二次創作小説(新・総合)
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.546 )
- 日時: 2022/11/26 21:12
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: y98v9vkI)
困りごとはきっかけ
無駄にデカいため息を吐いた八九は、自分のいる世界とは違う世界の、とあるショッピングモールにいた。目的はオシャレなカフェが出している焼きイモラテである。が、それを欲しているのは八九ではなく在坂だ。では、なぜ八九がここにいるのかと言うと、話は前日に遡る。
柊本丸に用があって訪ねていた八九、在坂、邑田は用を済ませた後に少しばかり柊本丸にてゆっくりと過ごしていた。その際に見ていたニュース番組にて紹介された焼きイモラテを在坂が飲んでみたい、と呟いたのだ。それだけならまだ八九も微笑ましいと思うだろう。
ならば買いに行こう、と邑田が言い、目が合ってにっこりと微笑まれた瞬間、察した。「あっ、これパシられるやつだ」と。それは当たり、八九は邑田に焼きイモラテを買いに行くように命じられたのである。悲しきかな、大先輩である邑田に逆らいづらい八九は反論もそこそこに買いに来させられているというわけだ。
なんで俺みたいな陰キャが陽キャ御用達と言わんばかりのキラキラカフェに、と呟きながら施設の地図を見る。以前の戦いで行ったシューリニアショッピングモールよりは小規模だが、それでも見ておかないと絶対迷う。現在地と目的のカフェの位置を確認して頷く。
いつも『アブソリュートデス』と書かれた若干ダサめのTシャツを着ているし、何だったら今日もそれを着ようと思っていたのに在坂に見つかり、ひどくじっとりとした目で「それはやめておくといい」と言われた。なので何も書かれていないドシンプルなシャツとジーンズと言った無難な服装だ。
さっさと買ってさっさと帰ろう、そう思いながらカフェへ足を運ぶ。ふと、通りかかった隅っこの階段に目を向け、ひゅっ、と息を呑んだ。
白く長い髪。明らかに人だが、遠目から見たら一瞬貞○的な幽霊に見間違えてしまった。その人は何やら俯きながら階段に座り込んでいる。周りを見るが気付いたのは自分だけらしい。
面倒くさがりだし厄介なことは嫌いな八九だが、それ以上に何だかんだ面倒見がよく世話焼きな八九が放っておくことはできず、恐る恐るその人に近づいて行く。
「あ、のー」
「!!」
俯いていた人は驚いたのか勢いよく顔を上げた。……美少女、であった。青い瞳に白く美しい髪、透き通るように白い肌にとても可愛らしい顔つき。そんな美少女が目を赤くして涙をこぼしていた。女性への耐性がほぼゼロの八九にとって、一気に混乱しても無理もない状況である。
「えっあ、どどどど、どうしっ、え、あ、何があったンデスカ!?」
「あ、すみませ……いたたっ」
「え」
「その……め、目に……まつ毛……が」
「あ、あー……」
小刻みに震えながらそう話してくれた美少女は、少し前からここに座り込んでどうするか悩んでいたのだと言う。その間にもボロボロと涙がこぼれるものの、まつ毛は取れなかったらしい。
見渡してみてもトイレだとか、鏡を見れそうな場所は近くにない。少し悩んだものの、意を決してあの、と声を再度かけた。
「ちょっと失礼シマス!」
「え、はい」
美少女の頬にガクガク震えながらも手を添えて下瞼を下げる。……見えない。もしかするとまつ毛も白いのかもしれない、と少し顔を近づける。
目を凝らしてよく見れば、ひっそりと目に貼り付いていたまつ毛を一本見つけた。あった、と呟いてそぉっと指を近付ける。
「あ、の、あんま、動かないでほしい、です、その、間違えて目潰ししたくねえんで!」
「わ、わたしも目潰しされたくないので、頑張ります」
「俺もしたくねえ、です!」
お互い妙な緊張感の中、八九の指がまつ毛を摘み、ゆっっっくりと離した。
「っ取れた!!」
「あ、ありがとうございます……助かりました」
