二次創作小説(新・総合)
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.291 )
- 日時: 2020/11/09 22:48
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
※場面、視点がコロコロ変わります。
解き明かせ、真実! 2
第二の事件が起きてしまった。その事実に誰もが愕然とする。被害者はスタッフの一人の小賀だ。
食事のために一度レストランに集まった客の顔は見て分かるほどに青ざめていた。無理もない、二日続けて殺人が起こったのだから。
直斗が小賀の部屋の状況を整理しようとメモを取り出した時だった。
「どうせまたあんたたちでしょ!? とっとと白状しなさいよ!!」
……はぁ、と息を吐いてしまったのは仕方ない。またあの女性が、μ'sの面々が犯人だと決めつけているのだから。
「違います! 私たちは彼を殺してなんて」
「ふん、私知ってるのよ? そこの女が昨日、あの男に言い寄られてたの見たんだもの!」
「え?」
全員が希に視線を向ける。一体いつ、言い寄られたというのか。
「希、どういうこと?」
「……一度、お風呂から上がってみんなと戻る前に忘れ物したって言うて、一人で戻ったやん? その時に……味方してやるから、部屋に来いって」
「なっ……!」
「言い寄られて迷惑して、カッとなったんでしょ。今回は言い逃れできないわね」
「それはどうでしょうか。東條さんは、確かに少し時間はかかりましたが大して遅れずに……五分ほどで部屋に戻りました。一度小賀さんの部屋に行っているならばもっと時間がかかってもおかしくありませんし、返り血なども付いていなかった。
もし返り血を処理していたらもっと時間がかかってもおかしくはありませんよ」
「っな、何よ、あんたこんな殺人犯の肩持つわけ!?」
「あなたこそ、何故そこまで彼女たちを犯人にしたがるんですか?」
「っ!!」
直斗が言い返せば女性は悔しそうにぐっと黙って離れていった。しかしスタッフたちがほんの少しの隙を付いて接触してくるというのであれば一切一人にする時間を無くさなくては。場合によっては入浴も部屋にある風呂を使ってもらうしかないだろう。
その時だ。あの、と声をかけられたのは。
そちらを見ると気まずそうな顔をしたスタッフの一人が。名札には『宮代』と書かれている。
「何か?」
「その、小賀さんのことなんですけど。小賀さん、東條希さんにすごく執着していたんです。別のスタッフとも度々彼女関連で揉め事を起こしていて……」
「え?」
「……俺も、ここに来て初めてあのこと聞いたんです。だけど俺は下っ端みたいなものだから、意見できなくて……どうかお願いします、彼女たちの無実を証明してください」
目の前の宮代を直斗はじっと見つめる。やがて、直斗は彼に対してしっかりと頷いた。
「必ず、無実を証明してみせます」
まず、篭手切、松井、悠が第一の事件の被害者である谷林の部屋に来ていた。念のため、彼の遺体はその部屋で寝かされている。
「鳴上はあまり遺体を見ないようにしてくれ。私と松井さんでそちらを調べる。部屋を調べてくれないか」
「分かった」
悠はなるべく遺体を見ないように部屋を調べる。部屋はほとんど片付けていないと聞いているが、全くと言っていいほど荒らされていない。強いて言えば座っていた椅子とその前のテーブルが少しずれているくらいか。
ただテーブルの上には開けっ放しだったタバコが散らばっており、テーブルクロスにはすでに拭かれてはいるようだがワインが溢れていたらしい。すっかりシミになっている。
次に見たのはクローゼット。そこにあるのは谷林が仕事で着ていた上着だけだ。そう思い、閉めようとして下を見るとそこにはしまったにしては乱雑に置かれた紺色のネクタイが見つかった。紺色のネクタイはよく見ると猫の柄が描かれている。
疑問に思い、手に取ろうとして直斗に言われたことを思い出す。そうだ、手袋をしなければ。ポケットから手袋を取り出し、今度こそネクタイを取る。
「……これは」
一見すると不自然な点はないが、両端にシワができている。
「篭手切、松井。何か分かったか?」
「……首の骨が折れてる。相当な力入れないと無理だ」
「窒息か、それとも脊椎の骨折によって神経が傷ついたことによるものか……詳しく調べられる者がいれば分かるとは思うが……どちらかは今の段階では分からないな」
「そうか……こっちは凶器が見つかった」
そう言いながら二振りにネクタイを見せる。それから渡された袋にネクタイを入れた。
「もう少し探してみよう」
松井が言った通り、全員で部屋を探してみる。突然、篭手切があ、と声を上げた。
「こんな所に、釦……?」
篭手切が拾い上げたのは不思議な模様が描かれた白いボタン。引きちぎれたものらしく、糸が付いたままのそれは、椅子から少し離れたところに転がっていた。
それも袋に入れてさらに部屋を探す。しかし、そこからは何も見つからず、仕方なく引き上げた。
「結局分かったのは凶器と、首を絞められて殺されたってことだけか……」
「いいや、まだ一つあるよ」
「その一つとは、なんですか松井さん?
