二次創作小説(新・総合)
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.474 )
- 日時: 2022/03/14 20:10
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: XOD8NPcM)
※引き続きシリアス、ネタバレ注意です。
※ガッツリめにキャラの過去、感情などを妄想で捏造しております。
決戦前〜弁護士の覚悟〜
「さて、全員集まったか?」
「はーい! いつも通り、エマちゃんとライリーさんとノートン以外はサバイバー全員いまーす!」
「まあ彼らは今ちょっと大変だからねぇ」
「ん、では! 第四回、『レオ・ベイカーを取り戻せ!』会議を開始する!
度々思うがネーミングセンスはどうにかならなかったのかウィリアム・エリス!」
ルカ(第五)が言うもウィリアムは『てへぺろ☆』とでも言うような仕草で誤魔化していた。
「可愛くないですね」
「無理がある」
「え、ええと、お茶目だね!」
「イライ・クラーク、キミは甘やかすんじゃない」
そんな軽いコントのような会話はそこそこに、全員が気を引き締める。これは、エマが倒れていた日から行われている作戦会議のようなものだ。
ルカ(第五)が長テーブルに大きい紙を一枚置いた。それは、レオを取り戻す戦いが繰り広げられるであろうシューニリアショッピングモールの地図であった。各階に加え、一階の外にある大きな広場が書かれている。
「まず、我々サバイバーの目的は各ポイントにあるという魔力の塊の上に『陣』を二十二個も描き、最上階で待機する柊の陣の完成補助だ。
理屈は我々には理解できていないが、この作戦はマスターハンド、クレイジーハンドに加えて黄衣の王と夢の魔女のお墨付きだ。また、サーヴァントのキャスター勢にも確認してもらい問題ないとの回答があった。これらから罠という可能性は非常に低いとしている」
新しく用意した白紙に、羽ペンで書いていく。
「何故我々なのか。それは『レオ・ベイカー』との縁とのことだ。ハンターでも構わないが彼らでは『陣』に見えない部分があるらしい。それぞれに大雑把に描いてもらった紙が、こうだ」
また紙が置かれる。それらには一様に似た陣が描かれているが必ずどこか一部が欠けていた。
「この点から、ハンターによる陣の生成は不可能。我々サバイバーがやるしかない。
そして今回の作戦の要は、エマ・ウッズ、クリーチャー・ピアソン、エミリー・ダイアー、フレディ・ライリーだ。エマ・ウッズは言うまでもない。フレディ・ライリーもだ。
クリーチャー・ピアソンとエミリー・ダイアーはここに飛ばされる前のエウリュディケ荘園に最初にいた面々であり、レオ・ベイカーと最も付き合いが長い。それらから、四名には最も重要なポイントの陣の生成を頼みたい、のだが……」
そこでルカ(第五)が言葉を切る。全員の脳裏に過ぎったのは、ライリーとエマだ。ライリーは最近落ち着いたものの、弁護士としての仕事に没頭し始めた。レオとの戦いの予行演習にもなり得るゲームを放棄してまで。ルカ(第五)がそれとなく参加しないのか聞けば「俺がいなくても大丈夫だろう」と自嘲しながら言われたのだと言う。
確かに、重要なポイントに四人のうち誰かが陣を描くというだけならライリーがいなくとも構わない。だが……レオとの縁を重要視するのであればライリーがいないと作戦に支障が出る可能性が高い。
「作戦の決行日が近い。エマ・ウッズはともかくフレディ・ライリーはそろそろゲーム、あるいは会議に参加してもらわないと困る。
どうしたものか……」
「こればっかりはね……ねえダイアー先生、貴女はどう思う?」
「……彼に関しては、私は何も言えない……というより、私が言うと悪化させてしまうから……」
エミリーの言葉に全員が確かに、と思いつつも何も言わない。何か二人の間に確執があるのは分かるが、何があったかまでは分からないから。
その日は、結局あまり進展もなく会議は終わってしまった。
夜。何となく外の空気を吸いたくなったライリーは春めいてきたとは言え、まだひんやりとした空気の中、外に出ていた。けれど脳内を支配するのは己の罪ばかり。
後悔はしていない。そのはずなのに、ずっとあれで良かったのかと同じ答えの自問自答を繰り返している。愛しているマーシャを非道なやり方と言え手に入れた。それで満足なはずなのに。
── 恨みたくても、恨み切れなくて……!!
