二次創作小説(新・総合)
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.441 )
- 日時: 2021/11/11 16:39
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: bD140njr)
※今回の話は『流血表現』が多量に含まれております
※また、めちゃくちゃシリアスかつ、終わり方も胸糞悪いと思います
※暴力、暴言表現ありです
大丈夫な方でも気を付けてお読みください。
凄惨なる宴
とある、何もない土地。そこにはいくつもの馬車が止まっており、大きく円を描くように貼られたロープの真ん中と、ロープに沿って一定の間隔を開けて立てられた看板には『スカイクォーツ遊園地予定地』と書かれている。
そこにいる人々は皆、『スカイクォーツ遊園地』及びその目玉と言ってもいいサーカス、『スカイクォーツサーカス』の関係者だ。
が、どちらにも当てはまらない人物たちがそこにはいた。
まずは、憧憬の国・チルコの王子たちとその王子たちが率いるチルコ・サーカスの団員である子どもたち。モルタ、ネロ(夢100)、ウェルガー、ドローレは王族でありながら移動サーカスをしている。
次にワンダーランズ×ショータイム。天馬司、神代類、鳳えむ、草薙寧々の四人のショーグループである。普段は『フェニックスワンダーランド』という遊園地でショーをしているが、今回は違う。
最後に、元が付くものの『ノイジーサーカス』の関係者たち。マイク・モートン、マルガレータ・ツェレ、ジョーカー、モウロ。……はっきり言ってしまうと、ここが一番ギスギスしていた。マルガレータとモウロはジョーカーとマイクをちらりと見てはどうしたらいいのかと言う顔をしている。当の二人はつんと顔を背け合っている。……まあ、どちらも話しかけられたら普通に対応しているので問題はギスギスしていること以外なさそうだが。
「皆さん、この度は依頼を受けていただき、本当にありがとうございます!」
と、彼らに笑顔を向けているのはスカイクォーツサーカス現団長の女性、カロルだ。
元々スカイクォーツ遊園地及びスカイクォーツサーカスはカロルの家が代々団長、遊園地のオーナーを務めている。オーナーでこそないが、カロルは六代目の団長なのだとか。
今回、カロルから柊経由でそれぞれにサーカスに出て欲しい、という依頼を受けてチルコ・サーカスとノイジーサーカス関係者はサーカスの公演を、ワンダーランズ×ショータイムはショーの公演をすることになったのである。
ノイジーサーカスの関係者は渋っていたが、依頼料も出るし、ということで出ることになったはいいが……仲自体はそれほど良くはないし、人数も少なすぎるということからチルコ・サーカスとの共同公演をすることになっている。こちらはこちらでネロを始めとするメンバーが渋ったが、彼らが心を開く数少ない大人である女性にしてトロイメアの姫、夢野ゆきに期待される目で見られて折れたのであった。
「いえ、今回はよろしくお願い致します」
「はい、モルタ王子!」
「ねえねえっ、カロルさん! ここ、何もないけど……」
「まさか骨組みすらないとは……」
「ここからどうするのですか?」
えむ、司、類に聞かれてそれはね、とカロルは小さなビー玉のような玉を取り出した。よく見るとそこには遊園地のような絵が描かれて……いや、違う。とてもとても小さな遊園地が中に入っている。
みんな離れて、と言われて素直に離れれば、彼女はいつの間にか看板が全て取り払われ、ロープが外された土地の真ん中に向けてそれを投げた。
するとポン、と軽い音が一つしたと思えば次々ポン、ポンと音がして瞬く間に何もなかった土地に遊園地ができていく。
メリーゴーランド、ジェットコースター、コーヒーカップ……メルヘンで可愛らしいアトラクションたちが次々とそこへ生まれていく。
「わぁああっ!!」
「す、凄いわ……!」
「ふふっ、そうでしょう? これは私たちの家に伝わる魔道具なの! 初代の団長兼オーナーが改良して、こんなに大きな遊園地を小さく持ち運べるの!
