二次創作小説(新・総合)
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.86 )
- 日時: 2020/03/19 20:17
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
信頼した結果-3-
大演練会場は、定期的に行われる本来各サーバーの代表とも言える審神者同士の演練をより多くの審神者が見れるようにした、競技場のような場所である。今回のような個人的な諍いに使われるような場所ではないが、その原因が原因故か注目を集めていた。
リンも特別に通してもらったが席はほとんど空いていない。そのため、立ち見をすることにした。……向かい側は空席が目立つ。しかしそちらに行ってはいけないと役人から言われた。何だと言うのだろう。
すると、アナウンスが入る。あの審神者と柊が入場するようだ。
「審神者、瑠璃溝隠入場」
瑠璃溝隠と呼ばれたあの審神者は変わらず巫女服を着ていた。彼女の後ろには今回の演練メンバーであろう刀剣男士が控えている。
部隊長、山姥切長義。
三日月宗近。
蛍丸。
江雪左文字。
小竜景光。
大典太光世。
山姥切長義以外は全員、レア4以上の編成だ。刀装は山姥切長義は投石兵を、それ以外は重騎兵、精鋭兵を中心に持っている。
「審神者、柊入場」
柊の格好は活撃審神者のような服を着ていた。上着は黒になっている。柊の後ろにも演練メンバーが控えている。
部隊長、陸奥守吉行。
秋田藤四郎。
堀川国広。
山伏国広。
石切丸。
御手杵。
極めていないが全員練度上限に達している部隊、全員が極めている部隊。
「……逃げなかったことだけは称賛するよ」
「それはこちらのセリフよ。てっきり逃げるかと思ったのだけど」
聞いた話だが、瑠璃溝隠は一度逃げようとしたらしいのだが前田に見つかってやんわり促されてからは逃げようとしなかったようだ。
『両審神者は、結界の中へ』
機械的な女性の声がして、二人は結界に入る。それを確認したかのように、螺貝の音が鳴った。これが演練開始の合図だ。
「銃兵、展開!!」
「弓兵、構え、放てっ!!」
「投石兵、展開じゃあ!!」
「……投石兵、展開」
互いの遠戦用の刀装が展開され、銃弾、弓、石が飛び交う。
相手の石は御手杵に向かうが、投石兵を展開したまま陸奥守が駆け寄り、それらを叩き落とす。互いの遠戦は多少刀装に傷を付けた程度で終わった。
「悪いな、陸奥守」
「構わん構わん!! 行くぜよ!!」
大抵の先手は極めた短刀が取る。その例に漏れず、一番手は秋田だ。狙うのは、三日月宗近。対する三日月はゆらりと本体を構える。
「えい!」
秋田の本体が三日月の肉体を確実に攻撃した、はずだった。彼はただ無表情でそれを防ぎきった。結果として言えば、刀装を剥いだものの、本刃を傷つけるまでには至らない。
「はッはっハ、良きカな。なかナかの太刀筋だ」
「……?」
何か、喋り方に違和感を感じる。まるで多少機械のような……。
「秋田っ!!」
秋田がハッとした時には、眼前に迫るのは長義の本体。咄嗟に防ぐように構えるが、誰かが来て自分を庇い、それを弾き返した。
その誰か、は堀川であった。
「大丈夫!?」
「はい、ありがとうございます堀川さん!」
お礼を言われた堀川はただ笑い返し、そのまま果敢に斬り込んでいく。しかしその攻撃もまた、刀装を一つ剥いだだけだった。
ならば、と堀川が下がり、再度陸奥守と突撃していく。狙うは部隊長の長義だ。
「二刀」
「開眼!!」
二刀開眼。脇差と打刀が使える特殊な技であり、脇差が刀装を剥がし、打刀が敵を斬るというものだ。
二振りの狙う長義は微動だにせず、これならば、と考えた二振りの前に飛び出してきたのは、小竜景光だった。
「なっ……!?」
小竜の刀装が全て弾かれ、陸奥守の本体による一閃は小竜を捕らえた。狙いと違ったとは言え、まずは一振りを戦線離脱状態に追い込めたのは良い事だ。そう考え、本体を構え直す。
その時だ。陸奥守が、いや、そこにいるほとんどが、瑠璃溝隠側の席に座る審神者の様子がおかしいことに気付いたのは。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.87 )