「……」
血を吐くようなエマの叫びが耳にこびり付いている。優しくした、などと言われてもそんな覚えはない。……それとも、マーシャを奪うために、マーシャへの印象を良くするためにしていた彼女へのプレゼントのことを言っているのだろうか。それならむしろ恨むべきだろうし、そもそもエマは……リサはプレゼントを母に言われたから渋々受け取る、と言った表情の方が多かった。特に気にしたこともなかったが。
なのに、何故。珍しく言いようもない、整理すらできない感情が胸中を支配している。ずっと。ずっと。
「くそっ……」
「ライリーさん」
「うぎゃっ!?」
突然、背後からした声に変な声を上げて勢いよく振り返る。そこにいたのは、自分と到底関わりがなさそうな少年、パリスであった。よくパリスに引っ付いている羊(かの太陽神、アポロンらしい)はいなかった。
「な、なんだ、こんな時間に……あの羊は?」
「今日はちょっとワガママを言って、留守番していただきました。どうしても貴方と話したいことがあったので……」
「……神ってのは大抵ワガママだし、自分の物と認定した奴にはとんでもない独占欲を持つものだと思うんだが。後々、祟りだのに遭うのはごめんだ」
「大丈夫です、そこは僕が何とかします!」
えっへん、とでも言うように胸を張るパリス。本当に大丈夫だろうか。不安しかない。
そんなライリーの考えを知らずにパリスは真剣な表情でライリーを見た。
「ライリーさん、貴方は……悩んで、いるんですよね」
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.475 )
- 日時: 2022/03/14 20:15
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: XOD8NPcM)
思わず言葉を無くす。悩んでいる? 自分が? ああ、だが確かに悩んではいる。しかしこれをパリスが解決できるとは到底思えなかった。
「……そうだとしたらどうする。お前がこの気持ちを何とかしてくれるとでも?」
「少しは、ですが」
「……は」
無理に決まっている。まさしく清廉潔白という言葉が似合いそうで、無邪気な彼に理解なんぞできるはずがない。
人の妻を奪った男の気持ちなんか、理解できるはずがないのだ。
「……僕には理解できないだろう、ってお顔ですね」
「……」
「でも、何となくは分かるんですよ? 似た立場ですし。ライリーさん。トロイア戦争の発端はご存知ですか?」
「トロイア戦争? ……っ!」
そうだ。何故忘れていたのか。かのトロイア戦争。その発端は……この、目の前のパリス本人の、『横恋慕』だ。
『パリスの審判』という話がある。アキレウスの両親の結婚式に全ての神々が招待される中、唯一「相応しくない」と招待されなかった争いの女神、エリスが怒り、『一番美しい女神へ』と書いた紙と共に黄金の林檎を投げ入れ、それを巡り、ヘラ、アフロディーテ、アテナがその林檎は自分の物という主張にゼウスがトロイアの第二王子であったパリスに審判を任せてしまった。
三人の女神はそれぞれ権力と富み、戦場における誉れと名誉、そして……人間の中で最も美しい女を約束し、自分に有利な審判をするよう言ったのだ。パリスが選んだのは、『人間の中で最も美しい女』を約束したアフロディーテであった。
結果、最も美しい女とされるゼウスとレーダーの娘、ヘレネーとアフロディーテとの約束もあって恋に落ちたパリスは彼女が『夫がいたにも関わらず』彼女をトロイアへと連れ帰ったのである。それが、トロイア戦争の発端だ。
しかし、このパリスの世界の彼女は夫に虐待を受けていたと聞く。それを助けたかったパリスが連れ出したと。……やっぱり、違う。理由が、根本から違うのだ。
「お前は、助けるという立派な理由があるだろうに」
