二次創作小説(新・総合)

Re: 題本のあるエチュード(ドラクエⅤ編) ( No.19 )
日時: 2019/02/15 19:04
名前: 燈火  ◆flGHwFrcyA (ID: xJUVU4Zw)

 ビアンカの父であるダンカンの病は持病の発作ほっさではなく、ただの風邪だったららしい。風見鶏の宿にしばらく居住しアルカパに滞在する予定――アルカパでもパパスは有名なので、アルカパの人たちに帰還の挨拶などをするため――だ。1週間程度と見積もっているらしい。

「サンチョ、お父さんは?」
「どうやら、風邪のようですな……」

 が、結果としてはこの様だ。父パパスはダンカンと付きっ切りだったせいもあってか、ただ運が悪かったのか風邪を引いてしまった。いかに強い父でも病気には勝てない。アベルもパパスが病気にかかるのを見るのはこれが初めてではない。何よりアベル自身もパパスと旅した2年間で何回も風邪などにはかかった。

「坊主、すまんな。わしのが伝線したみてぇだ」

 病弱という割には恰幅の良い、髭面の男が頭を下げる。サンチョは頭をふるう。

「そう気を落とさず。人が病に罹るのは自然のことわりなれば。誰もダンカン殿を叱りはしませんよ」
「しかし、パパスは息子を少しでも鍛えたいと……」

 ダンカンはサンチョの優しさに当惑して、言い淀む。

「アベル坊ちゃまを鍛えることは私にもできます。最も私の場合は武術は旦那様と比べるべくもないので、座学が中心ですが」

 それに対してサンチョは少し茶目っ気のある笑顔で受け返す。

「サンチョが教師さんなの?」
「えぇ、旦那様からもそう指示されています。最も算術や筆記、基本戦術のような体を動かさないお勉強が中心ですが」

 体を動かすことが好きな自分としてはなかなかに苦しいことだ。アベルは深い溜息を吐く。算術については全く分からないし、字を書くのも難しそうだ。基本戦術くらいしか興味がわかない。強くなるにあたって計算などが役に立つとは思えない。
 モンスターの知識や武器の使い方などは覚えないといけないとサンタローズの一軒で学んだ。しかし道具の値段を現す数字さえ読めれば算術は必要ないだろうし、自分の名前と年齢、性別くらいを書ければ文字に関しても十分だろう。

「坊ちゃま。ある国では強さとは強かさなのだそうですよ。知識があるほど、賢い立ち回りができるのです」

 アベルの考えを見透かしたようにサンチョがたしなめる。単純な剣や魔法の力とそれらに関する知識だけでは、近い将来躓つまづく。それを嫌というほど理解しているのだろう。魔物と戦うにあたって、人間社会で苦労していては心労が多いばかりで、心に余裕もなくなり戦いも雑になる。何より高度な戦闘には高度な計算も必要になるし、魔法と文章を書くことは少なからぬ関係がある。魔術師と呼ばれる者たちなどは、その魔法のロジックを強固なものにするために、魔法を習得するとその方程式を文字にするのだ。そんな話をサンチョは語る。

「……強くなるって大変なんだね」
「えぇ、そうでなければ、世の中強い人で溢れていますよ。あっ、強い人ばかりならそういう言葉自体がなくなるのでしょうか?」

 この先多くの苦労があるのだろうなと悟ったアベル。そんな彼に対してサンチョは呆けて見せる。その余裕に満ちた態度は頼り甲斐があって、それでいて包容力を感じた。そんな2人の様子を眺めていたダンカンは、自分は邪魔だと判断したのかその場を後にする。

「では、早速、読み書きの勉強を始めましょう」

 サンチョはそう言って、ふところから書類を出す。薄めの本だ。おそらく初心者ようなのだろう。一部の文字はアベルにも読めるものだった。

「ねぇ、サンチョさん! そのお勉強、私も一緒に参加して良い?」