二次創作小説(新・総合)

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.458 )
日時: 2022/02/03 17:52
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: VhCiudjX)

※今回の投稿に伴い、『雪の別離わかれ』にて小説内の日時等を変更しました。

新たな邂逅
 とある森の中。そこで何人かの男たちは複数体の巨大な竜──ワイバーンに襲われていた。
 一人の灰色の髪に、一部紫色のメッシュが入った男が銃──ワイバーンがいる世界には不釣り合いの現代的な形をしていた──を構え、撃つ。だがワイバーンは少し怯むだけですぐに追ってくる。
「くそ! なんなんだ一体!」
「あんなにデカくて丈夫なんて、ちょーっと無理かもしれないな!」
「ちょっとじゃなくて無理かもしれない!!」
「羽を撃つにしても、あれじゃ何発も撃ち込まねえと……!!」
「オリヴァー候補生、篠雨しのあめ候補生、まだ走れるか!?」
「僕はまだ走れます、ラウレンツさんは!?」
「無論!!」
「お、俺はもう無理だってぇ〜!!」
「弱音を吐くな篠雨候補生!! 死ぬぞ!!」
「俺たちも、容赦なく置いていくからな!」
「くっそがぁっ!!」
 ほぼ叫ぶような声を上げながら黒髪の青年は少しだけスピードを上げるも、それはすぐに落ちてしまう。
 一体どうしてこんなことに、そう思いながらもフィルクレヴァート士官学校の士官候補生の一人、オリヴァー・ウェッジウッドは走る足を止めることはなかった。
 ここに来る前は確か、士官学校の近くにある森でサバイバルの訓練をしていたのだ。クラスメイトのラウレンツ・バルシュミーデ、篠雨玖龍しのあめくりゅう、そして自分が目覚めさせた貴銃士の四人──マークス、ライク・ツー、ジョージ、十手と共に。
 玖龍はぐちぐちと文句を言っていたし、マークスとライク・ツーは噛み合わなかったが、概ね順調に夜を迎えるための準備ができていたと思う。夕食の準備をしていた頃だったか、突然彼らを謎の霧が覆ったのである。
 咄嗟に布で口と鼻を覆うも、ジョージや玖龍が倒れてしまい、それに動揺してしまった自分も霧を吸い込み、昏倒してしまった。多分、その後にマークスが動揺し、結果的に全員が昏倒してしまったのだと思う。
 気が付いた時には、全員でまた森に倒れていたのである。ただ、様子が全く違っていたから移動させられたと言うことだけは全員理解していた。
 一体どこの森なのか、そもそも誘拐や拉致ならば何故森の中に放置したのか、分からないことだらけでとにかく安全を確保しようと歩き出した時に、今自分たちを追いかけ回すワイバーン、その一匹と出会ってしまったのだ。
 逃げながらも隙を見て攻撃を仕掛け、ワイバーンが弱ったところでライク・ツーとマークスの『絶対非道』によって倒せたのだが……ある意味、それがまずかったのかもしれない。
 ワイバーンの断末魔によって、近くにいたらしい他のワイバーンが集まってきてしまったのである。
 この数では、例えジョージがいても『絶対高貴』での回復は間に合わない。そう判断して逃げているのだが相手は木々を物ともせず薙ぎ倒しながらこちらへ向かってきている。多少の知恵もあるのか、時折先回りもして来ようとするのだ。(ライク・ツーが気付き、実際に先回りされることはなかった)
 十手が作っている特製の煙玉でたまに距離を離すことはできるが、その距離もあっという間に縮められてしまう。今や少しの油断も許さない状況だ。
「っあ」
 そんな声がして、何かが倒れる音がした。確認するまでもなく、玖龍が転んだ音だと分かった。
「篠雨さん!」
「篠雨君!」
 オリヴァーと十手が彼に駆け寄る。バカ、とライク・ツーの慌てた声とほぼ同時に大きな影が三人を覆う。
 見上げれば一匹のワイバーンが、大きな口を開けて三人を飲み込もうとしている。十手が、その名の通りの奇銃で口内を撃つも大したダメージではないらしい。ほとんど怯むことなく、近づいてくる。
 もう、ダメだ。玖龍の小さいはずの声が嫌に耳に届いた。
 瞬間。光り輝く何かがワイバーンの横から飛んできて、顔を直撃。ワイバーンは吹っ飛ばされて動かなくなった。
「へ……?」
「無事か」
 見れば、白と黒……よりかは灰色に近いだろうか。そんな髪色をした眼鏡をかけた男が声をかけてきた。彼は手に光る剣のようなものを携えている。
 オリヴァーが何とか頷けば彼はそうか、とワイバーンに向き合う。
「ここからは、当方が相手しよう。かかってくるがいい」
「え、で、ですが!!」
 先程はおそらく、奇襲であったからこそ成功したはず。ならば次は通用しない。いや、それ以前に彼は剣で、真正面から立ち向かうつもりだ。貴銃士たちですら苦戦を強いられる相手に、ただの人が剣で立ち向かうなど無謀。
 そう思っているオリヴァーたちの前に複数の人間たちが現れた。
「大丈夫ですか!?」
