二次創作小説(新・総合)

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.307 )
日時: 2020/12/07 22:51
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)

VS神殺しの蟲
 旅館の外に出た豊前たちの目に入ったのは、巨大な黒いモヤで形作られた大ムカデだった。キシャアァァ、とこちらを威嚇してくる。
「こ、れは!」
「それだけじゃないわよ」
 いつの間にか来ていた瑠璃溝隠が放ったのは蝶、鳥となった黒いモヤだ。
 蝶は黒い羽を羽ばたかせ、鱗粉を振り撒いていく。それを吸い込んだ豊前たち以外、普通の宿泊客たちは次々と眠りについていく。大人も子ども例外なく。鳥は眠らなかった者たちを突いていく。力が強いのか、何人かは血が出ている。
 従業員たちは被害を余計に出すつもりはないのか、全員を別の場所へ避難させて始め、その手で鳥たちを追い払っていた。
「あんたたちを倒して、山姥切国広たちを取り戻す……!! そうすれば、山姥切長義だって……!!」
「言っておくが、写しくんたちは渡さない。お前には必要ないんだろう? それに……お前には、監視としてだが元の本丸の俺が着いていると聞いたが?」
「……ああ。『アレ』ね。折ったわよ、あんな『偽物』」
「は……?」
 忌々しげな顔をして吐き出す瑠璃溝隠を、全員が理解できなかった。折った? 偽物? 何を言っている?
「あんなの山姥切長義じゃないわ!! 山姥切長義は、忍耐強くてまるで聖母のように優しくて、儚げで……山姥切国広や南泉一文字の無体にも耐えるような、そんな刀剣男士なのよ!!
あんな冷たい目で見てきて、会う度に嫌味を言ってきて、冤罪で捕まった私を助けてくれないなんて、偽物以外にあり得ない!!
確かに、最初の頃は私が悪いのかもしれないと思ってた。だけどだんだん『本当に私が悪いのか』って考えて、私は悪くないってようやく気付けたのに、『アレ』は何を言っているんだって!! やっと正気に戻った主を喜んで歓迎して、感謝してくれるはずなのに!!
だから山姥切国広たちが戻って来れば、本当の山姥切長義が戻ってきてくれるはず!!」
「お前……本気で言ってるのか?」
「本気よ?」
「……あの俺は、多少の慈悲を持って接してくれていたのに」
 長義の言葉は瑠璃溝隠には届かない。確かに自己中心的なところはあったが……本音がところどころ出ている。彼女はおそらく、もう壊れた。声は届かないだろう。どれだけ言おうが自分は悪くないと叫び続ける。例え処刑台に登って己の死の寸前になっても叫ぶだろう。
 ……彼女の山姥切長義は例えあんなことになろうと本心では見捨てきれなかったのかもしれない。だから監視として側にいて、支えるつもりだったのかもしれない。嫌味を言ってきたと言うが、それは彼女が結局自分は悪くないと言い始めたからだ。さすがに我慢の限界だったのだろうと想像が付く。
 それでも、見捨てても良かったのに彼はそうしなかった。その結果が……。
 ギリ、と歯軋りの音がした。誰のものかすぐに分かる。
「さあ、私の山姥切国広たちはどこ? 答えなさい!」
「……答えると思うか?」
「そう……なら、痛めつければ口を開くわよねぇ!!」
 瑠璃溝隠の声と同時に大ムカデと一部の鳥が襲いかかってくる。本体を呼び出し、抜刀する。鳥は何なく斬り伏せたものの、大ムカデはそうも行かない。以前の闇の御子はその大きさに比例するように動きは遅めだったようだが、今回は速い。
 それでも隙はできる。豊前がその隙を突いて足を一本切り落とそうとする。例え一本だろうと多少動きづらくなるはずと考えて。
 しかし、鳴り響いたのはまるで金属のような音だった。刃は通らない。
「なっ!?」
「ギシャアアアァ!!」
 大ムカデが体を大きく振る。さすがの豊前でもそれを避け切るには距離も時間もなく、大きく吹き飛ばされた。
「豊前!!」
「どういうことだ……!?」
「ふふふ!! 当たり前じゃない! ムカデは神が自分で殺せない、唯一の生き物なんだから!」
「何を言ってる……?」
「そんな話、聞いたこと……」
「あっ、まさか……!!」
 篭手切は二つの物語を思い出す。一つは『赤城と日光二荒山神戦』(『赤城と日光の戦い』とも言う)。
 そしてもう一つは、『俵藤太物語』。明確に『神はムカデを殺せない』と表記されているわけではないが、どちらも人間に神が助力を求める。解釈次第ではそうとも取れるだろう。
 もし、その解釈を元に作られたのがこの大ムカデであるならば、ここにいる刀剣男士の攻撃はほとんど通らないものと見ていい。
 ただ幸いにも、この場には自称特別捜査隊のメンバーもいる。自分たちが気を引き、彼らのペルソナによって攻撃してもらえば倒せるかもしれない。
 それに彼らも気付いていたのだろう、近くにあった武器になりそうなものを各々取ってきていた。が。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.308 )
日時: 2020/12/07 22:59
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)

