二次創作小説(新・総合)
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.465 )
- 日時: 2022/02/21 21:44
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: tuakPBCn)
※ここから先、キャラたちの険悪な雰囲気が続きます。ご注意ください。
※また、第五人格『医師』、『庭師』、『泥棒』、『弁護士』の日記ストーリー、背景推理、誕生日記念タスククリアによる手紙のネタバレが含まれます。
※場合によっては『復讐者』の背景推理、手紙のネタバレが含まれます。
決戦前〜医師の罪〜
ライリーはここ数日、調子が優れていない。何も知らない面々はどうしたのだろうと囁き合っていた。無理もない。ライリーは宴会でもあまり飲まない方だと言うのにエマと何かあった翌日からやけ酒ばかりしているのだ。(それを助長させるホセとデミ・バーボンは離れさせた)
それだけではない。エマもあの日以来部屋から出てこないし、不定期に泣き叫ぶ声が聞こえるのだ。そんなエマを心配してか、エミリーとノートンも付きっきりになっている。特にノートンなんて毛布を持ってきてすぐに対応できるようにエマの部屋の前の廊下で座り込んで睡眠を取り、エマのストレスを最も増やすであろうピアソンとライリーだけは絶対に部屋に通さなかった。
ピアソンもピアソンでノートンが愛しのエマを独占していると憤り、そこら辺の物に当たり散らしているせいでヘレナ、トレイシー、マルガレータ、モウロがその物音で体を震わせるのだ。ただ、花騎士のハバネロが来ていると何故かそれも収まるので、ここ数日は彼女に来てもらっている。
思わずふぅ、とため息を吐いたのはマーサ・べハムフィール。『空軍』として荘園に招かれた彼女は今の状況を憂いていた。
「どう思う? ナワーブ、ラック」
「どう思うも何も、最近の空気は今までの三番目くらいに最悪だな」
「さ、三番目かどうかは分かりませんけど、空気が悪いのは分かります……」
ナワーブもため息を吐き、ラック──幸運児と呼ばれる青年は苦笑いを浮かべた。
「空気が悪いのが分かったのかあのエセ紳士にも心配されるくらいだぞ、こっち。まあ案の定ニヤニヤと笑ってやがったから殴ったが」
「あー……僕も謝必安さんと范無咎さんにそれぞれ大丈夫なのか心配されました」
「……そうね。私もマリーや美智子さん、ヴィオレッタに心配されたわ」
ハンターたちにも伝わり、心配されるほどの空気の悪さ。それを改めて実感してまたため息を吐いてしまう。どうにも事情を聞いたらしいノートンに又聞きでも事情を聞こうとしても「まあ、何も聞かなくていいんじゃない?」と話す気はないと言われるばかりだ。食い下がったところで「今まで通りでいたいなら聞かない方がいいってことだよ」とまたも話してもらえない。
この空気のままで、レオを取り戻せるのだろうか。そんな心配がマーサの胸中にぐるぐると居座り続けている。
「まあでも、あまり気にしなくていいと思います」
「えっ?」
「どういうことだ、ラック」
「んー、なんだかんだ言って……四人は何とかなると思いますよ。とは言え、それぞれに任せてたら時間ギリギリで本調子に持っていけないと思うので、少し手助けするくらいでいいと思います」
「……」
「レオさんを取り戻すと言っても絶対にレオさんと戦うことにはなります。その上、あの方法ではあの四人は必ずいてもらわないと困りますし……。かと言って最初から最後まで手を握ったままじゃ、彼らのためになりませんし。
だから様子を見て適度に手を貸すくらいでいいと思いますよ」
そう言ってラックは紅茶を啜った。息を吐く彼に、マーサもナワーブもそれでいいのかもしれない、と思い始める。それにラックはなんだかんだ言ってあの四人と共に、荘園に最初期からいたメンバーだ。彼らのことはよく分かっているのかもしれない。
