二次創作小説(新・総合)
- Re: 題本のあるエチュード(ドラクエⅤ編) ( No.13 )
- 日時: 2019/01/23 18:43
- 名前: 燈火 ◆UbVDdENJSM (ID: aMCX1RlF)
近くを兵士が巡回していたが、警備は手薄といわざるを得なくてたやすくかいくぐれた。洞窟内はそれなりに整備されており、等間隔でトーチが設置されている。サンチョ曰くサンタローズストーンを中心とした鉱石産業が盛んらしい。それを考えれば、従事者にとっての危険はある程度排除されているとみるのが妥当だろう。
もっとも炭鉱としては廃されて久しいらしい。モンスターの繁殖も進み、内部はそれなりに危険だと道すがら聞いた。できる限り音を建てず、死角を少なくするように壁伝いに進む。十字路や丁字路が有ったら、途中で止まり曲がり角の部分を確認する。
そうやって少しずつ進行していくと、モンスターに遭遇した。少し緑色が混じっているが恐らくはスライムだろう。食事中に変色するとサンチョから聞いている。しばらくの間、相手の動きを確認。スライムは温厚で仲間思い。多くのモンスターと共生できる存在だ。他のモンスターがいる可能性は高い。
「スライム1匹だけかな? 試すにはちょうど良い?」
しばらく注視し続けたが、どうやら連れはいないらしい。アベルはそう判断し、スライムが後ろを向いた瞬間を狙い駆け出す。音もなく近づく。しかし後ろから妙な振動音が響いた。壁を背にしながらアベルはそちらへと顔を向ける。そこにはセミの幼虫に似た魔物がいた。
「なんだこいつ?」
近い。アベルの足で5歩分ていどだ。相手の速度は分からないが、相当な下級魔物でも一息に詰められる距離。スライムからはまだそれなりに遠い。先にこちらを処理する。彼はそう心に言い聞かせ、盾を左に、剣を右に構えた。しかし甘かったのだ。
アベルの想像より早く相手は距離を詰めシャベルのような爪を振り回す。盾で防ぐ。想像以上の力が宿った攻撃で、衝撃が肩を伝い体中を震わせた。痛みに喘ぎ、攻撃へと繋げられない。セミのようなモンスターは更に第二撃を放つ。彼のみぞおちにそれは命中した。
「うぐっ! がっ……あぁ、ぐっ。痛いっ!」
弾かれたように吹き飛ぶ。肋骨が軋む。肺が締め付けられて呼吸が苦しい。喉を傷つけたようだ。血の味が口内に広がる。
『これがモンスターの一撃。こんな、こんなの……怖い。怖くない! こんな奴ら怖くない!』
冷たい地面でもんどりうつ。恐怖が脳裏を過よぎる。それは死への絶望感だ。熱いのか冷たいのか分からない。目すら霞む。あと2回も貰えば恐らく動けなくなるだろう。逃げるべきか。本能が警鐘を鳴らす。だが少年は退く選択をしない。
死んだら何もかもお終いだと思いながら、目の前の相手に殺されるようならそれまでだとも思う。アベルは銅の剣を杖に立ち上がり、目を見開く。そして柄を本気で握る。爪が食い込むほどに。他に周りに敵がいないか一瞥する。どうやら最初に居たスライム及び他モンスターは見当たらない。
「うおおぉぉぉぉ! くらえぇ!」
アベルはまず盾をブーメランの要領で投擲。敵方がそれを盾にもなる爪でガードする。相手の視界はゼロだ。柔らかそうな腹部に彼は刃を深々とさす。呻吟するモンスターの腹を掻っ捌いた。臓物と大量の血が放たれ、敵は1つ痙攣すると動かなくなった。
初めて感じる体を裂く感覚。生暖かい血の触感。酸鼻を極める生臭さ。遠目から見ていたから分からなかった悍おぞましさを感じ咽返る。そして膝をつく。だが敵は待ってくれないようだ。アベルの声に気づいたのだろう。今倒したのと同じ種類の魔物が2体。さらにはスライムまでいる。
「これが洞窟……魔物の住処」
唇をかみしめ立ち上がる。膝が笑いかけた。汗が滲む。だが戦わなければ確実に死ぬだろう。死体と化しすでに砕け始めている先程仕留めた敵を蹴り上げる。まずは眼前に居るセミの幼虫の動きを封じた。そして一番弱いだろうスライムへと一気呵成に攻めより両断。
セミ型の敵は同族の遺骸を振りほどこうと、あまり器用には動かせないだろう手を動かす。背中を突き刺し下方向へと引き裂く。あとは1体。しかし残りの1体が見えない。猛烈な悪寒が走る。敵の位置や距離を把握できない状況は危険だ。容易く相手にスキを突かれてしまう。
上下左右を見回す。しかし姿が見えない。後ろから地面が砕ける音がした。アベルは瞬時に背後を取られたことを悟る。振り向きざまに高速の打撃が飛ぶ。咄嗟に盾でガードするが、至近距離から受けたためか前回以上に大きな衝撃が伝わる。吹き飛び石壁に激突したアベルは唾液をまき散らした。
「はがっ、あぐっ……息が」
背中からくる衝撃が背骨を押し上げ、肋骨と肺が密着する。無呼吸状態に涙が浮かぶ。全身が熱い。焔の中にいるかのような感覚だ。耐え切れず涙を流す。洞窟内は少し肌寒いくらいなのに、玉のような汗が滲む。