これが、私たちのスカイクォーツ遊園地が移動できる理由よ!」
えむの驚きと歓喜の声、マルガレータの驚愕の声を聞いてカロルは嬉しそうに笑顔で答える。
「それは素晴らしいことですが……魔力などはどうしているのですか?」
モルタの問いにカロルはまたも嬉しそうに答える。
「これは二代目の団長兼オーナーが使っていた、人の感情を魔力に変換する魔道具を使っているの。お客さんが喜んでくれればくれるほど魔力が溜まるってわけ!」
「それは興味深い!」
「類、後で聞いてね」
今にも根掘り葉掘り、支障の無いところまで聞き出しそうな類を寧々が止める。
一通り出来上がると、従業員たちが入っていく。
「……これは何を?」
「アトラクションのメンテナンスよ。移動中はここまでの規模の土地を確保するのは難しくて、メンテナンスがどうしてもできなくてね……。
一つずつ出すことができれば、メンテナンスもできるんだけど……そこは上手くいかなかったみたい。
さて、私たちも行きましょう! サーカスに使う小屋や道具のメンテナンスをしなくちゃ。
ネロ王子たちも、持ってきた道具とか確認するでしょう?」
「……そうですね」
「えむたちも。そこでショーをしてもらう予定だけど、やりづらいと困るから、先に大丈夫か確認してもらえるかしら?
もし大丈夫でなければ、他の場所の確保もしないといけないし」
「はーい!!」
「は、はい」
カロルを先頭にサーカスの関係者、チルコ・サーカス、ワンダーランズ×ショータイム、元ノイジーサーカス関係者のメンバーが歩いていく。
ちらり、とドローレがスカイクォーツサーカスの団員たちを見る。大人に混じって何人も子どもがいた。
「チルコ・サーカスと同じで、子どもの団員もいるんだね」
類に話しかけられ、ドローレはうん、と返した。
「……でも」
「でも?」
「……怯えてるんだ、あの子たち」
「怯えてる?」
類が子どもたちを見る。確かにチルコ・サーカスの子どもたちより大人しいが、怯えているようには見えない。
とは言え、ドローレは自分よりもああいう子どもたちを見てきている。それを見えないからと「気のせいじゃないか」と否定する気にはなれない。
「それは、大人みんなにかい?」
「うん」
「……一体どうしたのかな」
「……もしかすると、ここの大人たち……」
「ドローレ!」
「!」
話しかけてきたのは三男のウェルガー。ドローレの兄にあたる、猛獣使いの少年だ。
「流石にメンテナンスの時は命綱付けろよ? 周りが驚くからな」
「ええ? 僕はいいのに……ゾクゾクするじゃない」
「あのなぁ……」
「……うん、流石に命綱は付けて欲しいかな。僕としても、心臓に悪いからね」
「仕方ないなぁ……本番では付けないからね?」
「それでいいよ」
「あ、その代わり少し僕の機械のテストに協力してもらえないかな?」
「する! するよ、キミの機械、興味あるんだ!」
多分、痛みを感じそうだからだろうな。そう思ったが何も言わない。
「……あいつらには余計なこと言わなくていい。怯えさせなくていい。様子を見ねえと。
アニキたちも気付いてる」
「だよねぇ。……あの子たちは守らないとね」
そう小声で話し合うドローレとウェルガーに、類は気付かなかった。
けれど、ドローレとウェルガーも気付かなかった。
「…………」
「……あそこだね」
こちらを見ている少年少女がいたなんて。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.442 )
- 日時: 2021/11/11 16:44
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: bD140njr)
メンテナンスは、丸一日かかった。サーカス小屋のメンテナンスはさほど掛からなかったものの、アトラクションのメンテナンスは時間がかかる。明日もメンテナンスをして、明後日に一ヶ月間の開園が始まる。今回呼ばれたメンバーは初日だけになるが、それでどこまで話題を伸ばせるだろうか。
ウェルガーは連れてきたり、元々ここで調教されている猛獣たちを見に行った。少し、気になることがあったから。
「うげっ……」
「あら?」
……軽く後悔した。そこにいたのはマルガレータ。ウェルガーたちが本来敵視している『大人』である。
