二次創作小説(新・総合)
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.79 )
- 日時: 2020/03/16 20:45
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: HLTL9ZJI)
大包平「ぴんぽんぱんぽーん!!!!!!!!!!(クソデカボイス)」
柊「前回、見直しましたところ一つお話を飛ばして投稿していました。今回はそのお話を冒頭に持ってきて再編集しました。
無理やり修正したため違和感があるかもしれませんがどうぞご理解のほどよろしくお願いします」
大包平「ぴんぽんぱんぽーん!!!!!!!!!!(クソデカボイス)」
信頼した結果-2-
とある本丸。蔵の中、山姥切国広は静かに泣いていた。
彼はこの本丸では古参に数えられる刀剣男士だ。あまりに真っ直ぐすぎて、周りの声をあまり聞かないが正義感に溢れた審神者に困ったこともあったがそれは彼女の短所ではあるものの長所でもあると目を瞑ってきた。迷惑をかけた者には自分たちが謝り、彼女を庇い続けてきた。けれどそれでも、自分たちの間にはしっかりとした信頼が築かれていると思っていた。
それが間違いであると突き付けられたのは、彼の本歌である山姥切長義が本丸にやって来て一ヶ月ほど経った日のこと。突然呼び出された山姥切国広は呼び出された理由に心当たりがないまま、審神者の自室へ行った。そこで厳しい顔をしながらも目に涙を溜める審神者に驚き、またその口から告げられた事柄にも驚くほかなかった。
曰く、ネット情報で他の本丸の山姥切国広が、山姥切長義を襲っていると。だから、自分もそうなると。
何を言っているのか、分からなかった。他の本丸のそれが事実であるかは分からない。けれどそれがなぜ自分まで本歌である山姥切長義を襲うという話になるのか。必死に弁明しても審神者は聞く耳を持たず、終いには逆上してお前は修行に行けば写しであることを図々しくもやめて本歌を害する存在になる、ただでさえ今の状態ではストーカーのようになると言うのに、だから修行には行かせない、お前が治るまで本歌に近付かせない、偽物なのだから存在させてくれる本歌に感謝するべき、などと言い放たれた。
あの時ほど、絶望したことはないだろう。自分が積み上げて来たであろう信頼は、たかが電子の文字程度にぶち壊される、そんな程度でしかなかったのかと。悔しくて辛くて、泣きそうになった。
それからと言うもの、審神者は山姥切長義に過保護になっていった。山姥切長義にはやたらと構い、褒め称え、彼の周りを刀剣男士に守らせた。(当然のことだが、山姥切長義自身顔を歪めていた。弱いとバカにされていると感じているらしい)逆に山姥切国広には治療などと称してネットから拾ってきた、他本丸の自分がどれほど酷いことを山姥切長義にしてきたのかと言い聞かせ、時には涙まで流して山姥切国広のためなのだと宣った。
それに意見する刀剣にも説得と称しては支離滅裂な発言をし、何やら堀川国広まで山姥切長義に対して危害を加えたという情報を得たのか彼にまで『治療』は及んだ。さらに言ってしまえば堀川を『治療』の対象にしたために新撰組の刀たちが激しく意見した所、気に食わなかったのか知らないが逆上し、元主たちを罵倒した挙句、彼らまで『治療』の対象にした。
時が経つにつれ、その『治療』は酷くなっていった。審神者が無意識かどうか分からないが、他の刀剣男士たちを言霊で縛って自分たちを罵倒させ始めたのだ。その逆で山姥切長義には彼がやった覚えのないことですら彼の手柄にして褒め称えていた。
そこまでする審神者に、刀剣男士たちはみな何を言っても聞かないと諦めていた。
和泉守兼定は、自分を子どもじみたワガママな刀剣男士と思い込み、けれど最後の抵抗か、そんな奴が土方歳三の刀などではないと髪を切り落とした。
堀川国広は、自分を気に食わぬ物を誰彼構わず暗殺しようとする恐ろしい刀剣男士だと思い込み、手か足を縛られて、首輪をしていないと落ち着いていられなくなっていた。
