二次創作小説(新・総合)

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.182 )
日時: 2020/05/30 09:21
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)

今回もまたクロスカプSSになります!
ぶっちゃけ完全私得ですね!!←

私が教えるよ
 それはある日の、喫茶店ブロッサムタイムでのことだった。
「いらっしゃいませ、どうぞこちらの席へ」
「フッ、いらっしゃい、可愛らしい妖精たち」
 きゃああああああ、と黄色い悲鳴が飛び交う。今日は、ベディヴィエールだけではなかった。
 最近、ベディヴィエールが入るとたくさんのお客さんが来て店員が大変だとセザールがボヤいていたのを聞いた柊がまたボヤいていた。それを聞いたのが、ロータスレイクで憲兵隊長をしていた花騎士、ハバネロである。ハバネロは柊と出会えたおかげで大好きな芸術をもっと楽しめるようになったお礼をしたいと名乗りをあげたのだ。
 が、このハバネロ、ロータスレイクにいた頃からずっとモテモテなのである。凛々しく美しい顔つきに長身。そしていつだってクールでいて、キザな笑顔もよく似合って、何をやらせてもパーフェクト。時に甘く危険なスキンシップまで。そんなハバネロがここ、ブロッサムヒルで人気が出ないはずもない。現に、すでに何人かの女性客の目はハートになっている。というか、ハバネロがブロッサムタイムで働くと聞いてロータスレイクからの客が押し寄せていると言っても過言ではない。
 柊の「多分行かせてももっと忙しくなると思う」という予想はバッチリ的中していた。今、ハバネロはベディヴィエールと同じ制服を着ているが仮にこれがスカートでも対して変わらない。いや、少し長めとは言え足を出すスカートの方が危なかったかもしれない。いろんな意味で。主に店内が淑女たちの鼻からの赤いケチャップで染まる的な意味で。
 で、もう一人、人手を派遣したのである。
「い、いらっしゃい、ませ……」
 対してきゃあきゃあ言われない、この男はクリーチャー・ピアソン。整っていないとは言わないが、人並みの、ベディヴィエール、ハバネロと並べば見劣りするその顔にひょろりとした体つき。特に目立つこともなく、次々と仕事をこなしていく。ただし、ベディヴィエール、ハバネロ目当ての客の接客をすると何人かには「さっさと行け」と言わんばかりに塩対応されるが。
「ピアソン殿、これを四番テーブルにお願いできますか?」
「あ、ああ……」
 いい匂いを漂わせるパスタをトレーに乗せて運んでいく。賄いで食べたが、ここのパスタはかなり美味しく感じる。
 四番テーブルに運び、会計をお願いします、と声が聞こえたのでそちらに向かおうとする。
「あっ、ネロ様ぁ〜! お会計お願いしますっ!!」
 ……わざわざ、ハバネロを呼ばれた。いやまあ、いいのだが。ハバネロもちょうど料理を運び終えていたところだし。
「フフッ、少し待っていてくれるかい?」
「はいっ、ネロ様のためならいつまでも!」
 いや、それはこちらが迷惑だからやめてほしい。そう思いながらハバネロを見る。
「……」
「さて、すぐに」
「す、すみません、彼女、休憩なので、わ、私がやらせて、いただきます」
「え?」
「ええ〜、ネロ様がいいのに〜!!」
「すみません……」
「でも、休憩なら仕方ないよ。ネロ様、ゆっくりお休みくださいませっ!!」
 どうやら疑われなかったようだ。仮にここが自分の世界だったらギャアギャア大騒ぎされるところだった。
 先ほどのやりとりを見て察したのかセザールがハバネロを手招きしている。それを後目に会計を済ませた。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.183 )
日時: 2020/05/30 09:26
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)