「…………し……」
「里中先輩!? 顔色が……」
「いやぁああああああ!! 虫ぃいいいいいいいい!!」
「あっ」
「ど、どうしたぁ!?」
 突然叫び出した千枝に刀剣男士のほとんどは驚いたような顔をしている。しかし雪子がすぐに説明してくれた。
「千枝、虫が苦手で」
「無理無理無理!! あんなでかいの、嫌ぁああああああ!! ち、近づきたくないっ!!」
「……あー、里中は蹴りだもんな」
「で、では里中さんは宿泊客の避難を手伝ってくれ! 他に正直虫が苦手な者はそっちに!!」
「……虫が苦手というほどでもないんですが、念のため僕もあちらへ。久慈川さんはどうしますか?」
「正直私もそっち行きたい……」
「ナビはできそうクマ?」
「遠くでいいならできるよ」
「ならば三人はそちらへ!」
 長義が言うと三人はそちらへ走っていった。りせにだけは通信機を渡しておいて。心なしか、千枝が一番速く走っていた気がする。無理もないだろうが。
 改めて大ムカデと向き合う。山鳥毛と日光が駆け、斬りかかる。やはり刃は通らない。ただ攻撃が通らずとも煩わしいのか、そちらに意識が向いている。
 その隙を突いて、陽介が一枚のカードを壊す。現れたのは『スサノオ』。陽介のペルソナだ。
「『ガルダイン』!!」
 大ムカデに激しい風が吹き荒れる。例え倒れずともこれならば大ダメージを与えられる。
 そう、思っていた。
「ギィイイイイイ……!!」
「う、っそだろ……」
 ほとんどダメージなど受けていない。かすり傷などはいくつか見受けられるがそれだけだ。
 ならば、と雪子がカードを壊す。次に姿を現したのは『アマテラス』。雪子のペルソナで、炎の攻撃を得意とする。
「『アギダイン』!!」
 大ムカデに大爆発が襲いかかった。だが直撃にも関わらず、こちらも大したダメージは見受けられない。
 神の名前を持つペルソナも神としてカウントされているのか。そう考えたらしい悠は己のペルソナを変える。カードを握りつぶして姿を現したのは『ヨシツネ』であった。
「少しだけ時間を稼いでくれ!!」
 使用するスキルは『チャージ』。時間がかかる代わりに、次に使用する物理攻撃のスキルのダメージを二倍以上にするものだ。
 全員で大ムカデに攻撃し、悠への注意を逸らす。チャージが終わると同時に下がってくれ! という悠の声が届いた。全員で退く。
「『八艘飛び』!!」
 『八艘飛び』が大ムカデに襲いかかる。大ムカデは叫びを上げている。どうやら先程の考えはあっているようだ。
 だが……ここにいるメンバーのペルソナはほぼ全員が神の名前を持つペルソナで、他は完二だけだ(とは言え、彼の『ロクテンマオウ』も第六天魔王波旬の名前の可能性もあるため確実とは言えない)そして刀剣男士は付喪神。悠と完二だけが大ムカデに対して有効打を打てることになるが、それだけ彼らの負担も増える。魔法攻撃スキルもあるが今はそれに使うSPの回復ができず、物理攻撃のスキルは体力を削る。今は雪子のアマテラスや陽介のスサノオ、クマのカムイによる回復スキルで何とか凌げるが、その間に何とかできる確証などない。
 通信機からザザッ、とノイズが入った。りせからか。
『み、みんな! 気を付けて!! あの虫、なんか……すごく嫌な感じする!
なんだろう、これ……恨み……っていうのかな……。でも、何で……長義さんの姿が、朧げに……!?』
「長義さんの姿!?」
 全員が大ムカデを見る。何故大ムカデに、朧げと言えど長義の姿が……。
「……まさか」
「おいお前……ただ山姥切を折ったわけじゃねえ、にゃ?」
「あら、そんなことも分かるのね。確かにただ折ったわけじゃないわ。この虫に食べさせたのよ」
「た、べ……?」
「そうね、この虫は強いて言えば……『神殺しの蟲』になるのかしら?」
 そう言って瑠璃溝隠は大ムカデを……神殺しの蟲を見た。
 ……ただ折るだけでなく、食べさせる。りせから聞いた情報を見ても、食べられてしまったことであの長義は本霊に還れなくなったのだろう。逆恨みと言いがかりで折られ、本霊にも還れなくされて、恨まないはずがない。誰もが目を伏せたくなる。おそらく、彼女が無事でいるのは神殺しの蟲の中に長義が封じられる形になっているのとダーズの力によるもの。もしそのどちらも無くしてしまえば……後のことなど簡単に分かってしまう。
 例えすぐに死ぬことになっても人と死ぬことができるならば良い方だ。
 何にせよ、長義のことは解放してやりたい。しかしどうすればいいのか、誰も思いつかない。
「……少し、時間をもらえませんか」
「篭手切?」
「何とかできるかもしれません」
「何だって?」
 篭手切に注目が集まる。目の前に敵がいる以上、話すわけにはいかないのだろう。少しの沈黙。それを破ったのは、豊前だった。
「頼めるか、篭手切」
「はい!」
「分かった、信じてるぞ! 全員で時間稼ぐぞ!!」
 その声を皮切りに、全員が神殺しの蟲に立ち向かっていく。そして篭手切は旅館の方へ駆けて行った。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.309 )
日時: 2020/12/07 23:04
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)

