二次創作小説(新・総合)
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.148 )
- 日時: 2020/05/11 18:17
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: EByIShHF)
悪魔の城は崩壊す
作戦決行当日。柊はある扉の前に来ていた。その扉には『world:All』と書かれている。そこにある札を貼り付ければ、扉が輝き始めた。それとほぼ同時に、扉が開く。
五人の男女が現れ、柊はその五人に頭を下げる。
「この度は、ご協力ありがとうございます。月詠さん」
「よろしくお願いします、柊さん」
『作者代理とオリキャラとキャラが送る日常』や『逃走中〜五人のアリスと小さな夢〜』の作者、月詠さんと彼女のオリキャラたち四人だ。
終夜麻琴、トライアル一真(青蓮)、ツキト、御劔燐。月詠と握手を交わした後に四人とも握手を交わす。なお、ツキトは本来は少年なのだが刀剣女士のことを思い、女体化をしてきてくれていた。ありがたいことこの上ない。
「それで、早速何か手伝いましょうか?」
「いえ、事前の準備は基本的にこちらで済ませておきました。念のため、チェックお願いできますか?」
「はい。あ、そういえばあのくそ審神者たちはどうするんですか?」
「ああ、事前に東雲さんに手を回してもらって客共々後で集めます。今頃、偽の政府からの呼び出しに冷や冷やしてるんじゃないっすかねぇwww
なので余裕で準備、確認、刀剣たちの避難はできますよ」
「わあ、悪い顔……」
「あっははは。早速行きましょうか」
そう言ってまた近くの扉に英数字、いくつかの漢字を書いて貼り付ければ扉が光り、中へ入っていく。そして目に入ったのは……なんかもうとにかくドロドロの赤い本丸だった(爆)
「「「「「えっ」」」」」
「どういうことなんです???」
「いやぁ、全員がすげえいい笑顔でぶちまけてました! 屋根とかは短刀、脇差とか空飛べる子を中心にやったんですよ、凄くないです?」
「柊さん、貴方のSAN値の方が心配です」
様々な逃走中や日常小説を書いている【葉月】さん案である。ついでだからと本丸へ付けた刀傷が無駄にいい味出している。
「ぶっちゃけ中はわりとホラーです。バルク爺たちがやたら張り切ってたんですけどやりすぎワロタってくらいに」
こうして柊案内の元、本丸内の確認をしていく。……刀剣男士の避難は、すでに終わっているらしいのは幸いだった。いやむしろ、血糊やケチャップをぶちまける前に避難してなかったら彼らも可哀想である。
確認を終え、次に向かうのは一足先に刀剣男士が避難している場所だ。館と本丸の間から、明るくも優しく照らされる橋が延びており、その先に大きな三階建ての和風の建物があった。周りは広々とした湖になっており、そこを何人かの艦娘や戦艦少女、KAN-SENが滑っている。まるで極楽浄土のような景色だ。
「綺麗だな……」
「今まで暗い場所にいたんです、これくらいは当然かと。……マーリンと大工妖精さんたちには特別報酬出さないと……」
「そういえば、なんで周りを水で囲うんだ?」
「あー、それに関しては追々説明しますよ。物資もそろそろ運び込まないといけませんし……そうそう! あの建物からでも物資を運べるように扉作っておいたんで、この紙を貼れば元の場所までひとっ飛びです」
「ありがとうございます。そうだ、これどうぞ」
「? これは……黒水晶のネックレスですか」
「ええ。念のためにと思って」
「ありがとうございます、月詠さん。ありがたく付けさせていただきます」
月詠からネックレスを受け取り、すぐに付ける。すぐに全員で物資の運び込みを開始した。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.149 )
- 日時: 2020/05/11 18:25
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: EByIShHF)
そして館。館の広間では刀剣女士が集められ、彼女たちの前では次郎太刀を筆頭に今から避難するための注意点を挙げていた。そこにひょこりと顔を出したのはツキトだ。
「あ、確か主の知人の世界から来てくれたお客さんだね? アタシは次郎太刀! よろしく頼むよ!」
「僕はツキト。よろしく」
「はいっ、ボクは乱藤四郎だよ!」
「アタシはフランシス・ドレイクってんだ、よろしく!」
「私は……ふむ、そうですね。リッパー、あるいはジャックとでも。私としてはリッパー、が耳に馴染んでいますが」
「えっと……リッパーさんは男?」
「ええ。ですがご安心ください。サーヴァントのレディ……おっと失礼、ドレイクさんと次郎さん、乱さんがいれば手を出そうにも出せません。貴方もいれば、尚更出せるはずもありませんよ」
とは言え、その大きな刃物となっている左手を見て警戒心を抱くな、という方が無理な話だろう。ツキトとしては「この人物は確かに害がない」と分かるからあまり警戒心は抱かないが刀剣女士の何振りかはリッパーに対して警戒心を剥き出しにしている。
そんな時、ぱん、と次郎が手を叩けば全員の注意が彼に向いた。
「さっきので注意は終わりだよ! さあ、さっさとこんな辛気臭い場所抜け出しちまおう!
