二次創作小説(新・総合)

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.202 )
日時: 2020/06/29 15:36
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)

六月の花嫁たち
「「「ジューンブライドイベントの撮影会!?」」」
「そうなんです……」
「どうか協力してもらえませんか!?」
 六月のある日。柊本丸近くに作られた荘園にて話していたエミリー、エマ、トレイシーにミク、舞園、りせが頼んできたのは、ある会社からジューンブライド、そして七月の結婚式の写真を撮りつつ、宣伝をしたいという仕事の協力だった。
 本来ならば以前、ミクをもて遊んだバジラの会社が、その上でバジラも受けるはずの仕事だったのだが、何やらバジラと会社でトラブルが起き、完全にヘソを曲げたバジラが「そんなに困ってんならボーカロイドの奴らにでも頼め」と投げてきたのである。しかしその人数が多く、会社側もなるべく多くのカップルの写真を撮り、盛り上げたいと言い、ミクが困っているところを舞園とりせが話を聞き、様々な人に声をかけて協力してもらおう、ということだ。
「私は構わないけれど……」
「エマも大丈夫なの!」
「ボクもいいよ! 他にも声かけなくっちゃね、チヒロとカズイチ以外にも声かけておく? ルカさん(第五)とか」
「ありがとうございます!」
「本当にありがとうございますっ、助かりますっ」
「日にちはもう決まってるので、その日に来られる人だけでもありがたいです!!」
 トレイシーが分かったー! とこちらの世界に来てから使用しているスマホを取り出す。荘園のメンバーでスマホを扱えるようになったのは彼女が一番早かった。
「私たちからも何人かに声かけてみるわ」
「エマもやるの!」
「あっ、あの! エマさんには、撮影する人たち以外でも声をかけてほしいんです……」
 舞園のその言葉にエマは首を傾げる。けれど彼女らは知らない。
「う、ウッズさんが……花嫁衣装を……!?」
 それをピアソンが廊下で聞いていたなど。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.203 )
日時: 2020/06/29 15:41
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)

 そしてやって来たイベント当日。
「こ、こんなに参加してくださるのですか!? あ、ありがとうございます!!」
 イベントの主催である『ホワイトブライダル』の社長直々に頭を下げられる。それに顔を上げてくださいと言いつつ、ミクたちは笑顔を向けた。
「天気も良くて、本当にイベントをやるのにぴったりな日になって良かったです! 私たちも頑張りますね!」
「ああ、本当に、本当にありがとうございます! バジラさんたちに断られた時は、どうしようかと思いましたが……」
「あ、それ気になっていたんですけど……トラブルって?」
 MEIKOが聞くと社長はそれは、と言い淀んでから口に出した。
「その、ギャラが安すぎる、と……」
「ええ? その、いくらだったんですか?」
「皆さんやにお支払いする予定の額より少し下、でした……」
「えっ、結構あったよね!?」
「……一桁下とかじゃ、ないんですよね?」
「とんでもない! ……ただ、あちらから提示された額は、一桁上でしたが……」
「はあ!? あいつ何考えてんのよ!?」
 MEIKOが怒りを露わにするがKAITOが落ち着いて、と声をかけている。しかし他のメンバーも呆れたり怒りを覚えていたり、中には所謂スペキャ顔をする者もいた。
 しかしそれでは撮影もイベントも進まない。パン、とKAITOが手を叩けば全員の注目はそちらに向かった。
「怒るのも無理はないけど、今はイベントを成功させることに集中しよう。撮影する子たちはすぐに着替えてこようね」
ほらめーちゃんも、とMEIKOの背中を押しながら彼女を控え室まで連れて行く。それを見て手伝うメンバーもそれぞれ控え室へと向かっていった。