加州清光は、自分だけが愛されていないといけないと満足できない自己中心的な刀剣男士だと思い込み、愛されなくても大丈夫なようにと化粧水や爪紅を捨てた。
大和守安定は、二重人格で人格が変わるとみんな斬り捨ててしまう刀剣男士と思い込み、人格が変わらぬようにと自分を傷つけるようになった。
長曽祢虎徹は、贋作であり、虎徹の真作に認められようとしながら何も努力しない図々しい刀剣男士と思い込み、ただでさえ鍛錬に励んでいたのに寝る時間すら削り、様々なことを無理してやるようになった。
和泉守は自ら髪を切り落としたが堀川は逆に髪が長くなり、加州と安定の目はそれぞれの右目が赤から青、青から赤に変わっていた。
山姥切国広にはまだ外見の変化はないが最近では自分が審神者の言うような刀剣男士なのだと言われ続けた。
あの日出会った、鏡音リンという少女。最初から自分を『まんばちゃん』と呼び、何故か微糖の缶コーヒーを押し付けてきた少女。リンは偽物で充分だと言えば、心底不思議そうになんで? と返してきた。
──じゃあなんで悔しそうにしてるの
ああ、そうだ。自分は悔しかったんだ。築いていたはずの信頼が、見知らぬ人物が書いた、不確定な情報で壊れたことが。いいや、そもそも信頼を築くことすらできてなかったのかもしれない。それでも、そんな物よりも目の前の自分を信じて欲しかった。
あの日の夜にリンとやり取りをしていた時、待ち合わせ場所を出会った場所に指定してきて、思わずリンを襲うかもしれないと返してしまったけれど、リンはまんばちゃんはそんな人じゃない、と言ってくれたことがすごく、すごく嬉しくて。それ以上に、何故と、会ったばかりの少女の方が信じてくれているのに、と悲しくて。涙を抑えることは、できなかった。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.80 )
- 日時: 2020/03/16 20:50
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: HLTL9ZJI)
リンは少しだけ元気をなくしていた。ある日からパタリと途絶えた、山姥切国広からの連絡。こちらからメッセージを送っても既読すら付かない。迷惑だと思われたのだろうか。話す時も自分が一方的に話すばかり、無理もないかもしれない。
ため息を吐く。友人だと思っていたのはこちらだけだったのだろうか。
「リンちゃん」
「ひょわっ!? み、ミク姉」
「そろそろ時間だよ、行こう!」
今から行くのは、コンサートのための衣装合わせだ。リンは頷いて、カバンにスマホを入れてマンションを出た。
「……」
閉じ込められて何日経っただろう。食事は運ばれて来る。監視付きでならば風呂などにも行ける。だが、一日のほとんどはこの蔵に拘束されて閉じ込められていた。
その上で審神者が毎日のように考えを改めろ、山姥切長義に謝罪し心を入れ替えろ、鞍替えなど許さないと一方的に怒鳴り散らす。他の刀剣男士も監視になる際は何も言葉を発さない。光のない目をしているだけだ。
「おれは、ほんとうに、」
あの審神者の言うような、刀剣男士なのだろうか。山姥切長義から、『山姥切の逸話』を奪いながら、のうのうと生きているような、そんな。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.81 )
- 日時: 2020/03/16 20:55
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: HLTL9ZJI)
蔵の扉が開いた。今日は審神者はとっくに来て怒鳴り散らして行ったはずだが、もしかするとまた来たのだろうか。
「切国の」
この本丸で、この呼び方をするのは一振りしかいない。何とか顔を上げれば、目に入ったのは美しい青の瞳。
「……いずみの、かみ……?」
来たのは、和泉守兼定だった。彼の目には、光がある。彼は顔を顰めたかと思えば本体を抜き、山姥切国広を縛る縄を切り始める。
「なにを……」
「いいか、切国の。俺はいい加減、堪忍袋の尾が切れた。今まではあいつの正義感が暴走してる、だからすぐに収まると思ってた。