ならば、少し見守ろうか。そう考えたマーサは、同じように紅茶を啜った。
深夜。ふぅ、と息を吐きながらエミリーはエマの部屋に向かっていた。最近はエマのこともあり、あまり怪我をしないように……してもなるべく自分たちで対応してくれていたサバイバーの面々だったが、今日はそうも行かなかった。パトリシアがゲームでチェイス中に足を滑らせて少し高いところから落ちてしまい、打ち付けた箇所の痛みが引かないと申し訳なさそうに告げてきた。
だから今までパトリシアの部屋で処置をしていたのだ。思っていたよりも怪我は酷くなくて、今度はホッと息を吐く。エマをノートンに任せきりになってしまったのは申し訳ない。そう考えた時、ガシャン、とキッチンの方から音がした。それに思わず体を震わせ、そちらに視線を向けた。
……まさか。エミリーは足をそちらに向け、キッチンへ向かい、扉を開ける。
「……ライリーさん」
「……エミリー・ダイアーか……」
顔を真っ赤にした、ライリーがキッチンの床に座り込んでいた。その側には割れた皿。最近、ライリーはやけ酒をしていると聞いていたがここまでとは。少し近づくだけで臭ってくる酒の匂いに思わず顔を顰める。
「顔が真っ赤よ。あまり飲みすぎないでちょうだい」
「……お前には、関係ないだろう……」
「関係なかったとしても、ほら。お皿が割れているわ。怪我をしたらどうするの」
「はっ、善人面するなよ」
「なっ……! 私は心配して……!!」
「ああそりゃ失礼? 『リディア・ジョーンズ先生』?」
「っ!!」
その名前に動揺が走る。何故、その名前を。何も言えずにいると鋭い目がエミリーを射抜く。
「あちらの世界で、当時禁止されていた堕胎手術に手を出してまで小さい診療所を保たせて、結局一人の妊婦を死なせて? 償うこともせず、顔と名前を変えてまで逃げ続けるジョーンズ先生がここまでお優しくなるとはなぁ?」
「な、んで……」
何故、それを。そう問い続けたくても、声が出ない。
「……ま。堕胎手術に関しては何も言わんがな。ただ、教えてやろうか?
お前が殺した、最後の堕胎手術をしたあの妊婦。彼女は、エマ・ウッズの母親だ」
「……え……」
ぐらり。足元が崩れる感覚がする。
「マーシャ。レオの妻、そしてエマ・ウッズの母親だった女性。
エマ・ウッズにとっては、お前も復讐の対象でしかないんだよ。あいつがそれを知らないだけでな」
「う、嘘……」
確かに、記憶にある。マーシャ。エミリー……否、リディアとして最後の堕胎手術をした女性。そして……自分はその途中で、逃げてしまった。
滑稽だよなぁ、とライリーの声がする。
「あいつはそれを知らないで、お前を天使だの言って慕っているんだから」
「っ……!!」
何も言えない。言えるはずがない。ただでさえ、堕胎手術はエミリーにとって忘れたい過去だと言うのに。
それだけでなく、自分は。エマの、母親を。
殺した。
ぐちゃ、ぐちゃぐちゃと何かが潰れるような音がする。何も潰れていない。そもそもするはずがない。ああ、でも、これは。
自分の、心が潰れているんだ。
理解した瞬間、とうとうエミリーは膝から崩れ落ちた。そこにあった皿の破片を踏んで痛みを感じるはずが、それすらなく。
ただただ、心の痛みに打ちのめされていた。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.466 )
- 日時: 2022/02/21 21:50
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: tuakPBCn)
「……おい、大丈夫か?」
「っあ……」