 白いタキシードを着た長谷部は相手役であり恋人の金剛を待っていた。イベントの撮影は一般人にも公開されるため、一般客もたくさん来ている。とは言え、他にも実際に結婚を考えているカップルも参考にしようとしたり、見ながらどういう結婚式がいいか決めて契約したりとするため女性だけでなく男性もちらほら見かける。
「ねえあの人……」
「カッコいい〜」
「撮影に来たモデルさんかな?」
 長谷部を見て色めき立つ女性たち。だが長谷部はそちらに興味すら示さない。
「Hey,長谷部〜!!」
「!!」
 そちらを見れば純白のウェディングドレスに身を包んだ金剛。ベールには小さく白いバラの刺繍がしてある。
「どうデース? このドレス、Very Cuteだと思いませんカー?」
 長谷部の元に駆け寄り、くるりと回ってみせる。
「ああ、とても良いな」
「ふふー、長谷部もやっぱりそう思いマスよ……」
「金剛がより可愛らしく見える」
 長谷部の言葉に金剛はしばし固まってからへにゃりとだらしなく笑った。多分本人は気付いてないがぴょこんと伸びているアホ毛の先端は小さなハートになっていた。
 そしてえへへへ、とだらしない声で笑い始める。それすら愛おしいのだから、恋というのは恐ろしくも手放しがたい。
「長谷部も、Very Very Coolデース! Burning Loveネー!!」
 そわそわしながらそう言う。おそらく今すぐ抱きつきたいのを我慢しているのだろう。
 そんな金剛にくすりと笑ってしまう。さて、可愛らしい恋人のために、人目のない場所へ移動してしまおうか。そうしたらすぐさま彼女は抱きついてくるはずだ。
 長谷部の考えは当たっていたと、また笑うまであと少し。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.204 )
日時: 2020/06/29 15:46
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)

「陸奥殿〜!!」
 元気の良い声に振り向けば、紋付袴を来た陸奥守がこちらへ駆け寄って来ている。その後ろから長門(艦これ)と小さな長門(アズレン)に小さな陸奥(アズレン)が来ていた。
「吉行さん、それに長門たちも」
「わー!! 大きい陸奥姉綺麗ー!!」
「と、とても綺麗だぞ、大きい陸奥……!」
「全くだな。いつか本当に着る時があるかもしれんが」
「もう、長門ってば」
「はー、ほに別嬪さんじゃ〜! いつでも別嬪さんやけんど、今日は一層別嬪さんになっちゅうね!」
「吉行さんも、からかわないでちょうだい。……褒めてくれるのは、とても嬉しいけど」
 陸奥と陸奥守が選んだのは和装だった。化粧は自分でしても良かったが、ここは慣れているスタッフに頼んでいる。
 いつもはあまり赤い口紅をひかないが、今回は別だ。
「……」
「吉行さん?」
「……ああ。なるほど。さて、小さい私に小さい陸奥。陸奥守が何やら陸奥と話したいことがあるようだから私たちはお暇するぞ」
「えー!! なんでなんでー!?」
「陸奥、お暇だ」
「後でアイスでも買ってやろう」
「!! アイス!! 二ついい!?」
「ああいいぞ」
「やったー!!」
 長門(艦これ)は長門(アズレン)と陸奥(アズレン)を連れて離れて行く。それに首を傾げていると、陸奥守が苦笑いしながら歩み寄って来た。
「将来の義姉さんにゃあお見通しか」
「お見通しって」
「陸奥殿、ほんに、綺麗ぜよ。……その赤い口紅も、よお似合うちゅう」
 顎を持ち上げられる。その太陽のような瞳と目が合う。……この瞳が、陸奥は一番好きだった。
「陸奥殿。愛しちゅうね」
「吉行さん……ふふ、私も。私もよ、吉行さん。いつか、本当にあなたのためにこれを着てみたい。
……約束、させて?」
「おん。約束しとおせ」
 顔が近付く。それに、陸奥は目を瞑って答えた。














 不動は戦装束によく似たタキシードを着ていた。見た目子どもの自分で写真を撮ってどうするのか。酒を抜いてくるように言われたがしなかった。できなかった。
「あー! 不動さん!」
 今日の相手であるネリネの声がする。のそりとそちらを見れば、水色と青を基調とし、どこか人魚姫を思わせるドレスを着たネリネが駆け寄って来ていた。
「……んだよぉ」
「お酒飲んじゃダメって言われてじゃないですかー! もう……でも、少しくらいならいいのかなぁ?」
 そんなネリネの言葉についずっこけそうになる。顔をどう見たって少しの量ではないだろうに。そもそも甘酒だが。
「別に、ダメ刀なんて撮ったって何の価値もねえよ」
「むー、私は不動さんと撮りたいんです!」
「……お前なぁ、いちいちこんなダメ刀に構って楽しいのかぁ?」
「楽しい、というより嬉しいんです! だって不動さん、きちんと返事してくれますもん!」
「なら今度から無視しとけば、構ってこねえな」
「あー! それなら返事してくれるまで話しかけるんですからね!」
 ネリネを少しからかう。根が純粋すぎるネリネの反応は楽しいものがある。とは言え、やりすぎたくもないが。
 ふと、後ろから「あっ」という声が聞こえ、その後に『水の音』が聞こえ、すぐにネリネに被さるように彼女を壁に押し付けた。
「きゃっ!? え、不動、さ」

