二次創作小説(新・総合)
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.239 )
- 日時: 2020/08/19 22:27
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: uFFylp.1)
今回から夏の旅行編に入っていきます!
今回シリアスです。
忍び寄るは光の信者
柊本丸の掲示板に貼られた一枚の紙。そこを通る刀剣男士たちはそれをチラチラ、そわそわとしながら見ている。
『柊サイド、全体夏旅行決定!!』
今までも本丸や鎮守府などでバラけて休暇を取り、のんびりとどこかで過ごすことはあったが全体で、というのはなかった。しかもそれがありとあらゆる娯楽などを詰め込むかのように創り上げた人工島、『パラディース』に行くというのだから、浮き足立つのも無理はない話だ。
知らせを聞いた者のほとんどがそれに浮き足立っていた。
勇者となったアステルもまた、その一人だ。そもそも勇者と言ってもまだ二十歳にもなっていない少女なのだから無理もない。
「勇者様っ」
アステルを呼んだのはミュゼルカだった。彼はバルシオンという国の王子だったのだが、魔物たちに襲われ、魔物たちに国と両親を奪われた少年だ。スカーがいなければ彼もまた国、そして両親と同じ道を辿っていたかもしれない。
「ミューさん、どうかしましたか?」
「みんなで海に行くの、すごく楽しみですね」
「はいっ! ミューさんは海に行ったら、何がしたいですか?」
「えっと、貝殻を集めてみたいです。以前、前田様に見せていただいた貝殻がとても綺麗だったので……」
「貝殻集めですか、私も一緒にしてもいいですか?」
「! 是非!」
穏やかに微笑み合う二人。そんな二人を見つめる影が一つ。
「ああ、なんて、なんてこと。あの子たちを、あの子たちを『今度こそ』助けてあげないと、助けてあげないと」
そう呟く影はゆっくり二人に近づいていく。
だが影よりも早く二人に駆け寄る少年が一人。少年はミュゼルカと似ている。それもそのはず、彼はミュゼルカの双子の兄であるライアス。彼もまた、バルシオンの王子だった。
「ミュー! アステル!」
「ライ兄様」
「ライアスさん」
「なあなあ、海楽しみだな! 海に行ったら泳ごうぜ!!」
「ふふ、泳ぎもしますよ」
「僕は、貝殻を集めてからでも良いですか……?」
「おう! あーでも、貝殻を集めるのもいいかもな……うー悩む!!」
「じゃあどっちもやりましょう! 時間はたくさんありますよ!」
「ですね!」
「おう!」
そんな三人に、影は近付く。
「もし、そこの方」
「? はい?」
アステルとミュゼルカ、ライアスがそちらを向く。そこに立っていたのは、黒いマントに身を包んだ人物だ。微かに見える顔の部位と先ほどの声から女性であることが分かる。
何かあったのだろうかとアステルが近付いて行く。ミュゼルカも近付けば……突然、二人の意識は途切れた。
「ミュー!? アステル!? お前っ、二人に何をっ」
「ごめんなさい。いつか貴方も救いに来ますから……」
「うあっ!?」
そんな声が、二人の最後の記憶だった。
「……んっ……」
ゆっくりと目蓋を開く。そこは、どこかの部屋のようだった。ベッドのそばにはランタンと、花瓶が置かれている。
「こ、こは」
コンコン、と音がした。それに身構えようとして、剣が無くなっていることに気付く。
「アリーヌ? 入るわよ」
入ってきたのは、美しい金髪に、紫の瞳を持つ女性だった。肩より少し下に伸びた髪を揺らした女性はアステルに微笑む。
「良かった、目を覚まして。食欲はある? 何か食べられそう?」
そう言って彼女はベッドに腰を下ろした。アステルの頬を愛おしげに撫でる。
「あ、の。貴女、は」
「……あら。寝ぼけているのね? ふふふ、あなたって小さな頃からそうね。私はミラベル。あなたの、『お母さん』」
「え……?」
「あなたは『アリーヌ』。私の『娘』よ」
「わ、私は、アリーヌじゃ」
