二次創作小説(新・総合)
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.136 )
- 日時: 2020/04/24 22:32
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
悪魔の城は崩れ始める
その日、館は珍しく貸し切りになった。何やら羽振りの良い客を捕まえたらしい。刀剣女士たちは皆、その客を迎えるための準備をさせられていた。
「いち姉、大丈夫?」
この本丸で、あまり見た目が変化していない乱が一期を心配する。昨日、こっそり戻ったつもりであったが彼女だけは起きていて、泣かせてしまった。他の刀剣女士を起こすまいと、声を押し殺して。
大丈夫と嘘をついて頭を撫でるも、彼女の顔は暗いままだ。そんな二振りを審神者が遠くから怒鳴りつける。慌てて準備を再開すれば途端に興味をなくしたようになり、審神者のお気に入りである三日月にやたらと話しかけていた。
一体、自分たちはいつまでこんな地獄にいなくてはいけないのだろう。何度も何度も誰に問いかけるわけでもないそれは、いつも頭の中で消えていく。
そして夜。妖しい桃色にライトアップされた館の前で客を待つ。頭飾りが重くて仕方ない。これにはいつまで経っても慣れる気がしない。
ゲートが開く。そこからやって来たのはローブを着てフードを目深に被った少々背の低い男と、刀剣男士や複数の人間だった。一瞬、何かが通ったような気もしたが気のせいだろうか。
「ようこそおいでなさいました、鬼ノ目様!
本日はどうぞごゆるりと、刀剣女士らをお楽しみくださいませ」
「ああ、申し訳ないね。時に審神者殿、貴方には外していただけるだろうか。無論、ルールには従うさ。何だったらここにいる刀剣男士の前で誓っても構わないよ」
「とんでもない! ここにルールなどありません、鬼ノ目様の自由にお楽しみください。お前たち、鬼ノ目様に失礼のないようにしろ、分かったな」
審神者の言葉に全員が顔を青くしながら頷く。ただでさえ粗相があれば折檻されるのに、貸し切りにするほどの太客を逃せば下手をすれば折られてしまうかもしれない。戦場で折れるなら本望だが、こんな所で折れたくはなかった。
大丈夫、今までも男審神者や己の主の霊力によって体の自由が効かなくなった刀剣男士の相手はしてきた。大丈夫、大丈夫と言い聞かせ、指名される名前を聞いていた。
「それでは、私は……うん。一期一振、そして鳴狐を指名させていただこうか。こちらの一期と楽しませてもらうよ」
一期を指名してきたのは鬼ノ目と、鬼ノ目の一期一振だった。鳴狐と共に、二人を案内する。同位体の相手も、数は少ないがしてきた。問題ない。
部屋に入り、二振りは鬼ノ目と一期一振に向かい、正座する。
「本日は、当館をご利用いただきありがとうございます」
「……どうぞ、ごゆるりとお楽しみください」
「あ、大丈夫大丈夫。そういう目的じゃないんだわ」
「え?」
鬼ノ目の言葉に思わず二振りで顔を上げる。いや、そもそも今聞こえたのは少々低くはあるが女の声だった。
鬼ノ目はフードを取っており、中性的な顔を晒していた……いや、女の顔だ。
「え……え?」
「私の本当の審神者名は柊。ここに潜入するために男みたいなことしてたんだ。声は頑張って低くしました」
「今頃、他の部屋でも似たようなことが起きていましょう。我々は全員、あなた方を嬲りに来たのではないのですから」
「……鬼の目突きだから、鬼ノ目?」
「そうそう」
鬼ノ目、もとい柊はそう言って笑った。上手く騙せてたでしょ? と。
「し、しかし潜入とは言いますが……何故私たちを指名して……」
「ん? 眠らせてあげようって意見があってさ」
「……!!」
「刀剣男士たちも、本来なら絶対にこなせないようなノルマを頑張ってこなそうとして、無理ばかりしてる。そっちのノルマを手伝いつつ、私たちはキミたちを休ませるために来てるんだ。
よく頑張ったね」
「こちらの平野は、我らの本丸にて保護しています。ご安心を」
「!! 平野……良かったっ……」
平野の名前を聞いて、一期の目から涙が溢れる。鳴狐も顔を伏せてはいるが涙が浮かんでいるのが分かった。
一期が泣いていると頭を撫でられるような感覚を覚える。見れば、柊と一期一振が二振りの頭を撫でていた。それにまた涙が浮かび、一期は大声で泣きじゃくり、鳴狐は静かに涙を流した。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.137 )
- 日時: 2020/04/24 22:38
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
