二次創作小説(新・総合)

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.401 )
日時: 2021/06/30 22:03
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: qMXr7W56)

水無月祭の出会い
 水無月祭。とある町に、ミズチという女神が生まれた記念すべき月を祝うために開かれた祭りだと言う。ミズチはこの町の他にも妖精たちが住まう森を見守っていると言う。実際はどうなのか分からないが、この水無月祭は今やこの町に欠かせない大切な祭りとなっている。
 サーヴァントのキャスター、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン……イリヤは友達であり同じサーヴァントでこれまた同じキャスターの美遊・エーデルフィルト、そしてアーチャーのクロエと共にこの祭りにやって来ていた。
 付き添いで来ている柊とその護衛である蛍丸、愛染国俊は別の場所で祭りの責任者と話し合っている。
「わぁあっ……!!」
「思ってたより出店が多いわね」
「そう……? よく分からないけれど」
 出店の数は、少なからずイリヤとクロエの予想を超えていた。そもそもそういう予想をしていなかった美遊は首を傾げていたが楽しそうなイリヤを見て彼女もほんの少しだけ微笑んだ。
 茜色の空もそろそろ黒く染まるその時刻、そこは賑わいを見せている。いくつか同じ物を扱う店があるものの、気にならない。それどころか少しずつ個性があるためにむしろ食べ比べたりしてみたいと思うほどだ。
 本番は二時間ほど後に行われる奉納の舞。とは言え、終わりまでは自由に行動してよしとのことなのでもらったお小遣いで存分に楽しむつもりだ。(余談だが、柊に「大丈夫? 足りる? 札束持ってく?」と言われて入りませんと断っておいた。隙あらばお金を渡そうとするのをやめてほしい)
「ねえ、何しよっか?」
「わたしがイリヤがしたいのなら何でも」
 美遊の即答に苦笑いしつつ、クロエの提案で見ながら決めようということになった。じゃあ早速、と足を進めようとして、止まった。
 イリヤの視線の先にいるのは、半分は黒、半分は白の髪をした少女だった。彼女は一人で祭りの会場をきょろきょろと見渡していた。どこか不安そうな少女に、イリヤが駆け寄る。
「どうしたの?」
「っ……?」
「あっ、いきなりごめんね! でも、何だか不安そうだったから……何か、探しているの?」
 イリヤの後ろからクロエと美遊も駆けてきた。少女は少し悩むような素振りを見せた後、やっと聞き取れるような小声で口を開く。
「あの……ここで買える、紫陽花の飴……買いに来たんだけど、見当たらなくて」
「ああ、そういえば聞いたわね。綺麗な紫陽花の飴があるって」
「写真見せてもらったけど、確かにすごく綺麗だった。まだ見てないけれど」
「もしかしたら、もっと奥の方にあるのかも!」
「そ、そっか……ありがとう。私、探してみるね」
「あっ、待って! 良かったら、一緒に見て回りながら探そうよ!」
「えっ……」
 少女が戸惑う。イリヤはねっ、とクロエと美遊に振り返れば、クロエはいいんじゃない? と、美遊は少し不機嫌ながらも頷く。
 少女がいいの? と聞けばイリヤは満面の笑みで頷いた。少女はまた少し悩むような素振りを見せて、微笑んで頷く。
「じゃあ行こう! あっ、そうだ自己紹介してないや……!
わたし、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンって言うんだけど、イリヤって呼ばれてるんだ」
「わたしはクロエ」
「美遊・エーデルフェルト。……よろしく」
「イリヤ、クロエ、美遊……うん、よろしくね三人とも。
私の名前はね、













シルヴィーっていうの」

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.402 )
日時: 2021/06/30 22:13
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: qMXr7W56)

