二次創作小説(新・総合)
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.487 )
- 日時: 2022/04/21 21:29
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: n/98eUHM)
※サラッと新ジャンルのキャラが登場しています
※一部変更点あり。
決戦前〜学生組の会議!〜
広い会議室。そこでは大きなホワイトボードやスクリーンがあり、椅子などがいくつもある。そこに集まったのは柊サイドの学生組と類される少年少女たちであった。柊サイドの全体から見れば少ないが、それでもちょっとした部屋では収まらない人数だ。
全員の前に立っているのが、悠と司、その側には機械等を操作するために類が控えていた。
「では! 『レオさん奪還』に向けた、我々学生組の作戦会議を開始する!」
「意見がある人は、挙手を頼む。まずは……一番確認しておきたいことだ。
俺たちペルソナ組と真剣少女以外で当日レオさん奪還に参加していいと言われた奴らはいるか?」
……しん。手が挙がらない。まあ無理もないか、と司が呟く。
「は、はい、少しだけ……」
「花里、発言を頼む」
「そのー、私たちはアドバイスが欲しいな、ってたまたま会ったエルメさんたちに意見を聞いたんですが……」
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みのりと遥は、『千銃士R』の世界に来ていた。目的は、フィルクレヴァート士官学校にいる貴銃士かオリヴァー、ラウレンツ、玖龍、そのうちの誰かにレオ奪還の作戦について手伝えることがないかアドバイスを貰いに来たのだ。不思議なことにこちらが日本語であちらが英語でも、日本語に聞こえており、あちらもあちらで日本語が英語に聞こえているようで会話には何ら問題はなかった。
現地の人々に貴銃士の何人かはよく街に来ていると聞いて、誰かと会えないか街を見ながら待っていたのである。効率はかなり悪かったのは分かっていたが、士官学校ともなれば出入りは厳しい。そしてみのりと遥は彼らの連絡先を知らない。だからこうするしかなかった。
「あっ、あの人!」
「確か……ドイツのエルメさん、だったかな。オリヴァーさんも一緒だ」
「良かった〜! 早速聞きに行こう、遥ちゃん!」
「うん。行こうか」
幸いにもオリヴァーとエルメが立ち話しているのを見つけて二人はエルメたちに近づいて行った。
「こんにちは!」
「? あ、貴方たちは確か……MORE MORE JUMP、でしたか。その……花里みのりさんと、桐谷遥さん、でしたよね?」
「はい、そうです」
「知り合いかい?」
「知り合い、というよりほら、ハザマセカイ、だったかな。そこで繋がっている世界の一つに住んでる人たちだよ」
「ああ、なるほど。なら、俺も自己紹介しないとね。俺はDG3。コードネームはエルメ。
どうぞよろしく」
にっこりと微笑んでくれるエルメに二人は少しホッとしながら会釈する。何だかんだ、緊張はしていたから。
「ところで、二人は俺たちに何か用があったの?」
「ああ、その……」
「今度の、レオさん奪還の作戦で私たちに何かお手伝いできることはありませんか?」
「えっ?」
「戦えないけど、何かできることがあればしたいんです」
みのりと遥は二人をまっすぐに見ながら言う。エルメは真顔になり、けれどすぐに微笑んだ。が、オリヴァーは少し困ったような顔をしている。
それに疑問を抱き、首を傾げそうになった時にそうだね、とエルメが口を開いた。
「君たちにできるのは、一つかな」
「なんですか?」
「何でもしますよ!」
「そう。なら話は早いね。できることは──戦場に来ないことだ」
「え……」
「エルメ!」
オリヴァーが悲鳴のように彼の名を呼ぶ。それを無視してエルメは続けた。
「戦えないと分かっているなら、はっきり言って足手まといにしかならない。最初からそういう任務だと言うなら何も言わないけれど、そうでないならば来ない方が俺たちもやりやすいし、君たちにとっても安全なんだ。
じゃあマスター。俺はこれで。Bis bald」
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「……ぐっさりとは来るが……まあ、真正面から行ってイエスの答えは返ってこないのは分かっていたことだな。
こちらの人々は俺たちに少し甘いと言うか、過保護な面があるからな」
「天馬クンたちは仕方ないと思うけど……」
