二次創作小説(新・総合)
- Re: 題本のあるエチュード(ドラクエⅤ編) ( No.16 )
- 日時: 2019/02/14 17:42
- 名前: 燈火 ◆flGHwFrcyA (ID: xJUVU4Zw)
ビアンカが目を覚まし、食事をとってから一行は旅路へとついた。パパス以外はサンチョが飼っている馬にひかせた馬車に乗っている。もちろん運転手はサンチョだ。ある程度舗装された道を悠然と歩ませていく。村で最も体躯が良く、美しい毛並みの馬だ。道行く人たちが立ち止まる。
垂涎の眼差しで見詰める者やただ手を止める者。パパスやサンチョを知らない高貴そうな余所者が「買いたい」などと声をかけてくるような場面もあった。当然ながら素気無く断ったが、恨めしそうな顔をしていたので何かしら嫌がらせなどしてくるかもしれないとサンチョはボヤいていた。
「リガルド、しばらく村を開ける」
しばらく進むと村の入り口が見えてきた。例のごとく目の良さを活かすために高台にいて、攻撃力と防御力で勝るリガルドが門前をカバーしている形のようだ。厳かな口調でパパスが言うと、リガルドはヨシュアと目配せをした後、木が撓むような耳に障る音を響かせながら扉が開く。
「ご両名をアルカパまで送るのですな。村の者たちには1週間程度の滞在だと言っておきます」
馬車の奥にいる女性2人を目視しリガルドは察す。その口調にはパパスがいない間の不祥事は許さないというプライドが乗っていた。
「廃鉱山の警備。あの通路をガンドー1人でカバーするのは厳しかろうな。かといってベンたちを非常勤として使うわけにもいくまい」
そんなリガルドにパパスは耳打ち。彼の表情が凍る。
「面目次第もございません。何分このようなことは始めてで動揺しております……かくなる上はヨシュアを」
当然、アベルのことは兵士であるリガルドも知るところであり、身内の失敗に内心傷ついているところだ。彼は元の鞘に収まるだけだと思ったのだろう。外からの魔物迎撃を1人で務めると口にする。しかしパパスはそれを咎めるように首を振る。
「それはいかん。村の中からの魔物の侵略は確かに危険だが、村の外もまた魔物のテリトリーだ。もう1人育成する必要があるだろう」
「うむ、パパス殿かたじけない」
自分の息子が命を失うところだったというのに、罪を裁こうとするでもなく改善案をすぐさま提示する目の前の男。リガルドは器の違いに心胆より敬意を表す。サンタローズの周辺は昔より遥かに魔物の量が増えている。昔より力も衰えてしまった。正直、元と同じことをするのは厳しいと思っていたのだ。唇をかみしめるリガルド。
「気にするな。俺はこの村が好きだ。できうる限りの支援はすると心に決めている。最もアベルの修行と並行となるだろうから、時間がかかるだろうが、な」
罪の意識に苛まれているのだろう真面目な男を横目に、パパスは進む。護るべきもののためなら、できうる限りの人事を尽くすのがパパスという男だ。ゆえにこそサンタローズの村人たちにも、すぐさま受け入れられたのだろう。無論、村人たちの新しいものに対する貪欲さや懐の深さもあったろうが。
「道中お気をつけて」
パパスと馬車の後姿を見詰めながら、リガルドは口にした。パパスとサンチョの実力は知っている。サンタローズからアルカパに向かう程度、万に一つもないだろうとは思うが、声をかけずにはいられなかった。