二次創作小説(新・総合)

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.525 )
日時: 2022/08/11 18:21
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: E5D2o5gk)

異世界にて、恋に出会う

 ぜえ、ぜえ、と肩で息をする一人の男は忙しなく辺りを見渡していた。警戒するような仕草はしばらくして、ふぅ、と吐いた一つの息で終わる。手で額から滴る汗を乱暴に拭う。その額には大きな傷があった。
 少し長い髪は一つに纏められ、顎髭の生えるその顔は若々しく、目立ちはしないだろうが整っている。
 奥山おくやま夏太郎かんたろうはどうなってんだ、と呟いた。
 夏太郎はここにいる前は自分が経営する牧場にて羊の世話をしていた。そろそろ毛を刈れる頃か、と思ったのも覚えている。だが、突然眩暈がして地面に倒れたはずが、空がどんどん遠ざかっていたような気がする。いや、そもそも地面に倒れたような感覚もなかったような。
 何にせよ、次に目覚めた彼がいたのはここより少し離れた草原だった。牧場によく似ているが、苦労して用意してきた柵だとか様々な物がなかったから、すぐにそこが今までいた場所ではないと悟ったが、落ち着いて行動できるほど夏太郎は冷静ではなかった。
 忙しなくその場を右往左往し、終いには頭を抱えて叫びそうになった時に、足をちょいちょい、と突かれたのだ。そちらを見れば人間の子どもサイズの蟻がいて。
 一瞬硬直して……今度こそ叫びながら駆け出した。そして、今に至る。
「な、なんなんだよあの蟻……」
 人からしてみれば決して大きくはないものの、あんなサイズの蟻は見たことがない。いたらいたで嫌だが。
 何故いきなりあんなのが、いやそもそもここはどこで、何故自分はここに、と考えてふと、思い至る。
 夢なんじゃないか、これは。と。
 夢ならあんな大きい蟻がいたのも、突然別の場所に来てしまったのも頷ける。ならば、と草原に寝転ぶ。青い空に爽やかに駆ける風が心地いい。
「寝たら、目が覚めるんじゃねえか」
 呟いて目を閉じる。せめてあの蟻が来ないように、と祈りながら。
 ………………。
 と、しばらく目を閉じていた夏太郎だったが。
「あ、あのぅ……」
 聞き覚えのない声が聞こえる。多分、少女の声だろうか。
「だ、大丈夫ですか……?」
 すまない、今目を覚ますために寝てるんだ。声も出さずそう脳内で返答しておく。
「ぐ、ぐすっ」
 ……え?
「あ、の、あの……ぐすっ、ひっく……い、生きて、ますかぁ……? ふぇえ……」
「すみませんごめんなさい生きてます!!」
 慌てて起き上がって目を覚ます。目の前にいたのは、黄色とオレンジを基調とした服を着た美少女であった。美少女は涙で濡れたその目をぱちくりとさせる。が、次の瞬間にはまた涙が溢れていた。
「よ、良かった、ですぅ……!! うぅぅ……」
「ほ、本当にすみませんでした!! だからその、な、泣かないでくれると……!!」
「い、いえ、ごめんなさい、私、泣き虫って、よく言われて……安心しちゃって……ぐすっ」
 美少女は涙を拭きながら微笑む。その愛らしさにドキリとしながらもホッと息を吐いた。
「あ、あの、どうして、ここで寝転んでいたんですか……? ここは今、大型害虫が目撃されていて危険なので、花騎士以外、一般の方は立ち入りできなくなってたはずなんですけど……」
「大型害虫に……ふ、フラワーナ……? え、えーと……実は、気が付いたらここに……」
「気が付いたら……?」
 美少女が聞き返し、夏太郎は頷く。とは言え、どうしても信じがたいことではあるだろう。しかしこちらとしてもそれ以上説明のしようがない。
 美少女は少し首を傾げてハッとした。
「……も、もしかして、なんですけど。あなたは、ニホンにいましたか?」
「え、ああ、はい」
「……メイジ、ですか?」
「はい」
「……だ、団長さんに報告しなくちゃ……!!
あ、あのっ、その! こ、ここはですねっ、あなたのいた世界とは違う世界で、その……か、必ず元の世界にお帰ししますから……ひっく……あの……着いて、きてくれますか……!?」
 今にも泣きそうな美少女に言われたら、とてもではないが断れるはずもない。夏太郎が頷くと、彼女はまた安心したように微笑んだ。
 見惚れている時間もなく、立てますか? と聞かれて大丈夫、と答えて立ち上がり、二人で草原を歩き出した。
「あ、そ、そういえば、お名前聞いてませんでした……はっ。わ、私も、名前教えてませんでした……!! ご、ごめんなさい、失礼なことを……ううう……!!」
「いや、気にしてないから大丈夫!! 俺は、奥山夏太郎っていうんだ」
「お、奥山さん、ですね。ぐすっ、わ、私はヘレニウムと言います……」
 ヘレニウム、と名乗った美少女はこっちです、と迷いなく歩いていく。先ほどまではちょっとしたことで泣いてしまう彼女に大丈夫だろうかと心配したが、その心配は無用のようだ。
 道中、沈黙が気まずかったのかヘレニウムが奥山さんは何のお仕事をしているんですか? と聞いてきた。
 それに羊の牧場だと答えれば羊、と彼女は少し顔を明るくした。
「羊さん、ふわふわで、もこもこで、可愛いですよね」
 ……この子には、現実を突きつけない方がいいかもしれない。そう思ってうん、とだけ返した。
「前から羊の牧場を経営しようと思ってたから、できた時は本当に嬉しかったんだよなぁ」
「!! それって、夢を叶えた、ってことですよね……? すごいです……!
私も、素敵なお嫁さんになる夢があって。素敵で大好きな旦那さまと結婚して、旦那さまを支えながら子どもも産んで、それから……」
 夢を語るヘレニウムは、先程までの態度が嘘のようにハキハキと話し出した。輝くような笑顔で話す彼女はとても生き生きとしている。
 が、突然言葉が尻すぼみになり、赤くなっていた顔はだんだんと青く、そして白になって急に泣き出してしまった。
「ふ、ふぇえ、またやっちゃいましたぁ……! こんな、こんなぁ……!」
「え、ど、どうした急に!?」
「ひっく、わ、わたし、私っ、夢を話しちゃうと、いつもこんな風にしちゃって、うう、はしたなくて……」
「は、はしたなくないって! むしろ、生き生きとしてて可愛いって!」
「……え?」
「……あ」
 思わず飛び出した言葉にお互いが黙り込んでしまう。しかし、ヘレニウムはだんだん顔を赤くして小さな声でありがとうございます、と呟いた。
 が、そのまま二人は気まずい沈黙の中、草原を歩くのだった。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.526 )
日時: 2022/08/11 18:25
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: E5D2o5gk)