ハッとする。目の前には怪訝な目を向けるキャスターのサーヴァント、アスクレピオスが。時折彼やナイチンゲールの元を訪れては手伝いをしたり、医学に関して勉強をさせてもらっているのだ。他にも文豪である斎藤茂吉や森鴎外とも話し合ったりしているが、今日は二人はいない。
その代わりと言うわけではないが、「医学はマスターの役に立つ!」と張り切ったマークスや医学を多少でも学びたいと来た十手、オリヴァー、そしてほぼ引きづられるように連れてこられたライク・ツーとノリで着いてきたジョージがいる。誰もがこちらを見ていた。
「ご、ごめんなさい、少しぼーっとしてしまって……」
「構わないが、くまも少し深い。医師の不摂生は感心しないな」
「は、はい。気を付けます……」
「まあまあアスクレピオス殿! エミリー殿も、少し休んだらどうだろう? ここ最近は働き詰めなんじゃないかい? ここらで少し休んでもバチは当たらないさ」
「そうですね。薬品の整理でしたら僕たちで済ませますので」
「そうそう! 休んでくれよ、エミリーさん!」
「ジョージ、お前は絶対に動くな」
「ええ!? 何でだよライク・ツー!?」
「いやそれは同意だ。お前は動かない方が手伝いになる。先ほどからビンを割りそうになること六回、好奇心で薬を混ぜようとすること三回。その他諸々。動くな」
「アスクレピオスまでかー!?」
「おい、この薬品はどこにしまえばいい」
「それはあの棚の上から二番目、右から三番目だ」
「分かった」
そうやり取りしながらも薬品を整理する彼らにお言葉に甘えます、と言ってから医務室を出る。
とは言え、歩いていても気分転換にはならず、このカルデアは外に出るわけにもいかない。というより、出られない。
ふぅ、と息を吐く。……あの夜、ライリーに言われた事実が、心を蝕む。じくりじくりと小さくも鈍い痛みがずっと纏わりついている。もはや逃げることも目を逸らすことも叶わず、心も頭もぐちゃぐちゃになって、どうすれば良かったのだろうともうどうにもならない答えを求め続けていた。
ふと、足が止まる。目の前に、一人の少女が立っていた。白く短い髪。際どい黒い服にほっそりとしたその体。愛らしい顔についた大きな傷。そして、鋭くエミリーを睨む緑の瞳。サーヴァントのジャック・ザ・リッパーであった。
「じゃ、ジャックさん、どうしたの?」
正直、エミリーは彼女が少し苦手だった。初めて会った時、ジッと見つめてきた彼女に自己紹介をしようと目線を合わせた瞬間、彼女は「私たち、貴女のこと嫌い」と言ってきた。それ以降、積極的に関わっては来ないがたまたま鉢合わせると露骨に睨んで去っていくのだ。
それがどうしても気になって、立香たちに聞いた彼女『たち』の正体が、エミリーの『罪』を突き付けてくるから。
「……どうして、貴女は生きてるの」
「っ!」
「私たちに痛いこと、いっぱいしたくせに」
エミリーは別の世界の人間、そういくら説明しようが彼女『たち』には関係ない。別の世界の人間だろうがなんだろうが、エミリーは『自分たちに痛いことをいっぱいした人間の一人』でしかない。
「どうして、私たちに痛いことしたの? いっぱい痛くて痛くて仕方なくて、なのに私たち逃げられないの。お母さんも助けてくれないの。どうして、ねえ、どうして?」
「そ、れは……」
「私たちに痛いことしてまで、お金が欲しいの?」
「っ! ち、違う、の。違うの、私、私は、本当は、したくなかった!」
「なら、なんで?」
「仕方なかったの、仕方なくて、あのままじゃ、診療所も続けていけなくて、だから!!」
「……」
「人を、救うためには、仕方、なくて」
「ふーん……なら」
一歩、一歩と彼女は近づいてくる。そして、腕一本もない距離で止まった。
「貴女にとって、胎児は人じゃないんだね」
残酷な、真実が突きつけられる。ギラリと光り、それでもなお美しい緑の瞳が怖い。
「っ、あ、ぁ……ち、が……っ」
「何が違うの? 人を救うために、胎児を殺し続けた。なら胎児は、貴女にとって人じゃないんでしょう?