 駆け寄ってきたのは、黒い服に身を包んだ黒髪に青い瞳の青年だった。その後ろからは同じく剣を持った白く長い髪を持ち、何故か角と羽が生えた男と、黒く大きな盾を持った薄いピンクの髪の少女が来ている。
 青年たちはワイバーンを見据えると、青年がオリヴァーたちを守るように立ち上がり、戦闘開始、と声をかけた。
「ま、待ってくださ……」
「マスター!!」
 振り向く。すでに駆け寄ってきていたマークスがすぐにオリヴァーを後ろに庇うように立ち、その銃をまずはワイバーンに向けた。
 ジョージ、ライク・ツーも駆け寄ってきて、念のためかラウレンツは少し離れた場所にいる。彼の手には護身用のハンドガンがあった。
「マークス、ジョージ、ライク・ツー、十手、彼らの援護を!」
「だがマスター!」
「大丈夫。みんなを信じてください」
 そう穏やかに言う青年。そんな青年にワイバーンが襲い掛かるが、盾の少女によりそれは防がれるどころか、弾き、高く飛び、盾を使った落下攻撃で一撃で倒されてしまった。
「『ジークフリート』、宝具を!」
「承知した。……行くぞ!」
 今、彼はなんと。問う前に白い髪の男が剣を構えた。
「黄金の夢から醒め、揺籃から解き放たれよ。邪竜、滅ぶべし!『幻想大剣バル天魔失墜ムンク』!!」
 彼が剣を振るう。そうしただけで強力な衝撃波が、ワイバーンたちを襲い一匹を残して全て倒れてしまった。
「『シグルド』、次に宝具を!」
「委細承知。宝具起動」
 ブゥン、と音がして、彼の前に何かが浮かぶ。
「絶技用意。太陽の魔剣よ、その身で破壊を巻き起こせ! 破滅の黎明、『壊却ベルヴェルク・天輪グラム』!!」
 彼はそれを拳で飛ばし、最後に一番大きな光を拳で飛ばした。
 小さな光が縦横無尽に駆け巡り、ワイバーンを斬り刻むと思えば、大きな光がワイバーンに刺さる瞬間、いつの間にか移動していた彼がそれを叩き込んだ。
 ワイバーンの断末魔が響く。呆然としていると何かの確認が終わったらしい青年が振り向く。
「もうワイバーンはこの周辺にはいないみたいです。安心していいですよ」
「あ、ありがとうございます! 感謝致しますっ!」
 敬礼し、礼を言うといえいえ、と返される。穏やかな青年だ。
「それにしてもその格好……この周辺の人じゃないですよね?」
「ですね、マスター」
「マスター? ……そいつらも、貴銃士なのか?」
 マークスの言葉でつい三人を見てしまう。貴銃士ではないだろうけれど、マスターと呼ばれるなら、とつい見てしまったのだ。
 しかし、一人が貴銃士? と声を上げた。
「……あれ? ブラウンさん?」
「ん? 俺か?」
「あ、ほ、本当だ!? 言われるまで気付かなかった……どうしてここに? 柊さんの所にいたはずじゃ……」
「? 俺はヒイラギって奴は知らないぞ? それに、銃はブラウン・ベスでもあるけど、俺はジョージって言うんだ! よろしくな☆」
「え、じょ、ジョージさん、ですか……?」
「で、でもブラウンさん……あれ?」
「マスター、一度彼を彼女に会わせる方がいいかもしれない。……とは言え、カルデアに彼らを連れて行っていいものか分からない」
「ジークフリート殿に同意だ。まずはカルデアに通信を取り、許可を得なければ」
「そうだね。じゃあ早速」
「あ、あの! いいですか!?」
「はいっ!?」
 いきなり大声を出してしまったものだから四人は驚いている。すみませんと一言謝ってからずっと気になっていたことを質問した。
「じ、ジークフリートって、あの……」
「……シグルド、というのも、確か北欧の……」
「あ、そ、そっか、そうだよね……どう説明したものか」
「た、確かに……せ、先輩は、まずカルデアに連絡をお願いします。私は差し障りない程度で説明できるように、頑張ります!」
「う、うん、お願い」
 黒髪の青年が何やら連絡を取っている間に黒い盾の少女が何とか説明しようとしてくれる。しかし、色々と情報が伏せられているせいかイマイチ要領を得ない。
「う、うぅ、ええと……」
「……別に、今全部説明しなくてもいいんじゃねえの?」
「え? そ、そうでしょうか……?」
「つか、今全部は説明できねえんだろ?」
「うぐ」
「ならいい。それよりもここが何処なのか、その情報が欲しい」
「あ、そ、それでしたら……1431年、オルレアンです」
「……は?」
 ライク・ツーが呆気に取られた声を上げる。だが、それは全員そうだ。
 1431年、オルレアン。過去で、その上来た覚えがないフランス。国を跨いでいるのはこの際構わない。しかし、時間まで跨いでしまっているのは、どうにも理解しきれなかった。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.459 )
日時: 2022/02/03 17:56
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: VhCiudjX)

 そうして。どうにも彼ら……藤丸立香、マシュ・キリエライト、ジークフリート、シグルドのいるカルデアという組織は相当な秘密主義のようで許可がなかなか下りず、結局、全員目隠しをした状態で招かれることになった。