「いいえ、『アリーヌ』。あなたは『アリーヌ』よ、私の娘の。ほら、そうでしょう?」
彼女……ミラベルはどこか壊れた美しい笑みを浮かべてアステルに『アリーヌ』だと言い聞かせる。優しく、執拗に。
徐々にアステルの意識がボヤけてくる。……アステル、とは、誰だろう。自分は、アリーヌだ。
変な夢を見ていた。自分がアステルと名乗り、勇者とされて、多くのスレイヤーと呼ばれる人々とロード・オブ・グローリーと呼ばれたレース形式の儀式をする夢を。……そこで誰か、大切な存在ができたような気がする。
「アリーヌ、ご飯にしましょう。シリルが待っているわ」
「うん、お母さん」
思い出せないことは仕方ない。そもそも夢なのだから思い出しても意味はない。そう考えた『アリーヌ』はベッドから起き、ミラベルと共に歩いていく。
テーブルに皿を並べる少年がいる。相変わらず可愛い弟だと思う。
「おはよう、シリル」
「おはよ、シリル」
二人がそう挨拶すればシリルと呼ばれた少年は笑顔を向けて振り返った。
「おはよう、お姉ちゃん、お母さん」
シリル……否、ミュゼルカは、光のない目で笑っていた。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.240 )
- 日時: 2020/08/19 22:32
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: uFFylp.1)
倒れたライアスが発見されて数時間。目を覚ました彼によるとアステルとミュゼルカは謎の女に連れ去られたらしい。
そのため、柊サイドの全員でその痕跡を探っていた。
「主、ゼルダ姫より魔力の痕跡を発見したとのこと。近場にいたライアス、スカー、スラッシュ、フィオナ・ジルマン、石切丸を向かわせました」
「分かった、報告ご苦労」
「思ったよりもあっさり見つかりましたね」
お茶を置きながら堀川が言う。その側にはあまり堀川から離れたがらない川広がいる。
「だね。……長谷部、痕跡はどんな感じだったか分かる?」
「隠そうとはしたのでしょうが、少々雑だったと」
「……なるほどね」
「……主さん、どうかしましたか?」
川広が口を開く。あまり口を開かない川広に驚きながらも柊も口を開いた。
「多分、これは突発的な誘拐だ」
「……どうしてですか?」
次に答えたのは長谷部だった。
「ライアスに残された魔力からして、おそらく相手は相当な手練れだろうというのがゼルダ姫の考えだ。そして、彼女が俺たちに嘘を吐くメリットはない。
まず、元々その予定があった場合。痕跡を隠すなどお手の物、何だったらライアスを痛めつけて黙らせる、あるいは口封じに殺すことも容易にできただろうと思われる。だが相手はそれをしなかった。これはないと考えていい。
次に罠である場合。罠ならばそもそも痕跡を隠すなどという手間をかける必要がない。魔力を辿れる者なら容易に辿れるように仕向ければいい。まあわざと雑にしたという考えもあるが……可能性は低いだろう。
とは言え、突発的な誘拐としても、何故ライアスは気絶させ、ミュゼルカとアステルだけ誘拐したのかが分からない」
長谷部がそこまで言い切ると廊下から騒がしい足音が聞こえた。いつもなら長谷部は走るなと注意しているが、今回は何も言わなかった。
襖が開いて入ってきたのはエマとエミリーだ。二人とも息を切らせている。けれどそれを気にする暇はなくなった。
「ピアソンさんがっ、いなくなったの!!」
「お母さん、食器片付けておくね」
「ありがとう、アリーヌ」
あの変な夢を見てから『一週間』。母と弟との生活は相変わらず穏やかだ。少しだけ違和感はあったが、変な夢を見た翌日にそのことを母に話せば彼女は可愛らしい、白い花を買ってきてくれて、その花の香りを嗅げばそんなことどうでもよくなった。
食器を片付け、外に視線を向ける。今日も良い天気だ。森の中にあるこの家だが、周りは開けていて、むしろ木々はきらめいて見える。なんて素敵な場所なんだろう。
