二次創作小説(新・総合)
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.356 )
- 日時: 2021/04/01 13:32
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: 6Nc9ZRhz)
メンヘラマネジメント
花騎士、ディプラデニアは「どうしてこうなったのだろう」と思いながらタオルとスポーツドリンクを用意していた。おろしたてのタオルはフカフカで、いつまでも触っていたくなるのを我慢してある場所まで持っていく。
そう、確か……ずいぶん前のことだ。求められたら何でもする、性的なことですらも……そんな彼女はある日、篭手切江に呼び止められたのだ。彼は団長である柊の元で戦う刀剣男士。広く見ればディプラデニアと似たような立場の少年だった。
「あの、ディプラデニアさんは頼まれたら何でもするとお聞きしましたが……本当でしょうか?」
そう言われてディプラデニアは少し驚いたことを覚えている。何せ、あれだけ男の人がいるのに一人もディプラデニアを求めてこなかったから。不安になりすぎて体調を崩してしまったのを今でも覚えていた。だから刀剣男士は付喪神だから、さすがに違うのだと思い込むことにしていた。
これからも求められることはないのだと思った。仮に求められるならもう少し成長した姿の刀剣男士だと思っていたのだが、来たのは全く予想もしていなかった篭手切だった。
しかしそれはどうでもいい。さすがに付喪神を相手にしたことはないが、それができるならどうだって良かった。だから少し違いますがはい、と頷けば彼は目を輝かせ、躊躇いなく手を取ってこう言ったのである。
「では、まねえじめんとのお手伝いをお願いできませんか!?」
「……はい?」
それからあれよあれよと言う間にマネージメントの手伝いをすることになっていた。メインはスポーツドリンクやタオルの用意と言った、悪く言えば雑用だ。
そもそも見せる相手が本丸くらいにしか、と思っていたら何と、別の国のサーバーとやらにある別の本丸の篭手切江及び審神者主催で三ヶ月に一回に『合同すていじ』があるのだそうで。篭手切江には大人気のその催し物は柊本丸の篭手切もよく顔を出している。そこで今度はすていじに立つという目標を掲げて一層れっすんに励んでいるのだと。
が、レッスンに加えて各メンバーのスケジュール調整をしたり、レッスンメニューを考えたり、それ以外にも刀剣男士の本分として戦や遠征、内番で細かいところに手が回らなくなってしまっていた時にディプラデニアのことを聞いたのだと言う。
「(もっと別のことで誘ってくると思ったのに……マネージャーを頼んできたのは彼が初めてですね……)」
断ろうにもキラキラとした目で見られては断るのは無理だった。
最近は慣れない作業で疲れて欲を発散させようとも思わない。マネージャー業のことを考えて仕事を減らしてくれた柊に感謝したいような、そもそも彼女が原因な気もするので恨みたいような。
ため息を一つ吐いて篭手切のハキハキとした声が聞こえるレッスンルームに入っていく。
「お待たせしました。スポーツドリンクとタオルです」
「ディプラデニアさん! ありがとうございます。皆さん、休憩しましょう!」
篭手切がそう声をかけると全員がディプラデニアからスポーツドリンクとタオルを受け取る。その際にきっちり「ありがとう」と礼を言ってくることにくすぐったい気持ちになる。
思い思いの場所で休憩する江派のメンバー。その中でも篭手切の横に腰掛ける。
「いつもありがとうございます、ディプラデニアさん。とても助かっています!」
「いいえ。何でもする、と言ったのはこちらのような物ですからね。
……篭手切さん」
「はい?」
そっと近づく。篭手切の綺麗な瞳に、こんな『汚れた』自分が映る。
「疲れ、癒しますか? 好きなこと、『何でも』しますよ? 誘ってくだされば、いつだって……」
「大丈夫ですよ! 私も刀剣男士、体力には自信があります!」
眩しいくらいの笑顔でそう言い切る彼に、ディプラデニアはがっくりと肩を落とした。いや、分かってはいたが。
……どうしてだろう。他にだって言えるはずなのに。こうしているのは彼だけの気がする。
ツキリ、胸に小さな痛みが走る。ダメだ、これだけは。自分にそんな資格はない。求める資格はないのだ。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.357 )
- 日時: 2021/04/01 13:37
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: 6Nc9ZRhz)
事あるごとに、ディプラデニアは篭手切に誘って欲しいと声をかけた。けれど時には天然で、時にはきっぱりと断られてしまう。そんなに自分には魅力がないのだろうかと言えばそんなことはないと答えるのに。
それをつい、柊に愚痴っていた。
「あはは……でも、それだとさ。
まるでディプラデニアが誘ってるみたいじゃん?」
その一言に、ディプラデニアは驚いた。しかし冷静になって考えてみると確かにそうだ。口では「誘ってほしい」と言っているが、やっていることはむしろ誘っている。
……自分に、誰かを求める資格なんてないと分かっていたはずなのに。自分なんかに求められたって、嬉しくないだろうに。
