二次創作小説(新・総合)

Re: 題本のあるエチュード(ドラクエⅤ編) ( No.25 )
日時: 2019/03/26 16:31
名前: 燈火 (ID: xJUVU4Zw)

 ビアンカの明敏な指摘にパパスは首を横に振る。

「レヌールのエリック王とは親交がある。敏く平和を愛する男だ。しかし人を信じすぎる人物でもあったよ」
「つまり何?」 
 
 人を信じることの何がいけないのかとビアンカは頬を膨らます。虐めという汚い行為が嫌だから、それを正そうと血に染まる道を進む。そんな覚悟で戦おうとしているのに、美しいものを馬鹿にされるのは心がささくれ立つ。そんな彼女の様子を見て取ったパパスは言う。

「エリック王は人徳に溢れていたが、君主の器ではなかった」

 そうぱっさりと切り捨て男は言葉を続ける。人を信じることは尊い。しかし誰もが手を取り笑いあえるわけではないのだ。何者にも事情と居場所はあり都合がある。決して相いれないことも生まれてしまう。何よりもそれなりの距離が離れているのに、自国は平和の体現を語り一切の武力を放棄し他国に軍事を委託する姿勢。
 さらにレヌールは武器さえ売られていない。職業の傭兵もいなければ、兵士すらいない。魔術の習得についても厳しい規則が課せられていた。つまり外的と戦う手段がないに等しい。人間同士でも分かり合えないことは多いのに、氷河のごとく冷厳とした悪の眷属にとっては鴨もいいところだ。
 つまるところそんなレヌールが長い年月魔族からの侵略を逃れていたのは、弱すぎていつでも落とせるからなのだろう。そして間者がレヌール門をくぐる機会があり、偶然秘宝の情報を察知。ついには攻撃の対象となったということだ。
 平和法典がある限りレヌールは侵略を受けない。そんな神話を背に武力放棄を続けてきた国はたやすく侵略された。無残なものだったろう。戦う力もなく、蹂躙されていったのが目に浮かぶ。そしてパパスはレヌール国民たちでも最低限の痛苦を味わえる程度に弱い者たちが選定されたのではないかと考察する。
 それは嗜虐的な魔族の性と、苦しんだ魂の味こそ幽霊系の徒輩にとって最大の栄養であることから考えられることだ。恐らくラインハットが吹聴ふいちょうする上級戦士などは存在せず、弱卒たちで構成されていただろう。長く険しい道の果て多くの滅んだ町々を見た。生き証人の話も耳を傾けてきた。その末の結論だ。

「だが俺はそんなエリック王に死んで欲しくなかった」

 しかしだからといって友が死んだことを悔やまないわけではない。サンタローズに住んで1年後程度の出来事。あの凄惨な事件がアベルと旅をする契機にもなったのだ。恐らくはラインハットを当てにはできない。それを理解できたことも久々に帰郷した理由の一つなのだから。