二次創作小説(新・総合)

Re: 【クロスオーバー】ハウスオブ音羽【名作くん】 ( No.17 )
日時: 2018/11/10 16:14
名前: 内倉水火 (ID: 62e0Birk)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

壁に掛かった係表を、歌苗の細い指先が伝う。狂い無く垂直にひかれた線に沿って、スタッフの名前とその仕事内容を照らし合わせていたのだ。
「司会はパッド君で、ライトは奏助そうすけでしょ? 後…」
司会から下へ下がっていくと、ふと自分の名前、支配人代理の欄が目に留まった。
こうして文字として見ると、自分がこの役職に就任した時の事を思い出してしまう。人間とは、些細なきっかけで物事を思い出すものだ、と昔父親が言っていた気がした。
そうして歌苗は、何故このような施設が建てられたのかを思い出す。

***

「えぇ!? 音楽クラブを作る!?」
驚きを隠せない歌苗の声が、館中にこだまする。
此処は音羽館という洋館。歌苗は未成年の身で在りながら、この館を1人で管理していた。音羽館はシェアハウスとして運営している為、所謂大家といったところか。
そんな歌苗の前でにこやかに佇んでいたのは、彼女の母親、日芽歌ひめかである。かなり浮世離れした女性で、時々こうして突拍子もない事を言い出すのだ。
「そう。ハウスオブ音羽って名前でね、色んなジャンルの音楽と美味しいお料理を一度に楽しめるのよ。とっても素敵だと思わない?」
日芽歌は、変わらずにこやかな表情で続けた。しかし、何の相談もなしに決めたと言うのだから、歌苗も訊き返さざるを得ない。
「いや、素敵なのは分かるんだけど…。そんな大規模な施設、どうやって運営するのよ? アーティストさんも湧いて出てくる訳じゃないんだから」
「何とかなるわよ」
依然として楽天的な母親に、歌苗もやっきになってしまう。
「ならないよ! 費用だって、競馬とかパチンコで足りる程安くないのよ? 只でさえ借金が残ってるのに…」
特に気にしていたのは、やはり諸々の費用であった。歌苗が言うように、現在音羽館はかなりの額の借金を抱えている。何故か直ぐに大金を調達してくる母親の提案も、簡単には飲めない。そんな事を始める前に、まずは借金を返済して欲しいのだ。
すると、日芽歌は真剣な顔つきになってこう言う。
「だからこそよ。ハウスオブ音羽が繁盛すれば、借金も直ぐに返せるわ」
「繁盛って…」
自分の母親ながら、つい頭を抱えてしまった。店を始めたら、大体繁盛すると思っているのだろう。
娘が呆れ果てているのも知らず、日芽歌は続けた。
「それでね、歌苗にハウスオブ音羽の支配人代理になって欲しいのよ」
「…はぁあぁあ?」
こうして、日芽歌に押しきられる形で、就任する羽目になったのであった。