二次創作小説(新・総合)
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.504 )
- 日時: 2022/06/20 12:40
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: n8TUCoBB)
レオ・ベイカー奪還戦・2
「が、ぁっ……!!」
レオが叫びながら、何度も何度もライリーを殴り続ける。『赤い服を着たパペット』は二段階目の存在感が溜まると解放されるもので、そのパペットのみが『攻撃をしながら入れ替わることができる』能力を持っている。事前にレオの存在感を多少奪うとは聞いていたから油断していた。
外にいるレオらしき物は、おそらくレオの『復讐の炎』による影だ。そうやって忍び込ませることにより、存在感を溜めていたのだろう。
「ライリーさん!!」
エミリーの声が聞こえる。元々下で待機していただろうピアソンはここにはいない。そうなれば粘着役のメンバーも下にいるだろう。
激しい痛みの中、嫌に冷静な自分を思わず鼻で笑う。ただ、何となく思うのだ。これは死んだ、と。
ここにいるのはエミリー、ラック、フィオナの三人。この三人では、レオは止められない。他のメンバーが駆けつけるにも時間がかかる。だとすれば、もう。
この際、自分とマーシャの復讐が果たせないのはいい。ただ、心残りはいくつもある。死ねない。どうしようもないのは分かっている。それでも。
「おりゃぁあああ!!」
レオに何かが当たり、小規模の爆発のようなものが起こった。レオがそれを振り払うように暴れ、全員が呆気に取られていると今です! と声がした。
何とかそちらを見れば、圭一と誠、苗木が信号銃のようなものを持って立っていた。圭一の銃から煙が出ているということは、彼が撃ったのだろう。
すぐにエミリーが駆け寄ってきて治療を始める。フィオナはなるべく離れているところに二階へ繋がるワープを貼っていた。
レオが再び武器を振り上げる。が、それを今度は誠が許さない。銃が再びレオの動きを止めた。ライリーが何とか立ち上がれる程度になる。そのままフィオナが駆け寄ってきて肩を借りながらワープまで歩いていく。
今度は苗木が銃を撃ち、レオの動きを止める。わずかな時間でも、連続すればそれなりの時間にはなる。レオが再び動き出しても、二人はぎりぎりの所でワープに入り、武器は二人ではなくワープを壊すだけだった。
「が、ああ」
ぐらり、と視線が三人に向く。が、それはエミリーが許さない。三人の前に思い切り腕を広げて立ち塞がれば、レオの視線は彼女に向いた。
「エミリーさ、」
「三人とも、すぐに逃げなさい。ラックさん、三人を!」
「分かりました! さ、こっちだよ!」
ラックが三人を連れて離脱する。三人とも心配そうではあったが、彼らを危険に晒すより余程いい。
そうしているとラックが突然ダイアー先生! と何かを投げてきた。それを受け取る。
「これは」
「それ、使って下さい!」
それは、ウィラがゲームで使用する『忘却の香水』であった。どういうわけかこれを使っている間に受けたダメージは基本的に綺麗さっぱり忘れることができる。怪我すらなかったことになるのだ。また、最初に使った位置に戻ることもできた。一度何を使っているのか聞いたことがあるが彼女はただ微笑んで謝りながら『企業秘密というものです』とだけ言っていた。
これがあれば、かなりの時間を稼ぐことができる。真っ直ぐにレオを見据える。……ああ、と思わず息が漏れた。
苦しそう、と。無理もない。やりたくないことを彼はやらされているのだから。娘を無理やり害するよう仕向けられ、ダーズの力をその身に宿されている。どれだけ抵抗しても、無意味で。