誰か歩けないのはいるかい?」
次郎が言うとおずおずと手を挙げた刀剣女士がいる。江雪左文字だ。パッと見はあまり変わらないがその胸部を見れば一目瞭然だった。
「に……姉様は、僕らを庇って、足を動けないようにされてしまって……」
「あの、僕たちが運びます、だから」
「ああ、お気になさらないで。運ぶのは私ですから」
そう言ってリッパーは失礼、と江雪(にょた)に近づいていく。そこでようやく気づいたが、青いバラの杖を背に持っていた。
「それでは、失礼しますよ」
リッパーは刀剣女士になっていても、そこそこ背の高い江雪を軽々と『お姫様抱っこ』した。
「……おや」
「すみませんね、ヒイラギが『絶対にこの携帯品を持っていけ』というものですから。まあ引きずるよりはよっぽどマシでしょう?」
「……引きずられたくは、ありません……特に、髪を掴まれるのは……」
「私の場合、足掴むんですよねえ」
「……顔が、削れてしまいます……」
「大丈夫ですよ、引きずるのはサバイバーだけなので」
そんなマイペースな会話をしながら、刀剣女士たちと避難し始める。不安に駆られていた彼女らも、避難場所となる所を見てほぅ、と感嘆の息を溢した。
橋を渡り、中へ入っていく。広々としたその空間は、刀剣女士全員が入ってもスペースが余るほどだ。階段は壁に仕切られており、念のためかエレベーターまで付いている。
「凄い……!」
「ね、ねえっ、本当にここ、ボクたちが使っていいの?」
乱(にょた)が、興奮を隠し切れない様子で聞いてくる。ツキトが頷けば乱(にょた)はわぁあ、と思わず声を溢していた。
今まであんなに暗くて狭くて、なおかつ不衛生な場所にいたのだ。こんな風に喜ぶのも無理はない。
そこに柊と月詠がやって来た。
「全員避難終わったー?」
「ええ、リストアップされていた刀剣女士は全員です。……お嬢さん方、他にはいませんよね?」
「ああ、これで全員だ」
三日月(にょた)が微笑んで頷いた。そこに、二階から誰かが降りてくる。
「柊殿、月詠殿、申し訳ないのですがもう一杯水を……」
降りてきたのは一期一振、それも、刀剣女士らと同じ本丸にいた一期一振だ。彼は目を丸くして刀剣女士らを見ている。
「あ……」
「いち、兄?」
「あ、良かった、無事でっ」
「近づくなっ!!」
「っ」
一期一振が駆け寄ろうとするのを一期(にょた)が叫んで止める。彼女は妹たちを背に隠し、一期一振を睨んだ。
その体は、微かに震えている。
「い、妹たちに近づくなっ、あの男の味方のくせにっ、どうして!」
「……そうだな。柊殿、どういうことだ? あんな者たち、助けずとも良かろう」
「なんでこいつらまで! おれたちをみすてるようなやつらなんだぞ!!」
三日月(にょた)、鶴丸(にょた)が言う。戸惑う者が殆どだったが、一部はその三振りと同じように睨んでいる。それに、一期一振は傷ついた表情をしながらも何も言わない。
「待って、誤解だよ」
ツキトが言うも、誰も信じようとはしない。困った、そう思った時だ。
「いち姉!」
「! 平野っ!」
平野(にょた)が来たのだ。彼女の服は通常の平野藤四郎の戦闘装束とよく似た服を着ており、下はスカートとスパッツを履いていた。
「皆さん、お聞きください。彼らは、僕らの本丸の刀剣男士は、騙されていたんです!
到底達成できないようなノルマを課され、それが達成できれば僕らのお役目を免除すると……彼らも騙されていたんです! 決して、僕らを見捨てた訳ではありません!」
「ひ、平野っ? 騙されて、いた? 私たちがかい?」
「……いち兄、申し上げ難くて、言えませんでした。ごめんなさい。
いち兄たちが必死にノルマを達成しても、僕らのお役目は、免除されたことはありませんでした」
「そ、んな……私たちが、やっていたことは、無駄だったのか……? ……はは、見捨てたと思われても、仕方ないね……」
一期一振はそう言って自笑する。その時、彼女らはようやく気付いたのだろう、一期一振の疲れ切っていた様子に。反応も見て、嘘ではないと分かったらしい。
「……こちらの一期よ」
「っはい」
三日月(にょた)が歩み寄る。そして、そっと手を握り、額に当てた。
「すまない、俺たちの思い込みで、酷い態度を取ってしまった」
「そんな! 三日月殿たちは悪くありません、悪いのはっ」
「悪いのは、あの審神者ですよ」
月詠の言葉に全員が彼女を見て、柊や次郎たちも頷く。
月詠が手を叩き、さて、と一息置いた。
「皆さんに服のプレゼントがあります。種類も豊富に揃えましたのでご自由にお選びください」
「カウスリップとものよちゃん向かわせますね。三階で着替えてくれる?