だがそうじゃなかった。静観していた俺たち自身にも腹は立つが、ここまでする主にも腹が立ってる。……主は俺を、わがままなガキだと思ってやがる。だったら俺はそのわがままでお前を、ここから、この本丸から逃す」
「……!!」
「いいか、この縄が切れたらすぐにゲートに向かえ。そこに山伏が小せえ荷物を持って立ってる。そいつを受け取ってすぐにゲートを潜れ。
悩むな。そんな暇があるなら、ギリギリの状態で主の『言霊』に逆らって俺のわがままに付き合ってくれている山伏から荷物を受け取れ。
と、ついでに」
和泉守から何かを渡される。見ればそれは、支給されていたスマホだ。
リンからのメッセージ。それを伝える通知が、いくつもあった。
『まんばちゃん、大丈夫?』
その最新のメッセージに、涙が浮かぶ。
「そいつが何なのかは知らねえが、そいつを頼れるようなら頼れ。それが無理なら政府の役人に訴えろ。
……負けるなよ、『山姥切国広』」
縄が全て切れる。よろめいたがすぐに走り出す。一回だけ振り返り、口を開く。
「ありがとう、いずみのかみ」
「おう」
山姥切国広は走り出す。途中で審神者に見つかったのか、捕らえろと聞こえた。けれどもう捕まるわけにはいかない。和泉守のためにも、『言霊』に逆らってくれた山伏のためにも。
ゲートが見える。そこの隣に立つ山伏国広も見えた。よく見ると彼の手の甲から赤い物が垂れていたのが見える。
「きょうだい」
ついそう呼べば山伏はニッと笑い、荷物を差し出してきた。それを受け取り、ゲートを潜る。
繋がった先は、演練会場だった。たった一振りで、それも小さな荷物だけを持った山姥切国広に周りの審神者も刀剣男士たちもざわつく。ただ、彼にはそんなこと関係なかった。
一目散に駆けたのは、リンと初めて会った場所だ。けれどそこにリンの姿はない。
そこに座り、スマホを取り出す。幸い、まだ使えるようだ。ロックを解除し、震える手でメッセージを開く。
『まんばちゃん、明日はみかんジュース奢ってあげよう!』
『まんばちゃん?』
『まーんーばーちゃーん』
『おっといけないおやすみまんばちゃん☆』
そんなリンからのメッセージが目に入り、涙が溢れる。
ただ、彼女からのメッセージを見るだけのつもりだった。少しだけ休んでから、政府の役人に話すつもりだった。
『たすけてくれ、リン』
そんな短いメッセージを、送っていた。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.82 )
- 日時: 2020/03/16 21:02
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: HLTL9ZJI)
「わぁ、かわいいよリンちゃん!」
「まさかまたこの衣装着るとはね〜……」
「今回のリクエスト企画も思い切ったもんよね」
「ええ、私も着物を合わせ直さないといけないらしくて……ふふ、あのシリーズは大人気でしたからね」
リンが着ていたのは七つの大罪シリーズの一つ、『悪ノ娘』のドレスだ。黒を基調としたドレスで、フリルは黄色を使っている。共に持つ扇子は淡い黄色。
ふへぇ、とソファに座る。靴は今のところ、ヒールの高い靴か低い靴かで悩ましい。一応今履いているのは低い靴である。
ふとスマホが目に入る。そこに映されていた名前に大慌てでロックを解除し、メッセージを見た。
『たすけてくれ、リン』
「まんばちゃん……!?」
「リンちゃん、どうしたの?」
「っごめんミク姉、ちょっと出てくる!」
「えっ!? ま、待って、その衣装、貸衣装だよーっ!?」
「そこじゃないでしょ! ああもう、ドレスなのに速いわねあの子!」
山姥切国広は息を切らせながら、追いかけてきた刀剣男士と審神者から逃げていた。
「お願い、捕まえて!」
審神者の言葉に何人かが道を塞ごうとするが階段を駆け下りる。視界の端に映る他の審神者たちはその異様な光景に何人かが端末を操作していた。
いつまでも逃げている訳にもいかない。なのに政府の役人たちの姿も見えない。それに苛立ちを覚えた。何より、捕まってしまえば和泉守と山伏に申し訳が立たない。
「まんばちゃんっ!!」
「!!」