「いや、別に大したこと……じゃ……ナ……」
「?」
ここで八九はやっと自覚した。美少女と、自分の顔の距離を。彼女はキョトンとしているが、先ほども言った通り八九の女性への耐性はほぼゼロ。
一気に顔を赤くして距離を取る。
「……すみませんでしたぁあっ!!」
「え、どうして謝って……?」
彼女は首を傾げている。こっちは場所が場所でなければ間違いなく土下座しているというのに。今も土下座したいくらいだというのに。
こんな陰キャが眩しすぎる美少女に近付くとか犯罪すぎるわ、と脳内で呟く。そんな八九の 胸中を知らぬ美少女はまだ首を傾げていた。その動きに合わせてさらりと髪が流れる。見惚れそうになるが、それもまた犯罪では? というかこんな陰キャに見つめられるとかこの子苦痛すぎるだろと目を逸らす。
「……?」
「っあ、えと、そ、そうだ、俺用事あったんで、これで!!」
「えっ、あ、は、はい」
足早にその場を去っていく。美少女はしばらくぽかん、と八九の背中を見送っていたが、あ、と何かを思い出したように彼女もその場を離れた。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.547 )
- 日時: 2022/11/26 21:15
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: y98v9vkI)
「よかった、買えた……」
先ほどの美少女──宵崎奏はほっとしたような顔で買ったばかりのヘッドホンを見た。必要最低限の外出しかしない彼女が、今日外出した理由である。
ニーゴとしての作業中、愛用していたヘッドホンが突然『ブツッ』と音を立てて聞こえなくなってしまったのだ。かなり動揺したものの、すぐにヘッドホンが壊れたのだと分かり、このショッピングモールに入っている家電量販店も開いていたため、すぐに買いに来たのだった。どうしても使うものだから……少し、日差しは眩しかったが。
ショッピングモールに入ってすぐ、目にまつ毛が入ってしまうという地味ながらにダメージの大きいトラブルがあったが、三白眼の見知らぬ青年が助けてくれたのが幸いだ。それにしても、何故彼は最後の方に謝ってきたのだろうか。
視界の端に行列が見えて思わずそちらを見てしまう。あのカフェは確か、以前偶然会った絵名がおすすめしてくれたカフェだ。絵名と行ったきり、行ったことはなかったが……何か新作でも出たのだろうか。そこまで考えながらも寄る、という選択肢はない。早く帰って作業に戻らなくては、と思ったのだが、微妙な距離でその行列を見ている青年がいた。
「あの人……」
奏は青年に歩み寄る。そうすると何やら彼がそわそわとしているのが分かった。
「あの」
「っひょい!?」
「わっ」
「え、あ、だ……あ、さっきの」
「どうも。……行列を見てたから、どうかしたのかなと思って」
「あ、あー……」
青年はしばらく目を彷徨わせた後、ぼそりと行きづらい、とだけこぼした。
奏も再度行列を見るが、女性ばかりだ。中には男性もいるが、ほとんどがカップルのようで確かに男性一人では行きづらそうだ、と考える。
「あの、もしよければ一緒に並びましょうか?」
「……へっ?」
青年は目を丸くしながらこちらを見る。先ほどのお礼もまともにできていないし、一緒に並ぶくらいなら、と思ったのだが迷惑だっただろうか。思わずそう言うと青年は大慌てでそれを否定した。むしろいいのかとすら聞かれ、頷く。
一瞬また呆けていたが、お願いしますと頭を下げられそうになるのをすぐに並びましょう、と何とか回避した。
二人で行列に近づいていく。
「ええと、何か新作が出ているんですか?」
「あー……いや、俺も頼まれたっつーか……パシられたっつーか……何にせよ、よく分かんねえんで……」
「そ、そうなんですね」
「……っと、その、焼きイモラテだかを買ってこいって言われて」
「焼きイモラテ」
おうむ返しするとその焼きイモラテはニュースで取り上げられていたらしい。なるほど、だからこそこの行列なのだろう。