「……タムラマロ、ジライヤ」
柊の声に、二人の男が部屋に現れる。英傑、忍のジライヤとタムラマロ。この二人は柊が複数従える英傑、その中の兵種、【忍】の中では最も強い二人だ。
柊は泣き疲れて眠ってしまった一期と鳴狐の頭を優しく撫でたまま聞く。
「何か証拠は見つかった?」
「ここの顧客の名簿と来店記録を見つけたぜ。今使ってる記録はさすがに取って来ちゃいないが、頻繁に出入りがあるらしく最近の日付になっている」
「……この部屋には、どうやらかめらの絡繰が仕掛けられているらしい。それぞれの名前が書いてある円盤を見つけた」
「なるほどね。事前にマーリンに頼んでおいて良かった」
「本当に、人使いが荒いと思うけどね?」
突然、一人の男が現れる。白く長い髪をした、魔法使いのような男だった。彼の名はマーリン。クラス、キャスターのサーヴァントだ。また、かのアーサー王を時に導き、時に悩ませた伝説の魔術師でもある。マーリンの使う『幻術』によってあの審神者も騙せていることだろう。
「だけど、このままじゃ彼女らはバッドエンドまっしぐら。それでいいの?」
「そうは言っていないよ。私は美しいものが見たいんだ。その美しい物たちが報われずに涙しているだけなんて、ダメだね。私は嫌いだ。うん。
それはそれとして働かせすぎだよ。この後も私、仕事するじゃないか」
「悪い悪い。後でQPで支払いするからそれで……」
「……まあ、いいよ。では私はまた『消えておく』よ。あまり長居していたらまずいだろうからね」
そう言ったかと思えば、マーリンは花びらとなって消えていく。けれどその花びらは一枚も残らない。
「頭領、やつの言っていたこの後の仕事とはなんだ?」
「ああ。後で左右田くん、トレイシー、バルク爺、ちーたんに来てもらうことになっててね。ちーたんとトレイシーは姿を消して、左右田くんとバルク爺は姿を変えてもらうことにしてるんだよ。
それでおそらく審神者の自室か、執務室かどっちかでカメラをコントロールしてるはず。そこに侵入して、カメラの映像を遠隔で差し替えたり削除できるようにしてもらう」
「おー、見事に絡繰に強い面々じゃねえか」
「……俺としては、そいつらが余計なことをしでかしそうな気がするんだが?」
「ちょっとした遊び心を加えるとは仰っておりましたが」
「その遊び心は止めておけ」
「別にいいんじゃない? 相手が相手だし」
「……はぁ」
ジライヤはため息を吐くに留めた。どうせその『遊び心』の餌食になるのは自分ではない。あの審神者たちなのだ。ならば、これ以上口出しする必要もないだろうと。
その後、柊たちは上手いこと刀剣女士たちを休ませてやり、帰る時には全員から惜しまれるくらいには懐かれていた。それを審神者は『それほどまでのテクニックの持ち主だった』と解釈したらしいのはある意味幸いか。
一期からは袖を控えめに摘まれ、「帰ってしまわれるのですか……?」と捨てられた子犬のような目で見られたのは予想外だったが。
また来る、と言えば全員嬉しそうな顔をしたのは、少しだけ嬉しかったりもする。
余談だが、柊たちの後に来たトレイシーたちが帰ってくると、不二咲以外はとてもいい、「やりきった!」と言わんばかりの顔をしていたと言う。
「これ、一応映像や他のデータはコピーしておいたよぉ。……中身は、バルクさんが見せてくれなかったけど、悲鳴とか聞こえてたんだぁ……柊さん、早くあの人たちを助けてあげて!」
「うん、ありがとうちーたん。バルク爺、ナイス」
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.138 )
- 日時: 2020/04/24 22:42
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
そして一週間後。それぞれの班に分かれていた刀剣男士たちが再び大広間に集まった。そこかしこに、さまざまな世界や場所に繋がった映像が浮かんでおり、それぞれ代表として誰か一人が映っている。(中には後ろに何人かいる場所もあった)
「それでは、報告を開始してくれ。まずは出陣班隊長、へし切長谷部」
「はっ。出陣先は基本的に阿津賀志山のみ。時折池田屋になりましたが、その際は短刀を一部投入し、全員大した怪我なく終了いたしました。
彼らは多少首を傾げておりましたが、気付いていない、というより、考えている暇はない、と言った様子。ただし、いつもよりずっと早くノルマが達成できたとは気付いている様子です。
以上になります」
「分かった、ありがとう。次に、通称『館』情報収集班。まずは刀剣女士と会っていたメンバーから。