「レオさん、もう少し待っていて。もう少しで、きっと全部終わらせることができるから……!!」
そのために、自分はできる限りの時間を稼ぐ。それが自分にできる精一杯だ。
……だが。
「ガぁ、アあ!!」
叫んだかと思えば、レオから『複数の影』が分裂する。復讐の炎による影は一つしか出せない。まさか、ダーズの力によるものか。
すぐに駆け出す。通信機をなんとか取り出し、後ろを少しだけ見る。一体の影とレオがこちらを追っているものの、他の影は次々と別方向へ散らばっていく。
「全員気を付けて!! レオさんの影が複数分裂、一体以外は別方向へ散っていくわ!!」
それだけ通信を入れるとエミリーは走ることに集中した。どうか、全員無事であるようにと祈ることしかできずに。
─────────────
「ひ、ひぇえ……!」
「る、ルカさん、描けましたか!?」
「っああ、これで、終わりだ……」
「じゃ、じゃあ! 全員で逃げるッスよぉ!!」
「早く早く!!」
大慌てする壁山たちを落ち着け、と声をかける。だが、無理もない。
激しく痛み出した頭を抑え、よろけながらも立ち上がる。そこにルカさん! と後ろから声がしてそちらを見ればラックと苗木たちがこちらに駆けてきていた。
「ラック」
「ルカさんも描けたんですね、じゃあみんなで一旦離脱しましょう! 僕はみんなを送ったら戻りますから」
「ああ……」
そうして全員でその場を後にする。ルカの歩幅に合わせて、ゆっくりとではあるが見つかることもなかった。
少し見てきます、と少林寺が先に駆け出す。ルカがああ、と返事しようとするが、息ごとその声を飲み込んでしまった。
……影が、現れたことで。
ルカが駆け出す。少林寺の前に出て彼を守るように立ち塞がり、放電をする。影だが少しだけ怯んだようだった。
「ルカさん!」
「逃げろ!!」
「う、うわあっ!!」
誠の声にそちらを見る。……そこにも影。周りを見渡す。あと二体、こちらに向かってきている。
「や、やばい、やばい……!!」
合計四体の影を、ラックと共に壁山たちを守りながら突破する。とてもではないが無理だ。見ればラックの持ち物には信号銃はない。攻撃から庇うにしても、どちらも二回までが限界だろう。
痛みで回らない頭を無理やり回すが、いい案は浮かばない。一つの影が鎌に似たそれをルカに振り上げる。
「ルカさん!!」
誠がルカを突き飛ばす。すぐに起き上がるが、もう彼を助ける術はなかった。
「誠!!」
「伊藤クン!!」
「伊藤さん!!」
学生組の悲鳴のような声が彼の名を呼ぶ。そうして……。
「おやめなさい」
影は、突然現れた一人の少女によって散らされた。誰もが呆然としていると少女は影に向かって手を翳す。すると影はしゅわりと泡のように消えていった。
ふわりと微笑んだ金髪のボブショートをした天使のような少女はご無事ですか? と誠に問う。
「あ、は、はい」
「それなら良かった。そちらの坊やたちも無事かしら?」
「は、はい……」
宍戸が返せば少女はほっと息を吐いた。そこでやっとルカは気が付く。彼女の関節が、『球体』で繋がっていることに。
……彼女は、中央広場で飾られていた『人形』ではないか?
「あの、き、キミは」
栗松が聞けば申し遅れました、と彼女は見事なカーテンシーをしながら自己紹介を始めた。
「わたくしは『エルゼ』。恐れ多くも、このハザマセカイにて女神と呼ばれる者です」
「女神さま!?」
「うふふ、そうです。……ここのオーナーにわたくしの肉体となる人形を買い取られ、展示されていたところを、このような騒動に……。
でも、間に合って良かった。皆さま、ここから避難なさるのでしょう?