 その際、『レイシフト』という聞き慣れない単語はあったが、自分たちはもっと別の方法を使って行くことになり、訳も分からないままオリヴァーは手を引かれていた。右手は立香が引き、左手はマークスと手を繋いでいる。目隠しをされるということでマークスがだいぶ渋ったのだ。オリヴァーに何かあったらと。妥協案として、目隠しをする前にオリヴァーと手を繋がせることで承諾した。
 時折誰かとすれ違う。その誰もが自分たちを見ていたのは何となく分かった。……無理もないし。
 止まるよ、と言われてその場で止まる。ノックの音がする。
「連れて来ました」
「入りたまえ」
 シュン、と音がして、ドアが開いたのだろうか? 次にオリヴァーが感じたのはふんわりと香る、甘い香りだった。
 ジョージが甘い香りがする! と言ったと思ったら次は外すね、と言われてようやく目隠しを外してもらえた。
 白い、白い部屋。長いテーブルと複数の椅子。そしてその椅子に座っている、四人。その内、一人は少女で一番ふくよかな男の前にはとても美味しそうなパンケーキが。
「かけたまえ」
 そう言われてまずはオリヴァーが椅子に座る。全員が座ったのを確認すると、男はふむ、と全員を見た。
「かつて修復したはずの特異点に何やら妙な反応があると言われて送り出してみれば……なるほど、私はすれ違う程度でしか見ていないが貴銃士とそのマスターとはな」
「柊ちゃんの言う『時空の狭間』って物に飲み込まれたんだろうね。
おっと、自己紹介がまだだったね」
 少女がほらほら、と男の腹を突く。突くんじゃない、と言いながら男は改めて口を開いた。
「私はカルデアの現所長、ゴルドルフ・ムジークだ」
「私は、藤丸六花。そっちにいる立香とは双子なんだ。で、こっちが」
「初めまして、シャーロック・ホームズと言う」
「シャーロック・ホームズぅ!?」
「マスター!? どうしたんだ!?」
「シャーロック・ホームズっつったら、コナン・ドイルの一番有名なシリーズの主人公じゃ……」
「篠雨には聞いてない、俺はマスターに聞いてるんだ」
「お前ライク・ツーによく言われてっけどマスター以外の話も聞けよ!!」
 思わず声を上げ、目の前のシャーロック・ホームズと名乗った美男を見た。
 しかしホームズは小説の中の人物。実在するはずはない。ということは……コードネームみたいなものなのだろうか。もしくは愛称なのかもしれない。
 それなのにあんなに声を上げてしまったことに少し恥じながらすみませんと謝ってから続きを促した。
「いいリアクションだったねー!
私の名前でもいいリアクションを期待できそうだ。
私は、レオナルド・ダ・ヴィンチさ!」
「はいぃ!?」
 レオナルド・ダ・ヴィンチ。言わずと知れた芸術家の名前だ。モナ・リザや最後の晩餐を描いたあの芸術家。しかし、こんな少女が……そもそも彼は男性。女であるはずがない。
 それはラウレンツや玖龍だけでなく、ライク・ツーと十手も呆然としている。マークスとジョージだけは首を傾げていたが。
「ま、私は二代目なんだけどね。ちょっとややこしい事情が絡むので割愛させていただくよ!」
「に、二代目? ということは元の男性のレオナルド・ダ・ヴィンチもいらっしゃると言うことですか?」
「……いいや。いないよ。それからもう一つ。困惑させることは確実だけれど、オリジナルも体は女性さ!」
「なんで!?」
「それはね、カルデア(ここ)で気にしてたらキリがないんだ……」
 立香が遠い目をして言う。
「意味分かんねえし、遠い目すんな」
 ライク・ツーがそう突っ込むとウォッホン、とゴルドルフが咳払いをする。再度すみませんと謝るとマークスが横からマスターが謝る必要はない、と言った。
「藤丸立香たちからは聞いているが、念のためもう一度名前を聞かせてもらおうか」
「はい。僕はフィルクレヴァート士官学校、士官候補生オリヴァー・ウェッジウッドと申します!」
「同じくフィルクレヴァート士官学校、士官候補生、ラウレンツ・バルシュミーデと言う」
「……篠雨玖龍」
「こちらは僕の貴銃士であるマークス。正式名称はUL96A1です」
「そしてマスターの相棒だ」
「ふふ、そうだね。こちらはライク・ツー。正式名称はUL85A2です」
「……」
 何も言わないライク・ツーに苦笑いしながら、次に十手を紹介する。
「こちらは十手。ええと、指火式さしびしき……だったっけ」
「ああ。そうだよ。俺は十手。銃としての威力は強くはないが……よろしく」
「はい、よろしくお願いします、ミスター十手!」
「ふふ……最後に、ジョージ。ブラウン・ベスのもう一つの人格なんだそうです」
「Hi! よろしくな☆」
「なるほど、そういうことだったのか」
「もしかしたらミルクさんや柊さんなら知っていたかもしれませんね」
「かもね」
「まあ自己紹介が終わったところでなんだけど。まず、信じ難いとは思うけれどここはキミたちのいた世界ではないんだ」
