二次創作小説(新・総合)

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.549 )
日時: 2022/11/28 19:59
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: y98v9vkI)

本気になったのはどちらだったのか

 貴銃士──グラースはさてどうしたものかと悩んでいた。彼は非常に女性にモテる。無論、貴銃士ということも大きいがそれを差し引いても非常に整ったルックスと彼が与える甘い言葉が次々と女性を魅了するのだ。
 グラースの兄の立場であるシャスポーからはよく眉を顰められ、同じレザール家にいたタバティエールからもよく嗜められているが、反省するどころかフィルクレヴァート士官学校に来てからも女遊びを止めることはなかった。目を付けた女生徒を口説き、街で見かけた好みの女性を口説き。魅了された女性たちはグラースに夢中だった。
 そんなグラースが悩んでいることは単純で、女生徒たちとの遊びの刺激が足りなくなってきたことだ。かと言って街の女性を口説いても同じ。無論、飽きたわけではないがもう少し刺激が欲しくなる。
 思い浮かぶのは異世界にいる女性たちだ。一度も口説いたことはないが、グラースから見ても非常に魅力的な女性が多い。そんな彼女らと一夜を過ごすのも悪くはない。身持ちが固そうな女性は避け、適度な駆け引きを楽しめる相手が良い。ただ、思い浮かんでしまったのは殺生院キアラとカーマだった。
 ルックスもスタイルも良い二人。カーマに至っては相手の好みで姿を変えることができるのだから最高の相手ではあるとは思う。が、あの二人は危険だと勘が告げる。その上、立香からも真顔で「あの二人は軽率に手を出さない方が身の為だよ」と言われたので即却下となった。
 悩んでいても仕方がない。今からカルデアと共に、合同訓練を行うことになっている。訓練は面倒だが、良い相手を見つけられれば無駄ではない。そう考え、グラースは準備を始めた。
 呼びに来たシャスポーには不気味がられ、タバティエールはなぜか感心していたが。


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 余裕だと思っていた自分がバカだった。貴銃士側は最初こそ優勢だったが、ラムダリリスの宝具、『その夏露ブルーサマー・硝子パラディオンのように』によって一気に劣勢に追い込まれてしまった。敗北ギリギリでマークスが立香に付けられていた風船を狙撃で割ったことで勝利となったが。
 ただあの一撃でかなり消耗してしまった。座りながら休憩していると、もしもーし、とかなり控えめな声がした。見上げると左目が髪で隠れた少女──徐福がいた。確か先ほどの訓練、キャスター・アルトリアと共に後方で何かラムダリリスを強化していたような。
 徐福は、ん、とペットボトルを差し出してくる。
「なんか、疲れてるみたいなんで……どーぞ」
「……ふふ、ありがとう」
 微笑み、ペットボトルを受け取る。その際に手が触れ、あっ、と少し離してからもう一度、謝りながら受け取った。
 ……チョロそうだ。地味な少女ではあるが、愛らしい容姿をしている。少し物足りないだろうが、たまにはこんな風な相手も悪くない。
 ペットボトルを受け取る時に手が触れたのはわざとだ。こんな些細なことでも自分という存在を意識させるのには必要なことなのだ。
 そうして訓練中、何かと徐福に話しかけたりしていれば、カルデア側はどうしたんだろうと首を傾げ、こちら側のほとんどがまたか、という視線を向けていた。
 最初は気付いていなかった徐福もそこまで来ると分かったようで、訓練が終わった後にあの、と一拍置いてからグラースに向き直った。
「なんでそんな話しかけてきたの? 悪いわけじゃないけど……」
「ああ……ごめんね。その……キミが、可愛らしくて。気になってしまったんだ」
「……え?」
「よければ今夜、こっちの世界でディナーでもどうかな? とても素敵なレストランを知っているんだ。キミも気に入ってくれると思う」
 彼女に向けて微笑む。遠くからグラース!! とシャスポー、タバティエールの声がしたが、気にも留めない。目の前の徐福はじっとグラースを見つめている。
 当然だが、ディナーだけで終わらせるつもりはない。ディナーはあくまで彼女の心を開かせるための手段の一つだ。そこでも口説き、最終的に。
「いや、ぐっ様の方が大事なんで。ディナーよりぐっ様見てたい」
「……は?」
 今、なんと言った? 聞き返す間もなく彼女は遠くにぐっ様……虞美人を見つけて黄色い悲鳴を上げた後、ぐっ様ぁ〜♡ と蕩けた声を出しながら虞美人へ駆け寄っていった。
 そこには固まるグラースと、彼にちょっぴり同情した目を向けるシャスポー、他にもあまりの即答っぷりに呆然としてしまう面々と、そんなことはどうでもいいので早く帰ってオリヴァーに新しいハーブティーを淹れたいマークスが残された。

Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.550 )
日時: 2022/11/28 20:04
名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: y98v9vkI)

 それからというもの、グラースは暇を見つけては徐福を口説きに行った。一度だけ虞美人の話で釣ろうとしたところ、ものすごい早口と勢いとなぜか立場のマウントを取られたので「これはやめておくか」とそれ以外の話題で徐福を落としてやろうとしたのだが。
「全っ然落ちねえ……!!」
「グラースが一人に連戦連敗してるのなんて、マスター以外見たことないな……」
 ディナーに誘えばぐっ様、デートに誘ってもぐっ様、何においてもぐっ様、ぐっ様、ぐっ様。立香から「うん……徐福ちゃん、虞美人ガチ勢だから……」と遠い目で言われたものの、それで諦めるようなグラースではない。何より、数多の女性を落としてきたグラースにとって即答で断られるのは我慢ならなかった。
 何がなんでも首を縦に振らせてやる、と今日まで徐福の元へ赴くも全て撃沈。さすがにここまで来ると少し精神的にしんどいものがある。
「くそっ……この僕が誘ってるんだぞ!? どうして喜ばないんだ!?」
「まあ……最初から別の相手にお熱じゃあなぁ」
「別の相手って言ったって同じ女なんだぞ!?」
 タバティエールにやれやれ、と言った顔をされるが気にも止めない。
 大体、その別の相手にも愛する人がいて。何がダメだというのか。
 デート先は話題沸騰中で人気がある場所、ディナーは夜景の見える三つ星レストラン。そして相手は自分。何が不満なのだろう。
「それにしても、グラースが一人の相手にここまで熱を上げるとは思わなかったな」
「はぁ? そんなんじゃない。即答で断られるなんて僕のプライドが許せないだけだ」
「そうかい。っと、そういや頼まれていたことがあったんだった。まだ何かあるなら、後でな」
 そう言ってタバティエールは去っていった。
 何を変なことを言い出すのか。一人に熱を上げている、など。
「……ん?」
 そういえば、女性と『遊んだ』のはいつだった? ……最低でも、二週間はそうしていない、ような。
 声が掛からなかったわけではなかった。いつものように、積極的な子は何人もいて。彼女らから声は掛けられていた。……自分はそれをここ最近断り気味じゃないか?
「いや、いやいや」
 そんなわけがない。一時的な遊び相手としてならともかく、あんな、あんな。
 そう思って、ふと思い出したのは訓練の時の彼女の顔。どこか怯えを含みながらも凛として前を睨み、自分がすべきことをこなしていて。奇襲をした時もすぐに気付かれた。
 次から次へと、徐福の顔を、声を思い出す。面倒くさくて、可愛らしい、彼女を。
「……っ!!」
 一気に顔が熱くなる。まさか、そんなこと、と思いながら、これはもう誤魔化しようもない。
 あんな女に、この僕が、思わずそう呟く。
 教室に来たオリヴァーに真っ赤な顔を驚きながら指摘されるまで、あと一分。















 さて、そんな徐福はと言うと。
「できた……!! 渾身のっ!! 等身大ぐっ様ぬいぐるみ〜っ!!」
 叫びながらベッドに横たわらせた等身大虞美人のぬいぐるみ(ただしだいぶデフォルメされている)に抱きつく。えへへへ、と笑いながら頬擦りする姿は顔だけ見れば可愛らしい。それ以外はノーコメントである。
 徐福の部屋には虞美人関連のグッズ(九割手作り)と術などの研究に関する物が所狭しと並べられており、薄暗い。本棚には研究のために揃えた本があるが、最上段にはこっそりと虞美人のブロマイドが集められたアルバムがある。
「えへへへへへぐっ様ぁ〜♡ ぐっ様ぁ〜♡
麗しくて美しくて凛として可愛らしい素敵なぐっ様ぁ〜♡」
 まあぐっ様の良さは容姿以外にもあるけど、たくさん! と一人で言いながら頬擦りを続ける。
 グラースが悶々としている間も安定の虞美人ガチ勢である徐福の部屋の前を、「あ〜またやってるなぁ」と遠い目をしながら通り過ぎる立香と六花がいたとか何とか。

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