二次創作小説(新・総合)

題本のあるエチュード(ドラクエⅤ編) ( No.24 )
日時: 2019/03/26 16:04
名前: 燈火 (ID: xJUVU4Zw)

「……だが、その話、俺も同行させて貰う」

 アベルの後ろに立つパパスは、先ほどまで病臥びょうがしていたとは思えない威風をただよわす。こうなることを知っていたのだろうアベルは、一切驚いていない。しかし偉丈夫いじょうふであるパパスと相対してビアンカは小さく呻く。

「あのもう大丈夫なんですか?」

 おずおずと問う。それに対してパパスは「完治した」と短く答えた。更に彼は朗々ろうろうとした口調で続ける。

「そろそろあの城の王様気取りに引導を渡してやって良いころだとは思っていたしな」
「でもサンチョさんはレヌールの亡霊を治める首魁しゅかいは凄く強いって……」
 
 対しビアンカはサンチョの言葉を思い出す。子供が何人入り込んでも自殺になるだけだと釘を刺された。あの朗らかなサンチョが鬼のような形相で止めたのだ。事実なのだろう。そんな怪物が統治する幽霊城なら、幽霊系の強者が幾人もいるのではないか。いかにパパスがいるとはいえ無理なのではないかと思ってしまう。
 そんな場所に子猫、それも魔物を助けるためにアベルとたった2人で行く気に先ほどなっていたのだが。無謀という外ないような気がする。やりたいことは沢山ある。こんな年で死にたくなどない。でもあの子供たちに虐められるベビーパンサーという子猫がどうしてもかわいそうに感じたのだ。

「いや、それは嘘だ。恐らくラインハット城には既に魔族が入り込んでいる。そやつが手引きして彼らを生かしているのだ」
「どういうこと……?」

 ビアンカはパパスの言葉にどんぐり眼を瞬かせる。理解が追い付いていないビアンカに彼はアベルとの旅の中で入手した情報を紐解いていく。レヌール城には魔族にとって都合のよくない宝物があったということ。それは人類にとって、魔族を打ち破る切り札にさえなりうるものらしいということも伝える。
 更にその霊宝ともいえる品は、魔族では幽霊系の素養を持つ者たち以外には劇毒であるらしい。故にその情報を知ったラインハットの間者は、一計を図った。それはレヌールが魔族に襲われてもラインハットが助ける理由はないという、交友関係の不和を生むというものだ。
 魔族の間者はレヌールとの関係に亀裂が入るように多くのことを行ったらしい。刃傷にんじょう沙汰ざたを直接起こす。レヌール産の商品に毒物を混入する。更には幻術を駆使しラインハット国民を拉致らちさせ、処刑にさせた。戦争の機運が高まり、爆発寸前になったころを見計らって夜陰やいんに幽霊族の魔族を召喚。
 
「本来ならわかったはずだ。直接的な軍事力に欠けるからこそレヌールはラインハットと懇意にしていたのだから。そんな国が新しい取引先がいるわけでもないのに、友好国同士の戦争を起こそうなどとするはずがない、と」

 そう呟きながらパパスは天井を見上げる。狡猾な魔族に躍らせる多くの民たちの末路を見てきた。人々は心の片隅では分っていても憤り弄ばれてしまう。あの冷血で悪意に満ちた知能犯たちに。今のラインハットは伏魔殿ふくまでんだ。もはやどこまで魔族の手が回っているかわからない。
 レヌールの亡霊を生かしている理由は、征伐できないなどというものではないのは確かだろう。レヌールの至宝を守護すること及び、いつでも動かせる魔族兵を常駐させることにあると考えられる。レヌールの亡霊がこの地で囁かれるようになって3年。
 そこに巣食う魔族が廃城から動かないのも説明はつく。幽霊族の魔物は晦冥かいめいなる場所で本領を発揮する。それは広く知られることだが、もう1つ特徴があるのだ。それは自らたちが打ち滅ぼした地域に定住し続けることで、強烈な力を引き出すということ。人の血肉をすするよりはるかに、そこにあった憎悪や絶望の想念をむさぼるほうが力を得られるということだ。

「それって、叔父様。いくら軍事力を持たない国だからって、国を攻め落とした魔物がさらに力をつけているということじゃない……」