 ダヴィンチの話に、耳を傾ける。違う世界、と言われても確かに信じ難いが同時に納得もしてしまう。ワイバーンなど、元の世界にはいなかったはずだから。加えてこうも容易く時間を越えてしまう技術などない。それならばまだ違う世界と言われた方が飲み込めると言うものだ。
 何らか……おそらくは時空の狭間と呼ばれる物に飲み込まれたのではないかと。霧のことを話せば、それらは発生しないとのことだ。ならばあれは別の理由で発生したものなのだろう。状況を考えれば、おそらくは人為的なもの。そしてその霧を発生させたのは……。
 何にせよ、霧で昏倒したところをその時空の狭間が飲み込んでこちらに来てしまったのだろう。
「柊って人に調べてもらってキミたちは帰れるみたいだ。ただ、キミたちへの世界の道を安定させるために一日かかってしまう。
よって、キミたちにはカルデアに滞在してもらう、ということになった」
「なっ!? ということは、また目隠しをされるということか!?」
 マークスの慌てたような声に、ダヴィンチがキョトンとして、可愛らしい笑顔で笑った。
「あはは! さすがにそれはしないさ!」
「いや、それもこちらの情報を話さない場合だと言っただろう!?」
「まあまあ。現段階でも、他の世界には手を出されていない。その上で、別の世界でここの事を話そうものなら正気を疑われるでしょう。
……それでも、あまりここの事は話さないでもらいたい。それを約束してもらえない以上、我々もキミたちをそのまま、簡単に帰すわけにも行かなくなってしまう」
 ホームズに言われ、オリヴァーは約束します、と返す。ここに、ベルガーがいなくて良かったなんて思ってしまいながら。
 マークスにも内緒だからね、と言えば分かった、と頷いてくれた。
「……ふむ。では、今日は空き部屋で過ごすといい。
食事やシャワーなどは藤丸立香に聞くこと。いいかね!?」
「はい」
「では藤丸立香、あとは頼むぞ。……パンケーキ、冷めてしまったかな」
 と、ゴルドルフがナイフとフォークを取る。それを、ジョージはじっと見つめている。
「……ジョージ、何をしているんだ」
「いやぁ、あのパンケーキ美味そうだなぁって!」
「……美味いのか?」
「多分、ケーキくらい!」
「!!」
 マークスもパンケーキを見つめる。パンケーキを見つめる人数が増えた。非常に食べにくそうにしたゴルドルフはしばらく考え、そして若干の百面相をしてからええい、と声を溢した。
「食べるかね!?」
「いいのか!?」
「そうも見つめられると食べづらいわ!!」
「ぃやったぜ! thank you、おっさん!」
「ジョージっ!!」
「私はこれでもまだ二十代だがね!!」
「えっ」
「えっ、て何????」

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.460 )
日時: 2022/02/03 18:03
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: VhCiudjX)

 カルデアではある意味驚きの連続であった。あちこちでの騒動は当たり前、古今東西の英雄たちが闊歩し、まるで普通のように話をしたりしていて。坂本龍馬に会った時には玖龍が、アーサー王(男女どちらも)と円卓の騎士に会った時にはオリヴァーが、クーフーリンなどのケルトの戦士に会った時にはラウレンツが気絶しそうになる事態が発生した。
 たった一日の滞在だったと言うのに、何と言うか、『カオス』そのものを食らわされた、そんな感覚だった。立香たち曰く、これはまだ軽いジャブだよ、とのことだが。
 そんな中、順応していたジョージには尊敬を抱いてしまいそうだった。マークスの場合は、言うまでもないかもしれないが。
 濃い一日が終わって、オリヴァーたちは一つの部屋の前に呼び出されていた。その扉には普通なのだがどこか妙な扉が一つあり、その扉から少し光が漏れている。
「それじゃあ、行こっか」
 立香が扉に手を掛ける。ゆっくりと開かれる扉の先は眩い光に溢れていて、立香と六花、マシュが入っていく。それに倣ってオリヴァーたちも扉へ入っていった──。
















 目を覚ましたそこは、複数の扉が並ぶ不可思議な場所だった。しかし少し視線をずらすと素晴らしい和風の庭と、屋敷が目に入る。
「おおお! ここは……」
「すげぇ……」
 日本出身の十手、玖龍がぼうと見入っている。オリヴァーも素敵な庭だと思いながら見ていると分かる分かる、と立香が頷いていた。
「本当ならこの場所にみんなの世界に繋がる扉があるんだけど、俺には見分け付かないから、ここの主さんにご挨拶に行こうか」
「分かりました」
 全員で屋敷の方へ歩いていく。玖龍や十手、立香に教わり、靴を脱いで廊下を歩く。どこから見ても美しく、手入れが行き届いている庭。しかし……屋敷の中は妙にピリピリしている気がした。
 どうしてピリピリしているのか、とオリヴァーが聞こうとしたその時だ。
「おや立香たちか。今日も元気そうだな」
「三日月さん!」
