二次創作小説(新・総合)

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.21 )
日時: 2019/09/09 20:38
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: 9fWLjRBi)

【小さなお宿】後編

 数日後。ニナの宿には少しだけ活気が戻ってきていた。
 あの後、しばらくの間は紅閻魔が料理、flowerとジャベリン、スプリングフィールドが主に酒場でのスタッフとして、流しそうめんとニナは宿の部屋の掃除などを担当して、flower、ジャベリン、スプリングフィールドの愛想の良さ、ニナと流しそうめんのきっちりとした部屋の手入れ、そして紅閻魔の料理の美味さ。それらが少しずつ噂になって村の人々も酒場を利用し、旅人たちにも勧めてくれたのだ。
 相変わらずグレイとエルメロイII世は何かを調べていて、宿もまだまだだと言えど順調だと言っても過言ではない。
 酒場の営業が終わるとニナは紅閻魔を筆頭に料理を教わっている。ニナは吸収が早く、紅閻魔も感心するほどだ。
「では今日はここまでにしまチュ。しっかり休むんでちよ」
「はい、ありがとうございます!」
 終わった後は片付け。その間、いつもはお互いに口数が少ない。
 けれど今日は違った。
「あの、紅閻魔さん」
「なんでちか?」
「……どうして、ここまでしてくれるんですか?
あの、ありがたいとは思っているんです。だけど、どうしてなのかなって、気になっちゃって」
「……あちきも、同じことがあったのでち」
「え?」
 今でも思い出せる。閻魔亭。紅閻魔が女将として働く場所。そこはあと少しで全てを終わらせなくてはいけないほどに困り果てていた。だけどそれをお客に見せないようにしていた。
 ある日、やってきたカルデアのマスターとそのサーヴァントたち。そこには『ヘルズキッチン』の教え子たちもいて、ひょんなことから(ただし紅閻魔たちにとっては一大事だった)彼らをお客ではなく従業員として雇うことになって。
 彼らのおかげで、全てを終わらせずに済んだ。紅閻魔が、どうしても果たしたかった再会まで果たせた。
 ここの話を聞いて、それを思い出した。そして、どうしても助けたくなった。かつて、紅閻魔を助けてくれた藤丸兄妹のように。
「さ、明日も早いでちよ。早く片付けて早く休むでち」
「は、はい」
 笑顔を向ければニナも笑顔になって片付けを再開する。それはすぐに終わり、火の元などを確認してからニナと別れた。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.22 )
日時: 2019/09/09 20:43
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: 9fWLjRBi)

 ……さらに数日後。スプリングフィールドはニナと共に山菜を採りに来ていた。今は少しニナと離れていて、スプリングフィールドの持つカゴには半分ほどの山菜が入っている。
「うーん、そろそろかな。ニナちゃんとの集合場所は……」
 スプリングフィールドが振り返り、戻ろうとした時だった。振り返った彼の背後からガサ、と音がした。それに念のためにと共に背負ってきていた銃、【スプリングフィールド】を手にして再び振り返り構える。
 音は徐々にスプリングフィールドに近付き、心音が煩くなっていく。しかし指も手も震えはしない。
 そして、その音の正体が姿を現した。
「ん?」
「あれ?」
「あーっ! お前、スプリングかー!!」
「タタン!!」
 タタン、と呼ばれた少年はその頭にピンと立った犬の耳が生え、尻尾も生えていた。彼は『この世界で』ヴェント族と呼ばれる種族。彼を見てスプリングフィールドはここが何の世界なのかを思い出した。
「ここ、タタンたちの世界だったんだね!」
「久しぶりだな! ケンタッキーとかはいねーの?」
「あー……それがね?」
 スプリングフィールドはタタンにここに来るまでの経緯を説明する。今は近くの村の宿に世話になっていることも。
「大変だったんだなぁ」
「まあ、ね! あ、タタンがここにいるってことは、ライアスやミュゼルカたちもいるの?」
「おう! 今日はこの近くで宿を探すって話になってたし、みんなにそこにしようって言っとく! すぐに行けると思うぞ!」
「わー、楽しみだなぁ! そうだ、どうせならみんなを驚かせない? こっちにも新しい人がいるけど、俺を見たらすっごく驚くと思うんだ!」
「面白そうだな、いいぞ!」
「あっ、タタン、ぜーったいに言っちゃダメだからね!」
「分かってるって!」
 二人は驚くスレイヤーたちの顔を思いながらくすくすと笑って別れた。その後すぐにスプリングフィールドはニナと合流して村へ戻っていった。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.23 )
日時: 2019/09/09 20:48
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: 9fWLjRBi)