「谷林さんの首の骨は折られてた。相当力がなければ無理なはず。となれば……少なからず、犯人は女性ではない」
「!! それならば、みゅーずの皆さんの無実が」
「いや、まだだ。確かにそうかもしれない。だけど複数で殺したと言われればそれまでだ」
「そ、そうか……」
「とにかく、これを白鐘さんに伝えに行こう」
「ああ」
「はい!」
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.292 )
- 日時: 2020/11/09 22:56
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
直斗、山鳥毛、日光は小賀の部屋に来た。朝、ここを開けた時とは違い、今はむわりとした熱気はなくなっていた。小賀の部屋はまだ何にも手を付けられておらず、遺体もそのままだ。
「私たちが遺体を調べよう。白鐘は部屋の捜査を」
「分かりました」
各々が捜査を進める。一番最初に目についたのは不自然に倒れた椅子。ただ倒れているだけならばあまり気にならないが、テーブルから明らかに離れすぎていたし、それは遺体のすぐ近くにあったのだ。話すために椅子を持ってきたにしてはずいぶん中途半端な位置だとも思う。
しかし、部屋にある違和感や証拠は特に見つからない。捜査は切り上げて直斗たちも一度戻ることにした。
「お二人とも、遺体について何か分かりましたか?」
「いいや、やはり刺されたのだろうと言うことしか」
「……少し傷口に違和感があったな」
「え?」
「そのまま真っ直ぐ刺したにしては、傷口が広がっていた。と言うよりはおそらく少し曲がっている」
「曲がっている?」
「最初は真っ直ぐに刺したというのに、刺したまま横に傾けたようだ」
確かにおかしい。即死だったかそうでないかまでは分からずともそうする意味は何なのか?
情報が少ない以上、それが何を意味するのか分からない。しかし、何となくではあるがそれが事件の真相の鍵を握っている気がしてならなかった。
次に全員で行ったのは聞き込みだ。とは言え、全ておそらくは夜の犯行。それも夜中であったら目撃者も少ないだろう。アリバイも基本的に全員で行動していたがどうせ『全員で口裏を合わせているに決まっている』と決めつけられるのがオチだ。
そのため、先に事件があったであろう時間帯を絞ることが目的となり、スタッフに聞き込みするメンバーと客や従業員に聞き込みするメンバーに分かれた。
スタッフに聞き込みをすることになった悠と松井はまず、秋本という女性スタッフに聞き込みをすることになった。
「その日の夜は打ち合わせがあって、谷林さんが部屋に戻られたのは……確か、十時くらいだったと思います」
「十時……その後に戻ったのは?」
「その後は少し全員で最終確認をしたので、十時半くらいには全員部屋に戻りました」
「では犯行時刻は十時半以降……ということですか」
「……まさかここで殺されるとは思いませんでしたが、いつか殺されるとは思っていましたよ」
「? それは一体……?」
「谷林さん、気に入った女性スタッフや女性アイドルにセクハラしたりしてたんです。……中には、無理やり一夜を過ごすように強要された人もいたらしくて」