「……確かに、僕はヘレネーを助けたかった。でも、それだけじゃないんです」
「は?」
「……どんな理由があっても、僕は、ヘレネーを好きでした。彼女の境遇に憤慨したのも事実です。それでも……助けるなんて、ただ都合の良い理由が転がっていたに過ぎません」
「……」
「僕はいろんな人から叱責を受け、時には罵倒すら受けました。お前のせいで、って。当然ですよね。
……僕は、彼女を助けたことは今でも間違っていないと思います。今でも、後悔はしていません。でも……それとは別で、ずっと苦しい。
もっと上手いやり方があったんじゃないかって」
「!!」
「それこそ、ヘクトール兄さんに相談すればもっといい解決法があったかもしれません。頭の良い兄さんのことですから、長期的にはなるかもしれませんが、トロイア戦争を引き起こすことにはならなかったかもしれない」
じわりとパリスの目に涙が滲む。それについ、ハンカチを差し出せばありがとうございます、と彼はそれを受け取って涙を拭った。
「貴方が悩んでいるのは、きっと別のことなんです。もっと上手いやり方が……それこそ、家庭を崩壊させないやり方があったんじゃないか、追い詰めなくても良かったんじゃないか、って」
「それは……」
「その罪の意識が、ずっと貴方を苛んでいる。無意識のうちに、ずっと。
ライリーさん。貴方が一つの家庭を崩壊させた罪人なら、僕は……王子でありながら、故郷を崩壊させた、大罪人です」
「!! そんなことは!!」
思わず声を荒げ、ハッと口を塞ぐ。それにパリスはくすりと笑った。
「いいえ、例えどんな理由があろうと僕が他人の妻を奪い、戦争を引き起こした。それに変わりはありません。
それでも、僕は立っていられる」
「……何故、だ?」
「僕を、信じてくれる人がいたから」
「信じて、くれる人……」
「こんな僕に、ヘクトール兄さんだけは言ってくれたんです。『お前は正しいことをした』って。その言葉で、僕は立ち上がれた。立っていられた。
ライリーさん」
パリスが真っ直ぐに、ライリーを見る。その目からライリーは目を逸らせない。
「貴方自身ですら、貴方を信じられぬと思うなら。僕が、貴方を信じます!」
「!」
「どうか、立ち上がってください。貴方は、戦える。立ち向かえる。僕は、そう信じます!」
明るい笑顔が向けられる。……ああ、こんな真っ直ぐに、こんな自分を、信じるなんて。
馬鹿らしい。どう考えたって、信じるに値しない人間だろうに。自分でも分かるのに、いくら立場が似てると言っても他人が分からないはずがないのに。
どうして。こんなにも。
「ライリーさん……? 泣いてるんですか……?」
涙が溢れるほど、嬉しいと思うんだ。
「……少し、時間をくれ」
「! はいっ!」
またも明るい笑顔が向けられる。信じてくれる人がいるのが、こんなにも……。
「……今日は、もう帰れ。風邪ひくだろ」
「僕はサーヴァントなので、風邪はひきませんよ! むしろライリーさんの方こそ風邪をひいちゃいます!」
「はは、そりゃそうだ。……ちゃんとすぐ戻る」
「! 分かりました、では僕はこれで!」
たた、と軽やかに駆けていく。その背中を見て、つい笑ってしまう。
「お前は、似た立場だなんて言ったが。……俺には、敵討ちとしてもあの大英雄『アキレウス』を討とうなんて思えない。
ああ、やっぱり、俺とお前は違うよ。パリス」
それでも、信じてくれるなら。
「……少しばかり、立ち上がってみるか」
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.476 )
- 日時: 2022/03/14 20:20
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: XOD8NPcM)
「さあて第五回、『レオ・ベイカーを取り戻せ!』会議を始めるとしよう!