- 日時: 2020/03/19 20:22
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
リンもようやく、あちら側の審神者たちの様子に気が付いた。倒された小竜を見て、涙する者もいればほう、とうっとりしたような感嘆のため息を吐く者もいて。こっそりと耳のヘッドホンに手を伸ばし、かちりとボタンを押す。このヘッドホンは、任意の音や声を拾えるかなりハイテクなヘッドホンなのだ。言うなれば、『かがくの ちからって すげー!』である。
「なんて、なんてことなの。あんなに無残なのに、山姥切を守り倒れる姿が美しいわ」
「ああ、さすがね小竜。やはり山姥切を守る長船の一振りよ」
「あんな偽物を庇うことが優しさと勘違いしている審神者なんて早く倒してしまえばいいのに」
「あの審神者、堀川派の二振りを入れるなんて山姥切への嫌がらせのつもりか? 意地が悪い女だな」
……ぞわり、とした。思わずボタンをもう一度押して聞こえないようにした。あの審神者たちは何を言っているんだろう? まるで山姥切国広が悪者で、それを庇う者たちも悪者のように。それに長船派が山姥切長義を守るというのもいまいちよく分からない。確かに長船派と全く縁がないかと言えばそうではないが……。
はっきり言ってしまうならそれは『異常』だった。まるで山姥切長義が全ての中心のような言い方なのだ。次々聞こえた話を要約するならばあの審神者たちにとって山姥切長義は神格が高く、何故かは知らないがどの刀剣男士も彼を守り、褒め称えると考え、逆に山姥切国広はそんな彼から逸話を奪い、極になれば写しをやめて彼を襲うとんでもない存在で、そんな彼を庇う存在もロクでもない存在のようだった。……だからやたら堀川派が仇のような目で見られているのか。今回、新撰組の刀剣男士が被害に遭ったのも堀川国広が新撰組の刀剣男士だからその延長線なのかもしれない。巴形と静形は完全にとばっちりを食らったのだろうが……それでも一振りのためだけに当たり前のように他を蔑ろにする発言ができる審神者たちにリンは薄寒いものを感じた。
しかも、本人たちは本気でそれを『善意』かつ『正義』だと信じているのだろう。だから何の疑問も持たずにその発言をし続けられるのだろう。
……あちらにいる山姥切国広は、大丈夫なのだろうか。善意から来る『悪意』に、蝕まれていないだろうか。
「国広の方も深刻ではあるが、長義の方も厄介だな……」
「それって、どういうことです?」
「元々、国広の方にもあいつらレベルに庇うような審神者がいたんだ。まあ、国広の方は鎮静化……ではないか。あまり目立たなくなっていったんだが、長義の方はまだ鎮静化しないな、これは……。長義も、難儀だよな」
そんな審神者たちの会話が耳に入る。
「柊さん……」
もしこの演練、勝てなければ山姥切国広だけでなく、柊本丸の長義や刀剣男士たちまで危険に晒される。リンはきつく手を組み、祈るように目を瞑った。
彼女の背後から伸ばされる手に、彼女は気付かない……。
──ポンポンッ
「え?」
彼女は、後ろを振り向いた。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.88 )
- 日時: 2020/03/19 20:27
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
少し時は遡る。本来であれば瑠璃溝隠側に通されていた審神者の二人は、柊側の観客席に来ていた。
「瑠璃溝隠様の本丸から、偽物とは言え山姥切国広を奪おうとした少女がこっちの方にいるらしい。金髪の少女で、白い大きなリボンを付けている」
「可哀想に。きっとその子もあの審神者に洗脳されているんだろう」
「ああ。我々が『保護』し、再教育を施し、洗脳から解放してやらなくては……」
こっそりと覗き込む。すると審神者二人はつい目を見開いた。目の前に、リンの姿があったからだ。リンは手を組み、祈るような仕草をしている。
そして、都合が良くリンの周りの人々も演練に釘付けだ。……チャンスは今しかない!