しかしここで踵を返すのも、と渋々歩み寄り、目を丸くした。ウェルガーたちが連れてきた猛獣たちも、ここにいた猛獣たちも皆、マルガレータに懐いているようだったから。
「お前、何でここに?」
「……一応、動物たちの調教係だったから。何だか懐かしくなっちゃって」
「ふーん」
「あなたたちが連れてきた子たちは、素敵ね。毛並みも綺麗で、体付きもしっかりしている。それ以上に、あなたが来たらすぐに気付いてたのよ。あなたを信頼して好いている、何よりの証拠だわ」
「……そうかよ」
「でも……」
そこで言葉を切ったマルガレータは、眉を八の字にして、ここにいた猛獣たちを見た。
「ここにいた子たちは、よく見ると毛並みがひどいの。隠れたところに、怪我もしてるみたい」
「!!」
またもや驚かされる。ウェルガーの気になったこととは、まさにそれなのだ。
興味がない人間なら全く気付かないが、毛並みは酷く、よく観察すればどの猛獣もどこかを庇うような動きをしている。
だから、ウェルガーは少しでも手当てしてやりたくて来たのだ。……元々調教係であったという言葉は嘘ではないようだ。
「なら、手当てしてやればいいだろ。なんでしないんだよ?」
「私もしたいんだけど……見て」
マルガレータの指した場所を見て、は、と声が溢れた。扉には解散した時にはなかったはずの鎖が、何重にも巻かれており鍵も複数付けられている。それも、元々ここにいた猛獣たちの檻にだけだ。
「これじゃあ、手当てしたくてもできないわ。鍵を借りようにも……ここまでしているんですもの、貸してくれるはずがない」
それどころか、何か危害を加えられる可能性だってある。言われなくても分かったそれに思わずくそ、と毒づいた。
「部位的にも檻に近づいてもらうだけじゃ難しい部分もある。……明日、解放されている時に、隙を見てやるしかないわ」
「……」
「……あなた、本当に動物たちが大好きなのね」
「はあ!? いきなり何だよっ!」
「だって、凄く悔しそうな顔をしてる。気持ちは分かるわ。だからこそ、本当に大好きなんだって」
「……うっせえよ」
「ふふ、ごめんなさい。……私、そろそろ戻るわね。それじゃあ」
軽く手を振りながら去っていくマルガレータ。それを見ながら、せめて何かできないかとウェルガーはしばらくその場を離れなかった。
一体何だというのか。モルタは弟たちと共に、サーカス小屋へ呼ばれていた。朝ならともかく、深夜に。三番目の弟、ウェルガーと末の弟、ドローレは眠いのか目を擦っている。
呼び出したのが団長のカロルならともかく、カロルの兄で現オーナーのパスカルなのだ。……カロルはまだ、本当に人々に笑顔を届けたいと言う願いを持っていることが分かったから、多少は信用できるがパスカルは違う。
目を見ても、汚い欲望しか読み取れなかったからだ。それにスカイクォーツサーカスの子どもたちはパスカルを一番怖がっていた。それでどうして彼が信用できようか。
サーカス小屋が目に入る。
「おや……?」
「電気が点いてる……?」
出入り口の看板が光っている。しかし事前に説明を受けていたのだが、本来なら白でライトアップされているそれは何故か赤でライトアップされている。
その上、中から控えめではあるもののざわめきが聞こえてきていた。
「一体……?」
「お待ちしておりました、チルコの王子様方」
声がした方に振り向くと、嫌な笑みを浮かべたパスカルが。それに内心反吐を吐きそうになりながらも何故呼び出したのかを聞く。
「パスカルさん、何か御用でしょうか?」
「ええ、あなた方に喜ばれる催しを開こうと思い、御招待を」
「喜ばれる催し?」
「……何故、深夜に? それにこの小屋」
「まあまあ。入れば分かりますよ。先にノイジーサーカス関係者の皆様もご案内しております」
ネロの言葉に答えをはぐらかしながら小屋へ案内する。
未だ薄暗いそこには、客席を埋め尽くすほどに大人たちが座っていた。……誰も彼も、仮面を付けている。基本的には目元を覆うベネチアンマスクだ。ある意味、悪夢の光景と言える。
案内された席にはすでにマイクたちがおり、彼らにもベネチアンマスクが渡されていた。ジョーカーだけは違っていたが。
すると、ステージにスポットライトが当たる。そこにいたのは、何人かの成人した団員と……遠目から見ても分かるほどに怯えた、子どもたちだった。
「は……?」
「お待たせいたしました、紳士淑女の皆様!