そちらの方は体調がすぐれぬご様子です、わたくしに皆さまを守らせていただけませんか?」
優しい微笑みを浮かべて可愛らしい声で言う女神、エルゼに誰もが頷いた。ありがとうございます、と彼女は頭を下げて参りましょう、と先導してくれる。
それに安心しながら全員が着いていく。
──ゾッとするような笑みを浮かべた彼女に気付かぬまま。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.505 )
- 日時: 2022/06/20 12:43
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: n8TUCoBB)
クソ、と毒づきながらガンジ・グプタは走っていた。本来ならば今はレオを引きつけるピアソンの補助に入っていたが、レオの赤いパペットのせいでエミリーが一人で引きつけることになっている。
時折入ってくるメッセージの方向を頼りに、エミリーの元へ走っていた。ピアソンもピアソンでエミリーとの合流のために別方向へ走っていった。最初に彼が合流できるならばそれに越したことはないのだが。
「っこの!!」
「!?」
聞き覚えのない少女の声。そちらに目を向ければ、白と黒の髪をした少女が二つの影と対峙していた。少女は小さな棒一本しか持っていない。左肩からは血が滲み、彼女の服を赤黒く汚している。
影の一つがゆっくりと少女の背後から近づいていく。ガンジはすぐにクリケットバットとボールを構え、渾身の力を込めて打つ。ボールはまっすぐに背後から近づく影に向かい、横の腹を抉るように命中し、そのまま後退していく。それで少女もようやくこちらに気付いたのだろう、目を丸くしてガンジを見ていた。
すぐに駆け寄り、こっちだ、と手を引く。わ、と少女は声を上げるも全く抵抗せずに着いてくる。
「どうしてここに、さっきの騒ぎを見ていなかったのか?」
「……別に、関係ないです」
「関係ないだと!?」
「っ!」
ツンとした少女の態度に思わず声を荒げれば、少女は目をぎゅっと瞑り、体をびくりと震わせた。
「っ、あ……すまん……。その、俺はあまり感情のコントロールが上手くなくて。……いきなり声を荒げてすまなかった」
「……いいえ。慣れてますから」
「慣れてる反応じゃなかったぞ。慣れていても、そうしていい理由にはならない。
とにかく、外に客が避難している広場がある。そこまで送っていくから、安心しろ」
「……変な大人ですね、お兄さん」
「? いや、普通だと思うが……」
「ふぅん」
そう言って少女は黙り込んだ。ボールはさっきの物を回収したから、まだ三つある。ブーストをかけて思い切りぶち当てなければ彼女を外に送り届けるまでは持つだろう。
通信機を使い、同じく粘着に入るウィリアムにざっと説明をしておく。彼は頭が悪そうに見えるが、その逆でかなり頭がいい方に入る。ガンジが見た限りでは、だが。
「お兄さん、名前は?」
「は?」
「名前、聞いてるんです」
「……ガンジ。ガンジ・グプタだ」
「ガンジさん。……ガンジ、さん」
二回ほど繰り返し、彼女はまた黙り込んだ。出入り口が見えてくる。微かに見える黒い何かからどうにか守り切れればいいが。そう思っていたらジークフリートの姿が見えた。彼と共に行けば安全に送り届けられるだろう。
あの、と声をかけられて足を止めてしまう。振り向けば、少女は妙に艶っぽい笑みを浮かべていた。
「助けてもらったお礼に、イイコトしてあげましょうか? 後で、になりますけど」
「……は?」
「大人の男の人は、ほとんどがそう言うので。お兄さんもそうでしょう?」
「……」
思わずデカいため息を吐く。彼女と向き合い、そして。
──ベシッ!