ほら、なんにも違わないよ?」
「ちが、ちがぁっ……私、私はっ……!!」
息が苦しい。できなくなる。そんなつもりはなかった。そう叫びたくとも、目の前の彼女はそれを許さないだろう。
緑の瞳が、『あの時』を思い出させる。
「あ、あ……ごめん、なさい……ごめんなさい、ごめんなさいっ……!!」
立っていられず、崩れるようにへたり込んでしまう。そんな自分を、ただただジャックは見つめていた。
「本当に悪いと思うなら、赦してあげる。貴女の、命で──」
見上げる。すでに彼女の手には、愛用のナイフが握られていて、それは、振り上げられていて──。
けれどそれは、自分を貫くことはなかった。別の、白い手が血に染まりながらもそれを止めたから。
「ジャック・ザ・リッパー」
そこには、ナイチンゲールがいた。彼女の手がナイフを握り、血に染まりながらも止めていたのだ。
「……ナイチンゲールさん……」
「離して」
「いいえ。一体何があったのですか。……ああ、いえ。そうでしたね。貴女は今日……」
「離してよ」
「いいえ、離しません」
「なんで」
「マスターが悲しみます」
「っ……」
「ジャック!」
彼女の後ろから、ナーサリーライムが駆け寄ってくる。何かナイチンゲールと話してからナーサリーライムはジャックの手を握り、エミリーたちに手を振って歩いていく。
呆然とするエミリーの目の前に、血に濡れていない方の手が差し出された。
「ご無事ですか、ミスエミリー」
「はい……あの、手が……」
「そうですね。早急に手当てをしなければ。ミスエミリー、よろしければお手伝いをお願いできますか」
「はい」
手を借りて立ち上がるものの、ふらついてしまう。それを片手ですんなりと支えられた。
……幾多の命を救った尊い、その手で。こんな汚い、命を。
「……ごめんなさい」
「? 何故謝るのですか?」
「……私のせいで」
「ああ……いいえ、これは仕方ないことです。様々な患者がいれば、多少の怪我は必ず負うものですから。
今回も、少し運が悪かった程度です。どうやらレイシフト先でジャック・ザ・リッパーの精神を刺激するものがあったらしく。その際に貴女と鉢合わせてしまった。それだけです」
「……」
「……何やら、ミスエミリーも抱えているものがあるようですね。私の治療をしながら、貴女の治療もしましょう。
参りましょうか」
「……はい」
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.467 )
- 日時: 2022/02/21 21:59
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: tuakPBCn)
アスクレピオスたちがいる医務室へ行けば、十手、ジョージ、オリヴァーがナイチンゲールの手を見てギョッとして事情を聞いてきた。ナイチンゲールが簡潔に説明し、アスクレピオスが包帯などを用意して医務室の一角をカーテンで区切る。
ではお願いします、と手を差し出すナイチンゲール。傷は思っていたより深く、エミリーの心がずきりと痛んだ。本当なら泣き出してしまいたいくらいだった。けれどそんな場合ではない。彼女の手を取り、手際よく手当てをしていく。
「流石ですね」
「ありがとう、ございます」
「ところで、ミスエミリー。貴女の治療もせねばなりません」
「っ……」