 旅館に入り、適当な近くの扉に近付く。そしてそれに一つの鍵を近付けた。
 それは直斗が犯人たちを暴く前。柊に通信を繋いだ時のことだ。


『そっちがそんなことになってるなんて……』
「はい、ですがご安心ください。明日には全て終わるはずです」
 彼は本当にそう思いながら微笑みを浮かべた。しかし柊は眉間に皺を寄せ、腹に背は返らんねえなぁと呟いて、一つの鍵を画面の前に持ってきた。
 その鍵は見た目こそ普通の鍵だが、鍵を縁取るように薄い水色のモヤが覆っている。
「それは?」
『一回だけ、何処へでも繋げられる鍵だよ。使い方は簡単で、テキトーな扉に繋げたい先を大雑把でもいいから思い浮かべながらこれを翳せば扉に吸い込まれる。それで扉が淡い水色に光れば繋がる。出入りも一回だけならどっちから行こうがどっちから出ようが可能。
これを、マスターハンド様とクレイジーハンド様の力をお借りしてそっちに送る。……しばらく私はダウンするけど』
「そ、そんなに疲れるのですか!? 一体何故そんなに疲れてまで?」
『疲れるっていうか、ありとあらゆる力を一気に持っていかれるからね。動けないんだわ。
理由は……なんか、嫌な予感がしてさ。何もなければ杞憂だったーで笑えるし?』
「主……」
『それじゃ、頑張って』
「……はい!」