足が動かない子はエレベーター使ってね」
服は三階に用意してある。刀剣女士たちは階段で上がっていき、江雪(にょた)と宗三(にょた)、小夜(にょた)はエレベーターで上がっていった。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.150 )
- 日時: 2020/05/11 18:30
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: EByIShHF)
「いやはや、最近の彼女らは『鬼ノ目』とかいう若造に執心でしたからなぁ。そろそろ自分たちの立場をもう一度理解させるとしましょうか」
「ええ、どうぞご自由に!しかし、皆さまも政府に呼ばれていらっしゃったとは」
「結局、何故呼ばれたのかも分からんままだったがね。が、むしろ幸いだったのかもしれん」
審神者は、『館』の常連であるお偉方と審神者たちを連れて本丸に戻ってきていた。ゲートを潜り、最初に目にするのはどうしても城な訳なのだが。
彼らが目にしたのは、おどろおどろしく赤く染まった本丸だった。
「なっ!?」
「なんだこれは!」
全員がざわついていると後ろから何か音がする。振り向くとほぼ同時に、先端が鋭利な鉄格子の付いた壁が迫り上がってきた。その壁は男たちの両脇にも迫り上がってくる。
「ひっ、ひぃっ!!」
「み、皆さま、中へ!!」
審神者の一言に誰もが我先にと本丸内へ入っていく。最後に審神者が入り、玄関を閉めるも中も赤く染まっている。
全員が気味が悪いという態度を隠さずに歩いていく。しかし、一つ角を曲がろうとした時、またあの壁が迫り上がってきた。
「ひっ!!」
「な、何なんだ一体……!!」
戻ろうにもまた壁が迫り上がってくる。仕方なく男たちは本丸内を進んでいく。唐突に迫り上がってくる壁に怯えながら。と、一人が不意に足元に違和感を感じた。それを確認する前にガシャ、という音がする。
すると、廊下にヌルヌルとした液体と虫がぶち撒けられた。
「ぎゃああああああ!?」
「な、す、すべっ、ぎゃあっ!!」
「ひぃいいいいい!! おっ、俺は虫がダメなんだぁぁ!!」
突然の出来事に全員がパニックに陥る。とにかくこの場を抜けようとしても液体によって滑り、思わぬ方向へ行けばあの壁が迫り上がり、顔面をぶつけたり。全員、もはや悲鳴を上げて無様なほどに暴れるしかできなくなっていた。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.151 )
- 日時: 2020/05/11 18:35
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: EByIShHF)
一方、刀剣たちが避難している建物では。
「ファーーーーーーーーwwwwwwwwwwww」
「いやぁ無様だね!!」
「……っ」(プルプル)
「女の一期一振、いいんだよ笑って」
男たちが悲鳴を上げて混乱に陥っている様がモニターに映っている。あまりの無様さに被害に遭っていた刀剣女士も刀剣男士も顔が赤くなるほどに笑いを堪えていた。
それは無理もない。今まで我が物顔で振る舞い、自分たちを虐げていた者たちが少しの悪戯(実際やられると少しでは済まないレベルだが、されてきたことを考えれば随分と可愛いものだろう)であそこまで右往左往し、悲鳴を上げているのだ。正直、タネを知っていれば笑えてきてしまう。
『たっ、助けてくれぇえ!!』
『ひぇええええん!! ママぁあああ!!』
「おい一人マザコンいるぞ」
「……(すんっ)」
「……あ、あれ? あの方は、よく鳴狐殿を指名していた……」
一期(にょた)の言葉を聞き、加州がマザコン男の顔を確認した瞬間、真顔になった鳴狐(にょた)に声をかける。
その後ろでは鳴狐が月詠さんからの物資の一つである梅酒を一瓶持っていた。
「えっ、そうなの? 大丈夫、鳴狐(にょた)?」
「……大丈夫じゃない。あの男、鳴狐にいつも『ママ』って母親の真似を強要してきた」
それを少し離れたところから聞いていた柊が思わず、と言ったように声を上げた。
「あっ聞きたくないやつだそれ!」
「……肉体的には楽だったけど、精神的には死にそうだった」
「梅酒、飲む?」
「たくさんちょうだい」
「飲んで忘れよう」
鳴狐から梅酒を注いでもらった鳴狐(にょた)はそれを一気にあおる。そしてコップを鳴狐に差し出し、鳴狐はまたそれに梅酒を注いだ。トライアル一真は離れさせられていた。
そのまま加州は鳴狐(にょた)の愚痴に付き合わされる。
「あのね、ほとんど性行為はなかった。でも、大人の男に『ママ』って呼ばれて甘えられるのは精神的には厳しいものがある」
「うん、そうね……厳しいっていうか、人生でも刃生でも何も知らないでいたい世界だね……」
「鳴狐は、一期や粟田口の子なら別に甘えられても良い。いいや、甘えられたい。『母上』って呼ばれてもいい」
「あれ???」
「加州も、可愛らしいから『母上』って言ってもいいよ。だけど、あの男はダメ」
「あれぇ???」
「……加州。鳴狐(にょた)が言いたいのは、若くして頭部が荒野になって、体が鞠のような男はさすがに甘えられたくないってことだと、鳴狐は思う」