「あれ、何だろう……?」
 村に戻ってきたスプリングフィールドとニナが最初に目にしたのは宿の前に集まる人だかりだった。首を傾げながらも二人はそちらに近づいていく。
「! あの人」
「コンスタンさん……!?」
 コンスタンたちがニヤニヤと笑いながら一枚の紙を紅閻魔たちに見せていて、紅閻魔たちは目を見開いている。ただ、流しそうめんだけはコンスタンたちを睨んでいる。
 それがどうにも気になってスプリングフィールドがもっと近付こうとした時、ニナに向かって後ろから言葉が投げかけられた。
「ニナ、借金って本当か!?」
「え……?」
「借金?」
「コンスタンさんが、お前の親に金を貸してたって言ってるんだ!」
「え……え……? お、お父さんたちが……?」
 ニナは明らかに困惑している。スプリングフィールドも困惑して、ニナを見ている。
 それでコンスタンが気が付いたのか、ニナの方へ歩いてきて、優しそうに笑いながら紙を見せてきた。
 借用書と書かれた紙には到底返せそうにもない額が書かれている。両親のサイン、そして、返済期間は今日までと書かれていた。それを見てニナは目を開き、微かに震えた。
「私としても、親の借金は子どもに背負わせるべきではないと思っていたんだよ。しかもこんな額だからね。
ただそれでも返してもらわない訳にもいかない。だからせめて宿を売ってもらおうとしたんだよ。子どもで宿を切り盛り、というのも厳しい話だ。
だが、ニナは今日までそれを断り続けてきた。……さすがに、現実を見せてあげなくてはね?」
「そ、そんな……どうして……? どうしてなの……!? だって、借金なんて、そんな」
「ニナちゃん……!!」
「……さすがにコンスタンさんの言う通りにした方がいいだろ」
 ぼそりと呟かれた村人の一人の言葉にニナが俯く。震え、スプリングフィールドにしか見えなかったが涙が溜まっている。
 何かを言いたくても言えない。
「さあ、ニナ。こっちに宿の売買についての書類がある。観念してキミがサインしてくれれば後は」
「少し待ってもらおうか」
 全員がそちらへ向く。そこに立っていたのは。
「先生!」
「センセー!!」
「グレイちゃんも!」
エルメロイII世と、グレイだった。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.24 )
日時: 2019/09/09 20:53
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: 9fWLjRBi)

「おや、あの時の。いかがしましたか?」
「ああ。その借用書などについて話したいことがある」
「……ほう?」
 コンスタンの眉がピクリと動く。しかし対するエルメロイII世はいつものように眉間にシワを寄せてはいるが動揺も何もしていないのが分かる。グレイもフードを目深に被っているがコンスタンを見ていた。
「この借用書の、どこかに問題でも?」
「ああ。少々失礼」
 そう言って借用書を渡してもらう。エルメロイII世はふん、と鼻を鳴らした。
「まあパッと見は本物だな」
「……どういうことかな」
「急いでは損だ、ということだ。私が聞いた話では彼女の両親は一年も前に亡くなったと聞く。しかし、この日付は『十一ヶ月前』だ。
おかしいな。一年も前に亡くなった人間が、どうしてその一ヶ月後にこの借用書にサインしている?」
「!!」
「ここ最近、徐々にとは言え活気が戻ってきたことに焦ったか。確認する手間を惜しんだ結果、こんなお粗末なミスをすることになったとは。
それだけでない」
 エルメロイII世がサインをなぞれば、端だけとは言えインクが伸びた。あまりにひどいミスにどこかからか吹き出すような音が聞こえた。
「く……」
「それと、この宿に関する悪評を流させていたのもお前だな?」
「そ、それは何のことだ! 知らないぞ!」
「……ふん。そうしらばっくれると思った。いいぞ」
 エルメロイII世がそう言えば、いつの間にか離れていた流しそうめんが険しい顔をして二人の男たちを捕まえたまま連れてきた。その内の一人は先ほどコンスタンの言う通りにした方がいいと呟いた男だった。
 どうにも力が入っているようで二人はいてて、と言って顔を歪めている。
 コンスタンはその二人を見て顔を青くした。
「さあ、本当のことを言ってもらうぞ!」
「いっで、す、すみませんでしたっ!!」
「こ、コンスタンさんに、金をやるから、宿の悪評を流せって、言われて!!」
「お、お前ら!!」
「これでもはや言い逃れはできまい」
「……観念するのは、貴方になりましたね」
「ぐっ……くそがぁっ!!」
 コンスタンはそう叫び、顔を俯かせた。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.25 )
日時: 2019/09/09 20:58
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: 9fWLjRBi)