ふと、母の部屋に視線を移した。自分でも何故かは分からない。
「あれ……?」
部屋へ入っていく。手に取ったそれは、『写真』だった。
自分と、弟と、母。どこかの村で撮ったようだが、覚えがない。だけどこの写真に写る自分と弟は今とあまり変わらないから、覚えていないというのはおかしい。それに……なんだか、母が今より少し、若いような。
「アリーヌ」
「!!」
いきなり後ろから声をかけられて体が跳ねた。そちらを見れば困ったような顔で微笑むミラベルがいる。
「もう、驚かさないでお母さん!」
「ごめんなさい。だけどアリーヌ、勝手に入ってはダメよ。ほら、『それを返しなさい』」
そう言われ、スッと写真をミラベルに渡す。彼女はそれを受け取り、机に伏せた。
「……アリーヌ、シリルを呼んできてちょうだい。二人に、やってもらわねばならないことがあるの」
その言葉に、思考がボヤけていく。頷き、ふらふらと歩いていく。弟を、呼んでこなくてはならない。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.241 )
- 日時: 2020/08/19 22:51
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
気付いた時には、薄暗い部屋の中にいた。弟も今気が付いたらしい。薄暗い部屋には、母と自分、弟、そして……どこか、見たことがあるような気がする男が椅子に縛り付けられていた。
男が縛り付けられている椅子の下には、何やら魔法陣のような物が書かれている。どこか、禍々しい。
そこまでハッキリ認識しているはずなのに、未だに意識はぼんやりと靄がかかっている。
「さあ、二人とも。今日は記念すべき日になるわ。そのナイフで、二人同時にこの男を刺すの。心臓がいいわ。そして、この男の血を魔法陣に垂らして。
儀式が、完了するの」
儀式。何故だろう、どこかで拒みたいのに拒めない。
「……クリーチャー・ピアソンと言ったかしら? 喜びなさい、あなたは尊い儀式の贄となれるの。
子どもを虐げ、食い物にするような下衆が人の役に立てるのだから、咽び泣いて感謝するべきだわ」
母の顔が隠すことのない嫌悪に歪む。それがどこか恐ろしかった。
母はピアソンに近づいていき、その手を振り上げて彼の頬を叩く。乾いた音が部屋に響いた。
「ぐっ」
「お前のような下衆、本当ならばとっとと殺されるべきなのよ。何だったら生まれてすぐに殺されるべきだった」
母は彼の頬を叩くのをやめない。だんだん力強くなっているのか音は大きく、母の掌も、ピアソンの顔も腫れて赤くなってきていて、ピアソンに至っては口の中が切れたらしい。口の端から血がたらりと流れ出している。
「っは、げ、下衆は、お前もだろう」
「……は?」
「き、聞いたぞ、お前は、ライアスがいたにも関わらず、そのふ、二人だけを、攫ったと。
どうせ、二人がおとなしそうで、言うことを聞かせやすいから、だろうが」
「…………違う」
「ライアスは、な、生意気そうで、洗脳が、効きそうにもないから。だから、攫わなかった」
「……黙れ」
「お前も、同じ下衆だろうが、選民主義者が」
「黙れぇええええええっ!!」
今までで一番大きな音を立てて頬を叩く。その勢いはピアソンの座っていた椅子のバランスも崩し、倒れてしまった。
ミラベルは近くにあった木の棒を取ってそれでピアソンを殴り始めた。
「がっ!!」
「黙れっ、黙れ黙れ黙れぇえええええっ」
「お母、さ」
「お前にっ、お前なんかに何が分かるっ!! 私の何が分かる!!」
自分も弟も、豹変した母と、目の前の光景にすっかり恐怖に飲まれていた。
「この岩の中から?」
スカーは目の前にある大きな岩に手を当て、振り返りながら聞く。その後ろにいた石切丸は少し困ったような顔をしながら頷いた。
「間違いは、ないのだけれどね。エウロペ様もそうだと……」
「くぅ、くぅ……」
石切丸が振り向いて、スカーも見たのは途中でまったりと合流したライダーのサーヴァント、エウロペ。彼女は白い牡牛に乗ってすやすやと眠っている。