「目に見える怪我ならばいくらでも処置は可能。ですが、目に見えないものは話してもらわなくては、手の施しようがない。的確な治療のために必要なことです。
……ただ。仮に話してもらえなくとも、私は貴女を救うつもりですが。それこそ、貴女の中の原因という原因を殺し尽くしてでも、救います」
その言葉に、元々弱っていた心が耐え切れるはずもなく。
ゆっくりと、ぽつりと話し出す。本当なら、こんなこと憧れのナイチンゲールに話すだなんてしたくなかった。カーテンの向こうにはかのアスクレピオスもいる。二人の口から他の医学に関係する人々に伝わって、全員から軽蔑されるかもしれない。
それでも、話さずにはいられなかった。
元の世界にいた頃、当時違法とされていた『堕胎手術』に手を出してお金を稼いでいたこと。そうしてまで診療所を続けていたのに、ある妊婦の堕胎手術を行っていた際に……限界が来てしまった。気が触れて意味もなく叫んで逃げ出したような気がした。声も出さずにふらつきながらそこを去ったような気もした。どちらにせよ、逃げ出したのだ。
そこに、手術中であった妊婦を置き去りにして。
それに気が付いたのはずいぶんと時間が経ってからだった。恐怖に震え、どうすればと何度も自問自答して、自分が出した答えは……。
「罪を償わず、顔と名前まで捨てて、他人として生きることでした」
「……」
「先日、置き去りにしてしまった妊婦のことをライリーさんから聞いたんです。彼女は……リサの、母だった」
「それは……」
「私が、私がリサの母を殺したんです。なのに、リサは私をずっと『天使』だなんて慕い続けてくれた。私は、絶対にリサを治すという、リサとの約束も果たせていないのに……」
「……」
完全な沈黙。無理もない。今まで何でもないような顔をして、自分は日々を過ごしていたのだから。
「ナイチンゲールさん。……アスクレピオス様も。私は、本当は汚い人間なんです。貴方たちと関わる権利すらない、汚くて醜い……そんな人間、なんです」
声が、思わず震える。視界が滲み、手が震える。拒まれたって仕方ない。今すぐ消えろと言われても仕方ないと思いながらどこかでは拒まないで、と願う浅ましい自分が心底嫌になる。
顔が見られない。声も、ほとんど聞こえやしない。軽蔑、されたのだろうか。
「ごめんなさい、この手当が終わったら、すぐに」
「一ついいか」
シャッ、と軽い音を立てて、カーテンが開く。カーテンを開いたのは、マークスだった。オリヴァーと十手が思わず「マークス!?」「マークス君!?」と声を揃える。
オリヴァーだけに少し待っていてくれと声をかけ、マークスはまたこちらを見た。
「思ったんだが、それをしたらあんたがした良いことは全て悪いことになるのか?」
「え?」
「何だか、まるで良いことも全部悪いことになる、みたいに聞こえた。その、ダタイ? というのがなんなのか俺にはいまいち分からない」
「ああ、そういうことなのね……堕胎、というのは……妊婦のお腹の中にいる子どもを、生まれる前に殺すことなの」
「……なるほど。だからそんな風に言ってるのか」
納得したようにマークスが頷く。こんな空気の中、そうできるのはもはや彼だけだろう。後ろにいるオリヴァーと十手はもはや顔面蒼白でジョージですら慌てているのに。
「だが、それでもあんたがした良いことが悪いことにはならないだろ?」
「……え……?」
「確かにあんたは、ダタイという悪いことをしたんだろう。だけど、それで助かったやつもいるんじゃないのか?