 三日月、と呼ばれた青い着物の青年に目が行く。あまりに美しい彼の顔。その名の通り、よく見れば三日月が浮かぶ瞳。おそらく、誰もが言葉を忘れてしまっている。あのジョージですらも。
 だが、彼にはそれだけではない『何か』がある。
 すると目がふわりと細められ、彼はにっこりと笑った。
「はっはっは。じじいの顔に何か付いているか?」
「っあ、も、申し訳ありません。不躾でしたね……」
「構わんぞ。して、立香。そちらの者たちは?」
「ああ、昨日話があったと思うんですがブラウンさんたちの……」
「話? はて、あったか……」
「多分、寝てたんですかね……」
「はっはっは」
「おじいちゃん、それ誤魔化す時の笑い方だよね」
「三日月さん、誤魔化すのはよくありませんよ……」
「おお、マシュか。そうだ、後で立香共々お八つでも食べに来るといい。俺は歓迎するぞ」
「あ、ありがとうございます」
「あ、あの……そちらの方は?」
 あまりにほのぼのとした流れについ流されそうになるが、何とかそれを断ち切る。立香があっ、と声を出してごめんね、と謝った後に三日月がまだ自己紹介をしていなかったな、とまた笑った。
「俺は三日月宗近。平安生まれの、要するにじじいだ」
「……三日月宗近?」
「じ、十手、篠雨さん。僕の記憶が正しければ何ですが……三日月宗近は、日本の国宝で、天下五剣と呼ばれる一本では……?」
「あ、ああ……そうだな」
「ま、間違いねえけど……」
「ってことは、じいちゃんも俺たちと同じような……!?」
「ジョージぃっ!?」
「はっはっは。良い良い。確かに俺は貴銃士と似たような、刀剣男士。刀の付喪神だ。
貴銃士たちとは今でも仲良くやれているぞ」
「!? き、貴銃士……? まさかここの方は、マスターでもあるんですか!?」
「む? そうだが……他にも提督、司令官、御侍とやら等……まあ数えきれんな」
「か、掛け持ちしすぎなのでは……?」
 ラウレンツの言葉に三日月は笑う。さて、と切り替え、彼はここの主の元に向かうようにとだけ言った。
 そうして彼と別れる。(その際に何やらライク・ツーと話していたようだが、よく聞こえなかった)
 着いたのはある部屋の前。立香が失礼しますよ、と声をかけて入れば中にいたのは一人の女性と複数の少年と男たち。その中に……ジョージとよく似た顔の、ブラウン・ベスがいた。
「なっ……!?」
「ようこそ、フィルクレヴァート士官学校の皆さんと、その貴銃士四名。私の名前は柊。ここの主で審神者をやっている者だよ」
 柊と名乗った女性はにこりと笑ってよろしくね、と言った。
「あ、ぼ、僕はオリヴァー・ウェッジウッドと申します……!」
「ラウレンツ・バルシュミーデと言います」
「し、篠雨玖龍」
「ええと、こちらは僕の貴銃士でマークス、ライク・ツー、ジョージ、それから十手です」
「よろしくな!」
「よ、よろしく頼む」
「……!!」
「うんうん、よろしくね。それにしてもライク・ツーかぁ。……きっと別の個体なんだろうし、そう身構えなくてもいいよ。
うちの面々は同じ銃ってだけで貴方を敵視しないから。ね、ブラウン」
「……ああ」
「や、やっぱり、ブラウン・ベスなんですね……」
「うん、それはそうだよ。だって『レジスタンス』の時から一緒だし」
「へ!?」
 レジスタンス。そう言われて思い付くのはあの戦いしかない。
 だと、するなら。
「ま、まさか、貴方は」
「で、伝説の、マスター!?」
「……伝説? ……ぶ、ブフォっ!! ちょwwwマジでwww何それwwwむっちゃんwww私www伝説にwwwなwwwっwwwとwwwるwww」
「ぶっ、ふ……!!www あ、るじがwwwひぃwww」
「なwwwしwwwてwww」
「マスター、陸奥守」
「ごめ……wwwま、まさかそうなるとは……げほっwww」
「あ、あのー?」
「ごめんね、うちの主と陸奥守が。とんでもない笑い上戸なもんでさ」
「あ、そ、そうですか……」
 ひとしきり笑ったのか落ち着いた後に申し訳ない、と言われ、いいえ、と返す。
 そのまま周りにいる刀剣男士──陸奥守吉行、蜂須賀虎徹、加州清光、秋田藤四郎、へし切長谷部を紹介された。
「にしても伝説のマスター、伝説ねぇ……。まあ、確かにあの戦いで貴銃士たちを目覚めさせたのは私だよ」
「やっぱり!」
「でも、あれらはあくまで貴銃士たちの活躍。私はそんくらいしかしてない。だから伝説と呼ばれるにはあまりに矮小な存在なんだよ。
貴方たちが想像するような人間じゃない。
……ま、見て分かったと思うけどね。
とにかく、貴方たちへの世界は繋がっているから行こうか」
 と、柊が立ち上がる。そして出ようとした時だ。
「はいっ!」
「何でしょ六花ちゃん」
「私も行ってみたい!!」
「……はい?」
「士官学校とは言え、学校なんでしょ? 行ってみたいです! マシュも、行ってみたいよね?」
「へ!? あ、あの、その……は、はい。本音を言えば」
「ね!? お願いしますっ!」
「り、六花! そんな、無茶を言わないで」
「えー! でもさあ、立香も行きたいでしょ!?」
「……」
