二次創作小説(新・総合)

題本のあるエチュード(ドラクエⅤ編) ( No.18 )
日時: 2019/02/15 18:11
名前: 燈火  ◆flGHwFrcyA (ID: xJUVU4Zw)

 1時間程度馬を走らせると、町の門が姿を現す。赤い鎧を着こんだ壮年の番兵がパパ巣たち一行を確認。すぐに門扉を開いた。

「これは、パパス殿ではないか! なんと帰っていたのですな。さぁ、お通りください!」
「あぁ、しばらくの間世話になるかもしれん。宜しくな」

 どうやら知人らしい。パパスの功績と顔の広さをかんがみればさほど不思議ではないが、やはり尊敬する人物が周りからも評価されているのを見ると嬉しい。短い会話をかわすと、パパスはサンチョに目配せする。真っ直ぐに歩き、巨大な宿の前へと到着する。
 どうやらここがビアンカたちの家らしい。数世代続く町の名物なのだそうだ。宿場町として栄えたアルカパ歳代の収入源であり、職を失った者たちの受け皿にもなっている。しかし名義上の宿主であるダンカンという人物が生来の病弱で、最近の経営は以前ほどの盛栄せいえいはないとも教わった。
 馬屋に馬車を係留し、宿に入る。内装は飾り気がなく素朴だが、フローリングは光沢を放っていてよく手入れされているのがわかる。少ないながら飾られている装飾品は統一感があって美しい。さすがは老舗しにせといった様相だ。

女将おかみ様、ビアンカお嬢様、お帰りなさいませ。そしてパパス殿はお久しぶりです! お薬は手に入ったのですね」
 
 ストレアに案内されながら、スタッフルームと書かれた案内板のある部屋へと入っていく。一室には休憩中らしい1人の若者がいた。赤いバジュに身を包んだ赤ら顔の男だ。彼は一向に気づくと椅子から立ち上がりパパスたちに近づいてくる。

「えぇ、これで主人の病も良くなるはずです」

 女将と呼ばれたストレアは毅然とした口調で応じる。そして夫であるダンカンのいる部屋へと歩き出す。
 
「どれ私もダンカンをみまうことにしよう。暇なら外をビアンカちゃんと一緒に散策でもしてきてはどうだ? 狭い町だが少しの間世話になるからな」
「アベル坊ちゃま、アストラ殿の目を盗んで外に出る、などということはくれぐれもよしてくださいよ。それと悪漢に絡んだりするのも……」

 羽を伸ばせるときは羽を伸ばしておけと、パパスは言外に告げる。ビアンカを道案内として指名したのは子供同士で気が合うだろうということが一つ。それ以上に放浪生活の末、まともな同年代の友人がいないアベルを危惧してのことだろう。サンチョはといえば、先刻のことから心配事を漏らす。まさかとは思うが気が気ではないのだろう。

「サンチョ叔父さん、そんなこと私がさせないわよ。行きましょうアベル」

 ビアンカ自身も堪えていたに違いない。アベルが死にかけたのは父の養生ようじょうに必要な薬の調達が遅れていたからだ。それ自分より小さい子供が死んだりしたら一生もののトラウマになっていただろう。ビアンカの目は真剣だった。その表情を見たアベルは少し頬を引きつらす。
 
 アベルは彼女に手を引かれながら町の中を案内された。最初は吟遊詩人からレヌール城という凋落ちょうらくし、幽霊の巣窟そうくつとなった場所——アルカパの北部――の話を聞かされた。そのレヌール城は銀の採掘所と精錬技術を持ち、銀食器やティーセットを主製品としていたことを商人だったらしい老人に聞かされたり。
 酒場に行って子供にはまだ早いと言われ、そそくさとその場を後にした。武器屋や防具やなども回っているとあっという間に時間は過ぎていく。日も傾き辺りも少し暗くなり始めている。そろそろ宿屋に戻っても良いころだろう。そう思っていると、突然なにかの鳴き声が聞こえた。

「何だろう、今の声?」
「んー? 猫、みたいな声だったけど。あっちは確か悪ガキ兄弟の住んでる家の方よね」

 好奇心につられて2人は其方の方へと歩き出す。そう遠くもないはずだ。隘路あいろを抜けて行くと、池の中央にある離れ小島に子供2人と猫のような動物が1匹。子供たちはその動物を蹴ったり、棒で突いたりしていた。2人は止めようと思い、桟橋さんばしを渡り、子供たちの元まで進む。

「ほらほら、もっと泣けよ。弱いって罪だよなぁ、アハハハ」

 少し背の高い子供が猫のような動物の頭を掴み投げ飛ばす。本来なら宙返りして簡単に、着地するのだろう。しかし受けた痛みが強いせいでそれもできず、呻き声をあげながら地面に叩きつけられる。その光景を見てビアンカは舌を打つ。
 
「やめなさいよ、可哀そうでしょう!」
「可哀そう? 何言ってんだよ? たかが猫だろ?」

 殴りかかりたい衝動を深呼吸でビアンカは鎮める。目の前の子供たちが、常識や想像力の欠如した者たちだというのは痛いほど理解しているのだ。子供から許されるだろうと、人の家のものを壊したりするのは日常茶飯事。この小さな町ではかなり有名だ。

「このクソガキどもが……」

 しかし手を挙げることは制せても、口をついて出る言葉は止められなかった。

「ちょっ、マジで怒るなよ! まぁ、そうだなぁ、虐めるのも実際飽きてきたし欲しいなら、あげても良いけどさ」

 少年は身の危険を感じたのか、少したじろぐ。

「そうだ、レヌール城のお化けを退治してきたらくれてやるよ」
「あはは、それマジかよ? 無理じゃねぇ?」

 もう1人の子供が交換条件を提示する。レヌール城に住む亡霊。近隣の土地であるアルカパでは有名な話だ。いやでも町の外に出ることになる。その時点で飲み込めない条件に感じられた。勇み足でその場を離れるビアンカに引っ張られながら、アベルも彼女についていく。そして子供たちが見えなくなってから、ビアンカに問う。

「本当に行く気?」
「…………行けるわけないじゃない。レヌール城とか、サンタローズとアルカパなんかよりずっと距離があるんだから」

 ビアンカの返答はとても嘘っぽく感じられた。手を握っていなければ1人でどこかに行ってしまう気がして、アベルは彼女の手を強く握った。「痛いじゃない!」と怒られて項垂うなだれる。