「そう。さすが、鳴狐」
「……こんこん」
「こんこん」
「何このやりとり???」
「『母上』って言ってもいいよ」
「さすがにやめておくね???」
そんなやりとりをしている中、短刀たちが集まって月詠さん、葉月さんから送られた食べ物、飲み物を堪能していた。そこに一振、柊本丸の日向正宗も混ざっている。
「よもぎ餅、美味しいです!」
「塩大福もとても美味しいですよ、前田」
「こっちのぷりんあらもーどって言うのも美味いぜ!!」
「はい、日向はうめがすきだとおききしました! うめのおかゆどうぞ、あーんです!」
「ふふ、ありがとう。……うん、美味しいね。この梅、分けてもらいたいなぁ……後で聞いてみようかな」
「ぜりーおいしいっ!」
「まかろん、どれ、たべようか、なやんじゃいます」
「秋田がまた話せるようになるなんてな……これを用意してくれた人たちに、感謝してもしきれないな」
「……これは、歌仙が作った和菓子ですね。抹茶も、美味しいです。……直接、お礼を言いたいな」
中には葉月さんから送られた掌サイズの鞠で、たまたま休憩に来た駆逐艦たちを巻き込みながらも皆楽しそうに遊んでいた。
「あの子たちが、あんなに笑顔になれるなんて」
「……ここが、極楽浄土でしょうか……」
「そう思ってしまいますなぁ」
「これからは、もうあの男たちに苦しめられずに済むんですね……」
保護者にあたる刀剣たちは、ゆったりとピーチティーを飲んでいる。ふわりと漂う桃の香りにそれだけで浄化されそうだ。
それに加え、月詠さん、葉月さんからのパワーストーン等によって全員がゆっくりとではあるが確実に浄化されていた。
「ほら、蜂須賀姉ちゃん! この子たち可愛いよ!」
「う、うぅ、贋作に似てるのは……しかし……」
「…………贋作、か」
「人懐っこいなこいつら!」
一方、蜂須賀(にょた)と浦島(にょた)、蜂須賀、浦島は葉月さんより送られたもちたち……正式名称、もちもちマスコット、略称、もちマスの中の蜂須賀もち、浦島もち、そして長曽祢もちと戯れていた。蜂須賀(にょた)と蜂須賀は長曽祢もちに少し複雑そうだが。
……というのも、『長曽祢虎徹』に対してあった出来事が原因だ。
蜂須賀(にょた)は他本丸から『真作の蜂須賀が贋作である長曽祢に嬲られるのが見たい』という欲望から操られた長曽祢に嬲られたことが幾度もある。終いには、わざわざ虎徹の贋作を見つけてきては無理やり顕現させ、その贋作たちに嬲られた。真作である蜂須賀(にょた)を嬉々として嬲る者もいて、中には「このような姿、まるで贋作だ」と嘲笑う者までいた。
それを知った長曽祢が審神者に対し、怒鳴り込んだのである。「これ以上、女の蜂須賀に対する侮辱をやめろ」と。その時に共に乗り込んだのが蜂須賀であった。審神者は嘲笑いながら言った。「延享の記憶、江戸城下にて亀甲貞宗を連れて帰ることができればやめてやる」と。
審神者は完全に長曽祢を見縊っていた。それに気付いていた彼は名を使い、『約束』を取り付けたのだ。蜂須賀が見ている前で。結果、長曽祢は亀甲貞宗を連れて帰ることには成功した。彼に謝りながら。……折れるのを、耐えながら。帰城して面白くなさそうな審神者を見ながら、彼は倒れ、蜂須賀に頼んだ。「どうかこの先折れずに、あの審神者に約束を破らせないでほしい」。そう頼んだ。
蜂須賀が了承したのを見て、彼は折れた。蜂須賀(にょた)は今日それを聞かされ、二振りとも長曽祢に複雑な気持ちを抱いているのだ。
「もっ、も」
「も!? もーっ! もーっ!!」
「もちっ」
ふと、長曽祢もちだけが離れようとしていることに気が付く。二振りが首を傾げていると虎徹もちで何やら話し合い? が行われているようだった。
「もしかして、長曽祢兄ちゃんみたいなもちさん、蜂須賀兄ちゃんたちのこと考えて離れようとしてる?」
「! ……そう、か」
「その、べ、別にいて構わない。……いや、いてほしい」
そう言って蜂須賀(にょた)は人差し指でそっと長曽祢もちを撫でる。長曽祢もちは驚いていたが、戻ってきた。
浦島も浦島(にょた)も笑顔を浮かべてそれを見る。お互いに良かった、と言いながら。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.152 )
- 日時: 2020/05/11 18:40
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: EByIShHF)
『あーあー。聞こえますか?』
「っと、はいこちら柊。月詠さんどうしました?」
柊の持っていた端末に、月詠からの連絡が入る。ちなみに彼女とトライアル一真、そして豊前、ジライヤと共にすぐ横の部屋に待機しているのだが男たちは誰一人として気付いていないし、仮に入ってこようとしても先ほどまで迫り上がっていた壁──バルクが操作する壁が邪魔をするだろうから危険はない。万が一乗り越えて危害を加えようとしてくるならば豊前かジライヤが月詠を抱えて全員で逃げる手筈になっている。
『マザコンの声がデカすぎて聞こえづらいんですが実はファザコンもいることが判明しました』
「そんな報告欲しくなかったですwww」
『笑ってるじゃないですか……。そろそろ悲鳴を聞くのも辛いので、次行ってもいいですか?』