 セザールが店先のドアに『closed』の札を下げる。窓の外はすでに橙色に染まっていた。客が今まで以上に多かったこと以外、特に問題もなく今日の営業は終わった。ピアソンが一つの席で伸びをしている。
「今日はありがとう。賄い、食べていくだろう? すぐに用意するよ」
「ありがとうございます、セザールさん」
「ふふ、今日の賄いは少し豪華にしようか。この店始まって以来、最高の売り上げだからね」
 そう言ってセザールは厨房へ消えていく。
 ハバネロはピアソンに近づいていった。
「ピアソンさん、あの時どうして私が休憩だなんて嘘を吐いたんだい?」
「あ、あの時?」
「私が会計に呼ばれた時だよ」
「ああ……」
「フッ、もしかして、横取りをしようとしたのかな、なんて」
「……」
「いたっ!?」
 ピアソンの指がピン、とハバネロの額を弾いた。あまり痛くはなかったがつい痛いなんて口に出てしまう。
「つ、疲れていたなら、休むのはと、当然だろう」
「え?」
「い、いつも、そんな風に、え、演技してるのは、疲れるだろうに。す、少しくらい、休め」
「……」
 ハバネロは、確かに演技をしている。クールで、キザだけどそれがよく似合う、パーフェクトなみんなの理想の『ネロ様』を。が、今までそれを見抜いた人はいなかった。
 それにあの時、疲れてはいたがそれを隠していたはずなのに。
「……」
「な、なんだ、よ、余計なお世話だったなら、そ、そう言えば良かった、だろ」
「い、いいや! ……ありがとう、気を遣ってくれて」
「ふん……」
 ……正直、意外だった。ハバネロはクリーチャー・ピアソンという男にあまり良い印象を抱いていなかったからだ。その原因は彼が想いを寄せるエマ・ウッズへの異常とも取れる行動の数々。エマ自身も強く拒否ができずに困っていると聞いている。
 そんな男が、ハバネロの演技に気付いただけでなく気遣いまでして。ついハバネロがぽかんとしてしまうのも無理はなかった。
 厨房からセザールが出てくる。お待たせ、と言って全員で同じテーブル席に座り、賄いを食べ始めた。












 翌日。ハバネロは一つの大きな封筒を持ってこそこそとピアソンを探していた。封筒は分厚く、何が入っているのか。
 目当ての人物を見つける。仲間であるアンドルーと話していた。
「ぴ、ピアソンさん」
「ん……? お、お前か、何か用か?」
「こ、これ。昨日のお礼だよ。あっ、お礼、と言っても貸すだけだからね!? 必ず返してほしい! 私のお気に入りなんだよ!」
「は、はあ? それなら貸さなきゃ」
「いいから! はい!!」
「あ、ああ」
 半ば押し付けるように渡す。そして早々に帰って行く。
「……な、なんなんだ、一体」
「……中身は何だろうな」
「さあ……」
 大して興味なさげにピアソンは封筒を開ける。そこに入っていたのは、一冊の小説だった。
「本……?」
「小説、だな。この著者は……彼女の世界では有名な名前だ」
「……そう、か」

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.184 )
日時: 2020/05/30 09:31
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)