審神者たちはこっそりと近づいていく。手を伸ばしていく。リンは、気付いていない。
──ポンポンッ。
突然背後から肩を叩かれ、大きく体を震わせた。勢いよく二人が振り向く。
「やあ⭐︎」
全くもって。全くもって誰が予想しただろう。
背後に、全身タイツを着た不審な男四人がいるとか。絶対誰も予想しない。
はい、この二人は知る由もないが皆さんお察しの通り、裸族の登場である。花村、太子、芭蕉、裸族太郎がそれぞれポーズを取っていた。
「え?」
「ゑ?」
「すぐに用件を済ませてあげたいけれど、こっちに来てもらうよ……」
「大丈夫だ、痛くはしない……」
二人の抵抗虚しく、二人は近くの空き室に連れ込まれた。なお、何故か太子と芭蕉だけはやたらヌルヌルテカテカしていたとだけ追記しておこう。
密室に、男六人。正直身の危険を感じている。むしろこれで身の危険を感じないのは鈍感通り越していると思う。
「な、なんだ貴様ら!!」
「我々は、通りすがりの裸族だ!!」
「らぞ、は!?」
「事前に時の政府の方に『不審人物を見かけ次第捕縛してくれ』と頼まれていてね」
「いや不審人物お前らだろ!!」
ぐうの音も出ないほどの正論である。
ちなみに太子は青、芭蕉は緑、花村は蛍光ピンク、裸族太郎は紫の全身タイツを見に纏っていた。はっきり言って目に毒だった。
街中で見かけたら通報からのお縄不可避な格好をした彼らはやたらKO☆KA☆Nを主張するようなポーズを取り続けている。
「だが、場合によっては多少の怪我もやむを得ないとも言われたよ」
「僕らとしては、いくら何でも怪我をさせてくない……だけど無力化はしないといけない」
「いやこの時点でわりと無力化成功してますけど!?」
「よって、キミたちを『裸族技』による『裸舞』で平和的に無力化することにしたんだ!」
「平和なの!? それ平和なの!?」
「安心するでおま、痛くないさ」
「むしろ、ここにいる裸族の『裸舞』でお前たちを幸せにしてやるぜ……」
「全力でご遠慮したい!!」
「全力で逃げたい!!」
審神者二人にじりじりと近づいていく太子と芭蕉。審神者二人の背後の扉には裸族太郎と花村。……裸族太郎は細身ではあるが意外と体格がいい(某真実はいつも一つの名探偵の犯人が一番イメージしやすいです)。だが花村なら何とか押し除けて逃げられるはず。
「くそっ!」
「こんな部屋にいられるか、俺たちは逃げるぞ!!」
死亡☆フラグ。審神者たちは花村の方へ向かって走り出す。
「させないよ!! らぞガード!!!」
「ぐぁあああああ!?」
「何で!?」
花村がポーズを取っただけで一人の審神者が弾かれた。それを見てもう一人が思わずツッコミを入れてしまう。
そんな花村の隣で裸族太郎は腕組みをして解説し始める。
「らぞガードとは。裸友が意図せぬKO☆KA☆Nポロリしてしまいそうな時にポーズを取り、こちらに視線を向けて守る技だ!
なお、意図してポロリする場合は効かないのが難点だ!」
「今弾かれた理由は!?」
「そんなことよりらぞガードってありそうだよな、被っていたら、その上で効力が違っていたら申し訳ない!!」
「弾かれた理由を話せや!!」
「さあっ、観念するんだ!!」
審神者が振り向く。そして目の前に……緑のKO☆KA☆N。それがべちゃあと顔に押し付けられる。
「ーーーーーーー!!」
声にならない悲鳴が上がる。いや声にできない悲鳴である。何でかと言われれば『言わせんなバカ///』である。
KO☆KA☆Nがぐるりと顔を回り始める。足まで腕で拘束されるがたまに離れる。そのまま緑が自分の体を軸にして高速回転を始めた。
「これぞ鍛錬を重ねた裸族技!!
