「ジェノサイドが存在する限り、議会に対して反乱が可能となった。して、お前達下院が纏める報告書なんて決まってるよなぁ?」

「よせ……それ以上言うな……」

塩谷は、ジェノサイドたちの協力もあって今の立場にあると言える。彼のお陰で下院議員から議長を登りつめ、今や上院の書記も兼ねているのだから。

だが、こうなる事は予想できた。だからこそ食い止める事もできた。だが、それをこの男に邪魔されてしまったのだ。

「お前達議員は自分の立場と金と命が大事だ。だからあの様な人間は放っておけないだろう?ならば下院のやる事は一つしかない」

下院の仕事は、深部組織の調査と、それに基づく報告書をまとめ、それを上院に提出すること。
その上で会議を重ね、最終報告を上院に届けた上で上院が命令を下す。

今下院ではこの様に熱い議論が交わされている事だろう。

「我々を脅かすジェノサイドを放っておく訳にはいかない」と。

皮肉にも、その報告書を作成、提出するのは塩谷なのだから。

「だ、だが私は……彼らに助けられた身なのだ。あの子たちを裏切るわけにはいかん」

「アンタ世代のジジイって大体優しいよな。それより上や下の世代はクズだってのに」

白い服の男は塩谷の下らない言葉を遮り、嫌な笑みを浮かべると、さらに続けた。

「お前たちは名目上報告すりゃいい。上院から命令が降る前に俺がただの組織間抗争として殺しちまえばいいんだからよ」

その男の眼は、戦いに燃える強い眼をしていた。
たとえ百人の者が「やめろ」と言っても、戦うことを辞めないだろう。

「お前が動いていいのか……そんな事をしては深部世界のバランスが崩れかねないぞ」

塩谷は更に低く、何かに怯えるように告げる。

「Sランク組織、"ゼロット"……。そのリーダー、キーシュよ……」

この世には、組織がランク付けされている。
強ければ強いほどアルファベット順に並べられ、Bランク、Aランク、そしてその上のSランク。

この世に存在するSランクはジェノサイドだけではないのだ。

「安心しろ、老いぼれ」

キーシュと呼ばれた白い男は再び歩き出した。

男は去り、塩谷は一人その姿を見送る。
怯えた声に反して、その顔色に一切変化がない。
まるで、こうなる事をも予想していたかのように。

だが、キーシュの最後の言葉だけが脳裏から離れられずにいた。

「ジェノサイドの滅亡を望む者が、その内この世に溢れてゆくさ」