……初日から怒りと殺気が隠し切れてない陸奥守吉行、報告を」
柊の言葉に全員の視線が陸奥守に集まる。柊の言う通り、館に行ってから怒りと殺気が少しだけ感じられるのだ。そしてそれは無理やり抑えつけていてこれなのだと全員が気づいていた。
「……主らぁも知っちょるように、わしは多めに刀剣女士を付けられちゅうね。おそらく、初日のやり取りで主が自分の刀剣男士は大切にし、優先する人間じゃと気付いちょる。
じゃからわしに多めに刀剣女士を付けていると見てえい」
「ふぅん、案外観察力はあるってことか」
『だとすると、トレイシーさんたちが弄った機械にも気付かれるのでは?』
歌仙むつみの言葉に、えええ!? と声をあげてトレイシーは画面の前にいたナワーブを押し除けた。
『ほんとに!? まずいなぁ、何とか様子見に行かないと……』
『なるべく違和感のないように弄ったがのぉ。のぅ、左右田』
『お、おう! ただ、もしも細かい違いを気にするようならバレちまうかも……』
『もう一度行くのであれば今度は客ではなく、業者として行くのが得策ではないか?』
『うむ、ライオン殿。私もそう思っていた』
ライオンの意見に三笠も頷く。しかし何人かは首を傾げていた。
「なるほど、業者としてならば多少の違いがあっても気にはしないだろう。その上で堂々と絡繰を変えたりもできるだろうな。何とか東雲殿に手を回してもらい、あくまで表面上はお偉方の紹介による業者、ということで警戒心を解かせれば良い。
マーリン殿の幻術によって姿を変えていたならば軽い変装で十分誤魔化せる」
三日月がそう口にして全員が理解したところで、柊は途中だった陸奥守の報告を促した。
「最初に付けられたんは、粟田口の子ぉらじゃ。そこで、皆が口々に己の名を告げてきた、が……」
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「あの、ぼく、は、あれ。ええと、ええと……」
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「五虎退は己の名を忘れ」
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「あぁう、うぁ、あ」
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「秋田は、言葉を忘れちょった」
その一言に、全員が殺気立つ。柊が特に殺気立っていたが、それすら目立たないほどには全員が怒っていた。
陸奥守は続ける。
「あそこの乱が言うには、短刀はおぼこの方がええという客が多く、審神者が術で一回一回その手の記憶だけを消すことが多いにかあらん。が、一部の短刀はそれが効きすぎて自分の名や言葉を忘れてしもうたというんじゃ。ようても物忘れが激しゅうなっちゅう」
「なーるほどなるほど。とっととぶっ潰すべき吐き気を催す邪気なわけだな。容赦しなくていいと見た」
『最初から、容赦などするつもりはなかったでしょう御侍様』
くすり、と笑いながら北京ダックは言う。そんな彼も目は笑ってはいない。笑えるものか。
それにしても、そこまでの惨事になっていたとは。この本丸ができた頃は、短刀と陸奥守しかいなかったこともあり、怒りも殺気も抑え切れなかったに違いない。むしろ、柊からしてみれば「よくここまで抑えられるもんだ」と感心すら覚えてしまうほどだ。
「わしの意見じゃが、完璧に助けるなら作戦を立てるのは必須。けんどそう時間もかけられん。いっそ数に物を言わせるのもありだ思うぜよ。以上」
「……ありがとう。次、報告者はいる?」
「いいか?」
手を挙げたのは鶴丸だ。彼の眉間にはシワが寄っている。
「鶴丸、報告頼む」
「ああ。俺は初日、女になった和泉守を付けられた。そして翌日、光坊から『付けられた俺の同位体に違和感を感じる』と言うんで俺が直接見てみたのさ。
他の奴らの話を聞いたところ、おそらく、何振りかは意図的に精神年齢を幼くされている。無垢、と言えば聞こえはいいかもしれんがな。……ちょっとした手品を見せるだけで、幼子のように大はしゃぎする、女になった俺を見る日が来るとは思わなかった。こんな驚きはいらないんだがなぁ……」
「……女体化に加えて、精神年齢を幼くするときたか。
次は」
次に手を挙げたのは御手杵。その隣にいる同田貫は変わらないが、御手杵は少しばかり悲しそうな顔をしていた。
「御手杵、報告を」
「おう。……何振りか、刀剣男士も刀剣女士としても顕現しない刀がいる。その中にな、同田貫正国もいるんだ。
