二次創作小説(新・総合)
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.69 )
- 日時: 2020/03/11 20:58
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: YNzVsDBw)
※今回のお話は所謂『山姥切問題』と呼ばれるものを取り扱う話になります。
基本終始シリアス、なおかつ一部刀剣男士の扱いが悪かったり、性格が原作と異なります。(ただし悪役になることはありませんのでご安心ください)
公式に関する一切、および現実の刀剣には関係ありませんのでご注意ください。
また、後半には流血、怪我表現がございます。
※このお話には登場人物がとあるキャラたちをBL的な目で見ているような描写があります。
お気をつけてご覧ください。
信頼した結果
よく言われる言葉がある。
『信頼を築くのは長い年月が必要だ』
『信頼を失うのは一瞬だ』
『失った信頼を取り戻すのは、とても難しい』
これは、そんな【信頼】に関する話である。
サーバー山城国、その一つの演練会場。柊は静形薙刀の練度上げのため彼を隊長に、愛染、小夜、秋田、厚、平野を第一部隊に編成して演練を行なっていた。ちなみに静形以外は全員極めている。
そんな彼女の側には興味本位で着いてきたリンとリンのお目付役としてレンがいた。
「うーん……さっきの本丸の人たち強かったね」
「やっぱ極の脇差に防がれるとどうしてもなー……」
「……最後まで極の薙刀を倒せなかったのは痛かったね」
「ええ。半分も行動不能にさせられてしまって……」
「悔しいですー……!」
「でも今日は終わりだろ? 少し他の本丸の演練見てから帰ろうぜ!」
「あっくんに賛成ー!!」
「リン!!」
「そんなに怒らないでよレン〜」
「怒るに決まってるだろ! もうすぐレッスンじゃないか!」
「あれっ、もうそんな時間!?」
リンが慌てて時計を見る。二人の言うレッスンは午後四時から六時までの物だ。今は午後三時半。あと三十分しかない。
しかしリンはなーんだ、と言ってレンを見る。
「まだ三十分もあるじゃん!」
「あと三十分しかないんだよ! 帰る時間とか考えてももうそろそろ帰らないと間に合わない!」
「だーいじょうぶだって! 走れば間に合う間に合う!」
「全く……知らない。僕は先に帰ってるから」
「了解ー!」
呆れたような顔をしたレンは柊に一声かけてから帰っていく。
「いいの?」
「いーのいーの! あたし足は速いんだから!」
リンはウィンクしながら後ろに片足を上げてぺちりと叩く。それに柊たちが少しだけ苦笑いしていた。小夜だけは大丈夫とは思わないけど……と呟いていた。
リンがレッスンする場所までは電車に乗って行く必要がある。時間としてはそんなに掛からないがリンはそのことをすっかり失念しており、ルンルン気分で歩いていく。
最初こそ流れる血に怯えたがそれ以上に本丸ごとに異なる編成や戦い方が面白かった。柊のように極めた短刀を中心に編成する本丸。極めた刀剣を一刀種ずつ編成する本丸。一振りも極めてはいないが練度が上限に達した刀剣だけで編成する本丸。遠戦中心の戦法、二刀開眼中心の戦法、何なら力押し。それがリンの興味を惹く。
「んー、なんか喉渇いちゃったな……ちょっとジュース買ってくるねー!」
「本当に間に合うのかな……」
小夜の呟きは聞こえず、リンは小走りで自販機へ向かう。先ほど歩いてきた道にあったのは覚えているので、その自販機へ一直線だ。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.70 )
- 日時: 2020/03/11 20:55
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: YNzVsDBw)
ガコン、とジュースが出てくる。リンはそれを取って……うえ、と顔を歪めた。
「なんでみかんジュースのボタン押したのに、コーヒー出てくるの……。微糖かぁ……飲めるかな?」