苗木の言葉に頷く者多数。そうか? と首を傾げるのは当事者たちばかりである。
プロセカ組(−モモジャン、ビビバス)とひぐらし組は他のメンバーとは違い、突然ハザマセカイに飛ばされてきた。そのせいで色々と大変だったと聞く。元々学生組には甘いメンバー揃いではあったが、彼らが来てからはよりその甘さと過保護さが増した気はする。
悠が話を戻そう、と言い、類に頼んでスクリーンに地図を映し出してもらう。その地図には二十二ヶ所ほどバツ印が記されている。
「このバツ印が、魔力の塊。ここに陣を描き、最上階で待機する柊さんの陣の完成を補助するらしい。
これらは全部サバイバーの人たちが描くとのことだから、あまり気にしなくても……」
「少しいいですか」
と、手を挙げたのは風丸一郎太だ。司が発言を許可する! と言えば彼は今感じた『違和感』について話し出した。
「何かおかしくありませんか?」
「おかしいとは?」
「魔力の塊がどう出来上がるのかまでは分からない。でも、ショッピングモールに、それも二十二ヶ所も出来上がるものなんでしょうか」
「……確かに、言われてみればそうだな」
「あ、そういえば一つ気になったことがあるんですけど……」
次に手を挙げたのは土門飛鳥。発言の許可を貰ってから取り出したのは一枚の紙だ。それを類の元まで持っていき、今度はそれが映し出された。内容を見る限り、ネットのブログのようだ。
これは? と悠が聞けば妙なブログなのだと土門は答えた。そして彼は、そのブログを読み上げ始める。
「『話題のショッピングモールに行ったけど、何人かの店員の態度が妙だね。ずっと心ここに在らず、みたいな感じでロボットでもまだマシな態度を取ると思う。だからもう来たくはないと思っているのに何故かここに足が向く。
気が付けばこのショッピングモールに来ててなんだか気味が悪い。何かしててもふっと意識が途切れて、ハッとした時にはここの前にいるんだ。何なんだろう、これ』
……何度かこんな内容がこのブログにあって。コメントだとツンデレだとか言われてるんですけど、何か関係してそうじゃないですか? これと魔力の塊ってやつ」
「……まさかわざと埋め込んだとか? お客さん集めるために?」
「は、はいっ!!」
今度はえむが手を挙げる。発言の許可を貰い、彼女は口を開く。
「そのことについて、お兄ちゃんがね……」
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「ん〜……」
鳳家のリビング。そこでえむがにらめっこしていたのはシューニリアショッピングモールの施設案内などの資料であった。今度の作戦はえむも絶対に成功させたいものだった。だから何か手伝いができればと情報を集めることにしたのである。
が、得られる情報はどうしても一般向けのものばかり。これにはえむも悩んでしまった。
「おいえむ、さっきから何百面相してるんだ」
「わぁあっ!? しょ、晶介お兄ちゃん!? か、帰ってたの!?」
「ああ、少し資料を取りにな」
背後から話しかけてきたのは、えむの兄の一人である鳳晶介。鳳グループにて一番目の兄である鳳慶介のサポートを勤めている。一時期ギクシャクしていたこともあったが、今では昔のように仲良くやれていた。
晶介はえむの手元にある資料を見て思わず、と言ったように眉間にシワを寄せた。
「どうしたの?」
「そこに行くのか?」
「えっ、あ、う、うん! お友達と買い物しよって……どうしたの?」
「平気だとは思うが……気を付けろよ。そこ、少しばかり変だからな」
「変?」
「ああ。一度俺と兄貴も視察で行ったことがあるんだが、なんだか妙に頭がぼんやりしてな。その時はたまたま体調不良を訴えた部下がいたから帰ったんだが、その時に出された条件とか考えるとどうしても良い条件だと思えないのに、何でだかその時は良い条件だなんて思っててな……。
ま、テンション上がって、変な物を売りつけられるなよってことだ」
そう言って晶介はえむの頭を撫でた。
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「その話を聞く限りでは……本当に集客目的で魔力の塊、あるいはそう見られる何かを埋め込んだということか……?」
「一体、どうしてそうしようとしたのか……いや、そもそもどうしてそんなことを思いついたんだろう」
「少し、いいですか?」
「直斗、話してくれ」
「ありがとうございます。僕は、鳳さんに頼まれてシューニリアショッピングモール、そしてその周辺の調査を行いました。