聞き慣れた声。聞きたいと、願っていた声。近くの階段を見上げれば、そこにいたのは、ドレスを着たリンだった。彼女は肩で息をしていて、汗もかいている。それは彼女が急いで来てくれたのを知らせる、何よりもの証拠で。山姥切国広の目に、また涙が溜まる。自分はそんなに泣き虫だっただろうか。
そんな疑問すら片隅にやって、リンに向かって両手を伸ばした。
「りん……!!」
「まんばちゃーんっ!!」
リンが駆け下りるどころか、飛び降りる。そんなリンを、山姥切国広は抱き止めた。
「りん、りん……!! あいた、かった……!!」
「まんばちゃん、無事で何よっ、て手首に縄の跡付いてますけどォー!?」
なんで!? と手を取られる。ただその一言で端末を操作する審神者が増えた。
ふとリンが山姥切国広の顔見て、そっと前髪に触れた。少しだけ、悲しそうな顔をして。
「まんばちゃん、前髪長くなった? 顔、もっと見えなくなっちゃうよ」
「え……?」
「それに、なんか舌足らずな感じもする。いまつるくんみたいな、謙信くんみたいな……ううん、下手すると二人よりひどいかも……」
言われて初めて気が付く。自分はそんな状態になっていたのかと。確かに、蔵に閉じ込められてからは話すこともなく、今まで以上に身なりを気にしなくなったところはあるが。
「ちょっと貴女!!」
ヒステリックな声に山姥切国広はびくりと身体を震わせた。リンと共にそちらを見れば、怒りに顔を歪めた審神者がこちらを睨んでいる。
その後ろには無理やり付いて来させられた長曽祢、静形、巴形がいた。
「やっぱり貴女だったのね! 何でもなさそうなフリして、山姥切国広を奪うつもりだったんでしょう!?
そんなドレスまで着て、勝ち誇ってるつもり!?」
「え? ドレス……やっば、貸衣装のまま来てた。通りでなんか走りづらいと思った。
そんなことより、あたしはまんばちゃんを奪うつもりなんてない。だけど……正直、あなたのところにまんばちゃんを置いてたら、まんばちゃんの心が壊れると思う」
「なんですって!? 私が彼を傷つけてるとでも言いたいの!?」
事実だが。そう思いながらも何も言えない。……ここまでヒステリックになると、刀剣男士たちでも怒りを沈めるのは難しい。
「リンちゃぁあああん!? 勝手にゲートを使った鏡音リンちゃぁあああん!?」
「どこじゃー!!」
「あ、柊さんとむっちゃん。こっちこっちー!」
呑気に手を振って誰かを呼んでいる。走ってきたのは、女性と陸奥守吉行だった。
「もう勝手にゲート使ったらダメだって! 担当から絞られるの私!!! 凄まれる!!!」
「許してにゃん」
「いつから許されると錯覚していた?」
「なん……だと……?」
「……あんた」
「? あれ、長曽祢……虎徹、ですよね?」
「あの時の……」
「……え。巴形と、静形、ですか? え?」
女性──柊が目を丸くしている。三振りを見て言葉をなくしているのは明確だった。
見ると周りの審神者も目を丸くしている。しかしそんな周りに一切気にせず、審神者は柊に対して怒りの矛先を向けた。
「ああ、なるほど。貴女がこの子を使って山姥切国広を奪おうとしたのね!」
「は?」
「それで、山姥切長義を……ああ、なんておぞましい!! あんたみたいなやつが、審神者をしているだなんて!!」
「ちょ、ちょっと、話が見えないんだけど」
「主、ちっくと下がっちょき」
審神者の様子に警戒した陸奥守が柊を後ろに下げる。さりげなく、自分やリンも下げてくれた。
「主に、そがな言いがかりはやめぇ」
「言いがかり? ああ、貴方もそいつに毒されてるのね。かわいそうに……」
「勝手に哀れむんは自由じゃが、奪うとはどういうことじゃ。場合によっては政府に訴え出ることも考えちょるが」
「そのままよ。あなたの審神者はね、私から山姥切国広や、それ以外の刀剣も奪って、あなたの本丸の山姥切長義に無体を働かせるつもりなのよ。
そのために、そんな子どもまで使うなんて……恥ずかしい人」
「そがなことはない。主はそんな贔屓はせんし、差別もせん。ぜーんぶ、おんしの憶測ぜよ」
「憶測? そんなことないわ! だって事実そうでしょう? あなたの本丸の山姥切長義は、虐げられているんじゃない?