『逆だいしゅきホールドハリケーン』!!」
いや長い。
「ちなみにこれは作者がTwitterで『だいしゅきホールドの起源は俺』的なツイートを見て、なおかつ大先輩方が編み出した裸族技を思い出して「これいけるのでは?」と考案した技さ!!」
「相手の顔に無防備なKO☆KA☆Nを当て、私たちに争う意志のないことをアピール!! それを回転しながら当て続けることによりさらにアピール!! 回転は時々手を離し、床や相手の足を使って回転力を上げていく!!
事前に付けているローションは相手を傷つけない配慮であり、もし望むならローション無しでも大丈夫だ!!
相手に争う意志がないことをアピールし、相手との裸舞を確認し合う裸舞&ピースな裸族技だぞ!!」
「こっちのサイドでもまだ太子さんと芭蕉さんしかできない技なんだ……。僕らも頑張ってできるようになろうね、裸族太郎くん!!」
「ああ、もちろんだ輝々!!」
絶対受けたくないなそれ。
なお、この二人は間もなく気絶し、ヌルヌルテカテカのまま縛られたのであった。
余談だが、政府の役人曰く「地味に運びづらいから今度からやめてほしい」とのこと。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.89 )
- 日時: 2020/03/19 20:32
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
「リンさんもこちらにいたのですね!」
「やあ、リンちゃん」
「電ちゃんとKAITO兄」
リンの後ろにいたのは、電とKAITOだった。電はぺこりと頭を下げ、KAITOはひらひらと笑顔で手を振った。
「二人とも、来てたんだ」
「うん。電ちゃんが何だか嫌な予感がするって言ってたから、僕が付き添いで来たよ」
「さっき、廊下が少しぬるぬるだったのです……。転びそうでした……」
「一応役人さんに声かけておいたから、帰る頃には普通に歩けると思うよ」
「えー? あたしが来た時は何でもなかったけどなぁ」
リンが首を傾げる。確かに来た時、別にぬるぬるではなかったのだが。(ヒント、裸族)
「ところで、今どんな感じになっているの?」
「あ、そうだそうだ。今ね、柊さんの所が優勢。相手のほたるんの一撃で御手杵さんと石切丸さんが中傷行っちゃって、今土煙上がったけど、相手は小竜さん、三日月さん、江雪さんが戦線離脱状態」
「そっか。これなら安心かなぁ」
KAITOがほのぼの言うが、電の顔色は優れない。不安そうに胸の前でぎゅう、と手を握っていた。
そんな電にリンが声をかけようとした時だ。
悲鳴が上がった。それに咄嗟に演練場を見る。けれどまだ土煙が上がっている。
だがその異変だけは分かった。柊が左目を押さえている。メガネは壊れて地面に落ちていた。大きく映し出されるディスプレイを見れば、柊の左目を押さえる手の隙間から、赤いものが流れていて、柊の顔は苦痛に歪んでいる。
「柊さん!?」
「司令官さんっ!!」
それは少しだけ遡る。瑠璃溝隠は焦っていた。いくらまだ蛍丸が残っているとは言え、あちらは酷くても石切丸と御手杵の中傷だ。演練前にあれだけ『鼓舞』したというのに。
このままでは山姥切をあんなブラック審神者の元に異動させなければならない。それだけはどうしても避けたかった。しかしこの状態で勝ちに持っていくのは難しすぎる。ここで石切丸、御手杵、秋田のいずれかを戦線離脱状態にできれば良かった。
どうする。どうする。どうする。
瑠璃溝隠はちらりと忍ばせている『ある物』に目をやる。演練直前に同じく山姥切長義の冷遇に心を痛めている『いつもの』政府の役人から受け取った物だ。それを見て瑠璃溝隠は……にやり、と笑った。
そうだ、これは正義の行いだ。仕方ないことなのだ。責められる道理などない。
瑠璃溝隠はマイクを口元に持って、部隊長の長義に通信を繋いだ。
「山姥切。命令よ。……『相手の審神者に、石を投げなさい』。頬を掠める程度で構わないわ」
長義が息を呑んだのが分かる。けれど彼の体は指示に従って石を持つ。
そう。そうだ。相手の審神者が多少でも怪我をすれば。結界を張る機械の『不調』があれば。この演練は無効になる!!