「……非道な人間だったんだね」
「それだけじゃなく、気に入らないスタッフにはパワハラとか、嫌がらせもしていたんです。谷林さん、警察や議員に知り合いがいるらしくて、みんな強気に出られなくて……でも、恨まれても仕方ない人でしょう?」
そう言って秋本ははぁ、と息を吐いた。この合宿に関わるスタッフの大半は、嫌ってますよと付け足して。
「……ところで、小賀さんの時は?」
「小賀さんの時は……他のスタッフは分かりませんが、私は宇治さんというスタッフと夜遅くまで話してて……あ、そういえば、小賀さん何か重そうに運んでいた気がします」
「何か?」
「ちらっと見ただけなので、何かまでは分かりませんでしたが……形と大きさから、多分箱だと思います。白い布で包まれてたみたいなので、はっきりとは分かりませんが……」
「箱、か……。ありがとうございました。また何か聞きに来ることがあるかもしれませんが……」
「大丈夫ですよ。分かる範囲でなら何でもお答えしますので、頑張ってください」
秋本が部屋に戻り、すぐ近くの、秋本と話していたという女性スタッフの宇治にも似たような質問を投げれば、秋本とほとんど似たような答えが返ってくる。
だが、一つだけ違った答えがあった。
「小賀さん、何かぶつぶつ呟いていたんです。後悔させてやる、って言ってたような」
「後悔……?」
「あ、私耳が良い方で聞こえたんです。それに私の方が小賀さんにほんの少しですけど近かったので、秋本さんには聞こえてないと思います」
それだけではあったが大きな収穫ではある。後悔、というのは多分だが希に対してだ。……小賀が運んでいた箱。その箱が一体何なのかが分かればその意味が分かるのだろうか?
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.293 )
- 日時: 2020/11/09 23:02
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
陽介は部屋にいるμ'sたちの分の飲み物を買いに自販機へ来ていた。なるべく外に出ないようにとの配慮だ。
預かったお金を確認し、自販機に入れようとした時だった。
「もしもし、そこのお兄さん」
「はい?」
陽介がそちらを見ると褐色肌に黒い髪、赤の瞳をした、ゾッとするほどの美形の男が立っていた。褐色肌で黒い髪の知り合い、バーソロミューよりも美形だと思わせ……それでいてどこか恐ろしさを感じさせる。
「確かあの灰色の髪のお兄さんの隣に良くいるお兄さんですよね?」
「あ、は、はい。どうしました?」
「実はね、あの小賀さんについて一つ提供できる情報があって。探していたんですが見つからないなぁと思っていたところにお兄さんを見つけたんですよ〜。
あっ、申し遅れました。私、成海頼人と申します」
そう名乗った成海頼人はにこにこと笑っている。人懐っこそうな笑顔。なのにどこか恐ろしいのだ。
「そ、れで、情報、って?」
「ええ。小賀さんなんですけど、あの人何かを部屋に持ち込んでから一切部屋から出て来てないんですよ〜」
「え?」
「もちろん、誰も入っていません。どうしてなんでしょうかね?