「え、エウロペ様」
「ふあ……? あらあら、眠ってしまっていたわ」
「大丈夫なのかよ……」
「いずれにせよ、岩の中……ね。少しやってみたいことがあるのだけど、いいかしら?」
フィオナの言葉に石切丸とスカーが道を開ける。そして彼女が取り出したのは『銀の鍵』。この一見不思議な形をした鉄製の円を使うとどうしたことか壁や床をすり抜けて移動できるようになるのだ。それは岩も例外ではない。
フィオナがそれを使えば、そこに不可思議な印を残してフィオナが消える。だがそれも一瞬のことで彼女はすぐに戻ってきた。
「予想通りね。この中に階段があったわ。そこを降りればおそらくは」
「よし、行くぞ!!」
スラッシュが先頭に飛び込んでいく。順番に飛び込んでいき、最後に入ったのはエウロペだ。
その場には、不可思議な印が刻まれた岩しか残らなかった。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.242 )
- 日時: 2020/08/19 22:59
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
階段を降り切った先にあったのは、とても地下とは思えない……いや、地下ではあり得ない光景だった。美しい森の中にポツンと佇む一軒の小さな家。まるで御伽話などに出てきそうな、そんな光景であった。上を見上げればそんなに降りてきていないはずなのに澄み切った空が見える。当然、先程いた場所に大きな穴なんて空いていない。
「これは一体……?」
「あそこにミューたちがいんのか!?」
「殿下!!」
スカーの制止も聞かずにライアスは家に駆け寄り、ドアを開けた。中には誰もおらず、けれど先程まで誰かがいたらしいそこは家具が静かに鎮座している。
警戒しながら全員が入っていく。エウロペの乗っていた牡牛は外に待機させているが。
キッチンに入った石切丸がふと視線を下にやれば、そこにさらに地下へ続く階段があった。
「ここから気配がする……おそらくこの先だ。警戒しながら行こう」
石切丸の言葉に全員が頷き、先頭を石切丸、殿をスカーが務めて降りていく。
……ちなみに、エウロペはまだ家の中を、一つの部屋を見て回っていた。
「まあ、素敵な棚ね。よく見ると綺麗な模様が彫られているわ。……あら?」
エウロペが目にしたのは、机に伏せられた写真立て。それを手に取り、写真を見て、彼女は目を見開いた……。
「っはあ、はっ……」
「ぐ、あ……」
肩で息をするミラベルの前には、所々が痛々しく腫れ上がり、呻くピアソン。魔法陣の上にはいくつも血の痕が飛び散っていた。
弟と二人で震えているとミラベルが振り返る。優しい笑顔で。
「さあ、二人とも。この男を刺しなさい。大丈夫よ、怖がらないで」
「や……」
「嫌……です……っ」
「シリル?」
「わ、私も、嫌、です」
「アリーヌっ?」
どうしてだろう。この人は、母のはずなのに。母じゃない。そんな気が……。
……いや、違う。この目の前の女性は、『母ではない』。何故今までミラベルを母だと思い込んでいたのだろう。その瞬間、『アステル』の脳内には今までの記憶が雪崩れるように戻ってきた。その中には、大切な幼なじみで、愛しているスラッシュの姿もあって。
どうして、どうしてスラッシュのことを忘れてしまっていたのだろう。
けれど自分を責めるよりも、記憶が一気に戻ったことによる激しい痛みがアステルを支配した。隣にいた『ミュゼルカ』も頭を抑えて苦しみ始めた。
「っ!! だ、ダメ、思い出さないでいいの!!」
「アステル!!」
「ミュー!!」
「!!」
ミラベルが二人に駆け寄る前に、後ろから声がした。この声を聞き間違えるはずはない。それと共にホッとして、膝から崩れ落ちそうになったが、誰かが受け止めてくれた。ゆっくり見上げれば、そこには確かに愛しい存在が、心配そうに自分を見ている。
それすら嬉しくなりそうなのだから、不謹慎な心だ。