……もしかして、本丸全体で虐げているから気付かないの……? 酷すぎる……」
もはや被害妄想だ。さすがに陸奥守も柊も頬をひくつかせている。
そんな二人の様子に全く気付かない審神者はこちらを睨みつけた。
「そんな本丸に、山姥切長義を置いておけないわ! あなたの本丸の山姥切長義をここに呼びなさい、私の本丸で保護します!」
「は? いや、保護って一審神者の意見でできるわけな」
「政府だってそう言うに決まってるわ! さあ、早く!!」
「……チッ、話通じねえなあ、クソアマ」
柊の声が少しだけ低くなり、彼女も審神者を睨み付ける。陸奥守が止めようが前に出てお互いに睨み合った。
「てめえの耳は聞こえてねえのか? だいたいさっきから憶測でモノ言いやがって、いい加減にしやがれ」
「憶測じゃないと言っているでしょ!?」
「憶測だろうが、てめえは『俺』の本丸を一度でも見てんのか? ああ?」
「み……ては、ないけれど、あなたみたいな人はそういう人よ!!」
「語るに落ちてんなぁおい。結局は憶測でしかねえだろうが。それに俺からしてみれば、お前の方が相当やばそうだがね。
そこの長曽祢虎徹は何故『灰色の髪になり、紅い瞳』をしている?
そこの巴形薙刀と静形薙刀は何故『互いの色が反転』している?」
「そっ、そんなの知らないわよ! 個体差でしょ!」
「個体差、ねえ。なら山姥切国広だって山姥切長義を害するかそうでないかは個体差だろう。
さらに言えば、途中で『何の理由もなく体に変化が起きる』個体は聞いたことがない」
その言葉に山姥切国広が驚く。最初に何もしていないにも関わらず髪が伸びた堀川を見ても審神者は少し驚いただけで騒ぎはしなかった。だからそれは当たり前のことなのだと思っていた。
審神者を見れば少しだけ顔色を悪くしている。ということは、それが『異常』であることを分かっていたということだろうか。
……ただ、今にして思えば少しおかしいと思うことはあった。あの本丸で体に変化が起こったのは、堀川、加州、大和守、和泉守。和泉守は自ら髪を切り落としたが、他の三振りはそうではない。彼らは体の変化が起こってから、演練に連れて行かれなくなっていたような気がする。それに、当たりが少し強くなっていた気もした。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.83 )
- 日時: 2020/03/16 21:09
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: HLTL9ZJI)
「どうせ気付いてるんだろ? 霊力の乱れじゃないってことくらい」
「っ……う、うるさい!! そんなの、関係ないでしょ!? とにかくあんたの本丸の長義をっ」
と、その時だ。ようやく政府の役人が来たのは。役人たちはお互いを少し離れさせ、お互いの話を聞いている。柊の方は『特殊な立場とは言え、一般人をむやみやたらに演練会場に出入りさせすぎだ』と注意されていたが、それは思っていたことらしく、申し訳ない、と素直に謝罪していた。審神者の方は未だに柊を『山姥切長義を冷遇し、山姥切国広を使って山姥切長義を害するつもりでいるブラック審神者』と考えているらしく、大声で騒ぎ立てている。
一応、リンや山姥切国広らにも話を聞き、役人たちは何かを相談していた。
「……承知しました。双方、今回は特に処罰なしと致します。ですがまた同じような騒動を起こした場合、何らかの……」
「ふざけないで! こんなブラック審神者を放っておくの!? 私は認めないわ!!」
「……貴女が認めずとも、上の決定です。どうしても納得がいかないのであれば、ご自分で訴えていただけますか」
「っ!! ……分かったわ。自分で何とかします。ちょっと、あなた」
「んだよクソアマ」
「主!!」
「……悪い。で、何」
「私と勝負しなさい。演練で、私が勝ったらあなたの所の山姥切長義は私の本丸で保護するわ!