デコピンで済ませてやる。
「ぁいたあっ!?」
「何言ってるんだ、子どものくせに」
涙目で額を抑えている。先ほどまでの表情は何だったのか、今の彼女の顔は年相応な顔だった。
「な、な!? だ、だって! みんなそう言って!」
「その『みんな』に俺を含むな。馬鹿なこと言ってないでさっさと行くぞ。外に仲間が見えた。かなり腕の立つやつだから頼りになる」
もう一度手を引いて外へ走る。ああ、そういえば。
「お前の名前はなんなんだ?」
「……シルヴィー」
「シルヴィーか、まあ、良い名前だな」
「……!」
「響きが綺麗だ」
そんなことを軽く話すが、何も言わない。まあさっきから何度も黙ることが多かったからあまり気になりもしない。
だから気付くこともない。出入り口のガラス越しに映った、シルヴィーの赤い顔に。
─────────────
外。避難誘導はほぼ終わりを迎えていた。広場の周りには黒いモヤで作られた何かが集まってきており、それを柊サイドの面々が倒していく。
八九は本体である銃──八九年式小銃を構え、弾を放つ。時折少し離れたところでピン、という音がして、矢が放たれたり、小規模の爆発が起こっている。罠を得意としている玖龍によるものだ。
ハンドガンとナイフを駆使して遠近どちらもカバーするラウレンツは守りが薄くなりつつある場所へ走ってはそこを守りながら指示を飛ばす。
マスターであるオリヴァーはここにいて、空にいる敵を撃ち落としていた。それ以外にも味方が多くいる。だが、敵はそれ以上に多かった。多くは息を切らせている。八九もその一人だ。普通の人間よりは体力がある自信はあるが、同じ貴銃士に比べればない方という自覚はある。
後ろから軽く何かがぶつかる。振り向けば、アイドル、と傾向は違うものではあったものの同じヲタクということから気が合った食霊のオムライスがぜぇぜぇと息を切らせ、滝のような汗を流していた。
「おい、大丈夫か」
「こ、これしき。ゼリッち限定グッズの行列や御侍たんの苦労に比べれば……!!」
「いや行列どんだけだよ」
しかし後どれくらいの敵を倒せばいいのか。見通しが立たない状況では、士気の低下にも関わる。
羆型のアウトレイジャーを模した敵を撃ち抜く。が、後ろにいたオムライスが足をもつれさせて転んでしまう。それに巻き込まれて八九も倒れてしまった。
その隙を、狙われないはずがなく。あっという間に周りを敵が囲む。それに気が付いた刑部姫が彼女の使う特殊な折り紙で作られた馬やコウモリなどで攻撃していくが、とてもではないが間に合わない。
思わずどちらも目をキツく瞑る。その時だった。
「あっひょー!!」
目の前に何か重いものが落ちるような音と揺れ、悲しいことに短期間で聞き慣れた声、そしてグシャ、と何かが潰れる音。
目を開けば、今回の作戦には参加しない……どころか最初から今まで『自分には関係ない』という顔をしていた黒髭がそこにいた。
「は、おま」
「く、黒髭氏!? 何故、今回の作戦には参加しないと」
「デュフフフフ、拙者自身そう思ってたんだけどネ♡」
ガサ、と黒髭は何かを持ち上げた。それは……紙袋。彼が微かに震えながら取り出したのは、上半身と下半身がぽっきりと折れた美少女フィギュアだった。
瞬間、ギラリと黒髭の目が光り、敵を睨みつける。
「このクソ野郎どもが暴れやがったせいで俺の『ドキッと♡サバキュア』のシューニリア限定サバキュアたんフィギュア(数量限定)が鯖折りにされちまったんだよォーーッ!!
それだけじゃねえ!! この紙袋の中にゃあここで買ったグッズの!! 残骸(と書いて俺の無念)が!! 入っているッ!!