あ、私は単純に気になってしばらく……つい朝方まで見てしまったんですよ〜」
……気になったからと朝方まで見ているものだろうか? 陽介は成海に不信感を抱いていた。
が、それには成海も気付いていたらしく「突然こんな話されても怪しいですよねぇ〜」と頷いていた。
「ですが事実なんです。私の身の潔白を証明するためにも、監視カメラの映像でも見に行きませんか?」
「監視カメラ? でも、それって容易く見せてもらえるようなもんじゃ……」
「まあまあ。もしダメでも行ってみるだけしましょうよ」
そう言って成海は陽介の背を押して歩いていく。人の少ないフロントまで連れ出され、成海はフロントの従業員に話しかけた。
「すみません、昨夜の小賀さんの部屋の前の監視カメラの映像を見せていただきたいのですが」
「え? ええ、と、すみません、確かに緊急事態ではありますが、そういうのは私の一存では何とも……」
と、従業員が言いかけて成海の目を見た瞬間、ビクンと体が大きく震えた。陽介が首を傾げると、従業員の目はとろりと蕩けた。
「もう一度聞きますね? 昨夜の小賀さんの部屋の前の監視カメラ。その映像を見せてください」
「はい。どうぞこちらへ」
「!?」
あっさりと従業員は立ち上がり、奥の部屋まで成海と陽介を案内する。その目はどこか焦点があっていないように思え、その原因であろう成海がより一層不気味に見えた。
監視カメラの映像を記録しているパソコンの前まで来ると、従業員は慣れた手つきで操作し、小賀が部屋に戻ってからを映し出した。成海が小賀の部屋の近くにいるのも映されている。
流石に何時間にも渡る映像をただ見ていることはできず、倍速したり、少しずつ飛ばして見たが確かに成海は朝の四時頃までそこにいた。一応その後も見てみたが小賀は部屋から出てきておらず、また、部屋に入っていくのも朝起こしに行ったスタッフしかいない。そしてその直後に響いた悲鳴は、そのスタッフが犯人ではないと物語っていた。
「ね? これで信じてもらえますよね?」
「……あの。これって谷林さんの部屋の前も残ってたりしますか?」
「はい。残っています」
「? どうしたんですか?」
「もしかしたら、何か映ってるかもしれない。そうじゃなくても外から侵入した可能性だってある。それで外の監視カメラの映像も見れば」
「無理だと思いますよ? 流石に犯人だってそれを分かっているでしょうし」
「それでも! それでも見ないよりはっ」
「いけない人ですねぇ」
成海の手が肩に置かれる。成海の顔が耳に近付いたのが分かる。
「ダメ、ですよ?」
ぞわ り。
陽介は慌てて振り払おうとして、止まる。振り払って振り向いたら、ダメだと本能が告げる。
「もう一度言いますよ?」
「っ、いい、もう、見ない……」
「おや、案外聞き分けがいい人でしたね」
成海が離れる。その時に気付いたが自分は息を止めていたらしい。ぶは、と息を吐き出し、その肺に酸素を入れていく。
ようやく振り向けばにっこりと成海は笑っていた。
「ほら、それに貴方、誰かにジュースでも買うんじゃないですか? これ以上時間のロスはいけません」
「あ、ああ……」
陽介は半ば逃げるようにその場を去る。振り返りもせず。だから気付かなかった。
スタッフがいなくなった小賀の部屋の前。監視カメラを見ながら、目を細め、口を三日月のように歪めた、ゾッとするような笑みを浮かべた成海が映っていたことなど。
『命拾いしましたね』
監視カメラに映る成海の口が確実にそう動いたことなど、気付くことはなかった。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.294 )
- 日時: 2020/11/09 23:11
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
直斗が部屋に戻る途中だった。厨房の方で三人の従業員が何やらリストを持ってうぅんと唸っていた。
「あの、どうかしましたか?」
「ああ、貴方は……いえ、それがね。保管していたはずのドライアイスが一つ足りないんですよ」
「一つ足りない?」
「ええ。近々この島ではちょっとしたお祭りが行われる予定だったんです。それで、うちは抹茶のアイスを提供することになっていてそのために注文したドライアイスが、何度数えても一つ足りなくて……」
「あの谷林さんや小賀さんの遺体を保管する場所がないし、これじゃお祭りも開催されないからって布団に入れて使っていたんですけど、一つ数え間違えたかなぁ……?」