「はい、どうぞ。私もそろそろスタンバイしておきますねー」
『それと、あの審神者……ここの審神者、少し変』
トライアル一真の言葉にぴくりと反応する。しかしすぐに忠告ありがとうございます、と返して歩き出す。念のため、まだ避難場所にいてくれるツキトにもう一つ端末を渡し、簡単に操作を説明して出て行く。
見張りの食霊、カニみそ小籠包がこちらに気付いた。
「御侍、どこに行くんだ?」
「そろそろ私もスタンバイしとこうと思ってね。つまり、カニみそ小籠包たちもそろそろ『出番』ってわけ。基本的には艦娘たちが何とかするつもりでいるだろうけど、避けるやつも出てくるだろうし。
ところで燐さんは?」
「念のために、後ろの方も見回ってくれてる。とは言え、後ろにはちょっとした庭があるだけで後は水なんだけどさ」
「了解。端末は渡した?」
「バッチリ」
「ありがとう。じゃあ先に行ってくる」
「あ、待った待った! どうせなら誰か一人連れて行った方がいいって。ナシレマとか」
「やめときます」
橋を渡り、本丸内へ入っていく。そこに用意した部屋を確認した後、別の部屋へと向かった……。
避難場所内。いい加減、悲鳴も正直聞き飽きてきた。そんな時に、どこからかドン、と音がすると画面の向こうの廊下は一気に偏り、男たちはまた悲鳴を上げながら滑り落ちていった。
「ドリフ……」
「ドッドッ……」
「歌わないですよ、御手杵さん」
「ちぇー。にしてもすげえ量だったんだなぁ、あのぬるぬる」
「ローションですね。ほんと、すごい勢いで滑ってく……ん?」
画面の向こう。何故か男たちの後に廊下を滑る団体がいた。
『ああああああああああああああああああああああああ!!!!』
「あれって」
「すみません御手杵さん、あの人たちってこっちの世界の裸族ですよね?」
「麻琴」
簡単な見回りから戻ってきた麻琴が頬を引きつらせながら言う。が、御手杵はのほほんと「そうだなぁ」とだけ。
周りを見れば予想外すぎる展開に刀剣男士も刀剣女士もぽかんとしている。その場には、完全に酔っ払っている次郎、次郎(にょた)、日本号二振りの笑い声だけが響いていた。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.153 )
- 日時: 2020/05/11 18:45
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: EByIShHF)
「ぎゃあああああああああああ!!」
「いやぁなんか大変なことになったね!」
「なんだお前らぁああ!?」
悲鳴を上げる男たちに、裸族が追いつき爽やかに話しかける。しかしいきなり褌一丁の裸族たちに、男たちは余計に混乱した。
「我らは柊サイド裸族だ!!」
「らぞっ、はあ!?」
「柊さんが余ったローションを分けてくれて、逆だいしゅきホールドハリケーンの練習をしていたんだけれど、輝々が新しい裸族技+裸族の遊びを思いついてな!
その名も『裸ーリング』!!」
「なんて!!?」
「『裸ーリング』とは! まあ早い話が裸族のやるカーリングだな! 用意するものはデッキブラシとローションと、得点を書いたハウスだ!!
ストーンとなった裸友をローションによって滑らせ、裸友のKO☆KA☆Nがハウスに止まった場所によって得点が変わり、得点が高い方が勝ちだ!! なお、この時滑る体勢によっては【芸術点】を与えるのもあり!!」
「いやそんなのどうでも、ぎゃっ!!」
突然ぶち当たった壁によって男たちは止まる。ちなみに裸族たちはそのぬめりを器用に扱ってダメージなく止まった。
「さてさて、我らは他の場所で裸ーリングの練習をしてくるとしよう!
ああ、そうだ一つ」
太子がにこりと笑いながら男たちを見下ろす。何でもないような笑顔のはずなのに、威圧を感じる。
「お前たちの罪は許されることはない。ほら、そこの紙を見てみるんだな」
太子の言葉に男たちは指された方を見る。そこには『証拠は全て回収した』とだけ書かれた紙が襖に貼られている。
それだけのことが、どれほど男たちには恐ろしいことか。ほとんどの者が顔を青くして震えている。しかし審神者はそれを剥がし、襖を開け放つ。
中は書斎のようだ。やはりここも赤塗れ。特に、本や書籍に多い。
ただ、一ヶ所だけはやたら荒らされていた。
「ひぃいいっ!!」
「な、な」
審神者は飛び出すように中に入り、男たちも釣られて中に入っていく。ふと上を見れば刀剣男士たちを模った『何か』がいくつも吊るされている。
「ひ、ひっ」
「ぬぅ……」
「ぬ゛ー……」
そんな声が聞こえる。男たちはいっそ気絶できればいいのにと思うがしないのが現実である。そして審神者は荒らされた場所を掻き分けて何かを探していた。
後ろからガシャン、と音が聞こえて全員が勢いよく振り向く。あの壁の向こうに、三人の女がいた。
一人は赤めの長い髪をした女。一人はこげ茶のふんわりとしたショートヘアの女。そしてもう一人は長いおさげの少女だった。女二人はよくいそうなOLのような女だが、少女だけは少し不思議な格好をしている。