本日はスカイクォーツサーカス、深夜の夢にお越しいただきありがとうございます!!」
「深夜の、夢?」
マルガレータが動揺しきった声を溢す。
「どうか、残虐な夢をお愉しみくださいませ!!」
司会をしていた男がピシャリと鞭を打ち付けると子どもたちは大きく震えた。出てきたのは、火が灯された輪だ。
それを見て、モウロがヒッ、と短い悲鳴をあげて震え出す。
「モウロっ」
「い、イヤ、ヒノワ、イヤ……!!」
「さあ、まずは『人間火の輪くぐり』です!!」
またピシャリと鞭が打たれ、何人かの子どもたちが無理やり火の輪の前に立たされる。悲鳴が響き、それを大人たちが嘲笑う。
火の輪をくぐれても、服に火が付いて熱がる子どもたちをまた嘲笑う。命綱のない空中ブランコに、綱渡り。猛獣たちに子どもたちを追わせる。当然、それらに失敗した子どもたちは……。
それでも大人たちはそれを嘲笑っていた。
こんなの、サーカスなどではない。ただの拷問だ。
「これ、は」
「どうです! あなた方も子どもを連れていると言うことは、これが好きでしょう? どうかお愉しみを」
「ふざけるなっ!!」
ネロが立ち上がって感情のままパスカルの胸ぐらを掴んだ。普段ならモルタが止めるだろうが、今回は止める必要などない。
「な、何をっ」
「これがサーカス? ふざけるのも大概にしろ!!
お前らなんかと僕らを同じにするな!! 反吐が出る!!」
「なっ」
「このことは、然るべき機関に報告させていただきます」
「!? や、やめてくれ、何故!!」
「うっせえよ!! 何故も何もない!!」
「……僕、命綱なしで綱渡りやるのは好きだけど、やらされてるのを嘲笑う趣味はないんだよねぇ」
「こんなの酷すぎるわ!! すぐにやめさせないと!!」
「あー、同意したくないけど今回ばっかりは……。ジョーカー、お前がメインで止めてよね」
「指図すんな、と言いたいが……まあ、この中じゃ俺が適任か。モウロは、ここにいろ」
ガタガタ震えるモウロにそう言って、全員がステージに降り立っていく。その時だ。
ライトが消える。
それに誰もがざわついた。一体何が起こっているのか。
しかしそれも束の間。すぐにパッ、とスポットライトがステージの中央を照らした。
そこにいたのは、恭しくお辞儀をした、白と黒の髪をした少年少女だ。二人は髪と同じ色を基調とした服を着ている。それはピエロを思わせるような服で、少年はショートパンツ、少女はふんわりとしたスカートで、お互い左右対称になるように顔が半分隠れる、黒に金色のハーフマスクをしていた。
「ようこそ、汚い大人たち」
「この度は、私たちのサーカスにご来場ありがとうございます」
「僕は『エディー』」
「私は『シルヴィー』」
「「どうか、最期の時を噛み締めて」」
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.443 )
- 日時: 2021/11/11 16:49
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: 6C3OJFg3)
「な、なんだお前らっ」
団員が少年……エディーの肩を掴もうとした。けれど。
「うっさいなぁ」
何でもないように、エディーは剣でその手を刺した。
「ぎ、ぁああああああ!?」
「ここからは僕らのサーカス」
「汚い汚い大人たちに、復讐するためのサーカス」
シルヴィーはそう言って、近くにいた女の子に大丈夫? と声をかけて起き上がらせる。
「あ、ありがとう……お姉ちゃん……」
「いいんだよ。さ、巻き込まれないように後ろにいてね?」
「僕らは、可哀想な子どもの味方だもの!!」
「な、何なんだこのクソガキ!!」
「うっさい、って言ったよね?」
エディーが剣を手から抜き、そのまま団員を斬りつける。団員がドサ、と倒れた瞬間。大人たちは悲鳴を上げ始めた。
そのまま逃げるために我先にと出入り口に殺到するが……。
「さあみんな」
「やっちゃって!」
出入り口からも悲鳴と、ブシャ、グシャ、と音がし始めた。そちらを見れば、顔色が悪い子どもたちがふらふらとナイフを持って立っている。
「ひ、ひぃいっ!!」
「こ、この、どけぇ!!」
一人の男がナイフを奪って子どもの心臓を刺そうとした。けれど、子どもは子どもとは思えぬ力でそれを受け止め、捻り上げ後に押し倒し、ナイフを奪い返して……。
「ひ、ぎゃぁあああああああ!!」
「ど、どうなっているんだ!?」
「ま、待て、この子どもたち……!!」
「あははははっ、気付いた?」
「そう。ここであなたたちに弄ばれて死んでいった子どもたちだよ。
ふふ、良かったね。子どもたちもあなたたちと会えて喜んでる。
……復讐できるって、喜んでるよ!!」
一瞬にして、立場が逆転する。大人たちは悲鳴を上げ、エディーとシルヴィーは嘲笑いながらそれを見ていた。
と、シルヴィーの後ろから一人の団員が近づく。その手には、鉄パイプ。
「っの、クソガキィイイッ!!」
「! 危な……!!」
「分からないとでも思ったの?」
とん、と軽くシルヴィーが飛び、彼女は鞭を使って異常なまでの器用さで団員の首と、近くの台の柱を結ぶとそのまま別の台に乗って首を絞め始める。
「が、はっ……!!」
「汚い大人の、首吊りだよ〜」
「あははははっ!! シルヴィーさすがだね!!」
「ねえエディー、この大人を使って投げナイフしたらどうかな?」
「なるほど、いいアイディア!!」
「っひ、た、すけ、だずげでっ……!」
「嫌だよ。どうせあなたたちは子どもたちが言っても聞き入れなかったんでしょ? どうして自分たちは聞き入れられると思ってるわけ?