メニュー表を見る。確かに大々的に【新作! 焼きイモラテ!】と書かれていた。
と、ここで思わず奏は固まった。それに青年が首を傾げ、奏の視線の先を辿ると、彼も固まった。
「お、同じようなものが……」
「「三つある……!!」」
そう。単純に同じようなものが三つ描かれているだけならそこまで問題ではない。問題は、『それぞれ似たような別商品』である、ということだ。
ベースは全て焼きイモラテなのだろうが、何か違いがあるようだ。が、残念なことに奏には分からない。青年の反応を見るに、彼も同じだろう。
「え、えっと、ニュースで取り上げられていたのは……」
「わ、分かんねえ……!! やべえ、邑田にいびられる……!!」
ムラタ、という人が彼に焼きイモラテを頼んだのだろうか。何にせよ、お互いにどうすれば、と悩み、立ち尽くしていた。
「あれ? 奏!?」
後ろから聞き覚えのある声がして振り返る。そこには予想通り、同じニーゴのメンバーである東雲絵名が立っていた。
どうしたの、と歩み寄ってくる彼女に実は、と説明すれば彼女はそうなんだ、とカフェを見て、その後に青年を見た。
「あの、そのニュースって何時ごろでどういうものか分かりますか?」
「へっ!? あ、あああえとあのその、あーっと」
青年は白い肌を赤くしながらしどろもどろに答えていく。絵名は頷いている。
「そのニュースなら、トッピングのないシンプルな焼きイモラテですね!」
「あ、そ、そうなんすか……あざっす……!」
「ありがとう、絵名」
「ううん、気にしないで! ……あのー、良ければ私買ってきましょうか?」
「え、いいんすか」
「はい。……慣れてなさそうだし」
絵名がぼそりと呟いた最後の一言は奏も、青年も聞き取れなかった。青年から(足りなかったら事だからと)少し多めのお金を受け取って絵名が行列に並んだ。行列は少しずつ、それでも結構速く進んでいる。
「何とかなりそうですね」
「いやほんと、助かった……」
安心したように息を吐く青年に、苦労しているんだなと思わず考えた。
そう時間も掛からず、絵名が頼まれた焼きイモラテを三つ、可愛らしい紙袋に入れて戻ってくる。
「はい、どうぞ」
「っ! あざっす!! これで邑田からいびられずに済む……!」
「なんか……苦労してるんですね」
思わず溢れたらしい本音に絵名も奏も苦笑いしてしまう。見たこともない【ムラタさん】にもう少し優しくしてあげて、と思ってしまう程度には。
青年も絵名も、奏ももう用事が済み、全員で一階まで降りていく。とは言え、青年は非常に気まずそうだったが。
「あ」
絵名がある方向を見つめてそう言葉をこぼした。そちらを見ると、丸々とした犬のぬいぐるみがUFOキャッチャーの中に積み上げられている。
「あれ、かわいいね」
「ねー。でもああいうのって何でだか取れないよね」
「え、そうなの?」
「うん……絶妙に取れそうで取れないって感じ。弟の友だちならあっさり取れちゃうんだろうけど……」
「そうなんだ……」
近づいてみると絵名の言う通り、取りやすそうではある。だが本当に取れないのだろうか。そう思っているとあー確かに、と青年が筐体に近づいた。
「アーム引っ掛けようとすると他のに邪魔されるわこれ」
「あー、だから取れないんだ……」
「…………」
「奏?」
「えっ、あ、ごめん、何?」
「ううん、なんかじっと見てたから……欲しいの?」
「あ、ううん、そういうことじゃないんだ。ただ……なんか、目が合っちゃって」
そう言って真正面にある白い犬のぬいぐるみを指す。もちろん、ぬいぐるみだから生きてるわけでもないのだが、何だか目が合った気がしたのである。
「んー……やってみる? 三百円くらいならなんとか取れるんじゃないかな?」
「いや、これ百円で取れっけど……」
「え?」
そう言いながら青年は百円を入れて、少し真剣な眼差しでぬいぐるみを見る。そして、アームを絶妙に操作して……。
ころりと、二つのぬいぐるみが落ちてきた。
「っしゃ!!」
「すごい! 二つも取れちゃった!」
「わあ……」