──バシャッ

「っ冷て……」
「あ、ご、ごめんなさいっ!!」
 振り向けば顔を青くしたスタッフが転んでいた。スタッフの前には空になってしまったバケツと花が落ちている。バケツにはほんの少し水が付いているから、花を運んでいる最中に転んだのが容易に分かった。
 スタッフは先輩らしき男性に怒られ、すぐに立ち上がる。
「ほ、本当にごめんなさい! 替えの衣装を用意しますので、こちらへ!」
「おー……。おいネリネ」
「はっ、はい!?」
「お前は濡れてねえのかぁ?」
「あ、は、はい、大丈夫です……」
「ならいい。……顔赤いぞ、熱か?」
「いいい、いえ、大丈夫ですっ! ふ、不動さん早く着替えてこないと、風邪引いちゃいますよ!」
「おー」
 大慌てのスタッフについて行き、別のタキシードに着替える。しかしなぜネリネは顔を赤くしていたのやら。



「……ふわぁあ……ま、まだドキドキしてるよぉ……!」
 不動は気付いていなかったが、ネリネにしたことは所謂『壁ドン』だ。その上、至近距離で不動の顔があって。水に濡れていて。
「ううぅ、不動さんが戻ってくるまでに、顔赤いの戻ってぇ……!!」
 ネリネは涙目になりながら、一人その心臓の高鳴りを落ち着けようとしていた。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.205 )
日時: 2020/06/29 15:51
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)

「大典太さん、出ておいで、です」
「……」
 困った。実に困った。ボーカロイドの一人である自分、IAの相手として選ばれた(IAが選んだ)大典太光世は思ったよりも大勢の人が来ていたことに困惑し、控え室の机の下に引きこもってしまった。蔵じゃないんですよ。
 大典太の兄弟刀であるソハヤノツルキや同じ前田家のよしみで前田や愛染、平野、信濃や白山がいれば半ば無理やり+説得で何とか出てきたかもしれないが今いるのは自分一人だけだ。
 黒を基調したタキシードに身を包んだ彼はとても様になっている。できればちょっぴり暗い机の下よりも陽の当たる場所でしっかり見たい。
「大典太さん」
「……すまない、イア殿」
「? どうして謝るんですか?」
「……俺のような、封印されているべき刀よりも、よほど似合いの男がいるだろうに、選んでもらったことは感謝している。だが、やはり」
「いたとしても、私は大典太さんがいいです。大典太さんじゃないと嫌です。今回だって、私が相手を選んでいいと聞いたから受けました。
そうじゃなければ受けてません」
「え」
 大典太が顔を上げる。IAは続けた。
「撮影でも、結婚というなら話は別です。いいえ、最近は恋愛ドラマなんかもなるべくお断りしてるんです。大典太さんがいいので。演技でも、大典太さん以外と恋愛できる気がしません。
それくらい、私にとって大典太さんは大きな存在なんです」
「イア殿」
「なので、もし大典太さんが出てこないならこのお仕事はドタキャンです。申し訳ないですが。ソロでもいいんですけど相手はカップルの写真をお望みなので」
「……」
 のそり、と大典太が出てくる。その顔は赤くなっていた。
 好きな男のカッコいいタキシード姿に、赤い顔。IAはこの時点でわりと大満足である。ついうんうんと頷いていると大典太が首を傾げていた。
「やはりカッコいいです。このタキシードを作ってくれた方々に感謝ですね」
「っ!! その、ありがとう……イア殿も、その。よく、似合っている。布が重なっているところはイア殿の髪色とほんのりと同じになるんだな」
「! そうです。なんだかつい選んでいました」
「……綺麗、だ」
「……」
 好きな男に褒められて、ドキドキしない女がいるのだろうか。否、いない。絶対に。顔も絶対に赤くなっている。
 とすっ、と大典太に抱きついて、ずるいです、と呟く。多分、何がずるいのか分からないから慌てているんだろうなと思いつつ、IAは顔を上げることができなかった。
「(お姉ちゃんたちを呼びに来たけど、どうしよう)」
 控え室の前で、IAの妹であるONE(オネ)が悩んでいることなど露知らず。