いなくっても、今日あんたに教わったことは全部、良いことだ。それすら悪いことになるのか?」
言葉が出ない。まさか、そんな風に言われるとは思いもしなかったから。
「そ、そうですね……確かに、悪いことをしたとしても、その後の良いことまで悪いことにはなりません! さすがだね、マークス」
「!! マスターに、褒められたっ……!!」
「YES!! それにエミリーさん、苦しんでるんだろ? それで全部終わるわけじゃないけど……でも、少しは前向きになってもいいんじゃないか!?」
「これ以上、反省し苦しむ女人を責めるのも違うからなぁ。なら、俺たちは何も言わないさ」
「……ま、俺たちがとやかく言うのも違うだろうしな」
オリヴァー、ジョージ、十手、ライク・ツー。その言葉にじわりとまた視界が滲んだ。
「ミスエミリー」
ナイチンゲールが、そっと傷のない手を重ねてくる。
「私は、それを肯定することはできません」
「っ……」
「ですが、否定することもできません」
「え……」
「もし、私が貴女と同じ立場になって、その選択を迫られた時……私は、はっきりと否と言えるか、分からないからです。
貴方と同じ選択をしないと、断言できない限り、私が貴女を批難する権利も、理由もありません」
「ナイチンゲール、さん……」
「胸を張ることは、難しいでしょう。ですが、貴女が行ったこと、貴女が救ったものまで捨てることはありません」
「っ……あ……」
「どうか、今は自分を責めないであげて」
「あ、あ……あぁぁっ……!!」
とうとう、限界だった。ボロボロと涙がこぼれる。優しく背中をさすられながら、エミリーは泣き続けた。
……数時間後、医務室。
「断言できないとは、思い切った嘘だな」
「嘘とは? ミスターアスクレピオス」
互いに背を向け、違う作業をしながら二人は会話をする。
「フローレンス・ナイチンゲール。お前はあの時、断言『できた』はずだ。はっきりと。『自分はそんな手段選ばない』と」
「……」
「常々、殺してでも救うと言うお前が赤ん坊の命を捨てるはずはない。その選択を取るはずがない。だから断言『できる』んだ」
「そうでしょうか?」
「ああ、そうだとも」
「ええ、確かに私は断言『できました』」
ですが、と彼女は続ける。
「それは、『今の私ならば』の話です」
「ほう?」
「生前の『フローレンス・ナイチンゲール』がエミリー・ダイアーと同じ状況に陥った時、その手段を取らないと、そう断言『できないと思った』。だから、私は断言できないと言ったのです」
暫しの沈黙。そしてなるほど、というアスクレピオスの声。
「僕は、生前のフローレンス・ナイチンゲールであっても断言したと思うがな」
「どうでしょう?」
静かな二人の作業は、時計の針が頂点を過ぎるまで続いた……。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.468 )
- 日時: 2022/02/21 22:05
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: tuakPBCn)
そして、荘園。夜遅くまで考え事をしていたエミリーは、喉を潤すためにキッチンへ向かっていた。するとまた、ガシャン、と音がして、ああまたかと思わずため息を吐いた。
キッチンのドアを開ければまた床に座り込むライリーの姿。相も変わらず、酒の臭いがつんと鼻を刺激した。
「ライリーさん、いい加減にしてちょうだい。お酒を飲むなとは言いませんが、程々にして。貴方を見てホセさんもデミさんもいつも以上に羽目を外しているというのもあるのよ」
「っち、またお前か……」
「ええ、また私です。ほら、立って。水を飲んで」
「うるさい、黙れ……!! 俺は、お前を許してないんだ……マーシャを殺した、お前を……!!」
「……なら、私を殺す?」
「は?」
突然の言葉に虚を突かれたライリーは、目を丸くしている。あれだけ飲んでいるのに、思考は正常らしい。……いいや、今の言葉で思考がある程度戻ったというべきか。どちらでも構わない。
足をライリーの方へ進める。ライリーの前でしゃがみ、彼の手を取って首にかける。
「なっ……!?」
「いいわよ、差し上げるわ。私の命。ただし、条件があります」
「な、にを」
「まず。私を殺したがっているのは貴方だけではない。ジャックさん……それから、場合によってはリサも入るわ。でも私の命は一つだけ。
だから、私を一番最初に殺せた人に命をあげる」
「……」