 イリヤたちはシルヴィーを交えて紫陽花の飴を探しながら、祭り会場を歩き出した。
「りんご飴どうだい!?」
「こっちの焼きそばも美味しいよ!」
 そんな人々の掛け声や賑わいはイリヤの心を弾ませていく。
「あっ、ねえ、輪投げしない!?」
「輪投げ……?」
 シルヴィーが首を傾げた。その様子にクロエも首を傾げる。
「知らないの?」
「……うん。こういうところに来たのも、初めて」
「えっ、そうなの!?」
「うん……」
「なら、やってみてもいいんじゃない? シルヴィーも興味あるんでしょ?」
「う、うん……分かっちゃった?」
「すごく分かりやすい」
 手本を見せる、とイリヤが店の男性にお金を渡して複数の投げ輪を受け取る。
 狙いを定め、投げ輪を投げる。……が、狙っていた手前の景品にぶつかってしまい、投げ輪はどこに入ることもなく落ちてしまった。
「そんなー!」
「惜しいねぇお嬢ちゃん!」
「うぅ〜、もう一回……!」
 もう一度投げ輪を投げた。今度は何にも邪魔されることなく、すとん、と景品に落ちた。
「やった! こうやってね、景品に通せたらその景品が貰えるんだよ!」
「そうなんだ……お菓子の詰め合わせとか、たくさんあるね」
 シルヴィーが見ているものは、全てお菓子の詰め合わせだとか、小さいキャラメルだとかだ。シルヴィーの目はキラキラと輝いていて、つい微笑ましくなる。見ればクロエや、美遊も微笑んでいる。
 全員でお金を払い、それぞれ好きな景品を狙って投げる。入りづらいものもあって取れないものもあったが、そんなの気にならない。シルヴィーが嬉しそうにお菓子の詰め合わせを抱きしめている。それを見ているとイリヤも嬉しくなった。
 じゃあ次は、と出店を回っていく。綿飴、たこ焼き、かき氷に金魚すくい、くじ引き。美味しい物も、楽しい物も堪能していく。
「あーらおじ様? こんなに貰っちゃっていいのかしらー?」
「かーっ、お嬢ちゃん上手いねえ! これじゃ商売あがったりだ!」
「ふふふっ♪」
「クロエ、すごい……!!」
「「(アーチャークラスなだけある……!)」」
 途中の射的ではクロエが次々と景品を打ち落とした。中には落としにくいはずの景品まである。そんなクロエにシルヴィーはキラキラとした目を向けている。
 そこからまた会場を回っていく。話しながら、出店を見ながら、四人で笑いながら。
「……あ」
 美遊が声をあげて足を止めた。その視線の先には、透明な雨の中に紫陽花が閉じ込められているような、美しい紫陽花の飴だった。
「もしかして、あれ?」
「うん!」
 思わず四人で駆け寄っていく。青、ピンク、紫と色とりどりで目にも楽しい飴だ。中に閉じ込められている紫陽花もまるで小さくなった本物の花のよう。
 数こそ少ないがまだ買える個数だ。
「あの、この飴を二つください」
「はいよ、何の色がいい?」
「ええっと……紫を、二つ」
「紫を二つね、ちょっと待っててね」
 店番をしていたふくよかな女性が慣れた手つきで飴を専用の容器に入れてからビニール袋へ入れている。
「シルヴィー、いいの?」
「? 何が?」
「どうせなら、青とか、ピンクも買えばいいのに」
「いいの。同じ色で。……あの子も喜ぶから」
「あの子?」
「双子の弟。今日は、来られなかったから。
あの子、同じ物が欲しいって言うと思う」
「そうなんだ……ねえ、双子の弟さんのこと、もっと聞かせて!」
「……いいよ。あのね、あの子、寂しがりやなの。だけど、とっても優しい子。とっても、とっても優しい子なの。あの子のためなら私は……何だってできる」
 ふわりと微笑むシルヴィー。その微笑みにそんなに大切で大好きな弟がいると聞けばこちらもついつられて。ふと、イリヤの『お兄ちゃん』を思い出す。
 最近、お兄ちゃんにそっくりな擬似サーヴァントがやって来たけれど、中身は違うようでどこか似ていて。でも、時々『お兄ちゃん本人』に会いたくなってしまう。
 きっと、それくらいシルヴィーも弟のことが好きなのだろうか。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「お嬢ちゃんたちはいいのかい?」
「えっ? あ、じゃあわたしは……ピンクください!」
「ならわたしは紫にしようかしら」
「じゃあ、わたしは青で」
「はいよ!」
 それぞれピンク、紫、青の飴を買う。綺麗で、食べるのが勿体ない。でも食べないといけない。せめて、帰るまでは眺めることにしよう。
 そう決めたイリヤの耳に、何か音楽が入ってくる。太鼓に笛。もしかして。
「もう、奉納の舞の時間?」
 イリヤの声に、クロエと美遊も音楽が鳴る方向へ顔を向けた。
「そんなに時間経ってたのね」
「じゃあ、行こうか」
「うん! あっ、シルヴィーも行く?」
「いいの?」
「もうここまで来たらいいも悪いもないわよ」
「うん。……一緒に行こう」
「……うん!」
 四人で奉納の舞が行われる舞台にまで歩いていく。
 多くの人が舞台を囲み、その上で二人の男女が舞い、太鼓や笛の音が耳に響く。つい、わぁ、と声をあげてしまうほどには舞も音も素晴らしかった。
「凄いねー……」
「本当、すごい……ねえ、イリヤ」
「ん?」
「……今日はありがとう。とっても楽しかった」
「! わたしも、わたしも楽しかった! また遊ぼうよ!」
「!! 本当……? 嬉しい……!」
 シルヴィーが、初めて会ってから一番可愛らしい笑顔を見せる。
 けれど少しだけその笑顔には、寂しさが見えて。どうしたの、と声を掛けようとした時だった。
「イリヤー、クロエー、美遊ー」
「あっ、柊さん!」
 柊と愛染、蛍丸が歩いてきた。蛍丸を中心に、三人は手を繋いでいる。……少しばかり、蛍丸は複雑な表情を浮かべているが。
 シルヴィーが何かをぽそりと呟いた気がした。
「お、満喫してたようで何より。この舞が終わったらほとんど終わりのようなものだから、少し回ったら帰る?」
「うん、そうだね。あっ、そうだ柊さん! あのね、この子、シルヴィーって言って……あれ?」
「? いつの間にかシルヴィーがいなくなって……」
「ええ? もうっ、何も言わずに帰っちゃうなんて……」
「新しい友達か?」
「うん、でも、また会えるかな……」
「きっと会えるよ。だってミズチさんが見てくれてるもん。ねっ、主さん」
「そうだね、きっと会えるって。その時は紹介してよ」
「うん!」