ようやく、そして元々刀剣女士たちを嬲るために来ていた男たちは三人を見て鼻の下を伸ばした。三人は綺麗な顔立ちをしていてスタイルも悪くない。特に少女は胸元がよく見える服装のため、そのふっくら膨らんだ胸部が男たちを誘っている。全くもって、脳が下半身に直結しているとしか思えない。
「貴方たちの罪を裁く宴が始まります」
「神々を己の欲望を満たすためだけに虐げた貴方たちは許されるでしょうか」
「さあ……今より宴の会場まで、真っ逆さまです!」
三人が口々に言えば男たちのいる部屋の床が突然開いて落ちていく。そしてなかったかのように床が元に戻り、壁は下へ降りていった。
「……ふぅ……」
「緊張しましたね、ゆきさん」
「はい、アステルちゃんは大丈夫?」
「はいっ、大丈夫ですっ」
三人の女──ゆき(夢100ヒロイン)、あかり(アカセカヒロイン)、アステル(オトメ勇者ヒロイン)がお互いにお疲れ様と労い合う。
そこに三人の男が歩いてくる。
「ゆき」
「アヴィ!」
「あかり、お疲れさん」
「ありがとう、晋作」
「……おい、大丈夫なのかよアステル」
「う、ん、平気……ごめんねスラッシュ、やっぱり手を貸して! あの、ぬるぬる踏んじゃって……!」
「お前なぁ……ヒイラギにあれだけ立ち位置気を付けろって言われてただろ?」
アヴィ、高杉晋作、スラッシュがそれぞれゆき、あかり、アステルに手を差し出す。そして壁が完全に降りると六人は中に入り、吊るされていた『何か』……通称、ぬいたちを下ろしてやる。
「お疲れ様、ぬいちゃんたち」
「ぬー!」
「苦しくなかった?」
「ぬ!」
「後はゆっくりしていてね」
「ぬぅっ!」
全てのぬいを下ろし終えると部屋に来てくれた彼女らの旅の仲間たちと共にぬいを連れて戻っていった。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.154 )
- 日時: 2020/05/11 18:50
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: EByIShHF)
そして、男たちはと言えば。長らく落ちていた感覚はそれぞれの体や顔への衝撃で終わった。全員が起き上がる。
「ようこそ、皆さま」
「お待ちしておりました」
「!! 貴方は……鬼ノ目様!? そちらの女性は……」
「どうも。こちらは月ノ音様。私の知人にございます」
「何、鬼ノ目だと!?」
「まさか今までのあれは貴様の仕業か!!」
「おや、道中何がおありで? 私は、仲間たちに皆様を『歓迎』する準備を整えていただいたのですが……」
「貴様!! あれが歓迎だと!? ふざけるのも大概にっ」
「まあまあ、落ち着いてくださいな。それのお詫びも兼ねまして、皆様には『素敵な食事』を振る舞います。……刀剣女士たちも、来ることでしょう。その時にはどうぞお楽しみくださいませ」
月ノ音……もとい、月詠がそう言えば全員の顔はだらしなく緩んだ。再度言うが、全くもって下半身が脳に直結しているとしか思えない。
二人が道を開けると、目に入ってきたのは絢爛豪華なパーティー会場であった。テーブルにはいくつも美味しそうな料理が並んでいる。
「どうぞ。まずはこちらの料理を。ええ、料理人が『腕を奮って』作った自慢の料理になります」
男たちはその言葉に喉を鳴らして立ち上がる。べちゃべちゃぬるぬるなのも忘れて。後ろに控えているボーイなどにも目をくれず、それぞれ好きな料理に手を伸ばし、口にした。
「……んっ?」
「お、おい、何の味もしないぞ」
「ぎゃあっ!?」
「おいっ、お前女になっているぞ!?」
「ええええな、なんでっ!?」
「なんか背中に羽が生えたあああああ!?」
「ワロリッシュ」
「体型が力士に近い人が女になるって言っちゃあれですけど目に毒ですね」
「いやあ、あれはぱっと見でも不潔な野郎だからでしょう」
「確かに。清潔な人であれば力士に近くても目に毒にはなりせんね」
そう。これもまたオシオキ。これは月詠さん提案のものだ。味は☆4な奇跡料理とまったく味のしない高級デザート。かなり精神的に来るものがあるだろう。
「きっ、さまら! 何を入れた!?」
「特には。強いて言うならば、体質ですねぇ。ああそうそう! 言い忘れておりましたが、貴方たちはこの料理を全て食べ切るまでこの部屋から出すつもりはないので悪しからず。
さあ、次はちょっとしたゲームをいたしましょうか。こちらの和菓子、中にはとてつもなくマズイ和菓子がございます。それが外れ。どうぞ、お選びください。それと、お茶も飲まないと当たりを引いてもクリアとはなりませんのでご了承を」
このロシアン和菓子&お茶は、葉月さん提案である。しかしお偉方っぽい男は怒鳴りながら歩み寄った。
「ふざけるな!! 貴様、このようなことをしてどうなるか分かっているのか!?
貴様程度、潰すなど訳がっ」
「ははは、仰いますね。
いいから食らわんかいこんのタコがぁああああああああああ!!!!!」
一人の顎を掴み、無理やり口を開かせて和菓子とお茶を口に放り、顎と頭を掴んでまた無理やり閉じさせる。
「ンゴぇええええええええええええ゛!!!」
「ああ、当たりですオメデトウゴザイマース(棒)」
月詠の声に周りのボーイたちが動き出す。
「ウィル、抑えとけよー」
「おうよ、ナワーブ!!」
「あ、アンドルー、意外とち、力、あるんだな?」
「……いいから早くしてくれないか、ピアソンさん」