「コンスタンさん、なんでこんなことまでして……!」
「そうでち。それで彼女がどれだけ傷ついたか、分かりまチュか!?」
「それはそうだ。奴の目的は宿などではない。ただの執拗かつ陰湿で幼稚な『嫌がらせ』に過ぎん」
「えっ?」
 紅閻魔が目を丸くして、いいや、グレイとコンスタン以外が目を丸くしてエルメロイII世を見る。エルメロイII世はと言えばコンスタンを見ながらそのまま続けた。
「調べていく内に、『たまたま』お前の過去を知る者に出会って話を聞いた。
お前は彼女の母親、エリスに想いを寄せていたと」
「え、コンスタンさんが、お母さんを?」
 ニナが今度はコンスタンを見る。コンスタンはニナから思い切り顔を背けた。
「お前は彼女の母親に対し、『結婚してやる』だの『お前の夫になってやる』だの言い寄っていたらしいが断り続け、挙句他の男の妻になったエリスに対して嫌がらせをしていたと。
他の村の男にエリスが誰とでも、となどな。まあ結局はこの村の九割に助けられて無事でいたようだが」
「何それ、サイテーじゃん!!」
「好きな人にやることじゃないよ!」
「ああ、実に最悪だ。




事故を装って、彼女の両親を魔物に襲われるよう仕向けた辺りなど、反吐が出る」
「!! そ、れは、あいつしか、グリーズしか知らないはず!! まさかっ、お前っ」
「ああ、何やらお前の側近だったと聞いてな。探すのに苦労したよ。
ここには来ていない。お前に何をされるか分からんと来たがらなかった」
「何、それ」
 ニナの声が嫌に響いた気がする。けれど全員が静かになってニナを見た。
「ニナ」
 紅閻魔が名前を呼ぶとほぼ同時に、ニナは顔を上げた。涙が溢れながらも、ニナはコンスタンを睨んでいる。
「あんたがっ!! あんたがお父さんとお母さんを!! 許さないっ!! 返してよ!! お父さんとお母さんを、返してよぉ!!」
「っ、黙れ!! だいたいあの女が思わせぶりな態度を取っておきながら、俺を振るのが悪いんだ!! 俺以外の妻になるから悪いんだ!!」
「そんな身勝手な理由で、ニナの両親を……!
それに、ニナは関係ないだろう!!」
「そうだよ、ニナちゃんは関係なかったじゃんか!」
 流しそうめんとスプリングフィールドの言葉にすら煩い、黙れと叫ぶ。
 そのままコンスタンは叫び続ける。
「ニナはあの二人の娘だ、なら俺の復讐を受けて謝罪するのが当然だろうが!!」
「ふざけないでよ! 復讐? そんなの逆恨みもいいところでしょ!!」
 flowerが叫び返す。ジャベリンは何も言わずにコンスタンを睨み続けた。
「俺にっ、俺に偉そうに説教してんじゃ、」
 何かが盛大に壊れるような音。それに全員が驚いてそちらを見る。
 ニナを助けた日、見た犬のような魔物。それだけではない。人魂のような魔物、骸骨、蜂のような魔物に……体の大きな、豚顔の魔物、鎧の魔物、牛の魔物。
 魔物たちの大群を見た瞬間、人々は悲鳴を上げた。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.26 )
日時: 2019/09/09 21:03
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: 9fWLjRBi)