「何故!!!! 邪魔を!!!! する!!!! 刀剣の横綱ぁ!!」
「貴様が!!!! 幼子に!!!! 邪なことをしようとするからだ!!!!」
 イベント会場の一角。とある男女が注目を集めていた。
 女はアーク・ロイヤル。アズールレーン世界においてロイヤルに属する空母のKan-Senである。
 男は大包平。刀派古備前、太刀の刀剣男士だ。
 この二人は今、(二人にとっては)壮絶な口論を繰り広げていた。まあ要するに小さい子にハァハァしていたアーク・ロイヤルの邪魔を大包平がしているだけである。
 ぶっちゃけクソデカボイスで口論をする二人に周りも苦笑いしかできない。側でゆっくりお茶を飲んでる鶯丸が浮いていると思われるくらいには。というのも無理はないが。
 何せこの口論、わりと高頻度で行われているからだ。そして毎度毎度鶯丸は、この口論中に起こる『ある瞬間』を楽しみにわざわざ聞きに来ているほどなのだから。
「ええい、いい加減に邪魔をするな!! 私は駆逐艦や小さい子を守ろうとしているだけだ!!」
「顔を赤らめ息を荒げていてか!! そんな風にしているから類稀な美貌を持っているのに誰にも気付かれんのだ!!」
「んぇっ!?」
 アーク・ロイヤルが顔を真っ赤にして変な声を上げると共にその場の注目が一気に集まる。鶯丸はそのままの顔でブフォと吹き出していた。大包平は気付いていない。
「なんだ、また顔を赤くして何があった」
「い、いいいやそのあのえと、あ、あー私は用事があったのだったこれにて失礼するぅううううっ!!」
「あ、待て貴様、まだ話は終わって、ええい逃げ足の早いやつめ!! 何度目だ、話が終わっていないというのに逃げるのは!!」

──あ、毎回言ってるんだああいうの。

 周りの心はそう一つになったことだろう。
 鶯丸は爆笑していた。多分、この事は『大包平観察日記』に書かれるに違いない。いや、間違いなく書く。
 何せ、これが鶯丸の楽しみにしている瞬間なのだ。
 相手を過小評価もしなければ過大評価もしないがどんな相手だろうときっちりと評価する真面目さ。それが毎度毎度アーク・ロイヤルを赤面させる口説き文句になっていることに大包平は気付いていない。
 しかしこの二人、何故か交際に発展しない。鶯丸としては、わりと不思議だが面白いので関係が悪化しない程度ならば放置していた。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.206 )
日時: 2020/06/29 15:56
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)

「どうして僕が……」
 イソップは隅っこで座り込みたい気持ちを必死に抑えていた。隣には上機嫌のミクがいる。
 最初はイベントに見学に来て欲しいと言われただけなのに、MEIKOに呼び出されたと思ったらあれよあれよと言う間にタキシードに着替えさせられていた。そしてミクの前に立たされ、彼女も目を丸くして驚いていて。
 で、今の撮影順番待ちに至る。
「えへへ、イソップくんと写真撮れるなんて思わなかったよ」
「ええ、僕もです……」
 そもそも撮られるつもりはなかったし。思い切りため息を吐きたい衝動に駆られる。我慢するが。
 KAITOとMEIKOの撮影が終わったらしい。二人はミクとイソップに声をかけて頑張れ、と励まして行った。
「はぁ〜……MEIKO姉綺麗だなぁ、いつかKAITO兄と本当に結婚するんだろうなぁ……」
 ほわほわとその時のことを想像しているらしい。自分の結婚式ならともかく、そんなに幸せそうな顔をできるなんて。
 自分としてはあまり理解できない。
「あの、イソップくん」
「なんですか」
「……その、ごめんね。今日、MEIKO姉がイソップくんが来るって聞いて、無理やり」
「……」
「い、今更だけど、嫌だったらいいからね」
「……はぁ」
 ため息を吐けばミクは少しだけバツが悪そうな顔になる。
「このタイミングで言うことじゃありませんよ。本当に悪いと思ってくださっているなら、早く済ませてしまいましょう」
「え……」
「ところでマスクは外した方がいいですか? 僕としてはしていたいんですが」
「あっ、えっ、えっと、大丈夫、だと思う!」
「分かりました。じゃあ、行きましょうか。
……花嫁さん」
 少しからかう。それだけでミクは顔を真っ赤にした。
 普段はあまり人をからかうことはしないのだが、どうしてかミクにはできてしまう。一体どうしてなのだろうか。
 まあ、今は関係ない。早く撮影を切り上げてしまおう。そう考えながらイソップはミクの手を引いて撮影へ赴いた。