1人の子供が魔物蔓延る地獄に挑むなど自殺行為だと心がささやく。そしてそんなことをしたのだから、今ここで死ぬのは運命だという。安易な方に流されて楽になりたい。そんな諦念が胸中を走る。
「お父さん、サンチョ……嫌だ。嫌だ……じにだぐないぃ!」
表面の感情が死にたいと警鐘を鳴らす一方、心の奥底は生にしがみつこうとしていた。今まで会った人たちに2度と会えなくなると思うと、今の痛みをはるか超える絶望感が込み上げてきたのだ。敵はすぐ近くまで迫ってきている。苦しんでいる暇はない。
セミ型のモンスターは弱点の腹部を前足で防ぎながら、突進を敢行する。まっすぐな軌道だ。おそらく相手が回避するなどと考えていないのだろう。普通に突進を食らい倒れこむか、迎撃が来るものだと思っているのだ。アベルは壁を背にしている。相手の攻撃を回避すれば、壁に激突するはずだ。
「今だ!」
何とかかわす。敵は予想通り壁に激突。しばしの間硬直する。アベルはそのすきを逃さす横一文字に切り裂いた。血飛沫が舞い頬に雫が伝う。唐突に体中の血潮が沸騰した。今までにない力が体を駆け巡る。唐突に盾や剣が軽くなった。
「これがレベルアップ?」
レベルアップ。それはすべての生物に存在する神の加護。魔族は人間を含む光の眷属の力を一定量吸収することによって。人間たちは魔族の悪意を浴びることにより起こる現象。つまりは力の段階を飛ばした上昇だ。才能や系譜によって能力の上がり方は違うらしい。
夫々は教会で知ることができるとサンチョからは聞いた。体の痛みも幾分か減った。神の加護により体力値が増したのだろう。アベルは結論付け進みだす。その先も幾度か戦った。黒い体に羽をはやした吸血型の魔物や、体中に棘をはやした緑色の魔物。それらには余り苦戦しなくなった。
道中にある宝箱や魔物の持ち物から得たやくそうや、2度目のレベルアップによって得たホイミの呪文――低級回復呪文。魔法の習得時、澄んだ女性の声が脳内に響く――により少年は進撃していく。そして下層へと進む階段を見つける。1回には親方と思わしき人物はいなかった。
「行こう。聞いた情報じゃこの洞窟は地下2階まで」
そう少年は心に言い聞かせて階段を下る。基本的に魔物の力は地底へ行くほど濃くなる。それはつまり少し下に行けば、魔物のランクは上がるということだ。今までより厳しい戦いになるだろう。アベルは心に言い聞かせて進む。下りきった先には一本角の兎と巨大な木槌をもった黄土色の怪物がいた。後者は見覚えがある。波止場からサンタローズに着くまでの道すがらに会ったおおきづちという魔物だ。前者は知らない。
確かおおきづちは一撃の威力は高いが、攻撃を外しやすい。木槌による攻撃の範囲が狭いことと、視力が低いことが要因だろう。先に情報のある存在から倒して、初めての相手を腰を据えて挑む。アベルはそう判断する。しかしおおきづちが壁を木槌で強くはたくと、数体の蝙蝠のモンスターと、スライムたちが現れた。
「多いな」
そんなことを思っていると、すでに一本角の兎が迫っていた。今までの敵とは比べ物にならない速さだ。アベルは何とか相手の突進によって放たれる角の一撃を防ぐ。衝撃は大したことはない。レベルアップの恩恵で得られた体の影響もあるだろう。しかし兎は盾を足場にして跳躍。さらに後ろの壁を三角飛びにして2撃目を放つ。右方向に体を捻転させ、銅の剣で角を弾く。兎の魔物は弾かれた方向に吹き飛ぶ。
しかし背中に鈍痛が走る。今まで受けた中で最大の衝撃だ。アベルは喀血する。剣を杖になんとか膝をつくことを防ぐが、次が続かない。眼前に現れた蝙蝠の尻尾による攻撃を受け吹き飛び、さらにおおきづちの一撃を横腹に受けた。脳が揺さぶられるような衝撃とともに吹き飛ぶ。モンスターの数、質ともに段違いだ。膝が笑う。更にスライムの突進を腹部にくらい壁に叩きつけられる。
兎の魔物がにじり寄ってきた。血走った眼だ。周りの魔物たちを一瞥。止めは自分が刺すという恣意を伝えているようだ。恐らくあの鋭い角で体を貫かれたら死ぬだろう。だが体が動かない。兎の恣意を無視するようにスライムが突貫する。衝撃の逃げ場がないサンドバック状態に意識が朦朧とする。銅の剣が滑り落ちた。コインが落ちた時のような澄んだ音が、空しく洞窟に響く。
『死ぬ……?』
目を閉じる。自分に止めを刺す存在の形相を見るのが怖かったから。
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確実に描写のレベルが落ちている気がする。
戦闘描写もここまで下手になってるとは……というか、エチュードこのペースだと、滅茶苦茶時間かかりそう。900レスくらいかかりそう。展開のスピード上げたいですね……