迷惑、だったのかもしれない。ディプラデニアの脳裏に、記憶が蘇ってくる。
ディプラデニアは、元々別の騎士団に所属していた花騎士だ。そこで彼女は……妻子のいる前の団長に、道ならぬ恋に落ちた。身体の関係を持ち、きっと自分は彼を本当に愛していた。けれど……妻子のいる身である彼にとってはそんな自分が重荷になったのだろう。
次第に遠ざけられ、終いには危険な任務に送られるようになったのだ。多分、手を汚さずに……。
完全に関係が途切れ、身体の寂しさを紛らわせるために、彼女は何人もの男と関係を持った。少しでも、寂しさは紛れたから。
この騎士団に所属して、篭手切にマネージメントの手伝いをお願いされた。篭手切は優しかった。いつだってありがとうと言ってくれる。助かっているとも。親切にしてくれて、優しい笑顔を向けられて。
でも。でもこんな自分が彼を求めるなんて、できるはずがないのだ。
現にディプラデニアは目の前の柊にすらその過去を打ち明けていない。『不倫』や『浮気』を蛇蝎の如く嫌っている彼女に過去を打ち明けられるほど、ディプラデニアは強くなかった。本人曰く、『幸せな不倫、浮気は許せる』とのことで、どこからその基準が適用されるのか全く分からないが少なからず自分の過去の恋愛はそれには当て嵌まらないだろうというのは分かる。
だから。だから、自覚なんてしたくない。したとしても、またこんな自分を重荷に感じて離れていかれるのは。軽蔑した目を向けられるのは。どうしても。
胸が痛む。それに彼女が大丈夫かと声をかけてきたが大丈夫と答えて、適当な理由を付けて逃げるように執務室を出て行く。
今は、身体で忘れるということもできそうにない。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.358 )
- 日時: 2021/04/01 13:42
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: 6Nc9ZRhz)
「篭手切、ディプラデニアはどう?」
「ディプラデニアさんですか? いつもとても助かっていますよ!」
笑顔で柊の問いに答える。彼女はきちんと『まねえじめんと』の手伝いをしてくれるし、その上仕事も早い。雑用を押し付けるような形になっているのは申し訳ないとは思っているけれど、本当に助かっているのだ。
「そっか、それなら良かった。本当に問題だったもんなぁ……。
篭手切が」
「うっ……」
「ディプラデニアが男と寝たかもって聞くたびにオロオロしてモヤモヤして、レッスンにも出陣にも身が入らなくって、さー?」
「す、すみません……」
気まずそうに顔を赤らめて謝る篭手切にニヤニヤと笑う柊。
どうしてか分からないが、確かに自分は彼女が男と寝たという噂を耳にする度、ぼうとしたり普段しないようなうっかり失敗を連発していた。まだ小さい失敗だから笑い事で済んだものの、この先は分からない。どうすればいいのかと思っていた時に、柊に提案されたのである。
ディプラデニアは頼まれたら何でもすると。(正確に言えば『誘われたら』だがそこはあえて柊が間違えておいた)だからそれで『まねえじめんと』の手伝いを頼めば、他の男と寝る時間もないのではないか? と。
思い立ったが吉日と言わんばかりに篭手切は早速ディプラデニアに『まねえじめんと』の手伝いを頼んだのである。
「まあ篭手切がいいならいいんだよ。……私じゃ多分、ディプラデニアを本当の意味で助けてあげられないしね」
「え? 何か言いました?」
「んーん、何でもなーい。それより、そろそろレッスン行った方がいいんじゃない?」
「あっ、そうですね! では、失礼します!」
篭手切はその場を後に、いつも『れっすん』をする部屋へと駆けて行った。
一人残された柊はふぅ、とため息を吐いた。……本当はとっくのとうにディプラデニアの過去を知っている。彼女が何故あんなにいろんな男と寝るのか気になって、とことん調べたのだ。(長谷部にも力を借りた)
それを知った瞬間、「これは自分ではダメだ」と思った。そして、これを知ったことをディプラデニアに悟られてはいけないとも。
『不倫』や『浮気』は柊が苦手とする物の一つだ。それこそ蛇蝎の如く嫌い、それを題材にするドラマ等は例外なく見たくないと思うほどに。許せるとしたらする側が配偶者に虐げられている等と言った場合である。ディプラデニアのそれは間違いなく柊が苦手とする物だった。
が、どうしたことかディプラデニアを嫌いにはなれなかった。むしろ彼女を救いたいとさえ思った。多分、彼女が手酷い裏切りを受けたからだと思う。
けれど。ディプラデニアも柊が苦手としていることくらい分かっているだろう。だから知られたと分かれば……きっと深く傷ついてしまう。どうすれば、と悩んでいた時に篭手切の様子に気が付いた。
「……利用、だよな。こんなの。でも……きっと私じゃ、ディプラデニアを救えない」
彼女の心を救うのはきっと『新しい恋』だ。そして、篭手切ならきっと彼女を幸せにしてくれる。
「後でいくらでも謝る。何だったら土下座だってしていい。何をしても良い。
……だから、篭手切」
──ディプラデニアを、頼んだよ。
そんな呟きは、誰にも届かない。
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