土煙に隠れて意図的かなんて分からない。石程度、演練中は結界に防がれるがいくらでも飛んでくる。
長義の体は指示に従う。
「いヤ……だ……」
腕が振り上げられる。
「やめテ……クれ……!!」
一瞬だけ、それが止まったけれど。
「俺、は……やりたく、ナい……!!」
石は、勢いよく放たれ。
瑠璃溝隠が『ある物』のスイッチを押す。それと同時に、相手の結界が消えて。
──ガツンッ!!
石は相手の、『左目』に当たった。
……これは、正義の行いだ。避けられなかった相手が悪い!!
「ふ、あははっ……好都合だわ」
瑠璃溝隠は、通信を切ることも忘れて呟いていた。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.90 )
- 日時: 2020/03/19 20:37
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
「主!!」
「主君!!」
陸奥守と秋田の声が聞こえる。幸い、目に直撃はしなかったがそれに近く、血が止まらない。とてもではないが左目は使えないものと考えるべきだ。
メガネもなく、視界がぼやけている。ああくそ、なんで乱視と近視が混じってるんだ。
結界が消えるとは思いもしなかった。何か不調でもあったのかと思えば結界がまた張られた。
「そこまで、一度演練を中止します。なお、この演練は無効と……」
「待った!! 私は平気だ、続けさせてくれ!!」
「主君!?」
「何を言ってるんですか!!」
「平気平気!! 私、右目の方が視力いいから!!」
「そういう問題では……!!」
「大丈夫!! だから、頼む!!」
「……ワシからも頼む、続けさせとおせ!!」
「陸奥守!? お前まで何言ってんだ!!」
どうやら陸奥守だけは柊の真意に気付き、汲んでくれたようだ。
このまま中止になり、無効になれば山姥切国広も、山姥切長義も、他の刀剣男士だって救われない。せめて瑠璃溝隠から遠ざけるなりしなければならない。そのためには無効になってもらっては困るのだ。
「そうよ、続けても構わないじゃない! だって、避けられなかったあの女が悪いんだから!!」
瑠璃溝隠側の席からそんな声が上がる。そこから次々賛同の声が上がる。……予想通りだ。
「むっちゃん、相手どんな顔してる?」
「……かなり顔が青ざめて、慌てちょる。中止、無効が思惑じゃったろうに」
「OK、相手が何したか分からねえが意図的に消されたと見て良さそうだ」
「主。……あまり無茶はせんようにな」
「ん、平気」
あまりの勢いと声に役人も押されたらしい。続行の旨が告げられる。
とは言え、右目の方が視力がいい、なんて言っても左目と対して変わらない。抑えていない方の手を見れば微かに震えている。……はっきり言ってしまえば、石が飛んできて結界が消えた時、自分を襲った感覚は間違いなく『恐怖』だった。
「情けない」
震えを打ち消すように呟きながら拳を握るも、力が入らない。……こうなってしまえば、仕方ない。
「……創造神マスターハンド、破壊神クレイジーハンド、『レンタルスキル』発動宣言。
スキル名『肉体強化』、『感情封印』許可求む」
頭の中に、二つの「発動を許可する」という声が響く。
「『肉体強化』、右目視力強化三倍、『感情封印』恐怖三十分」
右目の視力がだんだんクリアになっていく。体の震えが止まる。が、視力は未だに慣れない。少し吐き気がしたが深呼吸すればそれは治った。
「(ああ)」
こうしてクリアになった視界で、初めて分かる。
相手の長義は顔色が非常に悪くなっていて、泣きそうな顔をしていた。投げた者も、それが彼の意思でないことも分かった。先ほどの陸奥守からの情報と併せて考えれば誰がその指示を行ったのか容易に分かる。
「(……ごめん)」
事前に、約束してしまっているのだ。陸奥守と。それは昨夜のこと。
──────────────
「おそらく、相手は不利になったらどうにかして演練を中止、無効にさせようとしてくると思うんだ」
「何故そう思うんじゃ?」
「……一応担当に相手の演練がどんな感じか聞いたんだ。勝率とかね。普通の時は勝ってることが多くて、負けてることだってあった。普通の時は。