と、プルタブを開けて一口。しかし口に広がるのは苦味ばかり。
「うえ〜。苦い……これ柊さんよく飲めるよね」
ちなみに、空腹時にコーヒーを入れると気分が悪くなるので注意が必要だ。動悸がしたりもする。なので朝急いでいてもパンでも何でもいいのでお腹に入れてから飲むといい。コーヒーは美味しく飲もう。閑話休題。
渋々飲みながら戻ろうとするとぼんやりとベンチに腰掛ける、他の本丸の山姥切国広を見つけた。腰掛ける、というよりはもはや身体を投げ出している、と言った方が的確だろう。
「ねえ、どうしたの?」
「……?」
「気分悪いの? えっと、こういう場合は、政府の職員さんに声かければいいのかな」
「……気分は、悪くない。放っておいてくれ」
「やだ」
「!?」
たった二文字で拒否されたことにその山姥切国広は目を丸くした。しかし当の本人はどうしようか、と考え込んでいる。
「あ、とりあえずこれ飲む? 飲みかけだけど」
と、さりげなく微糖の缶コーヒーを押し付ける。そしてそのまま山姥切国広の隣にドス、と腰掛けた。
あまりの自由さに山姥切国広は言葉をなくしていた。
「あんた、他の本丸の審神者か?」
「その知り合いだねー。名前は鏡音リンです」
「知り合い? 何故演練会場に」
「無理言って着いてきた!」
「……」
どこか呆れを含めた目にリンは気付かない。
しかし彼女はここから動く気はなかった。何となく、この山姥切国広を放っておけないと思ったのだ。
「ねえまんばちゃん」
「……なん、だ」
「この缶コーヒーね、あたしがみかんジュースのボタン押したら出てきたんだよ」
「……で?」
「業者さん、入れる時間違えたのかな」
「……もう一度押してみればいいんじゃないか」
「あっそっか」
思い立ったが吉日と言わんばかりにリンはすぐ自販機へ戻り、お金を入れてまたみかんジュースのボタンを押す。ガコン、と音がして取り出した。
「まんばちゃん、みかんジュース出てきた!」
「そうか。よかったな」
「うん。業者さんもドジっ子だね」
普通に山姥切国広の隣へ戻り、プルタブを開ける。みかんの香りについ、はあ、と息を吐く。そして一口。
「っうまい!!」
「よかったな」
「うん! あ、そうだ。まんばちゃんの審神者さんは?」
「……少し、離れている。それと」
「ん?」
「……俺には、偽物で充分だ」
「え?」
「……俺は、山姥を切ってない。だから、偽物でいいんだ」
山姥切国広の手に、力が入る。少しだけ缶が凹んだが気づいていないのか、それとも気にしていないのか。
だがリンは知っていた。山姥切国広という刀は写しであることにコンプレックスを抱いていても、『偽物ではない』と主張し続けていたことを。だから今目の前にいる彼に目を丸くすることしかできない。
「なんで?」
「…………なんで、とは?」
「だってまんばちゃんは」
「まんばちゃんと言うのはやめろ。偽物でいい」
「やだ。あたしがそう呼びたいから呼ぶ。まんばちゃんは山姥切長義さんの写しだから山姥切国広なんでしょ?
確かに写しだけど偽物ではないよ、そうでしょ?」
「……いいや、俺は、俺は偽物なんだ。だから、それで合っている」
「じゃあなんで悔しそうにしてるの」
山姥切国広は目を見開いた。自分でも気づいていなかったようだ。けれどすぐに目を伏せた。
「あいつは、もう俺をそうとしか思ってない」
「あいつ?」
「俺は、散々言ってきたのに」
「打刀の国広」
女性の声がすると彼はびくりと身体を震わせた。リンが代わりと言うようにそちらを見ると……はっきり言ってしまうと、あまり特徴のない女性審神者が立っていた。長い黒髪くらいしか印象に残らないだろう。とは言え、次に会っても覚えている方が難しいが。
ただ、それ以外ならこれは次に会っても覚えているなと確信することがあった。
山姥切国広へのどこか壊れているような慈愛の目。連れている刀剣男士たちの疲れきり、どこかリンに助けを求めているような目。……あの、和泉守兼定の、短い髪。
「こんな所にいたのね。急に居なくなって心配したのよ?