「ま、魔物!」
「ひ、ひぃい!!」
「逃げろ、逃げろぉ!!」
 今までの騒ぎなど忘れたように人々は怯え、悲鳴をあげて逃げようとする。そんな人々を蜂の魔物、キラービーや犬のような魔物、ウルフが追いかけ始める。
 その内の何体化のキラービーがflowerとジャベリンに狙いを定めた。
「きゃあ!」
「グレイ!」
「はい、師匠!」
 グレイが『アッド』を大鎌に変形させる。二人を背に隠すように立ったグレイは大鎌を振るい、魔物たちを斬り始めた。そのまま二人を避難させようと試みる。
 エルメロイII世も『キャスター』としての力で光弾を撃ち、スプリングフィールドは銃で魔物を撃っていく。
 紅閻魔も刀を抜き、己の最速で魔物たちと戦い始めた。
 流しそうめんは『アシスト』としての力で、傷ついた仲間たちを回復しながら人々を冷静に逃がすために声を張り上げている。時折転ぶ子どもを起こしもしていた。
 全員が出来る限りの戦いをしても、それでも魔物は減るどころか段々増えているようにも思う。
「うわぁあああ!!」
「!」
 悲鳴が上がった方を見れば腰を抜かしたらしいコンスタンの目の前には牛の魔物──ミノタウルスが鼻息荒く近づいてその手にある武器を振り上げようとしている。周りにいた男たちは我先にと逃げ出していた。
「ひ、ひぃいいっ、た、たすけっ、助けてくれぇ!!」
 情けなく涙と鼻水を垂れ流しながら這いずりながら逃げようとする。紅閻魔が駆け出し、その一閃でミノタウルスを斬り伏せた。
「あ、あ、」
「早く逃げるでち。この状況の中、貴方だけを二度も三度も助けていられまちぇん」
「ひ、ひっ、ひゃあああぁあ!!」
 魔物が現れる前の姿などどこへやら。コンスタンはバランスを崩しながらも悲鳴をあげて逃げていった。紅閻魔は息を吐いてすぐに魔物たちに向き直る。一体どこから現れているのか。
 確認したくとも次々と現れる魔物たちのせいでそれもできない。このままでは間違いなく、村人を含めて全員やられてしまう。
 その時だ。紅閻魔の耳に、ヒュッ、という空を切るような音が聞こえたのは。そちらを向く前にそれは魔物に命中したらしい。魔物の断末魔が響く。
 倒れる魔物。その先には、弓を構えた犬耳の青年の姿があった。優しそうなその青年がもう一度矢を放てばまた命中する。それを皮切りに各方面からどこかからの増援が来たらしい。魔物たちは一気に消えていく。
 ある程度、それも紅閻魔の周りにいた魔物を一掃した青年はすぐに弓を下ろして紅閻魔に駆け寄ってきた。
「大丈夫? 怪我はないかな?」
「はい、あちきに怪我はありまちぇん。ありがとうございまチュ」
「そっか、良かった……。さあ、下がっていて。ここは危ないから」
「ご心配には及びまちぇんよ。あちきも戦えまチュ」
「え、で、でも」
 青年は困ったように眉を下げ、耳を垂れた。ふと見ると尻尾も生えており、その尻尾も下を向いている。
 しかしそんな隙を魔物は見逃さない。後ろから奇襲しようとした魔物を、紅閻魔は青年の横をすり抜けて斬り伏せた。
「えっ!?」
「油断大敵でちが、それもあちきを心配してくれていたからこそ。
今のを見て、あちきが戦えると分かってくれたでちか?」
「……うん。でも、無理したらダメだよ?」
「はい、無理はしまちぇん。ええと」
「あ、俺はクルムっていうんだ」
「クルムでちか、あちきは紅閻魔。よろしくお願いしまチュ」
 そう言葉を交わしてから、紅閻魔は背をクルムに預けて再度刀を握り直した。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.27 )
日時: 2019/09/09 21:10
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: 9fWLjRBi)