到底許されることじゃあねえぜェエエーーーッ!!」
「……」
「……アッハイ」
「黒髭は激怒した。必ず、かの訳分からん敵を除かねばならぬと決意した。というわけで喜べおめえら俺が参戦だぁ!!」
「喜べねえ〜……」
「とりあえず助けてもらったことは感謝しときますぞ」
「どうせ助けるなら美少女とか異世界転生した拙者のことをだーい好きになっちゃったケモ耳ロリとかが良かったよね」
「感謝返せでございます」
短い付き合いではあるが、通常運転と分かる黒髭に呆れた目を向ける。限定品が台無しになって悔しい気持ちは痛いほど分かるがここまでか、と。
相変わらずだねー、と通信機からロング・アイランドの声がした。
『でも〜、ここで正義に目覚めたーなんて来たら、それこそくろひーじゃないの〜』
「まあそれは分かる」
「ひっどい」
「逆に聞きますが、自分ではどう思います???」
「それ拙者じゃないなって」
「ほら」
そんな会話を敵を倒しながらしていく。ふぅ、と息を一度整える。
後ろからヒュ、と空を切るような音がした。そちらに目を向けると、一本の矢が刺さった羆型の敵が消えていく瞬間だった。
「な」
「大丈夫か!?」
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.506 )
- 日時: 2022/06/20 12:46
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: n8TUCoBB)
聞き慣れない声。それは、アイヌの服を身に纏った青い瞳の少女のもので。その後ろには軍帽を被った顔に大きな傷のある男と、坊主頭で半纏を着ている男、そして一等大きくムッチリとした男がいた。傷のある男とムッチリとした男はそれぞれ銃(おそらくは三十年式歩兵銃)を構え、両方から来る羆型とライオン型の敵を撃ち抜いている。
何故今は使われていない銃を持っているのか、八九は疑問に思うものの、今は深く聞いている暇はないと判断し、ああ、とだけ少女に返した。
ふと気が付いた。傷のある男とムッチリした男の服は、よく見れば軍服だ。軍帽を見る。ずいぶんと昔のもので、幾分か使い込まれているが現代で見れば新しいものだ。
「何か俺に言いたいことでもあるのか」
「っ、わり。少し考え事してただけだ。気に障ったか?」
「……いや。こんな状況でぼーっとしてるのは危ねえぞ」
「(優しい)」
傷のある男の優しさにじんわりとしたものを感じながら、再度本体である銃を構える。こんなところ、大先輩である邑田に見られたらどんな嫌味と、無理難題を押し付けられることか。視線を感じるからもう遅そうだが。
なお、坊主頭の男はささっと避難していた人々に混ざっていた。無理もない、彼だけ武器らしい武器を持っていないのだから。
アイヌの少女は矢を構え、別の方向にいる羆型の敵に放つ。的確に飛んだ矢は敵に突き刺さる。どうやら毒でも付けているのか、数歩歩いただけの敵は倒れながら霧散していた。そんな中、一体の馬型の敵が少女へ近付いていく。そのまま頭に角のように付けられている刃物を少女へ向けた。
だがそれを傷のある男が許さない。銃床で殴りつけ、倒れた馬型の敵の首をすかさず思い切り踏み潰した。それだけに留まらず、首に銃口を付け、そのまま引き金を引けば超至近距離で放たれた弾は首を貫き、敵は当然消えていった。
呆然としていると彼は獣のような……いいや、それ以上に鋭い目で消えていく敵を睨んでいる。
「アシリパさんに手ぇ出すんじゃねえよ」
先ほどとは違う、身震いするような低音に底知れぬ怒りを感じ、八九は思わず身を震わせた。アシリパ、と呼ばれたアイヌの少女は「スギモト!」と彼の名らしい名を呼んだ。
「私は大丈夫だ。だが、助かった。ありがとう」
アシリパがそう微笑めばスギモト、と呼ばれた男は優しく微笑み返す。
「あれー!? ちょっとー!? 美少女が増えてるじゃないでつかー!!」
「うっわ気付きやがった」
「おひょー!! 鼠蹊部をぺろぺろしたいしぺろぺろされたい!! ねえねえそこな美少女、拙者とぺろぺろし合いませんかー!?」
「うっわぁ(ドン引き)」
「ないですなー。だからエウリュアレちゃんさまにも嫌われるでございますぞー」
「……殺す」
「スギモト、落ち着け!」
「落ち着けは同意だけどアシリパちゃん、あいつには近づかないようにねー!?」