ただ、あいつ今回みたいに個人的な賭けみたいなことしてることがあって、そういう時だけは『何故か』負けそうになる時だけ結界装置が不調を起こしたりして演練が中止になって無効になってるんだよ」
それがどういう意味か、陸奥守は察した。……つまり、同じことが起きるだろう、ということだ。
「ならそうなった時、全員で演練続行を頼めばいいんじゃな?」
「……それで済めばいいけど。中には石が頬を掠めた審神者もいるらしい。何の偶然だろうな。私みたいに『国広を庇う審神者』が多いんだ」
「!! それは」
「……むっちゃん、万が一私の頬を石が掠めても落ち着いて対応してほしい。一振りでも落ち着いていて欲しいんだ」
「…………主」
「うん?」
「……それは、難しいぜよ。ただ主の命ならワシは聞く。が、一つこっちからも条件がある。
……万が一、頬以外に石が当たったら、ワシらは相手を徹底的に倒しに行くじゃろう。それを、許しとおせ」
「ん。分かった。多分、ならないとは思うけど」
──────────────
「(まさか、本当になるとは)」
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.91 )
- 日時: 2020/03/19 20:42
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
「すまんの。ワシらも許せることと許せんことがある」
「……主君の顔に傷を付けたこと、さすがに許せません!」
「貴方たちは悪くない。だけど、それで貴方たちを許せるほど、僕は優しくないんでね!」
「……拙僧もまだまだ未熟であるな。今や平常には程遠い。……いいや、しかし、無理もなかろう!!」
「……全員めちゃくちゃ怒ってんなぁ、石切丸」
「まあ、無理もないよ。女人の顔に傷を付けるのもあまり許せることではないのに、私たちの主だからね。御手杵さんも、怒っているじゃないか」
「まあなぁ。……あ、でも怒ってる相手分かってくれてるよな?」
「当然だよ。刀剣男士に罪はない。ならば、怒るのは一人だろう?」
秋田の一閃が迷いなく、蛍丸を斬りつける。刀装が剥がれかけていた彼では、極短刀の攻撃は防ぎ切れない。
大典太の攻撃を堀川が防ぎ、陸奥守が斬りつける。それも刀装を剥がすだけだったが充分だ。
「ノウマク サンマンダ バザラダン カン!!」
会心の一撃が大典太を捉える。どさりと倒れ、残るは長義のみ。
「針のあたまを穿つが如く……!」
残っていた投石兵を防御に使うように展開していたが、槍にとってそれは無意味だ。
投石兵たちが作る壁の、ほんの少しの隙間に槍が通る。それが、長義を攻撃すれば一気に戦線離脱状態へ。
「そこまで!!」
見るまでもない勝利。それに柊も、見ていたリンたちもほっと息を吐いた。
演練場全体に設置されている手入れ装置が動き出せばそれぞれの刀剣男士の怪我が治っていく。刀装も元通りだ。
柊は結界が消えたのを確認すると瑠璃溝隠に歩み寄っていく。その後ろから陸奥守らが着いていく。
「こっちの勝ちだ。『山姥切』をこちらに異動させる」
「〜〜〜〜っ!! ふ、ふざけっ」
「そもそもそっちから持ちかけた賭けじゃ。無効なんぞ効かん」
「その上、政府の役人、他の審神者、刀剣男士の前で約束したこと。今更、なかったことにはできないよ」
陸奥守と石切丸の言葉に瑠璃溝隠は悔しそうに顔を歪める。けれど、他の場所から見ていたであろう山姥切国広と前田が来たのを見て、少しだけ口元を歪めた。
「分かったわ」
「妙に物分かりが良くなったな」
「ええ。『山姥切』でしょう? ほら!」
瑠璃溝隠はぐい、と『山姥切国広』を引っ張って突き出す。それに殆どが目を丸くしていた。
「……へえ」
「それでいいでしょう? あんたにとって『山姥切』はそいつなんだから!」
「……なるほど、なるほど。勘違い乙」
「は?」
「私は確かに『山姥切』と言った。だけど、『どっちの山姥切』かは言ってない」
「だから何よ!?」
「……本来であるならば、あんたは『山姥切長義』か、『どちらの山姥切』も異動させなきゃいけない。だってそうだろ?