 この鍵を使わなければいい。そう思いながらも、自分もどこか嫌な予感がしていた。その予感が的中してしまうなんてと嘆きたくなったがそんなことしている暇があるならば一刻も早く。
 急く心とは裏腹に鍵は吸い込まれず、扉は光らない。それどころか旅館に入ってきた黒い鳥がこちらに攻撃を仕掛けてきて慌てて応戦する。だがそのせいで鍵が扉から離れてしまう。
 ここではダメだ、そう考えた篭手切はさらに奥へ入って行く。一刻も早く戻らねば。篭手切の足は自然と走っていた。











 避難所。宿泊客全員が押し込められたそこでは怯えた声で埋め尽くされていた。千枝や直斗、りせは見回りに行ってしまっている。
「なんでこんなことに……」
「も、もう嫌だ、帰りたいっ……!」
 大人ですらこの様なのだ。子どもなんてずっと泣き続けている。だが誰も咎めやしない。できるものか。
「〜〜っ!! うるせえんだよガキっ!!」
「ひっ」
 原の怒鳴り声に子どもは体を大きく振るわせた。罪が暴かれたことで自暴自棄になったのか、そう怒鳴ったと思えば隅の方で縮こまり、なんで、どうしてと呟いている。
 ほとんどは子どもを宥め、原なんて見やしない。しかし子どもは声を押し殺してそれでも泣き止まない。
 そんな子どもを見て、μ'sのメンバーは皆心を痛めた。どうすれば、と考えた時だ。
「I say…」
 穂乃果が歌を口ずさむ。
「Hey,hey,hey,START:DASH!!」
「穂乃果……」
 彼女が歌い始めたのは『START:DASH!!』。優しい歌声を聴いたほとんどの人は彼女を見て、いつの間にか子どもも泣きやんで穂乃果を見ている。
 つられてμ'sのメンバーも歌い始める。誰も彼もが歌に魅了され、だんだん笑顔を浮かべ始めた。
 歌が終われば皆彼女らに拍手を送る。中にはもっと歌ってくれと言う者もおり、その中には先ほどまであんなに泣いていた子どももいた。
「ねえっ、あなた達も歌おう?」
「えっ?」
 穂乃果がそう言って誘ったのは、AroNaの三人だった。彼女たちは目を丸くし、そんな彼女たちに穂乃果はただただ楽しそうに早く、と背中を押してくれる。彼女たちがμ'sを見れば、穂乃果のように楽しみだと言わんばかりに待っていたり、困ったように、それでも優しく笑っていて、その中にはにこもいて。
 三人の目に涙が浮かぶ。『どうしてあんなことをしてしまったのだろう』という後悔と、ほんの少しの喜びで。
 頷き、μ'sとAroNaの歌声は密やかに、それでも避難所に響いて行く。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.310 )
日時: 2020/12/07 23:10
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)

 その時、だ。
「うわぁあああああっ!!」
「!?」
「っ、伏せて、中に、鳥がっ!!」
 外にいた従業員の声とほぼ同時に、内扉が破られた。そこにいたのは鳥と蝶の大群に加え、巨大なモヤの鳥が鎮座している。
「ひっ!!」
「にっ、逃げっ」
「ぎゃあああっ!!」
 全員が混乱し、逃げ回る。しかし外にも中にも鳥や蝶がいる。とてもではないが逃げきれない。蝶の鱗粉で眠らされていく。鳥が突き、少量の血が飛ぶ。
 子どもを抱いて庇う親なんてもうすでに血に濡れていた。
「お父さんっ、お母さぁん!!」
「ぐあ」
「ぅ、ああっ!!」
「こ、このっ!!」
 一人が棒を持って鳥を叩き落とす。鳥の方が数が多く、すぐさま鳥が襲いかかっていく。
 穂乃果たちも何とか追い払っているものの、それもいつまで持つか。
「あっ、ほ、穂乃果!!」
「えっ……?」
 穂乃果の後ろにいたのは、あの大きな鳥だった。がばりと開かれた嘴は、穂乃果を食そうとしている。
「っ、だめ!!」
「ひゃっ!!」
 どん、と真姫が穂乃果を押す。穂乃果は床に倒れたが嘴から逃れられた。だが、その代わりに真姫が狙われている。
「真姫ちゃん!!」
「っ!!」
 逃げられない。そう思った真姫は思わず目を瞑った。