「……一つ……」
直斗はそう呟き、ドライアイスを見る。ドライアイスはそこそこ大きめの物だ。少なからず普通に人目を付かずに運ぶには無理がある。
そういえば小賀は、箱を運んでいたという。もしかすると、ドライアイスを運んでいたのではないだろうか? 布で包まれていたというし、形から箱と勘違いしたのだろう。
だとすると、小賀は何の目的でドライアイスを運び出したのだろうか。後悔させてやる、ということはまさかドライアイスを使って殺人でも計画していたのだろうか。そしてその結果、返り討ちにあった……いや、そうすると背中に刺されていた包丁が分からない。
もう一つ用意していたとしてもおそらく争ったことになる。となれば故意にしろそうでないにしろ、背中に刺さるのは不可解だ。わざわざ後ろに回って刺す理由もない。それに部屋にも小賀自身にも争った形跡はなかった。
深まる謎に、直斗は眉間を揉んでいた。
休憩していた篭手切はうぅん、と頭を悩ませていた。袋に入った、谷林の部屋で見つけたボタン。犯人に繋がる手がかりなのはおそらく間違いないと思うのだが、それが誰の物なのかが分からない。
仮にボタンが千切れたシャツを持つ人物を探すにしたって流石に気付いているだろう。処分したか、直しているかはしている。
「篭手切さん、ちょっといい?」
「ん? どうしたんだ矢澤さん」
「うん、少し疲れてるかなと思って甘い物持ってきたの」
「ありがたい。後でりいだあたちにも配っておくよ」
「うん。あれ、それって」
「? このボタンが何か?」
「ちょっと見せて」
にこに袋に入ったままのそれを渡す。にこはそれをまじまじと見つめ、やっぱり、と声を上げた。
「やっぱり?」
「これ、スタッフの人が着てたシャツのボタンよ」
「!!」
「もう一組のスクールアイドル……あ、AroNa(アローナ)って言うんだけど、その一人の佐伯って子が不思議な模様だって言っててたまたま近くにいたから私も見せてもらったの。
本当に不思議な模様だったから、間違い無いわ」
「そ、そのすたっふの名前は!?」
「ええと、その人は……」
にこからその名前を聞いた後、篭手切はすぐに行動した。その人物に関して何か違ったことはなかったかと。
そして、一つの決定的な証言を耳にした。その人物はお気に入りのネクタイだとそのネクタイをしていたのだが、そういえば事件後はしてる姿を見ていない、と……。ネクタイの特徴を聞けば、あの谷林の部屋で見つけたネクタイと一致していた。
間違いない、あの人が犯人だ。ならば次はその人物の行動を調べる必要がある。
篭手切はようやく見えた真実を捕らえるべく、その足を進めた。
翌日。海未と花陽は旅館の庭を歩いていた。二人ならばと許可をもらってほんの少しの散歩に出ていたのだ。
「花陽、落ち着きましたか?」
「う、うん……ごめんね、海未ちゃん」
「大丈夫ですよ、あまり気にしないでください」
μ'sが部屋にいて、桑名が旅館の従業員に呼ばれていたほんの少しの隙だった。あの女性がわざわざ部屋にまで来て自白しろ、お前たちがやっているのはバレバレだと糾弾してきたのである。
最初は凛と絵里を中心に罵倒していたのだが震えている花陽を目敏く見つけた女性は花陽を標的にし始めた。その恐怖に震えていた時に桑名が戻ってきて女性を追い出し、桑名、豊前、長義や南泉たちに謝られた。彼らが謝ることはないが、体の震えが止まらなかった花陽を思い、散歩を提案したのである。もちろん、あの女性や彼女らを狙うスタッフたちに会ったらすぐに大声を出したり逃げることを約束して。
ゆっくりと散歩していて花陽も落ち着いてきたようで、海未はホッと息を吐いた。
そろそろ戻ろう、そう提案した時。
目の前に誰かが立った。そこまでが、海未が意識を保っていた最後である。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.295 )
- 日時: 2020/11/09 23:20
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
「どら猫、何たる失態だ」
「……」
「待ってくれ日光、今回のことには俺たちにも非が」
「当たり前だ、山姥切長義。狙われていた女子を二人だけで外に出すとは、このようなことすら想像できなかったのか」
日光に叱責され、誰もが口を開けなかった。海未と花陽が行方不明になった。それに誰もが動揺し、日光は怒りを露わにしていた。