どこか他の山姥切を襲っているんじゃないかって」
「え」
「さ、帰りましょう。大丈夫、きっとあなたは治るから。他の鈍とは違うもの。
あなた、打刀の国広と一緒にいてくれたのね。ありがとう。でもダメよ? この子はまだ『治療中』だから山姥切じゃなくても襲うかもしれないから。
行きましょう」
リンには目の前の女が何を言っているのか、全く理解ができなかった。
けれど山姥切国広は諦めたように目を伏せて、立ち上がる。呼び止めようにもどう呼び止めていいか分からない。このままにしておいても良くないことだけしか分からない。が、ふと一つ思い出して咄嗟に取り出した紙を持って近づいた。
「待って!」
「? どうしたの?」
「えっと、缶コーヒーの代金! 今度でいいから返してね!」
「……?」
「代金なら今」
「いーいーかーら! ねえ、ペンある!? 貸して!」
「え、ええ」
女審神者からペンを借りて連絡先を書く。そこに一文添えて。
「これ! 私の連絡先だから用意できたら連絡ちょーだい! ねえ審神者さん、人の目がある所ならいいよね!?」
「え、ええ。人の目があれば打刀の国広も暴走しないと思うから……」
「じゃ、そゆことで!」
そう言ってリンは山姥切国広のポケットに紙を突っ込んで戻っていく。そんなリンに女審神者の慌ただしい子ね、なんて呟きは耳に入らなかった。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.71 )
- 日時: 2020/03/11 21:00
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: YNzVsDBw)
「うーあ゛ー、MEIKO姉のお説教こわいー……」
「だから言っただろ、間に合わないって。……とは言え、それにしては遅かったけど何かあったの?」
ボーカロイド、亜種ボーカロイド等が住むマンション、『マンションボカロ』の一室。そこの二段ベッドで寝る準備をしていたリンはぐったりとみかんクッションに顔を埋めていた。
結局あの後、戻って時計を見れば四時五分前。とてもではないが間に合う時間ではなく、盛大に遅刻してMEIKOに叱られたのである。
レンの質問にリンは二段ベッドの上から顔だけ下に出してそれがさ、と話し出した。
「他の本丸のまんばちゃんに会ったんだ。でもやたら元気なさそうだったからどうしたの、って声かけたの。ちょっと話してて、そしたら突然まんばちゃん、自分のことは偽物で充分だーなんて言うんだよ」
「え? まんばちゃん、って国広さんの方のだよね。……あの人、そんな人だっけ?」
「ないない。やまちょぎさんに偽物くんって言われても絶対に『写しと偽物は違う』って返すじゃん」
声真似をしながら言うがレンはそれならよりおかしいね、と返してくる。声真似はスルーだ。
「でさ、そこの審神者さん……女の人なんだけど、なんかこう……目が、目がなんか変だった」
「変って?」
「なんていうの? 慈愛に満ちてますーって目なんだけど……どこかおかしいの」
「……」
「それに他の刀剣男士のみんなも疲れてるみたいで、だけどなんか助けてって感じの目、してた。
あと! ……あっちのいずみんの髪、短かった」
「え?」
「ほりほりさんくらいの長さしかないの。……あ! そういえばなんか、いずみんの目もこう、死んでる感じがあった!」
「……ねえ、リン、それって」
「ブラック審神者、ってやつかも。まんばちゃんのこと、やまちょぎさんを襲うって言ってたし」
「は!?」
「あたしにもありがとうとは言ってくれたけど襲われるかもしれないから近づいちゃダメとか言うし。……あたしさ、まんばちゃんがやまちょぎさんを折ろうとするなんて思えないよ」
「あ、うん、そうね、折ろうとする意味での襲うだよね、うん、きっと……」
「レン何言ってるの? それより、まんばちゃんをよく知ってれば、誰かを襲うなんてあり得ないと思わない?