──ザシュッ

 斬る音。それに全員呆然とし、真姫はゆっくりと目を開いた。
 彼女の目の前に立っているのは赤髪の少年。少年の顔の中心には痛々しい十字の傷が刻まれていた。カーキ色のシャツを着ており、腰に縛り付けられている黒の上着はどこかの制服のようだ。少年の手には、二振りの刀が握られている。
「え……?」
「おい、何ボサっとしてんだよ。とっとと立つなり何なりしろっての。そこまでしねぇと何もできねぇのかよ」
「なっ……いきなり何よ!?」
「ほんとのことだろうが」
 真姫が怒りながら立つも、少年はそれを一瞥して刀を構える。あの大きな鳥はまだ倒れてはいなかった。
「おい、後ろ行ってろよ。邪魔だ」
「っ、い、言われなくったって……」
 悔しいし、口が悪いとは思うがそれは事実だ。真姫は当然のこと、ここにいる人々は戦う術など持たない。邪魔、と言うのも間違いではない。
「皆月くーん!!」
「おっせえぞポンコツ!!」
「ポンコツポンコツ言わんで! ウチにはラビリスって名前があるんやで!?」
「僕より遅いんだからポンコツだろ!」
「もう、皆月くんが急に走り出すからやろ!?」
 走ってきた白い髪の少女──ラビリスに皆月と呼ばれた少年以外全員が目を丸くする。少女はその体に見合わない大きな斧を持っていた。……だけではない。
 機械。彼女の体はどう見ても機械でできていた。
「そこのキミ、大丈夫やった?」
「え、ええ」
「それなら良かった! 下がっとき、ここはウチらに任せてぇな!」
 ラビリスは大きな斧を、皆月は二振りの刀を構える。大きな鳥は二人を標的と認識したようで、蝶や鳥も集まっていく。
「さあ、『皆月翔』の“ショウ”タイム、なんつってな! かかってこいよ、捌いてやる」
 その言葉を合図とするように鳥たちが飛びかかる。しかし皆月は軽やかにそれを避け、斬っていく。壁際に追いやられようと壁を蹴り、宙で一回回転したかと思えばそのまま何体かを斬り裂いた。軽い、しかしその一撃は鋭い。
 ラビリスはその大きな斧で大きな鳥を相手にしている。周りを蝶に囲われているがやはり機械だからか、鱗粉は一切効いていない。武器が武器だからか大振りではあるがその一撃一撃が非常に重い。周りは多少の傷や破損は出ても大きく壊れる箇所がないところを見るとあれでもかなりセーブしているようだ。また、その大きさを生かして盾にも使っている。
「す、すごい……」
「あ、あれ?」
「どうしたの、花陽?」
「じゅ、従業員さんたちは……?」

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.311 )
日時: 2020/12/07 23:18
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)

「ここまで、か」
「仕方ない、これも定めだ」
 従業員たちは少し離れた場所で多くの鳥に囲まれていた。しかし誰も取り乱さず、大人しくその運命を受け入れようとしていた。
「私たちの復讐はほとんど達成された。きっと原も捕まるだろう。……後はあの方々にお任せしよう」
「ええ。……キーラ様、万歳!!」
「キーラ様万歳!!」
「キーラ様万歳!!」
 彼らは皆一様に自棄になった様子もなく、キーラ様万歳、と唱和する。そんな彼らを、鳥たちは容赦なく攻撃しようと突進していた。