「ほら! ねっ、校内とはワガママ言わないからせめて、せめて外で! ねっ!」
「う、うぅん……まあ、外なら……平気?」
「お、おそらくは」
「……じゃあ、連れて行くけど……外からだからね?」
「やったー!!」
 ……と、そんなわけで本来であれば本丸までで帰るはずだった六花たちも付いてくることになったのであった。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.461 )
日時: 2022/02/03 18:10
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: VhCiudjX)

 そして、柊、陸奥守、秋田、ブラウン、立香、六花、マシュと共に扉を潜って目を開けた場所は……フィルクレヴァート士官学校の前だった。一日だったと言うのに何日もここに戻ってきていなかったような感覚に陥る。
 学校に近づいていく。すると、誰かが立っていることに気が付いた。
「マスター……一体どこに……」
「……」
「ケンタッキー! スプリングフィールド!」
「!! ま、すたー……? マスタぁあああああ!!!!!!」
 ケンタッキーとスプリングフィールドはこちらを見て顔を明るくした、と思った瞬間にはケンタッキーが涙を流しながら抱きつき……と言う名のタックルをしてきた。よろけながらも何とか受け止める。
「ぐすっ、マスター……! 良かったッス、ご無事で!!」
「ケンタッキー、心配をかけてごめんなさい。スプリングフィールドも……」
「いいえ、マスターが無事ならそれで……」
「ぐすっ、ひっぐ、ん……? マスター、そいつらは?」
「あ、この人たちは」
「まさかこいつらがマスターを誘拐したんスか!?」
「えっ?」
「マスター、下がってください! マスターに手ェ出しやがって……!」
 ケンタッキーは警戒心を露わに本体の銃を構える。やめて、と言っても目の前の立香たちを敵と見做した彼はそれを解かない。
「……あー、やっぱりこれがケンタッキーよねぇ」
「いや、柊さん? しみじみ言わないで?」
「マスターだからな」
「ほにほに。あーケンタッキー殿。ワシらはおんしらの『ますたー』を誘拐したんじゃのうて」
「どうした?」
 そうこうしている内に、騒ぎを聞きつけたのか一般生徒だけでなく、貴銃士たちも来た。特に貴銃士たちは突然行方不明になったオリヴァーを見て側に駆け寄ってきては、ケンタッキーの話を聞いて警戒したり、困惑したりしている。
 これ以上危険かと判断した陸奥守とブラウンが柊の前に立てばざわめきが増した。
「何の騒ぎだ!?」
 聞き慣れた声に、オリヴァーはそちらを見た。そこにいたのは、教官であるラッセル・ブルースマイルであった。
「あっ、ラッセル教官!」
「! ウェッジウッド君にバルシュミーデ君、篠雨君、それにマークスたちも、無事だったのか!」
「ええ、ご心配をおかけしました」
「そんなことより! こいつら、マスターを誘拐しやがって、どの面下げて……!!」
「待て、ケンタッキー。本当に誘拐したのならのこのことここに来るはずがないだろう?
それも、マスターたちを伴って」
「う」
 一人の貴銃士──ペンシルヴァニアにそう宥められたケンタッキーは、いつもなら噛みつきそうなものだがその通りだと思ったのか気まずそうに黙ってしまう。ペンシルヴァニアが弟分がすまない、と柊たちに頭を下げる。
 しかし、かと言って彼女らが突然現れた人物だと言うことには変わりなく、何人かの貴銃士の警戒は溶けていなかった。
 それを見てふぅ、と息を吐いた柊が陸奥守とブラウンの前に立ち、頭を下げた。
「私は柊と申します。突然のことで混乱と誤解を招き、騒ぎを起こしてしまい、申し訳ありません」
「いや、こちらこそ……」
「これは一体……?」
「あ、恭遠教官!」
「オリヴァーくん!? 一体どこへ……柊くん!?」
「恭遠さん!? うわぁお久しぶりです!」
「ああ、久しぶりだな。元気にしていたかい?」
「それはもう! 恭遠さんもお元気そうで何よりです!」
 先程までの雰囲気はどこへやら。親しげに話す恭遠・グランバードと柊に一部を除いて呆気に取られてしまう。
「し、知り合いですか」
「ええ。……ここでは一般生徒の注目を集めます。場所を変えましょう」


















「まさかこんなあっさり通してもらえるとは」
「伝説のマスターは、誰もが一度はお目にかかりたい存在。知っているのはかつてのレジスタンスと貴女が招銃した貴銃士しか知りませんからね」
 ラッセルにそう説明されると何故か陸奥守、秋田が得意げな顔になり、ブラウンもどこか誇らしげな顔を見せた。一方で立香たちはさすがだねー、なんてのほほんと言っている。
「そういうものなんですかねぇ……? 恭遠さんはどこか行っちゃってますし」
「そういうものです。恭遠教官は貴銃士特別クラスでの授業ですよ。よろしければ、見学していかれますか?」
「いやぁ、さすがにそこまでは」
「はい! したいです!」