その結果……オーナーであるグリーズ・アルド氏がダーズ側と関わりがある可能性が浮上したんです」
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.488 )
- 日時: 2022/04/21 21:22
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: n/98eUHM)
直斗のその言葉に会議室がざわつく。無理もない。ダーズ側が関わっている、と聞いて平静を保てる者は少なかった。
「直斗、それはどういう……」
「この写真を見てください。最低でも、僕らペルソナ組なら分かります」
そう言って直斗は席を立ち、類に写真を渡す。類がそれを見て写真が映し出される。
「この人って!!」
りせの声に、遥が知ってるの? と聞けばりせは頷き、写真を指差しながら叫ぶように言った。
「この人、前に瑠璃溝隠って呼ばれてた……ダーズ側の人だよ!」
「!!」
写真には、裏口らしき場所でこそこそと人目を憚るように何かを取引している瑠璃溝隠とオーナーらしき男が写っていた。
「もし普通の買い物に来ているだけならばここまで人目を気にする必要はない。それだけでなく、火事でもないのに時折『黒いモヤ』が確認されているそうです」
「黒いモヤ……ってことは、本当に……」
「……グリーズ氏がこのショッピングモールを作る際、あまりの無茶な要求に出資や出店を断られ続けていました。それが……ある一人の出資者が現れたことにより出資、出店の申し出が続出したと。一人が出資したからと次から次へと現れることなんて考えにくい。
この出資者も調べれば、存在しない人物であったことが判明しました。
もしこれがダーズ側の人間であったなら……魔力の塊があるのはダーズ側の指示か何かだと考えられます」
直斗が発言を終わると、その場を支配したのは沈黙。小さなはずの花陽の呟きが聞き取れてしまうほどに、その場はしんと静まっていたのだ。
「そ、それって……作戦、邪魔されちゃうんじゃ……」
花陽の言葉に、またも沈黙が下りる。よりにもよって、オーナーが敵に着いている。そうなれば、作戦がうまくいかないのは明白だ。
しかし、そうとも限らないよ、と類が口を開いた。
「そうとも限らないって……なんでそう言えるの?」
「簡単な話さ。そのオーナーは『自分だけは被害を被らない』と考えているはずだよ」
「え?」
「柊さんの話や、ネットでの評判を見るに結構横暴な人間らしいからね。そういう人間ほど、そんな計画を伝えられても『自分には関係ない』と考えられてしまうものだよ。そんな確証がどこにもないにも関わらず、ね。
さて、そんな人間が突然大量殺人の現場に放り投げられたらどうなるかな?」
「えっと……映画とかなら、自分だけ逃げるとか、近くにいた主人公とかに金ならやるから自分だけ助けてくれとか言うかな」
「あー、で、結局真っ先にやられるか後で散々な目に遭うかだよな」
一之瀬の答えに陽介が付け足す。しかし、今のやりとりでピンと来たのは多かったらしい。その答えを絵里が話した。
「邪魔をする指示を出す余裕も理由もないということね」
「そういうことです。その上でこの作戦にはオーナーに何のメリットもない。無理やりな出資や出店をしていたのだからわざわざそれら全てを無に返すような真似はしないでしょう。
だからこの際、オーナーのことは気にしないでも問題ないかと。
それでも敵側の人間が関わっているというのは見過ごせないですが……少なからず、このために魔力の塊をわざわざ仕込ませたとも考えられますし」
少しだけホッとした空気が流れる。完全に安心できるわけではないが、それでもだ。
すると、突然完二があっ!? と声を上げる。
「どうした、巽」
「そういや、柊さんたちがなんかここのオーナーに協力しろって言ってたのに断られたとか言ってなかったスか?」
「ああ、そういえば……ああっ!?」
「断ってたの信じてねえのもあるけど、ダーズ側だったからッスよ! くっそ、キュッとシメてやっか……!!」
この作戦を決行するため、柊たちはオーナーにその日の営業は休むように頼んでいた。しかしオーナーはそれを断り続けた。「馬鹿馬鹿しい」「これ以上言うなら営業妨害で訴える」と。とは言え、この事情を知らない面々は全員歯痒いけれど仕方ないと言っていたが……こうして事情を知ってしまえば呆れと怒りしか湧いてこない。
柊たちは一般客の避難込みで作戦を立てていたようだったから、話は再び「何を手伝うか」というものに戻った。