あんたは、『山姥切長義』を『山姥切』と認識してて、私が異動させると言ったのは『山姥切』なんだから」
「は……」
「山姥切長義。こいつはいざとなればあんたを『山姥切』と認識しなくなることが今証明された。その上、無意識とは言え刀剣男士の存在が揺らぐほど仲間を否定している。
そんな審神者の元に、あんたはいたいか?」
瑠璃溝隠が顔色を悪くして長義を見た。そして口を開こうとしたが、それは石切丸に遮られた。
「お、れは。嫌だ。先ほどのことだって、命じられた。目に当たった時、この女は何と言ったと思う?
『好都合』と言ったんだ!」
「!!」
「もうこんな女の元にいられるか。殆どの刀剣男士が同じ意見だろう!
俺をまるで姫みたいに扱ってバカにしているのか!! 俺がそんなに弱い存在だとでも? 舐められたものだ!」
「ん、むぐっ! ぷは! ち、違うの山姥切!
私はそんなこと思ってないの!!」
「信じられるものか! そもそも、俺を庇ったのもネットの情報からだろう!
相手がいくら偽物くんと言え、長年の仲間をその程度で裏切る者が将など、片腹痛いな!」
庇い続けてきた存在からの否定に、瑠璃溝隠はガタガタ震え、涙を流し始めた。瑠璃溝隠側に座っていた審神者たちも顔が青い。ほとんどが同じ経緯で山姥切長義を庇っていた者だろう。
瑠璃溝隠がうそ、うそと呟く。けれど長義を始めとする演練メンバーから冷たい目を向けられてそれが本当だということを突きつけられた。
「……ねえ主さん。国俊のこともそうだよね。国俊、何でも我慢できるわけじゃないよ。愛染明王の加護受けてても、甘えたい時だってあるよ」
「今剣に対してもそうだ。常に幼子のような振る舞いはやめろと言われ、どれほど傷ついていたか分かるか?」
「俺たち長船派を彼を守る騎士扱いされても困るんだよね。確かに守れる時は守るけど、彼も刀剣男士なんだからさ」
「……山姥切長義を、山姥切として肯定してくださったことは感謝しております。ですが、貴方は度が過ぎていました……誰の言葉にも耳を貸さない者を……だのに、薄い液晶の見たこともない相手の言葉を信用する貴方を、私はもう、信頼できる気が致しません……」
「こっちの前田たちに関してもそうだ。他の用事をこなしていても見掛ければやたらと山姥切の側にいてやれとばかり。何振りかは『自分は山姥切の刀剣男士じゃない』と泣いていたのに気付いていたか?」
次々突きつけられる事実に瑠璃溝隠はとうとう膝をついた。……多分、ここまで言われるのはそれを無意識に言霊で封じていたのだろう。全くもって救えない。
「別にさ。山姥切長義を庇うなとは言わないよ。だけど誰彼構わず噛み付いて、ネットの情報を鵜呑みにして、否定しまくって、それで喜ばれると思うか?