青年が今度は嬉々として取り出し口からぬいぐるみを取り出すとほい、と黒い犬のぬいぐるみを絵名に、白い犬のぬいぐるみを奏に渡した。
「えと……いろいろ世話になったんで、良かったら。じゃ!!」
こちらに何を言わせる間もなく、青年はすぐに走り去ってしまった。二人してポカンと、またも彼の背中を見送った。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.548 )
- 日時: 2022/11/26 21:18
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: y98v9vkI)
暗い部屋。カタカタカタ、と音だけがする。そんな中でパソコンと向き合う奏の眼差しは真剣そのもの。ピピピ、とタイマーの音がして指を止める。
側に置いてあったカップラーメンを取り、蓋を開ける。嗅ぎ慣れた匂いが鼻をくすぐった。麺をほぐして食べ始める。その間も頭の中で次の曲の案をまとめていた。
ふと、白い犬のぬいぐるみが目に入る。あの青年にお礼をするつもりだったのだが。
「でも、良い人だったな」
しどろもどろではあったが、根はかなり良い人なんだろうなと思う。そうでなければ、あの時に声をかけには来ない。
……絵名は彼を『親戚のお兄さん』か何かだと思っていたらしいが。全くの初対面だったと聞いてひどく驚いていたのを思い出し、思わずくすりと笑ってしまう。
通知音がしてパソコンを見る。以前投稿した曲へのコメントが付いた、というものだった。奏は一度食べる手を止めてそれを確認する。
『少し前にニーゴを知って以来、ずっと聴いています。今回の曲も、心が救われるようです。頑張ってください トヨハチ』
ほ、と息を吐く。また、「誰かを救える曲を作れた」と。
いずれ、どんな人でも……まふゆの心も、救えたら。
そう考えて、奏はまたラーメンを啜った。
─────────────
『乙〜!!』
『豊田氏、キャリーあざまーす!』
「おー」
快勝に終わったゲーム画面。リザルトを確認して、通話先の相手と駄弁る。対戦後のチャットでは敵チームがぎゃあぎゃあと暴言を吐き出しているが無視しながら淡々と通報ボタンを押していく。相手するだけ無駄なのは分かっている。面倒くさいし。
「(そもそも基本がなってねえんだろうが)」
そう脳内でだけ反論し、ふと時計を見る。
「あー……わり、そろそろ抜けるわ」
『りょ』
『豊田氏ー、乙ー!』
「乙」
通話を切り、ゲームを閉じる。そのまま動画サイトにアクセスし、目当ての動画を再生した。ゆっくりと流れ出す歌。それに耳を傾ける。
最近見つけた、ネットのみで活動をしている音楽サークル『25時、ナイトコードで。』の曲だ。この世界にはない技術などが使われているから、おそらく別世界のものだろうと思っていたらその通りで、先日行ったショッピングモールがある世界らしい。
ふとあの美少女を思い出す。あんな美少女とお近づきになれたら、なんて思うが夢のまた夢だ。無理ゲー。
……次に思い出したのは、ここに来てから突き刺さる視線たちのことだった。
元世界帝軍の貴銃士。それは決して歓迎されるものではない。むしろ忌避されて当然のものだ。そして自分はそれを仕方ないことだと思ってはいる。
もしも、ファルやミカエルに記憶があったなら。もしもあのライク・ツーが世界帝軍のライク♡ツーであれば。少しは気持ちも楽だったんだろうか。
目を閉じる。曲が耳に入ってきて。
ニーゴの曲を聴いていると、何だか少し許されるような気がして。少し、救われるような気がして。
キーボードを叩く。いつも使っているハンネで騒がれることはないだろうが、念のために変えて。
『少し前にニーゴを知って以来、ずっと聴いています。今回の曲も、心が救われるようです。頑張ってください トヨハチ』
そう送って、自分を鼻で笑う。何が救われる、だ。
自分は多分、救われるべきではないというのに。
そう思いながら、再び目を閉じた。
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