「あ、あのぉ、いいかなぁ?」
「不二咲、発言を頼む」
「う、うん。ありがとう、鳴上くん……。あのね、一つだけ、心配なことがあって……」
「もしかして、ルカ(第五)のことか?」
左右田に頷く不二咲。二人以外は首を傾げていた。少し悩んでいたようだが、不二咲は実は、と続ける。
「ルカさん、たまに、なんだけど……記憶が曖昧な時があるんだぁ」
「記憶が曖昧?」
「そう。俺たちのことは覚えてても簡単な……説明をちょっとすれば誰でもできそうなことができなくなったりとか」
「食べ物のことを覚えてなかったり、ひどい時だと……ボクらのことを、忘れちゃったり……。
もしもっ、考えたくはないんだけど、もしもそれが作戦の日になっちゃったら……」
不二咲は俯いてその先は言わなかった。けれど誰もが分かる。もし、その症状が作戦当日に出てしまえば作戦に大きな支障が出る可能性がある。
次に手を挙げたのは言葉だった。発言を、と促された彼女はそれの対策を口にした。
「大きな紙に陣を描いて、ポイント近くに待機していてはどうでしょうか?」
「近くに待機?」
「はい。紙を渡すだけでは、途中で落としてしまうかもしれませんから。ただ、待機する人は危険に晒されてしまいますが……」
「だが、良い案だ! 採用してもいいと思うが、鳴上はどうだ?」
「……そうだな。ただ、待機は隠れながらした方がいい。なるべく足の速いメンバーに行ってほしいな」
それをきっかけに少しずつではあるが、学生組の作戦が決まっていく。
もちろん、彼らが結局戦えないことは変えられない。だから全員『決して無理をしない』と決めて。
「よし、こんなところだな!」
「他に何か意見がある人は?」
「あっ、はい!」
みのりが再び手を挙げる。発言の許可を貰った彼女は今度は意気揚々と話し始めた。
「行かない人は、パーティーの準備はどうかな!?」
「「「パーティー?」」」
「あ、確かにオリヴァーさんが……」
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「ごめんなさい、エルメが……」
「あ、き、気にしないでください!」
「そうですよ。それに……多分、オリヴァーさんも同意見じゃないんですか?」
遥が少しだけ眉を下げながら言うと、オリヴァーは目を逸らす。
いくら歳が近くても士官学校の生徒として、そして貴銃士たちのマスターとして戦いに身を投じる彼が分からないはずがない。
「……その……はい。エルメの言う通り、皆さんの安全を確保しつつ、僕らが動きやすくするには来てもらわない方がいい。あなたたちの誰かが人質に取られたらそれだけで動けなくなってしまう可能性もありますから。
でも、皆さんが手伝いたいという気持ちも分かるんです」
だからこそ、彼は言葉を選んでいたのだろう。が、それも虚しくエルメが伝えてしまった。ストレートに。
二人ともどこかで分かってはいたが、やはり面と向かって言われてしまうとショックは受けてしまうもので。あまり気にさせないようにしようとしていたが上手くはいかなかったらしい。オリヴァーは少しオロオロとしている。
が、少ししてあ、と声を溢し、柔らかく微笑んだ。
「あの、お二人や皆さんが手伝えることがありましたよ!」
「えっ!?」
「ほ、本当ですか?」
「ええ。あちらでは何回もパーティーができなかったと聞きます。僕たちの歓迎のパーティーまで開いてくれる予定だったとも。
レオさんの件で、全部できていないということも、聞いています」
「あ、確かに……」
それぞれの世界で年末年始やイベントをしていたが、大きな会場でのパーティーはやっていない。レオの件でそんな雰囲気ではなかったし全員何も言わなかった。
しかし、それが手伝いと何の関係があるのだろう。首を傾げそうになる二人に、オリヴァーは今度はいたずらっ子のような笑みを浮かべて言った。
「だから、皆さんでパーティーの準備をしてみては如何でしょう?」
「パーティーの準備?」
「はい。どの国でもそうですが、イギリスですと年末年始は大切な人たちと賑やかに過ごすんです。日本では、静かに、のようですが……それでも、大切なパーティーが開けなかった。
なら、レオさん奪還祝いも兼ねてパーティーを開いたら、皆さん喜んでくれると思います。これも立派な『手伝い』かと!」
オリヴァーの言うことに二人ともぽかんとしてしまう。けれどみのりは少しずつパァ、と顔を明るくしてそれだぁ! と、オリヴァーの手を両手で握った。
「えっ」
「それです! ありがとうございます、オリヴァーさん!」