私は思わないね。特に最近、あんたみたいなタイプは自分を否定するのは『山姥切長義を冷遇している審神者』って思ってるみたいだけどそんなのほとんどいないって気付いてた? その問題を知らない人たちもいて、その人たちからしてみればあんたたちも加害者だよ」
「う、あ……あああああああ!!」
「彼を肯定するまでは良かったのに。彼を肯定して、攻撃の理由にしたらダメだったんだよ」
瑠璃溝隠は、その場で蹲り、大声で泣き始めた。それが後悔からなのか、それとも他の感情なのか、彼女にしか分からない。
「……俺を山姥切として、認識していたことだけは、優にしておいてあげるよ」
そんな長義の声は、泣き声にかき消された。
- Re: 綴られし日々-作者とキャラの日常- ( No.92 )
- 日時: 2020/03/19 20:48
- 名前: 柊 ◆K1DQe5BZx. (ID: PF4eFA6h)
「おーまーんーなー!!」
「あっははは、見た目だけなら満身創痍だわ」
「見た目だけどころか実際満身創痍よ」
一週間後、柊は自室で左目に包帯を巻かれている。しかも、あの時発動した『レンタルスキル』の代償により右手と右足が使えなくなっていた。とは言え、右手と右足は早めに治るだろうが。
左目も失明には至らなかった。というのも目に当たったと思われていたがそれより上だったらしい。血が出ていたから結局目は開けなかったが。
エミリーが救急箱を閉めて絶対安静よ、と呆れたように言う。
「やっふー、柊さん!」
「お、リンちゃんに山切」
リンと前髪の伸びた山姥切国広こと、山切が入ってきた。山切は瑠璃溝隠の本丸から異動してきた、この本丸では二振り目の山姥切国広である。ただ、リンからは未だ「まんばちゃん」と呼ばれているが。
山切はリンによく懐いており、非番であればリンと一緒にいたりしている。また、リンから音楽を勧められ、よくリンの歌を聴いていたりもする。
瑠璃溝隠やあの時、瑠璃溝隠側に座っていた審神者たちは無意識であろうと意識的であろうと山姥切国広を冷遇していたらしい。まず政府による再研修等は免れないだろう。酷ければ解雇は間違いない。
「あんたの、ために、はなを、つんできた」
山切の喋り方は未だ覚束ない。訓練次第では直ると言われているが、それはまだ先のことだろう。
他にも瑠璃溝隠の本丸から、長曽祢虎徹、和泉守兼定、大和守安定、加州清光、堀川国広、巴形薙刀、静形薙刀が異動してきた。よって現在いる一振り目と区別するためにそれぞれ、そね、和泉、大和、きよ、川広、黒形(黒い巴形だから)、白形(白い静形だから)と呼ばれている。
「ありがとうな山切ー」
「柊さん、あたしからはこれ!」
「えっ、ちょっ、これ次のライブのチケットじゃんしかも関係者席!? 神なの!?」
「リン神とお呼び!」
「ははぁ〜、リン神様ぁ〜」
「りん、おれも、いっていい、か」
「もちろん! だからまんばちゃんの分も入れてるよ」
「! ありが、とう」
「けど、これ間に合うかしら?」
「その時はほら、車椅子で。この枚数ってことは多分、二振り目の子たち全員行けるようにしてくれたんでしょ?」
「頑張ったぜ、リン神様……」
「マジ頑張ったね、リン神様……」
山切が微笑み、リンを撫でる。それが、もうここでの日常なのだ。
後日、ライブ会場。
「みんなー!! こーんにーちはー!!」
ミクの声が会場いっぱいに響く。それにファンも返していく。
ミクをセンターに、リン、レン、KAITO、MEIKO、神威がくぽ、GUMI、巡音ルカが立っている。それぞれファンに会釈したり、手を振っていた。
「今日のライブは特別編、大人気だった『七つの大罪シリーズ』が中心だよー!!」
「それとそれとー!! 今日はあたしの大っ事な友達が来てるんだー!! 照明おなしゃーす!!」
関係者席をライトが照らす。そこには山切たちがいて。
「どや、どや、カッコよかろ? 綺麗やろ? 可愛かろ? あの人たち、リンの友達なんだよ? よかろ?」
ファンがそれぞれ「綺麗の塊じゃん」「すこ」「ワイルドぉ……」「美の宝石箱や〜」「ぎゃわ゛い゛い゛」「えっ墓入り余裕」と呟いている。ちなみに、ファンの目には車椅子で立てない柊は一切目に入っていない。当たり前だね。
「さあそんなリンの友達紹介もそこそこに、楽しんでこー!!」
最初の歌はリン。そして、歌われるのは、【悪ノ娘】。
あのドレスを着て、にぃ、と口角を上げて、自信満々に彼女は言い放つ。
「さあ、跪きなさい!!」
さあ、長くも短い、ライブの始まりだ。
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