そうね、何だったらあなたの本丸の刀剣男士も『治療』してあげる」
審神者の言葉に周りがざわめく。役人は注意するも審神者は一切怯まず、省みない。
この審神者は、あくまで相手が悪者だと思い込んでいる。だから何も聞かないのだ。
「……私が勝ったら?」
「貴女が勝ったら? 別に何もなくていいでしょう?」
「うっわー、こっちに何のメリットもねえ賭け提案されて乗るバカいるかよー。
そうだな……じゃあこうしようか。そちらの本丸の『山姥切』を、私の本丸に異動させる。構わないか?」
「なっ!?」
「別に構わんだろ? あくまで同じような条件を提案しただけだ。せめて同じような条件でないと乗る気にはならねえよ」
「……分かった、わ……」
渋々、と言った感じで審神者が頷く。見ていた役人たちははあ、とため息を吐き、どこかに連絡している。
「双方、明日の十五時以降の『大演練会場』にてお願いします」
「大演練会場? なんであそこで? 普通の演練会場でも充分……」
「上の決定です」
「……うぃっす」
「それから、そちらの審神者様。貴方の本丸の山姥切国広は一度、こちらの審神者様に預ける形を取らせていただきます。よろしいですか?」
「はあ!? ふざけてるの!? こんなやつの所に預けたら逃げるに決まってるじゃない!」
「ではこうしましょう。審神者、柊。貴方の本丸の刀剣男士を一振り、こちらの審神者様に預けてください。なお、どちらかが試合放棄した場合、預けた刀剣男士はそのまま預けた方の本丸へ異動、試合放棄した本丸に預けられた刀剣男士は捜索後、没収し元いた本丸へ帰っていただきます。
お互いの刀剣男士を預かれば、逃げようとは思いますまい」
役人の言葉に、審神者も柊も、渋々頷く。とは言え、柊側から出す刀剣男士をどうするか、だが。
柊が端末を取り出し、本丸へ連絡を取る。出た相手に説明し(少し叱られていた)、預ける刀剣男士を決定していく。
「……そう。分かった、彼が立候補したなら仕方ない、か……。
決まりました。こちらからは、極の前田藤四郎を預けましょう」
「承知しました。では早速、彼を連れてきてください」
数分後、柊は前田藤四郎を連れてきた。彼は戦装束に身を包んでいる。
前田は審神者の前に立ち、恭しくお辞儀した。
「ご存知かとは思いますが、前田藤四郎と申します。一日ではありますが、どうぞよろしくお願いします」
「……ええ。明日、逃げないでちょうだいな」
「そっちこそな。……前田くん、ごめん」
「いいえ、主君が気に病むことなど何一つとしてございません。明日、お待ちしております」
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.84 )
- 日時: 2020/03/16 21:24
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: HLTL9ZJI)
柊本丸、夜。預けられた山姥切国広は、堀川派の堀川国広、山伏国広、そして同じ個体である山姥切国広と同室で寝ることになった。
……ここでの生活は、一日も経たぬのに驚きの連続だ。特殊、とは言っていたがまさか別世界に存在していたとは。そしてポケモンなる生き物や、艦娘、真剣少女など山姥切国広には見たことも聞いたこともない人々との出会いがあって。……皆、山姥切国広に「よく耐えた」と言ってくれた。それでようやく、あの本丸の出来事が普通ではなかったのだと肯定されたような気がした。
「(温かい)」
何もかもが温かい。これが普通の本丸だと言うのだろうか。だとするなら、あの本丸は異常だったのだろうか。……いいや、そうとは言い切れない。今はもうぼんやりとしているが、あの本丸にも確かにこの温かさはあった。
……どうして、ああなってしまったのだろう。自分がもっと、きちんと主張していれば良かったのだろうか。それとも、あの審神者の言うように、山姥切長義に感謝し、彼を敬いながら存在していれば良かったのか。
「……眠れないのか」
「!」
こちらの山姥切国広と目が合う。こちらの山姥切国広は、確か国広と呼ばれていた。彼はじっと自分を見ている。