「六花ちゃんェ」
「あ、あの、私も、よろしいでしょうか……!!」
「マシュ!?」
「ははは、構いませんよ」
「すみません……」
 貴銃士特別クラスの授業を見学することになった面々は、ラッセルの案内の元、その教室へ向かった。
 窓ガラス越しにその様子を見る。全員がきっちり受けているわけではないが……それでも教室の様子にマシュは目を輝かせた。そのマシュの様子にこちらもほっこりするような、いっそ涙を誘われるような。
 見学をしていると、す、と一人の少年が手を挙げた。
「どうした?」
「……外に、こちらを輝かしい目で、見ている者がいる」
 少年が言えば全員の視線がこちらへ集まった。一瞬びくりとしたが、慌てたのはマシュだけだった。
「次も座学。よって、授業に参加させてもいい、と、在坂ありさかは思う」
「ふむ、それは良き考えじゃな」
 在坂と言った少年の考えに同意したのは邑田むらた。しかしそればかりは恭遠らの独断では何ともできることではない。
 が……恭遠からはマシュが見えていたのだろう。一応後に聞いてみよう、と答えて授業を再開していた。
 どうしましょう、とマシュが立香に聞いているが立香は微笑みながらお言葉に甘えたらいいよ、と答えている。
 その時間の授業は終わり、恭遠が教室を出て行く。そして、先ほどの二人に加え、やる気がなさそうな目をした男が一人、こちらへ歩いてきた。
「あ、あの、すみません、あのような……」
「構わぬよ。ここから参加できるかどうかは分からんからな」
「……」
「……お前ら、レジスタンスの」
「えっ? ど、どこかでお会いしましたか……?」
 マシュが首を傾げる。
 するとその男はあー、と気まずそうに声を上げて頭をかいた。
「……元世界帝軍の八九だ」
「……えっ!?」
「ん、んん、そういえばいたような……?」
「あー、基本世界帝軍側の貴銃士ガスマスク付けてたもんねー。マシュたちが覚えてなくても無理ないわ」
「そういうお前はレジスタンスの古銃たちのマスターだろ、覚えてんぞ」
「知ってる、私も覚えてる」
「知り合いか、八九」
「……元敵」
「奇妙な縁だ、と在坂は思う」
 そんなやりとりをしている内に何人か興味を抱いたのか、こちらに来て話に興じ始める。
 マシュは立香と共に在坂たちと話に興じていた。
「そういえば、まだお名前をお伺いしてませんでした……!」
「おお、そうであったな。わしは邑田という」
「在坂は、在坂だ」
「では今度はこちらが。私は、マシュ・キリエライトと言います」
「俺は藤丸立香っていうんだ」
「そして私は、バーソロミュー・ロバーツさ」
「何でいるの??????」
 いつの間にか現れたバーソロミューは決めた顔をしてウィンクをしている。在坂に。それに何か感じるものがあったのか、バーソロミュー の視線を遮るようにそっと邑田が在坂の前に立った。
「着いてきてなかったよね??????」
「ふふ、マスター。メカクレあるところ、私あり、さ……」
「理由になってない……」
「何にせよそこの愛らしきメカクレ少年、ぜひ、ぜひともそのメカクレをじっくり堪能させて欲しい!!!!!!」
「在坂の目を見ることは推奨しない」
「目もいいけれどメカクレの方が見たいな私は!!!!!!!!」
「…………」
「あっ、やべ……」
 完全に表情が抜け落ちた邑田が一歩近付いたかと思えば、ヒュ、と空を切る音がする。しかし、それをバーソロミューは難なく受け止める。
「おっと。……ふむ」
「お、おい、少し離れた方が」
「……ミスター邑田。前髪、伸ばしてみませんか!?!!!?!?!?」
「は?????」
「……何を言うておる?」
「あっ、そこのキミは八九だったね、キミも伸ばさないかい、前髪!!!!!!!」
「……は????????(ドン引き)」
「バーソロミュー」
「ああ、そこのキミも!!」
「バーソロミュー!」
「もうみんなメカクレになればいいのに!!」
「バーソロミュー、令呪をもって命ずる。帰って」
「いい加減にしろよロバーツ」
「え、ええと、彼は一体……」
「あ、気にしないでください。ただのメカクレ好き海賊です」
「海賊……!?」
 その後、バーソロミューはマシュと在坂を並べて座らせた六花のファインプレーにより悶え、その隙に計二画の令呪を使ってカルデアに強制送還させられた。
 マシュたちはと言えば、結果から言って授業に参加させることは許可されなかったが放課後に教室を好きに見て回り、貴銃士たちが先生役としてちょっとした学生気分を味わえることになり、そこにオリヴァーたちもやって来て、賑わいはさらに増したのだった。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.462 )
日時: 2022/02/03 18:15
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: VhCiudjX)

 そんな中。オリヴァーはこっそりと陸奥守と立香に話しかけていた。どうしても、気になることがあったから。