 そしてまた翌日。ハバネロはいつものように仕事を終え、家に……厳密に言えば別宅の方へと帰っていた。その途中で、見覚えのある男を見つける。ピアソンだ。
 ピアソンはこちらに気付いて歩み寄ってくる。その手にはお気に入りの小説が。
 目の前まで来ると、彼はその小説をハバネロに差し出した。
「か、返しに、来た」
「あ、ああ。ずいぶんと読むのが早いんだね……」
「……」
 何故かピアソンはいつも目が泳いでいるのに今はさらに泳ぎ始めた。首を傾げていると、あー、うー、と言葉にならない声をあげている。
「よ、読んで、ない……」
 ぼそりと返されたその言葉にハバネロは少しだけむっとする。が、すぐに冷静になろうと少しだけ息を早くした。確かに読む、読まないは自由だ。それに好みの話ではなかったのかもしれない。
 とは言え、ハバネロが所持している小説の中でもお気に入りの作品。少しだけ残念なのも事実だった。
「……好みじゃ、なかったかな?」
「……いや、違う。お、俺は、あまり、学がないんだ。が、学校なんて、か、通えなかったし。
だ、だから、小難しい物を渡されても、読めない」
 その言葉にハバネロはぽかんとして……思い出した。そうだ。ピアソンは孤児院にいたと聞いたことがある。今、そしてこの世界とは違って、彼のいた世界では(とは言え、ピアソンのいた孤児院やその街の環境が悪かったのだろうが)孤児院の子どもたちに働かせるだけ働かせて食い物にするということも少なくはなかったらしい。
 そんな状況で、彼が孤児院を経営するだけの知識を持てたのは奇跡にも近いが、その分、芸術には触れて来なかったに違いない。いや、触れて来られなかった、が正しいか。
「と、とにかく、返したからな」
「あ、待ってくれ!」
 手首を掴んで呼び止める。彼は驚いて振り返るが、ハバネロは気にせず言葉を続けた。
「これは小難しくて読めないと言ったね? ではもっと分かりやすい物を貸すよ! 何だったら私が教えるから、読んでみないかい!?」
「は、はあ? なんでそんな」
「読もうとしてくれたんだろう? そうでなくちゃ、これが小難しいかどうかなんて分かるはずない」
「……!!」
 そう、確かに彼は「小難しいを渡されても読めない」と言った。とすれば、一度は読もうとしたのだろう。が、先ほども言ったようにハバネロのお気に入りは彼には読みづらいものだった。
 ならばもう少し分かりやすいものから。そうすれば読めるはずだし、芸術について語れる仲間が増えるかもしれない。何より、今はそんな環境ではないのだ。芸術に触れる時間も、余裕だってあるはずだ。
「……そ、それ、なら。読んで、みる」
「……!! じゃあすぐに選んでくるよ、ここで待っていてくれるかい?」
「い、今か!?」
「善は急げ、さ!!」
 そう言ってハバネロはすぐに別宅へ駆け出し、別宅にある比較的読みやすく、なおかつ短編集を選んでいく。本当ならば長編を勧めたいところではあるが、彼は近々新しい孤児院を経営するという(柊が第五人格勢にいくつか職を紹介したりしている)。長編では時間が取れなくなるかもしれない。
 ふと、ハバネロの目にカルセオラリアの戯曲集が目に入る。これは非常に素晴らしくて今すぐにでも勧めてあわよくば語らいたいほどに。だが、それではいけない。これはまた今度だ。
 五冊ほど選び抜き、袋に入れて持っていく。ピアソンは戸惑いながらも待ってくれていたようだ。
「お待たせ。これなら読めると思うよ」
「あ、ああ……ってちょっと待て! 絵本が入っているじゃないか!?」
「絵本だって立派な芸術さ! 特にその絵本はリシアンサスさんの作品で全体的に幸せになれる素晴らしい作品なんだよ!!」
「お、おう……」
「ハッ……こ、こほんっ。とにかく、どれでもいいから読んでみてほしい。で、分からないことがあったら団長越しでも、私に直接でもいいから聞きに来てほしい。……せ、せめて、憲兵隊の子たち越しには、聞かないでほしいな……。というか、あなたのためにもそうした方がいいかな……」
 もし、もしもだ。ピアソンが突然憲兵隊の誰かに聞いたとしたら隠しているこの趣味がバレてしまうし、それ以前に下手したらピアソンが殺され……いや、それはないだろうが総攻撃の対象になりかねない、かもしれない。挙動不審なのは庇いきれない。仮に自分の客人だと言ってもピアソンにあらぬ誤解が向かいそうだ。
 ただ、もう少しだけ語れる仲になれたら。
 親友であるジョロキアにだけは、紹介したい。









 と、考えていたハバネロであったが。
「よ、読んだぞ。……そ、それと、だいたい、ご、五歳くらいの子どもが、読めそうな絵本、お、教えてほしいんだが……」
「ああ、いいよ。それにしてもわざわざ自分から返しに来る辺り、あなたも律儀なんだね」
「そ、そりゃ、貸してもらっているわけだからな……」
「フフッ。あ、そうだ! リシアンサスさんが新作を見せてくれるそうなんだ!! もし良かったらピアソンさんも行かないかい!?」
「い、いや、それは遠慮しておく……というか、さっきの絵本の件、教えてほしいんだが……?」
「そうかい? 残念だな……っと、絵本だったね。それなら……」



「ねえ、最近ネロ様と親しげに話すあの挙動不審男、誰だと思う……?」
「まさか、ネロ様の恋人っ……!?」
「いやぁああああああ!! あんな挙動不審で不潔な男が!? 絶対認めないというか認めたくないわ!!」
「いいえ、きっとあの男がネロ様の弱味かなんか握って脅しているに違いないわよ!!」
「弱味……? ネロ様に……???」
「ま、まさか、ネロ様のあられも無い姿を収めた写真……とか……?」

  ざわ……
         ざわ……
     ざわ……

「くっ……ゆ、許せない、許せないっ……!!
ネロ様の、あられも、ない……うらやま、違った、許せないっ……!!」
「そ、そんな、もの……欲し、違った、奪って捨てなくては……!」
「わ、私たちの、ネロ様の……! 見たい、違った、許さないわ!!」
 若干欲望が隠しきれていない、鼻から赤く細い滝を流す憲兵隊(中には目から赤い涙が流れている人もいる)の面々が、結局ピアソンにあらぬ誤解を抱えてしまうとは、ハバネロも予想外に違いない……。
 しかして、彼女らは変わらず、『ネロ様』にメロメロになっているのであった。

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