みのりが満面の笑みを浮かべる。と、同時にオリヴァーの顔は一気に赤く染まった。
「え、あ、そ、そのっ、ど、どういたしましてっ……」
「あ、あの、もし、レオさんが奪還できなかったら……?」
遥が思わず聞く。それは当然でもある。レオを確実に取り戻せるとは限らないのだから。
けれどオリヴァーは顔を引き締めた。
「大丈夫。みんないます。僕の貴銃士も、柊さんの貴銃士……だけじゃない。たくさん僕たちには、味方がいます。
必ず、取り戻せます。いいえ、取り戻してみせます」
だから、とオリヴァーはまた柔らかく微笑んだ。
「皆さん、僕たちを信じて待っていてくれますか?」
「……はいっ!」
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「なるほど……見方を変えればそれも手伝いだな!」
「じゃあ、参加しないメンバーは全員でパーティーの準備をしよう。前に使った会場を、マスターハンドさんたちの許可を貰って使わせてもらって……」
今度はパーティーに関する話を決めていく。まだ、この先どうなるか分からない。それでも、きっと大丈夫と、みのりはそっと目を伏せた。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.489 )
- 日時: 2022/04/21 21:28
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: n/98eUHM)
ある夜、シューリニアショッピングモール。普通ならば警備員くらいしかいないそこには、柊サイドの学生組がいた。その側には龍と人間のハーフである水蓮がおり、さらにその足元には縛られた警備員たちがいる。
「ありがとうございます、水蓮さん。わざわざ確認に着いてきてもらって……」
「いえいえ、イチカはお気になさらず。レオ・ベイカーはもはやこのハザマセカイの一員。私が手を貸すには充分すぎる理由です」
にっこりと笑う水蓮。学生組の面々はここに、各ポイントに人目を忍びながら柊が付けた目印を確認しに来たのだ。
何人かは眠い目を擦りながら、それでも自分たちにできる精一杯のことをやろうと頭を振ったりぺちぺちと頬を軽く叩いている。
「よし、早速確認しに行くぞ。確認し終わったら適宜メッセージで連絡を」
「分かりました!」
円堂の返事を皮切りに全員が散っていく。それを水蓮は相変わらず微笑んで見守っていた。
「くそっ、こんなことをしてタダで済むと……?」
「黙らぬか、下郎が」
「がっ!?」
先程の微笑みは一瞬にして消え、水蓮は一人の首を掴む。その瞳はいっそ見惚れてしまいそうなほどに冷たい。
「このハザマセカイにて、マスターハンド様とクレイジーハンド様の御手を煩わせおって……その罪、貴様らの命ひとつで償えぬものと思え。
今とてイチカが言わねば塵一つ残さずに消してやるものを……まあ、良い。今はおとなしくしていろ。暴れようなどと思うなよ?
私は……あまり器用ではない」
「ぎっ、い!!」
苦しむ仲間を見て一人は顔を青くして必死に頷く。それを見てやっと水蓮は手を離した。
「……はぁ。やってしまった。これではあのクソ親父みたいではないですか……」
ボソリと呟いた声は、たまたま戻ってきた学生組の声にかき消された。
──────────────
「ガ、ァア、アああア!!」
ガシャン、ガシャンと音を立てて檻の中で暴れるレオを、一人の男が見ている。
フェセク。ずいぶんと前にパラディースでギルガメッシュ(弓)と何やかんやあった男だ。どこか哀れみを込めた目を逸らし、フェセクはレオにどうにかなるといいな、と声をかけた。無意味だと分かっていても。
「あいつらが、頑張れればいいんだけどよ」
あの日、倒れたエマに情報を教えたのはフェセクだった。クリフォードのこの作戦が気に入らなかったから。どうしてなのかまではもう分からないが、それでも気に入らなかった。
もう一度レオを見つめる。理性などとうになくしたレオはもはや獣でしかない。ズキリと胸が痛む。
「俺ができるのは、あれだけだ」
この作戦が失敗に終わればいい。そう思いながら、フェセクはその場を後にした。
──────────────
「……」
クリフォードは一つの報告を気にしていた。その報告は『誰かがマスターハンド、クレイジーハンド側の人間に情報を教えた』と言うものだった。とは言え、その『誰か』はおおよその検討が付いている。そしてその『誰か』はまだ使える人間だ。なるべく捨てたくはない。