治療中、とか言ってたけど」
「治療中、か……そこの本丸のこと、柊さんには話した?」
「まだー。遅刻確定してたから慌てて……明日話しに行こうかな」
「そうした方がいいよ。なるべく早いうちに話しておきなよ」
「うん。そろそろあたし頭に血が昇りそうだし寝るね、おやすみ、レン」
「おやすみ、リン」
リンは戻り、毛布をかぶった。その枕元にはスマホが置かれている。ちらりとそれを見るが暗い画面のままだ。
ピ、と音がして灯りが消える。今日はもう寝ようと目を瞑る前にまたスマホを見て、画面が着いた。そこには、連絡が来たことを知らせる通知が。そっとスマホを取り、操作する。
「……!」
そこにあった名前は、『山姥切国広』。つい笑みが溢れた。
『今日はコーヒーのこととか、いろいろ感謝する。明日にでも代金を返すので、どこか指定の場所はあるか』
何の飾り気もないメッセージ。紙になるべく今日中に連絡! と書いたのが功を成した。
『じゃあ今日会った場所で待ち合わせね! そっちの主さんには別の場所って伝えて!』
『いいのか? 俺はお前を襲うかもしれない』
『無問題! だってまんばちゃんそんな人じゃないって知ってるから!』
『ありがとう』
少し時間を置いてから来たその一文にリンはつい首を傾げるも少しだけメッセージのやり取りを続けてから眠りに就いた。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.72 )
- 日時: 2020/03/11 21:05
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: ycnzZQhq)
翌日。リンはまた柊に無理を言って演練会場へ来ていた。あの審神者のことは告げておいたが本丸IDか何かが分からなければ通報もできないと困っていた。
「……鏡音」
「あっ、ちっすまんばちゃん!」
「ああ。……缶コーヒーの代金だ。足りるか?」
「あーそれ? いいのいいの。あれ口実だから」
「は?」
「なんかまんばちゃん放って置いたらヤバそうだな〜って思ったんだよね。だから咄嗟に押し付けた缶コーヒーのこと思い出しただけ」
「……なんだそれは」
「えへへ〜。そうだ、ねえまんばちゃん、ちょっと話そうZe!」
「何をだ」
「何でもいいからテキトーに。まんばちゃん好きなもの何? あたしはみかんと歌」
「みかんは察していたが、歌?」
リンは笑ってそう! と返す。控えめな胸を張りながら。
「あたしね、こう見えても大人気なアイドルなんです!」
「あいどる……とはなんだ」
「そこからかー。アイドルっていうのは、歌って踊って、みんなを笑顔にする仕事のことだよ! あたしの他にも、双子の弟のレンとか、ミク姉とかMEIKO姉、KAITO兄に、ルカ姉でしょ、それとー……とにかくいっぱい! いるんだよ!」
「……そうか」
「てかまんばちゃんの好きなものは」
「……俺の、好きなもの?」
「そうそう。なんかあるでしょ?」
「……強いて言うなら、部屋にいる時間」
「あ、なんか分かる」
リンがうんうん、と頷いている。それに合わせてひょこひょこと大きな白いリボンが揺れた。
「プライベートは大事だもんねー。あたしもたまに一人になりたい時ある」
「……まあ、そんなところだ」
彼は布を引っ張って顔を隠してしまう。だが山姥切国広にはよくある仕草だ。リンは対して気にしない。
その後はリンがただ一方的に話す形になっていた。山姥切国広は嫌な顔一つせず、相槌を打ったり、時にはどういうものなんだ、など質問をしたり。お互いに、心穏やかな時間が流れた。
そんな時間が流れるのは速いものだ。山姥切国広が時計を見てそろそろ、と口にした。
「あ、あたしもそろそろ帰んなきゃ。じゃあねまんばちゃん!」
「……今度はどう言って会うつもりなんだ」
「んー、今度はあたしがまんばちゃんにジュース奢ってもらったことにしよ! それのお礼!
そうだ、メッセージはいつでもウェルカムだよ! 仕事で遅くなるかもしれないけど必ず返すから!