 イベント会場の一角では、立食形式でのビュッフェが行なわれている。というのもこれもまた結婚式に関するもので、結婚式にて出す料理をここで試食することができるのだ。
「な、なんで俺までっ」
「ピアソン殿、あちらのテーブルにこちらの料理をお願いします」
「わ、分かった!」
 ピアソンとベディヴィエールはセザールの知人がここで料理を出すためにその手伝いに駆り出されていた。
 ベディヴィエールはいいのだがピアソンには愛しのエマの花嫁衣装を見るという、本人にとってはかなり重要な目的があった。しかしこれでは抜け出そうにも抜け出せない。
「くぅう、ウッズさんの花嫁衣装、素敵なんだろうなぁ、ドレス、もしくはシロムクか?」
「あっ、ピアソンさん!」
「!! う、ウッズさんっ!?」
 ピアソンはテンションを上げて振り向く。もしかしてわざわざ会いに来てくれたのだろうか。それも花嫁衣装で!!
 が、そんな期待も虚しくエマはいつもの格好だった。その後ろには呆れ顔のエミリーと……ウェディングドレスを着たハバネロが。
「え、う、ウッズさん、その、ドレス、き、着ないのかい?」
「? エマがお手伝いしてるのは、会場のお花とかの飾り付けなの!」
「私とエマは最初から着る予定なかったわよ」
「んなぁあっ!?」
 騙された。そう叫びたくなる。しかしエマは彼に一言たりともウェディングドレスを着るなど言っていない。ピアソンが勝手に勘違いしただけである。
「……そんなぁ……」
「それよりも! ピアソンさん見てなの! ハバネロさんとっても綺麗でしょう?」
 そう言われてしっかりとハバネロを見る。嬉しそうに、けれど少し恥ずかしそうな彼女は確かに綺麗だった。
「まあ、それなりには」
「素直に褒めてあげてほしいの!」
「レディ・エマにレディ・エミリー、それに……レディ・ハバネロ、ようこそ。レディ・ハバネロ、そのウェディングドレスよくお似合いですよ」
「フフッ、ありがとうベディヴィエールさん」
「おーい! ちょうど良かったぜ!!」
「おや?」
「アキレアさん! わぁあ! アキレアさんもウェディングドレス着てるの、とっても素敵!!」
 そこに来たのは同じくウェディングドレスを着たアキレアだった。しかし彼女のドレスはふんわりとしたボリュームのあるものではなくスレンダーなドレスだ。
「ありがとうなエマ。っと、じゃねえや! ベディヴィエール、わりぃんだけど俺の相手役で撮影に参加してくれねえか?
俺の相手役が急に来られなくなっちまったみたいで……頼む!!」
 パン! と勢いよく手を合わせて頭を下げるアキレアにベディヴィエールは顔を上げてくださいと言った。
 アキレアの頼みに快く頷いたベディヴィエールはセザールの知人に断りを入れてから急いで着替えに行ってしまった。
「そうだわ、私たちもピアソンさんに頼みがあるの」
「へ? ま、まさか」
「そのまさかだよ。私の相手役の人も来られなくなってしまってね。ピアソンさんに頼みたいんだ」
「はぁ!? いや、その、だな! あ、あーそうそう! 俺はまだこっちの仕事が」
「ああ、そういうことならいいですよ。行ってきてください」
「んな!?」
 まさかの言葉にピアソンは頬を引きつらせ、三人は良かったと息を吐いた。
「そ、そんな、う、ウッズさんに勘違いでもされたら!」
「安心してほしいの! エマが頼みに来ているし、仮に勘違いしてもピアソンさんに対しては特に何も思ってないの!」
「ガハァッ!?」
 エマの改心の一撃である。それにより脱力したピアソンを引きずっていく。
「別に、誰も花婿役をしてくれとは言っていないよ」
「へ? て、ことは」
「花嫁をバージンロードでエスコートする父親、その役くらいに考えてくれればいいんだよ」
「な、なんだ……そ、それなら、そうと早く言ってくれ……」
「フフッ、すまないね」
 あからさまに安心したピアソンはさっさと済ませるぞ、と足早に歩を進めた。
 どこか寂しそうなハバネロに、ピアソンも、ハバネロ自身も気づきはしなかった。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.207 )
日時: 2020/06/29 16:01
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)