「すら、しゅ」
「もう大丈夫だ」
「あり、がとう、たすけに、きてくれて」
「当たり前だろ……!」
力強く抱きしめられる。視界の端ではスカーに受け止められたミュゼルカがライアスに泣きながら心配されていた。
安心したからだろうか。目蓋が重い。開けていられない。でも、もう大丈夫。
そこでアステルの意識は途切れた。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.243 )
- 日時: 2020/08/19 23:04
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
「アステル? アステルっ!!」
「ミュー!?」
「殿下!!」
「大丈夫だよ、スラッシュさん、ライアスさん、スカーさん。二人は安心して、気絶したんだと思う。それに……」
石切丸がミラベルを見る。ミラベルの足元には酷く痛めつけられたのが一目見てすぐに分かるほどボロボロなピアソンがいた。
「彼女をどうにかしなければね」
「……どうして、どうしてっ、どうして邪魔をするっ!! 私は!! 私はその子たちを『今度こそ』救うの!! 邪魔しないでちょうだい!!」
「今度こそ?」
「お前なんて、俺たちは見たことねえぞ」
「俺も、見たことない」
スラッシュ、ライアスの言葉に加え、スカーもミラベルに対し怪訝な目を向けていることから彼女の言う事が虚言なのだろうと判断できる。ミラベルは未だ、混乱しているかのように叫んでいた。
……仲間に危害を加えた敵だ。あまり話し合う気にもなれない。
「殿下を危険な目に遭わせようとした罪、償ってもらおう!!」
スカーがその剣を構え、ミラベルに斬りかかる。しかしミラベルはそれに気付かない。当然、ミラベルは斬り裂かれるはずだった。
「待ってあげて?」
「っ!?」
ピタリ、とその額の寸前で剣は止まる。目の前にいたのはミラベルではなく、エウロペだった。
エウロペは穏やかに、それでもどこか悲しそうに微笑みながら手を目一杯に広げてミラベルを庇っている。それにミラベルも気が付いたのだろう、呆然とエウロペを見ていた。
「な、何故」
「どうか、話をさせて欲しいの」
「話なんて!!」
「落ち着いて。お願いを、聞いてもらえないかしら?」
エウロペの声に、少しずつ全員が落ち着いていく。スカーが剣を下ろした。
ありがとう、と言って、エウロペはミラベルと向き合う。
「そ……な、選民主義者と、話しても……じ、時間の無駄だろう」
「いいえ。そんなことないわ。だって、彼女は選んでいないもの。ね?」
「……」
「選んでない? どういうことなんだ?」
「選んでいない、というよりは、思わず、だったのよね?
……写真、見たわ」
「っ!!」
「写真……?」
写真、と言われ、ミラベルは明らかに動揺している。……どこか、悲しそうに。
「……とっても、そっくりだったのね。アステルさんとミュゼルカさんが、貴方の子どもたちに」
全員が目を見開き、ミラベルを見る。
「さっきの言葉を聞いて、なんとなく分かってしまったの。……貴方の子どもたち、そう、そうなのね。……何かのきっかけがあって、貴方の子どもたちは『勇者』に祀り上げられて戦いに巻き込まれた。そうして、子どもたちは」
「やめてっ!! やめて、やめてぇ……」
ミラベルが涙を流しながら耳を塞ぎ、しゃがみ込む。ひぐ、ひっ、と小さな嗚咽が部屋に響く。
エウロペがそっと、ミラベルを抱きしめた。優しく頭を撫でる。
「私も、そんなことがあったら辛くて、壊れてしまう。想像するだけで涙が出そうになるくらいなんだもの、貴方はとてもとても苦しんだのね。
……どうか、ここで引き返して。まだきっと間に合うわ」
「っ……」
ミラベルの手が、ゆっくりと上がっていく。そして、エウロペに抱きつこうとしている。誰もが何も言えずにいた。
──ミラベル
「っ!!」
──戻りなさい。その者の声に耳を貸してはなりません。
──貴方の『復讐』は、ここでやめてはならない。そうでしょう?