「タタン、そっちお願いっ!!」
「まっかせとけー!!」
 スプリングフィールドの声が聞こえてくる。近くで戦っているらしい。ちらりと見ればそちらにも犬耳の生えた、クルムに似た少年がスプリングフィールドの援護を受けて魔物を倒している姿が見えた。
 どうやら二人は知り合いらしい。お互いに声を掛け合って魔物たちを圧倒している。
 他にも斧を持った屈強な男や踊り子のような少年、そっくりな少年二人、様々な人々がこちらと共に戦ってくれていた。そんな彼らが来てくれたからなのか、徐々に魔物たちが減っていくのが分かる。倒していけば、大した被害は出ずに終わらせることができる。そう思った時。
 地響きが、村を襲った。それはまるで、何かが歩いているようなリズムで続いていく。
「み、みんな、あれ!!」
 ジャベリンの指す方向に目を向け、息を呑む。
 巨大な、木の怪物。ゴーレム。その足元には多くの魔物たちがおり、何体かはすでにいた魔物たちに加勢している。このままでは……。
「や、やめてっ、やめてぇっ!!」
「!! ニナ!?」
 声のした方に駆けていく。ニナは村人たちに抑えられ、宿の方に手を伸ばしていた。宿の周りには、炎を纏った魔物たちがいる。否が応でも分かる。燃やすつもりだ。
「ニナ、ダメだ、危ないよ!」
「でもっ、宿が、私の家がっ!!」
 紅閻魔がその魔物たちを倒すために向かおうとすると邪魔をするように他の魔物たちが立ち塞がる。何人かが飛ばす弓や魔法による攻撃は全て身を挺して防がれる。
 その間にも魔物たちは宿に近づき、それぞれの炎で燃やそうとしていた。
「やめ、て……やめてぇええっ!!」
 ニナの悲痛な叫びが、響いて。そして。
 一発の銃声が、響いた。
「……え?」
 誰もが理解しきれていない間にも、複数の銃声に続き、紅閻魔からは見えないところで何者かが魔物たちを倒しているようだった。
「紅閻魔殿!」
「! タケミカヅチ様!」
 走ってきたのは、タケミカヅチだった。雷の軍神とされる彼は襲いかかってきた魔物を容易く両断し、紅閻魔の元にたどり着く。
 間違いなく、タケミカヅチではある。ということは。
「主君とマスターハンド殿、クレイジーハンド殿がこことの繋がりを強化してくれたんだ。遅くなってすまなかった」
「いいえ、来てくださっただけでも充分でち!
……他の方々も、来てくれているのでちょうか?」
「ああ、陸奥守殿や織田殿、ブラウン殿にケンタッキー殿が。ケンタッキー殿は遠方からあの怪物たちを狙撃してくれている」
「そうでちたか……良かった」
 ニナの思い出の詰まった家が、宿が燃やされなくて。本当に良かったと紅閻魔はホッと息を吐いた。
「お前、タケミカヅチか!?」
 突然の声に驚きながらそちらを見る。安心のあまり警戒を怠っていたことに自分を少しだけ責めたが、こちらを、正確にはタケミカヅチを見ている三人を見てそれはやめておいた。
 一人は目の近くに十字の傷のある少年。彼は弓を持っており、クルムの他にも弓を使って戦ってくれているのは彼だったのだろう。
 もう一人は銀髪の少年。彼は剣を持っており、三人の中では唯一目を見開いていない。驚いてはいるようだったが。
 そしてもう一人は長い茶色の髪を二つの三つ編みにした少女だった。
「スラッシュ殿、イクサ殿に、アステルか!
久しいな。本当ならば再会を喜びたいが、そんな暇も与えてはくれないようだ」
 タケミカヅチが睨みつけた先にはあのゴーレム。
「そうだな。あのゴーレムを叩くには、周りの魔物を引き止める必要もある」
 イクサ、と呼ばれた銀髪の少年が剣を構えながら言う。
「なるべく早く、決着を付けたい。これ以上は村にも被害が及ぶ。
……紅閻魔殿、いけるか」
「もちろんでち!」
「あのっ、大丈夫なんでしょうか、その」
 アステルと呼ばれた少女は不安そうに胸の前でぎゅ、と手を握った。紅閻魔は確かに見目は幼い子供だ。しかし、紅閻魔はアステルの不安を取り除くために笑ってみせる。
「大丈夫でちよ、アステル、でちたか。
あちきは大丈夫。……皆さんがお力を貸してくれるなら、あの魔物を見事、両断してみせまチュ!」
「……紅閻魔、ちゃん……分かりました、でも、無理だけはしないで」
「はい!」
「スラッシュ、イクサさん、皆さんに力を送ります。どうか……!」
 スラッシュ、イクサが頷く。アステルから淡い桃色の光が放たれ、二人を始めとするスレイヤーたちに与えられていく。アステルが崩れ落ちそうになるのをスラッシュが受け止め、そっと座らせてやると、二人は駆けていった。
 タケミカヅチも魔物たちを斬り伏せながら走っていく。一人、紅閻魔は構える。
 狙うはゴーレムただ一体。当てやすい巨体だがその分、耐久力があると見るべきだ。
 駆ける。速く、速く、そして、高く飛び上がる。
「『閻雀抜刀術、奥義ノ三』」
 現れるは巨大な葛籠。そこから溢れるは百鬼夜行。百鬼夜行が、ゴーレムを襲う。
「グォオオ……!?」
「『罪科あれば、これ必滅の裁きなり』!」
 ばっくりと開いた葛籠はゴーレムの巨体を何もないかのように閉じ込めた。
 そのまま地獄の十王に扮した雀たちの前に落とされる。
「『十王判決“葛籠の道行”』!」
 たった一閃はゴーレムを難なく斬り伏せた。刀を収めるとほぼ同時に、ゴーレムは倒れて消えた。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.28 )
日時: 2019/09/09 21:13
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: 9fWLjRBi)