 そうしてどれくらい歩いただろうか。ずいぶんと歩いた気がする。沈黙のせいでそう感じるだけかもしれないが。
 ここまでよく沈黙のまま保ったものだと思いながらもそろそろ本当に気まずい。夏太郎が何か話題を振ろうとした時、ヘレニウムが急に手を引っ張り、隠れてください、と近くの茂みへ二人で身を隠した。
「え、ど、どうし」
 どうしたのかと聞こうとするとヘレニウムは人差し指を唇に当ててしー、と言った。その目は、真っ直ぐ夏太郎を見た後、どこか別のところを見た。
「大型の害虫がいました。それも、二匹。……私一人だと、奥山さんを守れるか分かりませんから、一度隠れてやり過ごしましょう」
「が、害虫」
「はい」
 おそらく、彼女の視線はその害虫とやらに向いているのだろう。先ほどまでポロポロと涙をこぼしていた目は真剣にそちらを見つめている。
 ……それにしても。ヘレニウムは本当に可愛らしい顔をしている。最初からそう思っていたがここまで近づくと意識せずにはいられない。
 そして、一つ思ってしまった。こんなか弱そうな女の子に守られていていいのか、と。大型、と言っても先程の蟻を思い出せばせいぜい成人した男くらいではないだろうか。なら、もしかしたら。
 夏太郎は周りを見渡し、振り回すにはちょうどよさそうな木の棒を見つけた。それを手にし、茂みから出ようとすると待って、とヘレニウムが手を掴んだ。
「ど、どうするつもりですか?」
「大丈夫、害虫の一匹や二匹、俺が倒してみせるからさ!」
「え、ええ!? む、無茶ですっ! お願いですから、ここは……」
 悲しきかな、若さ故の過信は止まらない。そして、ついでに言うと可愛らしい女の子に良いところを見せたいと言う欲が夏太郎を突き動かしてしまう。
 大丈夫、と手を優しく離させて飛び出していく。
「オラァ!! こっちだ害……ちゅー……ど、も……?」
 夏太郎の前にいたのは。見上げねば顔すら見えないような巨大なカマキリが二匹。
 ひく、と頬が引き攣るのが分かる。いや。いやいやいや。
「デカすぎねえ!?」
「お、奥山さんーっ!!」
 カマキリ型害虫たちはその鋭い鎌を夏太郎に振り下ろす。急いでそこから離れれば鎌は地面に突き刺さった。
「ひ、ひぃ!!」
「こ、こっち、こっちですぅー!!」
 先ほどまでの勢いは何だったのか、大慌てでヘレニウムの方へ走っていく。
 ヘレニウムは夏太郎を背に庇いながら小さなハープを奏でる。そうすると不思議なことに音が攻撃となり、二匹にダメージを負わせていた。しかし、それだけでは致命傷には至らず、二匹は二人を追いかけ出した。
 夏太郎は逃げるのに精一杯だが、ヘレニウムは時折ハープでの反撃を試みている。それでもやはり致命傷には至らない。
 逃げていると、足元にどうやら石があったらしい。それにつまづいて転んでしまった。
「奥山さん!!」
 夏太郎にカマキリ型害虫が再び鎌を振り上げる。なんとか転がって避けるものの、もう一匹がそれを読んでいたのか、その先に振り下ろされた。さすがに避けられないことを悟り、きつく目を瞑ってしまった。
「っきゃあ!!」
「えっ!?」
 目を開ければ、腕から血を流したヘレニウムが倒れている。……自分を庇ったのは明白だった。
「へ、ヘレニウムさ」
「ぐすっ、だ、大丈夫、です、か? ひ、く……怪我は……」
「だ、いじょう、ぶ」
「よか、ったぁ……」
 安心させるためなのか、彼女はまた微笑んだ。しかし顔色は悪く、小さく震えている。それに、この怪我でハープを奏でることは難しいだろう。
 ……自分があんなことしなけりゃ、こんなことには。自分を呪いながら、じりじりとこちらと距離を詰めてくるカマキリ型害虫とヘレニウムの間に立ち、木の棒を構えた。
「奥山さんっ!?」
「ごめん、俺のせいで。……せめて、ヘレニウムさんは守らせてほしい! なんて、俺のせいなのに変だよな。
でも」
 情けなくも震える体を誤魔化せているだろうか。少しだけ振り向いて、今度は彼女を安心させるために笑ってみせる。
「やらなきゃいけない時があるから」
 木の棒を改めて握って駆け出す。当然勝ち目なんかないことくらい分かっている。それでも、彼女が逃げるくらいの時間を稼げれば。
 そう思って、振り上げて。
「おらぁ!!」
 二つの斬撃。目の前に、二人の美女が降り立った。一人は黒い髪に、豊満な胸が服の上からでも分かる。もう一人は赤い髪に、見たこともない犬を連れていた。
 黒い髪の美女は二本の刀、赤い髪の美女は大剣を持っている。
「ブラックバッカラさん! アキレアさん!」
「おう、ヘレニウム。と、そこの馬鹿。そこで一旦待っとけ」
 ブラックバッカラ、と呼ばれた美女はヘレニウムには優しい声だったが自分には冷めた声を向けている。
 嫌な予感がしつつも、二人と、おそらくヘレニウムたちの仲間と思われる少女たちが合流してカマキリ型害虫をものの数秒で倒していた。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.527 )
日時: 2022/08/11 18:28
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: E5D2o5gk)