では今回はだが……」
と、ルカ(第五)が会議を始めようとした時だ。部屋のドアが開く。全員がそちらに目を向けるとそこにいたのは、身なりをきっちり整えたライリーだった。
全員が思わず呆気に取られる中、長テーブルに歩み寄り、ルカ(第五)の近くの椅子に腰掛ける。
「資料はあるか」
「えっ?」
「はい」
ライリーに資料を渡したのは、エミリーであった。ライリーは彼女を一瞥すると、ん、とだけ言って資料を受け取る。
「場所の地図は把握しているの?」
「どこぞの慈善家サマがいらん世話焼いて地図を部屋のドアに挟んでいやがったから把握してある」
「ど、どうせ、あんたなら、す、すぐ把握すると、お、思ったからな」
「よく分かってるな」
「その資料も貴方が気にしそうなところは見やすくしておいたわ」
「助かる」
エミリーから渡された資料に目を通す。すぐに眉間に皺を寄せたが。
「ルカ・バルサー」
「な、なんだ?」
「入口近くには、体力のない奴らを配置しない方がいい」
「へ?」
「地図を見る限り出入り口は七つ。いずれも一階から繋がっている。勝手口等を含めれば数は変わるがレオの体格的に入れん。結果的に、入ってくるのは大きな出入り口になる。
体力のない奴らがその階を担当するなら必然的にレオはそいつらを狙うだろう。例えば、トレイシー・レズニックが狙われたとしよう。陣の生成数を考えるに、その途中で確実にやられる」
「あ、ああ、確かにそうだな……では、彼女らには二階、もしくは三階を?」
「ああ。電力も襲われてすぐに止まらんだろうからその辺が妥当だ。エスカレーターを使えば奴の目に入らん限りは安全かつ体力を温存しながら移動できるはず」
「なるほど、エレベーターを使わないのは電力が止まった際に閉じ込められるのを防ぐためか?」
「そう。一人二人が閉じ込められたところで作戦に支障は出ないが、救助が来るまでに最低でも四時間程度要すると考えている。レオの奴、あまり強くなさそうに見えてかなり厄介だからな。作戦が長引くのは確実。その上、連絡が取れてもこちらの状況から見て到着にも遅れが発生するだろう。
最初の方で閉じ込められたら、そいつの心身が相当参る可能性を考えれば使わん方が賢い」
何でもないように話し合い始めるライリーとルカ(第五)。エミリーとピアソンは大して驚いておらず、彼らの話に耳を傾け、時にはその話に参加していた。
「ちょ、ちょっと待ってー!」
「なんだトレイシー・レズニック」
「ら、ライリーさん、いつの間に立ち直ってたの!? 昨日まで錆びついたロボみたいだったのに!」
「いろいろとあってな。……お前ら。必ずレオを取り戻すぞ。んで、俺はあいつに一発入れさせてもらう。娘放置してんじゃねえって」
「まあ、その辺に関しては私からも言いたいことがあるから参加させてもらうわね」
「お、俺も参加」
「「お前/貴方は人のこと言えないだろ/でしょう」」
「うぐぅ!!」
またも全員が呆気に取られる。彼らはこんなやり取りをしていただろうか? それにライリーの口調が少し崩れているような気がする。
ラックが紅茶を啜って一息吐き、懐かしいなぁ、と微笑んだ。
「懐かしいって?」
玩具職人の女性、アニーが首を傾げながら聞く。
「皆さんが来る前はわりとこんな感じだったんですよ、彼ら」
「そ、そうなの?」
「ええ。マーサさんやイライさんはなんとなく見てたと思いますよ」
「ああ、そう言われれば確かに……」
「まあライリーさんはもう少し前の口調みたいな感じでしたけど……これなら、問題なく作戦を決行できそうですね!」
ラックが笑顔で言えば周りは確かにと頷いたり楽天的だと呆れたり、苦笑いしたり。彼らの注目が手を叩いたライリーに注目した瞬間、すっとラックの顔から笑顔は消える。
「残る問題は、ウッズさんか……」
ふと、彼女は目を開けた。見ていたのは今も一人の青年に付き添われている女性。
彼女は、まだ最後の一歩を踏み出せずにいた。
『もう疲れた』『このまま眠ってしまいたい』『どうせ信じても』『でも』『信じたって無意味』『でも』
『信じたい』
『怖い』
『裏切られたくない』
『もう、泣きたくない』
『信じ、たい』
「…………」
哀しく密やかな叫びは誰に届くわけでも、届けるつもりもない彼女たちはこのままでは立ち止まってしまう。
その一歩が、愛しい人と共にですら踏み出せないのならば。
その怖がる背中を、少しでも支えてあげたい。
彼女はそう決意し、そっと空を見た。
次はオマケ
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.477 )
- 日時: 2022/03/14 20:25