坊主頭が離れたところからそう言えば、元からそのつもりだ、と顔を顰めながら言った。そそ、とアシリパの前にムッチリした男が立ったからか黒髭もわりと不機嫌になったがもうこいつは無視していいだろう。
それに遠くから邑田が「何を遊んでおる未熟者め」と言わんばかりの笑顔で見てきている。これ以上はいつも以上の無理難題を押し付けられる可能性が出てくる。
ふ、と頭上に影がいくつもできた。それとほぼ同時、羆型、馬型、ライオン型……全ての敵がふわりと浮く。奴らは全て抵抗するように暴れているが無意味で。飛んでいく先を見上げれば、黒いモヤと化した敵が皆一点に集められていく。
「まさか」
「これは……」
『アレだよねぇ〜』
黒いモヤは徐々に形を作っていく。羆型をメインにした、巨大な化物へと。全てが集まったのか、化物は咆哮する。その咆哮による震えが、人々を恐怖させた。……一部を除いて。
「一体、何が……!!」
「くそっ!」
ムッチリとした男が銃を撃つ。しかし、化物には効いた様子もない。それどころかヘビとなった一部が男を襲い始めた。
「谷垣!」
「ぐっ!」
巻きつくヘビを掴み、引き剥がそうとするが数が多くて間に合っていない。スギモトや近くにいたオムライスらが手伝い、新たに襲いくるヘビを毛利が斬ってやっと全てを剥がせた。
「すまない、助かった!」
「しかし、この大きさは……!」
「いや、むしろこれは」
「こっちにゃいい報せも兼ねているのでは〜?」
「は?」
黒髭、八九、オムライス、刑部姫。多分遠くにいるロング・アイランドも笑っていることだろう。
「後ろを見ろ。建物の中から少しでも明るくなってねえか?」
八九の言葉に何人かが振り返った。確かに、という声からそれは確信に変わる。
「つまり、この敵はそろそろ本格的にやばいから巨大化したでございますよ!」
「だとしても、こっちが不利になってるんじゃ……」
「いいや」
ニィ、と黒髭の口角は吊り上がる。宝具解放、と言えば眩い光が辺りを覆った。それに目を瞑り、光が収まった頃に目を開く。
宙には巨大な海賊船──『アン女王の復讐号』(クイーン・アンズ・リベンジ)が浮いていた。その上には黒髭が堂々たる姿で立っている。
「なっ……!?」
「そ、空に船が!?」
「ど、どうなってんだ一体……」
おそらく初めて見たであろう四人は目を丸くして船を見ている。しかしそれを知らない黒髭はその手に付いた武器を化物へと向け、叫んだ。
「いいか、三下。特別に教えてやろう、しっかりそのねえ頭に刻んで覚えておけ。
『敵の窮地の巨大化は〜?』」
その声に、いつの間にやら四人が合わせていた。
「「「「『敗北フラグ!!』」」」」
「ってな訳で! エドワード海賊団一名、参陣!
鉄と火薬は海賊のロマン! バスターバスターもういっちょバスター!
『アン女王の復讐(クイーンアンズ・リベンジ)』!!」
いっそ気前良く放たれる砲弾を、化物に浴びせていく。その際に発生する風やら何やらで周りにも被害が出ているが知ったことではないとばかりに。何せこちらには。
「あーもうくろひーめっちゃバカスカ撃つじゃん。まあいいけどね?
……姫路城中、四方を護りし清浄結界。こちら隠り治める高津鳥、八天堂様の仕業なり。即ち『白露城の百鬼八天堂様』。ここに罷り通ります!」
刑部姫がいる。
それだけではない。別の場所ではジャンヌ・ダルクやキャスター・アルトリアがそれぞれ宝具を展開している。人々には一切被害は出ないだろう。
「マスター、使うぞ」
「うん、八九!」
禍々しい力が八九を取り巻く。それによってオリヴァーの手の甲の薔薇の傷が広がるが、これは仕方ない。
『絶対非道』の力を使って、本体の分身を作る。そして、それと共に弾を放っていく。オムライスもオムライスで自分にできる攻撃を放ち、空からはラジコンサイズの艦載機が化物を撃っている。
「ほーれ見ろ、巨大化は敗北フラグだったろ?」
黒髭が放ったのは、なすすべもなく弱っていく化物への嫌味だった。
ショッピングモールからゆっくりと、それでも強くなる光。それは、もうすぐでこの作戦の成功を知らせるもの。
「後もう少しだ」
近くにいた長谷部の呟きに、喜びの色を感じたのも無理はないだろう。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.507 )
- 日時: 2022/06/20 12:49