ドン、とミラベルはエウロペを押した。エウロペが体勢を崩し、きゃ、と小さな悲鳴を上げて尻餅をついた。
「エウロペ様!!」
「っ、私を、惑わせようとしても無駄よ……!!」
「待って……!!」
「私は、私たちは止まるものか。この世界に復讐を果たすまで!!」
ミラベルが眩い光に包まれる。全員がその眩しさに目を瞑り、ゆっくりと開いた時にはミラベルはいなくなっていた……。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.244 )
- 日時: 2020/08/19 23:49
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
とある城。ミラベルは急ぎ足である場所に向かっていた。扉を開ければそこは大きな、光に包まれた何かの絵画が飾られた部屋だった。そこに、一人の女がいる。
黒い髪を腰まで伸ばし、薄紫のドレスを着ている女だ。ミラベルは両膝をつき、手を組んだ。
「申し訳ございません、『郁江』様!!」
郁江、と呼ばれた女はゆっくり振り向く。こげ茶の目は優しげに細められている。
「ミラベル、貴方の任務はあくまで敵の視察だったはずよ」
「……はい。どのような罰も、受ける覚悟です」
郁江が歩み寄る。そして、顔を上げて、と言われて顔を上げれば、彼女も膝をつき、ミラベルの顔を両手で優しく包み込んだ。
「気持ちは分かるわ。……私だって『あの子』にそっくりな子を見たら、貴方と同じことをするもの。
けれど今回ばかりにして?」
「……はい、郁江様」
「分かってくれればいいの。さあ、行きましょう。みんなが私たちを待っているわ」
郁江と共に立ち上がり、歩いていく。
ある扉の前に、一人の男と、一人の女、そして男女の双子の少年少女がいた。
男は筋骨隆々とした男で、髪色は紺色、目は吊り上がり、無愛想な男だ。
女は同性は羨みや妬みを、異性は色欲を隠さない視線を寄越すであろうスタイルをしているが、傷みがちな黒い髪はもっさりとしており、目が隠れている。
少年少女は半分が黒、半分が白の変わった髪色をしており、目は何も愉快なことはないというのに目が細められている。口も歪み切っていて、左右対称になるかのように星が描かれていた。
「戻ったか、ミラベル」
「え、えへへ、ミラベル様、おし、仕事、お、お疲れ様です、えへへへへ」
「郁江姉様もお迎えお疲れ様!」
「ミラベル様、今回の失敗は気にしないでね!」
「ありがとう、シルヴィー。ケイラもありがとう」
少女、シルヴィーと女、ケイラは嬉しそうに笑った。
「ガッド、みんなは集まってる?」
「ああ。とっくのとうに。このクソガキが遅れてきたが」
「別にいいでしょー? ガッドは細かいんだから」
「エディー、あまりガッドを困らせたらダメよ?」
「ちぇっ、姉様もガッドの味方かぁー」
少年、エディーが口を尖らせて不貞腐れる。それに男、ガッドはふん、と鼻を鳴らした。
そんな彼らに二人は微笑み、扉を開ける。そこは半円型のバルコニーになっている。手すりに歩み寄れば、下には老若男女問わず多くの人が集まっていた。
人々はミラベルと郁江を目にすると一気に歓声を上げ、名前を呼んだ。
「郁江様!!」
「ミラベル様!!」
郁江が一歩前に出て手を挙げると一気にしん、と静まった。しかし彼らの顔は期待や憧れといった感情に満ちているのが分かる。
「時は満ちました。今こそ、この世界に復讐を。光ある復讐を。そして、その復讐の機会を与えてくださった光の化身、『キーラ』様に、祈りと、感謝を捧げましょう」