じゃ、まったねー!」
リンはそう言って走って帰っていく。リンにとっては、新しい友人が増えたと思っており、その新しい友人とどのように過ごすか考えるだけでも楽しかった。
この日から、リンはちょくちょく演練会場に着いていき、山姥切国広との交流を深めていくこととなる。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.73 )
- 日時: 2020/03/11 21:10
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: ycnzZQhq)
巴形薙刀と静形薙刀は辺りをキョロキョロと見回していた。彼らが探しているのは、自分たちの本丸で『冷遇』されている刀剣男士の一振り、『山姥切国広』と交流のある鏡音リンという少女だ。
最近の彼はどこか明るくなった。彼曰く、リンと交流をしていると何だか楽しくて、嫌なことを忘れられるのだと言う。
巴形と静形は、『冷遇』されているわけではない。けれど、いつされても分からない状況である、と二振りは考えていた。
審神者が山姥切国広を『治療』する際に使われる話の中に、どうしても二振りが聞き流せないことがあったのだ。
『刀剣男士は、名前と逸話が大切。それを奪うなんて恥はないのか。いくら自分が刀剣男士として顕現できなくなるからと他の刀剣の逸話を奪うなんて』
山姥切国広が逸話を奪ったなどという話は聞いたことがない。それに、審神者の主張通りであるならば……自分たちはどうなる、と。
確かに自分たちには逸話はない。名前なき巴形薙刀と静形薙刀の集合体。それが彼らだ。けれど審神者の主張ならば自分たちは刀剣男士ですらない。それなら、自分たちは何だというのか。審神者に応えて降りた自分たちは、刀剣男士ではないというのか。
それを肯定されたら、と、恐ろしくて聞けなかった。
だがリンならば、肯定しないはずだ、否定してくれるはずだと、会ったこともない少女に期待を抱いてしまっていた。
「巴形、静形」
後ろから呼ばれた声に振り返る。そこには少し困ったような長曽祢虎徹が立っていた。彼の目には深い隈があり、やつれている。
「主が大慌てで探している。どうしたんだ」
「……俺たちも、リンという少女に会ってみたい」
「俺たちが、刀剣男士であるかを確認したいのだ」
「……なるほど。主のあの発言か。……気持ちは分からなくもないが」
「すみません……」
いきなり声をかけられ全員で振り向く。そこにいた女はびくりと震える。
「す、すまん。驚かせて」
「い、いえいえいえこっちこそあれですよね驚かせちゃったんですよね!? すみません私影薄いもんでよく驚かれます!
……その、審神者の方が見当たらないのでどうしたのかな、と」
確かに演練会場と言えど審神者がいないのを疑問に思うのも無理はない。ただ、逆に刀剣男士がいない審神者も疑問に思われるのだが。
「おれは迷った仲間を探しに来ていたんだ。無事見つかったし、もう戻るつもりだ。
あんたの方は?」
「あ、私の方は演練の振り返り途中だったんで飲み物を買いに抜けてきたんです。
それにしても良かった。薙刀の二振りが、物珍しさに離れちゃったんですかね?」
「あ、ああ。そんなところ、だ」
「すまない、貴女はリンという少女をご存知だろうか」
「巴形!?」
「リン? ……もしかして、金髪に白いリボン付けてる?」
「! 知っているのか。差し支えなければ教えてほしい」
「知ってるも何も……知り合いですね。ただ、リンちゃんは今日来てないんですよ」
「そう、か」
巴形はしょんぼりとして、静形も少ししょんぼりとしている。
あからさまな態度にむしろ長曽祢が慌ててしまう。
「す、すまん。実はおれたちの仲間が彼女とよく話をしているらしいので、それで」
「あーなるほど。何気にリンちゃん大人気だな……。よろしければ、リンちゃんに聞いて了解を得てからになりますけど会います?」
「いいのか?」
「はい」
そう言ってから彼女はスマホを少し操作してあとは返信待ちです、と言った。
スマホをしまう彼女に三振りで礼を言う。しかし彼女は大丈夫ですと言ってから少し気まずそうな顔をする。
何度かチラチラ見てから、意を決したように口を開いた。
「さっき、声をかける直前の話、聞いちゃったんですが……何かありました?」
「あ……その」
「……貴女は」
「はい?」
「貴女は、逸話も、名もなき刀剣は、刀剣男士とは思えないか?」
巴形の問いに長曽祢と静形は思わず緊張して口を閉じ、逆に女はぽかんとした。
そして、え、と口から溢してから何を言っているんだ、と言わんばかりの声色が聞こえた。
「そんなわけないじゃないですか」
「え……」
「どんな刀剣男士でも、降りてくれた刀剣男士です。そりゃ私もちょっと『この刀剣Koneeeeee!!』『よっしゃコンプ勢じゃー!』とか思いますけど。
まー、私結構逸話とかよく分からないタイプなんで、見聞きした情報しか分からないレベルです」
見聞きした情報。それはつまり、ネットの情報も含まれているのだろうか。だとすると彼女の所にいる刀剣男士……特に山姥切たちと虎徹兄弟はどうなっているのだろう。