「お頭がお前にどれほどの信頼を預けて任せたと思っている。お前はその信頼を裏切ったのだぞ」
「……面目もねえ、にゃ」
「どら猫だけではない。護衛に着いていた者もだ。彼女らはお前たちを信頼していたからこそ任せていたのだ。だと言うのに」
「ま、待ってくださいっ!!」
穂乃果が立ち上がる。その体は震えていた。
「わ、私たちが、大丈夫って言ったんです! だから、だからっ」
「だからどうした。そもその言葉を真に受けて護衛の任を放り出している者たちの方が問題だ」
「我が翼よ」
「お頭」
「お前が怒る気持ちも分かる。私のことや彼女らのことを思ってのことだろう。だが今はそうしている場合ではない。まず、園田嬢と小泉嬢を探し出すのが先だ。こうしている間に彼女らにより酷い目に遭わされていたらそれこそ目が当てられない。
分かるな?」
「……御意。失礼しました」
「うむ。すまないな。……子猫」
「っ、うす」
「今回の失態、見逃してやることはできない」
「っ!!」
「だが、挽回することはできる」
「お頭……」
南泉が山鳥毛を見上げる。彼は厳しくも……信頼を含んだ目をして南泉を見ていた。
「園田嬢、小泉嬢を見つけ出せ。別々に捕らえられている場合は見つけた方を早急に保護せよ。……もし見つけた方が何らかの被害を被っていた場合は……分かるな。
けじめを付けるための許可を主から貰い次第、実行してもらうぞ」
「うす!!」
南泉が深々と頭を下げた。それに釣られ、長義らも頭を下げる。
さて、と言葉を切ってから山鳥毛はμ'sたちの方を振り向く。
「キミたちも友人がいなくなり、居ても立っても居られないだろう。だが、今回のことを受けてキミたちにはここに待機していてもらいたい。
……連れて行けても三人までだ」
山鳥毛の言葉に彼女らは顔を見合わせ、少し話し合い、結果、穂乃果、南ことり、凛が行くことになった。
そしてすぐに捜索に向かう。その前に山鳥毛は南泉を呼び止めた。
「子猫、今回のことだが」
「……言い訳はしねえっす、早く見つけて、今度こそお頭の信頼に応える、にゃ」
「ああ、それは嬉しいのだが。……そこに、日光も付け加えてやってほしい」
「へ?」
「今回、日光もお前に信頼していたということだ。私たちの信頼、今度は裏切ってくれるな」
「……うっす!!」
今度こそ全員で捜索に当たる。部屋に待機するのは絵里、希、にこ、西木野真姫。四人の護衛は松井。その上でせめて手伝えるようにと陽介、完二、雪子、千枝、りせもいる。
捜索するメンバーはそれ以外の面々。穂乃果、ことりは日光、豊前、桑名、悠たちと行動を共にし、凛は南泉と行動を共にする。(猫コンビとは言ってはいけない)
それぞれが駆けて二人を探し始めた。
ある蔵の前。ふと気配を感じた南泉はそちらに視線を向けた。
「南泉さんどうしたの?」
「いや……なんか気配があった気がして……」
「南泉一文字、気配があったのはこの蔵か?」
「おう。どうだ山姥切?」
「……確かに中から気配は感じるな。念のため見ておこう。星空さんと白鐘は後ろにいてくれ」
そう言って長義と南泉は中の気配に警戒を緩めずに扉を開ける。そこにいたのは……くったりと倒れていた花陽だった。
「かよちん!!」
「花陽さん!!」
全員が花陽に駆け寄る。長義が手首を取り、脈を確認した。
「……脈はある。その上顔色も悪くない。どうやら眠っているだけのようだ」
それに全員がホッと息を吐いた。数回揺さぶり、声をかければゆるりとその瞼は開いた。
「あれ、私……」
「かよちん、大丈夫!?」
「凛ちゃん……? 私、どうしてこんなところに……あれ? 海未ちゃんは?」
「俺たちはキミたちが行方不明になったと聞いて探していたんだ。園田さんも今探しているよ。
ただ、キミがここに閉じ込められる前に何があったか思い出せるだろうか?」
「ええと、確か……あっ、そうだ! そろそろ戻ろうって、戻ろうとしたら誰かが、目の前に立って……それで、何かを吹きかけられて……ごめんなさい、後は気付いたらここにいて……」
「いいや、充分だよ。南泉一文字、キミは彼女を部屋へ。念のため、白鐘と星空さんも共に行ってくれないか?」
「おう」
「分かったにゃ!」
「分かりました。長義さんは引き続き捜索ですか?」
「ああ。見つけたらすぐに連絡しよう」
長義と別れ、三人は花陽を部屋まで連れて行く。
花陽と海未が吹きかけられたというのはおそらく睡眠剤のようなものだろう。しかし吹きかけただけでとなるとかなり強力な物の可能性がある。念のため、医者に診せた方がいい。