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: n8TUCoBB)
レオの叫び声が響く。カチ、とピアソンがライトを切って少し離れた場所を並走している。時折ノートンの磁石やパトリシアの呪い、ウィリアムのタックルやモウロとイノシシによる突進、とにかく補助できるメンバーと共にレオを引きつけていく。
『残り、一つだ!』
『確かR地点だよね!?』
カートとホセから連絡が入る。確かR地点にはツェレがいたはずだ。彼女が影から不意打ちをくらっていなければ、そろそろ。
『描けたわ! 最終地点に彼を誘導して!』
「! 了解!」
エミリーが再び走り出す。けれど、大きな揺れが建物を襲った。そのせいでバランスを崩したエミリーは倒れ、レオが『神出鬼没』を使って距離を縮めた。目をキツく瞑る。鈍い音がする。
けれど、痛みはなく。代わりにピアソンの呻き声がして。目を開けば、ピアソンが前にいてエミリーを庇っていた。痛みを堪えながら彼はライトをレオに当て、再び怯ませている。
「ピアソンさ、」
「まだ、やられるわけ、には、いかない、だろ」
「……ええ」
そうだ、ここで倒れてしまうわけにはいかない。ここまで来たのだから。
立ち上がり、二人で中央へ向かう。あと少しで、彼を解放してあげられる。
そう、思った。
ガツン、と鈍く、通常よりも強い衝撃。後ろからはピアソンの悲鳴が聞こえた。倒れ、それでも何とかレオを見る。
消えていく一体の影。倒れたピアソン。そして、レオの目に灯る赤い光。『引き留める』が発動した時に灯るものだった。
「な、んで……」
条件としては確かに揃っている。しかし、先程まではなかったはずだ。何故。まさか、これもダーズの力によるものなのだろうか。
いずれにせよ、もう少しなのに。
「パパ!」
聞き覚えのある声に、思わずそちらを見る。そこには、エマがいて。
「リサっ……!」
「パパ、こっちよ。こっちに来て」
「ぎ、ぁア、が」
よろり、よろり、と近づいていく。あの方向は。
「パパ」
「り、ア」
「もう、終わりにしよう? 苦しまないで……」
「ア、アァ、グガ、ァ!!」
武器が振り上げられる。エマは、逃げない。
パキン、と何かが割れる音がした。
「……やっぱり。ありがとう、私」
エマには、ゲーム時に発動する『パパの加護』という特質がある。しかし、今は発動しないはずだった。うっすらと、誰かが彼女の後ろにいる。それは、エマ本人であり、エマではない彼女。
きっと、彼女は頑張ってこの『加護』をくれたんだろう。そう思ったエマがそっと目を閉じれば、中央から全てを飲み込んでしまいそうなほど強い光が溢れた。
それはただ、暖かい。けれどレオは大きな悲鳴を、呻き声を上げている。レオから、黒いモヤが追い出されていく。
「パパ」
エマが、そっとレオの手に触れた。
「もう、大丈夫なの。帰ってきて、パパ」
「リ……サ……」
少しずつ、少しずつレオの目に光が戻っていく。光が、収まっていく。
完全にそれが収まった時、レオは数回瞬きをして、しっかりとその目に愛娘を捉えた。
「リサ……」
「パパ……おかえりなさい」
「リサ……リサ……ああ……! すまない、すまない、リサ……!」
「ううん、私、怒ってないよ。だから、みんなで帰ろう? パパ」
「ああ、ああ、そうだな……!!」
くしゃりと笑いながら、レオがエマの頭を撫でる。作戦が、成功で終わった。誰もがそう考え、わっ、と歓声が上がった。
─────────────
「おや」
ショッピングモールから離れた上空。そこにクリフォードは『浮いていた』。彼の手には折れた黒の指揮棒がある。
「レオ・ベイカーは正気に戻されてしまったようですね。ダーズ様の力を借りて邪魔をしてみましたが、大して効果も成さなかった……。
まあ良いでしょう。奴らの手の内を少しでも見られたならそれはそれで良い収穫です。
それにしても、人間とはやはり不便ですね。あのような術式、私ならば十分もかからないというのに……。あれほどの傷を負うこともない。
なのに、わざわざ一人を助けようと……あれがローザなら分かりますが、理解できませんね」
呟いてふぅ、と息を吐く。彼は緑の髪を『尖った耳』にかけた。
ふと、気配を感じる。
「……これは。私はもう要らないと思っていましたが、ダーズ様はまだレオ・ベイカーを必要としているのでしょうか?