「あ……」
「……西園寺、さん」
 廊下。そこで二人の少女は会ってしまった。
 桂言葉。西園寺世界。二人は伊藤誠に恋し、その結果、言葉が世界を殺しかけるという惨劇に発展してしまい、浦島が割り込んだおかげで未遂で済んだが、それ以来顔を合わせることはおろか、お互いの名前を聞くことすらしたくなかった。
 今はどちらもウェディングドレスを着ている。言葉は白、世界は明るい黄色。お互いに黙り込み、俯く。
「……西園寺さんも、撮影に臨まれるんですね。相手は、誠くんですか?」
「……ううん。物吉貞宗くん。頼まれたの。桂さんは……」
「私は、浦島虎徹さんに。……」
「……」
 なんと言えばいいのか分からなくなる。また黙り込んでしまい、気まずい沈黙が流れた。
「た、助けてくださぁあ〜〜〜い!!」
「!?」
「え、こ、この声……」
 慌てて二人がその声のする方へ向かう。そこは控え室の一つだった。ドアを開け、つい二人は赤面してしまう。
 何せ、いくらドレスで隠れているとはいえ足を開いた状態で罪木が転んでいたからだ。その上、妙に艶かしく紐が絡まっていた。
「ふぇええ、助けてくださぁあい!!」
「あ、ま、待ってて、すぐに解くから!」
「だから、その、少しの間でいいので暴れないでください……!」
 このままじたばたし続けていたらドレスが捲れ上がってしまうだろう。それだけは避けさせてあげたい。
 図らずとも協力して罪木に絡んでいる紐を解いていく。罪木が言葉の言う通りにあまり暴れなかったために紐はすんなり解けた。
「ふゆぅう……た、助かりましたぁ、ありがとうございますぅ!」
「いいえ、そんな」
「でも、大変だったね、あんな転び方……」
「わ、私、いつもあんな感じで……うぅぅ」
「そ、そうなんだ」
 いつも、となればいろいろと大変なのだろうな、と思う。
 罪木が着ているのは薄紫のドレス。それは彼女によく似合っていた。
「あ、そういえば、この前となんか雰囲気が違うような」
「そう……でしょうか?」
「あっ、そ、そのぉ、髪、整えていただいて……えへへへ」
 そう言われてみれば、確かに長さの揃っていなかった髪は今はきちんと整えられていた。
「こ、この後も、髪をこう、結んでいただけるんですぅ」
「そう、でしたか。とてもお綺麗ですね」
「そそそ、そうでしょうかぁ!? あ、そ、それとも、か、からかわれて……ででで、ですよね! 私みたいなゲロブタが綺麗なんてそんな」
「い、いえ、本当に綺麗だと思って」
「ふ、ふゆぅう……!!」
 そんな時だった。
「おーい、もう着替え終わって……あれ、桂と西園寺もいたのか」
「あっ、言葉さんよく似合ってるよ!」
「世界さん、お綺麗です」
 それぞれの相手役であるソハヤ、浦島、物吉がやって来た。全員タキシードを着ている。浦島だけはいつもの髪型ではなく、ストレートになっていた。
 もう少し早く来ていたら、罪木のあんな姿を、と思うとここにいて良かったと二人はつい思ってしまう。
「あ、そ、ソハヤさん……」
「ん、やっぱ思った通り、よく似合ってるぜ!」
「ひぇえええそんなことありませ、あああでも私がそれを否定するなんてすみませんんんんん何でもしまっ」
「だーから。それは禁止だって言ったろ? 別に怒ってねえし」
 ソハヤはそう言って罪木の唇を人差し指で塞いだ。が、少しだけ意地悪そうな顔をして顔を近づける。
「何だったら、信じるまで言い続けてもいいんだぜ?」
「ふ、ふゆぅうぅううう……」
「ソハヤさん、ここはまだ僕らもいますからね」
「ひゃーソハヤさんおっとなー!」
「っと、そうだったな、わりぃわりぃ! それと、もうすぐで撮影俺たちの番だぜ、蜜柑」
「あっ、は、はい、よろしくお願いしますぅ」
 ソハヤは罪木に手を差し出し、手を貸すと言い、彼女を立ち上がらせた。そしてそのままゆっくりと、彼女の手を引いていく。
「あ、あの、桂さん、西園寺さん、ありがとうございましたぁ!!」
「撮影頑張ってねー!」
 世界がそう言って手を振れば、罪木も控えめに手を振ってくれた。言葉も手を振り、二人を見送る。



「ふふふ」
「どうした、蜜柑?」
「あ、えっと、そのぉ。桂さんと西園寺さんって、良いお友達なんだなぁって」
 罪木が二人の関係を勘違いしたままだったのは、誰も気付くことはなかった。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.208 )
日時: 2020/06/29 16:06
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)