「『光の壁よ』」
 ほんのり輝く薄い壁が、彼らを囲む。そして彼らの前に姿を現したのは……黒い髪の女と、紺色の髪の男だった。
「い、郁江様!!」
「ガッド様も!!」
「まさか、ダーズ側の人間がいたとはな」
「皆、無事かしら?」
「は、はい!!」
「そう、良かった。復讐は……終わった?」
「はい。ありがとうございます」
「貴方たちの心を晴らせたなら何よりよ。ここから戻ったら貴方たちはもう自由……」
「いいえ、もう一つ大きな復讐があります」
「え?」
「郁江様の復讐です。我々も微力ながらお力を」
「そ、れは、いいのよ。私が」
「郁江」
 ガッドに呼ばれ、郁江は彼を見た。ガッドは静かに首を横に振り、受け入れてやれ、とだけ言った。
「……分かったわ。ありがとう、でも、私の復讐の業は私だけが背負う。それでいい?」
「はい!」
「ありがとうございます、ありがとうございます郁江様!」
「お礼はこちらが言うべきことよ」
 そう言って郁江は微笑んだ。そんな彼女に従業員……否、信者たちは跪き、手を組み彼女を讃えるように名前を叫ぶ。
 隙だらけの彼らを鳥が放っておくはずがない。一匹が突進を仕掛ける。壁はとうになくなっていた。
 パンッ
 そんな破裂音がした。ガッドは右手を挙げており、その周りは破裂した黒いモヤが舞っている。
「あら、さすがねガッド」
「この程度、褒められることではないぞ。俺が殿しんがりを務める。お前たちは早く戻れ」
「そうね。行きましょう」
──おねえちゃん
 郁江の向かう先にはいつの間にか、目を開けていることもできそうにない光の穴があった。誰もが何の躊躇いもなくそこへ向かっていく。
 鳥たちの突進はガッドが向かい合うと、また破裂音と、空気を切る音がして何匹か破裂した。少なからずここにいる者の中では郁江にだけ辛うじて目にも留まらぬ速さで的確に繰り出される拳と蹴りが見えていた。
 郁江たちが全員穴の中へ入っていくと、ガッドも踵を返してそこへ入って行けば、光の穴は消える。そこには誰も、そして鳥すら残らなかった。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.312 )
日時: 2020/12/07 23:25
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)