「……眠れないなら、少し歩こう。起き上がれるか?」
国広が起き上がる。山姥切国広も起き上がって、山伏と堀川を起こさぬように廊下に出た。多少春めいてきたとは言え、まだ夜は冷える。少し待ってろと言われ、待っていれば国広は半纏を持ってきた。
それを着て、二振りでゆっくりと歩く。今日は半月か、と思いながら月を見上げる。
「……ここのおれは、国広とよばれているんだな」
「ああ。だがな。本歌が来て少し、そうだな、三週間くらいだったか。それまでは、まんば、だの、山姥切と呼ばれていた」
「え」
「それがなくなった頃は、主は不慣れながらも俺を『切国』と呼んで、今では『国広』になった。……俺の主は、本歌との問題で非難の目を浴びるのが恐ろしかったんだ」
「……」
「ただ、俺はそれに不服など抱いていない」
「そう、なのか」
「ああ。……主も、ここの本丸の連中も、他の奴らも。俺を『山姥切国広』の国広として呼んでくれている。
和泉守だけは、『切国』呼びなんだが」
「……おれの、おれのほんまるの、和泉守も、おれを『切国』とよんで、くれるんだ。
なあ、本歌はなんと、よばれているんだ?」
「長義、だよ」
後ろからした声に大きく体を震わせて振り返る。同じく寝巻きの山姥切長義が立っていた。
「なんだ、起きていたのか」
「そろそろ寝ようとしていたら、話し声が聞こえたんでね。で、そこの……あー……写しくん」
「な、んだ」
「俺も、この呼び方に不服はないよ。そこの偽物くん同様、ここの仲間たちは俺を『山姥切長義』の長義として呼んでくれているからね。
ただ知ってるか、偽物くん。主はこれで平等と考えているらしい」
「写しと偽物は違うがそうなのか。主らしい」
長義と国広がくく、と笑っている。あの本丸では、想像すらできない光景だ。
「写しくん」
「なんだ……?」
「あの本丸の俺は、どうなっているんだ? いくら優判定を下したからとそれを覆すのを良しとせず放置しているわけじゃあるまい。
仮説ではあるが、あの審神者に問題があるね?
そう、例えば……」
長義の話し始める『仮説』。それに山姥切国広は目を見開くしかできなかった──。
同時刻、執務室。そこで陸奥守吉行と柊は向き合っていた。
「なんじゃ主」
「……むっちゃん。明日の演練のことでいくつか話しておきたいことがある。
まず第一に、明日の演練メンバー。部隊長はむっちゃんに頼みたい」
「! おお、任せちょけ!」
「隊員は、秋田藤四郎、堀川国広、山伏国広、石切丸、御手杵にしようと思っている」
「ん? ウチの初なんたら、のメンバーじゃの」
「……確実な勝利を手にするなら、いつものメンバーで行った方がいいんだけど。正直腹立ったからうちの本丸の絆とやらでも見せてやろうかと」
「がっはっは! 主らしい!」
「それと。……前田くんから連絡が入った。
やはり、って訳でもないけど相手は山姥切国広を切り捨ててそのまま逃げようとしている動きを見せているらしい」
「!!」
「まあだからこその前田くんだ。彼なら穏便に相手を引き摺り出してくれるだろう。
……あと、和泉守兼定が蔵に閉じ込められているらしい」
「なっ!?」
「彼曰く、山姥切国広を逃した罰だそうだ。だから和泉守兼定が演練に出る可能性はゼロと見ていい」
その報告に陸奥守はぎり、と歯を食いしばった。
「……むっちゃん、実は今から言うことが一番頼みたいことなんだ。
明日の演練、おそらく──」
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.85 )
- 日時: 2020/03/16 21:40
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
前田は審神者に与えられた部屋をこっそり抜け出して、本丸の様子を見ていた。前田が立候補した理由は主に三つ。
まずは極短刀であるが故に隠れたり、偵察は得意だ。それを生かし、何か違和感があれば報告するため。