「陸奥守さん、立香さん」
「ん?」
「どういた、オリヴァー殿?」
「一つ、お尋ねしたいことがあります。ホンマル、でしたか。……妙に、ピリピリしていたような気がするんです」
「!」
 二人が一瞬だけ目を見開く。それはすぐに戻ったが、それだけでオリヴァーは確信した。『何か』があるのだと。
「そうかな? 俺は何も感じなかったけど」
「あー、今いろいろあってのぅ。オリヴァー殿が気にすることや」
 二人はへらりと笑う。誤魔化されてやれるほど、オリヴァーは柔軟ではなかった。
「それだけではありませんよね」
「……オリヴァーくん」
「お願いします、教えていただけませんか?」
「……」
 陸奥守と立香が目を合わせる。少しして仕方ない、と言うように陸奥守が頷き、ここでは話せない、と教室を出てから少し離れた場所へ移動する。
 移動した先は、人気のない廊下だ。そこで止まった陸奥守と立香はオリヴァーの方へ振り返る。二人の顔は、真剣なものに変わっていた。
「……あの本丸は、幾多もの異世界と繋がっちゅうね。そこの一つの世界から来たわしらの仲間、エマ・ウッズ殿の父君が、敵に連れ去られたんじゃ」
「!!」
「それだけならまだしも、レオさん……エマさんのお父さんなんだけど、操られていたらしくて……彼女を何度も殴るようにされたらしいんだ。そしてエマさんは気絶して、今は精神的に不安定らしい」
「そ、そんな……」
 あまりの出来事に、思わず言葉を溢す。実の父親が、娘を。その娘も今は精神的に不安定だなんて。
「けんど、エマ殿の手にある紙が握られちょった。それが、レオ殿を操り、大量殺人をさせるゆう計画を知らせるもんじゃ」
「え!?」
「エマさんが言うには、誰かが握らせて来たらしいんだけど、どうしてそんなことをするのか……もしかしたら罠かもしれない。だけど、それに敢えてかかれば、レオさんを取り戻せるかもしれない」
 だから、あれほどまでにピリピリしていたのか。仲間の、父を取り戻すために。
 しかし次には彼らはまた優しく笑った。オリヴァーたちが気にすることはないと。
「気にするな、って……」
「無理かもしれないけど、それでも、ね。オリヴァーくんたちは、多少違う立場と言えどまだ学生なんだから」
「そうじゃな。オリヴァー殿、このことはわしらで何とかするきに」
「…………いいえ。僕も、手伝わせてください」
「!」
「僕は、幼い頃に両親が世界帝軍に殺されました。もう二度と、父と母には会えません。だからこそ、エマさんという方がまだ、お父様に会えるなら。そのお手伝いを、させてもらえませんか」
「……オリヴァー殿。いくら貴銃士を従えとってもこれは訓練やない。敵も隙を見れば殺しにかかってきゆう。それでもかえ」
「それでも、です」
 それに、オリヴァーは伏せているがカサリステという組織にも所属している。カサリステに所属することになった経緯はほぼ成り行きのようなものだが……覚悟はとうにできていた。
 立香、陸奥守から目を離さない。じっと彼らの目を見つめる。たった一瞬であろうその時間が、何時間にも感じられた。ふぅ、と陸奥守が息を吐いた。
「オリヴァー殿の気持ちは分かったぜよ、恩に着る」
「うん。でも、条件があるよ」
「条件?」
「まず、先生方に許可を取ること。貴銃士を必ず連れてきて、側に二人以上控えさせること。そして、絶対に死なないこと。いい?」
「! イエッサー!!」
 そう返事をすれば陸奥守は笑っていい返事やにゃあ! と言い、立香も頷いて同意していた。
「さて、わしらも各々の方面から許可もらわんとな立香殿」
「そうですね、陸奥守さん。……レオさんを、必ず取り戻して。みんなでお祝いでもしましょうよ」
「そりゃ、えい! 日本号らぁが年末年始のためにええ酒買うてたはずじゃ、それを出してもらうかの!」
「ふふ、酒飲みのみんなが喜びそうだなぁ。オリヴァーくん、貴銃士でお酒飲む人いる?」
「ええ、十手やジーグブルート、それ以外にも……」
 そこからは三人が普通の会話に入る。……側に六花がいたことにも気付かず。




「良かった、私がいなくてもオリヴァーくんたちに協力してもらえて。……いるといないとじゃ、大きいしね、違い」
 主に、立香の心の負担が。
 今回だって学校を見てみたくなったというのも間違いでも、嘘でもない。だが、何より無理をしがちな双子の兄に対する気遣いであった。
 メンタルケアでも、『ほぼ無意識に』百点満点な答えを出してしまう立香。そして、以前まで自分たちのメンタルケアを担ってくれていた人は……もういない。そのせいか、大抵はそれを見抜けなくて。
 だから、自分が『無邪気』と『我儘』を装って立香に息抜きをさせる。それでも、多少の気休め程度にしかならないが。
 けれどこれなら大丈夫。そう考えて、六花は三人におーい、と声をかけた。「たった今この場に来ました」と言わんばかりに。
 レオを取り戻す戦いまで、そう遠くはない。

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