さ、エディー!」
「はーい!!」
この場に合わないような明るさで笑いながら、エディーはナイフを構える。団員は微かに悲鳴を上げながら暴れるが無意味だ。
「そーれっ!!」
エディーの手からナイフが放たれる。そのナイフは団員に向かって飛んでいく。
「こっち無視しないでくれるかな!!」
ナイフは、飛んできたジャグリングに使われるクラブによって落とされた。驚きで目を見開いている間にジョーカーが愛用のロケットでダッシュを始め、台の柱を折り曲げた。ぐらりと揺れた台からシルヴィーが飛んで降りる。
その際に解放された団員は少し咳き込んだものの、すぐに逃げ出した。
そうして、やっと二人はマイクたちを見た。
「なんだよ、邪魔しないで!!」
「邪魔するに決まってるでしょー!? いきなりこんなこと始めて、僕らは無視だし!!」
「……こんなの楽しむ大人たちを、どうして私たちが認識しなくちゃいけないの?」
「勝手にあいつらと一緒にすんなよ!!」
「はあ? 一緒じゃないとでも思ってんの?」
ウェルガーの反論に、二人は心底汚いものでも見るように彼らを見た。
「同類に見られてないなら、ここに招待されるはずないじゃない」
「っそれは」
「お前たちも、子どもたちを虐げる奴らに見られてたってことだよ」
それに、少なからずモルタとネロが動揺を見せる。もちろん、彼らは子どもたちを虐げてなどいない。けれど、そう見られていたと言うこと自体が二人を動揺させた。
ドローレとウェルガーは反論していたが、ノイジーサーカス関係者も黙り込んでしまう。……ちらりとモウロがいる方向を見た。……反論が、彼らにもできないのだ。
「大人はみんな汚い」
「それに媚びたり味方する子どもも、汚い」
「僕らは、そいつらに虐げられ続けたんだ」
「だから、私たちは復讐するの」
「あの子たちもそうだ」
「虐げられて、恨んだから。私たちと共に復讐するの」
「大人も、それに味方する子どももみんないなくなればいい」
「私たちに必要なのは、姉様たちだけ。そして」
「「キーラ様だけ!!」」
「!!」
キーラ。その名前に全員が構える。
けれどエディーはナイフをいくつも取り出して……裏にいた子どもたちの前に落とした。
「え……?」
「君たちも、復讐したい?」
「何を言って」
「するなら、それあげる」
それに子どもたちはざわめいた。止めようとモルタが走り出そうとしたが、それを猛獣が止めた。
「なっ! お前たち!!」
「お願い、通して!!」
ウェルガーとマルガレータが猛獣たちに訴えるが、唸り声を上げている。ここにウェルガーが連れてきた猛獣たちはいないが……それでも二人は少しばかりショックを受けていた。
「どうする? 別に君たちは僕らの復讐対象じゃないし、このまま黙って見てるだけでも構わないよ。
でもね。ここで逃したらもう復讐のチャンスはない。なくなるよ。だってここで、僕らが皆殺しにするから。
……酷く虐げられたでしょ? 仲のいい子を殺されたでしょ?」
さあ、どうする?