ウィリアム(第五)とナワーブ、アンドルー・クレスとピアソンが手際よく放り込んでいく。その度に上がるくぐもった悲鳴。ちなみに何人かは当然リバースしていた。
ジライヤはジライヤで一人で、すぐに口を開けさせて放り、開けさせては放りと一番手際よくやっており、ここで待機していたウシワカマルもとてもいい笑顔で「さあ、イッキ、イッキ」と何か間違った掛け声をしながら放り込んでいた。
それを見ていたトライアル一真も目の前の男の口を開けさせて和菓子とお茶を放る。
「ン゛ッ」
「あ。気絶した」
「あーそいつ外れですね。……ん? あっ、そいつここの審神者じゃないですか……。そいつがメインって言っても過言じゃないんで、水でもぶっかけて起こしちゃってください」
「ひ、鬼ノ目さん」
「……んー。もういいですよ、柊でも」
「分かりました、柊さん、ちょうどいいものありますよ」
「……コーヒーですか?」
「ええ。まあ見ててください。青蓮、口開けさせておいてください」
「分かった」
思い切り開けられた口に、遠慮なく熱々のコーヒーを流し込む。それだけでも拷問だと言うのに……。
「アヂマズッ!!!!」
「わぉ」
このコーヒー、月詠さん提案のオシオキの一つであった。どうやら淹れた本人ですら不味いという代物のようだ。審神者の言葉を聞いた男たちはバッと会場を見る。
ようやく気付いたがどの飲み物もコーヒーしかない。無駄に手間でもかけたのかホットもアイスもある。……そして、この状況からして見て、そのコーヒーしかないのが分かる。
「ちゃあんと食べ切らないと……ほら、今まで貴方たちが虐げた『女性』も、怒ってますよ?」
意味深にくすくすと笑う月詠に、全員が恐る恐る振り向く。そこに立っていたのは、生きた人の肌ではない、真っ白な肌をして、長い髪を無造作に垂らした女──貞子が立っていた。
「くぁwせdrftgyふじこlp!!!!!!!!」
「ひぎっ(気絶)」
「ぁ、アハハハハハ……(壊れ)」
「この人たち全く気付きませんでしたね、今の今まで」
「正直めちゃくちゃ可哀想に思えてしまいましたね」
「さっ、ラストいきましょうか!!」
ラスト、という言葉に全員が片手に、あるいは両手に料理を持つ。それは床にへたり込んでいるから見えないが、禍々しい湯気を立たせており、中には変な汗のような臭いを発している物もある。これもまた、葉月さん提案のオシオキである。
一歩前に出たのはケンタッキーとスプリングフィールドだ。
「さすがに、覚悟してね?」
「ここにいる連中、マスターも含めてお前らを簡単には許さねえ。あ、そうそう。そこに映像流してっから見ながら……ぶつけてやるよ!!」
流れてきたのは裸族が踊り狂う映像。その際の汗が集められ、料理にぶち込まれる映像。そして男たちは察する。
この汗のような臭いは、まさしくそれだったのだと。
「ひっ、ひぃっ」
「ゆ、許し、」
「みんな行くよー!!」
「せーのっ!!!!」
──スパーキングっ!!!!
──イヤァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
男たちの悲鳴は、しばらく響き続ける。
「ふうっ。思ったより呆気なかったですね」
「ええ。……すみません、ちょっと外の空気吸ってきます」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、あ、月詠さんたち用にエミヤが作った料理あるんで良かったら食べてください。ウシワカマルに言えば取ってきてくれますから」
「いいんですか?」
「ええもちろん。トライアル一真さんにも用意してありますのでどうぞご遠慮なく」
「!! 嬉しいな……!!」
そう言って柊は外に出て行く。月詠とトライアル一真も、未だにスパーキングしたり、奇跡料理などを口に無理やり放り込んだりしている面々の側により、ウシワカマルに声をかけた。ウシワカマルは優しく笑いながらゆっくりと、そしてさりげなく男たちから離れさせて待機させた。
だから、誰も出入り口なんて見ていなかったのだ。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.155 )
- 日時: 2020/05/11 21:02
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: EByIShHF)
本丸外、そして避難場所から少し離れた庭。ふうと息を吐いた柊は気が緩んでいた。マスターハンドとクレイジーハンドからダーズの存在を聞いてはいたが、ダーズの妨害は結局なかった。正直、あれでも緊張していたのだ。
「これなら大丈夫だったかも……とりあえず、この後は全員でパーティーでも」
──ドスッ
背中に、何かがある。軽く咳き込むと、口から血が溢れた。
「あ……?」
「ひ、ひひ、よくも、よくもっ……!」
振り向けば、そこにはあの審神者がいた。審神者は歪んだ笑みを浮かべて……ナイフを、背中に突き刺している。
それを認識した瞬間、痛み、吐き気、目眩、そして痺れが柊を襲った。
「がぁっ……!? な、にが」
「もうすぐでっ、もうすぐで、あいつらを救済対象にしてやれたのにっ、お前のっ、お前のせいだっ!!