「くっ……!!」
 山鳥毛は肩で息をしながら膝をついてしまっていた。視線の先には多少消耗させたが未だ戦える神殺しの蟲。そしてにやにやと笑う瑠璃溝隠だった。
 刀剣男士も、自称特別捜査隊のメンバーもすでに倒れている中、立っていたのはボロボロでも無理やり立っている長義だけだ。
「ほら、とっとと膝ついて倒れてしまいなさいよ。そうしたらこの蟲の糧にしてあげるから」
「っは。面白いことを言ってくれるな……! 誰がお前にそんな無様な姿を見せてやるものか」
 平静を装って彼は口角を上げる。瑠璃溝隠は気に触るでもなく、興味なさげにふぅん、と声を漏らした。
「まあいいわ。ここからさらにボロボロになってくれたら面白いもの!
さあ、準備はもう整った。連れてきてちょうだい!!」
 そう叫ぶとほぼ同時に、複数の悲鳴が聞こえた。そちらを見る。
「山切……!?」
「な、なんで、二振り目のやつらが……っ!!」
「こ、こは……!?」
「ああっ、山姥切国広!!」
 瑠璃溝隠がそう呼べば彼はびくりと震えて思わずと言ったように勢いよくそちらを振り向いてしまう。彼女の存在を見て、あ、と声が漏れたと思えば顔は青ざめ、体が震え、だらだらと汗が流れており、その目には涙も溜まっている。
 そんな様子を見て、どうやったらそうなるのか分かりはしないが彼女は相当いい方向に捕らえたらしい。はぁっ、と恍惚のため息を吐いた。
「貴方も私に会えて嬉しいのね……今までごめんなさい、あんな偽物に騙されて貴方に厳しく当たりすぎたわ。
もう少しゆっくり『治療』すれば良かったのよね。ああ、そんなに体が小さくなって、前髪も伸びて……あの審神者に無理やりそんな姿にされたのね。もう安心して! さあ、私と帰りましょう!」
「っ、あ、あ……」
「山切!」
「……相変わらずだな」
 和泉が嫌悪を隠さず、吐き出すように言う。他の二振り目……元々瑠璃溝隠の本丸にいた刀剣男士もいるというのに全くの無視。山切への言葉も全く自分が悪いと思っていない口ぶりだ。
 山切もきよも大和もガタガタ震えて白形と黒形、そしてそねが後ろに隠している。和泉は未だにぼうとしている川広を後ろに隠した。
「あら。貴方たちもいたのね。……まあいいわ。ついでだから貴方たちも帰りましょう。だけど前みたく私を裏切らないように徹底的に管理させてもらうけれど、それくらい当然よね?
帰ってきなさい」
「誰がっ」
「……主さん?」
「えっ……」
 ふらり、と川広が瑠璃溝隠へと歩み寄っていく。しかしそれをすぐにきよが阻止しようと声をかけた。
「川広!? だめ、行っちゃダメ!」
「……でも加州さん。主さんが、呼んでます」
「なっ……!?」
「行かなくちゃ、あれ、僕、なんで、何も、付いてない、の? あ、あ、だめ、何か、何か付けなきゃ、ころしちゃう、だれかっを、ころ、あ、あ!」
「国広!!」
 暴れ出した川広を止めるために和泉は強く手を握った。荒くなった息を整えさせるために和泉は声をかける。
 しかしそれが瑠璃溝隠には面白くなかったようで不快だと言わんばかりに顔を歪めている。
「何よ、そんなに戻りたくないの!?」
「当たり前だ。誰のせいで川広や山切がこんなことになったと思っている!?」
「……は? 何、私のせいだとでも? そんなわけないじゃない!! ああ、きっとあいつに洗脳されたのね。まずは浄化しなくちゃいけな」
「ふざけるな!!」
 怒鳴ったのは和泉でも、そねでもなく、長義だった。その青い瞳で瑠璃溝隠を射殺さんとばかりに睨んでいる。
「全てお前のせいだ!! お前の言霊のせいで彼らは壊れかけているんだ!!
誰がそんなやつの元に『俺が愛された証』である『俺の写し』をやるものか!!
誰がそんなやつの元に写しの兄弟を渡すものか!!
誰がっ!! そんなお前の元に、その縁ある刀を渡すものか!!
誰が、俺を肯定するだのほざいて存在を揺らがせるようなやつの元に刀剣男士を渡すものか!!」
 血を吐くような叫びに、誰もが悲痛な表情を浮かべる。その勢いに瑠璃溝隠も多少押されたらしい。
「な、何よ……! そんなに、そんなに強がったところで神殺しの蟲は倒せないくせに!!」
「ああ、確かに『今までここにいた者たち』ならばな」
 突然の声に瑠璃溝隠は周りを見渡す。瞬間、神殺しの蟲が叫び、見れば今までなかった大きな切り傷が付いていた。
 そして、その上に一人の男が立っている。
「なっ……!」
「この俵藤太が来た以上、この蟲はただのデカいだけの虫よ」
 男──俵藤太(FGO)はそう言い、暴れ出した神殺しの蟲の上から飛び退いた。神殺しの蟲はそのまま俵藤太を攻撃しようとするが横から飛んできた光の玉にそれを阻まれた。
「害虫の相手なら私たちだってできるわよ」
「覚悟しやがれ!!」
 花騎士のカトレア、アブラナ、ツバキ、ブラックバッカラ、セルリアがいつの間にか神殺しの蟲を囲んでいた。それぞれが神殺しの蟲の足や本体を攻撃していけば世界花の加護が神殺しの蟲にも効いているのかかなり弱ってきている。
「な、ど、どうして」
「皆さん!!」
「篭手切……!?」
「主から預かった鍵を使って、俵藤太さんや花騎士の皆さんを呼んだんです!」
「そういうことだ! さあ、とどめと行こうか!!」
 俵藤太が弓を構える。
「『南無八幡大菩薩……願わくば、この矢を届け給え!!』」
 放たれた弓は龍となり、神殺しの蟲に向かっていく。その大きさが仇となり、神殺しの蟲はそれを避けきれない。そして弓は、神殺しの蟲の左目に突き刺さり、神殺しの蟲は一際大きく叫び、暴れた。
 だがそれも束の間、神殺しの蟲は徐々に形を保てなくなり、次第にモヤになり、そのモヤは霧散した。……うっすらと、やっと解放された山姥切長義がこちらに向かって微笑んでいた気がした。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.313 )
日時: 2020/12/07 23:37
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)