しかし、完全に知らんふりをすればまた情報を渡されてしまうかもしれない。一度や二度ならばともかく。さてどうしたものかと足を組む。
ふ、とガラス越しに側に控えている黒猫が目に入る。ああ、丁度いい『道具』があるじゃないか。
微笑みながら黒猫に振り向く。
「黒猫」
「はい」
「『お願い』があります」
『お願い』の内容を伝えれば、黒猫はみるみる内に顔を青くした。だが、黒猫は逆らえない。捕らえている鴉とか言う子どもの無事、そして少しではあるが待遇を良くすると言えば、黒猫は震えながら頷いた。
それに気分が良くなる。そうしてまた振り向く。
大きなガラスケースに黄緑色の液体が満ちている。その中で眠るのは、金色の長い髪の美しい女だった。女を見てはぁ、と恍惚とした息を吐く。
「ああ、ローザ。キミが目覚める日が待ち遠しい。キミは、私を愛してくれた。私もキミを愛している。
きっと目覚めたら、『洗脳』は解けているよ。また愛し合おう、ローザ、愛してる、愛してる。
キミ以外なんて、存在する価値もない道具だ。もちろん、私も含めて。
ローザ、ローザ……ふふ、ふふふ」
全てを道具と見做す男は、ただただ恍惚と笑みを浮かべ続けた。
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とある男は思い切りため息を吐きたくなっていた。まあ、何とか飲み込んだが。
「全く、ここは一体どこだと言うのだ……なぁ月島」
「同意見ですね、鯉登少尉殿」
暗くなりつつある森の中、隣でぶつぶつと何か言いながら歩く浅黒い肌を持ち端正な顔立ちをした男、鯉登音之進と自分、月島基は仕事のために行動を共にしていたのだが……突然何かに引っ張られるような感覚を感じた瞬間に、情けないことではあるがぐらりと視界が揺れたとほぼ同時に意識を手放してしまった。それは隣にいる鯉登もそのようで、目覚めてしばらくは「キェエエエ!!(猿叫)」と早口の薩摩弁の連続で目が死んだのは仕方ないことだと思う。
とは言え、どちらも軍人。混乱もそこそこに辺りを捜索し始めたのである。木々に目印となる傷を等間隔で付けつつ、人に会えれば現在地を聞き、それを元にまずはここに来る前にいた場所に戻る手立てを考えねばならない。そうでなくても道か川を見つけることさえできれば、それを辿って町か村を見つけねば。
そう思っていたのだが、一度この森を出た先にはとても日本とは思えない光景が広がっていたのである。
「何なのだ、あの大きすぎる建物は……。工場ではなかったようだが……そもそも人々の服装も、何もかもが我々の知っている物ではなかった」
鯉登はそう呟き、月島は先ほどの大きい建物を思い出していた。人々は洋服を身に付けてはいたが、少なからず二人がいた時代では考えられないような服ばかりだった。それだけでなく、乗り物も自分たちの知る物とはだいぶかけ離れており、困惑ばかりが勝っていた。
とにかく離れたが……一体全体どうなっているのか。まだ北海道から別の……それこそ長崎あたりにでも飛ばされていたと言われた方が納得……できなくもない。この不可思議な状況からすれば、だが。
最悪なことにどちらも財布を宿に忘れてきており、無一文。宿を新しく取るどころか多少の買い物すらままならない。いざとなれば川でも見つけて魚を獲ることを考えておくべきか。いや、そうしないとならないだろう。それに加えて雨風凌げる場所も見つけておきたい。
「…………、おい、月島ァ!」
「! 失礼しました、鯉登少尉殿」
「先程からお前もぼうとして、どうした。……いや、私もついぼうとしてしまいそうになるのだが。
金もなく、銃弾も手持ちの分だけ。無駄撃ちは避けたい。頼れるのはもはや軍刀のみ。かと言ってあの建物にいきなり入っていくのも避けたいところだ。
言語化するには少しばかり難しいのだが……どうにも嫌な予感がする」
「……そちらも、同意見です」
ただ調べるだけならば、あの建物に入って情報収集なり聞き込みをすればいい。だが、あの建物は『嫌な予感』がするのだ。経験上、こういう時の勘というのは妙に当たりやすい。
二人であの建物を見る。……やはりまだそれは拭えない。
「とにかく、今は野宿できる場所を探しましょう」
「……仕方ない、か……」
ものすごく嫌そうな顔をしている鯉登にあえて気付いていないフリをして月島は目印を頼りに元来た道を戻っていく。
次の日以降はどうするかを考えながら。
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