その一言に、一人、また一人とナイフを取る。その目には恨みや憎しみが宿っていて。
「……さあ、行こうか」
子どもたちが駆ける。近場の団員、混乱する大人たち。それら全てが子どもたちにとって復讐対象だ。
「や、め、やめなさい!! こんなことをしても、あなたたちは!!」
「うるさいんだよ!! 助けてくれなかったくせに!!」
「私たちを守ってくれなかった大人が、口を出さないで!!」
「っ!!」
子どもたちからの憎しみの目に、モルタは口を閉ざしてしまう。
「お前ら、いい加減にしろよ!!」
「そうだよ、モルタ兄さんたちは君たちを助けようとしていたんだ!」
「助けようとしていただけだろ!! 実際何もしてくれてない!! なんでそんなやつの言うこと聞かなきゃいけないの!!」
「そうだよ!!」
「助けてくれたのは、あの子たちじゃないか!!」
止まらない。凶行は、暴走は止まらない。ジョーカーとマイクも止めようとするが人数が多すぎる。
染まる、染まる、染まる。赤に、赤に、紅に。
「やめ、」
「どうしたの!?」
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.444 )
- 日時: 2021/11/11 16:55
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: 6C3OJFg3)
声のした方を振り向く。関係者口にワンダーランズ×ショータイム、チルコ・サーカスの子どもたち、そして……カロル。
中の凄惨な様子を最初に見た司と類がすぐに入ってこようとする子どもたちやえむ、寧々を止める。カロルは呆然としていた。
「な、何、が」
「……そっか。あなたは、何も知らなかったんだね。このサーカスの、本当の姿を」
今まで大人に対して嫌悪の目を向けていたシルヴィーは、カロルに悲しそうな目を向けていた。
「本当、の……?」
「このスカイクォーツサーカスは、深夜に子どもたちを虐げるサーカスをしていたんだよ」
「え……?」
「それも、何代も続いて」
「っ!? ど、ういう」
「あなたは、まだ知らされてなかったのかな。それとも、意図的に隠されてたのかな」
ちら、とシルヴィーはエディーを見た。エディーはパスカルに剣を突きつけている。
「っひ、」
「話せ」
「っ、あ、か、カロル、は、カロルには、知らせない、と、父さんたちと、決めて!!」
「何で?」
「カロル、は、純粋だったから! だから、せめてカロルにはっ!!」
「ふーん。少しは人の心があったんだねぇ。
……気持ち悪」
エディーはそう吐き捨ててパスカルを押せば、彼は勢いよく床に叩きつけられた。
しかし、それを心配する余裕などカロルにはない。
「う、そ。そんな、そんな……」
「見た目は綺麗にされてたから、気付かなかったんだね。まあ、そんなので団長名乗ってるのもお笑い草ってやつだけど」
そう嫌みたらしく吐き出すシルヴィーだが、その顔は正反対で。絶望するカロルを、悲しそうに見下ろしていた。
呆然とするカロルに、子どもが近づく。その手にはナイフがあって。
「あんたも、死ねよ!!」
「!! だめ!!」
シルヴィーが咄嗟に止めた。子どもは驚きながらシルヴィーを見た。
「なんで」
「この人には、何もされてないんでしょう?」
「そ、れは」
「むしろ、この人は良くしてくれた。違う?」
「……」
「復讐してもいい。だけど、優しくしてくれた人まで殺さないで。そんなことしたら、それこそあいつらと同じになっちゃうから」
「……うん」
納得してナイフを下ろした子どもにシルヴィーはホッと息を吐く。
悲鳴がだんだんと、小さくなってきている。倒れた人数の方が多くなってきたせいだ。
……それほど、子どもたちは罪を背負ったことになってしまう。
「……そろそろかな」
「だね。これで、お終いだ」
「うん。じゃあ戻ろうか」
そう言ってエディーとシルヴィーは子どもたちを集める。そして、数少ない生き残った大人たちを捕縛して何かを取り出す。
そのまま去るのかと思いきやくるりと司たちの……いや、その後ろにいる、チルコ・サーカスの子どもたちを見た。
「ねえ、あなたたちも来ない?」
「そんな奴らより、優しい大人たちがいるところに一緒に行こうよ!」
エディーとシルヴィーはにっこり笑って手を差し出す。二人のそばに居る子どもたちもそうだよ、一緒に行こう、と声をかけていた。
「そんな大人よりも、僕らと行こうよ!」
一人の子どもの言葉に、チルコ・サーカスの子どもたちが司たちの前に出てしまう。凄惨な様子に怯えていたが、それよりも怒りが強いのか、全員が彼らを鋭い目で見ていた。