それなら特別邪魔する理由もないでしょう。手を貸す理由も、ありませんが」
そう言って、クリフォードが指を鳴らすと彼の後ろに黒い穴が出来た。そして、クリフォードが穴に入ればその穴はすぐに閉じてしまった。
─────────────
屋上。今の今まで術を使っていた柊は、すでに血塗れで、息も絶え絶えだった。腕、脚、背中……とにかくありとあらゆる場所から血が噴き出した。奇跡的に目は無事だったが、とても歩けるような状態ではない。
「主さん!」
蛍丸が駆け寄ってくる。何とかそちらに顔を向けた。
「ほたる……まる……」
「バカ、バカバカバカ! こんなに無茶して!」
「はは……さすがに、かんべん、して……。こんかいは、どうしよう、も……ゴホッ!」
咳き込むのと同時に、少量の血が指の間を通り抜ける。
「っ!」
「これ、きよみつ、たちに、は、みせらんない、ね」
「当たり前、だよ、バカぁ……!」
蛍丸の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。頭を撫でてやりたいが、手が動かない。ごめんね、と言えば、怪我治して頭なでなでしてくんなきゃ許さない、と返される。つまりしばらく許されないらしい。
苦笑いすれば、他のメンバーもこちらへ来ていた。
「祢々切丸、マスターを頼めるか?」
「無論だ」
ブラウンに言われた祢々切丸が頷く。元々より一番身体が大きい彼に抱えて戻る予定だったから戸惑うこともない。
頼むね、と口にしようとした瞬間。
「がっ!?」
「主さん!?」
「!! 邪気……下の入り口から!?」
「あ、がっ、は!!」
今までこのショッピングモール内へ二神の力を流していたせいか、下に突如発生した邪気に強く当てられてしまう。
無理やり身体中をこじ開けられるような不快感と、強烈な痛み。もはや、獣のような叫びを上げることしかできることはなかった。
─────────────
ショッピングモール入り口。ボロボロになったライリーとピアソンをそれぞれウィリアムとナワーブが肩を貸している。サバイバーの面々が外にいた仲間たちと喜びを共有している。
学生組は軽い説教されているが、その表情はどこか晴れやかだ。
ルカ(第五)は頭痛薬を飲んだのか幾分か顔色は良くなっている。それでも心配そうなアンドルーとビクターにへらへら笑いながら大丈夫と言っていた。
ああ、なんて穏やかな光景だろう。
「パパ、早く帰ろ! まず帰ったら〜……そうだ、ご飯食べるの! エミヤさんがね、ニホンの『オニギリ』って食べ物を作って待っててくれるらしくて、あとサンドイッチも!」
「そうか、きっと美味しいだろうな」
「うん! あのエミヤさんのご飯なんだから、美味しいに決まってるの!」
「そうだな。そう、だな……」
「久しぶりにパパとご飯、楽しみなの!」
わくわくしながら前を歩く愛娘。ああ、なんて……なんて、愛おしくて。悲しいのだろう。
「リサ」
「?」
「ごめんな」
「え? パパ……」
リサの背を強く押す。きゃ、と言う短い悲鳴に誰もがこちらを見た。
「いたた……何するの、パ……」
リサの目が見開かれる。自分の身体中には……黒い蔓が巻き付けられていた。
瞬間、下の地面がまるで沼のようにぬかるみ、一気に引き摺り込まれていく。
「パパ」
「リサ」
「パパ……!」
「ごめん」
「パパぁっ!」
「幸せに、なりなさい」
まるでそれが遺言であるかのように。レオ・ベイカーは、その身体を沼に沈められて……。
コメントOK