「もう一つの条件は、少しだけ時間を頂戴」
そう言うと彼は途端に顔を歪め、命乞いか、と叫ぶように言う。そして、そのままエミリーの首を絞めた。
「っか……!!」
「時間!? どうせそれで延々伸ばすつもりだろうが!!」
「っ、は、じか、んは……」
「なんだ、言ってみろ!!」
「は、れ、おさ、レオ、さんを、取り戻す、まで!!」
「……は」
力が緩む。少し咳き込むが、問題はない。
「レオさんを、取り戻すまで、時間を頂戴。レオさんとノートンさん……それに、他にも優秀な医学者がこの世界にはいる。
リサとの約束は守れないけど……それでも、リサを治すことはできる。
せめて、レオさんを取り戻すまで私の命は奪わないで」
「な、んで……」
「……」
「……なん、で。なんで、だよ。なんで、お前は、そうやって、命を投げ出す覚悟が、できた……」
「私だけではないわ。……ライリーさん」
「……なんで……」
「う、うわっ!? な、なんだこの状況!?」
いきなり響いた声に、どちらもそちらを見た。そこにいたのは目を丸くしたピアソンだ。
「な、何があったんだよあんたたち……」
「なんでもないわ。……けれど、ちょうど良かったのかもしれない」
「は?」
「ライリーさんも、聞いて。リサの話を聞いて、考えたの。
私たちには、リサに謝るべきことが一つはあるんじゃないかしら?」
「……は?」
「私もそう。ライリーさんも、分かるわよね?」
「……」
ライリーが目を逸らす。だが、分かっていないはずはない。だからあえて何も聞かずに、ピアソンを見た。
……彼の目は、どこか歪み始めていた。
「あ、やまる、こと? 俺が? ……ウッズさんに?」
「ええ」
「……は、はは。ふ、ふざけるなよっ!? 俺がウッズさんに謝ることなんて何もない!!
前だって、あれはウッズさんが俺の愛を受け取ってくれないから!! だから!!」
「そうじゃないわ。それとは別に」
「うるさいっ!! うるさいうるさいうるさい!! ちくしょう、なんなんだよ!!
最近、キャンベルのやつがウッズさんの部屋に入り浸って、俺を通しやしないし今だって!!
くそっ、くそが!! バカに、バカにしやがって!!」
「ピアソンさん!!」
「あああああ!! うるさいって言ってるだろ!! どうせ、どうせお前だって!!」
「落ち着いて、ピアソンさ……」
あまりの錯乱ぶりに立ち上がって彼に手を伸ばす。だが、彼は触るな!! と思い切りその手をはたき落とした。
彼のストレスはかなり溜まっていると分かっていたが、ここまでとは。けれど、『あれ』を教えなくては。そう思い口を開こうとするもピアソンはその場を逃げるように去っていった。
そして、ピアソンはと言えば息を乱しながらエマの部屋の前まで来ていた。最初から、最初からこうすれば良かったんだと今までの自分を嘲笑する。
『あの人』によく似たハバネロの言葉に耳を貸さなければ、もっと早く会いに来れていたのに!!
「ああ、やっと会えるよマイスイート……」
歪み切った笑みでドアノブに手をかける。
「ねえ、ノートンさん。次はひどいおじさんの話を聞いてくれる? 私を、精神病院に『売った』おじさんよ」
ヤケに明るい声が聞こえてきた。まだ中にノートンがいるのかと怒りで目の前が真っ赤になる。
その怒りのまま、ドアノブを強く握り。
「あの人ね、やっと思い出したの。そう、そうよ。あの人、『ピアソンさん』だったわ」
「……え?」
「偶然かしら? あの人と同じ名前なの。フルネームは忘れてしまったけど、そう呼ばれていたのは確かよ。
だって、あの人がそう呼ばれながらお金受け取ってるの見たんだもの!」
手が震える。体が震える。いや、まさか、そんな。
確かに、確かに一人の逃げ出した少女を精神病院の警備員に知らせて連れ戻したことはある。そのお礼に、『十三枚の硬貨を受け取った』ことも。
ありえない。ありえないありえないありえない! まさか、だって、あれは。
「ひどいおじさんよね。私のためだなんて宣いながら少ないお金と引き換えたんだもの!」
「あ、ぁ……」
「あのおじさんさえいなければ、私はあんな酷い治療も受けなかったのにね!」
ああ。まさか、そんな、こと。
何故、あの少女、が。
ドアノブから滑り落ちるように手を離し、ふらふらとその場を去る。
部屋には。
「ねえノートンさん、ひどいでしょう?」
『エマ一人』が残されていた──。
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