 その後、他の島から来た医者などにより殺された谷林と自殺した小賀以外に命を落とした人はいなかった。原は逃げ出そうとしたのだがすぐに抑えられ、それは失敗に終わる。そのまま警察に連れて行かれたから、最低でもしばらくは出ては来れないと言う。
 篭手切以外の刀剣男士は柊により手入れを受けて回復し、悠たちも的確な治療を受けて多少は安静にする必要があるが特に後遺症はないとのことだ。
 AroNaはμ'sに直接謝罪した。誰も話はしなかったが彼女たちは後に動画サイトにてμ'sの熱愛は自分たちが捏造したもの、その際に星空凛を階段から突き落としたことを公表、大炎上し、スクールアイドルとしての道は閉ざされ、数年は冷たい視線に晒されることになる。
 瑠璃溝隠はいつの間にか逃げていた。痕跡もないために追跡は不可能だったらしい。
 花陽がそういえばと思い出して皆月とラビリスのことを話した時は悠が目を丸くしていたがただ一言「元気そうだったか?」と聞かれ、頷けば彼は良かったと微笑んだ。
 とんでもない日々だった、と改めて思う。
「小泉さん」
「あっ、桑名さん……」
「大変だったね」
「桑名さんたちの方が大変でしたよ!」
「あはは、確かにそうだねぇ」
「……これで、お別れなんですね」
「……うん」
「……寂しい、です」
「そうだねぇ」
「また、会えますか?」
「……多分?」
「……また、会いたいです」
「じゃあ、主にちょっと相談してみるよぉ」
「えっ!?」
「また会おうね」
 そう言われて、桑名を見上げる。……ほんの少し、髪の間から優しく細められた金色の瞳が見えた気がした。
 何故だろう。また会える気がして。そして、このドキドキの答えを見つけられるような気がした。







 ある部屋。そこで瑠璃溝隠は歪んだ笑みを浮かべていた。
「ああ、やっぱりこれが正しい形だわ」
 部屋の中にはいくつもの影を侍らせた一つの影と、その足元に跪き、愛情を乞う哀れな影たちがいた。
「まったく、やっぱり『山姥切国広』も『南泉一文字』も『燭台切光忠』も『日光一文字』もダメね。それじゃあ『山姥切長義』の隣を、後ろを預けられないわ」
 そう影たちを呼ぶ瑠璃溝隠の目は壊れていた。
 ここは彼女の『理想』を映し出した『本丸(楽園)』。山姥切長義を中心に回る小さな『世界』。もし、彼女がこの『世界』から出ることになった時、どうなってしまうのか。
 そんなの、火を見るよりも明らかで。けれど彼女は分からない。もう理解することもできないのだ。その方が、幸せなのかもしれないけれど。









 またある場所。信者たちを部屋へ送り届けた二人は月明かりの差す廊下を歩いていた。
「本当に彼らが無事で良かった」
「ああ」
「ガッド、貴方もありがとう。私のわがままに付き合わせて」
「構わん」
「ふふ。ガッド、貴方に褒美をあげる。何がいい?」
「……何でもいいのか」
「ええ。何でも」
「……なら。あんたが欲しい。あんたをくれ」
「……本当に、貴方は変わってるわ。こんな汚れた『身体』を何度も欲しがるなんて」
「……嫌ならいい」
「いいのよ。何でもいいのだから。後で部屋に来て頂戴。貴方が満足するまで、身体を求めていいのよ」
 そう言って郁江は部屋へ戻っていく。その背中をただ見守り、そっと目を閉じる。
「そう言って身体はくれても、心はくれないじゃないか」
 拳を握る。
「俺が欲しいのは、身体じゃない」
 呟いても彼女には届かない。それを本人に言う勇気もなく、身体を貪っている。
 ガッドは、虚しい気持ちを抱きながら自室へと戻っていった。

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