気になっても聞けない。ただ、彼女は存外口を滑らせるタイプのようでそれも話し始めた。
「とは言え、見聞きした情報だけで判断なんかしません。自分で向き合って『この刀剣男士はこういう刀なんだ』って理解する努力はしますよ。
だって見聞きした情報だけで判断されたら、辛いじゃないですか。
……って言ってもやっぱネットのニュースとかに踊らされちゃうところありますけどねー」
へらりと笑う。しかし彼女の言うことは三振りにとっては衝撃的なことだ。だって、自分たちの審神者は、たかがネットの情報を鵜呑みにし、一方の言うことしか聞かず、信じずに今までいた仲間を、その仲間を庇う者すら手酷く扱う、そんな審神者だ。その上、たった一振りを庇うためだけに他の刀剣男士のことを貶したり否定していることにも気付かない。それら全て、あの審神者にとっては善意のつもりなのだから厄介なことこの上ない。
もし、この人が自分たちの審神者であったならば。そう考えてしまうのは、無理もない話だと思うのだ。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.74 )
- 日時: 2020/03/11 21:15
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: ycnzZQhq)
とある女審神者は、不快感と焦りを抱いていた。
最近、山姥切国広の様子だ。彼は少し明るく、本来ならば喜ぶべきなのだ。けれどそのきっかけは自分ではない。彼がスマホを見るとふわりと笑む。やたらと演練会場に行きたがり、許可すれば顔を明るくする。その笑顔も、その明るくなった顔も、もはや自分には向けられていない。おそらくは演練会場で会った、他の『審神者』に。
「(なんで)」
自分は彼の主で、今まであの顔は自分に向けられていたのに。大切な彼が罪を犯し、その気高い存在そのものが汚れてしまうのが嫌で、山姥切長義への不敬な行動全てをさせないために努力してきた。説得すれば、彼ならきっとそんなことしないと。
結果、確かに彼は山姥切長義への不敬な行動はしなくなった。けれど、その次は絶対にあり得ぬと考えていた主の鞍替えとは!!
「(私は、あなたのためを思ってたのに!!)」
そもそも、何故『山姥切国広』なのか。『山姥切国広』ならいくらでも鍛刀で出せるだろうに。たかが『その程度』なのに。
「まさか……」
そこの審神者は、山姥切国広を使って、山姥切長義を壊そうとしている? それも一振りではなく、何振りも。
「っ!!」
ゾッとする。そんな所に行かせてはならない。『山姥切長義が』危ない。
「……こうなったら……」
審神者はこんのすけに山姥切国広を呼ぶように命じる。そして、蜻蛉切、岩融を呼び、部屋の外で控えさせろと。
こんのすけから伝えられた呼び出しに、山姥切国広は応じた。けれど、暗い顔をしている。
「……なんだ」
「打刀の国広。あなた、恥はないの?」
「……?」
「主の鞍替えを考えるなんて、とんだ鈍だわ!」
「は……?」
「貴方は、しばらくの間、本丸内から出ることを禁じます」
「!? 何を言っている!? 鞍替えなど、意味がっ」
「黙りなさい!!」
審神者が立ち上がり、動揺している山姥切国広に無理やり『封』と書かれた札を貼る。「がっ」と呻いた彼はその場に倒れ込んだ。
その音に思わず蜻蛉切と岩融が入ってくる。ちょうどいいとばかりに審神者は口を開く。
「この鈍を、蔵に閉じ込めてちょうだい。他の刀剣たちにも、その蔵に近付かないように命じなさい」
「……ハイ、承知シマシタ」
「……主ノ命、承ロウ」
岩融が山姥切国広を抱え上げ、連れて行く。蜻蛉切は部屋に用意してあった縄を持って行った。
「そういえば、長曽祢、巴形、静形も様子がおかしかったわね……。まさか彼らも?
山姥切国広とは違って、手に入りにくい部類ではあるから、考えられるわ……。
彼らは、監視強化と、演練禁止程度にしておきましょう」
山姥切国広の部屋。そこに置き去られたスマホには、ぴろん、と通知が入った。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.75 )
- 日時: 2020/03/11 21:20
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: ycnzZQhq)
「んー、まんばちゃん忙しいのかな」
「リン、そろそろ行くよ」
「あ、待ってレンー!!」
何回目かのメッセージを送っても既読が付かない。きっと彼も忙しいのだろうと考え、リンはスマホを置いた。
今日もまたレッスン。近いうちに行うコンサートのための調整も含まれる。
今度は彼と何を話そう? そう考えながら、リンはレッスンルームに入っていった。その時の彼女は思いもしない。山姥切国広からの連絡が途絶えてしまうなんて。
その理由が、何であるかなんて。
リンにはまだ、分からなかった。
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