……あっちの、女の俺曰く、『あいつは男として顕現しようが女として顕現しようが戦場に行って、できうる限りの敵を斬って折れる』らしい。前に見せてもらった、ノルマが達成できてた日があったろ? 同田貫が顕現している時だけは、ずっとできてたんだ。
ただ、何振り目からか審神者が「気味が悪い」って顕現されなくなったらしいけど」
「……なるほどな。多分、その俺は『お偉方が審神者を庇えなくなるまで折れる』つもりだったんだろ」
同田貫の言葉に全員がざわつく。彼はそれも気にせずに続けた。
「おい御手杵、その行動は『何振り目』からだって言ってた」
「あー……一振り目からだって」
「……一振り目からずっと?」
「……俺の、同田貫としての性格考えりゃ分からなくもねえ。が、一振り目からずっと統一した考えを持つのは不可能に近い。
……もしかすると、そこの俺はずっと『一振り目』が降り続けてたのかもな」
「!? さ、さすがにそれは……あり得ないんじゃ……」
「基本行ってたのは阿津賀志山。そこに練度一のやつを、いくら困ってるからって連れて行くか? さすがに止めるやつはいるだろ。
その上で、練度一のやつなんて敵一体も屠れやしねえだろ。ノルマに困ってんならなおさらだ」
「……」
「まあ、今はそんなこと関係ねえ。実行はいつだ?」
「もうそろそろ……最短でも三日。それまでに全員、準備等を整えておくこと!
以上、散!!」
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.139 )
- 日時: 2020/04/24 22:49
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
中央館、神々の間。大乱闘のステージ、【終点】によく似たそこに来た柊はその場で跪く。
「創造神マスターハンド、破壊神クレイジーハンド、白梅大陸の統治人柊、参りました」
そう言えばどこからともなく、二つの巨大な手が現れた。この手こそがマスターハンドとクレイジーハンドだ。
「よくぞ来た、柊」
「如何なる御用で?」
「ああ。あの審神者に手を貸した者が分かった」
「!!」
「柊、心して掛かれ。今回を皮切りに、奴らは動き出す」
「奴ら、ということは」
「奴らは、かつてこの世界を壊滅に追いやった。下手をすればあの時以上になっていることだろう」
「……マスターハンド様、その者の名は」
「あの審神者に手を貸した者、それは……
闇と混沌の化身、ダーズだ」
「!! ……だから、刀剣男士を性転換させた上に、性格や精神年齢にまで変化を及ぼすことができたわけですか」
「その通り。……もう片方は、分かるな?」
「……光の化身、キーラ」
「今回の件に、キーラは関わってこないだろう。しかし、どこかでキーラも動いているはず。我々も警戒しておくが、お前も警戒は怠るな」
「はっ!」
深々と頭を下げる。ダーズとキーラ。かつてこの世界を破滅させようとした者たちだ。それがまた動き出した。その上、ダーズが今回の事件に関わってきている。
油断など、できるはずがない。改めて柊は、気を引き締め直した。
次は、少しいらんかったと思いつつ書いたおまけになります←
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.140 )
- 日時: 2020/04/24 22:56
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
おまけ
「……」
柊は連日の疲れで死んだ目をしていた。もう変装も疲れたし変声も疲れていたのだ。ぶっちゃけ彼女らの境遇が酷すぎて毎回「それ聞いてませんけど???」となるくらい。
「え、主何してんの」
「……」
「清光、たすけてくれ」
柊に膝枕されて顔を真っ赤にしている長曽祢はか細く言った。柊自身、死んだ目をしながらも、長曽祢の頭を撫でる手を止めない。
「あ、あー……なるほどね?」
「加州さんっ」
「あ、電どうしたの?」
「バルクさんが相談したいことがあると言っていました!」
「ありがとうねー」
「清光」
「あ! 長曽祢さん、羨ましいのです……」
「おいで電ちゃん、なでなでさせて」
柊が手招きすれば電はぱあ、と顔を明るくして小走りで駆けていく。電の頭を撫でる。
……何故かは知らないが、柊は疲れていると短刀たちや小さな子を甘やかして癒される。が、あまりに酷いと長曽祢を甘やかし始めるのだ。
長曽祢が加州に助けてほしいと目で訴えているが……加州は笑顔で親指を立てるだけだった。
「頑張れ、長曽祢さん」
「清光ぅう……!」
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