せめて、贄になれぇえええっ!!」
「あ゛っ!!」
もう一度刺され、立っていられないほどの痺れと痛みが襲う。倒れ、意識を失う。それでも体はビクンっ、ビクンっと痙攣し、白目を向いている。
「柊さん!? 何をしているんだ!!」
「!!」
微かに聞こえた男の声に何とか薄く目を開くが、結局最後に映ったのは、誰かが審神者に襲われる瞬間だけだった……。
「うぅん……」
避難場所。もはや軽く宴会場にもなりかけている部屋の隅で陸奥守は難しい顔をしていた。
「どないしたんです? 陸奥守はん」
「おお、織田先生! さっきから、主の端末に連絡しとるんじゃが、出ん」
「月詠はんには連絡しました?」
「月詠さんには俺からした」
織田作之助の後ろから声をかけたのはブラウン・ベスだ。その隣にはタケミカヅチもいる。しかしブラウンは月詠から「柊は少し前に空気を吸いにと部屋を出た」と聞かされたという。
「陸奥守さん!」
「んお? エマ殿、フィオナ殿どういた?」
「イライを知らない? さっき天眼を使いすぎて疲れたから少し休むって言ったきり戻ってこないの」
「いいや、俺たちは見ていないが」
「ひゃああ!?」
突然の悲鳴に、愉快な騒ぎも収まり悲鳴の方へ視線が向く。そこにいたのは、また部屋の隅でモニターなどの操作をしていた左右田、不二咲、バルク、トレイシーに加え、ルカ・バルサーが何やら必死に手を動かしている。特に左右田、不二咲、トレイシーは涙目になっていた。
そちらに駆け寄り、どういた、と声をかければバルクが舌打ちをして憎たらしげに口を開く。
「機械の制御が効かん!!」
「何だと!?」
「だ、誰かにハッキングされたみたいでっ……ぼ、ボクでも対処しきれないよぉ!!」
「どどど、どうなってんだよぉ!? 並大抵のやつじゃハッキングするどころか、逆にし返せるはずじゃ!?」
「どういうことっ!? わ、わわっ、本丸内に配置してたロボットたちの制御権、どんどん取られてくっ!!」
「こんなの、とてもじゃないが人間のできることではない! まるで、最初からあちらの権限だと言わんばかりにこちらの権限が奪われていくぞ……!」
「ガードNo.26のみは何とか制御できとるが、それ以外は取られる!」
「な、何が起きてっ……」
その時だ。今までオシオキを映していたモニターの映像が乱れたのは。耳障りな音を立て、モニターは映すものを変える。
映っていたのは、両手両足を拘束され、猿つぐわをされ青い顔で気絶している柊と、両手を後ろに拘束され、フードも目を隠す布を取られて誰かを睨んでいるイライだった。
「主!?」
「主君!!」
『よくも、よくも私の邪魔をしてくれたな』
モニター越しから聞こえる声にほとんどの者が怯えた。その様子から、ここの審神者であることが分かる。審神者が柊たちに歩み寄る。
『私はただ、刀剣男士にも刀剣女士にも闇による救済を与えてもらおうと思っていただけなのに』
『何が救済だ!! お前のしたことはっ』
『黙れぇっ!!』
『っが!!』
「イライ!!」
腹を蹴られたイライはげほ、げほと咳き込んでいる。それでも審神者を睨み付けるのはやめていない。
『あのままあいつらが闇に堕ちれば、救済してやれたのに!! ……こうなったら、仕方ないんだ。私の愛を受け取らぬやつらが悪いんだ!!』
審神者はそう言って二人に背を向けて膝をつき、祈るように手を組み、何かを呟き始めた。それとほぼ同時に地鳴りが起きる。悲鳴が上がる。
♪旧支配者のキャロル
モニター越しでも分かるほど、あちらが黒い靄で染まって行く。靄が一ヶ所に集まり、形を作っていく。そうして出来上がったのは、黒く巨大な、赤ん坊のような何かであった。
それを見た審神者は歓喜に満ちた声を上げる。
『おおお!! これぞ、これぞダーズ様が遣わした御使……【闇の御子】!!
ああ、どうか闇の御子よ、この者たちを贄とし、我が身を闇に救ってくださいませ……!!』
闇の御子、と呼ばれたそれはじい、と三人を見ている。そして闇の御子は、
審神者を掴んだ。
『へ……?』
審神者は何が起きているのか理解できていない。闇の御子が審神者を上へ上へ持ち上げ……おそらくは顔と思われる部位の上まで持ってきて、そのまま見上げ、審神者を離すと同時に、グバァ、と顔の部位よりも大きく、口が開いた。
『ひっ!? な、にが、いやだ、助け、いやだぁあああああああああああ』
バクン。
ゴクン。
丸呑みにすると、闇の御子は次に柊たちを見る。そして、その手を伸ばした。
『っ!!』
「イライさん!!」
「主っ!!」
「そんな、こんなことって……!!」
誰もが絶望の声をあげる。しかし、その手が二人を掴むことは叶わなかった。闇の御子は赤ん坊のような、されど明らかに不機嫌そうな声をあげる。
そして赤ん坊が癇癪を起こすように、二人を叩き潰そうとするができない。何かに守られているようだ。
「あっ……! あれ!」
ツキトが指したもの。それは月詠さんが柊に渡した、黒水晶のネックレスだった。黒水晶には魔除の効果がある。それに加え、葉月さんからのお守りもあり、それが、今二人を守っているのだろう。
闇の御子はとにかく叩く。けれどそれだけでは二人を『喰えない』と理解してしまった。闇の御子に、ぎょろり、といくつもの目が生え、背中からはいくつもの触手が伸びる。それらが一斉に二人に襲い掛かった。それでも二人は守られている。
が、いつまでも保つとは考えにくい。
「っ!! 全員っ、主とイライ殿を捜索っ」
「待って! 陸奥守さん、マズいよ」
麻琴の声に外を見れば、一本の橋からぞろぞろとロボットたちが行進してきている。その手には鉄パイプだけではあったが十分だ。その上、闇の御子が召喚された影響か、悪霊と思わしき何かが同じくこちらを襲おうとしている。
「陸奥守、念のために作った地下通路から行け! そこならバレてはいまい! ここの指揮は俺と蜂須賀に任せろ!」
「贋作、貴様も念のために行け!」
長谷部に言われ、陸奥守は地下通路に向かう。彼に着いていくように、タケミカヅチ、織田、ブラウン、長曽祢、彼ら以外にも歌仙むつみとアブラナ、ミルク、アブラナが抱えているジウにモウロとその相棒のイノシシ、そして、麻琴が走っていく。
タイムリミットは言うまでもなく、あのネックレスとお守りが壊れるまで。二人を助けるために、そして全員が笑える未来のために、彼らは走った。
次には闇の御子のざっくりした設定とか置きます←