 二人を見送った後、世界と物吉は浦島、言葉と分かれて色々と物が売られているエリアへ来ていた。全て結婚、あるいは恋愛に関する物ばかりだ。
「わぁ……このハンカチ可愛い!」
「あっ、こっちのハンカチも綺麗ですよ」
「本当だ、綺麗!」
 年相応にはしゃぐ世界を見て、物吉は微笑む。正直、ここに来たこと自体は後悔していないが誠のことを思い出して傷つかないか心配だったが、杞憂だったようだ。
 二人が品々を見て回り、時々店の人の説明という名のセールストークを聞いたり。そうこうしている内に、時間は過ぎていく。
 物吉の端末がピロンと鳴った。もうすぐ撮影の時間だと知らせるものだ。
「世界さん、そろそろ」
「……もう、そんな時間かぁ」
「はい。……どうかしましたか?」
「……ううん、なんでもない」
 そう言って笑うが、物吉には分かった。分かってしまった。
 ああ、やはり彼女の胸中には今も誠がいるのだと。きっと、このウェディングドレスも撮影のためとは言え、本心を言えば誠のために着たいと思っていたのだろうと。
「……」
「あ、あっ、と、そ、そうだ! 物吉くん、さっき何か買ってなかった?」
「え、あ。そう、ですね。これなんですが、良ければ世界さんもどうぞ」
 そう言って渡したのは銀色の袋に入った何かだった。その袋に貼られたシールには『ランダムストラップ』と書かれている。
 先ほどの店の人が言うには中には色の違う石の付いたストラップが入っているのだそうで、その石の色によって運気が向上するとか。運気に関しては多分、嘘だが。
「中身、何だろうね」
「開けてみましょうか」
 二人が袋を開けて、手のひらにストラップを出す。
 ……どちらも桃色の石が付いていた。
「ええと、桃色は恋愛運、かぁ……。物吉くんならこの、全部の運が上がる透明な石だと思ったのに」
「そうですか? 僕としては、こちらの方が幸運でした!」
「え?」
「世界さんと、お揃いですから」
「私と、お揃い」
「ええ!」
 それは紛れもない本心。物吉なら多分、祈れば高確率で透明な石のストラップが当たっただろうが、開ける直前に祈ったのは『世界と同じ物がいい』という物なのだから。
 しかし、どちらも恋愛運向上のストラップ。……何となく、後押しされている気がした。
「世界さん」
「何?」
「……まだ、伊藤誠さんのこと、忘れられませんか?」
「っ……」
「……前の恋を忘れるには、新しい恋だと、聞きました。世界さん。
僕と、お試しで構いません。





お付き合いしていただけませんか?」
「え……」
「現代の方の中には、お試しでお付き合いを始める方もいると聞き及んでいます。だから僕らも、一度お試しの恋人から始めていただけませんか?
期間は、三ヶ月。その間であなたが嫌だと思ったら別れを切り出していただいても構いませんから」
 世界は物吉のその提案に戸惑っている。しかし、ここで普通に付き合ってほしいと言っても彼女は断ったかもしれない。何せ、まだ誠を好きなのだから。
 物吉としては、彼女に特別好かれているとは思っていないが嫌われているとも思っていない。ハードルもできる限り下げた。それでも彼女の胸中にいる誠の存在が気がかりだが。
「……本当に、それでいいの?」
「はい」
「……私、まだ誠を好きなんだよ?」
「構いません」
「……わがままだよ?」
「僕の見てきた人間の中では、もっとひどい人もいましたから」
「…………」
「……ダメ、でしょうか」
「……私ね、本当ならダメだって思ってる。いくらお試しって言ってくれてても、こんな気持ちじゃ付き合っちゃダメって。
……ねえ、物吉くん。私……あなたを、利用するだけになるかもしれないよ?」
「覚悟の、上です」
「……そっ、か。……ごめんね、物吉くん……よろしく、お願いします」
 そっと握られた手は、微かに震えていて。だけど、今はそれに気づかないフリをした。
 どうしても、この人が欲しくなってしまったから。