「あ、あの」
「大丈夫か、ヘレニウム」
「は、はい……ぐす……」
 ブラックバッカラはヘレニウムの頭を撫でてから、夏太郎の方へ歩いてきた。アキレアも同様である。
 夏太郎が口を開こうとした瞬間、歯ぁ食いしばれ、と聞こえたので咄嗟にそうしたら頭と頬に順番で拳が飛んできた。その痛みに呻くことすらできず、吹っ飛ばされる。ヘレニウムの悲鳴のような声が自分の名前を呼んだ。
 しかしそれで許すブラックバッカラとアキレアではない。そこに座れと言われ、威圧感に負けて素直に正座すると二人は夏太郎に説教を始めた。
「たまたま近くで見つけてやれたからいいもんを、もしアタシらが来なかったらどうすんだお前」
「はい……」
「しかもヘレニウムが怪我してんじゃねえか。花騎士である以上、オレたちは怪我しねえわけじゃねえけど、ヘレニウムの今回の怪我は避けられたもんだろ。
で、それの原因は? 分かってるよなぁ?」
「はい……俺です……」
「そうだな。お前が良いとこ見せようと飛び出さなきゃそもそも戦闘すら避けられてた。で? 何か言うことは?」
「大変申し訳ございませんでした!!」
 二人の圧に、思わず土下座した夏太郎は悪くなかろう。むしろ必然である。
 改めてヘレニウムにも向き直ってまた土下座する。
「本当に、すみませんでした!!」
「だ、大丈夫です、顔を上げてくださいぃ……!」
「いや、ここはもっと土下座させとくべきだぞ」
「大丈夫ですからぁっ!!」


