そう言えば人々は一斉に祈りを、そして感謝を捧げ始める。それは郁江たちも例外ではなかった。
一方、別の場所では。
微かな光が照らすだけの薄暗い廊下を、一人の少年が歩いている。少年は黒い短髪で、黒い猫の耳としっぽが生えていた。ほのかに湯気の立つ、ほとんど具の入っていないスープと硬そうなパンの乗ったおぼんを持って廊下を歩いていく。少年の前から男が二人、女が一人歩いてきている。少年がすぐに脇にどけば、三人は気に留める様子もなく歩いていく。ただ、一人だけ舌打ちしていたが。
それを全く気に留めず、少年は歩いていく。
立ち止まったのは一つの部屋だ。一度おぼんを近くの台に置き、鍵を使ってドアを開ける。おぼんを再度持って中へ入っていく。
「あ、くろ、ねこ」
「ご飯を持ってきました、鴉。食べられますか?」
「うん、おなか、ぺこぺこ」
「さあ、どうぞ」
鴉、と呼ばれた白髪の少年はいただきます、とどこか舌足らずに言い、ゆっくりスープとパンを食べていく。スープにパンを浸して、ゆっくり咀嚼して。それを黒猫と呼ばれた少年はただ微笑んで見ていた。
いくらゆっくりと言えどパン一つとスープだ。すぐになくなってしまう。
「ごちそう、さま、でした」
「鴉は律儀ですね。こんな食事に、いちいち感謝などしなくても良いでしょう?」
「うう、ん。ひとり、だけ、やさしくして、くれた、ひとが、いってたの。
ごはんを、たべるまえ、と、たべたあと、は、ごはんに、なってくれた、いのちに、かんしゃするんだよ、って」
「……そうですか。では、せめて僕は鴉がもっと良い物を食べられるように働かなくてはなりませんね」
そう言って黒猫はしばらく粗末なベッドしかない部屋で鴉と談笑していた。けれどすぐに身に付けていた端末に着信が入る。
「はい、こちら黒猫」
『お前いつになったら鍵返しに来るんだよ!!』
「……申し訳ありません」
『ったく、ああそうだ、ルリ……っと、なんつったっけ。まあいいや、そいつが部屋に呼んでるから鍵返したらすぐ行け』
「……はあ」
『……いや、あいつに関しては俺も分かる。行きたくねえわ。あいつなんでダーズ様のとこに来てんだ?』
「さあ。僕には分かりかねます」
『だろうな。とにかく伝えたからな。まあ別にバックれても良いとは思うけどよ』
そう言って通信は切れた。ため息を吐きながらしまえば、鴉が不安そうに黒猫を見ていた。
「だい、じょうぶ?」
「ええ。……呼ばれてしまったのでもう行きますね、鴉。また明日」
「うん……」
おぼんを持ち、部屋を出て鍵を閉める。……このまま鴉を連れて行ければ良いのに。そう何度思ったことか。
またため息を吐き、黒猫は鍵を返すために足を進めた。
その後が憂鬱だ。度々黒猫を呼び出すあの、鴉の食事を運んでいる際にすれ違った女は自分が考える正義が絶対だと考えているから一方的に意見を押し付けてくるから、この教団の中でも嫌われ、遠巻きにされていた。
「いい加減にしてほしいですね、『瑠璃溝隠』様は……」
二つの異なる組織は、ある一つの島へ向かうこととなる。そしてその島の名前は『パラディース』。
二つの組織と、柊サイドのメンバーはそこで戦いを繰り広げることになるとは、誰も予想出来なかった。……否、おそらくは、ダーズとキーラだけであろう。
夏の旅行は、一体どのようなことになってしまうのだろうか……。
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