次に、前田は山姥切国広と大した接点がないことだ。そうであればまず審神者が前田を取り込もうとする可能性は低くなり、関心も薄いだろうと踏んでいたが合っていたようだ。特に監視を付けることもなく部屋に案内してから去っていった。
そして一番最後にして重要な役目。万が一、審神者が約束を破って試合放棄しようとした場合、なるべく穏便に演練に向かわせるためだ。もしも言うことを聞かない場合にも逃げるための準備は整えてある。問題はない。
「(やはり、おかしい)」
短刀、脇差、打刀は極めている刀剣が何振りかいるのに、山姥切国広が極修行へ行く許可が下りて以降、ぱったりと修行に行きたがる刀剣がいなくなったようだ。その証拠と言わんばかりに大太刀、槍、薙刀に極めた刀剣は一振りもいない。また、その時までは単純に練度が足りなかったのか短刀、脇差、打刀にも極めていない刀剣が多く見られた。
思ったよりも、この本丸の信頼関係は希薄な物になっていたらしい。
ふと、蔵の中から刀剣男士の気配を感じた。大典太光世かとも思ったが、先ほど本殿ですれ違ったばかりだ。ならば、と前田は蔵を覗き込んだ。
「えっ……」
「前田か? ……ここの本丸の前田じゃねえな」
「あ、の、和泉守さん、ですか?」
「ああ。わりぃ、今動けねえんだ」
「いえ、それは問題ありません、が……」
見ると和泉守の身体にはいくつも『封』と書かれた札が貼ってある。なのに和泉守は苦しそうな表情を一つも見せず、それどころか前田に向けて笑って見せた。
確か、あの札は刀剣男士など、人ならざるものの動きを封じる札だ。ただ、基本的には一枚で充分。必要以上に貼れば、苦痛を伴うと言われている。
「これか? あいつが言うには俺は“堕ちかけている”らしいぜ? 俺が切国を逃して和を乱したからだとよ。全くもって、バカらしい。本当のことなんざ何も見えちゃいねえ。
……前までは、こんなんじゃなかったのにな」
「え?」
「ここもな、他と大して変わらねえ本丸だったはずなんだよ。だが山姥切長義が来てからおかしくなり始めた。ああ、あいつが悪いってんじゃない。むしろあいつも被害者だ。
元々人の話をあまり聞かない人間だったが輪にかけて話を聞かなくなった。自分の考えることが完全で完璧な正義だと思い込み始めた。自分じゃ否定してるが、自分でも気付かねえところでそう思ってる。仮にそうでなかったとしても、『冷遇される山姥切長義を守る、正義の審神者』ってのに酔っちまってるんだ。
……その上、主の霊力の性質がこれまたタチ悪い方向に相性ピッタリでな。うちの主は、『言霊』だけはやたら強い。
何も知らねえやつ、知ってても執拗に言われ続けたらその思考が正しいと思い始める。……長曽祢さんや、清光たちを見ただろ。ありゃ、存在が揺らぎ始めてんだ」
「!!」
「山姥切長義や俺はそこまででもねえ。山姥切長義は主の描く『山姥切長義』の像に不満を持ってる。俺は多少は聞き流すようにした。
……前田。お前の所の審神者に頼みたい。俺は切国を救ってやれなかった。だから俺は助けなくて構わねえ。だが、切国や他の奴らは助けてくれねえか?
頼む」
「……承知しました。あの、もう少しお聞かせ願いたいのですが、ここの極の刀剣たちの練度は、その……低いように感じます。それは、何故ですか?」
「……ほとんどは『主のために修行してきたのは間違いだった』と思ってる。それはな、主が切国を蔑ろにしているからだ。
ネットとやらの言葉、情報だけを聞いて責め立て、切国の言葉は言い訳扱い。……そりゃ、全部信じろとは言わねえ。だが、長年共に戦ってきた仲間より見たこともねえ相手の言葉を信じてあっさり突き放すようなやつを信じろと言われても無理な話だろう」
そう呟くように吐き出された言葉は、どこか悲しみを含んでいるようにも聞こえた。
……考えれば、ここの審神者は山姥切国広だけではない。ほとんどの刀剣の思いも、裏切っているのではないか。
前田は和泉守にかける言葉が見つからず、
彼にそろそろ寝ろ、と言われるまで、黙り込んでいた。
夜は明ける。時は過ぎる。
大演練会場。ここで、事態の決着は着く。
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