部屋に行く途中で従業員に話しかけようと考えていた。医者を呼んでほしい、と頼むためだ。そこにスタッフの一人であり、第一の事件の第一発見者でもある星野がやって来て花陽を見てホッと息を吐いた。彼は少し汗をかいている。
「良かった、無事だったんですね」
「ええ。幸い怪我はありませんが、何か吹きかけられで眠ってしまったと言うので、念のために医者に診せた方がいいと思いまして」
「ああ、それは確かにそうした方がいいかもしれないですね」
「あら、そちらのお嬢さん見つかったんですね! 良かった……」
星野と話していたら従業員がやって来た。従業員もまたホッと息を吐く。
「どちらで見つかったんですか?」
「この近くにある蔵で見つかったんですよ。本当に良かった」
「まあ……そうだったんですね」
「わりぃが、この島にいる医者を呼んでくれ。何か変なもん吹きかけられて眠らされていたらしいから、念のため診せねえと」
「そうですね、すぐに連絡致します。どれだけ遅くても三十分ほどかと。お部屋でお待ちください、到着しましたら直接お部屋までご案内しますので」
「頼んだ」
そこで話を切り上げて全員で部屋へと戻っていった。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.296 )
- 日時: 2020/11/09 23:31
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
日光は急いでいた。捜索中にスタッフの一人、星野から見知らぬ男から預かったと渡された紙を見てからだ。紙には簡潔に『園田海未 滝の上 急げ』とだけ書かれていた。
もしそれが嘘などであればそれでいい。だが本当であった場合、この状況で滝の上、など良い予感などしない。
ことり、穂乃果は豊前らに任せた。とは言えそんなに距離は離れていないはずだ。
日光が川に着く。辺りを見渡す。すると、不自然にも『何も乗っていない小舟』が早い流れに押されて滝に近付いていくのが見えた。
まさか。濡れるのも厭わずに日光が川へ入る。思ったよりも深い川で、小舟近くでは水深は日光の腰近くまである。しかし気にしてなどいられない。どうにかして小舟に追いつけば、その上に両手足を縛られ、猿轡をされた海未がいた。
彼女は涙に濡れた目で日光を見上げている。
「安心しろ、すぐに助ける」
短くそう伝え、海未を何とか抱え上げるものの、すでに滝は近く水流も二人を呑み込まんとばかりに激しい。その上、彼女は今は動けない。だが、震える体で、まだ手が動く海未はぎゅっと日光の服を掴んでいる。
「日光!!」
声の方を見る。そちらには長い縄を持った桑名と豊前、悠たち。後ろにいる穂乃果とことりは日光と海未が置かれている状況に顔を青ざめさせ、悲鳴を上げるように海未の名前を呼んだ。
桑名が縄をこちらに投げる。先端には小さめの石が縛り付けてあり、風に煽られることなく日光の手元まで届いた。失礼、と声をかけてから海未の腰に巻き付けて自分も縄をしっかりと持つ。
豊前、桑名、悠が縄を引き、日光もそれを手繰れば二人は無事に川から上がれた。日光が縄を解き、猿轡を外す。その間にも穂乃果とことりは涙を滲ませて駆け寄ってきた。
「海未ちゃん!!」
「良かった、本当に、本当にっ……!!」
「穂乃果、ことり……っ」
二人が濡れることも厭わず海未に抱きつき、海未も二人を抱きしめ返した。それを見て全員が安堵の笑みを浮かべたのは無理もないことだった。
ある意味、問題はその日の夜だった。レストランではどうしても全員が顔を合わせる。その際にあの女性が懲りずにまたμ'sの面々を糾弾し始めたのである。今回は間違いなく彼女らが被害者であるにも関わらず、だ。
曰く、どうせ自作自演だろうと。
それにスタッフの一人で、残ったスタッフの中では谷林におべっかを使って気に入られていた男、原が乗ってきたのである。
周りがどれだけ嗜めようがその口を閉じることはなかった。
だが。
「いい加減にしてよっ!!」
バン、とテーブルを叩いて立ち上がったのは、この強化合宿に当選したもう一つのスクールアイドル『AroNa』のリーダー、佐伯まりなだった。そのメンバーの相良瑠美、中崎サナエも女性と原を睨んでいる。
まりなは女性に近づいていく。
「な、何よ」
「どう考えたって、μ'sのみんなが被害者でしょ!? なんでそんな簡単なことも分からないの!?」
「だ、だって」
「正直、お姉さん自作自演って言うけど……一歩間違えていたら、海未さんは死んでたんだよ?