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.403 )
日時: 2021/06/30 22:21
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: qMXr7W56)

「……危なかった」
 シルヴィーは祭り会場から外れた林に来ていた。……慌ててその場を離れたから、去り際にイリヤだけにはバイバイ、と言ったが聞こえていただろうか。……。
「……イリヤ、クロエ、美遊……」
 さっきまで祭りを一緒に回った三人の名前を呟く。胸のあたりがほんのり温かくなる。けれど、まさか『統治人』が来るとは。
 統治人。『キーラ』から教えてもらったキーラの敵である、『邪神』マスターハンドとクレイジーハンドの配下。もし自分がキーラの信者と知られれば、一体どんな目に遭わされるか……温かくなった胸は一気に冷え、体をぶるりと震わせる。
 目当ての物はとうに手に入れた。もうこの場所に用はない。シルヴィーの目の前には、光り輝く穴が。シルヴィーは躊躇うことなく、その穴へ入っていった。



















 シルヴィーが目を開く。そこは、城。キーラを信仰する者たちが住まう、大きな城だ。シルヴィーは躊躇いなくその城の廊下を歩き始める。
 エディーを探すためにいろんな場所を覗いたが、どこにもいない。首を傾げながら歩いていると目の前から一人の女が歩いてきた。
「シルヴィー、お帰りなさい」
「郁江姉様、ただいまっ!」
 微笑んでくれる郁江に駆け寄れば彼女は優しく頭を撫でてくれた。シルヴィーはこうして彼女に頭を撫でられるのが好きだ。これはエディーも同じで、よく一緒に撫でられている。
「あ、ねえ郁江姉様。エディーどこにいるか知ってる?」
「エディー? 『牢』の方だと思うわ」
「牢? そっか、ありがとう、郁江姉様!
あ、これ郁江姉様にもあげるね!」
 お菓子の詰め合わせからクッキーを渡せば郁江は優しく笑ってありがとう、とまた頭を撫でてくれた。いつまでも撫でられていたいけれどそうしてもいられない。
 郁江と別れて真っ直ぐに『牢』へ向かう。城とは正反対に暗く、人の呻き声や悲鳴、怒号、鞭打つ音や何かを斬るような音が聞こえるがシルヴィーは臆さずに、一切の違和感すら持たずに入っていく。
 牢の一つの扉を開ける。
「エディー!」
「! シルヴィー、お帰り! 郁江姉様からいきなり出かけたって聞いてびっくりしたよ!」
「えへへ、ごめんね? ほら、エディーが食べたがってた飴買ってきたの。それだけじゃなくてお菓子もあるから、一緒に食べよ!」
「えっ、本当に!? やったぁ! シルヴィー大好き!」
「私も、エディー大好き!」
 お互いにそっくりな双子は笑い合う。それだけならば微笑ましい光景だっただろう。けれど。
 そこはそんな微笑ましい光景とは裏腹に、残酷だった。
 エディーの足元には粗末な布しか身に付けていない太った男。エディーはそんな男を踏みつけて、赤い液体が滴る細い剣を片手にしていた。
 それ以外にも粗末な布しか身に付けずに鎖で縛られた男女がいた。全員、エディーとシルヴィーを恨みがましい目や怯えた目で見ている。
 二人はそんな目を無視して話している。
「じゃあこんな所で食べてたら嫌だし、部屋に行こ! あ、その前に……シルヴィーも叩いておく? こいつ、喚いてて煩かったんだ」
「そうなの? うーん……今日はやめておこうかな。この後のお菓子、不味くなっちゃいそうだし……」
「そっか。じゃあ行こ!」
 エディーがシルヴィーの手を引く。扉を開けて、閉めて頑丈な鍵をかけて。
 ……アイツらは、二人を酷く扱った。殴った。蹴った。斬った。火傷を負わされ、刺されて、吊られて。命綱もなく高所で綱渡りさせられて、失敗してもしなくても暴力を振われて嘲笑わらわれて。自分たちより先にいた奴隷こどもたちも、自分たちに暴力や暴言の矛先を向けてきた。それが、二人がいた『普通にちじょう』だった。
 二人しかいなかった。お互いしかいなかった。誰も助けてなんてくれなかった。手を、差し伸べてくれなかった。それを助けてくれたのが『光の教会』。特にミラベルと郁江は自分たちを見てぎゅっと抱きしめて「もう大丈夫」と言ってくれて。『罪』を、赦してくれた。復讐を、肯定してくれた。
 そう。だから、間違ってなんかない。

──本当に?

 以前から聞こえていて、イリヤたちと出会って、大きくなったこんな声なんか、無視するべきなのだ。
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