 一方、浦島と言葉は海が見える二階のバルコニーに来ていた。陽の光が海に反射してキラキラと光っている。
「わー、すごいねー!」
「ええ、とても綺麗ですね」
「ね! 本丸からも見えなくはないんだけど、ちょっと遠いからなー」
「そうなんですか? ……本丸では色々な花を見られると聞きましたけど」
「そうそう! 最近いろいろと景趣っていうのがあって、そうだ、百合の花も咲いてるんだ!
よかったら見に来る?」
「いいんですか?」
「うん! 主さんもきっといいって言ってくれるよ!」
「では、近い内に訪ねたいです」
「分かった、話しておくね!」
 にこにこと明るい笑顔を絶やさない浦島。その上、今は髪がストレートになっており、いつもよりもずっと幼く見える。
「あの、浦島さん」
「? なぁに?」
「今日はいつもの髪型ではありませんが、どうしたのですか?」
「あっ、これ? 実はさ、蜂須賀兄ちゃんが『写真はいつまでも残るんだから今日はこうしてくれないかな』って」
「そうなんですね……。ここまで真っ直ぐにするの、大変だったのでは?」
 今でも思い出せるあの髪型は結構ぴょんぴょんと跳ねていた。だからここまでストレートにするのには結構な時間がかかったはず。
 そう思って問えば、あ、それはね、と浦島はくすくす笑いながら答えてくれた。
「俺、本当はいつもの髪型はそうやってまとめてるだけなんだ」
「え?」
「だから、実際はこうなの。いつもの髪型は長曽祢兄ちゃんに似てるでしょ? 似せてるんだ」
「そうだったんですか……。でも、どちらも浦島さんらしくて……」
「えっへへ、ありがと!」
 太陽のように眩しい笑顔。そんな笑顔を向けられる資格など、自分にはないのに。だから言葉は、浦島に対してまだ『よく顔の知る他人』として見ていた。
 ふと浦島が真面目な顔になって海を見たまま口を開く。けれど言葉に真っ直ぐに向き直る。
「ねえ、誠くんのこと、まだ好き?」
「え……?」
「……ん、分かってるんだ。まだ好きなんだろうなぁって。だからさ、言葉さん。
俺と、お友達から始めてくださいっ!!」
 勢いよく頭を下げられ、手を差し出される。浦島のセリフはまるで、告白のように聞こえる。けれど気のせいなのだろう。だったら『友達』になるのも悪くはない。
 そっと差し出された手を握る。
「はい、【お友達】として、よろしくお願いします。浦島……くん」
「!! ほんとに!? やったぁ!!」
 素直に大喜びする浦島についくすりと笑ってしまう。それほどあどけない喜び方なのだ。
 浦島と言葉は、撮影の出番が来るまでそのバルコニーで話していた。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.209 )
日時: 2020/06/29 16:11
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)

 全員分の撮影が無事終わり、イベントも大成功で終わった。撮影された写真のほとんどはホームページなどに掲載され、結婚式を挙げるカップルが増えたと大喜びで報告されたと聞く。
 柊はちょうどそのホームページを見て微笑みながら見ていた。
「指揮官、ちょっといいかにゃ?」
「ん? 明石(アズレン)どうしたの?」
 来たのは緑の髪に猫耳が生えた少女、明石(アズレン)だ。彼女は普段アズールレーン世界にいるはずだが。
 明石(アズレン)は部屋の襖を閉めてふふふ、と笑った。
「指揮官に、プレゼントがあるにゃ」
「プレゼント? また唐突な」
「唐突でもいいにゃ、受け取るにゃ」
 そっと渡された小さな袋。ずいぶんとペラペラだ。感触的には写真だろうか。首を傾げながら袋を開け、中身を取り出す。
 瞬間。
「はぅっ!?」
 キュン、と胸が締め付けられた。顔が熱い。その写真に写されていたのは。
 紛れもなく、タキシード姿で手を差し出し、微笑んでいる長曽祢だった。
「ここここ、これ、一体!!」
「ふっふっふ……長曽祢も連れて行って写真を撮ってもらったのにゃ。ちなみに、まだまだあるにゃ」
「そっ、それ、も……」
「おっと。これ以上は有料にゃ。タキシード、紋付袴の三十枚セットで六千円、そして……指揮官特別セット、長曽祢の着替え中の写真付きにゃ!!」
「!!! あ、明石(アズレン)っ……!!
特別セットをっ……!! 言い値で買おうっ……!!」
 鼻血を垂らしながら財布を開く柊。欲望に忠実である。
「くくく、毎度ありにゃあ」
 明石(アズレン)は悪い顔で三十枚+長曽祢の着替え中の写真を渡し、告げた金額をしっかり受け取ってから帰って行った。
 そして柊は、写真を一枚一枚しっかり見つつ、着替え中の写真は直視できないながらもチラチラ見て基本他の刀剣男士等から譲ってもらった写真を収める『長曽祢秘蔵アルバム』にしまって押し入れの奥……にこっそり作った隠し収納スペースにしまったのである。
 が、後日陸奥守にその裏取引(笑)がバレ、光忠、歌仙も加わった長時間耐久説教された後、他三十枚はともかく着替え中の写真は自ら提出したことをここに明記しておく。

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