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: XOD8NPcM)
【オマケ】※完全捏造過去話になります
とある男二人の話
ふぅ、と息を吐きながら肩を揉む。首を回せばバキバキバキ、と妙に小気味いいもののどう考えても鳴ってはいけない音がする。
弁護士、という比較的新しい職に手をつけ、仕事をしたはいいもののどうにもこうにも厄介な案件ばかりが舞い込む。そもそも数もまだそんなに多くはないから仕方ないと言えば仕方ないのだが。
中にはどう考えたって未来のないような案件まで持ち込まれて……何とかして大損は避けたが未だにそれは彼を悩ませる種であった。
しかしいつまでも疲れた顔はしていられない。今日は小さくはあるが縫製工場の工場長と新規の顧客として会うことになっている。上手いこと転がせればもしかすればあの案件に関しても解決するかもしれない。軽く頬を叩き、工場長を待たせている部屋へ向かう。
ノックし、失礼します、と穏やかに言う。部屋の中にいたのは、縫製工場の工場長にしてはやたら体格の良い男であった。
「初めまして、『フレディ・ライリー』と申します」
「ああ、初めましてライリー先生! 俺は『レオ・ベイカー』と言います!」
第一印象は『転がしやすい』だった。ソファに腰掛け、話を聞き始める。
細々と続けている縫製工場をもっと良くしていきたい、稼ぎが良ければ娘や妻に楽をさせてやれるから、手を貸して欲しい、と。いろいろと話を聞き、まあ……出来なくはなかった。
一応できる範囲でのアドバイスをしてやれば何やら気に入られたらしい。その日に飲みに行こうと誘われ、なんだかんだで長い付き合いになってしまったのだ。
ライリーとしては勘弁して欲しかった。疲れている体に、酒はよく染みすぎた。潰れてレオに連れて帰ってもらうのも何度もあったしその酒代もレオの分を出さないとは言え自腹。そしてレオの工場の件に関しても大した報酬も入ってこない。それでもいずれは、と耐えていたのだが。
ある日、またも酒場で飲んでいると酔ったレオが背中をバシバシ叩いてきたのである。酒は吹くわ痛いわもう限界だった。
「いってえな!! もう少し加減しろこの馬鹿力!!」
そう怒ってからしまった、と思った。口に出してしまった以上、もはや取り返しも付かないのだが。
「なんだ、それがお前の素か! なんだよそれならそうと言ってくれ! そっちの方がいいじゃないか!」
「はあ?」
「ははは! いつも堅苦しいやつだなぁと思ってたんだよ!」
「おっま……」
「あの口調は、こっちも息が詰まってな! 次からその口調で頼む!」
……そんな言葉に、もはや怒りも後悔も消えて呆れ、そして少しの戸惑いが残った。
それから、さらに心を開いたらしいレオは趣味である狩りに共に行かないかと誘ってきたのである。一回なら、と承諾したがまあレオは狩りが下手だった。趣味だとしてももう少し上手くなれよとツッコむくらいには。
どうにもこのど下手くそな趣味のために散財もしているようで、額を聞けば「その散財、やめた方が家ももう少し裕福になるぞ」とツッコんでしまう程だった。レオは目を逸らしながらそれは妻にも言われた、が辞めたくはないのでライリーに相談したとだと言われて頭が痛くなった。
「とりあえず、工場のみんなにはもう少し賃金を上げてやりたいな!」
「まず工場の経営立て直すところから始めろ、話はそれからだ!」
バカみたいに明るくて、お人好しなレオ。いつの間にかそんな彼と話すのがなんだかんだ楽しくなっていた自分がいて。
彼らの友情が崩壊し始めるのは、それから一ヶ月と経たない日であった……。
ふと目を覚ます。……懐かしい夢を見た。
「……なあ、レオ。
お前、なんで散財やめなかったんだよ。それやめてりゃ、俺だって漬け込まなかった。いいや、漬け込む隙なんて、なかったんだ」
レオの妻、マーシャが辟易していたのはレオの散財癖だ。狩りも下手なのにやめてくれないと何度ぼやいていたことか。それでも。
「マーシャは、ギリギリまでお前を愛してたよ」
自分と逃避行する直前まで、マーシャの中のどこかでレオの存在はあった。……だからこそ、自分は。
「言い訳だ、言い訳でしかない。……レオ。お前が恨んでるのは、俺だけだろ。
レオ。リサを、傷つけるなよ」
彼の元に残された、一番の被害者であるリサ。マーシャとレオを繋いでいた、ある意味唯一の絆である彼女。
「……作戦も近い。ゲームになるだけ参加しておかないとな」
その胸に覚悟を宿して、『元友人』を救うために彼はベッドから降りた。
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