二次創作小説(新・総合)
- Re: 題本のあるエチュード(ドラクエⅤ編) ( No.26 )
- 日時: 2019/09/24 23:08
- 名前: 燈火 (ID: aMCX1RlF)
「叔父様? 泣いてるの?」
「……あぁ、どうやらそのようだ。俺もだいぶ涙もろくなったな。これは……エリックへの手向けだ」
ビアンカに指摘されてそれに気づく。頬を熱い何かが流れている。この戦いが終わり勝利するまで見せまいとしていた、熱い血潮が決河したのだ。旅路の果て多くの人々と触れ合い、それに等しい別れも経験してきた。大切なものが増えるほど、戦う意思は沸き立ち強くなってきたように思う。
もう戻ってこない尊ぶべき者たちに涙を流せるようになったのも、強さだと思っている。しかし魔族への復讐を果たすときは、それが完遂するまでは流すまいと言い聞かせてきた。瞋恚の炎がそれ以上に熱いのに蒸発しない心の洪水で沈下してしまうかもしれないからだ。
しかし傍と気づく。目の前の少女は涙を流す自分を見て、晴れがましい表情をしている。それは興醒めからくる冷笑ではない。寄り添い共感する気持ち。それは彼女も亡くなった人たちのために戦うという意思の表れだ。少なくともパパスにはそう思えて、涙を流したことでさらに強固な意志が芽生えた。理想のために自分を律し続けただろう、偉大なる王エリックへの鎮魂歌を捧げよう。
「サンチョ。もう、嘘をつく必要もないぞ。お前も来い」
「はっ。旦那様の仰せのままに」
どうやら盗み聞きしていたようだ。どうやらサンチョ自身ラインハットとレヌールの事情は把握していたのだろう。パパスから聞いたのか独自に調査したのかは定かではない。ビアンカたちに無謀な特攻をさせないために、あえて世間一般の論を述べたのだろう。
かしづくサンチョの目は、普段の優しさではなく怨念が滲み出ていた。サンチョもまた人格者であったエリックの死を悼む1人なのだろう。彼自身レヌールに巣食う亡霊どもには煮え湯を飲んでいたのだ。普段の昼行燈然とした雰囲気はなく、矍鑠とした雰囲気を醸かもす。
「さて、では今日から本気で鍛えさせてもらうぞビアンカ嬢。流石に今の君たちを連れて行くのは厳しいからな」
手薬煉をひきながらパパスは告げる。それと同時に彼は歩き出し、寝室に置かれた愛剣を掴む。そしてアベルがデッケンで買った銅の剣とビアンカのために裏で買っておいた皮の鞭を手に取った。