それでも彼女たちが犯人で、その目を逃れるために仕組んだことだって言うの?」
「っ……」
「あんた、事件の初日からずっとμ'sが犯人だ犯人だって騒いでるけど、本当は分かってるんでしょ? μ'sが犯人じゃないってことくらい」
「うるさいっ!!」
そう逆上した女性はまりなを突き飛ばした。だが、彼女が倒れることはなかった。近くにいた完二が咄嗟に受け止めたから。
「あんたよ」
「っ……」
「オレは、そんなに頭は良くねえ。それでもオレだってあいつらが被害者だってのは分かる。
分かってんだろ、本当はよ」
「〜っ!! もういい!! 気分悪いわ!!」
女性は怒ったまま、レストランを後にした。
まりなが完二にありがとうと礼を言って離れる。
「あのっ」
「!」
穂乃果がまりなに声をかける。まりなはびくりと震えたがそのまま振り返った。
「ありがとう、庇ってくれて」
「……うう、ん。お礼を言われることじゃないもの」
「それでも、ありがとう」
穂乃果に続いてμ'sの面々がお礼を言って、宿泊客たちはまりなたちに拍手を送った。中には「よく言ってくれた!」「スッキリしたよ」と褒める声まで聞こえる。
それにまりなたちは嬉しそうに……は、していない。それどころか、少しつらそうに笑っていた。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.297 )
- 日時: 2020/11/09 23:42
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
夜、直斗たちは一つの部屋に集まっていた。情報を交換、整理するためだ。しかし、直斗は情報を書き出したメモを前に頭を抱えていた。
第一の事件に関して犯人は分かった。ついでに言えば、あの写真を撮った人物も分かったのだがその後の第二の事件、そして今日起こった海未、花陽の事件が分からない。
第二の事件は、陽介と共に監視カメラの映像を見たという成海という人物が見ていたところ、入っていく人物も出て行く人物もいなかった。そうなれば窓から入った可能性もあるが、それらしき跡もなく。そもそも何故小賀はドライアイスを持って部屋に入ったのか。何のために犯人は部屋を訪ねたのか。分からないことだらけだ。
海未、花陽の事件は十中八九殺害を目論んだものだろう。……結果的に海未だけになったが。花陽をあの蔵に閉じ込めた人間はすでに直斗は分かっていたが海未を連れ去ったかもしれない犯人に対し、『どうして彼女を狙ったのか』という思いが支配する。直斗たちが考える犯人では、狙う理由がないのだ。
「ああもう、いくら考えても分からないよ……!」
りせが嘆く。全員何も言わなかったが彼女の嘆きに同意していた。
その時だ、千枝が口を開いたのは。
「でもさ、園田さんと花陽ちゃんの事件、なんか変だったよね。まるでさ……『別の人がやったみたい』。なんちゃって!」
「里中先輩、実はそれ合って……別の、人?」
「ん? どうしたの?」
「……そうか。そういうことか!」
「え? あ、あたし、またなんか?」
「ありがとうございます、里中先輩。……これでようやく、謎が解けました。
もちろん、全てではありませんが……」
「本当に!?」
「ええ。明日の朝、すぐにでも犯人を暴いてみせますよ」
そうか。そうだったのだ。『犯人は同一人物』という前提が崩れれば、直斗にとって簡単な事件だった。
後は、犯人を引き摺り出すだけだ。そう気を引き締め、直斗は息を吸った。
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