二次創作小説(新・総合)
- Re: 題本のあるエチュード(ドラクエⅤ編) ( No.22 )
- 日時: 2019/02/20 21:44
- 名前: 燈火 ◆flGHwFrcyA (ID: aMCX1RlF)
サンチョとの修行が始まってすでに2日が過ぎた。当然ながら、読み書きをすぐにマスターできるはずもなく。算術に関してもそれは同じ。ビアンカは退屈で悶々とした時間を過ごしていた。アベルたちが滞在できる期間は恐らく、あと5日。パパスが5日間ずっと病床に就いているとも限らない。
不謹慎だがパパスの病気が長引けばいいなどと思ってしまう。普通の風邪ではないとのことだが、彼ほどの力の持ち主なら余程の病気でも死なないだろう。むろん、彼の病気が長引きこちらで長時間滞在するということモあり得る。だがその確率は死ぬと同じ位低い。
今は休憩時間。丁度アベルは父のところへ見舞いに行っているのでいない。つまりサンチョと2人きりだ。こうなったら本心を打ち明けてみよう。それで駄目ならアベルを夜中に巻き込む。ビアンカは気の早い結論を導き出す。
「はぁ……上手くいかないなぁ」
わざとらしい口調で彼女は言う。
「おや、困り顔ですな。坊ちゃまのペースに合わせ過ぎで学ぶべきことがない、という感じでしょうか?」
サンチョは少し怪訝な表情を浮かべながら問いかけた。ビアンカの本心がそうではないことを見抜いているようだ。
「あのね叔父様。聞いて……」
ビアンカは3日前のあらましを話す。変わった猫が近所の悪ガキたちに虐めあれていたこと。その猫を助けるために譲り受けることにしたのだが、その条件としてレヌールの亡霊を倒してみせろといわれたことも。包み隠さず言うビアンカの口調は興奮気味だったが、むろんサンチョは難色を示す。
「成程。魔物を倒す力を得たいがため、私の授業を受けることを考えたと。レヌールの亡霊。実際に存在するようですな。霊的な性質を持ったモンスターの軍勢。しかし、彼らはその場から動くこともなく、無害とのことで討伐をしない方向になっています」
「つまり何が言いたいの叔父様?」
額に手を当てながらサンチョは溜息を吐く。討伐する必要がないから無視する。相手が本格的に周辺区域に進出するようなら駆除対象とするということは、この世界で言えば下手に手を出せば危険であるということだ。この大陸を統べるラインハット王国の斥候によれば、少なくとも亡霊城に巣食う魔族の主犯格は将軍クラスの実力らしい。
その階位の魔物がいるとなれば、国家が軍を引き連れて挑む案件だ。本来ならば近くにあった友好国であるレヌールが滅んだ瞬間に、魔族への報復として殲滅すべきである。しかし将軍級が居座ったことで、それもそう簡単にいかないという状況なのだ。
「半端な力を持った子供が1人、自殺に行くことを止めないのは大人の義務に反しますな」
威厳に満ちた声でサンチョは告げる。少し前に自分が敬愛する存在がそれをしかけたばかりだ。今回は何が何でも止めなければならない。普段の優しい顔は鬼のような形相をしていた。ビアンカは息をのむ。そして自分の賭けがいかに愚かであったかを思い知った。そして何も言わず、走って部屋を飛び出した。途中で父の見舞いから戻ったアベルに会う。
「アベル……」
「なんで、泣いてるの?」
滝のように涙を流すビアンカを見詰めながらアベルは問いかける。
「サンチョ叔父様に無謀な自殺はやめろって、怒られた」
アベルはやはりそうかと胸中でつぶやく。
「……ねぇ、ヒックスとロマーオって言ったっけ? あの子たち。相変わらずあの猫を虐めて遊んでたよ。前より明らかに怪我、酷かった」
どうやらアベルは見舞いだけではなく、猫の状況確認にも行っていたらしい。道理でいつもより戻ってくるのが遅いと思った。そのおかげでサンチョとの会話を聞かれずに済んだのは幸いだと思う。一方であの子供たちはやはり飽きてなどおらず、このままいけばあの猫は殺さあれる。その実情も分かった。
「じゃぁ、助けないと……」
そう言ってもどうやって。理性が警鐘を鳴らす。
「でもねビアンカ。あの猫さんは本当は、ベビーパンサーっていう魔物なんだって」
そんなビアンカの迷いを表情の翳りで見抜いたのか。アベルはさらに畳みかける。それは見舞いの最中、パパスから聞いたことだ。
「……それでもかわいそうよ……」