 後日。ヘレニウムから報告を聞いた柊は苦笑いしていた。結局、あの後夏太郎はしばらくブラックバッカラとアキレアに説教されていたのだと言う。足が痺れてしばらく歩けなくなる程度に。
 そして、夏太郎が見たと言う子どもサイズの蟻は、オンシジュームと行動を共にしているマイドアリだった。オンシジュームと少し離れて大型害虫の捜索をしていたマイドアリが忙しなく辺りを見渡す夏太郎を見てどうしたのかと思って近づいたのだろう、というのがオンシジュームの見解である。つまり、そこで逃げなければもっと早く解決していた可能性があった。まあ、無理もないのだが。
 夏太郎は今、帰れるようになるまで柊本丸に居候している。杉元や白石たちとは元々行動を共にしたことがあるために打ち解けていたが、鯉登と月島には距離を置いていた。こちらも無理はないのだが。
「とにかく今回はお疲れ様、ヘレニウム。ゆっくり休んでね」
「ありがとうございます、団長さん。あの、夏太郎さんは……」
「ん? そろそろ帰れる頃じゃないかなあ……何か用事があるの? 伝えておくけど……」
「い、いいえ! 大丈夫ですっ! 失礼しますね!」
「あ、うん」
 ヘレニウムは足早に執務室を後にした。それに柊が首を傾げたが、特に気にすることもなく書類と再度向き合った。

「…………ん?」
 今気づいた。ヘレニウム、夏太郎のこと『奥山さん』って呼んでなかった? と。

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 さて足早に執務室を後にしたヘレニウムは。廊下でぴたりと止まり、夏太郎のことを思い出していた。泣き虫な自分に苛立つことも、呆れることもなく、慌てながらもフォローしてくれた。
 大型害虫に木の棒一つで立ち向かおうとした時は驚いたが、大丈夫、と手を取られた時の真剣な顔。(結局逃げたが)
 自分が彼を庇って怪我した時に、庇おうとしてくれて。微かに震えながらも安心させようと微笑んでくれて。今度こそ立ち向かおうとしてくれて。
 そして。何より。彼を送っていた時に怪我した手を取られて。ごめんと謝った後に。
『ありがとう。すげえカッコよかった』
 そう言って、満面の笑みを向けてくれた時。
「っ……!!」
 ぽぽぽ、と顔が熱くなる。もし、もしも。彼が自分の旦那さまになってくれたら。きっとそれは。
──嬉しいこと、なんだろうなぁ。
 そう思いながらも、まだまだ始まったばかりの恋心にヘレニウムは思わず涙をこぼしてしまうのであった。

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