 そこからは、少しばかり慌ただしかった。あれだけ情けない姿であったにも関わらず、混乱に乗じて逃げようとしていたコンスタンとその部下たちはコンスタンが置いていかれたことに腹を立てていたために仲間割れを起こしていたところをケンタッキーとブラウンに見つかって捕まり、アステルと共にロード・オブ・グローリーに参加していた魔導師、クロービスの進言により然るべき機関へ引き渡された。
 その際にコンスタンたちが性懲りも無く暴れるものだから慌ただしくなってしまったのだ。
 ニナはこの村で宿を続けていくらしい。今度はきちんと、周りの大人たちに頼ることにするとも言っていた。ちなみに宿について根も葉もない悪評を流した男たちについてはニナが「どうしていいか分からない。時間が欲しい」と言い、とりあえずは村に居られるようなのだが、居たとしても針の筵。少し経ったら自ら出て行くような気もする。
 紅閻魔たちの後ろには帰還するためのゲート。前にはニナとアステル、スレイヤーたち。
「お世話になりました、紅閻魔さん!」
「ニナ、頑張るのはいいでちがあまり頑張りすぎてもいけまちぇんよ。ニナには才能がありまチュ。
いつか、本格的に『料理教室』に来るといいでち!」
「いや、それはやめておけ紅閻魔……」
「そ、そうだね、ニナちゃんは普通の女の子だから……」
 ブラウンが目をそらしながら、スプリングフィールドが苦笑いをしながら言う。……紅閻魔の料理教室、『ヘルズキッチン』はサーヴァントでも軽いトラウマになる者もいる。そこにニナを放り込んだらまず間違いなく再起不能になる気がする。
──そう考えると、今回ヘルズキッチンできなくて良かった。心底良かった。
 そんなことを思われているなど露知らない紅閻魔はニナと握手を交わしていた。
「紅閻魔ちゃん、皆さん、柊さんたちによろしくお伝えください」
「はい、伝えておきまチュよ、アステル!」
 今度はアステルと握手を交わす。
「紅閻魔殿、そろそろ。マスターハンド殿とクレイジーハンド殿はともかく、主が干物になってしまうきに」
「それはいけまちぇんね」
 くすくすと笑いながらゲートに向き合う。他の面々がゲートをくぐる。
 紅閻魔がゲートをくぐる前に振り向き、手を振る。
「また、いつか」
 ゲートの向こう側へ、紅閻魔は足を踏み入れた。





「いっやー、ごめんね紅ちゃん! それにみんなも!
まさかあんな誤作動が起こるとは思わなくって……」
「そういうところでちよ、柊」
「大変申し訳ございませんでした」
 ジト目で見る紅閻魔に土下座する柊。それを同じくジト目だったり苦笑いして見ているのは今回、ゲートの誤作動に巻き込まれた面々だった。
「でちが、何故こんな誤作動を起こしたのでちか? スプリングフィールドから聞いたところだと、長いこと繋がりが不安定と聞きまちたが」
「そうそう、あのゲート、やっと繋がりが安定してきたんだよ!」
「! マスター、それって!」
「またあの世界との行き来が自由になったってこと! 私も近いうちに顔を出すつもりだよ」
 その報告に唯一スプリングフィールドはやったぁ、と喜んだ。
 紅閻魔は、今度は藤丸兄妹やあの時のサーヴァントたちを連れて、あの宿へ行こうと考え、自然と笑顔が溢れていたのだった。

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