「ふざけないでよ!!」
「モルタ王子たちは優しいんだぞ!!」
「!!」
「私たちを助けてくれたの!!」
「ネロ王子たちを悪く言うなら許さないから!!」
「みんな……」
「ウェルガー王子も、ドローレ王子も、みんな優しいもん!!」
「モルタ王子たちを馬鹿にする奴らのところなんかに誰が行くもんか!!」
チルコ・サーカスの子どもたちの言葉に、優しかったエディーの笑みは消え、シルヴィーはどこか辛そうに顔を歪めた。
そしてエディーがあっそ、と興味をなくしたように呟いた。
「行こ、あんな奴ら助けてやる義理なんかないよ」
「助けられる理由もないね!!」
「あーうっざ。……時間さえあればあいつらも殺してやるのに」
「エディー」
「分かってるよ、シルヴィー。じゃあね、汚い大人たちに、それに味方する汚い子どもたち」
「私たちの復讐はまだ終わらない。キーラ様の元で、まだまだ続けていく」
「「いずれ、お前/あなたたちにだって復讐する」」
そう言った瞬間、彼らから目を開けていられないほどの光が溢れる。目を瞑り、光が収まった頃には彼らはもういなかった。
出入り口を塞いでいた子どもたちも。
「みんな……」
「ねえモルタ王子、僕たち、みんな王子たちのこと大好きだよ!」
「!」
「モルタ王子たちは、私たちのこと好き?」
「……っもちろん、もちろんです。大切ですよ……」
「モルタ王子?」
「泣いてるの?」
「泣かないで」
「ネロ王子も泣かないで」
「ネロ王子」
モルタやネロが涙をこぼす。それに子どもたちは泣かないで、と声をかけていた。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.445 )
- 日時: 2021/11/11 17:02
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: HWQyDP4e)
とある男の視点の話。
あんなことがあったスカイクォーツサーカス及び遊園地は『残酷! 血濡れサーカス』という見出しの新聞などにより廃業に追いやられた。それ以前に、一気に減った団員と大きなショックを受けたカロルでは以前のような公演は続けられない。廃業は必然だったと言える。
カロルのショックは非常に大きく、あの深夜の夢に関わっていた兄と両親の顔すら見たくないと半狂乱になって拒否するほどだった。逮捕によって会わなくなるが、カロルは家を引越して引き篭り続けていると言う。
当然だ。遠目で見ていただけだが、あの女は歳の割に純粋すぎた。まあ、だからこそ子どもたちが受けていたもはや拷問とも言える虐待に気付かなかったのだろう。
子どもたちに時折お菓子を振る舞っていたらしいその純粋さが、彼女の命を救ったものの心までは救わなかった。しかも仕事一筋だったせいで恋人もいない彼女は、果たして立ち直れるのか。
……もはやどうだっていいのだが。
そもそも、あのサーカスに手を貸してやること自体、俺は乗り気ではなかった。いや、それ以前にサーカスに関わることすらしたくなかった。俺の脱走に手を貸した『あいつ』が頼んでくるから仕方なく行ったまで。図々しい奴め、とは思ったが。
あんなことに巻き込まれるなら最初から行かない方が良かったと後悔しながらあの二人を思い出す。
エディーとシルヴィー。復讐という名目で惨殺を繰り広げていた二人。虐げられていたと聞いて俺は、あの二人には「可哀想だ」と思ってしまった。
閉じ込められ、虐げられて。やりたくないことを無理やりやらされ続けた。俺と、相棒とそっくりな二人だった。
多分、あの二人はお互いしかいなかったんだろう。俺と相棒のように。
だからと言って、何ができるわけでもないけれど。何を思うわけでもないけれど。
何せ、今は自分を守るのに手一杯なのだ。
片言で、純朴で、それでいて可哀想な被害者。そうやって演じてやれば、『あいつ』以外は俺のことをそう認識して、あまり怖がらせないようにと必要以上に近づいては来ない(一部例外はいるが)。
そうやって、自分を守るのに手一杯だ。まああのウェルガーという王子を始め、四人と刀剣男士とかは気付いていそうな気もするが。
「(それでも)」
この仮面を取るわけにはいかない。馬鹿らしいと思いながらも、己を守るこの仮面を、俺は取れないのだ。
「おーいっ」
「!!」
手を振るマイク。その横には、『仲間』がいる。
……信頼できるわけでもないのに、今日も俺はあいつらと過ごすのだ。
「ウン、モウロ、ムカウ!」
『野人』の、モウロとして。
ある場所。シルヴィーとエディーはある魔法陣を前に立つ郁江を見ていた。
美しい声で詠唱を続ける郁江。その側にはミラベルとガッド、ケイラが控えている。
魔法陣はゆっくりと光を放つ。この魔法陣は、あのサーカスに殺された子どもたちを『蘇らせた』魔法陣だ。
詠唱が終わりに近づけば近づくほど、光は増していく。
「さあ、おいでなさい。我々と共に、復讐をしましょう」
郁江がそう紡ぐ。光が、目を開けていられないほど溢れた。目を閉じて、光が収まった頃に目を開けば、魔法陣の中心には一人の女がいた。
藍色のショートヘアに、全身を黒い甲冑で包んでいる。スラリとした体型で、一見男と見間違えそうな女は剣を携えている。
「ようこそ、キーラ様の元へ。さあ、貴方のことを聞かせて? そして、私たちと共に……」
郁江が歩み寄りながらそう言いかけた時、女は突然叫んで郁江を押しのけた。
「きゃっ!」
「郁江!!」
「郁江様!!」
「くそ、捕らえろ!!」
ガッドの言葉に、外で待機していた信者たちが女を捕まえようとする。けれど女は剣を抜き、信者たちを斬りつけた。
「! まずいよ!」
「みんな、逃げて!!」
シルヴィーの言葉に信者たちは逃げこそしなかったが女に道を開けてしまう。
女に追いつけるものはなく、女は外へと逃げ出してしまった。
「何の騒ぎですか」
「!!」
その声に誰もが膝をつき、頭を下げた。コツ、コツと入ってきたのは白い髪を膝まで伸ばした、神秘的な青年だった。
青年の周りにはまるで羽衣のようにくるりくるりと回る白い何かがあった。
「キーラ様、こちらにいらっしゃっていたのですね」
「その上、人の身で……」
キーラ、と呼ばれた青年はくすりと笑った。その美しすぎる笑みは信者たちにほう、と蕩けた息を吐き出さる。
「私を慕ってくださる者たちとの交流は大切ですからね。時に……先程の女性は……」
「申し訳ございません、キーラ様。貴方様に授かった魔法で呼び戻したのですが」
「なるほど。混乱していたのでしょう。ですが気にすることはありませんよ。いずれ戻るでしょう。
戻らずとも、彼女が復讐を果たせるならば、私はそれで構いません」
「キーラ様……御慈悲を、ありがとうございます」
郁江が再度頭を下げれば信者たちは口々にキーラを讃え始める。
それを、キーラはふわりと微笑みながら受け止めていた。
……唯一、ガッドとケイラだけは、口を閉ざしていたが。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.446 )
- 日時: 2021/11/11 17:08
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: 6C3OJFg3)
なんだここは。何故私はここにいる。
手を見る。足を見る。確かにここに、肉体も魂もある。
何故。私は確かに殺されたはず。なのに……。
しかし考えなど纏まらない。この胸中、そして脳内には復讐の炎が燃え上がっているのだから。
──神様!!
──どうか、どうかお助けください!!
──どうして……? どうして、助けてくださらないのですか……!?
少女の声が響く。それと同時に、下卑た民衆の笑い声が響く。
あまりの痛みに膝をついた。
「ぐ、ぅ……!!」
けれど。
憎い。憎い憎い憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!
──助けて
──助けてぇっ……!
「あああっ……!!」
幻覚と分かりながらも手を伸ばさずにはいられず。けれどその手は少女を救えることはなく。
憎しみが身を焦がしていく。
「許さぬ……許してなるものか……!!」
ぽつり。ぽつり。空から雨が降り始めた。己の怒りに呼応するように、雷鳴が轟く。
「神よ!! 貴様が彼女に神託など与えたせいで、彼女は死んだのだ!!
何故救わなかった、何故見捨てた!! 彼女は貴様の神託を信じていたのに!! 貴様を信じていたと言うのに!!
いずれ貴様も切り裂いてくれる!!」
神などいない、そう思いながらも、怒りは全てに向いていく。
「ああ、その前に奴らにも……彼女を、見捨て、裏切った者全てに復讐を!!
ああ、ああ、見ていてください!! 我が聖女よ!!
ジャンヌよ!!」
──助けてぇえっ……!!
「我が名に誓おう、ジャンヌを裏切った祖国に、ジャンヌを殺した者どもに復讐すると!!
我が名は、ジル!!
『ジル・ド・レェ』!!」
──ジルっ……!!
その日から、捕まらない通り魔が発生し始めた。
通り魔は、とある国の人間たちを中心にその命を奪っているという……。
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